特許拒絶査定不服審判
2024-001464
電気及び電気化学エネルギーユニットの異常検出
- 審判番号
- 2024-001464
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-037546
- 請求日
- 2024年01月26日
- 審決日
- 2025年07月17日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】カリフォルニア インスティチュート オブ テクノロジー
- 【請求人代理人】杉村 憲司
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 南川 泰裕
- 審判官 濱野 隆
- 分類
- P18 .57 -Z (G01R) / P18 .55 -Z (G01R) / P18 .537-Z (G01R) / P18 .121-Z (G01R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第36条、特許法第17条の2第3項、特許法第44条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021- 37546「電気及び電気化学エネルギーユニットの異常検出」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 7月15日出願公開、特開2021-103176〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 出願分割の経緯の概略
本願は、令和3年3月9日に特許法44条1項の規定に基づきされた外国語書面出願であって(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成25年3月14日(2件)、いずれも米国)、2014年(平成26年)3月14日を国際出願日とする外国語特許出願である特願2016-502483号を最先の出願とする、いわゆる第2世代の分割出願であるところ、出願の分割の経緯は、次のとおりである。なお、括弧内は当該出願の提出日を示す。
最先の出願 :特願2016-502483号(平成26年3月14日)
第1世代分割:特願2019-044903号(平成31年3月12日)
本願 :特願2021-037546号(令和 3年 3月9日)
2 本願の手続の経緯の概略
令和3年 3月18日 :翻訳文の提出
令和3年 4月 7日 :手続補正書の提出
同月12日 :手続補正書、上申書の提出
同年 7月 8日 :手続補正書、上申書の提出
令和4年 5月20日付け:拒絶理由通知書
同年 9月 2日 :意見書、手続補正書の提出
同年11月30日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和5年 6月 1日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月22日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月26日 :原査定の謄本の送達)
令和6年 1月26日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 5月22日付け:前置報告書
同年10月22日 :上申書の提出
第2 令和6年1月26日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年1月26日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和6年1月26日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正をするものである。
本件補正前後の請求項1と請求項13の記載及び補正の内容をそれぞれ次の(1)及び(2)に示す。下線は、対応する補正前後の記載箇所を示す。
(1) 本件補正前後の請求項1と請求項1の補正内容
ア 本件補正前後の請求項1
(ア) 本件補正前の請求項1
「【請求項1】
エネルギーユニット内の異常を検出する方法であって、
前記エネルギーユニットへ信号を印加することであって、前記エネルギーユニットは電気エネルギー貯蔵システムと電気化学エネルギー貯蔵システムと電気エネルギー利用システムと電気化学エネルギー利用システムとの少なくとも1つを含み、前記信号は電気的、磁気的、又は電磁気的な信号である、ことと、
前記エネルギーユニット内の複数の異なる位置のそれぞれにおける複数の磁気センシティブ検出ユニットを用いて、前記印加された信号に対する前記エネルギーユニットの応答につき複数の測定を実行することと、
前記複数の測定を処理して前記異常を識別することと、
を含む方法。」
(イ) 本件補正後の請求項1
「【請求項1】
