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特許拒絶査定不服審判

2022-004270

溶融ガラスの成形方法、成形装置、およびガラス製品の製造方法

審判番号
2022-004270
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-568576外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年03月22日
審決日
2022年09月21日
公報発行日
2022年11月25日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .113-WY (C03B) / P18 .121-WY (C03B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-568576「溶融ガラスの成形方法、成形装置、およびガラス製品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月23日国際公開、WO2018/151166、請求項の数(24)〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。

理由

目次 ▾ 19項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、2018年(平成30年)2月14日(優先権主張 平成29年2月15日)を国際出願日とする出願であって、令和3年6月24日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月26日付けで手続補正がされ、令和3年12月14日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和4年3月22日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

そして、令和4年5月18日付けで当審からの拒絶理由通知がされ、同年7月22日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要

原査定(令和3年12月14日付けで拒絶査定)の拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願請求項1~3、7~11、14~16、20、23~25に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないか、又は当該発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。また、本願請求項1、3、7~10、13~16、23~25に係る発明は、以下の引用文献2に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、又は当該発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。さらに、本願請求項6、12、13、19に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び以下の引用文献2、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(引用文献等一覧)

1 特公昭41-15190号公報

2 特表2014-525391号公報

3 特開昭55-136140号公報

なお、後記第3の引用文献と区別するため、以下、引用文献2、3をそれぞれ「引用文献2’」、「引用文献3’」と称す。

第3 当審から通知した拒絶理由の概要

令和4年5月18日付けの当審から通知した拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願請求項1~3、5~11、14~16、18、19、23~25に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願請求項1~3、5~16、18、19、23~25に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(引用文献等一覧)

1 特公昭41-15190号公報

2 江藤哲夫,外3名,「技術シリーズ ガラス」,初版第1刷,

株式会社朝倉書店,1982 年 5 月25日,p.11-13,71

3 特開昭58-130124号公報

4 特開平6-256029号公報

5 成瀬省,「ガラス工学」,初版18刷,共立出版株式会社,

1979 年 9 月25日,p.152-153

6 山根正之,外6名,「ガラス工学ハンドブック」,初版第4刷,

株式会社朝倉書店,2007 年 3 月30日,p.359

7 特開2015-174801号公報

8 特開昭55-136140号公報(原査定で引用した引用文献3’

と同じ)

第4 本願発明

本願請求項1~24に係る発明(以下、「本願発明1」~「本願発明24」という。)は、令和4年7月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~24に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

