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特許拒絶査定不服審判

2022-010347

インクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタの制御方法

審判番号
2022-010347
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-224460外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年07月04日
審決日
2023年09月12日
公報発行日
2023年12月28日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (B41J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-224460「インクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタの制御方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 6月 4日出願公開、特開2020- 82640〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 11項目
理 由

第1 手続の経緯

本願は、平成30年11月30日の出願であって、令和4年4月5日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年6月8日に意見書が提出されたが、同年6月14日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされたのに対し、同年7月4日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1乃至4に係る発明は、平成30年11月30日の特許出願時の特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定され、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
インク滴を吐出して印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、
インク滴を吐出する複数のノズルおよび複数の前記ノズルのそれぞれからインク滴を吐出させるための複数の吐出エネルギー発生素子を有するインクジェットヘッドと、前記吐出エネルギー発生素子を駆動して前記ノズルからインク滴を吐出させるための制御部とを備え、
前記ノズルからインク滴が最短周期で連続的に吐出されるときの前記吐出エネルギー発生素子の駆動周波数を最大駆動周波数とし、印刷時における所定のタイミングでインク滴の吐出を休止している前記ノズルを休止ノズルとし、前記休止ノズルからインク滴を吐出させるための前記吐出エネルギー発生素子を第1吐出エネルギー発生素子とすると、
前記制御部は、印刷時に、前記第1吐出エネルギー発生素子を前記最大駆動周波数よりも低い第1周波数で駆動して前記休止ノズル内のインクのメニスカスを振動させるとともに、前記第1周波数で前記第1吐出エネルギー発生素子を駆動するときに、前記インクジェットヘッドの共振周波数で前記第1吐出エネルギー発生素子を複数回駆動して、前記休止ノズル内の前記メニスカスを振動させることを特徴とするインクジェットプリンタ。」

第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由である、令和4年4月5日付け拒絶理由通知の理由は、次の理由を含むものである。

(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記

<引用文献等一覧>

1.特開2000-037867号公報

2.特開2014-233961号公報

第4 当審の判断

1 引用例

(1)引用例1

本願の出願日前の平成12年2月8日に頒布された公開公報である特開2000-37867号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数のノズルのそれぞれに対応して圧力発生素子が設けられたプリントヘッドを有し、入力データに基づいて前記各圧力発生素子を作動させることにより、前記各ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット式記録装置において、
インク滴を吐出させるための印刷用駆動信号とインク滴が吐出しない程度に前記圧力発生素子を作動させる微振動用駆動信号とを発生させる駆動信号発生手段と、
入力された印刷データに基づいて、前記印刷用駆動信号を選択するための印刷用ビットデータと前記微振動用駆動信号を選択するための微振動用ビットデータとを含んでなるドットパターンデータを生成するデータ生成手段と、
前記データ生成手段から入力される前記ドットパターンデータに基づいて、前記印刷用駆動信号と前記微振動用駆動信号とを前記圧力発生素子に対して一印刷周期内で入力可能なスイッチ手段とを備え、
前記データ生成手段は、前記印刷データに基づいて解析される前記各ノズルの稼働状態に応じた所定のパターンを選択し、該所定のパターンに従って前記微振動用ビットデータを所定の位置に設定することにより、前記ドットパターンデータを生成することを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項2】 前記データ生成手段には、前記所定のパターンとして第1のパターンが設定されており、
前記第1のパターンは、インク滴を吐出する直前の所定の期間における印刷周期では前記微振動用駆動信号を選択せず、それ以外の印刷周期では前記微振動用駆動信号を所定の比率で選択するように、前記微振動用ビットデータを設定させるものである請求項1に記載のインクジェット式記録装置。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インクジェット式記録装置及び記録方法に関し、特に、インク滴が吐出されない程度の振動をインクに与えることにより、インクの粘度増大を防止するインクジェット式記録装置及び記録方法に関する。」
ウ 「【0007】
【発明が解決しようとする課題】前記公報記載の従来技術では、メニスカスを微振動させることにより、インク粘度の増大防止を図っているが、頻繁にメニスカスを微振動させると、却って溶媒等の蒸発を招き、インク粘度が増大してしまうことがある。また、メニスカスの振動が十分減衰するまで多少の時間を要するため、例えば、インク滴を吐出する直前にメニスカスを微振動させた場合には、吐出されるインク滴の量、形状、飛行経路等が変動する可能性があり、印刷品質の低下を招く。また、周囲温度やインクの経時変化等に応じて、メニスカスの微振動がノズル開口部近傍のインク粘度に与える影響は相違するため、種々のパラメータが刻々と変化する中で、画一的にメニスカスを微振動させたのでは、過剰な微振動を与えることになり、却ってインク粘度が増大するおそれがある。換言すれば、従来技術では、各ノズルの稼働状態(いつどこでインク滴を吐出するか)や周囲環境等とメニスカスに与える微振動との関係の考察が不十分であり、必ずしも十分にインクの増粘を防止できていない。
【0008】本発明は、上記のような課題に鑑みなされたものであり、その目的は、各ノズルの稼働状態に応じてメニスカスを微振動させることにより、インク粘度の増大を防止し、インク滴の飛翔を安定化させることができるインクジェット式記録装置及び記録方法に関する。」
エ 「【0038】1.第1の実施の形態
まず、図1は、本発明の第1の実施の形態が適用されるインクジェット式記録装置としてのインクジェットプリンタの機能ブロック図である。
【0039】1-1 全体構成インクジェットプリンタは、プリンタコントローラ1とプリントエンジン2とから構成されている。プリンタコントローラ1は、図外のホストコンピュータ等からの印刷データ等を受信するインターフェース(以下「I/F」という)3と、各種データの記憶等を行うRAM4と、各種データ処理のためのプログラム等を記憶したROM5と、CPU等からなる制御部6と、発振回路7と、後述のプリントヘッド20への駆動信号を発生させる「駆動信号発生手段」としての駆動信号発生回路8と、ドットパターンデータ(ビットマップデータ)に展開された印字データ及び駆動信号等をプリントエンジン2に送信するためのI/F9とを備えている。」

