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特許異議申立

2021-701247

非水電解質二次電池用正極活物質

審判番号
2021-701247
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-508724
登録番号
6903742
請求日
2021年12月27日
審決日
2023年06月14日
公報発行日
2023年09月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】パナソニックホールディングス株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人YKI国際特許事務所
  • 【権利者】三洋電機株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人YKI国際特許事務所
  • 【異議申立人】金澤 毅
審判長/審判官
  • 審判長 井上 信一
  • 審判官 畑中 博幸
  • 審判官 須原 宏光
分類
P1651.121-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6903742号発明「非水電解質二次電池用正極活物質」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6903742号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6903742号の請求項1に係る特許を維持する。 特許第6903742号の請求項2ないし5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6903742号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年2月14日(優先権主張 平成29年3月31日、日本)を国際出願日とする出願であって、令和3年6月25日にその特許権の設定登録がされ、令和3年7月14日に特許掲載公報が発行された。 その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和3年12月27日 :特許異議申立人金澤 毅により請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立て 令和4年 4月28日付け:取消理由通知 令和4年 7月 7日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和4年 8月29日 :特許異議申立人による意見書の提出 令和4年10月21日付け:訂正拒絶理由通知 令和4年11月25日 :特許権者による意見書の提出 令和4年12月15日付け:取消理由通知(決定の予告) 令和5年 2月15日 :特許権者による訂正請求書・意見書の提出 令和5年 3月29日 :特許異議申立人による意見書の提出 なお、令和5年2月15日提出の訂正請求書による訂正請求がされたので、令和4年7月7日提出の訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正の適否 1 訂正内容 令和5年2月15日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、特許第6903742号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下の訂正事項1ないし5のとおりである。(なお、下線部は訂正箇所である。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「式(1)で表されるニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を含む非水電解質二次電池用正極活物質であって、 硬X線光電子分光法(HAXPES)の光子エネルギ6KeVにおいて結合エネルギ1560~1565eVのAlリッチ層のピークが存在し、かつ、リチウム遷移金属酸化物粒子の平均粒子径rに対し、 中心から0.35rの範囲内においてAl濃度が略一定であり、 前記Alリッチ層は300nm以下である、非水電解質二次電池用正極活物質。 LixNiaCobAlcMdO2(式1) 式中、x、a、b、c、及びdはそれぞれ、0.95<x<1.05、0.91≦a<1、0<b<0.15、0≦d<0.15、0.03<cを満たす。Mは、B、Si、Mg、Ge、Sn、Mg、Cr、Mn、Ti、Nb、Mo及びFeから選ばれる1種以上の金属元素である。」とあるのを、 「式(1)で表される、層状構造を有するニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を含む非水電解質二次電池用正極活物質であって、 硬X線光電子分光法(HAXPES)の光子エネルギ6KeVにおいて結合エネルギ1560~1565eVのAlリッチ層のピークが存在し、かつ、リチウム遷移金属酸化物粒子の平均粒子径rに対し、 中心から0.35rの範囲内においてAl濃度が略一定、かつ0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01であり、 前記Alリッチ層は100nm以下であり、LiAlO2とLi、Ni、Co及びAlを含有する酸化物との混合体である、非水電解質二次電池用正極活物質。 LixNiaCobAlcMdO2(式1) 式中、x、a、b、c、及びdはそれぞれ、0.95<x<1.05、0.91≦a<1、0<b<0.15、0≦d<0.15、0.03<c≦0.065を満たす。Mは、B、Si、Mg、Ge、Sn、Mg、Cr、Mn、Ti、Nb、Mo及びFeから選ばれる1種以上の金属元素である。」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 2 訂正要件についての判断 (1)一群の請求項について 本件訂正前の請求項1ないし5は、請求項2ないし5が、訂正の対象となる請求項1を直接又は間接的に引用しているものであるから、一群の請求項であり、これら訂正前の請求項1ないし5に対応する訂正後の請求項1ないし5も一群の請求項である。 したがって、本件訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1について (ア)訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物」の構造について、「層状構造」であることを限定するものである。 また、訂正事項1は、訂正前の請求項1の「中心から0.35rの範囲内」における「Al濃度」について、「かつ0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01」であることを追加し限定するものである。 そして、訂正事項1は、訂正前の請求項1の「Alリッチ層」の数値範囲を「300nm以下」から「100nm以下」に限定し、該「Alリッチ層」が「LiAlO2とLi、Ni、Co及びAlを含有する酸化物との混合体」であることに限定するものである。 さらに、訂正事項1は、訂正前の請求項1の「Al」の含有量「c」の数値範囲を「0.03<c」から「0.03<c≦0.065」に限定したものである。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 a 「層状構造」について 層状構造に関し、本件特許明細書の段落【0022】に「Ni含有リチウム遷移金属酸化物は、例えば層状構造であり、空間群R-3mに属する層状構造、空間群C2/mに属する層状構造等が挙げられる。これらの中では、高容量化、結晶構造の安定性等の点で、空間群R-3mに属する層状構造であることが好ましい。」と記載されている。 b 「Al濃度」について 訂正前の請求項3には「リチウム遷移金属酸化物粒子のAl濃度は、0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01である」と記載され、また、本件特許明細書の段落【0037】には「また、それ以外の粒子内部はAl濃度がほぼ一定で固溶していることが好ましい。具体的には、粒子の中心~0.35rの範囲までAl濃度がほぼ一定であることが好ましく、より具体的には、0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01であることが好ましい。」と記載されている。 c 「Alリッチ層」について 訂正前の請求項4に「前記Alリッチ層は、LiAlO2とLi、Ni、Co及びAlを含有する酸化物との混合体である」と、同請求項5に「前記Alリッチ層は100nm以下である」とそれぞれ記載されており、また、本件特許明細書の段落【0033】に「本発明者等は、500℃~800℃の温度範囲で、かつ5~9時間の時間範囲で加熱することにより、AlをNCA内部に十分に拡散させつつ、表層に極薄のAlリッチ層、具体的にはLiAlO2とLiNiCoAlO2との混合体を形成し得ることを確認している。」と、同段落【0036】に「Alリッチ層は、Ni含有リチウム遷移金属酸化物粒子の表層に極薄で存在することが好ましく、例えば300nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは100nm以下である。」とそれぞれ記載されている。 d 「Al」の含有量「c」について 本件特許明細書の段落【0066】に「<実施例3> 正極活物質の調整において、NCAの組成比をほぼ同一に維持しつつ、Al(OH)3を3モル%にさらに増大させた以外は、実施例2と同様にしてNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。前駆体のNi、Co、及びAlの組成比は、モル%比で Ni:Co:Al=93.5:3.0:3.5であり、得られた最終の酸化物におけるNi、Co、及びAlの組成比は、 Ni:Co:Al=90.6:2.9:6.5であった。」と記載されており、「最終の酸化物におけるNi、Co、及びAlの組成比」とは、最終的に得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物を構成する「Ni、Co、及びAlの組成比」であることから、該「Ni:Co:Al=90.6:2.9:6.5」における「6.5」が、訂正後の請求項1の「Al」の含有量「c」に対応することは明らかである。 e 小括 以上aないしdによれば、訂正事項1は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 イ 訂正事項2ないし5について (ア)訂正の目的 訂正事項2ないし訂正事項5は、それぞれ訂正前の請求項2ないし5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 (ア)で述べたように、訂正事項2ないし5は請求項を削除するものであるから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 よって、訂正事項2ないし5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (3)独立特許要件について 上記「(2)ア(ア)」で述べたように、訂正事項1は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするところ、本件においては、全請求項について特許異議の申立てがされているから、対応する訂正後の請求項1に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (4)特許異議申立人の主張について ア 特許異議申立人は、令和5年3月29日提出の意見書において、本件特許明細書の段落【0066】には、Ni、Co、Alの比が開示されているのみであり、本件特許発明1の式1におけるa、b、cに対応する値であるかは明らかではないため、上記訂正は本件特許明細書等に記載された範囲内で行うものではない旨主張する。(2頁4ないし7行を参照。) イ ここで、本件特許明細書の段落【0066】に 「<実施例3>正極活物質の調整において、NCAの組成比をほぼ同一に維持しつつ、Al(OH)3を3モル%にさらに増大させた以外は、実施例2と同様にしてNi含有リチウム遷移金属酸化物を作製した。前駆体のNi、Co、及びAlの組成比は、モル%比でNi:Co:Al=93.5:3.0:3.5であり、得られた最終の酸化物におけるNi、Co、及びAlの組成比は、Ni:Co:Al=90.6:2.9:6.5であった。」 と記載されているところ、同段落【0033】、【0054】、【0061】の記載も踏まえれば、実施例3は、NiCoAlO2(NCA)、LiOH及びAl(OH)3を混合、焼成することにより得られたNi含有リチウム遷移金属酸化物である。 そして、「得られた最終の酸化物におけるNi、Co、及びAlの組成比」が「Ni:Co:Al=90.6:2.9:6.5」であることから、該「90.6」、「2.9」、「6.5」は、実施例3のNi含有リチウム遷移金属酸化物における遷移金属元素Ni、Co、Alの含有割合、即ち、訂正後の請求項1に記載された組成式(1)の含有量(モル比)を示す「a」、「b」、「c」に対応することは明らかである。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 3 小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下「本件発明1ないし5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。 「【請求項1】 式(1)で表される、層状構造を有するニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を含む非水電解質二次電池用正極活物質であって、 硬X線光電子分光法(HAXPES)の光子エネルギ6KeVにおいて結合エネルギ1560~1565eVのAlリッチ層のピークが存在し、かつ、リチウム遷移金属酸化物粒子の平均粒子径rに対し、 中心から0.35rの範囲内においてAl濃度が略一定、かつ0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01であり、 前記Alリッチ層は100nm以下であり、LiAlO2とLi、Ni、Co及びAlを含有する酸化物との混合体である、非水電解質二次電池用正極活物質。 