「【請求項1】
軟化点以上の温度の溶融ガラスを帯状に排出してガラスリボンとし、溶融金属の表面上に供給する供給工程と、
前記溶融金属の表面上に供給された前記ガラスリボンを移送する移送工程と、
を含み、
続きを表示(全65行)
前記移送工程は、移送される前記ガラスリボンを、移送方向上流側の領域で、前記ガラスリボンの温度が幅方向の全体において軟化点よりも低くなるように冷却する冷却工程を含み、
前記供給工程における前記ガラスリボンの温度は軟化点以上であり、
前記冷却工程の前記ガラスリボンが供給される箇所における前記溶融金属の温度は、前記溶融ガラスの軟化点よりも低く、かつ、前記溶融ガラスの徐冷点よりも高く、
前記冷却工程において、前記溶融金属によって前記ガラスリボンを冷却し、
前記供給工程において、前記溶融金属の表面の鉛直方向上側から帯状に前記溶融ガラスを排出して前記溶融金属の表面上に前記ガラスリボンを供給することを特徴とする溶融ガラスの成形方法。
【請求項2】
前記冷却工程において、前記ガラスリボンの温度が幅方向の全体において徐冷点よりも高くなるように前記ガラスリボンを冷却する請求項1に記載の成形方法。
【請求項3】
前記ガラスリボンが供給される箇所における前記溶融金属の温度は、900℃以下である請求項1または2に記載の成形方法。
【請求項4】
前記供給工程において、前記溶融金属の表面のうち前記ガラスリボンが供給される部分よりも移送方向上流側の部分を覆う第1遮蔽部により、前記ガラスリボンから前記溶融金属に向けて輻射される輻射熱の少なくとも一部を遮蔽する請求項1~3のいずれか一項に記載の成形方法。
【請求項5】
前記供給工程と前記移送工程との少なくとも一方において、第2遮蔽部により、前記溶融ガラスを排出する排出部から前記溶融金属および前記ガラスリボンに向けて輻射される輻射熱の少なくとも一部を遮蔽する請求項1~4のいずれか一項に記載の成形方法。
【請求項6】
前記冷却工程において、前記ガラスリボンを前記溶融金属側と逆側から冷却する請求項1~5のいずれか一項に記載の成形方法。
【請求項7】
前記供給工程において、前記ガラスリボンを鉛直方向下方に落下させて前記溶融金属の表面上に供給する請求項1~6のいずれか一項に記載の成形方法。
【請求項8】
前記供給工程における前記ガラスリボンの粘度η[dPa・s]は、1.5≦logη≦5の範囲内である請求項7に記載の成形方法。
【請求項9】
前記供給工程において、前記ガラスリボンを落下させる間に、前記ガラスリボンを冷却する請求項7または8に記載の成形方法。
【請求項10】
前記移送工程において、前記ガラスリボンを引張しない請求項1~9のいずれか一項に記載の成形方法。
【請求項11】
前記供給工程において、前記溶融ガラスを排出する排出部のスリットから前記溶融ガラスを排出して前記溶融ガラスをガラスリボンにする請求項1~10のいずれか一項に記載の成形方法。
【請求項12】
前記溶融ガラスを排出する排出部は、前記移送方向上流側から移送方向下流側に向かうに従って鉛直方向下側に位置する傾斜面を有し、
前記供給工程において、前記傾斜面に沿って前記溶融ガラスを伝わらせて前記溶融ガラスをガラスリボンにする請求項1~10のいずれか一項に記載の成形方法。
【請求項13】
前記溶融ガラスを排出する排出部は、前記溶融ガラスが伝う第1表面および第2表面を有し、前記第1表面の下端と前記第2表面の下端とは、互いに接続され、
前記供給工程において、前記第1表面に沿って帯状にされたガラスリボンと前記第2表面に沿って帯状にされたガラスリボンとを重ね合わせて前記溶融金属の表面上に供給する請求項1~10のいずれか一項に記載の成形方法。
【請求項14】
溶融金属が貯留される浴槽と、
温度が軟化点以上で帯状の溶融ガラスを排出する排出部を有し、前記排出部から前記溶融ガラスを排出して前記溶融金属の表面上にガラスリボンを供給する供給装置と、
前記溶融金属の表面上に供給された前記ガラスリボンを移送する移送装置と、
移送される前記ガラスリボンを、移送方向上流側の領域において冷却する冷却装置と、
を備え、
前記供給装置における前記ガラスリボンの温度は軟化点以上であり、
前記冷却装置は、前記ガラスリボンの温度が幅方向の全体において軟化点よりも低くなるように前記ガラスリボンを冷却し、
前記冷却装置は、前記ガラスリボンが供給される箇所における前記溶融金属の温度を前記溶融ガラスの軟化点よりも低く、かつ、前記溶融ガラスの徐冷点よりも高くする温度調整部を有し、
前記排出部は、前記溶融金属の表面の鉛直方向上側に配置されていることを特徴とする溶融ガラスの成形装置。
【請求項15】
前記冷却装置は、前記ガラスリボンが供給される箇所における前記溶融金属の温度を前記溶融ガラスの軟化点よりも低く、かつ、前記溶融ガラスの徐冷点よりも高くする温度調整部を有する請求項14に記載の成形装置。
【請求項16】
前記冷却装置は、前記ガラスリボンが供給される箇所における前記溶融金属の温度を900℃以下にする温度調整部を有する請求項15に記載の成形装置。
【請求項17】
前記溶融金属の表面のうち前記ガラスリボンが供給される部分よりも移送方向上流側の部分を覆い、前記ガラスリボンから前記溶融金属に向けて輻射される輻射熱の少なくとも一部を遮蔽する第1遮蔽部をさらに備える請求項14~16のいずれか一項に記載の成形装置。
【請求項18】
前記排出部から前記溶融金属および前記ガラスリボンに向けて輻射される輻射熱の少なくとも一部を遮蔽する第2遮蔽部をさらに備える請求項14~17のいずれか一項に記載の成形装置。
【請求項19】
前記冷却装置は、前記ガラスリボンを前記溶融金属側と逆側から冷却する第1冷却部を有する請求項14~18のいずれか一項に記載の成形装置。
【請求項20】
前記排出部と前記溶融金属の表面との鉛直方向の距離を調整可能な調整装置をさらに備える請求項14~19のいずれか一項に記載の成形装置。
【請求項21】
前記調整装置は、前記供給装置を昇降させる昇降装置を有する請求項20に記載の成形装置。
【請求項22】
前記ガラスリボンが前記排出部から排出されてから前記溶融金属の表面上に供給されるまでの間に、前記ガラスリボンを冷却する第2冷却部をさらに備える請求項14~21のいずれか一項に記載の成形装置。
【請求項23】
前記排出部を加熱する加熱部をさらに備える請求項14~22のいずれか一項に記載の成形装置。
【請求項24】
請求項1~13のいずれか一項に記載の成形方法で成形されたガラスリボンを徐冷する徐冷工程を含むガラス製品の製造方法。」

第5 引用文献

1 当審から通知した拒絶理由で引用された引用文献

引用文献1~8には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様)。

(1)引用文献1の記載事項

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ア 「何故ならばもし引張り要素が溶融金属浸液の後方におかれるとすると、ガラス条片は溶融金属浴の上を通過する際に引張りをうけることになるからである。このようにして通過する際に、もしガラスの速度がガラスのきずを除去するための温度の上昇によつて減少するときには、引張り力は溶融金属浴上を移動するガラス条片によつて伝達されずにむしろ溶融金属浴上を延びる条片によつて吸収され、その結果条片は厚さを減少するかあるいは破壊さえするに至る。」(第1頁右欄第34~43行)

イ 「もし引張り部材が溶融金属浴の後方におかれるならば、溶融金属浴上のガラス条片は引張りを止めるような温度に維持されなければならない。このような温度条件の下ではきずは平滑化されることはなくかつ溶融金属浴は単に搬送装置としての働らきをするだけであり、ガラス条片の熱的研摩には何ら貢献しない。」(第2頁左欄第5~11行)

ウ 「本発明はガラス条片を形成する方法に関し、ガラス条片は溶融ガラスを入れた溶融タンクの底部のみぞ穴内を流出する溶融ガラスによつて形成されるようになつている。本発明の方法によれば、ガラス条片は曲げられてつぎに溶融浴上におかれる。」(第2頁左欄第15~20行)

エ 「本発明ではガラス条片は表面の凹凸を除去するのに、すなわちガラス条片が形成される直後に生じる凹凸を除去するのに充分な高温度で形成される。ガラス条片はつぎに溶融物質の浴およびその上の雰囲気内の温度降下によつて冷却される。その後冷却硬化されて条片は機械的搬送手段によつて取り上げられる。」(第2頁左欄第25~31行)

