2022-003177
ニコチン粒子および組成物
- 審判番号
- 2022-003177
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-563781外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年03月02日
- 審決日
- 2023年11月29日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .121-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
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結論
理由
目次 ▾ 19項目
第1 手続の経緯
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本願は、平成29年6月14日(パリ条約による優先権主張 2016年6月30日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であり、その主な手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 3年 4月12日付け 拒絶理由通知(最初)
同年10月18日 手続補正書・意見書の提出
同年10月26日付け 拒絶査定
令和 4年 3月 2日 審判請求書・手続補正書の提出
同年 4月13日 手続補正書(方式)の提出
令和 5年 6月 1日付け 拒絶理由通知(当審)
同年10月 4日 手続補正書・意見書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1-14に係る発明は、令和5年10月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-14に記載された事項により特定されるものと認められ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「1wt%~10wt%のニコチン塩と、70wt%~90wt%の糖であって、ラクトース、ショ糖、ラフィノース、トレハロース、果糖、右旋糖、グルコース、麦芽糖、およびマンニトールから成る群から選択される糖と、を含む粒子であって、前記粒子が、前記ニコチン塩、前記糖、及びロイシンを含む液体混合物を噴霧乾燥した粒子であり、0.5~10マイクロメートルの範囲のサイズを有する、粒子。」
第3 拒絶理由
当審より令和5年6月1日付けにて通知した拒絶の理由のうち、特許法第29条第2項に係る理由は以下のとおりである。
本願の下記の請求項に係る発明は、優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等は引用文献等一覧を参照)
<引用文献等一覧>
1.米国特許出願公開第2015/283070号明細書
6.特表2006-522634号公報
7.Powder Technol., 2011, Vol.214, pp.169-176
(引用文献6,7は周知文献)
第4 引用文献に記載された事項及び引用発明
1 引用文献1に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献1に記載された事項について
引用文献1には以下の事項が記載されている。なお、引用文献1は英語にて記載されているため、当審による訳文にて示す。また、以下、本書において、特に断りがない限り、下線は当審による。
(摘記1ア)
「1. ニコチン粒子を含む、吸入に適した乾燥粉末ニコチン製剤であって、前記ニコチン粒子が、実質的に約1-10ミクロンのサイズである、前記乾燥粉末ニコチン製剤。」
「16. 吸入に適した乾燥粉末ニコチン製剤の生成方法であって、液体担体中にニコチン及び糖を含む流動性混合物を調製するステップと、前記流動性混合物を噴霧乾燥させて、ニコチン及び糖を含む乾燥粉末粒子を生成するステップであって、前記乾燥粉末粒子が、実質的に約1-10ミクロンのサイズの範囲内である、ステップと、を含む、前記方法。17. 前記糖が、ラクトースである、請求項16に記載の前記方法。」(請求の範囲1、16及び17項)
(摘記1イ)
「[0004] したがって、当技術分野において、対象による呼気に含まれるニコチンを減少又は排除しながら、肺のより小さい気道を固有に標的とし得るニコチン系製剤が必要とされている。本発明は、この必要性を満たす。」([0004])
(摘記1ウ)
「説明[0018] 本発明は、ニコチンの乾燥粉末製剤、及び任意に他の選択された材料に関し、ニコチン成分及び任意の追加の成分が、制御された粒径範囲内に入る。例えば、一実施形態では、製剤は、粒子のMMADに基づいて、実質的に1-10ミクロンのサイズのニコチン粒子(本明細書では、ニコチン系成分とも称される)を含む。…」([0018])
(当審注:MMADは空気力学的直径の質量中央値を意味する。)
(摘記1エ)
「[0031] …糖は吸入可能な糖であり、一般に水などの液体担体に可溶性である。限定することなく、好適な糖の例は、ラクトース、スクロース、…、マンニトール、又はこれらの組み合わせである。…」([0031])
(摘記1オ)
