特許拒絶査定不服審判
2022-019906
ヘッドマウントディスプレイのための反射型円偏光子
- 審判番号
- 2022-019906
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-568684
- 請求日
- 2022年12月08日
- 審決日
- 2024年03月25日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】メタ プラットフォームズ テクノロジーズ, リミテッド ライアビリティ カンパニー
- 【請求人代理人】弁理士法人World IP
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 安藤 達哉
- 審判官 秋田 将行
- 分類
- P18 .121-Z (G02B) / P18 .572-Z (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第29条、特許法第159条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-568684「ヘッドマウントディスプレイのための反射型円偏光子」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 2月13日国際公開、WO2020/032943、令和 3年11月25日国内公表、特表2021-532393〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)8月8日(優先権主張2018年(平成30年)8月7日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は、次のとおりである。
令和 4年 3月28日付け:拒絶理由通知書
同年 6月29日 :意見書・手続補正書の提出
同年 8月 8日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年12月 8日 :審判請求書・手続補正書の提出
第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年12月8日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正されることとなる(下線部は、補正箇所として請求人が付したものである。)。
「光学装置であって、
入射光を偏光させて第1の円偏光状態の光にするように構成された第1の偏光子と、
電圧源によって制御される第2の偏光子であって、前記第2の偏光子は、
前記第2の偏光子が前記電圧源から切断された状態において、
第2の円偏光状態の光を透過させ、
前記第1の円偏光状態の光を反射させるように構成され、前記第2の偏光子によって反射された前記光は、前記第1の円偏光状態にあり、かつ、
前記電圧源によって電圧信号が前記第2の偏光子に印加されると、
任意の円偏光状態の光を透過させるように構成されている、第2の偏光子と、
前記第1の偏光子と前記第2の偏光子との間に配置された部分反射器であって、
前記第1の偏光子からの光を透過させ、
前記第2の偏光子からの光を反射させるように構成され、前記部分反射器によって反射された前記光と前記第2の偏光子からの光とは異なる偏光状態を有する、部分反射器と、
を備え、
前記第2の偏光子は、らせん構造に配置された液晶分子を含むコレステリック液晶(CLC)円偏光子を含み、
前記らせん構造のピッチが徐々に変化する、光学装置。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和4年6月29日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「光学装置であって、
入射光を偏光させて第1の円偏光状態の光にするように構成された第1の偏光子と、
第2の偏光子であって、
第2の円偏光状態の光を透過させ、
前記第1の円偏光状態の光を反射させるように構成され、前記第2の偏光子によって反射された前記光は、前記第1の円偏光状態にある、第2の偏光子と、
前記第1の偏光子と前記第2の偏光子との間に配置された部分反射器であって、
前記第1の偏光子からの光を透過させ、
前記第2の偏光子からの光を反射させるように構成され、前記部分反射器によって反射された前記光と前記第2の偏光子からの光とは異なる偏光状態を有する、部分反射器と、
を備え、
前記第2の偏光子は、らせん構造に配置された液晶分子を含むコレステリック液晶(CLC)円偏光子を含み、
前記らせん構造のピッチが徐々に変化する、光学装置。」
2 補正の適否
(1)本件補正の目的
