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特許拒絶査定不服審判

2023-009725

ウッド-ユングダール微生物における遺伝子ノックアウト

審判番号
2023-009725
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-518005
請求日
2023年06月13日
審決日
2025年04月15日
公報発行日
2025年10月31日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ランザテク,インコーポレイテッド
  • 【請求人代理人】小林 浩
  • 【請求人代理人】大森 規雄
審判長/審判官
  • 審判長 中村 浩
  • 審判官 中根 知大
  • 審判官 荒木 英則
分類
P18 .536-Z (C12N) / P18 .537-Z (C12N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-518005「ウッド-ユングダール微生物における遺伝子ノックアウト」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月 4日国際公開、WO2019/068011、令和 2年12月10日特許出願公表、特表2020-535813〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2018年9月28日(パリ条約による優先権主張 2017年9月28日 (US)米国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。 令和4年 5月20日付け 拒絶理由通知書 同 年11月29日 意見書、手続補正書の提出 令和5年 2月 1日付け 拒絶査定 同 年 6月13日 審判請求書、手続補正書の提出 同 年 7月25日 手続補正書(方式)の提出 第2 令和5年6月13日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 令和5年6月13日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、 (補正前)「【請求項1】 非自然発生ウッド-ユングダール細菌であって、異種チオラーゼと、NAD依存性電子分岐[FeFe]-ヒドロゲナーゼ、グルタミン酸シンターゼ、シトラマル酸シンターゼ、アセト乳酸デカルボキシラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、酢酸キナーゼ、リン酸トランスアセチラーゼ、およびアルデヒドデヒドロゲナーゼのうちの1つ以上をコードする1つ以上の遺伝子における妨害的突然変異と、を含み、前記非自然発生細菌が、親細菌と比較して、アセトアセチル-CoAを通じた改善された炭素フラックスを有する、非自然発生ウッド-ユングダール細菌。」 から、 (補正後)「【請求項1】 非自然発生ウッド-ユングダール細菌であって、異種チオラーゼと、NAD依存性電子分岐[FeFe]-ヒドロゲナーゼ、グルタミン酸シンターゼ、シトラマル酸シンターゼ、アセト乳酸デカルボキシラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、酢酸キナーゼ、リン酸トランスアセチラーゼ、およびアルデヒドデヒドロゲナーゼのうちの1つ以上をコードする1つ以上の遺伝子における妨害的突然変異と、を含み、前記非自然発生細菌が、親細菌と比較して、アセトアセチル-CoAを通じた改善された炭素フラックスを有し、前記親細菌は、Clostridium autoethanogenum、Clostridium ljungdahlii、およびClostridium ragsdaleiからなる群から選択される、非自然発生ウッド-ユングダール細菌。」(以下、「本件補正発明」という。) に補正された。(下線部は補正箇所である。) 2.補正の適否 本件補正は、「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」の「親細菌」について、「Clostridium autoethanogenum、Clostridium ljungdahlii、およびClostridium ragsdaleiからなる群から選択される」という選択肢を設け、その中から選択されるように限定することを含むものである。 そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものを含むと認められる。 そこで、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)(以下、「独立特許要件」という。)について、以下で検討する。 3.独立特許要件の検討 (1)特許法第36条第4項第1号(いわゆる実施可能要件)について ア 発明の詳細な説明の記載事項 本件補正発明に関し、発明の詳細な説明及び図面には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。 (ア)「【0004】 本発明は、少なくとも1つの妨害された遺伝子を含む非自然発生微生物を提供する。本発明の微生物では、炭素フラックスは、非不可欠または望ましくない生成物から、関心対象の生成物に戦略的に転用される。ある特定の実施形態において、これらの妨害された遺伝子は、非不可欠または望ましくない代謝ノードから、標的代謝ノードを通じて炭素フラックスを転用して、それらの標的代謝ノードの下流の生成物の生成を改善する。」 (イ)「【0014】 微生物に関して使用されるとき、「非自然発生」という用語は、微生物が、言及される種の野生型株を含む言及される種の自然発生株において見られない少なくとも1つの遺伝子修飾を有することを意味することが意図される。非自然発生微生物は、典型的には、実験室または研究施設で開発される。」 (ウ)「【0037】 本発明の微生物は、機能特性に基づいてさらに分類され得る。例えば、本発明の微生物は、C1固定微生物、嫌気性細菌、アセトゲン、エタノロゲン、カルボキシド栄養生物、および/もしくはメタン資化性菌であり得るか、またはそれらから誘導され得る。表1は、微生物の代表的なリストを提供し、微生物の機能特性を特定する。 【表1-1】 [図:0001427163000001.jpg] 【表1-2】 [図:0001427163000002.jpg] 【0038】 「ウッド-ユングダール」とは、例えばRagsdale,Biochim Biophys Acta,1784:1873-1898,2008に記載の炭素固定のウッド-ユングダール経路を指す。「ウッド-ユングダール微生物」とは、予測されるように、ウッド-ユングダール経路を含有する微生物を指す。本発明の微生物は、ウッド-ユングダール微生物、通常ウッド-ユングダール細菌である。一般に、本発明の微生物は天然のウッド-ユングダール経路を含有する。本明細書において、ウッド-ユングダール経路は、天然の未修飾のウッド-ユングダール経路であり得るか、あるいはCO、CO2、および/またはH2をアセチル-CoAに変換するように依然として機能する限り、ある程度の遺伝子修飾(例えば、過剰発現、異種発現、ノックアウトなど)を有するウッド-ユングダール経路であり得る。」 (エ)「【0072】 本発明の微生物は、少なくとも1つの妨害された遺伝子を含有する。