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特許拒絶査定不服審判

2022-014964

測定方法

審判番号
2022-014964
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-103949
請求日
2022年09月21日
審決日
2023年10月11日
公報発行日
2023年12月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】オーリングテスト生命科学研究所有限会社
  • 【請求人代理人】原 信海
審判長/審判官
  • 審判長 石井 哲
  • 審判官 松本 隆彦
  • 審判官 伊藤 幸仙
分類
P18 .536-WZ (A61B) / P18 .537-WZ (A61B) / P18 .14 -WZ (A61B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第2条第1項、特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-103949「測定方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月 5日出願公開、特開2019-205797〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件出願(以下「本願」という。)は、平成30年5月30日の出願であって、令和4年2月22日付けで拒絶の理由が通知され、同年4月22日に意見書が提出されたところ、同年8月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月21日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がなされ、その後、当審において令和5年4月18日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年6月15日に意見書及び手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし5に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。なお、下線は本件補正による補正箇所を示す。 「 【請求項1】 被検者の一方の手の第1指の先端部と他の指の先端部とを互いに当接させてオーリングを形成し、このオーリング内に被検者の他方の手の2本の指を挿入し、挿入した2本の指を互いに離隔させて前記オーリングが開裂するか否かによって、被検者と対象物との相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを測定するに際し、 前記対象物を被検者から離隔させた状態で、前記オーリング内に挿入させる2本の指の内のオーリングを構成する他の指に当接させる側の測定用指を、前記オーリングを構成する他の指の長手方向の異なる複数の位置にそれぞれ当接させ、各位置で前記オーリングが開裂するか否かによって基点を定め、又は/及び、前記測定用指の長手方向の異なる複数の位置に前記オーリングを構成する他の指をそれぞれ当接させ、各位置で前記オーリングが開裂するか否かによって基点を定め、 前記対象物を被検者の近傍に配置させた状態で、前記測定用指を前記オーリングを構成する他の指の長手方向の異なる複数の位置にそれぞれ当接させ、各位置で前記オーリングが開裂するか否かによって測定点を定め、又は/及び、測定用指の長手方向の異なる複数の位置に前記オーリングを構成する他の指をそれぞれ当接させ、各位置で前記オーリングが開裂するか否かによって測定点を定め、 前記測定点と基点との相対位置及び両者間の距離に基づいて、前記対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを求める ことを特徴とする測定方法。」 第3 当審拒絶理由(令和5年4月18日付け拒絶理由)の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 1.(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 2.(サポート要件)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 3.(実施可能要件)本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 4.(発明該当性)本件出願の下記の請求項に記載されたものは、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。 記 ●理由1(明確性) ・請求項1~5 請求項1に記載の「相互作用」が明確でないので、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2~5に係る発明は明確でない。 ●理由2(サポート要件) ・請求項1~5 請求項1~5に係る発明が、解決しようとする課題は、本願の発明の詳細な記載から、「測定機器を用いることなく、対象物と被検者との相互作用を簡便でより高精度に測定することができる方法を提供する」(段落[0014])ことであると認められるところ、発明の詳細な説明には、請求項1~5に係る発明が対象物と被検者の相互作用を測定できることが、裏付けられているとは認められない。 また、請求項1~5に係る発明は、被検者との間に相互作用を生じさせる対象を単に「対象物」と特定するにとどまり、あらゆる種類の任意の物体が「対象物」に含まれうる。しかし、本願の発明の詳細な説明には、砂糖を対象物とすることについて具体的に説明されているものの、その説明をもって相互作用の機構が砂糖以外の全ての対象物についてまで説明されるものとはいえない。そうすると、実施例以外の場合、つまり砂糖を把持する場合以外の、被検者と対象物との間の相互作用を求める方法にまで、拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 ●理由3(実施可能要件) 本願の発明の詳細な説明は、実施例に記載された測定結果と被検者と対象物との間の相互作用の因果関係について明確かつ十分に説明されていないので、当業者が、「測定機器を用いることなく、対象物と被検者との相互作用を簡便でより高精度に測定する」という課題を解決するために、請求項1~5に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。 ●理由4(発明該当性) 請求項1~5に係る発明は、その測定工程の一部において自然法則を利用するものであるとしても、発明が解決しようとする課題との関係において、もっとも重要な特定事項である「前記測定点と基点との相対位置及び両者間の距離に基づいて、被検者と前記対象物との間の相互作用を求める」ことが人為的な取り決めであるから、請求項1~5に係る発明は、全体として自然法則を利用していないものである。 したがって、請求項1~5に係る発明は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるとはいえず、特許法第2条第1項に規定する「発明」に該当するものとはいえないから、特許法第29条柱書でいう発明に該当しない。 第4 当審の判断 1 理由1:特許法第36条第6項第2号(明確性)について 本願の請求項1には、「被検者と対象物との相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを測定する」と記載されている。この記載における「相互作用」で特定される作用が明確でない。具体的には、次のとおりである。 「対象物と被検者との間の相互作用」について、一般的に、相互作用として、重さ、電磁気力、万有引力などの物理学的なもの、化学的なもの、生物的なもの、薬学的なものが想定され、このように挙げられる相互作用はそれぞれ作用の意味が異なり、相互作用が働く対象への影響も様々であり、その相互作用の作用結果を測定する科学技術的手法もそれぞれ異なることは技術常識であるから、単に「相互作用」というだけでは、その作用の意味は極めて曖昧であり、技術的に明確といえない。そして、請求項1の上記記載では、相互作用が働く対象のみを限定するにとどまり、相互作用の具体的な作用について、何ら特定されていない。そのため、請求項1の上記記載からは、その記載で特定される「相互作用」について明確に把握することができない。 そこで、本願の発明の詳細な説明の記載をみると、相互作用を具体的に定義する記載は存在せず、段落[0069]及び[0070]に、実施例として被検者と砂糖の相互作用とされるものを測定した結果が記載されており、他には、段落[0021]、[0056]には、測定結果から相互作用がプラスであるかマイナスであるかを決めることが記載されており、段落[0047]には、「ヒトと対象物との間の相互作用は、各ヒト毎に、また各対象物毎にそれぞれ異なっており、一の対象物が一のヒトにとってはプラスに作用するが、当該対象物が他のヒトにはマイナスに作用することがある。」という記載があり、作用がヒトに及ぼす影響をプラスとマイナスとしているが、相互作用が具体的にどのようなメカニズムによる作用を意味するのかは説明されていない。更に、ヒトに及ぼす影響としてのプラスとマイナスについて言えば、生化学的、心理的、薬学的といった観点からも一義的に把握できるものではない上、例えば薬学的なものに限定したとしても、ある物質がヒトへ異なる影響を及ぼすことは、薬には、目的とする作用だけでなく副作用が存在することが技術常識であることを踏まえれば、当業者にとって自明である。 してみれば、発明の詳細な発明の記載を考慮しても、請求項1に記載の「相互作用」は明確でなく、当業者がその意味を適切に把握することができない。 また、請求項1の上記記載から、「当該対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさ」は、「被検者と対象物との相互作用に基づ」くものと解され、その測定に関して、請求項1において「前記対象物を被検者の近傍に配置させた状態で」「測定点を定め」ることが特定されており、「対象物」については、具体的に特定されていない。