特許拒絶査定不服審判
2023-020429
TGF-β受容体及び使用方法
- 審判番号
- 2023-020429
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-575501
- 請求日
- 2023年12月01日
- 審決日
- 2026年03月30日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】カイト ファーマ インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 啓子
- 審判官 竹内 祐樹
- 審判官 植原 克典
- 分類
- P18 .121-Z (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-575501「TGF-β受容体及び使用方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年12月24日国際公開、WO2020/257823、令和 4年 8月22日国内公表、特表2022-536975〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年6月19日(パリ条約による優先権主張 2019年6月21日 米国、2019年12月20日 米国)を国際出願日とする出願であって、手続の主な経緯は次のとおりである。
令和4年 1月27日 審査請求書の提出
令和5年 1月27日付け 拒絶理由通知書
同年 5月 8日 意見書、手続補正書の提出
同年 7月20日付け 拒絶査定
同年 12月 1日 審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和5年12月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年12月1日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
令和5年12月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、拒絶査定不服審判の請求と同時になされたものであって、補正前の請求項1の
「TGF-β受容体からの細胞外ドメイン(ECD)及び膜貫通ドメイン(TMD)、並びに、配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む細胞内ドメイン(ICD)を含む組換えポリペプチドであって、TGF-β1に結合し、TGF-β受容体のドミナントネガティブ阻害剤として機能する、組換えポリペプチド。」
を補正後の請求項1の
「TGF-β受容体からの細胞外ドメイン(ECD)、及び膜貫通ドメイン(TMD)、並びに、配列番号6のアミノ酸配列のみからなる細胞内ドメイン(ICD)を含む組換えポリペプチドであって、TGF-β1に結合し、TGF-β受容体のドミナントネガティブ阻害剤として機能する、組換えポリペプチド。」
へと補正するものである(下線は補正箇所を示す。)。
2 補正の適否
本件補正は、「細胞内ドメイン(ICD)」を限定するものであり、また、補正前後の請求項1に記載された発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題を同一とするから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載される発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。
(1) 本件補正発明
本件補正発明は、上記1に「補正後」として記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献1(Molecular Therapy,2018,Vol.26,No.7,pp.1855-1866(原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2))には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した、原文は英文のため訳文で示す。)。
(ア) 「T細胞におけるTGF-βシグナル伝達を阻害すると、前立腺癌モデルにおいて、T細胞の浸潤、増殖、抗腫瘍反応の媒介能力が増強される。我々は、前立腺特異膜抗原(PSMA)を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)T細胞の効力が、ドミナントネガティブTGF-βRII(dnTGF-βRII)の共発現によって増強されるかどうかを検証した。CAR T細胞でドミナントネガティブTGF-βRIIを発現させたところ、これらのリンパ球の増殖亢進、サイトカイン分泌の増強、疲弊に対する抵抗性、長期の生体内持続性、そして悪性度の高いヒト前立腺癌マウスモデルにおける腫瘍根絶の誘導が認められた。これらの観察に基づき、再発性および難治性転移性前立腺癌患者に対する新たな治療法として、これらのCAR T細胞を評価する第I相臨床試験を開始した。」(第1855頁左欄第9行~第22行)
(イ) 「1990年代の研究では、下流のシグナル伝達に必要な細胞内ドメインを欠いたドミナントネガティブTGF-βRII(dnTGF-βRII)を使用することでTGF-βシグナル伝達を阻害できることが実証された。」(第1855頁右欄第15行~第18行)
(ウ) 「材料と方法
ベクター設計
