特許拒絶査定不服審判
2022-003068
走査型電子顕微鏡および走査型電子顕微鏡の2次電子検出方法
- 審判番号
- 2022-003068
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-084263
- 請求日
- 2022年03月01日
- 審決日
- 2023年04月13日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社ホロン
- 【請求人代理人】岡田 守弘
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬川 勝久
- 審判官 松川 直樹
- 審判官 野村 伸雄
- 分類
- P18 .121-Z (H01J) / P18 .575-Z (H01J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-84263号「走査型電子顕微鏡および走査型電子顕微鏡の2次電子検出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月15日出願公開、特開2018-181790号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年4月21日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 3月24日付け:拒絶理由通知書
令和3年 4月19日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年 8月 4日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和3年 8月25日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年12月 3日付け:令和3年8月25日になされた手続補正につ
いての補正の却下の決定、拒絶査定
令和4年 3月 1日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年3月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年3月1日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
電子ビームを細く絞ってサンプルに照射しつつ平面走査し、放出された2次電子を検出する2次電子検出器を設けた走査型電子顕微鏡において、
前記電子ビームを細く絞る対物レンズと試料室内に移動可能に保持された前記サンプルとの間に該電子ビームが通過し、かつ気体がほとんど通過されない小さなアパチャーと、
前記サンプルを収納した試料室の圧力について、所定圧力に保持する該所定圧力を、細く絞った電子ビームが前記試料室内の気体に衝突してイオン化し、サンプルの表面に電子ビームの照射によって生じた負および正電荷を中和するに十分なイオン量が得られる圧力とする所定圧力保持手段と、
前記サンプルと前記アパチャーとの間に、放電しない範囲の400V以下の所定バイアス電圧を印加するサンプル電圧印加装置とを備え、
該サンプル電圧印加装置が前記サンプルから放出された2次電子を前記アパチャーに向けて加速する電圧を該アパチャーに印加して、該サンプルから放出された2次電子を該アパチャーの小さな穴を通過させるように偏向し、該通過した2次電子を前記2次電子検出器で検出して2次電子検出割合を増大させ、併せて放電しない範囲の前記バイアス電圧を印加して放電を抑止し、かつサンプルへの前記ビームの照射による負および正電荷を中和してチャージを防止およびバックグラインドノイズを低減してS/Nを向上させたことを特徴とする走査型電子顕微鏡。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年4月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
電子ビームを細く絞ってサンプルに照射しつつ平面走査し、放出された2次電子を検出する2次電子検出器を設けた走査型電子顕微鏡において、
前記電子ビームを細く絞る対物レンズと試料室内に移動可能に保持された前記サンプルとの間に該電子ビームが通過し、かつ気体がほとんど通過されない小さなアパチャーと、
前記サンプルを収納した試料室の圧力について、所定圧力に保持する該所定圧力を、細く絞った電子ビームが前記試料室内の気体に衝突してイオン化し、サンプルの表面に電子ビームの照射によって生じた負電荷を中和するに十分なイオン量が得られる圧力とする所定圧力保持手段と、
前記サンプルと前記アパチャーとの間に、放電しない範囲の400V以下の所定バイアス電圧を印加するサンプル電圧印加装置とを備え、
該サンプル電圧印加装置が前記サンプルから放出された2次電子を前記アパチャーに向けて加速する電圧を該アパチャーに印加して、該サンプルから放出された2次電子を該アパチャーの小さな穴を通過させるように偏向し、該通過した2次電子を前記2次電子検出器で検出して2次電子検出割合を増大させ、併せて放電しない範囲の前記バイアス電圧を印加して放電を抑止し、かつサンプルへの前記ビームの照射による負電荷を中和してチャージを防止したことを特徴とする走査型電子顕微鏡。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「サンプルの表面に電子ビームの照射によって生じた負電荷」及び「サンプルへの前記ビームの照射による負電荷」とあったものを、「サンプルの表面に電子ビームの照射によって生じた負および正電荷」及び「サンプルへの前記ビームの照射による負および正電荷」と限定するとともに、「中和してチャージを防止した」とあったものを、「中和してチャージを防止およびバックグラインドノイズを低減してS/Nを向上させた」と限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2002-507045号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は当審で付した。以下同じ。)
「【請求項1】ビーム源と試料室とを有し、これらの間に少なくとも1つの圧力ステージアパチャーが配設され、この圧力ステージアパチャーのオリフィスを通って一次電子ビームが前記試料室内の試料に向かって偏向され、最も試料に近い最下側の圧力ステージアパチャー(18)を通って一次電子ビームは試料に当たり、この圧力ステージアパチャー(18)は、走査型電子顕微鏡の残りの顕微鏡カラムに対して試料室内の昇圧をシールドし、また試料からの二次電子が圧力ステージアパチャーのオリフィス(16)を通って少なくとも1つの検出器に達するのを可能にするように設定されている走査型電子顕微鏡において、
試料に対してバイアス電位の高感度検出器(51,74,91)が前記検出器として設けられていることを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項2】前記最下側の圧力ステージアパチャー(18)の上方に配置された少なくとも1つの電極(39,43,44,55)が、圧力ステージアパチャー(18)に対して正電位であり、試料からの二次電子を検出器(51,74,91)へと偏向するようになっている請求項1の走査型電子顕微鏡。」
「【0002】
【従来技術】