いくつかの実施形態において、本発明の微生物は、2つ以上の妨害された遺伝子、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、75、100、または200の妨害された遺伝子を含有する。例えば、妨害された遺伝子は、表2から選択され得る。C.autoethanogenum、C.ljungdahlii、およびC.ragsdaleiには、代表的な受託番号が提供されているが、当業者であれば、他のウッド-ユングダール微生物の相同体を容易に識別することが可能であろう。 【表2-1】 [図:0001427163000003.jpg] …… 【表2-160】 [図:0001427163000004.jpg] …… 【表2-185】 [図:0001427163000005.jpg] 【表2-186】 [図:0001427163000006.jpg] …… 【表2-252】 [図:0001427163000007.jpg] 【0073】 本発明者らはさらに、ウッド-ユングダール微生物における主要な代謝経路および主要な代謝ノードを特定した(図1)。本発明は、標的代謝ノードを通じて、炭素フラックスを非不可欠または望ましくない代謝ノードから戦略的に転用するように妨害された遺伝子を含む微生物をさらに提供する。そのような株は、それらの標的代謝ノードの下流の生成物の改善された生成を有する。」 (オ)「【0077】 実施例1 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物の代謝モデリングについて記載する。 【0078】 Marcellin、Green Chem、18:3020-3028、2016に記載されているようなClostridium autoethanogenumのゲノム規模の代謝モデルを利用した。このモデルを使用して、妨害的な遺伝子突然変異を含む株の設計、構築、インシリコ増殖、およびスクリーニングをシミュレートして、より高い収率の天然化合物を生成するであろうものを予測した。加えて、多数の非天然化合物生成株用に、新しいゲノム規模のモデルを構築した。これらのために、異種遺伝子および代謝反応を野生型Clostridium autoethanogenumモデル構造に添加して、非天然化合物生成経路の組み込みを示した。本明細書に記載の実験作業に使用されるモデルは、Clostridium autoethanogenumに基づくが、代謝の類似性を考慮すると、結果は、他のウッド-ユングダール微生物にも当てはまると期待することは当然であり得る。 【0079】 各化学生成株には、妨害的な遺伝子突然変異の異なる組み合わせを組み込む数百万の突然変異体株をインシリコで構築した。遺伝子の妨害の際にどの代謝反応が不活性化されたかを決定するために、ブーリアン遺伝子-タンパク質-反応の関連付け(Thiele,Nature Protocols,5:93-121,2010)を使用した。突然変異体株の設計、構築、スクリーニングは、カメオバージョン0.11.2(Sonnenschein,Biosustain/Cameo:0.11.0,doi:10.5281/zenodo.835730,2017)およびinspyred1.0.1版によって実行した進化的アルゴリズムを使用して実行された。 【0080】 これらの突然変異体株の増殖は、2つの制約ベースのコンピューターモデリング技法:フラックスバランス分析(FBA)および代謝調整の線形最小化(LMOMA)を使用してシミュレートされた。これらの増殖シミュレーション技法は、2つの可能性のある代謝表現型、続いて遺伝的摂動を捕捉するために使用される(……)。実験的な代謝フラックスプロファイルを構築し、LMOMAシミュレーションの基準状態として使用した。ソルバーインターフェースとしてoptlangバージョン1.2.3(……)、および最適化ソルバーとしてGurobi Optimizerバージョン7.0.2とともに、cobrapyバージョン0.8.2(……)からのスクリプトを使用して増殖シミュレーションを行った。 【0081】 発酵生成物のものを含む増殖速度および主要な代謝フラックスを記録し、株のスクリーニングに使用した。各株のシミュレーションでは、バイオマスと生成物の結合収率(biomass-product coupled yield)(BPCY)および炭素モル収率を計算した。これらの収率を使用して、適合能スコアを決定した。 【0082】 加えて、突然変異体株が増殖を行うために関心対象の化合物の生成を必要とするかどうか(増殖結合株設計)を決定するために、フラックス変動分析(FVA)を実行した。増殖中に関心対象の化合物の最小境界フラックスがゼロ超の場合、その株は増殖結合として分類した。これらの増殖結合株の設計により、連続発酵中の発酵安定性が向上するはずである。この最小フラックスを炭素収率(FVA最小収率)に変換し、株間の増殖結合のレベルを比較するために使用した。」 (カ)「【0083】 実施例2 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物でのアセテートの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。アセテートは、ウッド-ユングダール微生物の天然生成物である。 【表3-1】 [図:0001427163000008.jpg] …… 【0084】 実施例3 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物でのエタノールの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。エタノールは、ウッド-ユングダール微生物の天然生成物である。 【表4-1】 [図:0001427163000009.jpg] …… 【0085】 実施例4 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物でのアセトンの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。ウッド-ユングダール微生物におけるアセトンの生成は、例えばWO2012/115527に記載されている。次の経路を使用して、本明細書のアセトン生成をモデル化した:2.0アセチル-CoA-->CoA+アセトアセチル-CoA、アセテート+アセトアセチル-CoA-->アセチル-CoA+アセトアセテート、アセトアセテート-->CO2+アセトン、アセトン-->アセトン_ext。 【表5-1】 [図:0001427163000010.jpg] …… 【0086】 実施例5 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物でのイソプロパノールの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。ウッド-ユングダール微生物におけるイソプロパノールの生成は、例えばWO2012/115527に記載されている。次の経路を使用して、本明細書のイソプロパノール生成をモデル化した:2.0アセチル-CoA-->CoA+アセトアセチル-CoA、アセテート+アセトアセチル-CoA-->アセチル-CoA+アセトアセテート、アセトアセテート-->CO2+アセトン、イソプロパノール-->イソプロパノール_ext。 【表6-1】 [図:0001427163000011.jpg] …… 【表6-5】 [図:0001427163000012.jpg] …… 【0087】 実施例6 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物でのラクテートの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。