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特許拒絶査定不服審判

2021-014769

非アルコール性脂肪肝疾患の予防または治療のための医薬組成物

審判番号
2021-014769
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-177304外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年11月01日
審決日
2024年01月30日
公報発行日
2024年07月26日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A61K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第50条の2、特許法第29条
データ出所
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特願2019-177304「非アルコール性脂肪肝疾患の予防または治療のための医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月19日出願公開、特開2019-214627〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)3月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年3月9日、大韓民国(KR))を国際出願日とする特願2014-560859号の一部を平成29年9月8日に新たな特許出願とした特願2017-173062号の一部を令和1年9月27日に新たな特許出願としたものであり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 令和 2年 9月 7日付け 拒絶理由通知 (特許法第50条の2の通知を伴うもの) 令和 3年 3月15日 手続補正書及び意見書の提出 同年 6月22日付け 補正の却下の決定及び拒絶査定 同年11月 1日 手続補正書及び審判請求書の提出 同年12月10日 手続補正書(方式)の提出 (「請求の理由」の内容を補正するもの) 令和 4年 1月11日付け 前置報告 同年 5月13日 上申書の提出 (前置報告に対する反論を記載するもの) 令和 5年 5月29日 拒絶理由通知(当審) 同年 8月30日 手続補正書及び意見書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。) 第2 本願発明 本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「インスリン分泌ペプチドが免疫グロブリンFc領域と非ペプチジル重合体により共有的に連結されるインスリン分泌ペプチド薬物結合体を有効成分として含み、 前記インスリン分泌ペプチドが、エキセンジン-4のN末端ヒスチジン残基のα炭素およびα炭素に結合されたN末端アミノ基を除去したエキセンジン-4誘導体からなる群から選択され、 前記非ペプチジル重合体が、ポリエチレングリコールであり、 前記非ペプチジル重合体がインスリン分泌ペプチドの27位のリシン残基に連結され、 前記免疫グロブリンFc領域が、ヒト非グリコシル化IgG4 Fc領域であり、 中性脂肪の蓄積の防止が、前記インスリン分泌ペプチド薬物結合体によって引き起こされる、肥満患者の非アルコール性脂肪肝疾患の予防または治療のための医薬組成物であって、前記肥満患者が糖尿を患っていない、医薬組成物。」 第3 拒絶の理由 令和5年5月29日付けの拒絶理由通知書において当審が通知した拒絶理由のうちの理由2は、次のとおりのものである。 本願の請求項1~17に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献7に記載された発明及び引用文献2、3、5に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献2:特表2010-515677号公報 引用文献3:日本臨床 (2011) Vol. 69, No. 5, pp. 853-858 引用文献5:Hepatology (2010) Vol. 51, No. 5, pp. 1584-1592 引用文献7:PLoS ONE (2012.02.17) Vol. 7, No. 2, e31394, pp.1-10 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献7の記載 本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であり、令和5年5月29日付けの拒絶理由通知で引用された「引用文献7:PLoS ONE (2012.02.17) Vol. 7, No. 2, e31394, pp.1-10」には、以下の記載がある。引用文献7は英文で記載されているので、当審合議体による訳文で記載する。なお、「…」は摘記の省略を示し、下線は当審合議体が付した。 (1) 第1頁の表題及び概要欄の第1~5行 「エキセンジン-4は、高脂肪食誘発性肥満C57BL/6JマウスのSirt1発現を増加させることにより脂肪性肝炎を改善する 概要 脂肪肝を軽減するメカニズムとして、エキセンジン-4のSirt1発現に対する効果は、これまで報告されていない。そこで、高脂肪(HF)食誘発肥満C57BL/6Jマウスおよび関連する細胞培養モデルにおいて、エキセンジン-4投与による脂肪肝に対する有益な効果が、Sirt1を介して介在するかどうかを検討した。エキセンジン-4投与は、HF誘発肥満C57BL/6Jマウスの体重、血清遊離脂肪酸(FA)およびトリグリセリドレベルを減少させた。組織学的解析により、エキセンジン-4はHF誘発肝脂質蓄積と炎症を逆転させたことが示された。」 (2) 第2頁左欄第11~31行 「動物 6週齢のC57BL/6Jマウスを…から入手し、12時間の明暗サイクルを持つ標準的な条件下で繁殖させた。