2022-017715
持続性が増加した生理活性物質の結合体及びその用途
- 審判番号
- 2022-017715
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-541781外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年11月04日
- 審決日
- 2024年10月23日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .121-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 17項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
本願は、2018年(平成30年)2月2日(優先権主張:2017年2月3日、2017年9月29日 いずれも(KR)韓国)を国際出願日とする特許出願であり、その主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和3年11月11日付け 拒絶理由通知書
令和4年 2月15日 手続補正書及び意見書の提出
同年 6月28日付け 拒絶査定
同年11月 4日 審判請求書及び手続補正書の提出
同年12月12日 手続補正書(審判請求書の請求の理由を 補正)の提出
令和5年 1月 4日付け 前置報告
同年 3月24日 上申書の提出
令和6年 3月28日付け 拒絶理由通知書
同年 7月 1日 手続補正書及び意見書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~12に係る発明は、令和6年7月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】下記式(1)の結合体であって、X-L-F (1);(ここで、Xが、インスリンであり、Lが、リンカーであって、0kDa超え~3.4kDa未満の大きさを有するポリエチレングリコールであり、Fが、免疫グロブリンFc領域である)前記結合体とX及びFが同じであるがリンカーLが3.4kDaの大きさを有するポリエチレングリコールである他の結合体よりも、増加した生体内半減期を示し、Lの両末端がそれぞれFのアミン基またはチオール基及びXのアミン基またはチオール基に結合している、前記式(1)の結合体。」
第3 当審において通知した拒絶の理由
令和6年3月28日付けで当審において通知した拒絶の理由のうち、請求項1に係る発明(本願発明に対応)についての理由の要旨は、次のとおりである(特に、理由1の1~3を参照)。
本願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献3及び4に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
3.米国特許出願公開第2017/0020991号明細書
4.Biol. Pharm. Bull., 2012, Vol.35(7), p.1076-1083
第4 引用文献の記載
1 引用文献3
引用文献3には、次の事項が記載されている。なお、原文は英文なので当審による和訳を示す。また、原文にない下線は、強調のために合議体によって付した。(以下、同様。)
(摘記3a) 特許請求の範囲
「1.(i)ヒト野生型配列を有するインスリン部分;(ii)サイズが約3.4kDaから10kDa未満のポリエチレングリコール部分;及び(iii)免疫グロブリンFc領域部分、からなるインスリン複合体であり、続きを表示(全15行)ここで、インスリン部分は、-CH2CH2CH2-の構造を有するリンカー官能基を介して、B鎖のN末端アミノ基でポリエチレングリコール部分の一端の酸素原子に共有結合しており、ここで、ポリエチレングリコール部分の他端の酸素原子は、-CH2CH2CH2-の構造を有するリンカー官能基を介して免疫グロブリンFc領域部分に共有結合している、インスリン複合体。2.前記ポリエチレングリコール部分のサイズが約3.4kDaである、請求項1に記載のインスリン複合体。・・・16.請求項1に記載のインスリン複合体を調製する方法であって、(1)ポリエチレングリコール部分を(i)免疫グロブリンFc領域部分、又は、(ii)インスリン部分;に共有結合させる工程、(2)(1)の反応混合物から複合体を単離する工程であって、該複合体は、(i)ポリエチレングリコール部分と共有結合した免疫グロブリンFc領域部分、又は(ii)ポリエチレングリコール部分と共有結合したインスリン部分;を含み、さらに、(3)(i)免疫グロブリンFc領域部分を、単離された複合体のポリエチレングリコール部分の他端に共有結合させて、ポリエチレングリコールの各末端に連結された免疫グロブリンFc領域部分及びインスリン部分を含むインスリン複合体を生成する工程、又は、(ii)インスリン部分を、単離された複合体のポリエチレングリコール部分の他端に結合させて、ポリエチレングリコール部分の各末端に連結された免疫グロブリンFc領域部分及びインスリン部分を含むインスリン複合体を生成する工程、を含む方法。17.(1)のポリエチレングリコール部分が、アルデヒド基、マレイミド基及びコハク酸イミド誘導体からなる群から選択される反応性基を有する、請求項16に記載の方法。・・・」
