審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2021-701011

全固体二次電池、全固体二次電池用外装材及び全固体二次電池の製造方法

審判番号
2021-701011
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-541982外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6860681
請求日
2021年10月20日
審決日
2022年05月12日
公報発行日
2022年08月26日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.537-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6860681号発明「全固体二次電池、全固体二次電池用外装材及び全固体二次電池の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6860681号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5、7〕、〔6〕について訂正することを認める。
特許第6860681号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 14項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

特許第6860681号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、2018年8月29日(優先権主張2017年9月13日)を国際出願日とする出願であって、令和3年3月30日にその特許権が設定登録され、令和3年4月21日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 3年10月20日 :特許異議申立人松山徳子により請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 3年12月17日付け:取消理由通知
令和 4年 2月18日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 4年 3月31日 :特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否

1 訂正の内容

令和4年2月18日付けの訂正請求の趣旨は、特許第6860681号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1

請求項1に「前記外装材層の少なくとも一部が、ガス透過係数40cc・20μm/m2・24h・atm未満のゴム被覆層であり、」と記載されているのを、「前記外装材層の少なくとも一部が、ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下のゴム被覆層であり、」に訂正する。(請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項2-5及び7も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2

請求項2に「前記外装材層の厚さが1~100,000μmである、」と記載されているのを、「前記外装材層の厚さが10~100,000μmである、」と訂正する。(請求項2の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項3-5及び7も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3

請求項6に、「ガス透過係数40cc・20μm/m2・24h・atm未満のゴム被覆層を有し、」と記載されているのを、「ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下のゴム被覆層を有し、」に訂正する。

(4)一群の請求項

上記訂正事項1及び2に係る本件訂正前の請求項1ないし5及び7について、請求項2ないし5及び7は請求項1を引用しているものであるから、本件訂正前の請求項1ないし5及び7に対応する本件訂正の請求項1ないし5及び7は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

ア 訂正の目的

訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「ガス透過係数40cc・20μm/m2・24h・atm未満のゴム被覆層」について、「ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下のゴム被覆層」と限定するものである。

したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否

明細書の段落【0100】の【表5】には試験No.116の「外装材層」の「ガス透過率(cc・20μm/m2・24h・atm)」が35であることが記載されている。

よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項1ないし7について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項2について

ア 訂正の目的

訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載されていた「外装材層の厚さが1~100,000μm」について、「外装材層の厚さが10~100,000μm」と限定するものである。

したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否

明細書の段落【0017】には「また、外装材層7の厚さは特に制限されないが、下限は、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましく、50μm以上が特に好ましい。」と記載されている。

よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

なお、訂正前の請求項1ないし7について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項2に係る訂正事項2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項3について

ア 訂正の目的

訂正事項3は、訂正前の請求項6に記載されていた「ガス透過係数40cc・20μm/m2・24h・atm未満のゴム被覆層」について、「ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下のゴム被覆層」と限定するものである。

したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否

明細書の段落【0100】の【表5】には試験No.116の「外装材層」の「ガス透過率(cc・20μm/m2・24h・atm)」が35であることが記載されている。

よって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項1ないし7について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項6に係る訂正事項3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 小括

以上とおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5、7〕、〔6〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
正極活物質層と負極活物質層と固体電解質層とを具備し、外装材層で被覆された全固体二次電池であって、前記外装材層の少なくとも一部が、ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下のゴム被覆層であり、前記ゴム被覆層を構成するゴムの25℃における弾性率が、0.01~100MPaである、全固体二次電池。
【請求項2】
前記外装材層の厚さが10~100,000μmである、請求項1に記載の全固体二次電池。
続きを表示(全14行)
【請求項3】
側面の少なくとも一部が、前記ゴム被覆層により被覆された、請求項1又は2に記載の全固体二次電池。
【請求項4】
前記ゴム被覆層を構成するゴムの25℃における引張強さが0.1~100MPaである、請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体二次電池。
【請求項5】
前記正極活物質層、前記固体電解質層及び前記負極活物質層の少なくとも1層に含まれる無機固体電解質が、硫化物系無機固体電解質である、請求項1~4のいずれか1項に記載の全固体二次電池。
【請求項6】
ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下のゴム被覆層を有し、前記ゴム被覆層を構成するゴムの25℃における弾性率が、0.01~100MPaである、全固体二次電池用外装材。
【請求項7】
全固体二次電池の製造方法であって、正極活物質層と負極活物質層と固体電解質層とを有する積層体と該積層体の周囲に配置された外装材層との空間を減圧することにより、前記外装材層と前記積層体とを密着させた状態において、前記外装材層端部を接着させ、全固体二次電池全体を封止する工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の全固体二次電池の製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由の概要