LixNiaCobAlcMdO2(式1) 式中、x、a、b、c、及びdはそれぞれ、0.95<x<1.05、0.91≦a<1、0<b<0.15、0≦d<0.15、0.03<c≦0.065を満たす。Mは、B、Si、Mg、Ge、Sn、Mg、Cr、Mn、Ti、Nb、Mo及びFeから選ばれる1種以上の金属元素である。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 (削除)」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 当審が令和4年12月15日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。 (1)(進歩性)請求項1ないし5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)(サポート要件)本件請求項1ないし5に係る特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 (3)(明確性)本件請求項1ないし5に係る特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 (4)(実施可能要件)本件請求項1ないし5に係る特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 記 引用文献1:Ke Du et.cl., 「Enhancing the Thermal and Upper Voltage Performance of Ni-Rich Cathode Material by a Homogeneous and Facile Coating Method: Spray-Drying Coating with Nano-Al2O3」, Applied materials & Interfaces, 2016年6月22日, pp.17713-17720(甲第1号証) 2 引用文献等の記載事項、引用発明 (1)引用文献1には、図面とともに、次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審が付与した。 ア 「The electrochemical performance of Ni-rich cathode material at high temperature (>50 °C) and upper voltage operation (>4.3 V) is a challenge for next-generation lithium-ion batteries (LIBs) because of the rapid capacity degradation over cycling. Here we report improved performance of LiNi0.8Co0.15Al0.05O2 materials via a LiAlO2 coating, which was prepared from a Ni0.80Co0.15Al0.05(OH)2 precursor by spray-drying coating with nano-Al2O3. Investigations by X-ray diffraction, scanning electron microscopy, energy-dispersive Xray spectroscopy, and transmission electron microscopy revealed that an Al2O3 layer is uniformly distributed on the precursor and a LiAlO2 layer on the as-prepared cathode material. Such a coating shell acts as a scavenger to protect the cathode material from attack by HF and serious side reactions, which remarkably enhances the cycle performance at 55 °C and upper operating voltage (4.4 and 4.5 V). In particular, the sample with a 2% Al2O3 coating shows capacity retentions of 90.40%, 85.14%, 87.85%, and 81.1% after 150 cycles at a rate of 1.0C at room temperature, 55 °C, 4.4 V, and 4.5 V, respectively, which are significantly higher than those of the pristine one.This is mainly due to the significant improvement of the structural stability led by the effective coating technique, which could be extended to other cathode materials to obtain LIBs with enhanced safety and excellent cycling stability.」(ABSTRACT) (当審仮訳:高温(>50℃)および高電圧動作(>4.3V) でのNiリッチカソード材料の電気化学的性能は、サイクリング中に容量が急速に低下するため、次世代リチウムイオン電池(LIB)にとっての課題である。ここでは、ナノAl2O3とのスプレードライコーティングにより、Ni0.80Co0.15Al0.05(OH)2前駆体から調製された、LiAlO2コーティングを介したLiNi0.8Co0.15Al0.05O2材料の特性の向上について報告する。X線回折、走査型電子顕微鏡法、エネルギー分散型X線分光法、および透過型電子顕微鏡法による研究により、Al2O3層が前駆体上に均一に分布していること、そしてAl2O3層が調製されたカソード材料上に均一に分布していることが明らかになった。このようなコーティング外皮は、HFによる攻撃や深刻な副反応からカソード材料を保護するスカベンジャーとして機能し、55℃および上限駆動電圧(4.4および4.5V)でのサイクル性能を大幅に向上させる。特に、2%Al2O3層コーティングを施したサンプルは、室温、55℃、4.4V、および4.5Vで1.0Cのレートで150サイクル後、90.40%、85.14%、87.85%、および81.1%の容量維持率を示し、それぞれ、元の状態のものよりも大幅に高い値を示す。これは主に、効果的なコーティング技術によって構造安定性が大幅に向上したことによるものであり、これは、安全性と優れたサイクル安定性が向上したLIBの取得のために他のカソード材料に拡張できる。) イ 「2 . 1 . Materials Synthesis. The used precursor Ni0.8Co0.15Al0.05(OH)2 was commercially supplied (Jintian Energy Co. Ltd., China). Ni0.8Co0.15Al0.05(OH)2 and nano-Al2O3 sol-gel (Al2O3 > 20%; Xilong Chemical Co., Ltd., China) were used as starting materials with mass ratios of 99:1, 98:2, and 95:5. The process is shown in Scheme 1, first nano-Al2O3 sol-gel is dissolved in distilled water and agitated for dispersion for 4 h using a high-energy tip sonicator (400 W, KQ-400 KDE, Kun Shan Ultrasonic Instruments Co., Ltd., China). Then Ni0.8Co0.15Al0.05(OH)2 precursor is added to the solution,followed by ultrasonical mixing for 1 h. The resulting solution is dried rapidly via a commercial spray drying process, from which a coated dry precursor is obtained. For this, the atomizer used was a two-fluid nozzle, and the atomization pressure in the process was set to 0.3 bar. The mixed solution is turned into a spray of small droplets, and once the droplets are generated, they are flown into an electronic furnace via an air flow, in which the droplets are dried. The coated dry precursor particles are gathered to the cyclone walls, while in contrast, the lighter, moist air is separated from the particles and directed away through the exhaust pipes. The inlet and outlet temperatures of the spray dryer in the process were set at 180 and 110 °C, respect ively. Conditions such as the feeding speed and solution concentration were strictly controlled during the process. The obtained Ni0.8Co0.15Al0.05(OH)2/ Al2O3 composite spheres is ground thoroughly in an agate mortar with LiOH・H2O in a molar ratio of 1:1.05. After mixing well for 40 min, the prepared mixtures are first preheated at 550 °C for 4 h in air and then annealed at 750 °C for 12 h in a continuous flow of O2, from which LiAlO2-coated LiNi0.8Co0.15Al0.05O2 powders are obtained.Three coated samples with 1%, 2%, and 5% Al2O3 coating are represented as SDCNCA1,SDCNCA2, and SDCNCA5, respectively.」(17714頁左欄44行ないし同右欄9行) (当審仮訳:2.1. 材料合成 使用した前駆体であるNi0.80Co0.15Al0.05(OH)2は市販物を用いた (Jintian Energy Co.Ltd.中国)。Ni0.80Co0.15Al0.05(OH)2 と、ナノAl2O3ゾルゲルAl2O3>20%;Xilong Chemical Co.、Ltd.、中国)とを、質量比 99:1、98:2、および95:5の出発物質として使用した。プロセスをスキーム1に示す。最初のナノAl2O3ゾルゲルを蒸留水に溶解し、高エネルギーチップソニケーター (400W、KQ-400 KDE、Kun Shan Ultrasonic Instruments Co.,Ltd.、中国)を用いて、分散させるため、4時間攪拌した。次に、Ni0.80Co0.15Al0.05(OH)2前駆体を上記溶液に添加し、続いて1時間超音波混合した。得られた溶液は、市販の噴霧乾燥プロセスを介して急速に乾燥され、コーティングされた乾燥前駆体が得られる。このために使用されたアトマイザーは2流体ノズルであり、プロセスの噴霧圧力は0.3バールに設定された。混合溶液は小さな液滴の霧に変えられ、液滴が生成されると、それらは空気流を介して電気炉に流され、そこで液滴が乾燥される。コーティングされた乾燥前駆体粒子はサイクロン壁に集められ、これに対して、軽く湿った空気は粒子から分離され、排気管を通って排出される。プロセス中のスプレードライヤーの入口温度と出口温度は、それぞれ180℃と110℃に設定された。供給速度や溶液濃度などの条件は、プロセス中、厳密に制御された。得られたNi0.80Co0.15Al0.05(OH)2/Al2O3複合球は、モル比が1:1.05となるLiOH・H2Oと共に、瑪瑙乳鉢で十分にすりつぶした。40分間、十分に混合した後、調製した混合物を最初に空気中で550℃、4時間予熱し、次に750℃で12時間、O2の連続流中でアニールした。これにより、LiAlO2でコーティングされたLiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末が得られる。