2021-701179
研磨用組成物
- 審判番号
- 2021-701179
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-252313外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6891107
- 請求日
- 2021年12月14日
- 審決日
- 2022年08月31日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ニッタ・デュポン株式会社
- 【権利者代理人】上羽 秀敏
- 【権利者代理人】小宮山 聰
- 【異議申立人】神澤 正広
- 分類
- P1651.121-YAA(H01L) / P1651.537-YAA(H01L) / P1651.536-YAA(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 15項目
第1 手続の経緯
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特許第6891107号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成29年12月27日に出願され、令和3年5月28日にその特許権の設定登録がされ、同年6月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、同年12月14日に特許異議申立人神澤正広により特許異議の申立てがされ、当審は、令和4年3月16日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年5月12日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)に対して、特許異議申立人神澤正広は、同年6月20日に意見書を提出した。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「重量平均分子量が1500~30000であり、エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制剤とを含み」とあるのを、「重量平均分子量が2000~8000であり、エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制剤とを含み」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。
本件訂正請求は、一群の請求項〔1、2〕に対して請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
上記訂正事項1は、請求項1の振動抑制剤の重量平均分子量を訂正前の「1500~30000」から「2000~8000」へと訂正するものであり、振動抑制剤の重量平均分子量を訂正前の範囲内において更に限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
振動抑制剤の重量平均分子量の下限を2000とする訂正は、本件特許明細書の段落【0028】の記載に基づくものである。振動抑制剤の重量平均分子量の上限を8000とする訂正は、表1(段落【0040】)の実施例1~3の振動抑制剤の重量平均分子量に基づくものである。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、発明特定事項の一つである振動抑制剤の重量平均分子量を訂正前の範囲内において更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
3 小括
上記のとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正請求による訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1、2に係る発明(以下、順に「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】コロイダルシリカと、水溶性高分子と、塩基性化合物と、続きを表示(全12行)水と、重量平均分子量が2000~8000であり、エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制剤とを含み、前記振動抑制剤のモル濃度が6.9×10-10mol/g以上であり、前記振動抑制剤1分子当たりの前記エチレンオキサイド基部分の重量平均分子量と前記振動抑制剤の質量濃度との積が8.0×10-2以上であり、前記振動抑制剤は、アルキレンオキサイド基に占めるエチレンオキサイド基の重量平均分子量の割合が80%以上である、研磨用組成物。【請求項2】請求項1に記載の研磨用組成物であって、前記水溶性高分子は、ヒドロキシエチルセルロースである、研磨用組成物。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、2に係る特許に対して、当審が令和4年3月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
理由2 請求項1、2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1、4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
理由3 本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1、2、4に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。
<引用文献一覧>
1.引用文献1:国際公開第2013/073025号(特許異議申立人神澤正広が提出した「甲第1号証」)
2.引用文献2:「PEGと木材のはなし」、木材保存、Vol.19-5(1993)、2(204)~16(218)ページ)(特許異議申立人神澤正広が提出した「甲第2号証」)
3.引用文献4:国際公開第2014/034425号(特許異議申立人神澤正広が提出した「甲第4号証」
2 引用文献の記載と引用発明等
(1)引用文献1の記載と引用発明
ア 引用文献1の記載
取消理由通知において引用した引用文献1(甲第1号証:国際公開第2013/073025号)には、以下の事項が記載されている(下線は合議体が付加した。以下、同じ。)。
「技術分野[0001] 本願発明は、半導体ウェーハ表面の鏡面研磨において、LPDの改善に好適な研磨液組成物に関する。・・・[0003] ・・・最終研磨後の半導体ウェーハの品質の評価基準としては、一般的にLPD(Light Point Defect)及びヘイズレベル(表面曇りの程度)が用いられている。」
「[0020] 前記シリカ粒子はコロイダルシリカであり、ケイ酸アルカリ水溶液又はアルキルシリケートを原料として製造されるものが好適である。」
「[0035] [ポリエチレングリコール]前記ポリエチレングリコールは、数平均分子量が200~15,000である。半導体ウェーハ表面のLPDをより低減するには、数平均分子量は10,000以下であることが好ましく、5,000以下であることがより好ましい。[0036] 前記ポリエチレングリコールの添加量としては、研磨液組成物全量の質量に対して0.01~0.5質量%である。ポリエチレングリコールの添加量が0.01質量%未満では、LPDを改善することはできない。また0.5質量%を超えると濡れ性が高すぎるために滑りやすくなり、研磨パッドとウェーハ表面の抵抗が低くなるため、研磨速度が低下し、そのためLPDが悪化する。半導体ウェーハ表面のLPDをより低減するためには、ポリエチレングリコールの添加量は0.02~0.4質量%であることが好ましく、0.03~0.2質量%であることがより好ましい。[0037] [研磨液組成物]本願発明の研磨液組成物は、高濃度の原液として調製して、貯蔵又は輸送を行い、研磨装置で使用する際に純水を加えて希釈して使用することもできる。希釈倍率は5~100倍、好ましくは10~50倍である。」
