特許拒絶査定不服審判
2023-020001
チューナブルVCSEL内の量子井戸配置
- 審判番号
- 2023-020001
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-565346
- 請求日
- 2023年11月27日
- 審決日
- 2024年10月31日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エクセリタス テクノロジーズ コーポレイション
- 【請求人代理人】林 一好
- 【請求人代理人】芝 哲央
- 【請求人代理人】齋藤 拓也
- 【請求人代理人】岩池 満
- 【請求人代理人】小菅 一弘
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 道祖土 新吾
- 審判官 芝沼 隆太
- 分類
- P18 .113-Z (H01S) / P18 .121-Z (H01S)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-565346「チューナブルVCSEL内の量子井戸配置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月26日国際公開、WO2019/246278、令和 3年10月14日国内公表、特表2021-527945〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)6月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2018年(平成30年)6月19日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
令和5年 3月 1日付け:拒絶理由通知書
同年 6月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同年 7月18日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年11月27日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和6年 1月12日付け:前置報告書
同年 3月22日 :上申書の提出
第2 本願発明の認定
本願の請求項1~20に係る発明(そのうち、請求項11に係る発明を「本願発明」という。)は、令和5年6月7日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~20に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち請求項11の記載は、以下のとおりである。なお、令和5年11月27日に提出された手続補正書による補正は、特許請求の範囲に対するものではない。
「少なくとも1対の量子井戸を有する活性領域を有するチューナブル垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)であって、チューニング範囲の中心波長で、前記活性領域の量子井戸は、VCSEL内部の定在波のアンチノードの両側に位置する、チューナブルVCSEL。」
第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本願発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という内容を含むものである。
また、原査定の拒絶の理由は、本願発明は、優先日前に頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本願発明は、引用文献3に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という内容を含むものである。
引用文献2 特表2016-513889号公報
引用文献3 QIAO Pengfei et al.,“Wavelength-Swept VCSELs”, IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics,2017年11月,Vol. 23, No. 6,p.1-16,DOI: 10.1109/JSTQE.2017.2707181
第4 引用文献の記載事項及び引用発明の認定
1 引用文献2について
(1)引用文献2に記載された事項
原査定が引用した引用文献2(特表2016-513889号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同じ。)。
ア 「【請求項1】
約950nmと約1150nmの間の波長スパンに含まれる波長の範囲にわたって波長可変放射を放出するように動作する波長可変光源であって、
当該波長可変光源は、インジウム、ガリウム及びヒ素を含む少なくとも1つの圧縮歪量子井戸を有する利得領域(120)を有する垂直キャビティレーザ(VCL)を備え、
前記垂直キャビティレーザは、第1のミラー(130)を含む第1の部分(110)と、支持構造(185)を有する柔軟性のある膜(170)を含む機械構造に取り付けられた第2のミラー(140)を含む第2の部分(100)と、前記第2の部分(100)と前記第1の部分(110)との間に設けられた調節可能なエアギャップ(150)と、電子及びホールを前記利得領域に注入する第1の手段と、前記エアギャップを調節する第2の手段と、前記波長の調整範囲にわたって実質的に単一の縦方向及び横方向のモード動作をさせる第3の手段と、をさらに備え、
