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特許拒絶査定不服審判

2022-011762

マイクロカプセル

審判番号
2022-011762
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-037343外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年07月29日
審決日
2024年05月09日
公報発行日
2024年07月26日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .113-Z (B01J) / P18 .121-Z (B01J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019- 37343「マイクロカプセル」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 9月 3日出願公開、特開2020-138174〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成31年3月1日の出願であって、その手続きの経緯は以下のとおりである。 令和3年11月26日付け:拒絶理由通知書 令和4年 1月19日 :意見書及び手続補正書の提出 同年 5月25日付け:拒絶査定(謄本発送は、5月31日) 同年 7月29日 :審判請求書及び手続補正書の提出 第2 令和4年7月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和4年7月29日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「ポリビニルアルコールおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた塩化ビニル単量体の重合に用いる、 コア/シェル構造を有し、前記シェルは、水溶性高分子を含み、前記コアは、有機過酸化物を含み、 該水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレンオキサイドからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、 該有機過酸化物は、ベンゼン中、濃度0.1mol/Lにおける10時間半減期温度が70℃以下である、 マイクロカプセル。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、令和4年1月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「コア/シェル構造を有し、前記シェルは、水溶性高分子を含み、前記コアは、有機過酸化物を含み、 該水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレンオキサイドからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、 該有機過酸化物は、ベンゼン中、濃度0.1mol/Lにおける10時間半減期温度が70℃以下である、 マイクロカプセル。」 2 補正の適否 2-1 補正の目的 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「マイクロカプセル」について、「ポリビニルアルコールおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた塩化ビニル単量体の重合に用いる」ことを限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、ともにビニル系重合体の製造において、フィッシュアイを低減できるマイクロカプセルを提供することであり、両者は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、これは、出願人による審判請求書の「特許請求の範囲の補正は・・・限定的減縮を目的としています。」との主張と整合するものである。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 2-2 独立特許要件 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平4-293904号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。 (ア)「【請求項1】 塩化ビニル系不飽和単量体の懸濁重合方法において、水、懸濁安定剤及び塩化ビニル系不飽和単量体からなる混合物の温度を単量体の重合温度の±10℃に調整し、次いで重合開始剤である有機過酸化物の水エマルションを該混合物に仕込んだ後に単量体を重合させることを特徴とする塩化ビニル系不飽和単量体の懸濁重合方法。」 (イ)「【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、塩化ビニル系不飽和単量体の懸濁重合方法に関するものである。更に詳しくは塩化ビニル系不飽和単量体の懸濁重合方法において、重合開始前の重合用単量体を含む原料の仕込み時間及び昇温時間を短縮して重合工程の生産性を向上させ、併せて、生成せる重合体のフィッシュアイの生成の防止又は減少及び可塑剤吸収性の改善を図った塩化ビニル系不飽和単量体の重合方法に関するものである。」 (ウ)「【0013】 次に本発明に用いられる各原料物質について説明する。 本発明で用いる懸濁安定剤は、通常の塩化ビニル系不飽和単量体の懸濁重合方法に用いられる懸濁安定剤の全てを使用できる。例えば、ポリビニルアルコール、セルローズ誘導体等である。」 (エ)「【0016】 次に、本発明に用いられる有機過酸化物の水エマルションに付いて説明する。