オ 「【0042】「データ生成手段」としての制御部6は、受信バッファ4A内の印刷データを読み出して中間コードに変換し、この中間コードデータを中間バッファ4Bに記憶する。次に、制御部6は、中間バッファ4Bから読み出した中間コードデータを解析し、ROM5内のフォントデータ及びグラフィック関数等を参照して中間コードデータをドットパターンデータに展開する。ここで、制御部6は、その内部機能として、印刷データを解析して各ノズルの稼働状態を検出する印刷データ解析部11と、解析結果に応じて所定の位置で微振動をかけるべく微振動データを設定する微振動データ設定部12とを備えている。即ち、制御部6は、各主走査毎に、各色の各ノズルによってそれぞれ形成されるドット形成位置を予め解析し、各色のドット形成状態に基づいて各ノズルのメニスカスに与えるべき微振動を決定する。制御部6により生成されるドットパターンデータは、一印刷周期毎に吐出データと微振動データとがそれぞれ設定されており、出力バッファ4Cに記憶される。」

カ 「【0045】プリントヘッド20は、副走査方向に配設された多数のノズルを有し、所定のタイミングで各ノズルからインク滴を吐出させるものである。ドットパターンデータに展開された印字データは、発振回路7からのクロック信号(CK)に同期して、I/F9からシフトレジスタ23にシリアル伝送される。シリアル転送された印字データ(SI)は、一旦、ラッチ回路24によってラッチされる。ラッチされた印字データは、電圧増幅器であるレベルシフタ25によって、スイッチ回路26を駆動できる電圧、例えば数十ボルト程度の所定の電圧値まで昇圧される。所定の電圧値まで昇圧された印字データは、「スイッチ手段」としてのスイッチ回路26に与えられる。スイッチ回路26の入力側には、駆動信号発生回路8からの駆動信号(COM)が印加されており、スイッチ回路26の出力側には、「圧力発生素子」としての圧電振動子27が接続されている。」

