2022-008372
FLT3特異的なキメラ抗原受容体及びそれを使用する方法
- 審判番号
- 2022-008372
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-561669外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年06月01日
- 審決日
- 2024年01月23日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-Z (C07K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 7項目
第1 手続の経緯
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本願は、平成29年5月26日(パリ条約による優先権主張 2016年5月27日 米国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 5月28日付け 拒絶理由通知書
令和3年 9月 8日 意見書、手続補正書の提出
令和4年 1月25日付け 拒絶査定
令和4年 6月 1日 審判請求書の提出
令和4年 7月13日 手続補正書(審判請求の理由)の提出
令和4年 7月14日 手続補足書(参考資料1)の提出
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和3年9月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】FLT3に特異的な抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内T細胞シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)であって、該抗原結合ドメインが、アミノ末端からカルボキシ末端へ(a)配列番号6、8及び10の重鎖可変領域CDR1、CDR2及びCDR3配列と、(b)配列番号14、16及び18の軽鎖可変領域CDR1、CDR2及びCDR3配列とを含む、一本鎖可変フラグメント(scFv)を含む、CAR。」(以下、「本願発明」という。)
第3 原査定における拒絶の理由の概要
本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明において、引用文献2に記載されたNC7と表されるFLT3に対する抗体のscFvを用いることにより、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
第4 当審の判断
1 引用文献の記載事項
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(1)引用文献1(国際公開第2015/142675号公報)
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、以下の日本語訳による摘記は、引用文献1に対応する日本語出願の公表公報である特表2017-513818号公報の記載に基づくものであり、その段落番号も便宜上そのまま記載した。下線は当審にて付記したものである。
ア 発明の名称
「キメラ抗原受容体を使用する癌の処置」
イ 特許請求の範囲
「【請求項39】抗原結合ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞内シグナル伝達ドメインを含む単離キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチド分子であって、ここで、該抗原結合ドメインがTSHR、CD171、CS-1、CLL-1、GD3、Tn Ag、FLT3、CD38、CD44v6、B7H3、KIT、IL-13Ra2、IL-11Ra、PSCA、PRSS21、VEGFR2、ルイスY、CD24、PDGFR-ベータ、SSEA-4、MUC1、EGFR、NCAM、CAIX、LMP2、EphA2、フコシルGM1、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、葉酸受容体ベータ、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53変異体、hTERT、肉腫転座切断点、ML-IAP、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、サイクリンB1、MYCN、RhoC、CYP1B1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES1、LCK、AKAP-4、SSX2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5およびIGLL1からなる群から選択される腫瘍抗原と結合する、単離CARポリペプチド分子。」
