特許拒絶査定不服審判
2022-005713
疾患を処置するための遺伝子改変された細胞、組織および臓器
- 審判番号
- 2022-005713
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-097515
- 請求日
- 2022年04月15日
- 審決日
- 2024年07月02日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
- 【請求人代理人】大塩 竹志
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 啓子
- 審判官 上條 肇
- 審判官 荒木 英則
- 分類
- P18 .121-WZ (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第44条第1項、特許法第44条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021- 97515「疾患を処置するための遺伝子改変された細胞、組織および臓器」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月 2日出願公開、特開2021-126129〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成27年12月10日(パリ条約による優先権主張 2014年12月10日 (US)アメリカ合衆国、2015年11月10日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2017-530596号(以下、「第1世代出願」という。)の一部を、新たな特許出願として令和 2年 2月19日に出願された特願2020-026602号(以下、「第2世代出願」という。)の一部をさらに新たな特許出願として令和3年6月10日に出願された第3世代出願である。
そして、令和3年12月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し令和4年4月15日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がなされ、令和4年10月27日付けで上申書が提出され、令和5年6月21日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月22日付けで意見書及び手続補正書が提出された。
第2 本願発明
本願の請求項1~5に係る発明は、令和5年12月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
遺伝子改変されたヒト誘導多能性幹細胞であって、
NOD様受容体ファミリーCARDドメイン含有5(NLRC5)をコードする遺伝子に破壊を含み、
前記NLRC5をコードする遺伝子での前記破壊は、前記遺伝子中の標的配列でのCasヌクレアーゼ媒介性二本鎖切断であり、
前記標的配列は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列から20ヌクレオチド以内に位置するものであり、
ヒトT細胞の集団を、前記遺伝子改変されたヒト誘導多能性幹細胞もしくはその分化した子孫と接触させることにより、前記遺伝子改変されたヒト誘導多能性幹細胞と接触されない同等のヒトT細胞の集団と比べて、低減したヒトT細胞の増殖をもたらす、遺伝子改変されたヒト誘導多能性幹細胞。」
第3 当審拒絶理由の理由2の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特表2018-500897号公報
第4 当審の判断
1 第2世代出願の分割要件について
上記第1のとおり、本願は第3世代出願であるところ、その分割要件について判断する前提として、まず、第2世代出願の分割要件について検討する。
(1) 第1世代出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載
第1世代出願の出願当初の特許請求の範囲の記載、明細書及び図面の記載は、以下のとおりである。
(第1ア)
「【0124】
非ヒト動物は、1つまたは複数のポリヌクレオチド挿入物を含む1つまたは複数の導入遺伝子を含み得る。これらのポリヌクレオチド挿入物は、1つもしくは複数のタンパク質またはそれらの機能的断片をコードし得る。一部の場合には、非ヒト動物は、MHC分子(例えば、MHCI分子および/またはMHCII分子)の発現および/または機能を低減させ得るタンパク質をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチド挿入物を含む1つまたは複数の導入遺伝子を含み得る。1つまたは複数の導入遺伝子は、MHCI形成サプレッサー、補体活性化のレギュレーター、NK細胞に対する阻害性リガンド、B7ファミリーメンバー、CD47、セリンプロテアーゼ阻害剤、ガレクチン、および/またはそれらの任意の断片をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチド挿入物を含み得る。一部の場合には、MHCI形成サプレッサーは、感染細胞タンパク質47(ICP47)であり得る。一部の場合には、補体活性化のレギュレーターは、表面抗原分類46(CD46)、表面抗原分類55(CD55)および表面抗原分類59(CD59)を含み得る。一部の場合には、NK細胞に対する阻害性リガンドは、白血球抗原E(HLA-E)、ヒト白血球抗原G(HLA-G)およびβ-2-ミクログロブリン(B2M)を含み得る。NK細胞に対する阻害性リガンドは、HLA-Gのアイソフォーム、例えば、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3、HLA-G4、HLA-G5、HLA-G6またはHLA-G7であり得る。例えば、NK細胞に対する阻害性リガンドは、HLA-G1であり得る。HLA-G(例えば、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3、HLA-G4、HLA-G5、HLA-G6またはHLA-G7)の導入遺伝子は、HLA-G(例えば、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3、HLA-G4、HLA-G5、HLA-G6またはHLA-G7)をコードするヌクレオチド配列を含む導入遺伝子を指し得る。本明細書で使用する場合、一部の場合には、HLA-G(例えば、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3、HLA-G4、HLA-G5、HLA-G6またはHLA-G7)をコードする導入遺伝子は、HLA-G(例えば、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3、HLA-G4、HLA-G5、HLA-G6またはHLA-G7)のアミノ酸配列の100%または約100%をコードする導入遺伝子であり得る。他の場合には、HLA-G(例えば、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3、HLA-G4、HLA-G5、HLA-G6またはHLA-G7)をコードする導入遺伝子は、HLA-G(例えば、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3、HLA-G4、HLA-G5、HLA-G6またはHLA-G7)の完全または部分的配列をコードする導入遺伝子であり得る。例えば、導入遺伝子は、HLA-G(例えば、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3、HLA-G4、HLA-G5、HLA-G6またはHLA-G7)のアミノ酸配列の少なくともまたは少なくとも約99%、95%、90%、80%、70%、60%または50%をコードし得る。例えば、導入遺伝子は、HLA-Gアミノ酸配列の90%をコードし得る。導入遺伝子は、機能的な(例えば、部分的にまたは完全に機能的な)HLA-G(例えば、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3、HLA-G4、HLA-G5、HLA-G6またはHLA-G7)をコードするポリヌクレオチドを含み得る。