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特許拒絶査定不服審判

2022-010058

がんイメージング及びがん放射線治療のための組成物及び方法

審判番号
2022-010058
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-541232外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年06月30日
審決日
2023年12月26日
公報発行日
2024年06月28日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (C07K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項、特許法第126条第7項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-541232「がんイメージング及びがん放射線治療のための組成物及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月 2日国際公開、WO2018/138372、令和 2年 3月 5日国内公表、特表2020-506921〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 11項目
理 由

第1 手続の経緯

本願は、平成30年1月30日(パリ条約による優先権主張 2017年1月30日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりものである。

令和 3年 9月29日付け 拒絶理由通知書

令和 3年12月23日 手続補正書・意見書の提出

令和 4年 2月18日付け 拒絶査定

令和 4年 6月30日 審判請求書・手続補正書の提出

第2 令和4年6月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

令和4年6月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 補正の内容

令和4年6月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正することを含むものである。

補正前:

「【請求項1】
対象にコンジュゲート化合物を投与すること並びに放射性核種の存在及び/又は量を分析することによって前記対象におけるがん細胞を標識する及び/又は検出する方法に使用する、化学式M-C-P又はM-C-S-Pのコンジュゲート化合物であって、
式中、Mは薬学的に許容される放射性核種を示し、
Cは、Mとともにキレートを形成するキレーターを示し、該キレーターは、NODAGA、DOTA、DOTA-GA、NOTA、及びそれらの機能的誘導体から選択され、
Sは、スペーサーを示し、該スペーサーは、存在する場合、アルキル、アリール、PEG、又はペプチドから選択される2官能性又は多官能性薬剤を含み、
Pは、最大で30個のアミノ酸残基を有するとともに低密度リポタンパク質受容体(LDLR)に結合可能なペプチド又は疑似ペプチドを示し、該ペプチド又は疑似ペプチドは配列番号1~配列番号9のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含む、コンジュゲート化合物。」

補正後:

「【請求項1】
対象にコンジュゲート化合物を投与すること並びに放射性核種の存在及び/又は量を分析することによって前記対象における低密度リポタンパク質受容体(LDLR)を過剰発現するがん細胞を標識する及び/又は検出する方法に使用する、化学式M-C-P又はM-C-S-Pのコンジュゲート化合物であって、
式中、Mは薬学的に許容される放射性核種を示し、
Cは、Mとともにキレートを形成するキレーターを示し、該キレーターは、NODAGA、DOTA、DOTA-GA、NOTA、及びそれらの機能的誘導体から選択され、
Sは、スペーサーを示し、該スペーサーは、存在する場合、アルキル、アリール、PEG、ベータ-アラニンを有するPEG又はペプチドから選択される2官能性又は多官能性薬剤を含み、
Pは、最大で30個のアミノ酸残基を有するとともにLDLRを過剰発現するがん細胞におけるLDLRに結合可能なペプチド又は疑似ペプチドを示し、該ペプチド又は疑似ペプチドは配列番号1~配列番号9のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含む、コンジュゲート化合物。」(下線部は、補正箇所である。)

2 補正の適否

本件補正は、補正前の請求項1に記載された「がん細胞」を「低密度リポタンパク質受容体(LDLR)を過剰発現する」ものに限定するとともに、Pであるペプチド又は疑似ペプチドが結合する「LDLR」を「LDLRを過剰発現するがん細胞における」LDLRに限定するものである一方で、補正前の請求項1に記載された「スペーサーが存在する場合、」のスペーサーの選択肢が「アルキル、アリール、PEG、又はペプチドから選択される2官能性又は多官能性薬剤を含」むものであったところ、「アルキル、アリール、PEG、ベータ-アラニンを有するPEG又はペプチドから選択される2官能性又は多官能性薬剤を含」むものに補正するものである。

発明の詳細な説明には、「(スペーサー)Sは、アルキル、アリール、PEG、又はペプチド性であり、アミン、エステル、アルデヒド、アルキル又はアリール酸、無水物、スルフヒドリル、又はカルボキシル基、臭化シアン若しくは塩化シアン、カルボニルジイミダゾール、スクシンイミドエステル、スルホン酸ハライド、マレイミド、アジド、イソチオシアネート、アルキンから誘導される基、などの官能基をその末端に有する、2官能性又は多官能性の薬剤から選択することができる。特定の実施形態において、Sは、好ましくはその一端にベータ-アラニンを有する1つ又は複数のPEGを含む。例として、Sは、その鎖の一端にベータ-アラニンを有する12個のPEGのオリゴマーである。」(【0059】段落)と記載されている。

そして具体的には、「【図5】図5は、ケージ-βAla-PEG12-ペプチド-NH2化合物の合成の反応スキームを示す。このスキームでは、NODAGA-βAla-PEG12-配列番号1-NH2の合成を例として示す。」。」(【0024】段落)、「 <実施例6:NODAGA-配列番号1-NH2、DOTA-配列番号1-NH2、NODAGA-βAla-PEG12-配列番号1-NH2、DOTA-βAla-PEG12-配列番号1-NH2、及びそのそれぞれのスクランブルコントロールNODAGA-βAla-PEG12-配列番号13-NH2、及びDOTA-βAla-PEG12-配列番号13NH2の合成>」(【0118】段落)のように一貫してPEGとは異なる化合物「βAla-PEG12」として記載されている。

したがって、補正前の請求項1に記載された「スペーサーが存在する場合、」についてPEGとは別の化合物である「ベータ-アラニンを有するPEG」を択一的記載の要素として付加する補正は、特許請求の範囲を限定的に減縮する補正に該当しない。

また、仮に、「ベータ-アラニンを有するPEG」がPEGの下位概念であると解釈した場合であっても、「スペーサー」の選択肢として、「PEG」を削除することなく、「ベータ-アラニンを有するPEG」を追加することは、特許請求の範囲を限定的に減縮する補正に該当しない。

また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明のいずれかを目的とする補正にも該当しないことも明らかである。

そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 独立特許要件について

上記2で述べたように、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないものであるが、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか(本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)引用文献の記載事項

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ア 引用文献1の記載事項

原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願の優先日前の2015年12月21日に頒布された刊行物である、特表2015-536315号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。下線は当審にて付加した。

(ア)

