特許拒絶査定不服審判
2022-001923
間葉系幹細胞
- 審判番号
- 2022-001923
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-235762
- 請求日
- 2022年02月09日
- 審決日
- 2024年02月27日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】グラドコフ・アレクセイ
- 【請求人代理人】小林 義孝
- 【請求人】グラドコワ・ニナ
- 【請求人代理人】小林 義孝
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 啓子
- 審判官 上條 肇
- 審判官 飯室 里美
- 分類
- P18 .536-WZ (C12N) / P18 .537-WZ (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2016-235762「間葉系幹細胞」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月15日出願公開、特開2017-104106〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成28年12月 5日(優先権主張 平成27年12月 7日)を出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和 2年 6月26日付け:拒絶理由通知書
令和 2年10月27日 :意見書・手続補正書の提出
令和 3年 3月18日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 7月21日 :意見書の提出
令和 3年11月 8日付け:拒絶査定
令和 4年 2月 9日 :審判請求書・手続補正書の提出
令和 5年 6月13日付け:拒絶理由通知書
令和 5年 9月19日 :意見書・手続補正書の提出
(以下、令和5年9月19日提出の手続補正書による手続補正を
「本件補正」という。)
第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「 【請求項1】
ドナーから採取した原料骨髄液から作られる間葉系幹細胞において、
前記間葉系幹細胞は、前記ドナーから採取した原料骨髄液を層状に分離し、層状に分離させた前記原料骨髄液のうちの中間層に位置する中間層骨髄液を抽出し、所定容量かつ所定面積の底面を有する第1培養容器に前記中間層骨髄液と培養液とを注入した後、前記第1培養容器を2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で所定時間静的に放置しつつ所定の時間間隔で該第1培養容器内の第1幹細胞の初期平面形状からの変形を観察し、前記第1幹細胞の変形を観察の結果、前記第1幹細胞が初期平面形状から所定の平面形状に変形した場合、前記第1幹細胞が前記第1培養容器の底面に定着したと判断し、前記第1幹細胞が前記第1培養容器の底面に定着した後、前記第1培養容器内の培養液を排出しつつ、あらたな培養液を該第1培養容器に注入し、前記第1培養容器を2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で所定時間静的に放置しつつ所定の時間間隔で該第1培養容器の底面に定着した前記第1幹細胞の該第1培養容器の底面面積に対する総平面面積を観察し、前記第1幹細胞の総平面面積を観察の結果、前記第1培養容器の底面において前記第1幹細胞が増殖して該第1幹細胞の平面形状が拡張し、前記第1幹細胞の総平面面積が前記第1培養容器の底面面積に対して第1目標割合に達した場合、前記第1培養容器から前記第1幹細胞を抽出する第1培養手段と、前記抽出した第1幹細胞を分離容器に注入し、前記分離容器を遠心分離器に設置して第1幹細胞を遠心分離させ、前記第1幹細胞を分離容器内において層状に分離させた後、層状に分離させた前記第1幹細胞のうちの最下層に位置する第2幹細胞を抽出するとともに、所定容量かつ所定面積の底面を有して前記第1培養容器よりも大きい容量かつ大きい底面面積の第2培養容器に前記第2幹細胞とあらたな培養液とを注入し、前記第2培養容器を所定時間静的に放置して前記第2幹細胞を該第2培養容器の底面に定着させた後、前記第2培養容器内の培養液を排出しつつ、あらたな培養液を該第2培養容器に注入して前記第2幹細胞を増殖させ、前記第2培養容器の底面において前記第2幹細胞の平面形状が拡張して該第2培養容器の底面面積に対する該第2幹細胞の総平面面積が第2目標割合に達した場合、前記第2培養容器から前記第2幹細胞を抽出する第2培養手段とを実施することから作られており、
前記第2培養手段では、前記抽出した第2幹細胞とあらたな培養液とを前記第2培養容器に注入した後、前記第2培養容器を2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で所定時間静的に放置しつつ所定の時間間隔で該第2培養容器内の前記第2幹細胞の初期平面形状からの変形を観察し、前記第2幹細胞の変形を観察の結果、前記第2幹細胞が初期平面形状から所定の平面形状に変形した場合、前記第2幹細胞が前記第2培養容器の底面に定着したと判断し、前記第2培養容器内の培養液を排出しつつ、あらたな培養液を該第2培養容器に注入し、前記第2培養容器を2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で所定時間静的に放置しつつ所定の時間間隔で該第2培養容器の底面に定着した前記第2幹細胞の該第2培養容器の底面面積に対する総平面面積を観察し、前記第2幹細胞の総平面積を観察の結果、前記第2幹細胞が増殖して該第2幹細胞の平面形状が拡張し、前記第2幹細胞の総平面面積が前記第2培養容器の底面面積に対して第2目標割合に達した場合、前記第2培養容器から前記第2幹細胞を抽出し、
前記ドナーから採取した原料骨髄液が2~3ccであり、前記2~3ccの原料骨髄液を上下方向へ延びる分離容器に注入し、前記分離容器を体温と略同一の温度で所定時間静的に放置して該原料骨髄液を該分離容器内において上下方向へ層状に分離させ、前記分離容器内において層状に分離した前記原料骨髄液のうちの中間層に位置する前記中間層骨髄液を抽出し、前記第1培養容器の容量が約20~30ccであり、前記第1培養容器の底面面積が25~36mm2であり、前記第1培養手段では、前記中間層骨髄液と前記培養液とを前記第1培養容器に注入した後、前記第1培養容器を前記2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で該第1培養容器を体温と略同一の温度で12~24時間静的に放置しつつ、前記12~24時間の間において約1~2時間間隔で前記第1培養容器内の第1幹細胞の初期平面形状からの変形を観察し、前記第1幹細胞が略円形の初期平面形状から前記略円形を核として該第1幹細胞が一方向へ不定形に拡張した扁平形状に変形した場合、該第1幹細胞が前記第1培養容器の底面に定着したと判断し、
前記第2培養容器の容量が約40~60ccであり、前記第2培養容器の底面面積が50~72mm2であり、前記第2培養手段では、前記第2幹細胞とあらたな培養液とを前記第2培養容器に注入した後、前記第2培養容器を前記2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で該第2培養容器を体温と略同一の温度で36~48時間静的に放置しつつ、前記36~48時間の間において約1~2時間間隔で前記第2培養容器内の第2幹細胞の初期平面形状からの変形を観察し、前記第2幹細胞が略円形の初期平面形状から該第2幹細胞が前記略円形を核として不定形の扁平形状に変形した場合、該第2幹細胞が前記第2培養容器の底面に定着したと判断し、