エネルギーユニット内の異常を検出する方法であって、
前記エネルギーユニットへ信号を印加することであって、前記エネルギーユニットは電気エネルギー貯蔵システムと電気化学エネルギー貯蔵システムと電気エネルギー利用システムと電気化学エネルギー利用システムとの少なくとも1つを含み、前記信号は電気的、磁気的、又は電磁気的な信号である、ことと、
複数の異なる位置のそれぞれにおける複数の磁気センシティブ検出ユニットを用いて、前記印加された信号に対する前記エネルギーユニットの応答につき、前記エネルギーユニットに対して複数の磁気的な測定を実行することと、
前記複数の磁気的な測定を処理して前記異常を識別することと、
を含む方法。」
イ 本件補正による請求項1の補正内容
本件補正のうち請求項1についてする補正は、次の(ア)に示す本件補正前の記載を、後記(イ)に示す本件補正後の記載に補正するものである(以下、当該補正事項を「補正事項A」という。
補正事項A
(ア) 補正前の記載
「前記エネルギーユニット内の複数の異なる位置のそれぞれにおける複数の磁気センシティブ検出ユニットを用いて、前記印加された信号に対する前記エネルギーユニットの応答につき複数の測定を実行すること」
(イ) 補正後の記載
「複数の異なる位置のそれぞれにおける複数の磁気センシティブ検出ユニットを用いて、前記印加された信号に対する前記エネルギーユニットの応答につき、前記エネルギーユニットに対して複数の磁気的な測定を実行すること」
(2) 本件補正前後の請求項13と請求項13の補正内容
ア 本件補正前後の請求項13
(ア) 本件補正前の請求項13
「【請求項13】
エネルギーユニット内で異常を検出する方法であって、
前記エネルギーユニットに電磁信号を照射することであって、前記エネルギーユニットは前記エネルギーユニットに近接配置された少なくとも1つの磁気センシティブ検出ユニットを含み、前記照射することは、前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間で短絡を生じさせることを含む、ことと、
前記少なくとも1つの磁気センシティブ検出ユニットを用いて、前記電磁信号によって前記エネルギーユニット内で誘起された信号を測定して、前記異常を検出することと、
を含み、
前記短絡は、前記アノードと前記カソードとの間の放電である、方法。」
(イ) 本件補正後の請求項13
「【請求項13】
エネルギーユニット内の異常を検出する方法であって、
前記エネルギーユニットに少なくとも1つの電磁信号を照射することであって、前記エネルギーユニットは前記エネルギーユニットに近接配置された少なくとも1つの磁気センシティブ検出ユニットを含み、前記照射することは、前記電磁信号に応答して、前記エネルギーユニット内の磁気センシティブセンサ信号の発生を誘起させることを含む、ことと、
前記少なくとも1つの磁気センシティブ検出ユニットを用いて、前記電磁信号によって前記エネルギーユニット内で誘起された前記センサ信号を測定することであって、前記磁気センシティブセンサ信号は前記異常を示す信号特徴を含む、ことと、それにより前記異常を検出することと、
を含み、
前記異常は、前記エネルギーユニット内の短絡回路、又は、前記エネルギーユニットの健康状態の変化を含む、方法。」
イ 本件補正による請求項13の補正内容
本件補正のうち請求項13についてする補正は、次の(ア)から(オ)に示す補正事項1から補正事項5までにより構成される。
(ア) 補正事項1(異常の検出する方法について)
次のaに示す補正前の記載をbに示す補正後の記載に補正すること。
a 補正前の記載
「エネルギーユニット内で異常を検出する方法であって」
b 補正後の記載
「エネルギーユニット内の異常を検出する方法であって」
(イ) 補正事項2(電磁信号について)
次のaに示す補正前の記載をbに示す補正後の記載に補正すること。
a 補正前の記載
「前記エネルギーユニットに電磁信号を照射することであって」
b 補正後の記載
「前記エネルギーユニットに少なくとも1つの電磁信号を照射することであって」
(ウ) 補正事項3(照射することが含む内容について)
次のaに示す補正前の記載をbに示す補正後の記載に補正すること。
a 補正前の記載
「前記照射することは、前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間で短絡を生じさせることを含む」
b 補正後の記載
「前記照射することは、前記電磁信号に応答して、前記エネルギーユニット内の磁気センシティブセンサ信号の発生を誘起させることを含む」
(エ) 補正事項4(異常の検出方法について)
次のaに示す補正前の記載をbに示す補正後の記載に補正すること。
a 補正前の記載
「前記電磁信号によって前記エネルギーユニット内で誘起された信号を測定して、前記異常を検出すること」
b 補正後の記載