前記利得領域のピークの室温フォトルミネッセンス波長は、可変である前記レーザの最大動作波長よりも約20nm超だけ短い、
波長可変光源。」
イ 「【0013】
図1に、本発明に係る、性能が高く、製造可能で且つ信頼性が高い波長掃引光源の好適な実施形態の概略図を示す。調整機構と利得媒質の両方の設計が、平均故障間隔が1000時間をはるかに上回ることを可能にする。故障とは達成可能な調整範囲又は出力強度のいずれかが10%以上低下する時点として定義される。応用によっては、100時間などのより短い平均故障間隔でも十分であろう。この掃引光源は、平均出力強度及びピーク強度波長を伴う約950nmから約1150nmの間の範囲に含まれる波長の調整範囲にわたって、波長掃引放射を放出する。光学的にポンピングされるMEMS-VCLは、固定された第1の部分110及び可動の第2の部分100を含む。示された好適な調整機構はMEMS調整機構であるが、抵抗加熱を用いる展開膜による電熱アクチュエーションなどの他の調整機構も可能である。第1の部分は、GaAsの障壁を備えた、少なくとも1つ、理想的には3つの圧縮歪インジウムガリウムヒ素(InGaAs)量子井戸が設けられたInGaAsのMQW利得領域120を有するが、それは光学的にポンピングされるレーザ源125からのポンプ放射を吸収するであろう。InGaAs量子井戸は利得帯域幅の強化のために2つの量子状態を持ち得る。光学的にポンピングされるレーザ源125は約750から870nmの波長範囲の波長を有し、好ましくは約850nmであり、レーザ発振を可能とするように電子及びホールを利得領域120に注入する役割を果たす。第1の部分110は、底部ミラー130をも含むが、それは十分に酸化されたGaAs/AlxOyミラーであり、GaAs/AlAsの交互の堆積を横方向に酸化することによって形成される。このミラーの低い屈折率の部分は、xが好ましくは0.9より大きい、Al(x)Ga(1-x)Asの酸化によっても形成され得る。高い屈折率の部分もまたGaAsである必要はなく、AlGaAsでもよい。可動である第2の部分100は、上部の浮遊する誘電体のミラー140を含み、エアギャップ150によって第1の部分110から分離されている。第1の部分110とエアギャップ150との間の界面に位置する反射防止(AR)コーティング160は、不要な反射を抑制し、且つ、レーザの調整範囲を広くする。五酸化タンタル(Ta2O5)は、ニオブ、ハフニウム、チタンの酸化物によって、ケイ素によって、又は、VCSELの設計及び製造の分野における当業者によく知られている多数の他の高い屈折率を有する材料によって置き換えられ得るが、誘電体のミラー140は、理想的には二酸化ケイ素(SiO2)と五酸化タンタル(Ta2O5)との4分の1波長の堆積によって形成される。誘電体のミラーはさらに、高い能力の単一モード動作を促進する、半対称のキャビティを提供するように曲げられている。誘電体のミラーは膜170上に配置されているが、それは好ましくは窒化ケイ素であり、末端で支持構造185によって支持され、それは好ましくはゲルマニウムである。この支持構造は、理想的には膜170をアンダーカットする犠牲層として使われるものと同一の物質である。支持構造に適した他の候補材料は、ケイ素、ポリイミド、フォトレジスト又はSU-8を含む。窒化ケイ素の膜を用いることにより、多数の高速SS-OCTシステムにおいて必要とされるような、1兆サイクルを超えるたわみに耐え得る極めて信頼性の高い膜が提供される。理想的な支持構造は、湿式化学エッチングの代わりに、二フッ化キセノン又は酸素などの乾燥気体によってアンダーカットされ得るものである。アンダーカットに用いられる気体は、実質上、VCL構造の他の要素をエッチングすべきではない。湿式化学エッチングされる犠牲層の使用は、臨界点乾燥を必要とするが、それは、デバイスのプロセス、ダイシング及びパッケージングを複雑化させる。例えば、構造に取扱時の丈夫さを維持することを可能とするため、犠牲層をアンダーカットする前に複数のVCLの処理済みウェハを個々のVCLにダイシングすることが望ましい。もし臨界点乾燥が必要ならば、ダイレベルでの犠牲層のアンダーカットは非常に困難である。」
「【図1】
[図:0001421047000001.jpg]
」
ウ 「【0024】
キャビティ内部の量子井戸の、レーザキャビティにおける光定常波に対する配置もまた、性能及び信頼性を促進する。図6乃至8は、図1の構造における量子井戸の配置の3つの好ましい設計を説明する。これらの図の横軸はVCLのキャビティの光伝搬軸に沿った距離である。それぞれの図の上部は、量子井戸及び吸収体の位置を説明する構造における材料の伝導帯を示す。それぞれの図の下部はそれぞれの構造におけるキャビティ内放射の定常波を示す。図6において、多重量子井戸領域300に関する3つの量子井戸が、光キャビティの定常波の波形310の3つの離れた極大値と整列している。この周期的な利得構造においては、利得が定常波のピークから離れた量子井戸の配置に対して向上するだけでなく、これらの井戸が歪の蓄積に対して結合しないように十分に分離されている。これは、量子井戸の歪と厚さの積の総計が通常の歪と厚さの積の限界である200オングストローム%を超え得ることを意味する。約0.45μmの厚さを有する吸収領域315も示されているが、それは850nmのポンプの強度の40%を超える吸収につながる。吸収の大部分は量子井戸のGaAs障壁305で起こり、井戸中ではほんの少量の吸収しか起こらない。すべての光生成電子及びホールは量子井戸300の中に拡散するので、吸収されたポンプ光は可変VCLの光に効率的に変換される。」
