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特許拒絶査定不服審判

2022-002521

固体電解キャパシタアセンブリ

審判番号
2022-002521
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-547639外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年02月21日
審決日
2023年01月05日
公報発行日
2023年06月30日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (H01G) / P18 .575-Z (H01G)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-547639「固体電解キャパシタアセンブリ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月13日国際公開、WO2018/165065、令和 2年 3月26日国内公表、特表2020-509599〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 11項目
理 由

第1 手続の経緯

本願は、2018年3月6日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2017年3月6日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和3年 4月30日付け:拒絶理由通知
令和3年 7月28日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年10月13日付け:拒絶査定(原査定)
令和4年 2月21日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和4年2月21日の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

令和4年2月21日の手続補正を却下する。

[理由]

1.本件補正について

令和4年2月21日の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前には、

「【請求項1】
焼結多孔質陽極体、前記陽極体の上に配されている誘電体、及び前記誘電体の上に配されている固体電解質を含む固体電解キャパシタ素子、ここで、前記固体電解質が複数の導電性ポリマー粒子を含み、当該導電性ポリマー粒子が、次式(III):
【化1】
[図:0001397720000001.jpg]
続きを表示(全12行)
(式中、
R7は、線状又は分岐の、C1~C18アルキル基、C5~C12シクロアルキル基、C6~C14アリール基,C7~C18アラルキル基、又はこれらの組合せであり;
qは0~8の整数である)
の繰り返し単位を有する外因性導電性ポリマーを含み;
前記陽極体と電気的に接続されている陽極終端、ここで前記陽極終端の少なくとも一部の上に有機金属化合物を含む第1の被覆が配置されている;
前記固体電解質と電気的に接続されている陰極終端、ここで前記陰極終端の少なくとも一部の上に有機金属化合物を含む第2の被覆が配置されている;及び
前記キャパシタ素子を収容し、前記陽極終端及び前記陰極終端の実装面を露出した状態 にしている、シリカを含有するケーシング材料;
を含むキャパシタアセンブリ。 」

とあったものを、

「【請求項1】
焼結多孔質陽極体、前記陽極体の上に配されている誘電体、及び前記誘電体の上に配されている固体電解質を含む固体電解キャパシタ素子、ここで、前記固体電解質が複数の導電性ポリマー粒子を含み、当該導電性ポリマー粒子が、次式(III):
【化1】
[図:0001397720000002.jpg]
続きを表示(全23行)
(式中、
R7は、線状又は分岐の、C1~C18アルキル基、C5~C12シクロアルキル基、C6~C14アリール基,C7~C18アラルキル基、又はこれらの組合せであり;
qは0~8の整数である)
の繰り返し単位を有する外因性導電性ポリマーを含み;
前記陽極体と電気的に接続されている陽極終端、ここで前記陽極終端の少なくとも一部の上に有機金属化合物を含む第1の被覆が配置されている;
前記固体電解質と電気的に接続されている陰極終端、ここで前記陰極終端の少なくとも一部の上に有機金属化合物を含む第2の被覆が配置されている;及び
前記キャパシタ素子を収容し、前記陽極終端及び前記陰極終端の実装面を露出した状態にしている、シリカを含有するケーシング材料;
を含むキャパシタアセンブリであって、
前記第1の被覆の前記有機金属化合物、前記第2の被覆の前記有機金属化合物、又は両方が、次の一般式:
【化2】
[図:0001397720000003.jpg]
(式中、
Mは有機金属原子であり;
R1、R2、及びR3は、独立して、アルキル又はヒドロキシアルキルであり、R1、R2、及びR3の少なくとも1つはヒドロキシアルキルであり;
nは、0~8の整数であり;
Xは、有機又は無機官能基である)
を有し、
前記キャパシタ素子が、前記固体電解質の上に配されている金属粒子層を含む陰極被覆を更に含み、前記金属粒子層は樹脂状ポリマーマトリクス内に分散されている複数の導電性金属粒子を含む、
前記キャパシタアセンブリ。」