ラクテートは、ウッド-ユングダール微生物の天然生成物である。 【表7-1】 [図:0001427163000013.jpg] …… 【0088】 実施例7 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物での1,3-ブタンジオールの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。ウッド-ユングダール微生物における1,3-ブタンジオールの生成は、例えばWO2017/0066498に記載されている。次の経路を使用して、本明細書の1,3-ブタンジオール生成をモデル化した:2.0アセチル-CoA-->CoA+アセトアセチル-CoA、NADPH+H++アセトアセチル-CoA-->NADP+(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoA、ホスフェート+(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoA-->CoA+(R)-3-ヒドロキシブチリル-ホスフェート、ADP+(R)-3-ヒドロキシブチリル-ホスフェート-->ATP+(R)-3-ヒドロキシブチレート、(R)-3-ヒドロキシブチレート+還元フェレドキシン-->酸化フェレドキシン+(R)-3-ヒドロキシブチルアルデヒド、NADPH+H++(R)-3-ヒドロキシブチルアルデヒド-->NADP+13BDO、NADH+H++(R)-3-ヒドロキシブチルアルデヒド-->NAD+13BDO、13BDO-->13BDO_ext。 【表8-1】 [図:0001427163000014.jpg] …… 【0089】 実施例8 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物での2,3-ブタンジオールの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。2,3-ブタンジオールは、少なくとも一部のウッド-ユングダール微生物の天然生成物である。 【表9-1】 [図:0001427163000015.jpg] …… 【0090】 実施例9 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物での2-ブタノールの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。ウッド-ユングダール微生物における2-ブタノールの生成は、例えばWO2013/185123に記載されている。次の経路を使用して、本明細書の2-ブタノール生成をモデル化した:NADH+H++(R)-アセトイン-->NAD+メソ-2,3-ブタンジオール、メソ-2,3-ブタンジオール-->H2O+MEK、MEK+NADPH+H+-->2-ブタノール+NADP、2-ブタノール-->2-ブタノール_ext。 【表10-1】 [図:0001427163000016.jpg] …… 【0091】 実施例10 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物での2-ヒドロキシイソ酪酸の改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。ウッド-ユングダール微生物における2-ヒドロキシイソ酪酸の生成は、例えばWO2017/0066498に記載されている。 【0092】 次の経路を使用して、以下の行1~40での2-ヒドロキシイソ酪酸生成をモデル化した:2.0アセチル-CoA-->CoA+アセトアセチル-CoA、NADH+H++アセトアセチル-CoA-->NAD+(S)-3-ヒドロキシブチリル-CoA、(S)-3-ヒドロキシブチリル-CoA-->2HIB-CoA、2HIB-CoA+H2O-->2hib+CoA、2hib-->2hib_ext。 【0093】 次の経路を使用して、以下の行41~93での2-ヒドロキシイソ酪酸生成をモデル化した:2.0アセチル-CoA-->CoA+アセトアセチル-CoA、NADH+H++アセトアセチル-CoA-->NAD+(S)-3-ヒドロキシブチリル-CoA、(S)-3-ヒドロキシブチリル-CoA-->2HIB-CoA、2HIB-CoA+ADP+ホスフェート-->2hib+ATP+CoA、2hib-->2hib_ext。 【0094】 次の経路を使用して、以下の行94~103での2-ヒドロキシイソ酪酸生成をモデル化した:2.0アセチル-CoA-->CoA+アセトアセチル-CoA、NADH+H++アセトアセチル-CoA-->NAD+(S)-3-ヒドロキシブチリル-CoA、(S)-3-ヒドロキシブチリル-CoA-->2HIB-CoA、2HIB-CoA+アセテート-->2hib+アセチル-CoA、2hib-->2hib_ext。 【表11-1】 [図:0001427163000017.jpg] …… 【表11-8】 [図:0001427163000018.jpg] 【表11-9】 [図:0001427163000019.jpg] …… 【表11-18】 [図:0001427163000020.jpg] 【表11-19】 [図:0001427163000021.jpg] …… 【0095】 実施例11 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物での3-ヒドロキシブチレートの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。ウッド-ユングダール微生物における3-ヒドロキシブチレートの生成は、例えばWO2017/066498に記載されている。次の経路を使用して、本明細書の3-ヒドロキシブチレート生成をモデル化した:3-ヒドロキシブチレート-->3-ヒドロキシブチレート_ext、アセテート+アセトアセチル-CoA-->アセチル-CoA+アセトアセテート、NADH+H++アセトアセテート-->NAD+3-ヒドロキシブチレート、2.0アセチル-CoA-->CoA+アセトアセチル-CoA。 【表12-1】 [図:0001427163000022.jpg] …… 【表12-8】 [図:0001427163000023.jpg] …… 【0096】 実施例12 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物でのメチルエチルケトン(MEK)、即ち、2-ブタノンの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。ウッド-ユングダール微生物におけるMEKの生成は、例えばWO2012/024522およびWO2013/185123に記載されている。次の経路を使用して、本明細書のメチルエチルケトン生成をモデル化した:NADH+H++(R)-アセトイン-->NAD+メソ-2,3-ブタンジオール、メソ-2,3-ブタンジオール-->H2O+MEK、H++MEK-->H+_ext+MEK_ext。 【表13-1】 [図:0001427163000024.jpg] …… 【0097】 実施例13 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物でのアセトラクテートの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。