当審が令和3年12月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

記

(1)請求項1および6には、「ガス透過係数40cc・20μm/m2・24h・atm未満のゴム被覆層」と記載されている。

発明の詳細な説明の段落【0100】の【表5】には、「試験No.109」として種類ブチルゴムシート、厚み(μm)20、ガス透過率(cc・20μm/m2・24h・atm)2.2の全固体二次電池と「試験No.c03」として種類SBRシート、厚み(μm)1,000、ガス透過率(cc・20μm/m2・24h・atm)41.5の全固体二次電池が記載されている。また、段落【0105】には放電容量密度5Wh/kg以上が本試験の合格レベルである旨、段落【0110】の【表6】には「試験No.109」は放電容量密度(Wh/kg)101.2、「試験No.c03」は放電容量密度(Wh/kg)3.2と、段落【0111】には「なお、試験No.c03は、ガス透過係数が高く、電池の外部環境の水蒸気を含む気体が電池内部に侵入したことにより、電池材料が劣化したため、放電容量密度が不合格であったと考えられる」と記載されている。

ここで、電池の外部環境の水蒸気を含む気体の電池内部への侵入について検討すると、所定気圧所定時間当たりの電池内部への気体の侵入量が電池の特性に影響を与えること、及び、当該気体の侵入量が被覆層の厚みに反比例することは明らかであるので、上記各全固体二次電池の電池内部への前記気体の侵入量(ガス透過度)を比較するために、各全固体二次電池のガス透過率(ガス透過係数)及びシートの厚みに基づいてガス透過度を以下にそれぞれ計算する。

試験No.109:(2.2cc・20μm/m2・24h・atm)/(20μm)=2.2cc/m2・24h・atm
試験No.c03:(41.5cc・20μm/m2・24h・atm)/(1000μm)=0.83cc/m2・24h・atm

上記計算結果及び上記段落【0105】、【0110】、【0111】の記載によれば、ガス透過度0.83cc/m2・24h・atmの試験No.c03の全固体二次電池の放電容量密度は不合格であるにもかかわらず、ガス透過度2.2cc/m2・24h・atmの試験No.109の全固体二次電池の放電容量密度は合格となっている。

してみると、「ガス透過係数及びシート厚み」により決まる「ガス透過度」を一定値未満とするのみで放電容量密度を高くすることができるとはいえないのであるから、ゴム被覆層を形成する材料自体の性質に過ぎない「ガス透過係数」を一定値未満と特定するのみで放電容量密度を高くすることができると、出願時の技術常識に照らしても当業者が認識することができるものとは認められない。

したがって、本件の請求項1および6に係る発明は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えたものであるから、本件請求項1および6に係る発明、請求項1を引用する請求項2ないし5および7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(2)請求項2には、「前記外装材層の厚さが1~100,000μmである」と記載されている。

しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0098】ないし【0111】の全固体二次電池の実施例には、外装材層の厚みを20μm以上としたものしか記載されておらず、1μmの外装材層で被覆された全固体二次電池が放電容量密度を高くすることができると、当業者が認識することができるものとは認められない。

また、外装材層の厚みが請求項2に記載された下限値の1μmである場合、ガス透過度は800cc/m2・24h・atmとなる。このような大きなガス透過度となる範囲を請求項2に係る発明は包含するが、出願時の技術常識に照らしても、当該範囲のガス透過度の外装材で被覆された全固体二次電池が放電容量密度を高くすることができると、当業者が認識することができるものとは認められない。

したがって、本件の請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えたものであるから、本件請求項2に係る発明、請求項2を引用する請求項3ないし5および7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