1%、2%、および5%のAl2O3コーティングが施された3つのコーティングされたサンプルは、それぞれSDCNCA1、SDCNCA2、およびSDCNCA5として表される。) ウ 「2.3. Electrochemical Evaluation. The cathode was prepared by blending the active material, acetylene black, and poly(vinyl difluoride) (PVDF) binder in a mass ratio of 8:1:1, dispersing the blend in Nmethylpyrrolidinone (NMP) in an agate mortar, and then coating the dispersion onto an Al foil. The as-prepared cathode foil was dried under vacuum at 120 °C for 12 h to eliminate the NMP solvent and then assembled a CR2025 coin cell with a lithium metal anode anda porous polypropylene film using 1 mol L-1 LiPF6 in 1:1:1 (v/v/v) ethylene carbonate/ethyl methyl carbonate/dimethyl carbonate solvent as the electrolyte in an argon-filled glovebox.」(17714頁右欄29行ないし38行) (当審仮訳: 2.3. 電気化学的評価 カソードは、活物質、アセチレンブラック、ポリニフッ化ビニル(PVDF)バインダーを質量比8:1:1で混合し、混合物を瑪瑙乳鉢でNメチルピロリジノン(NMP)に分散し、Alホイル上に分散することで調製した。調製したカソードは、NMP溶媒を除去するために120℃、12時間真空下で乾燥し、次に、Arが充填されたグローブボックス内で、リチウム金属のアノードと、電解質として1:1:1(v/v/v)の割合のエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジメチルカーボネート溶液中の1molL-1LiPF6を使用した多孔質ポリプロピレンフィルムとを用いてCR2025コインセルを組み立てた。) エ 「The morphology variation of NCA and SDCNCA cathode materials was also characterized by SEM measurements. As shown in Figure 2, no obvious change in the overall morphology was observed for all of the cathode particles, which means that the nano-Al2O3 spray coating did not damage the general morphology of the NCA particles. As can be seen in Figure 2a, the primary particles of the pristine NCA samples are extremely obvious with a flakelike shape. Specifically, it can even be seen that there are edges between the primary particles that have different crystallographic orientation, slip planes, and anisotropic lattice. Nevertheless, the SDCNCA particles deliver a slight difference on the surface, as can be seen from Figure 2b-d. Specifically, the edges between the grains blur as if the particles are covered with a layer of gel. The phenomenon is more apparent with higher Al2O3 content. Meanwhile, SEM images as well as the linear-sweep signals of the energydispersive spectrometer images on the cross-section of a single particle were obtained to examine the composition change in the SDCNCA2 sample. The atomic ratio of the three elements Ni, Co, and Al was obtained along the diameter of around 9 μm, as shown in Figure 3. As can be seen, in the SDCNCA2 sample the concentration of Al at the surface becomes a slightly higher than that in the core, with a corresponding decrease of Ni and Co. This confirms that the SDCNCA2sample is a material with an aluminum-rich surface. TEM observations were further carried out to investigate the microstructure, and the TEM images of the bare and SDCNCA2 samples are displayed in Figure 4. Figure 4a,b reveals that the NCA material is relatively well covered with a coating layer whose thickness is about 10-40 nm. As shown in the HRTEM image of SDCNCA2 (Figure 4d), it is obvious that the planar distance of the outer space is different from that of the inner part (0.2401 and 0.2449 nm, respectively). They display very well developed crystal lattice fringes that are arranged well along the (101) axes of NCA and LiAlO2, respectively, as shown in Table S1. It is completely different from the pristine sample (Figure 4c). Therefore, all of these material characterizations reveal that the NCA precursor coated with Al2O3 by the homogeneous and facile coating method has been successfully synthesized. Meanwhile, this spray-drying coating method confirms a LiAlO2 layer distributed uniformly on the as-prepared cathode material.」(17715頁左欄32行ないし右欄36行) (当審仮訳:NCAおよびSDCNCAカソード材料の形態変化もSEM測定により行った。図2に示すように、すべてのカソード粒子で全体的な形態に明らかな変化は観察されなかった。これは、ナノAl2O3スプレーコーティングがNCA粒子の一般的な形態に損傷を与えなかったことを意味する。図2aに見られるように、元のNCAサンプルの一次粒子は、フレーク形状であることが明らかである。特に、一次粒子の間に、異なる結晶学的配向、すべり面、および異方性格子を持つエッジがあることも認められる。それにもかかわらず、図2b-dから確認できるように、SDCNCA粒子は表面にわずかな違いをもたらす。具体的には、粒子間のエッジが、粒子がゲルの層で覆われているかのようにぼやける。この現象は、Al2O3の含有量が多いほど顕著になる。一方、SDCNCA2サンプル内の組成変化を調べるために、SEM画像と単一粒子の断面のエネルギ分散型分光像の線状掃引信号を取得した。図3に示すように、Ni、Co、Alの3つの元素の原子比は、直径約9μmに沿って取得した。SDCNCA2サンプルでは、表面のAl濃度が、コアのAl濃度と比較して、わずかに高くなり、それに応じてNiとCoが減少することが確認できた。これにより、SDCNCA2サンプルがアルミニウムリッチな表面を持つ材料であることが確認できた。 微細構造を調べるためにさらにTEM観察を行い、被覆していないサンプルとSDCNCA2サンプルのTEM画像を図4に示す。図4a、bは、NCA材料が厚さ約10-40nmのコーティング層で覆われていることを示している。SDCNCA2のHRTEM画像(図4d)に示されているように、外側部の面距離が内部の面距離とは異なることは明らかである(それぞれ0.2401および0.2449nm)。それらは非常によく発達した結晶格子縞を示し、表S1に示すように、NCAとしLiAlO2の(101)軸に沿ってそれぞれ適切に配置されている。これは、元のサンプルとは完全に異なる(図4c)。 したがって、これらすべての材料特性は、均一で容易なコーティング法によってAl2O3でコーティングされたNCA前駆体が正常に合成されたことを示している。一方、この噴霧乾燥コーティング法は、調製されたカソード材料上にLiAlO2層が均一に分布していることを確認できる。) オ 「3.2. Electrochemical Characterizations. The electrochemical performance was initially subjected to preconditioning cycles at a rate of 0.1C from 2.8 to 4.3 V, as shown in Figure 5a. All of the SDCNCA samples and the pristine one exhibit similar smooth and monotonous charge/discharge profiles. However, the initial discharge capacity is slightly different for these cathode materials. Specifically, the cell based on the pristine active material initially delivered a discharge capacity of 188.4mA h g-1. This is a little higher than those of the SDCNCA samples, which were 186.6, 184.1, and 174.3 mA h g-1 for SDCNCA1, SDCNCA2, and SDCNCA5 respectively. This can mainly be ascribed to the decreased amount of electrochemical active material that is replaced by an insulating alumina coating layer. After activation by two preconditioning cycles at a rate of 0.1C, the cycle performance of all of the samples was tested at a rate of 1C at room temperature, as shown in Figure 5b. The initial discharge capacity at 1C delivered by the pristine sample was 171.1 mA h g-1, compared with 167.2, 165.7, and 154.2 mA h g-1 for SDCNCA1, SDCNCA2, and SDCNCA5, respectively. On the other hand, the capacity retention of the SDCNCA samples was remarkably enhanced, as SDCNCA1, SDCNCA2, and SDCNCA5 delivered retentions of 87.56%, 90.40%, and 93.58% after 150 cycles, respectively, while the pristine electrode suffered a 30.9 mA h g-1 capacity loss and showed only 81.98% retention after 150 cycles. The improvement of the capacity retention shows a superiority to those reported for other coating methods, which mostly displayed retention of <90% under the same testing conditions. Figure 5c shows the rate capacities for all of the samples. As the rate increases, the capacities of the samples decrease. At low rates (<1C), the