特許拒絶査定不服審判
2024-002253
インクジェット印刷装置
- 審判番号
- 2024-002253
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-003292
- 請求日
- 2024年02月08日
- 審決日
- 2025年03月18日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社ミマキエンジニアリング
- 【請求人代理人】竹原 尚彦
- 審判長/審判官
- 審判長 川俣 洋史
- 審判官 殿川 雅也
- 審判官 山本 一
- 分類
- P18 .121-WZ (B41J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-3292「インクジェット印刷装置」拒絶査定不服審判事件〔令和3年8月2日出願公開、特開2021-109391〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年1月12日の出願であって、その手続の経緯は、概略以下のとおりである。
令和5年 7月28日付け:拒絶理由通知書
同年10月 1日 :意見書、手続補正書の提出
同月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
( 同年11月14日 :原査定の謄本の送達)
令和6年 2月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 7月26日付け:拒絶理由通知書
同年 9月28日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月30日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年12月27日 :意見書の提出
第2 本願発明について
本願の請求項1~6に係る発明は、令和6年9月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次に特定されるとおりのものであると認める。
【請求項1】
紫外線硬化型インクをメディアに向けて吐出するインクジェットヘッドと、
前記メディアに吐出された紫外線硬化型インクに紫外線を照射する紫外線照射手段と、
前記紫外線照射手段による紫外線照射後の紫外線硬化型インクを加熱して、前記紫外線硬化型インクの発色を安定化させる加熱手段と、
前記インクジェットヘッドにより前記紫外線硬化型インクが吐出され、該紫外線硬化型インクに紫外線が照射された直後の前記メディアを前記加熱手段に搬送すると共に、
加熱後のメディアを巻き取る搬送手段と、を有し、
前記紫外線硬化型インクは、溶媒の揮発を必要とすることなく硬化可能なインクであり、
前記加熱手段は、前記メディアの搬送方向において前記インクジェットヘッドの下流側に設けられたヒータであり、
前記紫外線が照射された直後の前記メディアを前記ヒータにより加熱して、前記メディアの上に吐出され、前記紫外線照射手段からの前記紫外線の照射により硬化された前記紫外線硬化型インクの、未反応の開始剤ラジカルを分解又は揮発させる程度に前記紫外線硬化型インクを加熱することを特徴とするインクジェット印刷装置。
第3 当審拒絶理由の概要
令和6年10月30日付けで、当審において通知した拒絶理由の概要は次のとおりのものである。
1 進歩性欠如
本願発明は、本願の出願前に発行された下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1:特開2008-207411号公報
引用文献2:特開2019-162769号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2018-122535号公報(周知技術を示す文献)
第4 当審の判断
1 各引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
(1)引用文献1
ア 引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由通知において引用文献1として引用した、本願の出願前に発行された文献である特開2008-207411号公報には、以下の事項が記載されている(下線は当審において付した。以下、同じ。)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、及び、インクジェット記録方法により得られる印刷物に関するものである。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高精彩であり、かつ、耐ブロッキング性、耐水性、耐溶剤性及びプラスチック基材への密着性に優れる活性線硬化型インクジェトインク硬化画像を得ることができるインクジェット記録方法、並びに、前記インクジェット記録方法によって記録された印刷物を提供することである。」
(イ)「【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、下記<1>及び<5>に記載の手段により達成された。好ましい実施態様である<2>~<4>と共に以下に示す。
