2021-701101
水素吸蔵合金およびその調製方法、水素吸蔵合金電極、ならびにニッケル水素電池
- 審判番号
- 2021-701101
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-004258外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6875759
- 請求日
- 2021年11月25日
- 審決日
- 2022年08月31日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(C22C) / P1651.121-YAA(C22C) / P1651.536-YAA(C22C) / P1651.537-YAA(C22C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第120条の5、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 19項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
特許第6875759号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和2年 1月15日(パリ条約による優先権主張2019年 1月28日、(CN)中国)を出願日とする出願(特願2020-4258号。以下、「本願」という。)であって、令和 3年 4月27日にその特許権の設定登録がなされ、令和 3年 5月26日にその特許掲載公報が発行されたものであり、本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
: 特許異議申立人原弘光(以下、「申立人
」という。)による請求項1~7(全請
求項)に係る特許に対する特許異議の申
立て
同年 7月11日提出 : 特許権者による意見書及び訂正請求書
なお、申立人は、特許異議申立書において意見書の提出を希望しない旨の申出を行っているため、申立人に対し、意見書の提出を求めなかった。
第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 4年 7月11日提出の訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求めるものであり、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。なお、下線は、当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下同じ。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「化学式は、(LaaRb)1-mMgmNixAlyであり、ここで、Rは、Sm、または、SmおよびNd、であり、a、b、m、x、およびyは、a>0、b>0、0<m≦0.3、0≦y≦0.20、かつ3.0≦x+y≦4.15、という条件を満たし、Cu-Kα線をX線源としてX線回折測定を行った際に、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と、2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の強度と、の強度比(IA/IB)は、0.5以下である水素吸蔵合金。」と記載されているのを、「化学式は、(LaaRb)1-mMgmNixAlyであり、ここで、Rは、Sm、または、SmおよびNd、であり、a、b、m、x、およびyは、a>0、b>0、a>b、0<m≦0.3、0≦y≦0.20、かつ4.0≦x+y≦4.15、という条件を満たし、Cu-Kα線をX線源としてX線回折測定を行った際に、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と、2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の強度と、の強度比(IA/IB)は、0.5以下であり、少なくともAB4型結晶構造を含む水素吸蔵合金。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載の水素吸蔵合金を調製する調製方法であって、水素吸蔵合金の配合比率に応じて金属元素の単体を混合し、真空誘導溶解および熱処理を順次行い、水素吸蔵合金を得る、というステップを含む調製方法。」と記載されているのを、「請求項1に記載の水素吸蔵合金を調製する調製方法であって、(1)水素吸蔵合金の配合比率に応じて金属元素の単体を混合する、(2)真空誘導溶解により鋳造合金を調整し、前記真空誘導溶解の温度は、1000~1400℃であり、前記真空誘導溶解の時間は、1~30分間であり、前記真空誘導溶解の真空度は、5~200Paである、(3)前記鋳造合金に対し熱処理を行い、前記熱処理は、第一段階:5~10℃/分の昇温速度で室温から580~620℃まで昇温する、第二段階:1~5℃/分の昇温速度で580~620℃から950~1050℃まで昇温し、保温時間は、8~36hである、第三段階:室温まで降温する、の段階で行う、工程を含む調製方法。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1または2に記載の水素吸蔵合金を活性物質として含む水素吸蔵合金電極。」と記載されているのを、「請求項1に記載の水素吸蔵合金を活性物質として含む水素吸蔵合金電極。」に訂正する。
2 訂正の適否
本件訂正の可否について検討する。
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1に係る訂正は、
(ア)訂正前の請求項1において特定されていなかったaとbの大小関係を「a>b」に限定し、
(イ)訂正前の請求項1において「3.0≦x+y≦4.15」であったx+yの範囲を「4.0≦x+y≦4.15」に限定し、かつ、
(ウ)訂正前の請求項1において特定されていなかった水素吸蔵合金の結晶構造を「少なくともAB4型結晶構造を含む」に限定したもの、
であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
(ア)本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)には、次の記載がある。
a 「【請求項2】 a>bかつx≧3.0であることを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金。」
b 「【0048】〔実施例3〕La:Sm:Mg:Ni:Al=0.54:0.22:0.24:3.80:0.20の配合比率に応じて、純度がいずれも99.99%を超える金属La、Sm、Mg、Ni、およびAlを混合した後、1180℃、7.5×100Pa真空度の条件下で真空誘導溶解を10分間行い、鋳造合金を得た。・・・【0050】前記La0.54Sm0.22Mg0.24Ni3.80Al0.20を機械的に粉砕し、・・・XRDスペクトルの特性ピークの2θと強度とを分析することにより、前記合金が、AB4型、A5B19型の超積層相構造を含む多相水素吸蔵合金であることがわかった。」
c 「【0051】〔実施例4〕La:Sm:Nd:Mg:Ni:Al=0.75:0.20:0.10:0.25:4.0:0.10の配合比率に応じて、純度がいずれも99.99%を超える金属La、Sm、Nd、Mg、Ni、およびAlを混合した後、1200℃、7.5×100Pa真空度の条件下で真空誘導溶解を12分間行い、鋳造合金を得た。・・・【0053】前記La0.75Sm0.20Nd0.10Mg0.25Ni4.0Al0.10を機械的に粉砕し、・・・前記合金が、AB4型、A5B19型の超積層相構造を含む多相水素吸蔵合金であることがわかった。」
(イ)上記(ア)a~cから、化学式「La0.54Sm0.22Mg0.24Ni3.80Al0.20」及び「La0.75Sm0.20Nd0.10Mg0.25Ni4.0Al0.10」における、LaとSm、又はLaとSm及びNdの化学量論比aとbの大小関係が「a>b」であること、及び、Ni及びAlの化学量論比x+yが「4.0≦x+y」であることが理解される。
(ウ)そうすると、上記(ア)a~cから、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(2)訂正事項2、4~5
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2、4~5は特許請求の範囲の請求項2、4~5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項2、4~5は請求項の削除であり、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2、4~5は、請求項の削除であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3
訂正事項3について、
(3-1)訂正前の請求項3に「請求項1または2記載の水素吸蔵合金を調製する調製方法であって、」と記載されていたのを、「請求項1に記載の水素吸蔵合金を調製する調製方法であって、」とする訂正と、
(3-2)訂正前の請求項3に「水素吸蔵合金の配合比率に応じて金属元素の単体を混合し、真空誘導溶解および熱処理を順次行い、水素吸蔵合金を得る、というステップを含む調製方法。」と記載されていたのを、「(1)水素吸蔵合金の配合比率に応じて金属元素の単体を混合する、(2)真空誘導溶解により鋳造合金を調整し、前記真空誘導溶解の温度は、1000~1400℃であり、前記真空誘導溶解の時間は、1~30分間であり、前記真空誘導溶解の真空度は、5~200Paである、(3)前記鋳造合金に対し熱処理を行い、前記熱処理は、第一段階:5~10℃/分の昇温速度で室温から580~620℃まで昇温する、第二段階:1~5℃/分の昇温速度で580~620℃から950~1050℃まで昇温し、保温時間は、8~36hである、第三段階:室温まで降温する、の段階で行う、工程を含む調製方法。」とする訂正、
とに分けて検討する。
(3-1)訂正事項3-1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3-1に係る請求項3の訂正は、訂正前の請求項3が請求項1~2の記載を引用するものであったところ、訂正事項2によって請求項2が削除されることに伴って、削除される請求項2を訂正後の請求項3が引用しないようにするものであるから、特許法第120条の5ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