オ 「みぞ穴4を形成した底もしくはベース3をもつガラス溶融タンク2が示され、みぞ穴4を経て溶融ガラス5が引張り出されてガラスストリツプ7状に形成される。ガラスはみぞ穴4の下方に球状体6を形成する。球状体6の後方を形成するガラスストリツプ(ガラス条片)7は偏向して、ガラスよりも濃密でガラスに損傷を与えることのない溶融物質10の浴を入れたタンク9の出口の上方におかれた駆動ローラ8によつて横方向に動かされる。ガラス条片7は矢印Xの方向に動くさいに浸液の上を浮動する。溶融物質は例えば錫のような金属である。急激な酸化を防止するために例えば窒素のような非酸化雰囲気が公知の方法で溶融金属の上方に維持される。」(第2頁右欄第8~21行)

カ 「ガラス条片7は、ベース3とガラス条片7が浴10と接触する前記の場所との間で、特に重力によつて引き出される。条片7がそこでセットされると条片はローラ8により浴から引き上げられて別のローラ11によつてレーヤ12内を移動する。」(第2頁右欄第31~35行)

キ 「ベース3とガラス条片が浴10に接触する場所との間でガラスをガスの流れから離すようにされている時には、ベース3の下方でガラス条片を引き出し曲げることは容易であることは明らかである。このことは第2図および第3図に示した実施例においては容易に達成することができる。すなわち図において引張室13は溶融タンク2をフロート槽9に連結している。引張室13は輻射熱部材14のようなガラス条片を加熱する手段を備え、これにより条片の冷却をおくらせるのに役立ちまた所要に応じては条片が浴と接触するに先立ち条片に熱処理を与えるのに用いることもできる。室13とその壁の温度を実質的に条片7の温度と同一になるように保つことにより、加熱手段14はガスの流れが条片に沿って生成されるのを阻止する。」(第2頁右欄第36行~第3頁左欄第4行)

ク 「第3図ではさらに、16や17のような多数の要素が設けられ、浴10の温度を調節するとともに、例えばレーヤに向う温度を漸次低下することによつて槽9内の雰囲気の温度を調整するようになつている。」(第3頁左欄第15~19行)

ケ 「第3図に示した実施例では、右側において槽9を境界する短かい壁18が設けてある。換言すればこの実施例では、浴10はベース3の下方にまで延びていない。この場合は、条片7は浴10に直接に接触する前に、冷却ガスの流れを避けるようにされている。
この発明によれば、懸下されるガラス条片の長さを比較的短くすることができるために、ガラス溶融タンクの底部のスロツトより下方に引出す公知の方法におけるよりも、一段と高温のガラスを引出すことが可能である。これにより引出しスロツトは一段と狭小にすることができ、薄い条片を得ることができる。ガラス内の高温はスロツトよりのガラス通路で受ける表面上のきずを急速に消去することができる。したがつてこの表面のきずの消去は、ガラス条片が引出しスロツトの比較的近くにある浴との接触に持来たされる前に、すでに完全に行われている。懸下される条片が比較的短いことにより、ガラスが高温であつても、条片の破壊の恐れはない。
ガラス条片が浴と接触するときにはすでに火造は完了しているから、上記浴の入口はガラス条片表面のきずを消去するため該表面を再溶融するのに必要である温度よりも低い温度とすることができる。したがつて浴を加熱するのに要するコストが低減される。さらに浴と接触するガラス条片が、浴を離れた後、レーヤの方に該条片を移動させる固体搬送装置により最早損傷され得ないために、浴の温度を低くするに必要な浴の長さは一段と短くされる。」(第3頁左欄第20行~第3頁右欄第2行)

コ 「2 ・・・ガラス条片がその自重により連続的に引き出され得るスロツトを具えた底部を有し、・・・すなわち上記スロツト4からの新しく引出されたガラス条片7が、引張り装置により最早損傷され得ない上記槽9の出口後方でのガラス条片に付与される側方引張り装置8,11の作用で、何ら固体部材と接触することなく自然屈曲をなして溶融浴10の表面に偏向され得るように、配設されていることを特徴とする、装置。」(請求項2)

サ 「
[図:0001390459000001.jpg]
」

(第1図)

シ 「
[図:0001390459000002.jpg]
」

(第2図。第2図からは、上記キ及びコの記載を踏まえると、浴10の鉛直方向上側にみぞ穴4があること、及び、ガラス条片7は固体部材と接触することなく自然屈曲して浴10に接触していることが見て取れる。)

ス 「
[図:0001390459000003.jpg]
」

(第3図。第3図からは、上記キ、ク、ケ、コ及びサの記載を踏まえると、みぞ穴4の位置が浴10の鉛直方向上側ではないところにあること、ガラス条片7は固体部材と接触することなく自然屈曲して浴10に接触していること、浴の入口が浴10と隣接していること、ガラス条片7の上下に槽9を境界する短かい壁18が存在すること、ベース3とガラス条片7が浴10と接触する場所との間で浴の入口より後方に位置するガラス条片7は要素17によって冷却されていること、及び、要素17が浴10の表面上におかれたガラス条片7を浴10側と逆側から冷却することが見て取れる。)

