特許拒絶査定不服審判
2022-020096
非アルコール性脂肪肝疾患の予防または治療のための医薬組成物
- 審判番号
- 2022-020096
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-178501外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年12月12日
- 審決日
- 2025年01月16日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .121-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第44条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-178501「非アルコール性脂肪肝疾患の予防または治療のための医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 2月 9日出願公開、特開2022- 25114〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 出願分割の経緯
本願は、2013年(平成25年)3月8日(パリ条約による優先権主張 2012年3月9日 (KR)韓国)を国際出願日とする特願2014-560859号を最先の出願とし、その一部を特許法第44条第1項の規定に基づく新たな特許出願(特願2017-173062号、出願日:平成29年9月8日)とし、さらにその一部を特許法第44条第1項の規定に基づく新たな特許出願(特願2019-177304号、出願日:令和1年9月27日)とし、さらにその一部を特許法44条第1項の規定に基づく新たな特許出願(特願2021-178501号、出願日:令和3年11月1日)としたものである。
2 本願手続の経緯
本願手続の経緯の概略は以下のとおりである。
令和4年 3月 8日 手続補正書の提出
同年 4月 5日付け 拒絶理由通知書
同年 7月 8日 手続補正書・意見書の提出
同年 8月 5日付け 拒絶査定・補正の却下の決定
同年12月12日 審判請求書・手続補正書の提出
令和5年 1月17日 手続補正書(方式)の提出
(審判請求書の「請求の理由」の内容を補正するもの)
同年 3月14日付け 前置報告書
同年 6月15日 上申書の提出
令和6年 6月14日付け 拒絶理由通知書(当審)
同年11月 5日 手続補正書・意見書の提出
第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、令和6年11月5日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
インスリン分泌ペプチドが免疫グロブリンFc領域と非ペプチジル重合体により共有的に連結されるインスリン分泌ペプチド薬物結合体を有効成分として含む非アルコール性脂肪肝疾患の予防または治療のための医薬組成物であって、
前記インスリン分泌ペプチドが、エキセンジン-4のN末端ヒスチジン残基のα炭素およびα炭素に結合されたN末端アミノ基を除去したエキセンジン-4誘導体であり、
前記非ペプチジル重合体が、ポリエチレングリコールであり、
前記非ペプチジル重合体がインスリン分泌ペプチドの27位のリシン残基に連結され、
前記免疫グロブリンFc領域がヒト非グリコシル化IgG4 Fc領域であり、
非アルコール性脂肪肝疾患が、単純性脂肪肝疾患、肝線維症および肝硬変からなる群から選択される、糖尿病を示さない肥満患者における非アルコール性脂肪肝疾患であり、
前記インスリン分泌ペプチド薬物結合体が、肝臓の中性脂肪の蓄積を防止し、脂肪分解(Lipolysis)に関与する酵素の活性を調節するPKC-ζ(Protein kinase C-ζ)の活性を増加させ、および脂肪分解に関与するGlut2(グルコース輸送タンパク質2)の発現を増加させる、医薬組成物。」
第3 当審拒絶理由
当審において令和6年6月14日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうちの理由2(進歩性)は、以下の理由を含むものである。
本願の請求項1~15に係る発明は、引用文献7に記載された発明及び引用文献2~3、5、7~9の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(当審注:上記請求項1~15に係る発明は、令和4年12月12日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定されるものである。そして、本願発明は、上記請求項1に係る発明にさらに、上記請求項9、13~15に記載された事項を特定したものである。)
<引用文献一覧>
2. 特表2010-515677号公報
3. 日本臨牀 (2011)vol.69, no.5, p.853-858(周知技術を示す文献)
5.Hepatology (2010) vol.51, issue 5,p.1584-1592(周知技術を示す文献)
7.PLoS ONE (2012) vol.7, issue 2, e31394
8.肝臓 (2009) vol.50, no.9, p.532-539
9.名古屋女子大学紀要 (1986) vol.32, p.69-77
第4 引用文献に記載された事項及び引用発明
1 引用文献7の記載事項及び引用発明
(1)引用文献7に記載された事項
引用文献7には、以下の事項が記載されている。なお、引用文献7は外国語の文献であるため、記載事項は、当審合議体による翻訳文を記載する。
ア 第1頁の表題及び概要欄の第1~5行
「エキセンジン-4は、高脂肪食誘発性肥満C57BL/6JマウスのSirt1発現を増加させることにより脂肪性肝炎を改善する
概要
脂肪肝を軽減するメカニズムとして、エキセンジン-4のSirt1発現に対する効果は、これまで報告されていない。そこで、高脂肪(HF)食誘発肥満C57BL/6Jマウス及び関連する細胞培養モデルにおいて、エキセンジン-4投与による脂肪肝に対する有益な効果が、Sirt1を介して介在するかどうかを検討した。エキセンジン-4投与は、HF誘発肥満C57BL/6Jマウスの体重、血清遊離脂肪酸(FA)及びトリグリセリドレベルを減少させた。組織学的解析により、エキセンジン-4はHF誘発肝脂質蓄積と炎症を逆転させたことが示された。」
イ 第2頁左欄第11~31行
「動物
6週齢のC57BL/6Jマウスを…から入手し、12時間の明暗サイクルを持つ標準的な条件下で繁殖させた。…マウスを以下の3群(n=10/群)に無作為に分けた:低脂肪食群(コントロール、脂肪 10 kcal%、タンパク質 20 kcal%、炭水化物 70 kcal%);HF食群(HF、脂肪 45 kcal%、タンパク質 20 kcal%、炭水化物 35 kcal%);HF食+1 nmol/kg/日エキセンジン-4(…)腹腔内(IP)注射投与群。先の食餌療法において、10週間にわたって、エキセンジン-4が1日おきに注射され、他の2群には生理食塩水が1日おきに注射された。マウスは、特定の食餌と水を自由に摂取することができた。全ての実験において、体重と食物摂取量が1週間に2回確認された。11週目に、一晩絶食させた後、動物は犠牲にされ、肝臓組織が摘出され、直ちに液体窒素で凍結され、RNA及びタンパク質抽出まで-80℃で保存された。」
ウ 第2頁右欄第42~54行
「組織学的解析