アセトラクテートは、少なくとも一部のウッド-ユングダール微生物の天然生成物である。 【表14-1】 [図:0001427163000025.jpg] …… 【0098】 実施例14 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物でのイソプレンの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。ウッド-ユングダール微生物におけるイソプレンの生成は、例えばWO2013/180584に記載されている。次の経路が使用して、本明細書のイソプレン生成をモデル化した:2.0アセチル-CoA-->CoA+アセトアセチル-CoA、2.0 NADH+2.0H++(S)-3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA-->2.0NAD+CoA+(R)-メバロネート、ATP+(R)-メバロネート-->ADP+(R)-5-ホスホメバロネート、ATP+(R)-5-ホスホメバロネート-->ADP+(R)-5-ジホスホメバロネート、ATP+(R)-5-ジホスホメバロネート-->ADP+ホスフェート+CO2+イソペンテニルジホスフェート、イソペンテニルジホスフェート-->DMAPP、DMAPP-->PPi+イソプレン、H2O+アセチル-CoA+アセトアセチル-CoA-->CoA+(S)-3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA、ソプレン-->イソプレン_ext。これらの妨害は、IPP/DMAPP、および/またはファルネセンおよび他のテルペノイドなどのIPP/DMAPPの下流生成物の生成を改善するのにも役立つ。 【表15-1】 [図:0001427163000026.jpg] …… 【表15-7】 [図:0001427163000027.jpg] …… 【0099】 実施例15 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物でのアジピン酸の改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。ウッド-ユングダール微生物におけるアジピン酸の生成は、例えばWO2017/0066498に記載されている。次の経路を使用して、本明細書のアジピン酸生成をモデル化した:ATP+CoA+スクシネート-->ADP+ホスフェート+スクシニル-CoA、NAD+CoA+2-オキソグルタレート-->NADH+CO2+スクシニル-CoA、アセチル-CoA+スクシニル-CoA-->CoA+3-オキソ-アジピル-CoA、NADH+H++3-オキソ-アジピル-CoA-->NAD+3-ヒドロキシアジピル-CoA、3-ヒドロキシアジピル-CoA-->2,3-デヒドロアジピル-CoA、NADH+H++2,3-デヒドロアジピル-CoA-->NAD+アジピル-CoA、ホスフェート+アジピル-CoA-->CoA+アジピル-P、ADP+アジピル-P-->ATP+アジペート、アジペート-->アジペート_ext。 【表16-1】 [図:0001427163000028.jpg] …… 【0100】 実施例16 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物での2-アミノベンゾエートの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。ウッド-ユングダール微生物における2-アミノベンゾエートの生成は、例えばWO2016/191625に記載されている。次の経路を使用して、本明細書の2-アミノベンゾエートの生成をモデル化した:NH3+コリスメート=>H2O+ピルベート+H++2-アミノベンゾエート。 【表17-1】 [図:0001427163000029.jpg] …… 【0101】 実施例17 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物でのサリチレートの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。ウッド-ユングダール微生物におけるサリチレートの生成は、例えばWO2016/191625に記載されている。次の経路を使用して、本明細書のサリチレート生成をモデル化した:コリスメート-->イソコリスメート、イソコリスメート-->サリチレート+ピルベート。 【表18】 [図:0001427163000030.jpg] 【0102】 実施例18 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物でのコリスメートの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。ウッド-ユングダール微生物におけるコリスメートの生成は、例えばWO2016/191625に記載されている。コリスメートは、少なくとも一部のウッド-ユングダール微生物の天然生成物である。これらの同じ妨害は、コリスメートのすぐ上流の代謝ノードであるデヒドロシキメートを通じたフラックスを同様に増加させると期待されるであろう。 【表19-1】 [図:0001427163000031.jpg] …… 【0103】 実施例19 本実施例は、ウッド-ユングダール微生物でのファルネセンの改善された生成への妨害について記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。ウッド-ユングダール微生物におけるファルネセンの生成は、例えばWO2013/180584に記載されている。次の経路を使用して、本明細書でファルネセン生成をモデル化した:2.0アセチル-CoA-->CoA+アセトアセチル-CoA、H2O+アセチル-CoA+アセトアセチル-CoA-->CoA+(S)-3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA、2.0NADH+2.0H++(S)-3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA-->2.0NAD+CoA+(R)-メバロネート、ATP+(R)-メバロネート-->ADP+(R)-5-ホスホメバロネート、ATP+(R)-5-ジホスホメバロネート-->ADP+ホスフェート+CO2+イソペンテニルジホスフェート、ATP+(R)-5-ジホスホメバロネート-->ADP+ホスフェート+CO2+イソペンテニルジホスフェート、イソペンテニルジホスフェート-->DMAPP、2.0イソペンテニルジホスフェート+DMAPP-->PPi+トランス,トランス-ファルネシル-ジホスフェート、トランス,トランス-ファルネシルジホスフェート-->ファルネセン+PPi、ファルネセン-->ファルネセン_ext。 【表20-1】 [図:0001427163000032.jpg] 【表20-2】 [図:0001427163000033.jpg] 【表20-3】 [図:0001427163000034.jpg] 【表20-4】 [図:0001427163000035.jpg] …… 【表20-6】 [図:0001427163000036.jpg] …… 【0104】 実施例20 本実施例は、異なる生成物経路にわたり共通の遺伝子妨害標的について記載する。444の経路で進化的アルゴリズムを使用して最適化を実行した。