(摘記3b) 段落[0011]
「[0011]本発明の目的は、インスリンの生体内活性を維持しながらも血中半減期を著しく延長した優れたインスリン複合体、それを含む持続型製剤、及びその製造方法を提供することである。」
(摘記3c) 段落[0039]
「[0039]本発明の別の例示的な実施形態では、インスリン複合体は、インスリンと比較して、改善されたインビボ持続時間、安定性、及び延長された血糖降下効果を有し、インスリン複合体は、インスリンのインビボ活性を維持する。」
(摘記3d) 段落[0075]~[0076]
「[0075]本発明に用いられる非ペプチドポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールのコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(ポリ(乳酸))及びPLGA(ポリ(乳酸-グリコール酸)などの生分解性ポリマー、脂質ポリマー、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができ、好ましくは、ポリエチレングリコールである。当技術分野で知られており、当業者の技術範囲内で容易に調製され、及びそれらの誘導体も、本発明の範囲に含まれる。[0076]従来のインフレーム融合法により得られる融合タンパク質に用いられるペプチドリンカーは、生体内でタンパク質分解酵素により切断されやすいという欠点があり、担体による活性薬物の血中半減期延長効果が期待どおり十分に得ることができない。しかしながら、本発明においては、タンパク質分解酵素に対する耐性を有するポリマーを使用して、ペプチドの血清中半減期を担体と同様に維持することができる。したがって、上記機能を有するポリマー、すなわち生体内タンパク質分解酵素に対する耐性を有するポリマーであれば、どのような非ペプチド性ポリマーも特に制限なく使用することができる。非ペプチドポリマーは、1~100kDaの範囲、特に1~20kDa、又は1~100kDa未満、1~5kDa未満、1~20kDa未満、約3.4~10kDa未満、約3.4の分子量であるが、これに限定されない。免疫グロブリンFc領域に連結された本発明の非ペプチドポリマーは、1つのポリマーであっても、異なるタイプのポリマーの組み合わせであってもよい。」
(摘記3e) 段落[0080]
「[0080]本発明の別の態様では、本発明は、本発明のインスリン複合体を含む長時間作用型インスリン製剤を提供する。」
(摘記3f) 段落[0085]
「[0085]本発明の長時間作用型製剤は、インスリンの生体内持続時間及び安定性を非常に高いレベルに維持するため、インスリン依存性糖尿病の治療に効果的に使用される。」
(摘記3g) 段落[0100]~[0103]
「[0100]さらに別の態様では、本発明は、以下のステップを含む、インスリン複合体を調製する方法を提供する:[0101](1)各末端にアルデヒド、マレイミド、又はスクシンイミド誘導体の反応性基を有する非ペプチジルポリマー部分と、インスリン部分のアミン基又はチオール基とを共有結合させる工程;[0102](2)(1)の反応混合物から複合体を単離する工程であって、複合体は、非ペプチジルポリマー部分と共有結合したインスリン部分を含む工程、そして[0103](3)非ペプチジルポリマーのそれぞれの末端に結合された免疫グロブリンFc領域部分とインスリン部分とを含むペプチドコンジュゲートを生成するために、単離されたコンジュゲートの非ペプチジルポリマー部分の他端に免疫グロブリンFc領域部分を共有結合させる工程。」
(摘記3h) 段落[0111]~[0125](実施例1~3)
「実施例1PEG(合議体注:polyethylene glycol、ポリエチレングリコール)化免疫グロブリンFc領域の精製[0111]免疫グロブリンFcのN末端のPEG化には、5K PropionALD(3)PEG(3つのプロピルアルデヒド基を有するPEG、日油(NOF)、日本)を使用し、免疫グロブリンFcとPEGを4℃で4.5時間、モル比1:2、免疫グロブリンFc濃度10mg/mlで反応させてPEG化を行った。このとき、反応はpH6.0の100mMリン酸カリウム緩衝液中で行い、還元剤として20mM SCB(NaCNBH3)を添加した。反応液からSource 15Q(GE Healthcare)カラムを用いてモノPEG化免疫グロブリンFcを精製した。実施例2続きを表示(全16行)PEG化インスリンの精製[0112]2-1.3.4K モノPEG化インスリンの調製[0113]さらに、インスリンB鎖のN末端のPEG化には、3.4K PropionALD(2)PEG(プロピルアルデヒド基を2つ有するPEG、日油(NOF)、日本)を使用し、インスリンとPEGを4℃で2時間、モル比1:2~4、インスリン濃度3~5mg/mlで反応させてPEG化を行った。このとき、反応は45%イソプロパノールを含むpH5.0~6.0の50mMクエン酸ナトリウム緩衝液中で行い、還元剤として4~20mMのSCB(NaCNBH3)を添加した。