特許拒絶査定不服審判
2022-017091
データ及び文脈に基づいた故障判別及び応答処理方法
- 審判番号
- 2022-017091
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-114777外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年10月26日
- 審決日
- 2024年06月10日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】デックスコム・インコーポレーテッド
- 【請求人代理人】村山 靖彦
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 【請求人代理人】阿部 達彦
- 分類
- P18 .536-WZ (A61B) / P18 .537-WZ (A61B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-114777「データ及び文脈に基づいた故障判別及び応答処理方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年10月15日出願公開、特開2020-168437〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯本願は、2015年(平成27年)5月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年6月6日、米国)を国際出願日として出願した特願2016-568836号の一部を令和2年7月2日に新たな特許出願としたものであって、以降の手続は、概略、次のとおりである。
平成2年 7月10日 :手続補正書(自発)の提出
令和3年 8月20日付け:拒絶理由通知
令和4年 2月28日 :手続補正書及び意見書の提出
同年 6月21日付け:拒絶査定
同年10月26日 :審判請求書及び手続補正書の提出
令和5年 7月25日付け:拒絶理由通知(当審)
令和6年 1月31日 :誤訳訂正書及び意見書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和6年1月31日に提出された誤訳訂正書による誤訳訂正及びそれを踏まえた補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
なお、誤訳訂正書による「誤訳訂正及びそれを踏まえた補正による補正」を、以下単に「補正」という。
「【請求項1】
プロセッサによって実行される、インビボ連続検体監視システムにおける故障タイプを判別するための方法であって、
検体モニタから生センサ信号を受信することと、
臨床状況データを受信することとであって、前記臨床状況データは、患者の活動レベル、活動時刻、前記患者の身体に関するデータのうち、少なくとも1つを含む、受信することと、
前記臨床状況データを予め定義された臨床状況基準と比較することによって前記臨床状況データを評価して、臨床状況情報を決定することであって、前記臨床状況情報は前記生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度と、前記臨床状況データから変換された前記患者の状態に関する情報のうち、少なくとも1つを含む、決定することと、
前記検体モニタからの前記受信された生センサ信号及び前記臨床状況情報の両方に基づいて、前記故障タイプを判別することであって、
前記判別することは、前記受信された生センサ信号および前記臨床状況情報の両方に基づいて、前記故障を分類することを含み、
前記故障を前記分類することは、前記故障を前記患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障として、またはアーチファクト故障として分類することを含む、判別することと、
少なくとも前記判別された故障タイプに基づいて、応答処理を実施することと、を含み、
前記応答処理が、薬の投与装置を制御することを含む前記方法。」(以下「本願発明」という。)
第3 当審の拒絶理由通知の概要
当審は、令和5年7月25日付け拒絶理由通知において、以下の理由1及び理由2を通知している。
理由1.(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由2.(実施可能要件)本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
1 理由1(明確性)については、概略、以下の内容を指摘している。
・請求項1(補正前の請求項1)
なお、以下で本願明細書と記載されているのは、補正前の明細書のことである。また、以下の(1)の指摘事項は、令和5年7月25日付け拒絶理由通知においては(2)として指摘した事項である。
(1)臨床文脈データ、臨床文脈基準及び臨床文脈情報との関係について
請求項1に係る発明では、臨床文脈データ、臨床文脈基準及び臨床文脈情報について、以下のように特定されている。「臨床文脈データを受信することとであって、前記臨床文脈データは前記生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度を含む、受信することと、前記臨床文脈データを臨床文脈基準に対して評価して、臨床文脈情報を決定する」