それは基本的には有機過酸化物と水とからなるエマルションである。つまり有機過酸化物と水とを機械的に乳化したものであっても良い。しかしエマルションの安定性を向上させ、そして優れたポリマーを得るには、乳化剤を使用した方が好ましい。更にそこへ分子量が100以下の水溶性アルコールを含ませた場合には、低温で保存した時、凍結を防ぐことができる。 【0017】 その調整は、例えば、乳化剤及び分子量100以下の水溶性アルコールを水に溶解ないし分散させた混合液を、撹拌しながら有機過酸化物に添加又は前記水溶液に有機過酸化物を添加するという方法によって行う。この際、乳化剤は有機過酸化物に溶解させて使用することもできる。このようにして得られた有機過酸化物の水エマルションは、通常水を連続相とするものであり、そのため安全性及び安定性において優れた性質を示す。」 「【0019】 前記有機過酸化物中には、例えばジイソブチリルペルオキシド、クミルペルオキシネオデカノエート、α,α′-ビス(ネオアルカノイルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンのようにその10時間半減期温度が40℃以下のものも含まれている。例えば特公昭56-50892号で示される従来のプロセスでは重合釜へモノマー添加後重合開始剤を加える方法も示されている。この場合、低温分解し易い有機過酸化物は前述のような問題があったが、本発明ではそのような問題は生じない。従ってこのような有機過酸化物が好ましく使用できる。」 (オ)「【0024】 本発明の有機過酸化物の水エマルションに用いられる乳化剤は、ポリマー物性に影響ない限り、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、分散剤から選ばれる1種以上の乳化剤が使われる。しかしこれらの中で、非イオン性界面活性剤と後述の分散剤とを組み合わせて使用すると、有機過酸化物の水エマルションの安定性が優れ且つ生成重合体物性が良いので最も好ましい。」 「【0031】 又分散剤としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、トロロアオイ、トラガントゴム、アラビアゴム、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、可溶性デンプン、カルボキシメチルデンプン、ジアルデヒドデンプン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、部分ないし完全鹸化ポリ酢酸ビニルである。これらの中から選ばれる1種又は2種以上使用できる。 【0032】 これらの中では、低粘度なため自動仕込みが容易であり、且つ生成重合体中のフィッシュアイや可塑剤吸収性等の物性が良好である点で、鹸化度が50~99モル%、平均重合度が10~1000である部分鹸化ポリ酢酸ビニルが好ましい。最も好ましい範囲は鹸化度が70~99モル%、平均重合度が100~500である部分鹸化ポリ酢酸ビニルである。 【0033】 部分鹸化ポリ酢酸ビニルの種類及び量は有機過酸化物の種類と所望粘度により適宜選ばれる。又それは2種以上の混合物であっても良い。有機過酸化物の水エマルション中に含有させる場合は通常0.01~10重量%である。少な過ぎると添加の効果はなく、多過ぎると経済的に不利となるため好ましくは0.1~5重量%である。」 (カ)「【0034】 本発明の懸濁重合に用いられる有機過酸化物の水エマルションを製造するために使う装置は、従来から知られている装置を用いることができる。例えばかい型、プロペラ型、タービン型の機械回転式の撹拌機、コロイドミル、ホモジナイザー、高速せん断装置、ラインミキサー、超音波ホモジナイザーなどが使用できる。これらの装置を用いて分散する粒の平均径が10μm以下の有機過酸化物の水エマルションを製造することにより極めて安定にできる。」 (キ)「【0040】 有機過酸化物水エマルションの製造例1~6 表1に示す組成物を以下に示す方法で製造した。通常の撹拌装置と温度計を備えた500mlの3つ口フラスコへ所定量の水、水溶性アルコールと分散剤を夫々入れる。溶解した後で浴温を5~10℃にした。そこへ有機溶剤で希釈、或いは未希釈の有機過酸化物と乳化剤である非イオン性界面活性剤とからなる混合溶液を滴下しながら激しく撹拌した。更に30分間撹拌を続けたところ有機過酸化物の水エマルションを夫々得ることができた。 【表1】 [図:0001411696000001.jpg] 」 (ク)「【0041】 実施例1~6 撹拌機付きの内容積200lの重合機の内部を窒素ガスで置換し、次いで純水100kg、懸濁剤として鹸化度80モル%、平均重合度2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル40g、塩化ビニル50kgからなる混合物を仕込み、且つ混合物を表2に示される温度になるように調整した。 次いで5分間撹拌後、各製造例で得られた有機過酸化物の水エマルションを約10kg/cm2で仕込み、撹拌しながら単量体を重合させた。重合器の内圧が5kg/cm2に低下した時点で重合を停止した。そして未反応単量体を回収し、脱水乾燥したところ、白色粉状の塩化ビニル重合体を得た。 混合物の調整温度、有機過酸化物(水エマルションに含まれる)の種類、添加量、重合温度、重合収率、重合体のフィッシュアイの数、可塑剤吸収性を表2に示す。」 「【0045】 【表2】 [図:0001411696000002.jpg] 」 イ 引用文献3 本件出願日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2003-238606号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。 