特許拒絶査定不服審判
2023-001285
光学フィルム
- 審判番号
- 2023-001285
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-119680
- 請求日
- 2023年01月25日
- 審決日
- 2024年01月05日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】住友化学株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人深見特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 宮澤 浩
- 審判官 清水 康司
- 分類
- P18 .121-Z (G02B) / P18 .572-Z (G02B) / P18 .575-Z (G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-119680「光学フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月17日出願公開、特開2019- 8293〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年6月25日(先の出願による優先権主張 平成29年6月27日)の出願であって、令和4年3月4日付けの拒絶理由の通知に対し、同年7月14日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年10月17日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して令和5年1月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。
第2 令和5年1月25日の手続補正についての補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年1月25日の手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正前の請求項1に係る発明
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、令和4年7月14日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「 【請求項1】
樹脂(A)及び光選択吸収化合物(B)を含む樹脂組成物から形成される光学フィルムであって、
樹脂(A)は、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂及びシクロオレフィン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂であり、
下記式(1)及び下記式(2’)を満たすことを特徴とする光学フィルム。
A(405)≧0.5 (1)
A(440)≦0.04 (2’)
[式(1)中、A(405)は波長405nmにおける吸光度を表す。
式(2’)中、A(440)は波長440nmにおける吸光度を表す。]」
(2)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、令和5年1月25日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「 【請求項1】
樹脂(A)及び光選択吸収化合物(B)を含む樹脂組成物から形成される光学フィルムであって、
樹脂(A)は、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂及びシクロオレフィン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂であり、
光選択吸収化合物(B)は、下記に示す式(I-A-1)、式(I-B-1)、式(I-B-2)、式(I-C)、式(I-D)、又は式(I-E)で表される化合物であり、
下記式(1)及び下記式(2’)を満たすことを特徴とする光学フィルム。
A(405)≧0.5 (1)
A(440)≦0.04 (2’)
[式(1)中、A(405)は波長405nmにおける吸光度を表す。
式(2’)中、A(440)は波長440nmにおける吸光度を表す。]
【化1】
[図:0001407468000001.jpg]
[式(I-A-1)中、
R1及びR5は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~25のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数7~15のアラルキル基、炭素数6~15のアリール基、複素環基を表し、該アルキル基又はアラルキル基に含まれる-CH2-は-NR1A-、-CO-、-SO2-、-O-又は-S-に置換されていてもよい。
R1Aは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。
R4は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、該アルキル基に含まれる-CH2-は-NR1B-、-CO-、-SO2-、-O-又は-S-で置換されていてもよい。
R1Bは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。
R6及びR7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~25のアルキル基又は電子吸引性基を表すか、R6及びR7が互いに連結して環構造を形成してもよい。
A1は、-CH2-、-O-、-S-又は-NR1D-を表す。