キ 「【0056】一方、微振動パルスは、中間電位Vmから第2の最大電位VPSまで上昇し、第2の最大電位VPSを短時間維持した後、中間電位Vmに復帰する形状となっている。ここで、第2の最大電位VPSは、印刷パルスの最大電位VPMよりも低くなるように設定され、また、充電時の電圧勾配(Vm→VPS)と放電時の電圧勾配(VPS→Vm)とは略同一となるように設定されている。このような微振動パルスを圧電振動子27に入力すると、図4中の最下段右側に示すように、メニスカスはノズル穴32A内に若干引き込まれた後に押し戻され、インク滴は吐出されない。即ち、微振動パルスは、圧電振動子27を浅く充放電するものであるため、圧力発生室37内の圧力変化は比較的緩やかなものとなり、インク滴を吐出させずにメニスカスを微振動させることができる。これにより、ノズル穴32A近傍のインクは、新たなインクと入れ替わり、インク粘度の増大が防止される。
【0057】次に、印字データ(ドットパターンデータ)の転送タイミングについて説明すると、印刷パルス及び微振動パルスの発生タイミングと吐出データ及び微振動データの転送タイミングとを同期させることにより、所望の位置でインク滴を吐出させたり、微振動を与えたりすることができる。即ち、印刷パルスが発生する前の時点で、各色各ノズルの上位ビットデータ(吐出データ)D1をプリントヘッド20に転送してラッチさせ、印刷パルスの開始と共にスイッチ回路26を作動させる。これにより、各ノズルに対応するスイッチ回路26には「1」または「0」の吐出データが入力され、吐出すべきノズルからはインク滴が吐出され、吐出すべきでないノズルは休止状態に置かれる。同様に、微振動パルスが発生する前に、各色各ノズルの下位ビットデータ(微振動データ)D2を転送してラッチさせ、微振動パルスの発生開始と同時にスイッチ回路26に微振動データを入力して作動させる。これにより、微振動データとして「1」が与えられたノズルでは微振動が行われ、微振動データとして「0」が与えられたノズルでは微振動が行われない。」

ク 「【0063】まず、1ライン分の印字バッファをDnx(但し、x=1,2,3,・・・m(mは偶数))とする。xが奇数をとる場所には、インク滴を吐出するための吐出データが格納されており、xが偶数をとる場所には、微振動データが格納される。データDnxが「1」である場合は駆動、「0」である場合は非駆動を示す。図8を先に参照すると、図8には、#1~#3までの3個のノズルの印字バッファの概略が示されている。各印字バッファには、1~34番までのデータが格納される。この場合、m=34である。奇数番のデータ1,3,5,7,・・・33には、吐出データが格納され、偶数番のデータ2,4,6,8,・・・34には、微振動データが格納される。また、黒丸はデータが「1」であることを示し、白丸はデータが「0」であることを示す。従って、例えば、ノズル番号#1におけるx=3の吐出データは「1」に設定されており、x=34の微振動データは「0」に設定されている。」

ケ「【0101】図18(b)に示すように、微振動期間Tsは、微振動が行われる期間を規定するものである。図18(c)に示すように、例えば、微振動期間Ts=100,比率α=100%とすると、連続する100個の印刷周期において、全ての微振動データに「1」が設定されることになる。また、例えば、微振動期間Ts=60,比率α=50%とすると、連続する60個の印刷周期において、1個おきの微振動データに「1」が設定される。」

コ 「
[図:0001404213000001.jpg]
」
サ 「
[図:0001404213000002.jpg]
」

シ 上記オ【0042】の「制御部6」が備える「印刷データ解析部11」が、「印刷データを解析して各ノズルの稼働状態を検出」し、「微振動データ設定部12」が、「解析結果に応じて所定の位置で微振動をかけるべく微振動データを設定する」ことは、上記ア【請求項1】の「前記データ生成手段は、前記印刷データに基づいて解析される前記各ノズルの稼働状態に応じた所定のパターンを選択し、該所定のパターンに従って前記微振動用ビットデータを所定の位置に設定することにより、前記ドットパターンデータを生成すること」に対応する。

ス 上記キ【0057】の「各ノズルに対応するスイッチ回路26」には、「「1」または「0」の吐出データが入力され、吐出すべきノズルからはインク滴が吐出され、吐出すべきでないノズルは休止状態に置かれる。」と同様に、「微振動データ」が「入力」されて「作動」するから、上記キ【0057】の「各ノズルに対応するスイッチ回路26」は、上記ア【請求項1】の「ドットパターンデータに基づいて、前記印刷用駆動信号と前記微振動用駆動信号とを前記圧力発生素子に対して一印刷周期内で入力可能なスイッチ手段」に対応する。

セ 上記ケ【0101】の「微振動期間Ts=60,比率α=50%とすると、連続する60個の印刷周期において、1個おきの微振動データに「1」が設定される」は、上記ア【請求項2】の「所定のパターンとして第1のパターン」が「微振動用駆動信号を所定の比率で選択するように、微振動用ビットデータを設定させるもの」に対応する。

ソ 上記ク【0063】より、図8は、各ノズルの印字バッファの概略図であることからすると、図18も各ノズルの印字バッファの概略図であると認められる。そして、図18の微振動期間Tsの後に、吐出データに「1」が現れていることからも、図18の微振動期間Tsは、印刷時において、当該ノズルが非駆動であることを意味していると認められる。