麻酔後、肝臓組織が動物から取り出され、10%中性緩衝ホルマリンで固定され、パラフィンに包埋された。その後、パラフィンブロックはミクロトームで5μm厚の切片に切断された。脱パラフィン及び脱水の後、5μm厚の切片はヘマトキシリン(…)及びエオシン(…)で染色された。組織学的スライドは、光学顕微鏡(倍率、6200)により検査された。脂肪症、炎症及び肝細胞損傷を含む組織学的特徴は、2人の病理学者によって組織学的に等級付けされた[14]。肝トリグリセリドが凍結組織から抽出され、酵素アッセイ(…)で測定された。TGの値は、タンパク質濃度で正規化された。」
エ 第4頁右欄第11~24行
「加えて、HF群で低下した、肝臓におけるグルコール代謝に関連するタンパク質であるリン酸化-Foxo1及びGLUT2の発現は、エキセンジン-4投与で増加した(図3C)
エキセンジン-4投与による肝脂肪蓄積への影響
図4A-Cに示すように、脂質の肝蓄積はコントロール群に比べHF群で有意に高く、エキセンジン-4投与により減少した。また、H&E染色に基づく脂肪変性、バルーン及び小葉炎症の平均スコアは、HF群と比較してエキセンジン-4投与群で有意に低下した(図4D)。また、HF群では肝TG濃度がコントロール群と比較して劇的に上昇したが、エキセンジン-4投与群では減少した(図4E)。」
(当審合議体注:第6頁の図4には「図4D」及び「図4E」が記載されていないため、「脂質の肝蓄積」を示す図は「図4A」、「脂肪変性、バルーン及び小葉炎症の平均スコア」を示す図は「図4B」、「肝TG濃度」を示す図は「図4C」(下記オ)であると解釈した。)
オ 図4C
「
[図:0001423834000001.jpg]
」
カ 図4の説明部分
「図4. コントロール(低脂肪)、HF、HF+エキセンジン-4食事療法を10週間与えたマウスの病理組織像。切片はH&Eで染色した。矢印は脂肪滴を示す。(A-C)コントロール、HF及びHF+Ex-4をそれぞれ与えたマウスの肝臓切片。(倍率×200)。スケールバー=500μm。(D)NAFLD 活性スコアは半定量的に評価した:脂肪症(0-3)、小葉炎症(0-2)、肝細胞バルーン化(0-2)。N.D.、検出されず(E)肝トリグリセリドは凍結組織から抽出し、酵素アッセイで測定された。TGの値はタンパク質濃度で正規化された。コントロールと比較して* p<0.05, ** p<0.01、HFと比較して# p<0.05, ## p<0.01。」
(2)引用文献7に記載された発明
ア 上記(1)ア及びイより、「HF」は、「高脂肪」の略語で、上記(1)エの「HF群」及び「コントロール群」はそれぞれ、「高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウス」及び「低脂肪食」を摂取した「C57BL/6Jマウス」である。また、上記(1)ア及びウより、「TG」は、「トリグリセリド」の略語である。
イ 上記(1)アには、エキセンジン-4が、高脂肪食誘発性肥満C57BL/6Jマウスの脂肪性肝炎を改善することについて、エキセンジン-4投与は、高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウスの体重、血清遊離脂肪酸(FA)及びトリグリセリドレベルを減少させること、組織学的解析により、エキセンジン-4は高脂肪食誘発肝脂質蓄積と炎症を逆転させたことが記載されている。
ウ 上記イを裏付ける動物実験について、
上記(1)イには、
(i)6週齢のC57BL/6Jマウスを、「低脂肪食群(コントロール群)」、「高脂肪食群(HF食群)」、及び「高脂肪食(HF食)+エキセンジン-4の腹腔内(IP)注射投与群」の3群に分けたこと、
(ii)10週間にわたって、「低脂肪食群(コントロール群)」及び「高脂肪食群(HF食群)」のマウスには生理食塩水が1日おきに注射され、「高脂肪食+エキセンジン-4の腹腔内(IP)注射投与群」のマウスには、エキセンジン-4が1日おきに注射され、11週目にこれらのマウスから肝臓組織が摘出されたことが記載されており、
上記(1)ウには、
(iii)上記(ii)で摘出された肝臓組織から肝トリグリセリドの値が測定されて、タンパク質濃度で正規化されたことが記載されており、
さらに、上記(1)エには、
(iv)脂質の肝蓄積は、「低脂肪食群(コントロール群)」に比べ「高脂肪食群(HF食群)で有意に高く、エキセンジン-4投与により減少したこと、そして、肝トリグリセリド濃度(肝TG濃度)は、「高脂肪食群(HF食群)」では、「低脂肪食群(コントロール群)」と比較して劇的に上昇したが、「高脂肪食(HF食)+エキセンジン-4の腹腔内(IP)注射投与群」(エキセンジン-4投与群)では、減少したこと(上記(1)オの「図4C」を参照。)が記載されている。
エ そうすると、引用文献7には、次の発明が記載されているといえる。
「エキセンジン-4を含む組成物であって、高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウスは、低脂肪食を摂取したC57BL/6Jマウスに比べて脂質の肝蓄積が有意に高く、
前記エキセンジン-4は、高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウスに投与すると、脂質の肝蓄積の上昇を減少させるとともに、タンパク質濃度で正規化された肝トリグリセリドの値の上昇を減少させる、前記組成物。」(以下「引用発明」という。)。
2 引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(1)特許請求の範囲
「【請求項1】
インスリン分泌ペプチドと免疫グロブリンFc領域とが、ポリエチレングリコール、…よりなる群から選ばれる非ペプチド性重合体によって互いに連結され、前記インスリン分泌ペプチドのN末端以外のアミノ酸残基に前記非ペプチド性重合体が結合されたことを特徴とする、インスリン分泌ペプチド結合体。
【請求項2】
前記インスリン分泌ペプチドは、…、エキセンディン-4、…、これらの誘導体(derivative)、…よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載のインスリン分泌ペプチド結合体。
・・・
【請求項4】
前記誘導体は、天然型インスリン分泌ペプチドのアルファカーボンおよびN末端アミン基が除去されたペプチド、これらの断片およびこれらの変異体よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項2に記載のインスリン分泌ペプチド結合体。
【請求項5】
N末端アミン基の置換、除去または変更によって製造されたエキセンディン-4誘導体と免疫グロブリンFc領域とが、ポリエチレングリコール、…よりなる群から選ばれる非ペプチド性重合体によって互いに連結され、天然型エキセンディン-4結合体より血糖低下効果および生体内持続性が向上したことを特徴とする、インスリン分泌ペプチド結合体。
【請求項6】
前記エキセンディン-4誘導体は、…、インスリン分泌ペプチドのうちエキセンディン-4の一番目のアミノ酸(ヒスチジン)のアルファ炭素を除去したエキセンディン-4誘導体、…よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項5に記載のインスリン分泌ペプチド結合体。
・・・
【請求項11】
エキセンディン-4のN末端ヒスチジン残基のアルファ炭素およびアルファ炭素に結合されたN末端アミン基が除去されたエキセンディン-4誘導体と免疫グロブリンFc領域とが、ポリエチレングリコール、…よりなる群から選択される非ペプチド性重合体によって互いに連結され、天然型エキセンディン-4結合体より血糖低下効果および生体内持続性が向上したことを特徴とする、インスリン分泌ペプチド結合体。
・・・
【請求項15】
免疫グロブリンFc領域が脱糖化(deglycosylated)されることを特徴とする、請求項1に記載のインスリン分泌ペプチド結合体。
