特許拒絶査定不服審判
2024-009722
インクジェットインク組成物、およびインクジェット記録方法
- 審判番号
- 2024-009722
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-047936
- 請求日
- 2024年06月11日
- 審決日
- 2025年12月12日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社ミマキエンジニアリング
- 【請求人代理人】弁理士法人紀尾井坂テーミス
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 川村 大輔
- 審判官 高松 大
- 分類
- P18 .121-WZ (C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 47936「インクジェットインク組成物、およびインクジェット記録方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年11月26日出願公開、特開2020-189961〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特願2020-47936号(以下「本件出願」という。)は、令和2年3月18日(優先権主張 令和元年5月17日)の出願であって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 5年10月17日付け:拒絶理由通知
令和 6年 1月17日 :手続補正書、意見書の提出
同年 3月 1日付け:拒絶査定
同年 6月11日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 7年 7月15日付け:拒絶理由通知
同年 9月10日 :手続補正書、意見書の提出
第2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、令和7年9月10日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のものである。
「 樹脂製のフイルム又は基材の表面が樹脂でコーティングされたインク非吸収性のメディアか、或いはアート紙、コート紙及びマット紙から選ばれるインク低吸収性のメディアであって、純水との接触時間100m秒における吸水量が10g/m2以下である加熱されたメディアに、前記加熱されたメディアの表面近傍を移動するインクジェットヘッドから吐出されるインクジェットインク組成物であって、
前記インクジェットインク組成物は、
顔料と、水と、水溶性有機溶剤と、樹脂エマルジョンと、を含有し、
前記水溶性有機溶剤は、炭素数が6以上10以下のアルカンジオールであり、
前記アルカンジオールの前記インクジェットインク組成物に対する質量比(アルカンジオール/インクジェットインク組成物)の最小値が10%であり、
前記水と前記アルカンジオールの前記インクジェットインク組成物に対する質量比(水+アルカンジオール/インクジェットインク組成物)が、85%以上90%以下であり、
前記アルカンジオールの前記水に対する質量比(アルカンジオール/水)が、10%以上35%以下である、ことを特徴とするインクジェットインク組成物。」
第3 当合議体が通知した拒絶の理由
令和7年7月15日付けで当合議体が通知した拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
理由3:(進歩性)本件出願の請求項1~5に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2016-183234号公報
引用文献2:特開2014-224248号公報
引用文献3:特開2014-214160号公報
引用文献4:特開2015-187231号公報
参考文献 :特開2019-26845号公報
(当合議体注:引用文献1及び引用文献4は主引例である。引用文献2及び引用文献3は、周知技術を示す文献である。参考文献は、コート紙の吸水量を示す文献である。)
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
当合議体が通知した拒絶の理由で引用された引用文献1は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明を記載するものであるところ、そこには以下の記載がある。下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す(以下、同様である。)。
(1) 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般の印刷基材、特にコート紙、アート紙や塩化ビニルシートなどの疎水性の高い基材への印字性に優れ、インクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性に優れる水系インクジェット用顔料インキに関する。
・・・(略)・・・
【背景技術】
・・・(略)・・・
【0003】
一方、産業用途においても、インクジェット技術の向上によりデジタル印刷の出力機としての利用が期待され、環境面および印刷物の耐性面等から水性顔料インキが求められている。
【0004】
水性顔料インキは、顔料が水に不溶であるため、インキ中での顔料分散を保つために分散樹脂を用いて水中での分散安定化を図っている。(例えば特許文献1,2,3参照)。また、インクジェット記録方式の場合、ノズルの乾燥防止を目的として、保湿剤と位置づけられる高沸点の水溶性溶剤が含まれている。
【0005】