「前記電磁信号によって前記エネルギーユニット内で誘起された前記センサ信号を測定することであって、前記磁気センシティブセンサ信号は前記異常を示す信号特徴を含む、ことと、それにより前記異常を検出すること」
(オ) 補正事項5(異常の検出方法について)
次のaに示す補正前の記載をbに示す補正後の記載に補正すること。
a 補正前の記載
「前記短絡は、前記アノードと前記カソードとの間の放電である」
b 補正後の記載
「前記異常は、前記エネルギーユニット内の短絡回路、又は、前記エネルギーユニットの健康状態の変化を含む」
2 本件補正の適否
(1) 請求項13の補正について
ア 請求項13の補正事項
まず補正事項の多い請求項13の補正の適否から検討する。
イ 補正の目的と補正の根拠
請求人は、令和6年1月26日付けで提出された審判請求書において、「
新請求項13(旧請求項13)における上記の補正は、限定的減縮、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とします。」と主張している。
ウ 当審の判断
事案に鑑みて、補正事項3、5について検討する。
(ア) 特許請求の範囲の限定的減縮に該当しないことについて
補正事項3、5により、本件補正後の請求項13においては、補正前の「前記照射することは、前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間で短絡を生じさせることを含む」ことが削除され、「前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間で短絡を生じさせないもの」も包摂することとなった。したがって、補正事項3、5は限定的減縮を目的とするものに該当しない。
(イ) 誤記の訂正に該当しないことについて
「誤記の訂正」とは、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな字句・語句の誤りを、その意味内容の字句・語句に正すことをいい、補正前の記載が当然に補正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいう。
しかしながら、補正事項3、5は「前記照射することは、前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間で短絡を生じさせることを含む」及び「前記短絡は、前記アノードと前記カソードとの間の放電である」という特徴的な技術事項を削除して、削除された技術事項とは明らかに異なる「前記電磁信号に応答して、前記エネルギーユニット内の磁気センシティブセンサ信号の発生を誘起させる」という技術事項を新たに導入するものであるから、「本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな字句・語句の誤りを、その意味内容の字句・語句に正すこと」に該当するとはいえない。
したがって、補正事項3、5は誤記の訂正に該当しない。
(ウ) 明瞭でない記載の釈明に該当しないことについて
「明瞭でない記載の釈明」とは、補正前の明細書、特許請求の範囲又は図面中のそれ自体意味の不明瞭な記載、又は、補正前の明細書、特許請求の範囲又は図面中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載等、明細書、特許請求の範囲又は図面に生じている記載上の不備を正し、その本来の意を明らかにすることをいう。
ここで、請求項13については、令和4年11月30日付けの拒絶理由通知において、「どのような電磁信号で、どの程度の電磁信号を、どのような場所から、どのようにして照射するのか記載されておらず、また、どのような原理にてエネルギーユニットのアノードとカソードとの間で短絡を生じさせているのか、具体的な内容、具体的な原理が記載されておらず、該ステップ不明である。」及び「該「放電」に関しては具体的に記載されておらず、アノードとカソードとの間で生じるどのような現象のことを該「放電」というのか不明であって、上記「短絡」と「放電」との関係が不明である。」という、明確性要件違反の拒絶の理由が通知されている。そうすると、請求項13は全体として、記載上の不備があるとはいえる。
しかしながら、前記(イ)のとおり、補正事項3、5は「前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間で短絡を生じさせることを含む」及び「前記短絡は、前記アノードと前記カソードとの間の放電である」という特徴的な技術事項を削除して、削除された技術事項とは明らかに異なる「前記電磁信号に応答して、前記エネルギーユニット内の磁気センシティブセンサ信号の発生を誘起させる」という技術事項を新たに導入するものであるから、「明細書、特許請求の範囲又は図面に生じている記載上の不備を正し、その本来の意を明らかにすること」に該当するとはいえない。
したがって、補正事項3、5は「明瞭でない記載の釈明」に該当しない。
(エ) 請求項の削除に該当しないことについて
