審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2024-018309

積層された単層複合膜を形成する方法

審判番号
2024-018309
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2022-568576
請求日
2024年11月18日
審決日
2026年04月07日
公報発行日
2026年09月25日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】インテグリス・インコーポレーテッド
  • 【請求人代理人】園田・小林弁理士法人
審判長/審判官
  • 審判長 原 賢一
  • 審判官 増山 淳子
  • 審判官 田口 裕健
分類
P18 .113-Z (B01D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法49条2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2022-568576「積層された単層複合膜を形成する方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年11月18日国際公開、WO2021/231926、令和 5年 6月16日国内公表、特表2023-525531〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2021年(令和3年)5月14日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2020年5月15日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 令和5年 1月16日 手続補正書の提出 令和6年 1月23日付け 拒絶理由通知 同年 4月30日 手続補正書及び意見書の提出 同年 7月 1日付け 拒絶査定(以下、「原査定」という。) 同年11月18日 手続補正書及び審判請求書の提出 第2 本願発明 令和6年11月18日提出の手続補正書による特許請求の範囲の補正は、請求項1及び12における「共に」との記載を「ともに」との記載に変更するものであり、誤記の訂正又は不明瞭な記載の釈明に該当し、適法な補正といえるから、本願の請求項1~18に係る発明は、上記手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~18に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。 そのため、本願の請求項1に係る発明は、以下のとおり特定されるものである。 「【請求項1】 第1の泡立ち点を有する第1の多孔質ポリマー層と、 第2の泡立ち点を有し、かつ第1の多孔質ポリマー層とともに積層された第2の多孔質ポリマー層と、 を含む、複合膜であって、 接着剤を含まず、第1の泡立ち点は第2の泡立ち点よりも高く、複合膜が第1の多孔性ポリマー層の第1の泡立ち点の90%以上の泡立ち点を有する、 複合膜。」 以下、当該発明を「本願発明」という。 なお、上記「複合膜が第1の多孔性ポリマー層の」は、他の箇所では「第1の多孔質ポリマー層」とされていることから、「複合膜が第1の多孔質ポリマー層の」の明らかな誤記といえる。 第3 原査定における拒絶理由 原査定の拒絶理由は、令和6年1月23日付け拒絶理由通知書に記載された、次の理由を含むものである。 理由1:(新規性)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 記 引用文献1:特開2007-118588号公報 なお、当審では、技術常識又は周知技術を示すものとして、以下の文献も引用する。 引用文献2:国際公開第2008/069216号 引用文献3:特開2013-234263号公報 引用文献4:国際公開第2016/104789号 引用文献5:特表2012-513898号公報 引用文献6:国際公開第2007/122909号 第4 当審の判断 1 引用文献等の内容 (1)引用文献1について ア 引用文献1の記載事項 引用文献1には、以下の記載がある。なお、下線は概ね当審にて付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。他の文献についても同様である。 (ア)「【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 従って、本発明の目的は、透過性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性、メルトダウン特性及び耐酸化性のバランスに優れたポリエチレン多層微多孔膜及びその製造方法、並びに電池用セパレータを提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0007】 上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、(a) 末端ビニル基濃度が所定値以上の高密度ポリエチレンAを含むポリエチレン系樹脂多孔質層A、及び(b) 末端ビニル基濃度が所定値未満の高密度ポリエチレンBを含むポリエチレン系樹脂多孔質層Bを有するポリエチレン多層微多孔膜は、透過性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性、メルトダウン特性及び耐酸化性のバランスに優れていることを見出し、本発明に想到した。 【0008】 すなわち、本発明のポリエチレン多層微多孔膜は、少なくとも二層からなり、(a) 赤外分光法による末端ビニル基濃度が、10,000個の炭素原子当たり0.2個以上の高密度ポリエチレンAを含むポリエチレン系樹脂多孔質層A、及び(b) 赤外分光法による末端ビニル基濃度が、10,000個の炭素原子当たり0.2個未満の高密度ポリエチレンBを含むポリエチレン系樹脂多孔質層Bを有することを特徴とする。 ・・・ 【0014】 本発明の第二のポリエチレン多層微多孔膜の製造方法は、赤外分光法による末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個以上の高密度ポリエチレンAを含むポリエチレン系樹脂A、及び成膜用溶剤を溶融混練してポリエチレン系樹脂溶液Aを調製するとともに、赤外分光法による末端ビニル基濃度が10,000個の炭素原子当たり0.2個未満の高密度ポリエチレンBを含むポリエチレン系樹脂B、及び成膜用溶剤を溶融混練してポリエチレン系樹脂溶液Bを調製し、前記ポリエチレン系樹脂溶液A及びBを個別にダイより押し出し、得られた押出し成形体A及びBを冷却してゲル状シートA及びBを形成し、前記ゲル状シートA及びBから前記成膜用溶剤を除去してポリエチレン微多孔膜A及びBを形成し、前記ポリエチレン微多孔膜A及びBを積層することを特徴とする。 