・・・
【請求項18】
免疫グロブリンFc領域が、IgG、IgA、IgD、IgEおよびIgMよりなる群から選ばれる免疫グロブリン由来のFc領域であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のインスリン分泌ペプチド結合体。
・・・
【請求項21】
免疫グロブリンFc領域がIgG4 Fc領域であることを特徴とする、請求項18に記載のインスリン分泌ペプチド結合体。
【請求項22】
免疫グロブリンFc領域がヒト脱糖化IgG4 Fc領域であることを特徴とする、請求項21に記載のインスリン分泌ペプチド結合体。
・・・
【請求項33】
請求項1~32のいずれか1項のタンパク質結合体を含む、糖尿、肥満、急性冠症候群または多嚢胞性卵巣症候群治療用薬学的組成物。」
(2)【0001】
「本発明は、インスリン分泌ペプチドの持続型剤形のためのインスリン分泌ペプチド結合体に関する。具体的には、本発明は、インスリン分泌ペプチドを非ペプチド性重合体および免疫グロブリンFc領域と共有結合によって相互連結させることにより、生体内持続効能をより画期的に増加させた、変形されたインスリン分泌ペプチド結合体およびその製造方法に関する。」
(3)【0004】
「これらの変形体以外に、アメリカドクトカゲ(glia monster)の唾液腺から精製されたGLP-1類似体エキセンディン(exendin)-4(米国特許第5,424,686号)は、DPP IVに対する抵抗性と共に、GLP-1に比べて高い生理活性を有する。よって、体内半減期が2~4時間であってGLP-1に比べて長くなった。ところが、DPP IVの抵抗性を増加させる方法のみでは、十分な生理活性の持続時間を期待することができない。例えば、現在市販されているエキセディン-4(exenatide)の場合、患者に1日2回注射によって投与されなければならないが、これは依然として患者に大きい負担となっている。
このようなインスリン分泌ペプチドの問題点は、ペプチドの大きさが小さいため、腎臓から回収されず、体外に消失されることである。よって、腎臓における消失を抑制するために、ポリエチレングリコール(PEG)などの溶解度の高い高分子物質をペプチドの表面に化学的に付加させる方法が使用されてきた。」
(4)【0009】
「そこで、本発明者らは、インスリン分泌ペプチドの血中半減期の増加および生体内活性の維持を同時に極大化することが可能な方法として、免疫グロブリンFc領域、非ペプチド性重合体およびインスリン分泌ペプチドを共有結合によってN-末端以外のアミノ酸残基に部位選択的に相互連結させることにより、生体内効力持続効果が画期的に増加することを確認した。特に、本発明者らはインスリン分泌ペプチド結合体のうち、たとえばエキセンディン-4、…、およびエキセンディン-4の1番目のアミノ酸であるヒスチジンのアルファ炭素およびこれに結合したN末端アミン基を除去したイミダゾ-アセチル-エキセンディン-4(imidazo-acetyl-exendin-4)のようなペプチド結合体の生体内効力持続効果が画期的に増加することを見出し、本発明を完成した。」
(5)【0019】
「N末端カップリングの場合とは異なり、PEGがN末端を除いたリシン残基にカップリングされると、インビトロ活性が約8.5%程度維持されることを確認することができた(表1)。また、…、そしてエキセンディン-4の1番目のアミノ酸であるヒスチジンのアルファ炭素およびこれに結合したN-末端アミン基を除去したイミダゾアセチル-エキセンディン-4(imidazoacetyl-exendin-4、以下「CA-エキセンディン-4」とも称する)の免疫グロブリンFc結合体が、天然型エキセンディン-4結合体に比較的類似したインビトロ活性および血中半減期を示したが(表1)、このような免疫グロブリンFc結合体は、インビボ効力試験では予測できなかった著しい持続性効果を示した(図14)。したがって、本発明で製造した…、CAエキセンディン-4-免疫グロブリンFc結合体、…の血中半減期は50時間以上画期的に増加した。ペプチドの活性に影響を与えないリシン残基にカップリングさせて力価の減少を最小化した。また、N末端のアミン基およびアルファカーボンの除去により、予測できなかった血中グルコース濃度減少活性の向上を示すことを確認した。」
(6)【0025】
「本発明において、「糖鎖の除去」はFc領域から酵素で糖成分を除去することを意味し、「脱糖化」はFc領域を、糖化されていない形態で原核動物、好ましくは大腸菌から生産することを意味する。…」
(7)【0027】
「すなわち、最も好ましい本発明の薬物キャリア用免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4由来の脱糖化Fc領域である。ヒト由来のFc領域はヒト生体内で抗原として作用し、これに対する新しい抗体を生成するなどの不適な免疫反応を引き起こすおそれのある非ヒト由来のFc領域に比べて好ましい。
…
本発明に使用可能な非ペプチド性重合体は、ポリエチレングリコール、…よりなる群から選択でき、好ましくはポリエチレングリコールである。…」
(8)【0043】
「実施例6.イミダゾ-アセチルエキセンディン-4(Lys27)-免疫グロブリンFc結合体の製造(当審注:下線は原文のまま。)イミダゾ-アセチルエキセンディン-4(CAエキセンディン-4、AP、米国)を用いて、実施例4と同一の方法で、3.4K PropionALD(2)PEGをCAエキセンディン-4のLysと反応させた後、2つのLys異性体ピークのうち、反応が多くN末端の異性体とは完全に区分される最も後方の異性体ピーク(Lys27位置異性体)を用いてカップリングを行った。反応はペプチドと免疫グロブリンFcのモル比を1:8、全体タンパク質濃度を60mg/mLにして、4℃で20時間行った。反応は100mM K-P(pH6.0)内で行い、還元剤として20mM SCBを添加した。カップリング反応の後、16mLのSOURCE Qと16mLのSOURCE ISOを用いた2段階の精製方法は、実施例2と同様である。HPLC逆相分析の結果、純度は95.8%を示した(図5)。」
(9)【0051】
「実施例14.持続型エキセンディン-4のインビトロ活性の測定(当審注:下線は原文のまま。)
エキセンディン-4持続型製剤の効力を測定する方法として、インビトロ細胞の活性を測定する方法を用いた。通常、GLP-1のインビトロ活性は、インスリノーマ細胞またはランゲルハンス島(islet of Langerhans)を分離してGLP-1処理による細胞内のcAMP増加有無を確認することにより測定される。
本発明で使用されたインビトロ活性測定方法は、RIN-m5F(ATCC.)であり、この細胞はラットのインスリノーマ細胞として知られており、GLP-1受容体を持っているため、GLP-1系統のインビトロ活性を測定する方法として多く用いられている。RIN-m5FにGLP-1、エキセンディン-4および試験物質を濃度別に処理して、試験物質による細胞内の信号伝達物質であるcAMPの発生度合いによるEC50値を測定し、比較する試験で行った。比較する試験で行った。その結果は表1にまとめた。」
(10)【0052】
「【表1】
[図:0001423834000002.jpg]
」
(11)【0053】
「…
CAエキセンディン-4(Lys27)-PEG-Fc:イミダゾ-アセチルエキセンディン-4の27番目のリシン残基とFc領域とがPEGで連結された結合体…」
(12)【0054】
「実施例15.持続型エキセンディン-4のインビボ効力試験(当審注:下線は原文のまま。)