とする補正を含むものである(なお、下線部は補正された箇所を示す。)。

2.補正の適否

上記補正は、

(a)補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、第1及び第2の被覆の「有機金属化合物」について、「次の一般式:

[図:0001397720000004.jpg]

(式中、Mは有機金属原子であり;R1、R2、及びR3は、独立して、アルキル又はヒドロキシアルキルであり、R1、R2、及びR3の少なくとも1つはヒドロキシアルキルであり;nは、0~8の整数であり;Xは、有機又は無機官能基である)」を有するものであることの限定を付加し、

(b)さらに補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「キャパシタ素子」について、「前記固体電解質の上に配されている金属粒子層を含む陰極被覆を更に含み、前記金属粒子層は樹脂状ポリマーマトリクス内に分散されている複数の導電性金属粒子を含む」ことの限定を付加するものである。

そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。

よって、上記補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)否かについて以下に検討する。

(1)引用例の記載事項

折りたたみ中(クリックで表示)

原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-295660号公報(以下、「引用例」という。)には、「固体電解コンデンサ」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

ア.「【請求項1】

陽極部及び陰極部を具えたコンデンサ素子と、前記陽極部と接続する陽極リード端子と、前記陰極部と接続する陰極リード端子と、前記コンデンサ素子を被覆する外装樹脂とを具えた固体電解コンデンサにおいて、

前記陽極リード端子及び前記陰極リード端子は、前記外装樹脂から露出または突出する部分と、前記外装樹脂で被覆される部分とを有し、

前記陽極リード端子及び前記陰極リード端子の前記外装樹脂で被覆される部分のうち、少なくとも前記露出または突出する部分との境界部は、有機シラン層を介して前記外装樹脂と接触していることを特徴とする固体電解コンデンサ。」

イ.「【0012】

図1は、本発明の固体電解コンデンサの正面断面図である。本発明の固体電解コンデンサは、図1に示すようにコンデンサ素子1と、陽極リード端子2と、陰極リード端子3と、外装樹脂4とを具えており、コンデンサ素子1と、陽極リード端子2及び陰極リード端子3のうちの外装樹脂4で被覆されている部分21、31は、有機シラン層5を介して外装樹脂4と接触している。ここで、外部から外装樹脂4内に水分が侵入するのを防止するためには、有機シラン層5は、陽極リード端子2及び陰極リード端子3の外装樹脂4で被覆されている部分21、31のうち、少なくとも外装樹脂4から露出または突出している部分22、32との境界部211、311の近傍表面に形成されていればよいが、前述のように外装樹脂4で覆われている部分21、31全域の表面と、コンデンサ素子1の表面にも形成されていることが好ましい。この場合、コンデンサ素子1、陽極リード端子2、陰極リード端子3と、外装樹脂4との密着性が向上するので、外装樹脂4内の水分がコンデンサ素子1に付着するのを防ぐことができ、固体電解コンデンサの特性の劣化を防止することができる。

【0013】

コンデンサ素子1は、例えば図2に示す構造を有する。すなわち、陽極リード10を植立したタンタル等の弁作用金属からなる陽極体11を有し、陽極体11の周面には誘電体皮膜12、固体電解質層13、陰極引出層14が順次形成されている。ここで、コンデンサ素子1の形状は図2に示す形状に限らず、例えば陽極体11として弁作用金属からなる箔を用いてもよい。

【0014】

有機シラン層5はシランカップリング剤から形成されており、コンデンサ素子1、陽極リード端子2、陰極リード端子3と、外装樹脂4との密着性を向上させる効果を有する。、陽極リード端子2及び陰極リード端子3のうち外装樹脂4から露出または突出する部分と外装樹脂4で被覆される部分との境界部近傍と外装樹脂4との密着性が向上することにより、外部から外装樹脂4の内部に水分が侵入することを防ぐことができ、外部から侵入する水分に起因する外装樹脂4のクラックの発生を抑止することができる。また、コンデンサ素子1と外装樹脂4との密着性が向上することにより、外装樹脂4からコンデンサ素子1に水分が浸入することを防ぐことができ、固体電解コンデンサの特性の劣化を抑えることができる。」

