特許拒絶査定不服審判
2023-017851
レーザーファセットの現場の外からの状態調整(ex-situ conditioning)及びこれを使用して形成された表面安定化デバイス
- 審判番号
- 2023-017851
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-008234
- 請求日
- 2023年10月20日
- 審決日
- 2025年04月24日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ツー-シックス デラウェア インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人北青山インターナショナル
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 芝沼 隆太
- 審判官 道祖土 新吾
- 分類
- P18 .121-WZ (H01S)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022- 8234「レーザーファセットの現場の外からの状態調整(ex-situ conditioning)及びこれを使用して形成された表面安定化デバイス」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 4月12日出願公開、特開2022- 58723〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成31年4月22日(パリ条約による優先権主張 2018年(平成30年)6月4日(以下「優先日」という。)、米国)に外国語書面出願した特願2019-80693号の一部を令和4年1月21日に新たな外国語書面出願としたものであって、その手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
令和4年 1月28日 :翻訳文、手続補正書の提出
令和5年 1月10日付け:拒絶理由通知書
同年 4月19日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月12日付け:拒絶査定
同年10月20日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和6年 8月30日付け:拒絶理由通知書(以下、この拒絶理由通知書に係る拒絶理由を「当審拒絶理由」という。)
同年12月25日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による補正を「本件補正」という。)の提出
第2 本願発明の認定
本願の請求項1~7に係る発明(以下、その請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
端面発光レーザーダイオードのファセットを表面安定化させる方法であって、
a)反応チャンバ内で、前記端面発光レーザーダイオードのむき出しのファセット表面上に1つ又は複数の表面安定化層を付着させて、所定の厚さのファセット被覆を形成するステップであって、前記1つ又は複数の表面安定化層は、シリコン、ゲルマニウム、アンチモン、並びにシリコン、ゲルマニウム、アンチモンの酸化物及び窒化物、からなる群から選択される材料を含み、前記ファセット被覆である前記表面安定化層が、非晶質であり、前記端面発光レーザダイオードの最も外側に配置されるものであるステップと、
b)前記端面発光レーザーダイオードを前記反応チャンバから取り出すステップと、
c)前記所定の厚さ全体にわたって均一に結晶構造を形成して前記ファセット被覆を完全に状態調整するまで十分な時間の間、前記ファセット被覆を外部のエネルギー源を用いて直接的に照射するステップと、を含み、
前記外部のエネルギー源が、前記厚さ全体にわたって完全に状態調整するのに十分なエネルギーを提供するものであることを特徴とする方法。」
第3 当審拒絶理由の概要
本願発明は、本件補正前の請求項1に対応するものであるところ、本件補正前の請求項1に係る発明に対して通知した当審拒絶理由は、次の理由を含むものである。
この出願の補正前の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
<引用文献一覧>
1.特開2006-190797号公報(主たる引用文献)
4.特開2003-17299号公報(周知技術を示す文献)
第4 当審の判断
1 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
(1) 引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由で引用し、本願の優先日前に発行された引用文献1(特開2006-190797号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。
「【請求項1】
窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体レーザの製造方法において、
前記半導体レーザの共振器端面を形成する形成工程と、
前記共振器端面上に当該共振器端面をコーティングする端面コート膜を成膜する成膜工程と、
前記端面コート膜にレーザ光を照射して当該端面コート膜に対するアニール処理を行うレーザアニール工程と
を含むことを特徴とする半導体レーザの製造方法。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体レーザの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体レーザとして、窒化物系III-V族化合物半導体を用いたものが注目されている。例えば、AlGaInN系半導体を用いたものであれば、混晶組成を制御することにより紫外から赤色にわたる直接遷移型のバンドギャップエネルギを持つ結晶が得られるため、このエネルギに相当する波長域、すなわち紫外光や青色光等を放出する発光素子を実現できるからである。
このような窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体レーザにおいては、共振器端面を安定化させるために、その共振器端面上に当該共振器端面をコーティングして保護する端面コート膜を成膜することが一般的である。端面コート膜は、典型的には単層または多層の誘電体膜(誘電体多層膜)からなり、具体的にはAl2O3、TiO2、SiO2、ZrO2等の誘電体膜を用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002-335053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、Al2O3、TiO2、SiO2、ZrO2等の誘電体膜からなる端面コート膜は、蒸着またはスパッタリング等によって成膜するが、その膜組成が完全な結晶ではなく欠陥を含んでいることが多い。
