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特許拒絶査定不服審判

2022-011846

毛髪の成長を刺激するためのアルファ-ケトブチレート、アルファ-ケトグルタレート、および2-ヒドロキシブチレート

審判番号
2022-011846
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-517216外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年08月01日
審決日
2023年09月13日
公報発行日
2024年03月29日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
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特願2019-517216「毛髪の成長を刺激するためのアルファ-ケトブチレート、アルファ-ケトグルタレート、および2-ヒドロキシブチレート」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月 5日国際公開、WO2018/064468、令和 1年10月17日国内公表、特表2019-529491〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 14項目
理 由

第1 手続きの経緯

本願は、2017年(平成29年)9月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年9月30日、米国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続きの経緯は、次のとおりである。

令和元年 6月12日 手続補正書の提出

令和3年 7月28日付け 拒絶理由通知書

令和4年 2月 2日 意見書、手続補正書の提出

同年 3月29日付け 拒絶査定

同年 8月 1日 審判請求書の提出

同年 8月 2日 手続補正書の提出(請求の理由の補完)

第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和4年2月2日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】
対象の、抜け毛または色素喪失を処置、阻害もしくは低減するための組成物であって、前記組成物が、1つもしくは複数のアルファ-ケトブチレート化合物および/または1つもしくは複数のグルタレート化合物を含み、
前記組成物が、脂肪酸を含まない局所用組成物であり、治療有効量で対象に投与され、
前記組成物が、薬学的に許容される担体並びに1mMから50mMの濃度の1つもしくは複数のアルファ-ケトブチレート化合物および/または1つもしくは複数のグルタレート化合物を含む、組成物。」

第3 原査定の理由

原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例1に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

第4 引用文献の記載事項及び引用発明

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1 引用例1について

原査定の拒絶理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2016/003854号(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、引用例1は外国語の文献であるため、引用例1の記載について、翻訳文として引用例1の国内公表公報である特表2017-520553号(以下「翻訳文」という。)の記載を摘記し、引用例1の対応箇所を記載し、翻訳文の摘記箇所を併記する。また、下線は強調のために合議体が付した。