ア 上記特定事項における「臨床文脈データ」及び「臨床文脈情報」について、本願明細書の記載を参照しても、請求項1に係る発明において特定しようとする前者の「データ」は何で、後者の「情報」は何であるのか明確に把握できるものではない。
イ また、上記特定事項における「臨床文脈基準」について、請求項1に係る発明において特定しようとしている「臨床文脈基準」とは、どのような「基準」であるのか明確に把握できるものではない。
ウ さらに、請求項1に係る発明では「前記臨床文脈データを臨床文脈基準に対して評価して、臨床文脈情報を決定する」と特定されており、請求項1に係る発明の「前記臨床文脈データ」及び「臨床文脈情報」について明確に把握できないことは上記アで述べたとおりであるが、仮に何がしかのデータ及び情報を表しているとしても、その臨床文脈データを「臨床文脈基準」に対してどのように「評価」してどのように「決定」したものが臨床文脈情報となるのか不明であるから、「前記臨床文脈データを臨床文脈基準に対して評価して、臨床文脈情報を決定する」ことが技術的にどのようなことを特定しようとしているのか、当業者といえども明確に把握することはできない。
エ よって、請求項1に係る発明の「臨床文脈データを受信することとであって、前記臨床文脈データは前記生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度を含む、受信することと、前記臨床文脈データを臨床文脈基準に対して評価して、臨床文脈情報を決定する」との特定事項は、明確とはいえない。
2 理由2(実施可能要件)については、以下の内容を指摘している。
・請求項1
(1)故障の分類について
請求項1に係る発明の「前記検体モニタからの前記受信された信号及び前記臨床文脈情報の両方に基づいて、前記故障タイプを判別することであって、前記判別することは、・・・前記故障を分類することを含み、前記故障を前記分類することは、前記故障をセンサ環境故障としてまたはシステムエラー/アーチファクト故障として分類することを含む、判別すること」について、検体モニタから受信された「(生)信号」及び「臨床文脈情報」が、どのような場合に、あるいは両者がどのような関係になる場合に、「センサ環境故障」、「システムエラー」、「アーチファクト故障」として分類できるのか、本願明細書には記載されておらず、また、(生)信号及び臨床文脈情報からセンサ環境故障、システムエラー、アーチファクト故障を分類できるという技術常識もないことから、当業者といえども、「(生)信号」及び「臨床文脈情報」から「センサ環境故障」、「システムエラー」、「アーチファクト故障」を分類することはできない。
(2)応答処理の実施について
請求項1に係る発明の「少なくとも前記判別された故障タイプに基づいて、応答処理を実施することと、を含み、前記応答処理が、薬の投与装置を制御することを含み、前記制御することは、基礎モードを調整することを含む」ことについて、まず「薬の投与装置」との用語が本願明細書にはない(本願明細書の【0022】に「薬剤送達デバイス」との用語はある)ものの、上記応答処理の実施に関する本願明細書の記載として、【0334】に「モードの切り替えを伴わない場合でさえ、1つのタイプの応答処理は、例えば、計測器、ポンプ、CGMなどの糖尿病管理に関与するデバイス間の対話を管理もしくは制御するか、または使用者にそれらを管理もしくは制御させるか、もしくはそのように命令することである。この方法では、使用者は、デバイス上の故障が伝搬し、エラーを下流デバイス上に引き起こさないように、デバイス間の対話をより密接にまたは手動で制御するように命令されてもよい。かかる応答処理としては、インスリン量の危険性閾値を低減すること、デフォルトの基礎モードを調節することなどが挙げられ得る。」と記載されている。
当該記載を参照するに、応答処理が、薬剤(インスリン)送達デバイスにおける、デフォルトとして設定されているインスリン量の基礎モードを調整することであると理解できるものの、「センサ環境故障」に分類された場合、「システムエラー」に分類された場合、「アーチファクト故障」に分類された場合、それぞれ、基礎モードをどのように調整するのか記載されておらず、また、センサ環境故障、システムエラー、アーチファクト故障に分類したうえで基礎モードを調整することが技術常識であるともいえないことから、当業者といえども、分類された「センサ環境故障」、「システムエラー」、「アーチファクト故障」の故障タイプに基づいて、基礎モードをどのように調整するのか明らかであるとはいえない。
(3)小括
よって、上記(1)及び(2)の点で、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
第4 当審の判断
1 明確性について
(1)補正による特定事項
上記第2で記載したとおり、「臨床文脈データ」、「臨床文脈基準」及び「臨床文脈」は、補正により、それぞれ「臨床状況データ」、「臨床状況基準」及び「臨床状況情報」となり、そして、「臨床状況データ」は「患者の活動レベル、活動時刻、前記患者の身体に関するデータのうち、少なくとも1つを含む」もの、「臨床状況情報」は「生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度と、前記臨床状況データから変換された前記患者の状態に関する情報のうち、少なくとも1つを含む」ものと特定され、また、「臨床状況基準」については、令和6年1月31日提出の意見書(以下「意見書」という。)において「データの判定基準のことである」と釈明している。