引用する請求項から一部の請求項を削除することは、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
引用する請求項から一部の請求項を削除することは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3-2)訂正事項3-2
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3―2に係る請求項3の訂正は、訂正前の請求項3において特定されていなかった、真空誘導溶解による鋳造合金の調整工程を、「(2)真空誘導溶解により鋳造合金を調整し、前記真空誘導溶解の温度は、1000~1400℃であり、前記真空誘導溶解の時間は、1~30分間であり、前記真空誘導溶解の真空度は、5~200Paである」とし、鋳造合金の熱処理工程を「(3)前記鋳造合金に対し熱処理を行い、前記熱処理は、第一段階:5~10℃/分の昇温速度で室温から580~620℃まで昇温する、第二段階:1~5℃/分の昇温速度で580~620℃から950~1050℃まで昇温し、保温時間は、8~36hである、第三段階:室温まで降温する、の段階で行う」と新たに限定したものである。
したがって、訂正事項3―2に係る請求項3の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
(ア)本件明細書等には、次の記載がある。
a 「【請求項4】前記真空誘導溶解の温度は、1000~1400℃であり、前記真空誘導溶解の時間は、1~30分間であることを特徴とする請求項3に記載の調製方法。【請求項5】前記熱処理の温度は、850~1100℃であり、前記熱処理の保温時間は、8~36hであることを特徴とする請求項3に記載の調製方法。」
b 「【0012】好ましくは、前記真空誘導溶解の温度は、1000~1400℃であり、前記真空誘導溶解の時間は、1~30分間である。【0013】好ましくは、前記熱処理の温度は、850~1100℃であり、保温時間は、8~36時間である。」
c 「【0028】本発明において、前記真空誘導溶解の真空度は、5~200Paが好ましく、より好ましくは8~100Paである。前記真空誘導溶解の温度は、900~1400℃が好ましく、より好ましくは1000~1200℃である。前記真空誘導溶解の時間は、1~30分間が好ましく、より好ましくは3~20分間である。」
d 「【0030】本発明において、前記熱処理の温度は、好ましくは850~1100℃であり、より好ましくは950~1050℃である。前記熱処理の保温時間は、好ましくは8~36時間であり、より好ましくは12~24時間である。前記熱処理の昇温速度は、好ましくは1~10℃/分であり、より好ましくは1~6℃/分である。【0031】本発明において、前記熱処理は、さらに好ましくは二つの昇温段階を含み、第一昇温段階において、好ましくは、5~10℃/分の昇温速度で室温から580~620℃まで昇温し、第二昇温段階において、好ましくは、1~5℃/分の昇温速度で580~620℃から950~1050℃まで昇温する。・・・【0033】本発明において、好ましくは、熱処理が完了した後、得られた合金を冷却する。前記冷却は、好ましくは自然冷却である。」
e 「【0048】〔実施例3〕La:Sm:Mg:Ni:Al=0.54:0.22:0.24:3.80:0.20の配合比率に応じて、純度がいずれも99.99%を超える金属La、Sm、Mg、Ni、およびAlを混合した後、1180℃、7.5×100Pa真空度の条件下で真空誘導溶解を10分間行い、鋳造合金を得た。【0049】前記鋳造合金を、アニール炉において1020℃で熱処理し、第一昇温段階では室温から6℃/分の昇温速度に応じて600℃まで昇温し、第二昇温段階では600℃から3℃/分の昇温速度で1020℃まで昇温し、18時間保温し、降温段階では1020℃から室温まで降温し、La0.54Sm0.22Mg0.24Ni3.80Al0.20を得る。」
f 「【0051】〔実施例4〕La:Sm:Nd:Mg:Ni:Al=0.75:0.20:0.10:0.25:4.0:0.10の配合比率に応じて、純度がいずれも99.99%を超える金属La、Sm、Nd、Mg、Ni、およびAlを混合した後、1200℃、7.5×100Pa真空度の条件下で真空誘導溶解を12分間行い、鋳造合金を得た。【0052】前記鋳造合金を、アニール炉において1040℃で熱処理し、第一昇温段階では室温から5℃/分の速度に応じて600℃まで昇温し、第二昇温段階では600℃から2℃/分の昇温速度で1040℃まで昇温し、20時間保温し、降温段階では1040℃から室温まで降温し、La0.75Sm0.20Nd0.10Mg0.25Ni4.0Al0.10を得た。」
(イ)上記(ア)a~fから、訂正事項3-2に係る請求項3の訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項3-2に係る請求項3の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(3-3)小括
上記(3-1)及び(3-2)の検討から、訂正事項3に係る請求項3の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項乃至第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項6
ア 訂正の目的の適否
訂正事項6に係る訂正は、訂正前の請求項6が請求項1~2の記載を引用するものであったところ、訂正事項2によって請求項2が削除されることに伴って、削除される請求項2を訂正後の請求項6が引用しないようにするものであるから、特許法第120条の5ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
引用する請求項から一部の請求項を削除することは、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
引用する請求項から一部の請求項を削除することは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(5)一群の請求項について
訂正前の請求項2~7は、それぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるから、請求項1~7は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1~7〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。
(6)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項である請求項1~7に対してされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
3 訂正の適否についての結言
上記のとおり、本件訂正による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項乃至第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の記載のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、本件特許の請求項1~7に係る発明(以下、「本件発明1~7」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】化学式は、(LaaRb)1-mMgmNixAlyであり、ここで、 Rは、Sm、または、SmおよびNd、であり、続きを表示(全18行)a、b、m、x、およびyは、a>0、b>0、a>b、0<m≦0.3、0≦y≦0.20、かつ4.0≦x+y≦4.15、という条件を満たし、Cu-Kα線をX線源としてX線回折測定を行った際に、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と、2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の強度と、の強度比(IA/IB)は、0.5以下であり、少なくともAB4型結晶構造を含む水素吸蔵合金。【請求項2】削除【請求項3】請求項1に記載の水素吸蔵合金を調製する調製方法であって、(1)水素吸蔵合金の配合比率に応じて金属元素の単体を混合する、(2)真空誘導溶解により鋳造合金を調整し、前記真空誘導溶解の温度は、1000~1400℃であり、前記真空誘導溶解の時間は、1~30分間であり、前記真空誘導溶解の真空度は、5~200Paである、(3)前記鋳造合金に対し熱処理を行い、前記熱処理は、第一段階:5~10℃/分の昇温速度で室温から580~620℃まで昇温する、第二段階:1~5℃/分の昇温速度で580~620℃から950~1050℃まで昇温し、保温時間は、8~36hである、第三段階:室温まで降温する、の段階で行う、工程を含む調製方法。」
【請求項4】削除
【請求項5】削除
【請求項6】
請求項1に記載の水素吸蔵合金を活性物質として含む水素吸蔵合金電極。【請求項7】
負極、正極、および電解液を含み、前記負極は、請求項6に記載の水素吸蔵合金電極であるニッケル水素電池。」
第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、甲第1号証~甲第4号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の申立理由により、本件訂正前の請求項1~7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証(甲1):特開2014-229593号公報
甲第2号証(甲2):Lu Zhang外6名、「Phase structure and cycling stability of A2B7 superlattice La0.60Sm0.15Mg0.25Ni3.4 metal hydride alloy」、INTERNATIONAL JOURNAL OF HYDROGEN ENERGY、2016年、41、p.1791-1800
甲第3号証(甲3):特開2016-69692号公報
甲第4号証(甲4):国際公開第2005/080617号
1 申立理由1(新規性)
(1)申立理由1-1(取消理由として一部採用)
本件訂正前の請求項1~2、6~7に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由1-2(取消理由として一部採用)