「[0033] したがって、一実施形態では、ニコチンは、遊離塩基として製剤中に存在する。別の実施形態では、製剤は、ニコチン塩を含んでも良い。このような一実施形態では、ニコチン塩は、ニコチン酒石酸水素塩である。他の実施形態では、ニコチン塩は、その無機酸、有機酸、溶媒、水和物、又は包接体を含む、任意の好適な非毒性酸から調製され得る。このような無機酸の非限定的な例は、塩酸、…酒石酸、…、ガラクツロン酸などである。[0034] 様々な実施形態では、製剤は、任意の薬学的に許容される材料、組成物又は担体、例えば、本発明内で有用な化合物を、それがその意図される機能を行うことができるように、対象の体内又は対象に搬送又は輸送することに関与する、液体若しくは固体充填剤、安定剤、分散剤、懸濁剤、希釈剤、賦形剤、増粘剤、溶媒又はカプセル化材料をさらに含むことができる。…本発明の製剤において有用であり得るいくつかの材料としては、薬学的に許容される担体、例えば、ラクトース、グルコース及びスクロースなどの糖;トウモロコシデンプン…などのデンプン;…;並びに医薬製剤に用いられる他の非毒性適合性物質が挙げられる。」([0033]-[0034])
(摘記1カ)
「[0038] 使用されるニコチン対糖の比率に制限がなく、使用される実際の比率が、ニコチン系成分粒子内で所望されるニコチンの濃度に基づくことを理解されたい。したがって、一実施形態では、流動性混合物中の糖対ニコチンの比率は、約1:100から約100:1まで、又は約3:7から約3:2まで、又は代替的に、約4:6重量部から変化し得る。さらに、流動性混合物中の糖の濃度は、約1から約10w/v (g/100mL)まで、約2から約5w/v (g/100mL)まで又は約3%w/v (g/100mL)から変化することがある。好ましい実施形態では、ニコチンの濃度は、約5-10%である。」([0038])
(摘記1キ)
「[0054] 図3をここで参照すると、本明細書に記載される製剤のうちのいずれか1つを生成する乾式工程又は方法300の図が示されている。例えば、ステップ310では、ニコチン粒子は、糖、好ましくはラクトースなどの担体と組み合わされる。ニコチン粒子は、本明細書に記載される任意の形態のニコチン、例えば、酒石酸ニコチンであり得る。一実施形態では、ニコチン及び担体混合物は、前述のような噴霧乾燥工程を介して、又は任意の他の湿式若しくは乾式工程によって複合され得る。…一実施形態では、ステップ310におけるニコチン及び担体混合物は、約1:1のニコチン:ラクトースである。しかしながら、ニコチン:ラクトースの比率は、本明細書に記載される任意の特定の比率に限定されない。[0055] ステップ320において、ニコチン及び担体混合物を粉砕して、ニコチン系成分330を形成する。…一実施形態では、ニコチン系成分330は、約1.5-7%のニコチン粒子であり、残りは担体粒子である。例えば、一実施形態では、ニコチン系成分330は、約1.5-7%酒石酸ニコチン及び約93-98.5%ラクトースである。[0056] 一実施形態では、ニコチン系成分330は、最終乾燥粉末製剤340である。…」
「[図:0001409499000001.jpg]」([0054]-[0056]、図3)
(2)引用発明
ア 引用文献1には、液体担体中にニコチン及び糖を含む流動性混合物を調製するステップと、前記流動性混合物を噴霧乾燥させて、ニコチン及び糖を含む、実質的に約1-10ミクロンのサイズの範囲内である、乾燥粉末粒子を生成するステップを含む、吸入に適した乾燥粉末ニコチン製剤の生成方法に加え(摘記1ア)、前記乾燥粉末ニコチン製剤はニコチン塩を含んでもよいこと(摘記1オ)、前記糖は吸入可能な糖であってニコチン粒子の担体であること(摘記1エ及び1キ)が記載されている。
イ また、引用文献1には、乾燥粉末ニコチン製剤の実施態様として、ニコチン塩が「酒石酸ニコチン」であり(摘記1オの[0033]、摘記1キ)、糖がラクトース(摘記1エ、摘記1オの[0034]、摘記1キ)である、約1.5-7%酒石酸ニコチン及び約93-98.5%ラクトースからなるニコチン系成分(摘記1キ)が記載されており、当該「ニコチン系成分」は「実質的に約1-10ミクロンのサイズのニコチン粒子」である(摘記1ウ)。
ウ そして、摘記1キの図3における、「310 ニコチン粒子及び担体粒子を複合する」→「320 ニコチン及び担体粒子の混合物を粉砕する」→「330 ニコチン系成分」という記載、及び「ニコチン系成分330は、最終乾燥粉末製剤340である」(摘記1キの[0056])という記載から、引用文献1には、上記アの生成方法によって、上記イの約1.5-7%の酒石酸ニコチン及び約93-98.5%のラクトースからなる、実質的に約1-10ミクロンのサイズの範囲内である、吸入に適したニコチン粒子が生成されることが記載されているといえる。
エ 上記ア-ウから、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。これを引用発明とする。
<引用発明>
「約1.5-7%の酒石酸ニコチン及び約93-98.5%のラクトースからなる、実質的に約1-10ミクロンのサイズの範囲内である、吸入に適したニコチン粒子であって、液体担体中に酒石酸ニコチン及びラクトースを含む流動性混合物を調製するステップと、前記流動性混合物を噴霧乾燥させて、酒石酸ニコチン及びラクトースかなるニコチン粒子を生成するステップ、を含む方法により生成される、前記ニコチン粒子。」
2 引用文献6について
引用文献6には以下の事項が記載されている。
(摘記6ア)
「【請求項1】製薬活性剤を備える乾燥粉末薬剤を備える乾燥粉末吸入器デバイスであって、デバイスの作動時に、少なくとも70%の5μmの投与効率が達成される、デバイス。」
「【請求項4】乾燥粉末組成が、力制御剤と共に前記製薬活性剤を共噴霧乾燥すること備える方法を使用して準備された、前記請求項のいずれかに記載のデバイス。【請求項5】前記力制御剤が、アミノ酸、リン脂質、またはステアリン酸金属であり、好ましくはロイシンである、請求項4に記載のデバイス。」(請求項1、4、5)
(摘記6イ)
「【0001】本発明は、肺吸入によって投与される製薬乾燥粉末薬剤の投与効率を向上させることに関する。具体的には、本発明は、現在達成されているよりはるかにより多い製薬活性剤の送達投与量を再現的に達成する乾燥粉末吸入器及び乾燥粉末組成を提供することに関する。」(【0001】)