そして、上記第3の1(1)ウで指摘した「臨床文脈データを臨床文脈基準に対して評価して、臨床文脈情報を決定する」ことは、補正により「臨床状況データを予め定義された臨床状況基準と比較することによって前記臨床状況データを評価して、臨床状況情報を決定する」と特定されている。
(2)判断
ア 特定事項の代入
本願発明の「臨床状況データを予め定義された臨床状況基準と比較することによって前記臨床状況データを評価して、臨床状況情報を決定する」において、「臨床状況データ」、「臨床状況基準」及び「臨床状況情報」について、上記(1)で記載した特定事項又は意見書での釈明事項を代入すると、
「『患者の活動レベル、活動時刻、前記患者の身体に関するデータのうち、少なくとも1つを含む』ものを予め定義された『データの判定基準』と比較することによって前記『患者の活動レベル、活動時刻、前記患者の身体に関するデータのうち、少なくとも1つを含む』ものを評価して、『生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度と、前記臨床状況データから変換された前記患者の状態に関する情報のうち、少なくとも1つを含む』ものを決定する」(以下「決定手法」という。)となる。
イ 各選択枝における判断
(ア)まず、「臨床状況データ」として「活動時刻」を、「臨床状況情報」として「生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度」を選択すると、上記決定手法は、「活動時刻を予め定義されたデータの判定基準と比較することによって前記活動時刻を評価して、生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度を決定する」となる。
ここで、「予め定義されたデータの判定基準」も不明であり、「活動時刻を予め定義されたデータの判定基準と比較することによって前記活動時刻を評価」することで、なぜ「生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度」が決定できるのか、技術的に全く不明であり、この点、補正後の本願明細書(以下「本願明細書」という。)を参照しても、技術的に明らかになるものでもない。
(イ)また、「臨床状況データ」として「患者の活動レベル」又は「患者の身体に関するデータ」を選択したとしても、「患者の活動レベルを予め定義されたデータの判定基準と比較することによって前記患者の活動レベルを評価」することで、なぜ「生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度」が決定できるのか、「患者の身体に関するデータを予め定義されたデータの判定基準と比較することによって前記患者の身体に関するデータを評価」することで、なぜ「生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度」が決定できるのか、技術的に全く不明であり、これらの点も、本願明細書を参照しても、技術的に明らかになるものでもない。
(ウ)さらに、「臨床状況情報」として「臨床状況データから変換された前記患者の状態に関する情報」を選択した場合でも、臨床状況データからどのような「変換」がなされたものを「患者の状態に関する情報」としているのか不明であり、そして、上記(ア)で述べたとおり「予め定義されたデータの判定基準」も不明であるから、結局のところ、「臨床状況データ」として「患者の活動レベル」、「活動時刻」、「患者の身体に関するデータ」のいずれを選択したとしても、これを「予め定義されたデータの判定基準と比較することによって前記臨床状況データを評価する」ことで決定する「臨床状況データから変換された前記患者の状態に関する情報」とは、技術的に何を特定しているのか不明であり、この点、本願明細書を参照しても、技術的に明らかになるものでもない。
(エ)加えて、「臨床状況データ」は「患者の活動レベル、活動時刻、前記患者の身体に関するデータのうち、少なくとも1つを含む」ものであり、「臨床状況情報」は「生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度と、前記臨床状況データから変換された前記患者の状態に関する情報のうち、少なくとも1つを含む」ものであるから、「臨床状況データ」及び「臨床状況情報」として、各々複数の要素も選択できるものであるが、上記(ア)~(ウ)を踏まえると、「臨床状況データ」として「患者の活動レベル、活動時刻、前記患者の身体に関するデータ」から複数選択したとしても、これらを「予め定義されたデータの判定基準と比較することによって前記臨床状況データを評価する」ことで、なぜ「生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度と、前記臨床状況データから変換された前記患者の状態に関する情報」の両方が決定できるのか、技術的に全く不明であり、この点、本願明細書を参照しても、技術的に明らかになるものでもない。
ウ 小括