ウ.「【0016】

まず、本発明において、コンデンサ素子1の形成方法については、従来周知の方法を用いることができる。例えば、陽極リード10が突出するように配設し、金型等を用いて弁作用金属からなる粉末を加圧成形・焼結して陽極体11を作製する。次いで、酸溶液を準備し陽極体11を該酸溶液に浸漬する等して、陽極体11の周面に誘電体皮膜12を形成する。その後、二酸化マンガン等の無機半導体層や、TCNQ(7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン)錯塩等の有機半導体層、ポリピロールやポリチオフェン、ポリアニリン等の導電性高分子層からなる固体電解質層13を既知の手法により形成する。該固体電解質層13の表面に陰極引出層14を形成してコンデンサ素子1を作製する。固体電解質層13及び陰極引出層14は、単層からなっていてもよいし、複数の層から形成されていてもよい。また、複数の層とした場合、同一の材料からなる層を積層してもよいが、各々の層が異なる材料から形成されていてもよい。以下、陽極リード10を陽極部1a、固体電解質層13及び陰極層14を陰極部1bとする。」(なお、下から1行目の「陰極層14」は、「陰極引出層14」の誤記と認められる。)

エ.「【0018】

次に、シランカップリング剤溶液を準備する。シランカップリング剤としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等の従来周知の材料の中から、特に制限なく用いることができる。該シランカップリング剤溶液に用いる溶媒としては、シランカップリング剤を溶解または分散させることができるものであれば、特に限定されず、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ‐n-プロピルエーテル等のエチレングリコール類、プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン等のピロリドン類、ジメチルスルオキシド、γ-ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル、β-メトキシイソ酪酸メチル、α-ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル類等、アニリン、N-メチルアニリン等のアニリン類等を用いることができる。

・・・・(中 略)・・・・

【0020】

上記の材料、割合で作製したシランカップリング剤溶液を、前記のコンデンサ素子1の表面と、陽極リード端子2及び陰極リード端子3の外装樹脂4で被覆される部分21、31の表面に付着させる。シランカップリング剤溶液を付着させる方法としては、前記シランカップリング剤溶液に陽極リード端子2及び陰極リード端子3を接続したコンデンサ素子1を浸漬する方法や、陽極リード端子2、陰極リード端子3、コンデンサ素子1に前記シランカップリング剤溶液を塗布する方法等がある。その後、前記シランカップリング剤溶液を乾燥させることにより、有機シラン層5が形成される。・・(以下、略)」

オ.「【0022】

外装樹脂4を形成した後、外装樹脂4から突出している陽極リード端子2及び陰極リード端子3を、外装樹脂4に沿って陽極リード端子2及び陰極リード端子3の先端が同一平面上にくるように折り曲げて、図1に示す固体電解コンデンサを作製する。」

カ.「【0023】

(実施例1)

陽極リードが突出するように配置し、弁作用金属粉末を加圧成形し、焼結して陽極体を作製した。次いで該陽極体を酸溶液に浸漬し、該陽極体の周面に誘電体皮膜を形成した後、従来周知の方法で導電性高分子層からなる固体電解質層を形成した。その後、導電性カーボン層、銀ペースト層からなる陰極引出層を形成してコンデンサ素子を作製した。次に予め所定の形状に形成された陽極リード端子及び陰極リード端子上にコンデンサ素子を載置し、陽極リード端子とコンデンサ素子の陽極リード、陰極リード端子とコンデンサ素子の陰極引出部を夫々接続した。

【0024】

シランカップリング剤として、γ‐グリシドキシプロピルシランを0.2g、溶媒としてn-ブタノールを99.8g用いてシランカップリング剤溶液を準備し、陽極リード端子及び陰極リード端子の外装樹脂にて被覆される箇所及びコンデンサ素子を該シランカップリング剤溶液に浸漬した。その後、室温で10分~1時間放置した後、80℃~150℃で5~30分間乾燥を行った。