(2)引用文献1に記載された発明

上記(1)ウ~スに記載された事項を、第3図の装置を用いて、溶融ガラスが引張り出されてガラス条片を形成する方法に注目して整理すると、引用文献1には、

「みぞ穴から溶融ガラスを自重により連続的に引き出してガラス条片にするみぞ穴と、
ベースとガラス条片が浴と接触する場所との間で、浴の入口より後方に位置するガラス条片を冷却し、かつ、浴の表面上におかれたガラス条片を浴側と逆側から冷却する要素と、
ガラス条片の上下に槽を境界する短かい壁と、
を有する装置において、
続きを表示(全11行)
ガラス条片が形成される直後に生じる凹凸を除去するのに充分な高温度の溶融ガラスをストリツプ状に流出してガラス条片とし、溶融金属の表面上におくこと、
溶融金属の表面上におかれたガラス条片を横方向に動かすこと、
ガラス条片を横方向に動くさいには、浴の入口はガラス条片表面のきずを消去するため該表面を再溶融するのに必要である温度よりも低い温度であり、動かされるガラス条片を、浴と接触するガラス条片が、浴を離れた後、レーヤの方に該条片を移動させる固体搬送装置により最早損傷され得ない温度に冷却すること、
ガラス条片を溶融金属の表面上におくさいにはガラス条片の温度がガラス条片が形成される直後に生じる凹凸を除去するのに充分な高温度であり、
ガラス条片を冷却するさいに、浴の入口はガラス条片表面のきずを消去するため該表面を再溶融するのに必要である温度よりも低い温度であり、溶融金属の温度は、ガラス条片表面のきずを消去するため該表面を再溶融するのに必要である温度よりも低く、浴と接触するガラス条片が、浴を離れた後、レーヤの方に該条片を移動させる固体搬送装置により最早損傷され得ない温度であり、
ガラス条片を冷却するさいに、溶融金属によつてガラス条片を冷却する溶融ガラスが引張り出されてガラス条片を形成し、
ガラス条片を溶融金属の表面上におくさいには、溶融金属の鉛直方向上側ではないところからストリツプ状に溶融ガラスを流出して溶融金属の表面上にガラス条片をおく方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

また、上記(1)ウ~スに記載された事項を、第2図の装置を用いて、溶融ガラスが引張り出されてガラス条片を形成する方法に注目して整理すると、引用文献1には、

「浴の鉛直方向上側にある、みぞ穴から溶融ガラスを自重により連続的に引き出してガラス条片にするみぞ穴と、
浴の表面上におかれたガラス条片を浴側と逆側から冷却する要素と、
を有する装置において、
ガラス条片が形成される直後に生じる凹凸を除去するのに充分な高温度の溶融ガラスをストリツプ状に流出してガラス条片とし、溶融金属の表面上におくこと、
溶融金属の表面上におかれたガラス条片を横方向に動かすこと、
ガラス条片を横方向に動くさいには、動かされるガラス条片を、浴と接触するガラス条片が、浴を離れた後、レーヤの方に該条片を移動させる固体搬送装置により最早損傷され得ない温度に冷却すること、
ガラス条片を溶融金属の表面上におくさいにはガラス条片の温度がガラス条片が形成される直後に生じる凹凸を除去するのに充分な高温度であり、
ガラス条片を冷却するさいに、溶融金属の温度は、浴と接触するガラス条片が、浴を離れた後、レーヤの方に該条片を移動させる固体搬送装置により最早損傷され得ない温度であり、
ガラス条片を冷却するさいに、溶融金属によつてガラス条片を冷却する溶融ガラスが引張り出されてガラス条片を形成し、
ガラス条片を溶融金属の表面上におくさいには、溶融金属の鉛直方向上側からストリツプ状に溶融ガラスを流出して溶融金属の表面上にガラス条片をおく方法。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

また、上記(1)ウ~スに記載された事項を、溶融ガラスが引張り出されてガラス条片を形成する第3図及び第2図の装置に注目して整理すると、引用文献1には、それぞれ引用発明及び引用発明2を装置の形式で表した発明(以下、それぞれ「引用発明’」及び「引用発明2’」という。)が記載されているといえる。

(3)引用文献2の記載事項

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ア 「作業点:約104ポイズの粘度域で,ガラスが成形加工されるに適当な温度.
軟化点:107.65ポイズの粘度であって,これ以下の温度ではガラスの加工や作業は困難となるので,軟化点と作業点の温度範囲を一般に作業温度範囲とよんでいる.」(第13頁左欄第12行~第13頁右欄第1行)
イ 「6.1 概要
ガラス製品を成形した後空気中に放置すると,・・・ガラス中に応力が発生する.ガラスに機械的または熱的の衝撃が与えられたとき破壊の原因となる.これを永久ひずみ(permanent stress)という.
6.2 徐冷操作
永久ひずみの大きさは固化中のガラス中の温度不均一と熱膨張率に大体比例する.したがってガラス中に発生する温度不均一を少なくするよう徐冷操作を行う.
徐冷点(annealing point)より少し高い温度まで加熱し,その温度にある時間保持し,ひずみ点(strain point)の少し下まで徐々に冷却し,その後比較的早く冷却する・・・大量生産のタンク炉の製品には連続徐冷炉(レヤー、lehr)を使用する.」(第71頁左欄第2行~第71頁右欄第4行)
ウ 「6.4 連続徐冷炉
板状ガラス・・・の場合には温度勾配をつけた細長い炉の中を製品はコンベヤーまたはメッシュベルトに乗せて一定速度で移動させ,徐冷を行う(annealing lehr).」(第71頁右欄第22~27行)

(4)引用文献3の記載事項

ア 「ガラス板の加工方法としては、ガラス板をその軟化点温度以上の温度に加熱し、次いでプレス曲げしたり、自重曲げしたり、彎曲加工する方法が広く使用されているが、3方又は4方、即ち3辺又は4辺が鋭く曲がつている形状、例えば箱形状の様な複雑な形状に加工することは著るしく困難であつた。」(第1頁右欄第1~7行)

(5)引用文献4の記載事項

ア 「【0025】・・・板ガラスの軟化点とは、ガラスの粘度が約108ポイズに相当し、ガラスが自重で変形する温度をいう(普通フロートガラスでは約740℃である)。」