【請求項40】
(i)抗原結合ドメインが抗体、抗体フラグメント、scFv、Fv、Fab、(Fab’)2、単一ドメイン抗体(SDAB)、VHまたはVLドメインまたはラクダ類VHHドメインを含む;および/または
(ii)膜貫通ドメインがT細胞受容体のアルファ鎖、ベータ鎖またはゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、KIRDS2、OX40、CD2、CD27、LFA-1(CD11a、CD18)、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD40、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD160、CD19、IL2Rベータ、IL2Rガンマ、IL7Rα、ITGA1、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2DおよびNKG2Cからなる群から選択されるタンパク質の膜貫通ドメインを含む、
請求項39に記載の単離CARポリペプチド分子。」
ウ 技術分野
「【0002】発明の分野本発明は、概して腫瘍抗原の発現と関係する疾患を処置するための、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように操作した免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞)の使用に関する。」
エ 発明の概要
「【0004】発明の要約本発明は、少なくとも一部、ここに記載する腫瘍抗原に結合するCARを発現するように操作した免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞)の、該腫瘍抗原の発現と関係する癌の処置における使用に関する。」
オ 発明を実施するための形態
「【0253】用語“scFv”は、軽鎖の可変領域を含む少なくとも1つの抗体フラグメントおよび重鎖の可変領域を含む少なくとも1つの抗体フラグメントを含む融合タンパク質をいい、ここで、軽鎖および重鎖可変領域は、例えば、合成リンカー、例えば、短可動性ポリペプチドリンカーを介して隣接して連結され、単一鎖ポリペプチドとして発現されることができ、scFvは、それが由来する完全抗体の特異性を維持する。断らない限り、ここで使用するscFvは、VLおよびVH可変領域をいずれの順番でもよく、例えば、ポリペプチドのN末端およびC末端に対して、scFvはVL-リンカー-VHを含んでよく、またはVH-リンカー-VLを含んでよい。」
「【0374】 ある態様において、FLT3に対する抗原結合ドメインは、例えば、WO2011076922、US5777084、EP0754230、US20090297529に記載の抗体およびいくつかの市販のカタログ抗体(R&D, ebiosciences, Abcam)の抗原結合部分、例えば、CDRである。」
「【0724】ある面において、本発明は、FLT3 CARを発現するように操作された免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞)を提供することによる、それを必要とする対象における癌を処置する方法を提供し、ここで、癌細胞はFLT3を発現する。ある態様において、処置する癌はAMLである。」
カ 実施例
「【1038】実施例3:葉酸受容体-アルファ発現腫瘍を標的とするCART・・・【1042】続きを表示(全14行)CAR構築およびレンチウイルス産生。Dr. Silvana Canevari(Figini, M. et al. (1998) Cancer Res 58, 991-996)から恵与された抗FRa C4/AFRA4 scFvを含むpHEN2プラスミドを、次のプライマーを使用する729bpC4フラグメントのPCR増幅の鋳型として使用した:・・・消化PCR産物を、次いで、導入遺伝子発現が伸長因子-1α(EF-1α)プロモーターにより駆動されるCD3zまたはCD27-CD3z T細胞シグナル伝達ドメインを含むpELNSベクターに挿入した。得られた構築物を消化して、pELNS-C4-zまたはC4-27zを得た。・・・【1044】ヒトT細胞およびトランスフェクション。・・・簡潔には、0.5×106 T細胞を感染効率(MOI)2および5の濃縮C4-27zおよびMOv19-27zベクターでそれぞれ感染させた。