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特許拒絶査定不服審判

2022-020770

癌の免疫療法

審判番号
2022-020770
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-166010外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年12月22日
審決日
2025年05月07日
公報発行日
2025年10月31日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .536-WZ (C12N) / P18 .537-WZ (C12N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-166010「癌の免疫療法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 2月18日出願公開、特開2021- 19608〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成26年12月2日(パリ条約による優先権主張 2013年12月2日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2016-536769号の出願の一部を、令和2年9月30日に新たな特許出願したものであって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。 令和 4年 8月18日付け:拒絶査定 同年12月22日 :審判請求書及び手続補正書の提出 令和 5年 2月 6日 :審判請求書の手続補正書(方式)の提出 令和 6年 8月27日付け:拒絶理由通知 令和 7年 2月27日 :意見書及び手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項に係る発明は、令和7年2月27日提出の手続補正によって補正された特許請求の範囲における請求項1~22に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 HAVCR2の発現を抑制することができるsdRNAを含む免疫調節因子であって、ここで該sdRNAが、ガイド鎖およびパッセンジャー鎖を含み、ここで該ガイド鎖が、19~25ヌクレオチド長であり、および該パッセンジャー鎖が、10~19ヌクレオチド長であり、ここで該sdRNAが、二本鎖領域および一本鎖領域を含み、ここで該一本鎖領域が、5~9ホスホロチオエート修飾を含み、ここで該sdRNAが、化学修飾されており、少なくとも1つの2’-O-メチル修飾、または少なくとも1つの2’-O-フルオロ修飾を含み、ここで該sdRNAが、HAVCR2の発現を抑制することができ、およびここで該sdRNAが、配列番号363を標的とする、前記免疫調節因子。」 (下線は、令和7年2月27日の手続補正において、補正箇所として請求人が付したものである。) 第3 拒絶の理由の概要 令和6年8月27日付けの拒絶理由通知書で当審が通知した拒絶理由は、概略、次のとおりのものである。 理由1.(サポート要件) 本願明細書の発明の詳細な説明において、配列番号363を標的配列とするsdRNAが送達作用物質を必要とせずにT細胞等の免疫療法用細胞に取り込まれてHAVCR2遺伝子の発現を抑制することについて、当業者が理解できるように記載されているとはいえないから、請求項1~23に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 理由2.(実施可能要件) 過度の試行錯誤を要することなく、配列番号363を標的配列とするsdRNAについて、送達作用物質必要とせずにT細胞等の免疫療法用細胞に取り込まれてHAVCR2遺伝子の発現を抑制するように当業者が使用できる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているとはいえないから、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 第4 本願明細書等の記載 願書に添付した明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)には、以下の記載がある(下線は当審が付与した。)。 本ア 【0019】~【0021】 「【0019】 上記の観点から、チェックポイント阻害剤におけるこれまでに報告されている多臓器系の有害な炎症事象の危険がなく、チェックポイント阻害剤及び他のクラスの腫瘍崩壊剤と組み合わせて使用することができる新たな癌治療剤が必要とされている。腫瘍又は感染疾患耐性機構と関連した遺伝子を標的とするオリゴヌクレオチド作用物質を組み合わせて細胞を処理することによって調製された本発明の免疫療法用細胞、このような治療用細胞を作製する方法、及び作製された治療用細胞を用いて疾患を治療する方法は、この長い間望まれていた必要性を満たすものである。 【先行技術文献】 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0021】 細胞増殖性障害及び感染性疾患に対する免疫療法アプローチの有効性を、これらのアプローチと免疫チェックポイントの遮断剤とを組み合わせることにより増大させることができる。癌ワクチンと他の免疫治療剤とチェックポイント阻害剤との間の多くの相乗効果により、併用アプローチが細胞増殖性障害及び免疫疾患における臨床転帰を有意に改善させることができる機会が得られる。」 本イ 【0025】 「修飾のための本明細書にて同定される標的遺伝子としては、細胞傷害性T細胞抗原4(CTLA4)、プログラム細胞死タンパク質1(PD1)、腫瘍成長因子受容体ベータ(TGFR-ベータ)、LAG3、TIM3及びアデノシンA2a受容体;・・・(略)・・・、及び同様の遺伝子、並びにそれらの組合せが挙げられる。代表的な標的配列を表1に挙げる。」 本ウ 【0038】 「最も好ましくは、オリゴヌクレオチド作用物質は自己送達性RNAi作用物質であり、これは疎水性に修飾されたsiRNA-アンチセンスハイブリッド分子であり、該分子はセンス及びアンチセンス鎖のそれぞれの3’末端にオーバーハングを含む又は含まない、約13塩基対~22塩基対の二本鎖領域と、約2ヌクレオチド~9ヌクレオチドのアンチセンス鎖の3’末端に一本鎖の尾部とを含む。オリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの2’-O-メチル修飾物、少なくとも1つの2’-O-フルオロ修飾物、及び少なくとも1つのホスホロチオエート修飾物、並びにステロール、コレステロール、ビタミンD、ナフチル、イソブチル、ベンジル、インドール、トリプトファン、フェニル等の疎水性調節因子(図1を参照)から選択される少なくとも1つの疎水性修飾物を含有する。