本件訂正前の請求項1~2、6~7に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性)
(1)申立理由2-1(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~2、6~7に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2-2(取消理由として一部採用)
本件訂正前の請求項3、5に係る発明は、甲1又は甲2に記載された発明、及び甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由2-3(取消理由として一部採用)
本件訂正前の請求項4に係る発明は、甲1又は甲2に記載された発明、及び甲3~4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件)(取消理由として不採用)
発明の詳細な説明には、本件訂正前の請求項1~7に係る発明における化学式「(LaaRb)1-mMgmNixAly」(a、b、m、x、およびyは、a>0、b>0、0<m≦0.3、0≦y≦0.20、かつ3.0≦x+y≦4.15)の範囲で、具体的にどのように製造すれば、純粋なAB4型構造を含有する水素吸蔵合金や、AB4型、A5B19型の超積層構造を含む多相水素吸蔵合金を得られるのか、当業者が理解できるように説明されていないから、発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項1~7に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえない。
よって、本件訂正前の請求項1~7に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(サポート要件)(取消理由として不採用)
発明の詳細な説明には、本件訂正前の請求項1~7に係る発明では、化学式「(LaaRb)1-mMgmNixAly」の添え字a、bの上限が規定されておらず、甲2には、A元素に対するB元素の比が3.4程度の希土類-Mg-Ni水素吸蔵合金は、熱処理により、AB5型及びA5B19型の少数相が消失することが記載されている(甲2の要約及びp.1793左欄23行~右欄18行、p.1795の表2)。そのため、前記添え字a、bの上限が規定されていない本件訂正前の請求項1~7に係る発明では、純粋なAB4型構造を含有する水素吸蔵合金や、AB4型、A5B19型の超積層構造を含む多相水素吸蔵合金を形成できるかは明らかではない。
したがって、本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、発明の詳細な説明の段落0005、0016に記載された課題を解決するための手段が反映されているとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
よって、本件訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
5 申立理由5(明確性要件)(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~7に係る発明では、化学式「(LaaRb)1-mMgmNixAly」の添え字a、bの上限が規定されていない。そのため、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金において、MgとNiとの比率が不定であり、合金の結晶構造を理解することが困難である。
よって、本件訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~7に係る特許に対して、令和 4年 3月22日付け取消理由通知により、当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 取消理由1(新規性)(申立理由1に対応)
(1)取消理由1-1(申立理由1-1に対応)
本件訂正前の請求項1~2、6~7に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)取消理由1-2(申立理由1-2に対応)
本件訂正前の請求項1~2、6に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由2(進歩性)(申立理由2に対応)
(1)取消理由2-1(申立理由2-2に対応)
本件訂正前の請求項3、5に係る発明は、甲1又は甲2に記載された発明、及び甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)取消理由2-2(申立理由2-3に対応)
本件訂正前の請求項4に係る発明は、甲1又は甲2に記載された発明、及び甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)取消理由2-3(職権で採用)
本件訂正前の請求項7に係る発明は、甲2に記載された発明、及び甲1の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 当審の判断
当審は、本件訂正請求を認めることにより、当審による取消理由はいずれも解消し、また、申立人が主張するその余の申立理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由について
(1)取消理由1-1(新規性)
ア 甲1の記載事項
折りたたみ中(クリックで表示)
甲1には、次の記載がある。
(ア)「【0002】ニッケル水素蓄電池等のアルカリ蓄電池では、正極の極板容量に対し、負極の極板容量が高くなるように設計されている。これは負極において、過充電時の水素発生を防止するための充電リザーブと、過放電時の酸素発生を防止するための放電リザーブを確保するためである。一方、充放電の繰り返しなどにより、電池内材料(正極・負極材料、その他の材料)が酸化されると放電リザーブが増加/充電リザーブが減少する。加えて負極合金の酸化劣化によっても充電リザーブは減少し、最終的に充電リザーブが枯渇すると、過充電時に負極から水素が発生し、ガス圧上昇にともなうリークによりセパレータが保持する電解液が枯渇して充放電ができなくなる。」
(イ)「【0003】放電リザーブ量の蓄積量制御のための水素吸蔵合金の高耐久化及び高容量化の観点から、A2B7型結晶構造やA5B19型結晶構造を有するMg含有水素吸蔵合金が検討されている(下記特許文献1~3参照)。A2B7型結晶構造の水素吸蔵合金は、AB2型結晶構造とAB5型結晶構造とが2層を周期として重なり合った例えばCe2Ni7型の六方晶系(2H)の結晶構造のものが知られている。A5B19型結晶構造の水素吸蔵合金は、AB2型結晶構造とAB5型結晶構造とが3層を周期として積み重なった例えばCe2Co19型の三方晶系(3R)の結晶構造のものと、AB2型結晶構造とAB5型結晶構造とが2層を周期として重なり合った例えばPr5Co19型の六方晶系(2H)の結晶構造のものとが知られている。」
(ウ)「【0004】A2B7型結晶構造の水素吸蔵合金は、水素の吸蔵・放出のサイクル寿命特性を向上させることができるが、大電流放電特性(アシスト出力)が不十分であって、従来の範囲を超えた高出力用途としては満足いく特性が得られない。A5B19型結晶構造の水素吸蔵合金は、単位結晶格子当たりのニッケル比率を増加させることができ、水素分子の吸着及び水素原子への解離を促進する活性点を増加させることが可能となるが、金属原子間の隙間が小さくなって水素吸蔵圧が上昇する。そのため、A5B19型結晶構造の水素吸蔵合金を大電流の充放電用途に用いると、水素吸蔵合金の微粉化が加速されて耐久性が低下する。」
(エ)「【0005】なお、従来の水素吸蔵合金負極を用いたアルカリ蓄電池では、出力特性(水素吸蔵圧が高いと有利)と回生特性(水素吸蔵圧が低いと有利)の両立のため、40℃、H/M=0.5における水素吸蔵圧が0.020MPa以上、0.055MPa以下のものが多く用いられている。」
(オ)「【0007】水素吸蔵合金負極を用いたアルカリ蓄電池をハイブリッド自動車(HEV、PHEV)や電気自動車(EV)等の電源として用いるには、出力特性や回生特性だけでなく、多数の電池を用いる必要上、コストダウンが求められている。近年、磁石用途で用いられるNdなどの希土類元素については、価格が高騰しており、その使用量削減が必要となり、比較的安価なLaへの置換えが検討されている。しかし、水素吸蔵合金中のLaの添加量を単純に増加させていくと、水素吸蔵圧が低下するため、水素吸蔵合金負極を用いたアルカリ蓄電池では出力特性の低下が顕著となる。」
(カ)「【0008】また、水素吸蔵合金負極を用いたアルカリ蓄電池をHEV、PHEVやEV用途に用いるには、低温での高率放電性(例えば-10℃で5It以上の放電性)が求められるだけでなく、エンジンなどの付近で高温放置されるため、耐高温特性も要求される。」
(キ)「【課題を解決するための手段】【0009】本発明の一態様のアルカリ蓄電池は、水素吸蔵合金を主成分とする水素吸蔵合金負極と、水酸化ニッケルを主成分とするニッケル正極と、セパレータとからなる電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えたアルカリ蓄電池であって、前記水素吸蔵合金は、Laを主要希土類元素とする一般式(LaxLny)1一zMgzNit-uTu(T:Al、Co、Mn、Znから選択され、LnはLa以外の希土類元素及びYから選択された少なくとも1種であり、x>y、0.09≦z≦0.14、3.65≦t≦3.80、0.05≦u≦0.25)であって、六方晶系(2H)のA5B19型結晶構造のものと、三方晶系(3R)のA5B19型結晶構造のものと、A2B7型結晶構造のものとを含み、前記六方晶系(2H)のA5B19型結晶構造のもののCu-Kα線による粉末X線回折強度ピークは、前記三方晶系(3R)のA5B19型結晶構造のもの及びA2B7型結晶構造のものよりも大きいものとされている。」
(ク)「【発明の効果】【0010】本発明のアルカリ蓄電池によれば、負極の水素吸蔵合金中に安価なLaを特定量で含み、かつ、特定の結晶構造のものを含むものとしたことにより、従来の水素吸蔵合金負極を用いたアルカリ蓄電池と比較して、安価でありながら、放電出力特性が向上し、また高温耐久性も同等以上となる。なお、水素吸蔵合金中のLa以外の希土類元素Lnとしては、Sm、Gd、Yの少なくとも1種を主要成分として含むことが好ましい。」
(ケ)「【0013】[水素吸蔵合金の調製]金属元素を所定のモル比となるように混合した後、これらの混合物をアルゴンガス雰囲気の高周波誘導炉に投入して溶解させ、これを金型に注入して凝固させ、下記表1に示す組成を有する実験例1~5の鋳塊状態のLaSm系水素吸蔵合金及び表2に示す組成を有する実験例6~8の鋳塊状態のLaNd系水素吸蔵合金を調製した。これらの水素吸蔵合金の組成は、一般式(LaxLny)1一zMgzNit-uAlu(Ln=Sm又はNd)で表される。」