前記第2培養容器の底面面積に対する前記第2幹細胞の総平面面積の第2目標割合が88~92%であり、前記第2培養手段では、前記第2幹細胞が前記第2培養容器の底面に定着した後、前記第2培養容器内の培養液を排出しつつ、あらたな培養液を該第2培養容器に注入し、前記第2培養容器を前記2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で該第2培養容器を体温と略同一の温度で36~48時間静的に放置しつつ、前記36~48時間の間において約1~2時間間隔で前記第2培養容器の底面に定着した前記第2幹細胞の該第2培養容器の底面面積に対する総平面面積を観察することを特徴とする間葉系幹細胞。」
第3 当審における拒絶の理由
令和 5年 6月13日付けで当審が通知した拒絶理由の理由1、2、5の概要は、次のとおりのものである。
1 理由1(サポート要件)、理由2(実施可能要件)
本件補正前(令和4年2月9日提出の手続補正書)の特許請求の範囲の請求項1~9に記載された発明は、
(1)発明の詳細な説明の記載内容にかかわらず、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるとは認められず、
(2)一連の工程に付することにより上記のような課題を解決し得ることを明らかにするに足る理論的な説明があるとは認められず、
(3)実際の実験結果を伴う実施例の記載と評価し得る記載があるとも認められない
から、本願は特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない。
同様の理由により、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていない。
理由5(明確性)
本件補正前(令和4年2月9日提出の手続補正書)の請求項1の記載からでは、出願時の技術常識を考慮しても、当該請求項1で特定される幹細胞の物としての特徴を当業者が理解できるとはいえず、細胞処理の履歴が明らかでないドナーから採取した原料骨髄液から作られる間葉系幹細胞が、当該請求項1の発明特定事項を満たすか否かの判断を行うことは困難であると認められるので、当該請求項1の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼしうる程度に不明確であるといえる。
したがって、本願は特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性)を満たしていない。
また、請求項1を引用する請求項2~9についても同様である。
第4 理由1(サポート要件)、理由2(実施可能要件)について
1 本願発明が解決しようとする課題
本願発明が解決しようとする課題は、【0005】の記載によれば、「多種雑多な幹細胞を含むことがなく、各種の疾患に対する治療の効果や再生医療における再生の効果が大きく、各種の疾患を完治させる確立が高いとともに各種の組織や各種の臓器を再生させる確立が高い間葉系幹細胞を提供すること」であると認められる。
2 特許法36条6項1号所定の要件(サポート要件)について
知的財産高等裁判所は、知財高判平22・4・27(平21(行ケ)10296号)において、「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、サポート要件の存在は、特許出願人又は特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である。」と説示し、以下の3点について判断し、いずれも満たさない場合に明細書のサポート要件に適合するとはいえないとしている。
(1)発明の詳細な説明の記載内容にかかわらず、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できること
(2)一連の工程に付することにより上記のような課題を解決し得ることを明らかにするに足る理論的な説明があること
(3)実際の実験結果を伴う実施例の記載と評価し得る記載があること
3 本願のサポート要件の充足の有無について
上記第2のとおり、本願発明は本件補正後の請求項1に記載されたとおりのものであるところ、本件補正後の請求項1は、本件補正前(令和4年2月9日提出)の特許請求の範囲の請求項1に同請求項2、3、5、6に記載された構成要件を加えたものである。
よって、以下、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1~3、5、6に対して当審が通知した拒絶理由の項目に沿って、明細書のサポート要件に適合するか否かにつき、上記(1)~(3)の観点から順次検討する。
(1)発明の詳細な説明の記載内容にかかわらず、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できること
上記本願発明の各工程である、
「ドナーから採取した原料骨髄液を層状に分離し、層状に分離させた前記原料骨髄液のうちの中間層に位置する中間層骨髄液」と「培養液」とを「第1培養容器」に「注入」し、
「前記第1培養容器を2~5°の範囲の傾斜角度に傾斜させた状態で該第1培養容器を体温と略同一の温度で12~24時間静的に放置」して「第1幹細胞が前記第1培養容器の底面に定着した後」、
「第1培養容器内の培養液を排出しつつ、あらたな培養液を該第1培養容器に注入し」て、
「前記第1培養容器を2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で所定時間静的に放置し」、
「第1培養容器の底面において前記第1幹細胞が増殖して該第1幹細胞の平面形状が拡張し、前記第1幹細胞の総平面面積が前記第1培養容器の底面面積に対して第1目標割合に達した場合、前記第1培養容器から前記第1幹細胞を抽出する」「第1培養手段」、
「抽出した第1幹細胞を分離容器に注入し、前記分離容器を遠心分離器に設置して第1幹細胞を遠心分離させ」、「前記第1幹細胞を分離容器内において層状に分離させた後」、
「層状に分離させた前記第1幹細胞のうちの最下層に位置する第2幹細胞を抽出」し、
「前記第1培養容器よりも大きい容量かつ大きい底面面積の第2培養容器に前記第2幹細胞とあらたな培養液とを注入し」、
「前記第2培養容器を所定時間静的に放置して前記第2幹細胞を該第2培養容器の底面に定着させ」、
「前記第2培養容器内の培養液を排出しつつ、あらたな培養液を該第2培養容器に注入して前記第2幹細胞を増殖」し、
「前記第2培養容器の底面において前記第2幹細胞の平面形状が拡張して該第2培養容器の底面面積に対する該第2幹細胞の総平面面積が第2目標割合に達した場合、前記第2培養容器から前記第2幹細胞を抽出する」「第2培養手段」
「前記抽出した第2幹細胞とあらたな培養液とを前記第2培養容器に注入した後、前記第2培養容器を2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で所定時間静的に放置しつつ」「前記第2幹細胞の総平面面積が前記第2培養容器の底面面積に対して第2目標割合に達した場合、前記第2培養容器から前記第2幹細胞を抽出」し、
「前記ドナーから採取した原料骨髄液が2~3ccであり、前記2~3ccの原料骨髄液を上下方向へ延びる分離容器に注入し、前記分離容器を体温と略同一の温度で所定時間静的に放置して該原料骨髄液を該分離容器内において上下方向へ層状に分離させ、前記分離容器内において層状に分離した前記原料骨髄液のうちの中間層に位置する前記中間層骨髄液を抽出」し、
「前記第1培養容器の容量が約20~30ccであり、前記第1培養容器の底面面積が25~36mm2」であり、
「前記第1培養手段では、前記中間層骨髄液と前記培養液とを前記第1培養容器に注入した後、前記第1培養容器を前記2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で該第1培養容器を体温と略同一の温度で12~24時間静的に放置」し、
