特許拒絶査定不服審判
2015-013243
分子を解離するプロセスおよび使用
- 審判番号
- 2015-013243
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-526878外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年07月10日
- 審決日
- 2017年07月18日
- 公報発行日
- 2018年01月26日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .113-WZ (B01J) / P18 .121-WZ (B01J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-526878「分子を解離するプロセスおよび使用」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月10日国際公開、WO2011/028478、平成25年 1月31日国内公表、特表2013-503036〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)8月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年8月25日、米国、2010年2月19日、米国、2010年3月18日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年8月22日付けで補正書が提出され、平成26年2月26日付けで拒絶理由が通知され、同年8月25日付けで意見書が提出され、平成27年3月5日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年7月10日付けで拒絶査定不服の審判請求がされるとともに、同時に補正書が提出され、平成28年5月20日付けで当審より拒絶理由(以下、「第1回目の当審拒絶理由」という。)が通知され、同年9月23日付けで意見書及び補正書が提出され、同年12月6日付けで当審より拒絶理由が通知され、平成29年6月7日付けで意見書及び補正書が提出されたものである。
2.本願発明
本願の請求項1~20に係る発明は、平成29年6月7日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~20に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。
「アンモニアの選択的な解離のためのプロセスであって、
触媒の存在下で前記アンモニアを励起するのに有効な量、強度およびエネルギーの周波数を用いてアンモニアを含む物質を処理して前記アンモニアの1つまたは複数の標的結合を特異的に解離し、いかなる副生物も生成せず、また前記1つまたは複数の標的結合の再会合をせずに、前記アンモニアを窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物に分離することを含み;
ここで、前記物質を処理することが、解離の前記エネルギーの周波数の量および強度を調節して前記アンモニア中の1つまたは複数の標的結合を解離させるのに必要とされるエネルギーに対して特異的であるようにすることを含み;
ここで、前記エネルギーが、前記アンモニアのイオン化閾値未満のエネルギーを有する複数の光子によって提供され;そして
ここで、前記プロセスは、酸化または還元課程により前記窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物を生成しない、
プロセス。」
3.第1回目の当審拒絶理由の理由2の概要
第1回目の当審拒絶理由の理由2の概要は、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物(後閑寛彦、星野幹雄、金子正夫、「Pt-TiO2微粒子を用いたアンモニアの紫外光分解によるH2/N2発生」、日本化学会季年会講演予稿集、平成17年3月11日、85巻1号、p42(以下、「引用例1」という。))に記載された発明、又は、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献(Junichi Nemoto, Norihiko Gokan, Hirohito Ueno, Masao Kaneko、「Photodecomposition of ammonia to dinitrogen and dihydrogen on platinized TiO2 nanoparticules in an aqueous solution」、Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry 、2007年1月25日、Volume 185、 Nos.2-3、p295-300(以下、「引用例2」という。))に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、また、本願発明は、引用例1又は引用例2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
4.引用例の記載について(下線は、当審が付与した。)
(1)引用例1
引用例1には、「Pt-TiO2微粒子を用いたアンモニアの紫外光分解によるH2/N2発生」(標題)について、次の記載がある。
「<緒言>近年、畜産廃棄物中から発生するアンモニアの処理が深刻な問題となっている。アンモニアは強い電子供与体なので分解してH2燃料への変換が可能となれば単なる分解処理にとどまらず、エネルギー源として利用できる。1)
<実験>白金を担持したTiO2微粒子を光触媒として使用し、アンモニア水溶液の紫外光分解を検討した。TiO2微粒子への白金担持は塩化白金酸を用い、高圧水銀ランプを使用した光電着法によって行った。アンモニア分解用光源としてはXeランプを使用し、測定の基本条件はアンモニア水溶液量5ml、Ar置換30分、アンモニア濃度1wt%、Pt-TiO2は0.02gとした。また、触媒量、白金担持量、pHの気体発生量への影響に関する検討も行った。
<結果>上記の基本条件下において光照射20時間後の水素発生量は2000μl、窒素発生量は660μlとなり、ほぼ化学量論的(H2/N2=3/1)な気体発生を得ることができた。(Fig.1(審決注:省略))
Table.1(審決注:省略)には、pHを一定にしてアンモニア濃度のみを変化させた時の気体発生量とアンモニア分解率について示した。紫外光照射20時間後の気体発生はいずれの濃度条件下においてもさらに続いていたので、アンモニアの分解率は最終的には100%に近づくものと考えられる。
このことは、本系における光触媒反応がアンモニアの分解処理手段としただけではなく、バイオマスによる新たな水素製造方法として利用できることを示している。」
(2)引用例2