補正事項3、5が請求項の削除に該当しないことは明らかである。
(オ) 請求項13の補正についての判断まとめ
以上検討のとおり、本件補正のうち請求項13についてする補正は、特許法17条の2第5項各号のいずれを目的とするものにも該当しない補正事項3、5を含むものである。
よって、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
(2) 請求項1の補正について
前記(1)で検討したとおり、本件補正は却下されるべきものであるが、それは措くとして、請求項1についての補正の適否も同様に検討する。
ア 補正事項Aの内容
補正事項Aは、「複数の磁気センシティブ検出ユニット」の位置である「複数の異なる位置」について、「前記エネルギーユニット内」との限定を省くものである。
イ 補正の目的と補正の根拠
請求人は、令和6年1月26日付けで提出された審判請求書において、「本願の発明において、磁気センシティブ検出ユニットは、エネルギーユニットの一部というわけではなく、必ずしもエネルギーユニットの内部に配置されるとは限りません。新請求項1では、上記の補正により、このことが明確になったものと思料致します。
したがって、新請求項1(旧請求項1)における上記の補正は、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とします。」
と主張している。
また、同審判請求書には補正の根拠として「新請求項1(旧請求項1)の補正は、本願の[0160]-[0168]等及び図30-34に基づきます。」と記載されている。
ウ 当審の判断
(ア) 誤記の訂正に該当しないことについて
前記2(1)ウ(イ)の繰り返しになるが、「誤記の訂正」とは、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな字句・語句の誤りを、その意味内容の字句・語句に正すことをいい、補正前の記載が当然に補正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいう。
したがって、補正の対象となる誤記は、「本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな字句・語句の誤り」に限られ、補正前の記載が当然に補正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものに限られる。
ここで、請求項1に「明らかな字句・語句の誤り」があったかの検討のため、本願の明細書及び図面を参酌すると、例えば段落【0108】及び【図13】には次のように記載されている(下線は当審で追記)。
「【0108】
図13は、個々の電気/電気化学エネルギー装置の周囲に巻かれたピックアップコイルを用いて電磁放射の検出に基づき異常を検出するように構成された、一つの模範的な電気/電気化学エネルギーユニット1300を示す。従って、電気/電気化学エネルギーユニット1300は、異常180(図1)の検出用に構成されている。従って、電気/電気化学エネルギーユニット1300は、エネルギーユニット1200(図12)と、それぞれのエネルギー装置210(図2及び図12)に配置された少なくとも一つの放射検出ユニット1310とを含む。放射検出ユニット1310はエネルギー装置210の周囲に巻かれたピックアップコイルであり、従って磁気センシティブである。エネルギー装置210内での電磁放射の発生はエネルギー装置210内の磁界の、時間の関数としての、変化と関連し、この変化は放射検出ユニット1310に電流を誘起する。放射検出ユニット1310はエネルギー装置210の上に直接装着しても、エネルギー装置210内に、例えばエネルギー装置210のパッケージの一部分として含めても、又はエネルギー装置210から少し離して装着してもよい。」
「【図13】
[図:0001430522000001.jpg]
」
このように、明細書及び図面の記載からは、エネルギーユニット1200内に複数の磁気センシティブ検出ユニット1310が複数の異なる位置に配置されており、それぞれの配置位置にある磁気センシティブ検出ユニット1310を用いて、印加された信号に対するエネルギーユニット1200の応答を測定していることが読み取れるから、補正前の「前記エネルギーユニット内の複数の異なる位置のそれぞれにおける複数の磁気センシティブ検出ユニットを用いて、前記印加された信号に対する前記エネルギーユニットの応答につき複数の測定を実行すること」が実際に記載されていると認められる。明細書及び図面のほかの記載等を参照しても、補正前の請求項1に「明らかな字句・語句の誤り」があったと認めることはできないから、補正事項Aは誤記の訂正には該当しない。
(イ) 明瞭でない記載の釈明に該当しないことについて