ア 特許法17条の2第5項2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」といえるか否かについて
以下のとおり、本件補正のうち、前記1で特定される事項(以下「本件補正事項」という。)に係る補正は、同条同項同号所定の「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」ではなく、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の「解決しようとする課題が同一であるもの」ともいえない。
(ア)本件補正事項に係る補正が「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」といえるか否かについて
前記1(1)によれば、本件補正は、「第2の偏光子」が、補正前は、「第2の円偏光状態の光を透過させ、前記第1の円偏光状態の光を反射させるように構成され、前記第2の偏光子によって反射された光は、前記第1の円偏光状態にある」(以下、このような「第2の偏光子」の状態を「偏光子状態」という。)ものであったのを、補正後は、(i)「電圧源によって制御される」ものであること、(ii)偏光子状態が「前記第2の偏光子が前記電圧源から切断された状態において」実現されること、(iii)「前記電圧源によって電圧信号が前記第2の偏光子に印加されると」、「任意の円偏光状態の光を透過させるように構成されている」こと、つまり、電圧信号が印加されると、「第2の偏光子」が、偏光子状態ではなく、偏光作用をもたない状態(以下「非偏光子状態」という。)となること、を備えるように変更する補正事項を含むものである。
このように、当該補正事項は、「第2の偏光子」について、偏光子状態のみをとり得るものとして特定していたのを、そもそも偏光子として作用しない非偏光子状態をもとり得るものとして特定しようとするものであることから、「第2の偏光子」という特定事項を限定するものとは言い難い。
したがって、当該補正事項に係る補正は、本件補正前の請求項に記載された発明の発明を特定するために必要な事項を限定するものとはいえない。
(イ)本件補正事項に係る補正が「解決しようとする課題が同一であるもの」に係るものといえるか否かについて
本件補正前の請求項1に記載された発明(以下「本件補正前発明」という。)が解決しようとする課題は、本件補正前発明に「第1の偏光子」、偏光子状態のみをとり得る「第2の偏光子」及び「部分反射器」が特定されているとともに、「第2の偏光子」が「コレステリック液晶(CLC)円偏光子」を含むことが特定されていることに照らせば、従来の光学系を使用して実装される場合、大型で重いものになり得る光学系について、反射光学素子を含む折り畳み光学系を使用して、大きな視野を有するコンパクトなHMDシステムを実装すること(本件補正前の明細書及び図面(以下「本件補正前明細書等」という。)の【0061】・【0003】)、さらには、このような折り畳み光学系において、偏光子及び波長板を用いると、これらが正確に位置合わせされていないことに起因してユーザの眼に表示される画像の品質が損なわれること(同【0068】・【0069】・【0081】)にあると認められる。
一方、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正後発明」という。)が解決しようとする課題は、本件補正事項に係る補正によって、前記(ア)のとおり、「第2の偏光子」が、電圧源から切断されると偏光子状態となり、電圧源によって電圧信号が印加されると非偏光子状態となることが特定されたことに照らせば、「第2の偏光子」に電圧信号が印加されると、任意の偏光状態の光が折り畳まれることなく通過することができることによって、折り畳み光学系がシースルーモードでも画像の品質を損なうことなく、表示モードおよびシースルーモードの両方に使用することができること(本件補正後の明細書及び図面(以下「本件補正後明細書等」という。)の【0019】・【0087】~【0090】)にあると認められる。
このように、本件補正前発明が解決しようとする課題は、コンパクトさや光学要素の位置合わせを不要にすることであったのに対し、本件補正後発明が解決しようとする課題は、折り畳み光学系がシースルーモードで画像の品質を損なうことを防ぐことをも含むものであることから、両者の課題が同一であるとは認められない。