…マウスを以下の3群(n=10/群)に無作為に分けた:低脂肪食群(コントロール、脂肪 10 kcal%、タンパク質 20 kcal%、炭水化物 70 kcal%);HF食群(HF、脂肪 45 kcal%、タンパク質 20 kcal%、炭水化物 35 kcal%);HF食+1 nmol/kg/日エキセンジン-4(…)腹腔内(IP)注射投与群。先の食餌療法において、10週間にわたって、エキセンジン-4が1日おきに注射され、他の2群には生理食塩水が1日おきに注射された。マウスは、特定の食餌と水を自由に摂取することができた。全ての実験において、体重と食物摂取量が1週間に2回確認された。11週目に、一晩絶食させた後、動物は犠牲にされ、肝臓組織が摘出され、直ちに液体窒素で凍結され、RNAおよびタンパク質抽出まで-80℃で保存された。」 (3) 第2頁右欄第42~54行 「組織学的解析 麻酔後、肝組織が動物から取り出され、10%中性緩衝ホルマリンで固定され、パラフィンに包埋された。その後、パラフィンブロックはミクロトームで5μm厚の切片に切断された。脱パラフィン及び脱水の後、5μm厚の切片はヘマトキシリン(…)およびエオシン(…)で染色された。組織学的スライドは、光学顕微鏡(倍率、6200)により検査された。脂肪症、炎症及び肝細胞損傷を含む組織学的特徴は、2人の病理学者によって組織学的に等級付けされた[14]。肝トリグリセリドが凍結組織から抽出され、酵素アッセイ(…)で測定された。TGの値は、タンパク質濃度で正規化された。」 (4) 第4頁右欄第15~24行 「エキセンジン-4投与による肝脂肪蓄積への影響 図4A-Cに示すように、脂質の肝蓄積はコントロール群に比べHF群で有意に高く、エキセンジン-4投与により減少した。また、H&E染色に基づく脂肪変性、バルーン及び小葉炎症の平均スコアは、HF群と比較してエキセンジン-4投与群で有意に低下した(図4D)。また、HF群では肝TG濃度がコントロール群と比較して劇的に上昇したが、エキセンジン-4投与群では減少した(図4E)。」 (5) 図4C 「 [図:0001411610000001.jpg] 」 (6) 図4の説明部分 「図4. コントロール(低脂肪)、HF、HF+エキセンジン-4食事療法を10週間与えたマウスの病理組織像。切片はH&Eで染色した。矢印は脂肪滴を示す。(A-C)コントロール、HF及びHF+Ex-4をそれぞれ与えたマウスの肝臓切片。(倍率×200)。スケールバー=500μm。(D)NAFLD 活性スコアは半定量的に評価した:脂肪症(0-3)、小葉炎症(0-2)、肝細胞バルーン化(0-2)。N.D.、検出されず(E)肝トリグリセリドは凍結組織から抽出し、酵素アッセイで測定された。TGの値はタンパク質濃度で正規化された。コントロールと比較して* p<0.05, ** p<0.01、HFと比較して# p<0.05, ## p<0.01。」 2 引用発明 前記1(1)及び(2)より、「HF」は、「高脂肪」の略語で、前記1(4)の「HF群」及び「コントロール群」はそれぞれ、「高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウス」及び「低脂肪食」を摂取した「C57BL/6Jマウス」である。 前記1(1)及び(3)より、「TG」は、「トリグリセリド」の略語である。 前記1(1)には、概要として、エキセンジン-4投与は、高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウスの体重、血清遊離脂肪酸(FA)およびトリグリセリドレベルを減少させること、組織学的解析により、エキセンジン-4は高脂肪食誘発肝脂質蓄積と炎症を逆転させたことが記載されている。そして、前記1(2)には、その具体的な実施形態として、前記マウスを低脂肪食群、高脂肪食群及び高脂肪食+エキセンジン-4群の3群に分けたこと、前記エキセンジン-4は腹腔内(IP)注射でマウスに投与されたこと、飼育後、これらの動物から肝臓が取り出され、タンパク質の抽出に供されたことが記載されており、また、前記1(3)には、これらの動物から肝組織を取り出し、肝トリグリセリドが測定されたことが記載されている。加えて、その結果として、前記1(4)には、低脂肪食群に比べて高脂肪食群において脂質の肝蓄積が高まり、脂肪変性、バルーン及び小葉炎症のスコアが高まり、タンパク質濃度で正規化された肝トリグリセリドの値が高まったが、いずれの変化も、高脂肪食+エキセンジン-4群において小さかったことが記載されている。 そうすると、引用文献7には、次の発明が記載されているといえる。 「エキセンジン-4を含む組成物であって、高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウスに投与すると、低脂肪食を摂取した同マウスに比べて、高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウスで上昇する脂質の肝蓄積、脂肪変性、小葉炎症スコア及びタンパク質濃度で正規化された肝トリグリセリドの値の変化を減少させる組成物。」(以下「引用発明」という。)。 3 引用文献2の記載 本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であり、令和5年5月29日付けの拒絶理由通知で引用された「引用文献2:特表2010-515677号公報」には、以下の記載がある。なお、「…」は摘記の省略を示し、特に注釈等がない限り、下線は当審合議体が付した。 (1) 特許請求の範囲 「【請求項1】 インスリン分泌ペプチドと免疫グロブリンFc領域とが、ポリエチレングリコール、…よりなる群から選ばれる非ペプチド性重合体によって互いに連結され、前記インスリン分泌ペプチドのN末端以外のアミノ酸残基に前記非ペプチド性重合体が結合されたことを特徴とする、インスリン分泌ペプチド結合体。 【請求項2】 前記インスリン分泌ペプチドは、…、エキセンディン-4、…、これらの誘導体(derivative)、…よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載のインスリン分泌ペプチド結合体。 