「【図6】
[図:0001421047000002.jpg]
」
「【0025】
別の好適なMQWの実施形態が図7によって示されている。ここにおいて、MQW領域320の3つのすべての量子井戸は、VCLの光キャビティ内部の定常波の波形330の単一の定常波のピークと整列している。この場合、引張歪のGaAsPの歪補償障壁が圧縮歪のInGaAsの量子井戸を補償するために提供される。図7の長所は、キャビティの厚さを低減できることであり、より大きいキャビティの空きスペクトル範囲及びより広い範囲の調整につながることである。短所は、低減された厚さの吸収領域335は、約0.1μmの厚さのため、必要とされるポンプの強度の増大を引き起こすことである。ここで、大部分の吸収は、構造の井戸と障壁の両方で起こる。」
「【図7】
[図:0001421047000003.jpg]
」
「【0026】
3番目の好適な実施形態が図8に示されているが、MQW領域340における2セットの2量子井戸が光定常波の波形350の2つの定常波のピークに沿っている。ここで、厚さが約0.3μmの吸収体355が用いられるため、ポンプの吸収と広い空きスペクトル範囲との間で妥協することにつながる。この構造も引張歪GaAsP障壁を用いる。」
「【図8】
[図:0001421047000004.jpg]
」
(2)引用文献2の記載から当業者が把握できる事項
量子井戸の好ましい設計のうち3番目の好適な実施形態(【0026】・図8)である波長可変光源(以下「図8光源」ということがある。)について、以下の事項を当業者は把握できると認められる。
ア 図8光源は「MQW領域340における2セットの2量子井戸」(【0026】)を備えるところ、以下のとおり、当該「MQW領域340」は請求項1に記載された波長可変光源(請求項1に記載された波長可変光源を、以下「請求項1光源」ということがある。)における「利得領域(120)」に対応し、当該「2セットの2量子井戸」は請求項1光源における「少なくとも1つの圧縮歪量子井戸」に対応する。
図8光源は、【0024】の「図6乃至8は、図1の構造における量子井戸の配置の3つの好ましい設計を説明する」との記載からみて、図1の構造を前提としたものであるところ、当該図1の構造は、請求項1光源の実施形態に該当するものである(【0013】の第1文)。そして、当該図1の構造において、請求項1光源における「利得領域(120)」に対応する構造は、その図面番号からみて、「MQW利得領域(120)」であるといえるのであり、さらに、当該「MQW利得領域(120)」は、その「MQW利得領域」という文言からみて、図8光源における「MQW領域340」に対応するといえる。
このように、図8光源における「MQW領域340」は、当該図1の構造における「MQW利得領域(120)」に対応するとともに請求項1光源における「利得領域(120)」にも対応するといえる。そして、請求項1光源における「利得領域(120)」が有する「量子井戸」は、「少なくとも1つの圧縮歪量子井戸」であることから、図8光源の「MQW領域340」における「2セットの2量子井戸」は、請求項1光源における「少なくとも1つの圧縮歪量子井戸」に対応するものと認められる。
イ 図8光源は、「MQW領域340における2セットの2量子井戸が光定常波の波形350の2つの定常波のピークに沿っている」(【0026】)ものであるところ、「2セットの2量子井戸」という表現や図8(2つの量子井戸が1つの定常波のピークに沿って存在しており、そのような2つの量子井戸が2セット存在していることが看て取れる。)からみて、ここでいう1「セット」が2つの量子井戸、つまり、1対の量子井戸からなることが明らかである。
(3)引用発明2の認定
前記(1)及び(2)によれば、図8光源について、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる(なお、参考までに引用発明の認定に用いた段落番号等を括弧内に付してある。以下同じ。)。
「約950nmと約1150nmの間の波長スパンに含まれる波長の範囲にわたって波長可変放射を放出するように動作する波長可変光源であって、
当該波長可変光源は、インジウム、ガリウム及びヒ素を含む少なくとも1つの圧縮歪量子井戸を有する利得領域(120)を有する垂直キャビティレーザ(VCL)を備え、
前記垂直キャビティレーザは、第1のミラー(130)を含む第1の部分(110)と、支持構造(185)を有する柔軟性のある膜(170)を含む機械構造に取り付けられた第2のミラー(140)を含む第2の部分(100)と、前記第2の部分(100)と前記第1の部分(110)との間に設けられた調節可能なエアギャップ(150)と、電子及びホールを前記利得領域に注入する第1の手段と、前記エアギャップを調節する第2の手段と、前記波長の調整範囲にわたって実質的に単一の縦方向及び横方向のモード動作をさせる第3の手段と、をさらに備え、
前記利得領域のピークの室温フォトルミネッセンス波長は、可変である前記レーザの最大動作波長よりも約20nm超だけ短く、(【請求項1】)
MQW領域340における2セットの2量子井戸が光定常波の波形350の2つの定常波のピークに沿っており、(【0026】)