・・・【1054】・・・C4およびMOv19 CAR T細胞の両者が、FRApos SKOV3卵巣癌細胞と一夜インキュベートしたときIFN-γ、TNF-αおよびIL-2サイトカインを産生する・・・【1058】2. インビボでのC4およびMOv19 CAR T細胞の同等な抗腫瘍活性インビボでのC4 CAR T細胞とMOv19 CAR T細胞の抗腫瘍能力を比較するために、大きな、確立された皮下SKOV3腫瘍(約300mm3)を有するNSGマウスに、腫瘍接種40日および47日後に107CAR+T細胞を静脈内注射した。・・・これらの結果は、C4 CARの抗腫瘍活性が、先に十分に記載された(例えば、Song et al., Blood 119, 696-706 (2012); Song et al., Cancer Res 71, 4617-4627 (2011)参照)MOv19 CARと同等であることを示し、C4CARは、その親和性が低下しているにも関わらず、インビボ適用に適することが確認された。」
「【1063】実施例4:CARの親和性低下は治療有効性を上昇させる・・・【1065】続きを表示(全18行)この実施例において、T細胞に高親和性scFvを装備することが、CARTの腫瘍と、同じ抗原を低いレベルで発現する正常組織の不十分な鑑別により、CARの有用性を制限し得るか否かが決定された。・・・【1067】mRNAエレクトロポレーションおよびレンチウイルス形質導入のためのCAR構築物産生ErbB2またはEGFRに対するCAR scFvドメインを、関連する刊行物(Carter et al., 1992, Proc Nat Acad Sci USA, 89:4285; Zhou et al., 2007, J Mol Bio, 371:934)により提供される配列情報に基づき、PCRにより合成および/または増幅し、CD8膜貫通ドメインおよび4-1BBおよびCD3Z細胞内シグナル伝達ドメインに連結させ、pGEM.64A RNAベースのベクター(Zhao et al., 2010, Cancer Res, 70:9053)またはpTRPEレンチウイルスベクター(Carpenito et al., 2009, Proc Nat Acad Sci USA, 106:3360)にサブクローン化した。・・・【1080】CARを、多様なscFvをCD8アルファヒンジおよび膜貫通ドメインと、続いて4-1BBおよびCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン連結することにより構築した。CARを、レンチウイルスベクターテクノロジーまたはRNAベースのベクターへのクローニングにより発現させた(Zhao et al., 2010, Cancer Res, 70:9053)。・・・認識閾値を比較するために、一団のErbB2 CAR T細胞をErbB2高発現腫瘍細胞株(SK-BR3、SK-OV3およびBT-474)またはErbB2低発現腫瘍細胞株(MCF7、293T、A549、624Mel、PC3、MDA231およびMDA468)で刺激し、T細胞活性化をCD137の上方制御(4-1BB;図4)、IFN-γの分泌(図5)、IL-2の分泌(図6)および表面CD107a発現の誘発(図7)により評価した。・・・興味深いことに、高親和性CAR T細胞は、低レベルのErbB2を発現する標的に曝したとき高レベルのIFN-γおよびIL-2を分泌し、・・・【1085】親和性を低下させたErbB2 CAR T細胞は、インビボで腫瘍を除き、生理学的レベルのErbB2を発現する組織を無視する・・・【1087】scFvの親和性調整は、EGFR CAR T細胞の治療指数を増加させる・・・」
「【1139】実施例9:CART治療に対する新規標的抗原の同定CART治療についての戦略は、腫瘍細胞上の標的細胞表面抗原の優先的発現または標的を発現する正常細胞のアブレーションが臨床的に耐容性であるときによる。B細胞ALLにおいて、CART治療によるCD19へのターゲティングは、臨床的に有効であり、実行可能であることが示されている。しかしながら、B細胞ALLを有する一部患者は、CD19を発現しないかもしくは低くまたはCAR19治療後CD19陰性疾患で再発する。さらに、T細胞ALLおよびAMLは、CART19細胞でのターゲティングに感受性ではない。それゆえに、種々の癌における標的表面抗原の欠如が、CARベースの手法の開発を妨害している。この実施例において、急性白血病(AL)、例えば、ALLおよびAMLにおける標的抗原発見の戦略を記載する。・・・【1143】各候補遺伝子について計算した標準化MFI値を図49~57に示す。図58は、AMLおよびALL、正常骨髄またはA357細胞株についてのPP1Bハウスキーピング遺伝子に相対的な平均標準化MFI値の累積的表示である。上記分析に基づき、急性白血病に対する次の新規標的抗原を同定した:C79a、CD72、LAIR1、FCAR、CD79b、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、CLECL1(CLL-1)、LY75、FLT3、CD22、KIT、GPC3、FCRL5およびIGLL1。」