「【請求項1】 還流凝縮器を備えた重合器を用いて、塩化ビニル単量体を主体とするビニル系単量体を、分散剤を含有する水性媒体中で重合開始剤によって懸濁重合するに際し、前記分散剤として、ケン化度が68~76モル%の部分ケン化ポリビニルアルコール(A)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(B)、粘度平均分子量が200万~800万のポリエチレンオキサイド(C)及びヒドロキシプロピルセルロース(D)を添加し、重合温度40~55℃で重合することを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法。」 ウ 引用文献4 本件出願日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2003-327607号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。 「【請求項1】 塩化ビニル系単量体を油溶性重合開始剤の存在下に水性媒体中で懸濁重合する際に塩化ビニル系単量体を懸濁分散させるために用いる分散安定剤として、(A)ケン化度が60~80モル%であり、かつその4重量%水溶液の20℃における粘度が6.0~9.0cpsである部分ケン化ポリビニルアルコール、と(B)メトキシ基含量が25~30重量%、ヒドロキシプロポキシ基含量が4~15重量%でその2重量%水溶液の20℃における粘度が10~80cpsであるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、(C)ポリエチレンオキサイドを併用することを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法。」 エ 引用文献5 本件出願日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2002-003510号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の記載がある。 (ア)「【請求項1】 塩化ビニル単量体またはこれと共重合し得る単量体との混合物を水性媒体中で懸濁重合するに際し、懸濁重合用分散安定剤としてエチレン単位の含有量が1~10モル%、けん化度が90モル%以上、かつ、重合度が600以上の変性ポリビニルアルコールを用いることを特徴とする、嵩比重が0.58g/cc以上である塩化ビニル系重合体の製造方法。」 (イ)「【0021】 本発明において分散安定剤は単独で使用しても良いが、塩化ビニルなどのビニル系単量体を水性媒体中で懸濁重合する際に通常使用される重合度100~4000およびけん化度30~99モル%のポリビニルアルコール系重合体、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性セルロースエーテル、ゼラチンなどの水溶性ポリマー、ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、グリセリントリステアレート、エチレンオキシド-プロピレンオキシドブロックコポリマーなどの油溶性乳化剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレングリセリンオレート、ラウリン酸ナトリウムなどの水溶性乳化剤などを併用しても良い。その添加量は特に制限されないが、塩化ビニルなどのビニル系単量体100重量部当たり0.01~2.0重量部が好ましい。」 (3)引用文献1に記載された発明 引用文献1(前記(2)ア参照。)の段落【0041】及び【0045】の【表2】に記載された「実施例4」に着目し、実施例4で「重合開始剤」として用いられた「製造例4」について、同【0040】及び【表1】の記載、並びに同【0019】の「有機過酸化物中には」「クミルペルオキシネオデカノエート」「のようにその10時間半減期温度が40℃以下のものも含まれている。」との記載を参酌すれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (引用発明) 「純水と、懸濁剤として鹸化度80モル%、平均重合度2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニルと、塩化ビニルからなる混合物に添加して、単量体を重合させ、塩化ビニル重合体を得るための、製造例4の重合開始剤であって、 製造例4の重合開始剤は、所定量の水、メチルアルコールに分散剤としてのゴーセノールKH-20を溶解したものへ、有機過酸化物として有機溶剤で希釈したクミルペルオキシネオデカノエートと、乳化剤として非イオン性界面活性剤であるソルビタンモノオレエート及びソルビタントリオレエートを滴下、攪拌し、有機過酸化物の水エマルションとしたものであり、 クミルペルオキシネオデカノエートは、10時間半減期温度が40℃以下である、 重合開始剤。」 (4)対比・判断 ア 本件補正発明と引用発明との対比・判断 (ア)本件補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「重合開始剤」と本件補正発明の「マイクロカプセル」とは、ともに、塩化ビニル単量体の重合に用いられるものであるから、「塩化ビニル単量体の重合に用いる重合剤」である点で共通する。 引用発明の「ゴーセノールKH-20」は、三菱ケミカル株式会社の商標である「ゴーセノールTM」として知られるポリビニルアルコールの製品名の一つ(必要なら、URL:<https://www.gohsenol.com/gohsenol/grades/>当参照。)であって、水溶性高分子であるから、本件補正発明の「水溶性高分子」及び「該水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレンオキサイドからなる群より選ばれる少なくとも1種であり」に相当する。 