(1)「【請求項1】
NADHデヒドロゲナーゼを抑制する化合物の治療に有効な量を対象に投与することを含む、加齢、対象の加齢関連症状及び/または加齢関連疾患を治療する、抑制する、または低減する方法。
【請求項2】
前記化合物がケト酪酸化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物がα-ケト酪酸塩またはαケト酪酸である、請求項2に記載の方法。
・・・
【請求項11】
前記加齢関連症状が脱毛、毛髪が薄くなること、毛髪が白髪になること、可動性の喪失、スタミナの減退、疲労、感染症にかかりやすくなること、代謝変化、または生化学的変化である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。」(引用例1の特許請求の範囲;翻訳文の特許請求の範囲)
(2)「【0013】
いくつかの小分子は、加齢の線虫の長命を促進して、加齢及び加齢関連疾患に対処する化合物を識別するために、モデル生物を使用してスクリーニングされた。本明細書にて開示するように、1つの分子、α-ケト酪酸塩(α-KB)は、α-ケトグルタル酸塩(α-KG)と比較して著しく少ない量で、線虫の平均寿命を予想外に延ばした。
【0014】
α-KBは、アミノ酸異化及びスクシニルCoA合成に含有されるケト酸である。単離されたミトコンドリア結合及び電子流アッセイを用いて、α-KBは、NADHデヒドロゲナーゼ(電子輸送連鎖の複合体I)を抑制することによって、in vivo異なる分子標的を係合する。α-KGとは異なり、α-KBはATPシンターゼまたはTOR(ラパマイシンの標的)を抑制しない。NADHデヒドロゲナーゼの遺伝子変異(例えばノックダウン)及び薬理学的混乱が線虫の寿命を延ばすことも見いだされた。そのうえα-KBは細胞呼吸を抑制して、活性酸素種(ROS)を誘発することが見いだされた。
【0015】
したがって、いくつかの実施形態で本発明は、対象に少なくとも1つのケト酪酸化合物を投与することを含む、対象の加齢関連症状及び/または加齢関連疾患を治療する、抑制する、または低減する方法を目的とする。いくつかの実施形態で本発明は、対象に少なくとも1つのケト酪酸化合物を投与することを含む、対象の寿命を延ばす方法を目的とする。いくつかの実施形態で本発明は、対象の加齢関連症状及び/または加齢関連疾患を治療する、抑制する、または低減するための組成物を目的としており、前記組成物は少なくとも1つのケト酪酸化合物を含む。・・・」(引用例1[0045]-[0047];翻訳文【0013】-【0015】)
(3)「【0017】
本明細書で使用する場合「高齢」の対象とは、未治療の対照群が身体的、精神的及び/または生物学的に劣化しはじめているときの年齢期の対象を指す。いくつかの実施形態で高齢の対象は、実際の年齢が未治療の対照群の平均寿命の少なくとも中央にあるものである。
【0018】
本明細書で使用する場合「老齢」の対象は、実際の年齢が未治療の対照群の平均寿命の少なくとも2/3にあるものである。例えば、実験室マウスの所定の株の平均期待寿命が2年である場合、その株の老齢マウスは少なくとも16か月であり、実験室マウスの別の株の平均気体寿命が3年である場合、その株の老齢マウスは24か月である。ヒトについて、ヒトの平均期待寿命が約80年である場合、老齢のヒトは約53歳である。高齢の対象は老齢の対象であっても、またはそうでなくともよいことに留意するべきである。」(引用例1[0049]-[0050];翻訳文【0017】-【0018】)
(4)「【0031】
対象に投与される1つ以上のケト酪酸化合物は、医薬製剤として提供されてもよい。医薬製剤は、所望の投与方法に適した単位投与剤形で調製されることができる。本発明の医薬製剤は、経口、直腸、鼻、局所(口腔内及び舌下を含む)、膣ならびに非経口(皮下、筋肉内、静脈内及び皮内を含む)を含む、任意の好適な経路で投与されることができる。投与経路は、レシピエントの状態及び年齢、治療される状態の性質、ならびに本発明の所定の化合物(複数可)によって異なり得ることは理解されるであろう。・・・」(引用例1[0063];翻訳文【0031】)
(5)「【0061】
α-KBは老齢マウスの加齢関連症状を逆転させる。
【0062】
雄及び雌両方を含む老齢マウス(22~23か月のC57BL/6J)は水またはα-KB(飲料水中8mMまたは90mg/体重kg)の両方を7か月間与えた。実験期間中、α-KBの副作用は処理動物で観察されなかった。α-KB処理マウスは、非処理対照動物と比較して試験期間中正常挙動及び身体活動を示した。マウスは少なくとも週2回不健康の徴候がないか調べられて、重篤な病気または動けなくなったマウスは終了とされた。α-KB処理した雄群の寿命は延びた。未処理の対照群のすべての雄(5のうちの5)は7か月の試験完了前に死亡または重大な疾患により終了とされた。意外なことにα-KB処置群の大部分の雄(5のうちの4)は健康に生存し、7か月の実験期間の終了時に依然として健康であった。
【0063】
処理群及び未処置群の雌の寿命は差がなかったが、α-KBで処理された雌マウスは、動物がα-KB処理を受けた約2~約3か月始まる毛髪及び毛皮外観の改善を示した(図8のパネルAは処理後7か月のそれらを示す)。処理した雌群の毛髪密度は無処理の対照群より高かった(図8のパネルA)。α-KB処置群の白髪は無処理群と比べて減っていた(図8のパネルB)。処理した雄群ついて、白髪及び毛髪密度への影響は最小限であるように見えた。α-KB処理は肝臓外観も大いに改善した。老齢の未処理動物について、肝臓はその特徴的な赤みがかった色を失って、黄色がかった色合いを帯びる。雄及び雌両方の処理動物の肝臓は、いかなる黄色がかった色合いもない赤みがかった色健康的な外観を示す(図8のパネルC)。総合すればこれらの結果は、α-KBが哺乳類の老化作用を遅らせる、または逆転させる抗老化特性を有することを示唆する。」(引用例1[0095]-[0097];翻訳文【0061】-【0063】)