オリゴヌクレオチドは複数のこのような修飾物を含有することができる。」 本エ 【0043】 「本明細書において使用される場合、腫瘍関連免疫耐性遺伝子は免疫応答のチェックポイント阻害に関与する遺伝子、例えばCTLA-4及びPD-1/PD-L1;TGF-ベータ、LAG3、Tim3、アデノシンA2a受容体を含む。」 本オ 【0059】 「本明細書において使用される場合、標的遺伝子は、免疫耐性機構に関与する遺伝子の発現を調節するとして知られる又は同定される遺伝子を含み、抑制性受容体等の遺伝子のいくつかのグループ、例えば、CTLA4及びPD1;免疫細胞を不活性化させるサイトカイン受容体、例えばTGF-ベータ受容体、LAG3、Tim3、アデノシンA2a受容体、及びIL10受容体;調節遺伝子、例えばSTAT3、p38、mir155、及びmir146a;並びに細胞死につながるカスケードに関与するアポトーシス因子、例えばP53、Casp8、BAX、BAC、及びそれらの組合せの1つであってよい。表1に挙げた好ましい標的遺伝子も参照されたい。」 本カ 【0061】 「本明細書において使用される場合、sdRNAは、非対称な二本鎖RNA-アンチセンスオリゴヌクレオチドハイブリッドとして形成される「自己送達性」RNAi作用物質を指す。二本鎖RNAは、約19ヌクレオチド~25ヌクレオチドのガイド(センス)鎖及び約10ヌクレオチド~19ヌクレオチドのパッセンジャー(アンチセンス)鎖を含み、この二本鎖形成により約5ヌクレオチド~9ヌクレオチドの一本鎖のホスホロチオエート化された尾部が生じる。」 本キ 【0066】 「sdRNA(自己送達性)は、細胞に取り込ませるための送達ビークルを必要とせず、従来のsiRNAと比べ薬理学的に改良された、新しいクラスの共有結合により修飾したRNAi化合物である。「自己送達性RNA」、すなわちsdRNAは疎水性に修飾されたRNA干渉-アンチセンスハイブリッドであり、in vitroでの初代細胞において、及びin vivoでの局所投与時に高い効果を示している。毒性のない堅固な取り込み及び/又はサイレンシングが、真膚、筋肉、腫瘍、肺胞マクロファージ、脊髄、並びに網膜細胞及び網膜組織を含むいくつかの組織において明示されている。真膚層及び網膜において、sdRNAのmg用量での皮内及び硝子体内注射は強力な長時間のサイレンシングを誘導した。」 本ク 【0067】~【0069】 「【0067】 sdRNAは優れた機能的ゲノミクスツールであり、初代細胞及びin vivoでのRNAiを可能にするが、従来のsiRNAに比べ比較的ヒット率が低い。1つの遺伝子に対して多くの配列をスクリーニングする必要があり、これが治療用途に対する制限因子とはならないが、sdRNA技術の機能的ゲノミクスへの応用に対してかなりの制約となり、何千の遺伝子に対する費用効率のよい化合物選択が必要となる。sdRNA構造、化学特性、標的位置、配列選択等を最適化するため、独自のアルゴリズムを開発し、sdRNA潜在性の予測に利用している。ex vivo及びin vivoにて全ての細胞型に活性であるsdRNA試薬の利用可能性が、機能的ゲノミクス及び標的層化/検証研究を可能にする。 【0068】 独自のアルゴリズム sdRNA配列を、HeLa細胞のルシフェラーゼレポーターアッセイにおける500個を超えるsdRNA配列の機能的スクリーニングに基づき設計された独自の選択アルゴリズムを元に選択した。その回帰分析を使用し、遺伝子抑制アッセイにおいて、sdRNA二本鎖の特異的ヌクレオチドの発生頻度と任意の特定位置での修飾との相関及びその機能性について確立した。このアルゴリズムにより機能的sdRNA配列の予測が可能になり、40%を超える確率で1μM濃度にて70%を超えるノックダウンと規定される。 【0069】 表1は独自のアルゴリズムを用いて同定され、細胞免疫療法の組成物及び本明細書に記載の方法に有用である予測遺伝子標的を示す。」 本ケ 【0072】~【0073】及び図1 「【0072】 sdRNA分子の一般的な構造を図1に示す。sdRNAは疎水性に修飾されたsiRNA-アンチセンスオリゴヌクレオチドハイブリッド構造体として形成され、例えばByrne他、Dec. 2013, J. Ocular Pharmacology and Therapeutics, 29(10): 855-864に開示されている。 【0073】 オリゴヌクレオチド修飾物:2’-O-メチル、2’-O-フルオロ、ホスホロチオエート オリゴヌクレオチド作用物質は、治療剤の安定性及び/又は有効性を増大させ、治療する細胞又は組織へのオリゴヌクレオチドの効率的な送達を行うために1つ又は複数の修飾物を含むことが好ましい。このような修飾物は少なくとも1つのBTLA(B及びTリンパ球アテニュエーター)、KIR(キラー免疫グロブリン様受容体)、B7-H3受容体及びB7-H4受容体並びにTGF-ベータ2型受容体;BTLA(B及びTリンパ球アテニュエーター)、KIR(キラー免疫グロブリン様受容体)、B7-H3受容体及びB7-H4受容体並びにTGF-ベータ2型受容体;2’-O-メチル修飾物、少なくとも1つの2’-O-フルオロ修飾物及び少なくとも1つのジホスホロチオエート修飾物を含む。さらに、オリゴヌクレオチドをステロール、コレステロール、ビタミンD、ナフチル、イソブチル、ベンジル、インドール、トリプトファン、及びフェニルから選択される1つ又は複数の疎水性修飾物を含むよう修飾する。疎水性修飾物はステロールが好ましい。」 「 [図:0001427071000001.jpg] 」 本コ 【0074】 「オリゴヌクレオチド作用物質の細胞への送達 オリゴヌクレオチドを好ましくは脂質、ウイルスベクター等を含む膜貫通送達系と組み合わせて細胞に送達することができる。最も好ましくは、オリゴヌクレオチド作用物質は自己送達RNAi作用物質であり、いかなる送達作用物質も必要としない。」 本サ 【0075】~【0076】 「【0075】 併用療法 本発明において、例えば特定の要件のための要素及び/又は代替物の特定の組合せが最も好ましい。この目的は、免疫抑制遺伝子をサイレンシングするためにオリゴヌクレオチドの標的とするのに適切な遺伝子を決定し、独自のアルゴリズムを使用し、最も適切な標的配列を選択することにより実現される。 【0076】 免疫療法用細胞は、免疫抑制に関与し、選択された標的疾患及び遺伝子に適切な種々の遺伝子を標的とする多数のオリゴヌクレオチド作用物質を含むよう修飾されることが好ましい。例えば、好ましい免疫療法の細胞はCTLA-4とPD-1との両方をノックダウンするよう修飾されたT細胞である。」 本シ 【0082】~【0084】(実施例1) 「【0082】 実施例1 自己送達性RNAi免疫治療剤 本明細書に記載の免疫治療剤を、免疫抑制機構に関与する特定の遺伝子を標的とし、ノックダウンするよう設計された特定のsdRNA作用物質で細胞を処理することにより作製した。特に、以下の細胞及び細胞株をsdRNAで処理することに成功し、特定のヒト細胞の標的となる遺伝子発現の少なくとも70%をノックダウンすることが示された。 