各株設計は、達成された収率(非増殖結合設計)およびバイオマス生成物結合収率(増殖結合設計)に基づいて採点した。各遺伝子は、株設計での出現頻度に基づいてランク付けした。最適化された株の妨害に、19個の遺伝子が共通して同定された。 【表21】 [図:0001427163000037.jpg] 【0105】 実施例21 本実施例は、独立栄養増殖中の標的化合物の生成を増加させる遺伝子妨害標的について説明する。この戦略は、他の発酵副生成物の生成を排除または減少させ、標的化合物を必要な増殖副生成物にすることに関与する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。 【0106】 モデリングは、この戦略が、最小限のATPの負荷での標的化合物の生成に適切であることを実証する。この戦略は、独立栄養増殖中に著しいATP負荷を伴う生成物にはあまり好適ではない。これは、この戦略が、酢酸キナーゼによって触媒された基質レベルのリン酸化を排除することを通じて、細胞のATP収率を減少させるためである。 【0107】 具体的には、アセトン、イソプロパノール、1,3-ブタンジオール、3-ヒドロキシブチレート、2-ヒドロキシイソブチレート、3-ヒドロキシイソバレレート、およびアジピン酸などの生成物の生成は、酢酸キナーゼおよび/またはリン酸トランスアセチラーゼをコードする遺伝子に妨害的突然変異を導入すること、ならびに任意選択的に、アセト乳酸デカルボキシラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、またはシトラマル酸シンターゼをコードする1つ以上の遺伝子に妨害的突然変異をさらに導入すること、によって改善することができる。 【0108】 フラックス変動分析を使用して各モデルを評価して、通常の増殖中に標的化合物に向かう最小必要フラックスを決定した。次いで、提案された一組の妨害的な遺伝子突然変異を各モデルに適用した。化合物生成と増殖との間の結合の存在を特定するために、フラックス変動分析を再度実行した。シミュレーションは、cobrapyバージョン0.13.4を使用して実行した。 【表22】 [図:0001427163000038.jpg] 【0109】 実施例22 本実施例は、必要なアセテートの同時生成を減少させることによって、COの割合が低いガス混合物での独立栄養増殖中の標的化合物生成を増加させることについて記載する。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。 【0110】 この戦略は、NADPHが過剰になるように酸化還元補因子のバランスの調節に関与する。酸化還元の恒常性を維持するために、細胞は、生成経路にNADPHを必要とする生成物を作製する必要がある。アセテート生成はこれを満たさないため、細胞は最大の増殖速度を達成するために他の生成物を作製する必要があるであろう。 【0111】 モデリングは、この戦略が、アセテートの同時生成を必要とするATPの負荷での標的化合物の生成に適切であることを実証する。この戦略は、エタノールを一次生成物として生成する株にも適切である。この戦略は、細胞がヒドロゲナーゼ酵素を利用してフェレドキシンおよびNAD(P)+を還元することができる場合、低COガスで機能すると予測される。場合によっては、この戦略によって細胞のエネルギー代謝の効率が低減されるため、標的化合物の最大可能収率が減少する。 【0112】 具体的には、NAD依存性電子分岐[FeFe]-ヒドロゲナーゼ(例えばHyd)をコードする遺伝子に妨害的突然変異を導入すること、および任意選択的に、グルタミン酸シンターゼ、シトラマル酸シンターゼ、アセト乳酸デカルボキシラーゼ、または乳酸デヒドロゲナーゼをコードする1つ以上の遺伝子に妨害的突然変異をさらに導入することによって、エタノール、アセトン、イソプロパノール、1,3-ブタンジオール、2-ブタノール、2-ヒドロキシイソブチレート、3-ヒドロキシイソバレレート、アジピン酸、メチルエチルケトン、イソプレン、サリチレート、コリスメート、およびファルネセンなどの生成物の生成を改善することができる。 【0113】 フラックス変動分析を使用して各モデルを評価して、高増殖速度でのアセテートへの最小必要フラックスを決定した。次いで、提案された一組の妨害的な遺伝子突然変異を各モデルに適用した。この酵素のノックアウトを表すのに、NAD依存性ヒドロゲナーゼ(Hyd)を化学量論的マトリックスから除外した。この酵素の妨害を表すのに、グルタミン酸シンターゼ反応を通じたフラックスを30%減少させた。フラックス変動分析を再度実行して、最大増殖を達成するために最小アセテート生成要件を決定した。シミュレーションは、cobrapyバージョン0.13.4を使用して実行した。 【表23】 [図:0001427163000039.jpg] 【0114】 実施例23 本実施例は、中央代謝ノードであるアセトアセチル-CoAを通じたフラックスの増加について記載する。このノードを通じてフラックスを増加させると、アセトン、イソプロパノール、3-ヒドロキシイソバレリル-CoA、3-ヒドロキシイソバレレート、イソブチレン、イソペンテニルピロホスフェート(IPP)、ジメチルアリルピロホスフェート(DMAPP)、イソプレン、ファルネセンなどのテルペノイド、3-ヒドロキシブチリル-CoA、クロトニル-CoA、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシブチリルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチリル-CoA、2-ヒドロキシイソブチレート、ブチリル-CoA、ブチレート、ブタノール、カプロエート、ヘキサノール、オクタノエート、オクタノール、1,3-ヘキサンジオール、2-ブテン-1-オール、イソバレリル-CoA、イソバレレート、またはイソアミルアルコールなどの下流生成物の生成が増加するであろう。代謝モデリング実験は、実施例1に記載されるように実施した。 【0115】 ほとんどのウッド-ユングダール微生物は、アセチル-CoAをアセトアセチル-CoAに天然で変換することができないので、このステップでは、チオラーゼなどの異種酵素(即ち、アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ)(EC2.3.1.9)の導入を必要とし得る。チオラーゼは、例えば、Clostridium acetobutylicum(WP_010966157.1)、PhaA from Cupriavidus necator(WP_013956452.1)、BktB from Cupriavidus necator(WP_011615089.1)、AtoB from Escherichia coli(NP_416728.1)からのThlAであり得る。 【0116】 具体的には、アセトアセチル-CoAを通じたフラックスは、NAD依存性電子-分岐[FeFe]-ヒドロゲナーゼ(例えばHyd)、グルタミン酸シンターゼ、シトラマル酸シンターゼ、アセト乳酸デカルボキシラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、酢酸キナーゼ、リン酸トランスアセチラーゼ、またはアルデヒドデヒドロゲナーゼのうちの1つ以上、2つ以上、3つ以上、4つ以上、または5つ以上をコードする1つ以上の遺伝子に妨害的突然変異を導入することによって改善することができる。 