【0015】 第一及び第二の方法では、前記ポリエチレン系樹脂溶液A及びBの樹脂濃度に差を設けるのが好ましく、これにより平均細孔径が膜厚方向において変化した構造(傾斜構造)を有するポリエチレン多層微多孔膜が得られる。前記ポリエチレン系樹脂溶液A及びBの樹脂濃度の差を5質量%以上にするのが好ましく、10質量%以上にするのがより好ましい。 【0016】 本発明の電池用セパレータは上記ポリエチレン多層微多孔膜により形成される。 ・・・ 【0101】 (b) 第二の製造方法 第二の製造方法は、(1) 上記樹脂溶液A及びBを調製する工程、(2) 樹脂溶液A及びBを個別にダイより押し出す工程、(3) 押出し成形体A及びBを冷却してゲル状シートA及びBを形成する工程、(4) ゲル状シートA及びBから成膜用溶剤を除去してポリエチレン微多孔膜A及びBを形成する工程、(5) 乾燥工程、並びに(6) ポリエチレン微多孔膜A及びBを積層する工程を含む。必要に応じて、工程(4)の前に、ゲル状シートA及びBのいずれかを延伸する工程、熱固定処理工程、熱ロール処理工程及び熱溶剤処理工程のいずれかを設けてもよい。更に工程(6)の後、再延伸工程、熱処理工程、熱溶剤処理工程、架橋処理工程、親水化処理工程、表面被覆処理工程等を設けてもよい。 ・・・ 【0107】 以下ポリエチレン微多孔膜A及びBを交互に積層する工程(6)について説明する。積層方法は特に限定されないが、熱積層法が好ましい。熱積層法としては、ヒートシール法、インパルスシール法、超音波積層法等が挙げられるが、ヒートシール法が好ましい。ヒートシール法としては熱ロールを用いたものが好ましい。熱ロール法では、一対の加熱ロール間、又は加熱ロールと受台の間に、重ねたポリエチレン微多孔膜A及びBを通し、ヒートシールする。ヒートシール時の温度及び圧力は、ポリエチレン微多孔膜が十分に接着し、かつ得られる多層微多孔膜の特性が低下しない限り特に制限されない。ヒートシール温度は、例えば90~135℃とし、好ましくは90~115℃とする。ヒートシール圧力は0.01~50 MPaが好ましい。ポリエチレン微多孔膜A及びBの各厚さを調節することにより、多孔質層A及びBの割合を調節することができる。 ・・・ 【0112】 上記のように樹脂溶液A及びBの樹脂濃度に差を設けると、平均細孔径が膜厚方向において変化した構造(傾斜構造:比較的大きな平均細孔径を有する粗大構造層と、比較的小さな平均細孔径を有する緻密構造層とからなる構造)を有する多層微多孔膜が得られる。傾斜構造を有する多層微多孔膜を電池用セパレータとして用いた場合、粗大構造層が電極の膨張及び伸縮に追従するとともに透過性を保持し、緻密構造層が電極同士の短絡を防止する。そのため加圧された場合でも透気度変化が小さい。また平均細孔径の大きい粗大構造層を有することにより、サイクル特性や電解液注液性が一層向上する。」 (イ)「【0132】 実施例1 (1) ポリエチレン樹脂溶液Aの調製 質量平均分子量(Mw)が2.0×106の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)30質量%、及びMwが3.5×105で、Mw/Mnが13.5で、末端ビニル基濃度が0.9個/10,000 Cの高密度ポリエチレンA(HDPE-A)70質量%からなるポリエチレン(PE)組成物A100質量部に、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.2質量部をドライブレンドした。UHMWPE及びHDPE-Aからなるポリエチレン(PE)組成物Aについて測定した融点は135℃であり、結晶分散温度は100℃であり、Mwは8.4×105であり、Mw/Mnは24.0であった。 ・・・ 【0134】 得られた混合物30質量部を強混練タイプの二軸押出機(内径58 mm、L/D=42)に投入し、二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン[35 cst(40℃)]70質量部を供給し、230℃及び250 rpmの条件で溶融混練して、樹脂溶液Aを調製した。 【0135】 (2) ポリエチレン樹脂溶液Bの調製 UHMWPE20質量%、及びMwが3.0×105で、Mw/Mnが8.6で、末端ビニル基濃度が0.1個/10,000 CのHDPE-B80質量%からなるPE組成物B(融点:135℃、結晶分散温度:100℃、Mw:6.4×105、Mw/Mn:15.2)に、上記と同様にして酸化防止剤をドライブレンドした混合物を調製した。得られた混合物を用い、樹脂濃度を20質量%とした以外上記と同様にして、ポリエチレン樹脂溶液Bを調製した。」 (ウ)「【0144】 実施例5 (1) ポリエチレン微多孔膜Aの作製 UHMWPE5質量%及びHDPE-A95質量%からなるPE組成物A(融点:135℃、結晶分散温度:100℃、Mw:4.6×105、Mw/Mn:15.9)に、実施例1と同様にして酸化防止剤をドライブレンドした混合物を調製した。得られた混合物を用い、樹脂濃度を40質量%とした以外実施例1と同様にして、ポリエチレン樹脂溶液Aを調製した。得られたポリエチレン樹脂溶液Aを二軸押出機の先端に設置されたTダイから押し出し、0℃に温調した冷却ロールで引き取りながら冷却し、ゲル状シートAを形成した。得られたゲル状シートAを、実施例1と同様に同時二軸延伸し、洗浄し、風乾することによりポリエチレン微多孔膜Aを作製した。 【0145】 (2) ポリエチレン微多孔膜Bの作製 UHMWPE5質量%及びHDPE-B95質量%からなるPE組成物B(融点:135℃、結晶分散温度:100℃、Mw:3.8×105、Mw/Mn:11.0)に、実施例1と同様にして酸化防止剤をドライブレンドした混合物を調製した。得られた混合物を用い、実施例1と同様にして、樹脂濃度20質量%のポリエチレン樹脂溶液Bを調製した。得られたポリエチレン樹脂溶液Bを用いた以外上記微多孔膜Aと同様にして、ポリエチレン微多孔膜Bを作製した。 【0146】 (3) 積層及び熱固定処理 得られたポリエチレン微多孔膜A及びBを積層し、130℃の温度に加熱した一対のロール間に通し、0.05 MPaの圧力で接合した。