【0083】 これらの試験は、これらの免疫原性作用物質をトランスフェクションに対して正常なかなり耐性の高い細胞の標的遺伝子の発現を抑制することに利用されることを明示し、作用物質が任意の細胞型の標的細胞の発現を減少させることができることを示唆する。 【0084】 【表1】 [図:0001427071000002.jpg] 」 本ス 【0085】~【0086】(実施例2) 「【0085】 実施例2 標的遺伝子の発現を阻害するオリゴヌクレオチド配列 以下の遺伝子を含む多くのヒト遺伝子を免疫抑制機構に関与することから、候補標的遺伝子として選択した。BAX(NM_004324) BAK1(NM_001 188) CASP8(NM_001228) ADORA2A(NM_000675) CTLA4(NM_005214) LAG3(NM002286) PDCD1(NM_NM005018) TGFBR1(NM-004612) HAVCR2(NM_032782) CCL17(NM_002987) CCL22(NM_002990) DLL2(NM_005618) FASLG(NM_000639) CD274(NM_001267706) IDO1(NM_002164) IL10RA(NM_001558) JAG 1(NM_000214) JAG2(NM_002226) MAPK14(NM_001315) SOCS1(NM_003745) STAT3(NM_003150) TNFA1P3(NM 006290) TNFSF4(NM 003326) TYR02(NM_006293) TP53(NM_000546) 【0086】 上記に挙げた遺伝子のそれぞれを独自のアルゴリズムを用いて分析し、抗原提示細胞及びT細胞の免疫抑制を阻止する各遺伝子の配列及び標的領域を標的とする好ましいsdRNAを同定した。結果を表1に示す。」 本セ 【0087】~【0094】及び図2(実施例3) 「【0087】 実施例3 HeLa細胞のsdRNAによる標的遺伝子(GAPDH)のノックダウン HeLa細胞(ATCC CRM-CCL-2)を24時間、継代培養した後にトランスフェクションし、対数増殖期を維持した。表1に挙げるG13のsdRNAを含む数種のGAPDHのsdRNAの有効性をqRT-PCRにより試験した。 【0088】 必要とする濃度の2倍のGAPDH、MAP4K4(陽性対照)及びNTC(非標的対照)のsdRNAの溶液を血清非含有EMEM培地において、100μMのオリゴヌクレオチドを0.2μM~4μMに希釈することにより調製した。 ・・・ 【0094】 GAPDH遺伝子発現をqPCRにより測定し、MAP4K4に対して正規化し、非標的sdRNAの存在下において発現の割合としてプロットした。その結果を標準曲線に従い正規化したものと比較した。図2に示されるように、GAPDH又はMAP4K4を標的とするいくつかのsdRNA作用物質は有意にmRNAレベルを減少させ、1μMのsdRNAにおいて80%~90%超のノックダウンを生じた(図2を参照のこと)。」 「 [図:0001427071000003.jpg] 」 本ソ 【0095】~【0100】及び図3(実施例4) 「【0095】 実施例4 NK-92細胞のsdRNAによる多重標的のサイレンシング ・・・ 【0096】 MAP4K4、PPIB又はGADPHを標的とする多数のsdRNA作用物質を血清非含有RPMI培地において個別に4μMに希釈し、50μl/ウェルにて個々に96ウェルプレートに分取した。次いで調製された細胞を50μlの細胞/ウェルにてMAP4K4、PPIB又はGAPDHのsdRNAのいずれかを含むウェルに添加した。細胞を24時間、48時間、又は72時間インキュベーションした。 ・・・ 【0100】 図3に示す結果は、NK-92細胞にトランスフェクションさせたsdRNA作用物質による、多重標的であるMAP4K4、PPIB、及びGADPHのそれぞれの、24時間~72時間のインキュベーションにおいて各標的の発現の75%を超える阻害を含む有意なサイレンシングを明示している。」 「 [図:0001427071000004.jpg] 」 本タ 【0101】~【0104】及び図4(実施例5) 「【0101】 実施例5 ヒト初代T細胞のsdRNAによるTP53及びMAP4K4のサイレンシング ・・・ 【0102】 TP53又はMAP4K4を標的とするsdRNA作用物質を1サンプル(ウェル)当たり血清非含有RPMIにおいて、sdRNAを0.2μM~4μMに個別に希釈することにより調製して、100μl/ウェルにて96ウェルプレートに個々に分取した。細胞を4%FBS及び2000U/mlのIL2を含有するRPMI培地において1000000細胞/mlにて調製し、100μl/ウェルにて予め希釈したsdRNAを含む96ウェルプレートに播種した。 ・・・ 【0104】 図4に示す結果は、T細胞にトランスフェクションさせたsdRNA作用物質による、MAP4K4及びTP53の両方の、1μM~2μMのsdRNAによる遺伝子発現の70%~80%の阻害に達する有意なサイレンシングを明示している。」 「 [図:0001427071000005.jpg] 」 本チ 【0105】~【0110】(実施例6~8) 「 【0105】 実施例6 黒色腫を治療するためのsdRNAの免疫治療剤の併用 黒色腫はT細胞の免疫機能を抑制するため少なくとも2つの特定の経路を利用し、そのそれぞれがPD1及びCTLA4の両方を含む。PD1リガンドであるPD1Lを発現する黒色腫腫瘍は、PD1を標的とするよう特異的に設計され、PD1発現を干渉するsd-RNAi作用物質を用いてex-vivoにて前処理されたT細胞の標的とすることができる。PD1はPDCD1としても知られ、sdRNA介在性抑制において特に機能されると同定され、予測される特定の標的配列及び遺伝子領域をPDCD1(NM_005018)及びCTLA4(NM005214)として表1に示す。 【0106】 黒色腫腫瘍の治療は、黒色腫細胞に、T細胞、例えばPD1/PDCD1及びCTLA4を標的とし、例えばPD1/PDCD1及び/又はCTLA4として挙げた20個の標的配列の1つ又は複数を標的とするsdRNAを組み合わせてex-vivoにて前処理した腫瘍浸潤リンパ球を投入することによって行うことができる。PD1/PDCD1及びFASLG(NM_000639)及び/又はCTLA4を標的とするsdRNAの組合せは、PD1L及びFASの両方を発現する腫瘍内のT細胞傷害性を増大させ得る。 【0107】 抗CTLA-4及び抗PD1のsdRNAに加えて、及びそれらと組み合わせて、黒色腫の免疫療法に使用するT細胞を腫瘍による免疫抑制を示す他の遺伝子を標的とするsdRNAで処理することもできる。これらの受容体は、TGF-ベータ1型及び2型受容体、BTLA(黒色腫細胞で発現されるヘルペスウイルスエントリインディケーター(HVEM)の結合因子)、並びに骨髄由来抑制細胞(MDSC)により発現するインテグリンの受容体、例えばCD11b、CD18、及びCD29を含むが、それらに限定されない。 