引用例2には、「Photodecomposition of ammonia to dinitrogen and dihydrogen on platinized TiO2 nanoparticules in an aqueous solution(当審仮訳(以下、同じ。):溶液中における、白金担持の酸化チタンの微粒子上で、アンモニアを、気体の窒素と気体の水素とに光分解すること)」(標題)について、次の記載がある。
「By using suspended platinized titanium dioxide (Pt-TiO2) as a photocatalyst in an NH3 aqueous solution, NH3 was photodecomposed into H2 and N2. The amount of loaded Pt was changed between 0 and 2.0 wt% and the reaction was conducted under irradiation in an Ar atmosphere. In the Pt loading between 0 and 0.5 wt% the H2 and N2 evolution increased linearly with the Pt amount and the H2/N2 molar ratio was about 3:1. The evolution of H2 and N2 reached a maximum at 0.5 wt% Pt, and then decreased probably due to a filter effect by the Pt. The effect of pH on the photodecomposition of NH3 in the presence of Pt-TiO2 under Ar was investigated at pH from 0.68 to 13.7. The evolution of H2 increased steeply at the pH from 9 to 10 showing that the dissociation of NH4+ to free NH3 is important for the photodecomposition (pKa of NH4+/NH3 is 9.24). The time-course of H2 and N2 evolution in a 59 mM NH3 aqueous solution during 53 h irradiation gave the photodecomposition yield of 21.6%. The effect of RuO2 loading as a co-catalyst for the TiO2 or Pt-TiO2 was investigated showing that the RuO2 does not work as a H+ reduction catalyst. The activity of SrTiO3 used instead of TiO2 was only small, and the H2/N2 ratio (0.64) was very small showing that the Pt-SrTiO3 is not a good photocatalyst to decompose NH3. A TiO2/FTO nanoporous film photoanode was used in combination with a Pt counter electrode instead of the Pt-TiO2 photocatalyst, leading also to photodecomposition of NH3 to produce H2 and N2 at 3:1 ratio.
(要約
懸濁させた白金被覆した酸化チタン(Pt-TiO2)を、NH3水溶液における光触媒として使うことで、NH3はH2とN2に光分解された。担持したPtの量は、0~2.0wt%の間で変化させ、反応は、Ar雰囲気下で、光を照射しながら行われた。0~0.5wt%の間のPt担持量では、H2とN2の発生は、Pt量と比例して増加し、H2/N2モル比は3:1だった。H2とN2の発生は、0.5wt%のPtで最大値に達し、それ以降は、おそらくPtによるフィルター効果によって、減少した。Ar雰囲気下のPt-TiO2が存在する中でのNH3の光分解に対するpHの効果を、0.68~13.7までのpHについて調べた。H2の発生は、pHが9~10で急激に増加した。これは、このpHが、光分解において、NH4+を解離させ、遊離したNH3に変化させるためには重要なことであること(NH4+/NH3のpKaは9.24である。)を示している。59mMのNH3水溶液での、53時間の光照射によるH2とN2の発生の時間経過は、21.6%の光分解収率を示した。TiO2又はPt-TiO2に対する共触媒としてRuO2の担持による効果が調べられ、RuO2がH+還元触媒として機能しないことを示した。TiO2の代わりに使われたSrTiO3の活性はわずかで、H2/N2比(0.64)はとても小さく、Pt-SrTiO3は、NH3を分解するには、良い光触媒ではないことを示した。TiO2/FTOのナノポーラスフィルムの光陽極が、Pt-TiO4+の光触媒の代わりに、Ptを対電極として組み合わせて用いられ、同様に、H2とN2を3:1の比率で発生するNH3の光分解をもたらした。)」(295頁中欄)
「2. Experimental
・・・(略)・・・
2.5. Photolysis and analysis
Neat or metallized TiO2 suspensions were usually prepared
in water at a concentration of 0.02 g/1. An NH3 aqueous solution(16.5 M) was added to the suspensions to make the desired concentration (typically 0.59,0.059 and 0.0059 M), and then the pH of the suspensions was adjusted by adding NaOH. The solution (5 ml) was purged with Ar gas for 30 min, and then the photoirradiation was carried out using a 500 W Xenon (Xe)-lamp with the light intensity from 469 to 515mWcm-2 under magnetic stirring. A high-pressure Hg lamp was used for the Pt-SrTiO3 system.