SDCNCA samples showed similar discharge capacities as the bare one. However, as shown in the figure, at 2C and 5C those SDCNCA samples exhibited improved capacity retention, with the SNCNCA2 electrode delivering the highest discharge capacity of 162.0 mA h g-1 at 5C, which is 14 mA h g-1 than that of the pristine one. This is mainly due to the more stable structure during cycling, which is ascribed to the coating layer. It is known that the layered Ni-rich cathode materials exhibit a large capacity fade at high temperatures as a result of dissolution of the transition metals due to attack by HF, which is produced by thermal decomposition and hydrolysis of LiPF6 at high temperature. Thus, Figure 5d shows the cycle performance for all of the samples at 55 °C and a rate of 1C. It is clear that the overall initial discharge capacity at 55 °C was higher than that at 25 °C. This is mainly because of the elevated temperature, which promotes the charge transfer kinetics. Obviously, the thermal stability of the LiNi0.8Co0.15Al0.05O2 cathode material is significantly enhanced by the spray-drying coating method. The initial discharge capacity of the bare electrode was higher than those of the SDCNCA ones, as it was at room temperature, while in the subsequent process, it showed an inferior cycling stability. In particular, the SDCNCA2 sample still retained 85.14% of the initial discharge capacity (181.7 mA h g-1) after 150 cycles under the harsh test conditions, whereas the pristine counterpart exhibited rapid capacity loss and delivered only 133 mA h g-1 (69.78%) after 150 cycles. The thermal stability of Ni-rich cathode materials is an important factor for their applications in EVs and hybrid EVs (HEVs). Therefore, a comparison of DSC traces of the electrochemically delithiated uncoated NCA particles and the SDCNCA2 sample charged to 4.3 V in the electrolyte is shown in Figure 6a. As can be seen, the pristine sample showed a large exothermic peak at 236.5 °C, while the SDCNCA2 one displayed a reaction at a higher temperature of 267.8 °C with a much lower heat flow. This deeply confirms that the spraydrying coating method contributes to a significant improvement in the thermal stability. Figure 6b,c displays another performance in the cycling-test environment with upper voltages of 4.4 and 4.5 V at a rate of 1C at room temperature. It is obvious that the electrochemical properties are significantly influenced by the cutoff voltage and that all of the discharge capacities decreased rapidly as the cycling proceeded. As shown in Figure 6b, after 150 cycles from 2.8 to 4.4 V, the SDCNCA samples delivered capacity retentions of 85.11%, 87.85%, and 90.0% respectively, which are much higher than that of the pristine one (only 66.78% retention of the initial discharge capacity of 180mA h g-1). Especially, the SDCNCA particles showed stable capacity retention curves even up to 4.5 V, as displayed in Figure 6c.After 150 cycles, the capacity retention of the SDCNCA2 electrode was about 81.1% of the initial capacity (177.6 mA h g-1), compared with only 59.47% for the pristine electrode (initial capacity 189.9 mA h g-1). This indicates that the working voltage of the SDCNCA samples becomes higher than that of the pristine one with this spray-drying coating method.Compared with the bare sample, the electrochemical performance of SDCNCA2 at the high temperature and upper cutoff voltage displays an attractive improvement.」(17715頁右欄37行ないし17718頁左欄14行) (当審仮訳:3.2.電気化学的特性 図5aに示すように、電気化学的性能は最初に、0.1Cのレートで、2.8から4.3Vまでのプレコンディショニングサイクルにかけた。すべてのSDCNCAサンプルと元のサンプルは、同様の滑らかで単調な充電・放電プロファイルを示す。ただし、これらのカソード材料では、初期放電容量がわずかに異なる。具体的には、元の活物質に基づくセルは、最初に188.4mAhg-1の放電容量を示した。これは、SDCNCA1、SDCNCA2、およびSDCNCA5でそれぞれ186.6、184.1、および174.3mAhg-1であったSDCNCAサンプルよりも少し高くなっている。これは主に、絶縁性アルミナコーティング層に置き換えられた電気化学的活物質の量の減少に起因する可能性がある。 図5bに示すように、0.1Cのレートでの2回のプレコンディショニングサイクルによって活性化した後、すべてのサンプルのサイクル性能を室温で1Cのレートで評価した。元のサンプルによる、1Cでの初期放電容量は1171.1mAhg-1であり、対比されるSDCNCA1、SDCNCA2、およびSDCNCA5ではそれぞれ167.2、165.7、および154.2mAhg-1であった。 一方、SDCNCAサンプルの容量維持率は著しく向上した。SDCNCA1、SDCNCA2、およびSDCNCA5は、150サイクル後の容量維持率はそれぞれ87.56%、90.40%、および93.58%に達し、元の電極は150サイクル後に30.9mAhg-1の容量損失があり、81.98%の容量維 持率しか示さなかった。容量維持率の改善は、同じテスト条件下で多くが90%未満の維持率を示した、報告された他のコーティング方法よりも優れていることを示している。 図5cは、すべてのサンプルのレート容量を示している。レートが上がると、サンプルの容量は減少する。低レート(<1C)では、SDCNCAサンプルは被覆していないサンプルと同様の放電容量を示す。ただし、図に示すように、2Cおよび5Cでは、これらのSDCNCAサンプルは改善された容量保持を示し、SDCNCA2電極は5Cで162.0mAhg-1の最高の放電容量を提供する。これは、元の電極よりも14mAhg-1高い。これは主に、コーティング層に起因するサイクリング中のより安定した構造による。 層状Niリッチカソード材料は、高温でのLiPF6の熱分解と加水分解によって生成されるHFによる攻撃による遷移金属の溶解の結果として、高温で容量の大きな低下を示すことが知られている。図5dは、55℃、1Cレートによるすべてのサンプルのサイクル性能を示している。55℃での全体的な初期放電容量が25℃での初期放電容量よりも高いことが明らかである。これは主に、高温による電荷移動速度の促進によるものである。明らかに、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2カソード材料の熱安定性は、噴霧乾燥コーティング法によって大幅に向上する。被覆していない電極の初期放電容量は、室温の場合と同様に、SDCNCAのものよりも高かったが、その後のプロセスでは、サイクル安定性が劣っていた。特に、SDCNCA2サンプルは、過酷なテスト条件下で150サイクル後も初期放電容量(181.7mAhg-1)の85.14%を保持していたが、元のサンプルは急速な容量損失を示し、150サイクル後に13.3mAhg-1(69.78%)しか示さなかった。 Niリッチカソード材料の熱安定性は、EVおよびハイブリッドEV(HEV)への適用に重要な要素である。このため、電気化学的に脱リチウム化されたコーティングされていないNCA粒子と、電解液中で4.3Vに帯電したSDCNCA2サンプルのDSC曲線の比較を図6aに示す。見てわかるように、元のサンプルは236.5℃で大きな発熱ピークを示すが、SDCNCA2サンプルはより高温の267.8℃で、はるかに低い熱流で反応を示した。これは、噴霧乾燥コーティング法が熱安定性の大幅な改善に寄与することを深く確認している。 図6b、cは、室温における、1Cのレートで4.4および4.5Vの上限電圧を使用したサイクリングテスト結果を示している。電気化学的特性がカットオフ電圧の影響を大きく受け、サイクルが進むにつれてすべての放電容量が急速に減少したことが明らかである。図6bに示すように、2.8から4.4Vまでの150サイクル後、SDCNCAサンプルはそれぞれ85.11%、87.85%、および90.0%の容量維持率を実現した。これは、元のサンプル(180mAhg-1の初期放電容量のたった66.78%の維持率)よりもはるかに高い容量維持率である。特に、SDCNCA粒子は、図6cに示すように、4.5Vまででも安定した容量維持曲線を示した。150サイクル後、SDCNCA2電極の容量維持率は初期容量の約81.1%(177.6mAhg-1)であったが、元の電極の容量保持率はわずか59.47%(初期容量1899.9mAhg-1)で あった。これは、SDCNCAサンプルの動作電圧がこの嘖霧乾燥コーティング法で元のサンプルの動作電圧よりも高くなることを示している。被覆していないサンプルと比較して、高温および上限電圧でのSDCNCA2の電気化学的性能は魅力的な改善を示している。) カ [図:0001401595000001.jpg] (2)引用文献1の上記記載事項により、次のことがいえる。 ア 上記「(1)ア」によれば、引用文献1には、カソード材料であるLiNi0.8Co0.15Al0.05O2材料が記載されている。また、上記「(1)オ」によれば、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2材料は「層状カソード材料」といえる。 そして、上記「(1)ウ」によれば、調製したカソードは、リチウム金属のアノードと、電解質としてエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジメチルカーボネート溶液中のLiPF6を使用した多孔質ポリプロピレンフィルムとを用いてCR2025コインセルを組み立てることが記載されている。 してみると、引用文献1には、カソードと、アノードと、電解質としてエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジメチルカーボネート溶液中のLiPF6を使用した多孔質ポリプロピレンフィルムとを備えたコインセルの層状カソード材料であるLiNi0.8Co0.15Al0.05O2材料が記載されているといえる。 