得られた積層膜を、130℃で10分間熱固定処理することによりポリエチレン二層微多孔膜(層厚比:膜A/膜B=1/1)を作製した。 ・・・ 【0150】 実施例1~5及び比較例1~3で得られたポリエチレン(多層)微多孔膜の物性を以下の方法により測定した。結果を表1に示す。 ・・・ 【0160】 (10) 耐電圧降下性(耐酸化性) プロピレンカーボネート(PC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:1(質量比)からなる溶媒にLiClO4(過塩素酸リチウム)1Mを添加した電解液を調製した。正極シート(活物質:LiCoO2)、セパレータ[(多層)微多孔膜サンプル]及び負極シート(活物質:炭素質材料)をこの順に積層し、得られた積層体からなる電極素子を作製した。得られた電極素子に電解液を含浸させ、2枚のラミネートフィルム間に挟み、封入し、フィルム状セルを作製した。得られたフィルム状セルを4.2Vに充電し、60℃の温度で2日間保存した後、電圧降下(V)を測定した。電圧降下が小さいほど、耐酸化性に優れている。」 イ 引用文献1に記載された発明 上記ア(ア)の【0006】、【0008】、【0016】の記載によれば、引用文献1には、「電池用セパレータ」を形成するための、「ポリエチレン系樹脂多孔質層A、」「ポリエチレン系樹脂多孔質層Bを有する」「ポリエチレン多層微多孔膜」に関する技術が記載されている。 また、同(ア)の【0014】の記載によれば、上記ポリエチレン多層微多孔膜は、「ポリエチレン系樹脂A、及び成膜用溶剤を溶融混練してポリエチレン系樹脂溶液Aを調製するとともに、・・・ポリエチレン系樹脂B、及び成膜用溶剤を溶融混練してポリエチレン系樹脂溶液Bを調製し、前記ポリエチレン系樹脂溶液A及びBを個別にダイより押し出し、得られた押出し成形体A及びBを冷却してゲル状シートA及びBを形成し、前記ゲル状シートA及びBから前記成膜用溶剤を除去してポリエチレン微多孔膜A及びBを形成し、前記ポリエチレン微多孔膜A及びBを積層する」ことにより作製された結果、当該「ポリエチレン微多孔膜A」及び「ポリエチレン微多孔膜B」が、それぞれ上記「ポリエチレン系樹脂多孔質層A」及び「ポリエチレン系樹脂多孔質層B」として積層されたものである。 ここで、同【0107】の記載によれば、上記「積層」は、「一対の加熱ロール間・・・に、重ねたポリエチレン微多孔膜A及びBを通し、ヒートシールする」方法で実施でき、「ヒートシール時の温度及び圧力は、ポリエチレン微多孔膜が十分に接着し、かつ得られる多層微多孔膜の特性が低下しない」範囲で選ばれるものである。 さらに、同【0015】、【0112】の記載によれば、上記「樹脂溶液A及びBの樹脂濃度に差を設けると、平均細孔径が膜厚方向において変化した構造(傾斜構造:比較的大きな平均細孔径を有する粗大構造層と、比較的小さな平均細孔径を有する緻密構造層とからなる構造)を有する多層微多孔膜」を作製できる。 そして、同(ウ)の【0144】~【0146】には、上記ポリエチレン多層微多孔膜の具体例である「実施例5」として、 「UHMWPE5質量%及びHDPE-A95質量%からなるPE組成物A(融点:135℃・・・)に、実施例1と同様にして酸化防止剤をドライブレンドした混合物・・・を用い、樹脂濃度を40質量%とした・・・ポリエチレン樹脂溶液A」から作製された「ポリエチレン微多孔膜A」と、 「UHMWPE5質量%及びHDPE-B95質量%からなるPE組成物B(融点:135℃・・・)に、実施例1と同様にして酸化防止剤をドライブレンドした混合物・・・を用い、・・・樹脂濃度」を「20質量%」とした「ポリエチレン樹脂溶液B」から作製された「ポリエチレン微多孔膜B」とを、 「積層し、130℃の温度に加熱した一対のロール間に通し、0.05 MPaの圧力で接合し」、「130℃で10分間熱固定処理することにより」作製された「ポリエチレン二層微多孔膜」が記載されている。 ここで、当該「実施例5」の「ポリエチレン樹脂溶液A」と「ポリエチレン樹脂溶液B」は、その樹脂濃度に差が設けられているから、上述のとおり、「比較的大きな平均細孔径を有する粗大構造層と、比較的小さな平均細孔径を有する緻密構造層とからなる構造」を有するといえる。 また、同(イ)の「実施例1」に関する【0132】及び【0135】の記載によれば、上記「実施例5」中で「実施例1と同様」とされている「UHMWPE」は、「質量平均分子量(Mw)が2.0×106の超高分子量ポリエチレン」であり、同「HDPE-A」は、「Mwが3.5×105で、Mw/Mnが13.5で、末端ビニル基濃度が0.9個/10,000 Cの高密度ポリエチレンA」であり、同「HDPE-B」は、HDPEが「高密度ポリエチレン」を意味することも踏まえると「Mwが3.0×105で、Mw/Mnが8.6で、末端ビニル基濃度が0.1個/10,000 Cの」高密度ポリエチレンBである。なお、これらを含む上記「PE組成物」は、「ポリエチレン組成物」を意味する。 さらに、同(ウ)の【0150】以降には、上記「実施例5」で得られたポリエチレン(多層)微多孔膜の物性を測定することが記載され、同【0160】には、「耐電圧降下性(耐酸化性)」に関する物性を測定することが記載されており、同段落中の「セパレータ[(多層)微多孔膜サンプル]」との記載からすれば、上記「実施例5」の微多孔膜は、実際に電池用セパレータを形成できるものであるといえる。 加えて、上記【0107】の記載のとおり、上記「実施例5」の積層時の温度及び圧力は、「ポリエチレン微多孔膜が十分に接着し、かつ得られる多層微多孔膜の特性が低下しない」ように選ばれたものである。 そうすると、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。 「電池用セパレータを形成するための、ポリエチレン微多孔膜A及びポリエチレン微多孔膜Bが積層されたポリエチレン二層微多孔膜であって、 質量平均分子量(Mw)が2.0×106の超高分子量ポリエチレン5質量%、及び、Mwが3.5×105で、Mw/Mnが13.5で、末端ビニル基濃度が0.9個/10,000 Cの高密度ポリエチレン95質量%からなるポリエチレン組成物A(融点:135℃)に、酸化防止剤をドライブレンドした混合物を用い、樹脂濃度を40質量%としたポリエチレン樹脂溶液Aから作製されたポリエチレン微多孔膜Aと、 質量平均分子量(Mw)が2.0×106の超高分子量ポリエチレン5質量%、及び、Mwが3.0×105で、Mw/Mnが8.6で、末端ビニル基濃度が0.1個/10,000 Cの高密度ポリエチレン95質量%からなるポリエチレン組成物B(融点:135℃)に、酸化防止剤をドライブレンドした混合物を用い、樹脂濃度を20質量%としたポリエチレン樹脂溶液Bから作製されたポリエチレン微多孔膜Bとを、 積層し、130℃の温度に加熱した一対のロール間に通し、0.05 MPaの圧力で接合し、130℃で10分間熱固定処理することにより、ポリエチレン微多孔膜が十分に接着し、かつ得られる多層微多孔膜の特性が低下しないように作製されたものであり、 比較的大きな平均細孔径を有する粗大構造層と、比較的小さな平均細孔径を有する緻密構造層とからなる構造を有する、 ポリエチレン二層微多孔膜。」 