エキセンディン-4持続型製剤のインビボ効力を測定するために、糖尿モデルマウスとしてのdb/dbマウスを用いて血糖の減少を確認した。約6~7週齢の糖尿モデルマウスを試料制限していない状態で2週間持続型製剤を100mcg/kgで1回投与し、天然型エキセンディン-4は毎日100mcg/kg用量を投与した。試験物質を投与した後、毎日採血して血糖の変化を測定し、特に天然型エキセンディン-4は毎日投与1時間後に血糖の濃度を測定した(図14)。エキセンディン-4誘導体の結合体は1回投与により10日以上血中グルコース濃度の減少効果が維持されたが、これに対し、天然型エキセンディン-4結合体は8日以後から血中グルコース濃度の減少効果が無くなることが確認された。」
(13)【図14】
「
[図:0001423834000003.jpg]
」
3 引用文献8の記載事項
引用文献8には、以下の事項が記載されている。
(1)第532頁左欄第2行-第7行
「非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)は,(1)単純性脂肪肝(simple steatosis),(2)肝細胞変性・壊死と炎症や線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)に大別される1)2).NASHの一部は予後不良で,肝硬変に進展し肝不全あるいは肝細胞癌が発症する3)4).」
(当審合議体注:上記において、「(1)」、「(2)」は丸囲いの1、2を意味する。)
4 引用文献3の記載事項
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
(1)第853頁の左欄第1~9行
「はじめに
脂肪肝を基盤とした慢性の肝疾患である非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と,その進行性の病である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は,肥満,糖尿病,インスリン抵抗性,脂質異常症などのいわゆるメタボリックシンドロームを背景病態として発症することが明らかとなっているため,メタボリックシンドロームの肝臓での表現系とも表現される.」
(2)第855頁の左欄第7行から第15行
「パルミチン酸,オレイン酸添加での培養にて脂肪化をきたしたHuh7肝癌細胞に対し,インスリン無添加の状態でexendin-4により処理をしたところ,細胞内で増加していたトリグリセリドの量が減少し,脂肪肝が改善した.更に,細胞内のインスリン受容体からのシグナル伝達に重要なAKTおよびPDK-1,PKCζのリン酸化を促進する作用が認められた.」
5 引用文献5の記載事項
引用文献5には、以下の事項が記載されている。なお、引用文献5は外国語の文献であるため、記載事項は、当審合議体による翻訳文を記載する。
(1)第1587頁左欄第2段落第1-6行
「エキセンジン-4は、PDK-1,AKT及びPKC-ζタンパク質のリン酸化を増加させる。エキセンジン-4は、PDK-1及びAKTの60分におけるリン酸化を有意に増加させた(図4)(P<0.05)。PKC-ζのリン酸化は、30、60及び90分において有意に増加した(P<0.05)(図4)。」
第5 本願発明と引用発明の対比
1 引用発明の「エキセンジン-4」は、インスリン分泌ペプチドである(上記第4の2(1)の【請求項2】)。
そして、本願発明の「インスリン分泌ペプチドが免疫グロブリンFc領域と非ペプチジル重合体により共有的に連結されるインスリン分泌ペプチド薬物結合体」であって、「前記インスリン分泌ペプチドが、エキセンジン-4のN末端ヒスチジン残基のα炭素およびα炭素に結合されたN末端アミノ基を除去したエキセンジン-4誘導体であり、
前記非ペプチジル重合体が、ポリエチレングリコールであり、
前記非ペプチジル重合体がインスリン分泌ペプチドの27位のリシン残基に連結され、
前記免疫グロブリンFc領域がヒト非グリコシル化IgG4 Fc領域であ」るものは、「エキセンジン-4誘導体」であるから、引用発明の「エキセンジン-4」と、本願発明の「インスリン分泌ペプチドが免疫グロブリンFc領域と非ペプチジル重合体により共有的に連結されるインスリン分泌ペプチド薬物結合体」とは、「エキセンジン-4の作用を有する薬物」である点で共通する。
2 引用発明の「エキセンジン-4」が「有効成分」として組成物に含まれていると解され、引用発明の「組成物」は「医薬組成物」であるといえる。
3 引用文献7は、「エキセンジン-4」が「高脂肪食誘発性肥満C57BL/6Jマウス」の脂肪性肝炎を改善すること(上記第4の1(1)ア)について記載された文献であるところ、「脂肪性肝炎」は「脂肪肝疾患」であり、「高脂肪食誘発性肥満C57BL/6Jマウス」はアルコールを摂取せずに肥満が誘発されたマウスであるから、「高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウス」における「脂肪性肝炎」は、「非アルコール性脂肪肝疾患」に相当する。
そうすると、引用発明の「組成物」と本願発明の「医薬組成物」は、「非アルコール性脂肪肝疾患の予防又は治療のための医薬組成物」である点で共通する。
4 引用発明の「高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウス」は、高脂肪食の摂取によって肥満が誘導されたマウスであるから、引用発明の「高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウス」と本願発明の「肥満患者」とは、「肥満動物」である点で共通する。
そして、引用文献7の動物実験で用いられた「C57BL/6Jマウス」は遺伝的に糖尿病を発症する動物ではなく、引用文献7(特に、上記第4の1(1)イ)には、引用文献7の動物実験で「高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウス」が糖尿病を発症したことは記載されていないのであるから、引用発明の「高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウス」に糖尿病を発症していないマウスが含まれていることは明らかであるので、本願発明の「糖尿病を示さない肥満患者」と、「糖尿病を示さない肥満動物」である点で共通する。
5 引用発明において「タンパク質濃度で正規化された肝トリグリセリドの値の上昇を減少させる」ことは、本願発明において「肝臓の中性脂肪の蓄積を防止」することに相当する。
6 したがって、上記1~5から、本願発明と引用発明とは、
「エキセンジン-4の作用を有する薬物を有効成分として含む、非アルコール性脂肪肝疾患の予防または治療のための医薬組成物であって、非アルコール性脂肪肝疾患が、糖尿病を示さない肥満動物における非アルコール性脂肪肝疾患であり、エキセンジン-4の作用を有する薬物が、肝臓の中性脂肪の蓄積を防止する、医薬組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)医薬組成物に有効成分として含まれる、エキセンジン-4の作用を有する薬物が、本願発明1では、「インスリン分泌ペプチドが免疫グロブリンFc領域と非ペプチジル重合体により共有的に連結されるインスリン分泌ペプチド薬物結合体」であって、「前記インスリン分泌ペプチドが、エキセンジン-4のN末端ヒスチジン残基のα炭素およびα炭素に結合されたN末端アミノ基を除去したエキセンジン-4誘導体であり、
前記非ペプチジル重合体が、ポリエチレングリコールであり、
前記非ペプチジル重合体がインスリン分泌ペプチドの27位のリシン残基に連結され、