【0108】 発現した抑制タンパク質のプロファイルが未知である腫瘍に対して、PD1/PDCD1を標的とするsdRNAと既知の抑制性受容体のいずれか1つとの任意の組合せは、免疫抑制の減少及び治療有効性の増大に役立てることができる。 【0109】 実施例7 免疫細胞抑制を緩和するsdRNAの組合せ T細胞又は樹状細胞抑制を、種々のサイトカイン、例えばIL10及び/又はTGF-ベータにより調節することができる。T細胞及び樹状細胞の対応する受容体の抑制は、サイトカインの活性に利点を有し得る。例えば、抗PD1と抗IL10RのsdRNAとを組み合わせることは、抗PD1のみと比べ、サイトカインにより誘導されるT細胞及び樹状細胞の抑制を緩和することが期待される。 【0110】 実施例8 免疫細胞抑制を緩和するsdRNAの組合せ 免疫細胞の腫瘍抑制の機構が知られていない可能性があるとき、アポトーシス(プログラム細胞死)に関与する遺伝子、例えばp53、Casp8、又はアポトーシスを活性化させる他の遺伝子を抑制するためにsdRNA作用物質を使用することは、免疫細胞の活性を増大させる利点を有し得る。抗受容体sdRNAとアポトーシス促進遺伝子に対するsdRNAとの組合せは、更に免疫細胞の死を減少させるため、それらの活性を増大させることができる。例えば、抗PD1と抗p53のsdRNAとの組合せは更に、アポトーシスの活性を阻害することによって抑制からT細胞を保護することができる。」 本ツ 【0111】~【0113】及び図5(実施例9) 「【0111】 実施例9 ヒト初代T細胞のsdRNAによるCTLA-4及びPDCD1のサイレンシング 本質的に実施例5に記載のように、初代ヒトT細胞を培養し、活性化させた。PDCD1及びCTLA-4を標的とするsdRNA作用物質を1サンプル(ウェル)当たり血清非含有RPMIにおいて、sdRNAを0.4μM~4μMに個別に希釈することにより調製して、100μl/ウェルにて96ウェルプレートに個々に分取した。細胞を4%FBS及び2000U/mlのIL2を含有するRPMI培地において1000000細胞/mlにて調製し、100μl/ウェルにて予め希釈したsdRNAを含む96ウェルプレートに播種した。 ・・・ 【0113】 図5に示す結果は、T細胞に送達されたsdRNA作用物質の組合せを使用することにより2μMのsdRNAで遺伝子発現の60%~70%を超える阻害が得られ、PDCD1及びCTLA-4の有意なサイレンシングを明示している。」 「 [図:0001427071000006.jpg] 」 本テ 【0114】~【0119】及び図6(実施例10) 「【0114】 実施例10 ヒト初代T細胞のsdRNAによるCTLA-4及びPDCD1表面の発現の減少 本質的に実施例5に記載のように、初代ヒトT細胞を培養し、活性化させた。 【0115】 CTLA-4又はPD1を標的とするsdRNA作用物質を1サンプル(ウェル)当たり血清非含有RPMIにおいて、5μMに個別に希釈し、250μl/ウェルにて24ウェルプレートに分取した。磁性ビーズと混合させた細胞を回収し、4%FBS及び2000IU/mlのIL2を含有する250μlのRPMI培地において500000個の細胞に調節した。予め希釈したsdRNAを含有して調製したプレートに細胞を250μl/ウェルにて播種した。24時間後、FBSを細胞に添加し、10%の最終濃度を得た。 ・・・ 【0119】 図6に示されるように、sdRNAは、活性化したヒト初代T細胞におけるCTLA-4及びPD1の表面発現を効率的に減少させた。」 「 [図:0001427071000007.jpg] 」 本ト 【0120】~【0124】及び図7(実施例11) 「【0120】 実施例11 MAP4K4のsdRNAのヒト末梢血単核細胞(PBMC)のCD3-及びCD19-陽性部分集合体への送達 ・・・ 【0121】 cy3を用いて標識したMAP4K4のsdRNAを0.1μMの最終濃度となるように細胞に添加した。72時間のインキュベーション後、トランスフェクションさせた細胞を回収し、PBSを用いて洗浄し、遠沈し、ブロック緩衝液(3%BSAを含むPBS)に200000細胞/50μl/サンプルにて希釈した。 ・・・ 【0124】 図7は、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)におけるCD3陽性(t細胞)の97%超及びCD19陽性(B細胞)の98%超の部分集合体の効率的なトランスフェクションを示す。」 「 [図:0001427071000008.jpg] 」 本ナ 【0133】(表1の一部) 「 [図:0001427071000009.jpg] 」 本ニ 【0149】(表1の一部) 「 [図:0001427071000010.jpg] 」 第5 当審の判断 1.理由1(サポート要件)について (1)本願発明が解決しようとする課題 本願明細書の発明の詳細な説明の記載(特に、本ア)によれば、本願発明は、「細胞増殖性障害及び感染性疾患に対する免疫療法アプローチの有効性を、これらのアプローチと免疫チェックポイントの遮断剤とを組み合わせることにより増大させることがきる」ような「腫瘍又は感染疾患耐性機構と関連した遺伝子を標的とするオリゴヌクレオチド作用物質」を提供することを課題とするものである。 本願発明は、「HAVCR2の発現を抑制することができるsdRNA」を含む「免疫調節因子」であるが、「HAVCR2」(別名TIM3、Tim3)は、免疫応答のチェックポイント阻害、すなわち、免疫抑制機構に関与する遺伝子であって(本イ、本エ、本オ、本シ)、アクセッション番号がNM_032782(本ス、本ナ)であることに照らすと、そのmRNAは2237ヌクレオチド長である。発明の詳細な説明(本サ)の記載に照らせば、免疫療法アプローチに用いるT細胞等の免疫療法用細胞においてHAVCR2遺伝子の発現を抑制することが、上記課題における「免疫療法アプローチ」と「免疫チェックポイントの遮断剤」とを組み合わせることに相当する。そして、「sdRNA」とは、送達作用物質を必要とせずに細胞に取り込まれる、自己送達性RNAi作用物質(本カ、本キ、本コ)であって、上記課題との関係においては、T細胞等の免疫療法用細胞において標的遺伝子のmRNAに作用して、その発現を抑制するために用いられるものであり、本願発明の「sdRNA」が標的とする「配列番号363」は、HAVCR2のmRNAに含まれる20ヌクレオチド長からなるものである。 また、本願発明の「 ガイド鎖およびパッセンジャー鎖を含み、ここで該ガイド鎖が、19~25ヌクレオチド長であり、および該パッセンジャー鎖が、10~19ヌクレオチド長であり、ここで該sdRNAが、二本鎖領域および一本鎖領域を含み、ここで該一本鎖領域が、5~9ホスホロチオエート修飾を含み、ここで該sdRNAが、化学修飾されており、少なくとも1つの2’-O-メチル修飾、または少なくとも1つの2’-O-フルオロ修飾を含み」は、「sdRNA」の一般的な化学構造にすぎない(本ウ、本カ、本ケ)。 