僅かに昇圧された状況で動作する走査型電子顕微鏡(圧力SEM)においては、数ヘクトパスカルないし数キロパスカルの最大動作圧力が、試料室内で通常発生されている。このような圧力において、一次電子は、比較的短い平均自由行程を有する。このために、顕微鏡のカラムは、圧力ステージアパチャー(もしくは圧力規制アパチャー)により、試料室に対してシールされている。そして、このアパチャーを通って、電子ビームは、試料室に入る。また、この圧力ステージアパチャーの上方で、圧力は数十倍減じられている。」
「【0007】
さらに、低い一次エネルギーの使用は、また、小さいエネルギーが試料に与えられて試料を損傷してしまう敏感な試料を調べる場合に、電子ビームの照射が、薄い表面層に限られるために、有効である。・・・(略)・・・」
「【0022】
本発明の好ましい実施の形態は、かくして、全体の検出器表面もしくは検出器表面の部分が、試料の電位と比較して正で500V、好ましくは1000V高い電位に設定されるという事実による。一般的な圧力SEMの試料室内でのこのような検出器の使用は、スパークオバーを生じさせる。」
「【0024】
改良された検出効果は、試料並びに気体で発生されて圧力ステージアパチャーを通って検出器に達する二次電子の量の増大により生じる。・・・(略)・・・」
「【0026】
【発明の実施の形態】
本発明の理解のために、図面の表示は、試料と検出器との間の領域に設けられた、本発明の理解のための重要な部品に制限されている。これは、例えば、ハウジング壁、真空ポンプ、真空ライン、カソード、ビーム成形のための電極、コンデンサーレンズ、アパチャー、スティグマトール、アラインメントコイル、並びに制御装置を含む、走査型電子顕微鏡の他の部品は、示していない。例えば、図1は、特に、本発明に係わる圧力SEMの実施の形態のための、本発明の理解にとって本質的である部品を示す。
【0027】
一次電子ビームは、上方から検出器74のオリフィス77を通って光軸79に沿って進む。試料11を走査するために必要な一次電子ビームの偏向は、偏向コイル59の助けにより果たされる。この一次電子ビームは、電極44,50,55により形成された静電レンズと、磁気対物レンズ62並びに/もしくは単一ポールの磁気対物レンズ64により発生される磁界との助けにより収束される。そして、前記電極44と別の電極18との間の電界は、一次電子ビームを収束させるために、さらに貢献する。尚、光軸方向に開いたポールシュー間隙を有する前記磁気対物レンズ62と、前記単一ポールの磁気対物レンズ64との一方を省略することが可能である。
【0028】
前記電極55は、他方の電極44,50に対して高い正の電位に設定されている。このような電位差は、好ましくは、1ないし15kV、例えば、7kVで良い。前記電極50,44は、ポールシュー58の周囲の絶縁体に、これと同心的に配置されている。また、この電極44は、前記電極18に対して正の電位に設定されており、これらの間の好ましい電位差は、50ないし2000Vである。この電極18は、絶縁体60に装着されており、正の電位か、試料11と同電位に設定されている。印加される電圧の高さは、図2を参照して以下に説明される。」
「【0030】
また、前記電極18,44は、同時に、圧力ステージアパチャーとして機能するようにデザインされている。気体は、試料室の外に流れ、圧力ステージアパチャー18のオリフィスを通って、上方に流れて顕微鏡カラムに入る。そして、この気体は、矢印で示されるように、電極55のオリフィス並びに並型チューブ63を通るようにポンプで吸引される。中心合わせされ得る圧力ステージアパチャー18は、シールリング65により、外ポールシューに対してシールされている。」
「【0033】
図2に示される圧力ステージアパチャーのオリフィス16,41の好ましいサイズは、試料室内の所望の最大許容圧力と、所望の最小使用可能一次エネルギーと、電極18,44間の電圧並びに距離と、カソウド(例えば、ショットキー・エミッター)により必要とされる真空度とに、依存している。圧力ステージアパチャー18のオリフィス16の直径は、例えば、20ないし500μmで良い。しかし、オリフィス16のサイズは、低い一次エネルギーに対して安定化が無視されるか、試料室内の圧力が低い圧力レベルに制限されているのであれば、1000μmで良い。例えば、オリフィス41の好ましい直径は、例えば、100μmない2000μmで良い。これは、オリフィス16の直径の少なくとも2倍であることが好ましい。」
「【0035】
一次電子ビームは、図2に示されるオリフィス16を通って上方から試料室に入り、この試料室内の気体を通って、試料に当たり、二次電子と後方散乱電子とを発生させる。二次電子は、弾性散乱に対して大きい有効断面積を有している。かくして、この動作軸は、拡散プロセスのときに、度々反転され、試料に達する前に散乱が吸収されるかもしれないリスクがある。かくして、二次電子は、オリフィス16を通る電界路のみによるか、試料11と圧力ステージアパチャー18間に付加の電圧を印加することにより形成された電界の助けでオリフィス16の方向に偏向される。
【0036】
前記試料室内の気体並びに圧力と、オリフィス16の直径と、ボア壁17の長さと、内円錐面22の円錐角β、γと、試料11と圧力ステージアパチャー18間の距離とに依存して、ほとんどの二次電子が検出器74に達するような最適な電圧が前記試料11と圧力ステージアパチャー18と間に印加される。このような電圧は、ゼロボルトと数百ボルトとの間で良い。」
「【0039】
前記試料11と圧力ステージアパチャー18との間の距離が比較的長く(例えば、1000μm)かつ電圧が比較的高い(例えば、200V)場合には、二次電子カスケードは、付加前増幅として得られる。充分に大きい(200μm以上、例えば、250μm)圧力ステージアパチャー16を使用する場合には、比較的距離が長くても高い検出効率を得るように、充分な二次電子がオリフィス16に入る。」
「【0044】
前記試料室内の低圧(例えば、1hPa)、もしくは下側の圧力ステージアパチャー16の小さい直径(例えば、200μm)で、または、二次電子がオリフィス16に達する比較的高いエネルギーレベル(例えば、20eV)を有しているときには、上側の圧力ステージアパチャー41を通る二次電子を偏向するような電界を圧力ステージアパチャー18の上方に必要としない。・・・(略)・・・」
「【0048】
前記電極44の上方の二次電子の残りのパスは、図1に基づいて以下に詳細に説明される。二次電子は、電極44,55間の電界によりさらに加速され、高い運動エネルギーで検出器74に飛び込む。前記圧力ステージアパチャー18,44内並びにこれらの上方の気体圧力の大きな減少により、高い検出感度の検出器を使用するための充分に高い真空が、検出器74の場所での試料室内の圧力増大にも係わらず達成される。・・・(略)・・・」
「【0057】・・・(略)・・・圧力ステージアパチャー18を交換するための対応する装置(図示せず)は、例えば、試料テーブルのエッジに装着され得る。」
「【0072】
前記ワイヤーネットワーク75と検出器51との間の好ましい電圧は、1ないし10kVである。この検出器51は、例えば、図6に示されるように、半導体検出器もしくはシンチレータで良い。試料室内に気体圧があるときにその高電圧がスパークを避けがたく導くような高感度二次電子検出器の使用は、今まで知っている走査型電子顕微鏡と比較して、はるかに優れた信号-雑音比のための理由である。これは、図6に示される実施の形態で、試料室に気体がある場合に得られる。」