MQW領域340は、前記利得領域(120)に対応し、(前記(2)ア)
MQW領域340における2セットの2量子井戸は、前記少なくとも1つの圧縮歪量子井戸に対応し、(前記(2)ア)
1セットの量子井戸は1対の量子井戸からなるものである、(前記(2)イ)
波長可変光源(【請求項1】)。」
2 引用文献3について
(1)引用文献3に記載された事項
原査定が引用した引用文献3(QIAO Pengfei et al.,“Wavelength-Swept VCSELs”, IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics,2017年11月,Vol. 23, No. 6,p.1-1 6,DOI: 10.1109/JSTQE.2017.2707181)には、次の事項が記載されている。
ア 「 A schematic view of a wavelength-swept HCG VCSEL is shown in Fig. 11. The configuration type is only determined by the semiconductor-air coupling (SAC) region. The SCD configuration provides high reflection at the interface and suppresses the field penetration from semiconductor into air. This design resembles conventional VCSELs which the optical mode is confined in semiconductor cavity. In contrast, the ACD configuration facilitates the field confinement in the air gap. The dominant cavity resides in the air gap cavity. Finally, with the EC configuration, the semiconductor and air cavities are perfectly matched such that they resonate as one cavity, in other words, the original semiconductor cavity “extends” into the air region. The only difference required is the coupling layer, with designer thickness and refractive index.
The configurations of for the SCD, EC and ACD designs are shown in Fig. 12. The SAC region for SCD (listed from top) comprises a window layer (WL) and a quarter-lambda high-index layer, which may or may not be the same high-index material as in the DBR. For ACD, the SAC region comprises a window layer on top of a low-index layer, which may or may not be the same low-index material as in the DBR. The WL index for SCD and ACD can be arbitrary. The WL thickness should be zero or positive integer multiple of half-lambda. For EC, the SAC region comprises an anti-reflection layer on top of a quarter-lambda high-index layer which is part of the DBR. The refractive index and thickness of the AR layer should be approximately square root of the high-index layer and quarter-lambda, respectively.」
(日本語訳:波長掃引HCG VCSELの概要を図11に示す。構成のタイプは、半導体と空気のカップリング(SAC)領域によってのみ決定する。SCD構成は、界面での高い反射率と、半導体から空気への電界の浸透の抑制とを提供する。この設計は、光学モードが半導体共振器に閉じ込められる従来のVCSELに似ている。対照的に、ACD構成は、電界を空気ギャップに閉じ込める。主要な共振器は空気ギャップ共振器に存する。最後に、EC構成では、半導体共振器と空気の共振器が完全に適合して、それらは一つの共振器として機能し、つまり、元の半導体共振器が空気の領域まで「拡張」される。必要な唯一の違いは、設計された厚さと屈折率を持つ結合層である。