請求項1には、拒絶理由通知で不明瞭な記載の指摘がされていない。このため、補正事項Aは、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明瞭でない記載の釈明には該当しない。
(ウ) その他の補正の目的要件にも該当しないことについて
補正事項Aにより「複数の異なる位置のそれぞれにおける複数の磁気センシティブ検出ユニット」が前記エネルギーユニット外にあるものも新たに含まれることになるから、上記補正は、特許請求の範囲の限定的減縮には該当しない。
また、上記補正事項Aが、請求項の削除に該当しないことも明らかである。
(エ) 請求項1の補正について判断のまとめ
以上検討のとおり、本件補正のうち請求項1についての補正は、特許法17条の2第5項各号のいずれを目的とするものにも該当しない補正事項Aを含むものである。
よって、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
3 本件補正の却下の決定の理由のむすび
前記2(1)、(2)で検討のとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明についての当審の判断
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項13に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項13(前記第2の1(2)ア(ア)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明に対する拒絶の理由のうち、理由1(新規事項の追加)、理由4(サポート要件違反)及び理由5(明確性要件違反)の拒絶の理由の要旨は、次のとおりである。
1.(新規事項)令和4年9月2日付け手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
4.(サポート要件違反)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
5.(明確性要件違反)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
記
●理由1(新規事項)について
・請求項13-26、32
令和4年9月2日付けでした手続補正は、補正前の請求項13の「前記さらすことは、前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間で短絡を生じさせること」及び「前記短絡を生じさせることは、前記アノードと前記カソードとの間で意図的な放電を生じさせることを含む」なる記載を、「前記照射することは、前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間で短絡を生じさせること」及び「前記短絡は、前記アノードと前記カソードとの間の放電である」なる記載に補正しているが、当初の明細書等の記載から自明な事項であるとも認められない。
●理由4(サポート要件違反)について
請求項13に記載される「前記照射することは、前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間で短絡を生じさせること」及び「前記短絡は、前記アノードと前記カソードとの間の放電である」なる技術事項については、明細書中に記載も示唆もされていない。
●理由5(明確性違反)について
請求項13に「前記照射することは、前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間で短絡を生じさせること」と記載されているものの、エネルギーユニットに電磁信号を照射することが記載されるのみであり、どのような電磁信号で、どの程度の電磁信号を、どのような場所から、どのようにして照射するのか記載されておらず、また、どのような原理にてエネルギーユニットのアノードとカソードとの間で短絡を生じさせているのか、具体的な内容、具体的な原理が記載されておらず、不明である。
また、請求項13に「前記短絡は、前記アノードと前記カソードとの間の放電である」と記載されているものの、該「放電」に関しては具体的に記載されておらず、アノードとカソードとの間で生じるどのような現象のことを該「放電」というのか不明であって、上記「短絡」と「放電」との関係が不明である。また、「短絡」という用語が持つ一般的な意味、および、「放電」という用語がもつ一般的な意味と、上記請求項13に記載される「短絡」および「放電」との関係も不明である。
3 新規事項の追加に係る当審の判断
(1) 当審の判断の概要
ア 本願発明は、令和4年9月2日付け手続補正書により補正された請求項13に係る発明であるところ、当該補正により次に示す構成A及び構成Bを含むものとなった。
<構成A>
「前記照射することは、前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間で短絡を生じさせることを含む」こと