【0025】

上記のようにしてコンデンサ素子、陽極リード端子、陰極リード端子の表面に有機シラン層を形成した後、該コンデンサ素子と、陽極リード端子及び陰極リード端子の一部を外装樹脂にて被覆し、外装樹脂から突出している陽極リード端子及び陰極リード端子を外装樹脂に沿って先端が同一平面上にくるように折り曲げて固体電解コンデンサを作製した。

(実施例2)

シランカップリング剤としγ‐グリシドキシプロピルトリエトキシシランを0.5g、溶媒としてn-ブタノールを99.5g用いてシランカップリング剤溶液を作製したこと以外は実施例1と同様にして、固体電解コンデンサを作製した。

(実施例3)

シランカップリング剤として3-アミノプロピルトリメトキシシランを2g、溶媒としてn-ブタノールを98g用いてシランカップリング剤溶液を作製したこと以外は実施例1と同様にして、固体電解コンデンサを作製した。」

キ.「

[図:0001397720000005.jpg]

」

上記「ア.」ないし「キ.」から以下のことがいえる。

・引用例に記載の「固体電解コンデンサ」は、上記「ア.」ないし「ウ.」、「カ.」の段落【0025】の記載、及び「キ.」(図1、図2)によれば、陽極部1a(陽極リード10)及び陰極部1b(固体電解質層13及び陰極引出層14)を具えたコンデンサ素子1と、陽極部1aと接続する陽極リード端子2と、陰極部1bと接続する陰極リード端子3と、コンデンサ素子1を被覆する外装樹脂4とを具えた固体電解コンデンサであって、陽極リード端子2及び陰極リード端子3は、外装樹脂4から露出する部分を有し、陽極リード端子2及び陰極リード端子3の外装樹脂4で被覆されている部分の表面には有機シラン層5が形成され、有機シラン層5を介して外装樹脂4と接触している固体電解コンデンサである。

ここで、上記「オ.」、「カ.」の段落【0025】の記載、及び「キ.」の図1によれば、陽極リード端子2及び陰極リード端子3の外装樹脂4から露出する部分は、その先端が同一平面(底面)上にくるように外装樹脂4に沿って折り曲げられてなるものである。

・上記「イ.」の段落【0013】の記載、「キ.」の図2によれば、コンデンサ素子1は、陽極リード10を植立した弁作用金属からなる陽極体11を有し、陽極体11の周囲に誘電体皮膜12、固体電解質層13、陰極引出層14が順次形成されてなるものである。ここで、上記「ウ.」、「カ.」の段落【0023】の記載によれば、陽極体11は弁作用金属粉末を加圧成形・焼結して作製してなるものである。

・上記「ウ.」、「カ.」の段落【0023】の記載によれば、固体電解質層13は、ポリチオフェン等の導電性高分子層を既知の方法により形成してなるものである。

・上記「イ.」の段落【0014】の記載によれば、有機シラン層5は、シランカップリング剤から形成され、陽極リード端子2、陰極リード端子3と、外装樹脂4との密着性を向上させる効果を有し、それにより、外部から侵入する水分に起因する外装樹脂4のクラックの発生を抑止することができるものである。 そして、上記「エ.」の記載、「カ.」の段落【0024】~【0025】の記載によれば、シランカップリング剤としては、γ‐グリシドキシプロピルトリエトキシシランや3-アミノプロピルトリメトキシシランなどが用いられてなるものである。