「実施例[0041] [分析方法及び試験方法][1]SF1の測定方法、[2]CV値の測定方法、[3]窒素吸着法から求められる一次粒子径、[4]水溶性高分子化合物の分子量測定については特に断りのない限り、それぞれ次の分析方法[1]~[4]に従って測定又は算定し、その結果を表1に示した。[1]画像解析による形状係数SF1(粒子の真球度)の測定方法続きを表示(全37行)・・・[4]水溶性高分子化合物の分子量測定重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法により下記の条件で測定した。カラム:OHpak SB-806M HQ(8.0mmID×300mm)カラム温度:40℃溶離液:0.1M 硝酸ナトリウム水溶液試料濃度:0.11質量%流速:0.5mL/分注入量:200μL検出器:RI(示差屈折計)[0042] [5]半導体ウェーハに対する研磨特性の評価方法SF1、CV値の異なるシリカ粒子に、水、アンモニア、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコールを添加して研磨液組成物を調製し、絶対ろ過精度1.0μmのフィルターで濾過処理した。その研磨液組成物を40倍に希釈した研磨スラリーを用いて、同一条件で一次研磨されたシリコンウェーハを以下に示す条件で仕上げ研磨した。研磨機:900φ片面加工機荷重:120g/cm2定盤回転数:40rpmヘッド回転数:40rpm研磨組成物の希釈液:350ml/分研磨時間:5分ウェーハ:シリコンウェーハP-(100)仕上げ研磨後のシリコンウェーハに公知のSC1洗浄(アンモニア:過酸化水素:水の混合比=1:1~2:5~7の洗浄液(SC1液)に75~85℃、10~20分浸漬処理)及びSC2洗浄(塩酸:過酸化水素:水=1:1~2:5~7の洗浄液(SC2液)に75~85℃、10~20分浸漬処理)を施し、ウェーハ表面の不純物を除去した。仕上げ研磨後のシリコンウェーハ表面のLPDは、KLA-Tencor社製Surf Scan SP-2を用いて測定した。LPDは37nm以上の個数で示した。表1において、(○)はウェーハ1枚あたりの37nm以上のLPDの個数が80個未満、(△)は80個以上200個未満、(×)は200個以上を示す。[0043] 〔実施例1〕平均一次粒子径が37nmであり、SF1が1.11、CV値が7%のメチルシリケートを原料とするシリカ粒子を含有するシリカ濃度30質量%の水性シリカゾル79gに水156g、28質量%アンモニア水5g、重量平均分子量60万のヒドロキシエチルセルロース59g、数平均分子量1,000のポリエチレングリコール1.5gを加えて、シリカ濃度が8質量%、アンモニアが0.46質量%、重量平均分子量60万のヒドロキシエチルセルロースが0.22質量%、数平均分子量1,000のポリエチレングリコールが0.1質量%の研磨液組成物(残りは水、以下同様)を調製した。得られた研磨液組成物のpHは10.7、25℃におけるオストワルド粘度は3.0mPa・sであった。・・・〔実施例7〕平均一次粒子径が31nmであり、SF1が1.17、CV値が7%のメチルシリケートを原料とするシリカ粒子を含有するシリカ濃度30質量%の水性シリカゾル79gに水156g、28質量%アンモニア水5g、重量平均分子量60万のヒドロキシエチルセルロース59g、数平均分子量200のポリエチレングリコール1.5gを加えて、シリカ濃度が8質量%、アンモニアが0.46質量%、重量平均分子量60万のヒドロキシエチルセルロースが0.22質量%、数平均分子量200のポリエチレングリコールが0.1質量%の研磨液組成物を調製した。得られた研磨液組成物のpHは10.7、25℃におけるオストワルド粘度は3.1mPa・sであった。〔実施例8〕数平均分子量10,000のポリエチレングリコールを用いた以外は実施例7と同様に行って、シリカ濃度が8質量%、アンモニアが0.46質量%、重量平均分子量60万のヒドロキシエチルセルロースが0.22質量%、数平均分子量10,000のポリエチレングリコールが0.1質量%の研磨液組成物を調製した。得られた研磨液組成物のpHは10.7、25℃におけるオストワルド粘度は3.1mPa・sであった。〔実施例9〕数平均分子量15,000のポリエチレングリコールを用いた以外は実施例7と同様に行って、シリカ濃度が8質量%、アンモニアが0.46質量%、重量平均分子量60万のヒドロキシエチルセルロースが0.22質量%、数平均分子量15,000のポリエチレングリコールが0.1質量%の研磨液組成物を調製した。得られた研磨液組成物のpHは10.7、25℃におけるオストワルド粘度は3.1mPa・sであった。・・・[0044][図:0001390576000001.jpg]」
「 請求の範囲[請求項1] 水、シリカ粒子、アルカリ化合物、水溶性高分子化合物及びポリエチレングリコールを含み、下記(a)~(c)の条件を満たす半導体ウェーハ用研磨液組成物。(a):前記シリカ粒子の、下記式(1)で表される形状係数SF1が1.00~1.20であること(1) SF1=(DL2×π/4)/S続きを表示(全12行)(但し、DLは、透過型電子顕微鏡写真から求められるシリカ粒子の最大長(nm)であり、Sは、シリカ粒子の投影面積(nm2)である。)(b):前記シリカ粒子の窒素吸着法により求められる平均一次粒子径が5~100nmであって、且つ透過型電子顕微鏡写真の画像解析から求められる粒子径変動係数CV値が0~15%であること(c):前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が200~15,000であること・・・[請求項5] 前記水溶性高分子化合物は、セルロース誘導体及びポリビニルアルコールからなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項1に記載の半導体ウェーハ用研磨液組成物。[請求項6] 前記セルロース誘導体は、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルエチルセルロースからなる群より選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項5に記載の半導体ウェーハ用研磨液組成物。・・・[請求項11] 前記ポリエチレングリコールの含有量は、半導体ウェーハ用研磨液組成物の全質量を基準にして0.01~0.5質量%である、請求項1~10のいずれか一項に記載の半導体ウェーハ用研磨液組成物。」
イ 引用発明1
(ア)上記アの記載事項から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 水、コロイダルシリカ粒子、アルカリ化合物、水溶性高分子化合物及びポリエチレングリコールを含む半導体ウェーハ用研磨液組成物であって、前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が200~15,000であり、前記ポリエチレングリコールの含有量は、半導体ウェーハ用研磨液組成物の全質量を基準にして0.01~0.5質量%である半導体ウェーハ用研磨液組成物([0020]、[請求項1]、[請求項11])。
b 実施例8として、シリカ粒子を含有する水性シリカゾル、水、アンモニア水、ヒドロキシエチルセルロース、数平均分子量10,000のポリエチレングリコールを含む研磨液組成物であって、数平均分子量10,000のポリエチレングリコールの添加量が0.1質量%の研磨液組成物([0043]、[0044]の表1)。
c 実施例9として、シリカ粒子を含有する水性シリカゾル、水、アンモニア水、ヒドロキシエチルセルロース、数平均分子量15,000のポリエチレングリコールを含む研磨液組成物であって、数平均分子量15,000のポリエチレングリコールの添加量が0.1質量%の研磨液組成物([0043]、[0044]の表1)。
d 研磨液組成物は、研磨装置で使用する際に純水を加えて、5~100倍の希釈倍率で希釈して使用することもでき、実施例では、調製した研磨液組成物を40倍に希釈した研磨スラリーを用いて、シリコンウェーハを研磨した([0037]、[0042])。
(イ)引用文献1の記載によれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が、記載されていると認められる。
「コロイダルシリカ粒子と、ヒドロキシエチルセルロースと、アンモニア水と、水と、数平均分子量が200~15,000のポリエチレングリコールとを含み、40倍に希釈して研磨に用いられる研磨液組成物であって、実施例8の研磨液組成物は、数平均分子量10,000のポリエチレングリコールを含み、ポリエチレングリコールの添加量が0.1質量%であり、実施例9の研磨液組成物は、数平均分子量15,000のポリエチレングリコールを含み、ポリエチレングリコールの添加量が0.1質量%である、研磨液組成物。」
(2)引用文献2の記載
取消理由通知において引用した引用文献2(甲第2号証:「PEGと木材のはなし」、木材保存、Vol.19-5(1993)、2(204)~16(218)ページ)には、以下の事項が記載されている。
「[図:0001390576000002.jpg][図:0001390576000003.jpg]」
(3)引用文献4の記載と引用発明2
ア 引用文献4の記載
取消理由通知において引用した引用文献4(甲第4号証:国際公開第2014/034425号)には、以下の事項が記載されている。
「技術分野[0001] 本発明は、研磨用組成物及びそれを用いる基板の製造方法に関する。背景技術[0002] 水溶性高分子を含有する研磨用組成物は、例えばシリコン基板等の基板の研磨に用いられる。水溶性高分子は、基板の表面の濡れ性を高める働きをし、これによって、基板の表面における異物の残留が低減する。特許文献1には、研磨速度を高め、ヘイズレベルを低減する水溶性高分子等を含有する研磨用組成物が開示されている。」
