2021-701079
インプリント用モールド
- 審判番号
- 2021-701079
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-155251外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6875082
- 請求日
- 2021年11月16日
- 審決日
- 2022年03月03日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1651.121-Y (B29C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 10項目
第1 手続の経緯
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特許第6876082号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成28年 8月 8日を出願日とする出願であって、令和 3年 4月26日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年 5月19日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月16日に特許異議申立人 小林 宏子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし11)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という場合がある。)は、それぞれ、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】主面のうち少なくとも一面に微細凹凸構造を有する基材と、前記基材の前記微細凹凸構造を有する面に設けられた離型層と、を具備し、前記離型層の相対吸着量(DR)が、0.2以上0.95未満であり、続きを表示(全27行)前記離型層の線熱膨張係数(LER)と前記基材の線熱膨張係数(LEM)の差(LER-LEM)が0℃から200℃において、10-6/℃を超え、1.5×10-3/℃以下であり、前記離型層を、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)で測定した分子量(M)が、1000を超え、10000以下であり、前記相対吸着量(DR)と、前記分子量(M)との積(DR×M)が、1000を超え、50000以下であることを特徴とするインプリント用モールド。【請求項2】前記離型層が、30℃以下にガラス転移点(Tg)を有することを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。【請求項3】前記離型層が、フルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインプリント用モールド。【請求項4】少なくとも前記離型層が、前記微細凹凸構造を有する面側にP-O結合を介して吸着していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のインプリント用モールド。【請求項5】前記基材が、ガラス材料を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のインプリント用モールド。【請求項6】前記基材と前記離型層の間に、無機層が介在することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のインプリント用モールド。【請求項7】前記無機層が、W、V、Cr、Al、Co、Mo、Ge、Ir、Ni、Os、Ti、Fe、Nb、Hf、Mn及びTa、並びにこれらの金属のうち少なくとも一種を主成分とする合金から選択された少なくとも一種を主成分とすることを特徴とする請求項6に記載のインプリント用モールド。【請求項8】前記無機層と前記離型層の間に、金属酸化物層が介在することを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のインプリント用モールド。【請求項9】前記金属酸化物層が、W、V、Cr、Al、Co、Mo、Ge、Ir、Ni、Os、Ti、Fe、Nb、Hf、Mn及びTaのいずれかの金属の酸化物から選択された金属酸化物を少なくとも一種含むことを特徴とする請求項8に記載のインプリント用モールド。【請求項10】前記無機層の主成分の金属元素と前記金属酸化物層の主成分の金属元素が、同じであることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のインプリント用モールド。【請求項11】前記基材が円筒状であり、円筒状基材の外周の主面上に前記微細凹凸構造が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載のインプリント用モールド。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
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令和 3年11月16日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 証拠方法
特許異議申立人は、証拠方法として書証を申出、以下の文書を提出する。
なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1の記載事項等
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ア 甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付した。)