【請求項4】 前記誘導体は、天然型インスリン分泌ペプチドのアルファカーボンおよびN末端アミン基が除去されたペプチド、これらの断片およびこれらの変異体よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項2に記載のインスリン分泌ペプチド結合体。 【請求項5】 N末端アミン基の置換、除去または変更によって製造されたエキセンディン-4誘導体と免疫グロブリンFc領域とが、ポリエチレングリコール、…よりなる群から選ばれる非ペプチド性重合体によって互いに連結され、天然型エキセンディン-4結合体より血糖低下効果および生体内持続性が向上したことを特徴とする、インスリン分泌ペプチド結合体。 【請求項6】 前記エキセンディン-4誘導体は、…、インスリン分泌ペプチドのうちエキセンディン-4の一番目のアミノ酸(ヒスチジン)のアルファ炭素を除去したエキセンディン-4誘導体、…よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項5に記載のインスリン分泌ペプチド結合体。 【請求項11】 エキセンディン-4のN末端ヒスチジン残基のアルファ炭素およびアルファ炭素に結合されたN末端アミン基が除去されたエキセンディン-4誘導体と免疫グロブリンFc領域とが、ポリエチレングリコール、…よりなる群から選択される非ペプチド性重合体によって互いに連結され、天然型エキセンディン-4結合体より血糖低下効果および生体内持続性が向上したことを特徴とする、インスリン分泌ペプチド結合体。 【請求項15】 免疫グロブリンFc領域が脱糖化(deglycosylated)されることを特徴とする、請求項1に記載のインスリン分泌ペプチド結合体。 【請求項18】 免疫グロブリンFc領域が、IgG、IgA、IgD、IgEおよびIgMよりなる群から選ばれる免疫グロブリン由来のFc領域であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のインスリン分泌ペプチド結合体。 【請求項21】 免疫グロブリンFc領域がIgG4 Fc領域であることを特徴とする、請求項18に記載のインスリン分泌ペプチド結合体。 【請求項22】 免疫グロブリンFc領域がヒト脱糖化IgG4 Fc領域であることを特徴とする、請求項21に記載のインスリン分泌ペプチド結合体。 【請求項33】 請求項1~32のいずれか1項のタンパク質結合体を含む、糖尿、肥満、急性冠症候群または多嚢胞性卵巣症候群治療用薬学的組成物。」 (2) 【0001】 「本発明は、インスリン分泌ペプチドの持続型剤形のためのインスリン分泌ペプチド結合体に関する。具体的には、本発明は、インスリン分泌ペプチドを非ペプチド性重合体および免疫グロブリンFc領域と共有結合によって相互連結させることにより、生体内持続効能をより画期的に増加させた、変形されたインスリン分泌ペプチド結合体およびその製造方法に関する。」 (3) 【0004】 「これらの変形体以外に、アメリカドクトカゲ(glia monster)の唾液腺から精製されたGLP-1類似体エキセンディン(exendin)-4(米国特許第5,424,686号)は、DPP IVに対する抵抗性と共に、GLP-1に比べて高い生理活性を有する。よって、体内半減期が2~4時間であってGLP-1に比べて長くなった。ところが、DPP IVの抵抗性を増加させる方法のみでは、十分な生理活性の持続時間を期待することができない。例えば、現在市販されているエキセディン-4(exenatide)の場合、患者に1日2回注射によって投与されなければならないが、これは依然として患者に大きい負担となっている。 このようなインスリン分泌ペプチドの問題点は、ペプチドの大きさが小さいため、腎臓から回収されず、体外に消失されることである。よって、腎臓における消失を抑制するために、ポリエチレングリコール(PEG)などの溶解度の高い高分子物質をペプチドの表面に化学的に付加させる方法が使用されてきた。」 (4) 【0009】 「そこで、本発明者らは、インスリン分泌ペプチドの血中半減期の増加および生体内活性の維持を同時に極大化することが可能な方法として、免疫グロブリンFc領域、非ペプチド性重合体およびインスリン分泌ペプチドを共有結合によってN-末端以外のアミノ酸残基に部位選択的に相互連結させることにより、生体内効力持続効果が画期的に増加することを確認した。特に、本発明者らはインスリン分泌ペプチド結合体のうち、たとえばエキセンディン-4、…、およびエキセンディン-4の1番目のアミノ酸であるヒスチジンのアルファ炭素およびこれに結合したN末端アミン基を除去したイミダゾ-アセチル-エキセンディン-4(imidazo-acetyl-exendin-4)のようなペプチド結合体の生体内効力持続効果が画期的に増加することを見出し、本発明を完成した。」 (5) 【0019】 「N末端カップリングの場合とは異なり、PEGがN末端を除いたリシン残基にカップリングされると、インビトロ活性が約8.5%程度維持されることを確認することができた(表1)。また、…、そしてエキセンディン-4の1番目のアミノ酸であるヒスチジンのアルファ炭素およびこれに結合したN-末端アミン基を除去したイミダゾアセチル-エキセンディン-4(imidazoacetyl-exendin-4、以下「CA-エキセンディン-4」とも称する)の免疫グロブリンFc結合体が、天然型エキセンディン-4結合体に比較的類似したインビトロ活性および血中半減期を示したが(表1)、このような免疫グロブリンFc結合体は、インビボ効力試験では予測できなかった著しい持続性効果を示した(図14)。したがって、本発明で製造した…、CAエキセンディン-4-免疫グロブリンFc結合体、…の血中半減期は50時間以上画期的に増加した。ペプチドの活性に影響を与えないリシン残基にカップリングさせて力価の減少を最小化した。また、N末端のアミン基およびアルファカーボンの除去により、予測できなかった血中グルコース濃度減少活性の向上を示すことを確認した。」 (6) 【0025】 「本発明において、「糖鎖の除去」はFc領域から酵素で糖成分を除去することを意味し、「脱糖化」はFc領域を、糖化されていない形態で原核動物、好ましくは大腸菌から生産することを意味する。