「[0017] 水溶性高分子の分子量分布は、多分散度(Polydispersity Index,PDI)とも呼ばれる。重量平均分子量(Mw)は、ポリエチレンオキサイド換算の重量平均分子量を示す。重量平均分子量及び数平均分子量、並びに分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography,GPC)によって測定される値を示す。[0018] 水溶性高分子としては、分子中に、カチオン基、アニオン基及びノニオン基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有するものを使用することができる。水溶性高分子は、例えば、分子中に水酸基、カルボキシル基、アシルオキシ基、スルホ基、アミド構造、第四級窒素構造、複素環構造、ビニル構造、ポリオキシアルキレン構造等を有する。[0019] 水溶性高分子としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、プルランまたはシクロデキストリン等のデンプン誘導体、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)等のイミン誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールを構造の一部に含む共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンを構造の一部に含む共重合体、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルカプロラクタムを構造の一部に含む共重合体、ポリアルキルアクリルアミド、ポリアクリロイルモルホリン、ポリアクリロイルモルホリンを構造の一部に含む共重合体、ポリオキシエチレン、ポリオキシアルキレン構造を有する重合体、これらのジブロック型やトリブロック型、ランダム型、交互型等の複数種の構造を有する重合体等が挙げられる。」
「[0023] 水溶性高分子は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。[0024] 水溶性高分子としてセルロース誘導体及びデンプン誘導体から選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子(以降“水溶性高分子A”という)を用いる場合、水溶性高分子Aの分子量分布は、好ましくは4.7以下であり、より好ましくは4.5以下である。水溶性高分子Aの分子量分布は、濡れ性向上の観点より、好ましくは2.0以上であり、より好ましくは3.0以上であり、更に好ましくは4.0以上である。[0025] 水溶性高分子としてポリオキシアルキレン構造を有する重合体(以降“水溶性高分子B”という)を用いる場合、水溶性高分子Bの分子量分布は、好ましくは2.0以下であり、より好ましくは1.5以下である。水溶性高分子Bの分子量分布は、好ましくは1.05以上である。[0026] 水溶性高分子としてポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体から選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子(以降“水溶性高分子C”という)を用いる場合、水溶性高分子Cの分子量分布は、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.5以下であり、更に好ましくは2.3以下である。水溶性高分子Cの分子量分布は、好ましくは1.05以上であり、濡れ性向上や合成容易性の観点より1.3以上が好ましい。続きを表示(全16行)[0027] 水溶性高分子として主鎖又は側鎖官能基(ペンダント基)に窒素原子を有する重合体(以降“水溶性高分子D”という)を用いる場合、水溶性高分子Dの分子量分布は、好ましくは4.0以下であり、より好ましくは3.5以下であり、更に好ましくは3.0以下である。水溶性高分子Dの分子量分布は、好ましくは1.05以上であり、濡れ性向上や合成容易性の観点より1.3以上が好ましい。[0028] 水溶性高分子の重量平均分子量は1000000以下であるため、LPDがより低減され易くなる。水溶性高分子の重量平均分子量が小さくなるにつれて、研磨用組成物の安定性はより向上する。一方、研磨面の濡れ性は、水溶性高分子の重量平均分子量が大きくなるにつれて高まる。[0029] 水溶性高分子Aの重量平均分子量は、好ましくは750000以下であり、より好ましくは700000以下であり、更に好ましくは500000以下であり、最も好ましくは300000以下である。水溶性高分子Aの重量平均分子量は、好ましくは50000以上であり、より好ましくは80000以上であり、更に好ましくは100000以上である。[0030] 水溶性高分子Bの重量平均分子量は、好ましくは500000以下であり、より好ましくは300000以下であり、更に好ましくは250000以下(例えば、100000以下)である。水溶性高分子Bの重量平均分子量は、好ましくは1000以上であり、より好ましくは2000以上であり、更に好ましくは5000以上(例えば10000以上)である。[0031] 水溶性高分子Cの重量平均分子量は、好ましくは300000以下であり、より好ましくは250000以下であり、更に好ましくは200000以下であり、最も好ましくは100000以下(例えば、50000以下、更には20000以下)である。水溶性高分子Cの重量平均分子量は、好ましくは1000以上であり、より好ましくは2000以上であり、更に好ましくは5000以上(例えば7000以上)である。[0032] 水溶性高分子Dの重量平均分子量は、好ましくは300000以下であり、より好ましくは250000以下であり、更に好ましくは200000以下(例えば、100000以下、更には70000以下)である。水溶性高分子Dの重量平均分子量は、好ましくは1000以上であり、より好ましくは3000以上であり、更に好ましくは5000以上であり、最も好ましくは10000以上(例えば、20000以上、更には30000以上)である。[0033] 研磨用組成物は、LPDの低減の観点から、水溶性高分子A及びCから選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましく、水溶性高分子A及びCから選ばれる少なくとも一種と、水溶性高分子B及びDから選ばれる少なくとも一種とを含有することがより好ましい。[0034] 水溶性高分子Aとしては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、及びプルランまたはシクロデキストリン等のデンプン誘導体が挙げられる。セルロース誘導体及びデンプン誘導体の中では、研磨面に濡れ性を与える能力が高く、かつ研磨後の洗浄工程で除去されやすい(すなわち良好な洗浄性を有する)という観点から、ヒドロキシエチルセルロースが特に好ましい。[0035] 水溶性高分子Bは、好ましくはオキシエチレンブロックとオキシプロピレンブロックとを含むブロック構造を有する重合体であり、より好ましくはオキシエチレンブロックとオキシプロピレンブロックとオキシエチレンブロックとを含むトリブロック構造を有する重合体であり、更に好ましくは下記一般式(1)で表される重合体である。[0036] HO-(EO)a-(PO)b-(EO)c-H ・・・(1)一般式(1)中、EOはオキシエチレン基を示すとともにPOはオキシプロピレン基を示し、a、b及びcはそれぞれ1以上の整数を示す。[0037] 一般式(1)において、a及びcはEOの重合度を示し、aとcとの合計は2~1000の範囲であることが好ましく、より好ましくは5~500の範囲であり、更に好ましくは10~200の範囲である。一般式(1)において、bはPOの重合度を示し、bは2~200の範囲であることが好ましく、より好ましくは5~100の範囲であり、更に好ましくは10~50の範囲である。」
「[0052] <砥粒>研磨用組成物は、砥粒を含有することができる。砥粒は、研磨面を物理的に研磨する働きをする。[0053] 砥粒としては、例えば、無機粒子、有機粒子、及び有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、並びに窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子及び窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。」
「[0061] 砥粒としてのシリカは、例えばシリコン基板の研磨に好適に用いられる。シリカの具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、及びゾルゲル法シリカが挙げられる。これらシリカの中でも、研磨面に生じるスクラッチを減少させるという観点において、コロイダルシリカ及びフュームドシリカが好ましく、特にコロイダルシリカが好ましい。これらのシリカは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。」
「[0063] <塩基性化合物>研磨用組成物は塩基性化合物を含有することができる。塩基性化合物は、研磨面を化学的に研磨する働きをする(ケミカルエッチング)。これにより、研磨速度を向上させることが容易となる。」