(6)「【図8】パネルA~Cはα-KBで治療された加齢マウスの加齢関連症状の不存在を示す。パネルAは、α-KBで処理した加齢マウスが無処理対照マウスと比較して毛髪の密度(または脱毛の減少)を改善したことを示す。パネルBは、α-KBで処理したマウスが白内障にかかっておらず、無処理対照マウスと比較して白髪になった毛髪の減少を示す。パネルCは、α-KBで処理したマウスが無処理対照と比較して健康な肝臓(色、サイズ、脂肪含有量)を有することを示す。」(引用例1[0029];翻訳文【0012】)

(7)

「
[図:0001407159000001.jpg]
」(引用例1 図8;翻訳文 図8)

2 引用例2について

原査定で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2015/062629号(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、引用例2は外国語の文献であるため、合議体による翻訳文で記す。また、下線は強調のために合議体が付した。

(1)「毛包の寿命は、毛包の成長段階(成長期)、ここではとりわけ(ケラチノサイトの活性のおかげで)毛髪の発達が観察される段階、それに続く退縮段階(退行期)、ここでは毛包のかなりの部分の細胞のプログラムされた死滅(アポトーシス)が起こる段階、及び第3の静止状態の段階(休止期)であって、その終わりに毛包は新しい毛幹の形成を伴う成長期に戻る段階、の間の連続的かつ周期的な遷移によって特徴づけられることは、従来技術からよく知られている。
毛包のライフサイクルの様々な段階の持続期間は、実質的に身体の位置に依存する。例えば、頭皮領域では、退行期は数週間、そして休止期は数ヶ月続くのに対して、成長期は2から8年間続くが、眉領域では成長期がたった数ヶ月しか継続しない。この時間比は、身体の各領域で、平均して、サイクルの様々な段階に存在する毛包の割合も決定する。サイクルの様々な段階の期間、並びにある段階と別の段階との移行期間は、そのメカニズムは完全には明らかになっていないが、毛包の様々な部分間、及び毛包と周囲の上皮環境間の複雑な生物学的相互作用によって制御されている。しかしながら、直接又は間接的に毛包に作用して各段階の期間を延長又は短縮する多くの内因性及び外因性因子によって影響されることが知られている。
退行期への早期移行又は毛包の障害の原因となる因子を同定し、これらの症状と闘う有効成分を提供するために多くの試みがなされたが、これまでのところほとんど成功していない。毛髪成長を促進し、特に脱毛に対して真に成功する新たな有効成分は、世界的な男性ヘアケア製品の既存の市場を2倍にすると信じられている。」(明細書第1頁15~38行)
(2)「化粧料組成物
モノオルニチンケトグルタレートは、典型的には経口又は好ましくは局所適用のいずれかによって、哺乳動物に投与される。通常、活性物質は、医薬だけでなく、美容目的としても有用な組成物に処方される。前記処方は、ローション、エマルジョン、軟膏のような油体をベースとした製品、又はヘアシャンプー、ヘアトニックのような水性または水-アルコール性ヘアケア組成物を包含する。・・・」(明細書第5頁36~41行)

(3)「9.脱毛を予防又は抑制する、及び/又は毛髪の成長を促進して毛包の障害を治療するため、及び毛包及び毛髪成長の障害を伴う皮膚疾患を治療するための方法であって、前記方法は、哺乳動物にモノオルニチンケトグルタレート(mOKG)の治療有効量を投与することを含む方法。」(特許請求の範囲)