【表24】 [図:0001427163000040.jpg] 」 イ 実施可能要件の判断 (ア) 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきものと解される。 この観点で本願明細書の発明の詳細な説明を検討すると、本件補正発明では「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」という微生物の発明であるから、本件補正発明が実施可能要件に適合するためには、本願明細書の発明の詳細な説明に、「Clostridium autoethanogenum、Clostridium ljungdahlii、およびClostridium ragsdaleiからなる群から選択される」「親細菌」において、「異種チオラーゼと、NAD依存性電子分岐[FeFe]-ヒドロゲナーゼ、グルタミン酸シンターゼ、シトラマル酸シンターゼ、アセト乳酸デカルボキシラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、酢酸キナーゼ、リン酸トランスアセチラーゼ、およびアルデヒドデヒドロゲナーゼのうちの1つ以上をコードする1つ以上の遺伝子における妨害的突然変異と、を含」むことで、「親細菌と比較して、アセトアセチル-CoAを通じた改善された炭素フラックスを有」する、本件補正発明の「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」が得られたと、当業者が認識できる記載が必要であるといえる。 (イ) 本願明細書の記載 a 上記(ア)の点を踏まえて本願明細書をみると、実施例(アの(オ)~(カ))に記載されているのは、いずれも突然変異体株のインシリコ構築、モデリング、シミュレーション、及びそれらの演算結果であり、本件補正発明である「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」を実際に作成したことを示す試験結果の記載はない。 そればかりか、どの実施例をみても、以下の(a)~(g)で指摘するように様々な不備が存在するから、いずれの実施例の記載からも、本件補正発明である「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」を実際に作成できることを、当業者が理解できるものではない。 (a) 実施例2~23のうち、本件補正発明の発明特定事項である「異種チオラーゼ」を含むことが明記され、本件補正発明に関連すると理解できるものは、実施例23のみである。 実施例23には、ほとんどのウッド-ユングダール微生物は、アセチル-CoAをアセトアセチル-CoAに天然で変換することができないので、このステップでは、チオラーゼなどの異種酵素(即ち、アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ)(EC2.3.1.9)の導入を必要とし得るとされるところ、実施例1に記載の代謝モデリング実験により、中央代謝ノードであるアセトアセチル-CoAを通じたフラックスの増加に関し、「NAD依存性電子-分岐[FeFe]-ヒドロゲナーゼ(例えばHyd)、グルタミン酸シンターゼ、シトラマル酸シンターゼ、アセト乳酸デカルボキシラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、酢酸キナーゼ、リン酸トランスアセチラーゼ、またはアルデヒドデヒドロゲナーゼのうちの1つ以上、2つ以上、3つ以上、4つ以上、または5つ以上をコードする1つ以上の遺伝子に妨害的突然変異を導入することによって改善することができる。」との記載がみられる。 しかし、上述のとおり、このことを裏付ける試験結果は記載されていない。また、表24には妨害候補となる遺伝子が挙げられているものの、これらの遺伝子の機能を妨害することでアセトアセチル-CoAを通じたフラックスがどの程度増加したのかは、モデリングの結果としてさえ示されておらず、実施例23に記載された「改善」がどのような場合に、どの程度のものであるのかは不明であるため、実施例23は、どのようにすれば「改善された炭素フラックス」が実現し、本件補正発明である「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」が作成でき、所望の物質を効率的に獲得できるかを当業者が理解できるように記載されたものとはいえない。 (b) 実施例4、5、7、10、11、14、19では、その記載の中で特許文献が引用されているところ、その中には異種チオラーゼの親細菌への導入が記載されたものがあり、特に、実施例7、10、11で引用される「WO2017/066498」(原審審査段階での引用文献1に相当)では、異種チオラーゼを有し、アセト乳酸デカルボキシラーゼが欠失しているクロストリジウム・オートエタノゲナムが3-ヒドロキシブチレートを生成することについて記載されているから、実施例7、10及び11も、一応本件補正発明に関連する実施例であると解される。 しかし、同文献には「改善された炭素フラックス」に関する記載がなく(この点は、原審審査官が拒絶理由通知書で指摘した進歩性に関する拒絶理由に対し、請求人が意見書において主張した内容でもある。)、単に遺伝子機能の妨害で「改善された炭素フラックス」が実現された細菌を得られているとは直ちには理解することはできない。また、仮に異種チオラーゼの作用により、3-ヒドロキシブチレートや1,3-ブタンジオールの産生量の点で炭素フラックスに関して何らかの改善が見られたと理解した場合でも、本件補正発明では遺伝子機能の妨害対象としてはアセト乳酸デカルボキシラーゼ以外にも多数のものが列挙されているところ、これらの遺伝子機能の妨害については同文献に記載されていないから、当業者といえども、それらの遺伝子機能の妨害で「改善された炭素フラックス」が実現された細菌を実際に得ることができるとは理解することができない。 そうすると、このような特許文献の記載を本願出願時の技術常識として参酌しても、結局、実際にClostridium autoethanogenum等の親細菌に対し遺伝子を導入又は妨害した細菌を作成して、実際にその機能を逐一確認する必要があるものと認められ、それは当業者に過度の試行錯誤を要するものである。 そして、上記以外の実施例4、5、14、19は「異種チオラーゼ」を含むものではないから、本件補正発明に直接関係するものではないし、それらの実施例と本件補正発明との関係が明らかにされているわけでもないから、それらの実施例からも、結局、本件補正発明に関して、どのように遺伝子の機能を妨害すれば「改善された炭素フラックス」が実現し、本件補正発明である「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」を実際に作成でき、所望の物質を効率的に獲得できるか当業者が理解することはできない。 (c) ウッド-ユングダール微生物での各物質の「改善された生成への妨害」に関するモデリング実験について記載された実施例2~19をみると、実施例1でフラックス変動分析(FVA)を実行した結果に関する最小フラックスに基づき示される炭素収率である「FVA最小収率」が0、すなわち炭素収率の変動が見られないと解されるものが多数含まれる。特に、実施例4~6(表5~7)、実施例14(表15)、実施例16~19(表17~20)では「FVA最小収率」が0のものしか挙げられていないことも踏まえると、具体的にどのように遺伝子の機能を妨害すれば「改善された炭素フラックス」が実現し、本件補正発明である「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」が作成でき、所望の物質を効率的に獲得できるかを当業者が理解できるように記載されたものとはいえない。 (d) 実施例5(表6-5)の「#16」、実施例12(表13-1)の「#1~#2」、実施例19(表20-2~4、6)の「#8~#10、#20、#33」をはじめ、複数の実施例において、「妨害された遺伝子」欄に「0」との記載がある。この欄で他に挙げられた遺伝子の名称と「#妨害された遺伝子」欄に記載された数値を併せて考慮すると、「0」との表記は何らかの遺伝子を示すものと考えられるが、具体的にどのような遺伝子を指すのかが不明であるから、どのように遺伝子の機能を妨害すれば「改善された炭素フラックス」が実現し、本件補正発明である「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」が作成でき、所望の物質を効率的に獲得できるかを当業者が理解できるように記載されたものとはいえない。 (e) 実施例20には「異なる生成物経路にわたり共通の遺伝子妨害標的」に関し「444の経路で進化的アルゴリズムを使用して最適化を実行した」こと、及び、「達成された収率(非増殖結合設計)およびバイオマス生成物結合収率(増殖結合設計)に基づいて採点した」ことが記載されている。 しかし、そもそも「444の経路」がどのような経路であるのかについて説明がないことから、どのように機能を妨害することを意図して最適化を実行したのかが明らかではなく、表21に挙げられた19個の遺伝子についても、「増殖結合スコア」や「非増殖結合スコア」、これらの合計スコアについての説明も特にみられないことを踏まえると、これらのスコアをどのように評価すればよいのかが不明であるから、どのようにすれば「改善された炭素フラックス」が実現し、本件補正発明である「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」が作成でき、所望の物質を効率的に獲得できるかを当業者が理解できるように記載されたものとはいえない。 (f) 実施例21には、実施例1に記載の代謝モデリング実験により、通常の増殖中に標的化合物に向かう最小必要フラックスを決定し、次いで、提案された一組の妨害的な遺伝子突然変異を各モデルに適用して、独立栄養増殖中の標的化合物の生成を増加させる遺伝子妨害標的を検討したことが記載されている。 しかし、「提案された一組の妨害的な遺伝子突然変異」がどのようなものであるかについては記載がなく、そもそもどのような遺伝子妨害を用いた代謝モデリング実験を行ったのかが示されておらず、その結果についてもどのように評価すればよいのかが不明であるから、どのようにすれば「改善された炭素フラックス」が実現し、本件補正発明である「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」が作成でき、所望の物質を効率的に獲得できるかを当業者が理解できるように記載されたものとはいえない。 (g) 実施例22には、実施例1に記載の代謝モデリング実験により、フラックス変動分析を使用して各モデルを評価して、高増殖速度でのアセテートへの最小必要フラックスを決定し、次いで、提案された一組の妨害的な遺伝子突然変異を各モデルに適用したこと、そして、「モデリングは、この戦略が、アセテートの同時生成を必要とするATPの負荷での標的化合物の生成に適切であることを実証する。」との記載がみられる。 しかし、実施例21と同様、そもそもどのような遺伝子妨害を用いた代謝モデリング実験を行ったのかが示されておらず、その結果についてもどのように評価すればよいのかが不明であるため、どのようにすれば「改善された炭素フラックス」が実現し、本件補正発明である「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」が作成でき、所望の物質を効率的に獲得できるかを当業者が理解できるように記載されたものとはいえない。 b 上記aで指摘した内容を踏まえると、実施例の記載全体として、本件補正発明である「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」を作成するに際し、極めて多数の遺伝子群から、導入遺伝子及び妨害対象となる遺伝子に関して候補を一定程度絞り込むことは可能と考えられる。 しかし、aで指摘したように、実施例の記載では候補となる遺伝子に不明な部分があるほか、候補が依然として極めて多数にわたるため、候補となった導入遺伝子を導入し、妨害対象遺伝子を阻害しさえすれば「改善された炭素フラックス」が実現できるとまで理解できず、むしろ、当業者であればさらなるスクリーニングが必要であると理解するというべきである。そして、この状態で本件補正発明である「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」を当業者が作成できたといえるためには、実際にClostridium autoethanogenum等の親細菌に対し遺伝子を導入又は妨害して、実際にその機能を確認する必要があるものと解される。そうすると、依然として当業者に過度の試行錯誤を要するものと考えられる。 c また、本願明細書のうち実施例以外の部分をみると、アの(ア)~(エ)に、「炭素フラックス」、「非自然発生」、微生物の代表的な機能特性に関するリスト、主要な代謝経路及び主要な代謝ノードに関して記載されており、「炭素フラックス」の改善により代謝経路及び代謝ノードを通じて下流の生成物の生成が考えられること、その際の候補となる遺伝子が極めて多数存在することが理解できる。 しかし、挙げられた代謝経路及び代謝ノードは主要なもののみであって、その他の代謝経路や代謝ノードが考慮されておらず、候補遺伝子群が極めて多数であってこれらをどのように絞り込み、組み合わせればよいかが不明であるといった事情を踏まえると、実施例に加えてこれらの記載を考慮しても、依然として本件補正発明である「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」を当業者が作成できたと解することはできない。 d 上記a~cの点を踏まえると、当業者が本件補正発明である「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」を作成できる程度に、本願明細書が明確かつ十分に記載されたものということができない。 (ウ) 技術常識について 原審審査官が拒絶理由通知書で「引用文献3」として引用した、本願出願時における技術常識を表すと考えられる文献である、MARCELLIN, E., et al., Low carbon fuels and commodity chemicals from waste gases - systematic approach to understand energy metabolism in a model acetogen, Green Chem., 2016, Vol.18, pp.3020-3028では、ウッド-ユングダール細菌であるClostridium autoethanogenumに関し、転写、翻訳、メタボロームレベルの代謝をはじめて体系的に記述して、数学的なゲノム規模の代謝モデルを構築したことが記載されている(特に、要旨、3021ページ左欄31~43行)。 一方で、エネルギー代謝は複雑であり、部分的にしか理解されていないこと、モデルにより特定された機能は仮説であり、実際に変異株を作成して確認したことも記載されている(特に、3026ページ左欄1~22行、3026ページ右欄14~23行)。 