前記免疫グロブリンFc領域がヒト非グリコシル化IgG4 Fc領域であ」るものであるのに対し、引用発明では、「エキセンジン-4」である点。
(相違点2)非アルコール性脂肪肝疾患について、本願発明では、「単純性脂肪肝疾患、肝線維症および肝硬変からなる群から選択される」のに対し、引用発明では、そのような特定がない点。
(相違点3)動物が、本願発明では「患者」、すなわちヒトであるのに対し、引用発明では、マウスである点。
(相違点4)本願発明では、インスリン分泌ペプチド薬物結合体について、「脂肪分解(Lipolysis)に関与する酵素の活性を調節するPKC-ζ(Protein kinase C-ζ)の活性を増加させ、および脂肪分解に関与するGlut2(グルコース輸送タンパク質2)の発現を増加させる」ことが特定されているのに対し、引用発明では、エキセンジン-4について、そのような特定がない点。
第6 判断
1 相違点について
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
ア 一般に医薬の分野において、服薬コンプライアンスを向上する等の目的で薬剤の持続時間を向上させることは望まれる場合があることは周知であるところ、引用文献2には、「現在市販されているエキセディン-4(exenatide)の場合、患者に1日2回注射によって投与されなければならないが、これは依然として患者に大きい負担となっている」こと(上記第4の2(3))が記載されており、上記「エキセディン-4(exenatide)」は引用発明の「エキセンディン-4」と同義であるから、本願優先日当時、「エキセンディン-4」の持続型剤形を提供することは周知の課題であったといえる。
イ そして、引用文献2には、前記第4の2(4)に示されるとおり、「エキセンディン-4」における周知の課題(上記ア)を解決するために、「免疫グロブリンFc領域、非ペプチド性重合体およびインスリン分泌ペプチドを共有結合によってN-末端以外のアミノ酸残基に部位選択的に相互連結させる」ことにより、インスリン分泌ペプチドである「エキセンディン-4の1番目のアミノ酸であるヒスチジンのアルファ炭素およびこれに結合したN末端アミン基を除去したイミダゾ-アセチル-エキセンディン-4(imidazo-acetyl-exendin-4)」の生体内効力持続効果を増加させたこと、具体的には、前記第4の2(11)に示される「CAエキセンディン-4(Lys27)-PEG-Fc:イミダゾ-アセチルエキセンディン-4の27番目のリシン残基とFc領域とがPEGで連結された結合体」とすることにより、0.7時間であった「エキセンディン-4」の血中半減期が52時間に延長されたこと(上記4の2(10))が記載されている。
ウ ここで、前記第4の2(11)の「PEG」は、「ポリエチレングリコール」と同義であり(要すれば、前記第4の2(3)を参照。)、前記第4の2(4)の「非ペプチド性重合体」を具体化したものである。
そうすると、前記第4の2(11)に記載された「CAエキセンディン-4(Lys27)-PEG-Fc:イミダゾ-アセチルエキセンディン-4の27番目のリシン残基とFc領域とがPEGで連結された結合体」は、本願発明における「インスリン分泌ペプチドが免疫グロブリンFc領域と非ペプチジル重合体により共有的に連結されるインスリン分泌ペプチド薬物結合体」であって、「前記インスリン分泌ペプチドが、エキセンジン-4のN末端ヒスチジン残基のα炭素およびα炭素に結合されたN末端アミノ基を除去したエキセンジン-4誘導体であり、
前記非ペプチジル重合体が、ポリエチレングリコールであり、
前記非ペプチジル重合体がインスリン分泌ペプチドの27位のリシン残基に連結され」たものと、同一の構造を有するインスリン分泌ペプチドであるといえる。
エ また、前記第4の2(7)には、「すなわち、最も好ましい本発明の薬物キャリア用免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4由来の脱糖化Fc領域である。ヒト由来のFc領域はヒト生体内で抗原として作用し、これに対する新しい抗体を生成するなどの不適な免疫反応を引き起こすおそれのある非ヒト由来のFc領域に比べて好ましい。」と記載されており、前記第4の2(1)の請求項18を引用する請求項21には、免疫グロブリンFc領域が「IgG4 Fc領域である」との記載があり、第4の2(1)の請求項21を引用する請求項22には、免疫グロブリンFc領域について、「ヒト脱糖化IgG4 Fc領域である」と記載されており、当該「脱糖化」は、本願発明の「非グリコシル化」と同義である。
これらの記載から、引用文献2には、インスリン分泌ペプチド結合体として、「免疫グロブリンFc領域がヒト非グリコシル化IgG4 Fc領域であ」るものが記載されているといえる。
オ そうすると、引用発明において、「エキセンディン-4」の持続時間を向上させるという周知の課題(上記アを参照。)を解決するために、持続時間が短い「エキセンジン-4」に代えて、引用文献2に記載された、生体内効力持続効果が増加した「インスリン分泌ペプチド結合体」である(上記イ~エを参照。)、「インスリン分泌ペプチドが免疫グロブリンFc領域と非ペプチジル重合体により共有的に連結されるインスリン分泌ペプチド薬物結合体」であって、「前記インスリン分泌ペプチドが、エキセンジン-4のN末端ヒスチジン残基のα炭素およびα炭素に結合されたN末端アミノ基を除去したエキセンジン-4誘導体であり、
前記非ペプチジル重合体が、ポリエチレングリコールであり、
前記非ペプチジル重合体がインスリン分泌ペプチドの27位のリシン残基に連結され」るものを採用すること、及び「免疫グロブリンFc領域がヒト非グリコシル化IgG4 Fc領域であ」るものを採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(2)相違点2について
ア 上記第4の3(1)に記載のとおり、非アルコール性脂肪肝疾患は、単純性脂肪肝疾患や線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に大別され、NASHの一部は予後不良で肝硬変に進展することは、本願優先日当時の技術常識である。
そして、上記第5の3に記載のとおり、引用発明の組成物は「非アルコール性脂肪肝炎」(NASH)を改善し得る組成物であるから、引用発明の組成物を、繊維化を伴う「肝線維症」や、NASHが予後不良で進展した「肝硬変」の予防又は治療に用い得ることを、当業者は期待するといえる。
イ また、上記第4の4(1)のとおり、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、脂肪肝を基盤とした慢性の肝疾患である非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の進行性の病であることも、本願優先日当時の技術常識である。
そして、引用発明の組成物の有効成分であるエキセンジン-4は、「高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウスにおける上昇する脂質の肝蓄積の上昇を減少させるとともに、タンパク質濃度で正規化された肝トリグリセリドの値の上昇を減少させる」のであるから、NASHを改善し得る引用発明の組成物によって脂肪肝が改善され、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の1つである「単純性脂肪肝疾患」(第4の3(1))を予防又は治療し得ることを、当業者は期待するといえる。
ウ 上記ア及びイから、引用発明の組成物を、「単純性脂肪肝疾患、肝線維症および肝硬変からなる群から選択される」「非アルコール性脂肪肝疾患」の予防又は治療に適用することは、当業者が容易になし得たことである。