「前記第2培養容器の容量が約40~60ccであり、前記第2培養容器の底面面積が50~72mm2」であり、
「前記第2培養手段では、前記第2幹細胞とあらたな培養液とを前記第2培養容器に注入した後、前記第2培養容器を前記2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で該第2培養容器を体温と略同一の温度で36~48時間静的に放置」し、
「前記第2培養容器の底面面積に対する前記第2幹細胞の総平面面積の第2目標割合が88~92%」であり、
「前記第2培養手段では、前記第2幹細胞が前記第2培養容器の底面に定着した後、前記第2培養容器内の培養液を排出しつつ、あらたな培養液を該第2培養容器に注入」し、
「前記第2培養容器を前記2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で該第2培養容器を体温と略同一の温度で36~48時間静的に放置」すること、または、それら工程をさらに特定の条件や判断に基づいて行うことによって、「多種雑多な幹細胞を含むことがなく、各種の疾患に対する治療の効果や再生医療における再生の効果が大きく、各種の疾患を完治させる確立が高いとともに各種の組織や各種の臓器を再生させる確立が高い間葉系幹細胞」が得られることについての技術常識はない。
したがって、当業者が、その出願時の技術常識に照らし、間葉系幹細胞を上記一連の工程に付することにより、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めることはできない。
(2)一連の工程に付することにより上記のような課題を解決し得ることを明らかにするに足る理論的な説明があること
本願明細書の発明の詳細な説明には、間葉系幹細胞を上記一連の工程に付することにより、上記課題を解決しうることを明らかにするに足る理論的な説明の記載はない。
(3)実際の実験結果を伴う実施例の記載と評価し得る記載があること
本願の発明の詳細な説明には、【実施例】の欄はない。そこで、【発明を実施するための形態】の欄を中心に、発明の詳細な説明全体に、実際の実験結果を伴う実施例の記載と評価しうる記載があるといえるか否かについて、以下、本願発明の発明特定事項ごとに検討する。
ア 「ドナーから採取した原料骨髄液を層状に分離し、層状に分離させた前記原料骨髄液のうちの中間層に位置する中間層骨髄液」
「ガラス試験管20を恒温槽22に所定時間(約2時間)静的に放置することで、図4に示すように、試験管20に注入された原料骨髄液19が試験管20内において上下方向へ何層か(3層)の層状に分離する。幹細胞の培養には通常150~200cc(150~200ml)の骨髄液が必要とされているが、幹細胞培養システム10は、ドナーから採取された2~3ccの少量の原料骨髄液19から間葉系幹細胞が作られるから、ドナーから2~3ccの少量の原料骨髄液19を採取すればよく、原料骨髄液19の採取時にドナーにかかる負担を最小限にすることができる。原料骨髄液19を層状に分離させた骨髄液分離手段の後、骨髄液抽出手段が行われる。骨髄液抽出手段では、層状に分離した原料骨髄液19から中間層骨髄液23を抽出する。」(【0041】~【0042】)と記載されるのみで、骨髄液のサンプル数(ドナー数)や骨髄採取部位は開示されていない。
また、原料骨髄液29が試験管30内において上下方向へ何層の層に分離するかは「何層か(3層)」として記載されており、参照先の図4についても、明らかに模式図に過ぎず、実際の実験結果に基づき層状に分離させた原料骨髄液19が入ったガラス試験管20の状態を写したものであるともいえないから、実際に実験が行われた上で、その実験で用いられた細胞の種類や取得方法を示したものとはいえない。
イ 「培養液」、「あらたな培養液」
「培養液24には、ペニシリン(約100U/ml)、アムホテリシン(約100ng/ml)、ストレプトマイシン(約100mkg/ml)、L-グルタミン(約2~4ml)、20%ウシ胎児血清を添加したミネラル塩溶液およびアミノ酸が含まれる。」と記載されるのみで(【0051】)、実験時に用いた培地がどの基本組成を用い、添加物のミネラル塩やアミノ酸の種類、それらの組成比が何であるか、さらには培養液の「注入」量についても具体的に示されていないから、実際に実験が行われた上で、その実験で用いられた培養液を示したものとはいえない。
ウ 「第1培養容器」の材質
「第1扁平培養容器25(第1培養容器)は、透明なガラスまたは透明なプラスチックから作られ、」と記載されるのみで(【0049】)、実際に実験に用いられた扁平培養容器25の素材がガラスとプラスチックのどちらであったのか、培養容器の培養面には様々な種類の表面処理が用いられるのが常であるが、また表面処理としてどのような形状のものや化学処理が使用され、またはされなかったのかについては、何ら開示していないから、実際に実験が行われた上で、その実験で用いられた第1培養容器の材質を示したものとはいえない。
エ 「第1培養容器」の一辺の長さと容積
容量が約20~30cc(好ましくは、25cc)であり、その底面面積が約25~36mm2であること、培養容器25は、その一辺の長さが5~6mmであると記載されているが(【0049】)、実験を行うに際して用いる道具は、必然的に特定の容量と底面面積からなる特定の具体的な容器を使用するものであり、かつ、その数値が範囲となることはありえないことである。
さらに、休眠幹細胞定着手段で使用される第1扁平培養容器21は、その底面面積が約25~36mm2、その一辺の長さが5~6mmである一方で、その容量が約20~30cc(好ましくは、25cc)であることを考慮すると(【0049】)、扁平培養容器の上下方向の厚みはおよそ1000mmすなわち1m必要であり、明らかに扁平形状にならず、かつそのような嵩高い容器では細胞は培養容器側面に付着してしまい、底面に定着させることも、底面を下にしたままスペーサーによって容器を傾斜させることも、mmオーダーのものしか収納できない電子顕微鏡の試料ホルダに設置して容器底面の細胞を観察することもできないことは明らかである。
このように「第1培養容器」の一辺の長さと容積に係る記載には著しい矛盾があり、実際に実験が行われた上で、その実験で用いられた第1培養容器の一辺の長さと容積を示したものとはいえない。
オ 「第1培養容器」の「傾斜角度」
「2~5°の範囲にあり、好ましくは、2~3°の範囲にある。」と範囲で表記するのみで(【0052】)、培養容器の傾斜角度の実測値やそれに代わる試料ホルダ37の高さや位置関係を具体的に開示していない。
また、「培養容器25の頂部32の側(または底部34の側)において中間層骨髄液23と培養液24との水圧が大きくなって第1間葉系幹細胞27が培養容器25の底面28の側に集中し、それによって第1間葉系幹細胞27どうしの活性が高まり、培養容器25の底面28において第1間葉系幹細胞27を容易かつ迅速に定着させることができる」と記載されている(【0053】、(【0066】)。
しかしながら、水圧差が生じたことについて何ら具体的に確認されていないし、わずか数mmの大きさの容器に粘性のある培地を格納することにおいて生じる表面張力等の他の影響を超えて、2~5°の範囲の傾きで細胞の特性に影響を及ぼす程度の水圧差が生じるといえる具体的な根拠もない。
このように、「第1培養容器」の「傾斜角度」についての記載は、実際に実験が行われた上で、その実験で用いられた第1培養容器の傾斜角度を示したものとはいえない。
カ 「第1幹細胞を前記第1培養容器の底面に定着させ」るまでの静的放置時間と定着したとされる「初期平面形状から所定の平面形状に変形した」細胞の形状