<1> (a1)式(I)又は式(II)で表されるモノマーを含有するインク組成物を被記録媒体上に吐出する工程、(b1)吐出されたインク組成物に活性放射線を照射して、該インク組成物を硬化する工程、及び、(c1)得られた硬化画像を40℃以上150℃未満の温度で加温処理する工程を含むことを特徴とするインクジェット記録方法、」
(ウ)「【0013】
本発明のインクジェット記録方法における(a1)工程には、以下に詳述するインクジェット記録装置が用いることができる。なお、本発明に用いることができるインク組成物については後述する。
【0014】
〔インクジェット記録装置〕
本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置としては、特に制限はなく、目的とする解像度を達成しうる公知のインクジェット記録装置を任意に選択して使用することができる。即ち、市販品を含む公知のインクジェット記録装置であれば、いずれも、本発明のインクジェット記録方法の(a1)工程における被記録媒体へのインクの吐出を実施することができる。
本発明で用いることのできるインクジェット記録装置としては、例えば、インク供給系、温度センサー、活性放射線源を含む装置が挙げられる。
インク供給系は、例えば、インク組成物を含む元タンク、供給配管、インクジェットヘッド直前のインク供給タンク、フィルター、ピエゾ型のインクジェットヘッドからなる。ピエゾ型のインクジェットヘッドは、好ましくは1~100pl、より好ましくは8~30plのマルチサイズドットを、好ましくは320×320~4,000×4,000dpi、より好ましくは400×400~1,600×1,600dpi、さらに好ましくは720×720dpiの解像度で吐出できるよう駆動することができる。」
(エ)「【0017】
次に、(b1)吐出されたインク組成物に活性放射線を照射して、該インク組成物を硬化する工程について説明する。
被記録媒体上に吐出されたインク組成物は、活性放射線を照射することによって硬化する。これは、インク組成物に含まれる重合開始剤等の化合物が活性放射線の照射により分解して、ラジカル、酸、塩基などの開始種を発生し、その開始種の機能にラジカル重合性化合物の重合反応が、生起、促進されるためである。このとき、インク組成物において重合開始剤と共に増感剤が存在すると、系中の増感剤が活性放射線を吸収して励起状態となり、重合開始剤と接触することによって重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させることができる。
【0018】
ここで、使用される活性放射線は、α線、γ線、電子線、X線、紫外線、可視光又は赤外光などが使用され得る。活性放射線のピーク波長は、増感剤の吸収特性にもよるが、例えば、200~600nmであることが好ましく、300~450nmであることがより好ましく、350~420nmであることがさらに好ましい。
・・・
【0020】
活性放射線源としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、紫外線光硬化型インクジェット記録用インクの硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。しかしながら、現在環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。さらに、LED(UV-LED),LD(UV-LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、光硬化型インクジェット用光源として期待されている。
また、発光ダイオード(LED)及びレーザーダイオード(LD)を活性放射線源として用いることが可能である。特に、紫外線源を要する場合、紫外LED及び紫外LDを使用することができる。・・・
【0021】
インク組成物は、このような活性放射線に、好ましくは0.01~120秒、より好ましくは0.1~90秒照射されることが適当である。
活性放射線の照射条件並びに基本的な照射方法は、特開昭60-132767号公報に開示されている。具体的には、インクの吐出装置を含むヘッドユニットの両側に光源を設け、いわゆるシャトル方式でヘッドユニットと光源を走査することによって行われる。」
(オ)「【0023】
次に、(c1)得られた硬化画像を40℃以上150℃未満の温度で加温処理する工程について説明する。
活性放射線照射後、得られた硬化画像を40℃以上の温度で加温処理することで、硬化膜内に残存する開始剤分解成分や、残存モノマーが揮発し、さらには膜中に残存する活性ラジカルが、膜中残存二重結合の反応を促進させることで達成モノマーを耐ブロッキング性、耐水性、耐溶剤性、プラスチック基材への密着性に優れるインクジェットインク画像が得られると推定される。また、処理温度が150℃未満であると、画像の変色が起こりにくく、高精彩な画像が得られる。一方、加温処理温度が150℃以上になると、硬化膜を形成する成分の分解等が生じるためか、画像の変色が起こり、画像の精彩度は減少する。」
・・・
【0026】
加温装置としては、特に制限はないが、加熱プレート上、サーモセルコ内等に保管する方法が挙げられる。さらに、保管雰囲気を常時換気すると、より短時間で、耐ブロッキング性、耐水性、耐溶剤性、プラスチック基材への密着性に優れる印刷物が得られる。
・・・
【0028】
本発明のインクジェット記録方法は、必要に応じ、(c1)工程を2回以上行ってもよいが、操作が簡潔となるよう(c1)工程は1回のみ行うことが好ましい。