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1~5のいずれか1つから選択された配列を含むペプチド又は疑似ペプチド。
【請求項2】
続きを表示(全55行)
以下の式(A):
Ph-M-Pi (A)
(式中、
各Pは、アミノ酸配列:A1-Met-A2-Arg-Leu-Arg-A3-A4を含む同じ又は異なるペプチド又は疑似ペプチドを示し、A1及びA4は、独立して、システイン又はその類似体又はそのアイソスターを示し、A2はプロリン又はその類似体又はそのアイソスターを示し、A3はグリシン又はその類似体又はそのアイソスターを示し;
Mは分子プラットフォームであり、
h及びiは、互いに独立して、1、2、3、4又は5から選択された整数である)
を有する多量体物質。
【請求項3】
A1及びA4が、独立して、(D)-cys、ペニシラミン(Pen)及び(D)-ペニシラミン((D)-Pen)から選択されたCys又はその類似体を示し、並びに/又は、A2が、ピペコリン酸(Pip)及びチアゾリジン-4-カルボン酸(Thz)から選択されたPro類似体を示し、並びに/又はA3がGlyもしくはサルコシン(Sar)を示す、請求項2の多量体物質。
【請求項4】
h及びiが、互いに独立して、1又は2であり、好ましくはh=i=1である、請求項2又は3の多量体物質。
【請求項5】
Pが以下の一般式(I’):
(D)-Cys-Met-A2-Arg-Leu-Arg-A3-A4(I’)
(式中、
A2は、Pro、Pip又はThzを示し、A3はGly又はSarを示し、A4はCys、(D)-Cys、Pen又は(D)-Penを示す)
で示されるペプチドである、請求項2~4のいずれか一項の多量体物質。
【請求項6】
Pが、配列番号1~5のいずれか1つから選択された配列を含むペプチドである、請求項2~5のいずれか一項の多量体物質。
【請求項7】
Mが、少なくとも2つの反応性官能基、好ましくは少なくとも3つの反応性官能基を有する多官能基有機化合物である、請求項2~6のいずれか一項の多量体物質。
【請求項8】
Mがポリリジン又はトリス(2-アミノエチル)アミン基である、請求項2~7のいずれか一項の多量体物質。
【請求項9】
ホモ二量体である、請求項2~8のいずれか一項の多量体物質。
【請求項10】
前記ペプチド又は疑似ペプチドが、メチレン(-CH2-)又はリン酸(-PO2-)基、第2級アミン(-NH-)又は酸素(-O-)、アルファ-アザペプチド、アルファ-アルキルペプチド、N-アルキルペプチド、ホスホンアミデート、デプシペプチド、ヒドロキシメチレン、ヒドロキシエチレン、ジヒドロキシエチレン、ヒドロキシエチルアミン、レトロインベルソ型ペプチド、メチレンオキシ、セトメチレン、エステル、ホスフィネート、ホスフィン酸、ホスホンアミド又はカルバ類似体の挿入から選択された少なくとも1つのペプチド模倣結合を含む、請求項1~9のいずれか一項のペプチド、疑似ペプチド又は多量体物質。
【請求項11】
前記ペプチドもしくは疑似ペプチドのN末端(N末)官能基がアシル化によって保護され、及び/又は前記ペプチドもしくは疑似ペプチドのC末端(C末)がアミド化もしくはエステル化によって保護される、請求項1~10のいずれか一項のペプチド、疑似ペプチド又は多量体物質。
【請求項12】
以下の式(III):
VxSzDy (III)
(式中、
Vは、請求項1~11のいずれか一項のペプチド又は疑似ペプチド又は多量体物質を示し、Sはスペーサーを示し、Dは、活性物質又は対象の物質を示し、xは1~5の整数であり、y及びzは1~10の整数である)
で示されるコンジュゲート化合物。
【請求項13】
x=z=y=1;x=z>y、y=z>x又はz>x>yであるか;あるいは、z=0であり、x及びy=1であるか、又はyはxより大きいことを特徴とする、請求項11のコンジュゲート化合物。
【請求項14】
活性物質又は対象の物質が、治療上関心のある分子、診断剤又は医療用イメージング剤、分子プローブ、化学的低分子、ペプチド又はポリペプチド、タンパク質、抗原、抗体又は抗体の一部、核酸又はオリゴヌクレオチド、siRNA、miRNA、リボザイム、マーカー又はトレーサーであることを特徴とする、請求項11のコンジュゲート化合物。
【請求項15】
VとDの間のカップリング、又は一方でVとSの間及び他方でSとDの間のカップリングが、生理的培地中で又は細胞内で切断可能な又は切断不能な1つ以上の共有結合、イオン結合、水素結合、疎水性結合又はファンデルワールス結合によって行なわれることを特徴とする、請求項11のコンジュゲート化合物。
【請求項16】
Dが、Vと、必要な場合にはSを介して、VのN末端及び/もしくはC末端の一方もしくは両方において、並びに/又はVを構成する天然もしくは非天然アミノ酸側鎖によって担持されている1つ以上の反応性基においてカップリングしている、請求項11のコンジュゲート化合物。
【請求項17】
請求項1~10のいずれか一項のペプチド又は疑似ペプチド又は多量体と物質Dの間の、必要な場合にはスペーサーSを介しての、化学的、生化学的もしくは酵素的経路による又は遺伝子工学によるカップリングの工程を含むことを特徴とする、コンジュゲート化合物を調製するための方法。
【請求項18】
請求項11の少なくとも1つのコンジュゲート化合物及び1つ又はいくつかの薬学的に許容される賦形剤を含む薬学的組成物。
【請求項19】
請求項11のコンジュゲート化合物から構成される診断剤又は医療用イメージング剤を含む診断用組成物。
【請求項20】
被験体に、請求項1~10のいずれか一項のペプチド又は疑似ペプチド又は多量体にカップリングさせた分子を投与することを含む、被験体に前記分子を送達するための方法。」

(イ)

「【0031】
発明の要約
本発明は、LDLR発現組織の細胞膜、特にCNS又は網膜の生理学的関門(BBB/BSCB及びBRB)を通過して、対象の分子を輸送することのできる、新規ペプチド又は疑似ペプチドを提供する。従って、本発明は、改善された体内分布又はバイオアベイラビリティを有し、特に、CNS及び/又は眼及び/又はLDLRの豊富な他の器官、例えば肝臓、副腎及び腸への、及び/又はLDLRの豊富な種々の癌細胞への、及び/又は細胞のリソソーム区画への改善されたアクセス(ターゲティング)を有する、新規治療剤又は診断剤を設計することを可能とする。
【0032】
WO2010/046588及びWO2011/131896において、本発明者らは、LDLRに結合することができ、かつ、分子(治療上又は診断上関心のある分子を含む)を脳に伝達することのできる、ペプチド誘導体を開発した。
【0033】
本発明者らは、今回、分子の輸送にとって有利な特性を示す新規なペプチドを設計し検証した。本発明者らはまた、あらゆる薬剤を動物に送達するための改善された親和性及び高い輸送能を示す、新規なこのようなペプチドの多量体を設計した。これらの新規ペプチド及び多量体は、天然リガンドと競合することなく、従って、内因性LDLの輸送を干渉することなく、LDLRに結合することができ、かつ、治療又は診断(イメージングを含む)薬物又は薬剤を送達、ターゲティング又はベクター化して、特にCNS及び/又は眼及び/又はLDLRの豊富な他の器官(例えば肝臓、副腎、腸)に、及び/又はLDLRの豊富な癌細胞に、及び/又は細胞のリソソーム区画に到達するために、特に有利である新規製品を示す。
【0034】
本発明の1つの目的は、特に、配列番号1~5から選択された配列を含むペプチド又は疑似ペプチドに関する。」

(ウ)

「【0059】
本発明の目的は、より特定すると、配列番号1~5から選択された配列を含むペプチド又は疑似ペプチドに関する:
【化1】
[図:0001410645000001.jpg]
」

(エ)