Source 15S(GE Healthcare)カラムを使用して、モノPEG化インスリンを反応溶液から精製した。・・・実施例3インスリン-PEG-免疫グロブリンFc複合体の調製・・・[0120]3-2.インスリン3.4K PEG-免疫グロブリンFcコンジュゲートの調製実施例1-2で得られたモノPEG化インスリンと免疫グロブリンFcを、モル比1:1~2、室温下、15~17時間、総タンパク質濃度20~50mg/mlで反応させた。このとき、反応は2M塩化ナトリウムを含むpH8.2の100mM HEPES緩衝液中で行い、還元剤として20mM SCBを添加した。反応終了後、反応液をSource 15Qカラムを用いて一次精製した。その後、Source ISOカラムを用いて二次精製を行い、インスリン-PEG-免疫グロブリンFc複合体を得た。・・・[0124]実施例1及び2による上記複合体は、還元的アミノ化反応によって調製された。PEGリンカーのプロピオンアルデヒド基と免疫グロブリンFc領域又はインスリンのアミン基を相互に反応させ、還元的アミノ化によって複合体を形成した。[0125]PEGのサイズに従って、各コンジュゲートは、インスリン-3.4K PEG-Fc、インスリン-5K PEG-Fc、及びインスリン-10K PEG-Fcによって示される。」
(摘記3i) 段落[0147]~[0152](実施例12)
「実施例12PEGサイズに応じたPK(合議体注:Pharmacokinetics、薬物動態)プロファイル[0147]PEGサイズによるPKプロファイルの変化を確認するために、以下の実験を行った。[0148]PEGサイズによるインスリン-PEG-免疫グロブリンFc複合体の薬物動態を比較するために、正常ラット(7週齢、雄SDラット、図7)を使用して、それらの血中濃度を経時的に分析した。[0149]正常ラットに、インスリン-3.4K PEG-免疫グロブリンFc複合体及びインスリン-10K PEG-免疫グロブリンFc複合体を同じ用量でそれぞれ1回皮下注射した。次に、各グループから1、4、8、24、48、72、96、120、144、及び168時間後に血液を採取した。[0150]各時点で、インスリン-PEG-免疫グロブリンFc複合体の血中濃度を酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって測定し、キットとしてインスリンELISA(ALPCO、USA)を使用した。検出抗体として、マウス抗ヒトIgG4 HRPコンジュゲート(Alpha Diagnostic Intl,Inc,USA)を使用した。[0151]インスリン-3.4K PEG-免疫グロブリンFc複合体及びインスリン-10K PEG-免疫グロブリンFc複合体の血中持続時間を調べた結果、インスリン-3.4K PEG-免疫グロブリンFc複合体は注射後144時間まで残留したが、インスリン10K PEG-免疫グロブリンFc複合体は、注射後72時間まで残留した(図7)。インスリン-3.4K PEG-免疫グロブリンFc複合体の血中半減期は、インスリン-10K PEG-免疫グロブリンFc複合体の血中半減期と比較して約50%の増加を示す(図7)。[0152]これらの結果は、インスリンがPEGリンカーによって免疫グロブリンFcと結合される場合、複合体の生体内血中半減期がPEGサイズに応じて変化する可能性があることを示唆している。」
(摘記3j)図7
「[図:0001420646000001.jpg]」
2 引用文献4
引用文献4には、次の事項が記載されている。なお、原文は英文なので当審による和訳を示す。
(摘記4a) 要約
「鼻腔内活性グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)製剤は、糖尿病患者の治療において、従来の注射療法に比べて大きな利点を有するであろう。この研究の目的は、鼻腔内に投与されたPEG化エキセンジン-4(PEG-Ex4)類似体の生物学的可能性と、鼻腔吸収に対するポリエチレングリコール(PEG)の分子量(1、2、5kDa)の影響を調査することであった。最初に、PEGEx4類似体は部位特異的にLys27アミンにPEG化され、それらの生物活性と安定性がインビトロで研究された。これらの類似体の経鼻投与後の血糖降下作用及び薬物動態を、2型糖尿病動物モデルで評価した。PEG-Ex4類似体は、Ex4よりもラット鼻ホモジネート中の安定性が3.1-、3.8-、及び5.9-倍増加していた。しかしながら、Lys27-PEG1k-Ex4は、よく保存された生物活性を有し(Ex4に対して83.3%の効力)、他の類似体は、Lys27-PEG1k-Ex4よりもはるかに低い生物活性を有することが判明した。特に、鼻腔内投与されたラットにおけるLys27-PEG1k-Ex4のin vivo薬物動態パラメータは、PEG化により著しく改善された。Lys27-PEG1k-Ex4の曲線下面積(AUC)の値は33.6倍高く、循環t1/2の値はEx4より27.1倍高かった。しかし、他の類似体は、より高い分子量のPEG(2kDaを超える)により鼻腔内吸収が制限されるため、鼻腔内経路を介して効果的に吸収されなかった。最後に、生体内での血糖降下実験により、Lys27-PEG2k-、Lys27-PEG5k-Ex4はLys27-PEG1k-Ex4よりも大幅に血糖降下効果が低いことが示されたが、これはおそらくそれらの固有の生物活性が低いことと鼻腔内吸収が原因であると思われる。まとめると、我々の調査結果は、Ex4のようなペプチドへの適切なサイズのPEG(1kDa)の部位特異的結合が、鼻腔内経路による送達に2つの利点、すなわち、安定性の増加と循環半減期の延長を提供することを示唆している。」