・FIG.1ないし3は次のものである。
[図:0001398834000001.jpg]
[図:0001398834000002.jpg]
[図:0001398834000003.jpg]
(イ)上記(ア)によれば、引用文献1には下記各事項が記載されていると認められる(以下、認定の根拠とした箇所の段落番号等を参考までに括弧内に付した。)。
a 引用文献1に記載された「走査型電子顕微鏡」(【0026】)は、「一次電子ビームは、電極44,50,55により形成された静電レンズと、磁気対物レンズ62並びに/もしくは単一ポールの磁気対物レンズ64により発生される磁界との助けにより収束され」、「前記電極44と別の電極18との間の電界は、一次電子ビームを収束させるために、さらに貢献する」(【0027】)ものであって、「一次電子ビームは、」「オリフィス16を通って上方から試料室に入り、この試料室内の気体を通って、試料に当たり、二次電子と後方散乱電子とを発生させる」(【0035】)から、一次電子ビームを収束して試料11に当てる走査型電子顕微鏡であるといえる。
また、引用文献1に記載された「走査型電子顕微鏡」(【0026】)は、「試料11を走査するために必要な一次電子ビームの偏向は、偏向コイル59の助けにより果たされ」る(【0027】)「電子ビームの照射」(【0007】)により「試料11を走査する」(【0027】)ものであるから、走査する走査型電子顕微鏡であるともいえる。
したがって、引用文献1に記載された走査型電子顕微鏡は、一次電子ビームを収束して試料11に当てつつ走査する走査型電子顕微鏡であるといえる。
b 引用文献1に記載された「走査型電子顕微鏡」(【0026】)は、「一次電子ビームは、」「オリフィス16を通って上方から試料室に入り、この試料室内の気体を通って、試料に当たり、二次電子と後方散乱電子とを発生させ」(【0035】)、「二次電子は、電極44,55間の電界によりさらに加速され、高い運動エネルギーで検出器74に飛び込む」(【0048】)ものであるから、発生した二次電子を検出する検出器74を設けた走査型電子顕微鏡であるといえる。
c 引用文献1に記載された「電極18」(【0027】)は、「電極44」との間の電界」が「一次電子ビームを収束させるために、さらに貢献する」(【0027】)電極であって、「最も試料に近い最下側の圧力ステージアパチャー」(請求項1)であるから、引用文献1に記載された走査型電子顕微鏡では、電極44及び圧力ステージアパチャー18は一次電子ビームを収束させる対物レンズをなすといえる。
d 「走査型電子顕微鏡」(【0026】)において、「試料11」が「試料テーブル」(【0057】)に保持されることは周知の技術的事項である。
したがって、引用文献1に記載された「走査型電子顕微鏡」(【0026】)の「一次電子ビームが」「試料室内の試料」「に当た」(請求項1)るものであることを踏まえると、引用文献1に記載された走査型電子顕微鏡では、試料11は試料室内に保持されているといえる。
e 引用文献1に記載された「走査型電子顕微鏡」(【0026】)は、「一次電子ビームが」「最も試料に近い最下側の圧力ステージアパチャー(18)を通って」「試料に当たり、この圧力ステージアパチャー(18)は、走査型電子顕微鏡の残りの顕微鏡カラムに対して試料室内の昇圧をシールドし、また試料からの二次電子が圧力ステージアパチャーのオリフィス(16)を通って少なくとも1つの検出器に達するのを可能にするように設定されている」(請求項1)ものであって、当該「圧力ステージアパチャー」「により、試料室に対してシールされ」、「この圧力ステージアパチャーの上方で、圧力は数十倍減じられ」るから(【0002】)、引用文献1に記載された走査型電子顕微鏡の圧力ステージアパチャー18は、一次電子ビームが通過するオリフィス16を有するものであるといえる。
また、引用文献1には、「圧力ステージアパチャー18のオリフィス16の直径は、例えば、20ないし500μmで良い」(【0033】)と記載されているから、20ないし500μmの直径を有するオリフィス16であるといえる。
さらに、引用文献1に記載された「走査型電子顕微鏡」(【0026】)における「電極44と別の電極18との間の電界は、一次電子ビームを収束させるために、さらに貢献する」(【0027】)から、引用文献1に記載された走査型電子顕微鏡では、圧力ステージアパチャー18は、一次電子ビームを収束させる対物レンズをなす電極44及び圧力ステージアパチャー18のうちの電極44と試料11の間に備えられているといえる。
したがって、引用文献1に記載された走査型電子顕微鏡の圧力ステージアパチャー18は、一次電子ビームが通過する、20ないし500μmの直径のオリフィスを有し、前記圧力ステージアパチャー18は、一次電子ビームを収束させる対物レンズをなす前記電極44及び圧力ステージアパチャー18のうちの前記電極44と前記試料の間に備えられているといえる。
f 引用文献1には、「真空ポンプ」「を含む、走査型電子顕微鏡の他の部品は、示していない」(【0026】)と記載されていることに照らして、引用文献1の走査型電子顕微鏡は真空ポンプを備えるといえる。
また、引用文献1には、「試料室内の低圧(例えば、1hPa)を有しているときには、上側の圧力ステージアパチャー41を通る二次電子を偏向するような電界を圧力ステージアパチャー18の上方に必要としない」(【0044】)と記載されるとともに、「気体は、試料室の外に流れ、圧力ステージアパチャー18のオリフィスを通って、上方に流れて顕微鏡カラムに入」り、「そして、この気体は、矢印で示されるように、電極55のオリフィス並びに並型チューブ63を通るようにポンプで吸引される」(【0030】)と記載されていることから、引用文献1に記載された走査型電子顕微鏡の試料室の中の気体は真空ポンプにより所定圧力(例えば、1hPa)に保持されていると解される。
g 引用文献1には、「試料11と圧力ステージアパチャー18間の距離とに依存して、ほとんどの二次電子が検出器74に達するような最適な電圧が前記試料11と圧力ステージアパチャー18と間に印加され」、「このような電圧は、ゼロボルトと数百ボルトとの間で良」く(【0036】)、「試料11と圧力ステージアパチャー18との間の距離が比較的長く(例えば、1000μm)かつ電圧が比較的高い(例えば、200V)場合には、二次電子カスケードは、付加前増幅として得られる」(【0039】)と記載されているから、引用文献1に記載された走査型電子顕微鏡では、試料11と圧力ステージアパチャー18との間には、ほとんどの二次電子が検出器74に達するような最適な電圧(例えば、200V)が印加されるといえる。
また、引用文献1に記載された「走査型電子顕微鏡」(【0026】)が、当該最適な電圧(例えば、200V)を印加する装置を備えることは明らかである。
したがって、引用文献1に記載された走査型電子顕微鏡は、試料11と圧力ステージアパチャー18の間に、200Vの電圧を印加する装置を備えるといえる。
h 引用文献1に記載された「走査型電子顕微鏡」(【0026】)は、「二次電子は、電極44,55間の電界によりさらに加速され、高い運動エネルギーで検出器74に飛び込む」(【0048】)から、上記gでの検討を踏まえると、引用文献1に記載された走査型電子顕微鏡は、試料11と圧力ステージアパチャー18の間に、200Vの電圧を印加する装置を備えることで、二次電子を圧力ステージアパチャー18に向ける200Vの電圧を圧力ステージアパチャー18に印加しているといえる。