(コ)「【0014】次いで、得られた各水素吸蔵合金について、DSC(示差走査熱量計)を用いて融点(Tm)を測定した。その後、各水素吸蔵合金について、それらの融点(Tm)より低い所定温度、例えば1025℃(実験例1~5)又は1020℃(実験例6~8)で、所定時間、例えば10時間、熱処理を行った。この後、これらの各水素吸蔵合金の塊を粗粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で機械的に粉砕し、体積累積頻度50%での粒径(D50)が25μmの実験例1~8に係る水素吸蔵合金粉末を調製した。」
(サ)「【0015】次いで、Cu-Kα管をX線源とするX線回折測定装置を用いる粉末X線回折法により、実験例1~8に係る水素吸蔵合金粉末の結晶構造の同定を行った。この場合、スキャンスピード1°/min、管電圧40kV、管電流300mA、スキャンステップ1°、測定角度20~50θ/degでX線回折測定を行った。実験例1~5に係る水素吸蔵合金粉末の粉末X線回折チャートを図2に、実験例6~8に係る水素吸蔵合金粉末の粉末X線回折チャートを図3に、それぞれ示した。」
(シ)「【0016】三方晶系(3R)のA5B19型結晶構造、六方晶系(2H)のA5B19型結晶構造、A2B7型結晶構造は、それぞれ、2θ=31.4°~31.7°、32.1°~32.4°、32.7°~33.0°のピークより同定した。図2及び図3に示したチャートから、実験例1~8のいずれの水素吸蔵合金においても、A2B7型結晶構造とA5B19型結晶構造が存在することが確認された。また、A5B19型結晶構造の六方晶系(2H)と三方晶系(3R)のピーク強度について、A2B7型結晶構造のピーク強度を100%とした際の相対値(%)を、実験例1~5の測定結果については表1に、実験例6~8の測定結果については表2に、それぞれ示した。」
(ス)「【0018】【表1】[図:0001390572000001.jpg]」
(セ)「【0021】また、表1に示した結果から、実験例2~5では、水素吸蔵合金中のLaの添加量が増大するにしたがって水素吸蔵合金の平衡圧が低下しているが、実験例1では、水素吸蔵合金中のLaの添加量が最も多いにもかかわらず、水素吸蔵合金の平衡圧が実験例2のものよりも大きくなっていることがわかる。同じく、表2に示した結果から、実験例7及び8では、水素吸蔵合金中のLaの添加量が増大するにしたがって水素吸蔵合金の平衡圧が低下しているが、実験例6では、水素吸蔵合金中のLaの添加量が最も多いにもかかわらず、水素吸蔵合金の平衡圧は実験例7のものとほぼ同等の結果が得られていることがわかる。このことは、水素吸蔵合金は、六方晶系(2H)のA5B19型結晶構造を有するものとすることにより、水素吸蔵合金の平衡圧が上昇し、水素吸蔵合金中のLaの添加量の増加による平衡圧力低下分が緩和されることを示すものと考えられる。」
(ソ)「【0022】ただし、Laは水素との結合強度が強いため、Laの添加量の増加により吸蔵されるが放出されない不可逆水素が増加することが想定される。しかしながら、車載用途などでは、完全放電を行なわないため、問題とならない。なお、六方晶系(2H)のA5B19型結晶構造は、水素吸蔵合金の組成を特定するほか、熱処理条件等の製造条件を調整することで含有させることができる。」
(タ)「【0023】実験例1~8では、LnとしてSm及びNdを用いた例を示した。Lnとしては、La以外の希土類元素及びYから選択された少なくとも1種を採用することができるが、水素吸蔵合金の微粉化抑制の観点から、Nd、Sm、Gd、Pr、Yなどの元素が望ましい。さらに、Lnとしては、Laの添加量の増加による平衡圧が低下することから、平衡圧を上昇させる効果が大きいSm、Y、Gdなどの希土類元素が望ましい。なお、水素吸蔵合金中のLaの添加量はLnよりも多量、すなわち上記の水素吸蔵合金組成の一般式において、x>yなるようにすることが好ましい。」
(チ)「【0024】Mg添加量は、多すぎると微粉化及びMg成分の溶解が加速し、少なすぎると結晶構造が不安定(Mgを含まないAB5型結晶構造の生成が顕著)となり、水素吸蔵特性が安定しない(吸蔵カーブの2段化など)。水素吸蔵特性を安定させるためには、A5B19型結晶構造を安定的に構築する必要があるため、Mg量及び希土類元素(La+Ln)量の合計(A)と、Ni及び添加元素(T)量の合計(B)との量論比(B/A)を所定の範囲にコントロールする必要がある。A2B7型結晶構造は存在しても問題ないが、B/Aが少なすぎるとAB2やAB3型結晶構造が、多すぎるとAB5型結晶構造が混在しやすくなる。AB2やAB3型結晶構造、AB5型結晶構造が混在した場合においては、サイクルに伴う微粉化が顕著となる。」
(ツ)「【0025】車載用途においては、いつでもアシスト(放電)できるようにするため、SOC(充電状態:State of Charge)50%以上の充電状態で保持されており、そういった高SOCの状況で大きな出力特性が望まれる。同じく、放電に伴ってSOCが低下した際には、回生充電により即座にSOC位置を回復することが必要であり、大きな回生出力特性も必要となる。このような観点から、高SOC領域では電池電圧が高く、低SOC領域では電池電圧が低いほうが望ましいため、水素吸蔵曲線(PCTカーブ)は、H/M=0.5~0.7での傾きが0.7以上3.0以下であることが望ましく、A5B19型結晶構造とA2B7型結晶構造からなる範囲にB/Aをコントロールすることが必要である。以上の点を考慮すると、0.09≦z≦0.14、3.65≦t≦3.80とすることが好ましい。」
(テ)「【0026】実験例1~8では、T成分としてAlを用いた例を示したが、他に、Co、Mn又はZnを用いることができる。T成分の添加量は、少なすぎると結晶構造の安定性及び水素吸蔵量の面で不利となり、多すぎるとT成分の溶解の影響が顕著となるので、0.05≦u≦0.25とすることが好ましい。」
(ト)「【0028】(水素吸蔵合金負極の作製)上述した実験例1~8の各水素吸蔵合金粉末と水溶性結着剤、熱可塑性エラストマー及び炭素系導電剤を混合・混練して水素吸蔵合金スラリーを調製した。水溶性結着剤としては、0.1質量%のCMC(カルボキシメチルセルロース)の水溶液を使用した。熱可塑性エラストマーとしては、スチレンブタジエンラテックス(SBR)を使用した。炭素系導電剤としては、ケッチエンブラックを使用した。」
(ナ)「【0029】上述のようにして作製した水素吸蔵合金スラリーを、ニッケルメッキを施した軟鋼材製の多孔性基板(パンチングメタル)からなる負極用導電性芯体に、所定の充填密度(例えば、5.2g/cm3)となるように塗着、乾燥させた後、所定の厚みになるように圧延した。この後、所定の寸法になるように切断して、実験例1~8のそれぞれに対応する水素吸蔵合金負極をそれぞれ作製した。」
(ニ)「【0036】このようにして作製されたニッケル水素蓄電池10の具体的構成を図1を用いて説明する。ニッケル水素蓄電池10は、上述のようにして作製されたニッケル正極11と、水素吸蔵合金負極12とがセパレータ13とを介して互いに絶縁された状態で巻き回された巻回電極体14を有している。ニッケル正極11は、ニッケルめっき鋼板製のパンチングメタルからなる正極芯体15の両面に形成された多孔質ニッケル焼結体内に、水酸化ニッケルを主成分とし、水酸化コバルト等が添加された正極活物質16が充填された構成を有している。水素吸蔵合金負極12は、ニッケルメッキした軟鋼材製のパンチングメタルからなる負極芯体18の両面に負極活物質としての水素吸蔵合金粉末を有する負極合剤層19が形成されている。」
(ヌ)「【図2】[図:0001390572000002.jpg]」
イ 甲1発明
(ア)上記ア(ケ)、(ス)から、甲1の実験例1~4には、一般式(LaxLny)1一zMgzNit-uAlu(Ln=Sm)において、0.54≦x≦0.70、0.30≦y≦0.46、z=0.11、t-u=3.60、u=0.10の水素吸蔵合金、すなわち、(La0.54~0.70Ln0.30~0.46)0.89Mg0.11Ni3.60Al0.10(Ln=Sm)の水素吸蔵合金が記載されていると認められる。
(イ)上記ア(ヌ)において、実験例1~4のX線回折チャートから読み取れる、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の比(IA/IB)について、X線回折チャートにおけるグラフの横軸に略平行な部分を基準線とし、前記基準線からそれぞれのピークまでの高さを実測することによって、計算すると、0.3~0.4程度となる。
そうすると、上記ア(サ)、(ヌ)から、甲1の実験例1~4は、Cu-Kα線をX線源としてX線回折測定を行った際に、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と、2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の強度と、の強度比(IA/IB)が、0.3~0.4程度のものであると認められる。
(ウ)そうすると、上記ア(ケ)、(サ)、(ス)、(ヌ)から、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。
「(La0.54~0.70Ln0.30~0.46)0.89Mg0.11Ni3.60Al0.10(Ln=Sm)であって、Cu-Kα線をX線源としてX線回折測定を行った際に、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と、2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の強度と、の強度比(IA/IB)は、0.3~0.4程度の水素吸蔵合金。」
ウ 甲1発明と本件発明の対比・判断
(ア)本件発明1と甲1発明の対比・判断
a 甲1発明の「(La0.54~0.70Ln0.30~0.46)0.89Mg0.11Ni3.60Al0.10(Ln=Sm)」は、本件発明1の「化学式は、(LaaRb)1-mMgmNixAlyであり、」「Rは、Sm、または、SmおよびNd、であり、a、b、m、」「およびyは、a>0、b>0、a>b、0<m≦0.3、0≦y≦0.20」「という条件を満た」すものに相当する。