…」 (7) 【0027】 「すなわち、最も好ましい本発明の薬物キャリア用免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4由来の脱糖化Fc領域である。ヒト由来のFc領域はヒト生体内で抗原として作用し、これに対する新しい抗体を生成するなどの不適な免疫反応を引き起こすおそれのある非ヒト由来のFc領域に比べて好ましい。 … 本発明に使用可能な非ペプチド性重合体は、ポリエチレングリコール、…よりなる群から選択でき、好ましくはポリエチレングリコールである。…」 (8) 【0043】 「実施例6.イミダゾ-アセチルエキセンディン-4(Lys27)-免疫グロブリンFc結合体の製造(当審注:下線は原文のまま。) イミダゾ-アセチルエキセンディン-4(CAエキセンディン-4、AP、米国)を用いて、実施例4と同一の方法で、3.4K PropionALD(2)PEGをCAエキセンディン-4のLysと反応させた後、2つのLys異性体ピークのうち、反応が多くN末端の異性体とは完全に区分される最も後方の異性体ピーク(Lys27位置異性体)を用いてカップリングを行った。反応はペプチドと免疫グロブリンFcのモル比を1:8、全体タンパク質濃度を60mg/mLにして、4℃で20時間行った。反応は100mM K-P(pH6.0)内で行い、還元剤として20mM SCBを添加した。カップリング反応の後、16mLのSOURCE Qと16mLのSOURCE ISOを用いた2段階の精製方法は、実施例2と同様である。HPLC逆相分析の結果、純度は95.8%を示した(図5)。」 (9) 【0051】 「実施例14.持続型エキセンディン-4のインビトロ活性の測定(当審注:下線は原文のまま。) エキセンディン-4持続型製剤の効力を測定する方法として、インビトロ細胞の活性を測定する方法を用いた。通常、GLP-1のインビトロ活性は、インスリノーマ細胞またはランゲルハンス島(islet of Langerhans)を分離してGLP-1処理による細胞内のcAMP増加有無を確認することにより測定される。 本発明で使用されたインビトロ活性測定方法は、RIN-m5F(ATCC.)であり、この細胞はラットのインスリノーマ細胞として知られており、GLP-1受容体を持っているため、GLP-1系統のインビトロ活性を測定する方法として多く用いられている。RIN-m5FにGLP-1、エキセンディン-4および試験物質を濃度別に処理して、試験物質による細胞内の信号伝達物質であるcAMPの発生度合いによるEC50値を測定し、比較する試験で行った。その結果は表1にまとめた。」 (10) 【0052】 「【表1】 [図:0001411610000002.jpg] 」 (11) 【0053】 「… CAエキセンディン-4(Lys27)-PEG-Fc:イミダゾ-アセチルエキセンディン-4の27番目のリシン残基とFc領域とがPEGで連結された結合体 …」 (12) 【0054】 「実施例15.持続型エキセンディン-4のインビボ効力試験(当審注:下線は原文のまま。) エキセンディン-4持続型製剤のインビボ効力を測定するために、糖尿モデルマウスとしてのdb/dbマウスを用いて血糖の減少を確認した。約6~7週齢の糖尿モデルマウスを試料制限していない状態で2週間持続型製剤を100mcg/kgで1回投与し、天然型エキセンディン-4は毎日100mcg/kg用量を投与した。試験物質を投与した後、毎日採血して血糖の変化を測定し、特に天然型エキセンディン-4は毎日投与1時間後に血糖の濃度を測定した(図14)。エキセンディン-4誘導体の結合体は1回投与により10日以上血中グルコース濃度の減少効果が維持されたが、これに対し、天然型エキセンディン-4結合体は8日以後から血中グルコース濃度の減少効果が無くなることが確認された。」 (13) 【図14】 「 [図:0001411610000003.jpg] 」 第5 対比 1 引用発明の「エキセンジン-4」は、インスリン分泌ペプチドであるから、本願発明の「インスリン分泌ペプチドが免疫グロブリンFc領域と非ペプチジル重合体により共有的に連結されるインスリン分泌ペプチド薬物結合体」であって、「前記インスリン分泌ペプチドが、エキセンジン-4のN末端ヒスチジン残基のα炭素およびα炭素に結合されたN末端アミノ基を除去したエキセンジン-4誘導体からなる群から選択され、前記非ペプチジル重合体が、ポリエチレングリコールであり、前記非ペプチジル重合体がインスリン分泌ペプチドの27位のリシン残基に連結され、前記免疫グロブリンFc領域が、ヒト非グリコシル化IgG4 Fc領域であ」るものと、「エキセンジン-4の作用を有する薬物」である点で共通する。 2 引用発明の「脂質の肝蓄積」及び「タンパク質濃度で正規化された肝トリグリセリドの値」が上昇するという「変化を減少させる」ことは、トリグリセリド(TG)が中性脂肪であることに照らして、本願発明の「中性脂肪の蓄積の防止」に相当する。そして、引用発明において前記「変化を減少させる組成物」には、「エキセンジン-4」が活性成分として含まれているから、前記「中性脂肪の蓄積防止」は、「エキセンジン-4」、すなわち、前記「エキセンジン-4の作用を有する薬物」「によって引き起こされる」ものである。 3 引用発明の「高脂肪(HF)食誘発肥満C57BL/6Jマウス」は、マウスの肥満が高脂肪(HF)食によって誘導されているのであるから、引用発明の「高脂肪(HF)食誘発肥満C57BL/6Jマウス」と本願発明の「肥満患者」とは、「肥満動物」である点で共通する。 また、「C57BL/6Jマウス」は遺伝的に糖尿病を発症する動物ではなく、前記第4の1(2)にも、前記マウスが糖尿を患うことは記載されていないから、引用発明の「高脂肪(HF)食誘発肥満C57BL/6Jマウス」は、本願発明の「肥満患者が糖尿を患っていない」ことと、「肥満動物が糖尿を患っていない」点で共通する。 