3 引用例4について

原査定で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2016-516811号(以下「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「【0002】
髪の毛は、一定の毛周期(Hair cycle)を持って、毛乳頭周囲にある毛母細胞(keratinocyte)が分裂増殖する期間を成長期といい、毛髪の成長が止まって毛乳頭から分離する時期である退化期を経て毛母細胞が成長せずにいた後、一定期間後抜ける休止期を経る。毛周期は、このような成長期、退化期、休止期、及び成長期の過程を繰り返すことになる。通常成人の毛髪成長期は、個人差はあるが、一般に男性が3~5年、女性が4~6年であり、毛髪の約15%が退化期と休止期であるといわれている。ヒトの毛髪は、各々独立した成長周期を持って、一方では抜けて、他方では生えて全体的に同じ毛髪数を維持して、これを生理的自然脱毛という。しかし、正常な成長周期の休止期の他にも、疾病、ヘアー製品(ジェル、ワックスなど)、ストレスなどで脱毛現象が発生したりもするが、このような場合は、原因が除去されると再び回復する。
【0003】
ハゲは髪の毛が抜けて生えないのではなく次第に細くなって細い毛になることであり、進行されながら毛根に存在する毛乳頭が小さくなる。毛乳頭が小さくなれば、髪の毛の太さも細くなると同時に毛周期も短くなって、新しく生えてきた毛はさらに細くなる。ハゲが進行し続けると、髪の毛は細い毛に変わり、毛周期はさらに短くなって少し育った後抜ける。また、自己免疫疾患で発生するといわれている円形脱毛症と内分泌疾患、栄養不足、薬、出産など、身体的、精神的ストレス後発生する一時的な脱毛とは異なり、よく知っているハゲは遺伝する傾向があって、頭がはげる程度も様々であり、体内血中男性ホルモン(アンドロゲン、androgen)と関係があると知られている。
【0004】
現在脱毛初期には局所塗布剤であるミノキシジルと経口用薬剤であるプロペシア(finasteroid成分)を使えば、それ以上の進行はある程度遅らせることができると知られている・・・」(【0002】-【0004】)
(2)「【0031】
本発明において、「発毛促進または脱毛防止用組成物」とは、前記神経幹細胞培養液または神経幹細胞抽出物を含む組成物として、その剤形はいずれの形態でも可能である。このような剤形の例として、前記発毛促進または脱毛防止用組成物を利用して製造された形態は、溶液、ゲル、クリーム類、ローション類、パウダー、化粧水類、ファンデーション類及び個体化した石鹸類などであってもよい。本発明の目的を達成するために、このような剤形のうちいずれの形態でも製造されて商用化できるが、前記例に限定されない。」

4 引用例5について

当審において周知技術を示す文献として新たに引用するFRAGRANCE JOURNAL、2005年、Vol.33、No.12、p.17-22(以下「引用例5」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「 男性型脱毛では,毛髪の太さが著しく細くなっており,径が40μm以下の毛髪,いわゆる,うぶ毛の比率が高い。一方,毛髪密度は,150~300本/cm2程度で個人差によるバラツキが大きく,男性型脱毛者と健常者とでは統計的な差は見られない5)。毛髪は,成長期,退行期,休止期の毛周期を繰り返しているが,男性型脱毛では,毛髪本数の減少に比較して,成長期の短縮,つまり,太い毛に育ちきれずにうぶ毛のまま休止期に移行する毛包のミニュチュア化の寄与が大きい。したがって,男性型脱毛の改善には,発毛を促すよりも,うぶ毛を太毛化することが重要である(図1)。
日本人女性の薄毛では,健常者で160~170本/cm2程度の毛髪密度が,100本/cm2程度かそれ以下となっており,平均太さも80~90μmが,60μm程度に減少している6)。これらの変化は,ほぼ年齢に相関している。・・・50歳代以降では,毛径の減少に加え,休止期の長期化による,毛密度減少が観察される7)。毛密度の低下は,休止期毛が成長期になることが少ないためであり,慢性休止期性脱毛(Chronic telogen effluvium)とも呼ばれる。・・・欧米女性では,細く扁平な毛髪が密に生えているが,薄毛のパターンは日本人女性と類似している。したがって,女性型脱毛では,細くなった髪を太くし,休止期に留まっている毛を活性化し発毛させることが重要である(図1)。」(18頁左欄第2段落~右欄第1段落)

(2)

「
[図:0001407159000002.jpg]
」(19頁表1)

(3)

「
[図:0001407159000003.jpg]
」(21頁表2)