SCD、EC及びACD設計の構成を図12に示す。SCDのSAC領域は、(上から)窓層(WL)、1/4波長高屈折率層で構成され、前記高屈折率層はDBRにおける高屈折率材料と同じであっても異なっても良い。ACDでは、SAC領域は低屈折率層の上部に窓層を含むが、前記低屈折率層はDBRの低屈折率材料と同じであっても異なっても良い。SCDとACDの窓層の屈折率は任意である。窓層の厚さはゼロ又は1/2波長の整数倍である必要がある。ECでは、SAC領域はDBRの一部を構成する1/4波長の高屈折率層の上部に反射防止層を含む。反射防止層の屈折率と厚さはそれぞれ、概ね高屈折率層の平方根と1/4波長程度とする必要がある。)
(7頁左欄下から8行目~右欄下から9行目)
イ 「
[図:0001421047000005.jpg]
Fig. 12. Schematics of the hybrid top mirrors including tunable air gaps and HCGs for the SCD, EC and ACD designs. The SACs are highlighted with red dashed circles. The numbers of pairs for top and bottom DBRs are non-negative integers M and K, respectively. One-lambda high-index cavity is illustrated here. Similar definitions apply to the half-lambda low-index cavity designs as well.」
(日本語訳:図12 調整可能なエアギャップとHCGを含む、SCD,EC及びACD設計のハイブリッドな上部ミラーの概要図。SACは赤い破線の円で強調している。上部と下部のDBRの数はそれぞれ、負でない整数M及びKである。ここでは、1波長の高屈折率共振器が示されている。同様の定義が半波長の低屈折率共振器の設計にも適用される。)
ウ 「The longitudinal field profiles for both the SCD and ACD designs operating at the red edges of their tuning ranges are calculated, as shown in Fig. 15(a) and 15(b), respectively. The magnified views in Fig. 15(c) and 15(d) show the field overlap with MQWs. The same calculation is repeated at various tuning distances, with corresponding resonances at the center and the blue edge of the tuning range, as shown in Figs. 16 and 17, respectively. At the tuning center, we indeed observe larger field coupling with the air region for ACD than SCD in Fig. 16(a) and 16(b). The SAC regions are shaded in green and we see field peak and null at the semiconductor-air interfaces for SCD and ACD designs, respectively.」
(日本語訳:波長可変範囲の長波長側の端で動作するSCD設計とACD設計の両方の縦方向の電界プロファイルを計算し、その結果を図15(a)及び図15(b)に示す。拡大図である図15(c)及び図15(d)は、MQWとの重なりを示している。同じ計算を様々なチューニング距離で繰り返し、波長可変範囲の中心と短波長側の端における対応する共振を、図16及び図17にそれぞれ示す。波長可変範囲の中心では、図16(a)及び図16(b)に示されるように、ACDではSCDよりも大きな電界が空気領域と結合している。SAC領域は緑で塗りつぶされており、SCD設計とACD設計の半導体と空気の界面で、電界のピークとゼロを確認できる。)
(8頁右欄下から19行目~下から8行目)
エ 「
[図:0001421047000006.jpg]
Fig. 15. Longitudinal field distribution across the tunable VCSEL with (a) SCD and (b) ACD designs at the red-edges of their tuning ranges. The magnified views of on the quantum wells and the coupling layers for (c) SCD and (d) ACD designs. The green shaded regions are the SAC regions.」
(日本語訳:図15 (a)SCD及び(b)ACD設計での波長可変範囲の長波長側の端における波長可変VCSELの縦方向の電界分布。(c)SCD及び(d)ACD設計での、量子井戸層と結合層の拡大図。緑色の網掛け部分はSAC領域。)
オ 「
[図:0001421047000007.jpg]