2 当審の判断

(1)取消理由の(1)について

本件訂正により本件の請求項1および6に係る発明は、本件明細書に試験No.116の実施例として記載のある、ガス透過係数が35cc・20μm/m2・24h・atmを上限とする「ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下のゴム被覆層」を有するものとなった。

また、令和3年12月17日付け取消理由通知では、「ガス透過係数及びシート厚み」により決まる「ガス透過度」を一定値未満とするのみで放電容量密度を高くすることができるとはいえないのであるから、ゴム被覆層を形成する材料自体の性質に過ぎない「ガス透過係数」を一定値未満と特定するのみで放電容量密度を高くすることができると、出願時の技術常識に照らしても当業者が認識することができるものとは認められないとした。

しかしながら、本件明細書の段落【0105】に「この放電容量を、外装材層を含む電池の質量で割った値を放電容量密度とした」と記載されるように、「放電容量密度」は外装材層の厚みの増加に従って減少する値である。

そして、ガス透過度はガス透過係数の減少又は外装材層の厚みの増加に従って減少する値である。

してみると、ガス透過係数を減少させ電池内部への気体の浸入を抑えるために外装材層の厚みを増加させた場合は放電容量密度が減少する一方、ガス透過係数を減少させた場合は放電容量密度を減少させずにガス透過度を減少し得るものであるから、「ガス透過係数」を一定値未満と特定することにより放電容量密度を高くし得ると当業者には理解できる。

以上のことより、本件の請求項1および6に係る発明は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えたものとはいえず、本件請求項1及び6に係る発明、請求項1を引用する請求項2ないし5および7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(2)取消理由の(2)について

令和3年12月17日付け取消理由通知では、実施例には、外装材層の厚みを20μm以上としたものしか記載されておらず、1μmの外装材層で被覆された全固体二次電池が放電容量密度を高くすることができると、当業者が認識することができるものとは認められず、また、外装材層の厚みが1μmである場合、ガス透過度は800cc/m2・24h・atmとなり、このような大きなガス透過度となる範囲を請求項2に係る発明は包含するが、出願時の技術常識に照らしても、当該範囲のガス透過度の外装材で被覆された全固体二次電池が放電容量密度を高くすることができると、当業者が認識することができるものとは認められないとした。

本件の請求項2に係る発明の「外装材層」の構成を検討すると、請求項2は請求項1を引用したものであるから、「外装材層の少なくとも一部が、ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下のゴム被覆層」であり「外装材層の厚さが10~100,000μm」である。

本件の請求項2に係る発明の上記構成は、ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atmのゴム被覆層を有する外装材層の厚さが10μmであることを規定するものではなく、ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下のゴム被覆層のガス透過係数の値に応じて外装材層の厚さを10~100,000μmの範囲で選択することを規定するに過ぎない。

そして、本件明細書の段落【0017】には「また、外装材層7の厚さは特に制限はされないが、下限は、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましく、・・・外装材層7又はゴム被覆層の厚さが上記範囲内にあることにより、振動を受け続けても、電池への衝撃を効果的に抑えることができ、電池としての放電容量密度をより高く保つことができる」と、外装材層の下限を10μm以上とすることにより電池への衝撃を抑え放電容量密度を高く保つことが記載されている。

してみると、外装材層の一部であるゴム被覆層のガス透過係数の大きさに応じて外装材層の厚さを10~100,000μmの範囲内で選択することにより電池への衝撃を抑え放電容量密度を高く保つことが可能であると、当業者は認識し得る。

したがって、本件の請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えたものとはいえず、本件請求項2に係る発明、請求項2を引用する請求項3ないし5および7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

3 特許異議申立人の主張について

(1)特許異議申立人松山徳子(以下、「特許異議申立人」という。)は、令和4年3月31日の意見書において、概略、次のように主張している。

ア 試験No.c03のガス透過度は「0.83cc/m2・24h・atmで」ありこのようなガス透過度で侵入したガスが電池材料の劣化を引き起こしたのであるが、資料No.109ではガス透過度が「2.2cc/m2・24h・atm」と試験No.c03より多くのガスが透過したにもかかわらず電池材料の劣化が生じていない理由が不明である。(第3頁第26行ないし第4頁第2行)