b 甲1発明の「Cu-Kα線をX線源としてX線回折測定を行った際に、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と、2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の強度と、の強度比(IA/IB)」が「0.3~0.4程度」となることは、本件発明1の「Cu-Kα線をX線源としてX線回折測定を行った際に、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と、2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の強度と、の強度比(IA/IB)は、0.5以下であ」ることに相当する。
c 以上から、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「化学式は、(LaaRb)1-mMgmNixAlyであり、ここで、Rは、Sm、または、SmおよびNd、であり、a、b、m、およびyは、a>0、b>0、a>b、0<m≦0.3、0≦y≦0.20という条件を満たし、Cu-Kα線をX線源としてX線回折測定を行った際に、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と、2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の強度と、の強度比(IA/IB)は、0.5以下である水素吸蔵合金。」
d そして、本件発明1と甲1発明とは、次の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では、「(LaaRb)1-mMgmNixAly」の「x、およびy」が「4.0≦x+y≦4.15、という条件を満た」すのに対し、甲1発明では、「(La0.54~0.70Ln0.30~0.46)0.89Mg0.11Ni3.60Al0.10(Ln=Sm)」におけるNi及びAlの化学量論比「x+y」が3.70である点。
<相違点2>
本件発明1では、少なくともAB4型結晶構造を含むのに対し、甲1発明では、AB4型結晶構造を含むか否かが不明である点。
e ここで、事案に鑑みて、上記相違点1について検討するに、上記相違点1が実質的な相違点であることは、明らかであるから、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
(イ)訂正前の請求項2に係る発明について
訂正前の請求項2は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する取消理由は、その対象が存在しない。
(ウ)本件発明6~7と甲1発明の対比・判断
本件発明6~7は、本件発明1を直接もしくは間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
そうすると、上記(ア)より、本件発明6~7と甲1発明には、上記相違点1が存在するから、本件発明6~7は、甲1発明であるとはいえない。
エ 小括
以上から、本件発明1、6~7は、甲1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないものであるから、この点で、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないものであり、取り消すことはできない。
また、訂正前の請求項2は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する取消理由は、その対象が存在しない。
さらに、取消理由通知において甲1の記載から認定した甲1発明A~Cに対しても、同様の結論となる。
よって、上記取消理由1-1は、解消した。
(2)取消理由1-2(新規性)
ア 甲2の記載事項
折りたたみ中(クリックで表示)
甲2には、次の記載がある。
(ア)「[図:0001390572000003.jpg]」(当審訳:La-Mg-Ni-系金属水素化物(MH)合金は、高容量、良好な活性化性能、良好な高率放電特性を有することから、ニッケル/金属水素(Ni/MH)電池の負極として、現在使用されているAB5型合金に代わる有望な候補である[1-3]。)
(イ)「[図:0001390572000004.jpg]」(当審訳:
実験
試料調整
La0.60Sm0.15Mg0.25Ni3.4合金は、純度99.5%のLa、Mg、Sm、およびNiなどの構成金属を誘導溶解して合金を作製した。鋳造状態のインゴットを機械的に粉砕して約10g集め、ニッケル箔で包んで炉に入れ、0.04MPaのアルゴン雰囲気下、950℃で6時間、12時間、24時間保持した(600℃以下では4℃min-1、600℃以上では1℃min-1の昇温速度)。炉内で各試料を室温まで冷却した。ニッケル箔には、熱処理時に蒸発したMgを補うため、過剰なMgを添加した。)
(ウ)「[図:0001390572000005.jpg]」(当審訳:
組織特性
誘導結合プラズマ(ICP)分析装置を用いて、合金の化学分析を行った。X線回折(XRD)測定のために、鋳造状態の合金と熱処理後の合金を-400メッシュサイズに粉砕した。XRD試験は、D/Max-2500/PC X線回折計を用いて、CuKα線で20°から80°の範囲で行った。XRDプロファイルは、RieTicaソフトウェア[21]を用いてリートベルト法により解析した。透過型電子顕微鏡(TEM)分析用の試料は、JEM-2010を用いて20.0kVで測定した。合金の形態は、エネルギー分散型分光法(EDS)を併用した電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、S-4800)で調べた。)
(エ)「[図:0001390572000006.jpg]」(当審訳:
結果と考察
原子百分率での熱処理前後のインゴットのICP結果を表1で比較した。異なる合金の元素組成は、Mgのわずかな過補正を除いて、設計値に非常に近い。熱処理前後の最終的なB/A比は、わずかに低い値(3.32)を示した鋳造状態のサンプルを除いて、3.4に近い値となっている。)
(オ)「[図:0001390572000007.jpg]」(当審訳:
微細構造分析
図1は、鋳造状態と熱処理後のLa0.60Sm0.15Mg0.25Ni3.4合金のXRDパターンを示したものである。全てのパターンは、A2B7型の(La、Sm)3MgNi14(Ce2Ni7型およびGd2Co7型)が主相である。主相以外に(La、Sm)4Ni19(Ce5Co19型)、(La、Sm)Ni5(CaCu5型)、および(La、Sm、Mg)2Ni4(MgCu4Sn型)が鋳造状態の試料に共存している。鋳造状態の合金を950℃で6時間熱処理すると、非超積層のMgCu4Sn型相が消失した。さらに、熱処理時間を12時間に延ばすと、非超積層のCaCu5型相が続いて消失し、合金は超積層のCe5Co19-、Ce2Ni7-およびGd2Co7型相のみで構成される。熱処理時間を24時間に延長すると、Ce5Co19型相は存在しなくなり、同質異形のCe2Ni7-(2H)およびGd2Co7-(3R)型のA2B7相が共存するようになる。)
(カ)「[図:0001390572000008.jpg]」(当審訳:
表1-La0.60Sm0.15Mg0.25Ni3.4合金の鋳造状態、および、熱処理時のICP結果(原子%))
(キ)「[図:0001390572000009.jpg]」(当審訳:
図1-鋳造状態および熱処理後のLa0.60Sm0.15Mg0.25Ni3.4合金の2θ範囲20°~60°におけるCu-Kα線を用いたXRDパターン(a)および回折ピークの変化を示すために2θ範囲31.5°~34.5°における(a)の拡大図(b))
イ 甲2発明
(ア)上記ア(エ)、(カ)から、La0.60Sm0.15Mg0.25Ni3.4合金を950℃で12時間及び24時間熱処理をした試料の組成比を計算すると、Mgの組成比を0.25として、
a 950℃で12時間熱処理をした試料では、
Laの組成は、13.50/6.18×0.25=0.546
Smの組成は、 3.20/6.18×0.25=0.129
Mgの組成は、 6.18/6.18×0.25=0.25
Niの組成は、77.12/6.18×0.25=3.119
となり、
b また、950℃で24時間熱処理をした試料では、
Laの組成は、13.86/5.91×0.25=0.586
Smの組成は、 2.95/5.91×0.25=0.124
Mgの組成は、 5.91/5.91×0.25=0.25
Niの組成は、77.27/5.91×0.25=3.268
となる。
c そうすると、La0.60Sm0.15Mg0.25Ni3.4合金を950℃で12時間及び24時間熱処理をした試料は、それぞれ、
・La0.55Sm0.13Mg0.25Ni3.12(12時間熱処理)
・La0.59Sm0.12Mg0.25Ni3.27(24時間熱処理)
となる。
(イ)上記ア(キ)において、図1(a)の、La0.60Sm0.15Mg0.25Ni3.4合金を950℃で12時間及び24時間熱処理をした試料のXRDパターンにおける、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の比(IA/IB)について、XRDパターンにおけるグラフの横軸に略平行な部分を基準線とし、前記基準線からそれぞれのピークまでの高さを実測することによって、計算すると、0.2以下となる。
そうすると、上記ア(ウ)、(オ)、(キ)から、甲2のLa0.60Sm0.15Mg0.25Ni3.4合金を950℃で12時間及び24時間熱処理をした試料は、Cu-Kα線をX線源としてX線回折測定を行った際に、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と、2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の強度と、の強度比(IA/IB)は、0.2以下のものであると認められる。
(ウ)そうすると、上記ア(ウ)~(キ)から、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲2発明」という。)。
「La0.55~0.59Sm0.12~0.13Mg0.25Ni3.12~3.27であって、Cu-Kα線をX線源としてX線回折測定を行った際に、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と、2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の強度と、の強度比(IA/IB)は、0.2以下の水素吸蔵合金。」
ウ 甲2発明と本件発明の対比・判断
(ア)本件発明1と甲2発明の対比・判断