i 引用文献1に記載された「走査型電子顕微鏡」(【0026】)は、「二次電子は、オリフィス16を通る電界路のみによるか、試料11と圧力ステージアパチャー18間に付加の電圧を印加することにより形成された電界の助けでオリフィス16の方向に偏向される」(【0035】)から、引用文献1に記載された走査型電子顕微鏡は、試料11と圧力ステージアパチャー18間に付加の電圧を印加することにより形成された電界の助けで、二次電子を、オリフィス16の方向に偏向しているといえる。
j 引用文献1に記載された「走査型電子顕微鏡」(【0026】)では、「改良された検出効果は、試料並びに気体で発生されて圧力ステージアパチャーを通って検出器に達する二次電子の量の増大により生じる」(【0024】)から、引用文献1に記載された走査型電子顕微鏡は、圧力ステージアパチャー18のオリフィス16を通過した二次電子を検出器74で検出しているといえる。
(ウ)上記(ア)及び(イ)によれば、引用文献1には下記発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(以下、引用発明の認定の根拠とした箇所の項目等を参考までに括弧内に付した。)。
「一次電子ビームを収束して試料に当てつつ走査し((イ)a)、発生した二次電子を検出する検出器を設けた走査型電子顕微鏡において((イ)b)、
電極44及び圧力ステージアパチャー18は一次電子ビームを収束させる対物レンズをなし((イ)c)、前記試料は試料室内に保持され((イ)d)、
前記圧力ステージアパチャー18は、一次電子ビームが通過する20ないし500μmの直径のオリフィスを有し、前記圧力ステージアパチャー18は、一次電子ビームを収束させる対物レンズをなす前記電極44及び圧力ステージアパチャー18のうちの前記電極44と前記試料の間に備えられていて((イ)e)、
前記試料室の中の気体は真空ポンプにより所定圧力(1hPa)に保持され((イ)f)、
前記試料と前記圧力ステージアパチャー18の間に、200ボルトの電圧を印加する装置を備え((イ)g)、
前記試料と前記圧力ステージアパチャー18の間に、前記200Vの電圧を印加する装置を備えることで、前記二次電子を前記圧力ステージアパチャー18に向ける200Vの電圧を前記圧力ステージアパチャー18に印加し((イ)h)、前記試料と圧力ステージアパチャー18間に付加の電圧を印加することにより形成された電界の助けで、二次電子を、オリフィスの方向に偏向し((イ)i)、前記圧力ステージアパチャー18のオリフィスを通過した二次電子を検出器で検出している((イ)j)、
走査型電子顕微鏡(請求項1)。」
イ 引用文献2
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2016-66413号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、リターディング電圧を用いた低真空用荷電粒子線装置に関するものである。」
「【0009】
これらのマスクが正しい寸法で出来ているかどうかを調べるためには、電子顕微鏡技術が必須であるが、高精細画像を取得するためにはサンプル表面にビームスポットサイズの小さな電子を照射して、信号電子を検出する必要があるが、その際、サンプル表面がチャージして照射電子ビームや信号電子に悪影響を与えないことが必須である。」
「【0028】
また、リターディング電圧を調整し、サンプルの表面にチャージの発生が可及的に少なくなるようにすると共に、どうしても発生してしまったチャージを、低真空状態でガスを分離して生成したプラスとマイナスの電荷で中和して除去することができる。これにより、どのような表面状態を持つサンプルにおいてもサンプル上に生じるチャージ(電荷)を除去し、高分解能の画像を観察、取得し、測長できる。」
「【0042】
差動排気アパチャー11は、2段の差動排気用のアパチャーであって、低真空側のサンプル12に面した側に差動排気アパチャー(下、第1)11を設け、高真空側に面した側に差動排気アパチャー(上、第2)11を設け、低真空側から高真空側の間に空間を設けるためのものである。この空間は、必要に応じて図示外の真空排気系で真空排気(差動排気)する。このアパチャーに酸化膜、チッカ膜、炭素膜等の電子透過薄膜が設けられていてもよ良い(当審注:「いても良い」の誤記と解される。)。差動排気アパチャーの典型的なサイズは0.005mmから数mmの範囲である。差動排気アパチャーは1つの装置に2つ以上の真空度を持つ場所を提供する技術であり、高真空を必要とする、電子銃あるいはMCP等の電子検出器が動作できる環境をチャンバーの低真空環境とともに提供する。」
「【0055】
(3)ここで、低真空側と高真空側との間に、本発明の、中心に穴を有する2段の差動排気アパチャー11が設けられているため、両者(低真空側と高真空側と)でそれぞれ所望の真空を保持することができると共に、本発明では差動排気アパチャー11の下(サンプル12に近い方の下(あるいは上、あるいは両者でもよい))にリターディング電圧23を印加して減速して1次電子2のエネルギーを低エネルギーにしてサンプル12に照射しつつ平面走査するために、(1)対物レンズ8による収差の影響(1次電子2を低エネルギーにして収差が大きくなる影響)を小さくして細く絞った1次電子2をサンプル12に照射しつつ平面走査し、高分解能の画像を取得でき、(2)かつ低エネルギーの1次電子2でサンプル12の表面を照射しつつ平面走査して当該サンプル12のごく表面からの2次電子を放出させて高分解能の信号を取得でき、かつ(3)低真空状態においたサンプル12に1次電子2を照射するために当該低真空中のガスと衝突して分離してプラスとマイナスの電荷が発生し、サンプル12上に生じた電荷を中和し、サンプル12のチャージによる影響を低減(あるいは除去)できるという顕著な効果が得られる。」
「【0060】
真空チャンバー9は、低真空状態に保持、ここでは、例えば100Paに保持されている。低真空状態は、望ましくは1Paから100Pa,更に大気圧の範囲で実験を行って決めればよい。1Paよりも圧力が小さくなると、低速エネルギーの1次電子2をサンプル12に照射しつつ平面走査したときに、ガスとの衝突確率が小さくなりすぎ、ガスを分離してプラスとマイナスの電荷を十分に生成できず、サンプル12の表面の電荷を中和が困難となるので、最適な値は実験で求めて決めればよい。尚、高真空側は、本例では1mPaとしたが、これに限られず、通常100mPaよりも高真空であればよい。」
「【0063】
放電を避けるためには、低真空部において高電位差が起きないようにすることも大事である。本実施例では、従来のSEM構造では、放電が起きやすい差動排気アパチャー11とサンプル12との間の電位が同じになるように電気的に制御する。このようにすると低真空状態にある差動排気アパチャー11の先端とサンプル12との間には高電圧が掛からないため、原理的に放電は起こらない。一方、差動排気アパチャー11とサンプル12にはリターディング効果に必要な高電圧(リターディング電圧23)が加えられる。例えば、電子銃1から出射する1次電子2のエネルギー(電圧)が8KVで、ブースター電極17で10KV(ブースタ電圧22)に加速し、差動排気アパチャー11とサンプル12との電位を-9KVに設定すれば、サンプル12へのランディング電圧は1KVが実現できる。一方、差動排気アパチャー11とサンプル12との間の電位差は0KVとなり放電は起こらない。高電圧は高真空側の部分にのみに加えられるので、通常の高真空における沿面放電対策等を行えば、十分の上記の電位差に耐えることが出来る。
