2022-020131
調光フィルム
- 審判番号
- 2022-020131
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-029777外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年12月12日
- 審決日
- 2024年06月17日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-WZ (G02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 11項目
1 手続の経緯
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本願は、平成30年2月22日の出願であって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。
同年 5月27日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年 7月25日 :意見書の提出
同年 8月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 9月27日 :原査定の謄本の送達)
2 本願発明
本願の請求項1~3に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は、令和4年12月12日に提出された手続補正書による補正後の請求項1~3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1の記載は、次のとおりのものである。
「透明板に貼着して用いられる調光フィルムであって、上記調光フィルムが、絶縁性および透光性を有する基板と、この基板の片面に形成された一対ないし複数対の線状の電極と、上記基板の上記電極形成面に積層された、高分子(ただし、電圧無印加時に液晶の長軸を概ね一方向に配向させる高分子を除く)および液晶の複合材料からなる液晶層とを備え、上記調光フィルムに電圧を印加することにより、調光フィルムの光の透過率が上昇して、上記透明板を透過する光量が調整されるようになっていることを特徴とする調光フィルム。」
3 当審拒絶理由の概要
令和5年11月13日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、本願発明に対する、次の理由を含むものである。
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.特開2017-3668号公報
2.特開平11-237619号公報
3.特開2017-32837号公報(周知技術を示す文献)
4 当審の判断
(1)引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献1に記載された発明の認定
(ア)当審拒絶理由に引用された特開2017-3668号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審が付した、以下同じ。)。
「【0004】透過-散乱型の動作モードを有する液晶/高分子複合体(Liquid Crystal Polyer Composite)を用いる液晶光学素子は、液晶/高分子複合体が一対の電極付き基板間に挟持され、これらの電極に電圧を印加して液晶の光学特性を変化させる方式であり、高分子分散型液晶素子、あるいは分散液晶とも呼ばれている。従来方式のTN型液晶光学素子等と異なり、透過-散乱型の液晶光学素子は原理的に偏光板を必要としないので、光の吸収損失が少なく、且つ高い散乱特性を有し、素子全体における光の利用効率が高い。この特性を活かして、調光ガラス、光シャッター、レーザー装置および表示装置などに用いられている。」
「【0006】透過-散乱モードの液晶を動かす原動力は電界強度である。この電界強度はセルギャップに反比例するので、同じ強度の電界を印加した時でも、セルギャップが1μmの場合と10μmの場合では電界強度が10倍異なる。セルギャップが異なると、光学特性や、電圧印加-無印加時の応答速度が領域により異なる。従って、一つの素子の中ではセルギャップを一定に保つことが重要となる。しかしながら、基板の大型化が進むにつれてセルギャップを一定に保つことが難しいという問題があった。また、一対の基板として曲面基板を用いる場合には、その曲率を完全に一致させてセルギャップを一定に保つことが難しいという問題があった。なお、上記においては、透過-散乱モードの液晶光学素子における課題について述べたが、電圧の印加・無印加により屈折率等の光学特性が変わって光学変調するモードの液晶光学素子においても同様の課題が生じ得る。」