(摘記4b) 1076頁右欄9行~1077頁左欄6行
「PEG化はPEGによる化学的修飾を表しており、ペプチドの生体内での生物学的効力を改善する効果的な手段であると考えられている16)。この技術は、タンパク質分解と腎臓のクリアランスを減少させることによってペプチドの生物学的寿命を延長することが十分に文書化されており17,18)、さらにPEG化は、PEG成分の分子量を変化させることによって薬物動態プロファイルを容易に変更できるため、固有の柔軟性も提供する19,20)。特に、PEGの分子量を増やすとペプチドの安定性が高まるが、関与するペプチドの生物学的機能が妨げられるリスクがある。したがって、生物学的活性と安定性、薬物動態の間のバランスを達成するために、最適なPEGサイズを選択することが重要である。さらに、PEG化は、生理活性ペプチドの抗原性/免疫原性を効果的に減少させる18)。最近、我々は、PEG化治療用ペプチド(GLP-1、サケカルシトニン)の鼻腔内投与により、タンパク質分解安定性が増加し、生物学的半減期が延長され、生体内での治療効力が改善されることを実証した21,22)。本研究では、Ex4の経鼻送達の有効性に対するPEG化の利点を検討した。そこで、分子量(Mw)(1、2、5kDa)のPEGを用いて部位特異的(Lys27)PEG化Ex4類似体を調製し、鼻のタンパク質分解安定性、2型糖尿病db/dbマウスにおけるこれらの類似体のvitro生物活性、及びin vivo薬物動態及び血糖降下作用(図表1)を評価することで、鼻腔内経路を介した全身送達の実現可能性を調査した。」
(摘記4c) 1079頁右欄下から17行~1081頁左欄5行
「PEG-Ex4類似体の生物学的活性とタンパク質分解安定性Ex4類似体の受容体結合親和性を、高レベルのGLP-1受容体(GLP-1R)を発現するRIN-m5F細胞中で試験し、Ex4とLys27-PEG1k-、Lys27-PEG2k-、及びLys27-PEG5k-Ex4の受容体結合親和性は、それぞれ0.05±0.01、0.06±0.02、0.63±0.17、1.86±0.49nMと決定された(図2A)。これらのPEG-Ex4類似体は、Ex4活性をそれぞれ83.3、7.9、及び0.2%保持していることが判明した。PEG-Ex4類似体のタンパク質分解耐性は、高レベルの鼻ペプチダーゼを含むラットの鼻のホモジネートで観察された。未修飾のEx4は急速に分解され、半減期(t1/2)は39.4±3.1分であった。しかし、PEG-Ex4類似体は著しく耐性があり、この耐性はPEGのサイズとともに増加した。PEG-Ex4類似体(PEG Mw:1、2、5kDa)のt1/2値は、それぞれEx4の3.1、3.8、5.9倍であった(p<0.001)(t1/2s:それぞれ119.2±8.6、147.7±13.2、233.6±19.1分)(図2B)。特に、Lys27-PEG5k-Ex4は、鼻ペプチダーゼに対して非常に耐性があった。PEG-Ex4類似体の薬物動態鼻腔内投与されたEx4及びPEG-Ex4類似体の平均血清濃度-時間プロファイルを図3に示し、それらの薬物動態パラメータを表2に示す。Lys27-PEG1k-Ex4は、最大濃度に達するのに大幅に増加した時間を要したが(312.4±10.2対20.1±6.5分)、Ex4と比較して、Cmaxの有意差は観察されなかった(1196.4±89.2対1172.8±92.7pg/mL)。Lys27-PEG1k-Ex4の見かけの消失半減期は、Ex4のそれより27.1倍増加し(1547.6±102.4対57.4±8.2min)、AUCは33.6倍増加した(2949149.3±10282.6対87668.7±413.1pg・min/L)。しかし、Lys27-PEG2k-及びLys27-PEG5k-Ex4は、おそらくPEG成分のより高い分子量のため、効果的に吸収されなかった。経鼻投与されたPEG-Ex4アナログの生体内抗糖尿病効果Ex4、Lys27-PEG2k-、Lys27-PEG5k-Ex4(5nmol/kg)、又はLys27-PEG1k-Ex4(1、5、25nmol/kg)の血糖降下作用は、2型糖尿病db/dbマウスにおけるIPGTTにより調査された。図4A、Bは、同じ用量5nmol/kgで投与したPEG-Ex4類似体の血糖降下作用を示す。対照と比較して、鼻腔内投与されたEx4の血糖降下作用は無視できる程度であり(HGD=25.2±2.3%)、Lys27-PEG2k-Ex4もHGDのわずかな増加のみをもたらした(48.2±5.7%対Ex4).一方、Lys27-PEG1k-Ex4は、HGDの大幅な増加を引き起こした(82.7±9.2%対Ex4)。PEGのMwと血糖降下作用との間の逆の関係は、PEGのMwが高い(2kDaを超える)と鼻腔内吸収が減少することを示唆している。独立した実験でも、Lys27-PEG1k-Ex4が用量依存的にHGDを増加させることが示された(図5A、B)。」