(c1)工程を行う方法又は装置としては、特に制限はなく、公知の方法又は装置を用いることができる。また、(c1)工程は、前記(a1)及び(b1)工程にて使用したインクジェット記録装置と同一の装置で行ってもよく、別の装置等により行ってもよい。」
(カ)「【0066】
(C)ラジカル重合開始剤
本発明に用いることができるインク組成物は、(C)ラジカル重合開始剤を含有する。
本発明で用いることができる重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。本発明に用いることができるラジカル重合開始剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、ラジカル重合開始剤と後述するカチオン重合開始剤とを併用してもよい。
インク組成物に用いることのできるラジカル重合開始剤は、外部エネルギーを吸収してラジカル重合開始種を生成する化合物である。重合を開始するために使用される外部エネルギーは、熱及び活性放射線に大別され、それぞれ、熱重合開始剤及び光重合開始剤が使用される。活性放射線としては、γ線、β線、電子線、紫外線、可視光線、赤外線が例示できる。」
(キ)「【0147】
本発明に用いることができるインク組成物の25℃における表面張力は20~35mN/mであることが好ましい。より好ましくは23~33mN/mである。ポリオレフィン、PET、コート紙、非コート紙など様々な被記録媒体へ記録する場合、滲み及び浸透の観点から、20mN/m以上が好ましく、濡れ性の点はで35mN/m以下が好ましい。」
イ 引用文献1の記載から把握できる事項
(ア)上記ア(ウ)に示した【0014】には「ピエゾ型のインクジェットヘッドは、好ましくは・・・の解像度で吐出できる」と記載されているのみであり、インクジェットヘッドが何を吐出しているのかについて明記されていないが、その前の「被記録媒体へのインクの吐出を実施することができる。」等の記載から、インクジェットヘッドが被記録媒体へインクを吐出することは明らかである。
(イ)上記ア(イ)では「(b1)吐出されたインク組成物に活性放射線を照射して、該インク組成物を硬化する工程」と記載されているが、上記ア(エ)から、具体的には、被記録媒体上に吐出された紫外線光硬化型インクジェット記録用インクに、ヘッドユニットの両側に設けられた紫外LED及び紫外LDが紫外線を照射して、該紫外線光硬化型インクジェット記録用インクを硬化させる工程を把握することができる。この場合、(a1)工程や(c1)工程の「インク組成物」及び「活性放射線」も、当然ながら「紫外線光硬化型インクジェット記録用インク」及び「紫外線」となる。
(ウ)上記ア(オ)から、(c1)得られた硬化画像を40℃以上150℃未満の温度で加温処理する工程を、インクジェット記録装置と同一の装置で加温装置により行うことが把握でき、この加温処理は、活性放射線(紫外線)照射後に行われていると認められる。
ウ 引用文献1に記載の発明
上記ア及びイから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「被記録媒体へ紫外線光硬化型インクジェット記録用インクを吐出するインクジェットヘッドと、
被記録媒体上に吐出された紫外線光硬化型インクジェット記録用インクに、紫外線を照射する紫外LED及び紫外LDを活線放射線源として用い、
活線放射線の照射方法を、インクの吐出装置を含むヘッドユニットの両側に光源を設け、ヘッドユニットと光源を走査することによって行い、
紫外線照射後、得られた硬化画像を40℃以上150℃未満の温度で加温処理する加温装置を有し、
紫外線光硬化型インクジェット記録用インクは、当該インクに含まれる重合開始剤等の化合物が紫外線の照射により分解して、ラジカルなどの開始種を発生し、その開始種の機能にラジカル重合性化合物の重合反応が、生起、促進されて、硬化するものであり、
紫外線照射後、得られた硬化画像を加温装置により40℃以上150℃未満の温度で加温処理することで、硬化膜内に残存する開始剤分解成分や、残存モノマーが揮発し、さらには膜中に残存する活性ラジカルが、膜中残存二重結合の反応を促進させ、画像の変色が起こりにくく、高精彩な画像が得られ、
被記録媒体はPETであるインクジェット記録装置。」
(2)引用文献2
ア 引用文献2に記載されている事項
本願出願前に発行された特開2019-162769号公報には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0011】
図1に示す様に、インクジェットプリンタ100は、記録装置本体11の一方の下方側から上方を経由して他方の下側へ被搬送物である記録媒体Pを搬送して巻き取る構成を備える。記録媒体Pは、シート状の部材であり、かつ、ロール状に巻くことができるものである。なお、本実施形態において、記録媒体Pは、ロール状から取り出されてシート状にして特定の方向に搬送できる部材であればよい。記録媒体Pとして用いることができるものとしては、例えば、用紙(普通紙)、コート紙、厚紙、OHP、プラスチックフイルム、プリプレグ、銀箔等である。本実施形態の説明は、記録媒体Pが用紙である場合を例にする。
【0012】