R1Dは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。
R14及びR15は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~12のアルキル基を表す。]
【化2】
[図:0001407468000002.jpg]
[式(I-B-1)中、
R1、R6及びR7は、それぞれ上記と同じ意味を表す。
R16は、水素原子、炭素数1~12のアルキル基又はアリール基を表す。]
【化3】
[図:0001407468000003.jpg]
[式(I-B-2)中、
R3は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、該アルキル基に含まれる-CH2-は-NR1B-、-CO-、-SO2-、-O-又は-S-で置換されていてもよい。
R1B、R5、R6及びR7は、それぞれ上記と同じ意味を表す。
R30は、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、メルカプト基、アミノ基、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~18の芳香族炭化水素基、炭素数2~13のアシル基、炭素数2~13のアシルオキシ基又は炭素数2~13のアルコキシカルボニル基を表す。
R31は、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、メルカプト基、炭素数1~12のアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアミノ基又は複素環基を表す。]
【化4】
[図:0001407468000004.jpg]
[式(I-C)中、
R1、R5及びR7は、それぞれ上記と同じ意味を表す。
R21及びR22は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~12のアルキル基又はヒドロキシ基を表す。
X2及びX3は、それぞれ独立して、-CH2-又は-N(R25A)=を表す。
R25Aは、水素原子、炭素数1~25のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。]
【化5】
[図:0001407468000005.jpg]
[式(I-D)中、
R4、R5及びR7は、それぞれ上記と同じ意味を表す。
R25、R26、R27及びR28は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1~12のアルキル基、ヒドロキシ基又はアラルキル基を表す。]
【化6】
[図:0001407468000006.jpg]
[式(I-E)中、
R2は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、該アルキル基に含まれる-CH2-は-NR1B-、-CO-、-SO2-、-O-又は-S-で置換されていてもよい。
R1、R3、R4、R5及びR1Bは、それぞれ上記と同じ意味を表す。
環W3は、環状化合物を表す。]」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である光選択吸収化合物(B)について、「式(I-A-1)、式(I-B-1)、式(I-B-2)、式(I-C)、式(I-D)、又は式(I-E)で表される化合物」であるとする要件を付加する補正事項を含むものである。
上記補正事項は、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「光選択吸収化合物(B)」の範囲に限定を加えるものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
3 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。
4 引用文献
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され、先の出願前に頒布された引用文献である、特開2004-102223号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定及び判断に用いた箇所に下線を付した。
ア 技術分野
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、太陽光及び照明器具から発生する紫外線及び一部の可視光を遮断(カット)する有機エレクトロルミネッセンス(以下「有機EL」という)ディスプレイ素子用フィルターに関する。」
イ 発明が解決しようとする課題
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、発光材料やカラーフィルターの外光による耐久性の低下を軽減し得る有機ELディスプレイ素子用フィルター、有機ELディスプレイ素子、および有機ELディスプレイパネルを提供することにある。」
ウ 課題を解決するための手段
「【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、有機発光材料は、紫外線によって劣化するとの知見を得た。そして、紫外線を遮断するフィルターを設けることで、光耐久性効果が最もよくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の目的は、以下の有機ELディスプレイ素子用フィルター、有機ELディスプレイ素子、及び有機ELディスプレイパネルにより達成される。
(1)300~390nmの光を遮断することを特徴とする有機ELディスプレイ素子用フィルター。
(2)300~410nmの光を遮断することを特徴とする有機ELディスプレイ素子用フィルター。…