「[0114] (実施例1~10及び比較例1~6)砥粒としてのコロイダルシリカ、1種または2種の水溶性高分子、及び塩基性化合物をイオン交換水に混合することで研磨用組成物の原液を調製した。その後、原液に含まれる粗大異物を取り除くために原液をろ過した。砥粒としては平均一次粒子径35nmのコロイダルシリカ、塩基性化合物としてはアンモニアを用いた。次に、原液を純水で20倍に希釈し、表1に示す水溶性高分子を含有する研磨用組成物を得た。希釈工程では、ホモジナイザーを用いて撹拌及び分散を行った後に、研磨用組成物中に含まれる粗大異物を取り除くために、研磨用組成物をろ過した。[0115] 各実施例及び比較例の研磨用組成物中の砥粒の含有量は0.5質量%であり、塩基性化合物の含有量は0.01質量%であった。[0116] 表1中の“水溶性高分子”欄において、“Mw”は重量平均分子量、“Mn”は数平均分子量、“Mw/Mn”は分子量分布を示し、分子量分布を測定するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の条件は以下のとおりである。続きを表示(全14行)[0117] <GPCの条件>カラム:東ソー株式会社製の商品名TSKgel GMPWXL×2+G2500PWXL(φ7.8mm×300mm×3本)カラム温度:40℃溶離液:200mM 硝酸ナトリウム水溶液試料濃度:0.05質量%流速:1.0mL/min注入量:200μL検出器:RI(示差屈折計)標準物質:ポリエチレンオキサイド表1中の“水溶性高分子”欄において“種類”欄に記載された“HEC”はヒドロキシエチルセルロースを示し、“PVP”はポリビニルピロリドンを示し、“PEO-PPO-PEO”はポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-ポリエチレンオキサイドトリブロック共重合体を示す。なお、“PEO-PPO-PEO”は、一般式(1)で表されるものであり、一般式(1)中のaとcとの合計が164であり、bが31のものである。また“PVA1”はけん化度80mol%のポリビニルアルコールを示し、“PVA2”はけん化度98mol%以上のポリビニルアルコールを示す。」
「[0122][表1][図:0001390576000004.jpg]」
「 請求の範囲[請求項1] 重量平均分子量が1000000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が5.0未満である水溶性高分子を含有することを特徴とする研磨用組成物。[請求項2] 前記水溶性高分子は、セルロース誘導体、デンプン誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール構造を有する重合体、ポリオキシアルキレン構造を有する重合体、及び主鎖又は側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。[請求項3] 前記水溶性高分子は、セルロース誘導体及びデンプン誘導体から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項2に記載の研磨用組成物。・・・[請求項5] 前記水溶性高分子は、ポリオキシアルキレン構造を有する重合体から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項2に記載の研磨用組成物。・・・[請求項7] 前記水溶性高分子は、セルロース誘導体、デンプン誘導体、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体から選ばれる少なくとも一種と、ポリオキシアルキレン構造を有する重合体及び主鎖又は側鎖官能基に窒素原子を有する重合体から選ばれる少なくとも一種とを含む、請求項2に記載の研磨用組成物。」
イ 引用発明2
(ア)上記箇所の記載から、引用文献4には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 重量平均分子量が1000000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が5.0未満である水溶性高分子を含有する研磨用組成物であって、前記水溶性高分子は、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体及びデンプン誘導体から選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子(以下「水溶性高分子A」という。)、並びに、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体から選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子(以下「水溶性高分子C」という。)から選ばれる少なくとも一種と、ポリオキシアルキレン構造を有する重合体(以下「水溶性高分子B」という。)、並びに、主鎖又は側鎖官能基に窒素原子を有する重合体(以下「水溶性高分子D」という。)から選ばれる少なくとも一種とを含む、研磨用組成物([0019]、[0023]~[0027]、[0033]、[請求項1]、[請求項7])。
b 実施例1~10における研磨用組成物は、コロイダルシリカ、1種類または2種類の水溶性高分子、及び塩基性化合物を含む研磨用組成物の原液を純水で20倍に希釈して得られた研磨用組成物である([0114])。
c 実施例5の水溶性高分子を含有する研磨用組成物は、水溶性高分子として、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)を0.01質量%で、重量平均分子量Mwが10000のポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-ポリエチレンオキサイド(PEO-PPO-PEO)を0.003質量%で含有すること([0117]、[0122])。
(イ)引用文献4の記載によれば、引用文献4には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が、記載されていると認められる。
「重量平均分子量が1000000以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が5.0未満である水溶性高分子を含有する研磨用組成物であって、前記水溶性高分子は、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体及びデンプン誘導体から選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子(以下「水溶性高分子A」という。)、並びに、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール構造を有する重合体から選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子(以下「水溶性高分子C」という。)から選ばれる少なくとも一種と、ポリオキシアルキレン構造を有する重合体(以下「水溶性高分子B」という。)、並びに、主鎖又は側鎖官能基に窒素原子を有する重合体(以下「水溶性高分子D」という。)から選ばれる少なくとも一種とを含み、コロイダルシリカ、水溶性高分子、及び塩基性化合物を含む研磨用組成物の原液を純水で20倍に希釈して得られた研磨用組成物であり、実施例5の研磨用組成物は、水溶性高分子として、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)を0.01質量%で、重量平均分子量Mwが10000のポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-ポリエチレンオキサイド(PEO-PPO-PEO)を0.003質量%で含有する、研磨用組成物。」
3 当審の判断
(1)理由1(特許法第36条第6項第2号)について
理由1は、具体的には、訂正前の「請求項1に記載された「重量平均分子量が1500~30000であり、エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制剤」における「エチレンオキサイド基を有する高分子」とは、上記エチレンオキサイドで表される構造を有する高分子を意味するのか、あるいは、エチレンオキサイドの開環重合によって得られた、(PEG)xで表される構造を有する高分子(引用文献2(甲第2号証)も参照。)を意味するのか明確でない。」というものである。
まず、上記の「エチレンオキサイド基を有する高分子」において、「エチレンオキサイド基」は、「・・・基を有する高分子」と記載されているから、分子としてのエチレンオキサイドを意味するものではないことは明確である。
また、本件特許明細書の段落【0040】の表1の実施例1~実施例4では、「PEG A」、「PEG B」が用いられており、PEG(ポリエチレングリコール)は、一般的には、HO-(CH2―CH2―O)n―Hで表される構造を有し(上記2(2)に摘記した引用文献2の記載を参照。)、オキシエチレン基(-CH2―CH2―O-)を有するものである。