・上記「カ.」の段落【0023】の記載によれば、陰極引出層14は、導電性カーボン層、銀ペースト層からなるものである。

以上のことから、特に有機シラン層5を形成するためのシランカップリング剤としてγ‐グリシドキシプロピルトリエトキシシランを用いる実施例2や3-アミノプロピルトリメトキシシランを用いる実施例3に係るものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「陽極リードを植立した、弁作用金属粉末を加圧成形・焼結してなる陽極体を有し、当該陽極体の周囲に誘電体皮膜、固体電解質層、導電性カーボン層と銀ペースト層からなる陰極引出層が順次形成されてなるコンデンサ素子と、前記陽極リードと接続する陽極リード端子と、前記固体電解質層及び前記陰極引出層と接続する陰極リード端子と、前記コンデンサ素子を被覆する外装樹脂とを備えた固体電解コンデンサであって、
前記固体電解質層は、ポリチオフェン等の導電性高分子層を既知の方法により形成してなるものであり、
前記陽極リード端子及び陰極リード端子は、前記外装樹脂から露出する部分を有し、当該露出する部分は、その先端が同一平面(底面)上にくるように前記外装樹脂に沿って折り曲げられてなり、
前記陽極リード端子及び陰極リード端子の前記外装樹脂で被覆されている部分の表面には有機シラン層が形成され、当該有機シラン層を介して前記外装樹脂と接触しており、
前記有機シラン層は、γ‐グリシドキシプロピルトリエトキシシランや3-アミノプロピルトリメトキシシランシランからなるカップリング剤から形成され、前記陽極リード端子、前記陰極リード端子と、前記外装樹脂との密着性を向上させる効果を有し、それにより、外部から侵入する水分に起因する前記外装樹脂のクラックの発生を抑止することができる、固体電解コンデンサ。」

(2)対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア.固体電解キャパシタ素子について

引用発明における「陽極体」は、弁作用金属粉末を加圧成形・焼結してなるものであり、本願補正発明でいう「焼結多孔質陽極体」に相当する。

また、引用発明における陽極体の周囲に順次形成されてなる「誘電体皮膜」、「固体電解質層」は、それぞれ本願補正発明でいう陽極体の上に配されている「誘電体」、誘電体の上に配されている「固体電解質」に相当する。

そして、引用発明における「コンデンサ素子」は、上述の誘電体を有し、その周囲に誘電体皮膜、及び固体電解質層が順次形成されてなるものであるから、本願補正発明でいう「固体電解キャパシタ素子」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、「焼結多孔質陽極体、前記陽極体の上に配されている誘電体、及び前記誘電体の上に配されている固体電解質を含む固体電解キャパシタ素子」を含むものである点で一致する。

イ.固体電解質について

固体電解質について、本願補正発明では「複数の導電性ポリマー粒子を含み、当該導電性ポリマー粒子が、次式(III):

[図:0001397720000006.jpg]

(式中、R7は、線状又は分岐の、C1~C18アルキル基、C5~C12シクロアルキル基、C6~C14アリール基,C7~C18アラルキル基、又はこれらの組合せであり;qは0~8の整数である)の繰り返し単位を有する外因性導電性ポリマー」を含むことを特定するのに対し、引用発明ではポリチオフェン等の導電性高分子層を既知の方法により形成してなるものである点で相違する。

ウ.陽極終端、陰極終端について

引用発明における「陽極リード端子」は、陽極リードと接続するものであるところ、当該陽極リードは陽極体に植立してなるものであるから、陽極体とも電気的に接続されているといえ、本願補正発明でいう陽極体と電気的に接続されている「陽極終端」に相当する。

同様に、引用発明における「陰極リード端子」は、固体電解質層及び陰極引出層と接続するものであるから、本願補正発明でいう固体電解質と電気的に接続されている「陰極終端」に相当する。

エ.第1被覆、第2の被覆について

引用発明における「有機シラン層」は、陽極リード端子及び陰極リード端子の外装樹脂で被覆されている部分の表面に形成されるものであることから、本願補正発明でいう陽極終端の少なくとも一部の上に配置されている「有機金属化合物を含む第1の被覆」、及び陰極終端の少なくとも一部の上に配置されている「有機金属化合物を含む第2の被覆」に相当するといえる。

さらに、引用発明における「有機シラン層」は、γ‐グリシドキシプロピルトリエトキシシランや3-アミノプロピルトリメトキシシランシランからなるカップリング剤から形成されてなるものであるところ、かかるγ‐グリシドキシプロピルトリエトキシシランや3-アミノプロピルトリメトキシシランシランは、本件の請求項1を引用する請求項5にも本願補正発明でいう「有機金属化合物」の例として列記されていることからも明らかなように、本願補正発明で特定する「次の一般式:

[図:0001397720000007.jpg]