<構成B>
「前記短絡は、前記アノードと前記カソードとの間の放電である」こと
イ しかしながら、上記構成A及び構成Bを含むようにした補正は、以下に詳細に検討するとおり、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、このような補正は特許法17条の2第3項の規定に違反するものである。
(2) 本願発明に関する当初明細書等の記載
ア 請求人は、令和4年9月2日に提出された意見書において、[0046]の「前記エネルギーユニット、エネルギーシステム又はエネルギー装置に電磁信号を照射するステップ」との記載、[0004]、[0050]、[0160-164]の「例1:電池セルからの電磁放射」についての記載、図31-34が請求項13の補正の根拠であると主張している。
イ そこで、当初明細書等の段落【0004】、【0046】、【0050】、【0160】-【0164】、【図31】-【図34】を参照すると、次のように記載されている(下線は当審による。)。
「【0004】
本発明は、電気化学セル、キャパシタ、太陽電池パネルなどのエネルギー装置の連続動作が危険な状態、有害な状態又は不安定な状態を発生しないようにこれらのエネルギー装置を適切な安定状態又は健康状態に維持するために、このようなエネルギー装置及びこのようなエネルギー装置を備えるアレイ、ユニット及びシステムの異常を検出する方法及びシステムを提供する。このような異常が検出された場合、安全手段が、エネルギー装置に異常をオフラインで提示させることができ、そうでなければ、例えばエネルギー装置を冷却材にさらしてエネルギー装置を安全又は不活性状態にすることができる。本発明の方法及びシステムは、任意選択として、例えば電気的短絡回路又は突然の電流の開放などの異常の発生時にエネルギー装置により発生される電気、磁気又は電磁気信号などの信号をピックアップコイルなどのセンサで検出する技術を使用する。本発明の方法及びシステムは、任意選択として、電気、磁気又は電磁気信号など信号をエネルギー装置に直接的に又は間接的に印加し、この信号に応答して変化するエネルギーユニットの電気的状態、例えば電圧、電流、キャパシタンス、インダクタンス、抵抗又はインピーダンスの変化、を検出してエネルギー装置内の異常の検出を可能にする技術を使用する。」
「【0046】
本発明は、更に、エネルギーユニット又はエネルギー装置内の異常を検出する追加の方法を提供する。この態様の特定の方法は、前記エネルギーユニット、エネルギーシステム又はエネルギー装置に電磁信号を照射するステップと、前記エネルギーユニット、エネルギーシステム又はエネルギー装置内で前記電磁信号により誘起される電気信号を測定して、異常を検出するステップとを備える。任意選択として、前記異常は、前記エネルギーユニット、エネルギーシステム又はエネルギー装置内の短絡回路、前記エネルギーユニット、エネルギーシステム又はエネルギー装置の健康状態、又は前記エネルギーユニット、エネルギーシステム又はエネルギー装置の健康状態の変化である。」
「【0050】
模範的な実施形態では、前記エネルギーユニット、エネルギーシステム又はエネルギー装置は電気化学セルを備える。特定の実施形態では、前記異常は、電気化学セルの2以上のコンポーネント間の短絡回路を含む。任意選択として、前記異常は、電気化学セルのアノード電流とカソード電流との間の短絡回路を含む。任意選択として、前記異常は、電気化学セルのアノード活性材料とカソード電流コレクタとの間の短絡回路を含む。任意選択として、前記異常は、電気化学セルのアノード電流コレクタとカソード活性材料との間の短絡回路を含む。任意選択として、前記異常は、電気化学セルのアノード活性材料とカソード活性材料との間の短絡回路を含む。」
「【0160】
例1:電池セルからの電磁放射
実験1:ニッケル亜鉛(NiZn)電池を1つのインダクタに隣接して配置し、インダクタの端子をオッシロスコープに接続した(図30の左側パネル)。電池セル内に陽極と陰極との間で短絡を生じさせ、インダクタで検出された信号をオッシロスコープで視覚化した(図30の右側パネル)。一連のピークが10ミリ秒以下の持続時間に亘って検出された。
【0161】
実験2:ニッケル亜鉛(NiZn)電池を直列に接続された2つのインダクタに隣接して配置し、直列接続のインダクタの端子をオッシロスコープに接続した(図31の左側パネル)。電池セル内に陽極と陰極との間で短絡を生じさせ、インダクタで検出された信号をオッシロスコープで視覚化した(図30の右側パネル)。一連のピークが5ミリ秒以下の持続時間に亘って検出された。」
「【図31】
[図:0001430522000002.jpg]
」
「【0162】
実験3:ニッケル亜鉛(NiZn)電池をトロイダルコイルの中心内部に配置し、トロイダルコイルの端子をオッシロスコープに接続した(図32の左側パネル)。電池セル内に陽極と陰極との間で短絡を生じさせ、トロイダルコイルで検出された信号をオッシロスコープで視覚化した(図32の右側パネル)。信号が25マイクロ秒以下の持続時間に亘って検出された。