(摘記6ウ)
「【0011】…市販されている乾燥粉末吸入器の多くは、非常に不十分な投与効率を提示し、投与量に存在する活性剤のわずかに10%程度しか、…使用者に適切に実際に送達されないこともある。…70%以上の5または3μmの投与効率を再現的、且つ、一貫して達成することは、以前は可能ではなかった。【0012】このように投与効率が不十分である理由は、粉末が送達デバイスから排出されて肺の付着位置に進む各ステージにおいて、乾燥粉末の投与量におけるある割合の活性剤が、実質的に失われる傾向があるからである。例えば、大量の材料が、デバイスに残留する可能性がある。材料は、過剰なプルーム速度(plume velocity)のために、被験者の喉において失われる可能性がある。しかし、高パーセンテージの送達投与量が、その必要量を超えて、空気力学的直径の微粒子形態において存在することはよくある。…【発明が解決しようとする課題】【0013】従って、本発明は、製薬活性剤の損失が、これらのステージのそれぞれにおいて低減され、それにより、高い投与効率を達成することができる方式を提供する。」(【0011】-【0013】)
(摘記6エ)
「【0016】第1に、活性剤のいくらかを含めて、粉末薬剤の投与量の少なくともいくらかが、ディスペンスデバイスまたは使用後のブリスタまたはカプセルなどの投与量貯蔵容器に残留することが一般的である。デバイスにおけるそのような停留が生じる可能性がある箇所があり、これらは、以下でより詳細に議論される。【0017】第2に、ディスペンスデバイスによって放出される粉末のクラウドの動態(dynamics)は、粉末の量、従って使用者の喉に付着する活性剤の量に影響を与える。再び、喉に付着する場合、活性剤は、実質的に失われるが、その理由は、活性剤が治療効果を有さないからである。デバイスによって形成される粉末のプルームの形状、及び具体的には活性粒子の速度は、喉における付着に影響を与えることが判明している。…【0018】第3に、当技術分野において認識されているように、活性剤の微細粒子は、凝集する傾向があり、これらの凝集物がディスペンスデバイスの作動の際に分割されない場合、活性剤の粒子は、肺の望ましい部分に到達しない。微細粉末粒子の非凝集化は、凝集物がより容易に分割されることを可能にするように、粒子の密着を低減する力制御剤を追加することによって、並びに粒子を準備するために使用される方法によって、大きく改善することができることが判明している。」(【0016】-【0018】)
(摘記6オ)
「【0043】本発明は、任意の製薬活性剤で実施することができる。好ましい活性剤には、…3)例えば、硝酸イソソルビド、イソソルビドモノニトレート、アポモルフィン、及びニコチンなどの体系的活性医薬品と、…。」(【0043】)
(摘記6カ)
「【0262】FCAがアミノ酸を有することが特に有利である。…FCAは、実質的にアミノ酸、より好ましくはロイシン、有利にはL-ロイシンからなる。D形態及びDL形態も、使用されることが可能である。…ロイシンは、吸入の際に活性粒子の特に効率的な分散を与えることが判明した。」
「【0267】…FCAは、アミノ酸、アミノ酸の派生物、ステアリル酸金属、またはリン脂質を備える。FCAは、ロイシン、イソロイシン、…もしくはステアリン酸マグネシウムのL、D、またはDLの形態の1つまたは複数を備える。他の実施形態では、FCAは、ロイシン及び好ましくはL-ロイシンを備える。」(【0262】、【0267】)
(当審注:FCAは、力制御剤(force control agent)を意味する。)
(摘記6キ)
「【0289】活性剤及びFCAを共噴霧乾燥する効果は、様々な実験及び得られる結果の以下の議論において示される。…【0290】実験では、使用される活性剤は、ヘパリンである。本発明を示し、及び試験するためこの活性剤を選択する理由は、ヘパリンが、「粘着性」の化合物であり、これは、乾燥粉末のFPF及びFPDに悪影響を及ぼす傾向があることであるからである。従って、ヘパリンを使用してFPF及びFPDの良好な値を得ることは、含まれる活性剤の「異なる」性質にも拘らず、組成が良好で改善された特性を実際に提示することを示す。【0291】特にことわりのない限り、本明細書の以下のセクションにおいて与えられるFPF(ED)及びFPF(MD)は、モノヘイラから、90L/mの流量において複数ステージ液体インピンジャ(MSLI:multi stage liquid impinger)に、または60L/mにおいてツインステージもしくは迅速ツインステージインピンジャ(TSI:twin stage impinger、または、rTSI:rapid twin stage impinger)に、約20mgの材料で充填されたカプセルをファイアリングすることによって得られる。以下のセクションのいくつかにおいて言及される「送達投与量」または「DD」は、放出投与量またはEDと同じである…。」
(当審注:FPFは微細粒子端数(fine particle fraction)、FPDは微細粒子投与量(fine particle dose)を意味する。)
「【0322】20mgの粉末が、各場合にディスペンスされ、表17に示される結果は、FCAを追加することによりFPFが改善されることを示すが、FPD投与量は、ヘパリン含有量が相対的に減少することにより、10%を超えるL-ロイシンを追加することでは改善されない。【0323】【表17】続きを表示(全11行)[図:0001409499000002.jpg]【0324】従って、FPFの増大は、少量のFCAにおいてさえ達成される。活性剤は、活性剤に対し0.1から50%w/wFCAで噴霧乾燥されることが可能であるが、毒性の問題の危険性を低減するために、より少量のFCAが好ましい。FCAの量は、10%w/wを超えないことが好ましく、5%w/wを超えない、3%を超えない、2%w/wを超えない、または1%w/wを超えないことがより好ましい。【0325】…活性剤が、L-ロイシンと共に共噴霧乾燥されることが最も好ましい。【0326】FCAを有する、具体的にはL-ロイシン…と共に活性剤を共噴霧乾燥することにより、粒子の密着性が著しく変化し、肺吸入によって投与されるとき、乾燥粉末の特性を大きく向上させることが判明した。」(【0289】-【0291】、【0322】-【0326】)