a 甲2発明の「La0.55~0.59Sm0.12~0.13Mg0.25Ni3.12~3.27」は、本件発明1の「化学式は、(LaaRb)1-mMgmNixAlyであり、」「Rは、Sm、または、SmおよびNd、であり、a、b、m、」「およびyは、a>0、b>0、a>b、0<m≦0.3、0≦y≦0.20」「という条件を満た」すものに相当する。
b 甲2発明の「Cu-Kα線をX線源としてX線回折測定を行った際に、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と、2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の強度と、の強度比(IA/IB)」が「0.2以下」となることは、本件発明1の「Cu-Kα線をX線源としてX線回折測定を行った際に、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と、2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の強度と、の強度比(IA/IB)は、0.5以下である」ことに相当する。
c 以上から、本件発明1と甲2発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「化学式は、(LaaRb)1-mMgmNixAlyであり、ここで、 Rは、Sm、または、SmおよびNd、であり、a、b、m、およびyは、a>0、b>0、a>b、0<m≦0.3、0≦y≦0.20という条件を満たし、Cu-Kα線をX線源としてX線回折測定を行った際に、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と、2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)の強度と、の強度比(IA/IB)は、0.5以下である水素吸蔵合金。」
d そして、本件発明1と甲2発明とは、次の点で相違する。
<相違点3>
本件発明1では、「(LaaRb)1-mMgmNixAly」の「x、およびy」が「4.0≦x+y≦4.15、という条件を満た」すのに対し、甲2発明では、「La0.55~0.59Sm0.12~0.13Mg0.25Ni3.12~3.27」におけるNi及びAlの化学量論比「x+y」が3.12~3.27である点。
<相違点4>
本件発明1では、少なくともAB4型結晶構造を含むのに対し、甲2発明では、AB4型結晶構造を含むか否かが不明である点。
e ここで、事案に鑑みて、上記相違点3について検討するに、上記相違点3が実質的な相違点であることは、明らかであるから、上記相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。
(イ)訂正前の請求項2に係る発明について
訂正前の請求項2は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する取消理由は、その対象が存在しない。
(ウ)本件発明6と甲2発明の対比・判断
本件発明6は、本件発明1を直接もしくは間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
そうすると、上記(ア)より、本件発明6と甲2発明には、上記相違点3が存在するから、本件発明6は、甲2発明であるとはいえない。
エ 小括
以上から、本件発明1、6は、甲2に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないものであるから、この点で、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないものであり、取り消すことはできない。
また、訂正前の請求項2は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する取消理由は、その対象が存在しない。
さらに、取消理由通知において甲2の記載から認定した甲2発明A~Bに対しても、同様の結論となる。
よって、上記取消理由1-2は、解消した。
(3)取消理由2-1(進歩性)
ア 甲1を主たる引用文献とする本件発明3、5の進歩性について
事案に鑑み、相違点1について検討する。
(ア)甲3の記載事項
折りたたみ中(クリックで表示)
甲3には、次の記載がある。
a 「【0019】本実施形態の水素吸蔵合金の製造方法においては、例えば、上述のような所定の組成比となるように配合された合金原料を溶融する溶融工程と、溶融した合金原料を凝固する冷却工程と、冷却された合金を焼鈍する焼鈍工程と、該合金を粉砕する粉砕工程とを行う。」
b 「【0021】溶融工程においては、前記合金原料をルツボに入れ、不活性ガス雰囲気中又は真空中で高周波溶解炉等を用い、1000℃以上で溶融させる。溶融温度の上限は、2000℃程度であり、例えば、1200~1600℃に加熱して溶融させる。」
c 「【0026】本発明に係る水素吸蔵合金の用途としては特に限定されず、ニッケル水素蓄電池、燃料電池、水素自動車用の燃料用タンク等をはじめ、様々な用途に適用することが可能であるが、なかでも、ニッケル水素蓄電池の負極活物質に好適に用いられる。このように本発明に係る水素吸蔵合金を含有する負極を備えたニッケル水素蓄電池もまた、本発明の一つである。」
(イ)相違点1の検討
a 甲1の請求項1、【0009】及び実験例1~4の記載を参酌すると、甲1には、化学式「(LaxLny)1一zMgzNit-uTu(T:Al、Co、Mn、Znから選択され、LnはLa以外の希土類元素及びYから選択された少なくとも1種)」におけるNi及びTの化学量論比「t」が少なくとも「3.65≦t≦3.80」の範囲内の化学組成を有する水素吸蔵合金を用いることによって、「従来の水素吸蔵合金負極を用いたアルカリ蓄電池と比較して、安価でありながら、放電出力特性が向上し、また高温耐久性も同等以上となる」ものが得られたことが開示されるのみであるから、甲1の記載からは、甲1発明におけるtの値を4.0以上とする動機付けを見いだせない。
b そして、甲3の上記ア(ア)a~cの記載をはじめとした、いずれの甲号証の記載を参照しても、甲1発明において、上記tを、4.0以上とする動機付けを見いだせない。
c したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
d また、本件明細書等の、特に、段落【0016】、【0048】~【0064】の記載によれば、上記相違点1に係る発明特定事項を有する本件発明1は、優れた充放電性能、倍率性能、及び動的特性が得られるという効果を奏する。
e そうすると、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明及び甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件発明3の進歩性について
a 本件発明3は、本件発明1を直接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
b ここで、上記(イ)で検討したとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
c そうすると、上記a~bから、本件発明3は、新たな一致点及び相違点の検討を行うまでもなく、甲1発明及び甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(エ)訂正前の請求項5に係る発明について
訂正前の請求項5は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する取消理由は、その対象が存在しない。
イ 甲2を主たる引用文献とする本件発明3、5の進歩性について
事案に鑑み、相違点3について検討する。
(ア)相違点3の検討
a 甲2の上記(2)ア(ア)~(キ)の記載、及び甲3の上記ア(ア)a~cの記載をはじめとした、いずれの甲号証の記載を参照しても、甲2発明の「La0.55~0.59Sm0.12~0.13Mg0.25Ni3.12~3.27」におけるNi及びAlの化学量論比tの値を4.0以上とする動機付けを見いだせない。
b したがって、甲2発明において、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
c また、本件明細書等の、特に、段落【0016】、【0048】~【0064】の記載によれば、上記相違点3に係る発明特定事項を有する本件発明1は、優れた充放電性能、倍率性能、及び動的特性が得られるという効果を奏する。
d そうすると、上記相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)本件発明3の進歩性について
ア 本件発明3は、本件発明1を直接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
イ ここで、上記(ア)で検討したとおり、本件発明1は、甲2発明及び甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ そうすると、上記ア~イから、本件発明3は、新たな一致点及び相違点の検討を行うまでもなく、甲2発明及び甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)訂正前の請求項5に係る発明について
訂正前の請求項5は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する取消理由は、その対象が存在しない。
ウ 小括
以上から、本件発明3は、甲1発明又は甲2発明、及び甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、この点で、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないものであり、取り消すことはできない。
また、訂正前の請求項5は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する取消理由は、その対象が存在しない。
よって、上記取消理由2-1は、解消した。
(4)取消理由2-2(進歩性)
訂正前の請求項4は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する取消理由は、その対象が存在しない。
よって、上記取消理由2-2は、解消した。
(5)取消理由2-3(進歩性)
ア 上記(3)イで検討したように、いずれの甲号証の記載を参照しても、甲2発明の「La0.55~0.59Sm0.12~0.13Mg0.25Ni3.12~3.27」におけるNiとAlの化学量論比であるxとyの和「x+y」を、4.0以上とする動機付けを見いだせない。