キ 図面の簡単な説明
「【0187】【図33】 図33Aおよび33B:葉酸受容体アルファ(FRA)特異的完全ヒトキメラ抗原受容体(CAR)T細胞の産生。(図33A)CD3ζ細胞質ドメイン単独(C4-z)またはCD27共刺激モジュール(C4-27z)との組み合わせを含むC4ベースのCAR構築物の略図。マウス抗ヒトFRA MOv19-27z CARも示す。」
「【0207】【図53】 図53A、53B、53C、53D、53Eおよび53F:個体サンプルにおける次の遺伝子についての標準化MFI値を表すグラフである:LY75(図53A)、SIRPB1(図53B)、FLT3(図53C)、CD22(図53D)、PTPRC(図53E)およびGPRC5D(図53F)。Y軸は標準化MFIを表す;X軸は標的遺伝子を表す。」
ク 図面
「図33A[図:0001411660000001.jpg]」
「図53C[図:0001411660000002.jpg]」
(2)引用文献2(米国特許第8071099号明細書)
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献2には、次の事項が記載されている。なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。下線は当審にて付記したものである。
ア 発明の名称
「抗FLT3抗体」
イ 要約
「本発明は、ヒトFLT3の細胞外ドメイン4又は5に高親和性で特異的に結合する、完全にヒト化した抗体を提供する。本発明はさらに、有効量の抗体を単独で、またはメトトレキセートを含む抗癌剤もしくは治療薬と組み合わせて投与することにより、白血病を治療する方法を提供する。」(第1頁右欄下から第8~2行)
ウ 特許請求の範囲
「13. ヒトFLT3(配列番号43)に特異的に結合する抗体または該抗体のフラグメントであって、配列SYAIS(配列番号13)を有するCDRH1、配列GIIPIFGTANYAQKFQG(配列番号14)を有するCDRH2、配列FALFGFREQAFDI(配列番号15)を有するCDRH3、配列RASQSISSYLN(配列番号16)を有するCDRL1、配列AASSLQS(配列番号17)を有するCDRL2、及び配列QQSYSTPFT(配列番号18)を有するCDRL3を含む、抗体または該抗体のフラグメント。14. 請求項13に記載の抗体または該抗体のフラグメントであって、アミノ酸配列(配列番号23)DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQSISSYLNWYQQKPGKAPKLLIYAASSLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDLATYYCQQSYSTPFTFGPGTKVDIKからなるVLを含み、(配列番号20)EVQLVQSGAEVKKPGSSVKVSCKASGGTFSSYAISWVRQAPGQGLEWMGGIIPIFGTANYAQKFQGRVTITADKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCATFALFGFREQAFDIWGQGTTVTVSSからなるVHを含む、請求項13に記載の抗体または該抗体のフラグメント。」
エ 発明の詳細な説明
(ア)「FLT3は、急性骨髄性白血病(AML)の約90%、急性リンパ性白血病(ALL)の大部分、慢性骨髄性白血病(BC-CML)の急性転化で過剰発現している。FLT3リガンド(FL)による刺激は、白血病細胞の増殖と生存を促進する。FLT3シグナル伝達の阻害は樹状細胞のアポトーシスと免疫応答の阻害につながる。」(第1欄第19~25行)
(イ)「EB10、NC7及びD4-3を含むいくつかの抗FLT3抗体は、FLT3のリガンド依存性(野生型レセプター)及びリガンド非依存性(変異型レセプター)の両方の活性化を阻害する(上記Piloto, Cancer Res.)。本発明に至るまで、本発明の抗FLT3抗体の正確なCDR配列及びエピトープ結合ドメインは知られていなかった。」(第1欄第63行~第2欄第4行)
(ウ)「本発明の抗体またはその断片は、野生型または変異型のFLT3に結合する。FLT3は、野生型も変異型も、他の白血病と同様に、例えばAMLやALLにおいて頻繁に発現する。」(第8欄第37~40行)