インクジェットプリンタ100は、記録装置本体11の一方の下方側に、回転軸に記録媒体Pがロール状に巻かれたロール体2が給紙駆動部1に保持されている。このロール体2は、給紙駆動部1の位置から上方側に引き出されて供給側ガイド板3を通り、記録媒体Pとして搬送ローラ4とピンチローラ5との間に挟持される。搬送ローラ4は、記録媒体Pを搬送する搬送部材であり、ピンチローラ5は搬送ローラ4と対向して配置されて記録媒体Pを搬送ローラ4との間で挟持する挟持部材である。搬送ローラ4とピンチローラ5を含んで構成される搬送部50によって、記録媒体Pは所定の搬送量を適宜搬送される。
【0013】
記録媒体Pは、搬送ローラ4とピンチローラ5との間の接触部(ニップ)を通過してプラテン部7の上面を通過する。記録媒体Pがプラテン部7に差し掛かると、プラテン部7の上方に配置されたキャリッジ6の走査により液体吐出ヘッドが走査されながら記録媒体Pの表面にインクを吐出することで画像が形成される。液体吐出ヘッドは、液体インクを液滴として記録媒体Pに向けて、所定のタイミング・量をもって吐出する記録ヘッドである。キャリッジ6を含み、液体吐出ヘッドにより所定のタイミングで液体インクを吐出することで、記録媒体Pに画像を形成する画像形成部20が構成される。
【0014】
画像が形成された記録媒体Pは、その後に巻取側ガイド板8を通り、記録装置本体11の他方の下方側の巻取駆動部9に保持された紙管10に巻き取られる。なお、画像が形成された記録媒体Pは、必要に応じて巻取側ガイド板8の下端近傍に配置されている裁断装置12によって、予め設定されたサイズにより適宜裁断される。
・・・
【0019】
また、インクジェットプリンタ100は、巻取側ガイド板8の位置に、画像が形成された記録媒体Pのインクを素早く乾燥させて画像品質を維持するための乾燥装置14が配置されている。乾燥装置14は、搬送される記録媒体Pの両面(インクが付着している上面と、逆側の背面)の両方に加熱する加熱手段を備える装置である。乾燥装置14の詳細については、後述する。
・・・
【0022】
インクジェットプリンタ100に適用可能な液体として、例えば、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸や蛋白質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料等を含む溶液、懸濁液、エマルジョン等が挙げられる。インクの汎用例は水性インキ、UVインキ、ノンVOCインキ、植物油インキ、大豆油インキ、グリコールインキ、ノントルエンインキ、EBインキ等の印刷インキ、顔料インク、染料インク、消えないインク、金属インク、不可視インク、蛍光インク等が挙げられる。その他、近年開発された低臭気型インクジェットインクやUV硬化型プレコート液等を適用することも可能である。これらは、例えばインクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
・・・
【0029】
図4は、本実施形態に係る乾燥装置14の縦断面図である。図4に示すように、乾燥装置14は、巻取側ガイド板8を挟むように配置されていて、上部ヒータ141と、下部ヒータ142と、を備える。」
(イ)「【図1】
[図:0001422112000001.jpg]
」
イ 引用文献2から把握できる事項
(ア)上記ア(イ)の図1より、記録媒体Pの搬送方向において、キャリッジ6と乾燥装置14の間に他の工程を行う部材が設けられていないことが見て取れる。
そして、段落【0013】の「キャリッジ6の走査により液体吐出ヘッドが走査されながら記録媒体Pの表面にインクを吐出する」との記載からすれば、液体吐出ヘッドからインクが吐出された記録媒体Pと乾燥装置14の間に、他の工程を行う部材が配置されていないと認められる。
(イ)上記(ア)の配置からみて、乾燥装置14は、液体吐出ヘッドからインクが吐出された直後の記録媒体Pを加熱すると認められる。
ウ 引用文献2記載の技術
上記ア及びイから、引用文献2には、以下の技術(以下「文献2技術」という。)が記載されている。
「記録装置本体11の一方の下方側から上方を経由して他方の下側へ被搬送物である記録媒体Pを搬送して巻き取る構成を備えるインクジェットプリンタ100であって、
記録媒体Pがプラテン部7に差し掛かると、プラテン部7の上方に配置されたキャリッジ6の走査により液体吐出ヘッドが走査されながら記録媒体Pの表面にインクを吐出することで画像が形成され、画像が形成された記録媒体Pは、その後に巻取側ガイド板8を通り、記録装置本体11の他方の下方側の巻取駆動部9に保持された紙管10に巻き取られ、
巻取側ガイド板8の位置に、画像が形成された記録媒体Pのインクを素早く乾燥させて画像品質を維持するための乾燥装置14が配置され、乾燥装置14は、上部ヒータ141と、下部ヒータ142と、を備え、
乾燥装置14は、液体吐出ヘッドからインクが吐出された直後の記録媒体Pを加熱し、
インクとしてUVインキが適用可能である、インクジェットプリンタ100」
(3)引用文献3
ア 本願出願前に発行された特開2018-122535号公報には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0031】
また、本実施例の印刷装置1は、媒体Mを支持する支持部3などからなる媒体Mの搬送経路において該媒体Mを搬送方向Aに搬送するための、駆動ローラー7と従動ローラー8とからなる搬送ローラー対5を備えている。
なお、本実施例の印刷装置1では、駆動ローラー7は媒体Mの搬送方向Aと交差する走査方向Bに延びる1本のローラーで構成されており、従動ローラー8は駆動ローラー7と対向する位置において走査方向Bに複数並べて設けられている。