・・・(略)・・・
3. Results and discussion
The absorption and transmission of an aqueous ammonia and the cell glass were investigated and the results are shown in Fig 1. The present Pyrex glass cell and a nonluminesent glass do not transmit the light below the wavelength of 300 nm. By using a quartz cell (transparent up to 200 nm), we have confirmed that a direct excitation of NH3 caused some complicated and undesired side reactions, so that the evolution of both H2 and N2 gases did not occur. Therefore, we adopted the present Pyrex glass cell to avoid direct excitation of NH3. When using a quartz cell, we can use a nonluminesent glass filter to inhibit direct excitation of NH3 as shown in Fig. 1.
Our preliminary investigation has shown that an NH3 aqueous solution can photochemically be decomposed into H2 and N2 gases by using suspended platinized titanium dioxide (Pt-TiO2) if reacted at pH over 10, and that the evolved H2/N2 molar ratio was nearly stoichiometric value (3:1) [11]. By using the Pt-TiO2 (0.02 g) as a photocatalyst in an NH3 aqueous solution (0.59 M, 5 ml), the amount of loaded Pt was changed between 0 and 2.0 wt% and the reaction was conducted for 6h under irradiation at pH 10.7 in an Ar atmosphere. The dependence of Pt amount/TiO2 on the evolution of H2 and N2 gases is shown in Fig. 2. In the Pt amount between 0 and 0.5 wt% the H2 and N2 evolution increased linearly with the Pt amount and the H2/N2 molar ratio was nearly 3:1 except 0.1 wt% Pt amount giving H2/N2 ratio around 4. The evolution of H2 and N2 reached a maximum at 0.5 wt% Pt, and looks like to be roughly constant in between 0.75 and 1.2 wt% followed by clear decrease at 2.0 wt%. It means that the increase of Pt amount on TiO2 causes both a promoting effect and an inhibiting effect (filter effect), so that these two effects are competitively working for the photodecomposition. The decrease is ascribable to the filter effect by the black-colored Pt loaded on TiO2.
・・・(略)・・・As we mentioned later in Fig. 6,in the mechanism of NH3 photodecomposition by irradiation on the Pt-TiO2 powder system, the charge separation produces electrons (e-) and holes (h+) in the TiO2 powder resulting in the oxidation of NH3 by h+ followed by the reduction of proton on the Pt site. Since the proton concentration in the high pH region is low, the electrons would accumulate in the TiO2 so that the possibility of recombination between electrons and holes would become high. As a consequence, the oxidation of NH3 would be suppressed in high pH region.