(7)前記フィルターが、蛍光増白剤及び/又は紫外線吸収剤を含有する支持体もしくは層を少なくとも一層有することを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の有機ELディスプレイ素子用フィルター。…
【0012】
…
さらに、本明細書において「光を遮断するフィルター」とは、少なくとも波長300~410nmの紫外光及び一部の可視光を吸収して遮断する機能を有するフィルターをいい、実施例における光吸収フィルターと同義である。」
エ 発明の実施の形態
「【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の有機ELディスプレイ素子用フィルターは、410nm以下の光を遮断する(以下「光遮断フィルター」という)ことを特徴とするフィルターである。前記光遮断フィルターは、例えば、視認側の表面より入射する外部からの紫外光及び一部の可視光(太陽光に含まれる紫外線及び一部の可視光のみならず、蛍光灯などから発生する紫外線及び一部の可視光成分も含む)に対し、有機発光材料やカラーフィルターを防護する機能を有する。前記光遮断フィルターは、例えば、視認側の基板上に配置することができるものをさす。すなわち、前記光遮断フィルターは、支持体の上に光吸収層を設けたものでも良いし、前記支持体を介さずに直接有機ELディスプレイ基板等に設けたものでも良い。また、前記光遮断フィルターは、410nm以下の光を吸収することで遮断しても良いし、反射することで遮断しても良い。
【0014】
前記光遮断フィルターは、410nm以下の光を吸収又は反射して遮断するが、その波長域に幅があるほどその効果は高くなるが、遮断する波長域が可視領域付近にまで達すると着色してしまう傾向がある。本発明では、紫外光(一般的には、300~400nm程度)及び紫外光よりわずかに長波長である405nm~410nmの光を、すそ切れよく遮断する、光遮断フィルターを用いるのが好ましい。このような吸収特性を示す光吸収層を形成することで、着色を目立たせずに、より優れた光耐久性効果を奏する。
【0015】
具体的には、前記光遮断フィルターは、波長410nm以下(好ましくは波長200~390nm又は波長200~410nm、さらに好ましくは波長300~390nm又は波長300~410nm)の光に対する吸収率が90%以上であることが好ましい。また、前記光遮断フィルターは、波長410~780nmの光に対する吸収率が5%以下であるのが好ましく、波長440nm~750nmの光に対する透過率が90%以上であるのがより好ましい。さらに波長410nm以下の吸収率が90%以上で、波長410~780nmの吸収率が5%以下であるのがより好ましい。
【0016】
本発明において、前記光遮断フィルターは、蛍光増白剤及び/又は紫外線吸収剤、好ましくは蛍光増白剤及び紫外線吸収剤の両方を含有することができる。ここで、蛍光増白剤とは、約320~約410nmの全ての波長または一部の光を吸収して、約410~約500nmの範囲にある波長の光を放射する性質を有する化合物をいう。これらの蛍光増白剤で染められた織物は本来の黄色い反射光のほかに、新たに蛍光増白剤により発光される約410~約500nmの波長の青色光が付加されるため、反射光は白色になり、かつ蛍光効果による分だけ可視光のエネルギーが増加するため結果として増白されたことになる。
一方、紫外線吸収剤とは、約300~約410nmの波長の光を吸収しても、約410~約500nmの波長の光を放射する性質を持たない化合物を指し、前記蛍光増白剤とは異なる。一般的に、紫外線吸収剤は吸収した光を熱に変換する性質を有する化合物である。…
【0017】
前記蛍光増白剤及び紫外線吸収剤は、有機材料であっても無機材料であってもよい。前記蛍光増白剤及び紫外線吸収剤は、通常市販されているもの、又は新規物質の中から耐光性などに基づいて任意に選択することができる。またそれらを任意に混合して用いてもよい。
前記蛍光増白剤の具体例としては、下記の構造式1~16で表される化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。…
【0022】
さらに下記一般式(I)で表される化合物も、蛍光増白剤として好ましい。
【0023】
【化5】
[図:0001407468000007.jpg]
…
【0032】
前記一般式(I)で表される化合物は、好ましくは下記一般式(II)で表される化合物である。
【0033】
【化8】
[図:0001407468000008.jpg]
…
【0035】
以下、前記一般式(II)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明は以下の具体例によって何ら制限されるものではない。
【0036】
【化9】
…
[図:0001407468000009.jpg]
…
【0040】
以上、本発明に使用可能な蛍光増白剤の例として、有機材料の例について説明したが、上記した様に、本発明では、無機材料又は有機無機複合材料(有機金属系化合物など)の蛍光増白剤を用いることもできる。
【0041】
本発明に使用可能な紫外線吸収剤は特に限定されず、種々の材料を用いることができる。一般的に、紫外線吸収剤は、紫外線を吸収して熱に変換する性質を有する化合物をいい、具体的にはベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸系、シアノアクリレート系に大別される。本発明においては、いずれも使用できる。ベンゾトリアゾール系の有効吸収波長は約270~380nmであり、代表例としては2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-4’-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール等を挙げることができる。…