「【0104】
本発明はまた、脳腫瘍又は他の種類の癌細胞を処置、イメージング及び/又は診断するための上記に定義されているようなコンジュゲート又は組成物の使用に関する。研究により、実際に、特定の癌を有する患者は低コレステロール血症を有することが示された。この低コレステロール血症は、癌細胞によるコレステロールの過剰使用の結果である。癌細胞は生存するために、腫瘍を有する器官内のLDLR発現レベルの増加を誘導する(Henricksson et al., 1989, Lancet, 2(8673), 1178-1180)。従って、細胞によるLDLR発現レベルの増加と及び特定の癌との間には相関がある。また、近年、LDLRの数は、癌細胞などの特定の病的細胞の表面上で非常に高いことが示された。一般的に、1,000~3,000個のLDLRが、病的ではない細胞の表面に存在していることが認められている。同様に、皮質の灰白質の細胞には僅かなLDLRしか存在していない(Pitas et al., 1987, J. Biol. Chem., 262, 14352-14360)。神経膠芽腫の場合、LDLRの過剰発現が示されている。従って、脳腫瘍細胞の表面上に、125,000(U-251細胞について)から900,000個(SF-767細胞について)のLDLRが計測されている(Malentiska et al., 2000, Cancer Res., 60, 2300-2303; Nikanjam et al., 2007, Int. J. Pharm., 328, 86-94)。また、多くの腫瘍細胞がLDLRを、例えば、前立腺癌(Chen et al., 2001, Int. J. Cancer, 91, 41-45)、大腸癌(Niendorf et al., 1995, Int. J. Cancer, 61, 461-464)、白血病(Tatidis et al., 2002, Biochem. Pharmacol., 63, 2169-2180)、結腸直腸癌(Caruso et al., 2001, Anticancer Res., 21, 429-433)、乳癌(Graziani et al., 2002, Gynecol. Oncol., 85, 493-497)、並びに、肝臓、副腎、膵臓、卵巣、肺などの癌のLDLRを過剰発現することが注記されるべきである。」

(オ)

「【0132】
実施例II
ペプチドベクターの設計
ペプチドがhLDLRに結合する能力を決定した。この目的を達成するために、接着及びコンフルエントなCHO-hLDLR-RFP細胞を、6ウェルプレート中で培養した。1つの条件につき3つの細胞のウェルを使用する。
続きを表示(全29行)
【0133】
Stagに付着させた10μMの参照ペプチド1(「配列番号17」と呼ばれる、そのアミノ酸配列は、WO2011/131896において配列番号17として開示されている)(「配列番号17-Stag」)を含む溶液を、HamF12-1%BSA培養培地中で調製した。この溶液に、評価すべき10μMのペプチドを加えた(競合)。
【0134】
いくつかの対照溶液も調製する:(i)HamF12-1%BSA培地。(ii)HamF12-1%BSA培地+10μMの対照ペプチドCTRL-STag(STagを含む任意のペプチドの非特異的結合の評価)。(iii)HamF12-1%BSA培地+10μMのペプチド配列番号17-STag+10μMの対照ペプチドCTRL(対象のペプチドと対照ペプチドCTRLの間の「非特異的」競合の評価)。
【0135】
使用されるFRETアプローチは、実施例IIIに記載のものである。
【0136】
得られた結果を以下の表1に提示する。表は、本発明のペプチドによって置換された、hLDLRに対する親和性である、参照ペプチドベクター(配列番号17-STag)に対する競合%の結果を示す。置換値が大きくなればなるほど、hLDLRに対するペプチドの親和性は高くなる。この数値が50%を超えると、ペプチドは、参照ペプチド1よりも高い親和性を有する。
【0137】
【表1】
[図:0001410645000002.jpg]
【0138】
提示された結果は、配列番号1~5のいずれか1つのアミノ酸配列を含む本発明のペプチドが、参照ペプチド1よりもヒトLDLRに対して高度に優れた親和性を有することを示す。これらの結果は、特に、ペプチドのサイズが小さいことを考えると興味深い。
【0139】
さらに、表面プラズモン共鳴(Biacore(登録商標))を使用して測定された本発明のペプチドの結合親和性KDもまた顕著な結果を示す。例えば、配列番号1のペプチドは、22nMという低いKD値を示す。
【0140】
【表2】
[図:0001410645000003.jpg]
【0141】
本発明のペプチドのインビトロにおける血漿中の安定性(すなわち半減期又はt1/2)もまた評価された。簡潔に言えば、各ペプチドを、37℃で8時間まで新しく回収されたスイス(CD-1)マウス血液中でインキュベーションし、血漿画分中の分析物を、液体クロマトグラフィー-タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)分析法を使用していくつかの時点で定量した。結果は、本発明の全てのペプチドが、少なくとも3.9時間及び9.2時間以下のインビトロにおける半減期の値を示すことを示す。
【0142】
【表3】
[図:0001410645000004.jpg]
【0143】
従って、本発明のペプチド又は疑似ペプチドは、以下の顕著な薬理学的特性を有する:(i)100nMの範囲のhLDLRに対する見かけの親和性(Km)及び10nMの範囲の親和性(KD)、これは以前のペプチドより非常に優れており、かつ、ペプチドの結合、エンドサイトーシス、細胞内放出又は経細胞輸送/排出後の放出に適合している(Yu et al., 2011, Sci Transl Med., May 25;3(84):84ra44);(ii)hLDLRに対するその特異性を支持する物理化学的な特徴(ジスルフィド架橋の環化を介した拘束されたコンフォメーション);8アミノ酸までに低減されたサイズ;この受容体に対するその特異性を促進するために非天然アミノ酸は4つ以下;(iii)酵素的タンパク質分解に対するより大きな抵抗性:内因性ペプチド及び一般的には天然アミノ酸のみを含む小さな鎖状ペプチドは、血液中で非常に短いインビトロにおける半減期(t1/2)を有し、典型的には分単位の範囲を有するが(Foltz et al., 2010, J Nutr., Jan;140(1):117-8)、本発明のペプチドのt1/2は、1.5時間から9.2時間までの範囲である。(iv)小さなサイズ及び1kDaに近い分子量により、合成費用及び工業規模での将来的な生産量を減少させることが可能となる。」

(カ)