(3)相違点3について
医薬分野において、動物モデルにおいて薬効が確認された薬物を、ヒトに適用することは通常行われることであり、引用発明の医薬組成物をヒト患者に適用することは当業者が容易になし得たことである。
(4)相違点4について
ア 本願発明の「前記インスリン分泌ペプチド薬物結合体が、・・・脂肪分解(Lipolysis)に関与する酵素の活性を調節するPKC-ζ(Protein kinase C-ζ)の活性を増加させ、および脂肪分解に関与するGlut2(グルコース輸送タンパク質2)の発現を増加させる」という記載は、インスリン分泌ペプチド薬物複合体が本来有する性質を説明している記載にすぎないから、相違点4は、実質的な相違点ではない。
イ 仮に、相違点4が実質的な相違点であるという前提で、さらに検討する。
(ア)引用文献3には、「パルミチン酸、オレイン酸添加での培養にて脂肪化をきたしたHuh7肝癌細胞に対し、インスリン無添加の状態でexendin-4により処理をしたところ、・・・細胞内のインスリン受容体からのシグナル伝達に重要なAKTおよびPDK-1、PKCζのリン酸化を促進する作用が認められた」と記載されており(上記第4の4(2))、引用文献5には、エキセンジン-4について「PKC-ζのリン酸化は、30、60及び90分において明らかに亢進した(図4)」と記載されている(上記第4の5(1))。
ここで、引用文献3の「exendin-4」は「エキセンジン-4」に相当し、「PKCζ」は、「PKC-ζ」に相当し、PKC-ζがリン酸化されることは、本願優先日当時の技術常識からみて、「PKC-ζの活性を増加させる」ことに相当するから、天然型のエキセンジン-4が「PKC-ζの活性を増加させる」ことは、本願優先日当時に既に知られていた事項であったと認められる。
(イ)また、引用文献7には、HF群で低下したGLUT2の発現は、エキシジン-4投与で増加したことも記載されている(前記第4の1(1)エ)。
ここで、引用文献7の「GLUT2」は、本願発明の「Glut2(グルコース輸送タンパク質2)」に相当するから、天然型のエキジンジン-4が、「脂肪分解に関与するGlut2(グルコース輸送タンパク質2)の発現を増加させる」ことは、本願優先日当時に既に知られていた事項であったと認められる。
(ウ)そうすると、本願発明の「脂肪分解(Lipolysis)に関与する酵素の活性を調節するPKC-ζ(Protein kinase C-ζ)の活性を増加させ、および脂肪分解に関与するGlut2(グルコース輸送タンパク質2)の発現を増加させる」という作用機序による特定は、天然型のエキセンジン-4と同様に、引用発明のエキセンジン-4それ自体が有する、本願優先日当時に既に知られていた作用機序による特定にすぎないから、このような特定をすることは、当業者が容易になし得たことである。
2 本願発明の効果について
(1)本願明細書には以下の記載がある。
「【0082】
実施例3:高脂肪食餌で誘発された肥満マウスの肝組織の中性脂肪の蓄積に及ぼす影響
<3-1>実験動物の分類
6週齢のC57BL/6マウスを安静にして2群に分離し、それぞれ12週間にわたって飼料に含まれる脂肪が10%である一般飼料と、飼料に含まれる脂肪が60%である高脂肪飼料(製造:Research diets Inc.社,商品名:D12492)を供給した。このようにして正常マウスと高脂肪食餌で誘発された肥満マウスモデルを作成し、その後それを試験に用いた。各マウスは、GLP施設基準を満たす飼育室で照明時間12時間(午前6時点灯-午後6時消灯)を維持し、動物飼育の標準ガイドラインに従って管理した。その後、健康な高脂肪食餌で誘発された肥満マウスを選択し、実験室内での環境適応のために1週間の安静時間を経て薬物投与を開始した。投与は次のように4つの群に分けて行った。
【0083】
1群(一般飼料群):DULBECCO’S PHOSPHATE BUFFERED SALINE(Sigma)を週1回以上皮下投与した。5ml/kgの投与液量で注射した。
【0084】
2群(高脂肪飼料群):DULBECCO’S PHOSPHATE BUFFERED SALINE(Sigma)を週1回以上皮下投与した。5ml/kgの投与液量で注射した。
【0085】
3群(高脂肪飼料群に持続型エキセンジン-4誘導体3nmol/kg投与群):持続型エキセンジン-4誘導体(HM11260C)3nmol/kgを週1回皮下投与した。5ml/kgの投与液量で注射した。
【0086】
4群(高脂肪飼料群に持続型エキセンジン-4誘導体10nmol/kg投与群):持続型エキセンジン-4誘導体(HM11260C)10nmol/kgを週1回皮下投与した。5ml/kgの投与液量で注射した。
【0087】
各群は全て2週間にわたって食塩水または薬物を投与し、その後肝組織に蓄積された中性脂肪量を分析した。
【0088】
<3-2>高脂肪食餌で誘発された肥満マウスの肝組織の中性脂肪含有量の測定
上記実施例<3-1>で分類して持続型エキセンジン-4誘導体を投与した、または投与していない高脂肪食餌で誘発された肥満マウスの肝臓を抽出し、肝臓中の中性脂肪濃度を測定した。図2に示すように、高脂肪飼料群で肝組織の中性脂肪濃度は172.3mg/gと低脂肪飼料群(114.0mg/g)に比べて増加したが、持続型エキセンジン-4誘導体を高脂肪飼料と共に3nmol/kg投与した群では中性脂肪濃度が93mg/gと高脂肪飼料投与群に比べて46%減少した。これらの結果から、本発明による持続型エキセンジン-4誘導体は非アルコール性脂肪肝疾患に治療効果があることが確認された。」
「【図2】
[図:0001423834000004.jpg]
」
(2)本願明細書の上記「実施例3:高脂肪食餌で誘発された肥満マウスの肝組織の中性脂肪の蓄積に及ぼす影響」(【0082】~【0088】、【図2】)では、高脂肪食餌で誘発された肥満マウスに持続型エキセンジン-4誘導体(HM11260C)を週1回2週間投与した群は、投与しなかった群よりも肝組織の中性脂肪濃度が有意に減少したことが示されている(特に、上記図2の*(「*」は、5本線のアスタリスクの意)(p<0.01)を参照。)。棒グラフの高さを比較して、当該実施例によって得られた前記減少の程度はおよそ25~45%程度である。
ここで、本願明細書の【0078】の記載から、「持続型エキセンジン-4誘導体(HM11260C)」は、「エキセンジン-4の1位のアミノ酸であるヒスチジンのα炭素を除去したイミダゾアセチル-エキセンジン-4とFc領域がPEGで連結されたCAエキセンジン-4-PEG-Fc結合体」と同義であり、本願明細書の実施例3及び図2に示された結果は、本願発明の構成により奏される効果として参酌することができるものである。
(3)続いて、本願明細書の実施例3の試験で示された効果は、当業者が予測し得た程度のものであるか否かについて、検討する。
ア 引用文献7の図4C(第4の1(5))を再掲する。
「
[図:0001423834000005.jpg]
」
引用文献7には、高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウスにエキセンジン-4を毎日10週間投与した群(上記図4C中の「HF+Ex-4」の群)は、投与しなかった群(同図中「HF」の群)よりもタンパク質濃度で正規化された肝トリグリセリドの値が、有意に減少したことが記載されている(p<0.01、特に、前記第4の1(1)カの図4の説明も参照。)。棒グラフの高さを比較して、当該試験によって得られた前記減少の程度はおよそ30%である。
イ ここで、本願明細書の実施例3の試験と引用文献7の図4Cに係る試験とは、対象として高脂肪食誘発肥満モデル動物を使用し、薬物としてエキセンジン-4の作用を有する薬物を使用した点で共通している。