「【0011】本発明に係る液晶光学素子は、駆動電圧の印加に応じて光学変調を可逆的に制御できる。光学変調は、駆動電圧の印加の有無により光線透過状態と光線散乱状態とを可逆的に制御するモードや、駆動電圧の印加に応じて屈折率等の光学特性を可逆的に制御するモードがある。これらの光学変調は、通常、可視光に対して適用されるが、用途に応じて可視光以外の帯域(以下、他の帯域という)の光線を利用してもよい。以下、本発明を適用した本実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。また、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは異なる。【0012】本実施形態においては、電圧無印加時に光線透過状態、電圧印加時に入射光を散乱する状態となる液晶光学素子の一例について説明する。図1は、本実施形態に係る液晶光学素子の一例を示す要部の模式的説明図である。同図は、電圧無印加時の状態を示している。本実施形態に係る液晶光学素子100は、平板状の第1基板10と第2基板20が所定の間隙を持って対向配置されている。」
「【0014】第1基板10および第2基板20の少なくとも一方は、可視光に対して透明な透光性基板を用いる。第1基板10および第2基板20が共に透光性基板でもよく、用途に応じて他の帯域に透光性を示す基板でもよい。第1基板10および第2基板20には、例えば、透明なガラス基板、ポリエステルフィルム等の樹脂基板、これらの組み合わせからなる基板を用いることができる。第1基板10と第2基板20とを同じ種類の基板で構成する必要はなく、反射基板や半透過のハーフミラー基板などを目的に応じて種々の基板を選択できる。【0015】電界印加手段30は、電気光学機能層1内に電界を生じさせる役割を担う。一対の基板の少なくとも一方の基板面に平行な方向の電気力線を有する電界を生じるものであればよい。本実施形態では第1基板10の主面のうち電気光学機能層1が配される側の面上に、図2の模式的平面図に示すように、電界印加手段30として櫛歯形状の第1電極31および第2電極36が形成されている。」
「【0048】本実施形態に係る液晶光学素子によれば、前記一対の基板の少なくとも一方の基板面に概ね平行な方向の電気力線を含む電界を生じさせる。即ち、横電界を含む電界印加手段を用いているので、電界強度が基板間距離によって影響を受けない。特許文献1、2等の一対の電極付き基板により電界を印加する縦電界を印加する場合、品質の高い液晶光学素子を得るためにはセルギャップにより電界強度が大きく変わるので、セルギャップを一定に保つ必要があった。これに対し、本実施形態によれば、基板間を介して電極を形成する必要がなく、一方の基板に電界印加手段を設けることができるので、厚み方向に対するマージンを大きくとることができる。これにより、比較的厚い、または、面平滑性の充分でない電極付きガラス基板も使用することができ、特に大型の液晶光学素子を生産しやすく好ましい。一方の基板に電極対を形成する場合、フォトリソグラフィー工程、印刷、インプリント等によりパターン形成できるので、基板面積によらずに電極対のパターンを同じように形成できる。」
「【0056】本発明の液晶光学素子は、電圧印加の有無に応じて透過-散乱を制御できるので、液晶光学シャッター、液晶調光装置、透明ディスプレイ等に好適に適用できる。また、電圧印加の有無に応じて光学状態を制御できるので、光学変調素子として用いることができる。また、文字や模様を表示できるショーウィンドウ、各種掲示板、自動車のインストルメントパネル等に利用ができる。」
「図2[図:0001413765000001.jpg]」
「図4[図:0001413765000002.jpg]」
(イ)前記(ア)の記載から認められる技術事項
a 引用文献1の記載に接した当業者は、【0004】及び【0006】の記載より、液晶/高分子複合体が一対の電極付き基板間に挟持され、これらの電極に電圧を印加して液晶の光学特性を変化させる方式である透過-散乱型の動作モードを有する液晶/高分子複合体を用いる液晶光学素子は、透過-散乱モードの液晶を動かす原動力が電界強度であり、この電界強度はセルギャップに反比例するから、セルギャップが異なると、光学特性や、電圧印加-無印加時の応答速度が領域により異なることとなるため、一つの素子の中ではセルギャップを一定に保つことが重要となるところ、基板の大型化や曲面基板を用いる場合には、セルギャップを一定に保つことが難しいという課題があったことを理解できる。