(摘記6ク)
「【0374】USNが、活性剤(ヘパリン)のみの供給溶液、並びに1%から5%及び10%w/wのFCA(L-ロイシン)を有する活性剤の混合物を使用して乾燥粉末を準備するために使用された。超音波ネブライザ出力率は、130ml/hrであった。霧化粉末の炉の温度は、350℃に設定された。…【0375】粉末の処理を試験するために、モノヘイラ、及び20mgの粉末で充填され、以前に説明された方式で迅速TSIの中にファイアリングされるカプセルを使用して実施された。研究は、約5μmのカットオフを有する60L/mのTSI流量を使用した。続きを表示(全11行)【0376】3つの測定が、各混合物について実施され、結果は、以下の表19に概述され、得られた結果の3つのセットの平均値を与える。【0377】【表19】[図:0001409499000003.jpg]【0378】USNを使用して生成される乾燥粉末を使用する迅速TSI結果は、純粋ヘパリン粒子について非常に低い霧化効率を示すが、FCAとしてL-ロイシンが追加されているFPFについて、改善が示されている。」
(当審注:USNは超音波ネブライザ(Ultrasonic nebuliser)の意。)
「【0393】粒子のサイズの研究では、USNを使用して形成された噴霧乾燥粒子の粒子サイズが分析された。…超音波霧化粉末のD10、D50、及びD90の値が測定され、表21(当審注:表20の誤記と認められる)に示されている…。値は、3つの測定の平均である。【0394】更に、5μm未満のサイズを有する粒子のパーセンテージ質量が、粒子サイズデータから得られ、FPFとして表されている。【0395】【表20】[図:0001409499000004.jpg]」(【0374】-【0378】、【0393】-【0395】)
(摘記6ケ)
「【0524】本発明の他の実施形態では、複合活性粒子に追加される微細賦形粒子自体は、付加材料と共に共ジェットミリングされる。付加材料を有する活性粒子及び付加材料を有する賦形粒子の共ジェットミリングは、別々に、または共に行うことができる。…【0526】一般に、微細キャリア粒子を備える組成の流れは、ペレット化…されない限り、不十分である。しかし、本発明のプロセスを使用して、微細ラクトース(例えば、1μmから15μmの粒子サイズを有するソルボラク400)が生成され、これは、>5%の医薬品、並びに最高で約30%及びおそらくは50%の密着微粉化医薬品を有するDPIにおける使用で十分によく流れる。これらの有利な特性は、ペレット化を必要とせずに達成されることに留意されたい。ペレット化は、実施が困難であり、一般にFPFを減少させるという欠点をそれ自体が有する。【0527】従って、本発明による微細賦形粒子及び付加材料の共ミリングにより、従来のキャリア粒子を使用して可能であるよりはるかに広い範囲の活性剤含有量を有する活性材料及び賦形材料の混合物を生成することが可能になる(すなわち、>5%)。 …」
「【0531】他の実施形態では、ジェットミリングは、活性粒子及び付加粒子のサイズの低減を達成するために、3バールと12バールとの間の研削圧力において実施される。これらの比較的高圧における共ジェットミリングは、3μmと0.5μmとの間のMMADを有する極度に小さい複合活性粒子を生成することができる。…」
「【0535】一実施形態では、ミリングプロセスは、2ステージプロセスであり、…非常に小さい粒子サイズを得るために、高い研削圧力において医薬品を単独でまずジェットミリングすることを備える。次に、ミリングされた医薬品は、付加材料と共に共ジェットミリングされる。この第2ステップは、効果が、付加材料による小さい活性粒子のコーティングであるように、より低い研削圧力において実施されることが好ましい。…【0537】本発明の他の実施形態では、上記で議論された2ステッププロセスを使用して生成される粒子は、その後、メカノフュージョンを受ける。この最終メカノフュージョンステップは、複合活性粒子を「研磨」し、付加材料を粒子に更に擦り込むと考えられる。これにより、共ジェットミリングによって可能になる非常に小さい粒子サイズと組み合わされた、メカノフュージョンによって粒子に提供される有利な特性を享受することが可能になる。…【0539】すべての粒子は、同様のサイズ分布であることが好ましい。すなわち、ほぼすべての粒子が、約0μmから約50μm、約0μmから約20μm、約0μmから10μm、約0μmから5μm、または約0μmから2μmのサイズ範囲内にある。」