そして、本願の【図2】に示された本願発明の効果である「肝組織の中性脂肪濃度が有意に減少したこと」と、及び引用文献7の図4Cに記載された引用発明の効果である「タンパク質濃度で正規化された肝トリグリセリドの値が、有意に減少したこと」とは、いずれも「中性脂肪の蓄積の防止」及び「非アルコール性脂肪肝疾患の予防または治療」という作用を示すものであるから、両者の効果は同質のものである。
さらに、効果の程度について検討するに、本願発明は、週1回2週間の投与でおよそ25~45%の減少効果、引用発明は、毎日10週間の投与でおよそ30%の減少効果を得ており、本願明細書の実施例3の試験で示された効果は、引用文献7の記載から予測し得る範囲のものである。
ウ さらに、本願明細書の実施例3の試験に示された効果について、引用文献2の記載も併せて検討する。ここに、引用文献2の【図14】(第4の2(13))を再掲する。
「
[図:0001423834000006.jpg]
」
上記【図14】は、引用文献2の「実施例15.持続型エキセンディン-4のインビボ効力試験」(前記第4の2(12))の結果を示すものであり、持続型エキセンジン-4の効力を血中グルコース濃度の低下効果で評価している。
そして、上記【図14】中の凡例について、前記第4の2(12)の記載及び前記第4の2(10)に列記された持続型エキセンジン-4の名称に照らすと、【図14】の「Byetta」群は、天然型エキセンジン-4の毎日投与群、「HM11260C」群は、「CA-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fc」の単回投与群に該当し、これは、本願明細書の【0078】の記載と符合している。
上記【図14】中、各時間における8本のグラフは、左から順に、凡例の上から順の群に対応しており、「エキセンジン-4」の毎日投与群は、左から2番目、「HM11260C」の単回投与群は、左から7番目のものである。そうすると、「HM11260C」の効果は、投与後1日目においては、「エキセンジン-4」より高いものの、投与後8日目には「エキセンジン-4」とおよそ同程度にまで減衰することが読み取れるから、本願明細書の実施例3のように「HM11260C」を週1回(7日に1回)投与すれば、エキセンジン-4の毎日投与よりも高い効果が得られることが予測できる。
エ 上記ア~ウから、本願の【図2】に示された本願発明の効果は、引用文献7及び引用文献2に記載された事項から予測し得た程度の効果であり、本願発明の効果が格別顕著なものであるとはいえない。
オ 以上のとおりであるから、本願発明の構成により奏される効果は、引用発明及び引用文献2に記載された事項からみて、当業者の予測を超える格別なものとはいえない。
3 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和6年11月5日提出の意見書において、下記(1)~(4)の主張をしているので、順次検討する。
(1)
「化合物に関する発明では、1つの置換基が異なる場合でも効果が異なるため、本発明の特定の誘導体であるCA-エキセンジン-4結合体が同じ効果を有するかどうかを類推することは困難で」あり、「インビボ効果が確認された本発明の特定の誘導体(すなわち、CA-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fc)を既存技術から導くことは困難で」あること、「引用文献2の表1から分かるように、天然型のエキセンジン-4と様々な誘導体は力価が異なることが当該技術分野では周知の技術的事項であり、これらのペプチド誘導体が同じ作用を保持できるかどうかを予測することはできないものと思料致します」(第3頁下から第11行~第7行、第4頁第4行~第6行)
以下、上記主張(1)について検討する。
引用文献2の表1には、天然型のエキセンジン-4のインビトロ力価100%に対して、CA-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fcのインビトロ力価は、8.5%であることが記載されている。そして、表1のインビトロ力価とは、第4の2(9)に記載されるとおり、インスリノーマ細胞であるRIN-m5FにGLP-1、エキセンジン-4および試験物質を濃度別に処理して、試験物質による細胞内の信号伝達物質であるcAMPの発生度合いによるEC50値を測定し、比較したものである。そうすると、CA-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fcは、天然型エキセンジン-4と同様にRIN-m5Fの細胞内信号伝達を活性化する作用を有しているといえる。
また、図14には、「Byetta」として示される天然型エキセンジンだけでなく、「HM11260C」として示されるCA-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fcにおいても血中グルコール濃度の減少効果が奏されていることが記載されている。
以上より、CA-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fcが、天然エキセンジン-4と同様の活性を保持していることから、肝トリグリセリド減少作用についても保持していることは、当業者が予測し得たことである。
(2)
「「C57BL/6Jマウス」は遺伝的に糖尿病を発症する動物ではないことから、「高脂肪(HF)食誘発肥満C57BL/6Jマウス」は、本願発明の「肥満患者が糖尿を患っていない」ことと、「肥満動物が糖尿を患っていない」点で共通すると認定されていますが、引用文献7等には糖尿病にならないことが明示的に開示されているわけではないため、この認定は、引用文献の記載に基づくものではないと思料致します」(第4頁第4行~第6行)
以下、上記主張(2)について検討する。
引用文献7(特に、上記第4の1(1)イ)には、引用文献7の動物実験で「高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウス」が糖尿病を発症したことは記載されていないのであるから、引用発明の「高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウス」に糖尿病を発症していないマウスが含まれていることは明らかである
(3)
「仮に、患者の負担を軽減するために、引用文献7の野生型のエキセンジン-4に長時間作用型の結合体を採用しようとしても、引用文献2の表1に示されるように、半減期が長く活性が高い野生型のエキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fc、又は最も半減期が長いDMエキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fc、又は活性が最も高いDAエキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fcが選択されることになります。したがって、当業者にとって、補正後の請求項1のCAエキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fcを選択することは困難であり、その優れた効果も予測することは困難です。」(第4頁第10行~第16行)
以下、上記主張(3)について検討する。
引用文献2には、「インスリン分泌ペプチドの血中半減期の増加および生体内活性の維持を同時に極大化することが可能な方法として、免疫グロブリンFc領域、非ペプチド性重合体およびインスリン分泌ペプチドを共有結合によってN-末端以外のアミノ酸残基に部位選択的に相互連結させることにより、生体内効力持続効果が画期的に増加することを確認した。」ことが記載されている(上記第4の2(4))。