5 引用発明

上記1(1)~(3)、(5)~(7)によれば、引用例1には、α-ケト酪酸塩(KB)は、α-ケトグルタル酸塩(α-KG)と比較して著しく少ない量で、線虫の平均寿命を延長するものとして同定された化合物であり、月齢22~23ヶ月の老齢マウスに7ヶ月間α-KBを経口投与したところ、処理した雌群は、未処理の対照群と比較して、毛髪密度が高まる又は脱毛が減少し、白髪が減少することが、実験的裏付けをもって記載されている。

また、上記1(4)によれば、対象に投与されるα-ケト酪酸は、経口、直腸、鼻、局所(口腔内及び舌下を含む)、膣ならびに非経口(皮下、筋肉内、静脈内及び皮内を含む)に投与される剤形に調製された医薬製剤として提供されるものである。

そうすると、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「対象の加齢関連症状を抑制する、又は低減するための医薬製剤であって、α-ケト酪酸塩(KB)の治療に有効な量を含み、加齢関連症状が、脱毛、毛髪が薄くなること、又は毛髪が白髪になることである、医薬製剤。」

第5 本願発明と引用発明との対比・判断

1 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明における「脱毛、毛髪が薄くなること」及び「α-ケト酪酸塩(KB)」は、それぞれ、本願発明における「抜け毛」及び「1つもしくは複数のアルファ-ケトブチレート化合物および/または1つもしくは複数のグルタレート化合物」に相当する。

また、本願明細書の実施例には、「高齢マウスにおける毛髪の色素形成および密度」について、「コントロール群では、老化中に、背部皮膚上の毛髪は著しく灰色になり、より細くなったが(禿頭)、α-KBで処置したマウスは、黒色の太い毛髪を示した(図4)」(【0188】)と記載されていることから、引用発明における「毛髪が白髪になること」は、本願発明における「色素喪失」に相当するものといえる。

さらに、引用発明における「医薬製剤」は、治療に有効な成分に加えて薬学的に許容される担体とともに製剤化される組成物であることは技術常識から自明である。

そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、相違する。

<一致点>

「対象の、抜け毛または色素喪失を処置、阻害もしくは低減するための組成物であって、前記組成物が、1つもしくは複数のアルファ-ケトブチレート化合物および/または1つもしくは複数のグルタレート化合物を含み、前記組成物が、治療有効量で対象に投与され、前記組成物が、薬学的に許容される担体並びに1つもしくは複数のアルファ-ケトブチレート化合物および/または1つもしくは複数のグルタレート化合物を含む、組成物。」

<相違点1>

本願発明が、「脂肪酸を含まない局所用組成物である」であることを特定しているのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。

<相違点2>

本願発明が、「1mMから50mMの濃度」でアルファ-ケトブチレート化合物を含むのに対し、引用発明では濃度の特定がない点。

2 判断

上記相違点について検討する。

(1)相違点1について

引用例1の実施例では、α-KBを経口摂取することで、老齢マウスにおける毛髪密度の減少及び白髪の増加を抑制できることを確認しているが(上記第4の1(5))、引用例1には、局所投与も含めた他の投与経路であってよいことも記載されている(上記第4の1(4))。

一方、毛髪が毛包にある毛母細胞(ケラチノサイト)が分裂増殖することによって形成されること、毛包は成長期、退行期、休止期の周期を繰り返しており、抜け毛(脱毛)や薄毛には、毛包の成長期の短縮や休止期の延長が影響していることは周知の技術的事項であり、毛包に作用して育毛促進や抜け毛抑制効果を有する成分を局所投与用組成物とすることも慣用技術であった(上記第4の2~4)。

そうすると、引用発明において、毛髪密度の減少及び白髪増加を抑制するα-KBの効果を高めるために、毛髪を形成する組織である毛包に対して効率的にα-KBを送達できるよう、毛包の存在部位に局所投与する組成物とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、α-KB以外に組成物に配合される他の成分については、慣用される各種成分から適宜選択し得るものであって、引用例1において、脂肪酸が必須であることは記載されていないから、脂肪酸を含まない組成物とすることに格別な創意工夫が必要であったものとも認められない。