【0032】
なお、支持部3の下部には、後述するヘッド4よりも媒体Mの搬送方向Aにおける下流側において、支持部3に支持された媒体Mを加熱可能な加熱部としてのヒーター12が設けられている。このように、本実施例の印刷装置1は、加熱部として、支持部3側から媒体Mを加熱可能なヒーターを備えているが、支持部3と対向する位置に設けられる赤外線ヒーター等を備えていてもよい。
【0033】
また、本実施例の印刷装置1は、筐体部11の内部に、複数のノズルが設けられたノズル形成面の該ノズルから液体であるインクを吐出して印刷するインクジェットヘッドであるヘッド4と、該ヘッド4を搭載してガイド軸13に沿って走査方向Bに往復移動可能な本体部としてのキャリッジ6と、を備えている。ここで、ヘッド4及びキャリッジ6などで構成される本実施例の印刷装置1の要部であるヘッドユニット14(図2~図5参照)の詳細については後述する。
なお、本実施例の印刷装置1では、支持部3上のヘッド4(ノズル形成面)と対向する位置における媒体Mの搬送方向Aは水平方向である方向Yに沿う方向であり、ヘッド4の走査方向Bは水平方向であって方向Yと直交する方向Xに沿う方向であり、インクの吐出方向は鉛直方向である方向Zに沿う方向(鉛直下方向)である。
【0034】
ここで、上記のように、ヘッド4は、媒体Mの搬送方向Aと交差する走査方向Bに往復移動しながら、搬送される媒体Mに不図示のノズルから方向Zに沿う方向にインクを吐出して印刷することが可能な構成である。このような構成のヘッド4を備えていることにより、本実施例の印刷装置1は、所定量(1パス分)媒体Mを搬送方向Aに搬送させることと、媒体Mを停止した状態でヘッド4を走査方向Bに移動させながらインクを吐出させることと、を繰り返すことで、媒体Mに所望の画像を形成可能である。すなわち、本実施例の印刷装置1は、媒体Mの搬送とヘッド4の走査とを交互に繰り返して印刷を行う所謂シリアルプリンターである。しかしながら、ヘッドを備えたプレート部を本体部に固定する構成であれば、媒体Mの幅方向に沿ってライン状にノズルが形成されたラインヘッドを使用して連続的に媒体Mを搬送しながら連続的に印刷を行う所謂ラインプリンターであってもよい。
【0035】
また、ヘッド4の媒体Mの搬送方向Aにおける下流側には、媒体MをロールR2として巻き取り可能な巻取軸10が備えられている。なお、本実施例では印刷面が外側になるように媒体Mを巻き取るので、媒体Mを巻き取る際、巻取軸10は回転方向Cに回転する。一方、印刷面が内側になるように巻き取る場合は、回転方向Cとは逆回転して巻き取ることが可能である。
【0036】
また、支持部3における媒体Mの搬送方向Aにおける下流側の端部と、巻取軸10と、の間には、媒体Mとの接触部が走査方向Bに延設され、媒体Mに所望のテンションを付与することが可能なテンションバー9が設けられている。」
(イ)「【0055】
また、本実施例のヘッドユニット14においては、第1プレート部16a及び第2プレート部16b、16c、16d及び16eを用いて異なる種類のインクを使用可能である。したがって、使用するインクに対応して、第1プレート部16aと第2プレート部16b、16c、16d及び16eとは、形成している素材が異なっている。このため、ヘッドユニット14を特に様々な用途に対応させることができるようになっている。
例えば、溶剤インクを用いる場合、プレート部16は耐溶剤性が高い素材で形成することが好ましい。また、紫外線硬化型インクを用いる場合、プレート部16は耐光性が高い素材で形成することが好ましい。また、加熱定着されるインクを用いる場合、プレート部16は耐熱性が高い素材で形成することが好ましい。」
(ウ)「【図1】
[図:0001422112000002.jpg]
」
イ 引用文献3から把握できる事項
(ア)上記ア(ウ)の図1より、媒体Mの搬送方向Aにおいて、ヘッド4とヒーター12の間に他の工程を行う部材が設けられていないことが見て取れる。
そして、段落【0033】の「液体であるインクを吐出して印刷するインクジェットヘッドであるヘッド4」との記載からすれば、ヘッド4からインクを吐出された位置とヒータ12の間に、他の工程を行う部材が配置されていないと認められる。
(イ)上記(ア)の配置からみて、ヒータ12は、ヘッド4からインクが吐出された直後の媒体Mを加熱するといえる。
ウ 引用文献3記載の技術
上記ア及びイから、引用文献3には、以下の技術(以下「文献3技術」という。)が記載されている。
「媒体Mを支持する支持部3などからなる媒体Mの搬送経路において該媒体Mを搬送方向Aに搬送する印刷装置1であって、
印刷装置1は、複数のノズルが設けられたノズル形成面の該ノズルから液体であるインクを吐出して印刷するインクジェットヘッドであるヘッド4を備えており、
支持部3の下部には、ヘッド4よりも媒体Mの搬送方向Aにおける直後の下流側において、支持部3に支持された媒体Mを加熱可能な加熱部としてのヒーター12が設けられており、
ヘッド4の媒体Mの搬送方向Aにおける下流側には、媒体MをロールR2として巻き取り可能な巻取軸10が備えられており、
ヒータ12は、ヘッド4からインクが吐出された直後の媒体Mを加熱する
紫外線硬化型インクを用いる場合がある、印刷装置1」
(4)周知技術