さらに、当該分野において、「エチレンオキサイド基」と「オキシエチレン基」は同じ基を意味することは、例えば、下記の周知例1(特開2012-87108号公報)、周知例2(特開2014-140979号公報)、周知例3(特開平7ー70591号公報)に記載のように周知である。
「【0015】分岐アルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテルのオキシエチレン基(エチレンオキサイド基)の付加モル数は、清涼感の持続性を高める観点から、好ましくは10~30、より好ましくは10~25である。」(下線は合議体が付加した。以下同じ。)
「【0036】(ポリオキシエチレンアルキルエーテル化合物)本発明において、ポリオキシエチレンアルキルエーテル化合物は、R-O-(CH2CH2O)nH(Rはアルキル基、nは整数である)の構造を有する界面活性剤の一種である。本発明において、ポリオキシエチレンアルキルエーテル化合物は、界面活性能を有するような範囲且つドット拡散不良を抑制する点からその疎水基である上記式中のR(アルキル基)の炭素数が8以上22以下の範囲が好ましい。・・・また、界面活性能を有するような範囲且つドット拡散不良を抑制する点からポリオキシエチレンアルキルエーテルの親水基であるオキシエチレン基に関する上記式中のn、すなわちエチレンオキサイド基の数が、10以上50以下の範囲が好ましい。」
「【0058】エチレンオキサイド基の付加数(n)の分布上記製造例1~2の化合物、および比較製造例1~3において得られた反応生成物中のオキシエチレン基数(n)の異なる化合物の分布を表1に示す。【0059】【表1】[図:0001390576000005.jpg]」
以上のことから、上記の「エチレンオキサイド基を有する高分子」における「エチレンオキサイド基」が、オキシエチレン基を意味するものであることは、明確であるといえる。
したがって、請求項1に記載された「重量平均分子量が2000~8000であり、エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制剤」における「エチレンオキサイド基を有する高分子」とは、オキシエチレン基としてのエチレンオキサイド基を有する高分子を意味するのものであることは明確である。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
(2)理由2(特許法第29条第1項3号)、理由3(特許法第29条第2項)について
ア 理由2ー1、理由3-1(主引例は引用文献1)
(ア)本件発明1について
a 引用発明1との対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
(a)引用発明1の「コロイダルシリカ粒子」、「ヒドロキシエチルセルロース」、「(アンモニア水に含まれる)アンモニア」、「水」は、それぞれ、本件発明1の「コロイダルシリカ」、「水溶性高分子」、「塩基性化合物」、「水」に相当する。また、引用発明1の「研磨液組成物」は「40倍に希釈して研磨に用いられる研磨液組成物」であるから、希釈された当該研磨液組成物は、本件発明1の「研磨用組成物」に相当する。
(b)上記(1)で検討したとおり、本件発明1の「エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制剤」における「エチレンオキサイド基」は、オキシエチレン基を意味する。
一方、引用発明1における「ポリエチレングリコール」は、一般的には、HO-(CH2―CH2―O)n―Hで表される構造を有し、オキシエチレン基(-CH2―CH2―O-)を有するものである。
したがって、引用発明1の「ポリエチレングリコール」は、本件発明1の「振動抑制剤」に対応し、両者は「エチレンオキサイド基を有する高分子である化合物」である点で共通する。
(c)そうすると、本件発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「コロイダルシリカと、水溶性高分子と、塩基性化合物と、水と、エチレンオキサイド基を有する高分子である化合物とを含む、研磨用組成物。」
<相違点>
<相違点1>
エチレンオキサイド基を有する高分子について、本件発明1は、「重量平均分子量が2000~8000であり、エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制剤」であって、「前記振動抑制剤のモル濃度が6.9×10-10mol/g以上であり、前記振動抑制剤1分子当たりの前記エチレンオキサイド基部分の重量平均分子量と前記振動抑制剤の質量濃度との積が8.0×10-2以上であり、前記振動抑制剤は、アルキレンオキサイド基に占めるエチレンオキサイド基の重量平均分子量の割合が80%以上である」のに対し、引用発明1では、「数平均分子量が200~15,000のポリエチレングリコール」であって、「実施例8の研磨液組成物」では、「数平均分子量10,000のポリエチレングリコール」であり、「ポリエチレングリコールの添加量が0.1質量%であり」、「実施例9の研磨液組成物」では、「数平均分子量15,000のポリエチレングリコール」であり、「ポリエチレングリコールの添加量が0.1質量%であ」り、本件発明1の上記のような特定はなされていない点。
b 判断
以下、相違点1について検討する。
(a)上記相違点1のうち、まず、「重量平均分子量が2000~8000であり、エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制剤」について検討する。
(b)引用発明1の研磨用組成物において、「実施例8の研磨用組成物」が含むポリエチレングリコールは、「数平均分子量10,000」であり、「実施例9の研磨用組成物」が含むポリエチレングリコールは、「数平均分子量15,000」であるところ、上記2(3)に摘記した引用文献3の記載から、一般に市販で入手可能な分子量1000を超えるポリエチレングリコールには分子量分布があり、分散度(Mw/Mn)1.02~2程度の分子量バラツキがあると考えられる。
そうすると、ポリエチレングリコールの重量平均分子量(Mw)は、分散度(Mw/Mn)と数平均分子量(Mn)の積により算出されるため、実施例8では、Mwが(1.02~2)×10000=10200~20000の範囲内、実施例9では、Mwが(1.02~2)×15000=15300~30000の範囲内程度である蓋然性が高い。
したがって、引用発明1における「ポリエチレングリコール」の重量平均分子量の数値範囲は、本件発明1の「振動抑制剤」の重量平均分子量の数値範囲「2000~8000」と相違する。
よって、本件発明1は、引用文献1(甲第1号証)に記載された発明であるとはいえない。
(c)次に、上記相違点1のうち、引用発明1における「ポリエチレングリコール」を、「重量平均分子量が2000~8000」である「振動抑制剤」とすることの容易想到性について検討する。
(d)まず、引用発明1の「ポリエチレングリコール」を、「重量平均分子量」の数値範囲の下限値が「2000」の「振動抑制剤」とすることについて検討する。
本件特許明細書の段落【0010】には、【発明の効果】として、「本発明によれば、装置の振動を低減できる研磨用組成物が得られる。」、段落【0028】には、「振動抑制剤は、キャリアやパッド表面へ吸着して層を形成することで、これらの接触状態を変えて振動を抑制する。重量平均分子量が1500未満では、吸着層の厚みが小さく、振動抑制剤としての効果が得られない。振動抑制剤として用いる高分子の重量平均分子量の下限は、好ましくは2000であり、さらに好ましくは3000である。」と記載されている。
また、上記に摘記の本件特許明細書の段落【0028】に記載に照らすと、本件発明1は、「高分子である振動抑制剤」の重量平均分子量の下限値を「2000」とすることにより、「振動抑制剤」としての効果を奏するものである。
一方、上記2(1)アに摘記のとおり、引用文献1の[0001]には、「本願発明は、半導体ウェーハ表面の鏡面研磨において、LPDの改善に好適な研磨液組成物に関する。」と記載されており、その他の箇所を参照しても、引用文献1には、装置に発生する振動について記載も示唆もされていない。
したがって、引用発明1において、「ポリエチレングリコール」を、「重量平均分子量」の数値範囲の下限値が「2000」の「振動抑制剤」とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
(e)次に、引用発明1の「ポリエチレングリコール」を、「重量平均分子量」の数値範囲の上限値が「8000」の「振動抑制剤」とすることについて検討する。
引用文献1には、[0035]に、ポリエチレングリコールの「半導体ウェーハ表面のLPDをより低減する」のにより好ましい「数平均分子量」の数値範囲として「5000以下」が記載されているものの、上記(d)で検討したとおり、装置に発生する振動について記載も示唆もされていないから、引用発明1において、実施例8や実施例9の研磨組成物それぞれが含む、数平均分子量10000ポリエチレングリコール、数平均分子量15000のポリエチレングリコールを、「重量平均分子量」の数値範囲の上限値が「8000」の「振動抑制剤」とする動機付けは当業者にはない。