(エ)「本発明はまた、ヒトFLT3レセプターを標的とする全長IgG1κの組換えヒトモノクローナル抗体NC7も含む。これはサブグループIのヒトγ-1重鎖とサブグループIIのヒトκ軽鎖から構成されている。NC7はヒトFLT3に高親和性で選択的に結合し、FL結合を阻害することが示された。」(第23欄第3~8行)
(オ)「表1及び表2(合議体注:「表1~3」の誤記と認められる。)は、本発明の様々なCDRのアミノ酸配列及び配列番号を示す。すべてのCDR配列は、Chothia規約を用いて決定された配列番号1及び12を除き、Kabat規約を用いて決定されている。表3(合議体注:「表4」の誤記と認められる。)は、本発明に関連する種々の配列の配列番号を提供する。以下に開示するアミノ酸配列をコードするポリ核酸配列も本発明の範囲に含まれる。」(第23欄第15~20行)
(カ)「表3 NC7抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域CDRのアミノ酸配列[図:0001411660000003.jpg]」(第24欄)
(キ)「表5 EB10、NC7及びD4-3のIn vitroデータのまとめ[図:0001411660000004.jpg]」(第24欄)
2 判断
(1)引用発明の認定
引用文献1は「キメラ抗原受容体を使用する癌の処置」の発明を開示する公報であって、その特許請求の範囲には、腫瘍抗原と結合する抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む単離キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチド分子が記載され、当該抗原結合ドメインの選択肢としてscFvが記載されている(上記1(1)ア、イ)。また、発明を実施するための形態にも、使用されるscFvについて記載される(上記1(1)オ【0724】)とともに、実施例には、腫瘍抗原を標的とし、抗原結合ドメインがscFvの形態のCARである、C4 CAR、Mov19 CAR、ErbB2 CAR及びEGFR CARの4種類について、インビトロのみならずインビボでも、それぞれが標的とする腫瘍抗原を発現する腫瘍に対して抗腫瘍効果を発揮したことが、具体的データを伴って記載されている(上記1(1)カ 実施例3、4)。そして、上記4種類のCARのうち、構造が明記された2種類(C4 CAR、Mov19 CAR)は、いずれもscFvがVH(重鎖可変領域)-L(リンカー)-VL(軽鎖可変領域)の構造を有するものである(上記1(1)ク 図33A)。また、上記4種類のCARは、いずれもT細胞で発現され、効果が確認されたものであるから、それらの細胞内シグナル伝達ドメインは、T細胞のシグナルを伝達するものであると認められる。
したがって、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「腫瘍抗原と結合する抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内T細胞シグナル伝達ドメインを含む単離キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチド分子であって、該抗原結合ドメインが、VH(重鎖可変領域)-L(リンカー)-VL(軽鎖可変領域)の構造のscFvを含む、CARポリペプチド分子。」(以下、「引用発明」という。)
(2)対比
引用発明の「腫瘍抗原と結合する抗原結合ドメイン」は、「scFvを含む」ものであり、scFvは抗原に対して特異的に結合するものであるから、引用発明の「抗原結合ドメイン」は、腫瘍抗原に特異的な抗原結合ドメインであるといえる。また、引用発明の「scFv」の「VH(重鎖可変領域)-L(リンカー)-VL(軽鎖可変領域)の構造」は、アミノ末端からカルボキシ末端へ重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含む構造である。さらに、本願発明の「FLT3」は、引用文献1にも記載されているとおり(上記1(1)イ)、腫瘍抗原である。したがって、本願発明と引用発明とは、
「腫瘍抗原に特異的な抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内T細胞シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)であって、該抗原結合ドメインが、アミノ末端からカルボキシ末端へ重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含む、一本鎖可変フラグメント(scFv)を含む、CAR。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点: 本願発明は、「抗原結合ドメイン」が特異的に結合する「腫瘍抗原」が「FLT3」であって、「抗原結合ドメイン」に含まれる「一本鎖可変フラグメント(scFv)」が「(a)配列番号6、8及び10の重鎖可変領域CDR1、CDR2及びCDR3配列と、(b)配列番号14、16及び18の軽鎖可変領域CDR1、CDR2及びCDR3配列とを含む」ものであるのに対して、引用発明は、「腫瘍抗原」の種類及び「scFv」が含むCDRのアミノ酸配列が特定されていない点。