しかしながら、膜組成に欠陥があると、半導体レーザとしてのレーザ光の出射を行った場合に、端面コート膜は、そのレーザ光に長時間曝されることによって劣化が生じるおそれがある。欠陥の部分でレーザ光を吸収して端面コート膜の変質が起こり得るからである。特に、窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体レーザにおいては、紫外光や青色光等といった短波長のレーザ光に対応しているため、欠陥部分での当該レーザ光の吸収による端面コート膜の劣化が生じる可能性が高い。
【0005】
このような端面コート膜の劣化は、半導体レーザとしてのレーザ光の出射を行う場合に、その劣化した端面コート膜が当該レーザ光を吸収してしまい、共振器端面での光の損失を引き起こすため、閾値等といったレーザ特性の低下を招く要因となり得る。そのため、端面コート膜については、その劣化を極力抑制すべきである。
【0006】
そこで、本発明は、窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体レーザにおいて、共振器端面を保護する端面コート膜の劣化を抑制可能にすることで、当該半導体レーザにおけるレーザ特性の低下を防止して、その信頼性向上を図ることのできる半導体レーザの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために算出された半導体レーザの製造方法である。すなわち、窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体レーザの製造方法において、前記半導体レーザの共振器端面を形成する形成工程と、前記共振器端面上に当該共振器端面をコーティングする端面コート膜を成膜する成膜工程と、前記端面コート膜にレーザ光を照射して当該端面コート膜に対するアニール処理を行うレーザアニール工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
上記手順の半導体レーザの製造方法では、先ず、形成工程で共振器端面を形成する。ここで、「共振器端面」とは、共振器としての機能を実現するために劈開された端面のことをいう。
共振器端面を形成した後は、続いて、成膜工程でその共振器端面上に端面コート膜を成膜する。「端面コート膜」は、共振器端面をコーティングして保護するためのものであり、少なくとも半導体レーザのレーザ光出射側の共振器端面に成膜されているものとする。
そして、端面コート膜を成膜した後は、レーザアニール工程でその端面コート膜に対するアニール処理を行う。ここで行う「アニール処理」は、端面コート膜に対して行う熱処理であり、レーザ光を照射して行うレーザアニールによるものである。このようなアニール処理を行うと、端面コート膜では、温度が上昇して高温状態となり、その膜組成の溶融再結晶化が起こる。
この溶融再結晶化によって、端面コート膜では、その膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減されるのである。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明に係る半導体レーザの製造方法によれば、端面コート膜にレーザ光を照射してアニール処理を行うことで、その端面コート膜に膜組成の溶融再結晶化を生じさせ、これによりその端面コート膜における膜組成の欠陥を低減するようになっている。したがって、半導体レーザとしてのレーザ光の出射を行った場合であっても、端面コート膜における欠陥部分が低減しているので、その欠陥部分での当該レーザ光の吸収による端面コート膜の劣化を抑制し得るようになる。つまり、端面コート膜の劣化の抑制が可能となるので、半導体レーザにおけるレーザ特性の低下を防止することも実現可能となり、結果としてその半導体レーザの信頼性向上が図れるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に基づき本発明に係る半導体レーザの製造方法について説明する。
【0011】
先ず、はじめに、半導体レーザの概略構成について説明する。
本実施形態で説明する半導体レーザは、光を出射する半導体結晶素子部を備えるとともに、その半導体結晶素子部における光の出射方向の前面側および後面側に共振器端面が形成されており、その共振器端面が光の共振器として機能するように構成されたものである。
【0012】
半導体結晶素子部は、窒化物系III-V族化合物半導体を用いて形成されたものである。「窒化物系III-V族化合物半導体」とは、Ga、Al、InおよびBからなる群より選ばれた少なくとも一種類のIII族元素と、少なくともNを含み、場合によってさらにAsやPを含むV族元素とからなるものをいう。このような、窒化物系III-V族化合物半導体の具体例としては、AlGaInN、GaInN、InN等が挙げられる。これらの窒化物系III-V族化合物半導体は、バンドギャップが可視光領域に近い位置にあることから、主に発光デバイス材料として用いられることが多いのである。
【0013】
共振器端面は、上述したような共振器としての機能を実現するために、半導体結晶素子部に劈開された端面である。なお、この共振器端面は、端面付近の結晶の酸化を防止するために、端面コーティングが施されている。端面コーティングを行う端面コート膜は、単層または多層の誘電体膜(誘電体多層膜)からなる。この場合、誘電体膜は、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含むか、あるいは、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の同一の元素を含み、具体的には例えばAl2O3からなるものが挙げられる。」
「【0017】
次に、以上のような構成の半導体レーザを製造するにあたっての特徴的な手順、すなわち本発明に係る半導体レーザの製造方法を説明する。なお、ここでは、特徴的な手順について説明し、公知技術による従来と同様の手順については、その説明を省略する。
【0018】
半導体レーザの製造にあたっては、公知技術を利用して上述した半導体結晶素子部における積層構造を形成した後、その積層構造を劈開して共振器端面21,22を形成する形成工程を行う。この形成工程における積層構造を劈開も、公知技術を利用して行えばよい。
【0019】
共振器端面21,22を形成した後は、その端面付近の結晶の酸化を防止するために、続いて、共振器端面21,22をコーティングする端面コート膜、すなわちARコート膜23およびHRコート膜24を成膜する成膜工程を行う。この成膜工程でのARコート膜23およびHRコート膜24の成膜は、蒸着またはスパッタリング等といった公知技術を利用して行えばよい。具体的には電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance;ECR)プラズマを用いたスパッタリングを利用して行うことが考えられる。
【0020】
ただし、蒸着またはスパッタリング等によって端面コート膜23,24を成膜した場合には、その端面コート膜23,24の膜組成が完全な結晶ではなく欠陥を含んでいることがあり得る。そこで、成膜工程で端面コート膜23,24を成膜した後は、次いで、その端面コート膜23,24に対するアニール処理をするレーザアニール工程を行う。このレーザアニール工程では、アニール処理として、レーザ光の照射を利用したレーザアニールを行う。