そして、上記当業者は、【0048】の記載より、一対の基板の一方の基板面に概ね平行な方向の電気力線を含む電界を生じさせる、すなわち、横電界を含む電界印加手段を用いることで、電界強度が基板間距離によって影響を受けないので、前記課題が解決されることを理解できる。
したがって、引用文献1の記載に接した当業者は、一対の基板の一方の基板面に概ね平行な方向の電気力線を含む電界(横電界)を生じさせる電界印加手段を用いることで、電界強度が基板間距離によって影響を受けない液晶光学素子が記載されていることを認識できると認められる。
b そして、前記aの当業者は、「一対の基板の一方の基板面に概ね平行な方向の電気力線を含む電界(横電界)を生じさせる電界印加手段」に係る構造として、発明を実施するための形態に記載された電界印加手段30に係る構造が妥当することを当然に認識できるといえる。
(ウ)引用文献1に記載された発明
前記(ア)及び(イ)より、引用文献1には、【0048】に記載された作用を奏する液晶光学素子について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(参考までに引用発明の認定に用いた段落番号等を括弧内に付した。以下同じ。)。
<引用発明>
「一対の基板の一方の基板面に概ね平行な方向の電気力線を含む電界(横電界)を生じさせる電界印加手段を用いることで、電界強度が基板間距離によって影響を受けない液晶光学素子であって、(前記(イ)a)前記電界強度は、透過-散乱モードの液晶を動かす原動力であり、(【0006】)前記一対の基板は、平板状の第1基板10と第2基板20が所定の間隙を持って対向配置されたものであり、(【0012】、前記(イ)b)第1基板10および第2基板20が共に透光性基板であって、(【0014】、前記(イ)b)第1基板10および第2基板20には、ポリエステルフィルム等の樹脂基板を用い、(【0014】、前記(イ)b)第1基板10の主面のうち電気光学機能層1が配される側の面上に、前記電界印加手段として櫛歯形状の第1電極31および第2電極36が形成されており、(【0015】、前記(イ)b)液晶調光装置に適用できる、(【0056】)液晶光学素子。」
イ 引用文献2技術事項の認定
(ア)当審拒絶理由に引用された特開平11-237619号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【0002】【従来の技術】近年、高分子化合物と液晶組成物を非相溶状態に分散させた高分子分散型の液晶パネルが注目されている。高分子分散型パネルは、散乱モードを表示に用いるため、偏光板が不要で高輝度の表示が容易に得られるという特徴がある。(S.Shikamaet.al,Society for information Display’95,Page231-234参照)高分子分散型パネルは、液晶と高分子化合物の屈折率マッチングを利用して表示を行うことを特徴とする。このときの屈折率マッチングの方法により高分子分散型パネルの表示モードは大きく分けて2種類存在する。一つは、電圧無印加で散乱表示、電圧印加で透明表示を行うノーマルモードである(例えば、米国特許第3600060号公報)。他方は、電圧無印加で透明表示、電圧印加で散乱表示を行うリバースモードである(例えば特願平2-309316号公報、特願平3-13268号公報)。これら2種類の表示モードは共に、透明電極を有する一対の基板間に高分子分散型液晶を挟持し、基板間方向に電圧を印加して液晶分子を基板と垂直方向に配列させて光のスイッチングを行うことを特徴としている。」