【0064】
以上の方法によって、真空チャンバー9のサンプル12の周辺圧力を低真空状態に保ちながらリターディング電圧23を印加でき、該リターディング法は、1次電子2のエネルギーを変えることで、更に、2次電子放出の効率を変化させることができるので、サンプル12の表面に電荷が蓄積しない条件を作ることが出来る。リターディング法ではサンプル12の全ての部分の電荷蓄積を0にすることは出来ないが、その0には成らない部分を本発明の低真空状態でガスを分離してプラスとマイナスのイオンを発生させて、サンプル12上の電荷を中和して除去することにより、極めて安定度の高い、サンプル12の観察、測定が可能になる。」
「【0067】
以上のように、2段の穴を有する差動排気アパチャー11を低真空側と高真空側との間に図1、図2に示すように配置することにより、低真空側の真空度を100Paにした場合に高真空側の真空度を1mPaに保持でき、実用上問題のないように構成できることが判明した。尚、低真空状態は、100Paから1Pa(1Paは1次電子2をガスに衝突させて、プラスおよびマイナスのイオンへの分離の確率が小さくなり、サンプル12の表面の電荷を中和できる下限に相当)であればよい。」
(イ)上記(ア)によれば、引用文献2には下記技術的事項(以下「引用文献2に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる(以下、認定の根拠とした箇所の段落番号等を参考までに括弧内に付した。)。
「低真空側のサンプルに面した側に差動排気アパチャー(下、第1)を設け、高真空側に面した側に差動排気アパチャー(上、第2)を設けた2段の差動排気用のアパチャーを備え(【0042】)、画像を取得するためにサンプル表面に電子を照射して信号電子を検出する電子顕微鏡において、サンプル表面がチャージして照射電子ビームや信号電子に悪影響を与えない(【0009】)ために、発生してしまったチャージを(【0028】)、低真空状態においたサンプルに1次電子を照射するために当該低真空中のガスと衝突して分離してプラスとマイナスの電荷が発生し、サンプル上に生じた電荷を中和し、サンプルのチャージによる影響を低減(あるいは除去)(【0055】)するために、真空チャンバーは、低真空状態(例えば100Pa)に保持され、1次電子をサンプルに照射しつつ平面走査したときに、ガスと衝突し、ガスを分離してプラスとマイナスの電荷を生成して、サンプルの表面の電荷を中和する(【0060】)こと。」
(3)対比・判断
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「一次電子ビーム」、「収束して」、「試料」、「発生した二次電子」、「検出器」、「一次電子ビームを収束させる(対物レンズをなす)電極44及び圧力ステージアパチャー18」、「試料室」、「圧力ステージアパチャー18」、「所定圧力(1hPa)」、「真空ポンプ」、「200Vの電圧」、「200Vの電圧を印加する装置」及び「走査型電子顕微鏡」は、本件補正発明の「電子ビーム」、「細く絞って」、「サンプル」、「放出された2次電子」、「2次電子検出器」、「電子ビームを細く絞る対物レンズ」、「試料室」、「アパチャー」、「所定圧力」、「所定圧力保持手段」、「400V以下の所定電圧」、「サンプル電圧印加装置」及び「走査型電子顕微鏡」に相当する。
(イ)本件補正発明の「電子ビームを細く絞ってサンプルに照射しつつ平面走査し、放出された2次電子を検出する2次電子検出器を設けた走査型電子顕微鏡」との発明特定事項(以下「発明特定事項イ」という。)について
引用発明の「一次電子ビームを収束して試料に当てつつ走査」するとの構成は、本件補正発明の「電子ビームを細く絞ってサンプルに照射しつつ平面走査」することと、「電子ビームを細く絞ってサンプルに照射しつつ走査」ことの点で一致する。
また、引用発明の「発生した二次電子を検出する検出器を設けた走査型電子顕微鏡」との構成は、本件補正発明の「放出された2次電子を検出する2次電子検出器を設けた走査型電子顕微鏡」に相当する。
したがって、引用発明の「一次電子ビームを収束して試料に当てつつ走査し((イ)a)、発生した二次電子を検出する検出器を設けた走査型電子顕微鏡」との構成は、本件補正発明の発明特定事項イの構成と、「電子ビームを細く絞ってサンプルに照射しつつ走査し、放出された2次電子を検出する2次電子検出器を設けた走査型電子顕微鏡」の点で一致する。
(ウ)本件補正発明の「前記電子ビームを細く絞る対物レンズと試料室内に移動可能に保持された前記サンプルとの間に該電子ビームが通過し、かつ気体がほとんど通過されない小さなアパチャー」との発明特定事項(以下「発明特定事項ウ」という。)について
引用発明の「一次電子ビームを収束させる対物レンズをな」す「電極44及び圧力ステージアパチャー」は、本件補正発明の「前記電子ビームを細く絞る対物レンズ」に相当する。
また、引用発明の「試料室内に保持され」る「試料」は、本件補正発明の「試料室内に移動可能に保持された前記サンプル」と、「試料室内に保持された前記サンプル」の点で一致する。
さらに、引用発明の「一次電子ビームが通過する20ないし500μmの直径のオリフィスを有」する「圧力ステージアパチャー」は、本件補正発明の「該電子ビームが通過し、かつ気体がほとんど通過されない小さなアパチャー」と、「該電子ビームが通過するアパチャー」の点で一致する。
そして、引用発明の「一次電子ビームを収束させる対物レンズをなす前記電極44及び圧力ステージアパチャー18のうちの前記電極44と前記試料の間に備えられて」いる「圧力ステージアパチャー18」は、本件補正発明の「対物レンズと」「サンプルとの間に」備えられる「アパチャー」に相当する。
したがって、引用発明の「電極44及び圧力ステージアパチャー18は一次電子ビームを収束させる対物レンズをなし、前記試料は試料室内に保持され、前記圧力ステージアパチャー18は、一次電子ビームが通過する20ないし500μmの直径のオリフィスを有し、前記圧力ステージアパチャー18は、一次電子ビームを収束させる対物レンズをなす前記電極44及び圧力ステージアパチャー18のうちの前記電極44と前記試料の間に備えられてい」るとの構成は、本件補正発明の発明特定事項ウの構成と、「前記電子ビームを細く絞る対物レンズと試料室内に保持された前記サンプルとの間に該電子ビームが通過するアパチャー」の点で一致する。
(エ)本件補正発明の「前記サンプルを収納した試料室の圧力について、所定圧力に保持する該所定圧力を、細く絞った電子ビームが前記試料室内の気体に衝突してイオン化し、サンプルの表面に電子ビームの照射によって生じた負および正電荷を中和するに十分なイオン量が得られる圧力とする所定圧力保持手段」との発明特定事項(以下「発明特定事項エ」という。)について
引用発明の「前記試料室の中の気体は真空ポンプにより所定圧力(1hPa)に保持」する「真空ポンプ」との構成は、本件補正発明の発明特定事項エの構成と、「前記サンプルを収納した試料室の圧力について、所定圧力に保持する所定圧力保持手段」の点で一致する。
(オ)本件補正発明の「前記サンプルと前記アパチャーとの間に、放電しない範囲の400V以下の所定バイアス電圧を印加するサンプル電圧印加装置とを備え」るとの発明特定事項(以下「発明特定事項オ」という。)について