一般的に、水性インキの乾燥機構は、インキが基材へ着弾後、基材への浸透と蒸発に分類されるが、浸透の寄与が非常に大きく、コート紙(片面に20g/m2程度塗工した紙)、アート紙(片面に40g/m2程度塗工した紙)や塩化ビニルシートなどの疎水性が高い基材はインキの浸透が遅いため、多色印刷の場合はインキが混色してきれいな画像を形成できない、印刷速度を上げられない等の問題があった。
・・・(略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、インクジェット記録用の顔料インキにおいて、一般の印刷基材、特にコート紙、アート紙や塩化ビニルシートなどの疎水性の高い基材への浸透性に優れることにより、印字性に優れ、インクジェットノズルからの吐出安定性とインキの分散性に優れるインクジェット用顔料インキを提供することにある。」
(2) 「【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。
【0011】
即ち本発明は、顔料、水溶性溶剤、水及び顔料分散樹脂を含むインクジェット用顔料インキであって、前記顔料分散樹脂が、少なくとも下記の単量体Aおよび単量体Bを共重合組成に含むコポリマーであることを特徴とするインクジェット用顔料インキに関する。
単量体A:フッ素原子を有するエチレン性不飽和単量体
単量体B:炭素数10以上24以下のアルキル基を有するエチレン性不飽和単量体
・・・(略)・・・
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、一般の印刷基材、特にコート紙、アート紙や塩化ビニルシートなどの疎水性の高い基材への印字性に優れ、インクジェットノズルからの吐出安定性、分散性に優れる水系インクジェット用顔料インキを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明のインキが優れた効果を発揮する理由について説明する。浸透性の高い水溶性溶剤を用いた場合には、インキの溶媒の疎水性が上がるために、顔料に吸着している分散樹脂が溶媒へ脱着しやすくなり分散性が低下するものと考えられる。
顔料分散樹脂の重合成分として、フッ素原子を有するエチレン性不飽和単量体(単量体A)および炭素数10以上24以下のアルキル基を有するエチレン性不飽和単量体(単量体B)を用いる事により分散樹脂が溶媒へ脱着しにくくなり、非常に微細に分散された状態を形成する事が可能になる。さらに、浸透性の高い溶剤を多量に使用した場合においても印字性とノズルからの吐出性に優れ、微細に分散されたインキを得ることができる。
・・・(略)・・・
【0021】
<顔料分散樹脂>
本発明の顔料インキは、フッ素原子を有するエチレン性不飽和単量体である単量体Aおよび炭素数10以上24以下のアルキル基を有するエチレン性不飽和単量体である単量体Bを共重合組成に含む顔料分散樹脂を含有してなることを特徴とする。
【0022】
(単量体A)
本発明で使用する単量体Aは、フッ素原子を有するエチレン性不飽和単量体である。単量体Aを重合成分に組み込む事によって、顔料分散樹脂の疎水性を非常に高める事ができる。その結果、分散樹脂の溶媒溶解性は低くなり、先述の高浸透性溶剤存在下においても分散樹脂は顔料から溶媒へ脱着する事なく、強固な顔料吸着を保持する事が可能であり、微細な分散状態の形成が可能となる。
・・・(略)・・・
【0026】
(単量体B)
本発明で用いられる顔料分散樹脂は、単量体Aに加えて、単量体B;炭素数10以上24以下のアルキル基を有するエチレン性不飽和単量体(フッ素原子またはカルボキシル基を有する場合を除く)を使用すると、更に高い分散性能を得る事ができる。
・・・(略)・・・
【0027】
(単量体C)
単量体Cはカルボキシル基を有しており、イオン化した際の電荷反発によって微細分散安定化が可能となるため、単量体A、Bと併せて使用する事が好ましい。
・・・(略)・・・
【0028】
(その他の単量体)
顔料分散樹脂は、前記単量体A~C以外のその他の単量体を重合組成に含んでいてもよい。
・・・(略)・・・
【0036】
(顔料分散樹脂の重量平均分子量、酸価)
本発明のインキの構成成分として用いる上記のような単量体成分を共重合してなる顔料分散樹脂は、重量平均分子量が2,000~100,000の範囲であることが好ましく、5,000~80,000がより好ましく、10,000~60,000が更に好ましい。
・・・(略)・・・
【0037】
(顔料分散樹脂の添加量)
本発明のインキについて、顔料分散樹脂の添加量は、インキ中の顔料合計100重量%に対して3重量%以上70重量%以下の範囲であり、好ましくは5重量%以上60重量%以下、さらに好ましくは10重量%以上45重量%以下の範囲である。
・・・(略)・・・
【0039】
(顔料分散樹脂の製造方法)
顔料分散樹脂は、通常のアクリルの溶液重合により得られる。しかしながら、アクリルの溶液重合時には溶剤に溶解しており、水性媒体中に分散または溶解させるためには、以下の方法がある。
(1)一つ目の方法としては、水と共沸する溶剤中で重合し、その後、水とアミンを加えて中和し、水性化する。さらに、溶剤を水と共沸させ、溶媒は完全に水のみとする。
(2)二つ目の方法としては、最終的にインキに含まれる水溶性溶剤を合成溶媒として重合する。その後、水とアミンを加えて中和し水性化するが、溶剤は取り除くことをせず、そのまま後述のプレミキシング、分散処理を行う。
・・・(略)・・・
【0043】
<顔料>
本発明のインキは、インキの全質量中に、質量比で、0.1質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上12質量%以下の範囲で、顔料を含有させたものであることが好ましい。本発明においては、下記に挙げるような顔料を使用することができる。