以下、当該発明を「引用発明」という。 (2)引用文献2~6について ア 引用文献2の記載事項 「[0002] ポリオレフィン製微多孔膜は、種々の物質の分離や選択透過分離膜、及び隔離材等として広く用いられており、用途例としては、精密ろ過膜、燃料電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、又は機能材を孔の中に充填させ新たな機能を出現させるための機能膜の母材、電池用セパレータなどが挙げられる。これらの用途において、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話、デジタルカメラなどに広く使用されているリチウムイオン電池用のセパレータとして、特に好適に使用されている。その理由としては、膜の機械強度や孔閉塞性を有していることが挙げられる。」 「[0009] 本実施の形態のポリオレフィン製微多孔膜は、バブルポイントが1MPa以下であり、長さ方向の引張強度、幅方向の引張強度が各々50MPa以上、130°Cにおける幅方向の熱収縮率が20%以下である。 [0010] ポリオレフィン製微多孔膜のバブルポイントは、孔が緻密に成り過ぎないようにするため、1.0MPa以下である必要があり、好ましくは0.8MPa以下である。バブルポイントの下限としては、好ましくは0.1MPa以上であり、より好ましくは0.3MPa以上である。0.1MPa未満では孔が粗大化して膜強度の低下を招くおそれがある。 [0011] このバブルポイント法は最大孔径を表す簡易な方法として知られているが、バブルポイントの観点とは別に、微多孔膜の透水量、透気量の比(透水量/透気量)は、平均的な孔径との間に相関を持つ。・・・」 イ 引用文献3の記載事項 「【0002】 ポリオレフィン製微多孔膜は優れた電気絶縁性、イオン透過性を示すことから電池やコンデンサー等におけるセパレータとして広く利用されている。近年、携帯機器の高機能化、小型化に伴い高出力密度、高容量密度が特徴のリチウムイオン二次電池が多く使用されており、このような電池用セパレータにも主としてポリオレフィン微多孔膜が用いられている。」 「【0016】 バブルポイントは微多孔膜の最大孔径を計る指標の一つであり、最大孔径は耐電圧との関係が深い。最大孔径が大きすぎるとセパレータの耐電圧が低くなり十分な絶縁性を保つことができず、また、微弱電流による電圧降下も起きやすくなる。逆に、最大孔径が小さすぎると、上述したとおり、透過性の低下を招く。そのため、セパレータは高い透過性と高い絶縁性能を両立する孔構造を有することが必要である。本実施形態におけるポリオレフィン製微多孔膜のバブルポイントは、電圧降下の抑制、及び耐電圧特性の観点から、500kPa以上に調整されており、電解液分解物による目詰まりを防ぎ良好なサイクル特性やレート特性を実現する観点から、700kPa以下に調整されている。バブルポイントは、より好ましくは500~650kPaである。」 ウ 引用文献4の記載事項 「[0036](i)最大孔径 本発明のポリオレフィン微多孔膜の最大孔径は、30.0nm未満であり、好ましくは29.0nm未満であり、特に好ましくは28.9nm以下である。最大孔径の下限は特に限定されないが、15.0nm以下であってもよく、15.0nmであることが好ましい。最大孔径を上記範囲内とすることで、ポリオレフィン微多孔膜に優れた絶縁破壊電圧を付与することができる。本明細書において、「最大孔径」とは、ポリオレフィン微多孔膜中に分布する全貫通孔の中で最大の孔径を示すものであり、ポロメータなどを用いたバブルポイント法により測定できる。」 「[0042] 測定液が細孔内に充填された湿潤試料は、液体を満たした毛細管と同様の特性を示す。湿潤試料をポロメータにセットして空気圧を徐々に高めてゆくと、径の大きい細孔から順に、空気圧が細孔内の測定液の表面張力に打ち勝って測定液が当該細孔内から押し出され、それに伴って空気流量が徐々に増加し、最終的に試料は乾燥状態となる。従って、液体がその細孔から押し出される際の圧力を測定する事によって、細孔直径を算出できる。ここで、細孔の形状が略円柱状であると仮定すると、直径Dの細孔内に圧力Pの空気が侵入する条件は、測定液の表面張力をγ、測定液の接触角をθとして、下記の式1に示すWashburnの式で表される。 PD=4γcosθ ……(式1) 特に、気泡の発生が最初に検出される測定点(最大孔径を示す測定点)をバブルポイント(Bubble Point)と呼ぶ。バブルポイントの標準的な測定方法としては、例えばASTM F316-86に記載の方法が挙げられる。」 エ 引用文献5の記載事項 「【0078】 ・・・膜、又は膜の領域のバブルポイント圧力は、ラプラスの方程式にしたがって孔径分布の中の最大孔径に反比例することは、当業者には周知である。」 オ 引用文献6の記載事項 「[0030] ・・・なおバブルポイント圧力は膜の孔径に反比例し、流体と膜の表面張力と接触角に比例する。従って流体と膜の材質が一定ならバブルポイント圧力の逆数が孔径に比例する。」 カ 引用文献2~6から把握できる技術常識 上記アの[0002]及び[0009]の記載のとおり、引用文献2には、「電池用セパレータ」を用途例とするポリオレフィン製微多孔膜の「バブルポイント」を1MPa以下とすることが記載されている。また、同[0011]の記載のとおり、「バブルポイント法は最大孔径を表す簡易な方法として知られて」おり、同[0010]の「0.1MPa未満では孔が粗大化」との記載のとおり、当該バブルポイントが小さいほど孔径が大きいということを示すものである。 また、上記イの【0002】及び【0016】の記載のとおり、引用文献3にも、「電池やコンデンサー等におけるセパレータ」として利用されるポリオレフィン製微多孔膜の「バブルポイント」を700kPa以下とすることが記載されている。また、同【0016】にも、「バブルポイントは微多孔膜の最大孔径を計る指標の一つ」であることが記載されている。 