(6)引用文献5の記載事項

ア 「押型ガラスに光沢を与えるために,離型後ガス焔を表面に吹きつけて加熱し,表面の微細なデコボコを均らす操作をつけ加える。これを火作り(Fire polishing)と称する。」(当審注:「焔」は火偏に勹と臼)(第153頁第7~9行)

(7)引用文献6の記載事項

ア 「a.フロート法の原理
溶融したガラスをガラスより比重が大きくガラスに濡れない溶融金属上に流し込むと,・・・同時に,ガラスの上下面は完全に平行で平滑な,いわゆる火づくり面(fire polished)となり,厚さも縁部を除き均一となる.」(第359頁左欄第40行~第359頁右欄第6行)

(8)引用文献7の記載事項

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ア 「【0012】
フロートガラス製造装置10は、浴槽11内の溶融金属Mに溶融ガラスGを連続的に供給し、溶融金属M上において溶融ガラスGを板状のガラスリボンに成形する。・・・」
イ 「【0019】
スパウトリップ15は、図1に示すように、水平部15aと、水平部15aの下流端から斜め下に延びる傾斜部15bとを一体的に有する。スパウトリップ15上を流れる溶融ガラスGは、傾斜部15bの下流端から浴槽11内に投入される。」
ウ 「【図1】
[図:0001390459000004.jpg]
」

(図1には、上記ア及びイの記載を踏まえると、溶融ガラスGを投入するスパウトリップ15は、斜め下に延びる傾斜部15bを有し、溶融ガラスGの供給において、傾斜部15bに沿って溶融ガラスGを伝わらせて溶融ガラスGをガラスリボンにすることが見て取れる。)

(9)引用文献8の記載事項

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ア 「第1および2図に示されているように、・・・溶融ガラスGはこの側壁28を越えて流れ、供給装置24の収れん面30に沿って下方に向かう2つの対向する板状の流れFとなる。これらの2つの流れFは、供給装置24の底部の線状部分32において合流して、1つの板状溶融ガラスSとなる。この板状溶融ガラスSは、通常のフロートタンク36内に入れられた例えば錫のような溶融金属浴Mの表面上に供給される。」(第3頁右下欄第2行~第4頁左上欄第2行)

イ 「
[図:0001390459000005.jpg]
」

(第2図。第2図には、上記アの記載を踏まえると、溶融ガラスGを供給する供給装置は、溶融ガラスGが伝う2つの収れん面30を有し、2つの収れん面30の底部の線状部分32は、互いに接続され、溶融ガラスGの供給において、2つの収れん面30に沿って板状の流れFを合流させて溶融金属浴Mの表面上に供給することが見て取れる。)

2 原査定の拒絶理由で引用された引用文献

引用文献2’には、次の事項が記載されている。なお、引用文献1及び3’に記載されている事項については、それぞれ上記1(1)及び(9)を参照のこと。

(1)引用文献2’の記載事項

折りたたみ中(クリックで表示)
ア 「【請求項1】
ガラスシートを成形する方法において、
溶融ガラスをダウンドロープロセスで成形本体から第1方向に流して、108ポアズ以上の第1粘度を有する粘性部分を含む、ガラスリボンを成形するステップ、
前記粘性部分を、前記第1方向とは異なる第2方向へと方向変換させるステップ、
方向変換された前記粘性部分を溶融金属バス上で支持するステップであって、前記粘性部分が前記溶融金属バス上に入るときの、該粘性部分の第2粘度が約109ポアズ以上であるステップ、
前記粘性部分が前記溶融金属バスを通過するときに該粘性部分を約1014ポアズ以上の第3粘度まで冷却して、弾性部分を形成するステップ、および、
前記弾性部分を分離して個々のガラスシートを成形するステップ、
を含むことを特徴とする方法。」
イ 「【0026】
ガラスリボンの粘度は、ガラスリボンが溶融金属バス58の表面上に入る時点で少なくとも109ポアズであることが好ましく、また約1010ポアズ以上であることが好ましい。しかしながら、いくつかの実施形態においてガラスリボンは、溶融金属バスの表面上に入るときに1011ポアズなど、より高い粘度を有し得る。相対的に高温のガラスリボンが溶融金属バスの表面上を移動すると、ガラスリボンの温度は溶融金属バスの範囲内の温度に下がる。例えば、いくつかの実施形態での溶融金属バスの温度は約230℃から約750℃の範囲であり、ガラスリボンの粘度を続いて増加させることになる。好適には、ガラスリボンが溶融金属バスを離れるときのガラスリボンの粘度は、約1013ポアズ以上、約1014ポアズ以上、または約1015ポアズ以上であり、いくつかの事例では少なくとも約1016ポアズである。」
ウ 「【図2】
[図:0001390459000006.jpg]
」

第6 当審の判断

1 当審から通知した拒絶理由に対する検討

(1)本願発明1について

ア 引用発明との対比・判断

(ア)本願発明1と引用発明との対比

本願発明1と引用発明を対比すると、引用発明の「ストリツプ状」、「流出」、「ガラス条片」、「動かされるガラス条片」、「冷却すること」、「ガラス条片を溶融金属の表面上におくさい」、「ガラス条片を冷却するさい」及び「溶融ガラスが引張り出されてガラス条片を形成する方法」は、それぞれ、本願発明1の「帯状」、「排出」、「ガラスリボン」、「移送される前記ガラスリボン」、「冷却する冷却工程」、「前記供給工程」、「前記冷却工程」及び「溶融ガラスの成形方法」に相当する。

引用発明の「ガラス条片が浴と接触する場所」は、上記第5の1(1)カ、キ、スによれば、ベース3と当該場所との間でガラスが引き出されていることから、本願発明1の「ガラスリボンが供給される箇所」に相当する。