そうすると、上記記載事項ア乃至サ、及び認定事項シ乃至ソより、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「複数のノズルのそれぞれに対応して圧力発生素子が設けられたプリントヘッドを有し、入力データに基づいて前記各圧力発生素子を作動させることにより、前記各ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット式記録装置において、
インク滴を吐出させるための印刷用駆動信号とインク滴が吐出しない程度に前記圧力発生素子を作動させる微振動用駆動信号とを発生させる駆動信号発生手段と、
入力された印刷データに基づいて、前記印刷用駆動信号を選択するための印刷用ビットデータと前記微振動用駆動信号を選択するための微振動用ビットデータとを含んでなるドットパターンデータを生成するデータ生成手段と、
前記データ生成手段から入力される前記ドットパターンデータに基づいて、前記印刷用駆動信号と前記微振動用駆動信号(微振動パルス)とを前記圧力発生素子に対して一印刷周期内で入力可能なスイッチ手段とを備え、
前記データ生成手段は、前記印刷データに基づいて解析される前記各ノズルの稼働状態に応じた所定のパターンを選択し、該所定のパターンに従って前記微振動用ビットデータを所定の位置に設定することにより、前記ドットパターンデータを生成し、
前記データ生成手段には、前記所定のパターンとして第1のパターンが設定されており、
前記第1のパターンは、印刷時において、当該ノズルが非駆動であって、
前記微振動用駆動信号を、微振動期間Ts=60に対して、比率α=50%、すなわち、連続する60個の印刷周期において、1個おきの微振動データに「1」を設定するように、前記微振動用ビットデータを設定させるものであるインクジェット式記録装置。」

(2)引用例2

本願の出願日前の平成26年12月15日に頒布された公開公報である特開2014-233961号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドの制御方法および液体吐出装置に関する。」
イ 「【0007】
ここで、画像形成装置に備えられた液体吐出ヘッドは、長い期間吐出しない状態が続くと、ノズル内部のインクが増粘・乾燥し、ノズル詰まりを起こしてしまう。このような事態を防ぐために、非印字領域では乾燥したインクを強制的に排出する空吐出や、インクを吐出させない程度の波形を印加して、メニスカス、つまりインク表面を揺らすことで乾燥を防ぐ微駆動が行われている。
【0008】
また、微駆動に関し、印字領域においてもインクを吐出しないノズルに微駆動波形を印加し、印字中でもノズル乾燥しないように制御を行うことが既に知られている。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、滲みに強く、他の印刷物への転写を防止するためのインク特性として、より乾燥性の高いものが望まれることは言うまでもない。その一方で、上述のように、吐出異常対策として、印字中のノズルの乾燥を防止するため微駆動波形を印加する制御についても考慮する必要がある。
【0013】
続きを表示(全15行)
一方で、増粘・乾燥が速いインクを使用する場合、メニスカスの乾燥を防ぐためにはより効果の高い微駆動制御が求められる。図14(a)に従来からの1パルスの微駆動波形の模式図を示すが、仮に、メニスカスの乾燥を防ぐためにこの1パルスの微駆動波形を制御する場合、微駆動Z1の電位VZ1の大きさを制御することが考えられる。
【0014】
つまり、どの程度、微駆動の効果を得たいかによって電位VZ1の大きさを変えるという制御になる。具体的には、メニスカスの増粘・乾燥による吐出障害を防ぐために電位VZ1を大きくするという制御を行うことになる。
【0015】
しかし、乾燥性の高いインクを使用する場合、単純に微駆動波形の電圧を高める対策では、次のような問題が発生するおそれがある。それは、メニスカスを揺らしながらインクを攪拌する目的であるはずの微駆動波形により、インクがメニスカスを破って吐出してしまうというものである。これは、いきなり強い波形が圧力発生素子に印加されるため、メニスカスに過度の負担がかかるためである。
【0016】
つまり、単純に1パルスの微駆動波形の電圧を高めた場合、図14(b)に示した1パルスの微駆動波形の振幅が、微駆動波形印加の初期段階から大きくなってしまうことは明白である。
【0017】
そして、特許文献1に開示された複数の微駆動波形を圧力発生素子に供給する場合において、各微駆動波形の電圧を高めるときにも上記と同様の問題が発生することに変わりない。
【0018】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、メニスカスに与える過度の負担を減らしつつ、意図しない誤吐出の発生を防止する液体吐出ヘッドの制御方法を提供することを目的とする。」
エ 「【0097】
本実施形態においては、図8に示したパルス間隔TF12、TF23、TG12、TG23は同じ長さとしているが、共振等を利用し、図6(b)で示したような段階的に微駆動効果を大きくする制御を行う。また、本実施形態においては、調整可能なパラメータが少なくなっているため、図8(c)の一点鎖線で示したH12パルス・H23パルスのような補助駆動波形を挿入し、微駆動波形H1及びH2、H2及びH3の間に配置してもよい。これにより、電圧が制御できない分の微駆動制御の幅を持たせることができる。
【0098】
【参考例1】
本発明の参考例1としての液体吐出ヘッドの制御方法について図9(a)を参照して説明する。まず本参考例1が、第1実施形態と異なるのは、各パルスの立上げ要素Trの始まる時間をそれぞれTB1、TB2、TB3としたときのTB2-TB1、TB3-TB2をともにTcとしている点である。
【0099】
ここで、Tcとは、液体吐出ヘッドの固有振動周期と呼ばれる特有の値であり、液室構造で一意に決まるパラメータである。そして、TB2-TB1=TB3-TB2=Tcとすることで共振を利用することができ、より効率的に微駆動動作に力を使用することが出来る。」
オ 「【図9】
[図:0001404213000003.jpg]
」