「【0074】【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。(実施の形態1)図1は実施の形態1に係る高分子分散型液晶パネルが適用される液晶表示装置の全体図であり、図2は高分子分散型液晶パネルの断面図である。尚、図2は一画素に関連した部分を示したものである。先ず、図1を参照して、液晶表示装置は、画素がマトリクス状に配列された高分子分散型液晶表示パネル1に、外部駆動回路2,3が付加されたものである。外部駆動回路2は走査側の駆動回路であり、外部駆動回路3は、信号側の駆動回路である。走査線4に走査信号を印加して薄膜トランジスタ(TFT)5をオン状態とすると、信号線6からの信号電圧が駆動電極7に書き込まれる。これと対向電極8の間の電圧差により基板にほぼ平行な方向の電界が発生し、液晶の駆動が行われる。【0075】前記液晶表示パネル1は、リバースモードの液晶パネルであり、具体的な構造は、図2に示されている。液晶表示パネル1は、上下一対の透明な基板10,11と、基板10,11間に挟持される高分子分散型液晶層12と、各画素に対応して設けられる駆動電極7及び対向電極8とを有する。上基板10及び下基板11としては、例えばガラス基板等が例示される。【0076】前記駆動電極7は、高分子分散型液晶層12を調光駆動するための第1の駆動用電極であり、対向電極8は、高分子分散型液晶層12を調光駆動するための第2の駆動用電極である。これら駆動電極7及び対向電極8は、櫛形電極であり、下基板11の内側表面に形成されている。駆動電極7は、図1及び図3に示すように、複数の櫛歯電極部分7Aと、各櫛歯電極部分7Aを連結する連結電極部分7とを有し、各櫛歯電極部分7Aは相互に平行である。対向電極8も、駆動電極7と同様な構成であり、櫛歯電極部分8Aと連結電極部分8Bを有する。これら駆動電極7と対向電極8とは、櫛歯電極部分7Aと櫛歯電極部分8Aとが噛み合った状態で配置されている。駆動電極7と対向電極8の電界方向の間隔である電極間隔(本実施の形態では、櫛歯電極部分7Aと櫛歯電極部分8Aの間隔に相当)をL(μm)とし、パネルギャップをd(μm)とすると、d>Lの関係を満たしている。尚、駆動電極7及び対向電極8はアルミニウム等から成る不透明電極が用いられている。このような電極構成により、基板に平行に電界(横電界)を印加することができる。の第2の駆動用電極である。これら駆動電極7及び対向電極8は、櫛形電極であり、下基板11の内側表面に形成されている。駆動電極7は、図1及び図3に示すように、複数の櫛歯電極部分7Aと、各櫛歯電極部分7Aを連結する連結電極部分7とを有し、各櫛歯電極部分7Aは相互に平行である。対向電極8も、駆動電極7と同様な構成であり、櫛歯電極部分8Aと連結電極部分8Bを有する。これら駆動電極7と対向電極8とは、櫛歯電極部分7Aと櫛歯電極部分8Aとが噛み合った状態で配置されている。駆動電極7と対向電極8の電界方向の間隔である電極間隔(本実施の形態では、櫛歯電極部分7Aと櫛歯電極部分8Aの間隔に相当)をL(μm)とし、パネルギャップをd(μm)とすると、d>Lの関係を満たしている。尚、駆動電極7及び対向電極8はアルミニウム等から成る不透明電極が用いられている。このような電極構成により、基板に平行に電界(横電界)を印加することができる。【0077】尚、図2においては、2個の櫛歯電極部分7Aと1個の櫛歯電極部分8Aのみしか描いていないが、これは図解の容易を図るためであり、実際は、多数の櫛歯電極部分7A,8Aを有している。」
「【0111】(実施の形態6)図10は本発明の実施の形態6の液晶表示パネルの断面図である。実施の形態1に対応する部分には、同一の参照符号を付す。この実施の形態では、高分子分散型液晶層12Aは、液晶分率が実施の形態1に比べて低く、液晶が液滴状となっており、この液晶滴20が高分子化合物17A中に分散された構造となっている。尚、本実施の形態で用いられる高分子化合物17Aは、上記実施の形態1において用いられる高分子化合物17と異なり、液晶性を有さない高分子化合物である。本実施の形態において、液晶性高分子化合物を用いると、却って散乱を抑えてしまうからである。【0112】また、高分子化合物17Aの重合処理の際に、基板10に平行な方向に電界を印加しつつ重合処理を行ったため、液晶滴20は、基板10に平行な方向に長く、パネルギャップ方向に短い扁平形状となっている。また、液晶滴20内の液晶は、基板10に対してほぼ平行で、且つ基板10に平行な面内ではほぼ同一方向に揃った状態に配列している。尚、液晶18は、誘電率異方性が負のものを用いている。【0113】上記構成によってもまた、リバースモードの高分子分散型液晶パネルを横電界で駆動することができる。」