引用発明の「ガラス条片が形成される直後に生じる凹凸を除去するのに充分な高温度」は、上記第5の1(1)ケによれば、ガラス条片表面のきずを消去するためには該表面を再溶融する必要があるから、本願発明1の「軟化点以上の温度」であることは明らかである。

引用発明の「ガラス条片とし、溶融金属の表面上におくこと」は、上記第5の1(1)ウ及びコ~スによれば、本願発明1の「ガラスリボンとし、溶融金属の表面上に供給する供給工程」に相当する。

引用発明の「溶融金属の表面上におかれたガラス条片を横方向に動かすこと」及び「ガラス条片を横方向に動くさい」は、上記第5の1(1)オによれば、それぞれ、本願発明1の「前記溶融金属の表面上に供給された前記ガラスリボンを移送する移送工程」及び「前記移送工程」に相当する。

すると、両者は、

「軟化点以上の温度の溶融ガラスを帯状に排出してガラスリボンとし、溶融金属の表面上に供給する供給工程と、
前記溶融金属の表面上に供給された前記ガラスリボンを移送する移送工程と、
を含み、
前記移送工程は、移送される前記ガラスリボンを、冷却する冷却工程を含み、
前記供給工程における前記ガラスリボンの温度は軟化点以上であり、
前記冷却工程において、前記溶融金属によって前記ガラスリボンを冷却し、
前記供給工程において、帯状に前記溶融ガラスを排出して前記溶融金属の表面上に前記ガラスリボンを供給することを特徴とする溶融ガラスの成形方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)

移送されるガラスリボンを冷却する冷却工程に関して、本願発明1では、「移送方向上流側の領域で、前記ガラスリボンの温度が幅方向の全体において軟化点よりも低くなるように冷却する」のに対して、引用発明では、「浴の入口はガラス条片表面のきずを消去するため該表面を再溶融するのに必要である温度よりも低い温度であり、動かされるガラス条片を、浴と接触するガラス条片が、浴を離れた後、レーヤの方に該条片を移動させる固体搬送装置により最早損傷され得ない温度に冷却する」ことが特定されている点

(相違点2)

本願発明1では、「前記供給工程における前記ガラスリボンの温度は軟化点以上であ」るのに対して、引用発明では、「ガラス条片を溶融金属の表面上におくさいにはガラス条片の温度がガラス条片が形成される直後に生じる凹凸を除去するのに充分な高温度であ」ることが特定されている点

(相違点3)

冷却工程のガラスリボンが供給される箇所における溶融金属の温度に関して、本願発明1では、「前記溶融ガラスの軟化点よりも低く、かつ、前記溶融ガラスの徐冷点よりも高」いとしているのに対して、引用発明では、「浴の入口はガラス条片表面のきずを消去するため該表面を再溶融するのに必要である温度よりも低い温度であり、溶融金属の温度は、ガラス条片表面のきずを消去するため該表面を再溶融するのに必要である温度よりも低く、浴と接触するガラス条片が、浴を離れた後、レーヤの方に該条片を移動させる固体搬送装置により最早損傷され得ない温度であ」ることが特定されている点

(相違点4)

供給工程の溶融ガラスの排出位置に関して、本願発明1では、「前記溶融金属の表面の鉛直方向上側」であるとされているのに対して、引用発明では、「溶融金属の表面の鉛直方向上側ではないところ」であることが特定されている点

(イ)相違点1、3の判断

上記第5の1(1)ケ、サ及びスによれば、浴の入口が浴と隣接していること、浴の入口がガラス条片表面のきずを消去するため該表面を再溶融するのに必要である温度よりも低い温度とされていること、それにより、浴を加熱するのに要するコストが低減されることが記載されているため、浴の温度は浴の入口の温度と同じかそれ以下であるといえる。

次に、上記第5の1(1)ア及びイによれば、引張り要素を浴の後方において浴の温度をガラス条片のきずを除去する温度まで高くすると、ガラス条片は浴の上で厚さが減少又は破壊されることから、引張り要素を浴の後方におく場合には、浴の上での引張りを止めるような温度に維持しなければならないことが記載されているから、浴の上での引張りを止めるような温度は軟化点よりも低い温度であるといえる。

また、上記第5の1(1)オ、コ及びスによれば、ガラス条片は浴の後方におかれた側方引張り装置8、11(駆動ローラ8)によって横方向に動かされることが記載されているから、側方引張り装置8、11(駆動ローラ8)は引張り要素として機能する構成要素であるといえる。

さらに、上記第5の1(1)ケによれば、ガラス条片の表面のきずは浴と接触する前にすでに除去されていることが記載されている。

以上の記載を踏まえると、ガラス条片のきずが浴と接触する前にすでに除去されていて、浴の上でガラス条片のきずを除去する必要がなく、浴を加熱するコストも低減したいという課題も考慮すれば、引用発明の浴の温度は溶融ガラスの軟化点よりも低くなっているといえる。

上記第5の1(1)カ、ク、ケ、コ及びスによれば、引用発明は浴の後方にレーヤを備えていることが記載されている。

そして、例えば、上記第5の1(3)イ及びウに記載されているように、ガラス製品を成形した後に徐冷炉を使用して徐冷点よりも高い温度から徐々に冷却することは当業者の技術常識である。

そうすると、引用発明の浴の温度は溶融ガラスの徐冷点よりも高いといえる。

上記第5の1(1)クによれば、引用発明の浴の温度はレーヤに向かうにつれて漸次低下することが記載されている。

以上の点を合わせ考えると、引用発明には、ガラス条片が浴に接触する場所における浴の温度は、溶融ガラスの軟化点よりも低く、かつ、溶融ガラスの徐冷点よりも高くなっているといえるから、本願発明1と引用発明との相違点3は、両者の差異とはならない。