「【0587】2gの微粉化アポモルフィンHClと0.5gの微粉化ロイシンが、乳鉢及び乳捧で2分間手によって混合された。2.5gの微粉化ラクトースが追加され、更に2分間混合された。次いで、5gの微粉化ラクトースが追加され、更に2分間混合された。この混合物は、次いで、7バールの入口圧力及び5バールの研削圧力、5ml/分の供給率において、AS50螺旋ジェットミルにおいて処理された。この粉をへらで静かに300μm金属ふるいに通した。この材料は、「12A」と記録された。…【0589】続きを表示(全24行)0.5gの微粉化アポモルフィンHClと2.0gの「13A」が、スパチュラで乳鉢において手によって10分間混合された。この粉末は、スパチュラで300μmの金属ふるいを通して静かに押された。この材料は、「13B」と記録された。【0590】いくつかのフォイルブリスタが、約2mgの以下の薬剤で充填された。10A-20%アポモルフィンHCl、5%L-ロイシン、75%微粉化ラクトース(共ジェットミリング)10C-26.2%アポモルフィンHCl、5%L-ロイシン、68.7%微粉化ラクトース(幾何学的)11B-95%アポモルフィンHCl、5%L-ロイシン(共ジェットミリング)12A-20%アポモルフィンHCl、5%L-ロイシン、75%微粉化ラクトース(すべて共ジェットミリング)13B-20%アポモルフィンHCl、5%L-ロイシン、75%ソルボラク400(ロイシン&ソルボラクメカノフュージョン)【0591】次いで、これらは、60L/mの流量において、アスピレアデバイスからNGIの中にファイアリングされた。アスピレアは、1.5バールにおける15mlのリザーバで動作された。各インビトロ試験が、ふるいにかけるために1度実施され、次いで、選択候補が繰り返された。他の候補も、60L/mのACIにおいて繰り返された。【0592】【表32】[図:0001409499000005.jpg]【0593】【表33】[図:0001409499000006.jpg]【0594】【表34】[図:0001409499000007.jpg]」
(当審注:NGIは次世代インパクタ(Next Generation Impactor)、ACIはアンダーソンキャスケードインパクタ(Anderson Cascade Impactor)を意味し、粒子サイズやFPDの測定に使用される。)
「【0596】上記に記述されたように準備された薬剤12Aについて得られたFPFの再現性が、試験された。【0597】いくつかのフォイルブリスタが、約2mgの薬剤12Aで充填された。全使用期間投与量一様性が、30投与量をファイアリングすることによって試験され、放出された投与量は、DUSAによって収集された。全使用期間投与量一様性の結果が、図55のグラフに提示されている。【0598】平均EDは389μg、RSDは6.1%であり、この医薬品ラクトース薬剤の全使用期間送達は、非常に良好であった。」(【0524】-【0527】、【0531】、【0535】-【0539】、【0587】-【0594】、【0596】-【0598】)
(当審注:DUSAは投与量均一サンプリング装置(dose uniformity sampling apparatus)、EDは放出投与量(emitted dose)、RSDは相対標準偏差(relative standard deviation)を意味する。)
(摘記6コ)
「【0666】粒子サイズが低減される際に、接着性及び密着性が増大することにより、デバイス停留が増大することが議論されている。この接着性及び密着性、従ってデバイス停留は、粒子の表面(または、適宜医薬品及び賦形剤粒子の表面)に添付される力制御剤を追加することによって低減することができる。アポモルフィン及びクロボザンの例について以前に議論され、ビデオ研究によって実証されたように、アスピレアでは、接着性及び密着性のレベルは、渦において寿命が延長され、より緩慢なプルームをもたらすことが望ましく、接着性は、高いデバイス停留となるほどに高くあるべきではないと考えられる。その結果、アスピレアについて最適な性能を達成するために、粒子のサイズ、接着性、及び凝集性の均衡が必要である。本明細書に含まれる例は、そのような均衡がどのように達成されることが可能であるかを示す。この均衡は、各特定の異なる材料特性について修正を必要とする可能性がある。」(【0666】)
3 引用文献7について
引用文献7には以下の事項が記載されている。なお、引用文献7は英語にて記載されているため、当審による訳文にて示す。
(摘記7ア)
「スプレー凍結乾燥によって製造された感熱性ポリマーナノ粒子の乾燥粉末凝集体のエアロゾル化効率の最適化」(標題)
(摘記7イ)
「ドライパウダー吸入器(DPI)による治療用ナノ粒子の送達には、ナノ粒子が吸入可能なマイクロスケールの凝集構造(すなわち、ナノ凝集体)に変換される必要がある。」
「一方、ロイシンの存在はナノ凝集体の凝集傾向を軽減するため、高いエアロゾル化効率を得るために必須である。」(要約1-2行、12-14行)
(摘記7ウ)
「D-マンニトールとL-ロイシンはSFD(噴霧凍結乾燥)工程において用いられた。」(170頁右欄「2.1. Materials」の項の3行目)
(摘記7エ)
「ロイシンは疎水性であるため、これを含めることでPCL-マンニトールナノ凝集体の水分の取込みが制限され、粒子の凝集性が低下し、エアロゾル化効率が向上すると予想される。さらに、粒子表面にロイシンが存在すると、表面自由エネルギーが低下し、粒子が凝集する傾向が減少することもわかっている[16]。さらに、ロイシンを含むと、乾燥時に波形表面を持つ粒子が生成され、粒子間の接触表面積が減少し、粒子の分散が向上することが知られている[13]。」
(174頁左欄下から2行-右欄7行)
(当審注:PCLはポリ(カプロラクトン)(poly(caprolactone))を意味する。)
(摘記7オ)
「図7BのPCL-マンニトール-ロイシンナノ凝集体の拡大図は、ロイシン含有物に起因する非常にひだ状の表面を示している。予想外ではないが、CI値(約34)は、マンニトール含有量が高いにもかかわらず、ひだ状表面に起因する適度に良好な流動性を示している。」(174頁右欄35-39行)
(摘記7カ)
「[図:0001409499000008.jpg]」(Fig.7B)
4 引用文献2について
本願優先日当時の周知技術を示す文献であり、令和3年10月26日付けの拒絶査定における引用文献2である「特表2003-513031号公報」には、以下の事項が記載されている。
(摘記2ア)