(式中、Mは有機金属原子であり;R1、R2、及びR3は、独立して、アルキル又はヒドロキシアルキルであり、R1、R2、及びR3の少なくとも1つはヒドロキシアルキルであり;nは、0~8の整数であり;Xは、有機又は無機官能基である)」を有する有機金属化合物であると認められる(なおこの場合、Мはケイ素(Si)である。)。

オ.ケーシング材料について

引用発明における「外装樹脂」は、コンデンサ素子を被覆するものであり、コンデンサ素子を収容しているとみることができるものであるから、本願補正発明でいう「ケーシング材料」に対応するといえるものである。

ここで、引用発明における「陽極リード端子」及び「陰極リード端子」は、外装樹脂から露出する部分を有し、当該露出する部分は、その先端が同一平面(底面)上にくるように外装樹脂に沿って折り曲げられてなるものであるところ、先端が位置する「同一平面(底面)」は、技術常識からして本願補正発明でいう「実装面」に相当するといえる。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記キャパシタ素子を収容し、前記陽極終端及び前記陰極終端の実装面を露出した状態にしているケーシング材料」を含むものである点で共通するということができる。

ただし、ケーシング材料について、本願補正発明では「シリカを含有する」ことを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点で相違する。

カ.陰極被覆について

引用発明における陰極引出層は、固体電解質層の上に形成され、導電性カーボン層と銀ペースト層からなるものであるところ、このうちの「銀ペースト層」は、銀からなる金属粒子を含む層であることは自明なことであり、本願補正発明でいう「金属粒子層を含む陰極被覆」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記キャパシタ素子が、前記固体電解質の上に配されている金属粒子層を含む陰極被覆を更に含」むものである点で共通するといえる。

ただし、金属粒子層について、本願補正発明では「樹脂状ポリマーマトリクス内に分散されている複数の導電性金属粒子を含む」ことを特定するのに対し、引用発明ではそのような明確な特定がない点で相違する。

ク.キャパシタアセンブリについて

引用発明における「固体電解コンデンサ」は、コンデンサ素子、陽極リード端子、陰極リード端子、及びコンデンサ素子を被覆する外装樹脂とを備えたものであるから、本願補正発明でいう「キャパシタアセンブリ」に相当するといえるものである。

よって、上記「ア.」ないし「ク.」によれば、本願補正発明と引用発明とは、

「焼結多孔質陽極体、前記陽極体の上に配されている誘電体、及び前記誘電体の上に配されている固体電解質を含む固体電解キャパシタ素子、
前記陽極体と電気的に接続されている陽極終端、ここで前記陽極終端の少なくとも一部の上に有機金属化合物を含む第1の被覆が配置されている;
前記固体電解質と電気的に接続されている陰極終端、ここで前記陰極終端の少なくとも一部の上に有機金属化合物を含む第2の被覆が配置されている;及び
前記キャパシタ素子を収容し、前記陽極終端及び前記陰極終端の実装面を露出した状態にしているケーシング材料; を含むキャパシタアセンブリであって、
続きを表示(全15行)
前記第1の被覆の前記有機金属化合物、前記第2の被覆の前記有機金属化合物、又は両方が、次の一般式:
【化2】
[図:0001397720000008.jpg]
(式中、
Mは有機金属原子であり;
R1、R2、及びR3は、独立して、アルキル又はヒドロキシアルキルであり、R1、R2、及びR3の少なくとも1つはヒドロキシアルキルであり;
nは、0~8の整数であり;
Xは、有機又は無機官能基である)
を有し、
前記キャパシタ素子が、前記固体電解質の上に配されている金属粒子層を含む陰極被覆を更に含む、
前記キャパシタアセンブリ。」

である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]

固体電解質について、本願補正発明では「複数の導電性ポリマー粒子を含み、当該導電性ポリマー粒子が、次式(III):

[図:0001397720000009.jpg]

(式中、R7は、線状又は分岐の、C1~C18アルキル基、C5~C12シクロアルキル基、C6~C14アリール基,C7~C18アラルキル基、又はこれらの組合せであり;qは0~8の整数である)の繰り返し単位を有する外因性導電性ポリマー」を含むことを特定するのに対し、引用発明ではポリチオフェン等の導電性高分子層を既知の方法により形成してなるものである点。