(f)したがって、引用発明1において、「数平均分子量が200~15,000のポリエチレングリコール」であって、「実施例8の研磨液組成物」では、「数平均分子量10,000のポリエチレングリコール」であり、「ポリエチレングリコールの添加量が0.1質量%であり」、「実施例9の研磨液組成物」では、「数平均分子量15,000のポリエチレングリコール」であり、「ポリエチレングリコールの添加量が0.1質量%である」、ポリエチレングリコールを、本件発明1のように、「重量平均分子量が2000~8000であり、エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制剤」とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
(g)よって、上記相違点1のその他の構成について判断するまでもなく、引用発明1において、引用文献1の[0035]の記載を参照した当業者であっても、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは容易になし得たことではない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、引用発明1及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(h)また、引用文献2、3には、「重量平均分子量が2000~8000」である、「振動抑制剤」について、記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1は、引用発明1並びに引用文献1に記載された技術的事項及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に対して、更に「前記水溶性高分子は、ヒドロキシエチルセルロースである、」という技術的事項を追加したものである。
よって、上記(ア)に示した理由と同様の理由により、本件発明2は、引用発明1並びに引用文献1に記載された技術的事項及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)以上のとおり、本件発明1、2は、引用発明1並びに引用文献1に記載された技術的事項及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ア 理由2ー2、理由3-2(主引例は引用文献4)
(ア)本件発明1について
a 引用発明2との対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。
(a)引用発明2の「コロイダルシリカ」、「塩基性化合物」、「純水」は、それぞれ、本件発明1の「コロイダルシリカ」、「塩基性化合物」、「水」に相当する。
(b)引用発明2の研磨用組成物における水溶性高分子が含む「水溶性高分子A」であって、「実施例5の研磨用組成物」が含有する水溶性高分子としての「ヒドロキシエチルセルロース(HEC)」は、本件発明1の「水溶性高分子」に相当する。
また、引用発明2の研磨用組成物における水溶性高分子が含む「水溶性高分子B」であって、「実施例5の研磨用組成物」が含有する水溶性高分子としての「ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-ポリエチレンオキサイド(PEO-PPO-PEO)」は、引用文献4の[0035]~[0037]の記載に照らすと、オキシエチレンブロックとオキシプロピレンブロックとを含むブロック構造を有する重合体であり、オキシエチレン基(EO)を含む重合体であるから、本件発明1の「エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制剤」に対応する。
したがって、本件発明1の「エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制剤」と引用発明2の「ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-ポリエチレンオキサイド(PEO-PPO-PEO)」とは、「エチレンオキサイド基を有する高分子である化合物」である点で共通する。
(c)そうすると、本件発明1と引用発明2との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「コロイダルシリカと、水溶性高分子と、塩基性化合物と、水と、エチレンオキサイド基を有する高分子である化合物とを含む、研磨用組成物。」
<相違点>
<相違点2>
エチレンオキサイド基を有する高分子について、本件発明1は、「重量平均分子量が2000~8000であり、エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制剤」であって、「前記振動抑制剤のモル濃度が6.9×10-10mol/g以上であり、前記振動抑制剤1分子当たりの前記エチレンオキサイド基部分の重量平均分子量と前記振動抑制剤の質量濃度との積が8.0×10-2以上であり、前記振動抑制剤は、アルキレンオキサイド基に占めるエチレンオキサイド基の重量平均分子量の割合が80%以上である」のに対し、引用発明2では、「重量平均分子量が1000000以下」である「水溶性高分子」であって、「前記水溶性高分子」は、「ポリオキシアルキレン構造を有する重合体(水溶性高分子B)」、並びに、「水溶性高分子D」「から選ばれる少なくとも一種」を含み、「実施例5の研磨用組成物」は、「水溶性高分子」として、「重量平均分子量Mwが10000のポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-ポリエチレンオキサイド(PEO-PPO-PEO)を0.003質量%で含有する」ものであり、本件発明1の上記のような特定はなされていない点。
b 判断
以下、相違点2について検討する。
(a)上記相違点2のうち、まず、「重量平均分子量が2000~8000であり、エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制剤」について検討する。
引用発明2において、「実施例5の研磨用組成物」が含有する「PEO-PPO-PEO」は、「重量平均分子量Mwが10000」であり、また、上記a(b)のとおり、引用発明2の「PEO-PPO-PEO」は、本件発明1の「エチレンオキサイド基を有する高分子」に対応する。
したがって、引用発明2における「PEO-PPO-PEO」の重量平均分子量Mwの数値範囲は、本件発明1の「振動抑制剤」の重量平均分子量の数値範囲「2000~8000」と相違する。
よって、本件発明1は、引用文献4(甲第4号証)に記載された発明であるとはいえない。
(b)次に、上記相違点2のうち、引用発明2における「『実施例5の研磨用組成物』が含有する水溶性高分子としての『ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-ポリエチレンオキサイド(PEO-PPO-PEO)』」を、「重量平均分子量が2000~8000」である「振動抑制剤」とすることの容易想到性について検討する。
(c)引用発明2において、「実施例5の研磨用組成物」の「水溶性高分子」が含有する「ヒドロキシエチルセルロース(HEC)は「水溶性高分子A」として含まれ、「重量平均分子量Mwが10000のポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-ポリエチレンオキサイド(PEO-PPO-PEO)」は「水溶性高分子B」として含まれることは明らかである。
一方、上記2(4)アに摘記のとおり、引用文献4の[0030]には、「水溶性高分子Bの重量平均分子量は、好ましくは500000以下であり、より好ましくは300000以下であり、更に好ましくは250000以下(例えば、100000以下)である。水溶性高分子Bの重量平均分子量は、好ましくは1000以上であり、より好ましくは2000以上であり、更に好ましくは5000以上(例えば10000以上)である。」と記載されている。
しかしながら、引用発明2において、「実施例5の研磨用組成物」が含有する水溶性高分子であって、水溶性高分子Aとしての「ヒドロキシエチルセルロース(HEC)」と、水溶性高分子Bとしての「ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイドーポリエチレンオキサイド(PEO-PPO-PEO)」との組合せからなるもののうち、水溶性高分子Bのみを、PEO-PPO-PEOから、「重量平均分子量が2000~8000」の水溶性高分子に換える動機付けは当業者にはない。
(c)したがって、引用発明2において、「重量平均分子量が1000000以下」である「水溶性高分子」であって、「前記水溶性高分子」は、「ポリオキシアルキレン構造を有する重合体(水溶性高分子B)」、並びに、「水溶性高分子D」「から選ばれる少なくとも一種」を含み、「実施例5の研磨用組成物」は、「水溶性高分子」として、「重量平均分子量Mwが10000のポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-ポリエチレンオキサイド(PEO-PPO-PEO)を0.003質量%で含有する」ものを、本件発明1のように、「重量平均分子量が2000~8000であり、エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制剤」とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