【0021】
図3は、レーザアニール工程の概要を模式的に示す説明図である。
図例のように、レーザアニール工程では、半導体結晶素子部を構成する積層構造のフロント側端面21に成膜されたARコート膜23が表面(図中上方側)に並んで露出するように、一つの半導体レーザ単位に分割前の積層構造体(以下「LDバー」という)25を、その専用の治具26に並べてセットする。リア側端面22に成膜されたHRコート膜24については、図中では治具26の裏面側に並んで露出するようになっているが、必ずしも露出していなくともよい。そして、LDバー25を治具26にセットしたら、そのLDバー25を治具26ごと、処理装置における処理室27内にセットする。
【0022】
処理装置は、端面コート膜23,24の成膜を行うためのECRスパッタ装置を用いることが考えられる。ECRスパッタ装置を用いれば、成膜工程とレーザアニール工程との連続処理が可能となるので、生産効率の向上を図る上で好適なものとなる。
なお、処理装置は、ECRスパッタ装置の他にも、例えばRFスパッタ装置、デジタルスパッタ装置、P-CVD装置等を利用することが考えられる。これらを利用した場合には、処理室27内をドライエア環境にすることが非常に容易に実現可能となる。また、ドライエア環境のみならず、所定ガス雰囲気(例えば、窒素ガス雰囲気)にすることも可能である。ただし、レーザアニール工程に際しては、必ずしも処理室27内を所定ガス雰囲気にする必要はない。
【0023】
また、処理装置における処理室27には、その処理室27内にセットされたLDバー25のARコート膜23の側の壁面に、石英ガラス27aが配されている。さらに、処理室27の外方には、石英ガラス27aに対応した位置に、レーザ装置28が配されている。したがって、レーザアニール工程では、このレーザ装置28を用いて、処理室27内にセットされたLDバー25のA R コート膜23に対するレーザ照射を行うのである。すなわち、レーザ装置28からのレーザ光を、石英ガラス27aを通じて、処理室27内のLDバー25におけるARコート膜23に照射する。このとき、レーザ装置28からのレーザ光は、そのレーザ光のスキャンによって、ARコート膜23の全域にわたって照射し得るものとする。」
図1~3は、以下のとおりである。
【図1】
[図:0001427283000001.jpg]
【図2】
[図:0001427283000002.jpg]
【図3】
[図:0001427283000003.jpg]
(2) 引用文献1の記載に基づいて当業者が把握できる事項
図3に係るレーザアニール工程を含む半導体レーザの製造方法について、これに含まれる「LDバー25」は「一つの半導体レーザ単位に分割前の積層構造体」(【0021】)であるところ、文脈に照らして、図2に係る半導体レーザが、上記積層構造体を一つの半導体レーザ単位に分割したものに対応すると解される。そして、当該半導体レーザは、「ARコート膜23」及び「HRコート膜24」を含む「端面コート膜」を備えているところ、当業者は、当該「端面コート膜」が露出して設けられていることを把握できるのであり、このことは、図2からは「端面コート膜」の外側には何も存在しないことを見て取れること、半導体レーザの製造方法に係る記載(【0017】~【0020】)をみても、「端面コート膜」を成膜した後に何らかの膜を成膜することは記載されていないことからみて、明らかである。
(3) 引用発明の認定
前記(1)及び(2)によれば、引用文献1には、図3に係るレーザアニール工程を含む半導体レーザの製造方法について、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる(なお、参考までに引用発明の認定に用いた段落番号等を括弧内に付してある。)。
「 窒化物系III-V族化合物半導体を用いた半導体レーザの製造方法において、
前記半導体レーザの共振器端面を形成する形成工程と、
前記共振器端面上に当該共振器端面をコーティングする端面コート膜を成膜する成膜工程と、
前記端面コート膜にレーザ光を照射して当該端面コート膜に対するアニール処理を行うレーザアニール工程とを含み(【請求項1】)、
「共振器端面」とは、共振器としての機能を実現するために劈開された端面のことであり、「端面コート膜」は、共振器端面をコーティングして保護するためのものであり、「アニール処理」は、端面コート膜に対して行う熱処理であり、レーザ光を照射して行うレーザアニールによるものであって、このようなアニール処理を行うと、端面コート膜では、温度が上昇して高温状態となり、その膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、端面コート膜では、その膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減され(【0008】)、
半導体レーザとしてのレーザ光の出射を行った場合であっても、端面コート膜における欠陥部分が低減しているので、その欠陥部分での当該レーザ光の吸収による端面コート膜の劣化を抑制し得るようになり、端面コート膜の劣化の抑制が可能となるものであり(【0009】)、
共振器端面は、端面付近の結晶の酸化を防止するために、端面コーティングが施されており、
端面コーティングを行う端面コート膜は、単層または多層の誘電体膜(誘電体多層膜)からなり、誘電体膜は、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含み(【0013】)、
端面コート膜は露出して設けられており(前記(2))、
端面コート膜23,24の成膜を行うための処理装置として、ECRスパッタ装置を用い、処理室27内をドライエア環境や所定ガス雰囲気にし、ただし、レーザアニール工程に際しては、必ずしも処理室27内を所定ガス雰囲気にする必要はないものであり(【0022】)、
処理装置における処理室27には、その処理室27内にセットされたLDバー25のARコート膜23の側の壁面に、石英ガラス27aが配され、処理室27の外方には、石英ガラス27aに対応した位置に、レーザ装置28が配されており(【0023】)、
レーザ装置28からのレーザ光は、そのレーザ光のスキャンによって、ARコート膜23の全域にわたって照射し得るものであり(【0023】)、
LDバー25は一つの半導体レーザ単位に分割前の積層構造体である(【0021】)、
半導体レーザの製造方法。」
2 本願発明と引用発明との対比、判断
(1) 本願発明と引用発明の対比
ア 引用発明に係る「半導体レーザの製造方法」の各工程について
対比を行うに先立ち、引用発明に係る「半導体レーザの製造方法」の各工程を必要な範囲で整理しておく。
引用発明に係る「半導体レーザの製造方法」は、「端面コート膜を成膜する成膜工程」と「当該端面コート膜に対するアニール処理を行うレーザアニール工程」を含んでいるところ、引用発明の特定事項によれば、これら2つの工程を、以下のとおり理解できる。
(ア)「端面コート膜を成膜する成膜工程」について、引用発明には、