以上のことから、補正により「臨床状況データ」は「患者の活動レベル、活動時刻、前記患者の身体に関するデータのうち、少なくとも1つを含む」もの、「臨床状況情報」は「生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度と、前記臨床状況データから変換された前記患者の状態に関する情報のうち、少なくとも1つを含む」ものと特定され、また、意見書により「臨床状況基準」については「データの判定基準」と釈明されたが、これらを踏まえて、「臨床状況データを予め定義された臨床状況基準と比較することによって前記臨床状況データを評価して、臨床状況情報を決定する」という決定手法を理解しようとしても、上記イで説示したとおり、いずれの選択枝の場合においても、何を特定しようとしているのか技術的に理解できるものではない。
よって、本願発明の「臨床状況データを予め定義された臨床状況基準と比較することによって前記臨床状況データを評価して、臨床状況情報を決定する」との特定事項は、明確とはいえない。
エ 請求人の主張
(ア)請求人は、意見書で以下のとおり、主張している。
「「前記臨床文脈データを臨床文脈基準に対して評価して、臨床文脈情報を決定する」について
明細書の記載から、以下を説明していることがわかります。
・臨床文脈基準は、データの判定基準のことである。
・臨床文脈データを予め定義された臨床文脈基準と比較して臨床文脈データを評価し、臨床文脈情報を決定する。
・臨床文脈情報として、「患者とセンサがどのような状況にあるか」を決定する。
これらがより明確となるように請求項の記載を補正いたしました。」
(イ)請求人の主張に対する判断
請求人は「臨床文脈情報として、「患者とセンサがどのような状況にあるか」を決定する」と主張しているが、本願発明において「臨床状況情報」は「生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度と、前記臨床状況データから変換された前記患者の状態に関する情報のうち、少なくとも1つを含む」ものであり、そもそも上記主張には「グルコース濃度」が記載されておらず、本願発明に基づかないものである。また、上記主張が上記決定手法を明らかにするものでもないから、上記イ及びウで説示した判断が覆ることはない。
(3)まとめ
したがって、本願発明の記載は明確ではないことから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2 実施可能要件について
(1)故障の分類について
ア 本願発明の特定事項による置き換え
上記第3で記載した理由2(実施可能要件)の(1)「故障の分類について」における指摘事項を、本願発明の特定事項に置き換えると、以下のとおりとなる。
本願発明の「前記検体モニタからの前記受信された生センサ信号及び前記臨床状況情報の両方に基づいて、前記故障タイプを判別することであって、前記判別することは、前記受信された生センサ信号および前記臨床状況情報の両方に基づいて、前記故障を分類することを含み、前記故障を前記分類することは、前記故障を前記患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障として、またはアーチファクト故障として分類することを含む、判別すること」について、検体モニタから受信された「生信号」及び「臨床状況情報」が、どのような場合に、あるいは両者がどのような関係になる場合に、「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」、「アーチファクト故障」として分類できるのか、本願明細書には記載されておらず、また、生信号及び臨床状況情報から「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」、「アーチファクト故障」を分類できるという技術常識もないことから、当業者といえども、「生信号」及び「臨床状況情報」から「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」、「アーチファクト故障」を分類することはできない。
イ 本願明細書の記載
「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」又は「アーチファクト故障」として分類することについて、本願明細書には、以下の記載がある。
「【0004】
一部の糖尿病患者が自身の血中グルコースを監視するために使用する別のデバイスは、連続検体センサ、例えば、連続グルコースモニタ(CGM)である。CGMは、典型的には、侵襲的、低侵襲的、又は非侵襲的に設置されたセンサを含む。センサは、体内の所与の検体、例えば、グルコースなどの濃度を測定し、センサと関連付けられた電子機器によって発生する生信号を発生させる。生信号は、ディスプレイ上にレンダリングされる出力値へと変換される。生信号の変換から得られる出力値は、典型的には、mg/dLで表される血中グルコースなどの使用者に有意義な情報を提供する形式で、また使用者が分析を熟知しているようになる形式で表される。」
「【0238】
図18のダイアグラム308は、故障判別に用いられ得る、また別の分類化スキームを例証する。分類化スキーム312では、特定の技術的な分類によって分類される、例示的な故障分類が示される。例えば、故障は、誤った測定を引き起こすセンサの周辺の局所環境に関係する故障314と、後に誤った信号アーチファクトを引き起こすシステムエラーに関係する故障316とに分けられる。故障314は、より区分けされ、局所的な傾向がある。故障314の例としては、圧迫に関係する故障318、及び初期創傷応答に関係する故障322が挙げられる。故障316の例としては、水スパイクに関係するものが挙げられ、それは、封止不良によって引き起こされることが多い。