4 引用発明の「高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウス」の「脂質の肝蓄積、脂肪変性、小葉炎症スコア及びタンパク質濃度で正規化された肝トリグリセリドの値」が上昇した状態は、本願明細書の「非アルコール性脂肪肝とは、過剰量のアルコールを摂取しない患者における炎症反応を伴わない単純性脂肪肝、並びにそれが進行した、肝細胞の炎症反応、肝線維化および肝硬変を含む広範囲の疾患を意味する」(【0002】)という記載に照らして、本願発明の「非アルコール性脂肪肝疾患」に相当する。 5 引用発明の「組成物」は、注射によって動物に投与され、非アルコール性脂肪肝疾患の予防又は治療作用を奏したものであるから、本願発明の「非アルコール性脂肪肝疾患の予防又は治療のための医薬組成物」に相当する。 したがって、前記1~5から、本願発明と引用発明とは、 「エキセンジン-4の作用を有する薬物を有効成分として含み、中性脂肪の蓄積の防止が、前記エキセンジン-4の作用を有する薬物によって引き起こされる、肥満動物の非アルコール性脂肪肝疾患の予防または治療のための医薬組成物であって、前記肥満動物が糖尿を患っていない、医薬組成物。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1)動物が、本願発明では「患者」、すなわちヒトであるのに対し、引用発明では、マウスである点。 (相違点2)医薬組成物に有効成分として含まれる、エキセンジン-4の作用を有する薬物が、本願発明では、「インスリン分泌ペプチドが免疫グロブリンFc領域と非ペプチジル重合体により共有的に連結されるインスリン分泌ペプチド薬物結合体」であって、「前記インスリン分泌ペプチドが、エキセンジン-4のN末端ヒスチジン残基のα炭素およびα炭素に結合されたN末端アミノ基を除去したエキセンジン-4誘導体からなる群から選択され、前記非ペプチジル重合体が、ポリエチレングリコールであり、前記非ペプチジル重合体がインスリン分泌ペプチドの27位のリシン残基に連結され、前記免疫グロブリンFc領域が、ヒト非グリコシル化IgG4 Fc領域であ」るものであるのに対し、引用発明では、「エキセンジン-4」である点。 第6 判断 上記相違点について検討する。 1 相違点1について 医薬分野において、動物モデルにおいて薬効が確認された薬物を、ヒトに適用することは通常行われることであり、引用発明に係る医薬組成物をヒト患者に適用することは当業者が容易になし得たことである。 2 相違点2について 一般に医薬の分野において、服薬コンプライアンスを向上する等の目的で薬剤の持続時間を向上させることは望まれる周知の課題である(要すれば、前記第4の3(3))。そして、引用文献2には、前記第4の3(4)に示されるとおり、「エキセンディン-4」(前記第4の3(3)における「エキセンディン(exendin)-4」という記載から、本願発明の「エキセンジン-4」の異表記と認める。)における前記課題を解決するために、「免疫グロブリンFc領域、非ペプチド性重合体およびインスリン分泌ペプチドを共有結合によってN-末端以外のアミノ酸残基に部位選択的に相互連結させる」ことにより、インスリン分泌ペプチドである「エキセンディン-4の1番目のアミノ酸であるヒスチジンのアルファ炭素およびこれに結合したN末端アミン基を除去したイミダゾ-アセチル-エキセンディン-4(imidazo-acetyl-exendin-4)」の生体内効力持続効果を増加させたこと、具体的には、前記第4の3(11)の「CAエキセンディン-4(Lys27)-PEG-Fc:イミダゾ-アセチルエキセンディン-4の27番目のリシン残基とFc領域とがPEGで連結された結合体」とすることにより、前記第4の3(10)に示されるとおり、0.7時間であった「エキセンディン-4」の血中半減期が52時間に延長したことが記載されている。 ここで、前記第4の3(11)の「PEG」は、「ポリエチレングリコール」と同義であり(要すれば、前記第4の3(3)を参照)、前記第4の3(4)の「非ペプチド性重合体」を具体化したものであるから、前記第4の3(11)に記載された「CAエキセンディン-4(Lys27)-PEG-Fc:イミダゾ-アセチルエキセンディン-4の27番目のリシン残基とFc領域とがPEGで連結された結合体」は、本願発明における「インスリン分泌ペプチドが免疫グロブリンFc領域と非ペプチジル重合体により共有的に連結されるインスリン分泌ペプチド薬物結合体」であって、「前記インスリン分泌ペプチドが、エキセンジン-4のN末端ヒスチジン残基のα炭素およびα炭素に結合されたN末端アミノ基を除去したエキセンジン-4誘導体からなる群から選択され、前記非ペプチジル重合体が、ポリエチレングリコールであり、前記非ペプチジル重合体がインスリン分泌ペプチドの27位のリシン残基に連結され」たものと同一の構造を有するものである。 また、前記第4の3(11)に記載された「CAエキセンディン-4(Lys27)-PEG-Fc:イミダゾ-アセチルエキセンディン-4の27番目のリシン残基とFc領域とがPEGで連結された結合体」における「Fc」又は「Fc領域」は、前記第4の3(7)によれば、「最も好ましい本発明の薬物キャリア用免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4由来の脱糖化Fc領域である。」ものであって、当該「脱糖化」は、本願発明における「非グリコシル化」と同義であるから、引用文献2において最も好ましいとされる免疫グロブリンFc領域である「ヒトIgG4由来の脱糖化Fc領域」は、本願発明における「ヒト非グリコシル化IgG4 Fc領域」を備えるものである。 そうすると、引用発明において、薬剤の持続時間を向上させるという周知の課題を解決するために、持続時間が短い「エキセンジン-4」に代えて、引用文献2に記載された、生体内効力持続効果が増加した「インスリン分泌ペプチド結合体」である「インスリン分泌ペプチドが免疫グロブリンFc領域と非ペプチジル重合体により共有的に連結されるインスリン分泌ペプチド薬物結合体」であって、「前記インスリン分泌ペプチドが、エキセンジン-4のN末端ヒスチジン残基のα炭素およびα炭素に結合されたN末端アミノ基を除去したエキセンジン-4誘導体からなる群から選択され、前記非ペプチジル重合体が、ポリエチレングリコールであり、前記非ペプチジル重合体がインスリン分泌ペプチドの27位のリシン残基に連結され」、前記免疫グロブリンFc領域が、最も好ましい「ヒト非グリコシル化IgG4 Fc領域」であるものを採用すること、すなわち、本願発明で規定する「インスリン分泌ペプチド薬物結合体」に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 3 本願発明の効果について 本願明細書には以下の記載がある。 