よって、引用発明2において、引用文献4の[0030]の記載を参照した当業者であっても、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは容易になし得たことではない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、引用発明2及び引用文献4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(d)また、引用文献2には、「重量平均分子量が2000~8000」である「振動抑制剤」について、記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1は、引用発明2並びに引用文献1に記載された技術的事項及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に対して、更に「前記水溶性高分子は、ヒドロキシエチルセルロースである、」という技術的事項を追加したものである。
よって、上記(ア)に示した理由と同様の理由により、本件発明2は、引用発明2並びに引用文献4に記載された技術的事項及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)以上のとおり、本件発明1、2は、引用発明2並びに引用文献4に記載された技術的事項及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人神澤正広は、令和4年6月20日に提出した意見書1~3ページの、「(1)理由2(新規性)及び理由3(進歩性)について」「ア 引用発明1との対比」において、「引用発明1におけるPEGのMwの範囲は、・・・204~30000の範囲である蓋然性が高い。また、引用発明1において、・・・このとき、前記Mwは、・・・5100~10000以下の範囲内である蓋然性が高い。・・・依然として新規性を有しない。・・・前記の通り。引用文献1の[0035]には、・・・。従って、本件訂正発明は、依然として新規性及び進歩性を欠如している。」と主張する。
しかしながら、上記(2)アb(b)で判断したとおり、実施例8では、Mwが10200~20000の範囲内、実施例9では、Mwが15300~30000の範囲内程度である蓋然性が高いから、引用発明1におけるPEGのMwが5100~10000以下の範囲内である蓋然性が高いということはできない。
また、上記(2)アb(d)、(f)で判断したとおり、引用発明1において、実施例8や実施例9の研磨組成物それぞれが含む、数平均分子量10000のポリエチレングリコール、数平均分子量15000のポリエチレングリコールを、「重量平均分子量」が2000以上のポリエチレングリコールとする動機付けは当業者にはなく、引用発明2において、引用文献1の[0035]の記載を参照した当業者であっても、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは容易になし得たことではない。
したがって、特許異議申立人神澤正広の上記主張には理由がない。
イ 特許異議申立人神澤正広は、令和4年6月20日に提出した意見書3~4ページの、「(1)理由2(新規性)及び理由3(進歩性)について」「イ 引用発明2との対比」において、「引用文献4の特許請求の範囲には、・・・引用発明2のMwの範囲は、本件発明1のMwの範囲2000~8000と明らかに且つ大きく重複している旨を主張している。・・・前述の通り、引用文献4の【0030】には、PEO-PPO-PEOを指す水溶性高分子BのMwはより好ましくは2000以上、更に好ましくは5000以上であると記載されている(【0030】)。引用文献4に基づいて・・・従って、本件訂正発明は、依然として新規性及び進歩性を欠如している。」と主張する。
しかしながら、上記2(4)アに摘記のとおり、引用文献4の[0030]には、「水溶性高分子Bの重量平均分子量は、好ましくは1000以上であり、より好ましくは2000以上であり、更に好ましくは5000以上(例えば10000以上)である。」と記載されており、「水溶性高分子B」が「PEO-PPO-PEOを指す」ことは記載されていない。
一方、引用文献4の[0025]には、「ポリオキシアルキレン構造を有する重合体(以降“水溶性高分子B”という)」と記載されている。また、[0035]には、「水溶性高分子Bは、・・・更に好ましくは下記一般式(1)で表される重合体である」と記載されており、[0036]に一般式(1)が記載されている。[0117]には、「なお、“PEO-PPO-PEO”は、一般式(1)で表されるものであり」と記載されている。
そうすると、引用文献4には、水溶性高分子Bとして、更に好ましくはPEO-PPO-PEOであることが記載されてものの、引用文献4のその他の箇所を参照しても、「PEO-PPO-PEOを指す水溶性高分子BのMwはより好ましくは2000以上、更に好ましくは5000以上である」ことが記載されているとはいえない。
したがって、特許異議申立人神澤正広の上記主張は前提において誤っているから理由がない。
ウ 特許異議申立人神澤正広は、令和4年6月20日に提出した意見書4~5ページの、「(1)理由1(明確性)について」において、「「エチレンオキサイド基」は、オキシエチレン基(CH2-CH2ーO)とは異なる化学構造を有する。」、「特許請求の範囲の記載に基づけば、「エチレンオキサイド基を有する高分子」は、一義的に、前記エチレンオキサイドで表される構造を有する高分子を意味すると解釈され、オキシエチレン基を有する高分子を意味すると解釈することはできない。」と主張する。
しかしながら、上記(1)で判断したとおりであるから、特許異議申立人神澤正広の上記主張には理由がない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 「(B)サポート要件について」について
(1)(B-1)について
特許異議申立人神澤正広は、特許異議申立書17~18ページにおいて、訂正前の特許請求の範囲に関し、本件特許明細書の【0027】に振動抑制剤として例示されているものは化学構造が大きく異なるから、本件特許発明1~2において、課題を解決できると認識できるものは、実施例で用いられたPEG、グリセリン誘導体、ポロキサミンのみである旨、及び、本件特許発明1~2に係る振動抑制剤には、1分子当たりのエチレンオキサイド基の比率が低いと思われるものが包含されており、この振動抑制剤を使用する場合には、多量の振動抑制剤を用いて、本件特許発明1の「前記振動抑制剤1分子当たりの前記エチレンオキサイド基部分の重量平均分子量と前記振動抑制剤の質量濃度との積が8.0×10-2以上」を充足させる必要があるが、その場合、前記課題を解決できるとは到底認められない旨を主張する。
本件特許明細書の【0008】には、「本発明の目的は、装置の振動を低減できる研磨用組成物を提供することである。」と記載されているから、本件発明1及び2の課題は、「装置の振動を低減できる研磨用組成物を提供すること」にあると理解される。
一方、本件発明1及び2は、「重量平均分子量が2000~8000」であり、「前記振動抑制剤1分子当たりの前記エチレンオキサイド基部分の重量平均分子量と前記振動抑制剤の質量濃度との積が8.0×10-2以上」であるとの構成が特定されているところ、本件特許明細書の【0028】には、「振動抑制剤は、キャリアやパッド表面へ吸着して層を形成することで、これらの接触状態を変えて振動を抑制する。重量平均分子量が1500未満では、吸着層の厚みが小さく、振動抑制剤としての効果が得られない。振動抑制剤として用いる高分子の重量平均分子量の下限は、好ましくは2000であり、さらに好ましくは3000である。一方、重量平均分子量が30000よりも高くなると、分子数が少なくなり、吸着層に粗密が発生して、振動抑制剤としての効果が得られない。」(下線は合議体が付加した。以下、同じ。)と、【0031】には、「本実施形態による研磨用組成物は、振動抑制剤1分子当たりのエチレンオキサイド基部分の重量平均分子量と、研磨用組成物中の振動抑制剤の質量濃度との積(以下「WEO・濃度」と表記する。)が8.0×10-2以上である。ここで、振動抑制剤の質量濃度は、研磨用組成物中の振動抑制剤の質量を研磨用組成物(希釈後)全体の質量で除した値である。」と、【0032】には、「WEO・濃度が8.0×10-2未満であると、振動抑制剤のモル濃度が6.9×10-10mol/g以上であっても、振動抑制効果が得られない。WEO・濃度の下限は、好ましくは1.0×10-1であり、さらに好ましくは2.0×10-1である。一方、WEO・濃度が大きすぎると、砥粒の凝集が生じやすくなるなど、研磨用組成物としての調整が困難になる。WEO・濃度の上限は、好ましくは2.0であり、さらに好ましくは1.5である。」と記載されている。