「【0118】(実施の形態8)上記実施の形態1~7は、リバースモードの液晶パネルであったけれども、本実施の形態8は、ノーマルモードの液晶パネルである点において相違する。【0119】実施の形態8は、基本的にはリバースモードの実施の形態6と類似する。即ち、実施の形態8の高分子分散型液晶層は、液晶滴が高分子化合物中に分散している構造を有している。高分子化合物は、実施の形態6と同様な理由により、液晶性を有さない高分子化合物であり、また、液晶の誘電率異方性が正である。但し、実施の形態6のような重合処理中の電界の印加は行っておらず、通常の重合処理により高分子分散型液晶層を製造したものである。よって、液晶滴は、球体状であり、液晶滴内の液晶は、3次元的にランダムな方位に配列した構造となっている。従って、電圧無印加時には散乱状態となっている。【0120】また、横電界で駆動すると、液晶の配向軸が基板と平行な方向に並ぶため散乱状態が解消されて透明状態が得られる。このようにして、上記構成により、ノーマルモードの高分子分散型液晶パネルを横電界モードで駆動しても散乱状態と透明状態のスイッチングを行うことが可能となる。」
(イ)前記(ア)より、引用文献2には、実施の形態8に係る液晶パネルに関して、次の技術事項(以下「引用文献2技術事項」という。)が記載されていると認められる。
<引用文献2技術事項>
「上下一対の透明な基板10,11と、基板10,11間に挟持される高分子分散型液晶層12Aと、各画素に対応して設けられる駆動電極7及び対向電極8とを有する液晶パネルにおいて、(【0119】、【0111】、【0075】)下基板11の内側表面に、櫛形電極である駆動電極7及び対向電極8が形成されており、このような電極構成により、基板に平行に電界(横電界)を印加することができるものであって、(【0076】)、高分子分散型液晶層は、液晶滴が高分子化合物中に分散している構造を有しており、液晶の誘電率異方性が正であり、液晶滴内の液晶が、3次元的にランダムな方位に配列した構造となっており、従って、電圧無印加時には散乱状態となっており(【0119】)、また、横電界で駆動すると散乱状態が解消されて透明状態が得られるものであり、このようにして、電圧無印加で散乱表示、電圧印加で透明表示を行うモード(【0002】)であるノーマルモードの高分子分散型液晶パネルを横電界モードで駆動して散乱状態と透明状態のスイッチングを行う(【0120】)という技術事項。」
(2)対比並びに一致点及び相違点の認定
ア 本願発明の「透明板に貼着して用いられる調光フィルムであって」との特定事項について
引用発明の「液晶光学素子」は、「液晶調光装置に適用できる」ものであるから、本願発明でいう「調光」する機能を有するといえる。また、引用発明の「液晶光学素子」を構成する「第1基板10および第2基板20」には、「ポリエステルフィルム等の樹脂基板」が「用い」られているから、引用発明の「液晶光学素子」は、本願発明でいう「フィルム」を構成しているといえる。そうすると、引用発明の「液晶光学素子」は、本願発明の「調光フィルム」に相当するといえる。
他方、引用発明の「液晶光学素子」が、本願発明のように「透明板に貼着して用いられる」かは不明である。
イ 本願発明の「上記調光フィルムが、絶縁性および透光性を有する基板と、この基板の片面に形成された一対ないし複数対の線状の電極と、上記基板の上記電極形成面に積層された、高分子(ただし、電圧無印加時に液晶の長軸を概ね一方向に配向させる高分子を除く)および液晶の複合材料からなる液晶層とを備え」との特定事項について
(ア)引用発明の「第1基板10」は、本願発明の「基板」に相当する。そして、当該「第1基板10」は、「ポリエステルフィルム等の樹脂基板を用い」たものであるとともに「透光性基板」であって、ポリエステルが絶縁性を有することは技術常識であるから、本願発明でいう「絶縁性および透光性を有する」ものといえる。
(イ)引用発明の「櫛歯形状の第1電極31および第2電極36」は、本願発明の「一対ないし複数対の線状の電極」に相当する。そして、当該「櫛歯形状の第1電極31および第2電極36」は、「第1基板10の主面のうち電気光学機能層1が配される側の面上に」「形成されて」いるから、本願発明でいう「この基板の片面に形成された」ものといえる。
(ウ)引用発明の「液晶光学素子」は、「液晶」を含むものであるから、「液晶層」を含むことが明らかである。そして、当該「液晶層」が、本願発明でいう「上記基板の上記電極形成面に積層された」ものであることも明らかである。
他方、引用発明の前記「液晶層」は、本願発明のように、「高分子(ただし、電圧無印加時に液晶の長軸を概ね一方向に配向させる高分子を除く)および液晶の複合材料からなる」ものかどうかは不明である。
ウ 本願発明の「上記調光フィルムに電圧を印加することにより、調光フィルムの光の透過率が上昇して、上記透明板を透過する光量が調整されるようになっている」との特定事項について