(2.実験
・・・(略)・・・
2.5 光分解及び分析
そのままか、あるいは金属で被覆したTiO2の懸濁液が、たいてい、0.02g/lの濃度で、水を用いて調製された。NH3水溶液(16.5M)が、望ましい濃度(具体的には、0.59、0.059、0.0059M)となるように、懸濁液に加えられた。次に、NaOHを加えることによって、懸濁液のpHが調整された。溶液(5ミリリットル)は、30分間、Arによってパージされ、その後、500Wのキセノン(Xe)ランプを用いて、469から515mWcm-2の強度で、磁気的にかき混ぜながら、光照射が行われた。高圧水銀ランプは、Pt-SrTiO3システムのために使われた。
・・・(略)・・・
3.結果と考察
アンモニア水とセルガラスの吸収と透過を調べた。結果は図1(審決注:略)に示されている。現在のパイレックスガラスセルと非発光性のコップは300ナノメートルの波長の光を透過しない。(200ナノメートルまで透明な)石英セルを使うことによって、我々はNH3の直接の励起が若干の複雑な、そして望まない副反応を起こし、その結果、H2とN2両方のガスの発生は起きなかったことを確認した。そこで、NH3の直接の励起を避けるために現在のパイレックスガラスセルを採用した。NH3の直接の励起を抑制するために、石英セルを使うときは、非発光性のガラスフィルターを、図1に示されるようにして使うことができる。
最初の調査において、懸濁させた白金被覆した酸化チタン(Pt-TiO2)を使うことで、NH3水溶液は、pHが10以上であれば、H2ガスとN2ガスとに光化学的に分解され得ること、及び、発生するH2/N2のモル比は、ほぼ化学量論比(3:1)であったことを示している[11]。NH3水溶液(0.95M、5ml)における光触媒として、Pt-TiO2(0.02g)を使い、反応は、用いたPtの量を0~2.0wt%に変化させ、Ar雰囲気下で、pH10.7で、6時間照射して行われた。Pt担持TiO2とH2ガスとN2ガスの発生量との関係は、図2(注:省略)に示されている。Ptの用いた量が0から0.5wt%の間では、H2ガスとN2ガスの発生量は、Ptの量にほぼ比例し、H2/N2のモル比が約4であった0.1wt%Pt以外は、H2/N2のモル比は、ほぼ3:1であった。H2ガスとN2ガスの発生量は、0.5wt%Ptで最大値に達し、0.75~1.2wt%の間では、ほぼ一定であり、2wt%では明らかに低下した。これは、TiO2上のPtの増加は、促進させる作用と、阻害する作用(フィルター効果)があり、これらの効果が、光分解に対して競争的に働いているということを意味している。低下したのは、TiO2に担持された白金黒のフィルター効果に起因する。・・・(略)・・・図6について、後述するように、Pt-TiO2粉末上に光照射をすることによってNH3が光分解するメカニズムにおいては、電荷が分離することで、TiO2粉末中に電子(e-)と正孔(h+)が生成され、その結果、Ptサイトのプロトンの減少により生じる正孔(h+)によって、NH3が酸化される。高いpHでは、プロトンの集中度が低いので、電子は、TiO2内に蓄積され、そのため、電子と正孔との再結合が起きる確率が高くなる。その結果、NH3の酸化は、高いpH領域では抑制される。)」(296頁左欄下から18行~298頁左欄5行)
Fig.6
「
」
5.引用発明の認定
(1)引用例1について
引用例1の「Pt-TiO2微粒子を用いたアンモニアの紫外光分解によるH2/N2発生」においては、「TiO2微粒子への白金担持は塩化白金酸を用い、高圧水銀ランプを使用した光電着法によって行なう」ことから、引用例1には、「白金被覆されたTiO2微粒子を用いて、アンモニアを紫外光分解する」ことが記載されている。
そして、引用例1には、「白金被覆されたTiO2微粒子は、光触媒として使用されている」ことが記載されている。
また、引用例1の「アンモニアの紫外光分解」は、具体的には、「アンモニア水溶液の紫外光分解」であるから、引用例1には、「水溶液中のアンモニアを紫外光分解する」ことが記載されている。
また、引用例1には、「紫外光は、具体的には、Xeランプを光源としている」こと、及び、「発生する水素ガス(H2)と窒素ガス(N2)のモル比は、アンモニア(NH3)の化学量論比を示す」ことも記載されている。
そうすると、引用例1には、
「光源として、Xeランプを用い、紫外光分解における光触媒として、白金被覆したTiO2を用いて、水溶液中のアンモニア(NH3)を、水素ガス(H2)及び窒素ガス(N2)に、アンモニア(NH3)の化学量論比で、紫外光分解する方法。」(以下、「引用発明1」という。)が開示されていると認められる。