そして、任意の対象物を近傍に配置しただけで生じうる相互作用の具体的な作用は、上述の説示のとおり明確とはいえず、その不明確な相互作用が、オーリングの開裂に影響が生じる程の大きな作用を対象者に与えるとは、一般的な技術常識を参酌しても当業者が把握できるものではなく、請求項1で特定されている事項全体をもってしても、「被検者と対象物との相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを測定する」ことを明確に把握することができない。 請求人は、令和5年6月15日提出の意見書において、「請求項1について前述した如く補正しましたので、補正後の請求項1に係る発明は明確であり、また該請求項1を引用する請求項2~5に係る発明も明確であるものと思料します。」と主張するにとどまり、「相互作用」が不明確であることについての具体的な反論はなされていない。 また、請求人は、同意見書において、本件補正について、 (主張1)「測定対象に関する同様の記載は、本願明細書の[0056]に「被検者は、測定点Tが他の指fの基点Sより先端側である場合、オーリングの開裂には、基点Sにおける力のモーメントより小さな力のモーメントしか要しなかったため、被検者と当該対象物との相互作用はプラスであると判断する。一方、被検者は、測定点Tが他の指fに定めた基点Sより基部側である場合、オーリングの開裂には、基点Sにおける力のモーメントより大きな力のモーメントを要したため、被検者と当該対象物との相互作用はマイナスであると判断する。また、被検者は、測定点Tと基点Sとの間の距離から、当該相互作用の大きさを判断する。」とあり、更に、[0059]に「ここで、被検者との相互作用がプラスである対象物にあっては、被検者は取り込むことができる一方、被検者との相互作用がマイナスである対象物にあっては、被検者は低減又は回避することが好ましい。」とあり、これらの記載内容からも、測定対象が「対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさ」であることは明らかであるものと思料します。 同様に、本願明細書の実施例の表1にあっても、測定対象として、対象物が被検者に与える影響の良否であるプラス又はマイナス、及びその大きさ、が測定されていることが容易に理解できます。」 (主張2)「ここで、例えば、後述する特開平7-163552(第3号証)の[0005]には「被検者にある特定物質のサンプルを手に持たせて検査すると、被検者の生体内に同じ物質がある場合、指の筋力が弱くなりOリングは開く。これは物質同士が共鳴したために起こる現象と解釈されており、共鳴テストと呼ばれる。」と記載されており、この物質同士の共鳴とは即ち、物質同士の相互作用に他ならないことから、「対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさ」が「被検者と対象物との相互作用に基づく」ことは、当業者にあっては自明であるものと思料します。」 と主張しているので、これらの主張に基づいて本願発明が明確といえるか否かについても以下に検討しておく。 ・主張1について 発明の詳細な説明においては、「対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさ」は、被検者に与える影響を、オーリングの開裂以外で定義しておらず、段落[0021]の「そして、測定点と対応する基点との相対位置及び両者間の距離に基づいて、前記対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを求める。例えば、測定点が対応する基点より、前記他の指又は測定用指の基部側である場合、当被検者にとって該対象物はマイナスに作用しており、逆に測定点が対応する基点より、前記他の指又は測定用指の先端側である場合、当被検者にとって該対象物はプラスに作用している。そして、プラス又はマイナスの作用の大きさは、測定点と対応する基点との間の距離によって求める。」という記載や段落[0056]の「被検者は、測定点Tが他の指fの基点Sより先端側である場合、オーリングの開裂には、基点Sにおける力のモーメントより小さな力のモーメントしか要しなかったため、被検者と当該対象物との相互作用はプラスであると判断する。一方、被検者は、測定点Tが他の指fに定めた基点Sより基部側である場合、オーリングの開裂には、基点Sにおける力のモーメントより大きな力のモーメントを要したため、被検者と当該対象物との相互作用はマイナスであると判断する。また、被検者は、測定点Tと基点Sとの間の距離から、当該相互作用の大きさを判断する。」という記載をもって、オーリングの開裂についての測定結果からプラス及びマイナス、並びに、それらの大きさを定義しているだけであり、オーリングの開裂がどのような相互作用を反映しているのか、仮に反映されるとするのであれば、どのような作用機序によって、相互作用がオーリングの開裂に影響を及ぼしているのかについては、具体的に説明されていないことから、発明の詳細な説明を参酌しても、測定結果がどのような相互作用が反映されるものであるのか不明である。 ・主張2について 請求人が提示する特開平7-163552号公報の段落[0005]には、共鳴に関する記載は存在するものの、当該文献における「これは物質同士が共鳴したために起こる現象」とは、科学的な実験データを伴う裏付けがある記載ではなく、単なる推測にすぎない。