(i)「前記共振器端面上に当該共振器端面をコーティングする端面コート膜を成膜する」こと、
(ii)「「端面コート膜」は、共振器端面をコーティングして保護するためのものであ」ること、
(iii)「端面コート膜は露出して設けられている」こと、
(iv)「共振器端面」は、「共振器としての機能を実現するために劈開された端面のこと」であり、「端面付近の結晶の酸化を防止するために、端面コーティングが施されて」いること、
(v)「端面コーティングを行う端面コート膜は、単層または多層の誘電体膜(誘電体多層膜)からなり、誘電体膜は、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含」むこと、
(vi)端面コート膜にアニール処理を行うと「温度が上昇して高温状態となり、その膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、端面コート膜では、その膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減され」ること、
(vii)「端面コート膜23,24の成膜を行うための処理装置として、ECRスパッタ装置を用い、処理室27内をドライエア環境や所定ガス雰囲気に」すること、
が特定されている。
そうすると、当業者は、引用発明の「端面コート膜を成膜する成膜工程」が、
a 「端面コート膜」を設ける場所は、半導体レーザの共振器端面上であり、設けられた端面コート膜は露出していること((i)・(iii))、
b 「端面コート膜」を設ける場所である「共振器端面」は、共振器としての機能を実現するために劈開された端面であり、端面コーティングが施されていなければ端面付近の結晶が酸化するようなものであること((iv))、
c 「端面コート膜」の材料は、誘電体からなり、誘電体は、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含むこと((v))、
d 「端面コート膜」の材質は、これにアニール処理を行うと、温度が上昇して高温状態となり、その膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、その膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減されるものであること((vi))、
e 「端面コート膜」の機能及び作用は、共振器端面をコーティングして保護し、端面付近の結晶の酸化を防止することであること((ii)・(iv))、
f 「端面コート膜」を成膜するための「成膜工程」は、ECRスパッタ装置を用いて行われ、その処理室27は雰囲気を調整できるものであること((vii))、
を理解できる。
(イ)「当該端面コート膜に対するアニール処理を行うレーザアニール工程」について、引用発明には、
(i)「「アニール処理」は、端面コート膜に対して行う熱処理であり、レーザ光を照射して行うレーザアニールによるもので」あること、
(ii)「このようなアニール処理を行うと、端面コート膜では、温度が上昇して高温状態となり、その膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、端面コート膜では、その膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減され、」「半導体レーザとしてのレーザ光の出射を行った場合であっても、端面コート膜における欠陥部分が低減しているので、その欠陥部分での当該レーザ光の吸収による端面コート膜の劣化を抑制し得るようになり、端面コート膜の劣化の抑制が可能となる」こと、
(iii)「処理装置における処理室27には、その処理室27内にセットされたLDバー25のARコート膜23の側の壁面に、石英ガラス27aが配され、処理室27の外方には、石英ガラス27aに対応した位置に、レーザ装置28が配されており」、「LDバー25は一つの半導体レーザ単位に分割前の積層構造体であ」り、「レーザ装置28からのレーザ光は、そのレーザ光のスキャンによって、ARコート膜23の全域にわたって照射し得るものであり」、「処理室27」は、「ECRスパッタ装置」である「端面コート膜23,24の成膜を行うための処理装置」の処理室であること、
(iv)「レーザアニール工程に際しては、必ずしも処理室27内を所定ガス雰囲気にする必要はない」こと、
が特定されている。
そうすると、当業者は、引用発明の「当該端面コート膜に対するレーザアニール処理を行うレーザアニール工程」が、
a 「レーザアニール処理」は、熱処理であり、レーザ光を照射して行うレーザアニールによるものであること((i))、
b 「レーザアニール処理」を行う対象は、端面コート膜であること((i))、
c 「レーザアニール処理」を行う目的は、端面コート膜の劣化の抑制を可能とすることにあること((ii))、
d 「レーザアニール処理」を行って端面コート膜の劣化の抑制が可能となる機序は、端面コート膜の温度が上昇して高温状態となり、その膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、その膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減され、端面コート膜における欠陥部分が低減しているので、その欠陥部分での当該レーザ光の吸収による端面コート膜の劣化を抑制し得るようになるものであること((ii))、
e 「レーザアニール処理」を行う装置は、一つの半導体レーザ単位に分割前の積層構造体であるLDバー25がECRスパッタ装置における処理室27内にセットされており、レーザ装置28が処理室27の外方に配されているものであること((iii))、
f 「レーザアニール処理」の際に、レーザ装置28からのレーザ光は、そのレーザ光のスキャンによって、ARコート膜23の全域にわたって照射し得るものであること((iii))、
g 「レーザアニール処理」の際に、必ずしも処理室27内を所定ガス雰囲気にする必要はないこと((iv))、
を理解できる。
イ 本願発明の「端面発光レーザーダイオードのファセットを表面安定化させる方法であって、」との発明特定事項について
引用発明の「端面コート膜を成膜する成膜工程」は、「端面コート膜」を設ける場所は、「半導体レーザ」の「共振器端面」上であり(前記ア(ア)a)、「共振器端面」は、端面コーティングが施されていなければ端面付近の結晶が酸化するようなものであり(同b)、「端面コート膜」の機能及び作用は、共振器端面をコーティングして保護し、端面付近の結晶の酸化を防止することである(同e)。
そして、引用発明の「半導体レーザ」及び「共振器端面」は、それぞれ本願発明の「端面発光レーザーダイオード」及び「ファセット」に相当する。また、引用発明に係る「半導体レーザの製造方法」は、上記によれば、「端面コート膜を成膜する成膜工程」によって、端面コーティングが施されていなければ端面付近の結晶が酸化するような「共振器端面」に対して、「端面付近の結晶の酸化を防止する」ことができるから、本願発明でいう「端面発光レーザーダイオードのファセットを表面安定化させる」ものであるといえる。