試験No.109は電池材料の劣化が生じているが、ゴム被覆層の厚みが薄いため放電容量密度が大きくなったのであるとしても、試験No.109の振動試験後の電圧評価や振動試験後のサイクル特性が試験No.c03よりも良好な結果になっており、試験No.c03よりも電池材料の劣化が生じていないこととなりその理由が不明である。(第4頁第3ないし9行)

イ 外装材層(ゴム被覆層)の厚みや放電容量密度の計算式の分母である電池の質量が放電容量密度に影響するということであるが、本件発明1では外装材層(ゴム被覆層)の厚みや電池及び該電池を構成する外装材層(ゴム被覆層)の質量などは何ら規定しておらず、本件発明1に基づかない主張である。(第4頁第13ないし18行)

ウ 固体電解質層や正極シート又は負極シートといった電池のその他の構成の質量によっては電池の質量が大きく異なることは明らかであり、「ガス透過係数」を一定値未満と特定するのみで放電容量密度を高くすることができるとは考えられない。(第4頁第24ないし28行)

エ 本件明細書の段落[0098]ないし[0111]の全固体二次電池の実施例には、外装材層の厚みを20μm以上としたものしか記載されておらず、10μmの外装材層で被覆された全固体二次電池が放電容量密度を高くすることができると、当業者が認識することができるものとは認められない。(第6頁第9ないし12行)

オ 外装材層の厚みが10μmである場合、ガス透過度は80cc/m2・24h・atmとなり、このような大きなガス透過度となる範囲を請求項2に係る発明は包含するが、出願時の技術常識に照らしても、当該範囲のガス透過度の外装材で被覆された全固体二次電池が放電容量密度を高くすることができると、当業者が認識することができるものとは認められない。(第6頁第13ないし19行)

(2)上記主張について検討する。

ア 「(1)アの主張」について

本件明細書の段落【0100】の【表5】に記載されるように試験No.109は積層体の種類がL-2、試験No.c03は積層体の種類がL-1と、試験No.109と試験No.c03では積層体の種類が異なること、放電容量密度は放電容量を外装材層を含む電池の質量で割った値であることを考慮すれば、試験No,109の放電容量密度が試験No.c03の放電容量密度より大きいことが試験No.109で電池材料の劣化が生じていないことを示すものではない。

また、試験No.109と試験No.c03では積層体の種類が異なるのであるから、試験No.109の振動試験後の電圧評価や振動試験後のサイクル特性が試験No.c03よりも良好な結果になっているとしても、そのことが試験No.109が試験No.c03よりも電池素材の劣化が生じていないことを示すものではない。

そして、外装材層のガス透過度は外装材層のガス透過係数と外装材層の厚みとに依存する値であるから、放電容量密度が合格レベルに達しない試験No.c03より大きいガス透過度の試験No.109の放電容量密度が合格レベルであるとしても、そのことにより、ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下のゴム被覆層を用いることにより放電容量密度を高くする効果がないとはいえない。

イ 「(1)イの主張」について

放電容量密度は放電容量を外装材層(ゴム被覆層)を含む電池の質量で割った値であるから、外装材層(ゴム被覆層)の質量(外装材層(ゴム被覆層)の厚み)の増加・減少に対して減少・増加の傾向を示す値である。

また、外装材層(ゴム被覆層)のガス透過係数は所定の外装材層の厚み当たりの値であるから、外装材層(ゴム被覆層)の厚みの増加・減少に対して減少・増加する値である。

以上のように放電容量密度と外装材層(ゴム被覆層)のガス透過係数とは外装材層(ゴム被覆層)の厚み(外装材層(ゴム被覆層)の質量)に対して同じ増加・減少の傾向を示す値であるから、放電容量密度が外装材層(ゴム被覆層)の質量を含む電池の質量の影響を受ける値であるとしても、所望の放電容量密度を得るための外装材層(ゴム被覆層)の特性をガス透過係数で規定するにあたり、必ずしも、外装材層(ゴム被覆層)の厚み(外装材層(ゴム被覆層)の質量)や電池の質量を規定する必要は認められない。