(3)相違点についての判断
引用文献1においては、特許請求の範囲にCARが結合する腫瘍抗原としてFLT3が記載され(上記1(1)イ)、発明の詳細な説明においては、発明を実施するための形態として、FLT3を標的とするFLT3 CARはFLT3を発現する癌の一種であるAMLの処置に用いられることや、FLT3に対する抗原結合ドメインとして各種文献に記載のもの等が採用されることが記載される(上記1(1)オ【0374】、【0724】)とともに、実施例では、FLT3が、ALL及びAMLといった急性白血病(AL)の細胞上で優先的に発現していることが具体的データにより示され(上記1(1)ク 図53C)、FLT3を急性白血病に対するCAR T治療における標的抗原として同定したことが記載されている(上記1(1)カ 実施例9)。したがって、引用文献1に接した当業者であれば、引用発明が標的とする「腫瘍抗原」をFLT3とし、「抗原結合ドメイン」として公知文献に記載されるFLT3に特異的な適宜のscFvを採用することで、ALLやAMLといった急性白血病の治療のためのCARが得られることを優に理解すると認められる。
一方、引用文献2は、「抗FLT3抗体」の発明を開示する公報(引用文献1の【0374】で引用されている「US20090297529」と同じ発明者による、同様の内容を記載した特許公報である。)であって、FLT3を阻害することが知られていた既存の3種類の抗FLT3抗体(NC7、EB10、D4-3)のそれぞれについて、重鎖及び軽鎖の可変領域やそれらに含まれるCDRのアミノ酸配列を明らかにするとともに、FLT3結合ELISA(表5のFLT3 Binding ELISA)、リガンド-受容体結合競合ELISA(表5のLigand-receptor Binding Competition ELISA)、FACS(表5のFACS)及び親和性(表5のAffinity KD)という各種手法で測定したデータにより、いずれの抗体も遜色なく優れた親和性及び選択性を有することを開示し、FLT3を高発現するAMLやALLをはじめとする白血病の治療に用いることができることを記載している(上記1(2)ウ、エ)。そして、当該3種類の抗体のうち、NC7の重鎖可変領域CDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列(上記1(2)エ(カ)の配列番号12、14及び15)、ないし軽鎖可変領域CDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列(上記1(2)エ(カ)の配列番号16、17及び18)は、本願発明の「(a)配列番号6、8及び10の重鎖可変領域CDR1、CDR2及びCDR3配列」ないし「(b)配列番号14、16及び18の軽鎖可変領域CDR1、CDR2及びCDR3配列」と完全に一致するものである。
引用発明の標的をFLT3にするためにscFvを構築する抗FLT3抗体を、FLT3に対する優れた結合親和性及び選択性を有し、重鎖及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列が明らかにされた既知の抗FLT3抗体の中から適宜採用することは、当業者にとってごく自然な発想であって、引用文献2に重鎖及び軽鎖の可変領域やそれらに含まれるCDRのアミノ酸配列が記載され、互いに遜色ない優れた結合親和性及び選択性が示された、3種類の抗FLT3抗体のうちのいずれかを採用することに創意工夫が必要であるとは認められない。そして、そのようにして採用したNC7抗体を引用発明の「VH(重鎖可変領域)-L(リンカー)-VL(軽鎖可変領域)の構造のscFv」に当てはめることにより、自ずと本願発明の「アミノ末端からカルボキシ末端へ(a)配列番号6、8及び10の重鎖可変領域CDR1、CDR2及びCDR3配列と、(b)配列番号14、16及び18の軽鎖可変領域CDR1、CDR2及びCDR3配列とを含む、一本鎖可変フラグメント(scFv)」に至るものである。
したがって、相違点に係る構成は、引用文献1及び2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
(4)本願発明の効果について