(2)相違点2について

引用例1には、α-KBを飲料水中に8mMで溶解して投与したことが記載されており(第4の1(5))、この濃度を参考にしつつ、α-KBの治療有効量や、組成物の投与頻度・投与量等を勘案して、組成物中のアルファーケトブチレート化合物の濃度の好適な範囲を設定することは、当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎない。

(3)本願発明の奏する効果について

本願明細書及び図面(【0187】~【0189】、図3及び4)に開示される、8mMのα-KBを飲料水に溶解させて101週齢の高齢マウスに経口投与した実施例で確認された効果については、引用例1における同様の試験結果(上記第4の1(5)~(7))から予測し得るものである。

一方、本願明細書及び図面(【0186】、【0190】~【0192】、図5、6、8、9、11~13)には、剃毛した若い(6週齢)マウスに3週間にわたってα-KBを局所処置した実施例も開示されているが、「剃毛」は人為的に毛髪を剃られている状態であって抜け毛を観察しているものではない。また、本願明細書の【0033】~【0034】及び引用例1(上記第4の1(3))の説明に基づけば、6週齢~9週齢の若いマウスは、「老化」中の対象又は「高齢」対象ではなく、剃毛前に抜け毛や白髪が観察されていたという記載もないことから、この実施例で使用された剃毛した若いマウスは、「抜け毛または色素喪失」を評価できるモデルとはいえない。

さらに、本願発明において、若い剃毛マウスで観察している「毛髪の成長の加速や色素形成の発生」は、α-KBが毛髪の成長速度を速めることを観察したものと認められるが、抜け毛の処置において重要となる毛包周期の期間の調節(上記第4の2(1)、第4の3(1)、第4の4(1))とは異なる現象に関する効果である。

ゆえに、本願発明における、剃毛した若いマウスの実施例は、α-KBの「抜け毛または色素喪失」に対する効果を確認したものとはいえない。

したがって、本願発明が引用発明及び引用例1の記載事項から予測できない効果を奏するものとは認められない。

(4)審判請求人の主張について

審判請求人は、令和4年8月2日提出の手続補正書の3.(2)において、「引用文献1には、あくまでα-KBが呼吸に関連するNADHデヒドロゲナーゼを抑制するというメカニズムを利用した発明が開示されているので、α-KB等のα-ケト化合物の局所投与が、結果として生じる全身作用機序を治療するのに十分であるとは思われません。当業者であれば、段落[0063]の記載から「局所」を選択して、α-KBを含む組成物を局所投与する動機付けは得られず、むしろ「局所」投与とすることを想到することへの阻害要因が存します。」と主張している。

しかしながら、上記(1)で説示したとおり、毛髪が毛包によって形成され、抜け毛に毛包周期が関与していることは広く知られていることであり、α-KBの毛包の存在する部位への局所投与は、毛包への効率的な送達といえるし、全身的な作用機序に関わらず、少なくともα―KBの毛包に対する効果は高まることが期待できるといえる。また、引用例1の段落[0063]には、投与経路として「局所」が挙げられているのであるから(上記第4の1(4))、引用例1において局所投与することが否定されるものではないことも明らかである。

したがって、α-KBが全身的に作用することをもって、局所投与を想到することへの阻害要因になるとまではいえない。

また、審判請求人は、上記手続補正書の3.(6)において、本願発明は、「わずか1mMから50mMの濃度で有効成分を含むものの、局所投与することで抜け毛乃至色素喪失を処置等することができ、・・・引用文献1等から予測し得なかった格別顕著なものと思料致します。」と主張している。

しかしながら、抜け毛乃至色素喪失の効果を確認した高齢マウスの実施例では局所投与は行っておらず、また、局所投与を行った剃毛した若いマウスは抜け毛乃至色素喪失のモデルではないことは上記(3)で説示したとおりであるから、当該主張を採用することができない。

3 小括

したがって、本願発明は、引用発明及び引用例1に記載された事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び引用例1に記載された事項、並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2022-011846

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