なお、上記ウの[0042]の記載のとおり、「バブルポイント」とは、「測定液が細孔内に充填された」「湿潤試料をポロメータにセットして空気圧を徐々に高めてゆ」き、「気泡の発生が最初に検出される測定点(最大孔径を示す測定点)」のことであり、同[0036]の記載のとおり、バブルポイントにより示される最大孔径とは、「膜中に分布する全貫通孔の中で最大の孔径」のことである。加えて、上記エ及びオのとおり、バブルポイントは、上記膜中の最大貫通孔径に反比例するものである。 以上より、次の事項は、当業者にとって技術常識である。 「電池用セパレータを形成するためのポリエチレン製微多孔膜には、バブルポイントが存在すること。」 「バブルポイントは、膜中の最大貫通孔径に反比例すること。」 2 対比 本願発明と引用発明を対比する。 (1)引用発明の「ポリエチレン微多孔膜A」及び「ポリエチレン微多孔膜B」は、そのどちらか一方が「比較的大きな平均細孔径を有する粗大構造層」であり、他方が「比較的小さな平均細孔径を有する緻密構造層」である。 また、上記「ポリエチレン微多孔膜A」及び「ポリエチレン微多孔膜B」、あるいは、上記「粗大構造層」及び「緻密構造層」は、いずれも「多孔質ポリマー層」といえるものであり、互いに積層され接合されたものである。 さらに、上記「ポリエチレン微多孔膜A」と「ポリエチレン微多孔膜B」、あるいは、上記「粗大構造層」と「緻密構造層」は、互いに構造等が異なるものであるから、両膜あるいは両層を区別して、そのいずれか一方を「第1の多孔質ポリマー層」、他方を「第2の多孔質ポリマー層」と呼称できるものである。 そうすると、引用発明の「ポリエチレン微多孔膜A及びポリエチレン微多孔膜Bが積層されたポリエチレン二層微多孔膜」、あるいは、「比較的大きな平均細孔径を有する粗大構造層と、比較的小さな平均細孔径を有する緻密構造層とからなる構造を有する、ポリエチレン二層微多孔膜」は、本願発明の「第1の多孔質ポリマー層と」、「かつ第1の多孔質ポリマー層とともに積層された第2の多孔質ポリマー層と、を含む、複合膜」に相当する。 (2)また、引用発明の微多孔膜を作成する際の「積層」及び「熱固定処理」では、接着剤が用いられていないから、引用発明のポリエチレン二層微多孔膜は、当然、接着剤を含まないものである。 (3)一方で、引用発明には、「泡立ち点」に関する規定がない。 (4)以上より、本願発明と引用発明は、 「第1の多孔質ポリマー層と、 第1の多孔質ポリマー層とともに積層された第2の多孔質ポリマー層と、 を含み、 接着剤を含まない、 複合膜。」 である点で一致し、以下の点で一応相違しているといえる。 <相違点> 本願発明は、第1の多孔質ポリマー層が第1の泡立ち点を有し、第2の多孔質ポリマー層が第2の泡立ち点を有し、第1の泡立ち点が第2の泡立ち点よりも高く、複合膜が第1の泡立ち点の90%以上の泡立ち点を有するのに対し、引用発明は、ポリエチレン二層微多孔膜(複合膜)及びその各層が上述のような泡立ち点を有するか不明である点。 3 相違点に対する判断 (1)本願発明の特定事項について 先に、上記相違点に係る、 「第1の多孔質ポリマー層が第1の泡立ち点を有し、第2の多孔質ポリマー層が第2の泡立ち点を有し、第1の泡立ち点が第2の泡立ち点よりも高く、複合膜が第1の泡立ち点の90%以上の泡立ち点を有する」 との本願発明の特定事項の技術的な意義について検討する。 ア まず、「泡立ち点」について確認する。 本願明細書【0025】の記載のとおり、本願発明の「泡立ち点」は、「多孔質材料の試料」を「エトキシ-ノナフルオロブタンHFE7200」との測定液に「浸漬し、濡ら」し、「圧縮空気を用いて試料の片側にガス圧を加え、ガス圧を徐々に上昇させ」た際の「ガスが試料を通って流れる最小圧力」すなわち「気泡を細孔に押し通すのに必要な圧力」として測定されるものである。そして、当該「圧力」は、上記1(2)ウの引用文献4に記載されるような「気泡の発生が最初に検出される測定点」に他ならないから、本願発明の「泡立ち点」は、「バブルポイント」と同義であり、膜中の最大貫通孔径を示す指標である。 (なお、本願の原文明細書(英語)には「bubble point」との記載がある点からも、上述のことがいえる。) イ 次に、本願明細書にて説明される技術思想について確認する。 本願明細書【0004】に記載されるように、「異なる種類の膜を組み合わせて、良好な流動特性を有する単層複合膜材料を形成する」際、「典型的には、1つの多孔質層は、接着中間層を使用して、及び/又は強く圧縮して、別の多孔質層と接触して配置される」ものの、「接着剤の存在は、膜性能に干渉する可能性」があり、「接着剤に起因して細孔が詰まったり潰れたりするにつれて、フィルタの流れは有意に減少することが多」く、「接着剤の存在は、複合体を通過する液体に不純物を追加する可能性がある」との問題があり、また、「共押出も使用され得るが、」「ポリマー材料を押し出すために必要な加熱は、それらの細孔構造を劣化させることが多」く、さらに、「2つの個々の多孔質層を密接に接触させて単層を形成するために過剰な圧縮を使用すると、多孔質層全体及び接触面の両方で細孔構造を崩壊させ得る」との問題があったことが把握できる。 この問題に対し、同【0006】には、「2つ以上の別個の多孔質層の積層によって形成された」本願発明の「複合膜」は、「積層前の構成要素層の濾過能力を効果的に維持する」ものであることが記載されており、以降に示すとおり、他の段落では、当該複合膜が有する構成や当該構成を得るための手法が説明されている。 (ア)当該複合膜は、「接着剤なしで積層され、濾過及び流動性能の特性に優れた」ものである。(【0016】) (イ)「複合膜は、第1の多孔質ポリマー層110と第2の多孔質ポリマー層120との間に接着剤又は接着剤層を含まない」ものであり、「2つの多孔質ポリマー層は互いに直接接触している。」(【0020】) (ウ)「2つの層は互いに直接接触しており、その間にエアポケットは形成されていない」ものであり、「圧縮を使用して、層の多孔度に有意な影響を与えることなく、結合された層を接触させ」たものである。そのように接触させる際の「積層温度と穏やかな圧縮との組み合わせは、相対的な細孔構造を有意に減少させることなく、個々の多孔質ポリマー層を密接に接触させることができる」。(【0023】) (エ)「ポリマー層のそれぞれの多孔質性が実質的に維持されるため、単層複合体は、流れ又は処理量の減少を最小限に抑えながら、対象の液体流から不純物及び夾雑物を除去するための膜として使用することができる。」(【0024】) (オ)「いくつかの実施形態では、泡立ち点値も実質的に変化しないままである。