したがって、本願発明がサポート要件を満たすためには、発明の詳細な説明において、2237ヌクレオチド長の「HAVCR2」のmRNAのうち20ヌクレオチド長の「配列番号363」を標的とする「sdRNA」が、送達作用物質を必要とせずにT細胞等の免疫療法用細胞に取り込まれ、「HAVCR2の発現を抑制する」ことにより、上記課題を解決することができるものであると当業者が認識できるように記載されている必要がある。 (2)本願の遡及出願日の技術常識 ア 参考文献の記載 本願の遡及出願日、すなわち、本願の原出願の出願日である平成26年(2014年)12月2日当時の技術常識を検討するために、遡及出願日より後の2018年に公開されたNucleic Acids Research, 2018年,Vol.46,No.20,pp.10905-10916(以下、「参考文献1」という。)をみると、以下の記載がある(原文は英文のため、訳文を示す。)。 参1ア 第10905頁左欄 「要約 オリゴヌクレオチド化学の進歩により、使用されるsiRNAの種類は、処方化された最小限の修飾を施されたsiRNAから、処方化されていない高度の修飾を施されたsiRNAコンジュゲートへと変化してきた。コンジュゲートを介したデリバリーには、広範な化学修飾の導入が不可欠である。修飾は、RNAi酵素装置による認識やプロセッシングを阻害することにより、siRNAの有効性に大きな影響を与え、siRNAの設計に利用可能な配列空間を著しく制限する。公開されている多くのアルゴリズムは、非修飾siRNAの活性をうまく予測することができるが、高度に修飾されたsiRNAを設計するためのアルゴリズムの有効性は、これまで体系的に実験的に評価されたことはない。ここでは、広範な化学修飾を有する356個のコレステロール結合siRNAをスクリーニングし、2つの独立したデータセットを用いて、siRNA活性を効果的に予測する線形回帰ベースのアルゴリズムを開発した。さらに、修飾されたsiRNAと修飾されていないsiRNAでは、予測決定因子が大きく異なることを実証した。非修飾 siRNA のデータセットから開発されたアルゴリズムは、修飾siRNAに対しては予測力がなく、逆も同様である。高度に修飾されたsiRNAとの関連では、化学的非対称性の導入は、非修飾siRNAの有効性の主要な決定要因である熱力学的バイアスの必要性を完全に排除する。最後に、標的部位の配列に加えて、隣接する3’領域のアクセシビリティがsiRNAの有効性に大きく寄与することを実証した。」 参1イ 第10908頁左欄第3段落~同頁右欄第3段落、及び、図1 「結果 356種類の化学修飾自己送達siRNAのパネルの有効性の評価 sdRNAは、大幅に化学修飾され、コレステロールと結合した非対称siRNAであり、補助なしで細胞内に取り込まれることができる(33-35)。sdRNAは、20塩基のアンチセンス鎖が15塩基のセンス鎖と二重らせん構造を形成している(図1A)。アンチセンス鎖の6つの3'ヌクレオチドとセンス鎖の2つの3'ヌクレオチドはホスホロチオエート化されている。すべてのピリミジンは、アンチセンス鎖とセンス鎖でそれぞれ2′-フルオロと2′-O-メチルで修飾されている。さらに、両方の鎖にあるいくつかのプリンは、修飾されていないリボースの伸長部分の存在を排除するために、2′-O-メチルで修飾されている。アンチセンス鎖の5′末端は化学的に一リン酸化され、2′-O-メチルウリジン(U)として固定される。さらに、センス鎖の1番目と2番目の位置は常に2′-O-メチル修飾されており(20)、センス鎖の長さが短いことも相まって、化学的不斉が生じ、センス鎖がRISC複合体にロードされるのを妨げる。コレステロールと結合すると、これらの化合物はEEA1に関連するエンドサイトーシス機構の一部によって輸送ビークルを必要とせずに、あらゆる種類の細胞に効率的に侵入する(35)。sdRNAの一般的な化学構造は図1Aに示されている。 アルゴリズム開発に使用されたトレーニングデータセットは、17種類の異なる遺伝子(各遺伝子につき約20のsdRNA)にわたる356のsdRNA標的領域で構成されている。機能評価では、各標的遺伝子につき、50塩基のsdRNA標的領域(20塩基のsiRNA標的部位と15塩基の隣接領域を含む)を融合し、psiCHECK-2ベクターの3'UTRにクローニングした(方法参照)。17のレポーターすべてに、交差アッセイデータの比較と検証のための汎用ポジティブコントロール配列が組み込まれていた。対応する標的配列と、すべての試験化合物の効力は、補足表S1に示されている。 ・・・ 図1Bは、356のsdRNAデータセットの有効性分布を示している。化合物の有効性は、対応する非標的コントロールに対して正規化されている。設計はもともと低GC含有量に偏っていたが、これはsiRNAの有効性を高める要因として広く認められている(37)。しかし、非常に活性の高い配列の割合は、修飾されていないsiRNAの場合よりも大幅に低いようである(5,37)。90%以上のサイレンシングを誘導した配列は、試験した配列のわずか3%であった。Huesken et al. (5)がランダムに選択した非修飾siRNAのデータセットでは、試験した化合物の16%が同様の活性を示した(補足図S1C)。実験条件が異なるため、これらのデータセットの直接的な定量的比較は不可能であるが、この結果は、広範囲にわたる化学修飾は多くのsiRNA配列に耐容されないという既知の観察結果と一致しており(27,38,23)、適切な予測手順の開発の必要性を強調している。 アルゴリズムの開発にあたり、sdRNAデータセットは、機能しないもの(157のsdRNA、標的遺伝子発現が44%以上残っているもの)と機能するもののサブセットに細分化された。機能性のカットオフ値として、厳格性を高めて3つの値を使用した:標的遺伝子発現の残存率が35%未満(138のsdRNA)、24%未満(91のsdRNA)、17%未満(41のsdRNA)(図1B)。複数の機能性カットオフ値を選択することで、トレーニング用データセットのサイズを大きくすることと偽陽性率を最小限に抑えることの最適なバランスを特定することができる。」 「 [図:0001427071000011.jpg] [図:0001427071000012.jpg] 図1. 化学修飾された非対称型自己送達siRNA(sdRNA)パネルの有効性分布。 (A) sdRNAは非対称型siRNAであり、20ヌクレオチドのアンチセンス鎖と15ヌクレオチドのセンス鎖から構成され、すべてのピリミジンは2'-フルオロ(アンチセンス)および2'-O-メチル(センス)修飾されている。3'末端のバックボーンはホスホロチオエート化されている(アンチセンス鎖では6つの結合、センス鎖では2つの結合)。センス鎖の3'末端はコレステロールと結合している。(B)17の遺伝子を標的とする356のsdRNAの有効性は、HeLa細胞におけるデュアルルシフェラーゼレポーターを用いて、1μM(受動的取り込み)で48時間後に評価した(n = 3、平均値±SD)。」 