イ 上記「(1)ア」の「ナノAl2O3とのスプレードライコーティングにより、Ni0.80Co0.15Al0.05(OH)2前駆体から調製された、LiAlO2コーティングを介したLiNi0.8Co0.15Al0.05O2材料の特性の向上について報告する。・・・、Al2O3層が前駆体上に均一に分布していること、そしてAl2O3層が調製されたカソード材料上に均一に分布していること」と、上記「(1)イ」の「最初のナノAl2O3ゾルゲルを蒸留水に溶解し、・・・。次に、Ni0.80Co0.15Al0.05(OH)2前駆体を上記溶液に添加し、・・超音波混合し・・・、市販の噴霧乾燥プロセスを介して急速に乾燥され、コーティングされた乾燥前駆体が得られる。・・・。得られたNi0.80Co0.15Al0.05(OH)2/Al2O3複合球は、・・・LiOH・H2Oと共に、・・すりつぶし・・、十分に混合した後、・・・最初に空気中で・・・予熱し、次に・・・、O2の連続流中でアニールした。これにより、LiAlO2でコーティングされたLiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末が得られる。・・、2%、・・・のAl2O3コーティングが施された・・・サンプルは、・・・、SDCNCA2、・・・として表される。」との各記載からすれば、2%のAl2O3がスプレードライコーティングされたNi0.80Co0.15Al0.05(OH)2前駆体をLiOH・H2Oに混合しアニールすることにより、LiAlO2でコーティングされたLiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末が得られ、当該サンプルはSDCNCA2として表される。 そして、上記「(1)エ」の「SDCNCA2サンプルでは、表面のAl濃度が、コアのAl濃度と比較して、わずかに高くなり・・・アルミニウムリッチな表面を持つ材料であることが確認できた。」、「図4a、bは、NCA材料が厚さ約10-40nmのコーティング層で覆われていることを示している。」との記載から、SDCNCA2サンプルはアルミニウムリッチな表面を持ち、コーティング層が厚さ約10-40nmである。 してみると、上記引用文献1には、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末は厚さ約10-40nmであるLiAlO2のコーティング層でコーティングされ、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末はアルミニウムリッチな表面を持つことが記載されているといえる。 ウ 上記「(1)エ」に「一方、SDCNCA2サンプル内の組成変化を調べるために、SEM画像と単一粒子の断面のエネルギ分散型分光像の線状掃引信号を取得した。図3に示すように、Ni、Co、Alの3つの元素の原子比は、直径約9μmに沿って取得した。SDCNCA2サンプルでは、表面のAl濃度が、コアのAl濃度と比較して、わずかに高くなり、それに応じてNiとCoが減少することが確認できた。」と記載されている。 してみると、引用文献1には、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末の表面のAl濃度が、コアのAl濃度と比較して、わずかに高いことが記載されているといえる。 (3)よって、引用文献1のSDCNCA2に着目すると、上記アないしウから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」)が記載されている。 「カソードと、アノードと、電解質としてエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジメチルカーボネート溶液中のLiPF6を使用した多孔質ポリプロピレンフィルムとを備えたコインセルの層状カソード材料であるLiNi0.8Co0.15Al0.05O2材料であって、 LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末は厚さ約10-40nmであるLiAlO2のコーティング層でコーティングされ、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末はアルミニウムリッチな表面を持ち、 LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末の表面のAl濃度が、コアのAl濃度と比較して、わずかに高い、 LiNi0.8Co0.15Al0.05O2材料。」 3 取消理由に対する当審の判断 (1)理由1(進歩性)について ア 本件発明1 (ア)対比 本件発明1と引用発明を対比する。 a 引用発明の「LiNi0.8Co0.15Al0.05O2材料」は「層状カソード材料」であることから、層状の構造を有することは明らかであって、該「LiNi0.8Co0.15Al0.05O2材料」は、ニッケルを含有するリチウム遷移金属酸化物であるから、本件発明1の「層状構造を有するニッケル含有リチウム遷移金属酸化物」に相当する。 そして、引用発明の「コインセル」は、「カソード」と「アノード」と「電解質としてエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジメチルカーボネート溶液中のLiPF6を使用した多孔質ポリプロピレンフィルム」とを備えているから、本件発明1の「非水電解質二次電池」に相当する。 さらに、引用発明の「LiNi0.8Co0.15Al0.05O2材料」は、「カソード材料」であり活物質として機能することは明らかであるから、正極活物質といえる。 よって、引用発明の「コインセル」の「層状カソード材料」である「LiNi0.8Co0.15Al0.05O2材料」と本件発明1とは、「ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を含む非水電解質二次電池用正極活物質」である点で共通する。 ただし、ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物に関し、本件発明1は「LixNiaCobAlcMdO2」の「式1」で表され、「式中、x、a、b、c、及びdはそれぞれ、0.95<x<1.05、0.91≦a<1、0<b<0.15、0≦d<0.15、0.03<cを満たす。Mは、B、Si、Mg、Ge、Sn、Mg、Cr、Mn、Ti、Nb、Mo及びFeから選ばれる1種以上の金属元素である」のに対し、引用発明は「LiNi0.8Co0.15Al0.05O2」である点で相違する。 b 本件発明1は「硬X線光電子分光法(HAXPES)の光子エネルギ6KeVにおいて結合エネルギ1560~1565eVのAlリッチ層のピークが存在」するのに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。 c 本件発明1は「リチウム遷移金属酸化物粒子の平均粒子径rに対し、中心から0.35rの範囲内においてAl濃度が略一定、かつ0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01であ」るのに対し、引用発明は「LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末の表面のAl濃度が、コアのAl濃度と比較して、わずかに高い」ものの、LiNi 0.8Co0.15Al0.05O2粉末の中心から0.35rの範囲内におけるAl濃度について特定されていない点で相違する。 d 引用発明では、「LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末」を「LiAlO2」によりコーティングすることにより、「LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末」は「アルミニウムリッチな表面を持」つことから、「LiAlO2のコーティング層」が「アルミニウムリッチ」であることは明らかである。 そして、引用発明の「LiAlO2のコーティング層」の「厚さ約10-40nm」は、本件発明1の「100nm以下」に含まれる。 よって、引用発明の「LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末は厚さ約10-40nmであるLiAlO2のコーティング層でコーティングされ、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末はアルミニウムリッチな表面を持」つことは、本件発明1の「Alリッチ層は100nm以下である」ことに相当する。 e 本件発明1の「Alリッチ層」は「LiAlO2とLi、Ni、Co及びAlを含有する酸化物との混合体である」のに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。 f aないしeによれば、本件発明1と引用発明とは、 「層状構造を有するニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を含む非水電解質二次電池用正極活物質であって、 Alリッチ層は100nm以下である、非水電解質二次電池用正極活物質。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物に関し、本件発明1は「LixNiaCobAlcMdO2」の「式1」で表され、「式中、x、a、b、c、及びdはそれぞれ、0.95<x<1.05、0.91≦a<1、0<b<0.15、0≦d<0.15、0.03<cを満たす。Mは、B、Si、Mg、Ge、Sn、Mg、Cr、Mn、Ti、Nb、Mo及びFeから選ばれる1種以上の金属元素である」のに対し、引用発明は「LiNi0.8Co0.15Al0.05O2 」である点。 (相違点2) 本件発明1は「硬X線光電子分光法(HAXPES)の光子エネルギ6KeVにおいて結合エネルギ1560~1565eVのAlリッチ層のピークが存在」するのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。 (相違点3) 本件発明1は「リチウム遷移金属酸化物粒子の平均粒子径rに対し、中心から0.35rの範囲内においてAl濃度が略一定、かつ0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01であ」るのに対し、引用発明は「LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末の表面のAl濃度が、コアのAl濃度と比較して、わずかに高い」ものの、LiNi 0.8Co0.15Al0.05O2粉末の中心から0.35rの範囲内におけるAl濃度について特定されていない点。 (相違点4) 本件発明1の「Alリッチ層」は「LiAlO2とLi、Ni、Co及びAlを含有する酸化物との混合体である」のに対し、引用発明はその旨特定されていない点。 (イ)相違点についての判断 事案に鑑み、相違点3について検討する。 a 上記「2(1)エ」及び「2(1)カ」の「図3(b)」によれば、直径約9μmのSDCNCA2の中心4.5μm(=9μm/2)±3.15μm(=0.35×9μm)の範囲におけるAl濃度の変化は、表面(1μm付近)におけるAl濃度に比べ小さいことが見て取れる。 しかし、引用文献1(上記「2 (1)エ」を参照)には「一方、SDCNCA2サンプル内の組成変化を調べるために、SEM画像と単一粒子の断面のエネルギ分散型分光像の線状掃引信号を取得した。図3に示すように、Ni、Co、Alの3つの元素の原子比は、直径約9μmに沿って取得した。SDCNCA2サンプルでは、表面のAl濃度が、コアのAl濃度と比較して、わずかに高くなり、それに応じてNiとCoが減少することが確認できた。これにより、SDCNCA2サンプルがアルミニウムリッチな表面を持つ材料であることが確認できた。」と記載されているように、SDCNCA2サンプルの表面のAl濃度と、コアのAl濃度と比較して、わずかに高くなることを確認しているに留まり、中心から0.35rの範囲内におけるAl濃度を略一定とするよう調節することの記載や示唆は見当たらず、まして、「中心から0.35rの範囲内」において「0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01」とすることは何等記載されていないことから、引用発明において、相違点3に係る構成を導き出すことまではできない。 また、本件特許明細書の段落【0018】、【0037】によれば、本件発明は「リチウム遷移金属酸化物粒子の平均粒子径rに対し、中心から0.35rの範囲内においてAl濃度が略一定、かつ、0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01」とすることにより、結晶構造が安定化するという効果を奏するものである。 したがって、上記相違点3に係る構成は、引用発明に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 b 特許異議申立人は、上記相違点3に対応する訂正前の請求項3に係る発明に対し、異議申立書において、甲第1号証のFigure3には、粒子断面の直径に沿って成分分析を行った場合に、表面部分を除いてAl濃度がほとんど変化せず一定であることが示されている。このため、甲第1号証に記載されたLiB用カソー ド材料は、「0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01」を充足するものといえ、仮に充足していなかったとしても、粒子内部のAlの分散の程度を調整することは設計事項に過ぎない旨主張する。(33頁13ないし18行を参照) しかしながら、上記aで述べたように、引用文献1には、中心から0.35rの範囲内におけるAl濃度を略一定とするよう調節することの記載や示唆は見当たらず、まして、「中心から0.35rの範囲内」において「0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01」とすることは何等記載されていないことから、リチウム遷移金属酸化物の粒子内部のAlの分散の程度を調整して上記範囲を満たすものとすることが設計事項であるとはいえない。