「コンピュータ11は、電子顕微鏡13から送信された第1間葉系幹細胞27の平面形状の拡大画像と撮影時間とをドナー識別子に関連付けた状態で記憶領域に格納(記憶)する(幹細胞画像記憶手段)。コンピュータ11は、電子顕微鏡13から送信された幹細胞28の平面形状の拡大画像と撮影時間とをディスプレイ16に表示する。担当者は、ディスプレイ16に表示された幹細胞27の平面形状の拡大画像を12~24時間の間において約1~2時間間隔で確認(視認)し、中間層骨髄液23に含まれる幹細胞27の平面形状の変化を観察する。なお、担当者が電子顕微鏡13の観察窓から第1間葉系幹細胞27の平面形状の変化を12~24時間の間において約1~2時間間隔で直接観察してもよい。第1間葉系幹細胞27の初期平面形状は略円形であり、幹細胞27の平面形状が略円形の場合、幹細胞27が第1扁平培養容器25の底面28(底壁内面)に定着しておらず、幹細胞27が増殖(分化)を開始していない。第1間葉系幹細胞27の変形後の平面形状は定着前の略円形を核として幹細胞27が一方向(所定方向)へ不定形に拡張(伸張)した扁平形状であり、幹細胞27が培養容器25の底面28(底壁内面)に定着し、幹細胞27が増殖(分化)を開始している。担当者は、幹細胞第1観察手段における観察の結果、図7に示すように、ディスプレイ16に表示された第1間葉系幹細胞27の平面形状の拡大画像が略円形のまま観察される場合、幹細胞27が培養容器25の底面28(底壁内面)に定着していないと判断し、幹細胞27の平面形状の変化を約1~2時間間隔で継続して観察する。担当者は、幹細胞第1観察手段における観察の結果、図8に示すように、ディスプレイ16に表示された第1間葉系幹細胞27の平面形状が略円形から略円形を核として不定形の扁平形状に変形した場合、幹細胞27が培養容器25の底面28に定着したと判断する。」とあるものの(【0055】~【0057】)、具体的に幹細胞27が培養容器25の底面28に定着するまでに要した静的放置時間(培養時間)が何時間であったのかは具体的に開示されていない。
「初期平面形状から所定の平面形状に変形した」細胞の形状について、略円形から略円形を核として不定形の扁平形状と判断される根拠としては図8等が開示されるのみであり、当該図8等は明らかに模式図に過ぎず、実際の実験結果に基づき電子顕微鏡の幹細胞画像記憶手段に記憶された細胞の形状をそのまま出力したものであるともいえない。
このように「休眠幹細胞を前記第1培養容器の底面に定着させ」るまでの静的放置時間と定着したとされる細胞の形状についての記載は、実際に実験が行われた上で、その実験に要した時間と得られた細胞の形状を示したものとはいえない。
キ 「第1培養容器の底面において前記第1幹細胞が増殖して該第1幹細胞の平面形状が拡張し、前記第1幹細胞の総平面面積が前記第1培養容器の底面面積に対して第1目標割合に達した」、「前記第2培養容器の底面において前記第2幹細胞の平面形状が拡張して該第2培養容器の底面面積に対する該第2幹細胞の総平面面積が第2目標割合に達した」
第1培養容器の底面積の大きさが異なれば、第1目標割合に相当する平面面積も第1培養容器の底面積と連動して異なることとなる。第1培養容器の底面面積はカで述べたとおり、底面面積が約25~36mm2と底面面積に40%程度の開きがあるにも関わらず、実験を行うに際して用いられた培養容器及び第1目標割合に相当する総平面面積が具体的に開示されていないから、実際に実験が行われた上で、その実験で設定された休眠幹細胞の総平面面積や第1目標割合を示したものとはいえない。
第2培養容器についても同様である。
ク 「遠心分離」
発明の詳細な説明には、「担当者は、ピペット内の第1間葉系幹細胞27をそのガラス試験管30に注入(収容)し、ガラス試験管30を遠心分離器29に設置(セット)する。担当者は、幹細胞27を遠心分離器29によって所定時間遠心分離した後、ガラス試験管30を遠心分離器29から取り出す。ガラス試験管30内の第1間葉系幹細胞27は、遠心分離器29によって上下方向へ2層の層状に分離する。図11は、幹細胞第2抽出手段に使用されるガラス試験管30の斜視図である。第1間葉系幹細胞27を層状に分離させた幹細胞分離手段の後、幹細胞第2抽出手段が行われる。幹細胞第2抽出手段では、層状に分離した第1間葉系幹細胞27から下層(最下層)に位置する第2間葉系幹細胞31を抽出する。医師や看護師、研究者等の担当者は、遠心分離器29によって第1間葉系幹細胞27を上下方向へ層状に分離させた後、ガラス試験管30を遠心分離器29から取り出し、ディスプレイ16に表示された幹細胞分離終了ボタンをクリックする。」と記載されている(【0079】~【0080】)。
しかしながら、遠心分離により沈降する細胞の種類は遠心加速度や溶液の密度・粘度の各条件毎に異なるところ、遠心分離の際に用いられた遠心加速度条件、溶液又は培地の条件が明らかではない。また上下方向へ2層の層状に分離したとされるが、下層を上層と区別するための技術的な特徴がどのようなものであるかは、全く開示されていないから、実際に実験が行われた上で、その実験で確認された第1幹細胞の遠心分離工程や最下層の分離状態を示したものとはいえない。
ケ 「第1培養容器よりも大きい容量かつ大きい底面面積の第2培養容器」の一辺の長さと容積
第2扁平培養容器26は、その容量が約40~60cc(好ましくは、50cc)であり、その底面面積が約50~72mm2であること、培養容器39は、その一辺の長さが約7~8.5mmであるであると記載されているが(【0091】)、実験を行うに際して用いる道具は、必然的に特定の容量と底面面積からなる特定の具体的な容器を使用するものであり、かつ、その数値が範囲となることはありえないことである。
さらに、幹細胞第3観察手段で使用される第2扁平培養容器26(第2培養容器)は、その底面面積が約50~72mm2、その一辺の長さが約7~8.5mmである一方で、その容量が約40~60cc(好ましくは、50cc)であることを考慮すると(【0140】)、扁平培養容器の上下方向の厚みはおよそ1000mmすなわち1m必要であり、明らかに扁平形状にならず、かつそのような嵩高い容器では細胞は培養容器側面に付着してしまい、底面に定着させることも、底面を下にしたままスペーサーによって容器を傾斜させることも、mmオーダーのものしか収納できない電子顕微鏡の試料ホルダに設置して容器底面の細胞を観察することもできないことは明らかである。
このように「第2培養容器」の一辺の長さと容積に係る記載には著しい矛盾があり、実際に実験が行われた上で、その実験で用いられた第2培養容器の一辺の長さと容積を示したものとはいえない。
コ 「多種雑多な幹細胞を含むことがなく、各種の疾患に対する治療の効果や再生医療における再生の効果が大きく、各種の疾患を完治させる確立が高いとともに各種の組織や各種の臓器を再生させる確立が高い間葉系幹細胞」であったこと
細胞分離手段は、「ドナーから採取した原料骨髄液を層状に分離し、層状に分離させた前記原料骨髄液のうちの中間層に位置する中間層骨髄液」を用い、遠心分離器29によって上下方向へ2層の層状に分離したものを用いているに過ぎず、単一細胞に分離してからコロニー形成、培養をするなどのシングルセルクローン培養を行っていないので、発明の詳細な説明に記載された多種雑多な幹細胞を含むことがないことが具体的に確認されていない。
また、「各種の疾患に対する治療の効果や再生医療における再生の効果が大きく、各種の疾患を完治させる確立が高いとともに各種の組織や各種の臓器を再生させる確立が高い」といえるための具体的に得られた細胞の細胞増殖速度等の実測値についても何ら開示されていないから、実際に実験が行われた上で、その実験で得られた細胞が上記条件を満たすことが確認されたことを示したものとはいえない。
これらア~コにおける各種実験条件は、本願発明を実施するに際して必然的に特定の種類、組成及び数値に設定するものであり、かつその種類、組成及び数値を明細書に記載すること自体に技術的困難性は全くないにもかかわらず、上述のとおり記載が不足している。