また、一般にガラス条片の冷却は、均質化や品質向上を目的として幅方向全体を冷却することが出願時の技術常識であり、引用発明におけるガラス条片の冷却も幅方向全体を冷却しているといえる。

さらに、引用発明において、ガラス条片が浴に接触すると、ガラス条片は浴の温度まで冷却されることは当然である。

したがって、引用発明には、動かされるガラス条片を、ガラス条片が浴に接触する場所の近傍において、ガラス条片の温度が幅方向全体において軟化点よりも低くなるように冷却されるといえるから、本願発明1と引用発明との相違点1は、両者の差異とはならない。

(ウ)相違点2の判断

本願発明1の「前記供給工程における前記ガラスリボンの温度は軟化点以上であ」るという特定事項は、請求人が、審判請求書において、「本願発明がガラスリボンを軟化点以上で溶融金属上に供給して、ガラスリボンの温度を移送工程の上流で速やかに軟化点よりも低くするものであることは、本願明細書の段落[0036],[0039],[0040],[0047]~[0049],[0054],[0055],[0056],[0060],[0071]等から明らかであるものと思量しております。」と主張しているように、ガラスリボンを軟化点以上の温度で溶融金属上に供給することを特定していると認める。

ここで、上記第5の1(1)コ、サ及びスによれば、引用発明のガラス条片は固体部材と接触することなく自然屈曲して浴に接触していることが記載されている。

そして、例えば、上記第5の1(3)アに記載されているように、軟化点以下の温度ではガラスの加工や作業は困難となること、また、上記第5の1(4)ア及び上記第5の1(5)アに記載されているように、ガラス板が自重で変形する温度は軟化点以上であることは当業者の技術常識である。

そうすると、引用発明のガラス条片は自然屈曲していることから、浴に接触するさいにガラス条片の温度は軟化点以上になっているといえる。

したがって、本願発明1と引用発明との相違点2は、両者の差異とはならない。

(エ)相違点4の判断

引用文献1には、上記第5の1(1)シに示されるように、みぞ穴4の位置を浴10の鉛直方向上側とすることが示唆されている。

そこで、引用発明において、上記示唆を考慮してみぞ穴4の位置を浴10の鉛直方向上側とすることについて検討してみると、そのためには、浴10をみぞ穴4の鉛直方向下方まで広げられるように「短かい壁18」をなくす必要があることが分かる。

ここで、この「短かい壁18」を設けている意味を考えてみると、上記第5の1(1)ケによれば、引用発明である第3の実施例では、「短かい壁18」を設けることによって条片7は浴10に直接接触する前に冷却ガスの流れを避けるようにされているから、当該意味は、浴の入口の温度をガラス条片表面のきずを消去するため該表面を再溶融するのに必要である温度よりも低い温度とすることができる点にあると認められる。

そうすると、引用発明において、上記示唆を考慮して「短かい壁18」をなくし、浴10をみぞ穴4の鉛直方向下方まで広げると、条片7は浴10に直接接触する前に冷却ガスの流れを避けることができず、浴の入口の温度をガラス条片表面のきずを消去するため該表面を再溶融するのに必要である温度よりも低い温度とすることができなくなるといえる。

したがって、引用発明において、上記示唆を考慮しみぞ穴4の位置を溶融金属の表面の鉛直方向上側に変更すると、本願発明1の「冷却工程の前記ガラスリボンが供給される箇所における前記溶融金属の温度は、前記溶融ガラスの軟化点よりも低く」(上記相違点3参照)という特定を満たさないから、引用文献1に上記示唆があったとしても、引用発明において、みぞ穴4の位置を溶融金属の表面の鉛直方向上側とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるといえない。

(オ)小括

したがって、本願発明1は引用発明と同一であるとはいえないし、引用発明に基いて当業者が容易に発明できたものでもない。

イ 引用発明2との対比・判断

(ア)本願発明1と引用発明2との対比

両者の対応関係は上記ア(ア)のとおりであるから、両者は、

「軟化点以上の温度の溶融ガラスを帯状に排出してガラスリボンとし、溶融金属の表面上に供給する供給工程と、
前記溶融金属の表面上に供給された前記ガラスリボンを移送する移送工程と、
を含み、
前記移送工程は、移送される前記ガラスリボンを、冷却する冷却工程を含み、
前記供給工程における前記ガラスリボンの温度は軟化点以上であり、
前記冷却工程において、前記溶融金属によって前記ガラスリボンを冷却し、
前記供給工程において、前記溶融金属の表面の鉛直方向上側から帯状に前記溶融ガラスを排出して前記溶融金属の表面上に前記ガラスリボンを供給することを特徴とする溶融ガラスの成形方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1’)

移送されるガラスリボンを冷却する冷却工程に関して、本願発明1では、「移送方向上流側の領域で、前記ガラスリボンの温度が幅方向の全体において軟化点よりも低くなるように冷却する」のに対して、引用発明2では、「動かされるガラス条片を、浴と接触するガラス条片が、浴を離れた後、レーヤの方に該条片を移動させる固体搬送装置により最早損傷され得ない温度に冷却する」ことが特定されている点

(相違点2’)

本願発明1では、「前記供給工程における前記ガラスリボンの温度は軟化点以上であ」るのに対して、引用発明2では、「ガラス条片を溶融金属の表面上におくさいにはガラス条片の温度がガラス条片が形成される直後に生じる凹凸を除去するのに充分な高温度であ」ることが特定されている点

(相違点3’)

冷却工程のガラスリボンが供給される箇所における溶融金属の温度に関して、本願発明1では、「前記溶融ガラスの軟化点よりも低く、かつ、前記溶融ガラスの徐冷点よりも高」いとしているのに対して、引用発明2では、「浴と接触するガラス条片が、浴を離れた後、レーヤの方に該条片を移動させる固体搬送装置により最早損傷され得ない温度であ」ることが特定されている点