一部の場合には、1つまたは複数の導入遺伝子は、ICP47、CD46、CD55、CD59、HLA-E、HLA-G(例えば、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3、HLA-G4、HLA-G5、HLA-G6またはHLA-G7)およびB2Mのうちの1つまたは複数をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチド挿入物を含み得る。HLA-GゲノムDNA配列は、8つのエクソンを有し得、選択的スプライシングが7つのアイソフォームを生じる。HLA-G1アイソフォームは、エクソン7を排除し得る。HLA-G2アイソフォームは、エクソン3および7を排除し得る。イントロン2またはイントロン4の翻訳は、膜貫通ドメイン発現の喪失に起因して、分泌型アイソフォームを生じ得る。HLA-Gのゲノム配列およびcDNAのマップは、図14A~14Bに示される。一部の場合には、B7ファミリーメンバーは、CD80、CD86、プログラム死-リガンド1(PD-L1)、プログラム死-リガンド2(PD-L2)、CD275、CD276、V-setドメイン含有T細胞活性化阻害剤1(VTCN1)、血小板受容体Gi24、ナチュラル細胞傷害性誘発受容体3リガンド1(NR3L1)およびHERV-H LTR関連2(HHLA2)を含み得る。例えば、B7ファミリーメンバーは、PD-L1またはPD-L2であり得る。一部の場合には、セリンプロテアーゼ阻害剤は、セリンプロテアーゼ阻害剤9(Spi9)であり得る。一部の場合には、ガレクチンは、ガレクチン-1、ガレクチン-2、ガレクチン-3、ガレクチン-4、ガレクチン-5、ガレクチン-6、ガレクチン-7、ガレクチン-8、ガレクチン-9、ガレクチン-10、ガレクチン-11、ガレクチン-12、ガレクチン-13、ガレクチン-14およびガレクチン-15を含み得る。例えば、ガレクチンは、ガレクチン-9であり得る。」
(第1イ)
「【0146】
集団の非ヒト動物は、同一の遺伝子型を有し得る。例えば、集団中の非ヒト動物の染色体中の全ての核酸配列は、同一であり得る。同一の遺伝子型を有する集団の非ヒト動物は、同じ導入遺伝子を含み得る。同一の遺伝子型を有する集団の非ヒト動物はまた、その発現が低減される同じ遺伝子を含み得る。同一の遺伝子型を有する集団の非ヒト動物はまた、その発現が低減される同じ遺伝子を含み得、同じ導入遺伝子を含み得る。非ヒト動物の集団は、少なくともまたは少なくとも約2、5、50、100または200の、同一の遺伝子型を有する非ヒト動物を含み得る。集団の非ヒト動物は、同一の遺伝子型を有するブタであり得る。」
(第1ウ)
「【0188】
寛容化ワクチンは、以下の型の細胞:i)GGTA1単独、またはGGTA1およびCMAH、またはGGTA1、CMAHおよびB4GALNT2の低減された発現を有する遺伝子型的に同一な細胞を含むアポトーシス性細胞のうちの1つまたは複数を含み得る。これは、アポトーシス性細胞ワクチンドナー動物と遺伝子型的に同一な動物由来の、またはさらなる遺伝子改変(例えば、NLRC5、TAP1、MICA、MICB、CXCL10、C3、CIITA遺伝子の抑制、またはICP47、CD46、CD55、HLA-E、HLA-G(例えば、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3、HLA-G4、HLA-G5、HLA-G6またはHLA-G7)、B2M、CD59、もしくはそれらの任意の機能的断片の2もしくはそれ超のポリヌクレオチド挿入物を含む導入遺伝子の発現)を受けているが、アポトーシス性細胞ワクチンが由来するドナー動物と遺伝子型的に類似している動物由来の、臓器、組織、細胞および細胞株グラフト(例えば、異種グラフト)に対する細胞媒介性免疫および細胞依存的抗体媒介性免疫を最小化または排除し得る;ii)アポトーシス性細胞ワクチンドナー動物と遺伝子型的に同一な動物由来の、またはさらなる遺伝子改変(例えば、NLRC5、TAP1、MICA、MICB、CXCL10、C3、CIITA遺伝子の抑制、またはICP47、CD46、CD55、HLA-E、HLA-G(例えば、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3、HLA-G4、HLA-G5、HLA-G6またはHLA-G7)、B2M、CD59、もしくはそれらの任意の機能的断片の2もしくはそれ超のポリヌクレオチド挿入物を含む導入遺伝子の発現)を受けているが、アポトーシス性幹細胞由来の細胞ワクチンが由来するドナー動物と遺伝子型的に類似している動物由来の、臓器、組織、細胞および細胞株グラフト(例えば、異種グラフト)に対する細胞媒介性免疫および細胞依存的抗体媒介性免疫を最小化または排除するための、アポトーシス性幹細胞(例えば、胚性、多能性、胎盤、誘導多能性など)由来のドナー細胞(例えば、白血球、リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、赤血球、グラフト細胞または任意の他のドナー細胞);iii)遺伝子改変(例えば、NLRC5、TAP1、MICA、MICB、CXCL10、C3、CIITA遺伝子の抑制)を受けているが、アポトーシス性ヒト幹細胞由来のドナー細胞ワクチンと他の点では遺伝子型的に類似している同じ幹細胞株に由来するヒト幹細胞株またはグラフト(例えば、同種グラフト)と遺伝子型的に同一な臓器、組織、細胞および細胞グラフト(例えば、同種グラフト)に対する細胞媒介性免疫および細胞依存的抗体媒介性免疫を最小化または排除するための、アポトーシス性幹細胞(例えば、胚性、多能性、胎盤、誘導多能性など)由来のドナー細胞(白血球、リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、赤血球、グラフト細胞、例えば、機能的島ベータ細胞または任意の他のドナー細胞);iv)アポトーシス性ドナー細胞であって、細胞は、UV照射、ガンマ-照射、またはECDIの存在下でのインキュベーションが関与しない他の方法によってアポトーシス性にされる、アポトーシス性ドナー細胞。一部の場合には、寛容化ワクチン細胞は、それを必要とする対象に投与され得る、例えば、注入(一部の場合には反復して注入)され得る。寛容化ワクチンは、細胞由来の1つまたは複数の遺伝子を破壊する(例えば、発現を低減させる)ことによって産生され得る。例えば、本出願を通じて記載される遺伝子改変された細胞は、寛容化ワクチンを作製するために使用され得る。例えば、細胞は、糖タンパク質ガラクトシルトランスフェラーゼアルファ1,3(GGTA1)、推定シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸ヒドロキシラーゼ様タンパク質(CMAH)、B4GALNT2、および/またはそれらの任意の組合せを含む、破壊され得る(例えば、低減された発現)1つまたは複数の遺伝子を有し得る。例えば、細胞は、破壊されたGGTA1のみ、または破壊されたCMAHのみ、または破壊されたB4GALNT2のみを有し得る。細胞はまた、破壊されたGGTA1およびCMAH、破壊されたGGTA1およびB4GALNT2、または破壊されたCMAHおよびB4GALNT2を有し得る。細胞は、破壊されたGGTA1、CMAHおよびB4GALNT2を有し得る。一部の場合には、破壊された遺伝子は、GGTA1を含まない。細胞はまた、NLRC5を(内因的にまたは外因的に)発現し得、一方で、GGTA1および/またはCMAHは破壊される。細胞はまた、破壊されたC3を有し得る。」
(第1エ)
「【0497】
混合リンパ球反応(MLR)
同時培養は、平底の96ウェルプレートで行った。カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識したヒトPBMC(2.5μM/ml)を、応答物として、0.3~0.9×105細胞/ウェルで使用した。野生型またはブタ線維芽細胞を、0.1~0.3×105細胞/ウェル(野生型ブタまたはGGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔由来)を、刺激因子として、刺激因子-応答物の比が1:1、1:5および1:10として使用した。MLR同時培養を、全てのMLRアッセイで4日間行った。別の並行実験では、全てのPBMC細胞を、陽性対照としてフィトヘマグルチニン(PHA)(2ug/ml)で刺激した。