「【0082】 実施例3:高脂肪食餌で誘発された肥満マウスの肝組織の中性脂肪の蓄積に及ぼす影響 <3-1>実験動物の分類 6週齢のC57BL/6マウスを安静にして2群に分離し、それぞれ12週間にわたって飼料に含まれる脂肪が10%である一般飼料と、飼料に含まれる脂肪が60%である高脂肪飼料(製造:Research diets Inc.社,商品名:D12492)を供給した。このようにして正常マウスと高脂肪食餌で誘発された肥満マウスモデルを作成し、その後それを試験に用いた。各マウスは、GLP施設基準を満たす飼育室で照明時間12時間(午前6時点灯-午後6時消灯)を維持し、動物飼育の標準ガイドラインに従って管理した。その後、健康な高脂肪食餌で誘発された肥満マウスを選択し、実験室内での環境適応のために1週間の安静時間を経て薬物投与を開始した。投与は次のように4つの群に分けて行った。 【0083】 1群(一般飼料群):DULBECCO’S PHOSPHATE BUFFERED SALINE(Sigma)を週1回以上皮下投与した。5ml/kgの投与液量で注射した。 【0084】 2群(高脂肪飼料群):DULBECCO’S PHOSPHATE BUFFERED SALINE(Sigma)を週1回以上皮下投与した。5ml/kgの投与液量で注射した。 【0085】 3群(高脂肪飼料群に持続型エキセンジン-4誘導体3nmol/kg投与群):持続型エキセンジン-4誘導体(HM11260C)3nmol/kgを週1回皮下投与した。5ml/kgの投与液量で注射した。 【0086】 4群(高脂肪飼料群に持続型エキセンジン-4誘導体10nmol/kg投与群):持続型エキセンジン-4誘導体(HM11260C)10nmol/kgを週1回皮下投与した。5ml/kgの投与液量で注射した。 【0087】 各群は全て2週間にわたって食塩水または薬物を投与し、その後肝組織に蓄積された中性脂肪量を分析した。 【0088】 <3-2>高脂肪食餌で誘発された肥満マウスの肝組織の中性脂肪含有量の測定 上記実施例<3-1>で分類して持続型エキセンジン-4誘導体を投与した、または投与していない高脂肪食餌で誘発された肥満マウスの肝臓を抽出し、肝臓中の中性脂肪濃度を測定した。図2に示すように、高脂肪飼料群で肝組織の中性脂肪濃度は172.3mg/gと低脂肪飼料群(114.0mg/g)に比べて増加したが、持続型エキセンジン-4誘導体を高脂肪飼料と共に3nmol/kg投与した群では中性脂肪濃度が93mg/gと高脂肪飼料投与群に比べて46%減少した。これらの結果から、本発明による持続型エキセンジン-4誘導体は非アルコール性脂肪肝疾患に治療効果があることが確認された。」 「【図2】 [図:0001411610000004.jpg] 」 本願明細書の前記「実施例3:高脂肪食餌で誘発された肥満マウスの肝組織の中性脂肪の蓄積に及ぼす影響」(【0082】~【0088】、【図2】)では、高脂肪食餌で誘発された肥満マウス(当審注:糖尿を患っていない肥満モデル動物に相当する。)に持続型エキセンジン-4誘導体(HM11260C)を週1回2週間投与した群は、投与しなかった群よりも肝組織の中性脂肪濃度が有意に減少したことが示されている(特に、上記図2の*(「*」は、5本線のアスタリスクの意)(p<0.01)を参照。)。棒グラフの高さを比較して、当該実施例によって得られた前記減少の程度はおよそ25~45%程度である。 ここで、本願明細書の【0078】の記載から、「持続型エキセンジン-4誘導体(HM11260C)」は、「エキセンジン-4の1位のアミノ酸であるヒスチジンのα炭素を除去したイミダゾアセチル-エキセンジン-4とFc領域がPEGで連結されたCAエキセンジン-4-PEG-Fc結合体」と同義であり、該結合体の「免疫グロブリンFc領域」については、本願明細書の【0049】に、「本発明の薬物キャリアとして最も好ましい免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFc領域」と記載されていることに照らしてみれば、本願明細書の実施例3及び図2に示された結果は、本願発明の構成により奏される効果として参酌することができるものである。 続いて、本願明細書の実施例3の試験で示された効果は、引用文献7の記載から予測し得る範囲のものであるか検討する。ここに、引用文献7の図4C(前記第4の1(5))を再掲する。 「 [図:0001411610000005.jpg] 」 引用文献7には、高脂肪食誘発肥満C57BL/6Jマウス(前記第5の3で検討したとおり、糖尿を患っていない肥満モデル動物に相当する。)にエキセンジン-4を毎日10週間投与した群(上記図4C中の「HF+Ex-4」の群)は、投与しなかった群(同図中「HF」の群)よりもタンパク質濃度で正規化された肝トリグリセリドの値が、有意に減少したことが記載されている(p<0.01、特に、前記第4の1(6)の図4の説明も参照。)。棒グラフの高さを比較して、当該試験によって得られた前記減少の程度はおよそ30%である。 ここで、本願明細書の実施例3の試験と引用文献7の図4Cに係る試験とは、対象として糖尿を患っていない高脂肪食誘発肥満モデル動物を使用し、薬物としてエキセンジン-4の作用を有する薬物を使用した点で共通していることに照らして、本願【図2】に示された本願発明の効果である、「肝組織の中性脂肪濃度が有意に減少したこと」及び引用文献7の図4Cに記載された引用発明の効果である「タンパク質濃度で正規化された肝トリグリセリドの値が、有意に減少したこと」は、いずれも「中性脂肪の蓄積の防止」、「非アルコール性脂肪肝疾患の予防または治療」という作用を異なる指標で解析したものであるから、両者の効果は同質のものである。 