」
「【図32】
[図:0001430522000003.jpg]
」
「【0163】
実験4:コインセル電池をトロイダルコイルの中心内部に配置し、トロイダルコイルの端子をオッシロスコープに接続した(図33の左側パネル)。電池セル内に陽極と陰極との間で短絡を生じさせ、トロイダルコイルで検出された信号をオッシロスコープで視覚化した(図33の右側パネル)。信号が0.5ミリ秒以下の持続時間に亘って検出された。」
「【図33】
[図:0001430522000004.jpg]
」
「【0164】
実験5:コインセル電池を1つのインダクタに隣接して配置し、インダクタの端子をオッシロスコープに接続した(図34の左側パネル)。コインセルを穿刺してコインセル内に内部短絡を生じさせ、インダクタで検出された信号をオッシロスコープで視覚化した(図34の右側パネル)。信号が0,5ミリ秒以下の持続時間に亘って検出された。」
「【図34】
[図:0001430522000005.jpg]
」
(3) 新規事項の検討
ア 構成Aについて
(ア) 当初明細書等の段落【0004】、【0046】には、電気、磁気又は電磁気信号など信号をエネルギー装置に直接的に又は間接的に印加し、この信号に応答して変化するエネルギーユニットの電気的状態の変化を検出してエネルギー装置内の異常を検出することが記載されているから、当初明細書等には、電磁気信号をエネルギー装置に印加することにより、エネルギー装置内の異常を検出することが開示されているといえる。
(イ) また、明細書の段落【0160】-【0164】の「例1:電池セルからの電磁放射」についての記載においては、電池セル内に陽極と陰極との間で短絡を生じさせて信号を検出すること(短絡信号を検出すること)は記載されている。
(ウ) しかしながら、前記構成Aは、エネルギーユニット内において異常を検出するための信号を誘起する手法が、(例えば高電圧を掛けるような)電磁気信号をエネルギー装置に印加する手法ではなく、電磁信号を照射してエネルギーユニットのアノードとカソードの間に短絡を生じさせる手法であることを特定したものである。
(エ) ここで、金属に仕事関数を超えるエネルギーの電磁波を照射すると光電子が飛び出てくることは光電効果として周知のものであるものの、一般に、導通(短絡)していない二つの電極に電磁波を照射しても、当該二つの電極が導通(短絡)するような大電流の光電子が飛び出ることは通常は考えられないから、構成Aが特定するように、エネルギーユニットに電磁信号を照射して、前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間に短絡を生じさせることは、当初明細書等の記載からは当業者は認識することができないというべきである。
(オ) また、構成Aが当初明細書等に記載されているといえるためには、より具体的で詳細な前提条件(例えば、電磁信号の属性、アノードやカソードの電気的・光学的特性、配置等に関して)が記載されてなければならない。しかしながら、かかる前提条件については、前記(2)の摘記事項以外の記載も含めて当初明細書等に何ら開示されていないから、当初明細書等に構成Aが開示されているとは認められない。
(カ) 以上のとおりであるから、構成Aを含める補正は、当初明細書等に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
イ 構成Bについて
(ア) 構成Bは、「前記短絡は、前記アノードと前記カソードとの間の放電である」として、「短絡」と「放電」を同一視している、あるいは、「短絡」を放電現象の一つとして認識している。
(イ) しかしながら、一般に、「短絡」とは、電気回路において、電流が意図しない抵抗の低い経路を通って流れる現象であり、「放電」とは、電気を帯びた物体から電荷が失われる現象や、電気エネルギーが空間を移動する現象を指すから、両者は異なる現象であり、「短絡」と「放電」を同一視することは適当ではなく、「短絡」を放電現象の一つとして認識することも適当ではない。
(ウ) この点に関して、当初明細書等の段落【0004】には「例えば電気的短絡回路又は突然の電流の開放などの異常」と記載されており、「短絡」と「突然の電流の開放」(放電)を「又は」という語句で併記していることを踏まえると、「短絡」と「放電」は別々の異常として認識すべきものと考えるのが自然である。
(エ) そうすると、「前記短絡は、前記アノードと前記カソードとの間の放電である」と補正することは、当初明細書等に記載されているとはいえない。
(オ) 以上のとおりであるから、構成Bを含める補正は、当初明細書等に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
ウ 新規事項の検討のまとめ