したがって、引用発明は、上記発明特定事項を備えている。
ウ 本願発明の「a)反応チャンバ内で、前記端面発光レーザーダイオードのむき出しのファセット表面上に1つ又は複数の表面安定化層を付着させて、所定の厚さのファセット被覆を形成するステップであって、前記1つ又は複数の表面安定化層は、シリコン、ゲルマニウム、アンチモン、並びにシリコン、ゲルマニウム、アンチモンの酸化物及び窒化物、からなる群から選択される材料を含み、前記ファセット被覆である前記表面安定化層が、非晶質であり、前記端面発光レーザーダイオードの最も外側に配置されるものであるステップと、」「を含み、」との発明特定事項について
(ア) 引用発明の「端面コート膜を成膜する成膜工程」は、ECRスパッタ装置を用いて行われ、その処理室27は雰囲気を調整できるものであり(前記ア(ア)f)、「端面コート膜」を設ける場所は、半導体レーザの共振器端面上であって、設けられた端面コート膜は露出しており(同a)、設けられた「端面コート膜」の機能及び作用は、共振器端面をコーティングして保護し、端面付近の結晶の酸化を防止することである(同e)。
そして、当該「成膜工程」における「端面コート膜」は、前記イにも照らせば、本願発明の「表面安定化層」及び「所定の厚さのファセット被覆」のいずれにも相当する。また、上記のとおり、「端面コート膜」は露出しているから、それが設けられる「共振器端面」は、本願発明でいう「むき出しのファセット表面」といえるし、当該「端面コート膜」は、本願発明でいう「前記端面発光レーザーダイオードの最も外側に配置されるものである」といえる。
さらに、上記のとおり、当該「成膜工程」は、それが行われる処理室27が雰囲気を調整できるものであるから、本願発明でいう「反応チャンバ内で」行われるものといえる。
以上を踏まえ、さらに、当該「成膜工程」が「端面コート膜を成膜する」ものであることにも照らせば、本願発明と引用発明は、「反応チャンバ内で、前記端面発光レーザーダイオードのむき出しのファセット表面上に1つ又は複数の表面安定化層を付着させて、所定の厚さのファセット被覆を形成するステップであって、」「前記ファセット被覆である前記表面安定化層が、」「前記端面発光レーザーダイオードの最も外側に配置されるものであるステップと、」を含む点で共通するといえる。
(イ) 引用発明の「端面コート膜を成膜する成膜工程」は、「端面コート膜」の材料は、単層または多層の誘電体膜(誘電体多層膜)からなるものであって、誘電体膜は、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含むものであり(前記ア(ア)c)、「端面コート膜」の材質は、これにアニール処理を行うと、温度が上昇して高温状態となり、その膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、その膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減されるものである(同d)。
そして、本願発明の「表面安定化層」は、「シリコン、ゲルマニウム、アンチモン、並びにシリコン、ゲルマニウム、アンチモンの酸化物及び窒化物、からなる群から選択される材料」を含み、「非晶質」であることから、これと引用発明の「端面コート膜」(本願発明の「表面安定化層」に相当。)は、所定の「材料」を含む所定の状態からなるものである点で一致する。
他方、所定の「材料」が、本願発明は、「シリコン、ゲルマニウム、アンチモン、並びにシリコン、ゲルマニウム、アンチモンの酸化物及び窒化物、からなる群から選択される」材料を含むのに対し、引用発明は、誘電体からなるものであって、誘電体は、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含むものであり、所定の状態が、本願発明は、「非晶質」であるのに対し、引用発明は、端面コート膜にアニール処理を行うと、温度が上昇して高温状態となり、その膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、その膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減されるという状態である。
(ウ) 以上によれば、本願発明と引用発明は、「反応チャンバ内で、前記端面発光レーザーダイオードのむき出しのファセット表面上に1つ又は複数の表面安定化層を付着させて、所定の厚さのファセット被覆を形成するステップであって、前記1つ又は複数の表面安定化層は、」所定の材料を含み、「前記ファセット被覆である前記表面安定化層が、」所定の状態であり、「前記端面発光レーザーダイオードの最も外側に配置されるものであるステップ」とを含む点で共通する。
他方、所定の「材料」が、本願発明は、「シリコン、ゲルマニウム、アンチモン、並びにシリコン、ゲルマニウム、アンチモンの酸化物及び窒化物、からなる群から選択される」材料を含むのに対し、引用発明は、誘電体からなるものであって、誘電体は、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含むものであり、
所定の状態が、本願発明は、「非晶質」であるのに対し、引用発明は、端面コート膜にアニール処理を行うと、温度が上昇して高温状態となり、その膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、その膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減される状態である。
エ 本願発明の「b)前記端面発光レーザーダイオードを前記反応チャンバから取り出すステップと、」「を含み、」との発明特定事項について
引用発明では、「端面コート膜を成膜する成膜工程」と「当該端面コート膜に対するアニール処理を行うレーザアニール工程」が含まれており、この順で行われると解されるところ、当該「端面コート膜を成膜する成膜工程」は、前記ウのとおり、処理室27で行われるものであり、当該「当該端面コート膜に対するアニール処理を行うレーザアニール工程」は、それを行う装置は、一つの半導体レーザ単位に分割前の積層構造体であるLDバー25がECRスパッタ装置における処理室27内にセットされているものであり(前記ア(イ)e)、「レーザアニール処理」の際に、必ずしも処理室27内を所定ガス雰囲気にする必要はないものである(同g)。
このように、引用発明では、「端面コート膜を成膜する成膜工程」と「当該端面コート膜に対するアニール処理を行うレーザアニール工程」が、いずれもECRスパッタ装置における処理室27内で行われているから、前記ウに照らし、いずれも本願発明でいう「反応チャンバ内」で行われるものである。もっとも、引用発明では、レーザアニール工程に際しては、必ずしも処理室27内を所定ガス雰囲気にする必要はないものである。
したがって、本願発明は、「所定の厚さのファセット被覆を形成するステップ」の後に「前記端面発光レーザーダイオードを前記反応チャンバから取り出すステップ」を含むのに対し、引用発明は、「端面コート膜を成膜する成膜工程」と「当該端面コート膜に対するアニール処理を行うレーザアニール工程」が、いずれもECRスパッタ装置における処理室27内で行われているが、レーザアニール工程に際しては、必ずしも処理室27内を所定ガス雰囲気にする必要はないものである。