引用発明の「前記試料と前記圧力ステージアパチャー18の間に、200ボルトの電圧を印加する装置を備え」るとの構成は、本件補正発明の発明特定事項オの構成と、「前記サンプルと前記アパチャーとの間に、400V以下の所定電圧を印加するサンプル電圧印加装置とを備え」る点で一致する。
(カ)本件補正発明の「該サンプル電圧印加装置が前記サンプルから放出された2次電子を前記アパチャーに向けて加速する電圧を該アパチャーに印加して、該サンプルから放出された2次電子を該アパチャーの小さな穴を通過させるように偏向し、該通過した2次電子を前記2次電子検出器で検出して2次電子検出割合を増大させ、併せて放電しない範囲の前記バイアス電圧を印加して放電を抑止し、かつサンプルへの前記ビームの照射による負および正電荷を中和してチャージを防止およびバックグラインドノイズを低減してS/Nを向上させた」との発明特定事項(以下「発明特定事項カ」という。)について
引用発明の「前記試料と前記圧力ステージアパチャー18の間に、前記200Vの電圧を印加する装置を備えることで、前記二次電子を前記圧力ステージアパチャー18に向ける200Vの電圧を前記圧力ステージアパチャー18に印加」することは、本件補正発明の「該サンプル電圧印加装置が前記サンプルから放出された2次電子を前記アパチャーに向ける電圧を該アパチャーに印加」することに相当する。
また、引用発明の「前記試料と圧力ステージアパチャー18間に付加の電圧を印加することにより形成された電界の助けで、二次電子を、オリフィスの方向に偏向」させることは、本件補正発明の「該サンプルから放出された2次電子を該アパチャー方向に偏向」することに相当する。
さらに、引用発明の「前記圧力ステージアパチャーのオリフィスを通過した二次電子を検出器で検出している」ことは、本件補正発明の「該通過した2次電子を前記2次電子検出器で検出」することに相当する。
したがって、引用発明の「前記試料と前記圧力ステージアパチャー18の間に、前記200Vの電圧を印加する装置を備えることで、前記二次電子を前記圧力ステージアパチャー18に向ける200Vの電圧を前記圧力ステージアパチャー18に印加し、前記試料と圧力ステージアパチャー18間に付加の電圧を印加することにより形成された電界の助けで、二次電子を、オリフィスの方向に偏向し、前記圧力ステージアパチャーのオリフィスを通過した二次電子を検出器で検出している」との構成は、本件補正発明の発明特定事項カの構成と、「該サンプル電圧印加装置が前記サンプルから放出された2次電子を前記アパチャーに向ける電圧を該アパチャーに印加して、該サンプルから放出された2次電子を該アパチャーに偏向し、該通過した2次電子を前記2次電子検出器で検出」する点で一致する。
(キ)以上によれば、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「電子ビームを細く絞ってサンプルに照射しつつ走査し、放出された2次電子を検出する2次電子検出器を設けた走査型電子顕微鏡において、
前記電子ビームを細く絞る対物レンズと試料室内に保持された前記サンプルとの間に該電子ビームが通過するアパチャーと、
前記サンプルを収納した試料室の圧力について、所定圧力に保持する所定圧力保持手段と、
前記サンプルと前記アパチャーとの間に、400V以下の所定電圧を印加するサンプル電圧印加装置とを備え、
該サンプル電圧印加装置が前記サンプルから放出された2次電子を前記アパチャーに向ける電圧を該アパチャーに印加して、該サンプルから放出された2次電子を該アパチャーに偏向し、該通過した2次電子を前記2次電子検出器で検出する、走査型電子顕微鏡。」
【相違点】
(相違点1)
走査型電子顕微鏡が、電子ビームを細く絞ってサンプルに照射するに際して、本件補正発明は「平面走査」するものであるに対して、引用発明は「走査」するものである点。
(相違点2)
試料室内でサンプルを保持するに際して、本件補正発明は「移動可能に」保持するのに対して、引用発明は移動可能に保持するとは特定されない点。
(相違点3)
アパチャーが、本件補正発明は、「気体がほとんど通過されない小さな」アパチャーであるのに対して、引用発明は、「20ないし500μmの直径のオリフィスを有」する「圧力ステージアパチャー18」である点。
(相違点4)
「サンプル電圧印加装置」が、本件補正発明は「放電しない範囲の」「バイアス」電圧であり、サンプルから放出された2次電子をアパチャーに向けて「加速」し「アパチャーの小さな穴を通過させるように」偏向する電圧であり、「2次電子検出器で検出」する「2次電子検出割合を増大させ」る電圧であり、さらには、「併せて放電しない範囲の前記バイアス電圧を印加して放電を抑止」する電圧を印加しているのに対して、引用発明における「試料と圧力ステージアパチャーの間」の「200Vの電圧」は、「二次電子を、オリフィスの方向に偏向」する電圧である点。
(相違点5)
「サンプルを収納した試料室の圧力」である「所定圧力」が、本件補正発明は、「細く絞った電子ビームが前記試料室内の気体に衝突してイオン化し、サンプルの表面に電子ビームの照射によって生じた負および正電荷を中和するに十分なイオン量が得られる圧力」であるのに対して、引用発明における「試料室の中の気体」の「所定圧力(1hPa)」はそのようなものであるのか明らかではない点。
(相違点6)
走査型電子顕微鏡が、本件補正発明は、「サンプルへの前記ビームの照射による負および正電荷を中和してチャージを防止およびバックグラインドノイズを低減してS/Nを向上させた」ものであるのに対して、引用発明はそのようなものであるのか明らかではない点。
イ 判断
以下、相違点について検討する。
(ア)相違点1について
走査型電子顕微鏡を試料上で平面走査することは通常の走査形態にすぎず、格別特殊な走査を行うものではない引用発明の走査型電子顕微鏡も平面走査するものであるといえる。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点ではない。
(イ)相違点2について
「走査型電子顕微鏡」の「試料テーブル」を走査の必要に応じて移動可能に構成することは例をあげるまでもなく周知の技術的事項であるから、引用発明において、試料11を試料室内に移動可能に保持する構成となして、上記相違点2に係る本件補正発明の構成となすことは当業者が容易になし得たことにすぎない。
(ウ)相違点3について
引用発明の「一次電子ビームが通過する20ないし500μmの直径のオリフィスを有」する「圧力ステージアパチャー18」は、「前記圧力ステージアパチャー18,44内並びにこれらの上方の気体圧力の大きな減少により、高い検出感度の検出器を使用するための充分に高い真空が、検出器74の場所での試料室内の圧力増大にも係わらず達成される」(【0048】)ものであるから、当該「20ないし500μmの直径のオリフィス」は、気体がほとんど通過されない小さな穴であるといえる。
したがって、引用発明の「一次電子ビームが通過する20ないし500μmの直径のオリフィスを有」する「圧力ステージアパチャー18」は、「気体がほとんど通過されない小さな」「アパチャー」であるといえるから、上記相違点3は実質的な相違点ではない。
(エ)相違点4について
a 引用発明の「試料と前記圧力ステージアパチャー18の間」に印加される200ボルトの電圧は、「前記試料と圧力ステージアパチャー18間に付加の電圧を印加することにより形成された電界の助けで、二次電子を、オリフィスの方向に偏向し」た上で、「前記圧力ステージアパチャー18のオリフィスを通過した二次電子を検出器で検出」できるようにする電圧であるから、バイアス電圧であるといえる。