引用発明の「有機過酸化物として有機溶剤で希釈したクミルペルオキシネオデカノエート」及び「クミルペルオキシネオデカノエートは、10時間半減期温度が40℃以下である」は、ベンゼン中、濃度0.1mol/Lで測定した場合も10時間半減期温度は70℃以下と考えられるから、本件補正発明の「有機過酸化物」及び「該有機過酸化物は、ベンゼン中、濃度0.1mol/Lにおける10時間半減期温度が70℃以下である」を充足する。 (イ)以上より、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 本件補正発明と引用発明とは、 「塩化ビニル単量体の重合に用いる、 水溶性高分子、有機過酸化物を含み、 該水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレンオキサイドからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、 該有機過酸化物は、ベンゼン中、濃度0.1mol/Lにおける10時間半減期温度が70℃以下である、 重合剤。」 の点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 重合剤が、本件補正発明は、「ポリビニルアルコールおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた塩化ビニル単量体の重合に用いる」のに対し、引用発明は、「鹸化度80モル%、平均重合度2000の部分鹸化ポリ酢酸ビニル」を「添加して、単量体を重合させ、塩化ビニル重合体を得るため」のものである点。 (相違点2) 重合剤が、本件補正発明は、「コア/シェル構造を有し、前記シェルは、水溶性高分子を含み、前記コアは、有機過酸化物を含」む「マイクロカプセルである」のに対し、引用発明は、水溶性高分子である「ゴーセノールKH-20」と有機過酸化物である「クミルペルオキシネオデカノエート」を含む「重合開始剤」であって、「有機過酸化物の水エマルション」であるものの、「コア/シェル構造を有し、前記シェルは、水溶性高分子を含み、前記コアは、有機過酸化物を含むマイクロカプセルである」ことが特定されていない点。 (ウ)判断 (相違点1について) 引用文献1の段落【0013】には、「本発明で用いる懸濁安定剤は、通常の塩化ビニル系不飽和単量体の懸濁重合方法に用いられる懸濁安定剤の全てを使用できる。例えば、ポリビニルアルコール、セルローズ誘導体等である。」ことが記載されている。 そして、引用文献3の【請求項1】、引用文献4の【請求項1】、引用文献5の【請求項1】、段落【0021】に記載のとおり、塩化ビニル単量体を重合する際に、懸濁重合用分散安定剤として、ポリビニルアルコールおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いることは周知技術である。 してみると、引用発明において、引用文献1の段落【0013】の記載を勘案して、塩化ビニル単量体の重合を行う際に、懸濁安定剤として、部分鹸化ポリ酢酸ビニルと共に又は部分鹸化ポリ酢酸ビニルに代えて、当該懸濁安定剤として周知であるポリビニルアルコール及びヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いることは、当業者にとって格別困難なこととは認められない。 そして、本件補正発明の効果について検討すると、本願明細書(例えば【0071】~【0085】の実施例及び比較例)には、懸濁安定剤として、ポリビニルアルコール及びヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いることにより、その他の懸濁安定剤を用いたときと比して、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏することは記載されていない。 よって、本件補正発明が、引用文献1、3~5の記載及び周知の技術事項から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものであるとは認められない。 (相違点2について) 引用文献1の段落【0040】、【表1】の製造例4には、有機溶剤で希釈したクミルペルオキシネオデカノエート100重量部に対して、ポリビニルアルコール(鹸化度:80mol%、平均重合度:2000)4重量部、水性媒体92重量部、及びソルビタンモノオレエート4重量部を5~10℃にて撹拌してクミルペルオキシネオデカノエートの水エマルションを得ることが記載されている。 ここで、本件補正発明で「マイクロカプセル」及び「コア/シェル構造」と称する構造の詳細について検討すると、本願明細書【0021】には、「実施形態に係るマイクロカプセルは、コア/シェル構造を有し、シェルは、水溶性高分子を含み、コアは、有機過酸化物を含む。このように、実施形態に係るマイクロカプセルでは、有機過酸化物が内包されている。このマイクロカプセルは、いいかえると、有機過酸化物を含む粒状物と、その表面に付着している、水溶性高分子を含む被覆層とを有する被覆粒状物である。」と記載され、有機過酸化物を含む粒状物の表面に、水溶性高分子を含む被覆層が付着した状態を意味するとされている。 そして、本願明細書【0055】には、「有機過酸化物100質量部に対して、水性媒体を好ましくは20質量部以上180質量部以下の量となるように、より好ましくは30質量部以上150質量部以下の量となるように使用することが望ましい。」こと、同【0056】には、「有機過酸化物100質量部に対して、水溶性高分子(たとえば部分鹸化ポリビニルアルコール)を0.001質量部以上30質量部以下の量となるように使用することが好ましく、0.01質量部以上25質量部以下の量となるように使用することがより好ましい。」