(摘記4d) 1082頁左欄下から21行~右欄15行
「最後に、PEG-Ex4類似体の薬理学的可能性を、それらを2型糖尿病db/dbマウスに鼻腔内投与し、血糖降下反応を決定することによって評価した。Lys27-PEG2k-Ex4及びLys27-PEG5k-Ex4は、Lys27-PEG1k-Ex4よりも血糖降下スコアが低いことが判明し、これは固有の生物学的活性及び薬物動態特性の喪失によるものと思われる。生物学的活性に関して、Lys27-PEG2k-Ex4及びLys27-PEG5k-Ex4は、Ex4に対して83.3%の活性を有するLys27-PEG1k-Ex4よりも有意に活性が低かった(Ex4に対して7.9、0.2%)。さらに、Lys27-PEG1k-Ex4は、Ex4及びLys27-PEG2k-Ex4と比較して、生体内血糖降下作用が3.3倍及び1.9倍増加することが判明した。さらに、Lys27-PEG1k-Ex4は、用量依存的な血糖降下作用を示した。しかし、5nmol/kgと25nmol/kgの用量では、同様の血糖降下効果が示された(82.5%対88.1%)。この事実は、5~25nmol/kgの用量が、経鼻投与されたLys27-PEG1k-Ex4の飽和点であることを証明した。これらの所見は、Lys27-PEG1k-Ex4が鼻腔内経路を介して生物学的可能性を持っていることを示している。まとめると、PEG化は、鼻酵素に対する耐性とその薬物動態学的挙動を改善することにより、Ex4の生体内鼻腔内治療効果を改善した。しかし、そのような生体内での有効性のスコアは、生物活性や鼻からの吸収などの別の要因に明らかに依存しているようである。Ex4の場合、鼻腔内経路による最大の血糖降下効果の最適なバランスは、1kDaのMwのPEGのMwで満たされた。ここでは、我々は、PEG化Ex4類似体の鼻腔内送達の有効性を初めて説明した。特に、Lys27-PEG1k-Ex4は、鼻腔内投与した場合、Ex4や他のPEG-Ex4類似体よりも抗糖尿病効果が顕著に増加し、より持続した。重要なのは、調査された鼻腔内投与されたPEG-Ex4類似体の抗糖尿病効果が、結合したPEGの分子量が増加するにつれて減少することである。この研究は、Ex4に結合した1kDaのPEGがII型糖尿病を標的とした鼻吸収系の有望な治療薬候補であることを示している。」
第5 判断
1 引用文献3に記載された発明
引用文献3の請求項1及び2の記載(摘記3a)から、引用文献3には、以下の発明が記載されているといえる。
「(i)ヒト野生型配列を有するインスリン部分、(ii)サイズが約3.4kDaから10kDa未満のポリエチレングリコール部分、及び(iii)免疫グロブリンFc領域部分、からなるインスリン複合体であり、ここで、インスリン部分は、-CH2CH2CH2-の構造を有するリンカー官能基を介して、B鎖のN末端アミノ基でポリエチレングリコール部分の一端の酸素原子に共有結合しており、ここで、ポリエチレングリコール部分の他端の酸素原子は、-CH2CH2CH2-の構造を有するリンカー官能基を介して免疫グロブリンFc領域部分に共有結合しており、ポリエチレングリコール部分のサイズが約3.4kDaである、インスリン複合体。」(以下、「引用発明3」という。)
2 対比
本願発明と引用発明3を対比する。
引用発明3の「ヒト野生型配列を有するインスリン部分」は、本願発明の「X」及び「インスリン」に相当し、引用発明3の「ポリエチレングリコール部分」は、本願発明の「L」及び「リンカー」である「ポリエチレングリコール」に相当し、引用発明3の「免疫グロブリンFc領域部分」は、本願発明の「F」及び「免疫グロブリンFc領域」に相当する。
そして、引用発明3の「インスリン複合体」は、上記「ヒト野生型配列を有するインスリン部分」、「ポリエチレングリコール部分」及び「免疫グロブリンFc領域部分」が共有結合した化合物である限りにおいて、本願発明の「式(1)の結合体(「X-L-F (1)」)」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明3との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「下記式(1)の結合体。X-L-F (1);(ここで、Xが、インスリンであり、Lが、リンカーであって、ポリエチレングリコールであり、Fが、免疫グロブリンFc領域である)」
<相違点1>
ポリエチレングリコールについて、本願発明は、「0kDa超え~3.4kDa未満の大きさを有する」のに対し、引用発明3は「約3.4kDa」である点。
<相違点2>
本願発明は、式(1)の「結合体とX及びFが同じであるがリンカーLが3.4kDaの大きさを有するポリエチレングリコールである他の結合体よりも、増加した生体内半減期を示」すことが特定されているのに対し、引用発明3にはそのような特定がない点。
<相違点3>