Fig. 16. Longitudinal field distribution across the tunable VCSEL with (a) SCD and (b) ACD designs at the center of their tuning ranges. The magnified views of on the quantum wells and the coupling layers for (c) SCD and (d) ACD designs. The green shaded regions are the SAC regions.」
(日本語訳:図16 (a)SCD及び(b)ACD設計での波長可変範囲の中心における波長可変VCSELの縦方向の電界分布。(c)SCD及び(d)ACD設計での、量子井戸層と結合層の拡大図。緑色の網掛け部分はSAC領域。)
カ 「
[図:0001421047000008.jpg]
Fig. 17. Longitudinal field distribution across the tunable VCSEL with (a) SCD and (b) ACD designs at the blue-edges at their own tuning ranges. The magnified views of on the quantum wells and the coupling layers for (c) SCD and (d) ACD designs. The green shaded regions are the SAC regions.」
(日本語訳:図17 (a)SCD及び(b)ACD設計での波長可変範囲の短波長側の端における波長可変VCSELの縦方向の電界分布。(c)SCD及び(d)ACD設計での、量子井戸層と結合層の拡大図。緑色の網掛け部分はSAC領域。)
(2)引用文献3の記載から当業者が把握できる事項
ア 波長可変範囲の中心における波長可変VCSELの縦方向の電界分布であって、SCD構造の量子井戸と結合層部分での拡大図である図16(c)から、「SCD構造の波長可変VCSELにおいて、5つの量子井戸があり、波長可変範囲の中心となる波長における前記波長可変VCSELの縦方向の電界分布に対し、前記量子井戸のうち少なくとも2つは前記電界分布の定在波のアンチノードの右側にあり、少なくとも2つは定在波のアンチノードの左側にあること。」が看て取れる。
イ 波長可変VCSELの縦方向の電界分布であって、SCD構造の量子井戸と結合層部分の拡大図である図15(c)(長波長の端)、図16(c)(波長可変範囲の中心)、及び図17(c)(短波長の端)より、「波長可変範囲の中心となる波長において、量子井戸と定在波のアンチノード近辺の電界とが最も良く重なり合っており、波長が長波長側の端や短波長側の端に調整された場合は、量子井戸と定在波のアンチノード近辺の電界との重なりが減少すること。」が看て取れる。
(3)引用発明3の認定
前記(1)及び(2)によれば、引用文献3には、SCD設計の波長可変VCSELについて、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「SCD構造の波長可変VCSELにおいて、5つの量子井戸があり、波長可変範囲の中心となる波長における前記波長可変VCSELの縦方向の電界分布に対し、前記量子井戸のうち少なくとも2つは前記電界分布の定在波のアンチノードの右側にあり、少なくとも2つは定在波のアンチノードの左側にあり、(前記(2)ア)
波長可変範囲の中心となる波長において、量子井戸と定在波のアンチノード近辺の電界とが最も良く重なり合っており、波長が長波長側の端や短波長側の端に調整された場合は、量子井戸と定在波のアンチノード近辺の電界との重なりが減少する、(前記(2)イ)
SCD構造の波長可変VCSEL(前記(2)ア)。」
第5 本願発明と引用発明との対比、判断
1 引用発明2に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
(1)対比、一致点及び相違点の認定
本願発明と引用発明2を対比すると、以下のとおりである。
ア 本願発明の「少なくとも1対の量子井戸を有する活性領域を有するチューナブル垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)であって、」「チューナブルVCSEL」との発明特定事項について
引用発明2の「利得領域(120)」は本願発明の「活性領域」に相当する。そして、引用発明2の「MQW領域340」は「利得領域(120)」に対応するものであるから、引用発明2の「MQW領域340」もまた、本願発明の「活性領域」に相当する。
引用発明2の「波長可変光源」は、「垂直キャビティレーザ」を備えるものであることから、当該「波長可変光源」は、本願発明の「チューナブル垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)」に相当する。そして、引用発明2は「MQW領域340」に「2セットの2量子井戸」を備えるところ、それぞれのセットを構成する「1対の量子井戸」が、本願発明の「1対の量子井戸」に相当する。すなわち、引用発明2の「波長可変光源」は、少なくとも「1対の量子井戸」を有する「MQW領域340」を有している。
したがって、引用発明2は、上記発明特定事項を満たしている。
イ 本願発明の「チューニング範囲の中心波長で、前記活性領域の量子井戸は、VCSEL内部の定在波のアンチノードの両側に位置する」との発明特定事項について