文献2技術の「インクジェットプリンタ100」及び文献3技術の「印刷装置1」は、いずれもインクジェットヘッドによる画像形成又は印刷を行うものであって、「インクジェット記録装置」といえる。また、文献2技術の「記録媒体P」及び文献3技術の「媒体M」は、いずれもインクが吐出されるものであって「被記録媒体」といえる。
また、文献2技術の「巻取駆動部9」及び文献3技術の「巻取軸10」は、被記録媒体を巻き取るから、被記録媒体を搬送する搬送手段であることは明らかである。さらに、文献2技術の「巻取駆動部9」及び文献3技術の「巻取軸10」は、ヒータの下流側に設けられるから、加熱後の被記録媒体を巻き取るといえる。
したがって、次の技術(以下「周知技術1」という。)は、本願出願前にインクジェット印刷装置の分野で当業者に広く知られた周知技術であったと認められる。
[周知技術1]
「インクジェットヘッドよりインクが吐出されるインクジェット記録装置において、ヒータは、インクジェットヘッドからインクが吐出された直後の記録媒体を加熱し、搬送手段が、加熱後の被記録媒体を巻き取る、紫外線硬化型インクが適用可能なインクジェット記録装置」
2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「紫外線光硬化型インクジェット記録用インク」、「被記録媒体」、「インクジェットヘッド」、「紫外LED及び紫外LD」、「加温装置」及び「インクジェット記録装置」は、本願発明の「紫外線硬化型インク」、「メディア」、「インクジェットヘッド」、「紫外線照射手段」、「加熱手段」及び「インクジェット印刷装置」に相当する。
(2)引用発明の「加温装置」は、「得られた硬化画像を40℃以上150℃未満の温度で加温処理する」ところ、当該硬化画像が、被記録媒体上に吐出された紫外線光硬化型インクジェット記録用インクにより描かれた画像であり、加温処理の前に紫外線照射が行われていることは明らかであるから、本願発明の「加熱手段」と引用発明の「加温装置」とは、「紫外線照射手段による紫外線照射後の紫外線硬化型インクを加熱」するという機能において一致する。また、引用発明の「加温装置」が「紫外線照射後、得られた硬化画像を40℃以上150℃未満の温度で加温処理する」と、「画像の変色が起こりにくく、高精彩な画像が得られる」ところ、画像の変色が起こりにくいということは、紫外線光硬化型インクジェット記録用インクの発色が安定化するといえるから、本願発明の「加熱手段」と引用発明の「加温装置」とは、「紫外線硬化型インクの発色を安定化させる」という作用も一致する。
(3)引用発明の「紫外線光硬化型インクジェット記録用インク」は、「当該インクに含まれる重合開始剤等の化合物が紫外線の照射により分解して、ラジカルなどの開始種を発生し、その開始種の機能にラジカル重合性化合物の重合反応が、生起、促進されて、硬化するものであ」るから、本願発明の「紫外線光硬化型インク」と引用発明の「紫外線光硬化型インクジェット記録用インク」とは、「溶媒の揮発を必要とすることなく硬化可能なインクであ」るという点で一致する。
また、引用発明の「インクジェットヘッド」は、「被記録媒体へ紫外線光硬化型インクジェット記録用インクを吐出する」と認められるから、本願発明の「インクジェットヘッド」と引用発明の「インクジェットヘッド」とは、「紫外線硬化型インクをメディアに向けて吐出する」点で一致する。
(4)引用発明の「紫外LED及び紫外LD」は、「被記録媒体上に吐出された紫外線光硬化型インクジェット記録用インクに紫外線を照射する」から、本願発明の「紫外線照射手段」と引用発明の「紫外LED及び紫外LD」とは、「メディアに吐出された紫外線硬化型インクに紫外線を照射する」点で一致する。
(5)引用発明の「インクジェット記録装置」は、「紫外線照射後、得られた硬化画像を」「加温処理する」から、紫外線が照射された直後の被記録媒体を加温装置まで搬送する搬送手段を有することは明らかであり、上記(3)の「インクジェットヘッド」の対比をふまえれば、本願発明の「搬送手段」と引用発明の「搬送手段」とは、「前記インクジェットヘッドにより前記紫外線硬化型インクが吐出され、該紫外線硬化型インクに紫外線が照射された後の前記メディアを前記加熱手段に搬送する」点で一致する。
(6)引用発明の「加温装置」は、「紫外線照射後、得られた硬化画像を」「加温処理する」から、「紫外線を照射する紫外LED及び紫外LD」よりも被記録媒体の搬送方向下流側に設ける必要があることは明らかである。そして、引用発明の「紫外LED及び紫外LD」は「ヘッドユニットの両側に設けられたものであるから、「加温装置」は、「ヘッドユニット」に含まれる「インクジェット」よりも被記録媒体の搬送方向下流側に設けられる。さらに、引用発明の「加温装置」が加温するためのヒータを有することは明らかである。
してみると、本願発明の「加熱手段」と引用発明の「加温装置」とは、「前記メディアの搬送方向において前記インクジェットヘッドの下流側に設けられたヒータであ」る点で一致する。
(7)引用発明の「開始剤」は、「紫外線の照射により分解して、ラジカルなどの開始種を発生」するから、紫外線照射後に硬化膜内に残存する開始剤分解成分は開始剤ラジカルである。そして、引用発明の「インクジェット記録装置」は、「紫外線照射後、得られた硬化画像を加温装置により40℃以上150℃未満の温度で加温処理することで、硬化膜内に残存する開始剤分解成分や、残存モノマーが揮発する」から、硬化画像を形成する被記録媒体上に吐出された紫外線光硬化型インクジェット記録用インクに残存する未反応の開始剤ラジカルを揮発させるといえる。そして、引用発明の「加温装置」がヒータを有することは明らかであることも踏まえると、本願発明の「加熱手段」と引用発明の「加温装置」とは、「前記メディアを前記ヒータにより加熱して、前記メディアの上に吐出され、前記紫外線照射手段からの前記紫外線の照射により硬化された前記紫外線硬化型インクの、未反応の開始剤ラジカルを」「揮発させる程度に前記紫外線硬化型インクを加熱する」点で一致する。