オ 本願発明の「c)前記所定の厚さ全体にわたって均一に結晶構造を形成して前記ファセット被覆を完全に状態調整するまで十分な時間の間、前記ファセット被覆を外部のエネルギー源を用いて直接的に照射するステップと、を含み、前記外部のエネルギー源が、前記厚さ全体にわたって完全に状態調整するのに十分なエネルギーを提供するものである」との発明特定事項について
引用発明の「当該端面コート膜に対するレーザアニール処理を行うレーザアニール工程」は、「レーザアニール処理」は、熱処理であり、レーザ光を照射して行うレーザアニールによるものであり(前記ア(イ)a)、「レーザアニール処理」を行う対象は、端面コート膜であり(同b)、「レーザアニール処理」を行って端面コート膜の劣化の抑制が可能となる機序は、端面コート膜の温度が上昇して高温状態となり、その膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、その膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減され、端面コート膜における欠陥部分が低減しているので、その欠陥部分での当該レーザ光の吸収による端面コート膜の劣化を抑制し得るようになるものであり(同d)、「レーザアニール処理」を行う装置は、そのためのレーザ装置28が処理室27の外方に配されているものであり(同e)、「レーザアニール処理」の際に、レーザ装置28からのレーザ光は、そのレーザ光のスキャンによって、ARコート膜23の全域にわたって照射し得るものである(同f)。
このように、引用発明の「レーザアニール工程」では、端面コート膜に対して処理室27の外方に配されたレーザ装置28によってレーザ光を照射するものといえるから、当該「レーザ装置28」は本願発明の「外部のエネルギー源」に相当し、当該「レーザアニール工程」は、本願発明でいう「前記ファセット被覆を外部のエネルギー源を用いて直接的に照射するステップ」であるといえる。また、引用発明の「レーザアニール処理」は、端面コート膜を溶融再結晶化するものであるところ、この溶融再結晶化は、端面コート膜の状態について、膜組成を緻密化して、結晶内に存在していた欠陥を低減させるものといえるから、本願発明にいう「状態調整」といえる。そして、引用発明の当該「レーザアニール工程」で用いられるレーザ装置が、所定の時間の間、所定のエネルギーを提供するものであることは、明らかである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、所定の時間の間、「前記ファセット被覆を外部のエネルギー源を用いて直接的に照射するステップと、を含み、前記外部のエネルギー源が、」所定の「エネルギーを提供するものである」点で共通する。
他方、「外部のエネルギー源」から照射される所定の時間の間における「所定の時間」は、本願発明では、「前記所定の厚さ全体にわたって均一に結晶構造を形成して前記ファセット被覆を完全に状態調整するまで十分な時間」であるのに対して、引用発明では、レーザ装置28からのレーザ光は、そのレーザ光のスキャンによって、ARコート膜23の全域にわたって照射し得る前提において、端面コート膜の膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、端面コート膜の膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減されるのに必要な時間といえる。また、「外部のエネルギー源」から提供される所定のエネルギーが、本願発明では、「前記厚さ全体にわたって完全に状態調整するのに十分なエネルギー」であるのに対し、引用発明では、上記のとおり、端面コート膜の膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減されるのに必要なエネルギーである。
(2) 一致点及び相違点の認定
以上によれば、本願発明と引用発明とは以下の点で一致し、以下の点で一応相違する又は相違する。
ア 一致点
「端面発光レーザーダイオードのファセットを表面安定化させる方法であって、
a)反応チャンバ内で、前記端面発光レーザーダイオードのむき出しのファセット表面上に1つ又は複数の表面安定化層を付着させて、所定の厚さのファセット被覆を形成するステップであって、前記1つ又は複数の表面安定化層は所定の材料を含み、前記ファセット被覆である前記表面安定化層が、所定の状態であり、前記端面発光レーザーダイオードの最も外側に配置されるものであるステップと、
c)所定の時間の間、前記ファセット被覆を外部のエネルギー源を用いて直接的に照射するステップと、を含み、前記外部のエネルギー源が、所定のエネルギーを提供するものである
方法。」
イ 相違点
(ア) 相違点1
本願発明は、「b)前記端面発光レーザーダイオードを前記反応チャンバから取り出すステップ」を含むのに対して、引用発明は、「端面コート膜を成膜する成膜工程」と「当該端面コート膜に対するアニール処理を行うレーザアニール工程」が、いずれもECRスパッタ装置における処理室27内で行われているが、後に行われる「レーザアニール工程」に際しては、必ずしも処理室27内を所定ガス雰囲気にする必要はない点。
(イ) 相違点2
a)のステップにおいて、「表面安定化層」が含む所定の「材料」が、本願発明では、「シリコン、ゲルマニウム、アンチモン、並びにシリコン、ゲルマニウム、アンチモンの酸化物及び窒化物、からなる群から選択される」ものであるのに対し、引用発明では、誘電体からなるものであって、誘電体は、「Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含む」ものである点。
(ウ) 相違点3
a)のステップにおいて、「表面安定化層」の所定の状態が、本願発明では、「非晶質」であるのに対して、引用発明では、端面コート膜にアニール処理を行うと、温度が上昇して高温状態となり、その膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、その膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減されるという状態である点。
(エ) 相違点4
c)のステップにおいて、「外部のエネルギー源」から照射される所定の時間の間における所定の時間が、本願発明では、「前記所定の厚さ全体にわたって均一に結晶構造を形成して前記ファセット被覆を完全に状態調整するまで十分な時間の間」であるのに対して、引用発明では、レーザ装置28からのレーザ光は、そのレーザ光のスキャンによって、ARコート膜23の全域にわたって照射し得る前提において、端面コート膜の膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、端面コート膜の膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減されるのに必要な時間である点。
(オ) 相違点5