そのため、本件の出願日前に公知であった上記文献のこのような記載をもって、「この物質同士の共鳴とは即ち、物質同士の相互作用に他ならないことから、「対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさ」が「被検者と対象物との相互作用に基づく」ことは、当業者にあっては自明である」とは、認められない。また、本願の出願時において「前記対象物を被検者の近傍に配置させた状態で」対象物と被検者間においてオーリングに開裂に影響を生じるような共鳴が生じるという科学技術的な裏付けデータを伴う技術常識が存在していたとも認められない。 したがって、上記請求人の主張1及び主張2は、理由1についての主張として採用することはできない。 よって、本願発明は、本件補正を考慮しても依然として明確であるとはいえない。 2 理由2:特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 請求項1における「相互作用」は、「1 理由1」で指摘したように、発明の詳細な発明で定義もされておらず、明確ではない。そこで、サポート要件については、まずは、本願発明における「相互作用」については、あらゆる「相互作用」を含むと解釈して判断を行う。 本願発明が、解決しようとする課題は、本願の発明の詳細な記載から、「測定機器を用いることなく、対象物と被検者との相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを簡便でより高精度に測定すること」(段落[0014])であると認められる。 本願発明は、測定装置を用いるものではなく、被検者の一方の手と他方の手により行われる測定方法であるから、簡便な方法であるとは認められる。しかし、本願の発明の詳細な説明には、「相互作用」に関する記載として、段落[0002]に「物体と物体との間には相互作用が存在していることは周知の事実であるが、対象物と被検者との間にも、複数の対象物毎、複数の被検者別に、それぞれ異なる相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさが存在している。かかる対象物と被検者との相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを検出する方法として、例えば次のようなオーリングテストが開発されている。」と従来技術に関しての記載があり、従来技術と関連しての「相互作用」については、他にも段落[0005]~[0006]、[0011]にも記載が存在する。また、本願発明を説明する記載として、段落[0021]に「そして、測定点と対応する基点との相対位置及び両者間の距離に基づいて、被検者と前記対象物との間の相互作用を求める。例えば、測定点が対応する基点より、前記他の指又は測定用指の基部側である場合、当被検者にとって該対象物はマイナスに作用しており、逆に測定点が対応する基点より、前記他の指又は測定用指の先端側である場合、当被検者にとって該対象物はプラスに作用している。そして、プラス又はマイナスの作用の大きさは、測定点と対応する基点との間の距離によって求める。」という記載や、段落[0056]に「そして、被検者は、測定点Tが他の指fの基点Sより先端側である場合、オーリングの開裂には、基点Sにおける力のモーメントより小さな力のモーメントしか要しなかったため、被検者と当該対象物との相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響はプラスであると判断する。一方、被検者は、測定点Tが他の指fに定めた基点Sより基部側である場合、オーリングの開裂には、基点Sにおける力のモーメントより大きな力のモーメントを要したため、被検者と当該対象物との相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響はマイナスであると判断する。また、被検者は、測定点Tと基点Sとの間の距離から、当該相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響の大きさを判断する。」という記載が存在している。しかし、これらの記載では、「相互作用」が対象物と被検者間に生じるどのような作用であるのかが具体的に説明されておらず、相互作用に基づいて「当該対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさ」を当業者が把握することができない。 また、上記段落[0055]の「次に、被検者の近傍に対象物を配置させる。例えば、対象物のサイズが比較的小さい場合であれば、被検者の他方の手に把持してもよい。この状態で、被検者はオーリングを形成して前同様の操作を実施し、オーリングが開裂したと判断した場合、図1(b)に示したように、オーリング内に挿入した測定用指FMに設けた第1目印G1の第1計測部M1における位置である測定点Tを求める。また、被検者は、当該測定点Tがオーリングを構成する他の指fの前述した如く定めた基点Sより先端側であるか否かを判断するとともに、測定点Tと基点Sとの間の距離を第1計測部M1の目盛りを用いて計測する。」と説明される方法を、被検者に対象物である砂糖を把持させて実施した結果が、段落[0069]~[0071]に記載されているが、この実施例において、被検者と砂糖のどのような相互作用がその評価に反映されているのかについて、具体的な説明はなされていない。