したがって、本願発明と引用発明を対比すると、両者は、
「紫外線硬化型インクをメディアに向けて吐出するインクジェットヘッドと、
前記メディアに吐出された紫外線硬化型インクに紫外線を照射する紫外線照射手段と、
前記紫外線照射手段による紫外線照射後の紫外線硬化型インクを加熱して、前記紫外線硬化型インクの発色を安定化させる加熱手段と、
前記インクジェットヘッドにより前記紫外線硬化型インクが吐出され、該紫外線硬化型インクに紫外線が照射された後の前記メディアを前記加熱手段に搬送する搬送手段と、を有し、
前記紫外線硬化型インクは、溶媒の揮発を必要とすることなく硬化可能なインクであり、
前記加熱手段は、前記メディアの搬送方向において前記インクジェットヘッドの下流側に設けられたヒータであり、
前記紫外線が照射された前記メディアを前記ヒータにより加熱して、前記メディアの上に吐出され、前記紫外線照射手段からの前記紫外線の照射により硬化された前記紫外線硬化型インクの、未反応の開始剤ラジカルを揮発させる程度に前記紫外線硬化型インクを加熱するインクジェット印刷装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本願発明の「搬送手段」は、「前記インクジェットヘッドにより前記紫外線硬化型インクが吐出され、該紫外線硬化型インクに紫外線が照射された直後の前記メディアを前記加熱手段に搬送すると共に、加熱後のメディアを巻き取る」ものであるのに対し、引用発明の「搬送手段」は、インクジェットヘッドにより紫外線光硬化型インクジェット記録用インクが吐出され、該紫外線光硬化型インクジェット記録用インクに紫外線が照射された直後の被記録媒体を加温装置に搬送するといえるものの、加熱後の被記録媒体を巻き取るものであるか不明である点。
<相違点2>
本願発明の「加熱手段」は、「前記紫外線が照射された直後の前記メディアを」加熱するのに対して、引用発明の「加温装置」は、紫外線光硬化型インクジェット記録用インクに紫外線が照射された後に被記録媒体を加熱しているといえるものの、紫外線が照射された「直」後に加熱されているといえるか不明である点。
3 判断
(1)相違点について
上記相違点1と相違点2は、いずれもインクジェット記録装置の装置構成に関する」ものであるので併せて検討する。
引用発明のインクジェット記録装置は、具体的な構成が不明であるから、発明の製品化等考慮して、実現するための構成を検討することは、当業者に当然に求められていると理解できる。そして、実現するための装置構成を、インクジェット記録装置として従来周知のものの中から適宜選択することは、当業者が通常の創作能力を発揮する範囲内の事項であるところ、「得られた硬化画像を」「加温処理する加温装置」を有する「インクジェット記録装置」である引用発明を具体化するに際し、紫外線硬化型インクが適用可能であって、ヒータが設けられたインクジェット記録装置における技術に他ならない周知技術1を採用し、ヒータがインクジェットヘッドからインクが吐出された直後の記録媒体を加熱し、搬送手段が加熱後の被記録媒体を巻き取るよう構成することは、当業者が容易になし得るものである。
したがって、上記相違点1に係る発明特定事項は、引用発明と周知技術1に基づき、当業者が容易になし得るものである。
また、引用発明の「紫外線」である活線放射線の照射は、「インクの吐出装置を含むヘッドユニットの両側に光源を設け、ヘッドユニットと光源を走査することによって行」われるから、インクジェットヘッドからインクが吐出された直後の記録媒体を加熱する周知技術1の装置構成を適用した「加温手段」は、紫外線が照射された直後の被記録媒体を加温処理するように設けられることとなる。
したがって、上記相違点2に係る発明特定事項は、引用発明と周知技術1に基づき、当業者が容易になし得るものである。
(2)審判請求人(以下「請求人」という。)の意見書の主張について
ア 請求人の主張の概要
請求人の令和6年12月27日付けの意見書における主張の概要は以下のとおりである。
(ア)引用文献1には、ラジカル反応を活発化させて樹脂の硬化を促進するものであり、「ラジカルの分解によりインクの発色を安定化させることが記載されている」といえるためには、色味の経時的な変化について言及があって然るべきところ、「紫外線硬化型インクの発色を安定化させる」という本願の目的と、加熱の作用については、引用文献1の発明者をして認識がない。
(イ)単にインク特性を示す引用文献1と、引用文献2、3とを組み合わせる動機付けは希薄で、RtoR装置における本願発明のフォトブリーチに関する動機付けは、引用文献1や、引用文献2、3にはない。よって、如何に当業者といえども、引用文献1や、引用文献2、3に開示された発明から、紫外線照射後に巻き取られたメディアにおいて、印刷物の内部に未反応のラジカルが閉じ込められて黄味が抜けるまでの時間が長くなるという点に気づいて、本願のような構成を採用することはない。
イ 請求人の主張の検討