本願発明は、式(1)の「Lの両末端がそれぞれFのアミン基またはチオール基及びXのアミン基またはチオール基に結合している」ことが特定されているのに対し、引用発明3にはそのような特定がない点。
3 判断
(1)相違点1及び2について
引用文献3には、ポリエチレングリコールを含む非ペプチドポリマーの分子量は、1~100kDaの範囲、特に、「1~5kDa未満」であることが記載されている(摘記3d)。
そして、「PEGサイズによるPKプロファイルの変化を確認するため」に実施例12の「PEGサイズに応じたPKプロファイル」の試験を行い、その結果、PEGの分子量が3.4Kのインスリン複合体の血中半減期が、10Kのインスリン複合体と比較して約50%増加したことが具体的に確認され、この結果を受けて、インスリン複合体の生体内血中半減期がPEGサイズに応じて変化する可能性があると記載されている(摘記3i)。この記載によれば、ポリエチレングリコールの分子量が10Kよりも小さい3.4Kの方が、血中半減期が約50%増加するのであるから、より分子量の小さいポリエチレングリコールを用いることで、インスリン複合体の生体内血中半減期を延長できる可能性があると当業者は理解するといえる。
さらに、インスリンと同様にペプチド医薬であるエキセンジン-4について、経鼻送達の有効性に対するPEG化の利点を調査した引用文献4には、PEGの分子量を増やすとペプチドの安定性が高まるが、関与するペプチドの生物学的機能が妨げられるリスクがあるため、生物学的活性と安定性、薬物動態の間のバランスを達成するために、最適なPEGサイズを選択することが重要であることが記載されている(摘記4b)。そして、PEGの分子量(1、2、5kDa)の影響を調査したところ(摘記4a)、PEGの分子量が1kDaであるLys27-PEG1k-Ex4が、PEGの分子量が2kDaや5kDaであるLys27-PEG2k-Ex4やLys27-PEG5k-Ex4よりも活性が高かったことが記載されている(摘記4a、c、d)。そうすると、上記記載に接した当業者は、分子量が小さいポリエチレングリコールを用いることによって、PEG修飾による活性低下を抑えることができると理解するものといえる。また、ペプチド医薬の修飾に使用されるポリエチレングリコールとして、1kDaや2kDa程度の分子量のものが知られていたことも理解できる。
一方、引用発明3は、「インスリンの生体内活性を維持しながらも血中半減期を著しく延長した優れたインスリン複合体」「を提供すること」を目的としたものであるから(摘記3b)、引用発明3のインスリン複合体のポリエチレングリコールについて、3.4kDaよりも小さい分子量であって、引用文献4にも具体的に記載されている1kDaや2kDa等の「0kDa超え~3.4kDa未満の大きさを有する」ポリエチレングリコールとすること、それにより、「結合体とX及びFが同じであるがリンカーLが3.4kDaの大きさを有するポリエチレングリコールである他の結合体よりも、増加した生体内半減期を示」すものとすること、すなわち、相違点1及び2に係る構成を有する結合体とすることは当業者が容易になし得たことである。
(2)相違点3について
引用文献3にはインスリン複合体の製造方法について、各末端にアルデヒド、マレイミド、又はスクシンイミド誘導体の反応性基を有する非ペプチジルポリマー部分と、インスリン部分のアミン基又はチオール基とを共有結合して非ペプチジルポリマー部分と共有結合したインスリン部分を形成し、非ペプチジルポリマー部分のインスリンとは逆の末端に免疫グロブリンFc領域部分を結合させることが記載されているから(摘記3g)、引用文献3には、インスリン部分(本願発明のXに相当)は、アミン基又はチオール基によって結合していることが記載されているといえる。そして、具体的な製造例として、インスリンと「プロピルアルデヒド基」を2つ有するPEGを還元的アミノ化反応によってモノPEG化インスリンを形成し、さらにこれを、免疫グロブリンFcと反応させてから還元剤で処理することによって、インスリン-PEG-免疫グロブリンFc複合体を得たことも記載されている(摘記3h)。ここで、モノPEG化インスリンと免疫グロブリンFcを連結する反応は、インスリンと「プロピルアルデヒド基」を2つ有するPEGを連結した反応と同じ還元的アミノ化であるところ、還元的アミノ化はアルデヒド基とアミン基の反応によりC-N結合が形成される反応であり、PEG側の反応性基が上記の2つの「プロピルアルデヒド基」のうちの一方のアルデヒド基であるので、必然的に免疫グロブリンFcの反応性基はアミン基であるといえる。
そうすると、引用文献3に記載された上記製造方法は、PEGの両末端に、インスリンのアミン基又はチオール基、及び、免疫グロブリンFcのアミン基を結合させる方法であり、この方法で製造されたインスリン複合体は、「Lの両末端がそれぞれFのアミン基又はチオール基及びXのアミン基又はチオール基に結合している」ものといえる。
したがって、引用発明3のインスリン複合体を、引用文献3に具体的に記載された製造例と同様の方法で製造し、「Lの両末端がそれぞれFのアミン基又はチオール基及びXのアミン基又はチオール基に結合している」インスリン複合体とすること、すなわち、相違点3に係る構成を有する結合体とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(3)本願発明の効果について