[相違点2]

ケーシング材料について、本願補正発明では「シリカを含有する」ことを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点。

[相違点3]

金属粒子層について、本願補正発明では「樹脂状ポリマーマトリクス内に分散されている複数の導電性金属粒子を含む」ことを特定するのに対し、引用発明ではそのような明確な特定がない点。

(3)判断

上記各相違点について検討する。

[相違点1]について

引用発明における「固体電解質層」は、ポリチオフェン等の導電性高分子層を既知の方法により形成してなるものであるところ、原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特開2015-37192号公報(以下、「引用例2」という。)(特に段落【0020】~【0023】、【0026】~【0030】を参照)には、上記のような導電性高分子層を構成する導電性ポリマーであるポリチオフェンとして、本願補正発明において特定する式(III)で表される繰り返し単位を有する外因性導電性ポリマー(より具体的には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))を用いることが記載され、また、導電性高分子層を形成する方法として導電性ポリマー粒子の分散液を用いて形成することも記載されているところであり、引用発明においてもこれら引用例2に記載の技術事項を採用し、相違点1に係る構成とすることは当業者であれば容易になし得たことである。

[相違点2]について

例えば上記引用例2(特に段落【0042】~【0044】、【0062】を参照)、さらに原査定時に提示した国際公開第2014/034076号(特に段落[0035]、[0051]を参照)に記載されているように、コンデンサ素子を被覆(収容)する外装樹脂(カプセル化層、樹脂外装体)において、外装樹脂の線膨張係数の調整等のために、非導電性充填剤(フィラー)としてシリカを含有させることは周知といえる技術事項であり、引用発明においてもかかる周知の技術事項を採用し、相違点2に係る構成とすることは当業者であれば適宜なし得たことである。

[相違点3]について

本願補正発明でいう「金属粒子層を含む陰極被覆」に相当する引用発明における「銀ペースト層」について、このような固体電解コンデンサの陰極引出層を構成する銀ペースト層は、銀粒子をエポキシ樹脂などのバインダー樹脂に分散させた銀ペーストを塗布して硬化させることにより形成されるのが普通であり(必要であれば、例えば特開2011-86949号公報の段落【0040】~【0044】、【0048】~【0049】を参照)、当然、硬化して形成された銀ペースト層は、バインダー樹脂からなるマトリクス内に分散されている複数の銀粒子を含む状態である。

よって、引用発明における「銀ペースト層」は相違点3に係る構成を有するものであるといえ、当該相違点3は実質的な相違ではない。

また仮に、引用発明における「銀ペースト層」は相違点3に係る構成を有するものであるとまではいえないとしても、例えば特表2013-501359号公報の段落【0002】に「・・固体電解質コンデンサの陰極層は、・・典型的には、カーボン層;高導電性金属、典型的には、ポリマーまたは樹脂マトリックス中に拘束された銀を含む層であってよい陰極導電層;および銀で充填された接着剤などの導電接着層が挙げられる。」と記載されているように、陰極導電層を樹脂マトリックス中に拘束された銀を含む層で構成することは周知といえる技術事項であり、引用発明においても、「銀ペースト層」として樹脂マトリックス中に拘束された銀を含む層、すなわち相違点3に係る構成のものとすることは当業者であればごく普通になし得たことである。

そして、上記各相違点を総合勘案しても、本願補正発明が奏する効果は、特に引用発明における「有機シラン層」にあっても、陽極リード端子、陰極リード端子と、外装樹脂との密着性を向上させる効果を有し、それにより、外部から侵入する水分に起因する外装樹脂のクラックの発生を抑止することができるものであることを踏まえると、引用発明、引用文献2に記載の技術事項及び周知の技術事項から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

ここで、審判請求人は審判請求書において、「本願発明は、・・特定の組み合わせ、すなわち当該有機金属化合物被覆とシリカ含有ケーシングと特定構造の固体電解質との組み合わせを採用することにより、高い湿度において非常に高いレベルでクラック形成を抑制することができます。・・したがって、本願発明の効果は引用文献から予測できないほど顕著であり、本願発明の進歩性を裏付けております。」などと主張している。