引用発明は、「透過-散乱モード」を備えることから、本願発明でいう「上記調光フィルムに電圧を印加することにより、調光フィルムの光の透過率が」変化して、「光量が調整される」ものといえる。
しかしながら、引用発明は、液晶光学素子に電圧を印加することにより、液晶光学素子の光の透過率が「上昇」するものであるか不明である。
また、引用発明は、前記アのとおり、「透明板に貼着して用いられる」か不明であることから、「上記透明板を透過する」光量が調整されるようになっているか不明である。
エ 一致点及び相違点の認定
以上より、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「調光フィルムであって、上記調光フィルムが、絶縁性および透光性を有する基板と、この基板の片面に形成された一対ないし複数対の線状の電極と、上記基板の上記電極形成面に積層された液晶層とを備え、上記調光フィルムに電圧を印加することにより、調光フィルムの光透過率が変化して、光量が調整されるようになっている調光フィルム。」
<相違点>
・相違点1
「上記基板の上記電極形成面に積層された液晶層」が、本願発明は、「高分子(ただし、電圧無印加時に液晶の長軸を概ね一方向に配向させる高分子を除く)および液晶の複合材料からなる」のに対し、引用発明は、液晶層を構成する具体的な材料が不明である点。
・相違点2
本願発明は、調光フィルムに電圧を印加することにより、調光フィルムの光の透過率が「上昇」するのに対し、引用発明は、調光フィルムに電圧を印加することにより、調光フィルムの光の透過率が変化するものの、当該透過率が「上昇」するものであるかは不明である点。
・相違点3
「調光フィルム」が、本願発明は、「透明板に貼着して用いられる」ものであって、「上記透明板を透過する」光量が調整されるのに対し、引用発明は、そのような構成を有するか不明である点。
(3)判断
ア 相違点1及び2について
相違点1及び2をまとめて判断する。
(ア)a 引用発明の液晶光学素子は、基板面に概ね平行な方向の電気力線を含む電界(横電界)を生じさせる電界印加手段を用いることによって、透過-散乱モードの液晶を動かす原動力である電界強度が基板間距離の影響を受けないというメカニズムを備えるものであるところ、このメカニズムは透過-散乱モードの液晶の具体的構造に依存しないことが明らかである。
そうすると、引用発明に接した当業者は、横電界による駆動を行うことにより透過-散乱モードの液晶を動かす構造のものであれば、これを、引用発明に当然存在する液晶層及びその駆動を行うための構造として用いることが可能であることを認識できるといえる。また、このことは、引用文献1に「以下、本発明を適用した本実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。」(【0011】)と記載されており、この記載からは、引用文献1に記載された具体的な実施形態がその一例にすぎないと解されることからも首肯できる。
b ところで、液晶調光装置における透過-散乱モードの液晶の液晶層及びその駆動を行うための構造として、液晶表示装置等の他の装置に利用されている構造を転用することは、液晶調光装置の技術分野において、普通に行われていることであると認められる。すなわち、例えば、引用文献1の【0004】(特に、「この特性を活かして、調光ガラス、光シャッター、レーザー装置および表示装置などに用いられている。」との記載。)、及び当審拒絶理由に引用された特開2017-32837号公報(以下「引用文献3」という。)の【0004】(特に、「電子ブラインド等に利用される調光材においても、液晶表示装置と同様に、IPS方式により液晶を駆動することにより、視野角特性を向上することができ、さらには構成を簡略化することができると考えられる。すなわちこの場合、液晶表示装置における各画素の電極配置を、調光材の全面に拡大して適用してIPS方式により液晶を駆動できると考えられる。」との記載。)からみて、このように認められる。
c そして、引用文献2技術事項は、前記(1)イで認定したとおりのものであるところ、その内容からみて、「液晶パネル」に利用されている透過-散乱モードの液晶の液晶層を用い、その駆動を行うための構造として横電界での駆動を用いるものであるといえる。