例えば、第1の多孔質ポリマー層の泡立ち点が第2の多孔質ポリマー層の泡立ち点よりも高い場合、意外なことに、単層複合膜の泡立ち点は、第1の(すなわち、より高い)泡立ち点の90%以上であり得る」。(【0025】) (カ)「2つ以上の層は積層温度まで加熱され、積層温度とは、いずれかの層の多孔度に有意に影響を与えることなく、層を互いに接着させるのに十分な温度である。」また、「特に、積層温度は、積層される2つ以上の層の最低溶融温度を5℃と20℃との間下回ることができる。」さらに、「圧縮量が積層されている層のいずれの多孔度も有意に変化(すなわち、低減)しない限り、必要に応じて、最小圧縮圧力が加えられてもよい。」(【0028】) (キ)「単層複合膜は、フロー時間、流量、及び泡立ち点の最小変化によって示されるように、接着剤なしで、膜性能に有意な影響を与えることなく、積層によって異なる個々の多孔質ポリマー層から形成することができる。」また、実施例の複合膜は、「全体の厚さは、個々の層の合計厚さよりわずかに小さく、圧縮の存在を示している。しかし、この穏やかな圧縮は、性能に有意な影響を及ぼさない。」(【0032】) 上記(ア)、(イ)、(エ)のとおり、本願発明は、接着剤なしで積層され、2つの多孔質ポリマー層が互いに直接接触しており、両ポリマー層のそれぞれの多孔性が実質的に維持された複合膜とすることによって、濾過及び流動性能の特性に優れたものとし、上述の問題を解消するものである。 また、上記(オ)のとおり、本願発明では、積層前のポリマー層のそれぞれの多孔性が実質的に維持されていることを、積層前後で泡立ち点が実質的に変化していないこと、具体的には、「複合膜の泡立ち点が第1の(すなわち、より高い)泡立ち点の90%以上」であることによって示しており、上記(ウ)、(カ)、(キ)のとおり、本願発明の複合膜は、接着剤を用いず、積層される2つ以上の層の最低溶融温度を5℃と20℃との間で下回る「積層温度」と「穏やかな圧縮」とによって積層を行うことで得られるものである。 ウ 上記イのとおりであるから、 「第1の多孔質ポリマー層が第1の泡立ち点を有し、第2の多孔質ポリマー層が第2の泡立ち点を有し、第1の泡立ち点が第2の泡立ち点よりも高く、複合膜が第1の泡立ち点の90%以上の泡立ち点を有する」 との特定事項は、積層前の両ポリマー層のそれぞれの泡立ち点により示される多孔性が、積層後の複合膜においても実質的に維持されていることを特定しようとするものと理解できる。 ここで、上記アのとおり、「泡立ち点」は「バブルポイント」と同義であり、上記1(2)カの技術常識のとおり、「バブルポイントは、膜中の最大貫通孔径に反比例する」ことからすれば、「第1の泡立ち点が第2の泡立ち点よりも高」いということは、積層前の「第1の多孔質ポリマー層」の最大貫通孔径が、積層前の「第2の多孔質ポリマー層」の最大貫通孔径よりも小さいということである。また、「複合膜が第1の泡立ち点の90%以上の泡立ち点を有する」、つまり、積層後の複合膜全体の泡立ち点が、最大貫通孔径の小さい「第1の多孔質ポリマー層」の泡立ち点とほぼ同等かそれ以上であるということは、積層後の複合膜全体の最大貫通孔径が、積層前の「第1の多孔質ポリマー層」の小さな最大貫通孔径とほぼ同等に維持されているか、それ以下に圧縮されているということである。 そして、上述の特定事項を満たす複合膜は、接着剤を用いず、積層される2つ以上の層の最低溶融温度を5℃と20℃との間で下回る「積層温度」と「穏やかな圧縮」とによって積層を行うことで得られると理解できる。 (2)相違点の検討 上記(1)を踏まえて、上記相違点について検討する。 ア 上記2(1)で述べたとおり、引用発明の「ポリエチレン微多孔膜A及びポリエチレン微多孔膜Bが積層されたポリエチレン二層微多孔膜」は、本願発明の「第1の多孔質ポリマー層と」、「かつ第1の多孔質ポリマー層とともに積層された第2の多孔質ポリマー層と、を含む、複合膜」に相当する。 また、上記1(2)カの「電池用セパレータを形成するためのポリエチレン製微多孔膜には、バブルポイントが存在する」との技術常識のとおり、引用発明のポリエチレン微多孔膜A」、「ポリエチレン微多孔膜B」及びこれらが積層された「ポリエチレン二層微多孔膜」は、「バブルポイント」すなわち「泡立ち点」を有するものである。 イ さらに、引用発明は、「ポリエチレン微多孔膜A」と「ポリエチレン微多孔膜B」とを「積層し、130℃の温度に加熱した一対のロール間に通し、0.05 MPaの圧力で接合し、130℃で10分間熱固定処理することにより」、「比較的大きな平均細孔径を有する粗大構造層と、比較的小さな平均細孔径を有する緻密構造層とからなる構造を有する」二層微多孔膜とされたものである。 ここで、上記1(1)ア(ア)の引用文献1【0112】に記載されるとおり、上記「粗大構造層」及び「緻密構造層」は、各「微多孔膜」の原料である「ポリエチレン樹脂溶液A」と「ポリエチレン樹脂溶液B」の樹脂濃度に差を設けることで得られるとされていることからすれば、これらの樹脂溶液から作製された積層前の「ポリエチレン微多孔膜A」と「ポリエチレン微多孔膜B」に、(どちらが大きいかまでは断定できないものの)平均細孔径の差が生じており、積層を経ても平均細孔径の差が消失しない結果、上記「粗大構造層」及び「緻密構造層」が得られているといえる。 ウ そして、平均細孔径の大小は、最大貫通孔径の大小と基本的に連動するから、「ポリエチレン微多孔膜A」と「ポリエチレン微多孔膜B」のいずれか一方の最大貫通孔径は、他方の同孔径より小さいといえる。また、上記1(2)カの技術常識のとおり、「バブルポイント(すなわち泡立ち点)は、膜中の最大貫通孔径に反比例する」から、両微多孔膜のいずれか一方の、最大貫通孔径の小さい膜の泡立ち点は、他方の泡立ち点より高いといえる。 そうすると、引用発明は、本願発明と同じく、「ポリエチレン微多孔膜A」と「ポリエチレン微多孔膜B」の一方(積層後に「緻密構造層」を形成する膜)が「第1の泡立ち点」を有し、他方(積層後に「粗大構造層」を形成する膜)が「第2の泡立ち点」を有し、「第1の泡立ち点は第2の泡立ち点より高い」ものといえる。 エ さらに、引用発明は、「ポリエチレン微多孔膜A」と「ポリエチレン微多孔膜B」とを「積層し、130℃の温度に加熱した一対のロール間に通し、0.05 MPaの圧力で接合し、130℃で10分間熱固定処理することにより」「得られる多層微多孔膜の特性が低下しないように作製された」ものである。 