・・・(略)・・・
【0045】
本発明のインクジェットインキは、顔料分散樹脂を水性媒体中に溶解、あるいは懸濁させた後、この液中に顔料を投入し、ハイスピードミキサー等で均一になるまで撹拌混合した後、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型サンドミルといったビーズミルやロールミル、メディアレス分散機等の種々の分散機を用いて分散して製造することができる。
【0046】
<水性媒体(水、水溶性溶剤)>
本発明のインクジェットインキを形成する場合に好適な水性媒体は、水及び水溶性溶剤(有機溶剤)の混合溶媒であるが、水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0047】
水と混合して使用される水溶性溶剤(有機溶剤)としては特に制限されないが、ジオール類や、グリコールエーテル類などが効果的である。これらの溶剤種は基材への浸透が非常に速く、コート紙、アート紙や塩化ビニルシートといった溶媒の吸収性の低い基材に対しても、浸透が速い。そのため、印字の際の乾燥が速く、正確な印字を実現することができる。また、沸点が高いため、保湿剤としての働きも十分である。
【0048】
ジオール類の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオールなどがあげられる。
・・・(略)・・・
【0050】
基材への浸透性で特に効果が高いものは、ジオール類においては、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール等の炭素数3~6のアルカンジオールである事がより好ましく、中でも1,2-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオールが特に好ましい。また、グリコールエーテル類においては、ジエチレングリコールモノブチルエーテルやジエチレングリコールモノヘキシルエーテル等のような(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルである事がより好ましい。
【0051】
これらの有機溶剤は単独で使用しても良く、複数を混合して使用することもできるが、前述のコート紙、アート紙や塩化ビニルシートなどに対して、より高い浸透性を付与するために、上記したような有機溶剤の総量としてのインキ中における含有量が、インキの全質量の10質量%以上50質量%以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは15質量%以上40質量%以下の範囲である。
【0052】
また、水の含有量としては、インキの全質量の10質量%以上90質量%以下であり、好ましくは、30質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは40質量%以上70質量%以下の範囲である。
・・・(略)・・・
【0054】
<その他の成分>
(水性エマルジョン)
さらに、本発明のインキは、水性のエマルジョンを含有することが好ましい。水性のエマルジョンを含有することで、粘度はあまり上昇させずに、印字した塗膜の耐性を向上させることができる。これにより、耐水性、耐溶剤性、耐擦過性などが向上する。水溶性の樹脂を添加しても、ある程度耐性の向上は期待できるが、粘度が上昇してしまう傾向にある。インクジェットインキの場合、ノズルからインキを吐出できる粘度にはある範囲があり、あまり粘度が高いとインキを吐出することができなくなることがあるため、粘度の上昇を抑えることは重要である。
【0055】
上記したような水性のエマルジョンのインキ中における含有量は、固形分で、インキの全質量の2質量%以上30質量%以下の範囲であり、より好ましくは、3質量%以上20質量%以下の範囲である。
・・・(略)・・・
【0057】
<インクジェットインキの製造>
上記したような成分からなる本発明のインキの製造方法としては、下記のような方法が挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。先ず初めに、顔料分散樹脂と、水とが少なくとも混合された水性媒体に顔料を添加し、混合撹拌した後、後述の分散手段を用いて分散処理を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望の顔料分散液を得る。次に、必要に応じてこの顔料分散液に、水溶性溶剤、或いは、上記で挙げたような適宜に選択された添加剤成分を加え、撹拌、必要に応じて濾過して本発明のインクとする。」
(3) 「【実施例】
【0062】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中、「部」および「%」は、「重量部」および「重量%」をそれぞれ表す。また樹脂の重量平均分子量(Mw)は以下の通りである。
【0063】
(樹脂の重量平均分子量(Mw))
樹脂の重量平均分子量(Mw)は、TSKgelカラム(東ソー社製)を用い、RI検出器を装備したGPC(東ソー社製、HLC-8220GPC)で、展開溶媒にTHFを用いて測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)である。
(樹脂の酸価)
樹脂の酸価は、JIS K 0070の電位差滴定法に準拠し、測定した酸価(mgKOH/g)を固形分換算した値である。
【0064】
<顔料分散樹脂の製造方法>