引用発明2の「光定常波」及び「定常波」は、いずれも本願発明の「定在波」に相当する。
引用発明2は「MQW領域340における2セットの2量子井戸が光定常波の波形350の2つの定常波のピークに沿ってい」るのであるから、それぞれのセットを構成する2つの量子井戸は、定常波のアンチノードの両側に位置することは明らかである(引用文献2の図8からも直ちに看て取れる事項である。)。
そうすると、本願発明と引用発明2とは「活性領域の量子井戸は、VCSEL内部の定在波のアンチノードの両側に位置する」点で共通する。一方で、この配置が生じるのが、本願発明では「チューニング範囲の中心波長」であるのに対し、引用発明2ではどの波長であるのか明らかでない。
ウ 以上によれば、本願発明と引用発明2は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で一応相違するか、又は相違する。
<一致点>
「少なくとも1対の量子井戸を有する活性領域を有するチューナブル垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)であって、前記活性領域の量子井戸は、VCSEL内部の定在波のアンチノードの両側に位置する、チューナブルVCSEL。」
<相違点>
「前記活性領域の量子井戸は、VCSEL内部の定在波のアンチノードの両側に位置する」際の波長が、本願発明では、「チューニング範囲の中心波長」であるのに対し、引用発明2では、どの波長であるのか明らかでない点。
(2)判断
ア 相違点について
引用発明2は、「波長可変光源」に係るものであって、「MQW領域340における2セットの2量子井戸が光定常波の波形350の2つの定常波のピークに沿っている」(以下「引例2構成」という。)ところ、引例2構成を採用した技術的意味は、「2セットの2量子井戸」における利得を向上させることにあると認められる。このことは、引用文献2には、図6及び【0024】の態様では、3つの量子井戸が定常波の波形の3つの離れた極大値と整列しているので、利得が向上する旨記載され、図7及び【0025】の態様では、3つのすべての量子井戸が単一のピークと整列しているので、キャビティの厚さを低減できる旨記載されているところ、図8及び【0026】の態様(引用発明2に係る態様である。)では、2セットの2量子井戸が2つの定常波のピークに沿っているので、量子井戸と定常波の極大値と整列させることによる利得の向上を実現しつつ、ポンプの吸収と広い空きスペクトル範囲との間で妥協することにつながる、つまり、図6の態様のポンプ光の効率的な吸収の効果と図7の態様のキャビティの厚さ低減の効果を折衷的に実現していると解されることから首肯できる。
このように、引用発明2では、「2セットの2量子井戸」における利得を向上させるために、引例2構成を採用しているのであるが、引用発明2は、波長可変光源であり、波長を可変とすると定常波のピークが移動することが当業者にとって明らかであることから、当業者であれば、引用発明2を実施するに当たり、当然に、どの波長で引例2構成を実現する必要があるのかを検討するといえる。しかるに、波長可変光源における中心波長は、その光源の波長を代表するものであるから、当業者が最も自然に採用するものといえるし、その波長を採用すれば、上記の技術的意味をより確保できることも当業者にとって明らかである。
以上を踏まえれば、引用発明2においても、「MQW領域340における2セットの2量子井戸が光定常波の波形350の2つの定常波のピークに沿った」配置となっているのは、「チューニング範囲の中心波長」であることが明らかであるし、いずれにせよ、そのように構成することは当業者にとって容易である。
したがって、前記相違点は、実質的なものではない。また、仮に実質的なものであるとしても、当業者が容易に想到できたものであり、本願発明が奏する効果についても、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということもできない。
イ 請求人の主張について
請求人は、本願発明は引用発明2ではなく、また引用発明2から容易に想到し得たものでない旨主張しており、その根拠として、本願発明は「少なくとも1対の量子井戸の各対の量子井戸は、VCSEL内部のチューニング範囲の中心波長の定在波のアンチノードの両側に位置」しているのに対し、引用発明2はそのような構成を備えてない点を主張している。
しかし、前記アで既に検討したように、この点は実質的な相違点ではなく、また仮に実質的なものであるとしても、当業者が容易に想到できたものである。
したがって、請求人の主張を採用することができない。
ウ 引用文献2についての小括
したがって、本願発明は、引用発明2である。また仮にそうでないとしても、本願発明は、引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 引用発明3に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
(1)対比、一致点及び相違点の認定
本願発明と引用発明3を対比すると、以下のとおりである。
ア 本願発明の「少なくとも1対の量子井戸を有する活性領域を有するチューナブル垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)であって、」「チューナブルVCSEL。」との発明特定事項について