「【0005】粒子-粒子相互作用(例えば、疎水性相互作用、静電相互作用および毛細管相互作用)によって生じる粒子の凝集は、効果的な吸入治療のための分散性粉末を提供するために最小にされなければならない。…従って、治療薬の肺送達のための改良された吸入可能なエアロゾル、特に、治療薬とは関係なく、良好なエアロゾル特性および減少した粒子-粒子相互作用を有する乾燥粉末の必要性が存在する。」(【0005】)
5 引用文献5について
本願優先日当時の周知技術を示す文献であり、令和3年10月26日付けの拒絶査定における引用文献5である「特開2001-151673号公報」には、以下の事項が記載されている。
(摘記5ア)
「【0003】…フロンの使用が環境保護面で不都合であることから、その代替品として、ドライパウダー吸入器を用いる吸入用製剤(以下、この吸入用製剤を「吸入用粉末製剤」と呼ぶ場合がある。)が注目されている。この吸入用粉末製剤では、粉末製剤を吸入容器から排出させ、気道内に到達する粒子径を持った微粒子として吸入させることを特徴としている。【0004】もっとも、微粉末のみで構成される吸入用粉末製剤では、吸入器からの十分な薬物排出量が得られず、投与量が不確実になる場合が多い。また、吸入用粉末製剤を吸入器から吸入する場合、疾患病変部である気道、細気道、肺胞に薬物微粉末が到達するためには1~5μm程度のMMADを有していなければならないが、微粒子は非常に凝集しやすいため、1次微粒子として1~5μm程度の粒子径を有していても微粒子の大部分が凝集してしまい、しかも凝集体は口腔内および上気道において再分散されないため、結果としてMMADが大きくなり肺到達率は低いものとなってしまう。」
(【0003】-【0004】)
(当審注:MMADは質量基準空力学的直径を意味する。)
第5 本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 引用発明の「約1.5-7%の酒石酸ニコチン及び約93-98.5%のラクトース」という記載における「%」は、摘記1カにおける「使用されるニコチン対糖の比率に制限がなく、使用される実際の比率が、ニコチン系成分粒子内で所望されるニコチンの濃度に基づく」及び「ニコチンの濃度は、約5-10%である」という記載から、ニコチン粒子中の「酒石酸ニコチン」及び「ラクトース」それぞれの重量%(wt%)を意味する記載であると解される。
そして、引用発明の「約1.5-7%の酒石酸ニコチン」は、本願発明の「1wt%~10wt%のニコチン塩」に相当し、引用発明の「ラクトース」は、本願発明の「糖であって、ラクトース、ショ糖、ラフィノース、トレハロース、果糖、右旋糖、グルコース、麦芽糖、およびマンニトールから成る群」から選択された「糖」である「ラクトース」に相当する。
2 引用発明の「流動性混合物」は、液体担体を含み、噴霧乾燥される混合物であるから、本願発明の「液体混合物」に相当する。
3 本願発明の「粒子」は「吸入に適したニコチン粒子」であるから(本願明細書の【0001】)、引用発明の「実質的に約1-10ミクロンのサイズの範囲内である、吸入に適したニコチン粒子」は、本願発明の「0.5~10マイクロメートルの範囲のサイズを有する、粒子」に相当する。
4 上記1-3から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりであると認められる。
<一致点>
「1wt%~10wt%のニコチン塩と、糖であるラクトースと、を含む粒子であって、前記粒子が、前記ニコチン塩、及び前記糖を含む液体混合物を噴霧乾燥した粒子であり、0.5~10マイクロメートルの範囲のサイズを有する、粒子。」
<相違点1>
本願発明の粒子は「前記糖」を「70wt%~90wt%」含むのに対し、引用発明の粒子は「前記糖」を「約93-98.5%」含む点。
<相違点2>
本願発明では、「前記ニコチン塩、及び前記糖」を含む液体混合物が、さらに「ロイシン」を含むことが特定されているのに対し、引用発明では、「前記ニコチン塩、及び前記糖」を含む流動性混合物が、さらに「ロイシン」を含むことは特定されていない点。
第6 判断
1 相違点1について
引用文献1には、「使用されるニコチン対糖の比率に制限がなく、使用される実際の比率が、ニコチン系成分粒子内で所望されるニコチンの濃度に基づく」こと(摘記1カ)、及び「ニコチン:ラクトースの比率は、本明細書に記載される任意の特定の比率に限定されない」こと(摘記1キの[0054])が記載されているので、ニコチン粒子中の酒石酸ニコチン及びラクトースそれぞれのwt%は適宜設定し得るものである。
そして、引用文献1には、噴霧乾燥してニコチン粒子を生成する「流動性混合物」中の「糖対ニコチンの比率」が「約1:100から約100:1まで、又は約3:7から約3:2まで、又は代替的に、約4:6重量部から変化し得る」こと(摘記1カ)、及び「ニコチン系成分」すなわち「実質的に1-10ミクロンのサイズのニコチン粒子」(摘記1ウ)におけるニコチン濃度を「約5-10%」とする実施形態(摘記1カ)が記載されている。
これらの記載から、引用文献1には、ニコチン粒子中のラクトース対酒石酸ニコチンの比率が「約3:2」であり、ニコチン粒子は糖とニコチンが主成分であることから、ラクトース濃度が約60wt%(3÷(3+2)×100)である実施態様が記載されているといえ、また、ニコチン粒子中の酒石酸ニコチン濃度が約10%、すなわちラクトース濃度が約90wt%である実施態様も記載されているといえるから、引用発明のニコチン粒子中の「前記糖」であるラクトースの濃度を、約60wt%~約90wt%の範囲内である「70wt%~90wt%」として、引用発明を相違点1に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が適宜設定し得た事項にすぎない。
2 相違点2について