したがって、本件発明1及び2は、本件発明1及び2の上記の課題を解決できるものである。
しかも、実施例1~5には、本件発明1及び2に含まれる研磨用組成物が裏付けられている。
そして、上記主張において、【0027】に例示されているものが課題を解決できないとの具体的理由は説明されておらず、また、上記のとおりであるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしている。
また、後者の主張についても、本件特許明細書の【0031】には、「本実施形態による研磨用組成物は、振動抑制剤1分子当たりのエチレンオキサイド基部分の重量平均分子量と、研磨用組成物中の振動抑制剤の質量濃度との積(以下「WEO・濃度」と表記する。)が8.0×10-2以上である。ここで、振動抑制剤の質量濃度は、研磨用組成物中の振動抑制剤の質量を研磨用組成物(希釈後)全体の質量で除した値である。」と、【0032】には、「WEO・濃度が8.0×10-2未満であると、振動抑制剤のモル濃度が6.9×10-10mol/g以上であっても、振動抑制効果が得られない。WEO・濃度の下限は、好ましくは1.0×10-1であり、さらに好ましくは2.0×10-1である。一方、WEO・濃度が大きすぎると、砥粒の凝集が生じやすくなるなど、研磨用組成物としての調整が困難になる。WEO・濃度の上限は、好ましくは2.0であり、さらに好ましくは1.5である。」と記載されているところ、本件訂正請求後の特許請求の範囲の請求項1に記載された「重量平均分子量が2000~8000であり、エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制」を含み、「前記振動抑制剤1分子当たりの前記エチレンオキサイド基部分の重量平均分子量と前記振動抑制剤の質量濃度との積が8.0×10-2以上であ」る、研磨用組成物は課題を解決できることが記載されているといえるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしている。
(2)(B-2)について
特許異議申立人神澤正広は、特許異議申立書18ページにおいて、訂正前の特許請求の範囲に関し、振動抑制剤のモル濃度の上限値、 及び、 振動抑制剤1分子当たりのエチレンオキサイド基部分の重量平均分子量と振動抑制剤の質量濃度との積の上限値が特定されていないため、本件特許発明1の研磨用組成物が、課題を解決できるとは到底認められない旨を主張する。
しかしながら、本件特許明細書の【0029】には、「本実施形態による研磨用組成物は、振動抑制剤のモル濃度(使用時)が6.9×10-10mol/g以上である。振動抑制剤のモル濃度が6.9×10-10mol/g未満であると、研磨抑制剤としての効果が得られない。」と記載されており、【0031】、【0032】には、上記(1)の事項が記載されているところ、本件訂正請求後の特許請求の範囲の請求項1に記載された「前記振動抑制剤のモル濃度が6.9×10-10mol/g以上であり」、「前記振動抑制剤1分子当たりの前記エチレンオキサイド基部分の重量平均分子量と前記振動抑制剤の質量濃度との積が8.0×10-2以上であ」る研磨用組成物は、課題を解決できることが記載されているといえるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしている。
(3)(B-3)について
特許異議申立人神澤正広は、特許異議申立書19ページにおいて、訂正前の特許請求の範囲に関し、水溶性高分子として、実施例で用いられたMwが50万のHECとMwが634の多価アルコール(具体的にはポリオキシエチレンメチルグルコシド)との組合せ以外の使用により、課題が発生するのか不明であり、課題を解決できるとも認められない旨を主張する。
しかしながら、本件特許明細書には、水溶性高分子として、重量平均分子量が50万のHECと重量平均分子量が634の多価アルコールとの組合せを使用した実施例の試験結果は、課題を解決するものであったことが記載されているから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしている。
(4)(B-4)について
特許異議申立人神澤正広は、特許異議申立書19~20ページにおいて、訂正前の特許請求の範囲に関し、本件特許発明1~2において、シリコーンウェーハの一次研磨の両面研磨に用いられることは特定されておらず、前記両面研磨において用いられる研磨パッドやキャリアの種類も特定されていないが、実施例に記載の特定の研磨パッドやキャリアを用いないで、シリコーンウェーハの研磨を実施する場合に、課題を解決できるとは認識できない旨主張する。
しかしながら、本件特許明細書には、水溶性高分子として、重量平均分子量が50万のHECと重量平均分子量が634の多価アルコールとの組合せを使用した実施例の試験結果は、課題を解決するものであったことが記載されているから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしている。
(5)(B-5)について
特許異議申立人神澤正広は、特許異議申立書20~21ページにおいて、訂正前の特許請求の範囲に関し、少なくとも、重量平均分子量が1500~2000である特定高分子を振動抑制剤として含む研磨用組成物は、課題を解決できると認識することができない旨を主張する。
しかしながら、本件訂正訂正請求による訂正後の本件発明1において、重量平均分子量は「2000~8000」と特定されており、また、上記(1)のとおり、本件訂正請求後の特許請求の範囲の請求項1に記載された「重量平均分子量が2000~8000であり、エチレンオキサイド基を有する高分子である振動抑制」を含み、「前記振動抑制剤1分子当たりの前記エチレンオキサイド基部分の重量平均分子量と前記振動抑制剤の質量濃度との積が8.0×10-2以上であ」る、研磨用組成物が課題を解決できることが記載されているといえるから、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしている。
(6)(B-6)について
特許異議申立人神澤正広は、特許異議申立書21ページにおいて、訂正前の特許請求の範囲に関し、実施例では、振動抑制剤として、PEG、グリセリン誘導体、ポロキサミンが用いられており、実施例で使用したPEG、グリセリン誘導体、ポロキサミンが、エチレンオキサイド基を有するものであるか否か不明であるから、サポート要件を充足しない旨を主張する。
しかしながら、上記第4の3(1)に記載のとおり、「PEG(ポリエチレングリコール)は、一般的には、HO-(CH2―CH2―O)n―Hで表される構造を有し、オキシエチレン基(-CH2―CH2―O-)を有するものである」から、エチレンオキサイド基を有するものである。したがって、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしている。
2 「(C)明確性要件について」について
特許異議申立人神澤正広は、特許異議申立書21~22ページにおいて、訂正前の特許請求の範囲に関し、振動抑制剤のモル濃度の上限値、 及び、 振動抑制剤1分子当たりのエチレンオキサイド基部分の重量平均分子量と振動抑制剤の質量濃度との積の上限値が特定されていないから、本件特許発明1、2の範囲は不明確である旨を主張する。
しかしながら、本件訂正訂正請求による訂正後の請求項1には、「前記振動抑制剤のモル濃度が6.9×10-10mol/g以上であり」と記載されており、振動抑制剤のモル濃度の数値範囲は明確であるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしている。
3 「(D)実施可能要件について」について
特許異議申立人神澤正広は、特許異議申立書22ページにおいて、本件特許明細書の実施例には、振動抑制剤として、グリセリン誘導体及びポロキサミンを使用したことが記載されているが、その具体的な化学構造は不明であり、製品名称及び製造会社は不明であるから、当業者は、振動抑制剤としてグリセリン誘導体及びポロキサミンを使用して本件特許発明1~2を実施することができないし、少なくとも、過度の試行錯誤を要することが明らかであるため、実施可能要件を充足しない旨を主張する。
しかしながら、本件特許明細書には、振動抑制剤として、重量平均分子量(Mw)8000のPEGと重量平均分子量(Mw)6000のPEGを使用して、研磨用組成物を作成した実施例が記載されており、当業者であれば、Mwが8000や6000のPEGの市販品を入手することができる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1及び2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に規定された要件を満たす。
4 したがって、特許異議申立人神澤正広の上記主張は、採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する
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2021-701179