参1ウ 第10911頁左欄第3段落~同頁右欄第1段落、及び、図4 「未修飾siRNAベースのアルゴリズムは、大幅に修飾されたsiRNAの予測能力を持たない 非修飾siRNAの有効性を決定する主な要因のひとつは、RISCに導入される鎖の性質を定義する熱力学的バイアスである(32,38)。sdRNAの非対称性は化学修飾と組み合わさって、センス鎖がRISCに導入されるのを効果的に妨げるため、理論的にはこのパラメータの影響は排除されるはずである。したがって、非修飾siRNAの有効性を予測するために開発された位置に基づくアルゴリズムは、高度に修飾されたsdRNAの予測には適していない可能性がある。この仮説を検証するために、Huesken et al. (5) の2384のsiRNAのデータセットに対して、同じ方法論を用いて位置スコア行列を生成し(補足図S1BおよびC)、sdRNAの位置行列と比較した。この比較では、Huesken et al. のデータセットではレポーター構築物に隣接領域が含まれていなかったため、解析は20塩基の標的領域のみに限定した。図4Aは、非修飾および修飾siRNAの塩基優先性マトリックスが大幅に異なることを示している。予想通り、非修飾siRNAのデータセットで観察された最も顕著な位置特異的塩基優先性は、アンチセンス鎖の5'末端に対応する位置でAとUに強い優先性があるという、熱力学的バイアスの導入に関連している。これらの特徴は、sdRNAマトリックスでは完全に欠如していた(図4B)。同時に、切断部位付近(7、8、11番目の位置)で観察された特定のヌクレオチドの好みは、両方のデータセットで類似しており、これはおそらくRISC複合体によって課された一般的なヌクレオチドの好みを反映したものであり、切断時の産物の解離に関連している可能性がある(38,40)。これ以外に顕著な類似点は観察されなかった。 これらの違いを考慮すると、非修飾 siRNA から導き出された線形回帰ベースのアルゴリズムは、それ自体を適切に説明したが、修飾 siRNA データセットの有効性を予測できず、逆もまた同様であったことは驚くべきことではない(図4C)。その結果、非修飾 siRNA の選択アルゴリズムには、化学修飾の多い siRNA の選択に対する予測力はなかった。」 「 [図:0001427071000013.jpg] [図:0001427071000014.jpg] 図4. ネイキッドsiRNAから導き出されたアルゴリズムは、修飾された(sdRNA)ものに対して予測能力を持たず、その逆も同様である。(A)非修飾(オレンジ)(5)および化学修飾された(緑)sdRNAから生成された位置特異的塩基配列の嗜好性マトリックス。アンチセンス鎖の5'末端に基づいて配列を整列させた。マトリックスの重み値は、マトリックスの下の影付きバーで示された値に従って色分けされている。siRNA標的領域(網掛け)に対応する解析されたmRNAの位置は上部に示されている。黒い矢印は、10番目と11番目の位置間の切断部位の位置を示している。(B)非修飾および修飾sdRNAデータセットから導出されたアルゴリズムの、非修飾および修飾siRNAの有効性を予測する能力は、PPP対感度プロットを用いて計算された。(C) 非修飾および化学修飾siRNAの熱力学的柔軟性は、4塩基のスライディングウィンドウにおけるGC含量の平均化により推定した。熱力学的バイアスは、siRNA二重鎖の5'末端と3'末端における相対的な熱力学的柔軟性の差として示される。化学修飾siRNAは、従来の熱力学的バイアスを示さない。」 イ 本願の遡及出願日における技術常識 (ア)本願の遡及出願日より4年程後に発行された参考文献1において、「高度に修飾されたsiRNAを設計するためのアルゴリズムの有効性は、これまで体系的に実験的に評価されたことはない」(参1ア)との記載があることからみて、参考文献1の発行より前の本願の遡及出願日当時においても、「高度に修飾されたsiRNAを設計するためのアルゴリズムの有効性は、これまで体系的に実験的に評価されたことはない」との事実は当てはまる。 (イ)また、参考文献1において「広範な化学修飾を有する356個のコレステロール結合siRNAをスクリーニングし、2つの独立したデータセットを用いて、siRNA活性を効果的に予測する線形回帰ベースのアルゴリズムを開発した」とした上で、「修飾されたsiRNAと修飾されていないsiRNAでは、予測決定因子が大きく異なることを実証した。非修飾siRNAのデータセットから開発されたアルゴリズムは、修飾siRNAに対しては予測力がなく、逆も同様である。」との記載がみられることから(参1ア)、本願の遡及出願日当時に知られていたアルゴリズムは「修飾siRNA」すなわち本願で言う「sdRNA」に対して予測力を有するかどうかは、当業者にとって不明であったというのが本願の遡及出願日当時の技術常識であるといえる。また、むしろ、当業者であれば、そのようなアルゴリズムでsdRNAの有効性を予測しても予測どおりにならないと感じていた可能性が高いことが伺える。 (ウ)上述の参1アで述べられた事項は、参1イ及び参1ウの記載をみれば、本願発明におけるsdRNAの化学構造に関する発明特定事項である「ここで該sdRNAが、ガイド鎖およびパッセンジャー鎖を含み、ここで該ガイド鎖が、19~25ヌクレオチド長であり、および該パッセンジャー鎖が、10~19ヌクレオチド長であり、ここで該sdRNAが、二本鎖領域および一本鎖領域を含み、ここで該一本鎖領域が、5~9ホスホロチオエート修飾を含み、ここで該sdRNAが、化学修飾されており、少なくとも1つの2’-O-メチル修飾、または少なくとも1つの2’-O-フルオロ修飾を含み、」との構成を満足する条件で検証されたものであることが理解できる。そうすると、(ア)及び(イ)で認定した技術常識は、本願発明に対しても参照することが妥当なものである。 (エ)そして、これら(ア)及び(イ)で認定した技術常識は、本願の発明の詳細な説明【0067】(本ク)において、「sdRNA」に関し、「従来のsiRNAに比べ比較的ヒット率が低い。」と記載されることや、「1つの遺伝子に対して多くの配列をスクリーニングする必要があ(る)」と記載されることとも符合する。 (オ)これらを踏まえると、sdRNAについては、標的とする遺伝子が決まっても、その遺伝子のうちどのような部分を標的配列とすればその遺伝子発現を有効に抑制できるかについて、実際にsdRNAを作成してそれを用いて遺伝子発現を抑制できることを直接確認しなくては判断できなかったというのが、本願の遡及出願日当時における技術常識であったということができる。 (3)本願発明のサポート要件の判断 ア 配列番号363及びHAVCR2についての直接的な記載について 発明の詳細な説明においては、実施例2には、「標的遺伝子の発現を阻害するオリゴヌクレオチド配列」を有する好ましいsdRNAを同定した方法について記載されており(本ス)、具体的には、HAVCR2を含む25の遺伝子を候補標的遺伝子として選択したこと、及び、HAVCR2遺伝子を含む25の候補標的遺伝子について、「独自のアルゴリズム」を用いて分析し、その結果として表1を示したことが記載され、明細書段落【0125】~【0149】にわたって示される表1には、25の候補標的遺伝子のそれぞれについて、標的となる遺伝子領域及び標的配列が20ずつ記載されている(1つの段落に1つの遺伝子が対応している)。