(2)引用例2について
引用例2には、「溶液中における、白金担持の酸化チタンの微粒子上で、アンモニアを、気体の窒素と気体の水素とに光分解する」ことが記載されている。
そして、引用例2には、「光分解の光源は、具体的には、キセノン(Xe)ランプを用いる」ことが記載されている。
また、引用例2には、「溶液は、NH3水溶液である」こと、及び、発生したH2(気体の水素)とN2(気体の窒素)のH2/N2モル比は3:1であることから、「アンモニア(NH3)を光分解して得られたH2(気体の水素)とN2(気体の窒素)は、アンモニア(NH3)の化学量論比で発生している」ことが記載されている。
そして、引用例2には、「白金担持の酸化チタンの微粒子は、光触媒である」ことも記載されている。
そうすると、引用例2には、
「光源として、Xeランプを用い、光分解における光触媒として、白金担持の酸化チタンの微粒子を用いて、水溶液中のアンモニア(NH3)を、H2(気体の水素)及びN2(気体の窒素)に、アンモニア(NH3)の化学量論比で、光分解する方法。」(以下、「引用発明2」という。)が開示されていると認められる。
6.対比・判断
(1)引用発明1を主引用例とした場合
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「アンモニア(NH3)」は、本願発明の「アンモニア」に相当し、引用発明1の「水溶液中のアンモニア(NH3)を」「紫外光分解する方法」は、本願発明の「アンモニアの選択的な解離のためのプロセス」に相当する。
引用発明1の「水素ガス(H2)」及び「窒素ガス(N2)」は、本願発明の「水素(H2)成分の生成物」及び「窒素(N2)成分の生成物」にそれぞれ相当する。
引用発明1の「紫外光分解における光触媒として」の「白金被覆したTiO2」は、本願発明の「触媒」に相当し、引用発明1の「白金被覆したTiO2を用い」た「紫外光分解」は、本願発明の「触媒の存在下で」の「処理」に相当する。
引用発明1の「紫外光分解」では、「アンモニア(NH3)」を「水素ガス(H2)」と「窒素ガス(N2)」とに分解し、「水素ガス(H2)」と「窒素ガス(N2)」は、アンモニア(NH3)の化学量論比で生成され、他の反応物は生成するものではないことから、引用発明1の「紫外光分解」は、本願発明の「アンモニアの1つまたは複数の標的結合を特異的に解離し、前記アンモニアを窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物に分離する」構成に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明1とは、
「アンモニアの選択的な解離のためのプロセスであって、
触媒の存在下でアンモニアを含む物質を処理して前記アンモニアの1つまたは複数の標的結合を特異的に解離し、前記アンモニアを窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物に分離することを含むプロセス。」である点で一致し、次の相違点1で相違が認められる。
(相違点1)
(1-a)アンモニアの窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物への分離について、本願発明は、アンモニアを励起するのに有効な量、強度およびエネルギーの周波数を用いていて、いかなる副生物も生成せず、また前記1つまたは複数の標的結合の再会合をせずに行われていて、
(1-b)アンモニアを含む物質の処理について、本願発明は、解離の前記エネルギーの周波数の量および強度を調節して前記アンモニア中の1つまたは複数の標的結合を解離させるのに必要とされるエネルギーに対して特異的であるようにすることを含み、前記エネルギーが、前記アンモニアのイオン化閾値未満のエネルギーを有する複数の光子によって提供されるものであり、
(1-c)プロセスについて、本願発明は、酸化または還元課程により前記窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物を生成しないものであるのに対し、
引用発明1は、このような規定はされていない点。
そこで、相違点1について検討する。
(1-a)アンモニアの窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物への分離について
引用発明1は、「光源として、Xeランプを用い」て光触媒下で紫外光分解しており、光源からの紫外光の量、強度、エネルギーの周波数は、アンモニアを励起するのに有効なものであることは明らかである。