「【0148】
実施例IV
BBBのインビトロモデルにおける内皮細胞上のLDLRに対して親和性を有する合成ペプチドの毒性、エンドサイトーシス及び経細胞輸送
内皮細胞に対するペプチドの可能性ある毒性作用、これらの細胞におけるペプチドの結合/蓄積、及びペプチドの経細胞輸送による通過を、インビトロのBBBモデルにおいて評価する。共培養モデルを組み立てるのに必要とされる細胞は、ラット又はマウス脳毛細血管内皮細胞(BCEC)及びラット又はマウス星状膠細胞である。このタイプのインビトロのBBBモデルを使用して、数多くの分子、特に薬理学的薬剤の、BCECを通過する受動通過又は能動輸送を、及び従って、インビボにおいてCNS組織に到達するその能力を推定することによって評価する。現在までに開発された種々のモデル(ウシ、ブタ、マウス、ヒト)は、脳内皮、特にタイトジャンクション、開窓がないこと、経内皮チャネルがないこと、疎水性分子に対する低い透過性、及び高い電気抵抗を特徴とする、超微細構造的な特性を有する。さらに、これらのモデルは、BBBを通過するその特性についてインビトロ及びインビボで評価された様々な分子について行なわれた測定の結果間に確かな相関を示した。現在までに得られた全てのデータは、これらのインビトロのBBBモデルが、細胞培養実験に伴う利点を保持しつつ、インビボで存在する細胞環境の幾分の複雑さを再現することによって、インビボの状況を厳密に擬態することを示す。
続きを表示(全28行)
【0149】
例えば、インビトロのラットBBBモデルは、BCECと星状膠細胞の共培養を利用する。細胞培養前に、膜インサート(Millicell1.0μmの多孔度;6ウェル又は12ウェルのプレートについて)の上の部分を、IV型コラーゲン及びフィブロネクチンで処理して、BCECの最適な接着を可能とし、基底層の状態を作る。混合星状膠細胞の一次培養液を、新生児ラット大脳皮質から確立する(Dehouck et al., 1990, J. Neurochem., 54, 1798-1801)。簡潔に言えば、髄膜を除去した後、脳組織を82μmのナイロンふるいに通過させる。星状膠細胞を、1.2×105個の細胞/mlの濃度で、10%の加熱により失活させたウシ胎児血清を補充した2mlの最適な培養培地(DMEM)と共に、マイクロプレートウェル中に分布する。培地を1週間に2回交換する。BCECを、2日間毎に添加された、20%(v/v)ウシ乏血小板血漿由来血清、2mmのグルタミン、50μg/mlのゲンタマイシン、及び1ng/mlの塩基性線維芽細胞増殖因子を補充した、DMEM/F12培地の存在下で増殖させる。その後、BCECを、2mlの共培養液中のフィルターの上表面に分配する。このBCEC培地を1週間に3回交換する。これらの条件下、分化BCECは、7日後にコンフルエントな単層細胞を形成する。
【0150】
その毒性を試験するために、IgG1抗体のヒトFcフラグメントに化学的にコンジュゲート又は融合させた本発明のペプチドを、培養システムの上のチャンバーで、内皮細胞と30分間又は2時間接触させてインキュベーションする。下のチャンバーの培養培地を、様々な時点で回収し、FcフラグメントをサンドイッチELISAによって定量する。BBBを通過しない蛍光小分子であるルシファーイエロー(LY)を、まず、インビトロにおいて分析した全てのウェルにおいてBBBの完全性を評価するために、第二に、ペプチドを共インキュベーションして、このBBBを形成する内皮細胞に対してペプチドの毒性がないことを評価するために使用する。培養培地を種々の時点で回収し、蛍光を蛍光定量法によって定量する。結果を、内皮表面透過度(すなわちPe)として10-3cm/分で表現する。インビトロのバリアは、LYのPe値が0.6×10-3cm/分よりも大きい場合に、「透過性」又は「開放」と考える。電気抵抗器を用いて測定されΩ.cm2で表現される、経内皮電気抵抗(TEER)もまた、BBBを通過する試験中にインビトロにおけるBBBの完全性を測定することを可能とする。品質閾値は>500Ω.cm2に設定される。
【0151】
実施された実験は、使用された対照ペプチドだけでなく、前記ペプチドの毒性もないこと、及び、BBBの透過特性に対する有害な作用がないことを示す。
【0152】
対照として、DiI-LDLを、インビトロのBBBモデルの下の区画において定量した(図5-J WT曲線)。グラフは、1つのインサートあたり4μgで輸送の飽和を示す。DiI-LDLを用いて定量されたシグナルのLDLR特異性を確認するために、この実験を、LDLR-/-ラット(KO)からのBCECに基づいたインビトロのBBBモデルを用いて繰り返した。図5-Jのグラフは、LDLR-/-ラットから調製された場合、下の区画へのBCEC単層を通過するDiI-LDLの輸送が全くないことを示す(WT及びLDLR-/-ラットBCECを用いての実験間の有意な差)。
【0153】
ヒトFcフラグメントにコンジュゲートさせた本発明のペプチド(Fc-配列番号43及びFc-配列番号1)のインビトロでのBBBにおけるLDLRへの結合/取り込みを、インビトロにおいて上記のようなラットモデルで確認する(図7)。この分析は、様々な時点(30分間から2時間)及び濃度(0.1から0.4μM)で内皮細胞及びレシーバーウェルに蓄積した、Fcフラグメント又は本発明のペプチドにコンジュゲートさせたFcフラグメントの品質を、サンドイッチELISAによって測定することによって行なわれる。毒性がないことは、時間の関数として一方の区画から別の区画へと通過するLYレベルの同時測定によって分析された様々なウェルにおけるBBBの完全性を測定することによって評価される。
【0154】
実施例V
参照ペプチド2の生体分子融合、並びに、参照ペプチド1及び配列番号1の、ヒトIgG1抗体の定常フラグメント(Fcフラグメント)への生化学的カップリング、並びに、CHO hLDLR細胞系及びインビトロラットBBBモデルにおける結合、エンドサイトーシス及びRMTの評価
hLDLRに対する親和性を有するいくつかのペプチドを、細胞系又は一次内皮細胞において発現されるhLDLRへの、共有結合的に連結されたFcフラグメントの結合及び/又はエンドサイトーシス及び/又は経細胞輸送を促進するその能力について試験した。この目的のために、本発明らは、Fcフラグメントと融合したペプチド配列番号43をコードする配列、又は、同じFcフラグメントに化学的にカップリングさせたペプチド配列番号17及び配列番号1をクローニングした。
【0155】
ペプチド配列番号43に融合したFcフラグメントを産生するために、プラスミド-pINFUSE hIgG1-Fc2(InvivoGen)に基づいてプラスミド構築物を作成し、これを鋳型として使用した。Fc-配列番号43をコードするメガプライマーを、WO2011/131896に記載のようにPCRによって合成した。PCR反応の産物(Fc-配列番号43)を精製し、DpnI(親メチル化DNAを消化する酵素)で消化し、QuickChange II 部位特異的突然変異誘発キット(Agilent)を使用してマトリックスとして使用されたpINFUSE hIgG1-Fc2プラスミドを用いて実施された第2のPCR反応においてメガプライマーとして使用した。コンピテントな細菌の形質転換後、単離されたコロニーを得、プラスミドDNAを調製し、cDNA構築物を確認のために両方の鎖についてシークエンスした。このベクターはpFc-配列番号43と呼ばれるが、これは哺乳動物細胞のトランスフェクション後、そのN末端又はC末端においてペプチド配列番号43に融合したFcフラグメントの発現を可能とする。ヒト胚腎臓細胞(HEK293)を、リポフェクタミン2000(Invitrogen)を使用してプラスミドpFc-配列番号43を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションから72時間後、培養上清に含まれるタンパク質Fc-配列番号43を、ProsepプロテインA精製キット(Millipore)を使用して精製した。精製された融合タンパク質を、サンドイッチELISA試験によってアッセイし、続いてhLDLR CHO細胞、一次内皮細胞及びインビトロのBBBモデルで試験を実施するために使用した。
【0156】
Fcフラグメント(Millipore)へのペプチド配列番号17及び配列番号1の化学的カップリングのために、制御されたタンパク質-タンパク質架橋キット(Controlled Protein-Protein Crosslinking Kit、Thermo Scientific)を使用した。ペプチド配列番号17及び配列番号1を、Fcフラグメントの第一級アミン上に付加されたマレイミド基を有する精製Fcフラグメントとの連結のために利用できる遊離スルフヒドリル基(システアミド)を担持するように合成された。1モルのFcフラグメントあたりのペプチドのモル数は1~7と評価された。得られたタンパク質はFc-配列番号17及びFc-配列番号1と命名され、サンドイッチELISA試験によってアッセイされた。それらを続いて使用して、CHO hLDLR細胞上での試験を実施した。
【0157】
Fc-配列番号43及びFc-配列番号1の結合及びエンドサイトーシスもまた、パルスチェイス実験を使用した免疫細胞化学法によって評価された(図4)。簡潔に言えば、CHO-hLDLR-GFP細胞を、4℃で30分間、5nMの濃度のFc-ペプチドと共にインキュベーションし、その後、十分に洗浄し、チェイス媒体中、37℃で5分間インキュベーションして、細胞質内小胞の蓄積を可能とした。その後、細胞を4%PFAを用いて10分間かけて固定し、PBS/トリトンX100 0.1%を用いて10分間かけて透過処理し、その後、Alexa594にコンジュゲートさせた抗ヒトFc抗体を用いて免疫染色した。Fcフラグメントに融合させたペプチド配列番号43、及びFcフラグメントに化学結合させたペプチド配列番号1は、STagにカップリングさせたペプチドで観察されたようにLDLR媒介エンドサイトーシスを受ける。Fc単独では結合は全く観察されない。CHO WT細胞では全く結合は観察されていない(示していない)。
【0158】
実施例Vに記載のようなインビトロBBBモデルのラットBCECを、Fc-配列番号43、対、陰性対照として使用されたFcフラグメント単独、及び、Fc-配列番号1、対、陰性対照としてのFc-CTRL(配列番号43のスクランブル)の結合/取り込み及び輸送実験に使用した。LDLRの発現、及びインビトロBBBモデルにおけるRMTについてのその機能性を評価した(図5)。その後、Fc-配列番号43対Fcを、37℃で生RBCEC上、種々の濃度で30分間インキュベーションした(図7-A)。Fc-配列番号1対Fc-CTRLもまた、0.1μMで30分間(図6-G及び6-H)又は2時間、生RBCEC上、37℃でインキュベーションした(図7-B)。このような共インキュベーション後、細胞単層を十分に洗浄し、4%のPFAで固定した。細胞単層を、0.1%トリトンX100溶液を用いて透過処理した。Fc、Fc-配列番号43、Fc-配列番号1及びFc-CTRLを、ヒトFcフラグメントに対する一次抗体を使用して明らかとした(図6)。その後、共焦点顕微鏡を使用して、DiI-LDL小胞とFc-配列番号43の蛍光との間の共局在を評価した(図6-AからD)。同じ実験をまた、LDLR-/-ラット(KO)のラットBCECを用いて実施した(Sigma AldrichのSAGE研究所)(図6-E及び6-F)。この実験により、DiI-LDL結合及びエンドサイトーシスにおけるLDLRの役割が確認された。なぜなら、DiI-LDL結合は、LDLR-/-ラットBCECにおいては観察されなかったからである。同時に、DiI-LDLの結合及びFc-配列番号43についての染色は、LDLR-/-BCECには検出されなかった。
【0159】
Fc-配列番号43及びFc-配列番号1のBCECへの結合/取り込みを確認するために、種々の時間及び濃度を、ラットのインビトロBBBモデルにおいて評価した(図7)。図7-Aのグラフは、Fcフラグメントと比較したFc-配列番号43の結合/取り込みの有意差を示す。図7-Bのグラフは、Fc-CTRLと比較したFc-配列番号1の結合/取り込みの有意差を示す。」