(1)本願優先日当時の周知技術について
引用発明の「前記流動性混合物を噴霧乾燥させて」生成される「吸入に適したニコチン粒子」は、吸入用の乾燥粉末粒子である。
そこで、吸入用の乾燥粉末粒子に関する周知技術について、検討する。
ア 引用文献1には、「肺のより小さい気道を固有に標的とし得るニコチン系製剤が必要とされている」こと(摘記1イ)、及び、「製剤は、任意の薬学的に許容される材料、組成物又は担体、例えば、本発明内で有用な化合物を、それがその意図される機能を行うことができるように、対象の体内又は対象に搬送又は輸送することに関与する、液体若しくは固体充填剤、安定剤、分散剤、懸濁剤、希釈剤、賦形剤、増粘剤、溶媒又はカプセル化材料をさらに含むことができる」ことが記載されている(摘記1オの[0034])。
イ 引用文献6には、肺吸入によって投与される製薬乾燥粉末が、送達デバイスから排出されて肺の付着部位に進む各ステージにおいて、乾燥粉末の投与量における活性剤の割合が実質的に失われる傾向にあり、活性剤の微細粒子は凝集する傾向があるので、吸入によって投与される製薬乾燥粉末薬剤の投与効率の向上を再現的に達成し得る乾燥粉末吸入器及び乾燥粉末組成を提供する必要があることが、記載されている(摘記6イ-6エ)。
ウ 本願優先日当時の周知技術を示す文献である引用文献2(特表2003-513031号公報)には、効果的な吸入治療のための分散性粉末を提供するために、粒子-粒子相互作用によって生じる粒子の凝集を最小にしなければならないことが記載されている(摘記2ア)。
エ 本願優先日当時の周知技術を示す文献である引用文献5(特開2001-151673号公報)には、吸入用粉末製剤を吸入器から吸入する場合、疾患病変部である気道、細気道、肺胞に薬物微粉末が到達するためには1~5μm程度のMMAD(質量基準空力学的直径)を有していなければならないが、微粒子は非常に凝集しやすいため、1次微粒子として1~5μm程度の粒子径を有していても微粒子の大部分が凝集してしまい、しかも凝集体は口腔内および上気道において再分散されないため、結果としてMMADが大きくなり肺到達率は低いものとなってしまうことが記載されている(摘記5ア)。
オ 引用文献6には、イにて述べた事項に加え、以下の事項も記載されている。
(i)製薬活性剤を備える乾燥粉末薬剤を備える乾燥粉末吸入器デバイスの作動時に少なくとも70%の5μmの投与効率を達成するために、「力制御剤」とともに製薬活性剤を共噴霧乾燥すること、及び前記力制御剤として、好ましくは「ロイシン」が用いられること(摘記6ア及び6カ)。
(ii)微細粉末粒子の非凝集化は、凝集物がより容易に分割されることを可能にするように、粒子の密着を低減する「力制御剤」を追加することによって、大きく改善できること、及び好ましい活性剤として「ニコチン」が用いられること(摘記6エ及び6コ)。
(iii)粘着性を有する活性剤であるへパリンを「ロイシン」とともに共噴霧乾燥することにより、生成された粒子の微細粒子端数(fine particle fraction)及び微細粒子投与量(fine particle dose)が大きく改善され、「ロイシン」が優れた力制御剤であることを示す実験結果が得られたこと(摘記6キ及び6ク)。
なお、引用文献6には、摘記6キ及び6ク以外にも、「ロイシン」が優れた力制御剤であることを示す実験結果が多数記載されている(【0289】-【0336】、図40A-D、【0580】-【0610】等)。
(iv)20%アポモルフィンHCl、5%L-ロイシン、75%微粉化ラクトース(すべて共ジェットミリング)を組み合わせて生成された薬剤12A(摘記6ケの【0590】)の複合粒子が、平均1.66μmすなわち引用発明の「実質的に約1~10ミクロンのサイズの範囲内」の大きさであり(摘記6ケの【表32】)、上記薬剤12Aの全使用期間送達が、非常に良好であったこと(摘記6ケの【0596】-【0598】)。
なお、引用文献6には、摘記6ケ以外にも、アポモルフィンHCl、L-ロイシン、及び微粉化ラクトースを組み合わせて生成された薬剤の複合粒子に関する実験結果が多数記載されている(【0580】-【0610】等)。
カ 引用文献7には、以下の事項が記載されている。
ドライパウダー吸入器(DPI)による治療用ナノ粒子の送達について、「ロイシン」の存在はナノ凝集体の凝集傾向を軽減するため、高いエアロゾル化効率を得るために必須であること、及び、L-ロイシンをSFD(噴霧凍結乾燥)工程において用いた実験結果から、「ロイシン」は疎水性であるため、これを含めることで、PCL-マンニトールナノ凝集体の水分の取込みが制限され、粒子表面がひだ状となり、粒子の凝集性が低下し、エアロゾル化効率が向上すると予想されること(摘記7ア-7カ)。
キ 上記ア-エから、吸入用の乾燥粉末粒子が凝集しやすいことは周知であり、該粒子の凝集により、吸入させる成分の、肺への投与効率が低下するという問題を解決することは、本願優先日当時の周知の課題であったといえる。
また、上記オ及びカから、吸入用の乾燥粉末粒子に「ロイシン」を加えることにより、粒子の凝集傾向が軽減され、上記課題を解決できることも、本願優先日当時に周知であったといえる。
(2)そうすると、上記(1)から、引用発明のニコチン粒子の、肺への投与効率が低下するという問題を解決するために、ニコチン粒子の凝集を減少させる化合物である「ロイシン」を、上記アの「対象の体内又は対象に搬送又は輸送することに関与する」成分として、引用発明の「液体担体中に酒石酸ニコチン及びラクトースを含む流動性混合物」にさらに含有させることを、当業者は自然に想起し得たといえる。
すなわち、引用発明の「前記ニコチン塩、及び前記糖」を含む流動性混合物に、さらに「ロイシン」を加え、引用発明を相違点2に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