また、技術常識に照らして、引用発明1の紫外光分解では、「水素ガス(H2)」と「窒素ガス(N2)」は、アンモニア(NH3)の化学量論比で生成され、他の反応物は生成するものではないことから、いかなる副生物も生成せず、「水素ガス(H2)」と「窒素ガス(N2)」の再会合をせずに行われていることも明らかである(必要であれば、引用例2の「Fig.6」の「水中Pt-TiO2懸濁液におけるNH3の光分解メカニズム」を参照されたい。該図では、2NH3が光触媒下の光分解によって、直ちに、「N2+6H+」に分解され、「N2+6H+」に分解される際の電子を6H+が受取り、気体である3H2となることが示されており、触媒下のNH3の光分解は、いかなる副生物も生成せず、N3、H3の再会合をせずに行われるということができる。)。
したがって、上記相違点(1-a)は、実質的な相違点ではない。
(1-b)アンモニアを含む物質の処理について
引用発明1は、「光源として、Xeランプを用い」て紫外光分解しており、しかも、「水素ガス(H2)」と「窒素ガス(N2)」以外の生成物を生じさせるものではないことから、光源からの紫外光のエネルギーの周波数の量および強度は紫外光分解のために、特異的に調節され、量、強度、エネルギーの周波数は、アンモニアを励起するのに有効なものである。
また、技術常識に照らせば、紫外光は、アンモニアをイオン化閾値未満のエネルギーを有する複数の光子によって提供されているものであることは明らかである(必要であれば、引用例2の「NH3の直接の励起が若干の複雑な、そして望まない副反応を起こし、その結果、H2とN2両方のガスの発生は起きなかったことを確認した。そこで、NH3の直接の励起を避けるために現在のパイレックスガラスセルを採用した。」(3.結果と考察)という記載を参照されたい。すなわち、アンモニアが直接励起される場合、換言すれば、アンモニアに、イオン化閾値以上のエネルギーを有する光子が照射される場合には、H2とN2両方のガスの発生は起きなくなることから、「水素ガス(H2)」と「窒素ガス(N2)」が発生する引用発明1においては、アンモニアに、イオン化閾値以上のエネルギーを有する光子が照射されているとはいえない。)。
したがって、上記相違点(1-b)は、実質的な相違点ではない。
(1-c)プロセスについて
本願発明の「酸化または還元課程」(審決注:酸化、還元についての記載であるから、「課程」は「過程」の誤記と認める。)について、【0012】には、次のように記載されている(下線は当審が付与した。)。
「成分が互いに反応しないために標的分子の結合を再形成しない、標的分子とは異なる構造の成分の生成物に標的分子を選択的に解離するプロセスが開発された。解離は、ある周波数および強度の光などのエネルギー、単独で、または標的分子内の結合を選択的に壊すのに有効な量の触媒と組み合わせて標的分子を処理することにより達成される。本プロセスは、構成部分の標的分子への、逆プロセスによる再会合をもたらさない。本プロセスが通常の還元酸化メカニズム経由で進行しないので、本プロセスはまた、酸素または他の付加物が組み込まれる、酸化または還元過程による成分の生成物、電子の交換、または分子の酸化状態の変化を生じない。」
この記載によれば、上記「酸化または還元課程(過程)」とは、酸素または他の付加物が組み込まれる、酸化または還元過程による成分の生成物、電子の交換、または分子の酸化状態の変化を生じるものであって、引用発明1のような、アンモニアが、水素と窒素に、直ちに分解するような反応は、「酸化または還元課程(過程)」を含まないものであることは明らかである。
そうすると、上記「(1-a)アンモニアの窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物への分離について」において、述べたように、引用発明1の紫外光分解では、「酸化または還元課程(過程)」により「水素ガス(H2)」と「窒素ガス(N2)」成分の生成物を生成しないものであるということができる。
したがって、上記相違点(1-c)は、実質的な相違点ではない。
(まとめ)
以上のとおり、本願発明は、引用発明1である。
また、仮に、本願発明と引用発明1とに、実質的な相違点があるとしても、本願発明は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)引用発明2を主引用例とした場合
本願発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「アンモニア(NH3)」は、本願発明の「アンモニア」に相当し、引用発明2の「水溶液中のアンモニア(NH3)を」「光分解する方法」は、本願発明の「アンモニアの選択的な解離のためのプロセス」に相当する。