さらに、効果の程度について検討するに、本願発明は、週1回2週間の投与でおよそ25~45%の減少効果、引用発明は、毎日10週間の投与でおよそ30%の減少効果を得ており、本願明細書の実施例3の試験で示された効果は、引用文献7の記載から予測し得る範囲のものである。 さらに、本願明細書の実施例3の試験に示された効果について、引用文献2の記載も併せて検討する。ここに、引用文献2の【図14】(前記第4の3(13))を再掲する。 「 [図:0001411610000006.jpg] 」 上記【図14】は、引用文献2の「実施例15.持続型エキセンディン-4のインビボ効力試験」(前記第4の3(12))の結果を開示するものであり、持続型エキセンジン-4の効力を血中グルコース濃度の低下効果で評価している。図中の凡例について、前記第4の3(12)の記載及び前記第4の3(10)に列記された持続型エキセンジン-4の名称に照らすと、【図14】の「Byetta」群は、天然型エキセンジン-4の毎日投与群、「HM11260C」群は、「CA-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fc」の単回投与群に該当し、これは、本願明細書の【0078】の記載と符合している。 図中、各時間における8本のグラフは、左から順に、凡例の上から順の群に対応しており、「エキセンジン-4」の毎日投与群は、左から2番目、「HM11260C」の単回投与群は、左から7番目のものである。そうすると、「HM11260C」の効果は、投与後1日目においては、「エキセンジン-4」より高いものの、投与後8日目には「エキセンジン-4」とおよそ同程度にまで減衰することが読み取れるから、本願明細書の実施例3のように「HM11260C」を週1回(7日に1回)投与すれば、エキセンジン-4の毎日投与よりも高い効果が得られることが予測できる。 そうすると、本願【図2】に示された本願発明の効果は、引用文献7及び引用文献2に記載された事項から予測できたことであるから本願発明の効果が格別顕著なものであるとはいえない。 以上のように、本願発明の構成により奏される効果は、引用発明及び引用文献2に記載された事項からみて、当業者の予測を超える格別なものとはいえない。 4 請求人の主張について (1) 請求人は、令和5年8月30日提出の意見書において、本願明細書に記載された【表1】(下に転記する)を根拠として、非ペプチジル重合体を「エキセンジン-4のN末端ではなく、Lys27位に結合させた場合、N末端に結合させた場合と比較して、in vitro活性が優れ、血中半減期が著しく優れることが確認されており、本発明は、部位特異的結合体の特定疾患に対する治療効果が優れていることを新たに見出し、提供するものである」旨を主張している。 本願明細書の【0071】の【表1】 [図:0001411610000007.jpg] 他方、引用文献2の「実施例14.持続型エキセンディン-4のインビトロ活性の測定」の実験結果として、【表1】(前記第4の3(10)、下に再掲する。)が記載されている。 「【表1】 [図:0001411610000008.jpg] 」 ここで、本願明細書の【0070】に記載されたエキセンジン-4持続型製剤の効力を測定する方法は、引用文献2の前記第4の3(9)に記載された持続型エキセンディン-4のインビトロ活性を測定する方法と、ラットのインスリノーマ細胞であるRIN-m5FをGLP-1、各濃度のエキセンジン-4と試験物質で処理し、試験物質による細胞内のシグナル(信号)伝達物質であるcAMPの発生程度を測定し、EC50値を求めて比較する試験である点で共通するから、両者は同じ細胞の現象を利用した測定方法であり、試験物質「エキセンジン-4」及び「エキセンジン-4(N)-PEG-Fc」の血中半減期及びインビトロ力価は、およそ同程度の数値が算出されている。 一方、エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fcの血中半減期は、本願明細書において、70.5時間とされており、エキセンジン-4(N)-PEG-Fcの61.5時間に比べて延長されているのに対し、引用文献2においては、それぞれ、61時間及び62時間であり、エキセンジン-4に対する非ペプチジル重合体の結合位置による差異はほとんどない。 しかしながら、エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fcのインビトロ力価は、本願明細書においては6.3%、引用文献2においては13.2%と算出されており、エキセンジン-4(N)-PEG-Fcの0.2%未満に比べて大きく改善したことは、本願明細書と引用文献2において共通している。 引用文献2には、非ペプチジル重合体の結合位置によって血中半減期は大きく変化しないとしても、非ペプチジル重合体をエキセンジン-4のLys27位に結合させた場合、N末端に結合させた場合と比較して特にインビトロ力価が大きく改善することが記載されていることから、本願明細書の【0071】及び【表1】に示されるin vitro活性が優れるという効果は、引用文献2の記載から予測できたことである。 そして、本願明細書において、請求人が上記意見書において主張する「部位特異的結合体の特定疾患に対する治療効果」について、例えば動物モデル等で非ペプチジル重合体をエキセンジン-4のLys27位に結合させた場合とN末端に結合させた場合との治療効果の差異を確認しているわけではないから、本願明細書の【表1】に示された血中半減期の差異によって、本願発明の部位特異的結合体の特定疾患に対する治療効果が奏されるとも認められない。 そうすると、非ペプチジル重合体を「エキセンジン-4のN末端ではなく、Lys27位に結合させた場合、N末端に結合させた場合と比較して」、「本発明は、部位特異的結合体の特定疾患に対する治療効果が優れている」という点については、引用文献2に記載された、又は、引用文献2の記載から予測できたことであって、本願明細書が新たに提供する知見ではない。 よって、請求人の当該主張は採用できない。 (2) 請求人は、同意見書において、上記引用文献2の【表1】を根拠として、「エキセンジン-4の様々な誘導体は、それぞれ異なる活性を有しており、それらが同じメカニズムを維持しているかどうかが全く予測不可であることは明らか」であり、「当業者が、患者の負担を軽減するために、引用文献7の天然型のエキセンジン-4の代わりに持続作用型の結合体を採用しよう」とするならば、「半減期が長く活性の高い天然型のエキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fc、または半減期が最も長いDM-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fc、または活性が最も高いDAエキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fcを選択することは明白」であり、本願発明の「CA-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fcを選択して、その優れた予想外の効果を得ることは困難」である旨を主張している。 ここに、引用文献2の【図14】(前記第4の3(13))を再掲する。 引用文献2の【図14】 「 [図:0001411610000009.jpg] 」 上記【図14】は、引用文献2の「実施例15.持続型エキセンディン-4のインビボ効力試験」(前記第4の3(12))の結果を開示するものであり、持続型エキセンジン-4の効力を血中グルコース濃度の低下効果で評価している。 図中、各時間の8本のグラフは、左から順に、凡例の上から順の群に対応し、「HM11260C」群は、「CA-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fc」の単回投与群に該当することは、前記3で検討したとおりである。 上記【図14】の投与後1日目の棒グラフについて、HMから始まる各種持続型エキセンジン-4投与群(同左から第3~8番目)は、いずれの薬剤も投与後1時間後においてByetta投与群(各時間に8本ある棒グラフの左から第2番目)と同程度又はより優れた効能を発揮することが把握できるが、時間経過に伴い、「HM11260C」群を除く単回投与の各種持続型エキセンジン-4投与群(各時間に8本ある棒グラフの左から第3~6、8番目)と毎日投与されるByetta群(同左から2番目)との差が拡大していることから、「HM11260C」を除く各種持続型エキセンジン-4の効果は、経時的に減衰していることが把握できる。 一方、上記【図14】の「HM11260C」群(各時間に8本ある棒グラフの左から第7番目)は、図の最右端の1回投与後10日の時点においても、Byetta投与1時間後(同左から2番目)と同程度の血中グルコース濃度を維持し続けているから、「効果が持続され」ていることが読み取れる。 そうすると、「HM11260C」群の効果の持続性は、他の持続型エキセンジン-4が投与された群の効果の持続性に劣っておらず、むしろ効果の持続性に最も優れているとも読み取れる。 そうすると、引用文献2の記載に接した当業者が、引用発明における天然型エキセンジン-4に代えて使用する持続作用型の結合体として、「HM11260C」であるところの「CA-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fc」を選択することが困難であるとはいえないし、むしろ、引用文献2の【図14】から生体内における効果の持続性に最も優れることが期待される「CA-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fc」を使用することを動機付けられるものである。 よって、引用文献2に記載された持続型エキセンジン-4の中から、本願発明の「CA-エキセンジン-4(Lys27)-PEG-Fcを選択して、その優れた予想外の効果を得ることは困難」である旨の請求人の主張は採用できない。 (3) また、請求人は、同意見書において、本願【図1】を示しつつ「本発明の特異的な結合体(エキセンジン-4の1位のアミノ酸であるヒスチジンのα炭素を除去したイミダゾアセチル-エキセンジン-4とFc領域がPEGで連結されたCAエキセンジン-4-PEG-Fc結合体(HM11260C))は、天然型エキセンジン-4であるBYETTA(登録商標)を注射した群と比較して、低用量で優れた脂肪肝治療効果を示すことが確認されてい」るとしている。 しかしながら、本願【図1】は、「実施例2:肥満動物モデルであるob/obマウスの脂肪肝形成に及ぼす影響」(【0073】~【0081】)の結果を開示するものであり、当該実施例に使用された「ob/obマウス」は、「肥満、糖尿病製剤の効能試験の際に一般に用いられる動物モデルであ」り(本願明細書の【0073】)、令和3年12月10日提出の手続補正書(方式)の5.の「引用文献1の…では、遺伝的要因で糖尿病及び肥満を発症すると知られているob/obマウス及びZDFラットに対する、持続性インスリン分泌ペプチド結合体による体重減少効果が示されている。…したがって、引用文献1においては、少なくとも糖尿病を患う肥満動物においては、「肝臓細胞における中性脂肪の蓄積」の防止が達成されると示唆されているといえる」という請求人の主張に鑑みれば、本願明細書の実施例2の「肥満動物モデルであるob/obマウス」も「少なくとも糖尿病を患う肥満動物」に該当するから、本願明細書の実施例2の結果である本願【図1】は、肥満患者を「肥満患者が糖尿を患っていない」と限定している本願発明の効果を裏付けるものとはいえない。 よって、本願明細書の実施例2とその結果を開示する【図1】を根拠として、本願発明が低用量で優れた脂肪肝治療効果を示す旨の請求人の主張は採用できない。 (4) よって、請求人の主張を参酌しても、上記1~3で説示した判断は左右されない。 5 したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献7に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2021-014769

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