このように、本願明細書においては、「多種雑多な幹細胞を含むことがなく、各種の疾患に対する治療の効果や再生医療における再生の効果が大きく、各種の疾患を完治させる確立が高いとともに各種の組織や各種の臓器を再生させる確立が高い間葉系幹細胞」となることについて細胞の状態を具体的に左右する上で重要な関係を有する具体的な実験条件ア~ケ及び前記課題を解決したことを示す実験結果コを伴う実施例の記載がないものといわざるを得ず、これらの実際の数値等を開示した実施例の記載のない本願明細書は、技術文献としての客観性を欠き、これに接した当業者は、特許請求の範囲に記載された発明が前記課題を解決できることを認識できないといわざるを得ない。
そうすれば、上記発明の詳細な説明において一連の工程を具体的に記載している記載は各処理工程のいずれについても、実際の実験結果を伴う実施例の記載とはいえず、これら記載以外に、実際の実験結果を伴う実施例の記載と評価し得る記載もない。
(4) 小括
以上のとおり、本願発明は、明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が前記課題を解決できると認識できる範囲のものではない。
また、上述のとおりの理由により、発明の詳細な説明には、本願発明の「活性化幹細胞」を実際に製造するための、請求項1に記載された各発明特定事項についての具体的な記載が不足しており、請求項1に記載された各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものと認めることはできない。
したがって、本願は、請求項1について、明細書のサポート要件及び実施可能要件を満たしていない。
4 請求人が別件の審査過程で提出した実験成績証明書についての特別の事情
(1)特願2017-087339号の平成30年7月4日付け手続補足書に添付した実験成績証明書
請求人は、特願2017-087339号について平成30年7月4日付け手続補足書に添付して、実験日を平成30年6月25日、実験場所を東京都港区高輪一丁目17番13号、実験者をグラドコフ アレクセイとする、発明の実施可能性及び有用性を証明する実験データを示す実験成績証明書を「上記記載事項が事実に相違ないことを証明」するとして提出した。
(2)実験成績証明書に実際の実験結果と評価し得る記載があるかについて
ア 「ドナーから採取した骨髄液を培養することから作られた単一種の幹細胞」
実験成績証明書には、「保存する前の幹細胞(ドナーから採取した骨髄液を培養することから作られた単一種(特定種類)の間葉系幹細胞)と保存された後の休眠幹細胞とは、同一の幹細胞です。」と記載されるのみで((五)実験の条件 1.)、骨髄液のサンプル数(ドナー数)や骨髄採取部位を具体的に特定して開示しておらず、骨髄液から単一種幹細胞にするまでの精製方法、単一種であることの確認方法とその結果も開示されていないから、実際に実験が行われた上で、その実験で用いられた単一種間葉系幹細胞の取得方法を示したものとはいえない。
イ 「所定期間保存した後の休眠状態」
実験成績証明書には、「保存された休眠幹細胞は、骨髄液を培養することから作られた単一種(特定種類)の幹細胞を幹細胞収容容器に収容した状態で冷蔵庫または冷凍庫において所定期間、所定温度(3~5℃または冷凍保存)で保存されたものです。」と記載されるのみで((五)実験の条件 4.)、保存処理時に具体的に用いた装置(冷蔵庫なのか冷凍庫なのか)、実験時の保存期間や保存温度の実測値を記載していないから、実際に実験が行われた上で、その実験で用いられた細胞の保存方法を示したものとはいえない。
ウ 「培養液」、「あらたな培養液」
実験成績証明書には、「実験1では、培養液(培養液には、出願当初の明細書の段落「0052」及び「0053」に記載されたそれを使用しましたと記載されるのみであり((五)実験の条件 2.)、特願2017-087339号出願当初の明細書の段落「0052」及び「0053」の記載は、
「【0052】
培養液23には、ペニシリン(約100U/ml)、アムホテリシン(約100ng/ml)、ストレプトマイシン(約100mkg/ml)、L-グルタミン(約2~4ml)、20%ウシ胎児血清を添加したミネラル塩溶液およびアミノ酸が含まれる。第1扁平培養容器21に注入された休眠幹細胞22は、時間の経過とともに培養容器21の底面25に定着しつつ、培養液23と培養生成液24との混合培養液26によって培養され、培養容器21の底面25において次第に増殖(分化)してコロニーを形成する。
【0053】
なお、培養液23には、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)、GrasgowMinimum Essential Medium(GMEM)、RPMI640等を使用することもできる。培養液23には、インスリン、トランスフェリン、エタノールアミン、セレニウム、2-メルカプトエタノール、L―アラニル-L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラチン酸、グリシン、L-プロリン、L-セリン等を添加することもできる。」
と幾つかの培養液が例挙された明細書の記載を引き写しただけのものであり、実験時に用いた培地がどの基本組成を用い、添加物のミネラル塩やアミノ酸の種類、それらの組成比が何であるか、さらには培養液の「注入」量についても具体的に示されていないから、具体的に実験が行われた上で、その実験で用いられた培地の組成を示したものとはいえない。
エ 「培養生成液」、「あらたな培養生成液」
実験成績証明書には、「また、活性化幹細胞(休眠幹細胞)の元となる幹細胞の培養過程において生成された培養生成液は、生成液収容容器に収容した状態で、冷蔵庫または冷凍庫において所定期間所定温度で保存されたものです。」と記載されるのみで((五)実験の条件 4.)、幹細胞の種類、培養生成液の組成に影響を与えうる培養前の培養液の組成、培養期間を含めた培養生成液の製造条件、保存期間や保存温度が具体的に示されておらず、「培養生成液」、「あらたな培養生成液」の「注入」量についても具体的に示されていないから、具体的に実験が行われた上で、その実験で用いられた培養生成液を示したものとはいえない。
オ 「第1培養容器」の材質
実験成績証明書には、「第1扁平培養容器21(第1培養容器)は、透明なガラスまたは透明なプラスチックから作られ、」と記載されるのみで((六)実験の条件 1(3))、、実際に実験に用いられた扁平培養容器25の素材がガラスとプラスチックのどちらであったのか、培養容器の培養面には様々な種類の表面処理が用いられるのが常であるが、また表面処理としてどのような形状のものや化学処理が使用され、またはされなかったのかについては、何ら開示していないから、実際に実験が行われた上で、その実験で用いられた第1培養容器の材質を示したものとはいえない。
カ 「第1培養容器」の一辺の長さと容積
実験成績証明書には、「容量が約20~30cc(好ましくは、25cc)であり、その底面面積が約25~36mm2であること、培養容器21は、その一辺の長さが5~6mmである」と記載されているが((六)実験の内容 1(3))、実験を行うに際して用いる道具は、必然的に特定の容量と底面面積からなる特定の具体的な容器を使用するものであり、かつ、その数値が範囲となることはありえないことである。
さらに、休眠幹細胞定着手段で使用される第1扁平培養容器21は、その底面面積が約25~36mm2、その一辺の長さが5~6mmである一方で、その容量が約20~30cc(好ましくは、25cc)であることを考慮すると、扁平培養容器の上下方向の厚みはおよそ1000mmすなわち1m必要である。
実験成績証明書には、「発明者は、電子顕微鏡の試料ホルダの上面と第1扁平培養容器の底部との間にスペーサー(本願の図3参照「スペーサー42」)を介在させ、第1扁平培養容器の底部をスペーサーによって持ち上げた状態に保持し、第1扁平培養容器の底部が上となり培養容器の頂部(注入口)が下となるように、第1扁平培養容器を所定角度に傾斜させた状態で第1扁平培養容器を電子顕微鏡の試料ホルダに設置しました。」と記載されている((六)実験の内容 1(3)、3(2))。