引用発明3の「波長可変VCSEL」は、本願発明の「チューナブル垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)」に相当する。
また、引用発明3は「5つの量子井戸」を有しており、この「5つの量子井戸」を含む形で本願発明の「活性領域」に相当する部分を構成するものと認められる。そうすると、本願発明と引用発明3とは、「量子井戸を有する活性領域を有する」点で一致している。他方、「活性領域」における量子井戸の構成について、本願発明は「少なくとも1対の量子井戸を有する」のに対して、引用発明3は「5つの量子井戸」を有する。
イ 本願発明の「チューニング範囲の中心波長で、前記活性領域の量子井戸は、VCSEL内部の定在波のアンチノードの両側に位置する」との発明特定事項について
引用発明3の「波長可変範囲」及び「定在波」はそれぞれ、本願発明の「チューニング範囲」及び「定在波」に相当する。また、引用発明3の「定在波」を構成する「電界分布」がVCSEL内部に存在していることは明らかであるから、引用文献3の「定在波」と本願発明の「定在波」とは「VCSEL内部」にある点で一致している。
一方で、「チューニング範囲の中心波長」における「活性領域の量子井戸」の配置について、本願発明では、「定在波のアンチノードの両側に位置する」のに対し、引用発明3では、「5つの量子井戸があり」、「少なくとも2つは定在波のアンチノードの右側にあり、少なくとも2つは定在波の左側にあ」る点で一応相違する。
ウ 以上によれば、本願発明と引用発明3は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で一応相違するか、又は相違する。
<一致点>
「量子井戸を有する活性領域を有するチューナブル垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)であって、前記活性領域の量子井戸は、チューニング範囲の中心波長で、VCSEL内部の定在波のアンチノードに位置する、チューナブルVCSEL。」
<相違点>
「活性領域の量子井戸」について、本願発明では「少なくとも1対の量子井戸を有」し、この「量子井戸は、VCSEL内部の定在波のアンチノードの両側に位置する」のに対し、引用発明3では、「5つの量子井戸があり」、「少なくとも2つは定在波のアンチノードの右側にあり、少なくとも2つは定在波の左側にあ」る点。
(2)判断
ア 相違点について
(ア)まず、相違点に係る本願発明の構成のうちの「1対の量子井戸」は、相互に隣り合うものである必要はなく、量子井戸の任意の2つであれば足りると解される。すなわち、本願発明の特定事項には、「1対の量子井戸」が相互に隣り合うものである旨の記載は存在しないし、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、本願発明の技術的意義は、「定在波が波長とともにシフトすると、一方の井戸は、より強くなった光場を、他方の井戸は、より弱まった光場(中央)を見る。(右)端部では、光場が見えるのは、1つの井戸だけである。」(【0050】)という事項に基づき、「これらのチューナブルVCSELの活性領域の設計によって、レーザの広い波長チューニング性のために生じる定在波空間シフトが可能になる」(【0053】)ことにあると認められるところ、この点からみても、そのように限定して解釈すべきであるとは認められない。してみれば、引用発明3において、例えば左から2番目と同じく4番目の量子井戸を「1対の量子井戸」とみれば、1対の「量子井戸」は「波長可変VCSEL内部の定在波のアンチノードの両側に位置する」こととなる。したがって、前記相違点は実質的なものではない。
(イ)また、仮に、相違点に係る本願発明の構成のうちの「1対の量子井戸」は相互に隣り合うものであると解釈しても、以下のとおり、前記相違点は、当業者が容易に想到し得たものである。
すなわち、引用発明3における量子井戸は5つ(奇数)となっており、左から3つ目(すなわち、中央)の量子井戸が、定在波のアンチノードとほぼ重なる位置となっている。しかし、量子井戸の数として2及び4のような偶数のものも当然に選択可能である(例えば引用発明2では、アンチノード1つに対する量子井戸は2個(偶数)となっている。)。そして、引用発明3において例えば量子井戸の数を4とした場合には、当業者は、定在波のアンチノード近辺の電界と量子井戸とが最も良く重なるように、量子井戸のうち2つが定在波のアンチノードの右側に、残り2つが定在波のアンチノードの左側にあるように配置することが最も自然であるといえる。
してみれば、引用発明3において、量子井戸の数を偶数とし、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。また、本願発明が奏する効果についても、引用発明3に基づいて本願発明の構成が奏するものとして、当業者が予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということもできない。
イ 請求人の主張について
請求人は、引用発明3についても前記1(2)イと同様の主張をしているが、既に検討したとおり、採用することができない。
ウ 引用文献3についての小括
したがって、本願発明は、引用発明3である。また仮にそうでないとしても、本願発明は、引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-020001