イ 引用文献5の記載事項

原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用された、本願の優先日前の2015年12月21日に頒布された総説刊行物である、Reports of Practical Oncology and Radiotherapy, 2014年, Vol.19, S13-S21(以下、引用文献5という。)には、以下の事項が記載されている。下線は当審にて付加した。

(キ)

「4.1. 神経内分泌腫瘍イメージングにおけるガリウム-68二官能性キレーター(BFC)
二官能性キレーターは、放射性同位元素とベクターの結合体として作用する化合物である。BFCの主な特徴は、アイソトープを迅速かつ安定的に取り込み、生体分子と共有結合を形成する能力であり、ターゲティングを担う。過去10年間、BFCへの関心は、臨床および前臨床診断における陽電子放射断層撮影(PET)用の放射性標識ペプチドの合成と使用、および放射線を利用した治療薬と切っても切れない関係にある。
ガリウム-68の導入には、環内に3個または4個の窒素原子を持つ大環状キレーターがよく検討されている。その中でも、ガリウム原子の不可逆的錯形成、熱力学的安定性、室温での優れた動力学的安定性から、トリアザ環とテトラアザ環を持つ分子が最も普及している。外部置換基は通常カルボキシル基の形で、様々な標的分子との結合を可能にする。
DOTA (1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸)は、入手しやすく、配位化学がよく認識されているため、最も頻繁に使用されるキレーターであり続けている。その6配位トリアザ環類似体であるNOTA ((1,4,7-トリアザノナン-1,4,7-トリイル)トリ酢酸)は、ガリウム-68とわずかに変形した八面体錯体を形成し、低温でより高い安定性とGa(III)の迅速な取り込みを示す。DOTAやNOTAに類似した化合物のかなりの数が、特定の用途に使用されてきた(Fig. 2)。
・・・・
多くのレセプターは癌細胞で過剰発現しているため、活性中心に特異的なアミノ酸配列を持つ標的ペプチドをBFCを介して適切な放射性同位元素で標識し、PETや治療薬のための特異性の高いイメージングプローブの開発に使用されている。
68Ga-DOTAペプチドは、神経内分泌腫瘍(NET)細胞に過剰発現しているソマトスタチン受容体(SST)に特異的に結合するPETトレーサーである。標的薬剤は、活性オクタペプチド(オクトレオトライド、OC)や関連ペプチドアナログ、TOC(Tyr3-OC)、TATE(Tyr3-Thr8-OC)、NOC(NaI3-OC)などのペプチドの共有結合を可能にする標準中間体を利用して、BFCを介して結合される(図2)。」(S15頁右欄19行~S16頁左欄下から3行)

(ク)

「ソマトスタチン受容体への親和性にはばらつきがあるが、記載されたすべての化合物(68Ga-DOTA-TOC、-NOC、-TATE)は、高分化NET病変の局在診断に正確であり、CTよりも良好であることが報告されている。
他のモダリティと比較して、転移および原発不明神経内分泌腫瘍の検出において、111In-pentetreotide-SPECTよりもPETの優位性が示されている。68Ga-SSTRを用いたPET画像診断もまた、非癌性腫瘍において18F-FDOPA-PETよりも正確であることが判明している。神経堤腫瘍(傍神経節腫を含む)の患者では、[68Ga]-DOTA-TATEは[123I]-MIBGよりも多くの腫瘍部位を検出した。
放射性核種で標識されたDOTA-SSTRアナログは、神経内分泌腫瘍の診断および治療に使用される。典型的には、68Ga-DOTA-TOCが診断に用いられ、イットリウム-90やルテチウム-177のような高エネルギーまたは中エネルギーのβ-放出核種で標識された同じ化合物が治療に用いられる。診断用アイソトープと治療用アイソトープを結合させたリガンドをNETの治療に使用することで、より良い治療計画が可能になり、診断がその後の治療に合わせて行われる個別化医療のように治療結果を評価することができる。」(S16頁右欄9~31行)

(ケ)

「図2
DOTA-TOC(a)、DOTA-NOC(b)、DOTA-TATE(c)の構造。核医学で最も臨床応用されている68Ga標識医薬品。」(S17頁図2)

(コ)

「4.2.1. 血管新生
血管新生に重要な役割を果たす受容体は、いくつかの実験薬の重要な標的である。αvβ3インテグリンの発現は、血管新生が旺盛な血管で検出され、転移能の高い腫瘍を示す。これまでに最も多く評価された化合物の一つは[18F]ガラクト-RGDであり、これはαvβ3インテグリンに特異的に結合し、非常に優れた薬物動態を示す。[68Ga]DOTA-RGDや、修飾された二官能性リガンドと結合した他のRGDペプチドについても、同様の結果が得られている: [68Ga]NS3-RGD、[68Ga]Oxo-DO3A-RGD、または4つの窒素原子を持つ開鎖H2dedpa。VEGF(血管内皮増殖因子)受容体を用いた血管新生の効果的な診断も報告されている。トレーサーは一本鎖のVEGF(scVEGF)で、NOTAにポリエチレングリコール(PEG)ブリッジで結合しており、常温でガリウム-68による標識に適していた。ガリウム-68で標識したscVEGFPEG-NOTAをHT-29(ヒト結腸腺癌)担癌マウスに静脈内注射したところ、腫瘍構造が明瞭に可視化された。この標識法は、腫瘍血管新生の標的イメージング用のキット化放射性医薬品として提案された。」(S18頁左欄6~27行)