カ 上記【図9】(a)より、固有振動周期Tcで複数回共振駆動する信号が看取できる。

そうすると、上記エの記載を勘案すると、共振周波数Tcで前記第1吐出エネルギー発生素子を複数回駆動する微駆動波形を印加する制御方法が記載されているものと認められる。

そうすると、上記ア乃至オ、及び認定事項カより、引用例2には以下に示す発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「画像形成装置であって、
液体吐出ヘッドのノズル内部のインクが増粘・乾燥してノズル詰まりを起こしてしまうことを防ぐためにインクを吐出させない程度の波形を印加してメニスカスを揺らす微駆動を行うものであり、印字領域においてインクを吐出しないノズルにも微駆動波形を印加することにより印字中でもノズルが乾燥しないように制御を行うものにおいて、
固有振動周期Tcで複数回共振駆動する、
画像形成装置。」

2 対比

本願発明と引用発明1とを対比する。

(1)後者の「インク滴を吐出させるインクジェット式記録装置」、「『インク滴を吐出』する『各ノズル』」、「『複数のノズルのそれぞれに対応し』た『圧力発生素子』」、及び「プリントヘッド」は、それぞれ、前者の「インク滴を吐出して印刷を行うインクジェットプリンタ」、「インク滴を吐出する複数のノズル」、「複数の前記ノズルのそれぞれからインク滴を吐出させるための複数の吐出エネルギー発生素子」、及び「インクジェットヘッド」に相当する。

(2)後者の「データ生成手段」は、上記1(1)シを参酌すると、前者の「前記吐出エネルギー発生素子を駆動して前記ノズルからインク滴を吐出させるための制御部」に相当する。

(3)後者の「印刷時において」、「非駆動」の「ノズル」は、前者の「印刷時における所定のタイミングでインク滴の吐出を休止している前記ノズルを休止ノズル」に相当する。

(4)後者の「『複数のノズルのそれぞれに対応し』た『圧力発生素子』」は、「複数のノズルのそれぞれに対応し」たものであるから、後者の「インクジェット式記録装置」は、前者の「前記休止ノズルからインク滴を吐出させるための前記吐出エネルギー発生素子」である「第1吐出エネルギー発生素子」を備えるといえる。

(5)後者の「微振動用駆動信号」は、「微振動期間Ts=60に対して、比率α=50%、すなわち、連続する60個の印刷周期において、1個おきの微振動データに「1」を設定するように、前記微振動用ビットデータを設定させるものである」から、前者の「印刷時に、第1吐出エネルギー発生素子を最大駆動周波数よりも低い第1周波数で駆動して休止ノズル内のインクのメニスカスを振動させる」ものといえる。

(6)インクジェットプリンタにおいて、「ノズルからインク滴が最短周期で連続的に吐出されるときの吐出エネルギー発生素子の駆動周波数」を「最大駆動周波数」とすることは、技術常識といえる事項である。

(7)上記から、本願発明と引用発明1とは、以下の一致点で一致し、

[一致点]