なお、請求人は、本件補正後発明の課題が、光を折り畳む表示モードと、電圧源からの電圧信号の印加によるシースルーモード(本件補正後明細書等の【0100】等の記載によれば、「折り畳みレンズ系」において観念されるモードであり、要するに、反射型円偏光子(第2の偏光子)による反射を伴わず(同【0018】)、したがって、光が折り畳まれることなく透過するモードであると解される。)との間の迅速な切り替えを可能とすることにある旨主張する。しかしながら、そのようなことは本件補正後明細書等には記載されていない上、仮に、当該課題がそのようなものであるとしても、本件補正前発明には、シースルーモードの存在がそもそも特定されていないことから、本件補正前発明は、表示モードとシースルーモードとの迅速な切り替えを課題とした本件補正後発明とは、やはり、解決しようとする課題が同一であるとはいえない。
したがって、本件補正事項に係る補正は、「解決しようとする課題が同一であるもの」に係るものとはいえない。
(ウ)前記(ア)及び(イ)によれば、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものとはいえない。
イ 特許法17条の2第5項各号に掲げる請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明について
本件補正事項に係る補正が、これらを目的とするものではないことは明らかである。
ウ 本件補正の目的についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項各号に掲げる事項のいずれを目的としたものにも該当しないから、同項の規定に違反するものである。
(2)本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~16に係る発明は、令和4年6月29日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」といい、本件補正前発明と同じものである。)は、前記第2[理由]1(2)に記載した請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、次の理由を含むものである。
本願発明は、その出願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開2001-356295号公報
引用文献4.特開2006-64758号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5.国際公開第2018/062424号(周知技術を示す文献)
3 当審の判断
(1)引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
(ア)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に発行された引用文献1には、以下の事項が記載されている。下線は当合議体が付したものであり、他の引用文献についても同様である。
「【請求項1】 2次元表示素子に表示された映像を観察者眼に拡大虚像表示する接眼光学系であって、
前記観察者眼から順に、
非球面である第1面と略平面である第2面とより成る非球面樹脂レンズと、
第1面が凹面である球面ガラスレンズと、
前記球面ガラスレンズと2次元表示素子との間に配置され、該2次元表示素子からの映像光を円偏光に変換する偏光変換素子と、
を有し、
前記非球面樹脂レンズの第2面上には、前記2次元表示素子からの映像光の円偏光の回転方向により選択的に反射,透過する円偏光選択反射透過面が形成されており、前記球面ガラスレンズの第1面に半透過鏡面が形成されている事を特徴とする接眼光学系。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、接眼光学系に関するものであり、例えば、液晶表示素子等の表示パネルに表示される2次元映像を観察者の瞳に投影してその拡大虚像を観察させる、各種カメラのビューファインダーやヘッドマウンテッドディスプレイ等の、パーソナルな映像表示装置に好適な接眼光学系に関するものである。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、通常の共軸系の屈折光学系よりも薄型で収差の小さい接眼光学系を実現するためには、レンズ材料及び非球面と球面との位置について検討する事が望ましいが、このような課題について言及しているものは、従来にはなかった。本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、従来より全長が短く薄型で、高品位な虚像表示が可能な接眼光学系を提供する事を目的とする。」
「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の接眼光学系の、第1の実施形態の基本構成を模式的に示す図である。同図に示すように、2次元表示素子4からの映像光Lは、偏光変換素子5によって特定の一方向の円偏光に変換され、第2レンズである球面ガラスレンズ3の第2面3bより入射して、球面ガラスレンズ3、及びその第1面3aに形成された半透過鏡面7を屈折透過した後に、第1レンズである非球面樹脂レンズ2の第2面2bに到達する。