これらの点を踏まえると、ウッド-ユングダール細菌の変異体が有する機能に関し、モデルを用いて得られた結果はあくまで仮説に過ぎず、実際にウッド-ユングダール細菌の変異体が所定の機能を有するといえるためには、所定の変異を加えた微生物を用いて試験した結果により裏付ける必要があるというのが出願時の技術常識であったといえる。 そうすると、なおさら、所定の変異を加えた微生物を実際に用いた試験結果について何ら記載されない本願明細書では、当業者といえども過度の試行錯誤・実験を伴わずには所定の微生物を得ることが理解できないというべきである。 (エ) まとめ 上記(イ)及び(ウ)で検討したとおり、本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識を参酌しても、本件補正発明を実施するためには当業者に過度の試行錯誤・実験を要するものと認められる。 (オ) 寄託について なお、一般に、微生物に関する発明では、発明特定事項を満足する微生物を寄託することで実施可能要件を満足させることが可能である。しかし、本願において微生物が寄託された事実はないので、寄託により本件補正発明を実施することができるようになったものともいえない。 ウ 小括 以上からすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないので、本件補正発明は、特許法第36条第4項第1号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (2)特許法第36条第6項第1号(いわゆるサポート要件違反)について ア 本願発明の課題 本願明細書の段落0004(上記(1)ア(ア))の記載より、本件補正発明が課題しようとする課題は、「非不可欠または望ましくない代謝ノードから、標的代謝ノードを通じて炭素フラックスを転用して、それらの標的代謝ノードの下流の生成物の生成を改善する」「少なくとも1つの妨害された遺伝子を含む非自然発生微生物」を提供することにあるといえる。 イ 本願明細書の記載 本願明細書には、(1)アで挙げた記載がある。 ウ サポート要件の判断 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識等に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、本願明細書のサポート要件の存在は、本願出願人すなわち審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当である。 この観点で本件補正発明を検討すると、(1)イ(イ)~(ウ)で検討したように、本件明細書の記載によっては、どのように導入遺伝子を導入し、妨害対象遺伝子を阻害すれば「改善された炭素フラックス」が実現し、本件補正発明の「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」を得ることができるのかを、当業者が認識できたと解することができない。また、ウッド-ユングダール細菌の変異体が有する機能に関し、モデルを用いて得られた結果はあくまで仮説に過ぎず、実際に所定の変異を加えた微生物を用いて確認する必要があるというのが出願時の技術常識であったといえる。さらに、微生物の寄託等で本件補正発明を実施できるようになったと判断できる特段の事情もない。 したがって、本件補正発明において、上記アで示した課題を解決できることを、当業者が、本願明細書の記載及び本願の出願時の技術常識から認識できるとは認められない。 エ 小括 以上からすると、本件補正発明は、サポート要件に適合するものではなく、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないので、本件補正発明は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (3)審判請求人の主張 審判請求人は、審判請求時の補正により、非自然発生細菌の親細菌を限定するとともに、意見書及び請求の理由において、実施可能要件及びサポート要件の判断に関し、本願明細書を見ると、段落0108にあるように、フラックス変動分析を使用する、通常の増殖中に標的化合物に向かう最小必要フラックスを決定するための評価について記載されており、また、段落0073にあるように、非不可欠または望ましくない代謝ノードから標的代謝ノードを通じて炭素フラックスを戦略的に転用するための妨害された遺伝子を有するウッド-ユングダール細菌における主要な代謝経路および主要な代謝ノードが示されていることから、標的生成物の収率の増加も測定することが可能であると主張する。 しかし、非自然発生細菌の親細菌が限定されたとしても、上記(1)、(2)で検討したとおり、本件明細書の記載によっては、どのように導入遺伝子を導入し、妨害対象遺伝子を阻害すれば本件補正発明の「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」を得ることができるのかを、当業者が認識できたと解することができず、また、ウッド-ユングダール細菌の変異体が有する機能の確認は、モデルを用いるのみでは一連のプロセスが完了せず、実際に所定の変異を加えた微生物を用いて確認する必要があるというのが出願時の技術常識であったといえる。 したがって、上記主張はいずれも採用できない。 (4)むすび 以上検討したところによると、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 令和5年6月13日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和4年11月29日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の1において、補正前の【請求項1】に記載したとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。 第4 原査定の拒絶理由 本願発明に対する原査定の拒絶の理由4~5の概要は、以下のとおりである。 (理由4)本願は、発明の詳細な説明が、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (理由5)本願は、本願発明が、発明の詳細な説明に記載したものでないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第5 当審の判断 本願発明は、「親細菌」について本件補正発明の選択肢として挙げられた、「Clostridium autoethanogenum、Clostridium ljungdahlii、およびClostridium ragsdaleiからなる群」以外の場合を含む「非自然発生ウッド-ユングダール細菌」に関するものであり、本件補正発明の内容を含むものである。 そうすると、本件補正発明に対する、特許法第36条第4項第1号(いわゆる実施可能要件違反)の拒絶理由、及び特許法第36条第6項第1号(いわゆるサポート要件違反)の拒絶理由は、いずれも本件補正発明を含む本願発明においても妥当する。 第6 むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲が同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-009725

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