「[0002] 微細構造のパターンを得るための技術としてナノインプリント技術が知られている。ナノインプリント技術とは、凹凸の微細パターン表面を有するモールド(型)を、基板上の硬化性樹脂層に押しつけて微細構造を転写し、UV光を照射する等して硬化性樹脂層を硬化することによって、転写された微細構造を固定化する技術である。[0003] このようなナノインプリント技術において用いられるモールドは、硬化性樹脂から離型する時に、転写された微細構造を確実に維持するために、離型性が高いことが求められる。[0004] 一方で、ナノインプリント技術に用いられるモールドとしては、一般的に、石英製モールドを用いることができるが、これは非常に高価である。従って、このような石英製モールドを原版(「マスターモールド」または「マザーモールド」ともいう)として用いて、樹脂製のレプリカモールドを作製し、このレプリカモールドをナノインプリント技術に用いる技術が知られている。[0005] しかしながら、このような樹脂製のレプリカモールドは、離型性が低く、離型の際に転写された微細構造が欠落しやすいという問題がある。このような問題を解決するために、特許文献1には、表面にシリコーン系離型剤またはフッ素系カップリング剤等が塗布されたモールドが提案されている。また、特許文献2には、特定のマクロモノマーを用いることにより、モールドの表面付近に離型性能を有する部位を偏在させたモールドが提案されている。さらに、特許文献3には、樹脂モールドの表面上に、離型剤を含有し、樹脂モールドの表面と結合した層を形成したモールドが提案されている。」
「[0007] しかしながら、インプリントの分野では、離型耐久性、即ち、離型性を長く維持する能力への要求が日々高まっており、特許文献1~3に記載のモールドでは、この要求を満たすには、十分であるとは言えない。[0008] 従って、本発明は、離型耐久性が高いインプリント用モールドを提供することを目的とする。また、本発明は、かかるインプリント用モールドに加工することが可能な成形体、およびその製造方法を提供することを目的とする。」
「[0166] 実施例1アクリル酸と、パーフルオロポリエーテル基含有アルコール(F(CF2CF2CF2O)n-CF2CF2CH2-OH:平均分子量約2300)とを硫酸触媒で反応させた反応生成物(残留アクリル酸3.1%)を10%水酸化ナトリウム水溶液でpH11に中和し水層を分離し酸成分を除去して、アクリル酸ナトリウムを2000mg/l含有する、パーフルオロポリエーテル基およびアクリロイル基を含む化合物を得た。次いで、得られた化合物に対して10重量%の水をスタティックミキサーで混合後、20分間静置分離した。分離後、水分含有量が1.6%、アクリル酸ナトリウム含有量が80mg/lである、高純度に精製された上記化合物を得た。なお、未反応のF(CF2CF2CF2O)n-CF2CF2CH2-OHや副生成物を除去する精製工程で問題は生じなかった。[0167] 次に、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体製のフィルム(商品名:ネオフロンETFE、ダイキン工業株式会社製、膜厚50μm)の一方の表面に、超低エネルギー電子線を用いて、窒素雰囲気下で電子線を160kGy照射した(照射条件:加速電圧60kV)。次いで、フィルムを、大気中に5分間取り出し、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体の表面に生成したラジカルを過酸化ラジカルに転換した。転換後、窒素混入下にて、上記で得られた化合物溶液中の溶存酸素を除去した後に、当該溶液中に40℃で、2時間浸漬した。浸漬後、ハイドロフルオロエーテルHFE7200(3M社製)で洗浄し、乾燥して、パーフルオロポリエーテル基を含むグラフト鎖を有するフィルムを得た。」
「[0180] 比較例3電子線未照射の市販のエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体製のフィルム(膜厚50μm)を、離型改質剤(F(CF2CF2CF2O)n-CF2CF2CH2-Si(OCH3)3:平均分子量約2300)に1分間浸積した後、引き上げて、80℃にて1時間加熱処理した。その後、実施例1と同様に洗浄、乾燥して、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体製のフィルムを得た。しかし、フィルム表面は反応基がないため離型改質剤で改質されることはなかった。」
「[0184] 実施例3:インプリント用モールドの連続製造図3に示すように、実施例1で得られたETFEフィルム130をフィルムロール131から連続して押し出し、ニッケル金属からなるマスターモールド132(直径230nm、ピッチ460nm、深さ200nm)を有するインプリント装置133を用いて、フィルム130に、パターンを転写した。その後、複数のロール134によって、冷却等の加工を行い、切断機135を用いて所望の大きさに切断し、連続的にインプリント用モールドを形成した。尚、ニッケル金属からなるマザーロール鋳型への離型剤処理として、商品名オプツールHD-2100Z (ダイキン工業株式会社製)に1分間浸積した後、引き上げ80℃環境下にて1時間加熱処理以外は、比較例3と同様の処理を行った。」
イ 甲1発明
アの記載事項、特に実施例3についてまとめると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「インプリント用モールドの形成に用いられるマザーロール鋳型であって、ニッケル金属からなるマザーロール鋳型に、商品名オプツールHD-2100Z(ダイキン工業株式会社製)からなる離型剤処理層を設けてなる、マザーロール鋳型。」
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「マザーロール鋳型」は、適用対象(インプリント用モールド)にインプリントを施すものであるから、本件特許発明1の「インプリント用モールド」に相当するものであり、当然、「主面のうち少なくとも一面に微細凹凸構造」を有している。
甲1発明の「商品名オプツールHD-2100Z(ダイキン工業株式会社製)からなる離型剤処理層」は、ニッケル金属からなるマザーロール鋳型に設けられるものであるから、本件特許発明1の「前記基材の前記微細凹凸構造を有する面に設けられた離型層」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「主面のうち少なくとも一面に微細凹凸構造を有する基材と、前記基材の前記微細凹凸構造を有する面に設けられた離型層と、を具備してなるインプリント用モールド。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