(合成例1)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブチルジグリコール54.5部、ベヘニルアクリレート40.0部、化合物1 20.0部、アクリル酸40.0部、チオグリセロール1.2部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、V-601(和光純薬製)0.3部を添加した後、7時間反応させる事で、重量平均分子量は約3万、酸価は約300(mgKOH/g)の共重合体1溶液を得た。
さらに、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール51.2部添加し中和した。これは、アクリル酸を100%中和する量である。さらに、水を210部添加して、不揮発分24%の顔料分散樹脂(A-1)の水溶液ないし水性分散体を得た。
【0065】
(合成例2~11、13~16、比較合成例1~3)
表1、2に示す配合組成で、合成例1と同様の方法で合成し、合成例2~11、13~16、比較合成例1~3の顔料分散樹脂の水溶液ないし水性分散体を得た。
・・・(略)・・・
【0067】
【表1】
[図:0001431717000001.jpg]
・・・(略)・・・
【0069】
表1、2中の略称を以下に示す。
LMA:ラウリルメタクリレート
STMA:ステアリルメタクリレート
VA:ベヘニルアクリレート
AA:アクリル酸
St:スチレン
BzMA:ベンジルメタクリレート
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート
BA:ブチルアクリレート
2EHMA:2-エチルヘキシルメタクリレート
V-601:ラジカル重合開始剤(和光純薬製)
DMAE:ジメチルアミノエタノール
化合物1:下記化合物(1)に示す単量体
化合物2:下記化合物(2)に示す単量体
化合物3:下記化合物(3)に示す単量体
化合物4:下記化合物(4)に示す単量体
化合物5:下記化合物(5)に示す単量体
化合物6:下記化合物(6)に示す単量体
化合物7:下記化合物(7)に示す単量体
・・・(略)・・・
【0072】
化合物(3)
【化5】
[図:0001431717000002.jpg]
・・・(略)・・・
【0077】
<顔料分散体の製造方法>
(顔料分散体(B-1)の製造)
下記の組成の混合物を均一になるようにディスパーで予備分散した後、直径0.5mmジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間本分散を行い、顔料分散体(B-1)を得た。
赤顔料(Pigment red 122) 20.0部
顔料分散樹脂(A-3) 25.0部
水 55.0部
【0078】
(顔料分散体(B-2~59)の製造)
顔料および顔料分散樹脂の種類と質量比率を表3~6に記載したように変更する以外は、顔料分散体(B-1)と同様にして、顔料分散体(B-2~59)を得た。
【0079】
【表3】
[図:0001431717000003.jpg]
・・・(略)・・・
【0084】
<インクジェットインキの製造方法>
[実施例1]
(インクジェットインキ(J-1)の製造)
下記の組成の混合物を均一になるようにディスパーで攪拌混合し、インクジェットインキ(J-1)を得た。
顔料分散体(B-1) 25.0部
1,2-ヘキサンジオール 15.0部
水 60.0部
このとき、インキ100部の中に、顔料5部、分散樹脂1.5部が含まれている。
【0085】
[実施例2~52、比較例1~12]
(インクジェットインキ(J-2~64)の製造)
顔料分散体の種類と配合量を表7~11に記載したように変更する以外は、実施例1と同様にして、インクジェットインキ(J-2~64)を得た。
【0086】
<インクジェットインキの評価>
得られたインクジェットインキ(J-1~64)の分散性、経時安定性、印字性、吐出性の評価を下記方法で行った。表7~11に評価結果を示す。
【0087】
(インキの分散性)
インキが微細に分散できており、発色が非常に良好であるものを6、良好であるものは5、ある程度良好なものは4、やや悪いものは3、悪いものは2、非常に悪いものは1とした。評価が4,5,6のものは実用上問題のないレベルである。
【0088】
(インキの経時保存安定性)
インキを70℃の恒温機に1週間保存、経時促進させた後、経時前後でのインキの粘度変化について測定した。70℃1週間保存前後の粘度変化がなければ±5%未満であれば○、±5%以上±10%未満であれば△、±10%以上であれば×とした。粘度変化が小さいほど優れており、×は実用上問題のあるレベルである。
インキの粘度はE型粘度計(東機産業社製「ELD型粘度計」)を用いて、25℃において回転数50rpmという条件で測定した。
【0089】
(インキの印字性)
インキをインクジェットプリンター(エプソン社製「PM-750C」)のカートリッジに詰めて、コート紙(王子製紙製OKトップコート+、米坪104.7g/m2)に印刷した。印刷したサンプルをルーペで観察し、ドットのつながりや色のムラなどを評価した。印刷品質が非常に良好なものは◎、良好なものは○、ある程度良好なものは△、良好でないものは×とした。×は実用上問題のあるレベルである。
【0090】
(インキの吐出性)
インキを連続吐出させ、打ち出された液滴の状態を観察した。吐出不良がないものは◎、ほとんど見られないものは○、やや見られるものは△、多いものは×とした。×は実用上問題のあるレベルである。
【0091】
【表7】
[図:0001431717000004.jpg]
・・・(略)・・・
【0096】
表7~11中の略称を以下に示す。
BDG:ブチルジグリコール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)