しかしながら、実験成績証明書に記載された第1扁平容器は明らかに扁平形状にならず、かつそのような嵩高い容器では細胞は培養容器側面に付着してしまい、底面に定着させることも、底面を下にしたままスペーサーによって容器を傾斜させることも、mmオーダーのものしか収納できない電子顕微鏡の試料ホルダに設置して容器底面の細胞を観察することもできないことは明らかである。
このように「第1培養容器」の一辺の長さと容積に係る記載には著しい矛盾があり、実際に実験が行われた上で、その実験で用いられた第1培養容器の一辺の長さと容積を示したものとはいえない。
キ 「第1培養容器」の「傾斜角度」
実験成績証明書には、「発明者は、電子顕微鏡の試料ホルダの上面と第1扁平培養容器の底部との間にスペーサー(本願の図3参照「スペーサー42」)を介在させ、第1扁平培養容器の底部をスペーサーによって持ち上げた状態に保持し、第1扁平培養容器の底部が上となり培養容器の頂部(注入口)が下となるように、第1扁平培養容器を所定角度に傾斜させた状態で第1扁平培養容器を電子顕微鏡の試料ホルダに設置しました。」と記載されている((六)実験の内容 1(3)、3(2))。
しかしながら、培養容器の傾斜角度の実測値やそれに代わる試料ホルダ41の高さや位置関係を具体的に開示していない。
このように、「第1培養容器」の「傾斜角度」についての記載は、実際に実験が行われた上で、その実験で用いられた第1培養容器の傾斜角度を示したものとはいえない。
ク 「休眠幹細胞を前記第1培養容器の底面に定着させ」るまでの静的放置時間と定着したとされる細胞の形状
実験成績証明書には、「発明者は、ディスプレイに表示された休眠幹細胞の平面形状の拡大画像を36~48時間の間において約1~2時間の間隔で確認(視認)し、休眠幹細胞の平面形状の変化を観察しました。なお、平面形状の変化観察では、第1扁平培養容器を体温と略同一の温度で36~48時間静的に放置(動かすことなく静かに放置)しつつ36~48時間の間において約1~2時間の間隔で第1扁平培養容器の底面面積に対して目標割合(第1目標割合)に達したか否かを判断しました。第1扁平培養容器の底面面積に対する休眠幹細胞の総平面面積の目標割合は70~80%(70~80%コンフルエント)です。」と記載され((六)実験の内容 3(3))、「休眠幹細胞の変形後の平面形状(定着後の平面形状)は定着前の略円形を核として休眠幹細胞が一方向へ不定形に伸長(拡張)した扁平形状であり(本願の図5参照)、休眠幹細胞が第1扁平培養容器の底面(底壁内面)に定着し、休眠幹細胞が増殖(活性化)を開始しています。発明者は、休眠幹細胞定着工程における観察の結果、電子顕微鏡によって撮影された休眠幹細胞の平面形状が略円形(初期平面形状)から略円形を核として不定形の扁平形状に変形したことを確認し、旧移民幹細胞の第1扁平培養容器の底面への定着を確認しました。」と記載されている((六)実験の内容 3(6))。
しかしながら、具体的に休眠幹細胞22が培養容器21の底面25に定着するまでに要した静的放置時間が何時間であったのかは具体的に開示されていない。
略円形を核として不定形の扁平形状と判断される根拠としては特願2017-087339号の図4図5等を参照する旨を記載するのみであり、当該図4図5等は明らかに模式図に過ぎず、実際の実験結果に基づき電子顕微鏡の拡大画像撮影機能を用いて撮影された細胞の形状をそのまま出力したものであるともいえない。
このように「休眠幹細胞を前記第1培養容器の底面に定着させ」るまでの静的放置時間と定着したとされる細胞の形状についての記載は、実際に実験が行われた上で、その実験に要した時間と得られた細胞の形状を示したものとはいえない。
ケ 「前記第1培養容器の底面面積に対する前記休眠幹細胞の総平面面積が70~80%の第1目標割合」
実験成績証明書には上記クのとおり記載されているところ、第1培養容器の底面積の大きさが異なれば、第1目標割合に相当する平面面積も第1培養容器の底面積と連動して異なることとなる。第1培養容器の底面面積はカで述べたとおり、底面面積が約25~36mm2と底面面積に40%程度の開きがあるにも関わらず、実験を行うに際して用いられた培養容器及び第1目標割合に相当する総平面面積が具体的に開示されていないから、実際に実験が行われた上で、その実験で設定された休眠幹細胞の総平面面積や第1目標割合を示したものとはいえない。
コ 「休眠状態にある単一種の休眠幹細胞を効率よく増殖させて作られた十分な活性を有」し、「多種雑多な活性化幹細胞を含むことがなく、各種の疾患に対する治療の効果や再生医療における再生の効果が大きい単一種の活性化幹細胞」であったこと
実験成績証明書には、「実験1の休眠幹細胞培養工程では、休眠幹細胞の定着を確認した後、第1扁平培養容器から培養液と培養生成液との混合培養液を排出しつつ、あらたな培養液と単一種の幹細胞から分泌された所定の台車物質が含まれるあらたな培養生成液とを培養容器に注入することで、その幹細胞自体の代謝物質がトリガーとなり、休眠幹細胞が速やかに活性を開始し、休眠幹細胞の増殖を確実に促進することができました。また、試料ホルダの上面に対して第1扁平培養容器を所定の傾斜角度で傾斜させることで、第1扁平培養容器内において休眠幹細胞、培養液、培養生成液が第1扁平培養容器の頂部の側に偏り、第1扁平培養容器の頂部の側において休眠幹細胞、培養液、培養生成液の水圧が大きくなって休眠幹細胞が第1扁平培養容器の頂部の側に集中し、それによって休眠幹細胞どうしの活性が高まり、第1扁平培養容器の底面において休眠幹細胞を容易かつ迅速に増殖(分化)させることができました。」と記載されている((六)実験の内容 4.実験1の休眠幹細胞培養工程における結果)。
しかしながら、「休眠幹細胞が速やかに活性を開始し、休眠幹細胞の増殖を確実に促進すること」についての客観的なデータは全く示されていない。
また、「休眠幹細胞、培養液、培養生成液が第1扁平培養容器の頂部の側に偏り、第1扁平培養容器の頂部の側において休眠幹細胞、培養液、培養生成液の水圧が大きくなって休眠幹細胞が第1扁平培養容器の頂部の側に集中し、それによって休眠幹細胞どうしの活性が高ま」ったとするものの、具体的な水圧差が生じたことについて何ら具体的に確認されていないし、わずか数mmの大きさの容器に粘性のある培地を格納することにおいて生じる表面張力等の他の影響を超えて、2~5°の範囲の傾きで細胞の特性に影響を及ぼす程度の水圧差が生じるといえる具体的な根拠もない。
サ 小括
このように、これら処理工程における各種培養条件やそれ以外の処理条件は、実験を行うに際して必然的に特定の種類、組成及び数値に設定するものであり、かつその種類、組成及び数値を明細書に記載すること自体に技術的困難性は全くないにもかかわらず、上記実験成績証明書において一連の実験工程を具体的に記載できていないのであるから、実際に実験が行われた上で、その実験で設定された条件と実験結果をそのまま具体的に示した、実際の実験結果を基づく証明書であるとはいえない。
(3)実験成績証明書に記載された実験日と実験工程上要する時間との矛盾について
さらに、これらの実験を実施した実験日については、請求人は「平成30年6月25日」と明記し、「上記記載事項が事実に相違ないことを証明」するとして実験成績証明書を提出した。
しかしながら、平成30年6月25日は最大でも24時間しかないところ、これらの実験工程のうち3.実験1の休眠幹細胞定着工程(4)には12~24時間にわたり、間隔が約1~2時間の観察を続ける工程が含まれ(実験成績証明書第3~4頁)、休眠幹細胞定着工程が終了した後実施したとされる、実験1の休眠幹細胞培養工程(3)には36~48時間にわたり、間隔が約1~2時間の観察を続ける工程(実験成績証明書第5~6頁)が含まれている。