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 (ウ)小括 以上から、相違点1、2、4について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではないから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 イ 本件発明2ないし5について 上記「第2」で述べたように、本件訂正により請求項2ないし5は削除されたため、請求項2ないし5に係る発明に対する取消理由は、その対象が存在しないものとなった。 (2)理由2(サポート要件)について ア 取消理由通知により通知した取消理由は、次のとおりである。 請求項1の記載によれば、Alの含有割合を示す「c」の上限値は規定されておらず、また、Ni、Co、Al、Mの含有割合を示す「a」、「b」、「c」、「d」については相互の関係について何ら規定していない。 してみると、本件発明1は、「a」、「b」、「c」、「d」の合計が1を超え、「層状構造」(本件特許明細書段落【0022】を参照)以外の構造を有する正極活物質も含むものである。 しかし、本件特許明細書段落【0053】ないし【0067】には、実施例1の正極活物質の「Ni、Co、及びAlの組成比」が「Ni:Co:Al=91.0:4.5:4.5」、実施例2の正極活物質の「Ni、Co、及びAlの組成比」が「Ni:Co:Al=91.6:2.9:5.5」、実施例3の正極活物質の「Ni、Co、及びAlの組成比」が「Ni:Co:Al=90.6:2.9:6.5」であることのみ記載されており、「層状構造」以外の構造によって、熱的安定性を向上させるとともに容量低下を抑制するという課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。 よって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認めらない。 また、本件発明2ないし本件発明5も同様である。 イ 当審の判断 本件訂正により、本件発明1の「ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物」について「層状構造」を有することが限定され、Alの含有割合を示す「c」の上限値が「0.065」に限定された。 そして、層状構造を有する正極活物質においては、Ni、Niを置換する遷移金属元素、及びLiを除くその他の金属元素の合計の含有割合は1となることが技術常識である(上記「2(1)オ」の「層状Niリッチカソード材料は、・・・・、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2カソード材料」を参照)ことからすれば、本件発明1におけるNi、Co、Al、Mの含有割合を示す「a」、「b」、「c」、「d」の合計は1であることは明らかであって、本件発明1は、発明の詳細な説明において当業者が発明の課題を解決できることを認識できる範囲を超えているとはいえないものとなった。 したがって、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。 また、本件訂正により請求項2ないし5は削除されたため、請求項2ないし5に係る発明に対する取消理由は、その対象が存在しないものとなった。 ウ 特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は、令和5年3月29日提出の意見書において、以下の点について主張する。 (a)Ni、Co、Al,Mの含有量を表すa、b、c、dの相互の関係は特定されておらず、a、b、c、dの合計が1を超える場合を依然として包含していることは明らかである。そして、Ni、Co、Al、Mの合計が1を超え、かつ層状構造を有するニッケル含有リチウム遷移金属酸化物は、本件特許の優先日前の技術常識に反し、当業者といえどもどのような化合物を意味するのか理解することはできず、係る化合物により本件特許発明の課題を解決できることは当業者といえども理解できないため、本件特許発明1は、依然としてサポート要件を充足していない。(4頁下から2行ないし5頁10行を参照) (b)また、本件特許明細書の実施例には、酸素やLiの含有割合は開示されていないため、本件特許明細書には、本件特許発明1の規定を充足する例は開示されておらず、また特定のほぼ同じ組成の例が開示されているのみであるため、本件特許発明1で規定する組成の範囲全般に渡って、本件特許発明の課題を解決できるかは明らかではなく、係る点でも本件特許発明1はサポート要件を充足していない。(5頁11ないし21行を参照) b 上記各点について検討する。 (a)上記「イ」でも述べたように、本件訂正により、本件発明1の「ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物」について「層状構造」を有することが限定され、層状構造を有する正極活物質においては、Ni、Niを置換する遷移金属元素、及びLiを除くその他の金属元素の合計の含有割合は1となるという技術常識を踏まえれば、本件発明1において、「a」、「b」、「c」、「d」の合計が1を超える場合は除かれるといえる。 (b)本件特許明細書の段落【0025】には、組成式(1)のリチウムの含有量xは、非水電解質二次電池の充放電容量を向上することができる点で、0.95<x<1.05の範囲であることが好ましいことが記載されている。 そして、同段落【0053】ないし【0066】、【0078】ないし【0081】、表2によれば、Ni含有リチウム遷移金属酸化物のNi、Co及びAlの組成比が「91.0:4.5:4.5」である実施例1、該組成比が「91.6:2.9:5.5」である実施例2、該組成比が「90.6:2.9:6.5」である実施例3のそれぞれは、容量が大きく低下することなく、発熱開始温度が高く、熱的安定性が向上していることから、各実施例のLiの含有量が「0.95<x<1.05」の範囲内のものであり、また、酸素の含有量についても「2」程度であることは推認し得る。 さらに、本件特許明細書の段落【0018】には「遷移金属酸化物粒子内部にほぼ一定の濃度でAlを拡散させて固溶させることで結晶構造が安定化する。また、表層部に極薄(例えば300nm以下)のAlリッチ層を形成することでリチウム遷移金属酸化物と電解液との不可逆な反応が抑制され、熱的安定性を向上させ得る。そして、表層に極薄のAlリッチ層を形成することで、充放電に寄与しない領域を表層のごく一部のみに限定し、充放電容量の低下を抑制し得る。」と、同【0081】には「Ni含有リチウム遷移金属酸化物の表層に極薄のAlリッチ層を形成するとともに、中心部~0.35rまでのAlをほぼ一定とすることで、容量を維持しつつも熱的安定性を向上することが可能といえる。」とそれぞれ記載されている。 してみると、本件特許明細書に記載された実施例、及び、上記段落【0018】、【0081】の記載からすれば、本件発明1の範囲において、熱的安定性を向上させるとともに容量低下を抑制するという課題(本件特許明細書の段落【0006】を参照)を解決できることを認識し得るといえる。 (c)よって(a)、(b)によれば、特許異議申立人の主張は採用できない。 (3)理由3(明確性)について ア 取消理由通知により通知した取消理由は、次のとおりである。 請求項1に「リチウム遷移金属酸化物粒子の平均粒子径rに対し、中心から0.35rの範囲内においてAl濃度が略一定であり」と記載されている。 しかしながら、「Al濃度」が「略一定」とは、「Al濃度」がどの程度のばらつきに収まれば「略一定」といえるのか明らかではないため、本件発明1に係る発明の範囲が不明確である。 また、本件発明2ないし5も同様である。 イ 当審の判断 本件訂正により、「中心から0.35rの範囲内」における略一定の「Al濃度」について、「かつ、0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01」が追加され限定された。 そして、本件特許明細書の段落【0037】の「また、それ以外の粒子内部はAl濃度がほぼ一定で固溶していることが好ましい。具体的には、粒子の中心~0.35rの範囲までAl濃度がほぼ一定であることが好ましく、より具体的には、0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01であることが好ましい。」との記載も参酌すれば、本件発明1の「中心から0.35rの範囲内においてAl濃度が略一定、かつ0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01」であるとは、「中心から0.35rの範囲内」における「Al濃度」は「略一定」であり、それを示す度合いとして、中心部のAl濃度に対する中心から0.35rにおけるAl濃度の割合が0.99より大きく1.01より小さいことを規定していると当業者であれば理解できる。 よって、本件発明1は不明確であるとはいえないものとなった。 したがって、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。 また、本件訂正により請求項2ないし5は削除されたため、請求項2ないし5に係る発明に対する取消理由は、その対象が存在しないものとなった。 ウ 特許異議申立人の主張 a 特許異議申立人は、令和5年3月29日提出の意見書において、「0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01であり」との規定は、中心部におけるAl濃度と、0.35rの点におけるAl濃度との比が所定の範囲内であることを特定するのみであるため、中心部と、0.35rの点との間のAl濃度の変化は明らかではなく、依然として「略一定」の定義は不明である旨主張する。(6頁17ないし23行を参照) b しかしながら、上記イで述べたように、本件発明1の「中心から0.35rの範囲内においてAl濃度が略一定、かつ0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01」であるとは、「中心から0.35rの範囲内」における「Al濃度」は「略一定」であり、それを示す度合いとして、中心部のAl濃度に対する中心から0.35rにおけるAl濃度の割合が0.99より大きく1.01より小さいことを規定していると理解できる。 してみれば、特許異議申立人の主張は採用できない。 (4)理由4(実施可能要件)について ア 取消理由通知により通知した取消理由は、次のとおりである。 硬X線光電子分光法(HAXPES)に関し、本件特許明細書段落【0056】、【0064】に「HAXPESの光子エネルギを6KeVとして分析したところ、結合エネルギが1561eVにおいてピークを有することが確認できた。従って、表層に300nm未満のAlリッチ層が形成されていると推察する。」と記載されているところ、本件特許明細書には「結合エネルギが1561eVにおいてピークを有する」ことにより、「表層に300nm未満のAlリッチ層が形成されている」と推察できる理由について何等記載されていない。 一方、同段落【0071】の「図1A~図1Cは、実施例1~2、及び比較例1のHAXPESの光子エネルギ6KeVでの分析結果を示す。・・・。結合エネルギ1560~1565eVに着目すると、Al(OH)3を添加しない比較例1ではピークは生じておらず、実施例1及び実施例2ではピークが生じていた。光子エネルギ6KeVは粒子表面から数十nm程度に対応しており、比較例1ではこの位置にAlリッチ層が存在していないのに対し、実施例1及び実施例2ではAlリッチ層が存在していることが分かる。」との記載によれば、「HAXPESの光子エネルギ6KeV」で分析し、「結合エネルギ1560~1565eV」において「ピークが生じていた」場合、「粒子表面から数十nm程度」に「Alリッチ層が存在」することが示唆されている。また、HAXPESにより物質の表面から数十nm程度の深さを解析できることは技術常識である(必要とあれば、国際公開2015/080023号段落[0033]、山瑞拡路、外3名、実験室系硬X線光電子分光、[online]、表面科学Vol. 37, No. 4, pp. 150-155, 2016、[令和4年4月21日検索]、インターネット、<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsssj/37/4/37_150/_pdf/-char/ja>を参照)。 してみると、「HAXPESの光子エネルギ6KeV」で分析し、「結合エネルギ1560~1565eV」において「ピークが生じていた」としても、「表層」に数十nmを大きく超えた「300nm」以下の範囲、例えば100nm~300nm以下のAlリッチ層が形成されていると推察することはできず、ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物の表層に数十nmを大きく超えた300nm以下の範囲のAlリッチ層をどのようにすれば形成できるのか不明であるから、本件の発明の詳細な説明に基づいて、本件発明1を実施できるものとは認められない。 また、本件発明2ないし5についても同様である。 イ 当審の判断 「Alリッチ層」に関し、本件特許明細書の段落【0017】の「本発明者等は、Alリッチ層をNi含有リチウム遷移金属酸化物粒子の表面近傍、具体的には数百nmのオーダではなく数十nmのオーダ、具体的には、例えば300nm以下というオーダで形成させる種々の技術を鋭意検討した結果、遷移金属酸化物をLi源とともにAl化合物を加えて一定の温度範囲で焼成することで、Li源とAl化合物とが溶融し、遷移金属酸化物粒子内にLiとAlが十分に拡散させつつもその表層部に極薄のAlリッチ層を形成し得ることを見出した。」と、同段落【0018】に「また、表層部に極薄(例えば300nm以下)のAlリッチ層を形成することでリチウム遷移金属酸化物と電解液との不可逆な反応が抑制され、熱的安定性を向上させ得る。」、同段落【0033】に「本発明者等は、500℃~800℃の温度範囲で、かつ5~9時間の時間範囲で加熱することにより、AlをNCA内部に十分に拡散させつつ、表層に極薄のAlリッチ層、具体的にはLiAlO2とLiNiCoAlO2との混合体を形成し得ることを確認している。」