2022-003553
組換え免疫細胞、作製方法、および使用方法
- 審判番号
- 2022-003553
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-543244外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年03月09日
- 審決日
- 2023年11月14日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
- 【請求人代理人】稲葉 良幸
- 【請求人代理人】大貫 敏史
- 【請求人代理人】江口 昭彦
- 【請求人代理人】内藤 和彦
- 分類
- P18 .121-WZ (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 11項目
本願は、平成30年10月26日(パリ条約による優先権主張 2017年10月26日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、令和3年11月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、令和4年3月9日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。その後の当審における手続の経緯は、以下のとおりである。
令和5年 7月 4日付け 拒絶理由通知書
令和5年10月 5日 意見書および手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~8に係る発明は、令和5年10月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】IgG Fcキメラ受容体をコードするポリヌクレオチドを含む、組換え細胞であって、前記IgG Fcキメラ受容体は、IgG Fc領域に結合するのに十分なCD64の部分を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、およびIgG Fc領域が前記細胞外ドメインに結合したときに細胞シグナル伝達を開始するのに十分なFc受容体の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)の部分を含む、細胞内ドメインを含み、前記細胞内ドメインは、細胞内シグナル伝達に関与するCD16Aの細胞内領域の少なくとも一部を含み、前記組換え細胞は、前記ポリヌクレオチドを含むナチュラルキラー(NK)細胞に分化可能な人工多能性幹細胞(iPSC)である、組換え細胞。」
第3 当審で通知した拒絶の理由
令和5年7月4日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は、この出願の請求項1~8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
刊行物
引用文献1 特表2017-503510号公報
引用文献2 国際公開第2015/148926号
引用文献3 国際公開第2016/123333号
第4 引用文献の記載事項及び引用発明の認定
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1 引用文献の記載事項
(1)引用文献1
当審の拒絶理由で引用した特表2017-503510号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下も同様。)
ア 特許請求の範囲
「【請求項1】ヒトCD16の抗体Fc結合親和性よりも高い抗体Fc結合親和性を有するエクトドメイン、膜貫通ドメイン、ならびにADCC活性化および増幅を媒介するためのエンドドメインを含む膜貫通キメラレセプターをコードする遺伝子構築物。」
「【請求項11】配列番号1、3、5、7、および9からなる群より選択されるDNA配列を含む、請求項1に記載の遺伝子構築物。」
「【請求項20】請求項1~11に記載の遺伝子構築物もしくは請求項12~20のタンパク質で、エキソビボで、感染させたかもしくはトランスフェクトされた、免疫エフェクター細胞。【請求項21】細胞傷害性Tリンパ球を含む、請求項21に記載の免疫エフェクター細胞。【請求項22】ナチュラルキラー細胞を含む、請求項21に記載の免疫エフェクター細胞。」
イ 課題を解決するための手段
「【0012】(発明の簡単な要旨)本発明により新たなアプローチがもたらされ、がん、感染および他の疾患に対する免疫系の防御が改善される。合成生物学および組換え技術のツールを使用して、本発明は、がんを含む多くの種類の疾患に対するADCC応答の有効性を大いに改善するADCCエンハンサーもしくは増強システムを設計および構築することを目的とする。」