【0045】
前記蛍光増白剤及び紫外線吸収剤から少なくとも一種を選択して、本発明に用いることができるが、特に、前記蛍光増白剤と前記紫外線吸収剤とを併用するのが好ましい。紫外線吸収剤は、吸収波長が短いため蛍光増白剤を併用すると、吸収領域を広くできるので好ましい。特に、上述の波長200~410nm(より好ましくは波長300~390nm又は波長300nm~410nm)の光に対して、90%以上の吸収率を有する光遮断フィルターを容易に形成できるので好ましい。…
【0048】
前記光吸収層は、前記蛍光増白剤及び/又は紫外線吸収剤をバインダー中に分散させた塗布液を調製し、該塗布液を塗布及び乾燥することによって形成することができる。前記バインダーとしては、重縮合系樹脂成分として、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、ポリカーボネート、トリアセチルセルロースが挙げられる。…
【0071】
本発明に使用可能な光遮断フィルターの例として、支持体上に形成されたバインダー層が光吸収層として機能する態様を示したが、本発明に使用可能な光遮断フィルターは、この態様に限定されず、例えば、支持体、粘着剤層、ハードコート層、反射防止層のいずれかが前記蛍光増白剤及び/又は紫外線吸収剤を含有し、光吸収層として機能する態様であってもよい。さらに、前記複数の層の全てが必要であるわけではなく、また他の機能を有する層をさらに有していてもよく、前記蛍光増白剤及び/又は紫外線吸収剤を含有する限りは、単層構造であっても、複数層構造であってもよい。…」
オ 実施例
「【0080】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。…
【0083】
[実施例3]
下記の樹脂、紫外線吸収剤、蛍光増白剤をトルエン50mL、メチルエチルケトン50mLに加え40℃にて溶解した。この混合液をPETフィルム(東レ(株)製、商品名、ルミラー、膜厚25μm、可視光透過率95%)上に、リバースコーターを用いて塗工し、65℃で5分間の乾燥条件下で乾燥させ、膜厚25μmの光吸収層を形成し、フィルムを作製した。
・樹脂 17.6g
(メタクリル酸メチル:スチレン=60:40質量%の共重合体)
・紫外線吸収剤 1.2g
(2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール)
・蛍光増白剤([化9]で例示した化合物(15)) 1.2g
【0084】
得られたフィルムの光吸収層上にアクリル系樹脂(大日本インキ工業(株)製、商品名、アクリテック)100gをトルエン50mL、メチルエチルケトン50mLに加え、40℃にて溶解した溶液をリバースコーターを用いて塗工し、65℃で5分間の乾燥条件下で乾燥させ、膜厚50μmの粘着剤層を形成した。次いで、剥離紙をその粘着剤層上に積層し、光吸収性透明粘着フィルターを作製した。
【0085】
実施例3で得られたフィルターをガラス板に貼付した試料について、吸収スペクトルを測定した。比較例として、市販製品(3M社製のISCLARL(商品名))を用いて、同様に吸収スペクトルを測定した。結果を図1に示す。
図1に示すグラフから分かるように、実施例3で得られたフィルターは、比較例のフィルターと比較して、紫外線よりも若干長波長である410nmまでの光を吸収することが分かった。実施例3で得られたフィルターの波長300nm~410nmの光に対する吸収率は約100%であり、波長440nm~750nmの光に対する透過率は90%以上であった。さらに、実施例3のフィルターは、長波長の光を吸収するにもかかわらず、黄色味が無く、透明度の高い光吸収フィルターであることが分かった。」
合議体注:図1は、実施例3及び市販製品の紫外線吸収フィルムの吸収スペクトルを示すグラフであって以下に示すものである。
[図:0001407468000010.jpg]
カ 発明の効果
「【0095】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、紫外線及び一部の可視光による耐久性の低下を軽減し得る有機ELディスプレイ素子を提供することができる。特に、反射光による視認性の低下が改善されているとともに、輝度が良好であり、且つ耐久性にも優れた有機ELディスプレイ素子、及びフラット型の有機ELディスプレイパネルを提供することができる。」
(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)に摘記した記載事項のうち、記載事項オに基づけば、引用文献1には、実施例3として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「下記の樹脂、紫外線吸収剤、蛍光増白剤の混合液をPETフィルム(可視光透過率95%)上に塗工し、乾燥させ、膜厚25μmの光吸収層を形成して作製したフィルムであって、波長300nm~410nmの光に対する吸収率は約100%であり、波長440nm~750nmの光に対する透過率は90%以上であるフィルター。
・樹脂 17.6g
(メタクリル酸メチル:スチレン=60:40質量%の共重合体)
・紫外線吸収剤 1.2g
(2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール)
・蛍光増白剤([化9]で例示した化合物(15)) 1.2g」
なお、[化9]で例示した化合物(15)は、以下に示すものである。
[図:0001407468000011.jpg]
5 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(1)樹脂