【0498】
培養された細胞を洗浄して、抗CD3抗体、抗CD4抗体および抗CD8抗体で染色し、その後にホルムアルデヒド固定を続け、洗浄した。BD FACS Canto IIフローサイトメーターを使用して、未改変のブタ線維芽細胞と比較したGGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔由来の線維芽細胞に応答したCD8+およびCD4+T細胞の増殖能力を評価した。データを、FACS diva/Flow Joソフトウェア(Tri star、San Diego、CA、USA)を使用して解析し、パーセンテージCFSE dim/lowを、プレゲーティングしたCD8 T細胞およびCD4 T細胞で決定した。
【0499】
野生型およびGGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞に対するヒトCD8+細胞およびCD4+T細胞の増殖応答を、図33A~図33Bに示す。細胞を、増殖の評価の前にCD4+またはCD8+としてゲーティングした(図33A)。CD8 T細胞増殖は、野生型胎仔細胞と比較して、GGTA1/NLRC5ノックアウト線維芽細胞を有する胎仔細胞により処置刺激後に低下した。CD8+T細胞増殖におけるほぼ55%の低下が、ヒト応答物が、1:1の比でGGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞で処置された場合に観察された(図33B)。野生型胎仔細胞は、ヒトCD8+T細胞で17.2%の増殖を惹起したが、胎仔3(妊娠1)由来のGGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞は、7.6%の増殖しか誘導しなかった(図33B)。野生型胎仔細胞と比較して、1:5および1:10の比で、CD8+T細胞増殖応答に相違は観察されなかった(図33B)。野生型胎仔細胞と比較して、GGTA1/NLRC5ノックアウトに応答したCD4+T細胞増殖に変化は観察されなかった(図33B)。」
(第1オ)
「【図33A】
[図:0001416900000001.jpg]
(第1カ)
「【図33B-1】
[図:0001416900000002.jpg]
」
(第1キ)
「【図33B-2】
[図:0001416900000003.jpg]
」
(2)分割出願である第2世代出願の経緯
第2世代出願は、令和3年9月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し令和4年1月28日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がなされ、令和4年6月14日付けで上申書が提出され、令和5年6月21日付けで当審より拒絶理由が通知され、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、指定期間内に請求人からは何らの応答もなかった。
第2世代出願については、平成27年12月10日(パリ条約による優先権主張 2014年12月10日 (US)アメリカ合衆国、2015年11月10日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2017-530596号から、特許法第44条第1項の規定に基づいて適法になされた新たな特許出願とは認められず、本願についての出願日の遡及は認められない旨を含む、本件審判の請求は、成り立たないとした審決が請求人に令和6年1月22日送達され、当該審決は確定した。
(3)分割出願である第2世代出願の特許請求の範囲の記載
第2世代出願発明に係る特許請求の範囲の請求項1、14、17の記載は、令和4年1月28日付手続補正書の請求項1、14、17に記載された次のとおりのものであり、請求項1、14、17はそれぞれ第2世代出願の分割出願当初の請求項2、25、29に基づくものである。
「【請求項1】
NOD様受容体ファミリーCARDドメイン含有5(NLRC5)をコードする遺伝子における破壊、ガラクトシルトランスフェラーゼアルファ1,3(GGTA1)をコードする遺伝子における破壊を含む、遺伝子改変されたブタであって、ここで、前記NLRC5をコードする遺伝子における前記破壊が、前記遺伝子内の標的配列におけるヌクレアーゼ媒介性二本鎖切断であり、前記標的配列が、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列の20ヌクレオチド内に位置し、
前記遺伝子改変されたブタが主要組織適合遺伝子複合体(MHC)I分子を発現し、前記遺伝子改変されたブタが、遺伝子改変されていない対応するブタと比較して、前記MHC I分子の低減した発現を有し、
前記遺伝子改変されたブタ由来の細胞が、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)と共培養した場合に、前記遺伝子改変されていない対応するブタ由来の細胞と比較して、in vitroでの混合リンパ球反応アッセイによって測定される、サイトカインインターロイキン6(IL-6)のより低い産生、およびより低いCD8+T細胞免疫応答を誘導し、
前記遺伝子改変されたブタが、ヒト対象への移植のための細胞、臓器または組織の取得に使用するためのものである、
遺伝子改変されたブタ。
・・・・・
【請求項14】
遺伝子改変された細胞、組織または臓器を含む、状態の処置を必要とする対象において移植により状態を処置するための組成物であって、前記組成物は、前記対象に投与されて前記状態を処置することを特徴とし、前記対象は、寛容化ワクチンが投与されている、または寛容化ワクチンが続けて、もしくは同時に投与され、前記遺伝子改変された細胞、組織または臓器が、ブタ由来であり、NLRC5をコードする遺伝子における破壊と、ガラクトシルトランスフェラーゼアルファ1,3(GGTA1)をコードする遺伝子における破壊とを含む、組成物であって、ここで、前記NLRC5をコードする遺伝子における前記破壊が、前記遺伝子内の標的配列におけるヌクレアーゼ媒介性二本鎖切断であり、前記標的配列が、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列の20ヌクレオチド内に位置し、
前記遺伝子改変された細胞、組織または臓器がMHC I分子を発現し、前記遺伝子改変された細胞、組織または臓器が、遺伝子改変されていない対応する細胞、組織または臓器と比較して、前記MHC I分子の低減した発現を有し、前記遺伝子改変された細胞、組織または臓器が、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)と共培養した場合に、前記遺伝子改変されていない対応する細胞、組織または臓器と比較して、in vitroでの混合リンパ球反応アッセイによって測定される、サイトカインインターロイキン6(IL-6)のより低い産生、およびより低いCD8+T細胞免疫応答を誘導する、組成物。
・・・・・
【請求項17】
遺伝子改変されたブタを作製するための方法であって、
a)ブタ胎児線維芽細胞において、NLRC5をコードする遺伝子を、CRISPR/Casを使用して破壊するステップであって、前記NLRC5をコードする遺伝子における前記破壊が、前記遺伝子内の標的配列におけるヌクレアーゼ媒介性二本鎖切断であり、前記標的配列が、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列の20ヌクレオチド内に位置する、ステップ;
b)ガラクトシルトランスフェラーゼアルファ1,3(GGTA1)をコードする遺伝子を破壊するステップ;
c)前記ブタ胎児線維芽細胞の核をブタ除核卵子に移入して、胚を生成するステップ;ならびに
d)前記胚を代理ブタに移入して、前記胚を前記代理ブタにおいて前記遺伝子改変されたブタへと成長させるステップ
を含み、
前記遺伝子改変されたブタがMHC I分子を発現し、前記遺伝子改変されたブタが、遺伝子改変されていない対応するブタと比較して、前記MHC I分子の低減した発現を有し、前記遺伝子改変されたブタ由来の細胞が、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)と共培養した場合に、前記遺伝子改変されていない対応するブタ由来の細胞と比較して、in vitroでの混合リンパ球反応アッセイによって測定される、サイトカインインターロイキン6(IL-6)のより低い産生、およびより低いCD8+T細胞免疫応答を誘導し、