イ したがって、甲1の記載事項を参照しても、甲2発明において、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ また、本件明細書等の、特に、段落【0016】、【0048】~【0064】の記載によれば、上記相違点3に係る発明特定事項を有する本件発明1は、優れた充放電性能、倍率性能、及び動的特性が得られるという効果を奏する。
エ そうすると、上記相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲1の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ そして、本件発明7は、本件発明6を介して、本件発明1を間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
カ したがって、上記ア~オから、本件発明7は、新たな一致点及び相違点の検討を行うまでもなく、甲2発明及び甲1の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
キ 以上から、本件発明7は、甲2に記載された発明、及び甲1の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、この点で、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないものであり、取り消すことはできない。
よって、上記取消理由2-3は、解消した。
2 取消理由に採用しなかった申立理由について
(1)申立理由1-2(本件発明7の新規性)
本件発明7は、本件発明6を介し、本件発明1を間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
そうすると、上記1(2)ウ(ア)より、本件発明7と甲2発明には、上記相違点3が存在するから、本件発明7は、甲2発明であるとはいえない。
よって、上記申立理由1-2は、採用できない。
(2)申立理由2-1(進歩性)
ア 本件発明1の進歩性について
上記1(3)で検討したように、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえず、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 訂正前の請求項2に係る発明について
訂正前の請求項2は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する申立理由は、その対象が存在しない。
ウ 本件発明6~7について
本件発明6~7は、本件発明1を直接もしくは間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
そして、上記アで指摘したとおり、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明6~7は、新たな一致点及び相違点の検討を行うまでもなく、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 以上から、本件発明1、6~7は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないから、この点で、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないものであり、取り消すことはできない。
また、訂正前の請求項2は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する申立理由は、その対象が存在しない。
よって、上記申立理由2-1は、採用できない。
(3)申立理由3(実施可能要件)
ア 本件明細書等には、次の記載がある。
「【0048】〔実施例3〕La:Sm:Mg:Ni:Al=0.54:0.22:0.24:3.80:0.20の配合比率に応じて、純度がいずれも99.99%を超える金属La、Sm、Mg、Ni、およびAlを混合した後、1180℃、7.5×100Pa真空度の条件下で真空誘導溶解を10分間行い、鋳造合金を得た。続きを表示(全15行)【0049】前記鋳造合金を、アニール炉において1020℃で熱処理し、第一昇温段階では室温から6℃/分の昇温速度に応じて600℃まで昇温し、第二昇温段階では600℃から3℃/分の昇温速度で1020℃まで昇温し、18時間保温し、降温段階では1020℃から室温まで降温し、La0.54Sm0.22Mg0.24Ni3.80Al0.20を得る。【0050】前記La0.54Sm0.22Mg0.24Ni3.80Al0.20を機械的に粉砕し、400メッシュでふるいにかけた後、アンダーサイズをXRD試験に供した。2θ=24°~35°の範囲内に現われる最も強いピークの強度と、2θ=38°~45°の範囲内に現われる最も強いピークの強度と、の強度比は0.22である。また、2θ=24°~35°の範囲内に少なくとも3つのピークが現われており、3つのピークの強度はいずれも2θ=38°~45°の範囲内に現われた最も強いピークの強度の22%よりも低かった。XRDスペクトルの特性ピークの2θと強度とを分析することにより、前記合金が、AB4型、A5B19型の超積層相構造を含む多相水素吸蔵合金であることがわかった。【0051】〔実施例4〕La:Sm:Nd:Mg:Ni:Al=0.75:0.20:0.10:0.25:4.0:0.10の配合比率に応じて、純度がいずれも99.99%を超える金属La、Sm、Nd、Mg、Ni、およびAlを混合した後、1200℃、7.5×100Pa真空度の条件下で真空誘導溶解を12分間行い、鋳造合金を得た。【0052】前記鋳造合金を、アニール炉において1040℃で熱処理し、第一昇温段階では室温から5℃/分の速度に応じて600℃まで昇温し、第二昇温段階では600℃から2℃/分の昇温速度で1040℃まで昇温し、20時間保温し、降温段階では1040℃から室温まで降温し、La0.75Sm0.20Nd0.10Mg0.25Ni4.0Al0.10を得た。【0053】前記La0.75Sm0.20Nd0.10Mg0.25Ni4.0Al0.10を機械的に粉砕し、400メッシュでふるいにかけた後、アンダーサイズをXRD試験に供した。2θ=24°~35°の範囲内に現われる最も強いピークの強度と、2θ=38°~45°の範囲内に現われる最も強いピークの強度と、の強度比は0.18である。また、2θ=24°~35°の範囲内に少なくとも3つのピークが現われており、3つのピークの強度はいずれも2θ=38°~45°の範囲内に現われた最も強いピークの強度の18%よりも低かった。XRDスペクトルの特性ピークの2θと強度とを分析することにより、前記合金が、AB4型、A5B19型の超積層相構造を含む多相水素吸蔵合金であることがわかった。」
イ 上記アから、本件明細書等には、本件発明1、3、6~7に係る「水素吸蔵合金」の具体的な製造方法(真空誘導溶解による鋳造合金の製造、及び前記鋳造合金の多段階熱処理)が記載されていると認められる。
ウ ここで、申立人は、異議申立書の30~31頁において、
(ア)化学式「(LaaRb)1-mMgmNixAly」において、aおよびbの上限や、その和が特定されていない場合、希土類元素やMgからなるA元素と、NiやNiからなるB元素の比率は、(x+y)/{(a+b)(1-m)+m}で計算され、
(イ)実施例4及び甲2(要約及び1793頁左欄23行~右欄18行の記載、1795頁の表2)における水素吸蔵合金のA元素に対するB元素の原子比率を、上記(ア)を用いて計算すると、それぞれ、3.15、3.4となり、
(ウ)甲2には、AB3.4程度のものを950℃で12~24時間熱処理することにより、A5B19型やAB5型の相が消滅する旨が記載されているから、甲2の水素吸蔵合金よりB元素の原子比率の少ない化学組成の水素吸蔵合金からAB4型結晶構造を含む水素吸蔵合金が得られるのか不明である、
旨主張している。
エ しかし、申立人は、異議申立書において、甲2の材料及び製造条件の場合に、A5B19型やAB5型の相が消滅したからといって、本件明細書等の場合においても同様の結果が起こること、特に、AB4型結晶構造が消滅すると認めるに足る、理由及び根拠を提示していない。特に、上記ウ(ア)~(イ)で計算される水素吸蔵合金のA元素に対するB元素の原子比率の数値と、A5B19型、AB5型、AB4型のような結晶構造との間に、具体的にどのような相関関係があるのかについて、申立人は何ら説明していない。
オ そのため、上記アのとおり、本件発明に係る「水素吸蔵合金」の具体的な製造方法の記載があるにもかかわらず、本件発明を実施できないとの合理的な疑いが生じるような事情は認められない。
カ 以上から、本件の請求項1、3、6~7に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、この点で、同法第113条第4号に該当しないものであり、取り消すことはできない。
キ また、訂正前の請求項2、4~5は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する申立理由は、その対象が存在しない。
ク よって、上記申立理由3は、採用できない。
(4)申立理由4(サポート要件)
ア 本件発明が解決しようとする課題
(ア)本件明細書等の記載
本件明細書等には、本件発明が解決しようとする課題について、次の記載がある。
a 「【発明が解決しようとする課題】【0005】本発明は、電気化学容量が高く、サイクル寿命が優れている水素吸蔵合金およびその調製方法、ならびに水素吸蔵合金を活性物質として用いた水素吸蔵合金電極およびニッケル水素電池を提供することを目的とする。」
b 「【発明の効果】【0016】本発明は、水素吸蔵合金を提供し、その化学式は(LaaRb)1-mMgmNixMyであり、ここで、Rは、希土類元素、Ca、Ti、Zr、Hf、およびNbの一種または数種であり、Mは、Al、Fe、Co、Mn、Zn、V、Cr、Cu、Mo、およびWの一種または数種であり、a、b、m、x、およびyは、a>0、b≧0、0<m≦0.3、0≦y≦1.6、3.0≦x+y≦4.15、という条件を満たす。前記水素吸蔵合金はCu-Kα線をX線源としてX線回折測定を行った際に、2θ=24°~35°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IA)と、2θ=38°~45°の範囲内に現れる最も強いピークの強度(IB)と、の強度比(IA/IB)は、0.5以下である。本発明の水素吸蔵合金は、放電容量が大きく、また、La、Mg、Ni以外の合金元素を添加することにより、合金の水素吸蔵性能および放出性能が向上し、水素吸蔵合金の動的特性が優れている。実施例の記載によれば、本発明の前記水素吸蔵合金は、充放電容量が大きく、パワー性能が優れている。」