こと、及び同【0072】[実施例1]には、「水15質量部と、鹸化度88mol%、平均重合度1800の部分鹸化ポリビニルアルコールの水溶液(濃度10質量%)10質量部と、エタノール17質量部と、界面活性剤(ソルビタンモノオレエート)3質量部とを入れて溶解した後、内温を5~10℃にした。そこへ有機過酸化物としてジ-(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート55質量部を滴下しながら激しく撹拌した。さらに30分間撹拌を続け、ジ-(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネートが内包されたマイクロカプセルを含む水性液(マイクロカプセル組成液)を得た。」ことが記載されている。 そうすると、引用文献1のクミルペルオキシネオデカノエートの水エマルションは、本願明細書【0072】[実施例1]と同じく、水性媒体、水溶性高分子、界面活性剤(ソルビタンモノオレエート)、及び10時間半減期温度が70℃以下である有機過酸化物を5~10℃にて撹拌して得られたものであり、かつ当該水性媒体及び水溶性高分子の使用量も本願明細書【0055】及び【0056】の範囲内であることを勘案すると、当該有機過酸化物であるクミルペルオキシネオデカノエートの表面に、当該水溶性高分子であるポリビニルアルコール(鹸化度:80mol%、平均重合度:2000)を含む被覆層が付着した状態を有しているといえる。 すなわち、引用文献1のクミルペルオキシネオデカノエートの水エマルションは、シェルは、ポリビニルアルコール(鹸化度:80mol%、平均重合度:2000)、コアは、クミルペルオキシネオデカノエートである、本件補正発明で「コア/シェル構造」及び「マイクロカプセル」と称する構造を有する有機過酸化物の水エマルションである。 したがって、相違点2については、本件補正発明と引用発明とを対比した場合、実質的な相違点ではない。 イ 審判請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書において、「本願の補正後の請求項1に係る発明は、ポリビニルアルコールおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースの両者を分散剤として使用して、ポリ塩化ビニルを得る際に用いられる、開始剤としてのマイクロカプセルです。本願の補正後の請求項1にて特定したマイクロカプセルによれば、2種の分散剤と混合することにより、重合の均質化が可能となり重合が安定し、フィッシュアイのない塩化ビニルを得ることができます。 一方、引用文献1(特開平4-293904号公報)では、塩化ビニル重合体を得る際に、懸濁剤としてポリビニルアルコールのみを使用することが記載されているに過ぎません(引用文献1、段落[0041])。」と主張する。 しかしながら、上記ア(ウ)で検討したとおり、引用発明において、引用文献1の段落【0013】の記載を勘案して、塩化ビニル単量体の重合を行う際に、懸濁安定剤として、部分鹸化ポリ酢酸ビニルと共に又は部分鹸化ポリ酢酸ビニルに代えて、当該懸濁安定剤として周知であるポリビニルアルコール及びヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いることは、当業者にとって格別困難なこととは認められない。そして、本願明細書(例えば【0071】~【0085】の実施例及び比較例)には、懸濁安定剤として、ポリビニルアルコール及びヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いることにより、その他の懸濁安定剤を用いたときと比して、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏することは記載されていない。 (5)まとめ 以上のとおり、本件補正発明は、引用発明並びに引用文献3~5に記載された周知技術に基づいて、本願の出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和4年7月29日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和4年1月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1~6に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、及びこの出願の請求項1~6に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 記 引用文献1:特開平4-293904号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、上記第2の[理由]2-1で検討した本件補正発明の「ポリビニルアルコールおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた塩化ビニル単量体の重合に用いる」マイクロカプセルに対して、「ポリビニルアルコールおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた塩化ビニル単量体の重合に用いる」ことを特定しないマイクロカプセルである。 そうすると、本願発明と引用発明とを対比した場合、上記第2の[理由]2-2(4)ア(イ)で検討した(相違点2)において相違するが、同(ウ)で検討したとおり、(相違点2)は実質的な相違点ではない。 したがって、本願発明は、引用発明に記載された発明であるか、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 また、本願発明は、引用発明に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-011762

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