【0010】非球面樹脂レンズ2の第2面2bには、円偏光選択反射透過面6が形成されており、ここでは前記偏光変換素子5からの特定の一方向の円偏光を、回転方向を変化させる事なく反射する。ここで反射された円偏光は、一部が前記球面ガラスレンズ3の第1面3aに形成された半透過鏡面7で反射され、回転方向が反対方向となって、再び前記非球面樹脂レンズ2の第2面2bに到達する。
【0011】前記回転方向が反対方向となった円偏光は、非球面樹脂レンズ2の第2面2bに形成された円偏光選択反射透過面6を透過し、非球面樹脂レンズ2で屈折作用を受けた後、第1面2aより射出して観察者眼1に導かれる。このように、半透過鏡面7が正のパワーの反射面として効果的に機能する事によって、通常の共軸系の屈折光学系よりも薄型で小さい接眼光学系を実現する事ができる。
【0012】前述したように、この光学系においては、円偏光である映像光の偏光方向により、円偏光選択反射面6において選択的に反射,透過が行われる事によって正しく機能する。従って、偏光変換素子5と円偏光選択反射透過面6との間に複屈折性を持つ光学素子があると、映像光の損失が大きくなるだけでなく、観察者眼1にゴースト光が入射する等の不具合が発生する。
【0013】そこで、半透過鏡面7が形成されている第2レンズは、樹脂製ではなく複屈折性の小さいガラス製である事が望ましい。一般に、ガラスレンズに非球面を設ける事は、面精度上においても製造コスト上においても問題が多いので、本発明では、第2レンズとして両面とも球面研磨された球面ガラスレンズ3を使用している。そして、第1レンズである非球面樹脂レンズ2の第1面2aに設けられた非球面で、効果的に収差補正を行っている。
【0014】また、第1レンズは、複屈折性の大きい樹脂性レンズであっても、前述のような問題は発生しないので、製造が容易で安価な非球面モールドレンズを非球面樹脂レンズ2として用いている。但し、非球面樹脂レンズ2の第2面2bには、円偏光選択反射透過面6として機能する後述のコレステリック液晶等の円偏光選択反射素材を表面に接合する必要があるため、平面または光学的に実質平面であるような緩やかな曲面でなければならない。」
「【0021】図3は、円偏光選択反射透過面の構成を説明する図である。同図(a)は図2で示した非球面樹脂レンズ12と球面ガラスレンズ13の配置構成を示しており、非球面樹脂レンズ12の第2面12bに形成された円偏光選択反射透過面16のA部断面を拡大表示したものが同図(b)である。円偏光選択反射透過面16は、このように反射型偏光板21と1/4波長板22とを接合する事により構成する事ができる。或いは、カイラル構造を持ち、特定の一方向の円偏光を反射してその反対方向の円偏光を透過する、コレステリック液晶を用いても良い。
【0022】同図に示すように、反射型偏光板21を観察者眼側にして、非球面樹脂レンズ12の第2面12bに接合する構造とすれば、前述のコレステリック液晶と同様の効果が得られる。以上説明した円偏光選択反射透過面の構成は、図1で示した第1の実施形態においても同様である。」
「【0032】図6,図7は、実施例1,実施例2にそれぞれ対応する収差図であり、各々左から順に、球面収差,非点収差,歪曲収差を示している。球面収差図において、縦軸は瞳(観察者眼)への入射高さをその最大高さで規格化した値(即ち入射瞳平面を切る相対高さ)であり、横軸は焦点位置(近軸結像位置からの光軸方向のズレ量)(mm)である。そして、ラインcはc線(波長656.3nm)に対する球面収差量、ラインdはd線(波長587.6nm)に対する球面収差量、ラインgはg線(波長435.8nm)に対する球面収差量をそれぞれ表している。
【0033】非点収差図において、縦軸は像高(mm)であり、横軸は焦点位置(近軸結像位置からの光軸方向のズレ量)(mm)である。そして、実線はサジタル面での非点収差であり、ラインS1はc線(波長656.3nm)に対する非点収差量、ラインS2はd線(波長587.6nm)に対する非点収差量、ラインS3はg線(波長435.8nm)に対する非点収差量をそれぞれ表している。また、点線はタンジェンシャル面での非点収差であり、ラインT1はc線(波長656.3nm)に対する非点収差量、ラインT2はd線(波長587.6nm)に対する非点収差量、ラインT3はg線(波長435.8nm)に対する非点収差量をそれぞれ表している。
【0034】歪曲収差図において、縦軸は像高(mm)であり、横軸は歪曲率(%)である。そして、ラインcはc線(波長656.3nm)に対する歪曲率、ラインdはd線(波長587.6nm)に対する歪曲率、ラインgはg線(波長435.8nm)に対する歪曲率をそれぞれ表している。