また、二次電子を、オリフィスの方向に偏向して集めているといえるから、検出器で検出する「前記圧力ステージアパチャー18のオリフィスを通過した二次電子」の割合は、当該電圧を印加しない場合に比べて増大することは明らかである。
そして、電子に電圧を印加したときの電子の運動方程式が、1/2mv2=eV(m:電子の質量、v:電子の速度、V:印加電圧、e電子の電荷(絶対値))で表され、電子に電圧を印加すれば電子が加速され電子の速度が増加することから、当該「試料と前記圧力ステージアパチャー18の間」に200ボルトの電圧を印加することにより、二次電子に対して200ボルトの電位差に基づく加速作用が生じることとなるといえる。
したがって、引用発明の「試料と前記圧力ステージアパチャー18の間」に印加される200ボルトの電圧は、二次電子を加速し圧力ステージアパチャー18の20ないし500μmの直径のオリフィスを通過させ、検出器で検出する二次電子検出割合を増大させるものであるといえる。
b また、引用文献1には、「本発明の好ましい実施の形態は、かくして、全体の検出器表面もしくは検出器表面の部分が、試料の電位と比較して正で500V、好ましくは1000V高い電位に設定されるという事実による。一般的な圧力SEMの試料室内でのこのような検出器の使用は、スパークオバーを生じさせる。」(【0022】)、及び、「試料室内に気体圧があるときにその高電圧がスパークを避けがたく導くような高感度二次電子検出器の使用は、今まで知っている走査型電子顕微鏡と比較して、はるかに優れた信号-雑音比のための理由である。」(【0072】)と記載されていて、試料の電位と比較して正で500Vあるいは1000V高い電位の走査型電子顕微鏡の部材(検出器)があるとスパークオバーを生じさせること、及び、試料室内に気体圧があるときに当該高電圧が試料と走査型電子顕微鏡の部材(検出器)の間にスパーク(sparkover)を避けがたいことが記載されている。ここで、試料と走査型電子顕微鏡の部材の間にスパークが生じると、試料によってはダメージを受けることは周知の技術的事項であるから、試料と走査型電子顕微鏡の部材の間にスパークが生じることを避けることは当業者が当然に考慮する設計的事項であるといえる。
そうすると、引用発明の「試料と圧力ステージアパチャーの間に」印加する「200ボルトの電圧」は、試料室内に気体圧があるときに試料と走査型電子顕微鏡の部材である圧力ステージアパチャーの間にスパーク(sparkover)を生じる高電圧を避けた電圧であると解される。
したがって、引用発明の「試料と圧力ステージアパチャーの間に」印加する「200ボルトの電圧」は放電しない範囲電圧であると認められる。
c a及びbによれば、引用発明における「試料と圧力ステージアパチャーの間」の「200ボルトの電圧」は、放電しない範囲のバイアス電圧であり、二次電子を加速し圧力ステージアパチャー18の20ないし500μmの直径のオリフィスを通過させ、検出器で検出する二次電子検出割合を増大させ、さらには、放電しない範囲の電圧であるといえるから、上記相違点4は実質的な相違点ではない。
また、例え、引用発明の「試料と圧力ステージアパチャーの間に」印加する「200ボルトの電圧」が「放電しない範囲」の電圧ではないとしても、試料と圧力ステージアパチャーの間にスパーク(sparkover)を生じることが好ましくないことは、本願出願当時の技術常識であるから、引用発明において、「試料と圧力ステージアパチャーの間に」「200ボルトの電圧」を印加しても放電することのないよう、他の条件を考慮して、上記相違点4に係る本件補正発明の構成となすことは当業者が容易になし得たことにすぎない。
(オ)相違点5及び6について
走査型電子顕微鏡において、サンプル表面がプラス/マイナスにチャージして照射電子ビームや信号電子に悪影響を与えることは、後記ウの周知文献1ないし3にみられるように、本願出願日には周知の技術的課題であった。また、走査型電子顕微鏡の試料室で「低真空状態でガスを分離」すると「プラスとマイナスの電荷」が生成されることも、引用文献2(【0028】・【0055】・【0060】)、並びに、後記ウの周知文献4ないし6に見られるように本願出願日には周知の技術的事項であった。
そうすると、「試料室の中は、所定圧力(1hPa)の気体が存在する」引用発明の走査型電子顕微鏡においても、試料表面がプラス/マイナスにチャージして照射電子ビームや信号電子に悪影響を与えるとの技術的課題を有することは当業者が自然に認識することである。
したがって、「試料室の中は、所定圧力(1hPa)の気体が存在する」引用発明の走査型電子顕微鏡が有する上記周知の技術的課題を解決するために、引用発明の「試料室の中は、所定圧力(1hPa)」と同じ「低真空状態(例えば100Pa)」の電子顕微鏡において、「サンプル表面がチャージして照射電子ビームや信号電子に悪影響を与えないために、発生してしまったチャージを、低真空状態においたサンプルに1次電子を照射するために当該低真空中のガスと衝突して分離してプラスとマイナスの電荷が発生し、サンプル上に生じた電荷を中和し、サンプルのチャージによる影響を低減(あるいは除去)するために、真空チャンバーは、低真空状態(例えば100Pa)に保持され、1次電子をサンプルに照射しつつ平面走査したときに、ガスと衝突し、ガスを分離してプラスとマイナスの電荷を生成して、サンプルの表面の電荷を中和する」構成(引用文献2に記載の技術的事項)を適用して、試料の表面の電荷を中和することで上記技術的課題を解決すること(相違点5)は当業者が容易になし得たことである。
そして、引用発明において、試料の表面の電荷を中和すれば、「サンプルへの前記ビームの照射による負および正電荷を中和してチャージを防止」することとなり、さらには、試料が帯電することにより生じるノイズであるバックグラインドノイズも低減することができるから、当該試料が帯電することにより生じるバックグラインドノイズが減少ることによりS/N比も向上させることができること(相違点6)となることは明らかである。
ここで、引用発明における「試料室の中は、所定圧力(1hPa)の気体が存在する」ことは、引用文献2に記載の技術的事項の「低真空状態(例えば100Pa)」と同様の圧力であるから、当該圧力は、本件補正発明の「細く絞った電子ビームが前記試料室内の気体に衝突してイオン化し、サンプルの表面に電子ビームの照射によって生じた負および正電荷を中和するに十分なイオン量が得られる圧力」を満たすものである。
よって、引用発明に引用文献2に記載の技術的事項を適用して、上記相違点5及び6に係る本件補正発明の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
ウ 周知文献
(ア)周知文献1(特開2008-10151号公報)
「走査型電子顕微鏡は解像度の高い画像を得ることが可能であるが、観察される試料によって帯電現象に基づく画質の低下という問題を抱えている。即ち、試料が絶縁性材料から成る場合、電子線照射により試料表面が帯電してしまう。この様な帯電により、試料の二次電子放出が低下し、結果的に二次電子像の画質が低下してしまう。」(【0002】)
「試料が絶縁材料から成る場合、その絶縁材料の種類や試料観察条件等により絶縁試料表面の帯電状態が変化するので、前記絶縁材料の種類や観察条件等に拘わらず一定量のガスを供給すると、中和が充分に行われずに、試料表面が負の帯電の状態になったり、逆に、正に帯電の状態になったりする。」(【0018】)
(イ)周知文献2(特開2007-66789号公報)