「【0016】よって、一実施形態において、本発明は、ヒトCD16のF158改変体の抗体Fc結合親和性よりも高い抗体Fc結合親和性を有するエクトドメイン、膜貫通ドメイン、ならびにADCC活性化および増幅を媒介するためのエンドドメインを含む膜貫通キメラレセプターをコードする遺伝子構築物を提供する。【0017】本発明の遺伝子構築物は、DNA分子もしくはRNA分子を含み得る。上記構築物は、(例えば、ヒトの)CD64の実質的にEC3エキソン、もしくはさらに(ヒト)CD64の実質的にEC1およびEC2エキソンを含み得る。あるいは、本発明の遺伝子構築物は、実質的にCD64のエクトドメインを含むエクトドメインへと翻訳されるRNAを含む。ある特徴において、上記エクトドメインは、CD64中のエキソンもしくはドメインの境界に基づいて選択される。好ましくは、上記エクトドメインは、ヒトCD16のV158改変体よりも高いFc親和性を有する。別の特徴において、上記膜貫通キメラレセプターは、融合タンパク質として発現される。また、上記エンドドメインは、CD3ζの、CD28の、CD134の、CD137の、CD27の、CD79aの、CD79bの、CD40の、およびGM-CSFレセプターの細胞内ドメインの一部もしくはすべてからなる群より選択され得る増幅モジュールを含み得る。」
「【0019】別の実施形態において、本発明は、本発明の遺伝子構築物もしくはタンパク質をエキソビボで感染させたかもしくはトランスフェクトした免疫エフェクター細胞を提供する。上記免疫エフェクター細胞は、例えば、細胞傷害性Tリンパ球、ナチュラルキラー細胞、好酸球、マクロファージ、好中球、好塩基球、単球、B細胞、および細胞傷害性因子を発現するかもしくは発現するように操作されている他の細胞であり得る。【0020】さらに別の実施形態において、本発明は、本発明の遺伝子構築物、タンパク質、もしくは免疫エフェクター細胞、および薬学的に受容可能な賦形剤を含む薬学的組成物を提供する。」
ウ 図面の簡単な説明
「【0036】【図14】図14は、ヒトCD64の細胞外領域が、エキソンベースのストラテジーを使用してヒトCD16の領域へと融合され、図13に示される増幅モジュールへとさらに融合される、本発明の実施形態に従うキメラレセプターへと翻訳されるDNA配列(配列番号9)(上)を収載する。その対応するタンパク質配列(配列番号10)は、下に収載する。スペーサー配列および変異配列は、小文字で書かれる。」
エ 発明を実施するための形態
「【0045】(1)(a)エクトドメイン図1を参照すると、一実施形態(左側)において、本発明のキメラレセプターは、CD64(FcγRI)のエクトドメインの一部もしくは全てを組み込む。・・・図2に示されるように、FcγRIは、細胞外ドメインが抗体への結合を担う3つの免疫グロブリンドメインから構成される糖タンパク質α鎖を含み、3つ全ての存在が抗体との高親和性相互作用に重要であることが示された。対照的に、CD16のエクトドメインは、2個の免疫グロブリン様ドメインを有するのみである。・・・【0046】本発明の実施形態によれば、CD64(FcγRI)のエクトドメインは、ADCCを媒介する高親和性Fcレセプターを生成するために、任意の適切な膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインへと融合される。好ましい実施形態において、ヒトCD64(FcγRI)のエクトドメインは、ヒトCD16(FcγRIII)の一部、例えば、CD16の、好ましくは、CD16a(FcγRIIIa)の、膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインの両方に融合される。」
「【0048】(1)(b)膜貫通ドメイン本発明のキメラレセプターの膜貫通ドメインは、(好ましくは安定した様式で)細胞膜にまたがり得る任意の適切な疎水性領域であり得る。好ましい実施形態において、上記膜貫通ドメインは、上記細胞内ドメインのその隣接する成分に対して天然である。例えば、図1に示されるように、膜に最も近い細胞内ドメインの成分もしくは領域がCD16に由来する実施形態において、上記膜貫通ドメインは、好ましくは、CD16の膜貫通ドメインである。【0049】(1)(c)エンドドメイン(1)(c)(i)ADCCのシグナル伝達再び図1を参照すると、本発明の種々の実施形態において、上記キメラレセプターは、ADCCに関する1もしくはそれより多くのシグナル伝達モジュールを含む。CD16は、我々の身体においてADCC活性の大部分を担うエフェクター細胞(特にNK細胞)を活性化する天然の抗体レセプターである。よって、種々の実施形態において、本発明のキメラレセプターのエンドドメインは、CD16(好ましくは、CD16a)の細胞内ドメインの一部もしくは全体を含む。CD16aと類似のITAMドメインを共有する、CD3ζのような他のモジュールもまた、ADCCシグナル伝達に寄与するように含まれ得る。」
オ 実施例