引用発明2の「H2(気体の水素)」及び「N2(気体の窒素)」は、本願発明の「水素(H2)成分の生成物」及び「窒素(N2)成分の生成物」にそれぞれ相当する。
引用発明2の「光分解における光触媒として」の「白金担持の酸化チタンの微粒子」は、本願発明の「触媒」に相当し、引用発明2の「白金担持の酸化チタンの微粒子を用い」た「光分解」は、本願発明の「触媒の存在下で」の「処理」に相当する。
引用発明2の「光分解」では、「アンモニア(NH3)」を「H2(気体の水素)」と「N2(気体の窒素)」とに分解し、「H2(気体の水素)」と「N2(気体の窒素)」は、アンモニア(NH3)の化学量論比で生成され、他の反応物は生成するものではないことから、引用発明2の「光分解」は、本願発明の「アンモニアの2つまたは複数の標的結合を特異的に解離し、前記アンモニアを窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物に分離する」構成に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明2とは、
「アンモニアの選択的な解離のためのプロセスであって、
触媒の存在下でアンモニアを含む物質を処理して前記アンモニアの2つまたは複数の標的結合を特異的に解離し、前記アンモニアを窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物に分離することを含むプロセス。」である点で一致し、次の相違点2で相違が認められる。
(相違点2)
(2-a)アンモニアの窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物への分離について、本願発明は、アンモニアを励起するのに有効な量、強度およびエネルギーの周波数を用いていて、いかなる副生物も生成せず、また前記1つまたは複数の標的結合の再会合をせずに行われていて、
(2-b)アンモニアを含む物質の処理について、本願発明は、解離の前記エネルギーの周波数の量および強度を調節して前記アンモニア中の1つまたは複数の標的結合を解離させるのに必要とされるエネルギーに対して特異的であるようにすることを含み、前記エネルギーが、前記アンモニアのイオン化閾値未満のエネルギーを有する複数の光子によって提供されるものであり、
(2-c)プロセスについて、本願発明は、酸化または還元課程により前記窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物を生成しないものであるのに対し、
引用発明2は、このような規定はされていない点。
ここで、相違点2について検討する。
(2-a)アンモニアの窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物への分離について
引用発明2は、「光源として、Xeランプを用い」て光分解しており、光源からの光の量、強度、エネルギーの周波数は、光触媒下でアンモニアを励起するのに有効なものであることは明らかである。
また、引用発明2の紫外光分解では、「水素ガス(H2)」と「窒素ガス(N2)」は、アンモニア(NH3)の化学量論比で生成され、他の反応物は生成するものではなく、上記「(1-a)アンモニアの窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物への分離について」で述べたように、引用例2の「Fig.6」には、2NH3が光触媒下の光分解によって、直ちに、「N2+6H+」に分解され、「N2+6H+」に分解される際の電子を6H+が受取り、気体である3H2となることが示されており、触媒下のNH3の光分解は、いかなる副生物も生成せず、N3、H3の再会合をせずに行われるということができる。
したがって、上記相違点(2-a)は、実質的な相違点ではない。
(2-b)アンモニアを含む物質の処理について
引用発明2は、「光源として、Xeランプを用い」て光分解しており、しかも、「水素ガス(H2)」と「窒素ガス(N2)」以外の生成物を生じさせるものではない。
しかも、「NH3の直接の励起が若干の複雑な、そして望まない副反応を起こし、その結果、H2とN2両方のガスの発生は起きなかったことを確認した。そこで、NH3の直接の励起を避けるために現在のパイレックスガラスセルを採用した。」(3.結果と考察)という記載から、引用発明2では、光源からのエネルギーによって、NH3の直接の励起を避けるようにするものであり、引用発明2のXeランプからの光のエネルギーは、アンモニアのイオン化閾値未満のエネルギーであるということができる。