「インク滴を吐出して印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、
インク滴を吐出する複数のノズルおよび複数の前記ノズルのそれぞれからインク滴を吐出させるための複数の吐出エネルギー発生素子を有するインクジェットヘッドと、前記吐出エネルギー発生素子を駆動して前記ノズルからインク滴を吐出させるための制御部とを備え、
前記ノズルからインク滴が最短周期で連続的に吐出されるときの前記吐出エネルギー発生素子の駆動周波数を最大駆動周波数とし、印刷時における所定のタイミングでインク滴の吐出を休止している前記ノズルを休止ノズルとし、前記休止ノズルからインク滴を吐出させるための前記吐出エネルギー発生素子を第1吐出エネルギー発生素子とすると、
前記制御部は、印刷時に、前記第1吐出エネルギー発生素子を前記最大駆動周波数よりも低い第1周波数で駆動して前記休止ノズル内のインクのメニスカスを振動させる、インクジェットプリンタ。」

以下の相違点で相違する。

[相違点]

本願発明が、第1周波数で第1吐出エネルギー発生素子を駆動するときに、「インクジェットヘッドの共振周波数で前記第1吐出エネルギー発生素子を複数回駆動して」休止ノズル内のメニスカスを振動させるものであるのに対し、引用発明1における「微振動」は微振動パルスである点。

3 判断

(1)インクジェットプリンタの分野において、共振周波数とは固有振動数のことを意味することは技術常識といえる事項であるから、引用発明2の「微振動波形」が「固有振動周期Tc」で振動するとは、本願発明の「共振周波数」で駆動することに相当する。

(2)してみると、引用発明2の「微振動波形」は、「固有振動周期Tcで複数回共振駆動する」ものであるから、引用発明2には、上記相違点に係る構成が示されているといえる。

(3)引用発明1も引用発明2もインクジェットプリンタの技術分野に属する点で一致する。

(4)引用発明1は、各ノズルの稼働状態に応じてメニスカスを微振動させることにより、インク粘度の増大を防止し、インク滴の飛翔を安定化させることを課題とし、引用発明2は、吐出異常対策として、印字中のノズルの乾燥を防止するため微駆動波形を印加する制御において、メニスカスに与える過度の負担を減らしつつ、意図しない誤吐出の発生を防止することを課題としており、両者は、インクジェットヘッドにおける吐出安定化のための微振動駆動を効率的に行う点で、課題が共通しているといえる。

(5)そうすると、引用発明1に引用発明2を適用する動機付けがあるところ、引用発明1の微振動用駆動信号として、引用発明2の固有振動周期Tcで複数回共振駆動する微振動波形を適用し、以て上記相違点の構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。

(6)請求人は、「引用文献1、2には、「印刷時に、第1吐出エネルギー発生素子を最大駆動周波数よりも低い第1周波数で駆動して休止ノズル内のインクのメニスカスを振動させ、なおかつ、第1周波数で第1吐出エネルギー発生素子を駆動するときに、インクジェットヘッドの共振周波数で第1吐出エネルギー発生素子を複数回駆動して、休止ノズル内のメニスカスを振動させる」といった本願発明1の構成C(中略)は開示も示唆もされていない。(中略)引用発明1に引用発明2を適用する動機付けはないものと思慮する。(中略)(h)また、本願発明1~4では、(中略)「印刷中の所定のタイミングでインク滴の吐出を休止しているノズルの中のインクの粘度の上昇を効果的に抑制することを可能にすること」を解決課題としており(以下、この解決課題を課題aとする。)、(中略)液体吐出ヘッドの固有振動周期で積層型圧電素子を駆動する引用発明2を引用発明1に適用する動機付けは、この課題aが認識されなければ生じないものと思慮するが、引用文献1、2には、課題aは記載されていない。従って、引用発明1に引用発明2を適用する動機付けはないものと思慮する。」と主張する。

(7)しかし、上記のとおり、引用文献1及び引用文献2のそれぞれには、本願発明の「印刷時に、前記第1吐出エネルギー発生素子を前記最大駆動周波数よりも低い第1周波数で駆動して前記休止ノズル内のインクのメニスカスを振動させるとともに、前記第1周波数で前記第1吐出エネルギー発生素子を駆動するときに、前記インクジェットヘッドの共振周波数で前記第1吐出エネルギー発生素子を複数回駆動して、前記休止ノズル内の前記メニスカスを振動させる」との構成すべてを備えるものではないことは、上記2(7)のとおりであるが、引用発明1と引用発明2とは、共通する課題を備えるといえることから、引用発明1に引用発明2を適用する動機付けがあるといえることは上記(4)のとおりである。してみると、請求人の上記(6)の主張は採用できない。

(8)そして、本願発明によって奏される効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測し得る範囲内のものといえる。

4 まとめ

本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて,本願の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2022-010347

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