このように、これらの実験を実際に行うためには少なくとも48時間すなわち2日あるいはそれ以上の日数が明らかに必要であり、平成30年6月25日に実施したとする「記載事項が事実に相違ない」ということはありえない。
(4)小括
以上のとおり、このような実験成績証明書に記載された実験内容が事実であることの信用性には疑義を抱くべき特別の事情があり、このような実験成績証明書を提出した請求人による、発明の詳細な説明の記載において多くの共通点を有する本願明細書の実験内容の信用性にも、疑義を抱くべき特別の事情があるといわざるを得ない。
5 審判請求人の主張について
(1)請求人の主張
審判請求人は令和5年9月19日付け意見書において、概ね次の点を主張している。
ア 本意見書と同日付提出の手続補正書により補正を加えたので、出願人は、既述の拒絶理由は解消したものと考える。
イ 補正後の請求項1に記載の発明は、前記構成を採用することで、「層状に分離させた原料骨髄液のうちの中間層に位置する中間層骨髄液を抽出し、中間層骨髄液を培養液とともに培養して第1幹細胞を第1培養容器の底面に定着させ、第1幹細胞の総平面面積が第1培養容器の底面面積に対して第1目標割合に達した場合、第1培養容器から第1幹細胞を抽出し、層状に分離させた第1幹細胞のうちの最下層に位置する第2幹細胞を抽出するとともに、第2幹細胞を培養液とともに培養して第2幹細胞を第2培養容器の底面に定着させ、第2幹細胞の総平面面積が第2培養容器の底面面積に対して第2目標割合に達した場合、第2培養容器から第2幹細胞を抽出することから作られているから、多種雑多な幹細胞が含まれることはなく、多種雑多な幹細胞が含まれている場合と比較し、各種の疾患を完治させる確立が高いとともに各種の組織や各種の臓器を再生させる確立が高く、各種疾患の治療に好適に使用することができ、各種組織や各種臓器を再生に好適に使用することができる。」という効果を有するとともに、「層状に分離させた原料骨髄液から特定の中間層骨髄液を抽出し、層状に分離させた第1幹細胞から特定の第2幹細胞を抽出することで、不要な幹細胞が除去されたピュア(純粋)な幹細胞であり、間葉系幹細胞に多種雑多な幹細胞が含まれることがないから、各種疾患の治療の効果や再生医療における再生の効果が安定し、各種疾患を早期かつ確実に完治させることができ、各種組織や各種臓器を早期かつ確実に再生させることができる。」という効果を有する。
更に、「第1培養容器を2~5°の傾斜角度で傾斜させることで、第1培養容器内において中間層骨髄液および培養液が培養容器の頂部の側(または底部の側)に偏り、培養容器の頂部の側(または底部の側)において中間層骨髄液と培養液との水圧が大きくなって間葉系幹細胞が培養容器の底面の側に集中し、それによって間葉系幹細胞どうしの活性が高まり、培養容器の底面において間葉系幹細胞を容易かつ迅速に定着させることができる。」という効果を有する。
(2)判断
ア 上記主張アについて
本願発明は、本件補正前請求項1に対して、本件補正前請求項2、請求項3、請求項5、請求項6の構成要件を加えたものであるが、上記拒絶理由は本件補正前請求項2~9についても対象とするものである。
そして、上記(1)アで述べたとおり、請求人は、「手続補正書により補正を加えたので、出願人は、既述の拒絶理由は解消した」と述べるに止まり、解消した理由を何ら具体的に主張していないから、請求人の主張アは採用できない。
イ 上記主張イについて
請求人の主張イのうち、「層状に分離させた原料骨髄液のうちの中間層に位置する中間層骨髄液を抽出し、中間層骨髄液を培養液とともに培養して第1幹細胞を第1培養容器の底面に定着させ、第1幹細胞の総平面面積が第1培養容器の底面面積に対して第1目標割合に達した場合、第1培養容器から第1幹細胞を抽出し、層状に分離させた第1幹細胞のうちの最下層に位置する第2幹細胞を抽出するとともに、第2幹細胞を培養液とともに培養して第2幹細胞を第2培養容器の底面に定着させ、第2幹細胞の総平面面積が第2培養容器の底面面積に対して第2目標割合に達した場合、第2培養容器から第2幹細胞を抽出することから作られているから、多種雑多な幹細胞が含まれることはなく、多種雑多な幹細胞が含まれている場合と比較し、各種の疾患を完治させる確立が高いとともに各種の組織や各種の臓器を再生させる確立が高く、各種疾患の治療に好適に使用することができ、各種組織や各種臓器を再生に好適に使用することができる。」という効果を有するとともに、「層状に分離させた原料骨髄液から特定の中間層骨髄液を抽出し、層状に分離させた第1幹細胞から特定の第2幹細胞を抽出することで、不要な幹細胞が除去されたピュア(純粋)な幹細胞であり、間葉系幹細胞に多種雑多な幹細胞が含まれることがないから、各種疾患の治療の効果や再生医療における再生の効果が安定し、各種疾患を早期かつ確実に完治させることができ、各種組織や各種臓器を早期かつ確実に再生させることができる。」という効果を有することが裏付けられていないことは、上記3(3)コで述べたとおりである。
また、「第1培養容器を2~5°の傾斜角度で傾斜させることで、第1培養容器内において中間層骨髄液および培養液が培養容器の頂部の側(または底部の側)に偏り、培養容器の頂部の側(または底部の側)において中間層骨髄液と培養液との水圧が大きくなって間葉系幹細胞が培養容器の底面の側に集中し、それによって間葉系幹細胞どうしの活性が高まり、培養容器の底面において間葉系幹細胞を容易かつ迅速に定着させることができる。」という効果についても水圧差が生じたことについて何ら具体的に確認されていないし、わずか数mmの大きさの容器に粘性のある培地を格納することにおいて生じる表面張力等の他の影響を超えて、2~5°の範囲の傾きで細胞の特性に影響を及ぼす程度の水圧差が生じるといえる具体的な根拠もないこと、「間葉系幹細胞どうしの活性が高まり、培養容器の底面において間葉系幹細胞を容易かつ迅速に定着」したといえるための、活性の確認方法とその結果、具体的に得られた細胞の定着速度等の実測値についても何ら開示されていないから、実際に実験が行われた上で、その実験で得られた細胞が上記条件を満たすことが確認されたことを示したものとはいえない。
したがって、請求人の主張イも採用することができない。
6 まとめ
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしていない。
第5 理由5(明確性)について
1 本願発明
上記第2のとおり、本願発明は本件補正後の請求項1に記載されたとおりのものであるところ、本件補正後の請求項1は、本件補正前(令和 4年 2月 9日提出の手続補正書)の特許請求の範囲の請求項1に同請求項2、3、5、6に記載された構成要件を加えたものであり、同請求項1の内容をそのまま含むものである。
2 判断
当審が通知した拒絶理由では、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載が不明確であることを指摘したうえで、同請求項1を引用する請求項2~9の記載についても同様に不明確であると判断したとおり、同請求項2、3、5、6に記載された構成要件を同請求項1に加えても不明確性が解消するとは認められない。
以下、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に対して当審が通知した拒絶理由と同様の観点で検討する。