「【0070】本発明の実施形態に従って、上記キメラADCC増強レセプターのエクトドメインを、2つの方法で生成した:・・・【0072】続きを表示(全17行)(b)エキソンベースの融合体: FcγRIおよびFcγRIIIにおけるエキソン境界に基づいて、ヒトFcγRIの推定されるエクトドメインを、ヒトFcγRIIIの膜貫通領域および細胞内領域に融合した。図3に示されるように、両方のタンパク質は、分泌ペプチドをコードする2個のエキソン(S1およびS2)、続いて、細胞外領域をコードする3個のエキソン(CD64)もしくは2個のエキソン(CD16)を有する。具体的には、CD64のS1からEC3までのエキソンを、CD16におけるTM/Cエキソンと融合した。融合レセプターにおいて得られた領域のDNA配列およびアミノ酸配列(それぞれ、配列番号3および4)を、図11に示す。・・・【0074】ここで図4を参照すると、ヒトCD64のエクトドメインを、ヒトCD16の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインへといったん融合した後、それらをさらに、種々のヒトタンパク質において見出される種々の増幅モジュール(具体的には、CD28(a.a. 162~202)、CD134(a.a. 213~249)、CD137(a.a. 187~232)およびCD3ζ(a.a. 31~142)(全てのアミノ酸位置は、成熟タンパク質配列に基づく))に融合した。変異を、以下のとおりアスタリスクによって印を付けたとおりに配列の中に導入した:市販のCD16 cDNAは、復帰した多型を有する。さらに、表面発現を下方調節することが公知のCD28中のジロイシンモチーフを変異させた。各モジュールを、2個のスペーサーアミノ酸を導入した-GGATCT-配列によって分離した。上記融合レセプターにおいて得られた領域のDNA配列およびアミノ酸配列(それぞれ、配列番号5および6)を、図12に示す。CD64、CD16および上記の4個の増幅モジュール(配列番号7~10)に由来する領域を伴う融合体/キメラレセプター全体のDNA配列およびアミノ酸配列を、それぞれ、図13(ドメイン融合体)および図14(エキソンベースの融合体)に示す。ヒトCD16の「高親和性」変異体(V158)を、コントロールとして使用した。【0075】次いで、上記キメラレセプターを、代理マーカーあり(例えば、図5に示されるpSMPUW-IRES-GFP)もしくは代理マーカーなし(例えば、図6に示されるpSMPUW-puro)のいずれかで、市販のレンチウイルスベクターへとクローニングした。・・・【0077】(2)細胞発現【0078】レンチウイルスベクター(pSMPUW)を、293T細胞もしくはExpi293細胞においてトランスフェクトして、フローサイトメトリーによって上記のキメラレセプターの発現を試験した。・・・【0080】ドメイン融合ストラテジーを使用して作製した上記CD64-CD16キメラレセプターは、上記エキソンベースの融合を使用して作製したものより遙かに弱い発現(データは示さず)を示した。」
カ 図
「【図14】64-16E-M4G DNA(略)64-16E-M4Gタンパク質(588a.a.)MWFLTTLLLWVPVDGQVDTTKAVITLQPPWVSVFQEETVTLHCEVLHLPGSSSTQWFLNGTATQTSTPSYRITSASVNDSGEYRCQRGLSGRSDPIQLEIHRGWLLLQVSSRVFTEGEPLALRCHAWKDKLVYNVLYYRNGKAFKFFHWNSNLTILKTNISHNGTYHCSGMGKHRYTSAGISVTVKELFPAPVLNASVTSPLLEGNLVTLSCETKLLLQRPGLQLYFSFYMGSKTLRGRNTSSEYQILTARREDSGLYWCEAATEDGNVLKRSPELELQVLGLAVSTISSFFPPGYQVSFCLVMVLLFAVDTGLYFSVKTNIRSSTRDWKDHKFKWRKDPQDKGSRSKRSRGGHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRSGSRRDQRLPPDAHKPPGGGSFRTPIQEEQADAHSTLAKIGSRFSVKRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCELGSRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPQRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR」
(2)引用文献2
当審の拒絶理由で引用した国際公開第2015/148926号(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。引用文献2は英文であるので、対応する特表2017-511135号公報の対応箇所の記載を翻訳文として示す。