本願出願時の技術常識からすれば、相互作用と言い得る可能性のある作用としては、被検者が把持した際に受ける砂糖の重量(作用)と砂糖が被検者から受ける砂糖を支持する力(反作用)、(砂糖を直接把持したならば、)砂糖のべたつきによる粘着力、極めて微少な万有引力が想定できるものの、これらの作用が、どのようにしてオーリングの開裂に影響を及ぼすのかについて、その作用機序の開示が発明の詳細な説明において全くなされていない。 そのため、本願の発明の詳細な説明においては、オーリングが開裂するか否かによって被検者と対象物との相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを測定することができることを裏付けられているとは認められず、本願発明が解決しようとする課題が、請求項1に記載の特定事項全体、つまり本願発明により解決できるとはいえない。 また、仮に、本願の発明の詳細な説明に実施例として記載されている、被検者に砂糖を把持させた測定が、被検者と砂糖との間のなんらかの相互作用に基づくとしても、その測定結果が、被検者と砂糖のどのような相互作用に基づくものであるのかは本願の発明の詳細な説明において明らかにされておらず、被検者が把持した際に受ける砂糖の重量(作用)と砂糖が被検者から受ける砂糖を支持する力(反作用)、(砂糖を直接把持したならば、)砂糖のべたつきによる粘着力といった物性に基づく、または、その他の作用であるのか、本願の発明の詳細な説明から把握することができず、本願出願時の技術常識から明らかであるとも認められない。さらに、上記「1 理由1」で検討したとおり相互作用の具体的な内容について、物理学的なもの、化学的なもの、生物的なもの、薬学的なものが想定され、このように挙げられる相互作用はそれぞれ作用の意味が異なり、相互作用が働く対象への影響も様々であり、その相互作用の作用結果を測定する科学技術的手法もそれぞれ異なることは技術常識であるから、任意の相互作用についてオーリングが開裂するか否かによって測定することが、被検者と砂糖の測定結果をもって裏付けられているとは到底認められない。 更には、本願の請求項1に係る発明は、被検者との間に相互作用を生じさせる対象を単に「対象物」と特定するにとどまり、あらゆる種類の任意の物体が「対象物」に含まれうる。しかし、本願の発明の詳細な説明には、砂糖を対象物とすることについて具体的に説明されているものの、その説明をもって相互作用の機構が砂糖以外の全ての対象物についてまで説明されるものとはいえない。 そうすると、実施例以外の場合、つまり砂糖を把持する場合以外の、被検者と対象物との間の相互作用を求める方法にまで、拡張ないし一般化できるとはいえない。 なお、「当該対象物が被検者に与える影響の良否」について、当審においては、本願の発明の詳細な説明の記載を踏まえて、生物的又は精神的など様々な観点からの良否ではなく、測定点と基点との関係により定義されるものと善解して、上記判断を行ったが、もし仮に、そのような定義ではなく、文言上想起される生物的又は精神的など様々な観点からの良否を意味するとすれば、発明の詳細な説明には、良否に関連する記載は、上記説示中で摘記した段落[0021]や段落[0056]の記載や、段落[0059]に「ここで、被検者との相互作用がプラスである対象物にあっては、被検者は取り込むことができる一方、被検者との相互作用がマイナスである対象物にあっては、被検者は低減又は回避することが好ましい。」という記載があるにとどまり、被検者にとって身体的、精神的などの観点からの良否が測定できることを裏付ける記載は存在していない。そのため、この意味において、「前記対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを求める」は、本願の発明の詳細な説明に記載されていない。 請求人は、令和5年6月15日提出の意見書において、「前記理由1で説明したように当業者にあっては自明の事実として、「被検者にある特定物質のサンプルを手に持たせて検査すると、被検者の生体内に同じ物質がある場合、指の筋力が弱くなりOリングは開く。これは物質同士が共鳴したために起こる現象と解釈されて」いることから、被検者がサンプルとして例えば「砂糖」を把持した場合、被検者と砂糖との間に共鳴が発生することは、当業者にあって自明です。」と主張し、さらに、共鳴が発生することを前提として、縷々主張している。 請求人の上記主張について検討する。 特開平7-163552号公報の段落[0005]には、「被検者にある特定物質のサンプルを手に持たせて検査すると、被検者の生体内に同じ物質がある場合、指の筋力が弱くなりOリングは開く。これは物質同士が共鳴したために起こる現象と解釈されており、共鳴テストと呼ばれる。」との記載は存在するものの、この記載が科学的に裏付けられた事実であるとは認められず、請求人が挙げている上記文献、特開平8-601号公報、特開平9-94249号公報、特許第3643365号公報、特許第3742198号公報、米国特許公報第5188107号明細書、及び、「マイクロプラスチックの人の体内への摂取と弊害は少ない?~オランダの研究者らが現在のプラスチック汚染水準からの計算結果に基づき推定」のいずれの文献にも、請求人が主張するような把持したサンプルと被検者との間に共鳴が生じることを裏付ける実験データなどは開示されていない。