前記細胞が、ヒト対象への移植に使用するためのものである、方法。」
(4) 第2世代出願の分割要件についての判断
上記(2)で述べた確定した審決の拒絶理由で示された第2世代出願の出願日は以下のとおりである。
特許法44条2項本文の規定により、新たな特許出願(以下「分割出願」という。)がもとの特許出願(以下「原出願」という。)の時にしたものとみなされる(以下「出願日の遡及」等と表現することがある。)ためには、分割出願の明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項が、原出願の出願当初及び分割直前の明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内であることが必要である。
そこで、まず、分割出願である第2世代出願明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項が、第1世代出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「第1世代出願当初明細書」という。)に記載された事項の範囲内であるか否かについて検討する。
第2世代出願発明に係る請求項1は、「遺伝子改変された動物由来の細胞が、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)と共培養した場合に、前記遺伝子改変されていない対応する動物由来の細胞と比較して、in vitroでの混合リンパ球反応アッセイによって測定される、サイトカインインターロイキン6(IL-6)のより低い産生、およびより低いCD8+T細胞免疫応答を誘導」するものである。
第1世代出願当初明細書には、「CD8+T細胞増殖におけるほぼ55%の低下が、ヒト応答物が、1:1の比でGGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞で処置された場合に観察された(図33B)。野生型胎仔細胞は、ヒトCD8+T細胞で17.2%の増殖を惹起したが、胎仔3(妊娠1)由来のGGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞は、7.6%の増殖しか誘導しなかった(図33B)。」((第1エ)及び(第1カ))と記載されているから、「遺伝子改変された動物由来の細胞が、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)と共培養した場合に、前記遺伝子改変されていない対応する動物由来の細胞と比較して、in vitroでの混合リンパ球反応アッセイによって測定される、より低いCD8+T細胞免疫応答を誘導」することについては、第1世代出願当初明細書に記載されているといえる。
しかしながら、「遺伝子改変された動物由来の細胞が、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)と共培養した場合に、前記遺伝子改変されていない対応する動物由来の細胞と比較して、in vitroでの混合リンパ球反応アッセイによって測定される、サイトカインインターロイキン6(IL-6)のより低い産生を誘導」することについて、直接記載された箇所は第1世代出願当初明細書等には存在しない。
審判請求人は、第2世代出願審判請求書に「実験結果の説明」を記載し、「NLRC5の破壊を含む遺伝子改変されたブタを、本願の例えば実施例1、2、5および25に開示される方法に従って作製しました。NLRC5の破壊を含む細胞を、NLRC5の破壊を含む遺伝子改変されたブタ胎仔および/またはブタから得て、これを、100:1、50:1、10:1または1:1の希釈で、ヒト免疫細胞(PBMC)と共培養して、NLRC5の破壊がIL-6産生に及ぼす影響を評価しました。以下の図に見られるように、請求項に記載のように、NLRC5の破壊を含むブタ(すなわち、ローラシア獣上目の動物)由来の細胞においてIL-6分泌が抑制されました。下図におけるNLRC5ノックアウト(KO)遺伝子改変(GM)細胞#1および#2は、別の遺伝子改変されたブタ胎仔および/またはブタ(すなわち、ローラシア獣上目のメンバー)から得られます。」
「
[図:0001416900000004.jpg]
」
と述べ、「また、明細書0487~0492段落は、遺伝子改変された細胞を含む遺伝子改変されたブタの作製を記載しており、明細書0496~0499段落は、GGTA1/NLRC5ノックアウトの影響と、IL-6のより低い産生をもたらす、PBMCとの遺伝子改変された細胞の共培養について記載しています(上掲した、「実験結果の説明」において詳しく説明されています)。「実験結果の説明」は、ブタにおいてNLRC5をコードする遺伝子を破壊すると、IL-6分泌の減少が生じ、したがって、免疫応答の低下が生じることを示しています。」と主張した。
しかしながら、当該「実験結果の説明」は第1世代出願当初明細書に記載されていた内容ではなく、当該「実験結果の説明」によって、NLRC5の破壊を含むブタ由来の細胞においてIL-6分泌が抑制されたことが示されているとしても、そのことによって、第1世代出願当初明細書にNLRC5の破壊を含むブタ由来の細胞においてIL-6分泌が抑制されることが記載されていることにはならない。
また、GGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞や野生型胎仔細胞:ヒトPBMCが、1:1の比で処置された場合には、GGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞が、より低いCD8+T細胞免疫応答を誘導するといえるとしても、反対にGGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞や野生型胎仔細胞:ヒトPBMCが、1:5の比で処置された場合には、より低いCD8+T細胞免疫応答は誘導されないから、GGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞が、より低いCD8+T細胞免疫応答を誘導するかどうかは実験条件に左右されることが明らかである。
このようにGGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞が、より低いCD8+T細胞免疫応答を誘導するかどうかは実験条件に左右されるのであるから、GGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞や野生型胎仔細胞:ヒトPBMCが、1:1の比で処置された場合により低いCD8+T細胞免疫応答を誘導したこと等(記載事項(第1エ))を根拠として、NLRC5をコードする遺伝子を破壊すると、IL-6分泌の減少が生じることを導き出すことはできない。
請求項1を引用する請求項2~7、同じ発明特定事項を有する請求項14~17についても同様である。
したがって、第2世代出願の特許請求の範囲に記載された「遺伝子改変された動物由来の細胞が、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)と共培養した場合に、前記遺伝子改変されていない対応する動物由来の細胞と比較して、in vitroでの混合リンパ球反応アッセイによって測定される、サイトカインインターロイキン6(IL-6)のより低い産生、およびより低いCD8+T細胞免疫応答を誘導」することは、第1世代出願当初明細書等のすべての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであって、第2世代出願は、第1世代出願当初明細書等に記載された事項の範囲内のものではない。
よって、第2世代出願は、適法に分割出願されたものではなく、第2世代出願についての出願日の遡及は認められないから、第2世代出願の出願日は、現実に出願がなされた令和2年2月19日であると認められる。
2 本願の進歩性についての判断
(1) 本願の分割要件と出願日について