そして、HAVCR2については、表1の一部である段落【0133】(本ナ)においてその標的配列が記載され、その3番目として、配列番号363の塩基配列が記載されている。そして、上記本イ、本エ及び本オの記載は、この実施例2の記載と同趣旨であると認められる。 しかしながら、上記のいずれの記載も、「独自のアルゴリズム」を用いて選択した標的配列のsdRNAの有効性を推定したことを記載しているに過ぎず、その確からしさが合理的に説明されているわけではないし、配列番号363を標的配列とするsdRNAを実際に使用して、送達作用物質を必要とせずに免疫療法用細胞に取り込まれ、HAVCR2遺伝子の発現が抑制されたことを確認した実験結果も記載されていない。 イ 「独自のアルゴリズム」についての記載からの間接的な理解について (ア)実施例2においては、「独自のアルゴリズム」を用いて分析して、好ましいsdRNAを同定したと記載している(本ス)ので、「独自のアルゴリズム」についての記載を検討する。 (イ)発明の詳細な説明では、「独自のアルゴリズム」について、「HeLa細胞のルシフェラーゼレポーターアッセイにおける500個を超えるsdRNA配列の機能的スクリーニングに基づき設計された」こと、及び、「その回帰分析を使用し、遺伝子抑制アッセイにおいて、sdRNA二本鎖の特異的ヌクレオチドの発生頻度と任意の特定位置での修飾との相関及びその機能性について確立した」ことが記載されている(本ク)。 しかしながら、「sdRNA二本鎖の特異的ヌクレオチドの発生頻度と任意の特定位置での修飾との相関及びその機能性」の具体的な内容は記載されていないから、配列番号363の配列を標的配列とするsdRNAのHAVCR2に対して実際に遺伝子発現抑制の試験をせずとも有効であると理解できる理論が記載されていることにはならない。また、「HeLa細胞のルシフェラーゼレポーターアッセイにおける500個を超えるsdRNA配列の機能的スクリーニング」で具体的にどのようなデータを得て分析対象としたのか、また、回帰分析で具体的にどのようなデータ処理を行ったのか何ら明らかにされていないから、「sdRNA二本鎖の特異的ヌクレオチドの発生頻度と任意の特定位置での修飾との相関及びその機能性」を再現することもできない。そして、明細書段落【0068】(本ク)の記載によれば、そのようにして得た「独自のアルゴリズム」は、それを用いて予測した結果が「40%を超える確率で1μM濃度にて70%を超えるノックダウン」という程度の確率を示すものに過ぎないから、実際に遺伝子発現抑制の試験をせずとも遺伝子発現の抑制を推認できる程度の精度で予測できるものではない。 (ウ)そうすると、「独自のアルゴリズム」についての記載から、そのアルゴリズムにより候補に挙げられたいずれの標的配列であっても、送達作用物質を必要とせずにT細胞等の免疫療法用細胞に取り込まれ、標的遺伝子の発現を抑制することができることを、演繹的に理解できるものとは認められない。 したがって、「独自のアルゴリズム」についての記載を考慮しても、2237ヌクレオチド長にわたるHAVCR2のmRNAにおいて配列番号363という20ヌクレオチド長の配列を標的配列とするsdRNAのHAVCR2に対する有効性を理解できるものではない。 ウ 他の実施例の記載からの間接的な理解について (ア)発明の詳細な説明には、実施例1、3~5、9、10(本シ、本セ~本タ、本ツ、本テ)として、HAVCR2とは別のいくつかの候補標的遺伝子を標的とするsdRNAを用いてそれらの遺伝子の発現を抑制した実験結果が記載されているので、当該記載について検討する。 (イ)実施例1では、標的遺伝子の名称と、そのsdRNA標的配列、及び、遺伝子発現のノックアウトを試験した結果が記載されている。 しかしながら、ここで示される標的遺伝子のうちMAP4K4については、明細書段落【0088】(本セ)の記載から見て、陽性対照であって、免疫抑制に関する遺伝子を標的とするものではないし、GADPH及びPPIBについては、上述の25の候補標的遺伝子に含まれるものではない。そうすると、25の候補標的遺伝子に含まれるものは実施例1の記載の中ではTP53の1つだけであり、当該候補標的遺伝子について、遺伝子発現のノックアウトが確認された標的配列は、配列番号1001の1つに限られる。 そして、上記(2)イで述べた技術常識を踏まえると、この1つの配列の試験例だけでは、実施例2に記載の同定方法により同定した好ましいsdRNAであれば、いずれのものであっても、送達作用物質を必要とせずにT細胞等の免疫療法用細胞に取り込まれ、標的遺伝子の発現を抑制することができるとは、当業者といえども理解できない。 また、GADPH、PPIB、及び、陽性対照のMAP4K4を含めて実施例1に記載されるsdRNA標的配列(配列番号1001~1007)を全て考慮しても、GADPH、PPIB及びMAP4K4の標的配列の同定方法については、発明の詳細な説明には何ら記載されていないから、上述のTP53の例を補足するものではない。仮に、これらの遺伝子に対する標的配列がいずれも実施例2に記載された好ましいsdRNAの同定方法により同定された配列であるとしても、70%以上のノックダウンを示した例が、高々7つあったことを示すにとどまり、結局、上記(2)イで述べた技術常識を踏まえると、同じ方法により同定された標的配列であればいずれのものであっても、送達作用物質を必要とせずにT細胞等の免疫療法用細胞に取り込まれ、標的遺伝子の発現を抑制することができるとまでは、当業者といえども理解できない。 (ウ)実施例3~5、9、10においては、上述の25の候補標的遺伝子のうち3つの遺伝子(実施例5のTP53、実施例9及び10のCTLA-4、PDCD1)に限って、細胞を用いた標的遺伝子のサイレンシング(抑制)試験の結果が記載されている。 しかしながら、試験で用いられた標的配列は明らかにされておらず、各遺伝子について、表1に示された20の標的配列を用いたのか、用いたとしてもどの配列番号を用いたのか、いずれも明らかにされていない。すなわち、まず、実施例5の試験結果である図4(本タ)をみれば、TP53に対するsdRNAとしては、「T190」の1つの系列しか示されておらず(MAP4K4を標的とするsdRNAは陽性対照である)、表1に示された20の標的配列の候補を数的にカバーするものではないことは明らかであるし、当該「T190」の番号「190」は、表1(本ニ)に示される配列番号等と対応するものではないから、当該「T190」がどのような標的配列を有するsdRNAであるのかについても不明である。同様に、実施例9の試験結果である図5(本ツ)をみれば、PDCD1とCTLA-4のそれぞれについて、試験されたsdRNAは5つの系列が見て取れるが、これらも表1に示された20の標的配列の候補を数的にカバーするものではないことは明らかであるし、どのような標的配列を有するsdRNAであるのかについても不明である。