そうすると、請求人のいう「自明の事実」そのものの主張を採用することができず、本願の請求項1に係る発明の「前記対象物を被検者の近傍に配置させた状態」で被検者と対象物との間に共鳴が生じることは当業者において自明でない。 そして、共鳴を前提とするその他の主張についても、前段落で説示したように、その前提から採用できるものではないので、当然採用できない。 よって、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 3 理由3:特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について 本願の請求項1の「前記測定点と基点との相対位置及び両者間の距離に基づいて、前記対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを求める」という事項は、「前記対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさ」について、請求項1に「被検者と対象物との相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを測定する」と記載されており、「測定点」は、「前記オーリングが開裂するか否かによって」「定められる」ものであるから、「オーリングが開裂するか否かによる」「定められる」「測定点」が「被検者と対象物との相互作用に基づい」たものでなければならない。 本願の発明の詳細な説明には、本願の請求項1で特定される「基点」と「測定点」を定めることについては、段落[0035]~[0046]、段落[0048]~[0055]、段落[0061]~[0066]において具体的に説明されているが、「前記測定点と基点との相対位置及び両者間の距離」が「被検者と対象物との相互作用に基づ」く「前記対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさ」を示すことの因果関係が裏付けられていない(上記「1 理由1」及び「2 理由2」の説示も参照されたい。)。本願の発明の詳細な説明には、被検者が砂糖を把持した際のオーリングが開裂するか否かによる測定結果について開示されているものの、開示された、オーリングの開裂により定められた測定点と把持した砂糖の量が示す測定結果が、砂糖と被検者との間のどのような相互作用を反映しているのかについては示されていない。更にいえば、砂糖を用いた実験結果が、他の任意の対象物についても、同様の測定結果が得られることを裏付ける技術的根拠も存在しない。 してみれば、本願の発明の詳細な説明は、実施例に記載された測定結果と被検者と対象物との間の相互作用の因果関係について明確かつ十分に説明されていないので、当業者が、「測定機器を用いることなく、対象物と被検者との相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを簡便でより高精度に測定することができる方法を提供する」という課題を解決するために、本願の請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。 請求人は、令和5年6月15日提出の意見書において、発明の詳細な説明の段落[0021]、段落[0056]の記載を挙げ、「前述したように、当業者にあっては、被検者がサンプルを把持したときに、被検者の生体内に同じ物質がある場合、物質同士の共鳴によって、指の筋力が弱くなりOリングは開く、という技術常識を有していることから、前者の場合、即ち、「オーリングの開裂には、基点Sにおける力のモーメントより小さな力のモーメントしか要しない」場合は、被検者にとって対象物はマイナスに作用した、と理解することができるのです。 一方、当業者は、後者の場合、即ち、「オーリングの開裂には、基点Sにおける力のモーメントより大きな力のモーメントを要する」場合にあっては、上述したマイナスの場合とは逆であることから、被検者にとって対象物はプラスに作用した、と理解することができるのです。 そして、かかる力のモーメントの大きさは、基点Sと測定点Tとの間の距離に比例していることは、後述するように物理学的にも明らかであるものと思料します。 よって、「測定点と基点との相対位置及び両者間の距離」を求めることと、「対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを」を求めることとの間に、因果関係が存在することは明らかです。 以上より、本願明細書にあっては、当業者が、本願明細書記載の課題を解決するために、請求項1~5に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものと思料します。」と主張している。 しかし、上記説示のとおり、オーリングが開裂するか否かによって定められる「前記測定点と基点との相対位置及び両者間の距離」が「被検者と対象物との相互作用に基づ」く「前記対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさ」を示すことの因果関係が裏付けられていない。また、「2 理由2」で請求人の主張について検討したように、被検者とサンプルの間に生じるとされる共鳴についても、そもそも被検者に影響を及ぼすような共鳴が生じることの裏付けがなく、「被検者がサンプルを把持したときに、被検者の生体内に同じ物質がある場合に、物質同士の共鳴により、指の力が弱くな」ることも、本願出願時点において、科学的に裏付けられたものではないから、このことを前提の技術常識とする請求人の上記主張は採用することができない。 