知財高判平29・9・26 平成28(行ケ)10236号は、「分割出願が適法であるための実体的要件としては、(1)もとの出願の明細書又は図面に二以上の発明が包含されていたこと、(2)新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書又は図面に記載された発明の一部であること、(3)新たな出願に係る発明は、もとの出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であることを要する。本件出願は、第1出願から数えて5世代目になる分割出願であるため、本件出願が第1出願の出願時にしたものとみなされるには、本件出願、第4出願、第3出願及び第2出願が、それぞれ、もとの出願との関係で、上記(1)ないし(3)の分割の要件を満たし、かつ、本件発明が第1出願の出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内のものであること、という要件を満たさなければならない。」と判示する。
本願は、第1世代出願から直接に分割出願されたものではなく、第2世代出願の一部を、新たな特許出願としてなされた第3世代出願であるから、上記判示どおり、本願が第1世代出願の出願時にしたものとみなされるには、第2世代出願が第1世代出願から分割の要件を満たすように分割出願されたものであることを要する。
しかしながら、第2世代出願が第1世代出願から分割の要件を満たすように分割出願されたものでないことは、上記1(4)で述べたとおりであって、第2世代出願から分割出願された第3世代出願である本願は、第1世代出願の出願時にしたものとみなされることはない。
したがって、本願の出願日は、第1世代出願の出願日ではなく、第2世代出願について現実に出願がなされた令和2年2月19日であると認められる。
(2)引用文献の記載
本願の出願日(第2世代出願の現実の出願日)前に頒布された、第1世代出願の公表公報である引用文献1には、以下のとおり記載されている。なお、下線は当審で付した。
(ア)
「【0177】
これらの同種反応性および自己反応性CD8+T細胞の活性化およびエフェクター機能を妨害するために、CRISP/Cas9遺伝子標的化を含む、遺伝子改変の確立された分子的方法が、幹細胞由来の、部分的にまたは完全に分化した細胞性グラフトにおいて、機能的MHCクラスIの細胞表面発現を防止することを目的として、ヒト幹細胞中のNLRC5、TAP1および/またはB2M遺伝子を変異させるために使用され得る。したがって、MHCクラスIの機能的発現を欠くヒト幹細胞由来の細胞性グラフトを移植することは、拒絶および自己免疫性再発を予防するために他に必要とされる免疫抑制の要求を最小化し得る。」
(イ)
「【0180】
インスリン産生性膵ベータ細胞の産生のための方法(Pagliucaら、2014年)は、潜在的に、非ヒト(例えば、ブタ)の初代の単離された多能性、胚性幹細胞または幹様細胞に適用され得る(Goncalvesら、2014年;HallらV. 2008年)。しかし、これらのインスリン産生性膵ベータ細胞のレシピエントは、グラフトの成功を脅かす活性な免疫応答を有する可能性が高い。抗体媒介性およびCD8+T細胞免疫攻撃を克服するために、ドナー動物は、本願を通して開示されるGGTA1、CMAH、B4GalNT2またはMHCクラスI関連遺伝子の発現を防止するために、初代非ヒト多能性、胚性幹細胞または幹様細胞の単離の前に遺伝子改変され得る。次いで、遺伝子改変された動物から単離された多能性、胚性幹細胞または幹様細胞は、数百万のインスリン産生性膵ベータ細胞へと分化され得る。
【0181】
一部の場合には、異種幹細胞由来の細胞移植片が望まれ得る。例えば、ヒト胚性幹細胞の使用は、レシピエントにとって倫理的に不愉快であり得る。したがって、ヒトレシピエントは、非ヒト供給源の胚性幹細胞に由来する細胞性グラフトを受けることをより心地よく感じ得る。
【0182】
非ヒト幹細胞には、ブタ幹細胞が含まれ得る。これらの幹細胞は、野生型ブタまたは遺伝子操作されたブタに由来し得る。野生型ブタに由来する場合、CRISP/Cas9遺伝子標的化を含む、遺伝子改変の確立された分子的方法を使用する遺伝子操作が、幹細胞段階で最良に実施され得る。遺伝子操作は、MHCクラスIの機能的発現を防止するために、NLRC5、TAP1および/またはB2M遺伝子の発現を破壊するために標的化され得る。グラフトにおいてNLRC5、TAP1およびB2Mなどの遺伝子を破壊することは、島ベータ細胞上を含むグラフト細胞上でのMHCクラスIの機能的発現の欠如を引き起こし、それによって、自己反応性CD8+T細胞の移植後活性化を妨害し得る。したがって、これは、自己反応性CD8+T細胞の細胞溶解性エフェクター機能から、移植片、例えば、移植された島ベータ細胞を保護できる。
【0183】
しかし、幹細胞の遺伝子操作は、分化の潜在力を変更し得るので、1つのアプローチは、NLRC5、TAP1および/またはB2M遺伝子の発現が破壊されたブタを含む、遺伝子操作されたブタ由来の幹細胞株を生成することであり得る。
【0184】
本願を通して開示される、GGTA1、CMAH、B4GalNT2遺伝子の発現もまた防止するために遺伝子改変された、または補体調節タンパク質CD46、CD55もしくはCD59をコードする導入遺伝子を発現するように改変されたブタからの幹細胞の生成は、インスリン産生性膵ベータ細胞または他の細胞性治療産物の治療的使用をさらに改善し得る。同様に、本明細書に記載されるのと同じストラテジーが、全体で記載される他の方法および組成物において使用され得る。」
(ウ)
「【0188】
寛容化ワクチンは、以下の型の細胞:i)GGTA1単独、またはGGTA1およびCMAH、またはGGTA1、CMAHおよびB4GALNT2の低減された発現を有する遺伝子型的に同一な細胞を含むアポトーシス性細胞のうちの1つまたは複数を含み得る。これは、アポトーシス性細胞ワクチンドナー動物と遺伝子型的に同一な動物由来の、またはさらなる遺伝子改変(例えば、NLRC5、TAP1、MICA、MICB、CXCL10、C3、CIITA遺伝子の抑制、またはICP47、CD46、CD55、HLA-E、HLA-G(例えば、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3、HLA-G4、HLA-G5、HLA-G6またはHLA-G7)、B2M、CD59、もしくはそれらの任意の機能的断片の2もしくはそれ超のポリヌクレオチド挿入物を含む導入遺伝子の発現)を受けているが、アポトーシス性細胞ワクチンが由来するドナー動物と遺伝子型的に類似している動物由来の、臓器、組織、細胞および細胞株グラフト(例えば、異種グラフト)に対する細胞媒介性免疫および細胞依存的抗体媒介性免疫を最小化または排除し得る;ii)アポトーシス性細胞ワクチンドナー動物と遺伝子型的に同一な動物由来の、またはさらなる遺伝子改変(例えば、NLRC5、TAP1、MICA、MICB、CXCL10、C3、CIITA遺伝子の抑制、またはICP47、CD46、CD55、HLA-E、HLA-G(例えば、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3、HLA-G4、HLA-G5、HLA-G6またはHLA-G7)、B2M、CD59、もしくはそれらの任意の機能的断片の2もしくはそれ超のポリヌクレオチド挿入物を含む導入遺伝子の発現)を受けているが、アポトーシス性幹細胞由来の細胞ワクチンが由来するドナー動物と遺伝子型的に類似している動物由来の、臓器、組織、細胞および細胞株グラフト(例えば、異種グラフト)に対する細胞媒介性免疫および細胞依存的抗体媒介性免疫を最小化または排除するための、アポトーシス性幹細胞(例えば、胚性、多能性、胎盤、誘導多能性など)由来のドナー細胞(例えば、白血球、リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、赤血球、グラフト細胞または任意の他のドナー細胞);iii)遺伝子改変(例えば、NLRC5、TAP1、MICA、MICB、CXCL10、C3、CIITA遺伝子の抑制)を受けているが、アポトーシス性ヒト幹細胞由来のドナー細胞ワクチンと他の点では遺伝子型的に類似している同じ幹細胞株に由来するヒト幹細胞株またはグラフト(例えば、同種グラフト)と遺伝子型的に同一な臓器、組織、細胞および細胞グラフト(例えば、同種グラフト)に対する細胞媒介性免疫および細胞依存的抗体媒介性免疫を最小化または排除するための、アポトーシス性幹細胞(例えば、胚性、多能性、胎盤、誘導多能性など)由来のドナー細胞(白血球、リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、赤血球、グラフト細胞、例えば、機能的島ベータ細胞または任意の他のドナー細胞);iv)アポトーシス性ドナー細胞であって、細胞は、UV照射、ガンマ-照射、またはECDIの存在下でのインキュベーションが関与しない他の方法によってアポトーシス性にされる、アポトーシス性ドナー細胞。