また、実施例10の試験結果である図6(本テ)をみれば、PDCD1とCTLA-4のそれぞれについて、試験されたsdRNAは1つの系列にとどまることが見て取れ、表1に示された20の標的配列の候補を数的にカバーするものではないことは明らかであるし、どのような標的配列を有するsdRNAであるのかについても不明である。 また、実施例3、4で用いられているMAP4K4に対するdRNAは、明細書段落【0088】の記載(本セ)からみて陽性対照であるし、実施例3及び4に記載されるGAPDH、並びに、実施例4に記載されるPPIB(本ソ)は、25の候補標的遺伝子に含まれるものではないから、これらはいずれも本願発明と関連性がないことが明らかである。 そして、実施例6~8(本チ)は、いずれも仮想実施例であり、試験結果が示されるものではないし、実施例11(本ト)は、上述の実施例で陽性対照に用いられたMAP4K4に関するものであって、しかも、試験内容はトランスフェクション効率についてのものであるから、実施例6~8及び11は、いずれも、本願発明と関連性がないことが明らかである。 (エ)そうすると、実施例1、3~11の記載から、実施例2に記載の同定方法により同定した好ましいsdRNAであれば、いずれのものであっても、送達作用物質を必要とせずにT細胞等の免疫療法用細胞に取り込まれ、標的遺伝子の発現を抑制することができることを、帰納的に理解できるものとは認められない。 したがって、実施例1、3~11の記載を考慮しても、2237ヌクレオチド長にわたるHAVCR2のmRNAにおいて配列番号363という20ヌクレオチド長の配列を標的配列とするsdRNAのHAVCR2に対する有効性を理解できるものではない。 (4)小括 以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、2237ヌクレオチド長にわたるHAVCR2のmRNAにおいて配列番号363という20ヌクレオチド長の配列を標的配列とするsdRNAが送達作用物質を必要とせずにT細胞等の免疫療法用細胞に取り込まれてHAVCR2遺伝子の発現を抑制することについて、当業者が理解できるように記載されているとはいえない。 よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 2.理由2(実施可能要件)について 上述のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、配列番号363を標的配列とするsdRNAが送達作用物質を必要とせずにT細胞等の免疫療法用細胞に取り込まれてHAVCR2遺伝子の発現を抑制することについて、当業者が理解できるように記載されているとはいえないのであるから、「配列番号363を標的配列とするsdRNA」を含む本願発明について、当業者が、当該sdRNAが「HAVCR2の発現を抑制する」ように使用することができる程度に、明確かつ十分に記載したものとは認められない。 したがって、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 3.請求人の主張について 請求人は、令和5年2月6日提出の手続補正により補正された審判請求書及び令和7年2月27日提出の意見書において、以下の2点を主張する。 (主張1)本願発明のsdRNAは、その構造的特徴で限定されており、配列番号363の標的配列に基づいて設計され、特定の構造的特徴の組み合わせを有している。本願明細書は、実施例等において、sdRNAを設計する方法と、HAVCR2内の標的配列であるところの配列番号363について十分な記述を提供しており、当業者が、過度の試行錯誤をすることなく、本願発明を作成し、使用することができる。 (主張2)審判請求書中において記載した出願後のデータは、配列番号363を標的とするsdRNAが、HAVCR2の発現を抑制するのに効果的であったことを確認している。 しかしながら、主張1については、1.(2)イ(ウ)において述べたとおり、参考文献1から認定した本願の遡及出願日における技術常識は、請求人のいう「特定の構造的特徴」を含めてもなお該当するものである。したがって、sdRNAの化学構造が特定されても、1.(3)で述べたとおり、依然として、配列番号363を標的配列とするsdRNAが送達作用物質を必要とせずにT細胞等の免疫療法用細胞に取り込まれてHAVCR2遺伝子の発現を抑制することについて当業者が理解できることにはならない。 よって、主張1は採用できない。 また、主張2については、上述のとおり、発明の詳細な説明には、配列番号363を標的配列とするsdRNAが、HAVCR2遺伝子を発現を抑制することを示すデータは記載されておらず、本願の遡及出願日当時の技術常識を考慮しても、発明の詳細な説明に記載された内容から、配列番号363を標的配列とするsdRNAが、HAVCR2遺伝子を発現を抑制することが当業者に理解できないことは、1.(3)で述べたとおりである。それにもかかわらず、特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、サポート要件及び実施可能要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。 したがって、請求人が、令和5年2月6日提出の手続補正により補正された審判請求書の中で記載した実験データは、発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足するものとして参酌することはできない。 念のため、当該実験データの内容について検討してみても、「配列番号363を標的とするsdRNA」の化学構造が明らかにされておらず、本願発明に該当するものかどうか不明であり、試験条件については、使用した活性化T細胞の取得方法、及び、sdRNAのトランスフェクトの条件等が不明であって、再現できる程度に記載されていないし、グラフで示されたデータについては、「HAVCR2の相対的なmRNAレベル」を決定してその結果を示した旨が一応記載されるが、グラフの縦軸は、非標的化対照と比較した相対的レベルであるのか、非標的化対照と比較したHAVCR2の相対的なレベルを、さらにsdRNAが添加されていない場合に対する比率として表したものであるのか不明であり、グラフの縦軸の数値を解釈することができないものであるから、配列番号363を標的配列とし所定の化学構造を有するsdRNAがHAVCR2遺伝子を発現を抑制することを裏付けるものとはいえない。したがって、仮に当該実験データの内容を参酌したとしても、本願がサポート要件及び実施可能要件を満たすものと認めることはできない。 よって、主張2についても採用できない。 第6 むすび 以上のとおり、本願は、請求項1に係る発明について、特許法第36条第6項第1号及び同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-020770

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