3 本願発明の効果について
本願明細書の【表1】-【表3】には、さらに「ロイシン」を含む液体混合物から生成されたニコチン粉末製剤は、「ロイシン」を含まない液体混合物から生成されたニコチン粉末製剤と比較して、自由流動粉末となり、噴霧乾燥機に付着しないことを示す実験結果が記載されている。
しかし、「自由流動粉末となり、噴霧乾燥機に付着しない」という効果は、「ロイシン」の追加によって粒子の凝集傾向が軽減されること(上記2(2))から当業者が予測し得た程度の効果にすぎない。
また、本願明細書には、ニコチン粒子中の「糖」が90wt%の場合と90wt%より多い場合とを比較した実験結果、及びニコチン粒子中の「糖」が70wt%の場合と70wt%より少ない場合とを比較した実験結果はいずれも記載されていないのであるから、本願発明において、ニコチン粒子中の「糖」を70wt%~90wt%の範囲にしたことによる臨界的な意義は不明である。
よって、本願発明により、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が得られたとはいえない。
4 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和5年10月4日提出の意見書において、下記(1)及び(2)の主張をしているので、順次検討する。
(1)
「引用発明の93%以上なる値は本発明が採用する糖の割合の範囲を超えるものであり、また、引用発明が採用する値(93%以上)を変更して、引用文献に開示されている値より低く(90wt%以下)しかも所定の値(70wt%)以上の範囲にしてみようと当業者が考える動機づけは、引用文献の開示内容中には一切見当たりません。実際、引用文献1には、本願発明のように、1wt%~10wt%のニコチン塩と70wt%~90wt%の(所定の)糖を併用する、という技術思想については、何ら開示も示唆もされていません。」(3頁下から8行目-下から2行目)
そこで、上記主張について検討する。
上記1で説示したように、引用文献1には、ニコチン粒子中のラクトース濃度が約60wt%である実施態様、及び、ニコチン粒子中の酒石酸ニコチン濃度が約10%、すなわちラクトース濃度が約90wt%である実施態様が記載されているといえるので、引用発明のニコチン粒子中の「前記糖」であるラクトースの濃度を、約60wt%~約90wt%の範囲内である「70wt%~90wt%」とすることは、当業者が適宜設定し得た事項にすぎない。
よって、上記(1)の主張を採用することはできない。
(2)
「引用発明を改良してみようと考える当業者が引用文献6の開示内容に接する可能性は極めて低いものと考えられ、仮に接したとしても、当業者が引用文献6の開示内容中のニコチンに特に注目し、糖およびロイシンと併用してみよう、と考える合理的理由はありません。なお、引用文献6は、少なくとも20マイクロメートルの大きさの糖キャリア粒子について教示しており、この点も、当業者が引用発明に引用文献6に開示されている技術を適用して本願発明に到ることは無い理由となると考えます。」(3頁最下行-4頁8行)
そこで、上記主張について検討する。
上記2(1)で説示したように、引用発明の「ニコチン粒子」は吸入用の乾燥粉末粒子である。そして、引用文献6には、引用発明の「ニコチン粒子」と同じ技術分野である「吸入用の乾燥粉末粒子」に関する課題が記載されているのであるから、当業者は引用文献6の開示内容を参酌して、本願優先日当時の周知の課題(上記2(1))の解決手段として、「ロイシン」を用いること(上記2(2))を、容易に想到し得たといえる。
また、引用文献6には、少なくとも20マイクロメートルの大きさの糖キャリア粒子についての記載(【0253】)があるが、引用文献6には、以下の事項も記載されている。
・「本発明のプロセスを使用して、微細ラクトース(例えば、1μmから15μmの粒子サイズを有するソルボラク400)が生成され」ること(摘記6ケの【0526】)。
・「比較的高圧における共ジェットミリングは、3μmと0.5μmとの間のMMADを有する極度に小さい複合活性粒子を生成することができる」こと(摘記6ケの【0531】)。
・「共ジェットミリングによって可能になる非常に小さい粒子サイズと組み合わされた、メカノフュージョンによって粒子に提供される有利な特性を享受することが可能になる」こと(摘記6ケの【0537】)。
・「すべての粒子は、同様のサイズ分布であることが好ましい。すなわち、ほぼすべての粒子が、…約0μmから10μm、…のサイズ範囲内にある」こと(摘記6ケの【0539】)。
さらに、摘記6ケの【表32】には、20%アポモルフィンHCl、5%L-ロイシン、75%微粉化ラクトース(すべて共ジェットミリング)を組み合わせて生成された薬剤12A(摘記6ケの【0590】)の複合粒子が、平均1.66μmすなわち引用発明の「実質的に約1-10ミクロンのサイズの範囲内」の大きさであることが記載されている。
上記のように、引用文献6には、非常に小さい粒子サイズの微粉化ラクトースを用いること、及び、活性剤とL-ロイシンと微粉化ラクトースとを組み合わせた「実質的に約1~10ミクロンのサイズの範囲内」の大きさである複合粒子を生成することが記載されているのであるから、当業者が引用発明に引用文献6に開示されている技術を適用することを阻害する要因はない。
よって、上記(2)の主張を採用することはできない。
5 小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、引用文献1、6、7の記載、及び、本願優先日当時の周知技術を示す文献(引用文献2、5)の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-003177