【0239】
これらの場合の各々、すなわち、圧迫、初期創傷応答、及び水スパイクまたは封止不良において、ならびに他の信号挙動と共に、故障判別及び応答処理ルーチンまたはアルゴリズムによって使用される所定の信号基準が存在するであろう。受信された信号が基準を満たす場合、故障分類は、それに従って割り当てられるであろう。」
「【0299】
図18、また特に故障316に戻ると、故障は、例えば、誤った信号アーチファクトをもたらす、システムエラーとして分類されてもよい。これらの故障においては、センサ、センサまたはセンサ電子機器内の接続、送信機エラーなどに関係するものなどのシステムエラーは、信頼性の低い検体読み取りをもたらす多様な有害な信号アーチファクトを引き起こす場合がある。1つの下位分類化としては、水スパイクにつながり得る封止不良が挙げられる。かかる故障に関する信号を試験するために用いられ得る例示的な所定の信号基準としては、例えば、素早い正の上昇などの、短期間にわたる生信号の変化が挙げられる。この故障判別に使用され得る他の信号としては、センサの温度が挙げられ、それは、患者がシャワーまたは熱い浴槽に入ったことを示してもよい。他の例示的な信号基準としては、時刻及び/または温度センサからの信号が挙げられる。ここで、温度は、臨床状況情報の決定においてこの状況で用いられており、また、例えば、温度補償のためなどの温度自体の使用とは反対に、臨床状況の決定の目的のために用いられていることが留意されるべきである。したがって、臨床状況としての使用のために、測定される温度は概して、臨床状況基準と比較されて、臨床状況情報を決定する。述べられている通り、決定は、曖昧さを回避するためにさらなる臨床状況情報を必要とすることが多い。例えば、センサの温度(測定される信号)が、特定の値まで上昇するか、または特定の値(臨床状況基準)、例えば、5°を上回る所定の閾値まで上昇する場合、それは、シャワーを浴びていることを示してもよい(臨床状況情報)。他の臨床状況情報と共に考慮されるとき、例えば、規則的なシャワーの時間などのパターンデータ、及び/または例えば、スパイクなどの信号データは、水スパイクの明確な評価につながり得る。別の下位分類化としては、静電気ノイズに関係する故障が挙げられ、それは、特に、反復的な活動中及び乾燥した天気において、センサまたは電子機器パッチ上の衣服の摩擦によって引き起こされる場合がある。かかる故障を示し得る信号情報としては、信号の周波数コンテンツの分析及び故障判別基準との比較が挙げられる。臨床状況データとしては、例えば、送信機上または監視アプリケーションとデータ通信している付随の携帯デバイス上の加速度計データから収集される、使用者の移動または運動の指示が挙げられ得る。」
そして、上記図18として、以下の図面が記載されている。
【図18】
[図:0001415698000001.jpg]
ウ 判断
「検体モニタからの前記受信された生センサ信号」及び「臨床状況情報」の両方に基づいて、どのようにして「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」又は「アーチファクト故障」として分類することができるのか検討する。
(ア)まず、「臨床状況情報」は、「生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度と、前記臨床状況データから変換された前記患者の状態に関する情報のうち、少なくとも1つを含む」ものと特定されるものであるが、それは「臨床状況データを予め定義された臨床状況基準と比較することによって前記臨床状況データを評価して」「決定」されたものであり、上記1(2)で述べたように、当該決定手法自体が技術的に不明確であるから、当該決定手法で決定された「臨床状況情報」も不明確である。
そうすると、故障を「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」または「アーチファクト故障」として分類する際に、そもそも不明確な事項に基づくことになるから、不明確な事項に基づいて本願発明における故障の分類をどのように実施することができるのか明確とはいえない。
(イ)次に、「臨床状況情報」を「生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度」として具体的に検討するに、「検体モニタからの前記受信された生センサ信号」は、上記イで摘記した本願明細書の【0004】に「センサは、体内の所与の検体、例えば、グルコースなどの濃度を測定し、センサと関連付けられた電子機器によって発生する生信号を発生させる。」と記載されていることから、具体的には、グルコース濃度に関連する信号ということになる。
そうすると、本願発明において「グルコース濃度に関連する信号」(生センサ信号)を「較正および変換される」ものが「グルコース濃度」であるから、結局のところ、「グルコース濃度に関連する信号」と「グルコース濃度」の両方に基づいて、「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」又は「アーチファクト故障」としての分類をすることになるが、上記イで摘記した本願明細書あるいは本願明細書のその他の部分を参照しもて、それらに基づいて両者を分類する手法を明らかにする記載はなく、「グルコース濃度に関連する信号」と「グルコース濃度」の両方に基づいて、上記両故障が分類できるという技術常識も存在しない。