「【0022】初代NK細胞によってCD16aシェディングに対するS197P突然変異の効果を確立するために、我々は、ヒトiPSCsを使用して、遺伝子操作したNK細胞を作出した。我々は以前に、iPSCsからの機能的NK細胞の誘導、及び末梢血NK細胞とそれらの類似性について報告した(Knorr et al., 2013 Stem Cells Transl Med. 2:274-283; Ni et al, 2014, Stem Cells 32: 1021-1031)。iPSC細胞における遺伝子挿入と安定発現のためにCD16a及びCD16a/S197P cDNAをSleeping Beautyトランスポゾンプラスミド内にクローニングし、続いて、それを成熟NK細胞に分化させた。【0023】モック形質導入iPSC細胞から得られたNK細胞は、低レベルの内因性CD16aを発現する一方で、形質導入したCD16a及びCD16a/S197Pはより高いレベルで発現された(図4F)。NK細胞の活性化は、BY55/CD160を含めたK562細胞とそれらの相互作用によって様々な受容体を通して起こり、ADAM17活性化及びCD16aシェディングをもたらした。我々は、K562細胞でiPSC誘導NK細胞を刺激して、CD16aが細胞表面発現の顕著な下方調整を受けた一方で、CD16a/S197Pの発現は安定した状態を保ったことを見出した(図4F)。」(引用文献2の8頁27行目~9頁8行目)
(3)引用文献3
当審の拒絶理由で引用した国際公開第2016/123333号(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。引用文献3は英文であるので、対応する特表2018-505174号公報の対応箇所の記載を翻訳文として示す。
「【0025】いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるNK特異的キメラ抗原受容体をiPSCで発現させることができ、次に、これをNK細胞に分化させることができる。iPSCは、Knorrら、2013、Stem Cells Transl Med.2(4):274-283、又はNiら、2014、Stem Cells 32(4):1021-1031に記載されるように分化され得る。図11は、CD45+CD56+細胞の産生により示されるように、誘導された多能性幹細胞(iPSC)による例示的なNK CARの発現を示す(上段、第5パネル)。図12は、iPSC由来NK細胞によるCAR表面発現を示す。図12の下3行は、CARを発現していないPB-NK細胞及びiPSC-NK細胞(未修飾対照細胞、第4欄、4行目及び5行目)と比較して、iPSC-CAR4v2(第4欄、下3行)の表面にのみCAR発現を示す。図11及び図12の他のパネルは、iPSC-CAR4v2上の他の典型的なNK細胞表面抗原/受容体が未修飾の対照細胞上に見られるものと類似していることを示す。これらの結果は、iPSC由来のNK細胞が、図9及び図10のメソテリン標的化CAR発現NK細胞と同じ標的特異的細胞殺傷性を示し得ることを指示する。【0026】NK CAR構築物をコードするポリヌクレオチドは、従来のトランスフェクション法を用いてNK細胞又はiPSCに導入することができる。したがって、CARをコードするポリヌクレオチドがSleeping Beautyトランスポゾンシステムを用いて細胞にトランスフェクトされる例示的な実施形態の文脈において本明細書に開示されているが、NK細胞(及び/又はiPSC)は、任意の適切なトランスフェクション方法を用いて修飾され得る。」(引用文献3の7頁23行目~8頁4行目)
2 引用発明の認定
上記1(1)ア~イ、エ~オ(特に、上記1(1)アの請求項1、11、20)から、引用文献1には、「ヒトCD16の抗体Fc結合親和性よりも高い抗体Fc結合親和性を有するエクトドメイン、膜貫通ドメイン、ならびにADCC活性化および増幅を媒介するためのエンドドメインを含む膜貫通キメラレセプターをコードする遺伝子構築物であって、配列番号9のDNA配列を含む遺伝子構築物でトランスフェクトされた細胞。」が記載されている。
ここで、上記1(1)ウには、引用文献1の図14に、上記配列番号9のDNA配列、及び、配列番号9のDNAがコードする配列番号10のタンパク質のアミノ酸配列が掲載されていることが記載され、上記1(1)オの【0074】には、「図14(エキソンベースの融合体)」について、「CD64、CD16および上記の4個の増幅モジュール(配列番号7~10)に由来する領域を伴う融合体/キメラレセプター全体のDNA配列およびアミノ酸配列」が示されていること、及び、「ヒトCD64のエクトドメインを、ヒトCD16の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインへといったん融合した後、それらをさらに、種々のヒトタンパク質において見出される種々の増幅モジュール(具体的には、CD28(a.a.162~202)、CD134(a.a. 213~249)、CD137(a.a. 187~232)およびCD3ζ(a.a. 31~142)(全てのアミノ酸位置は、成熟タンパク質配列に基づく))に融合した」ものであることが記載されている。