HeDG:ヘキシルジグリコール(ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル)
1,2-HD:1,2-ヘキサンジオール
1,2-BD:1,2-ブタンジオール
PG:プロピレングリコール
1,3-PD:1,3-プロパンジオール
【0097】
表7~10の結果から明らかなように、実施例のいずれもがインキ分散性、経時安定性、印字性、吐出性の面で良好であった。一方で表11の比較例においては、分散性が悪いため、印字性はおよび吐出性の面で実施例に大きく劣る。」(当合議体注:【表1】は便宜のため時計回りに90度回転させた。)
2 引用発明
上記1(3)の記載からみて、引用文献1には、段落【0064】~【0065】、【0067】【表1】、【0072】、【0077】~【0079】【表3】、【0084】~【0085】及び【0091】【表7】の記載から理解される、以下の「インクジェットインキ(J-10)」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「反応容器に、ブチルジグリコール54.5部、ベヘニルアクリレート40.0部、下記化合物(3)に示す単量体である化合物3 20.0部、アクリル酸40.0部、チオグリセロール1.2部を仕込み、反応容器内を加熱して、V-601(和光純薬製)0.3部を添加した後、7時間反応させ、
さらに、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール51.2部添加し中和し、さらに、水を210部添加して、顔料分散樹脂(A-3)の水溶液ないし水性分散体を得、
化合物(3)
[図:0001431717000005.jpg]
下記の組成の混合物を均一になるように予備分散し、本分散を行い、顔料分散体(B-5)を得、
赤顔料 20.0部
顔料分散樹脂(A-3) 58.3部
水 21.7部
下記の組成の混合物を攪拌混合して得た、インクジェットインキ(J-10)。
顔料分散体(B-5) 25.0部
1,2-ヘキサンジオール 15.0部
水 60.0部」
3 引用文献2の記載
当合議体が通知した拒絶の理由で引用された引用文献2は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明を記載するものであるところ、そこには以下の記載がある。
「【0003】
従来、インクジェットプリンターを用いて難浸透性基材上に画像形成するためには、乾燥性の良好なインキが求められていた。特に産業用途として使用されている印刷基材である、コート紙やポリ塩化ビニルシート等は、基材に対するインキの濡れや吸収が難しいため、基材表面に処理をする事無く、直接描画する事が大変難しい。
・・・(略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、コート紙、アート紙やポリ塩化ビニルシートなどの疎水性の高い難浸透性基材だけで無く、浸透性の高い紙面、繊維材料等に対しても印刷適性に優れ、インクジェットノズルからの吐出安定性、塗膜耐性、高速印刷時の描画性能に優れる水性インキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
即ち、本発明は、少なくとも水、色材、有機溶剤および酸価200KOHmg/g以上のビニル重合ポリマーを含有するインキであって、
25℃における該インキの粘度(V1)が、4mPa・s<V1<20mPa・sであり、25℃で動的表面張力を測定した際の10mS時の値が35mN/m以下である事を特徴とする水性インキに関する。
・・・(略)・・・
【0017】
更に、本発明は、有機溶剤である1,2-ヘキサンジオールが、インキ全体に対して10重量%以上20%重量以下含まれることを特徴とする、上記水性インキに関する。
・・・(略)・・・
【0065】
上記アルカンジオール類のなかでも1,2-ヘキサンジオールは、溶剤自身の表面張力が低いものの、顔料分散体に対する安定性が比較的良好であり、インキの保存安定性を悪化させる事無く、難吸収性基材に対する濡れ性を良化する事が可能である。また、乾燥過程において顔料分散体が分散を保ったままの状態で、均一なインキ塗膜の形成が可能であり、高い光沢を有する印刷物品質を得ることができるため、使用する事が好ましい。含有量としてはインキ全量に対して、10重量%以上20重量%以下であることが好ましい。
・・・(略)・・・
【0095】
<評価3:サイングラフィック用プリンターを用いた、布基材での印刷品質確認試験>
実施例1~34、比較例1~9で得られたインキについて、25℃の環境下でピエゾ素子を有するエプソン社製インクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンター(武藤工業社製インクジェットプリンターVJ-1608HSJ)に充填し、下記基材を60℃に加温しながら印字率100%のベタ印刷をG1モード(解像度:720×1080dpi-印刷物生産速度:8m2/h)にて実施。印刷物の白抜け度合の目視確認と、印字率100%での濃度(OD値)を測色機(X-rite社製 eye-one pro)にて測定し確認。
・・・(略)・・・
(評価基材)
・ポリ塩化ビニルシート(PVC):メタマーク社製MD-5
・コート紙:王子製紙社製OKトップコート+
・布基材:デュポン社製TYVEK1082D」
4 引用文献3の記載