一部の場合には、寛容化ワクチン細胞は、それを必要とする対象に投与され得る、例えば、注入(一部の場合には反復して注入)され得る。寛容化ワクチンは、細胞由来の1つまたは複数の遺伝子を破壊する(例えば、発現を低減させる)ことによって産生され得る。例えば、本出願を通じて記載される遺伝子改変された細胞は、寛容化ワクチンを作製するために使用され得る。例えば、細胞は、糖タンパク質ガラクトシルトランスフェラーゼアルファ1,3(GGTA1)、推定シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸ヒドロキシラーゼ様タンパク質(CMAH)、B4GALNT2、および/またはそれらの任意の組合せを含む、破壊され得る(例えば、低減された発現)1つまたは複数の遺伝子を有し得る。例えば、細胞は、破壊されたGGTA1のみ、または破壊されたCMAHのみ、または破壊されたB4GALNT2のみを有し得る。細胞はまた、破壊されたGGTA1およびCMAH、破壊されたGGTA1およびB4GALNT2、または破壊されたCMAHおよびB4GALNT2を有し得る。細胞は、破壊されたGGTA1、CMAHおよびB4GALNT2を有し得る。一部の場合には、破壊された遺伝子は、GGTA1を含まない。細胞はまた、NLRC5を(内因的にまたは外因的に)発現し得、一方で、GGTA1および/またはCMAHは破壊される。細胞はまた、破壊されたC3を有し得る。」
(エ)
「【0023】
別の一態様では、本明細書に記載される遺伝子改変された細胞および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が、本明細書で開示される。」
(オ)
「【0068】
【図33A】図33A~図33Bは、遺伝子クローン由来の野生型胎仔細胞と比較して、胎仔3(妊娠1)由来の細胞でのMHCクラスI発現の低下の影響を示す。ブタの対照の線維芽細胞およびNLRC5ノックアウト胎仔細胞に対するヒトCD8+細胞およびCD4 T細胞の増殖応答を測定した。図33A。細胞は、増殖の評価の前にCD4またはCD8としてゲーティングされた。図33B。CD8 T細胞増殖は、対照の未改変のブタ線維芽細胞と比較して、ブタ胎仔GGTA1/NLRC5ノックアウト細胞による処置刺激後に低下した。CD8 T細胞増殖におけるほとんど55%の低下が、ヒトの応答物がブタ胎仔GGTA1/NLRC5ノックアウト細胞で1:1の比で処置されたときに観察された。野生型胎仔細胞は、ヒトCD8 T細胞で17.2%の増殖を誘発したが、胎仔3(妊娠1)由来のMHCクラスI欠損細胞は、7.6%の増殖しか誘導しなかった。未改変の胎仔細胞と比較して1:5および1:10の比で、CD8 T細胞増殖応答に相違は見られなかった。研究した全ての比で、NLRC5ノックアウトおよび対照の未改変のブタ胎仔細胞に応答した、CD4 T細胞増殖の変化は観察されなかった。
【図33B-1】図33A~図33Bは、遺伝子クローン由来の野生型胎仔細胞と比較して、胎仔3(妊娠1)由来の細胞でのMHCクラスI発現の低下の影響を示す。ブタの対照の線維芽細胞およびNLRC5ノックアウト胎仔細胞に対するヒトCD8+細胞およびCD4 T細胞の増殖応答を測定した。図33A。細胞は、増殖の評価の前にCD4またはCD8としてゲーティングされた。図33B。CD8 T細胞増殖は、対照の未改変のブタ線維芽細胞と比較して、ブタ胎仔GGTA1/NLRC5ノックアウト細胞による処置刺激後に低下した。CD8 T細胞増殖におけるほとんど55%の低下が、ヒトの応答物がブタ胎仔GGTA1/NLRC5ノックアウト細胞で1:1の比で処置されたときに観察された。野生型胎仔細胞は、ヒトCD8 T細胞で17.2%の増殖を誘発したが、胎仔3(妊娠1)由来のMHCクラスI欠損細胞は、7.6%の増殖しか誘導しなかった。未改変の胎仔細胞と比較して1:5および1:10の比で、CD8 T細胞増殖応答に相違は見られなかった。研究した全ての比で、NLRC5ノックアウトおよび対照の未改変のブタ胎仔細胞に応答した、CD4 T細胞増殖の変化は観察されなかった。
【図33B-2】図33A~図33Bは、遺伝子クローン由来の野生型胎仔細胞と比較して、胎仔3(妊娠1)由来の細胞でのMHCクラスI発現の低下の影響を示す。ブタの対照の線維芽細胞およびNLRC5ノックアウト胎仔細胞に対するヒトCD8+細胞およびCD4 T細胞の増殖応答を測定した。図33A。細胞は、増殖の評価の前にCD4またはCD8としてゲーティングされた。図33B。CD8 T細胞増殖は、対照の未改変のブタ線維芽細胞と比較して、ブタ胎仔GGTA1/NLRC5ノックアウト細胞による処置刺激後に低下した。CD8 T細胞増殖におけるほとんど55%の低下が、ヒトの応答物がブタ胎仔GGTA1/NLRC5ノックアウト細胞で1:1の比で処置されたときに観察された。野生型胎仔細胞は、ヒトCD8 T細胞で17.2%の増殖を誘発したが、胎仔3(妊娠1)由来のMHCクラスI欠損細胞は、7.6%の増殖しか誘導しなかった。未改変の胎仔細胞と比較して1:5および1:10の比で、CD8 T細胞増殖応答に相違は見られなかった。研究した全ての比で、NLRC5ノックアウトおよび対照の未改変のブタ胎仔細胞に応答した、CD4 T細胞増殖の変化は観察されなかった。」
(カ)
「【0132】
対象に移植される場合、遺伝子改変された非ヒト動物由来の細胞、組織または臓器は、遺伝子改変されていない対応動物由来の細胞、組織または臓器と比較して、対象においてより低い免疫応答(例えば、移植拒絶)を誘発し得る。一部の場合には、免疫応答には、T細胞(例えば、CD8+T細胞および/またはCD4+T細胞)およびNK細胞の活性化、増殖および細胞傷害性が含まれ得る。したがって、本明細書で開示される遺伝子改変された細胞の表現型は、細胞をNK細胞、T細胞(例えば、CD8+T細胞またはCD4+T細胞)と共培養し、NK細胞またはT細胞の活性化、増殖および細胞傷害性を試験することによって測定され得る。一部の場合には、遺伝子改変された細胞によって誘導される、T細胞またはNK細胞の活性化、増殖および細胞傷害性は、遺伝子改変されていない細胞によって誘導されるものよりも低い可能性がある。一部の場合には、本明細書の遺伝子改変された細胞の表現型は、酵素免疫スポット(ELISPOT)アッセイによって測定され得る。」
(キ)
「【0499】
野生型およびGGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞に対するヒトCD8+細胞およびCD4+T細胞の増殖応答を、図33A~図33Bに示す。細胞を、増殖の評価の前にCD4+またはCD8+としてゲーティングした(図33A)。CD8 T細胞増殖は、野生型胎仔細胞と比較して、GGTA1/NLRC5ノックアウト線維芽細胞を有する胎仔細胞により処置刺激後に低下した。CD8+T細胞増殖におけるほぼ55%の低下が、ヒト応答物が、1:1の比でGGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞で処置された場合に観察された(図33B)。野生型胎仔細胞は、ヒトCD8+T細胞で17.2%の増殖を惹起したが、胎仔3(妊娠1)由来のGGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞は、7.6%の増殖しか誘導しなかった(図33B)。野生型胎仔細胞と比較して、1:5および1:10の比で、CD8+T細胞増殖応答に相違は観察されなかった(図33B)。野生型胎仔細胞と比較して、GGTA1/NLRC5ノックアウトに応答したCD4+T細胞増殖に変化は観察されなかった(図33B)。」
(3)引用発明の認定