したがって、「検体モニタからの前記受信された生センサ信号」と「生センサ信号から較正および変換されるグルコース濃度」の両方に基づいて、どのようにして「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」と「アーチファクト故障」とを分類するのか明らかではない。
(ウ)さらに、「臨床状況情報」を「臨床状況データから変換された前記患者の状態に関する情報」として検討するに、上記イで摘記した本願明細書の【0239】には、「臨床状況情報」が具体的には「シャワーを浴びていること」として記載されており、これは一応「患者の状態に関する情報」ともいえることから、「臨床状況情報」が「シャワーを浴びていること」としてさらに検討を進める。
そうすると、本願発明において「グルコース濃度に関連する信号」と「シャワーを浴びていること」の両方に基づいて、「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」又は「アーチファクト故障」としての分類をすることになるが、上記イで摘記した本願明細書あるいはその他の本願明細書を参照しもて、それらに基づいて両者を分類する手法を明らかにする記載はなく、「グルコース濃度に関連する信号」と「シャワーを浴びていること」の両方に基づいて、上記両故障が分類できるという技術常識も存在しない。
したがって、「検体モニタからの前記受信された生センサ信号」と「臨床状況データから変換された前記患者の状態に関する情報」の両方に基づいて、どのようにして「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」と「アーチファクト故障」とを分類するのか明らかではない。
(エ)請求人の主張
a 請求人は、意見書で以下のとおり、主張している。
「(1)故障の分類について
明細書0299に、信号を所定の信号基準と比較し、基準と異なる場合に故障と判断することが記載されており、臨床文脈情報を臨床文脈基準と比較して、基準と異なる場合に故障と判断することが説明されていると理解できます。このような条件を請求項に追加いたしました。」
b 請求人の主張に対する判断
本願発明は、「受信された生センサ信号および前記臨床状況情報の両方に基づいて」、「前記患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障として、またはアーチファクト故障として分類する」方法であるところ、請求人は「故障と判断する」と主張するだけで、何ら上記故障の分類に言及するものではないから、上記主張によって上記(ア)~(ウ)で説示した判断が覆ることはない。
(オ)小括
以上のことから、本願明細書の発明の詳細な説明は、「検体モニタからの前記受信された生センサ信号」及び「臨床状況情報」の両方に基づいて、どのようにして「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」と「アーチファクト故障」とを分類することができるのか、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
(2)応答処理の実施について
ア 本願発明の特定事項により置き換え
補正により「前記制御することは、基礎モードを調整することを含む」ことが削除されたものの、上記第3で記載した理由2(実施可能要件)の(2)「応答処理の実施について」における指摘事項を、本願発明の特定事項に置き換えると、以下のとおりとなる。
本願発明の「少なくとも前記判別された故障タイプに基づいて、応答処理を実施することと、を含み、前記応答処理が、薬の投与装置を制御することを含む」ことについて、まず「薬の投与装置」との用語が本願明細書にはない(本願明細書の【0022】に「薬剤送達デバイス」との用語はある)ものの、上記応答処理の実施に関する本願明細書の記載として、【0334】に「モードの切り替えを伴わない場合でさえ、1つのタイプの応答処理は、例えば、計測器、ポンプ、CGMなどの糖尿病管理に関与するデバイス間の対話を管理もしくは制御するか、または使用者にそれらを管理もしくは制御させるか、もしくはそのように命令することである。この方法では、使用者は、デバイス上の故障が伝搬し、エラーを下流デバイス上に引き起こさないように、デバイス間の対話をより密接にまたは手動で制御するように命令されてもよい。かかる応答処理としては、インスリン量の危険性閾値を低減すること、デフォルトの基礎モードを調節することなどが挙げられ得る。」と記載されている。
当該記載を参照するに、「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」に分類された場合、「アーチファクト故障」に分類された場合、それぞれ、「薬の投与装置」をどのように制御するのか記載されておらず、また、「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」、「アーチファクト故障」に分類したうえで「薬の投与装置」を制御することが技術常識であるともいえないことから、当業者といえども、分類された「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」、「アーチファクト故障」の故障タイプに基づいて、「薬の投与装置」をどのように制御するのか明らかであるとはいえない。