引用発明の「樹脂」は、「メタクリル酸メチル:スチレン=60:40質量%の共重合体」である。そうすると、技術的にみて、引用発明の「樹脂」はメタクリル系樹脂であるといえる。したがって、引用発明の「樹脂」は、本件補正発明の「樹脂(A)」に相当し、「セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂及びシクロオレフィン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂」であるとする要件を満たしている。
(2)光選択吸収化合物
引用発明の「紫外線吸収剤」は、その文言から、紫外線を吸収する化合物を意味すると理解できるから、本件補正発明における「光選択吸収化合物(B)」に相当する。そして、「2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール」は、その化学構造からみて、本件補正発明の式(I-C)を満たすものである(式(1-C)中、R1、R5、R7、R21、R22が全て「水素原子」であり、X2が「-N(R25A)=」であるとともにR25Aが「置換基を有している芳香族炭化水素基」であり、X3が「-N(R25A)=」であるとともにR25Aが「水素原子」である化合物である。)。したがって、引用発明は、本件補正発明の「光選択吸収化合物(B)は、下記に示す式(I-A-1)、式(I-B-1)、式(I-B-2)、式(I-C)、式(I-D)、又は式(I-E)で表される化合物」であるとする要件を満たしている。
(3)光学フィルム
引用発明の「フィルム」は、その作製方法からみて、前記(1)の「樹脂」と、前記(2)の「紫外線吸収剤」とを含む樹脂組成物から形成された光吸収層を有するといえる。そうすると、本件補正発明の「樹脂(A)及び光選択吸収化合物(B)を含む樹脂組成物から形成される光学フィルム」と引用発明の「フィルム」とは、「樹脂(A)及び光選択吸収化合物(B)を含む樹脂組成物を有する光学フィルム」である点で共通する。
(4)一致点及び相違点
以上より、本件補正発明と引用発明とは、
「 樹脂(A)及び光選択吸収化合物(B)を含む樹脂組成物を有する光学フィルムであって、
樹脂(A)は、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂及びシクロオレフィン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂であり、
光選択吸収化合物(B)は、下記に示す式(I-A-1)、式(I-B-1)、式(I-B-2)、式(I-C)、式(I-D)、又は式(I-E)で表される化合物である光学フィルム。」(なお、式(I-A-1)、式(I-B-1)、式(I-B-2)、式(I-C)、式(I-D)、式(I-E)は、前記1(2)に記載されたとおりのものであり、記載を省略する。)」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点1]本件補正発明の「光学フィルム」は、樹脂組成物「から形成される」ものであるのに対し、引用発明の「フィルム」は、「PETフィルム(可視光透過率95%)上に塗工し、乾燥させ、膜厚25μmの光吸収層を形成して作製したフィルム樹脂」であって、樹脂組成物から形成された光吸収層以外の構成を含む点。
[相違点2]本件補正発明の「光学フィルム」は、以下の式(1)を満たすのに対し、引用発明の「フィルム」は、波長300nm~410nmの光に対する吸収率は約100%であるものの、式(1)を満たすものであるかが明らかでない点。
A(405)≧0.5 (1)
[式(1)中、A(405)は波長405nmにおける吸光度を表す。]
[相違点3]本件補正発明の「光学フィルム」は、以下の式(2’)を満たすのに対し、引用発明の「フィルム」は、波長440nm~750nmの光に対する透過率は90%以上であるものの、式(2’)を満たすものであるかが明らかでない点。
A(440)≦0.04 (2’)
[式(2’)中、A(440)は波長440nmにおける吸光度を表す。]
6 判断
(1)[相違点1]について
前記4(1)に摘記した、引用文献1の記載事項エには、「前記蛍光増白剤及び/又は紫外線吸収剤を含有する限りは、単層構造であっても、複数層構造であってもよい」(段落【0071】)との記載がある。当該記載に基づけば、引用文献1には、「フィルター」について、単層構造とすることが示唆されていたといえる。
上記示唆に基づき、引用発明から「PETフィルム」を省き、本件補正発明の[相違点1]に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(2)[相違点2]について
引用発明のフィルムは、波長300nm~410nmの光に対する吸収率が、約100%である。技術的にみて、吸光度は、「-log10(透過光の強度/入射光の強度)」で定義される値であるところ、仮に、吸収率が90%であったとしても、吸光度は1(=-log10(10/100)となる。吸収率が約100%である場合は、吸光度が1よりも大きな値となることは明らかであるから、引用発明のフィルムの波長405nmにおける吸光度は0.5より大きな値となる。したがって、引用発明のフィルムが、本件補正発明における式(1)を満たすことは明らかである。
したがって、上記[相違点2]は、実質的な相違点ではない。
(3)[相違点3]について
引用発明のフィルムは、波長440nm~750nmの光に対する透過率は90%以上である。技術的にみて、吸光度は、「-log10(透過光の強度/入射光の強度)」で定義される値であるところ、仮に、透過率が90%であったとしても、吸光度は0.046(=-log10(90/100)となる(透過率が91.3%以上である場合は、吸光度が0.04より小さい値となる。)。したがって、「透過率は90%以上である」とされる引用発明のフィルムの波長440nmにおける吸光度A(440)の値が明らかではないものの、実質的な相違点である可能性がある。