【0035】図8,図9は、実施例1,実施例2にそれぞれ対応する横収差図であり、左がタンジェンシャル面、右がサジタル面での横収差をそれぞれ示している。各図において、縦軸は収差量(mm)であり、横軸は瞳位置である。そして、ラインcはc線(波長656.3nm)に対する横収差量、ラインdはd線(波長587.6nm)に対する横収差量、ラインgはg線(波長435.8nm)に対する横収差量をそれぞれ表している。また、(a)~(e)は各画角における場合を示している。」
「
[図:0001413762000001.jpg]
」
(イ)引用発明の認定
前記(ア)に摘記した引用文献1の記載事項によれば、引用文献1には、図1に示される接眼光学系について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、引用発明の認定に用いた段落番号等を参考までに括弧内に付してある。
<引用発明>
「2次元表示素子に表示された映像を観察者眼に拡大虚像表示する接眼光学系であって、
前記観察者眼から順に、
非球面である第1面と略平面である第2面とより成る非球面樹脂レンズと、
第1面が凹面である球面ガラスレンズと、
前記球面ガラスレンズと2次元表示素子との間に配置され、該2次元表示素子からの映像光を円偏光に変換する偏光変換素子と、を有し、
前記非球面樹脂レンズの第2面上には、前記2次元表示素子からの映像光の円偏光の回転方向により選択的に反射、透過する円偏光選択反射透過面が形成されており、前記球面ガラスレンズの第1面に半透過鏡面が形成されており、(請求項1)
2次元表示素子4からの映像光Lは、偏光変換素子5によって特定の一方向の円偏光に変換され、第2レンズである球面ガラスレンズ3の第2面3bより入射して、球面ガラスレンズ3、及びその第1面3aに形成された半透過鏡面7を屈折透過した後に、第1レンズである非球面樹脂レンズ2の第2面2bに到達し、(【0009】)
非球面樹脂レンズ2の第2面2bには、円偏光選択反射透過面6が形成されており、ここでは前記偏光変換素子5からの特定の一方向の円偏光を、回転方向を変化させる事なく反射し、ここで反射された円偏光は、一部が前記球面ガラスレンズ3の第1面3aに形成された半透過鏡面7で反射され、回転方向が反対方向となって、再び前記非球面樹脂レンズ2の第2面2bに到達し、(【0010】)
前記回転方向が反対方向となった円偏光は、非球面樹脂レンズ2の第2面2bに形成された円偏光選択反射透過面6を透過し、非球面樹脂レンズ2で屈折作用を受けた後、第1面2aより射出して観察者眼1に導かれ、(【0011】)
コレステリック液晶が円偏光選択反射透過面6として機能し、(【0014】)
コレステリック液晶は、特定の一方向の円偏光を反射してその反対方向の円偏光を透過する、(【0021】)
接眼光学系」
イ 引用文献4及び5に記載された事項と周知技術の認定
(ア)引用文献4の記載事項
原査定において周知技術を示す文献として引用された、本願の優先日前に発行された文献である引用文献4には、次の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には偏光板が用いられている。この偏光板を通過する光は、一方向の偏光だけである。従って偏光板を通過する光は入射光の50%を上回ることが理論上不可能である。液晶パネルへの入射光の利用効率を上げて、液晶表示装置の輝度を増大させるためのフィルムとして輝度向上フィルムが知られている。この輝度向上フィルムは入射光を偏光状態に応じて透過光と反射光に分離するための偏光分離膜から構成され、偏光分離膜で反射された光を反射板等で反射して偏光分離膜に再入射して、光の再利用を図るために用いられている。
【0003】
この偏光分離膜には、異方性ポリマー層を多数積層した直線偏光分離膜(例えば特許文献1参照)や、コレステリック液晶層を用いた円偏光分離膜(例えば特許文献2,特許文献3及び特許文献4参照)などが知られている。これらの内、直線偏光分離膜は数百層もの異方性ポリマー層を積層する必要があり、非常に高価である。
【0004】
後者の円偏光分離膜は、分子がおおよそ一定方向を向く性質を有するネマティック液晶の特性に加え螺旋構造を持つ相、いわゆるコレステリック相の液晶層を有する。このコレステリック相は円偏光を螺旋構造の回転方向に応じて透過光と反射光に分離する特性を有しており、円偏光分離膜はこの特性を利用したものである。単なるコレステリック相の液晶層からなる円偏光分離膜は選択反射の波長領域が数十nmの幅しかないので、輝度向上フィルム用の円偏光分離膜は可視光全域に渡って円偏光分離を行なうために反射領域を可視域において広帯域化している。