イ 本願明細書の記載本願明細書には、本願発明の「故障タイプに基づいて、応答処理を実施することと、を含み、前記応答処理が、薬の投与装置を制御することを含む」ことについて、以下の記載がある。
「【0334】
モードの切り替えを伴わない場合でさえ、1つのタイプの応答処理は、例えば、計測器、ポンプ、CGMなどの糖尿病管理に関与するデバイス間の対話を管理もしくは制御するか、または使用者にそれらを管理もしくは制御させるか、もしくはそのように命令することである。この方法では、使用者は、デバイス上の故障が伝搬し、エラーを下流デバイス上に引き起こさないように、デバイス間の対話をより密接にまたは手動で制御するように命令されてもよい。かかる応答処理としては、インスリン量の危険性閾値を低減すること、デフォルトの基礎モードを調節することなどが挙げられ得る。
【0335】
他のタイプの応答処理も、同様に理解されるであろう。例えば、データがより信頼性が低いことを示すために、「フラグ」がデータ上に置かれてもよい。故障していることが知られている特定のデータに関して、データが依然として使用されていたとしても、そのデータに起因する重みは、低下されてもよい。タイプを問わず、述べられる応答処理ステップへの利益及び利点は、それが、永久的不良が検出されるまでセンサが稼働し続けることを可能にすることによって、センサの寿命を延長させる傾向があるということである。これは、使用者に著しい費用及び利便性の利点性の利点をもたらす。この利点は、概して所定の日数後に厳格な停止を有する、前のセンサとは対照的であり得る。
【0336】
上記のタイプの応答処理は概して、故障が必ずしも臨床状況を考慮しなくとも信号から判別される場合であるが、応答処理が故障及び臨床状況情報に基づくである(レジームI及びII)。しかしながら、上記の通り、故障判別及び応答処理の両方が、臨床状況情報に基づいてもよく、すなわち、信号及び臨床状況はどちらも、故障を判別する際に、及び故障にどのように応答するかを決定する際に考慮されてもよい(レジームIII)。」
ウ 判断
(ア)まず、上記(1)で説示したとおり、「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」と「アーチファクト故障」(故障タイプ)をどのようにして分類することができるのか不明であるから、本願発明において、「応答処理を実施する」際に「故障タイプに基づいて」行うことはできない。
(イ)また、仮に、「検体モニタからの前記受信された生センサ信号」及び「臨床状況情報」の両方に基づいて、「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」と「アーチファクト故障」(故障タイプ)を分類することができたとしても、「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」の際に「薬の投与装置」をどのように制御するのか、「アーチファクト故障」の際に「薬の投与装置」をどのように制御するのか、記イで摘記した本願明細書あるいは本願明細書のその他の部分を参照しもて、不明である。また、「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」、「アーチファクト故障」の故障タイプに基づく「薬の投与装置」の制御の仕方が技術常識であるともいえない。
そうすると、仮に、「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」と「アーチファクト故障」(故障タイプ)を分類することができたとしても、それらの故障タイプに基づいて、「薬の投与装置」をどのように制御するのか不明である。
(ウ)請求人の主張
請求人は、意見書で、
「(2)応答処理の実施について
「制御することは、基礎モードを調整することを含む」を削除致しました。」と主張するのみであり、補正により、薬の投与装置の制御の一例が削除されたものの、「故障タイプに基づいて、応答処理を実施することと、を含み、前記応答処理が、薬の投与装置を制御することを含む」ことについて、依然として不明であることには変わりはない。
(エ)小括
以上のことから、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明の「患者に埋め込まれかつ前記検体モニタに関連付けられた少なくとも1つのセンサの周辺の局所環境に関する故障」又は「アーチファクト故障」を「分類」し、その「故障タイプに基づいて、応答処理を実施することと、を含み、前記応答処理が、薬の投与装置を制御すること」について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
(3)まとめ
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないことから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、そして、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないことから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
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2022-017091