mRNAは、RNEasy Plus Mini Kit(QIAGEN)を使用してヒト末梢血単核細胞(PBMC)から単離され、RETROscript cDNAキット(Ambion)を用いてcDNAを合成した。プライマーは、TGF-βRII転写バリアント2(NM_003242)を増幅するように設計されており、5'BspEI部位と3'NheI部位を含む。これをpELNS-tetR-T2AZeocinにクローニングし、tetRシストロンを置換してpELNS-TGF-βRII-T2AZeocinを作成した。次に、TGF-βRII-T2A-Zeocinカセットを、トランスレーショナル リサーチ プログラム(pTRPE)レンチウイルスベクターから、XbaIおよびSalI部位を利用してEF1alphaプロモーター配下のレンチウイルス発現プラスミドに導入した。CARは、Geneart(サーモフィッシャーサイエンティフィック)によって、ニール バンダー博士(ワイル コーネル医科大学)の特許出願(WO2002098897A2)のJ591抗体配列の可変軽鎖と重鎖を利用し、4-1BB細胞内ドメイン配列とCD3ζ細胞内ドメイン配列に融合して、設計・合成された。ドミナントネガティブTGF-βRIIは、当初報告されたように、ヒトTGFβRIIを残基199で切断して細胞内キナーゼドメインを除去することにより構築した。17合成されたCAR DNAはXbaIとSalIで消化され、Avr2とSalI部位を利用してpTRPE-TGF-βRII-T2A-Zeocinに挿入された。」(第1862頁右欄下から第4行~第1863頁右欄第4行)
(エ) 「17.Wieser,R.,Attisano,L.,Wrana,J.L.,and Massague,J.(1993).Signaling activity of transforming growth factor beta type II receptors lacking specific domains in the cytoplasmic region. Mol.Cell.Biol.13,7239-7247」(第1865頁右欄REFERENCEの項)
イ 参考文献2
引用文献1に記載された参照文献17(Mol.Cell.Biol.1993,13,7239-7247)(上記ア(エ))には、以下の事項が記載されている(以下、「参考文献2」という。下線は当審で付与した。原文は英文のため訳文で示す。)。
(ア) 「
[図:0001438626000001.jpg]
図1.TβR-IIおよびその変異誘導体の細胞内領域の模式図。キナーゼドメインは白抜きの四角で示す。インサート1および2のアミノ酸配列とC末端テール(16)は四角で囲まれる。インサート2における単一アミノ酸変異は下線で示す。ActRi2はActR-IIB(2)からのインサート2の配列を示す。TβR-IIとActR-IIBのインサート2配列におけるアミノ酸の同一性(I)と類似性(:)を示す。短縮型TβR-II(Δcyt)を生成する終止コドンの位置と、ATP結合部位(30)におけるK277R変異の位置を示す。wt:野生型、TM:膜貫通ドメイン」(図1)
(イ) 「この点に対処するため、私たちはTβR-II(Δcyt)を作製した。これは、細胞内ドメインの10番目のコドンの後に停止コドンを含み、キナーゼドメイン全体と膜近傍領域の大部分を欠損した短縮型受容体をコードしている(図1)。」(第7244頁左欄第7行~第11行)
ウ 参考例3
引用文献1に記載されたGenBankに登録されたaccession no.NM_003242
(Database GenBank [online]accession no.NM_003242, 公開日:2007/
03/09,検索日2026/3/2<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/
NM_003242.4>(上記ア(ウ))には、以下の事項が記載されている(以下、「参考例3」という。)。
(ア) 「
[図:0001438626000002.jpg]
」(199番目のアミノ酸残基に下線を付与した。)
(3)引用発明の認定
引用文献1には、下流のシグナル伝達に必要な細胞内ドメインを欠損したドミナントネガティブTGF-βRIIによりTGF-βシグナル伝達が阻害できることが1990年代には知られていたことが記載され(上記(2)ア(イ))、引用文献1の実験では、TGF-βRII転写バリアント2(NM_003242)に基づき、参照文献17で報告されたように、ヒトTGFβRIIを残基199で切断して細胞内ドメインを除去してなるドミナントネガティブTGF-βRIIが用いられている(上記(2)ア(ウ))。
したがって、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されている。
「TGF-βRII転写バリアント2(NM_003242)に基づき、参照文献17で報告されたように、ヒトTGFβRIIを残基199で切断して細胞内ドメインを除去してなるドミナントネガティブTGF-βRII。」(以下、「引用発明」という。)
(4)対比
本件補正発明と引用発明を対比すると、引用発明は「ドミナントネガティブTGF-βRII」であるから、本件補正発明の「TGF-β受容体のドミナントネガティブ阻害剤として機能する」という発明特定事項を満たし、TGF-βのいずれのアイソフォームもTGFβRIIに結合することは本願優先日当時の技術常識であるから、引用発明は「TGF-β1に結合し」という発明特定事項も満たすものである。
引用文献1のような学術論文に接した当業者であれば、必要に応じて引用された参照文献に当たることは常套であるから、参考文献2(引用文献1に記載された参照文献17)を参照すると、参考文献2の図1(上記(2)イ(ア))には、TβR-II(TGF-βRII)の様々な変異誘導体が記載されているが、細胞内キナーゼドメインを有さないものはΔcytのみであるから、引用文献1から認定した引用発明は参考文献2のΔcytのことである。そして、参考文献2によれば、Δcytは、細胞内ドメインの10番目のコドンの後に停止コドンを含み、キナーゼドメイン全体を欠損したものであるから(上記(2)イ(ア)、(イ))、天然のままの細胞外ドメイン及び膜貫通ドメイン(TM)を有する組換えポリペプチドであることは明らかであり、引用発明は、本件補正発明の「TGF-βからの細胞外ドメイン(ECD)、及び膜貫通ドメイン(TM)」「を含む組換えポリペプチド」という発明特定事項を満たすものである。
また、引用発明は、「TGF-βRII転写バリアント2(NM_003242)に基づき、参照文献17で報告されたように、ヒトTGFβRIIを残基199で切断」したものであるから、GenBankに登録されたaccession no.NM_003242(参考例3)を参照すると、引用発明の「ドミナントネガティブTGF-βRII」のアミノ酸配列は、「MGRGLLRGLWPLHIVLWTRIASTIPPHVQKSVNNDMIVTDNNGAVKFPQLCKFCDVRFSTCDNQKSCMSNCSITSICEKPQEVCVAVWRKNDENITLETVCHDPKLPYHDFILEDAASPKCIMKEKKKPGETFFMCSCSSDECNDNIIFSEEYNTSNPDLLLVIFQVTGISLLPPLGVAISVIIIFYCYRVNRQQKLSS」という199のアミノ酸からなり、参考文献2に「細胞内ドメインの10番目のコドンの後に停止コドンを含み」(上記(2)イ(イ))と記載されているとおり、上記アミノ酸配列のC末の10残基「RVNRQQKLSS」が細胞内ドメインである。