引用文献1の記載事項(ア)、(イ)には、CRISP/Cas9遺伝子標的化を含む、遺伝子改変の確立された分子的方法が、幹細胞由来の、部分的にまたは完全に分化した細胞性グラフトにおいて、自己反応性CD8+T細胞の活性化およびエフェクター機能を妨害するために、機能的MHCクラスIの細胞表面発現を防止することを目的として、ヒト幹細胞中のNLRC5、TAP1および/またはB2M遺伝子を変異させるために使用され、MHCクラスIの機能的発現を欠くヒト幹細胞由来の細胞性グラフトを得ること、そのことにより拒絶および自己免疫性再発を予防するために他に必要とされる免疫抑制の要求を最小化し得ることが記載されている。
したがって、引用文献1には、「CRISP/Cas9遺伝子標的化を含む、遺伝子改変の確立された分子的方法を用い、NLRC5遺伝子を変異させたヒト幹細胞であって、自己反応性CD8+T細胞の活性化およびエフェクター機能を妨害するために、機能的MHCクラスIの細胞表面発現を防止することを目的として、部分的にまたは完全に分化させて細胞性グラフトに用いられ、拒絶および自己免疫性再発を予防するために他に必要とされる免疫抑制の要求を最小化し得るもの」(以下、「引用発明」という)が記載されている。
(4)対比
引用発明は、CRISP/Cas9遺伝子標的化を含む、遺伝子改変の確立された分子的方法を用いるから、NLRC5をコードする遺伝子における変異が、前記遺伝子内の標的配列におけるヌクレアーゼ媒介性二本鎖切断であり、前記標的配列が、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列の20ヌクレオチド内に位置するといえる。
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「NLRC5遺伝子を変異させたヒト幹細胞」は、本願発明の「遺伝子改変されたヒト誘導多能性幹細胞」において「遺伝子改変されたヒト幹細胞」である限り一致し、
以下同様に、
引用発明の「NLRC5遺伝子」は、本願発明の「NOD様受容体ファミリーCARDドメイン含有5(NLRC5)をコードする遺伝子」に相当し、引用発明の「CRISP/Cas9遺伝子標的化を含む、遺伝子改変の確立された分子的方法」は、本願発明の「遺伝子中の標的配列でのCasヌクレアーゼ媒介性二本鎖切断であり、前記標的配列は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列から20ヌクレオチド以内に位置するものであり」にそれぞれ相当する。
したがって、本願発明と引用発明の両者は、
「遺伝子改変されたヒト幹細胞であって、
NOD様受容体ファミリーCARDドメイン含有5(NLRC5)をコードする遺伝子に変異を含み、
前記NLRC5をコードする遺伝子での前記変異は、前記遺伝子中の標的配列でのCasヌクレアーゼ媒介性二本鎖切断であり、
前記標的配列は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列から20ヌクレオチド以内に位置するものである、
遺伝子改変されたヒト幹細胞。」である限りにおいて一致する。
そして本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
本願発明は、「ヒト幹細胞」が、「ヒト誘導多能性幹細胞」であるところ、
引用発明は、そのような特定をしていない点。
<相違点2>
本願発明は、「NLRC5をコードする遺伝子での変異」が「破壊」であるところ、
引用発明は、そのような特定をしていない点。
<相違点3>
本願発明は、「ヒトT細胞の集団を、前記遺伝子改変されたヒト誘導多能性幹細胞もしくはその分化した子孫と接触させることにより、前記遺伝子改変されたヒト誘導多能性幹細胞と接触されない同等のヒトT細胞の集団と比べて、低減したヒトT細胞の増殖をもたらす」ことが特定されているところ、
引用発明は、「自己反応性CD8+T細胞の活性化およびエフェクター機能を妨害するために、機能的MHCクラスIの細胞表面発現を防止することを目的として、部分的にまたは完全に分化させて細胞性グラフトに用いられ、拒絶および自己免疫性再発を予防するために他に必要とされる免疫抑制の要求を最小化し得るもの」である点。
(5)本願発明の相違点1についての判断
引用文献1には、「iii)遺伝子改変(例えば、NLRC5、TAP1、MICA、MICB、CXCL10、C3、CIITA遺伝子の抑制)を受けているが、アポトーシス性ヒト幹細胞由来のドナー細胞ワクチンと他の点では遺伝子型的に類似している同じ幹細胞株に由来するヒト幹細胞株またはグラフト(例えば、同種グラフト)と遺伝子型的に同一な臓器、組織、細胞および細胞グラフト(例えば、同種グラフト)に対する細胞媒介性免疫および細胞依存的抗体媒介性免疫を最小化または排除するための、アポトーシス性幹細胞(例えば、胚性、多能性、胎盤、誘導多能性など)由来のドナー細胞」(摘記事項(ウ)【0188】)が記載されている。
引用発明は、「部分的にまたは完全に分化させて細胞性グラフトに用いられ、拒絶および自己免疫性再発を予防するために他に必要とされる免疫抑制の要求を最小化し得るもの」であるから、細胞グラフト(例えば、同種グラフト)に対する細胞媒介性免疫および細胞依存的抗体媒介性免疫を最小化または排除するための、アポトーシス性幹細胞として挙げられている「誘導多能性」である「幹細胞」を選択することは当業者にとって当然に動機付けられるということができ、引用文献1の上記記載に接した当業者にとって、引用発明における「ヒト幹細胞」として、「ヒト誘導多能性幹細胞」を選択することに格別の困難性はないといえる。
(6)本願発明の相違点2についての判断
引用文献1には、遺伝子操作は、MHCクラスIの機能的発現を防止するために、NLRC5、TAP1および/またはB2M遺伝子の発現を破壊するために標的化され得ること、グラフトにおいてNLRC5、TAP1およびB2Mなどの遺伝子を破壊することは、島ベータ細胞上を含むグラフト細胞上でのMHCクラスIの機能的発現の欠如を引き起こし、それによって、自己反応性CD8+T細胞の移植後活性化を妨害し得ることも記載されているから(記載事項(イ)【0182】)、引用発明における「細胞性グラフトに用いられ、拒絶および自己免疫性再発を予防するために他に必要とされる免疫抑制の要求を最小化し得る」ために、NLRC5をコードする遺伝子における変異において、NLRC5をコードする遺伝子を破壊することも当業者が容易に想到しうることである。
(7)本願発明の相違点3についての判断
引用発明における、「自己反応性CD8+T細胞の活性化およびエフェクター機能を妨害するために、機能的MHCクラスIの細胞表面発現を防止することを目的として、部分的にまたは完全に分化させて細胞性グラフトに用いられ、拒絶および自己免疫性再発を予防するために他に必要とされる免疫抑制の要求を最小化し得る」ことについて、引用文献1には、具体的に、
「遺伝子操作は、MHCクラスIの機能的発現を防止するために、NLRC5、TAP1および/またはB2M遺伝子の発現を破壊するために標的化され得る。グラフトにおいてNLRC5、TAP1およびB2Mなどの遺伝子を破壊することは、島ベータ細胞上を含むグラフト細胞上でのMHCクラスIの機能的発現の欠如を引き起こし、それによって、自己反応性CD8+T細胞の移植後活性化を妨害し得る。したがって、これは、自己反応性CD8+T細胞の細胞溶解性エフェクター機能から、移植片、例えば、移植された島ベータ細胞を保護できる。」こと(記載事項(イ)【0182】)、
「CD8 T細胞増殖は、対照の未改変のブタ線維芽細胞と比較して、ブタ胎仔GGTA1/NLRC5ノックアウト細胞による処置刺激後に低下した。CD8 T細胞増殖におけるほとんど55%の低下が、ヒトの応答物がブタ胎仔GGTA1/NLRC5ノックアウト細胞で1:1の比で処置されたときに観察された。」こと(記載事項(オ)【0068】)、
「CD8 T細胞増殖は、対照の未改変のブタ線維芽細胞と比較して、ブタ胎仔GGTA1/NLRC5ノックアウト細胞による処置刺激後に低下した。CD8 T細胞増殖におけるほとんど55%の低下が、ヒトの応答物がブタ胎仔GGTA1/NLRC5ノックアウト細胞で1:1の比で処置されたときに観察された。野生型胎仔細胞は、ヒトCD8 T細胞で17.2%の増殖を誘発したが、胎仔3(妊娠1)由来のMHCクラスI欠損細胞は、7.6%の増殖しか誘導しなかった。」こと(記載事項(オ)【0068】)、