当合議体が通知した拒絶の理由で引用された引用文献3は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明を記載するものであるところ、そこには以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、一般の印刷基材の中でもコート紙、アート紙やポリ塩化ビニルシートなどの吸収性の低い基材への印刷適性に優れ、発色性や光沢度の高い印刷品質とインクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性に優れた水性インクジェットインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、少なくとも顔料、有機溶剤、水を含有する水性インクジェットインクにおいて、前記有機溶剤として少なくとも沸点が180℃以上265℃以下かつ表面張力が20mN/m以上30mN/m以下である有機溶剤を含み、さらに一般式(1)の化合物を含むことを特徴とする水性インクジェットインクに関する。
一般式(1)
【化7】
[図:0001431717000006.jpg]
・・・(略)・・・
【0034】
本発明で使用する有機溶剤としては、少なくとも沸点が180℃以上265℃以下かつ表面張力が20mN/m以上30mN/m以下の有機溶剤を1種以上含有することが好ましい。
【0035】
沸点が180℃以上265℃以下かつ表面張力が20mN/m以上30mN/m以下である有機溶剤であればどのような溶剤でも単独、もしくは複数使用可能である。例えば、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、エチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。中でもアルカンジオール系や末端の炭素鎖の炭素数が3以上のグリコールエーテル系溶剤が好ましく、より好ましくはアルカンジオール系溶剤が好ましく、更に好ましくは1,2-ヘキサンジオールである。
【0036】
上記の沸点が180℃以上265℃以下かつ表面張力が20mN/m以上30mN/m以下の有機溶剤を添加することで、疎水性の高い難吸収基材上で濡れ性を向上させるだけではなく、好適な範囲の沸点を有するため、インクジェットノズル上で十分な保湿性を確保できるため、優れた吐出安定性を得ることができる。吐出安定性の観点から、使用する上記有機溶剤の沸点は180℃以上265℃以下であることが好ましく、200℃以上265℃以下であることがより好ましい。沸点が265℃を超えてしまうと、難吸収基材上で溶剤が残存してしまい、インク液滴同士の融着による混色や滲みが発生し、鮮明な画像が得られないため、好ましくない。
・・・(略)・・・
【0074】
本発明のインクジェットインクを使用しインクジェット印刷装置にて印刷を行う場合には印刷媒体を40~80℃に加温しながら印刷を行うことが好ましい。加温しながら印刷することで、インク液滴が印刷媒体へ着弾した後、直ちに乾燥するため滲みが生じにくく、高い品質の印刷物を得ることが可能となる。
・・・(略)・・・
【実施例】
・・・(略)・・・
【0083】
実施例、比較例で使用する有機溶剤について以下に示す。
(表面張力が20mN/m以上30mN/m以下である有機溶剤)
・・・(略)・・・
・1,2-HexD:1,2-ヘキサンジオール(沸点:224℃)
・・・(略)・・・
【0087】
(評価2:インクの濡れ性評価)
実施例1~24、比較例1~5で得られたインクについて、25℃の環境下でピエゾ素子を有するインクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンターに充填し、ポリ塩化ビニルシート(PVC)を50℃に加温しながら印字率100%のベタ印刷を行い、印刷物の白抜け度合を目視で確認した。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、B評価が実用可能領域である。
AA:インクが十分に濡れ広がり、目視で白抜けがない上に、濃度ムラがなく均一な画像が得られているもの
A:インクが程良く濡れ広がり、目視で白抜けがない上に、濃度ムラがなく良好な画像が得られているもの
B:インクが程良く濡れ広がり、目視で白抜けがないもの
C:インクの濡れ広がりが不十分であり、目視で僅かに白抜けが発生しているもの
D:インクの濡れ広がりが不十分であり、目視で明らかに白抜けが発生しているもの
・・・(略)・・・
【0088】
・・・(略)・・・
(評価6:吐出安定性の評価)
評価2と同様の条件でPVC上に印字率100%のベタ印字を行い、10分ごとにノズルチェックパターンを印字してノズル抜けの有無を確認し評価を行った。評価基準は下記のとおりであり、A、B評価が実用可能領域である。
A:30分間印字を行ってもノズル抜け無し
B:20分間印字を行ってもノズル抜け無し
C:20分以内でノズル抜けが発生する
・・・(略)・・・
【0092】
【表1】
[図:0001431717000007.jpg]
【0093】
【表2】
[図:0001431717000008.jpg]
」
5 参考文献の記載
当合議体が通知した拒絶の理由で引用された参考文献は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明を記載するものであるところ、そこには以下の記載がある。
「【0062】
コート紙としては、例えば、汎用光沢紙「OKトップコートプラス」(王子製紙株式会社製、坪量104.7g/m2、該記録媒体と純水との接触時間100m秒における該記録媒体の吸水量(以下の吸水量は同じ)4.9g/m2)、多色フォームグロス紙(王子製紙株式会社製、104.7g/m2、吸水量5.2g/m2)、UPMFinesse Gloss(UPM社製、115g/m2、吸水量3.1g/m2)等が挙げられる。」
第5 当合議体の判断
1 対比
本願発明と、引用発明を対比する。
(1) インクジェットインク組成物