(イ)相違点2’、3’の判断

まず、相違点2’について、上記相違点2と同じであるから、上記ア(ウ)で検討したとおり、本願発明1と引用発明2との相違点2’は、両者の差異とはならない。

次に、相違点3’について、上記ア(イ)で検討したとおり、引用発明2の浴の温度は溶融ガラスの徐冷点よりも高いと認められる。他方、引用発明2には、ガラス条片が浴に接触する場所の浴の温度が溶融ガラスの軟化点よりも低いことは特定されていない。

その上、引用文献1には、上記第5の1(1)ケに示されるように、浴の温度をガラス条片表面のきずを消去するため該表面を再溶融するのに必要である温度よりも低い温度とすることで、浴を加熱するのに要するコストを低減できることが示唆されている。

しかしながら、ガラス条片を溶融金属の表面上におくさいには、ガラス条片の温度を、ガラス条片が形成される直後に生じる凹凸を除去するのに充分な高温度としつつ、他方で、ガラス条片が浴に接触する場所の浴の温度を、ガラス条片表面のきずを消去するため該表面を再溶融するのに必要である温度よりも低い温度とする必要があるため、冷却ガスの流れや雰囲気温度、ガラス条片の配置等の調整が不可欠となるところ、第2図の装置には第3図の装置が有する「短かい壁」がないから、第3図の装置の場合とは異なり、そのような調整には過度の試行錯誤が要求されるといえる。

したがって、引用発明2において、上記示唆を考慮しガラス条片が浴に接触する場所の浴の温度を溶融ガラスの軟化点よりも低くすることは技術的にみて困難なことといえるため、引用文献1に上記示唆があったとしても、引用発明2において、ガラス条片が浴に接触する場所の浴の温度を溶融ガラスの軟化点よりも低くすることは、当業者が容易に想到し得ることであるといえない。

(ウ)小括

したがって、相違点1’について検討するまでもなく、本願発明1は引用発明2と同一であるとも、引用発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものであるともいえない。

ウ 本願発明1についてのまとめ

以上のとおりであるから、本願発明1は引用文献1に記載された発明と同一であるとも、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものであるともいえない。

(2)本願発明2~13、24について

本願発明2~13、24は、本願発明1を引用するものであって、本願発明1の特定事項をさらに減縮したものであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、引用文献1に記載された発明と同一であるとも、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものであるともいえない。

(3)本願発明14について

本願発明14は、本願発明1の方法の発明を装置の形式で表した発明であるといえる。

そして、本願発明1と引用発明’及び引用発明2’とは、上記(1)における本願発明1と引用発明及び引用発明2と同様に対比され判断される。

そうすると、上記(1)に示した理由と同様の理由により、引用文献1に記載された発明と同一であるとも、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものであるともいえない。

(4)本願発明15~23について

本願発明15~23は、本願発明14を引用するものであって、本願発明14の特定事項をさらに減縮したものであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、引用文献1に記載された発明と同一であるとも、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものであるともいえない。

2 原査定に対する検討

(1)原査定の判断について

原査定では、「本願の請求項1に記載された「軟化点以上の温度の溶融ガラスを帯状に排出してガラスリボンとし、溶融金属の表面上に供給する供給工程」との事項は、排出時の溶融ガラスは軟化点以上の温度であることは明らかであるが、溶融金属の表面上に供給する時点のガラスリボンの温度を特定するものではない。・・・本願明細書では、ガラスリボンが溶融金属表面に供給される直前で軟化点より高い温度の場合は好ましくないものであるといえる。」と指摘した上で、本願請求項1~3、7~11、14~16、20、23~25に係る発明は、引用文献1に記載された発明と同一、又は、当該発明に基いて当業者が容易に発明できたもの、また、本願請求項1、3、7~10、13~16、23~25に係る発明は、引用文献2’に記載された発明と同一、又は、当該発明に基いて当業者が容易に発明できたもの、さらに、本願請求項6、12、13、19に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2’、3’に記載された事項に基いて当業者が容易に発明できたものであると判断している。

(2)原査定の拒絶理由について

原査定の拒絶理由は、引用文献1又は引用文献2’を主たる証拠としたものであるところ、当該拒絶理由について改めて検討すると、引用文献1を主たる証拠とした拒絶理由に対する判断は、上記1で検討したとおりである。

次に、引用文献2’を主たる証拠とした拒絶理由について検討すると、上記第5の2(1)ア、イによれば、引用文献2’の方法は、ガラスリボンの粘度を溶融金属バスの表面上に入る時点で少なくとも109ポイズとするものであり、上記第5の1(3)ア、同(5)アによれば、粘度が109ポイズとなる温度は軟化点より低い温度である。

ここで、上記1(1)ア(ウ)で検討したとおり、本願発明1の「前記供給工程における前記ガラスリボンの温度は軟化点以上であ」るという特定事項は、ガラスリボンを軟化点以上の温度で溶融金属上に供給することを特定していると認められる。

そうすると、引用文献2’に記載された発明は、本願発明1と、少なくとも「前記供給工程における前記ガラスリボンの温度は軟化点以上であ」る点で相違するから、引用文献2’に記載された発明と同一であるとはいえないし、引用文献2’に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものともいえない。

(3)原査定に対する検討についてのまとめ

したがって、原査定では、本願発明について誤った認定をした上で判断しているため、原査定を維持することはできない。

第7 むすび

以上のとおり、本願発明1~24は、引用文献1又は引用文献2’に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものではないし、引用文献1又は引用文献2’に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないため、原査定の拒絶理由及び当審から通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

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2022-004270

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