c)のステップにおいて、「外部のエネルギー源」から提供される所定のエネルギーが、本願発明では、「前記厚さ全体にわたって完全に状態調整するのに十分なエネルギー」であるのに対し、引用発明では、端面コート膜の膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減されるのに必要なエネルギーである点。
(3) 判断
ア 相違点について
(ア) 相違点1について
引用発明から出発した当業者が相違点1に係る本願発明の構成に至るためには、「端面コート膜を成膜する成膜工程」と「当該端面コート膜に対するアニール処理を行うレーザアニール工程」が、いずれもECRスパッタ装置における処理室27内で行われているのを、後に行われる「レーザアニール工程」では、処理室27以外の場所で行うようにすれば足りる。
そこで、上記当業者がそのように構成するかについて検討すると、引用発明においては、レーザアニール工程に際しては、必ずしも処理室27内を所定ガス雰囲気にする必要はないとされており、そうである以上、処理室27内において行う必要がないことも明らかである。また、技術常識を考慮しても、反応チャンバにおいて膜を形成した後にアニール処理を行う場合には、それぞれの処理は異なる場所で行うこと、すなわち前記反応チャンバ内で成膜を行った後には、当該反応チャンバから一旦取り出すことも一般的であるといえる(一例として、本願の優先日前に日本国内又は外国において発行された引用文献4(特開2003-17299号公報)の【0036】及び図1を参照されたい。成膜を行う成膜室75~77とレーザアニールを行うレーザアニール室78は別の処理室となっている。)。
そうすると、引用発明において、「端面コート膜を成膜する成膜工程」の後に行われる「当該端面コート膜に対するアニール処理を行うレーザアニール工程」を、処理室27以外の場所で行うようにすることは、当業者が適宜なし得たことであり、そのようにした結果、当業者は、相違点1に係る本願発明の構成に至る。
(イ) 相違点2~5について
相違点2~5についてまとめて検討する。
a 引用発明から出発した当業者が相違点2~5に係る本願発明の構成に至るためには、
(i)「端面コート膜」の材料を、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含む誘電体から、Siの酸化物に構成し(相違点2関係)、
(ii)レーザアニール処理前の「端面コート膜」の状態(以下「処理前状態」という。本願発明におけるa)のステップ後の「表面安定化層」の状態ということになる。)を、端面コート膜にアニール処理を行うと、温度が上昇して高温状態となり、その膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、その膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減されるという状態から、「非晶質」の状態に構成し(相違点3関係)、
(iii)レーザアニール処理後の「端面コート膜」の状態(以下「処理後状態」という。本願発明におけるc)のステップ後の「表面安定化層」の状態ということになる。)を、レーザ装置28からのレーザ光は、そのレーザ光のスキャンによって、ARコート膜23の全域にわたって照射し得る前提において、端面コート膜の膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、端面コート膜の膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減される状態から、溶融再結晶化によって「前記所定の厚さ全体にわたって均一に結晶構造を形成し」た状態に構成すれば(相違点4及び5関係)足りる。
ここで、(iii)のように構成すれば、引用発明の「溶融再結晶化」が本願発明の「状態調整」に相当すること(前記(1)オ)にも照らせば、(ii)と合わせることで引用発明の「端面コート膜」が本願発明でいう「状態調整」されたことになるし、また、「外部のエネルギー源」から照射される所定の時間の間における所定の時間と「外部のエネルギー源」から提供される所定のエネルギーが、それぞれ、相違点4及び5に係る本願発明の構成のようになることも、当然である。
そこで、上記当業者が上記(i)~(iii)のように構成するかについて検討する。
b 引用発明における処理前状態は、端面コート膜にアニール処理を行うと、温度が上昇して高温状態となり、その膜組成の溶融再結晶化が起こり、この溶融再結晶化によって、その膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減されることになるという状態であり、処理後状態は、膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減された状態である。このように、処理前状態は、結晶内に欠陥が存在する状態とされているから、結晶状態と解する余地がある一方で、「溶融結晶化」は、一般に、多結晶あるいは非晶質を加熱して、溶融固化させることにより再結晶化させることを意味しており(例えば、權田俊一監修「21世紀版 薄膜作製応用ハンドブック」(株式会社エヌ・ティー・エス、2003年)598頁には、「これまで、単結晶SOI層形成にはレーザビームや電子ビーム等のエネルギービームを照射し、いったん溶融させた後、結晶化させる溶融再結晶化法・・・(中略)・・・が研究されてきた。・・・(中略)・・・レーザビーム再結晶化法とは、レーザビームを絶縁層上の多結晶あるいは非晶質Si薄膜に照射し、溶融固化させることにより再結晶化させる方法であり・・・」等と記載されている。)、そのため、処理前状態が非晶質であることも許容されていると解する余地もあることから、当業者は、処理前状態が結晶状態と解される記載が技術的に意味するところをさらに検討するといえる。
しかるに、引用発明の技術的意義は、Al2O3、TiO2、SiO2、ZrO2等の誘電体膜からなる端面コート膜は、蒸着またはスパッタリング等によって成膜するが、その膜組成が完全な結晶ではなく欠陥を含んでいることが多く、半導体レーザとしてのレーザ光の出射を行った場合に、欠陥の部分でレーザ光を吸収して端面コート膜の変質が起こり得ることから、劣化が生じるおそれがあるという課題(【0004】)を解決するために、端面コート膜を成膜した後に、レーザアニール工程でその端面コート膜に対するアニール処理を行うものであって、このようなアニール処理を行うと、端面コート膜では、温度が上昇して高温状態となり、その膜組成の溶融再結晶化が起こるので、その膜組成が緻密化して、結晶内に存在していた欠陥が低減されること(【0008】)にあると認められる。これを踏まえれば、処理前状態が結晶状態である技術的意味は、その内部に存在していた欠陥の部分が端面コート膜の変質を起こす原因となるということにあり、処理後状態が結晶内に存在していた欠陥が低減された状態である技術的意味は、溶融再結晶により当該変質の原因となる欠陥が低滅して当該変質が起こりにくくなることにあるといえる。このように、処理前状態が結晶状態である技術的意味は、端面コート膜の変質という引用発明の課題を生じさせる原因として位置付けられるにすぎないことから、当業者であれば、引用発明では、その技術的意義に照らして、処理前状態が端面コート膜の変質が起こり得る状態である一方で、処理後状態では当該変質が起こりにくくなる状態となるのであれば、処理前状態が結晶状態でなくても差し支えないと認識できるといえる。