ア 本願明細書には、本願発明の効果について、以下のとおり記載されている。
「【発明の効果】【0056】本発明の生理活性物質の結合体は、当該生理活性が必要な分野に有用に用いることができる。・・・続きを表示(全15行)【0254】実施例6:持続型インスリン結合体のPEGリンカーの長さに応じた正常ラットでの薬効持続性効果の分析正常ラットに前記で製造した1kDa、2kDa、2.5kDa、3kDa、または3.4kDaPEGリンカーが結合された持続型インスリン結合体を投与して、持続型インスリン結合体のPEGリンカーの長さに応じた薬効持続性の違いを確認した。【0255】・・・【0256】その結果、3.4kDaPEGリンカーが結合された持続型インスリン結合体の投与群に比べて1kDaPEGリンカーが結合された持続型インスリン結合体は、AUCが1.84倍、2kDaPEGリンカーが結合された持続型インスリン結合体は1.80倍、2.5kDaPEGリンカーが結合された持続型インスリン結合体は1.41倍、そして3kDaPEGリンカーが結合された持続型インスリン結合体は、1.43倍に増加したことを確認した(図6)。【0257】このような結果は、リンカーとして用いられるポリエチレングリコールの大きさが短いほど、インスリン結合体が驚くべきことに生体内で血中半減期が増加して安定的なインスリン製剤として提供することができ、糖尿病の治療剤として効果的に用いられることを示唆する。【0258】また、リンカーとして用いられるポリエチレングリコールの大きさが短いほど、これを用いた生理活性ポリペプチド結合体の生体内での血中半減期が驚くほど増加して、安定的な薬剤として提供することができることを示唆するものである。」
イ 上記アによれば、本願発明の生理活性物質の結合体は、当該生理活性が必要な分野に有用に用い得ること(【0056】)、リンカーとして用いられるポリエチレングリコールの大きさが短いほど、インスリン結合体のAUCが増加したことで、ポリエチレングリコールの大きさが短いほど、血中半減期が増加して安定的なインスリン製剤として提供でき、糖尿病の治療剤として効果的に用いられることが示唆されることが理解できる。
しかしながら、引用文献3記載のインスリン複合体は、インスリンの生体内活性を維持しながらも血中半減期を著しく延長したインスリン複合体であって、長時間作用型インスリン製剤として糖尿病の治療に効果的に使用できることが記載されている(摘記3b、3e、3f)。そして、具体的には、ポリエチレングリコールが3.4kDaであるインスリン複合体は、10kDaであるインスリン複合体と比較して血中半減期が約50%増加したことが記載されているから(摘記3i及び3j)、より分子量の小さいポリエチレングリコールを用いることで、インスリン複合体の生体内血中半減期を延長できる可能性があると理解できることは、上記(1)のとおりである。また、引用文献4の記載によれば、分子量が小さいポリエチレングリコールを用いることによって、PEG修飾による活性低下を抑えることができ、修飾に用いるポリエチレングリコールとして、1kDaや2kDaのものも知られていたのであるから、ポリエチレングリコールの大きさを1kDaや2kDaのように短くすることで、血中半減期が増加して安定的なインスリン製剤として提供でき、糖尿病の治療剤として効果的に用いられるとの効果は、引用文献3及び4の記載から予測し得る効果であるといえる。
したがって、本願発明が、引用文献3及び4の記載から予測し得ないような優れた効果を奏するものということはできない。
4 小括
よって、本願発明は、引用文献3及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 請求人の主張について
1 請求人の主張
折りたたみ中(クリックで表示)
令和6年7月1日受付の意見書(以下単に「意見書」という。)において、請求人は、概略以下の点を挙げて、本願発明は、引用文献3及び4から当業者が容易に想到し得る発明ではないと主張している。
(1)「本発明の実施例では、1kDa、2kDa、2.5kDa、3kDa、及び3.4kDaのPEGリンカーを有する持続型インスリン結合体を調製し、調製した結合体を投与して薬効の差を比較しています。そして、その結果、3.4kDaPEGリンカーが結合された持続型インスリン結合体の投与群に比べて1kDaPEGリンカーが結合された持続型インスリン結合体は、AUCが1.84倍、2kDaPEGリンカーが結合された持続型インスリン結合体は1.80倍、2.5kDaPEGリンカーが結合された持続型インスリン結合体は1.41倍、そして3kDaPEGリンカーが結合された持続型インスリン結合体は、1.43倍に増加したことを確認しています([0256]及び図6)。図6[図:0001420646000002.jpg]このような結果は、リンカーとして用いられるポリエチレングリコールの大きさが小さいほど、インスリン結合体が驚くべきことに生体内で血中半減期が増加して安定的なインスリン製剤として提供することができ、糖尿病の治療剤として効果的に用いられることを示唆しています([0257])。