(ア)上記ア(ア)の主張について
a 本願発明の「加熱手段」の「前記紫外線照射手段による紫外線照射後の紫外線硬化型インクを加熱して、前記紫外線硬化型インクの発色を安定化させる」との作用を特定する記載は、紫外線硬化型インクに対して発色を安定化させることをいうにとどまり、どのような作用機序による、何に比べてどの程度の安定化をいうのかまで述べるものではない。そうすると、上記2(2)のとおり、引用発明の「加温装置」における「紫外線照射後、得られた硬化画像を40℃以上150℃未満の温度で加温処理する」と、「画像の変色が起こりにくく、高精彩な画像が得られる」との作用も、加温前後の変色が抑えられている点で、「発色を安定化させる」といえる。
b 本願発明を「ラジカルの分解により」「インクの発色を安定化させる」ものであると解釈したとしても、その内容を確認すると、本願の明細書段落【0044】に「紫外線硬化型インクには、紫外線照射後の硬化を確実なものにするために、紫外線硬化樹脂に対して過剰となるように開始剤が含まれている。
そのため、紫外線の照射(時刻t0)の直後(時刻t1)には、未反応の開始剤ラジカルが大量に出現し、出現した未反応の開始剤ラジカルにより色味が黄変する。
そして、ポリマー化の進行に伴う開始剤ラジカルの消費と、経時的な開始剤ラジカルの分解などによる減少により黄味が薄れてゆき(時刻t1→時刻t2→時刻t3)、最終的に色味が安定する(時刻t3以降)と推定した。」とあり、また、【0045】に「本件発明者は、未反応の開示剤(合議体注:開始剤の誤記と思われる。以下同様。)ラジカルの揮発または分解などを促進することで、紫外線照射後のより短い時間で、紫外線硬化型インクの色味を安定化させることができると推定した。そして、未反応の開示剤ラジカルの分解、揮発を促進するために、紫外線照射後の紫外線硬化型インクを加熱することを検討した。」とあるとおり、「紫外線硬化型インクの発色を安定化させる」との効果は、加熱により、未反応の開始剤ラジカルの揮発又は分解が行われるとともに、ポリマー化の進行に伴う開始剤ラジカルの消費も相まって、過剰であった開始剤ラジカルが少なくなることで奏されると解される。
一方で、引用発明は、「インク組成物に含まれる重合開始剤等の化合物が活性放射線の照射により分解して、ラジカル、酸、塩基などの開始種を発生し、その開始種の機能にラジカル重合性化合物の重合反応が、生起、促進される」(上記1(1)ア(エ)【0017】)ものであり、紫外線照射後、得られた硬化画像を加温装置により40℃以上150℃未満の温度で加温処理することで、「硬化膜内に残存する開始剤分解成分や、残存モノマーが揮発し、さらには膜中に残存する活性ラジカルが、膜中残存二重結合の反応を促進させる」ものである(上記1(1)ア(オ)【0023】)から、残存する開始剤分解成分の揮発と、残存する活性ラジカルの反応促進による消費にも触れられており、これにより硬化反応させる成分が少なくなる方向に進むことは明らかである。
したがって、引用発明は、本願発明と同様の作用効果を奏するものと理解できる。
c 上記a及びbより、引用発明は、少なくとも「紫外線硬化型インクの発色を安定化させる加熱手段」を備えるといえるものであるし、発明の詳細な説明を参酌しても、目的や加熱の作用が異なるともいえないから、本願の目的と、加熱の作用については、引用文献1の発明者をして認識がないとの主張は採用できない。
(イ)上記ア(イ)の主張について
a 請求人は、「RtoR装置における本願発明のフォトブリーチに関する動機付けは、引用文献1や、引用文献2、3にはない」ことをもって、「引用文献1や、引用文献2、3に開示された発明から、・・・本願のような構成を採用することはない」というが、本願発明と引用発明との相違点である、「搬送手段」の構成と「加熱手段」の配置は、上記(1)のとおり、引用発明をインクジェット記録装置として実現するための装置構成を、当業者が採用し得るか否かという観点で評価できる事項であって、フォトブリーチに関する動機付けが存在しなければ、採用できないものではない。
よって、上記(イ)の主張はあたらない。
b 請求人の主張を、RtoR装置におけるフォトブリーチを解決することが、引用発明と周知技術の組み合わせから当業者が予測し得ない、格別顕著な効果であるとの主張と解したとして以下予備的に検討すると、フォトブリーチなる課題は、本願明細書の【0032】「ここで、紫外線硬化型インクを用いて印刷した画像に紫外線を照射すると、黄色系の色味が強くなり、以降、印刷された画像の色味が経時的に変化して、最終的に目的の色味に落ち着く現象、いわゆるフォトブリーチ現象が生ずることが知られている。」との記載や、上記(ア)bで示した【0044】~【0045】の作用機序からみて、RtoR装置によらず、紫外線硬化型インクを用いて印刷した画像において生じる作用と認められる。
そして、(ア)bで述べたとおり、上記引用発明自身がフォトブリーチを解消する効果を奏することに加え、周知技術1で示したとおり、ヒータの下流に被記録媒体を巻き取る手段を設けるRtoR装置が、インクジェット記録装置の分野において広く知られる周知の装置構成であることからすれば、RtoR装置におけるフォトブリーチを解決する効果は、引用発明及び周知技術1から当業者が予測し得る程度のものであって、なんら格別のものということはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-002253