そうすると、上記配列番号9のDNAがコードする配列番号10のタンパク質は、「ヒトCD64のエクトドメイン」に「ヒトCD16の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメイン」と「CD28」、「CD134」、「CD137」および「CD3ζ」の「4個の増幅モジュールに由来する領域」が融合された「融合体/キメラレセプター(エキソンベースの融合体)」であると認められる。
以上から、引用文献1には、
「ヒトCD16の抗体Fc結合親和性よりも高い抗体Fc結合親和性を有するエクトドメイン、膜貫通ドメイン、ならびにADCC活性化および増幅を媒介するためのエンドドメインを含む膜貫通キメラレセプターであって、ヒトCD64のエクトドメインに、ヒトCD16の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインと、CD28、CD134、CD137およびCD3ζの4個の増幅モジュールに由来する領域が融合された、エキソンベースの融合体/キメラレセプター、をコードするDNAを含む遺伝子構築物でトランスフェクトされた細胞。」(以下「引用発明」という。)が記載されている。
第5 容易想到性
1 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1) IgG Fcキメラ受容体
引用発明の「ヒトCD16の抗体Fc結合親和性よりも高い抗体Fc結合親和性を有するエクトドメイン」及び「ヒトCD64のエクトドメイン」は、本願発明の「IgG Fc領域に結合するのに十分なCD64の部分を含む細胞外ドメイン」に相当する。
引用発明の「膜貫通ドメイン」及び「ヒトCD16の膜貫通ドメイン」は、本願発明の「膜貫通ドメイン」に相当する。
引用発明のエンドドメインについて、引用文献1には「CD16aと類似のITAMドメインを共有する、CD3ζのような他のモジュールもまた、ADCCシグナル伝達に寄与するように含まれ得る。」(上記1(1)エの【0049】)と記載されているから、引用発明の「ADCC活性化および増幅を媒介するためのエンドドメイン」及び「ヒトCD16の」「細胞内ドメイン」に「融合された」「CD28、CD134、CD137およびCD3ζの4個の増幅モジュールに由来する領域」は、本願発明の「IgG Fc領域が前記細胞外ドメインに結合したときに細胞シグナル伝達を開始するのに十分なFc受容体の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)の部分を含」み、かつ「細胞内シグナル伝達に関与するCD16Aの細胞内領域の少なくとも一部を含」む「細胞内ドメイン」に相当する。
以上により、引用発明の「ヒトCD16の抗体Fc結合親和性よりも高い抗体Fc結合親和性を有するエクトドメイン、膜貫通ドメイン、ならびにADCC活性化および増幅を媒介するためのエンドドメインを含む膜貫通キメラレセプターであって、ヒトCD64のエクトドメインに、ヒトCD16の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインと、CD28、CD134、CD137およびCD3ζの4個の増幅モジュールに由来する領域が融合された、エキソンベースの融合体/キメラレセプター」は、本願発明の「IgG Fc領域に結合するのに十分なCD64の部分を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、およびIgG Fc領域が前記細胞外ドメインに結合したときに細胞シグナル伝達を開始するのに十分なFc受容体の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)の部分を含む、細胞内ドメインを含」む「IgG Fcキメラ受容体」に相当する。
(2) IgG Fcキメラ受容体をコードするポリヌクレオチドを含む、組換え細胞
上記(1)で判断したとおり、本願発明の「IgG Fcキメラ受容体」と引用発明の「エキソンベースの融合体/キメラレセプター」とは相違がないから、引用発明の「DNA」は、本願発明の「IgG Fcキメラ受容体をコードするポリヌクレオチド」に相当するものである。
そうすると、引用発明の「DNAを含む遺伝子構築物でトランスフェクトされた細胞」は、本願発明の「IgG Fcキメラ受容体をコードするポリヌクレオチドを含む、組換え細胞」に相当する。
(3)一致点及び相違点
以上のことから、本願発明と引用発明とは、