一方、本件補正発明の細胞内ドメインは「配列番号6のアミノ酸配列のみからなる」ものであり、配列番号6はRVNRQであるから、細胞内ドメインに関して、引用発明と本件補正発明は短縮されたものであるという限度で一致する。
したがって、本件補正発明と引用発明は、「TGF-β受容体からの細胞外ドメイン(ECD)、及び膜貫通ドメイン(TMD)、並びに、短縮された細胞内ドメイン(ICD)を含む組換えポリペプチドであって、TGF-β1に結合し、TGF-β受容体のドミナントネガティブ阻害剤として機能する、組換えポリペプチド。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点) 細胞内ドメインが、本件補正発明は「配列番号6のアミノ酸配列(合議体注:RVNRQ)のみからなる」のに対して、引用発明は「RVNRQQKLSS」からなる点。
(5)判断
上記相違点について検討すると、細胞内ドメインが、本件補正発明は、「配列番号6のアミノ酸配列のみからなる」、つまりは「RVNRQ」であるのに対して、引用発明は、「RVNRQ」よりも「QKLSS」の分だけ長いが、引用文献1に記載された、下流のシグナル伝達に必要な細胞内ドメインを欠損させてドミナントネガティブTGF-βRIIとして、TGF-βシグナル伝達を阻害する(上記(2)ア(イ))という限度で、引用発明において、10残基残されている細胞内ドメインを更に短くして本件補正発明に至ることは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
そして、本件補正発明の効果について、本件明細書には、本件補正発明の組換えポリペプチドをT細胞で発現させるとTGF-βシグナル伝達を阻害し、CARを共発現させた場合には、CAR T細胞の機能を増強することが実施例において示されているが、これらはいずれも、引用文献1に記載されたか引用文献1の記載から理解される程度のものにすぎない(上記(2)ア(ア))。また、引用発明における10残基からなる細胞内ドメインを本件補正発明のように5残基まで短縮することで、当業者が予測しうる範囲を超えて効果が奏されることについて、請求人からは何ら主張はないし、そのような効果があると認めるに足りる事情もない。
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(6)請求人の主張について
請求人は、令和5年12月1日提出の審判請求書において、引用文献2には、引用文献2に開示されるドミナントネガティブTGF-βRIIについて、補正後の請求項1に規定される構成を満たすように改良を行う動機付けがなく、効果も予測できない、と主張している。
しかしながら、上記したとおり、引用文献1に記載された、下流のシグナル伝達に必要な細胞内ドメインを欠損させてドミナントネガティブTGF-βRIIとして、TGF-βシグナル伝達を阻害する(上記(2)ア(イ))という限度で、引用発明において、10残基残されている細胞内ドメインを更に短くすることは当業者が適宜なし得ることにすぎず、改良というに足りる効果も何ら認められない。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
(7)小括
以上のとおりであるから、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和5年12月1日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~16に係る発明は、令和5年5月8日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2の1」に「補正前」として記載した、次のとおりのものである。
「TGF-β受容体からの細胞外ドメイン(ECD)及び膜貫通ドメイン(TMD)、並びに、配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む細胞内ドメイン(ICD)を含む組換えポリペプチドであって、TGF-β1に結合し、TGF-β受容体のドミナントネガティブ阻害剤として機能する、組換えポリペプチド。」
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の優先権主張の日(以下、「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明により、本願優先日前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 引用文献及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1およびその記載事項は、上記「第2の2(2)」に記載したとおりである。
4 判断
上記第2の2で述べたとおり、本件補正発明は、本願発明の「細胞内ドメイン(ICD)」を限定したものであるから、本願発明は本件補正発明を包含するものであることが明らかである。
そして、上記第2の2(5)に示したとおり、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明及び本願優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、本件補正発明を包含する本願発明も、同様に、引用文献1に記載された発明及び本願優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明である。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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