「従来、加速した電子線ビームを細く絞って試料に照射しつつ平面走査し、そのときに放出された2次電子や反射された反射電子を検出して画像(2次電子画像、反射電子画像)を生成し、当該画像上でパターンの線幅の測定や異物の検出や欠陥の検出などの検査が行われている。この際、検査対象の試料(例えば半導体を作成するマスク、ウェハなどの試料)がチャージして画像がドリフトして正確に試料上のパターンの測長が困難となる。」(【0002】・【0003】)
「電子線ビーム3を試料(マスク)9に照射しつつ平面走査したときに当該試料(マスク)9の部分が電子を逃がさない例えば絶縁性の場合には、入射する電子線ビーム3の量と、2次電子、反射電子、イオンなどの荷電粒子が放出される量との差引が負になるときは当該試料(マスク)9の観察部分が負にチャージし、差引が正になるときは当該試料(マスク)の観察部分が正にチャージすることになると考えられる」(【0018】)
(ウ)周知文献3(特開2015-64289号公報)
「SEMでは、試料を観察及び測定する際に電子線を照射するが、この電子線によって試料表面が帯電する現象が発生する。すなわち、試料に入射する荷電粒子が有する電荷と放出される荷電粒子が有する電荷との差によって、照射面が正又は負に帯電する。試料表面の帯電電位に伴って、放出された二次電子が加速されたり、試料に再び引き戻されたりして、二次電子の放出効率が変化する。その結果、検出される二次電子量が不安定になるという問題がある。」(【0008】)
(エ)周知文献4(特開2013-225530号公報)
「(1)低真空雰囲気(1Pa~3000Pa)に制御された試料室8おいて、一次電子ビーム2が照射された試料5から二次電子6が発生 (1)-1 一次電子と試料室中の中性ガス分子の衝突で、電子とプラスイオンを生成」(【0039】)
(オ)周知文献5(特開2010-286476号公報)
「電気的に中性な被測定ガスをイオン化させる方法としては、約1000℃以上に高温加熱した金属製フィラメントから熱電子を放出させ、それに外部電圧を印加して熱電子を加速し、中性な被測定ガスに衝突させて中性ガス分子から電子を叩き出し、プラス電荷を持ったイオンに変化させることが挙げられる。」(【0022】)
(カ)周知文献6(特開2007-218657号公報)
「加速された電子のエネルギーは、中性ガス分子との衝突時に電子イオン対を作ることが可能である。このため、電子が中性ガス分子と多数の衝突を行うことにより、イオン対がさらに作られる。」(【0034】)
エ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
オ 請求人の主張
(ア)請求人は、審判請求書の【請求の理由】【本願発明が特許されるべき理由】において概略、下記のとおり主張する。
a 引用文献2は、サンプル12と差動排気アパチャー11との両者に同一電圧(-9KVの固定高電圧)を印加するものであるから、引用発明に引用文献2の構成を適用すると、「前記サンプルと前記アパチャーとの間に、放電しない範囲の400V以下の所定バイアス電圧を印加する」ことが不可となる([2]理由1)。
b 引用文献2は、差動排気アパチャーに対してサンプルにリターディング電圧-9KVを印加しているために、サンプルの近傍に発生した正と負電荷を持つイオンのうち、負電荷のイオンが差動排気アパチャーに吸引され、その電圧が9KVと、本願発明の400V以下よりも22.5倍大きい(高い)ために、引用文献2では22.5倍のイオン(正と負の電荷を持つイオン)を生成する必要が生じる([3」理由2)。
(イ)上記(ア)aの点について
引用文献2において、「差動排気アパチャー11とサンプル12との電位を-9KVに設定す」ることは、「差動排気アパチャー11とサンプル12との電位」を(接地電位等に対して)「-9KVに設定す」ることを特定しているのであって、「差動排気アパチャー11とサンプル12との間の電位差」を-9KVにすることを意味しない。
したがって、引用発明において、「前記試料と前記圧力ステージアパチャー18の間に」放電が起こらない程度(上記イ(エ)b参照))の「200ボルトの電圧」(電位差であって、電位ではない)を印加することを何ら妨げない。
そもそも、上記イ(オ)は、試料の表面の電荷を中和するために、低真空状態にする構成を適用することを論じているのであって、上記(ア)aの請求人の主張は採用できない。
(ウ)上記(ア)bの点について
上記イ(オ)の判断では、引用文献2の「差動排気アパチャー11とサンプル12との電位を-9KVに設定す」ることまでを引用発明に適用することを論じているのではないことは上記(イ)で述べたとおりである。
なお、引用文献2は、サンプル12と差動排気アパチャー11(特に低真空側のサンプル12に面した側に差動排気アパチャー11(下、第1))との両者に同一電圧(-9KVの固定高電圧)を印加することで、「放電が起きやすい差動排気アパチャー11とサンプル12との間の電位が同じになるように電気的に制御する。・・・差動排気アパチャー11とサンプル12との間の電位差は0KVとなり放電は起こらない。」(【0063】)ものであるから、差動排気アパチャー11(特に低真空側のサンプル12に面した側に差動排気アパチャー11(下、第1))とサンプル12との間の電位差は0KVであり、請求人が上記(ア)bで主張するような、「本願発明の400V以下よりも22.5倍大きい(高い)ために、引用文献2では22.5倍のイオン(正と負の電荷を持つイオン)を生成する必要が生じる」こととはならないと解される。
したがって、当該ガスから生じたイオンは差動排気アパチャー11及びサンプル12と同じ電位であって当該イオンと差動排気アパチャー11との間に電位差はなく、差動排気アパチャー11とサンプル12との間のガスから生じたイオンが9KVの電位差によって差動排気アパチャー11(特に低真空側のサンプル12に面した側に差動排気アパチャー11(下、第1))に吸引されることは生じないから、上記(ア)bの請求人の主張は採用できない。
(エ)よって、請求人の主張は採用できない。
(4)したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和4年3月1日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年4月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2、理由1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし4に係る発明は、本願の出願前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特表2002-507045号公報
引用文献2:特開2016-66413号公報
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は、上記「第2」の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「および正電荷」と「バックグラインドノイズを低減してS/Nを向上させた」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2(3)及び(4)に記載したとおり、引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-003068