「CD8 T細胞増殖は、野生型胎仔細胞と比較して、GGTA1/NLRC5ノックアウト線維芽細胞を有する胎仔細胞により処置刺激後に低下した。CD8+T細胞増殖におけるほぼ55%の低下が、ヒト応答物が、1:1の比でGGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞で処置された場合に観察された(図33B)。野生型胎仔細胞は、ヒトCD8+T細胞で17.2%の増殖を惹起したが、胎仔3(妊娠1)由来のGGTA1/NLRC5ノックアウト胎仔細胞は、7.6%の増殖しか誘導しなかった(図33B)。」こと(記載事項(キ)【0499】)、
「本明細書で開示される遺伝子改変された細胞の表現型は、細胞をNK細胞、T細胞(例えば、CD8+T細胞またはCD4+T細胞)と共培養し、NK細胞またはT細胞の活性化、増殖および細胞傷害性を試験することによって測定され得る。一部の場合には、遺伝子改変された細胞によって誘導される、T細胞またはNK細胞の活性化、増殖および細胞傷害性は、遺伝子改変されていない細胞によって誘導されるものよりも低い可能性がある。」(記載事項(カ)【0132】)ことが記載されている。
したがって、「自己反応性CD8+T細胞の活性化およびエフェクター機能を妨害するために、機能的MHCクラスIの細胞表面発現を防止することを目的として、部分的にまたは完全に分化させて細胞性グラフトに用いられ、拒絶および自己免疫性再発を予防するために他に必要とされる免疫抑制の要求を最小化し得る」引用発明が、NLRC5ノックアウト細胞による処置刺激により、遺伝子改変されたヒト誘導多能性幹細胞と接触されない同等のヒトT細胞の集団と比べて、低減したヒトT細胞の増殖をもたらすことは、引用文献1の記載から十分に想起しうるといえるから、当該相違点3は実質的な相違点であるといえないか、そうでないとしても引用文献1の記載から当業者が容易に想到しうることでしかない。
(8)本願発明の効果についての判断
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の発明特定事項に直接対応する具体的な実験結果を伴う実施例の記載はない。
そして、本願発明が発明特定事項に記載されているとおり、「ヒトT細胞の集団を、前記遺伝子改変されたヒト誘導多能性幹細胞もしくはその分化した子孫と接触させることにより、前記遺伝子改変されたヒト誘導多能性幹細胞と接触されない同等のヒトT細胞の集団と比べて、低減したヒトT細胞の増殖をもたらす」ものであるとしても、引用文献1には、「「本明細書で開示される遺伝子改変された細胞の表現型は、細胞をNK細胞、T細胞(例えば、CD8+T細胞またはCD4+T細胞)と共培養し、NK細胞またはT細胞の活性化、増殖および細胞傷害性を試験することによって測定され得る。一部の場合には、遺伝子改変された細胞によって誘導される、T細胞またはNK細胞の活性化、増殖および細胞傷害性は、遺伝子改変されていない細胞によって誘導されるものよりも低い可能性がある。」(記載事項(カ)【0132】)ことが記載されている以上、それら記載から予見できない程度に顕著であるということもできない。
3 請求人の主張について
請求人が令和5年12月22日付け意見書においてする主張とそれに対する合議体の判断は、次のとおりである。
(1)請求人の主張
ア 本願発明は、分割出願の実体的要件を充足することについて
今般補正後の請求項1に係る本願発明は、原出願の当初明細書等に記載されたものであり、分割の実体的要件を充足するものであることが明らかである。
さらに、ここで議論の対象としないが、第2世代の出願も分割の実体的要件を充足するものとして遡及効が得られるものであることから、本件分割出願も、同様な遡及効を有するものと認められるべきであり、引用文献1は、本願発明の新規性及び進歩性を否定する引用文献として適格性を欠けるものであることが明らかである。
イ 引用文献2について
引用文献2には、本願発明に係る遺伝子改変されたヒト誘導多能性幹細胞等について一切教示も示唆もされておらず、ましてや、ヒトT細胞の増殖の特異的低減(本願明細書の記載及び例えば令和4年10月27日付で提出した前置報告書に対する上申書で主張した出願後のデータ等により実証されている)についても一切教示も示唆もされていない。
ウ 予測し得ない効果について
本願発明は、提示された引用文献に基づき、T細胞の増殖において予測し得ない効果を奏するものであり、当業者が、他のモデルもしくは異なる遺伝子編集メカニズムを用いたNLRC5の効果については、合理的な予測に基づき推定することができず、本願発明を構築することができない。
(2)請求人の主張に対する判断
ア 本願発明は、分割出願の実体的要件を充足することについて
2(1)で述べたとおり、知財高判平29・9・26 平成28(行ケ)10236号は、「分割出願が適法であるための実体的要件としては、(1)もとの出願の明細書又は図面に二以上の発明が包含されていたこと、(2)新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書又は図面に記載された発明の一部であること、(3)新たな出願に係る発明は、もとの出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であることを要する。本件出願は、第1出願から数えて5世代目になる分割出願であるため、本件出願が第1出願の出願時にしたものとみなされるには、本件出願、第4出願、第3出願及び第2出願が、それぞれ、もとの出願との関係で、上記(1)ないし(3)の分割の要件を満たし、かつ、本件発明が第1出願の出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内のものであること、という要件を満たさなければならない。」と判示する。
本願は、第1世代出願から直接に分割出願されたものではなく、第2世代出願の一部を、新たな特許出願としてなされた第3世代出願であるから、上記判示どおり、第3世代出願である本願が第1世代出願の出願時にしたものとみなされるには、第2世代出願が第1世代出願から分割の要件を満たすように分割出願されたものであることを要する。
しかしながら、第2世代出願が第1世代出願から分割の要件を満たすように分割出願されたものでないことは1(4)で述べたとおりであって、第2世代出願から分割出願された第3世代出願である本願は、上記判示に照らし、第1世代出願の出願時にしたものとみなされることはない。
請求人の主張は、補正後の請求項1に係る本願発明は、原出願の当初明細書等に記載されているというにとどまり、第2世代の出願も分割の実体的要件を充足するものとして遡及効が得られるものであることを前提とするものであると認められるが、第2世代出願が第1世代出願から分割の要件を満たすように分割出願されたものでなく、その前提に誤りがあることは上述のとおりである。
よって、請求人の主張アは採用することはできない。
イ 引用文献2について
令和5年6月21日付け当審拒絶理由通知における引用文献2は、サポート要件及び実施可能要件の判断のために提示されたものであり、進歩性の判断の基礎としていないから、引用文献2に本願発明に係る遺伝子改変されたヒト誘導多能性幹細胞等について一切教示も示唆もされていないとしても、そのことで、本願発明に係る遺伝子改変されたヒト誘導多能性幹細胞等が引用文献1から容易に想到しうるとする判断が覆るものでもない。
よって、請求人の主張イは採用することはできない。
ウ 予測し得ない効果について
請求人の効果に係る主張は、今般補正後の請求項1に係る本願発明は、分割の実体的要件を充足するものであること、引用文献1は、本願発明の新規性及び進歩性を否定する引用文献として適格性を欠けるものであることを前提としたものである。
しかしながら、当該前提が誤りであることは、アで述べたとおりであり、引用文献1は、本願発明の進歩性を否定する引用文献として適格なものである。請求人は、「本願発明は、提示された引用文献に基づき、T細胞の増殖において予測し得ない効果を奏する」と主張するが、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の発明特定事項に直接対応する具体的な実験結果を伴う実施例の記載はない以上、本願発明は、当業者が予見できない顕著な効果があると認めることはできない。
よって、請求人の主張ウは採用することはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-005713