よって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。 4 理由4:特許法第29条第1項柱書(発明該当性)について 上記「2 理由2」で説示したように、本願の請求項1に係る発明における「被検者と対象物との間の相互作用」が、一般的に相互作用として想定される、重さ、電磁気力などの物理的もの、化学的なもの、生物的なもの、味覚、視覚、嗅覚などの感覚的なものなど様々な作用であるとすることは、本願の発明の詳細な説明による裏付けがない。そのため、本願の請求項1に係る発明における「当該対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさ」が、本願の発明の詳細な説明の段落[0056]の「被検者は、測定点Tが他の指fの基点Sより先端側である場合、オーリングの開裂には、基点Sにおける力のモーメントより小さな力のモーメントしか要しなかったため、被検者と当該対象物との相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響はプラスであると判断する。一方、被検者は、測定点Tが他の指fに定めた基点Sより基部側である場合、オーリングの開裂には、基点Sにおける力のモーメントより大きな力のモーメントを要したため、被検者と当該対象物との相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響はマイナスであると判断する。また、被検者は、測定点Tと基点Sとの間の距離から、当該相互作用に基づいて当該対象物が被検者に与える影響の大きさを判断する。」という記載で特定されるものであるとしても、測定点Tと基点Sとの間の距離を、「被検者と対象物との相互作用に基づ」く「当該対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさ」とすることは、当該距離と、被検者と対象物の相互関係との間の因果関係に客観的、且つ、十分な裏付けのあるものではなく(上記「2 理由2」を参照のこと。)、人為的な取り決めといわざるを得ない。 してみると、本願の請求項1に係る発明は、その測定工程の一部において自然法則を利用するものであるとしても、発明が解決しようとする課題との関係において、もっとも重要な特定事項である「前記測定点と基点との相対位置及び両者間の距離に基づいて、前記対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを求める」ものが、「被検者と対象物との相互作用に基づ」く「当該対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさ」とすることが人為的な取り決めであるから、本願の請求項1に係る発明は、全体として自然法則を利用していないものである。 請求人は、令和5年6月15日提出の意見書において、特開平7-163552号公報及び特開平8-601号公報を挙げて、「このように、測定点と基点との間の距離を測定することによって、Oリングに印加された力の大きさを求めることは、自然法則を利用した技術的思想の創作に該当することは明らかです。また、前述したOリングテストの基本原理から、Oリングの開裂の有無によって、対象物が被検者に与える影響の良否及び大きさを求めることができることも、自然法則を利用した技術的思想の創作に該当することは明らかです。」と主張している。 上記主張について検討する。 測定点と基点との間の距離を測定することによって、Oリングに印加された力の大きさを求めることについては自然法則を利用しているといえる。しかし、上記「2 理由2」における請求人の主張についての検討でも説示したように、請求人のいう「Oリングテストの基本原理」は、科学技術的に裏付けのあるとは認められず、自然法則を利用した技術的思想とはいえない。また、請求人は、上記2つの文献の他にも特開平9-94249号公報、特許第3643365号公報、特許第3742198号公報及び米国特許第5188107号明細書を挙げてOリングテストの基本原理が記載されている旨を主張しているが、これらの文献においても、「Oリングテストの基本原理」が、科学技術的に裏付けられているとは認められない。 したがって、本願の請求項1に係る発明は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるとはいえず、特許法第2条第1項に規定する「発明」に該当するものとはいえないから、特許法第29条柱書でいう発明に該当しない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしておらず、本願の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、本願は特許を受けることができない。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-014964

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