c 前記bのとおり、当業者は、引用発明では、処理前状態が端面コート膜の変質が起こり得る状態である一方で、処理後状態では当該変質が起こりにくくなる状態となるのであれば、処理前状態が結晶状態でなくても差し支えないと認識できるところ、以下のとおり、当業者は、処理前状態が非晶質のSiO2からなる状態であってよいことを容易に想到できる。
すなわち、まず、前記bのとおり、「溶融再結晶」の概念に基づき、処理前状態が非晶質であることを許容すると解する余地があるところ、端面コート膜が非晶質であっても、レーザ光が吸収されると端面コート膜の変質が生じることが例示するまでもなく技術常識であると認められるし、そのような端面コート膜であっても、上記の「溶融再結晶化」の概念に照らして、処理後状態においては、再結晶化されているのであるから、端面コート膜の変質が起こりにくくなっていることが明らかである。また、引用発明の「端面コート膜」の成膜は、ECRスパッタ装置でされるところ、このような装置で成膜した場合には、ほぼアモルファス(非晶質)となることも技術常識であると認められる(例えば特開2014-236052号公報の【0018】には「光出射側の端面に形成されるコート膜は、ほとんどの場合、EB(Electron Beam)蒸着法またはスパッタリング法などの方法を用いて成膜される。この場合は、コート膜はほぼアモルファスとなることが知られている。」と記載されている。)し、引用発明の「端面コート膜」の材料は、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、ZnおよびSiからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を含む誘電体であるところ(前記(1)ア(ア)c)、これに含まれるシリカは、スパッタリング法により非晶質になることが通常である。
そして、少なくともシリカについては、結晶質の膜よりも「非晶質」のものの方が製造容易であることが技術常識であると認められる(例えば大木義路外3名「シリコン酸化膜中の点欠陥の新しい検出法」電子学会論文誌A116巻5号387頁(1996)(URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejfms1990/116/5/116_5_387/_article/-char/ja/)には、「なかでも、非晶質シリカは、結晶シリカに比べて、製造が容易で工業的用途に適している・・・(中略)・・・製法によっては、非晶質シリカには、相当多くの欠陥が含まれる。」等と記載されている。)。
このように、引用発明から出発した当業者は、引用発明の技術的意義、製造装置及び「端面コート膜」の材料の観点から、処理前状態がシリカの非晶質状態であってよいことを容易に認識できるとともに、そのようなシリカであれば、結晶状態のものと比べて製造が容易であることも認識できることから、上記当業者は、引用発明の「端面コート膜」の処理前状態をシリカの非晶質状態とすることに容易に想到できるのであり、そのようにした結果、当業者は、少なくとも、(i)及び(ii)の構成に至ったことになる。
d その際、当業者は、以下のとおり、(iii)になるように構成するのが自然であるといえる。
(a) すなわち、本願の明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)の【0026】の「・・・本発明の処理は、標準的なE2表面安定化層(並びに、存在する場合には上に重なる被覆層も)を均一に完全に状態調整し、従来技術で見られたような垂直方向及び横方向の状態調整の不均一さを解消することが、分かった。」との記載からみて、本願発明にいう「均一」とは、少なくとも、「垂直方向及び横方向の状態調整の不均一さを解消」した状態を表すものと認められる。ここで、同【0018】の「・・・エネルギー源32からのビーム34は、その後集束レンズ36を通過し、レーザーダイオード・バー10の活性領域の上に覆い被さる表面安定化層22の一部38に沿って走査する。レーザーダイオード・バー10は、従来のサブマウント固定具40上に取り付けられることがあり、エネルギー源32からの放射に対して移動されることがあり、その結果、集束したビームが、表面安定化層22の横方向の範囲にわたって走査することになる」との記載からみて、「横方向」は光軸方向に対して垂直の方向(活性層の断面方向)、「垂直方向」は光軸方向を指すものと認められる。
そして、前記bのとおり、引用発明におけるレーザアニール工程を行うことの技術的意義は、「端面コート膜」の膜組成を緻密化し、結晶内に存在していた欠陥を低減することで、欠陥部分でのレーザ光の吸収による端面コート膜の変質を防止することにあるから、「端面コート膜」の「厚さ全体にわたって均一に結晶構造を形成し」た状態、すなわち、厚さ全体にわたって「垂直方向及び横方向の状態調整の不均一さを解消」し、「結晶構造を形成し」た状態に構成すべきことは当業者に明らかである。
(b) 引用発明は「レーザ装置28からのレーザ光は、そのレーザ光のスキャンによって、ARコート膜23の全域にわたって照射し得るもの」であるから、レーザ光のスキャンによって横方向の状態調整の不均一さを解消できるものと認められる。また垂直方向の状態調整の不均一さについては、主にレーザ光の照射時間やエネルギーを十分なものとすることで解消できるものと認められるが、そのように照射時間やエネルギーを選択すれば、レーザ装置28から照射される所定の時間の間における所定の時間が、本願発明にいう「前記所定の厚さ全体にわたって均一に結晶構造を形成して前記ファセット被覆を完全に状態調整するまで十分な時間の間」となり、レーザ装置28から提供される所定のエネルギーが、本願発明にいう「前記厚さ全体にわたって完全に状態調整するのに十分なエネルギー」となることは明らかである。すなわち当業者は、(iii)の構成に至ったこととなる。
イ 本願発明の効果について
本願発明の効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が予測し得たものであり、格別顕著なものということもできない。
ウ 請求人の主張について
請求人は、引用発明から出発した当業者は、処理前状態を非晶質にすることはない旨主張し、その根拠として、引用発明の処理前状態は結晶状態に限られていること、そのような引用発明で行われる「溶融再結晶化」のためのレーザ照射と、相違点4及び5に係る本願発明の構成におけるエネルギー照射とは異なることを挙げるが、前記ア(イ)で説示したとおり、引用発明から出発した当業者は、処理前状態をシリカの非晶質状態とすることに容易に想到できるし、その際に相違点4及び5に係る本願発明の構成を満たすようにするのも自然なことにすぎない。
3 小括
以上によれば、本願発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-017851