d このように、引用発明に接した当業者は、横電界による駆動を行うことにより透過-散乱モードの液晶を動かす構造のものであれば、これを、引用発明に当然存在する液晶層及びその駆動を行うための構造として用いることが可能であると認識できるところ、液晶調光装置における透過-散乱モードの液晶の液晶層及びその駆動を行うための構造として、液晶表示装置等の他の装置に利用されている構造を転用することが普通に行われていることにも照らせば、上記当業者は、引用発明における横電界による駆動を行うことにより透過-散乱モードの液晶を動かす構造として、引用文献2に記載された「液晶パネル」に利用されている透過-散乱モードの液晶の液晶層を用い、その駆動を行うための構造として横電界での駆動を用いるもの(引用文献2技術事項)を適用することを、適宜なし得るといえる。
(イ)前記(ア)のとおりに構成した結果、引用発明の液晶層は、引用文献2技術事項に係るところの液晶滴が高分子化合物中に分散し、液晶滴内の液晶が、3次元的にランダムな方位に配列した構造を有する高分子分散型液晶層となるものであって、電圧無印加時には散乱状態となり、横電界で駆動すると散乱状態が解消されて透明状態が得られるものとなる、つまり、当業者は、相違点1及び2に係る本願発明の構成に至ったことになる。
(ウ)したがって、引用発明に引用文献2技術事項を適用して、相違点1及び2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜になし得たことである。
イ 相違点3について
液晶調光装置を、窓のような透明板に貼着して用いられ、透明板を透過する光量を調整する調光フィルムとして用いることは、例えば、引用文献3(【0002】)にみられるように、周知技術である。
そして、引用発明は「液晶調光装置に適用できる」ものであるから、上記周知技術に鑑み、透明板に貼着して用い、当該透明板を透過する光量が調整されるようにして、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
ウ 総合検討
これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということもできない。
エ 審判請求人の主張について
審判請求人は、当業者であれば、引用文献1に記載された発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用することを想起しない旨主張し、その根拠として、(i)引用文献1に記載された発明の技術的特徴(以下「請求人主張技術的特徴」という。)は、引用文献1の記載及び公知技術に照らせば、「電気光学機能層が、正の誘電率異方性を有し液晶性を示す液晶化合物の配向を規制する配向規制材とを含む」ことであること、(ii)上記の適用によって、請求人主張技術的特徴が変更されてしまうのであり、そうである以上、引用文献1の記載から出発した当業者が、引用文献2に記載された技術的事項を適用するという示唆等を得ることはなく、むしろ、そのような適用には阻害要因があること、を挙げる。
しかしながら、引用文献1に記載された発明において変更され得ない構成があるとしても、それは、引用文献1に記載された【発明が解決しようとする課題】の記載を踏まえて理解するのが相当であるところ、請求人主張技術的特徴は、その記載を踏まえて特定されたものではないし、その特定の仕方も、【課題を解決するための手段】の欄に記載された事項から、引用文献2に記載された公知の技術を単純に差し引くことによって得られたものであって、もとより失当である。
そして、引用文献1に記載された発明の課題は、前記(1)ア(イ)aの説示のとおり、透過-散乱モードの液晶を動かす原動力が電界強度である場合、この電界強度はセルギャップに反比例するが、一つの素子の中ではセルギャップを一定に保つことが難しいということにある。そうすると、その課題解決手段の本質は、電界強度をセルギャップに依存させないようにすることにあるのであり、そうである以上、上記箇所で説示したとおり、一対の基板の一方の基板面に概ね平行な方向の電気力線を含む電界を生じさせる、すなわち、横電界を含む電界印加手段を用いることで、電界強度が基板間距離によって影響を受けないので、前記課題が解決されることにあるというべきである。引用発明は、引用文献1に記載された技術的事項をこのように解して認定したものであって、これに引用文献2技術事項を適用することによって、その課題解決手段が変更されることはない。
したがって、審判請求人が主張する請求人主張技術的特徴は失当であり、また、それを前提とするその余の主張も失当である。
オ 小括
よって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-020131