また、引用文献2の表1には、「持続型エキセンディン-4のインビトロ活性の測定」の結果がまとめられており(上記第4の2(10))、エキセンディン-4のN-末端のアミノ酸残基にPEG-Fc、すなわち非ペプチド性重合体と免疫グロブリンFc領域を連結させると血中半減期は大幅に増加するが、インビトロ力価が<0.2%となり、消失すること、エキセンディン-4の27番目のリシン残基にPEG-Fcを連結させると血中半減期が大幅に増加するだけでなく、インビトロ力価が維持されることが記載されている。
さらに、引用文献2には、エキセンディン-4だけでなく、エキセンディン-4誘導体であるDMエキセンディン-4、DAエキセンディン-4、HYエキセンディン-4、CAエキセンディン-4についても、エキセンディン-4と同様に、27番目のリシン残基にPEG-Fcを連結させるとインビトロ力価を維持しつつ、血中半減期を大幅に増加できることも記載されている。
以上のとおり、引用文献2には、エキセンディン-4のインビトロ力価を維持しつつ、血中半減期を大幅に増加できる持続型エキセンディン-4として、27番目のリシン残基にPEG-Fcが連結された複数のエキセンディン-4誘導体が記載されている。
ここで、医薬の分野において、共通の活性を有する複数の誘導体の中から、活性の強さ、半減期だけでなく、製造コスト、医薬組成物の安定性、副作用の有無等、様々な観点を総合的に考慮し、好適なものを選択することは、当業者が通常に行うことであるから、引用発明において、薬剤の持続時間を向上させるという周知の課題を解決するために、持続時間が短い「エキセンジン-4」に代えて、引用文献2の表1に記載された、27番目のリシン残基にPEG-Fcが連結された複数のエキセンディン-4誘導体の中のいずれのものを選択することも当業者が容易になし得ることであり、本願発明の「結合体」に相当するところの、「CAエキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fc」を選択することを妨げるものではない。
そして、本願発明は引用文献2の表1に記載される他のエキセンディン-4誘導体よりも効果が優れることが示されているわけでもないから、本願発明の効果が当業者の予測を超えて優れているともいえない。
(4)
「本発明の特定の結合体は、天然型のエキセンジン-4であるBYETTA(商標)を投与した群と比較して、低用量でも脂肪肝に対して優れた治療効果を示すことが本明細書で確認されています。したがって、この効果は、天然型のエキセンジン-4で観察されたものと同等の効果ではなく、従来技術からは予測できない顕著な効果であると思料致します。」(第4頁下から第6行~第2行)
以下、上記主張(4)について検討する。
本願明細書には上記主張(4)に関し、以下の記載がある。
「【0073】
実施例2:肥満動物モデルであるob/obマウスの脂肪肝形成に及ぼす影響
<2-1>実験動物の分類
5週齢の雌ob/obマウス(C57BL/6JHamSlc-ob/ob,24-34g)は日本Slcから購入した。ob/obマウスは、肥満、糖尿病製剤の効能試験の際に一般に用いられる動物モデルである。飼料は放射線照射で滅菌された実験動物用固形飼料(製造:Picolab Rodent Diet社,商品名:5053)を供給して自由に摂取させ、水は濾過後に紫外線殺菌された水道数を給水ビンで自由に摂取させた。GLP施設基準を満たす飼育室で照明時間12時間(午前6時点灯-午後6時消灯)を維持し、動物飼育の標準ガイドラインに従って管理した。その後、健康なob/obマウスを選択し、実験室内での環境適応のために1週間の安静期間を経て薬物投与を開始した。投与は次のように4つの群に分けて行った。
【0074】
1群(陰性対照群):DULBECCO’S PHOSPHATE BUFFERED SALINE(Sigma)を週1回以上皮下投与した。5ml/kgの投与液量で注射した。
【0075】
2群(陽性対照群):BYETTA(登録商標)10.8nmol/kgを毎日皮下投与した。5ml/kgの投与液量で注射した。
【0076】
3群(持続型エキセンジン-4誘導体3.7nmol/kg投与群):持続型エキセンジン-4誘導体(HM11260C)3.7nmol/kgを週1回皮下投与した。5ml/kgの投与液量で注射した。
【0077】
4群(持続型エキセンジン-4誘導体8.2nmol/kg投与群):持続型エキセンジン-4誘導体(HM11260C)8.2nmol/kgを週1回皮下投与した。5ml/kgの投与液量で注射した。
【0078】
ここで、BYETTA(登録商標)(Eli Lilly)は天然エキセンジン-4であり、持続型エキセンジン-4誘導体(HM11260C)は特許文献5に記載されたエキセンジン-4の1位のアミノ酸であるヒスチジンのα炭素を除去したイミダゾアセチル-エキセンジン-4とFc領域がPEGで連結されたCAエキセンジン-4-PEG-Fc結合体である。
【0079】
各群は全て7週間にわたって食塩水または薬物を投与し、その後脂肪肝形成に及ぼす影響について分析した。
【0080】
<2-2>持続型エキセンジン-4誘導体が脂肪肝形成に及ぼす影響
本発明による持続型エキセンジン-4誘導体がob/obマウスの脂肪肝形成に及ぼす影響を調べるために、次の実験を行った。上記実施例<2-1>で各群に分類して薬物を投与したob/obマウスの肝臓を抽出し、一部分を4%ホルムアルデヒドに浸漬し、その後パラフィンで包理してH&E染色を行った結果を図1に示す。
【0081】
その結果、図1に示すように、病理学専門家による判読の結果、担体を投与した陰性対照群では鮮明な脂肪肝の所見が観察されたが、本発明の持続型エキセンジン-4誘導体を投与した実験群では投与用量依存的に脂肪肝の所見が著しく減少することが確認された。また、陽性対照群であるBYETTA(登録商標)に比べて、本発明の持続型エキセンジン-4誘導体は少ない用量で優れた脂肪肝治療効果を示すことが確認された。」
これらの記載から、本願明細書には、天然型エキセンジン-4であるBYETTA(登録商標)10.8nmol/kgを毎日皮下投与した群に比べ、持続型エキセンジン-4誘導体3.7nmol/kgを週1回皮下投与した群の方が、脂肪肝の所見が減少したことが記載されているといえる。
一方、引用文献2の前記第4の2(10)には、天然エキセンジン-4の血中半減期が0.7時間であるのに比較し、CA-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fcの血中半減期が52時間であることが記載されているから、血中半減期が大幅に改善されたCA-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fcの方が、天然エキセンジン-4よりも治療効果が長く続くことにより、より少ない投与量で脂肪肝の減少効果が高まることは当業者が予測し得たことである。
エ よって、請求人の上記(1)~(4)の主張は、いずれも採用することができない。
4 小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明(引用文献7に記載された発明)、及び引用文献2~3、5、7~8に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用文献7に記載された発明及び引用文献2~3、5、7~8に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-020096