引用発明の「赤顔料」、「水」及び「1,2-ヘキサンジオール」は、それぞれ、本願発明の「顔料」、「水」及び「水溶性有機溶剤」に相当する。また、引用発明の「インクジェットインキ(J-10)」は、引用文献1の【0001】の記載によれば、インクジェットノズルから基材に吐出し印字する水系インクジェット用顔料インキであって、「顔料分散体(B-5)」、「1,2-ヘキサンジオール」及び「水」を含有し、「顔料分散体(B-5)」は、「赤顔料」、「顔料分散樹脂(A-3)」及び「水」を含有しているから、本願発明の「インクジェットインク組成物」に相当する。
(2) 水溶性有機溶剤の炭素数
引用発明の「1,2-ヘキサンジオール」は、炭素数が6のアルカンジオールであるから、本願発明の「炭素数が6以上10以下のアルカンジオールであり」という要件を満たす。
(3) アルカンジオールのインクジェットインク組成物に対する質量比
引用発明の「1,2-ヘキサンジオール」の「インクジェットインキ(J-10)」に対する質量比は15%であるから、本願発明の「前記水溶性有機溶剤は、炭素数が6以上10以下のアルカンジオールであり、前記アルカンジオールの前記インクジェットインク組成物に対する質量比(アルカンジオール/インクジェットインク組成物)の最小値が10%であり」という要件を満たす。
(合議体注:インクジェットインキ(J-10)は、顔料分散体(B-5)25.0部、1,2-ヘキサンジオール15.0部、水60.0部を混合して得られるものであり、かつ、顔料分散体(B-5)には、1,2-ヘキサンジオールが含まれないから、1,2-ヘキサンジオールのインクジェットインキ(J-10)に対する質量比は、15.0÷(25.0+15.0+60.0)=0.15(15%)となる。)
(4) 水とアルカンジオールのインクジェットインク組成物に対する質量比
ア 引用発明の「インクジェットインキ(J-10)」に含まれる「水」は、72.8部である。
(合議体注:
引用発明の「インクジェットインキ(J-10)」に含有される、「顔料分散体(B-5)」の「顔料分散樹脂(A-3)」は、ブチルジグリコール54.5部、ベヘニルアクリレート40.0部、化合物3 20.0部、アクリル酸40.0部、チオグリセロール1.2部を仕込み、反応容器内を加熱して、V-601(和光純薬製)0.3部を添加した後、7時間反応させ、さらに、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール51.2部添加し中和し、さらに、水を210部添加して得られるから、「顔料分散樹脂(A-3)」中に「水」は、210÷(54.5+40.0+20.0+40.0+1.2+0.3+51.2+210)=0.503(50.3%)含有されている。
したがって、「顔料分散体(B-5)」58.3部に含まれる「水」は、58.3×0.503=29.3部と算出されるから、「顔料分散体(B-5)」100部には、「顔料分散樹脂(A-3)」由来の「水」29.3部と、これとは別途添加される「水」21.7部を合わせた、51.0部の水が含有されることとなる。
そして、引用発明の「インクジェットインキ(J-10)」は、「顔料分散体(B-5)」25部と「水」60部を含有するから、「インクジェットインキ(J-10)」には、(25×51.0/100)+60=72.8部の「水」が含有されることになる。)
イ そうしてみると、引用発明の「インクジェットインキ(J-10)」は、「水」と「1,2-ヘキサンジオール」の「インクジェットインキ(J-10)」に対する質量比が、87.8%となるから(合議体注:「インクジェットインキ(J-10)」100部に含有される「水」は72.8部、「1,2-ヘキサンジオール」15部であることから、「水」と「1,2-ヘキサンジオール」の「インクジェットインキ(J-10)」に対する質量比は、(72.8+15)/100=0.878(87.8%)と算出される。)、本願発明の「インクジェットインク組成物」における「前記水と前記アルカンジオールの前記インクジェットインク組成物に対する質量比(水+アルカンジオール/インクジェットインク組成物)が、85%以上90%以下であり」という要件を満たす。
(5) アルカンジオールの水に対する質量比
引用発明の「インクジェットインキ(J-10)」は、「1,2-ヘキサンジオール」の「水」に対する質量比が、15/72.8=0.206(20.6%)であるから、本願発明の「インクジェットインク組成物」における「前記アルカンジオールの前記水に対する質量比(アルカンジオール/水)が、10%以上35%以下である」という要件を満たす。
2 一致点及び相違点
上記1(1)~(5)の対比結果によれば、本願発明と引用発明とは、以下の(1)の点で一致し、(2)の点で相違又は一応相違する。
(1) 一致点
「顔料と、水と、水溶性有機溶剤と、を含有し、
前記水溶性有機溶剤は、炭素数が6以上10以下のアルカンジオールであり、
前記アルカンジオールの前記インクジェットインク組成物に対する質量比(アルカンジオール/インクジェットインク組成物)の最小値が10%であり、
前記水と前記アルカンジオールの前記インクジェットインク組成物に対する質量比(水+アルカンジオール/インクジェットインク組成物)が、85%以上90%以下であり、
前記アルカンジオールの前記水に対する質量比(アルカンジオール/水)が、10%以上35%以下である、ことを特徴とするインクジェットインク組成物。」
(2) 相違点
ア 相違点1
「インクジェットインク組成物」が、本願発明は、「樹脂製のフイルム又は基材の表面が樹脂でコーティングされたインク非吸収性のメディアか、或いはアート紙、コート紙及びマット紙から選ばれるインク低吸収性のメディアであって、純水との接触時間100m秒における吸水量が10g/m2以下である加熱されたメディアに、前記加熱されたメディアの表面近傍を移動するインクジェットヘッドから吐出される」(以下「本件用途」という。)のに対し、引用発明は、そのような特定はなされていない点。