(サ)

「4.2.2. 一般的な腫瘍イメージング
腫瘍におけるケモカイン受容体CXCR4のマッピングは、乳癌、前立腺癌、肺癌における腫瘍の攻撃性の評価や転移播種確率の推定に用いられる。CXCR4イメージング用の特異的トレーサーであるガリウム-68標識DOTA-4-FBn-TN14003(フッ素化14-アミノ酸ペプチド)は、この目的のための潜在的PETトレーサーとして合成された。
同様の研究が、腫瘍の攻撃性と転移性のバイオマーカーとして確立されているウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体(uPAR)を用いて行われた。合成ペプチド(Asp-cyclohexylalanine-Phe-d-Ser-d-Arg-Tyr-Leu-Trp-Ser (AE105))はヒトuPARに高い親和性を持つことが同定されている。68Ga-DOTA-AE105-NH2および68Ga-NODAGA-AE105-NH2をPETイメージング用の最初のガリウム-68標識uPAR放射性トレーサーとして使用したことが報告されており、NODAGAは腫瘍対バックグラウンド比が最も高いトレーサーとして好まれている。」(S18頁左欄28行~右欄3行)

(シ)

「B16F10マウスを用いた68Ga-SCN-NOTA-BZAの生体内分布およびマイクロPET試験では、腫瘍への選択的取り込みが示された。この放射性トレーサーは、それ以上代謝されることなく、腎排泄によって効果的に消去された。」。」(S18頁右欄12~15行)

(ス)

「4.2.5. 前立腺癌
前立腺癌のイメージングには、フッ素-18または炭素-11で標識された18FFDG、酢酸、コリンの3つのトレーサーが主流であった。前立腺特異的膜抗原(PSMA)は、前立腺癌で過剰発現するユニークな膜結合型糖タンパク質であり、特異性の高い前立腺癌細胞表面タンパク質として診断が確立されている。68Ga-DOTA-PSMAおよび68Ga(HBED-CC)-PSMAの合成に成功した後、臨床試験で有望な結果が得られ、PSAが2.2ng/mlを超えると100%の検出率で少なくとも1つの癌を疑う病変が示された。前立腺がんが疑われる病変は、注入後1時間という早い段階で優れた造影性を示し、PSA値が低い場合でも高い検出率を示した。」(S19頁左欄42行~最下行)

(セ)

「6.結論
68Ge/68Gaジェネレーターの建設により、このアイソトープで標識された放射性医薬品の医療への応用が拡大した。市販の製薬グレードの68Ge/68Gaジェネレーターが日常的に使用できるようになり、DOTA、NOTA由来の二官能性キレーターを用いた化学的性質が良好になったことで、PETイメージングのあらゆる分野へのガリウム-68の応用に輝かしい未来が開かれた。」(S19頁右欄25~40行)

ウ 引用文献4の記載事項

また、原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用された、本願の優先日前の2015年12月21日に頒布された刊行物である、Nuclear Medicine and Biology,2012年,Volume 39, Issue 4,pp. 560-569(以下、引用文献4という。)には、以下の事項が記載されている。下線は当審にて付加した。

(ソ)

「要旨
はじめに:ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体(uPAR)は、腫瘍の攻撃性と転移性を示すバイオマーカーとして確立されている。64Cuで標識したDOTA-AE105およびDOTA-AE105-NH2は、ヒト癌異種移植マウスモデルにおいて、陽電子放射断層撮影法(PET)を用いてuPARの発現を非侵襲的にモニターできることがこれまでに証明されている。ここでは、68Ga-DOTA-AE105-NH2および68Ga-NODAGA-AE105-NH2を導入し、小動物PETを用いたイメージング特性を評価する。
方法:DOTA-AE105-NH2およびNODAGA-AE105-NH2の合成は、Fmoc戦略を用いた固相ペプチド合成プロトコルに基づく。溶出液は陽イオン交換カラムで濃縮するか、分画して標識に直接使用した。両トレーサーのin vitro特性評価として、分配係数、緩衝液および血漿安定性、uPAR結合親和性および細胞取り込みを測定した。In vivoでの特性を明らかにするために、ヒト神経膠腫U87MG腫瘍異種移植片を持つヌードマウスの中でダイナミックmicroPETイメージングを行った。
結果:in vitro実験では、両ペプチドともuPAR結合親和性はnMの低い範囲であり、AE105と同一であった。DOTA-AE105-NH2およびNODAGA-AE105-NH2の68Gaに対する標識は、それぞれ95℃及び室温で行われた。最も高い放射化学的収率と純度は分画溶出を用いて得られた。NODAGA-AE105-NH2の標識効率に対するアセトンの負の影響が観察された。リン酸緩衝生理食塩水およびマウス血漿中での安定性は良好であった。U87MG腫瘍細胞では、両トレーサーとも高い細胞取り込みが認められた。ダイナミックマイクロPETイメージングでは、両トレーサーとも良好な腫瘍対バックグラウンド比を示した。腫瘍への取り込みは、68Ga-NODAGA-AE105-NH2および68Ga-DOTA-AE105-NH2について、それぞれ注入後30分で2.1% ID/gおよび1.3% ID/g、注入後60分で2.0% ID/gおよび1.1% ID/gであった。
結論:68Ga-DOTA-AE105-NH2および68Ga-NODAGA-AE105-NH2を、汎用性と優れた画像特性を併せ持つ非侵襲的PETイメージング用の最初のガリウム-68標識uPAR放射性トレーサーとして使用したことが報告された。これらの新しいトレーサーは、腫瘍組織内のuPAR発現を検出するための64Cu標識バージョン(64Cu-DOTA-AE105および64Cu-DOTA-AE105-NH2)に代わる興味深いトレーサーである。また、68Ga-NODAGA-AE105-NH2は、腫瘍とバックグラウンドの比率が最も高いため、好ましいトレーサーである。」(560頁要旨)

(タ)

「4. 考察
本研究では、サイクロトロンに依存する放射性核種に代わる興味深い選択肢として、68Ga標識ペプチドをPETトレーサーとして使用し、uPAR発現をイメージングするための放射性標識とその実現可能性について報告した。68Gaは68Ge/68Gaジェネレーターから容易に得られるので、68Ga標識ペプチドの癌イメージングへの使用は最近注目されている。」(564頁右欄26~33行)

(チ)

「インテグリン、ガストリン放出ペプチド受容体、ソマトスタチン、HER-2、MMP-9、前立腺特異的膜抗原などの受容体ベースの標的は、68Ga標識PETリガンドの有望な標的である。」(565頁右欄1~4行)

(ツ)

「しかし、神経内分泌腫瘍患者のソマトスタチン受容体のイメージングに68Ga-DOTA結合ペプチドを使用した良好な臨床結果が報告されている。より小さなトリシクロノナン構造に基づく改善された特性を持つ新しい大環状キレーターが開発され、対応するDOTA標識アナログと比較して腫瘍対バックグラウンド比がある程度改善された多くの研究で使用されている。」(566頁左欄2~10行)