【0005】
広帯域化の手法としては、(方法1)異なる選択反射帯域を有する液晶層を複数積層する方法、(方法2)コレステリック液晶層の螺旋ピッチを厚み方向に徐々に変化した構造にする方法等が知られている。しかしながら、いずれの方法も生産性・コストに関しては課題を残しているのが現状である。」
(イ)引用文献5の記載事項
原査定において周知技術を示す文献として引用された、本願の優先日前に発行された文献である引用文献5には、次の記載がある。
「[0002] 液晶表示装置(以下、LCDとも言う)などのフラットパネルディスプレイは、消費電力が小さく、省スペースの画像表示装置として年々その用途が広がっている。液晶表示装置は、バックライト(以下、BLとも言う)、バックライト側偏光板、液晶セル、視認側偏光板などをこの順で設けられた構成となっている。
近年のフラットパネルディスプレイ市場において、LCD性能改善として省電力化、高精細化及び色再現性向上のための開発が進んでいる。これらの性能改善は特にタブレットPCやスマートフォンなどの小型サイズの液晶表示装置で顕著にみられる。
一方、TV(Television)用途を扱う大型サイズにおいては、次世代ハイビジョン(4K2K、EBU比100%以上)の開発が進められており、小型サイズ同様の性能改善として省電力化、高精細化及び色再現性向上のための開発が進んでいる。そのため、液晶表示装置の省電力化、高精細化、色再現性向上がますます求められている。
[0003] バックライトの省電力化に伴い、バックライトとバックライト側偏光板の間に反射偏光子を設けることが提案されている。反射偏光子は、あらゆる方向に振動しながら入射する光のうち、特定の偏光方向に振動する光のみを透過させて、他の偏光方向に振動する光は反射する光学素子である。これにより、反射偏光子で透過せず反射する光をリサイクルすることができ、LCDにおける光利用効率を改善できる。
[0004] このような反射偏光子として、コレステリック液晶相を固定化してなる層を積層した構成が採用されている。コレステリック液晶相は、その螺旋のピッチに応じた波長での円偏光反射性を示すため、ピッチの異なる複数層を積層して反射波長領域を広帯域化することが可能である。例えば、特開平1-133003号公報には、λ/4板とコレステリック液晶相を固定化してなる層を積層した構成の反射偏光板、コレステリック液晶相のピッチの異なる3層以上のコレステリック液晶相を固定化してなる層により、反射波長領域を広帯域化することで、BLの光利用率を向上させる技術が記載されている。
[0005] ここで、λ/4板とコレステリック液晶相を固定化してなる層を積層した構成の反射偏光板を液晶表示装置に組み込んだときには、コレステリック液晶相及びλ/4板の光学的特性に起因する、斜め方向から見た際の色味変化が発生しやすいことが知られている。
これに対し、特許第3518660号公報ではコレステリック液晶相のピッチを光の入射側を短ピッチにする方法、及び面内の屈折率よりも垂直方向の屈折率の大きい補償層を設けることが提案されている。また、国際公開第2008/016056号ではλ/4板の厚み方向のレターデーションを0未満にする方法が提案されている。
[0006] その他のコレステリック液晶相を固定化してなる層を用いた偏光板としては、反射帯域を広帯域化するために、ピッチの異なる層を多数設ける方法、または、徐々にピッチを変化させる方法が提案されている。」
「[0039] 上記のように構成することによって、青緑赤それぞれの反射偏光子の反射帯域を拡大することができる。この反射帯域の拡大には、コレステリック液晶相の螺旋ピッチが徐々に変化することで、広い半値幅を実現できるピッチグラジエント法を用いることができる。ピッチグラジエント法に関しては1995年(Nature 378、467-469 1995)や特開平6-281814号公報や特許4990426号記載の方法により実現できる。三つの光反射層がいずれもコレステリック液晶相を固定化してなる反射偏光子である。」
(ウ)周知技術の認定
引用文献4及び引用文献5に例示されるように、次の技術的事項は周知技術であったと認められる。
<周知技術>
「表示装置の光学部材としてコレステリック液晶を用いる際に、コレステリック液晶の反射帯域を拡大するために、コレステリック液晶層のらせん構造のピッチが徐々に変化した構造にすること」
(2)対比
ア 本願発明と引用発明の対比
(ア)本願発明が「光学装置」の発明である点について
引用発明の「接眼光学系」は、本願発明の「光学装置」に相当するから、本願発明と引用発明は、「光学装置」の発明である点で一致する。
(イ)本願発明の「入射光を偏光させて第1の円偏光状態の光にするように構成された第1の偏光子と、」との特定事項について