離型層について、本件特許発明1は「相対吸着量(DR)が、0.2以上0.95未満」であることを特定するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1は「離型層の線熱膨張係数(LER)と前記基材の線熱膨張係数(LEM)の差(LER-LEM)が0℃から200℃において、10-6/℃を超え、1.5×10-3/℃以下」であることを特定するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点1-3>
離型層について、本件特許発明1は「飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)で測定した分子量(M)が、1000を超え、10000以下」であることを特定するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点1-4>
本件特許発明1は「相対吸着量(DR)と、分子量(M)との積(DR×M)が、1000を超え、50000以下であること」であることを特定するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点1-4について検討する。
甲1には、「相対吸着量(DR)と、分子量(M)との積(DR×M)」に着目しこれを調整するという技術的思想は開示されておらず、甲1発明のマザーロール鋳型において、その比率を「1000を超え、50000以下」とする動機付けがそもそもみあたらない。
そして、本件特許発明1は、上記比率を「1000を超え、50000以下」とすることで、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0063】及び【0137】に記載されているように、離型層による被覆を保ち、インプリント用モールドの形状を忠実に形状転写でき、さらにパターン欠けとパターン欠損の数を少なくできるという、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、甲1発明のマザーロール鋳型において、相違点1-4に係る事項を想到することは、当業者が容易になし得たものではない。
特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲1発明は、離型剤として「商品名オプツールHD-2100Z(ダイキン工業株式会社製)」を使用し、基材を上記離型剤に1分間浸漬しているから、甲1発明は、本件参照例1と実質的に同一である旨主張している。
しかし、甲1発明のマザーロール鋳型はニッケル金属からなり、一方、本件参照例1はロール状の石英ガラスに微細凹凸構造を形成し、これに10nmのCr膜を形成したものであって、基材が異なるから、甲1発明と本件参照例1は実質的に同一であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。
よって、本件特許発明1は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2ないし11について
本件特許発明2ないし11は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1によっては、本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2発明
甲2の【0074】ないし【0080】、【0093】、【0094】の記載を整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「円筒状石英ガラスの凹凸構造に対して、オプツールHD-2100THを塗布、乾燥、固定化、洗浄して離型層を設けてなる円筒状マスターモールド。」
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明を対比すると、両者は次の点で一致、次の点で相違する。
<一致点>
「主面のうち少なくとも一面に微細凹凸構造を有する基材と、前記基材の前記微細凹凸構造を有する面に設けられた離型層と、を具備してなるインプリント用モールド。」
そして、両者は次の点で相違する
<相違点2-1>
離型層について、本件特許発明1は「相対吸着量(DR)が、0.2以上0.95未満」であることを特定するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点2-2>
本件特許発明1は「離型層の線熱膨張係数(LER)と前記基材の線熱膨張係数(LEM)の差(LER-LEM)が0℃から200℃において、10-6/℃を超え、1.5×10-3/℃以下」であることを特定するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点2-3>
離型層について、本件特許発明1は「飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)で測定した分子量(M)が、1000を超え、10000以下」であることを特定するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点2-4>
本件特許発明1は「相対吸着量(DR)と、分子量(M)との積(DR×M)が、1000を超え、50000以下であること」であることを特定するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点2-4について検討するに、相違点2-4は相違点1-4と同観点であり、甲2発明においても、上記1(2)アでの検討と同様に判断される。
よって、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2ないし11について
本件特許発明2ないし11は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由2によっては、本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701079