本願発明のうち、発明特定事項「ドナーから採取した原料骨髄液から作られる間葉系幹細胞」は、令和5年6月13日付け拒絶理由で特表2009-512419号公報、Tissue Engineering, 2007, Vol.13, No.4, p.819-829、PLoS ONE, 2011, Vol.6, No.8, e22980、Experimental Hematology, 2012, Vol.40, No.10, p.847-856を用いて示したように、すでに公知であり、本願発明の「間葉幹細胞」の原料とも解されるところ、「 前記間葉系幹細胞は、前記ドナーから採取した原料骨髄液を層状に分離し、層状に分離させた前記原料骨髄液のうちの中間層に位置する中間層骨髄液を抽出し、所定容量かつ所定面積の底面を有する第1培養容器に前記中間層骨髄液と培養液とを注入した後、前記第1培養容器を2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で所定時間静的に放置しつつ所定の時間間隔で該第1培養容器内の第1幹細胞の初期平面形状からの変形を観察し、前記第1幹細胞の変形を観察の結果、前記第1幹細胞が初期平面形状から所定の平面形状に変形した場合、前記第1幹細胞が前記第1培養容器の底面に定着したと判断し、前記第1幹細胞が前記第1培養容器の底面に定着した後、前記第1培養容器内の培養液を排出しつつ、あらたな培養液を該第1培養容器に注入し、前記第1培養容器を2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で所定時間静的に放置しつつ所定の時間間隔で該第1培養容器の底面に定着した前記第1幹細胞の該第1培養容器の底面面積に対する総平面面積を観察し、前記第1幹細胞の総平面面積を観察の結果、前記第1培養容器の底面において前記第1幹細胞が増殖して該第1幹細胞の平面形状が拡張し、前記第1幹細胞の総平面面積が前記第1培養容器の底面面積に対して第1目標割合に達した場合、前記第1培養容器から前記第1幹細胞を抽出する第1培養手段と、前記抽出した第1幹細胞を分離容器に注入し、前記分離容器を遠心分離器に設置して第1幹細胞を遠心分離させ、前記第1幹細胞を分離容器内において層状に分離させた後、層状に分離させた前記第1幹細胞のうちの最下層に位置する第2幹細胞を抽出するとともに、所定容量かつ所定面積の底面を有して前記第1培養容器よりも大きい容量かつ大きい底面面積の第2培養容器に前記第2幹細胞とあらたな培養液とを注入し、前記第2培養容器を所定時間静的に放置して前記第2幹細胞を該第2培養容器の底面に定着させた後、前記第2培養容器内の培養液を排出しつつ、あらたな培養液を該第2培養容器に注入して前記第2幹細胞を増殖させ、前記第2培養容器の底面において前記第2幹細胞の平面形状が拡張して該第2培養容器の底面面積に対する該第2幹細胞の総平面面積が第2目標割合に達した場合、前記第2培養容器から前記第2幹細胞を抽出する第2培養手段とを実施することから作られており、
前記第2培養手段では、前記抽出した第2幹細胞とあらたな培養液とを前記第2培養容器に注入した後、前記第2培養容器を2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で所定時間静的に放置しつつ所定の時間間隔で該第2培養容器内の前記第2幹細胞の初期平面形状からの変形を観察し、前記第2幹細胞の変形を観察の結果、前記第2幹細胞が初期平面形状から所定の平面形状に変形した場合、前記第2幹細胞が前記第2培養容器の底面に定着したと判断し、前記第2培養容器内の培養液を排出しつつ、あらたな培養液を該第2培養容器に注入し、前記第2培養容器を2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で所定時間静的に放置しつつ所定の時間間隔で該第2培養容器の底面に定着した前記第2幹細胞の該第2培養容器の底面面積に対する総平面面積を観察し、前記第2幹細胞の総平面積を観察の結果、前記第2幹細胞が増殖して該第2幹細胞の平面形状が拡張し、前記第2幹細胞の総平面面積が前記第2培養容器の底面面積に対して第2目標割合に達した場合、前記第2培養容器から前記第2幹細胞を抽出し、
前記ドナーから採取した原料骨髄液が2~3ccであり、前記2~3ccの原料骨髄液を上下方向へ延びる分離容器に注入し、前記分離容器を体温と略同一の温度で所定時間静的に放置して該原料骨髄液を該分離容器内において上下方向へ層状に分離させ、前記分離容器内において層状に分離した前記原料骨髄液のうちの中間層に位置する前記中間層骨髄液を抽出し、前記第1培養容器の容量が約20~30ccであり、前記第1培養容器の底面面積が25~36mm2であり、前記第1培養手段では、前記中間層骨髄液と前記培養液とを前記第1培養容器に注入した後、前記第1培養容器を前記2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で該第1培養容器を体温と略同一の温度で12~24時間静的に放置しつつ、前記12~24時間の間において約1~2時間間隔で前記第1培養容器内の第1幹細胞の初期平面形状からの変形を観察し、前記第1幹細胞が略円形の初期平面形状から前記略円形を核として該第1幹細胞が一方向へ不定形に拡張した扁平形状に変形した場合、該第1幹細胞が前記第1培養容器の底面に定着したと判断し、
前記第2培養容器の容量が約40~60ccであり、前記第2培養容器の底面面積が50~72mm2であり、前記第2培養手段では、前記第2幹細胞とあらたな培養液とを前記第2培養容器に注入した後、前記第2培養容器を前記2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で該第2培養容器を体温と略同一の温度で36~48時間静的に放置しつつ、前記36~48時間の間において約1~2時間間隔で前記第2培養容器内の第2幹細胞の初期平面形状からの変形を観察し、前記第2幹細胞が略円形の初期平面形状から該第2幹細胞が前記略円形を核として不定形の扁平形状に変形した場合、該第2幹細胞が前記第2培養容器の底面に定着したと判断し、
前記第2培養容器の底面面積に対する前記第2幹細胞の総平面面積の第2目標割合が88~92%であり、前記第2培養手段では、前記第2幹細胞が前記第2培養容器の底面に定着した後、前記第2培養容器内の培養液を排出しつつ、あらたな培養液を該第2培養容器に注入し、前記第2培養容器を前記2~5°の傾斜角度に傾斜させた状態で該第2培養容器を体温と略同一の温度で36~48時間静的に放置しつつ、前記36~48時間の間において約1~2時間間隔で前記第2培養容器の底面に定着した前記第2幹細胞の該第2培養容器の底面面積に対する総平面面積を観察することを特徴とする」という特定事項によっても、ドナーから採取した原料骨髄液から作られる間葉系幹細胞の増殖速度などの活性については、骨髄液を採取するドナーの年齢や個体差、培養液の基本的組成などの影響を受け、ある程度の変動があると考えられること、実際の実験結果に基づいて具体的に得られた間葉系幹細胞の増殖速度等の特性の実測値等は全く開示されていないことから、ドナーから採取した原料骨髄液から作られる間葉系幹細胞を特徴づける構造や性質を理解することができない。
したがって、本願請求項1の記載からでは、出願時の技術常識を考慮しても、本願請求項1で特定される幹細胞の物としての特徴を当業者が理解できるとはいえず、細胞処理の履歴が明らかでないドナーから採取した原料骨髄液から作られる間葉系幹細胞が、本願請求項1の発明特定事項を満たすか否かの判断を行うことは困難であると認められるので、本願請求項1の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼしうる程度に不明確であるといえる。
2 審判請求人の主張について
審判請求人の主張は第4 5において述べたとおりであり、主張はいずれも採用することができない。
第6 むすび
以上のとおり、この出願は、請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、この出願は、請求項1に係る発明について発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
したがって、他の理由及び他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-001923