しかしながら、本願明細書には、実施例1(有機金属化合物被覆がない比較例に相当するもの)と本願発明に対応する実施例2のみが示され、有機金属化合物被覆の有無によるクラック発生の抑制の効果が読み取れるだけであり、ケーシング材料がシリカを含有するか否かによるクラック発生の抑制の効果や、固体電解質が式(III)の繰り返し単位を有する外因性導電性ポリマーである否かによるクラック発生の抑制の効果についまでは読み取れない。さらに言えば、本願補正発明においては、「第1の被覆」及び「第2の被覆」が配置されるところについて、それぞれ陽極終端の「少なくとも一部の上」、陰極終端の「少なくとも一部の上」とだけ特定され、必ずしもケーシング材料から露出していない部分に配置されるとは特定されていないことや、ケーシング材料に含有されるシリカの含有量については何ら特定がなく、ごく僅かであっても良いものであることを踏まえると、本願補正発明が奏する効果が引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知の技術事項から予測できないほど顕著なものがあると認めることはできず、審判請求人の上記主張は採用できない。

3.本件補正についてのむすび

以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知の技術事項(引用例2等に記載の技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明

令和4年2月21日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和3年7月28日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。

「【請求項1】
焼結多孔質陽極体、前記陽極体の上に配されている誘電体、及び前記誘電体の上に配されている固体電解質を含む固体電解キャパシタ素子、ここで、前記固体電解質が複数の導電性ポリマー粒子を含み、当該導電性ポリマー粒子が、次式(III):
【化1】
[図:0001397720000010.jpg]
続きを表示(全12行)
(式中、
R7は、線状又は分岐の、C1~C18アルキル基、C5~C12シクロアルキル基、C6~C14アリール基,C7~C18アラルキル基、又はこれらの組合せであり;
qは0~8の整数である)
の繰り返し単位を有する外因性導電性ポリマーを含み;
前記陽極体と電気的に接続されている陽極終端、ここで前記陽極終端の少なくとも一部 の上に有機金属化合物を含む第1の被覆が配置されている;
前記固体電解質と電気的に接続されている陰極終端、ここで前記陰極終端の少なくとも 一部の上に有機金属化合物を含む第2の被覆が配置されている;及び
前記キャパシタ素子を収容し、前記陽極終端及び前記陰極終端の実装面を露出した状態 にしている、シリカを含有するケーシング材料;
を含むキャパシタアセンブリ。」

2.原査定の概要

本願の請求項1に対する原査定(令和3年10月13日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。

この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1-2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明に属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記

引用文献1:特開2009-295660号公報
引用文献2:特開2015-37192号公報

3.引用例、引用発明

原査定の拒絶の理由で引用された引用例(引用文献1)、及び引用発明は、前記「第2 2.(1)」に記載したとおりである。

4.対比・判断

本願発明は、上記「第2 2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である、第1及び第2の被覆の「有機金属化合物」について、「次の一般式:

[図:0001397720000011.jpg]

(式中、Mは有機金属原子であり;R1、R2、及びR3は、独立して、アルキル又はヒドロキシアルキルであり、R1、R2、及びR3の少なくとも1つはヒドロキシアルキルであり; nは、0~8の整数であり;Xは、有機又は無機官能基である)」を有するものであることの限定を省くとともに、同じく本願補正発明の発明特定事項である「キャパシタ素子」について、「前記固体電解質の上に配されている金属粒子層を含む陰極被覆を更に含み、前記金属粒子層は樹脂状ポリマーマトリクス内に分散されている複数の導電性金属粒子を含む」ことの限定、すなわち上記「第2 2.(2)」で認定した相違点3に係る構成を省いたものに相当する。

そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の限定事項を付加したものに相当する本願補正発明が上記「第2 2.(3)」に記載したとおり、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知の技術事項(引用例2等に記載の技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知の技術事項(引用例2等に記載の技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2022-002521

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