実際に、下記の追加データに示すように、PEGの分子量が小さくなるにつれて薬物動態が増加することが確認できます。[図:0001420646000003.jpg]すなわち、リンカーとして使用されるPEGの大きさが小さいほど、生体内での血中半減期が増加し、その結果、インスリン結合体を安定な薬剤として提供できることが、本明細書の図6及び上記追加データから理解できます。上記の結果は、3.4kDa未満の分子量を有するポリエチレングリコールを介して形成された結合体の使用による予想外の結果を示しているものと思料致します。・・・分子量3.4kDa未満のポリエチレングリコールリンカーを介して形成された結合体において見出された、本明細書の図6の結果及び上記の結果は、より高分子量のPEGリンカーを含む既知の結合体からは予測できなかった。」(意見書3頁11行~5頁最下行)
(2)「3 引用文献との対比引用文献においては、3.4kDa未満の大きさのPEGが使用される場合に、生体内半減期が増加した安定なインスリン製剤とすることができることを確認していないし、それを示唆さえしていません。また、引用文献は、単にインスリンアナログを含む結合を開示しているに過ぎず、これらの引用文献は、本発明のように天然型インスリンと3.4kDa未満のPEGとの結合体により、薬物の持続時間を確認することをしていません。引用文献1及び3では、結合体のリンカーとして3.4kDa未満のPEGを使用すること及びそのようなリンカーを使用することによる結合体の生体内血中半減期の増加(したがって、本発明のような結合体の安定な薬物としての効果を提供すること)に関連することは何も確認していません。審判官殿は、引用文献4には、PEG分子量が1KであるLys27-PEG1k-Ex4が、Lys27-PEG2k-Ex4やLys27-PEG5k-Ex4よりも高い活性を有することが記載されていることから、当業者は、分子量が小さいPEGを用いることにより、PEG修飾による活性低下を抑制することができると指摘しています。しかしながら、引用文献4を検討しても、引用文献4には、Lys-PEG-Ex4が開示されているだけであり、インスリンとの結合体については何ら記載されていません。したがって、ポリエチレングリコール(PEG)の大きさが小さくなると、生体内血中半減期が著しく増加し、安定な薬物として機能するという本発明の顕著な効果は、いかに当業者であっても、引用文献の記載からは予測することができないものと思料致します。よって、本発明は、引用文献1、3及び4に対して進歩性を有するものと思料致します。」(意見書6頁1行~下から2行)
2 請求人の主張に対する判断
折りたたみ中(クリックで表示)
上記1の請求人の主張について検討する。
(1)上記第5の3(3)イで述べたとおり、ポリエチレングリコールの大きさを1kDaや2kDaのように短くすることで、血中半減期が増加して安定的なインスリン製剤として提供でき、糖尿病の治療剤として効果的に用いられることは、引用文献3及び4の記載から予測し得る効果である。
そうすると、実際に、1kDa、2kDa、2.5kDa、3kDa、及び3.4kDaのPEGリンカーを有するインスリン結合体を調製して、ポリエチレングリコールの大きさが小さいほど、生体内での血中半減期が増加し、インスリン結合体を安定な薬剤として提供できるとの効果を奏することを確認していても、当該効果は、引用文献3及び4の記載から予測される効果にすぎない。
したがって、本願発明が、予測し得ないような優れた効果を奏するとはいえず、上記主張1(1)は、採用することができない。
(2)引用文献3には、3.4kDa未満の大きさのPEGをリンカーとするインスリン複合体は具体的に開示されていないが、引用発明3のインスリン複合体において、3.4kDa未満の大きさのポリエチレングリコールとすることは、当業者が容易になし得たことであることは、上記第5の3(1)のとおりであり、それによる効果が引用文献3及び4の記載から予測し得る効果であることは、上記第5の3(3)イのとおりである。
また、引用発明3の「(i)ヒト野生型配列を有するインスリン部分」は、天然型インスリンに相当し、実際に、インスリンを用いた結合体も実施例で製造しているから(摘記3hの実施例2、3)、インスリン部分について、本願発明と引用発明3に差異はない。
そして、引用文献4は、上記第5の3(1)のとおり、分子量が小さいポリエチレングリコールを用いることによって、PEG修飾による活性低下を抑えることができること、ペプチド医薬の修飾に用いるポリエチレングリコールとして、1kDaや2kDaのものが知られていることを示すために引用した文献であるから、引用文献4にインスリンとの結合体について記載されていないことは、結論を左右しない。
したがって、上記主張1(2)は、採用することができない。
3 小括
よって、請求人の主張は、いずれも採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献3及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2022-017715