この工程では、接着剤が用いられておらず、当該「130℃」は、両微多孔膜の原料である「ポリエチレン組成物A」及びポリエチレン組成物B」の融点「135℃」より5℃下回る温度であり、また、「0.05 MPaの圧力」は、接合に必要な最小圧力であって、積層後に微多孔膜の細孔径の差が消失せず、「特性が低下しない」ほどに小さい圧力であるといえるから、当該工程後にも、細孔の圧縮等があまり生じずに多孔性が維持されているといえる。 そして、この工程の条件は、上記(1)ウで確認した、接着剤を用いず、積層される2つ以上の層の最低溶融温度を5℃と20℃との間下回る「積層温度」と「穏やかな圧縮」とによって積層を行うという本願発明を得るための積層工程の条件に合致しているところ、当該工程により作成された引用発明の複合膜は、積層前の微多孔膜の多孔性が維持され、「第1の泡立ち点の90%以上の泡立ち点を有する」との本願発明の特定事項を満たすものといえる。 しかも、仮に、引用発明の積層工程における圧力によって多少の細孔の圧縮が生じているとしても、孔径が小さくなるほど泡立ち点は高くなるから、やはり、「第1の泡立ち点の90%以上の泡立ち点を有する」との本願発明の特定事項を満たすものといえる。 したがって、上記相違点は実質的な相違点でない。 オ なお、上記(1)ウのとおり、 「第1の多孔質ポリマー層が第1の泡立ち点を有し、第2の多孔質ポリマー層が第2の泡立ち点を有し、第1の泡立ち点が第2の泡立ち点よりも高く、複合膜が第1の泡立ち点の90%以上の泡立ち点を有する」 との本願発明の特定事項は、積層前の両ポリマー層のそれぞれの泡立ち点により示される多孔性が、積層後の複合膜においても実質的に維持されていることを特定しようとするものと理解できるが、当該特定事項の文言だけを形式的にみると、積層前後で泡立ち点が維持されているとの点が直接的に記載されていないため、当該特定事項の文言は、 「積層後の複合膜全体についての泡立ち点が、積層後の第1のポリマー層についての泡立ち点の90%以上である」 との意味であると解する余地もあるといえる。 そこで、念のため、このように解した場合についても検討しておくと、以下に示すとおり、この場合でも、上記相違点は実質的な相違点でない。 (ア)上記2(1)で述べたとおり、引用発明の「比較的大きな平均細孔径を有する粗大構造層と、比較的小さな平均細孔径を有する緻密構造層とからなる構造を有する」「ポリエチレン二層微多孔膜」は、本願発明の「第1の多孔質ポリマー層と」、「かつ第1の多孔質ポリマー層とともに積層された第2の多孔質ポリマー層と、を含む、複合膜」に相当し、「粗大構造層」及び「緻密構造層」は、「多孔質ポリマー層」と呼べるものである。 また、上記1(2)カの「電池用セパレータを形成するためのポリエチレン製微多孔膜には、バブルポイントが存在する」との技術常識のとおり、引用発明の「ポリエチレン二層微多孔膜」や、それを構成する「粗大構造層」及び「緻密構造層」は、「バブルポイント」すなわち「泡立ち点」を有するものである。 (イ)そして、平均細孔径の大小は、最大貫通孔径の大小と基本的に連動するから、「緻密構造層」の最大貫通孔径は、「粗大構造層」の同孔径より小さいといえる。また、上記1(2)カの技術常識のとおり、「バブルポイント(すなわち泡立ち点)は、膜中の最大貫通孔径に反比例する」から、「緻密構造層」の泡立ち点は、「粗大構造層」の泡立ち点より高いといえる。 そうすると、引用発明は、本願発明と同じく、「緻密構造層」が「第1の泡立ち点を有し」、「粗大構造層」が「第2の泡立ち点」を有し、「第1の泡立ち点は第2の泡立ち点より高い」ものといえる。 (ウ)ここで、上記(1)アで確認したとおり、泡立ち点は「気泡を細孔に押し通すのに必要な圧力」として測定されるものであり、さらに、孔径が小さいほど当然に気泡通過抵抗が大きくなるところ、「緻密構造層」と「粗大構造層」が重ねられた「二層微多孔膜」全体の気泡通過抵抗は、各層における最大貫通孔径のうち最も小さい同孔径を有する層、すなわち、「緻密構造層」の最大貫通孔径による気泡通過抵抗に制限されることになり、この全体の気泡通過抵抗は、少なくとも「緻密構造層」の気泡通過抵抗以上となるから、「二層微多孔膜」全体の泡立ち点は、「緻密構造層」の泡立ち点以上となるといえる。 そのため、引用発明は、本願発明と同じく、二層微多孔膜が「第1の泡立ち点の90%以上の泡立ち点を有する」ものといえ、本願発明の上記特性事項を満たすものといえるから、上記相違点は、実質的な相違点でない。 (3)請求人の主張について ア 請求人の主張内容 (ア)令和6年4月30日提出の意見書における主張の内容 請求人は、当該意見書「3.1」において、以下のとおり主張している。 「引用文献1には、補正後の本願請求項1に記載の複合膜の「泡立ち点」について、記載も示唆もありません。 引用文献1に記載の「ポリエチレン多層微多孔膜」と本願発明に係る「複合膜」とは、必ずしも同様の「泡立ち点」を有するものではないという点で相違しています。一般に、泡立ち点は、本願明細書段落0025等に記載の通り、膜の多孔度及び細孔サイズなどに応じて変化します。 引用文献1では、ポリエチレン多層微多孔膜が、補正後の本願請求項1に記載の「第1の多孔性ポリマー層の第1の泡立ち点の90%以上の泡立ち点を有する」という特徴を有するために必要な、ポリエチレン多層微多孔膜の多孔度及び細孔サイズについて、全く言及されていません。」 (イ)審判請求書における主張の内容 請求人は、審判請求書第4~7ページにおいて、概ね以下の点を根拠として、本願発明は、その物性が引用発明と異なり、新規性を有するものである旨を主張している。 a 本願発明の複合膜は、「多孔質ポリマー層を提供する工程および多孔質ポリマー層を積層する工程を含む、複合膜を形成する方法」という「単純な方法」により得られる一方、引用発明の多層微多孔膜は、「押し出し」、「熱固定処理」、及び/又は「加熱圧着」という工程以外に、「「溶融混練」および「溶剤除去」という追加の工程」や「延伸工程や熱溶剤処理工程といった、本願発明に係る方法には含まれない、任意に設けられる多くの工程」を含む方法により得られる。 したがって、「引用文献1に記載の方法は、本願発明に係る方法には含まれない上述の工程を含み得るため、引用文献1の方法によって製造される多層微多孔膜が、本願発明に係る複合膜と同様の特性を有する可能性は低いはずである。」 b 引用文献1には、「溶融混錬」、「溶剤除去」、「延伸工程」、「熱固定処理」、「熱ロール処理」、「熱溶剤処理」において「細孔サイズの制御」を行い得るという「ごく一般的な教示」の記載はあるものの、「各層または膜全体について細孔サイズ/泡立ち点を合理的に制御しうるような、具体的な事項を提示しているわけではない」し、「2つの層を組み合わせることで膜の流れ特性が影響を受ける可能性があるということについて、または、積層された複合膜が、多孔質ポリマー層が堆積された(非積層の)構成の膜と同様の流れ特性を有するように、細孔サイズ/泡立ち点が制御されうる若しくは制御されるべきことについても、記載も示唆もない」。 