しかし、前記4(1)エに摘記したとおり、引用文献1には、「さらに波長410nm以下の吸収率が90%以上で、波長410~780nmの吸収率が5%以下であるのがより好ましい。」(段落【0015】)との記載がある。当該記載に基づけば、引用文献1には、波長410~780nmの吸収率をより小さくすることが示唆されていたといえる。また、前記4(1)アに摘記したとおり、引用発明は「ディスプレイ素子用フィルター」に関する発明であり、前記4(1)カに摘記したとおり、「紫外線及び一部の可視光による耐久性の低下を軽減し得る有機ELディスプレイ素子を提供する」ことができるとされている。ディスプレイ素子用とされる用途に鑑みれば、耐久性の低下に関与しない可視光領域の吸収率を小さくすることに何ら阻害要因はない。
そうすると、引用発明について、上記引用文献1における示唆に基づいて、耐久性の低下に関与しない可視光領域である波長440nmにおける透過率を、91.3%以上の値となるように、フィルムを構成する樹脂、紫外線吸収剤及び蛍光増白剤の種類や添加量を調整し、本件補正発明の式(2’)を満たすものとすることは、当業者が適宜なし得た最適化に過ぎない。また、本願の明細書の記載を参酌しても、波長440nmにおける吸光度について、0.04以下とすることによって格別な効果の差異が生じるとはいえない。したがって、引用発明を本件補正発明の上記[相違点3]に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるといえる。
7 むすび
以上のとおり、[相違点2]は実質的な相違点とはいえないものであり、[相違点1]及び[相違点3]は、引用文献1における示唆に基づき、当業者が容易になし得たことである。
したがって、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができたものとはいえない。
第3 本件発明
1 本件発明の認定
本件補正は、前記第2にとおり却下されたので、本願の請求項1~10に係る発明は、令和4年7月14日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、前記第2の1(1)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の請求項1~10に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、引用文献1~4は、主引用発明が記載された文献として引用され、引用文献5及び6は、周知技術を示す文献として引用されている。
引用文献1:特開2004-102223号公報
引用文献2:特開平8-287715号公報
引用文献3:国際公開第2014/133111号
引用文献4:国際公開第2016/174788号
引用文献5:特開2016-203515号公報
引用文献6:特開2014-115524号公報
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献のうち、引用文献1の記載事項は、前記第2の4に記載したとおりである。
4 対比・判断
本件発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、光選択吸収化合物(B)について、「式(I-A-1)、式(I-B-1)、式(I-B-2)、式(I-C)、式(I-D)、又は式(I-E)で表される化合物」であるとする要件を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の6~7に記載したとおり、引用発明及び引用文献1に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用文献1に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 補正案について
審判請求人は、令和5年7月4日に提出した上申書において、補正案を提示するとともに、「請求項1において、光選択吸収化合物(B)から式(I-B-1)及び式(I-C)で表される化合物を削除し、式(I-A-1)、式(I-B-2)、式(I-D)、又は式(I-E)で表される化合物に限定する」補正を行う用意があるとし、「当該補正を行った請求項1における光選択吸収化合物(B)は、引用文献1~4に記載された化合物とは異なっていることから、引用文献1~6の記載に基づいて当業者が容易に想到することはないと思料します。」(上申書第1頁最終行~第2頁第2行)と主張している。
上記上申書における主張について検討すると、引用文献1の段落【0017】には、前記第2の4(1)エに摘記したとおり、「前記蛍光増白剤及び紫外線吸収剤は、通常市販されているもの、又は新規物質の中から耐光性などに基づいて任意に選択することができる。」と記載されている。当該記載に基づけば、引用文献1には、引用発明の「紫外線吸収剤」、「蛍光増白剤」を、公知の物質に変更することが示唆されているといえる。そして、例えば国際公開第2016/043166号(令和4年3月4日付けの拒絶理由通知書において、先行技術文献として挙げられていた文献である。)の段落[0010]及び段落[0041]~[0042]に記載されているように、光学フィルタに用いられる波長370~425nmに吸収極大を持つ近紫外線吸収性の色素であって、本件補正発明における式(I-A-1)で表される化合物は、先の出願前において公知であったといえる。そうすると、仮に審判請求人の提示する補正案どおりに補正したとしても、補正後の請求項1に係る発明は、引用発明及び公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
したがって、上記審判請求人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-001285