イ 相違点2
「インクジェットインク組成物」が、本願発明は、「樹脂エマルジョン」を含有するのに対し、引用発明は、「インクジェットインキ(J-10)」が含有する「顔料分散樹脂(A-3)の水溶液ないし水性分散体」が「樹脂エマルジョン」に相当するのか否か明らかでない点。
3 判断
上記相違点について、以下検討する。
(1) 相違点1について
引用文献1の【0003】~【0005】には、引用発明を産業用途に使用されることも想定され、ノズルの乾燥防止を目的として高沸点の水溶性溶剤を用いること、及び、印刷速度を上げられない等の問題も記載されている。
また、引用文献1の【0018】には、「本発明によれば、一般の印刷基材、特にコート紙、アート紙や塩化ビニルシートなどの疎水性の高い基材への印字性に優れ、インクジェットノズルからの吐出安定性、分散性に優れる水系インクジェット用顔料インキを提供できる。」と記載されており、引用発明は、「疎水性の高い基材」への印字をその用途とするものであって、【0089】に記載された印刷媒体「コート紙(王子製紙製OKトップコート+、米坪104.7g/m2)」の純水との接触時間100m秒における吸水量は、参考文献の【0062】の記載「コート紙としては、例えば、汎用光沢紙「OKトップコートプラス」(王子製紙株式会社製、坪量104.7g/m2、該記録媒体と純水との接触時間100m秒における該記録媒体の吸水量(以下の吸水量は同じ)4.9g/m2)」を参酌すると4.9g/m2である。
そして、印刷媒体を加熱しながらインクジェット印刷装置において印刷する技術は、引用文献2の【0003】【0095】、引用文献3の【0074】【0087】等に記載のとおり先の出願時に周知の技術である。
さらに、ノズルの乾燥防止を目的として高沸点の水溶性溶剤を用いることは既述のとおり引用文献1に記載されており、本願発明の効果は引用文献1の記載から予測困難な格別なものであるともいえない。
したがって、先の出願時において、引用発明を周知の技術に利用することにより本件用途に用いることは、当業者であれば容易になし得たことである。
(2) 相違点2について
引用文献1の【0054】には、「本発明のインキは、水性のエマルジョンを含有することが好ましい。水性のエマルジョンを含有することで、粘度はあまり上昇させずに、印字した塗膜の耐性を向上させることができる。これにより、耐水性、耐溶剤性、耐擦過性などが向上する。水溶性の樹脂を添加しても、ある程度耐性の向上は期待できるが、粘度が上昇してしまう傾向にある。インクジェットインキの場合、ノズルからインキを吐出できる粘度にはある範囲があり、あまり粘度が高いとインキを吐出することができなくなることがあるため、粘度の上昇を抑えることは重要である。」と記載されている。そうしてみると、引用発明において、インキの吐出性と印字した塗膜の耐性を向上させることを考慮した当業者が、「水溶性の樹脂」を添加するのではなく、「水性のエマルジョン」、すなわち、「樹脂エマルジョン」を添加することは、容易に想到し得たことである。
(3) 効果について
引用発明は、水溶性溶剤として1,2-ヘキサンジオールを含有するところ、引用文献3の段落【0035】には、「沸点が180℃以上265℃以下かつ表面張力が20mN/m以上30mN/m以下である有機溶剤」として、「1,2-ヘキサンジオール」が例示され、段落【0036】には、「沸点が180℃以上265℃以下かつ表面張力が20mN/m以上30mN/m以下の有機溶剤を添加することで、疎水性の高い難吸収基材上で濡れ性を向上させるだけではなく、好適な範囲の沸点を有するため、インクジェットノズル上で十分な保湿性を確保できるため、優れた吐出安定性を得ることができる」ことが記載されている。そしてこのことは、引用文献3の段落【0088】~【0093】【表2】の実施例2、6~18、20~24及び比較例1に開示されているとおり、「1,2-ヘキサンジオール」を含有する「インク」を使用して、「ポリ塩化ビニルシート(PVC)を50℃に加温しながら印字率100%のベタ印刷を行」ったときの「印刷物の白抜け度合」や「10分ごとにノズルチェックパターンを印字」したときの「ノズル抜け」が、いずれも「実用可能領域」であることからも裏付けられている。
そうしてみると、引用発明の「インクジェットインキ(J-10)」は、本件用途に使用しても、白抜けやノズル抜けの発生がないものといえる。
したがって、本願発明の効果は引用発明、引用文献1~3の記載事項、及び周知技術から予測困難な格別なものであるともいえない。
4 請求人の主張について
(1) 請求人は、令和7年9月10日に提出した意見書において、引用文献1には、加熱されたメディアに印字する場合に良好な印字品質となるインク組成物について、開示も示唆もない旨主張する。
(2) しかしながら、上記2(1)のとおり、本件用途自体、周知の用途であることから、引用発明の「インクジェットインキ(J-10)」を、本件用途に使用することは、当業者であれば容易になし得ることである。
(3) また、上記2(3)で述べたとおり、本件明細書の記載を参照しても、本願発明の「インクジェットインク組成物」の効果が、格別なものであるともいえない。
(4) したがって、請求人の意見は採用しない。
5 小括
本願発明は、引用発明、引用文献1~3の記載事項、及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
本願発明は、引用発明、引用文献1の記載事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-009722