本願明細書の実施例には、実施例2、3で生成した、配列番号1/29のCARを発現するT細胞「FLT3 CAR T細胞」が、FLT3を発現するALL及びAML細胞株と共培養するとIFN-ガンマ及びIL-2を分泌したこと(実施例4)、マウスに移植したALL細胞及びAML細胞を低減したこと(実施例5)が示されている。
しかしながら、引用文献1には、腫瘍抗原を標的とし、抗原結合ドメインがscFvの形態である4種類のCAR(Mov19 CAR、C4 CAR、ErbB2 CAR及びEGFR CAR)それぞれを発現するT細胞が、標的腫瘍抗原を発現する腫瘍細胞株との共培養でIFN-ガンマやIL-2などのサイトカインを分泌したこと、マウスに移植した標的腫瘍抗原を発現する腫瘍細胞を低減したこと、及びそれらに匹敵する各種抗腫瘍効果を発揮したことが豊富な実験データにより示され(上記1(1)カ 実施例3、4)、FLT3が、ALLやAMLといった急性白血病(AL)の細胞上で優先的に発現しており、当該急性白血病に対するCAR T治療における標的抗原として同定されたこと(上記1(1)カ 実施例9)が具体的データを伴って記載されている。引用文献1のこれらの記載に照らせば、本願発明のFLT3を標的とするCARが、インビトロ(実施例4)及びインビボ(実施例5)でFLT3を発現する腫瘍に対して抗腫瘍活性を発揮することは、当業者が予測しうる程度のことである。
そして、本願発明のCARが、「抗原結合ドメインが、アミノ末端からカルボキシ末端へ(a)配列番号6、8及び10の重鎖可変領域CDR1、CDR2及びCDR3配列と、(b)配列番号14、16及び18の軽鎖可変領域CDR1、CDR2及びCDR3配列とを含む、一本鎖可変フラグメント(scFv)を含む」という構成をとることにより、それ以外の抗FLT3抗体に由来するCDRを含む抗原結合ドメインを含むCARと比較して、格別顕著な効果を有すると認めるに足りる事情は見出せない。
したがって、本願発明が、引用文献1、2の記載から当業者が予測しうる範囲を超える格別顕著な効果を有するものであるとは認めることができない。
(5)請求人の主張について
請求人は、令和4年7月13日提出の手続補正書(請求の理由)において、参考資料1(Nature Medicine, 21: 581-590(2015))を挙げ、本願出願時、scFvとの組合せも含めてCARの要素の選択は些細なことではなく、特定のscFvとCARのその他の要素の組み合わせで実行可能なCARが作成できるかどうかは不明であったから、当業者はNC7に基づくCARが実行可能であるかどうかわからなかった旨主張する。
しかし、本願発明は、上記第2のとおりのものであって、CARの要素のうち、抗原結合ドメインの構造の一部(scFvにおけるCDRのアミノ酸配列及びその連結の順番)しか特定していないのだから、上記主張は、請求項1の記載に基づくものではなく、失当である。
念のため、参考文献1の記載内容を検討すると、参考文献1は、「4-1BB同時刺激は、CARのトニックシグナル伝達によって誘導されるT細胞枯渇を改善する」と題する学術論文であって、T細胞上に発現したCARのscFvが抗原非依存的にクラスター化すると、当該CARの細胞内シグナル伝達ドメインのCD3ζがリン酸化され、トニックシグナル伝達が活性化され、当該CARを発現するT細胞が枯渇するが、4-1BBを共刺激すると枯渇が改善したことを報告し(第581頁要約)、請求人も指摘するとおり、「我々の研究は、CARの細胞外ドメインの構造的特性が、この新しい受容体の機能性に決定的な影響を与えることを証明する、増加中の文献に寄与するものである。」(第588頁右欄第1段落)と考察している。
このとおり、参考文献1は、細胞内シグナル伝達ドメインにCD3ζを含むCARを発現するT細胞の枯渇のメカニズムを記載し、枯渇を改善する手法を提供するものであるところ、本願発明は細胞内シグナル伝達ドメインがCD3ζを含むことは特定されていない。また、参考文献1は、CARの細胞外ドメインの構造的特性がCARの機能に重要であることを説示するのに対して、本願発明では、CARの細胞外ドメイン(抗原結合ドメイン)のscFvのうちのCDRの構造しか特定しておらず、細胞外ドメインを構成するそれ以外の要素(scFvのうちのFR部分、リンカー部分、scFvを膜貫通ドメインと連結するためのスペーサーないしヒンジ部分)は、何ら特定されていない。よって、参考文献1に基づいて本願発明の実行可能性を論じることは妥当性を欠く。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
(6)小括
上記(1)~(5)の次第であるから、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-008372