(2)引用文献1に記載された発明

引用文献1は、天然リガンドと競合することなく、LDLRに結合することができ、治療又は診断薬物を送達することができる新規なペプチド、特に配列番号1~5から選択される配列のペプチドに基づく発明を開示する特許文献であって(上記(1)(ア)請求項1、(イ))、当該ペプチドと薬物のコンジュゲート化合物の構造はVxSzDy(式中、Vは、請求項1に示された配列番号1~5のいずれか一項のペプチド又は疑似ペプチドを示し、Sはスペーサーを示し、Dは、診断剤又は医療用イメージング剤を示し、z=0であり、x及びy=1)であること、被験体にペプチド又は疑似ペプチドを投与すること(上記(1)(ア))、LDLRの過剰発現が示されている癌細胞を処置、イメージング及び/又は診断する方法に使用すること(上記(1)(エ))が記載されている。

そして、実施例にはVxSzDyにおいてz=0、x及びy=1の場合、すなわちVDのモデルと解されるFc-配列番号1というペプチドが作製され、ヒトLDLRに対して高度に優れた親和性を示したこと(上記(1)(オ))、CHO hLDLR細胞におけるLDLR媒介エンドサイトーシスを受けること(上記(1)(カ))が記載されている。

したがって、引用文献1には、

「対象にコンジュゲート化合物を投与すること並びに診断剤又は医療用イメージング剤の存在及び/又は量を分析することによって前記対象における低密度リポタンパク質受容体(LDLR)を過剰発現するがん細胞を標識する及び/又は検出する方法に使用する、
化学式V-D
式中Vは、配列番号1のペプチド
Dは、診断剤又は医療用イメージング剤
で示されるコンジュゲート化合物」(以下、「引用発明1」という。)

が記載されている。

(3)本願補正発明と引用発明1との対比

本願補正発明と引用発明1を対比する。

引用文献1には、配列番号1のペプチドが

(D)-Cys-Met-Thz-Arg-Leu-Arg-Gly-Pen

であることが記載されており(上記(1)(ウ))、当該ペプチドのアミノ酸配列は、本願配列番号1として記載されたアミノ酸配列と完全に同一である。

よって、引用発明1の「V」は、本願補正発明の「P」に相当する。

また、引用発明1の化学式「V-D」はスペーサーを包含しないから、本願補正発明のうち化学式「M-C-P」コンジュゲート化合物と、Pと結合する化学式M-Cが化学式X、ただしXは診断剤又は医療用イメージング剤である限りにおいて一致する。

そうすると、本願補正発明と引用発明1は、

「対象にコンジュゲート化合物を投与すること並びに診断剤又は医療用イメージング剤の存在及び/又は量を分析することによって前記対象における低密度リポタンパク質受容体(LDLR)を過剰発現するがん細胞を標識する及び/又は検出する方法に使用する、
化学式X-Pを有するコンジュゲート化合物であって、
式中、Xは、診断剤又は医療用イメージング剤
Pは、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド」

である点で一致し、

以下の点で相違すると認められる。

(相違点1)

本願補正発明は、XがM-C-であって、Mは薬学的に許容される放射性核種を示し、Cは、Mとともにキレートを形成するキレーターを示し、該キレーターは、NODAGA、DOTA、DOTA-GA、NOTA、及びそれらの機能的誘導体から選択されるものであるのに対し、

引用発明1は、XがD(診断剤又は医療用イメージング剤)であるが、引用文献1には、診断剤又は医療用イメージング剤として薬学的に許容される放射性核種とともにキレートを形成するNODAGA、DOTA、DOTA-GA、NOTA、及びそれらの機能的誘導体から選択されるキレーターを用いることが記載されていない点。

(4)判断

ア 相違点1について

引用文献4及び引用文献5並びにこれら文献に引用されている多数の原著論文に記載されているように、癌等の診断剤及び医療用イメージング剤として、癌等の疾病に関連する受容体等に特異的に結合するペプチドに68Ga等の放射性核種とともにキレートを形成するNODAGA、DOTA、NOTA、及びそれらの機能的誘導体から選択されるキレーターを用いることは、すでに臨床応用されている本願優先日前の周知技術でしかなく、またそれらキレーターを用いることにより、腫瘍への選択的取り込み、局在診断が正確、優れた造影性、優れた腫瘍対バックグラウンド比を示すこともよく知られていたことであったといえる。

引用発明1に接した当業者であれば、診断剤又は医療用イメージング剤として、本願優先日前に周知で優れた特性を示すDOTA等のキレーター及び放射性核種を、引用発明1のD(診断剤又は医療用イメージング剤)として採用して本願補正発明に至ることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 本願補正発明の効果について

本願補正発明に係るコンジュゲート化合物について、明細書には、「インビトロ及びインビボにおいてがん細胞を有効に標識可能であり、その効果的なイメージング、検出、ステージ分類、又は放射線治療を可能にする」こと(段落【0025】)、「LDLR過剰発現細胞(例えばがん細胞)の、通常レベルのLDLRを有する細胞(例えば正常細胞)からの区別に適するように、本発明のコンジュゲートによって薬学的に許容されるマーカーがLDLR過剰発現細胞を対象とすることができること」、「LDLRの密度及び再構築の可能にもかかわらず、本発明のコンジュゲートがLDLR過剰発現細胞に対して十分なレベルに標識することが可能であること」(段落【0030】~【0031】)等が記載されているが、これらは、いずれも引用文献1に記載された発明及び周知技術から当業者が予測できない格別の効果であるとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

よって、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(5)審判請求人の主張について

ア 審判請求人の主張

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審判請求人は、令和4年6月30日付けの審判請求書において、要するに以下の旨、主張している。

(ア)

引用文献1には、上記本願発明の特徴の全てを開示してはおらず、特にキレーター及び当該キレーターとともにキレートを形成する放射線核種を用いることや、本願発明で具体的に用いられるキレーターやスペーサーやペプチドの種類に関して開示も示唆もなく、さらに、LDLRを過剰発現するがん細胞におけるLDLRを標的とすることについても開示も示唆もなく、本願発明のような特定のコンジュゲート化合物およびその用途を開示も示唆もしていない。

引用文献4のコンジュゲートに使用されているペプチドは、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体(uPAR)を標的としており、LDLRを標的とするペプチドとは全く異なっており、引用文献4は、配列番号1~9のペプチドを含み、LDLRを過剰発現するがん細胞においてLDLRを標的とする本願発明のコンジュゲート化合物については、何ら記載も示唆もしていない。

また、引用文献5のコンジュゲートで使用されるペプチドは、LDLRとは全く異なる受容体、すなわちソマトスタチン受容体を標的としており、引用文献5は、配列番号1~9のペプチドを含み、LDLRを過剰発現するがん細胞においてLDLRを標的とする本願発明のコンジュゲート化合物について、何ら記載も示唆もしていない。

(イ)

本願発明は、上記の通り、LDLRを過剰発現するがん細胞においてLDLRと結合し、イメージング又は放射線治療剤のために最適化された新規なコンジュゲート化合物を提供し、当該化合物がLDLRを過剰発現するがん細胞の効果的で信頼性が高い選択的標識化を可能にし、かかる癌の効率的診断又は放射線治療に最も適する。これに関して、LDLRを標的としたコンジュゲート化合物を使用してがんのイメージングや放射線治療に適性があることを、本願発明が初めて示した。従って、本願発明のコンジュゲート化合物の開発は、当業者が容易になし得るものではなく、多数の実験結果に基づく多数のステップの選択の結果であり、本願発明のように特定のペプチド配列に基づいて、がんのイメージング、検出又は放射線治療に有効な化合物を得ることができたものである。

(ウ)