「IgG Fcキメラ受容体をコードするポリヌクレオチドを含む、組換え細胞であって、前記IgG Fcキメラ受容体は、IgG Fc領域に結合するのに十分なCD64の部分を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、およびIgG Fc領域が前記細胞外ドメインに結合したときに細胞シグナル伝達を開始するのに十分なFc受容体の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)の部分を含む、細胞内ドメインを含み、前記細胞内ドメインは、細胞内シグナル伝達に関与するCD16Aの細胞内領域の少なくとも一部を含む、組換え細胞。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本願発明の組換え細胞は「ナチュラルキラー(NK)細胞に分化可能な人工多能性幹細胞(iPSC)である」のに対して、引用発明は、そのような細胞の特定がない点。」(以下「相違点」)という。
2 相違点についての判断
引用発明の「キメラレセプター」は、「ヒトCD16の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメイン」を含むものであるところ、CD16はNK細胞を活性化する天然の抗体レセプターであるし(上記1(1)エ【0049】)、引用文献1には、遺伝子構築物でトランスフェクトされる細胞としてナチュラルキラー細胞(NK細胞)も記載されているので(上記1(1)ア、イ)、引用発明の「キメラレセプター」は、NK細胞で発現させることを予定しているといえる。
ここで、引用文献2には、iPSCs(iPSC細胞)にCD16aやその変異体のcDNAを遺伝子挿入した後、分化させて、CD16aやその変異体を高いレベルで発現するNK細胞を作出したこと(上記1(2))が記載され、引用文献3には、NK CAR構築物をコードするポリヌクレオチドを多能性幹細胞(iPSC)に導入して、iPSCにNK CARを発現させ、それを分化させてNK CARを発現するiPSC由来NK細胞を作出したこと(上記1(3))、が記載されているとおり、所望のタンパク質をコードする遺伝子構築物をiPSCに導入した後、NK細胞に分化させることにより、当該所望のタンパク質を発現するiPSC由来NK細胞を作出することは、本願優先日前に一般的であったと認められる。
そうすると、このような引用文献2及び3の記載事項に接した当業者は、引用発明のキメラレセプターをコードする遺伝子構築物をNK細胞に導入することに代えて、引用文献2及び3に記載されているようにiPSCに導入し、得られたiPSCをNK細胞に分化させることにより、引用発明のキメラレセプターを発現するiPSC由来NK細胞を作出することを容易に想起するといえるから、本願発明の「前記ポリヌクレオチドを含むナチュラルキラー(NK)細胞に分化可能な人工多能性幹細胞(iPSC)である、組換え細胞」は、引用文献1~3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 審判請求人の主張
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審判請求人は、令和5年10月5日提出の意見書において、Themeli-1~Themeli-3なる文献の記載を引用し、「上記の引用は、NK細胞よりもむしろT細胞の分化に関連するものですが、それにもかかわらず、それらはiPSC分化を指向する際に認識される課題、および分化前よりもむしろ分化後に細胞を修飾する一般的な方向性を示しています。したがって、たとえ当業者がNK細胞の誘導のためにiPSCを使用したとしても(これは、実際には、引用文献1において開示も示唆もされていない)、当業者は、このアプローチの認識された予測不可能性のために、分化の前にiPSCを改変することを容易に想到することはありませんでした。」と主張する。
しかし、審判請求人が挙げる上記文献の記載は、いずれもT細胞の分化に関連するものであり、NK細胞へ分化させることを前提とする本願発明との関連は密接でないし、具体的な記載内容を検討しても、引用文献1~3の開示に基づいて分化の前にiPSCを改変することを妨げるほどの事情があるとは解せない。
審判請求人は、上記意見において、NK-92-CD64/16A細胞の図15Dに示される結果とiNK-CD64/16A細胞について図17に示される結果との対比から、iPSCに由来するNK細胞が、治療用mAbの存在下でより大きな細胞傷害活性増加を示すという、特定の有利な活性を示す旨も主張するが、本願発明は人工多能性幹細胞(iPSC)であり、当該細胞は、それを分化して得られるiNK細胞ではないから、審判請求人主張する上記の活性を本願発明が奏する効果として参酌する理由はない。
また、仮に、審判請求人主張する上記の活性について検討しても、当該活性は、iNK細胞のソースとして用いるiPSCが有していた性質や、iPSCからiNK細胞への分化条件等に依存して種々に変わり得るものであるから、これを本願発明の全体が奏する効果として参酌することはできない。
以上から、審判請求人の主張はいずれも採用することができない。
4 小括
本願発明は、引用文献1~3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1~3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-003553