(イ)本件発明が解決しようとする課題
上記(ア)a~bから、本件発明が解決しようとする課題は、放電容量が大きく(電気化学容量が高く)、サイクル寿命が優れた水素吸蔵合金およびその調製方法、ならびに水素吸蔵合金を活性物質として用いた水素吸蔵合金電極およびニッケル水素電池を提供することであると認められる。
イ 本件発明1、3、6~7が、上記ア(イ)の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否か
(ア)本件明細書等の記載
本件明細書等には、上記アの課題を解決することに関し、次の記載がある。
a 「【0048】〔実施例3〕La:Sm:Mg:Ni:Al=0.54:0.22:0.24:3.80:0.20の配合比率に応じて、純度がいずれも99.99%を超える金属La、Sm、Mg、Ni、およびAlを混合した後、1180℃、7.5×100Pa真空度の条件下で真空誘導溶解を10分間行い、鋳造合金を得た。続きを表示(全15行)【0049】前記鋳造合金を、アニール炉において1020℃で熱処理し、第一昇温段階では室温から6℃/分の昇温速度に応じて600℃まで昇温し、第二昇温段階では600℃から3℃/分の昇温速度で1020℃まで昇温し、18時間保温し、降温段階では1020℃から室温まで降温し、La0.54Sm0.22Mg0.24Ni3.80Al0.20を得る。【0050】前記La0.54Sm0.22Mg0.24Ni3.80Al0.20を機械的に粉砕し、400メッシュでふるいにかけた後、アンダーサイズをXRD試験に供した。2θ=24°~35°の範囲内に現われる最も強いピークの強度と、2θ=38°~45°の範囲内に現われる最も強いピークの強度と、の強度比は0.22である。また、2θ=24°~35°の範囲内に少なくとも3つのピークが現われており、3つのピークの強度はいずれも2θ=38°~45°の範囲内に現われた最も強いピークの強度の22%よりも低かった。XRDスペクトルの特性ピークの2θと強度とを分析することにより、前記合金が、AB4型、A5B19型の超積層相構造を含む多相水素吸蔵合金であることがわかった。【0051】〔実施例4〕La:Sm:Nd:Mg:Ni:Al=0.75:0.20:0.10:0.25:4.0:0.10の配合比率に応じて、純度がいずれも99.99%を超える金属La、Sm、Nd、Mg、Ni、およびAlを混合した後、1200℃、7.5×100Pa真空度の条件下で真空誘導溶解を12分間行い、鋳造合金を得た。【0052】前記鋳造合金を、アニール炉において1040℃で熱処理し、第一昇温段階では室温から5℃/分の速度に応じて600℃まで昇温し、第二昇温段階では600℃から2℃/分の昇温速度で1040℃まで昇温し、20時間保温し、降温段階では1040℃から室温まで降温し、La0.75Sm0.20Nd0.10Mg0.25Ni4.0Al0.10を得た。【0053】前記La0.75Sm0.20Nd0.10Mg0.25Ni4.0Al0.10を機械的に粉砕し、400メッシュでふるいにかけた後、アンダーサイズをXRD試験に供した。2θ=24°~35°の範囲内に現われる最も強いピークの強度と、2θ=38°~45°の範囲内に現われる最も強いピークの強度と、の強度比は0.18である。また、2θ=24°~35°の範囲内に少なくとも3つのピークが現われており、3つのピークの強度はいずれも2θ=38°~45°の範囲内に現われた最も強いピークの強度の18%よりも低かった。XRDスペクトルの特性ピークの2θと強度とを分析することにより、前記合金が、AB4型、A5B19型の超積層相構造を含む多相水素吸蔵合金であることがわかった。」
【0054】
〔実施例5〕
実施例1~4で調製して得られた水素吸蔵合金を電極として調製し(水素吸蔵合金の質量含有量は15%)、かつ、それをハーフバッテリーの負極とした。水酸化ニッケルをハーフバッテリーの正極とした。6mol/LのKOH水溶液をハーフバッテリーの電解質として用いた。DC-5バッテリーテスターおよびCHI660A電気化学ワークステーションを使用して、負極の電気化学性能を試験した。」
b 「【0055】(充放電性能試験)充放電条件続きを表示(全24行)充/放電電流: 9mA充電時間: 8.0h放電遮断電圧: 1.0V【0056】実施例1~4に記載の水素吸蔵合金の最大放電容量は、表1に示すとおりである。【0057】表1:実施例1~4の水素吸蔵合金の最大放電容量【表1】[図:0001390572000010.jpg]【0058】(倍率性能試験)水素吸蔵合金電極を活性化した後、300mA・g-1(1C)充電電流密度で1.6時間充電し、10分間静置し、次にそれぞれ60mA・g-1(0.2C)、300mA・g-1(1C)、600mA・g-1(2C)、900mA・g-1(3C)、1200mA・g-1(4C)、および1500mA・g-1(5C)の放電電流密度で1.0V遮断電位まで放電した。異なる放電電流密度下での合金電極の放電容量を記録し、かつ下記の式に応じて、合金電極のHRD値を計算した。HRD=(Cd/Cmax)×100%ここで、Cdは、放電電流がdである時の水素吸蔵合金電極の放電容量であり、Cmaxは、水素吸蔵合金電極の最大放電容量である。【0059】図2は、実施例1~4で調製して得られた水素吸蔵合金の異なる電流密度下での放電倍率性能である。図2から、実施例1~4の水素吸蔵合金について1500mA・g-1の電流密度下での放電容量およびHRD1500値を得ることができ、表2に示すとおりである。【0060】表2:実施例1~4の水素吸蔵合金が1500mA・g-1の電流密度下での放電容量およびHRD1500値【表2】[図:0001390572000011.jpg]」
c 「【図2】[図:0001390572000012.jpg]」
(イ)本件発明1、3、6~7の検討
a 本件明細書等には、上記ア(イ)の課題を解決するためのメカニズム(機序)等の記載はない。
b 一方、上記(ア)a~cにおける実施例3~4の充放電性能試験結果及び倍率性能試験結果から、本件発明1、3、6~7の技術的範囲に含まれる実施例3~4では、上記ア(イ)の課題が解決されている。
c そして、本件明細書等を参照しても、本件発明1、3、6~7に含まれる実施例3~4以外の態様で上記ア(イ)の課題が解決されないとの合理的疑いが生じるような事情が認められない。
d したがって、本件発明は、サポート要件を充足しているといえる。
e ここで、申立人は、異議申立書の31~32頁において、
(a)化学式「(LaaRb)1-mMgmNixAly」において、aおよびbの上限や、その和が特定されていない場合、希土類元素やMgからなるA元素と、NiやNiからなるB元素の比率は、(x+y)/{(a+b)(1-m)+m}で計算されるから、例えば、a+b=4、m=0.3の場合には、A元素に対するB元素の比率は少なくとも5と計算され、AB5が主体の相構造が推定されるし、a+b=3、m=0.3の場合には、A元素に対するB元素の比率は多くても2と計算され、A2B5相が主体と考えられるので、本件発明1、3、6~7には、課題を解決できないものが含まれるし、
(b)また、甲2には、AB3.4程度のものを950℃で12~24時間熱処理することにより、A5B19型やAB5型の相が消滅する旨が記載されているから、甲2の水素吸蔵合金よりB元素の原子比率の少ない化学組成の水素吸蔵合金からAB4型結晶構造を含む水素吸蔵合金が得られるのか不明であるから、本件発明1、3、6~7が課題を解決できるものか不明である、
旨主張している。
f しかし、上記第3の特許請求の範囲の記載からも明らかなように、本件発明1、3、6~7は、上記ア(イ)の課題が解決されている実施例3~4に共通する「少なくともAB4型結晶構造を含む」結晶構造を有している。
g さらに、申立人は、異議申立書において、甲2の材料及び製造条件の場合に、A5B19型やAB4型の相が消滅したからといって、本件明細書等の場合においても同様の結果が起こること、特に、AB4型結晶構造が消滅すると認めるに足る、理由及び根拠を提示していない。特に、上記e(a)で計算される水素吸蔵合金のA元素に対するB元素の原子比率の数値と、A5B19型、AB5型、AB4型のような結晶構造との間に、具体的にどのような相関関係があるのかについて、申立人は何ら説明していない。
h そのため、本件発明1、3、6~7が、上記ア(イ)の課題を解決できないものを含むとの合理的な疑いが生じるような事情は認められない。
(ウ)以上から、本件の請求項1、3、6~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、この点で、同法第113条第4号に該当しないものであり、取り消すことはできない。
(エ)また、訂正前の請求項2、4~5は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する申立理由は、その対象が存在しない。
(オ)よって、上記申立理由4は、採用できない。
(5)申立理由5(明確性)
ア 本件発明1、3、6~7の「a、b、m、x、およびyは、a>0、b>0、a>b、0<m≦0.3、0≦y≦0.20、かつ4.0≦x+y≦4.15、という条件」との発明特定事項には、その意味が一義的に定まらなかったり、発明の外縁が不明となるようなものではなく、発明は明確に把握できるといえる。
イ ここで、申立人は、異議申立書の33頁において、a及びbの上限並びにa+bを特定していないから、A元素とB元素の比率が不定となるから、本件発明1、3、6~7は不明確である旨主張している。
ウ しかし、A元素とB元素の比率が不定であっても、本件発明1、3、6~7は明確に把握できるといえる。
エ したがって、本件の請求項1、3、6~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、この点で、同法第113条第4号に該当しないものであり、取り消すことはできない。
オ また、訂正前の請求項2、4~5は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する申立理由は、その対象が存在しない。
カ よって、上記申立理由5は、採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件特許の請求項1、3、6~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、3、6~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項2、4~5は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2021-701101