「ゆえに、引用文献1には、膜の細孔サイズ/泡立ち点を、全体的にまたは層ごとに、本願請求項に記載されているような複合膜の流れ特性のいずれとも一致するように、十分制御するための手段が提示されていない」から、「引用文献1に記載の多層微多孔膜は、本願請求項に記載の複合膜の特性とは異なる特性を有するはずである。」 イ 請求人の主張に対する判断 (ア)令和6年4月30日提出の意見書における主張に対して 請求人は、要するに、引用文献1に「泡立ち点」やそれを決定づける「膜の多孔度及び細孔サイズ」の直接的な言及がないことを根拠に、本願発明と引用発明の「泡立ち点」が相違する旨を主張しているが、少なくとも、引用発明のように電池用セパレータに用いられる微多孔膜に泡立ち点(バブルポイント)が存在することは技術常識であるし、上記(2)で述べたとおり、引用発明は、本願発明に係る泡立ち点の規定を全て満足するものといえる。 したがって、請求人が指摘するような直接的な言及が存在しないからといって、上記(2)の判断が覆ることはない。 (イ)審判請求書における主張に対して a 請求人は、要するに、「多孔質ポリマー層を提供する工程および多孔質ポリマー層を積層する工程を含む、複合膜を形成する方法」という「単純な方法」により得られる複合膜と、引用文献1に記載された「本願発明に係る方法には含まれない」工程を経て作成された多層微多孔膜の物性が異なる旨を主張しているといえる。 しかしながら、本願発明は、本願請求項1に記載されるとおり、「第1の多孔質ポリマー層」と「第2ポリマー層」が存在する「複合膜」であって、その物性として、各層及び複合膜全体の「泡立ち点」の相対的な関係のみが特定された物の発明であるから、そのような物の発明を対比の対象とすべきである。 そして、上記1(1)イのとおり認定される引用発明は、上記(2)でも述べたとおり、積層前の「ポリエチレン微多孔膜A」及び「ポリエチレン微多孔膜B」が泡立ち点を有するものであり、積層前後の多孔性の変化を決定づける積層工程の条件が本願発明の条件と合致しており、さらに、積層後に何らかの操作を実施するものではないから、積層前の微多孔膜の多孔性が積層後にも維持されており、本願発明の泡立ち点の規定を全て満足するものといえる。 なお、請求人が指摘する工程のうち、熱溶剤処理は、引用発明において実施される工程でないし、溶融混練、溶剤除去、延伸は、樹脂溶液から積層前の微多孔膜を形成するために実施される工程であって、上述の積層工程の条件に基づく積層前後での多孔性の変化の判断を左右するものではない。 b 請求人は、要するに、引用文献1に「細孔サイズ/泡立ち点」を制御することの直接的な言及がないことを根拠に、本願発明と引用発明の「泡立ち点」が相違する旨を主張しているが、上記(ア)と同様に、請求人が指摘するような直接的な言及が存在しないからといって、上記(2)の判断が覆ることはない。 (4)小括 以上のとおり、上記2(4)の相違点は、実質的な相違点ではないから、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるといえる。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるため、同法第49条第2号に該当する。したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり、審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2024-018309

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決69件(インテグリス・インコーポレーテッド)
  • 2025-009449拒絶査定不服審判 / 2026-08-24 / 原査定取消(特許/登録すべき)静電チャック用螺旋状多相電極
    同じ当事者: インテグリス・インコーポレーテッド
  • 2024-019862拒絶査定不服審判 / 2026-07-31 / 原査定取消(特許/登録すべき)低金属含有量ポリオレフィンフィルタ膜
    同じ当事者: インテグリス・インコーポレーテッド
  • 2024-020493拒絶査定不服審判 / 2026-04-06 / 原査定取消(特許/登録すべき)コーティングされたセンサゾーンを有するレチクルポッド
    同じ当事者: インテグリス・インコーポレーテッド
  • 2024-020778拒絶査定不服審判 / 2026-03-30 / 原査定取消(特許/登録すべき)原子層堆積により塗布された耐薬品性多層コーティング
    同じ当事者: インテグリス・インコーポレーテッド
  • 2024-013221拒絶査定不服審判 / 2026-03-23 / 原査定取消(特許/登録すべき)化学機械研磨組成物、リンス組成物、基材の化学機械研磨方法及び基材のリンス方法
    同じ当事者: インテグリス・インコーポレーテッド
検索でもっと見る →
同じ論点・分野の審決(審決分類)142件(113・B01D)
  • 2024-019625拒絶査定不服審判 / 2026-08-28 / 原査定取消(特許/登録すべき)ポリマーベースの膜、その製造方法およびその使用
    共通の審決分類: 113・B01D
  • 2025-019715拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)エアフィルタ濾材、フィルタプリーツパック及びエアフィルタユニット
    共通の審決分類: 113・B01D
  • 2024-019862拒絶査定不服審判 / 2026-07-31 / 原査定取消(特許/登録すべき)低金属含有量ポリオレフィンフィルタ膜
    共通の審決分類: 113・B01D
  • 2024-017241拒絶査定不服審判 / 2026-07-08 / 請求不成立ろ過方法およびろ過装置
    共通の審決分類: 113・B01D
  • 2024-019763拒絶査定不服審判 / 2026-07-07 / 原査定取消(特許/登録すべき)原料液減容方法及びシステム
    共通の審決分類: 113・B01D

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存