a 引用発明の「偏光変換素子5」は、「該2次元表示素子からの映像光を円偏光に変換する」ものであるから、本願発明の「第1の偏光子」に相当する。
b そして、引用発明の「偏光変換素子5」は、前記aのとおり「2次元表示素子からの映像光を円偏光に変換する」ものであるところ、このことは、本願発明の「第1の偏光子」が、「入射光を偏光させて円偏光状態の光にするように構成された」ことに相当する。また、引用発明では、「2次元表示素子4からの映像光Lは、偏光変換素子5によって特定の一方向の円偏光に変換され」るところ、当該「特定の一方向の円偏光」は、本願発明の「第1の円偏光状態」に相当する。
c よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備えている。
(ウ)本願発明の「第2の偏光子であって、第2の円偏光状態の光を透過させ、前記第1の円偏光状態の光を反射させるように構成され、前記第2の偏光子によって反射された前記光は、前記第1の円偏光状態にある、第2の偏光子と、」との特定事項について
a 引用発明の「円偏光選択反射透過面6」は、本願発明の「第2の偏光子」に相当する。
b そして、引用発明の「円偏光選択反射透過面6」は、「前記偏光変換素子5からの特定の一方向の円偏光を、回転方向を変化させる事なく反射[する]」ところ、このことは、本願発明の「第2の偏光子」が、「前記第1の円偏光状態の光を反射させるように構成され、前記第2の偏光子によって反射された前記光は、前記第1の円偏光状態にある」ことに相当する。
c また、引用発明の「円偏光選択反射透過面6」は、「回転方向が反対方向となった円偏光は、」「透過[する]」ところ、このことは、本願発明の「第2の偏光子」が、「第2の円偏光状態の光を透過させ[る]」ことに相当する。そして、このとき、引用発明の「回転方向が反対方向となった円偏光」は、本願発明の「第2の円偏光状態」に相当する。
d よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備えている。
(エ)本願発明の「前記第1の偏光子と前記第2の偏光子との間に配置された部分反射器であって、前記第1の偏光子からの光を透過させ、前記第2の偏光子からの光を反射させるように構成され、前記部分反射器によって反射された前記光と前記第2の偏光子からの光とは異なる偏光状態を有する、部分反射器と、を備え、」との特定事項について
a 引用発明の「半透過鏡面7」は、本願発明の「部分反射器」に相当する。
b また、引用発明は、「前記観察者眼から順に、非球面である第1面と略平面である第2面とより成る非球面樹脂レンズと、第1面が凹面である球面ガラスレンズと、前記球面ガラスレンズと2次元表示素子との間に配置され、該2次元表示素子からの映像光を円偏光に変換する偏光変換素子と、を有し、前記非球面樹脂レンズの第2面上には、前記2次元表示素子からの映像光の円偏光の回転方向により選択的に反射、透過する円偏光選択反射透過面が形成されており、前記球面ガラスレンズの第1面に半透過鏡面が形成されて」いるから、「半透過鏡面7」は、「偏光変換素子5」と「円偏光選択反射透過面6」との間に配置されているといえ、このことは、本願発明の「部分反射器」が「前記第1の偏光子と前記第2の偏光子との間に配置された」ことに相当する。
c 引用発明の「半透過鏡面7」は、「偏光変換素子5によって特定の一方向の円偏光に変換され」た「映像光L」を、「屈折透過」するところ、このことは、本願発明の「部分反射器」が、「前記第1の偏光子からの光を透過させ」ることに相当する。
d 引用発明の「半透過鏡面7」は、「円偏光選択反射透過面6」「で反射された円偏光」を、一部「反射」するところ、このことは、本願発明の「部分反射器」が、「前記第2の偏光子からの光を反射させるように構成され」ることに相当する。
e 引用発明は、「円偏光選択反射透過面6」「では前記偏光変換素子5からの特定の一方向の円偏光を、回転方向を変化させる事なく反射し、ここで反射された円偏光は、一部が」「半透過鏡面7で反射され、回転方向が反対方向となって、再び前記非球面樹脂レンズ2の第2面2bに到達[する]」ところ、「円偏光選択反射透過面6」から「半透過鏡面7」に向かう光は、「特定の一方向の円偏光」であり、「半透過鏡面7」によって反射された光は、当該「特定の一方向の円偏光」と「回転方向が反対方向」の円偏光であるといえる。
すなわち、引用発明の「半透過鏡面7」によって反射された光と、「円偏光選択反射透過面6」から「半透過鏡面7」に向かう光は、それぞれ、特定の一方向の円偏光と回転方向が反対方向の円偏光と、特定の一方向の円偏光であり、このことは、本願発明でいう「前記部分反射器によって反射された前記光と前記第2の偏光子からの光とは異なる偏光状態を有する」ことに相当する。
f よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備えている。
(オ)本願発明の「前記第2の偏光子は、らせん構造に配置された液晶分子を含むコレステリック液晶(CLC)円偏光子を含み、」との特定事項について
a 引用発明は、「コレステリック液晶」を備えるところ、コレステリック液晶が、らせん構造に配置された液晶分子を含むことは技術常識である。そして、引用発明の「コレステリック液晶」は、「特定の一方向の円偏光を反射してその反対方向の円偏光を透過する」ところ、前記技術常識を踏まえると、本願発明の「らせん構造に配置された液晶分子を含むコレステリック液晶(CLC)円偏光子」に相当する。
b そして、引用発明は「コレステリック液晶が円偏光選択反射透過面6として機能[する]」ことから、引用発明の「円偏光選択反射透過面6」は、「コレステリック液晶」を含むといえる。
c よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備えている。
(カ)本願発明の「前記らせん構造のピッチが徐々に変化する」との特定事項について
引用発明が上記特定事項を備えるかは不明である。
イ 一致点及び相違点の認定
前記アによれば、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
(ア)一致点
「光学装置であって、
入射光を偏光させて第1の円偏光状態の光にするように構成された第1の偏光子と、
第2の偏光子であって、
第2の円偏光状態の光を透過させ、
前記第1の円偏光状態の光を反射させるように構成され、前記第2の偏光子によって反射された前記光は、前記第1の円偏光状態にある、第2の偏光子と、
前記第1の偏光子と前記第2の偏光子との間に配置された部分反射器であって、
前記第1の偏光子からの光を透過させ、
前記第2の偏光子からの光を反射させるように構成され、前記部分反射器によって反射された前記光と前記第2の偏光子からの光とは異なる偏光状態を有する、部分反射器と、
を備え、
前記第2の偏光子は、らせん構造に配置された液晶分子を含むコレステリック液晶(CLC)円偏光子を含む、光学装置。」である点。
(イ)相違点
「第2の偏光子」を構成する「らせん構造に配置された液晶分子を含むコレステリック液晶(CLC)円偏光子」が、本願発明は、「前記らせん構造のピッチが徐々に変化する」ものであるのに対し、引用発明は、前記ア(オ)aで説示した技術常識を踏まえると、らせん構造に配置された液晶分子を含むといえるものの、当該らせん構造のピッチが徐々に変化するかは不明である点。
(3)判断
ア 相違点についての検討
「表示装置の光学部材としてコレステリック液晶を用いる際に、コレステリック液晶の反射帯域を拡大するために、コレステリック液晶層のらせん構造のピッチが徐々に変化した構造にすること」は周知技術である(前記(1)イ(ウ)参照)。
引用発明は、「2次元表示素子に表示された映像を観察者眼に拡大虚像表示する接眼光学系」であって、「コレステリック液晶」を「円偏光選択反射透過面6として機能」させるところ、引用発明を開示する引用文献1の【0032】~【0035】に記載されているように、c線(波長656.3nm)、d線(波長587.6nm)及びg線(波長435.8nm)に対する球面収差量、非点収差量、歪曲率及び横収差量を評価していることから、広い帯域の波長に対して「コレステリック液晶」を「円偏光選択反射透過面6として機能」させるものといえる。そうすると、引用発明から出発した当業者にとって、当該「コレステリック液晶」の反射帯域を拡大するために、上記周知技術を適用して、当該「コレステリック液晶」のらせん構造のピッチが徐々に変化した構造にすることは、容易である。
したがって、引用発明において、前記周知技術を適用して、上記相違点に係る本願発明の構成をなすことは当業者が容易に想到し得たことである。
イ 本願発明の効果について
上記相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明及び周知技術から予測される程度のものにすぎず、予測困難かつ格別顕著な効果を認めることはできない。
ウ 請求人の主張について
請求人は、らせん構造のピッチを徐々に変化させることで、広い反射帯域が得られるとの優れた技術的効果が奏される旨主張するが、前記(1)イ及びアで検討したとおりである。
(4)小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
以上によれば、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-019906