、同段落【0036】に「Alリッチ層は、Ni含有リチウム遷移金属酸化物粒子の表層に極薄で存在することが好ましく、例えば300nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは100nm以下である。」とそれぞれ記載されており、該記載からすれば、500℃~800℃の温度範囲でかつ5~9時間の時間範囲で、加熱温度や加熱時間を調整することにより、AlをNCA内部に十分に拡散させつつ、表層に極薄のAlリッチ層、即ち、100nm以下のAlリッチ層を形成し得ることは、容易に理解できる。 また、正極活物質を構成する粒子の表面から100nmまでの深さにおける元素を分析する方法として、エネルギー分散型X線分光法(EDS)等の方法は技術常識である。(参考として、特開2017-021942号公報段落【0030】、国際公開2015/030192号段落【0037】を参照。) してみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していないとはいえない。 よって、請求項1に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。 また、本件訂正により請求項2ないし5は削除されたため、請求項2ないし5に係る発明に対する取消理由は、その対象が存在しないものとなった。 ウ 特許異議申立人の主張 a 特許異議申立人は、令和5年3月29日提出の意見書において、(a)HAXPESにより測定できる領域は粒子表面から数十nm程度であり、具体的なAlリッチ層の厚さは評価できないため、何故「100nm」付近までAlリッチ層が形成されていると推察可能であるのかその理由が不明であり、またそれを裏付ける証拠も見当たらないから、本件特許発明1について、実施可能要件、サポート要件を充足していない(8頁下から1行ないし9頁21行を参照)、(b)数十nmから100nm以下の範囲のAlリッチ層をどのように形成できるのかが不明である以上、実施可能要件、サポート要件を充足しない(9頁28ないし30行を参照)旨主張する。 b しかしながら、上記イで述べたように、本件特許明細書の段落【0036】の記載からすれば、500℃~800℃の温度範囲でかつ5~9時間の時間範囲で加熱温度、加熱時間を調整することにより、表層に極薄のAlリッチ層、即ち、100nm以下のAlリッチ層を形成し得ることは、容易に理解できるし、また、粒子の表面から100nmまでの深さにおける元素を分析する方法であるエネルギー分散型X線分光法(EDS)等も技術常識であることからすれば、本件特許明細書に、粒子表面から「100nm」付近までのAlリッチ層を解析できる方法が記載されていないとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していないとはいえない。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について 1 訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議申立理由の概要(1)理由1(進歩性) 請求項1ないし5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された技術及び甲第4号証に記載された技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2(サポート要件) 特許請求の範囲の請求項1ないし5の記載に不備があるため、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。 (3)申立理由3(明確性) 特許請求の範囲の請求項1ないし5の記載に不備があるため、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものである。 2 提出された証拠 異議申立人が提出した証拠は次のとおりである。 甲第2号証:特開2010-170741号公報 甲第3号証:国際公開2017/018099号 甲第4号証:国際公開2015/141179号 3 当審の判断 (1)特許法第29条第2項の規定違反について ア 甲第2号証の記載事項等 (ア)甲第2号証には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審が付与した。 「【0016】 本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、酸化ニッケル粒子にアルミニウムを被覆する構成を想到するに至った。この構成によれば、アルミニウムを被覆した酸化ニッケル粒子とリチウム化合物とを混合し、この混合物を熱処理することにより、リチウム含有ニッケル酸化物粒子が得られる。この構成では、アルミニウムの被覆後に熱処理を1度だけ実施するので、アルミニウムが粒子全体に拡散しない。その結果、アルミニウム濃度が粒子内部よりも粒子表面の方が高いリチウム含有ニッケル酸化物粒子が得られることを見出した。さらに、粒子中心部のアルミニウム濃度は活物質としての容量を低下させない程度に低いことを見出した。」 「【0045】 このようにして、リチウム含有ニッケル複合酸化物粒子が得られる。このリチウム含有ニッケル複合酸化物粒子は、粒子表面側のアルミニウム濃度が粒子中心部のアルミニウム濃度よりも高いという特徴を有している。アルミニウム濃度は、該粒子の研磨断面をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)分析することにより、確認できる。 【0046】 ここで、粒子表面側とは、粒子表面および粒子表層を含む。粒子表層とは、粒子表面に存在する層厚100~1000nmの部分である。また、粒子中心部とは、該粒子の形状が球状または楕円球状なので、該粒子を内包し得る最小の真球の中心およびその近傍部分である。具体的には、前記真球の中心を中心とし、径100~1000nmの真球の部分である。 【0047】 本発明の製造方法により得られるリチウム含有ニッケル複合酸化物は、アルミニウム濃度が粒子表面側から粒子中心部に向けて連続的にまたは段階的に減少していることが好ましい。これにより、粒子表面における副反応と、重量あたりの容量の低下とを一層顕著に抑制できる。さらに、粒子自体の経時劣化に対しても有効である。」 「【実施例】 【0053】 以下に実施例、比較例および試験例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。(実施例1)(a)ニッケル水酸化物の製造 NiSO4水溶液にコバルトの硫酸塩を加え、飽和水溶液を調製した。この飽和水溶液を25℃に保持し、攪拌下に水酸化ナトリウム水溶液をゆっくり滴下して中和し、ニッケルコバルト複合水酸化物(Ni0.85Co0.15(OH)2)を共沈させた。この沈殿物をろ過、水洗し、80℃で24時間乾燥し、複合水酸化物の粒子を得た。得られた複合水酸化物粒子の体積平均粒子径は約10μmであった。また、窒素吸着法により測定されるBET比表面積は20m2/gであった。 【0054】 (b)ニッケル酸化物の製造 ニッケルコバルト複合水酸化物(Ni0.85Co0.15(OH)2)を大気中にて500℃で10時間加熱し、ニッケルコバルト複合酸化物(Ni0.85Co0.15O)を得た。 【0055】 (c)アルミニウムの被覆 ニッケルコバルト複合酸化物(Ni0.85Co0.15O)を水に分散させ、この分散液に攪拌下に硫酸アルミニウム水溶液(濃度1モル/リットル)および水酸化ナトリウム水溶液(濃度1モル/リットル)を滴下した。このとき、NiとCoの合計量とAlとのモル比が93:7になるように、硫酸アルミニウム水溶液の滴下量を調整した。滴下終了後、水中の固形物を分離し、水洗し、80℃で24時間乾燥し、表面が水酸化アルミニウムで被覆されたニッケルコバルト複合酸化物(以下「活物質前駆体」とする)を製造した。 【0056】 (d)リチウム含有ニッケル複合酸化物の製造 上記で得られた活物質前駆体と水酸化リチウム(LiOH)とを混合した。得られた混合物において、活物質前駆体に含まれるニッケルおよびコバルト(異種金属元素)の合計量とリチウムとのモル比が1:1になるように、水酸化リチウムの量を調整した。この混合物を、酸素雰囲気中、750℃で12時間焼成し、リチウム含有ニッケル複合酸化物(Li(Ni0.85Co0.15)0.93Al0.07O2)を製造した。 【0057】 このリチウム含有ニッケル複合酸化物の粒子では、アルミニウム原子の含有割合が中心部から表面に向かって増加していた。また、このリチウム含有ニッケル複合酸化物は二次粒子であり、その体積平均粒径は12μmであった。また、前記の組成式から明らかなように、このリチウム含有ニッケル複合酸化物におけるアルミニウム原子の含有量は、金属元素(ニッケル、コバルトおよびアルミニウム)の合計量の7モル%であった。 【0058】 さらに、このリチウム含有ニッケル複合酸化物粒子を、走査型電子顕微鏡で観察した。図1は、実施例1で得られたリチウム含有ニッケル複合酸化物粒子の走査型電子顕微鏡写真である。図1のリチウム含有ニッケル複合酸化物粒子は、表面側におけるアルミニウム原子含有割合が、中心部側におけるアルミニウム原子の含有割合よりも大きい。」 「【0063】 (試験例1) 実施例1および比較例1~2で得られたリチウム含有ニッケル複合酸化物粒子の断面について、電子線マイクロアナライザー(以下「EPMA」とする、Electron Probe Micro Analyzer、商品名:DX-4、エダックス・ジャパン(株)製)を使用し、加速電圧15kVにて、Ni、CoおよびAlの濃度をライン分析した。結果を図2~4に示す。 【0064】 図2は、EPMAによる実施例1のリチウム含有ニッケル複合酸化物粒子のライン分析結果を示す図面である。図3は、EPMAによる比較例1のリチウム含有ニッケル複合酸化物粒子のライン分析結果を示す図面である。図4は、EPMAによる比較例2のリチウム含有ニッケル複合酸化物粒子のライン分析結果を示す図面である。図2~4において、上下方向に並ぶ3つの折れ線のうち、符号1で示す一番下にある折れ線はNi原子の分布を示し、符号2で示す真中にある折れ線はCo原子の分布を示し、符号3で示す一番上にある折れ線はAl原子の分布を示している。各折れ線の縦方向の高さが、各原子の濃度を表している。 【0065】 図2から、実施例1のリチウム含有ニッケル複合酸化物粒子では、粒子表面側のアルミニウム原子の濃度が粒子中心部のアルミニウム原子の濃度より高くなっていることが判る。これにより、この粒子を正極活物質として含む非水電解質二次電池を高温保存した場合に、正極表面での副反応による皮膜生成が少なく、抵抗増加を抑制することができる。しかも、粒子内部におけるアルミニウム原子濃度は低いので、重量当たりの容量が減少することも抑制される。」 「【0070】 以上のように、本発明の製造方法によれば、厳密な工程管理を必要とせず、かつ少ない工程数で、非水電解質二次電池用の正極活物質としての性能に優れたリチウム含有ニッケル複合酸化物粒子を得ることができる。」 (イ)甲第2号証の上記記載事項により、次のことがいえる。 a 上記段落【0056】、【0065】、【0070】によれば、甲第2号証には、実施例1として、非水電解質二次電池用の正極活物質としてのリチウム含有ニッケル複合酸化物(Li(Ni0.85Co0.15)0.93Al0.07O2)が記載されている。 b 上記段落【0057】によれば、リチウム含有ニッケル複合酸化物の粒子では、アルミニウム原子の含有割合が中心部から表面に向かって増加している。 c 上記段落【0045】、【0046】及び【0058】によれば、リチウム含有ニッケル複合酸化物粒子は、粒子表面に存在する層厚100~1000nmの部分である粒子表層のアルミニウム濃度が粒子中心部のアルミニウム濃度よりも高いといえる。 (ウ)よって、甲第2号証に記載された実施例1のリチウム含有ニッケル複合酸化物に着目すると、上記aないしcから、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」)が記載されている。 「非水電解質二次電池用の正極活物質としてのリチウム含有ニッケル複合酸化物(Li(Ni0.85Co0.15)0.93Al0.07O2)であって、 リチウム含有ニッケル複合酸化物の粒子では、アルミニウム原子の含有割合が中心部から表面に向かって増加し、 リチウム含有ニッケル複合酸化物粒子は、粒子表面に存在する層厚100~1000nmの部分である粒子表層のアルミニウム濃度が粒子中心部のアルミニウム濃度よりも高い、 リチウム含有ニッケル複合酸化物粒子。」 イ 対比及び判断 (ア)本件発明1について a 本件発明1と甲2発明との対比 (a)甲2発明は「Li(Ni0.85Co0.15)0.93Al0.07O2」である「リチウム含有ニッケル複合酸化物」であるところ、Ni、Niを置換する遷移金属元素、及びLiを除くその他の金属元素の合計は1(=0.93+0.07)であることから、技術常識(上記「第4 3(2)イ」を参照)を踏まえれば、甲2発明の「リチウム含有ニッケル複合酸化物」は「層状構造」を有するといえる。 よって、甲2発明の「非水電解質二次電池用の正極活物質としてのリチウム含有ニッケル複合酸化物(Li(Ni0.85Co0.15)0.93Al0.07O2)」と本件発明1とは、「層状構造を有するニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を含む非水電解質二次電池用正極活物質」である点で共通する。 ただし、ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物に関し、本件発明1は「LixNiaCobAlcMdO2」の「式1」で表され、「式中、x、a、b、c、及びdはそれぞれ、0.95<x<1.05、0.91≦a<1、0<b<0.15、0≦d<0.15、0.03<cを満たす。Mは、B、Si、Mg、Ge、Sn、Mg、Cr、Mn、Ti、Nb、Mo及びFeから選ばれる1種以上の金属元素であ」るのに対し、甲2発明は「Li(Ni0.85Co0.15)0.93Al0.07O2」である点で相違する。 (b)本件発明1は、「硬X線光電子分光法(HAXPES)の光子エネルギ6KeVにおいて結合エネルギ1560~1565eVのAlリッチ層のピークが存在」するのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。 (c)本件発明1は、「リチウム遷移金属酸化物粒子の平均粒子径rに対し、中心から0.35rの範囲内においてAl濃度が略一定、かつ0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01であ」るのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。 (d)本件発明1は「Alリッチ層は100nm以下である」のに対し、甲2発明の「粒子表層のアルミニウム濃度が粒子中心部のアルミニウム濃度よりも高い」「粒子表層」は「層厚100~1000nmの部分である」点で相違する。 (e)本件発明1の「Alリッチ層」は「LiAlO2とLi、Ni、Co及びAlを含有する酸化物との混合体である」のに対し、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。 (f)(a)ないし(e)によれば、本件発明1と甲2発明とは、 「層状構造を有するニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を含む非水電解質二次電池用正極活物質。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点5) 本件発明1は「LixNiaCobAlcMdO2」の「式1」で表され、「式中、x、a、b、c、及びdはそれぞれ、0.95<x<1.05、0.91≦a<1、0<b<0.15、0≦d<0.15、0.03<cを満たす。Mは、B、Si、Mg、Ge、Sn、Mg、Cr、Mn、Ti、Nb、Mo及びFeから選ばれる1種以上の金属元素であ」るのに対し、甲2発明は「Li(Ni0.85Co0.15)0.93Al0.07O2」である点。 (相違点6) 本件発明1は「硬X線光電子分光法(HAXPES)の光子エネルギ6KeVにおいて結合エネルギ1560~1565eVのAlリッチ層のピークが存在」するのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点。 (相違点7) 本件発明1は、「リチウム遷移金属酸化物粒子の平均粒子径rに対し、中心から0.35rの範囲内においてAl濃度が略一定、かつ0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01であ」るのに対し、甲2発明その旨特定されていない点。 (相違点8) 本件発明1は「Alリッチ層は100nm以下である」のに対し、甲2発明の「粒子表層のアルミニウム濃度が粒子中心部のアルミニウム濃度よりも高い」「粒子表層」は「層厚100~1000nmの部分である」点 (相違点9) 本件発明1の「Alリッチ層」は「LiAlO2とLi、Ni、Co及びAlを含有する酸化物との混合体である」のに対し、甲2発明はその旨特定されていない点。 b 相違点に対する判断 事案に鑑み、相違点7について検討する。 a 甲第3号証には、一般式(1):LiaNi1―x―yCoxMyWzO2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.0008≦z≦0.030、0.97≦a≦1.25、0≦α≦0.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される非水系電解質二次電池用正極活物質において、母材としてLi1.025Ni0.910Co0.045Al0.045O2で表されるリチウムニッケル複合酸化物粒子として用いた技術(段落[0026]、[0110]を参照。)が、甲第4号証には、一般式:LiaNixCoyAlzO2(ただし、0.95≦a≦1.20、0.90<x、0<y<0.10、0<z<0.10)で表されるリチウム遷移金属酸化物を含む非水電解質二次電池の正極おいて、リチウム遷移金属酸化物としてのLiNi0.91Co0.06Al0.03O2を用いた技術([請求項1]、[請求項7]、[0046]を参照。)がそれぞれ記載されているものの、リチウム遷移金属酸化物粒子の平均粒子径rに対し、中心から0.35rの範囲内においてAl濃度が略一定、かつ0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01とすることの記載や示唆は見当たらない。 また、甲2発明において「リチウム含有ニッケル複合酸化物の粒子では、アルミニウム原子の含有割合が中心部から表面に向かって増加」するところ、甲第2号証の段落【0047】には「リチウム含有ニッケル複合酸化物は、アルミニウム濃度が粒子表面側から粒子中心部に向けて連続的にまたは段階的に減少していることが好ましい。これにより、粒子表面における副反応と、重量あたりの容量の低下とを一層顕著に抑制できる。さらに、粒子自体の経時劣化に対しても有効である。」と記載されている。してみると、甲2発明において、リチウム含有ニッケル複合酸化物の粒子の中心から0.35rの範囲内においてAl濃度を略一定、かつ0.99<(0.35rのAl濃度)/(中心部のAl濃度)<1.01とすることにはむしろ阻害要因があるといえるから、甲2発明に基づいて相違点7にかかる構成を導き出すことはできない。 したがって、相違点7に係る構成は、甲2発明、甲第3号証に記載された技術及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 c 特許異議申立人の主張 特許異議申立人は異議申立書において、リチウム含有ニッケル複合酸化物粒子の断面について、電子線マイクロアナライザーを使用し、Ni、CoおよびAlの濃度をライン分析した結果である、甲第2号証の図2,図3を比較すると、実施例1の評価結果である図2における粒子内部におけるAl濃度の変化は、粒子全体にわたってアルミニウム原子がほぼ均一に分散している(甲第2号証段落【0066】)とされる図3におけるAl濃度の変化と同一である。すなわち、甲第2号証におけるリチウム含有ニッケル複合酸化物粒子は、粒子内部においてアルミニウム原子がほぼ均一に分散しており、「リチウム遷移金属酸化物粒子の平均粒子径rに対し、中心から0.35rの範囲内においてAl濃度が略一定」であるとの規定を充足するものといえる旨主張する。(38頁12ないし20行を参照。) しかしながら、甲第2号証の図3は、比較例1のNi、CoおよびAlの濃度をライン分析した図面であるところ、同段落【0066】には「図3に示すように、比較例1のリチウム含有ニッケル複合酸化物粒子は、粒子表面側のアルミニウム原子濃度と粒子中心部のアルミニウム原子濃度とがほぼ同じである。」と記載されている一方、実施例1のNi、CoおよびAlの濃度をライン分析した図面である図2に関し、同段落【0065】には「図2から、実施例1のリチウム含有ニッケル複合酸化物粒子では、粒子表面側のアルミニウム原子の濃度が粒子中心部のアルミニウム原子の濃度より高くなっていることが判る。」と記載されていることから、図2における粒子内部におけるAl濃度の変化は、図3におけるAl濃度の変化と同一であるとはいえない。してみると、異議申立人の主張はその前提において誤っている。 また、甲第2号証の段落【0047】の「本発明の製造方法により得られるリチウム含有ニッケル複合酸化物は、アルミニウム濃度が粒子表面側から粒子中心部に向けて連続的にまたは段階的に減少していることが好ましい。」、【0057】の「このリチウム含有ニッケル複合酸化物の粒子では、アルミニウム原子の含有割合が中心部から表面に向かって増加していた。」と記載からすれば、甲2発明において「リチウム遷移金属酸化物粒子の平均粒子径rに対し、中心から0.35rの範囲内においてAl濃度が略一定」であるとはいえず、他に「Al濃度が略一定」であることを裏付ける記載も見当たらない。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 d 小括 以上から、相違点5、6、8、9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された技術及び甲第4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 (イ)本件発明2ないし5について 上記「第2」で述べたように、本件訂正により請求項2ないし5は削除されたため、請求項2ないし5に係る発明に対する取消理由は、その対象が存在しないものとなった。 (2)特許法第36条第6項第1号の規定違反について ア 特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、異議申立書において、本件特許発明1でも規定している、「硬X線光電子分光法(HAXPES)の光子エネルギ6KeV」によれば、本件特許権者の主張に基づいても、「粒子表面から数十nm程度」について評価できるのみであり、Alリッチ層が 数十nmを超えて存在していることは評価できない。そして、本件特許明細書においては、Alリッチ層をHAXPES以外の手段により評価する方法は開示されておらず、どのような場合に、数十nmを超えて300nm以下のAlリッチ層が得られていると評価できるのかが明らかではない。そうすると、Alリッチ層が数十nmを超えて300nm以下の場合を包含する本件特許発明1は、本件特許明細書に開示された範囲を超えており、サポート要件を充足しない。(50頁13ないし23行を参照) イ 当審の判断 上記「第4 3(4)イ」で検討したように、正極活物質を構成する粒子の表面から100nmまでの深さにおける元素を分析する方法として、エネルギー分散型X線分光法(EDS)等の方法は技術常識である。 また、本件特許明細書の【0036】に「Alリッチ層は、Ni含有リチウム遷移金属酸化物粒子の表層に極薄で存在することが好ましく、例えば300nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは100nm以下である。」と記載されているように、分析方法に関係なくAlリッチ層を100nm以下とすることも記載されている。 してみると、Alリッチ層が100nm以下の場合を包含する本件発明1は、本件特許明細書に開示された範囲を超えているとはいえない。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 (3)特許法36条第6項第2号の規定違反について ア 特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、異議申立書において、以下の点について主張する。 (ア)本件特許明細書の【0071】において、「結合エネルギ1560~1565eVに着目すると、Al(OH)3を添加しない比較例1ではピークは生じておらず」とされている、図1Aに開示された比較例1の評価結果によれば、1560eVにかかるピークを有している。また、仮に図1Aに開示されたグラフにおいて結合エネルギ1560~1565eVにピークがないとすると、図1Bに開示された実施例1の評価結果においても図1Aの場合と同様に、1558~1565eVの領域にブロードなピークがあるのみであり、ピークが認められないことになる。従って、どのような場合に「Alリッチ層のピークが存在」すると判定できるのかが明らかではなく、「硬X線光電子分光法(HAXPES)の光子エネルギ6KeVにおいて結合エネルギ1560~1565eVのAlリッチ層のピークが存在し、」との規定はどのような状態を意味しているのかが明らかではなく不明確である。(51頁6ないし17行) (イ)「Alリッチ層」がどの程度のAl含有量の場合に「Alリッチ層」といえるのかが明らかではなく、上記規定は係る観点からも不明確であり(51頁18ないし19行)、また、Alリッチ層がどの程度のAl含有量の場合に「Alリッチ層」といえるのかが明らかではないため、どのような場合に、Alリッチ層がLiAlO2とLi、Ni、Co及びAlを含有する酸化物との混合体であると評価できるのかが明らかではなく、「前記Alリッチ層 は、LiAlO2とLi、Ni、Co及びAlを含有する酸化物との混合体である」との規定は不明確となる。(52頁下から3行ないし53頁3行) イ 当審の判断 (ア)本件特許の図1Aによれば、比較例1では1560eV付近においてピークは生じておらず、同1Bによれば、実施例では1560~1561eVにかけてピークが生じていることが見て取れる。 [図:0001401595000002.jpg] [図:0001401595000003.jpg] してみれば、図1Aでは1560eVにかかるピークを有し、図1Bではピークが認められないとはいえないから、異議申立人の主張は、その前提において誤っており採用できない。 (イ)本件発明1において、「Alリッチ層」とは「硬X線光電子分光法(HAXPES)の光子エネルギ6KeVにおいて結合エネルギ1560~1565eV」に「ピークが存在」する「層」を指すものであって、「Alリッチ層」におけるAl含有量を限定する格別の理由も見当たらないから、「Alリッチ層」は不明確であるとはいえない。 また、本件発明1において、「Alリッチ層」は「LiAlO2とLi、Ni、Co及びAlを含有する酸化物との混合体である」とは、単に「Alリッチ層」が「LiAlO2」と「Li、Ni、Co及びAlを含有する酸化物」とが混合された層であれば足りることを規定しているに過ぎず、不明確とはいえない。 (ウ)以上から、特許異議申立人の主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知(審決の予告)に記載した理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項2ないし5に係る特許は、上記のとおり訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立ての対象は存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-701247

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