したがって、本願発明において、構成A及び構成Bを含むようにした補正は、いわゆる新規事項を追加するものであるから、特許法17条の2第3項の規定に違反するものである。
4 サポート要件違反に係る当審の判断
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かについては、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高判平成17年11月11日(平成17年(行ケ)10042号)「偏光フィルムの製造法」大合議判決参照)。
(2) サポート要件の検討
上記(1)のサポート要件の判断基準に基づいて検討すると、前記3において検討したとおり、構成Aが特定するように、エネルギーユニットに電磁信号を照射して、前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間に短絡を生じさせることは、明細書の発明の詳細な説明の記載からは、当業者が認識できない技術事項である。
また、構成Aが明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえるためには、前提条件(電磁信号の属性、アノードやカソードの電気的・光学的特性、配置等に関して)が記載されてなければならないところ、かかる前提条件については、明細書の発明の詳細な説明には何ら開示されていないから、明細書の発明の詳細な説明に構成Aが開示されているとは認められない。
そうすると、構成Aを含む本願発明は、課題を解決できると認識できる明細書に開示された範囲を超えるものである。
したがって、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものでないから、本願発明を特定する特許請求の範囲の請求項13の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
5 明確性要件違反に係る当審の判断について
(1) 明確性要件の判断基準
特許法36条6項2号が、発明の明確性を特許請求の範囲についての記載要件として規定する趣旨は、仮に特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにあるところ、このような趣旨を踏まえると、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否か、という観点から判断されるべきである。
(2) 明確性要件の検討
前記3で検討したことを踏まえると、構成Aが特定するように、エネルギーユニットに電磁信号を照射して、前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間に短絡を生じさせることがどのような技術事項であるかは、技術常識を踏まえても、通常当業者が認識できないものである。
そして、上記事項が当業者にとって技術的に意味のある技術手段であると認識できるためには、前提条件(電磁信号の属性、アノードやカソードの電気・光学的特性、配置等に関する)が記載されてなければならないところ、かかる前提条件については本願の明細書及び図面に何ら開示されていないから、請求項13は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても不明瞭である。
さらに、構成Aについて、「前記照射すること」と「前記エネルギーユニットのアノードとカソードとの間で短絡を生じさせること」との技術的関係が不明であるため、これらの発明特定事項がエネルギーユニット内の異常を検出するためにどのような役割を果たすか、発明特定事項の技術的意味を当業者が理解できず、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識を踏まえても、少なくとも発明特定事項が不足していることが明らかであるともいえる。
そうすると、請求項13の記載は、本願の明細書及び図面の記載を考慮しても、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎としても、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるというべきである。
したがって、請求項13に係る発明は明確ではないから、特許請求の範囲の請求項13の記載は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本願については、令和4年9月2日付け手続補正書でした請求項13に係る補正が、特許法17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、特許請求の範囲の請求項13の記載が、同法36条6項1号及び同項2号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-001464