本願発明の化合物は、LDLRを過剰発現するがん細胞に十分なレベルの標識を付与でき、このような効果は、がん細胞の表面における高いLDLR密度及び受容体の再編成の可能性を考慮すると容易ではなく、なぜならばそのような変化は、コンジュゲート化合物ががん細胞に結合する能力に影響を及ぼすことが予想されるからである。本発明者らは、本願発明のコンジュゲート化合物がインビトロ及びインビボでがん細胞を効果的に標識し、その効果的なイメージング、検出、ステージ分類、又は放射線治療を可能にし、がん細胞に十分なレベルの照射を行い、かつ健康な組織には影響を与えないことを実証した(本願明細書段落0025及び実施例)。

さらに、本発明者らによって得られた結果は、本願発明のコンジュゲート化合物がLDLRに対する親和性(KD)が向上し(実施例3)、健康な膵臓と比較して膵臓腫瘍においてより高い蓄積性を示すことも明確に示している(実施例4)。特に、当該実施例に示すように、がん組織の標識は、非がん組織の標識と比較して、10~50倍高い標識が可能である。この程度の蓄積量であれば画像上で確実且つ明確に識別するのに十分であり、また、放射線治療で使用する場合に、このコンジュゲート化合物は健康な細胞と比較して腫瘍細胞に対して非常に優れた特異性を有することを意味する。このような結果及び利点は、引用文献からは推論できない。

本願発明に係るコンジュゲート化合物の効果をより強調するために、別途手続補足書にて甲第1号証として補足データを提出した。全てのデータは、本願発明のコンジュゲート化合物がLDLRを過剰発現する種々のがん細胞の標識及び/又は検出において多くの利点を有することを証明するものであり、本願発明のコンジュゲート化合物は、引用文献の発明からは予測できない格別顕著な効果を有する。

イ 判断

(ア)審判請求人の主張(ア)について

審判請求人の主張(ア)は各引用例が本願発明の特徴の全てを開示してはいないことすなわち本願発明に新規性があることをいうに過ぎず、引用発明1に周知技術を組み合わせて本願補正発明に至ることの容易性想到性を否定するものではないから、上記判断を撤回すべき事情は見いだせない。

(イ)審判請求人の主張(イ)について

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上記(1)及び(2)において指摘したとおり、引用文献1には、「LDLRに結合することができ、かつ、治療又は診断(イメージングを含む)薬物又は薬剤を送達、ターゲティング又はベクター化して、LDLRの豊富な癌細胞に到達するために、特に有利である新規製品」が記載されており、特定のペプチド配列に基づいて、がんのイメージング、検出に有効な化合物は本願優先日前にすでに得られていたといえる。

請求人の主張は本願優先日前にこれら特定のペプチド配列が知られていたことや、薬学的に許容される放射性核種とともにキレートを形成するNODAGA、DOTA、DOTA-GA、NOTA、及びそれらの機能的誘導体から選択されるキレーターを用いることが当該分野における周知の解決手段であったことを無視するものであって、主張(イ)を採用することはできない。

(ウ)審判請求人の主張(ウ)について

折りたたみ中(クリックで表示)

上記(4)イにおいて指摘したとおり、LDLRを過剰発現するがん細胞に十分なレベルの標識を付与できること、本願発明のコンジュゲート化合物がLDLRに対する親和性(KD)が向上していることなどは、引用文献1において用いられている配列番号1のペプチドが天然リガンドと競合することなく、従って、内因性LDLの輸送を干渉することなく、LDLRに結合することができ、かつ、治療又は診断(イメージングを含む)薬物又は薬剤を送達、ターゲティング又はベクター化して、特にCNS及び/又は眼及び/又はLDLRの豊富な他の器官(例えば肝臓、副腎、腸)に、及び/又はLDLRの豊富な癌細胞に、及び/又は細胞のリソソーム区画に到達するために、特に有利であるものであるのだから、引用文献1の記載から予見しうる範囲内のことでしかない。

また、インビトロ及びインビボでがん細胞を効果的に標識し、その効果的なイメージング、検出、ステージ分類、又は放射線治療を可能にし、がん細胞に十分なレベルの照射を行い、かつ健康な組織には影響を与えないこと、健康な膵臓と比較して膵臓腫瘍においてより高い蓄積性を示すこと、特に、当該実施例に示すように、がん組織の標識は、非がん組織の標識と比較して、10~50倍高い標識が可能であること、画像上で確実且つ明確に識別するのに十分であり、また、放射線治療で使用する場合に、このコンジュゲート化合物は健康な細胞と比較して腫瘍細胞に対して非常に優れた特異性を有すること、甲第1号証に示されるように、腫瘍細胞への有意な取り込みが確認されたことなどについても、配列番号1のペプチドのLDLRへの結合特異性や、周知技術において知られた薬学的に許容される放射性核種とともにキレートを形成するNODAGA、DOTA、DOTA-GA、NOTA、及びそれらの機能的誘導体から選択されるキレーターを用いたことによる腫瘍への選択的取り込み、局在診断が正確、優れた造影性、優れた腫瘍対バックグラウンド比等から導かれる範囲内のことでしかなく、甲第1号証を参照しても本願補正発明に進歩性を認める余地はない。

よって、上記審判請求人の主張はいずれも採用できない。

(6)むすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないものであって、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当するとした場合であっても、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

令和4年6月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和3年12月23日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
対象にコンジュゲート化合物を投与すること並びに放射性核種の存在及び/又は量を分析することによって前記対象におけるがん細胞を標識する及び/又は検出する方法に使用する、化学式M-C-P又はM-C-S-Pのコンジュゲート化合物であって、
式中、Mは薬学的に許容される放射性核種を示し、
Cは、Mとともにキレートを形成するキレーターを示し、該キレーターは、NODAGA、DOTA、DOTA-GA、NOTA、及びそれらの機能的誘導体から選択され、
Sは、スペーサーを示し、該スペーサーは、存在する場合、アルキル、アリール、PEG、又はペプチドから選択される2官能性又は多官能性薬剤を含み、
Pは、最大で30個のアミノ酸残基を有するとともに低密度リポタンパク質受容体(LDLR)に結合可能なペプチド又は疑似ペプチドを示し、該ペプチド又は疑似ペプチドは配列番号1~配列番号9のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含む、コンジュゲート化合物。」

2 原査定の拒絶の理由の概要

令和4年2月18日付け拒絶査定は、この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1、4、5に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、との理由を含むものである。

3 引用文献およびその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、4,5およびその記載事項は、前記第2の3(1)に記載したとおりである。

4 対比・判断

上記第2の2で述べたとおり、本願補正発明は、本願発明の「がん細胞」を「低密度リポタンパク質受容体(LDLR)を過剰発現する」ものに限定するとともに、Pであるペプチド又は疑似ペプチドが結合する「LDLR」を「LDLRを過剰発現するがん細胞における」LDLRに限定したものであり、「スペーサーが存在する場合、」について「アルキル、アリール、PEG、又はペプチドから選択される2官能性又は多官能性薬剤を含」むものであったところ、「アルキル、アリール、PEG、ベータ-アラニンを有するPEG又はペプチドから選択される2官能性又は多官能性薬剤を含」むものに補正するものであるから、「スペーサーが存在する場合、」の選択肢として、ベータ-アラニンを有するPEGに係るもの以外の本願発明は本願補正発明を包含するものであることが明らかである。

そして、上記第2の3(2)~(6)に示したとおり、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、本願補正発明を包含する本願発明も、同様に、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

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2022-010058

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