なお、引用例2の「要約」中の「Ar雰囲気下のPt-TiO2が存在する中でのNH3の光分解に対するpHの効果を、0.68~13.7までのpHについて調べた。H2の発生は、pHが9~10で急激に増加した。これは、このpHが、光分解において、NH4+を解離させ、遊離したNH3に変化させるためには重要なことであること(NH4+/NH3のpKaは9.24である。)を示している。」という記載における「NH4+」が、Xeランプからの光のエネルギーによってイオン化したアンモニアか否かについて検討する。
技術常識に照らせば、気体のアンモニア(NH3)は、水(H2O)中で、NH3+H2O ←→NH4++OH- のような平衡状態で、「NH4+」として安定して存在しているものであって、当該記載における「NH4+」は、水中に安定して存在するアンモニアイオンを示し、Xeランプからの光のエネルギーによって励起され、イオン化したアンモニアを示すものではないというべきである。
しかも、「光分解において、NH4+を解離させ、遊離したNH3に変化させる」という記載は、光分解は、その水中に安定して存在する「NH4+」に対して行われて、「NH4++OH- のような平衡状態」から、「NH4+」を遊離させて、気体のNH3に変化させるものであることを意味するものといえることから、光のエネルギーは、「NH4+」を遊離させて、気体のNH3に変化させることに用いられているものであって、「NH4+」は、Xeランプからの光のエネルギーによってイオン化したアンモニアと解することはできない。
そうすると、上記記載の「NH4+」は、Xeランプからの光のエネルギーによってイオン化したアンモニアを示すものではないといえる。
してみると、引用発明2の光源のXeランプからの光のエネルギーの周波数の量および強度は光分解のために、特異的に調節され、量、強度、エネルギーの周波数は、アンモニアを励起するのに有効なものであって、光は、アンモニアをイオン化閾値未満のエネルギーを有する複数の光子によって提供されているものであることは明らかである。
したがって、上記相違点(2-b)は、実質的な相違点ではない。
(2-c)プロセスについて
上記「(1-c)プロセスについて」で述べたように、本願発明の「酸化または還元課程(過程)」とは、酸素または他の付加物が組み込まれる、酸化または還元過程による成分の生成物、電子の交換、または分子の酸化状態の変化を生じるものであって、引用発明2のような、アンモニアが、水素と窒素に、直ちに分解するような反応は、含まないものであることは明らかである。
なお、引用例2には、「図6について、後述するように、Pt-TiO2粉末上に光照射をすることによってNH3が光分解するメカニズムにおいては、電荷が分離することで、TiO2粉末中に電子(e-)と正孔(h+)が生成され、その結果、Ptサイトのプロトンの減少により生じる正孔(h+)によって、NH3が酸化される。」(3.結果と考察)という記載があるものの、上記「(2-a)アンモニアの窒素(N2)および水素(H2)成分の生成物への分離について」において述べたように、引用発明2の光分解では、図6に示されるように、2NH3が光触媒下の光分解によって、直ちに、「N2+6H+」に分解され、「N2+6H+」に分解される際の電子を6H+が受取り、気体である3H2となることが示されており、引用発明2は、アンモニアが、水素と窒素に、直ちに分解するような反応であるから、引用例2に記載された上記「NH3」の「酸化」は、本願発明の「酸化または還元課程(過程)」に含まれないものである。
したがって、引用発明2は、本願発明と同じく、「酸化または還元課程(過程)により」「水素ガス(H2)」と「窒素ガス(N2)」成分の生成物を生成しないものであるということができる。
したがって、上記相違点(2-c)は、実質的な相違点ではない。
(まとめ)
以上のとおり、本願発明は、引用発明2である。
また、仮に、本願発明と引用発明2とに、実質的な相違点があるとしても、本願発明は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
7.むすび
以上のとおり、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、引用発明1又は引用発明2であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、また、本願発明は、引用発明1又は引用発明2に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
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2015-013243