ウ 「(1)ウの主張」について

本件明細書の試験No.101と試験No.c03の結果より、外装材層(ゴム被覆層)のガス透過係数を一定値以下とすることにより放電容量密度を高くし得ることは明らかである。

また、電池材料の劣化を考慮すれば、一定値未満のガス透過係数の外装材層(ゴム被覆層)で覆うことにより、同じ質量(同じ厚み)で一定値以上のガス透過係数の外装材層(ゴム被覆層)で覆う場合より放電容量密度が高くなることは明らかである。

そして、固体電解質層や正極シート又は負極シートの質量といった電池のその他の構成の質量によって電池の質量が大きく異なるとしても、上記(7)で検討したように放電容量密度と外装材層(ゴム被覆層)のガス透過係数とは外装材層(ゴム被覆層)の厚み(外装材層(ゴム被覆層)の質量)に対して同じ増加・減少の傾向を示す値であるから、外装材層(ゴム被覆層)のガス透過係数を減少させることにより放電容量密度を増加させ得る場合があると当業者は理解できる。

以上のことより、外装材層(ゴム被覆層)のガス透過係数を一定値未満と特定するのみで放電容量密度を高くすることができないとまではいえない。

エ 「(1)エ及びオの主張」について

上記「2 当審の判断」の「(2)取消理由の(2)について」で検討したように、本件の請求項2に係る発明は、ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atmのゴム被覆層を有する外装材層の厚さが10μmであること(すなわち、ガス透過度80cc/m2・24h・atmの外装材層であること)を規定するものではなく、ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下のゴム被覆層のガス透過係数の値に応じて外装材層の厚さを10~100,000μmの範囲で選択することを規定するに過ぎない。

そして本件明細書には、外装材層の下限を10μm以上とすることにより電池への衝撃を抑え放電容量密度を高く保つことが記載されている。

してみると、外装材層の一部であるゴム被覆層のガス透過係数の大きさに応じて外装材層の厚さを10~100,000μmの範囲内で選択することにより電池への衝撃を抑え放電容量密度を高く保つこと可能であると、当業者は認識し得る。

(3)まとめ

以上のことより、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について

1 特許異議申立人の主張

特許異議申立人は特許異議申立書において、証拠方法として下記甲第1ないし6号証を提示して、以下の理由により請求項1ないし7に係る本件特許を取り消すべきである旨主張している。

請求項1ないし7に係る発明は甲第1ないし4号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(理由B)。

また、請求項1ないし7に係る発明は甲第5号証、甲第1ないし4号証、甲第6号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(理由C)。

証拠方法

甲第1号証:特開平6-267515号公報
甲第2号証:前田守一、「ゴム技術者のための入門講座 配合設計(1) 原料ゴムの種類と性質」、日本ゴム協会誌、第51巻第8号(1978)、p.632(60)~640(68)
甲第3号証:特開2010-125068号公報
甲第4号証:国際公開第2012/114497号
甲第5号証:特開2015-220106号公報
甲第6号証:理科年表 平成23年、丸善株式会社、平成22年11月30日発行、p.物29(385)

2 当審の判断

(1)甲号証の記載事項、甲号証に記載された発明など

折りたたみ中(クリックで表示)

ア 甲第1号証

甲第1号証には、次の事項が記載されている。

「【請求項1】 外装材として、ゴム弾性を有するシートを使用することを特徴とするシート状二次電池。
【請求項2】 ゴム弾性を有するシートが、防ガス性および/または導電性を有するものである請求項1記載のシート状二次電池。
【請求項3】 炭素質よりなる負極、高分子固体電解質および導電性高分子と無機活物質の複合体よりなる正極を有する請求項1または2記載のシート状二次電池。」
「【0004】
【構成】本発明は、ゴム弾性を有するシートを外装材とする二次電池および、該電池と電子部品要素、例えばフレキシブルな回路を有するシート状電子素子に関する。本発明に使用されるゴム弾性を有するシート状外装材とは天然ゴム、合成ゴムどちらも使用可能である。好適には、広い温度範囲でゴム弾性を失わず電気化学的に安定であると共に、有機溶媒に対して溶解しないものが好ましい。具体的には、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリクロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム、シリコンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム等が使用できる。シート状外装材の厚みとしては、ゴムの弾性力によるが、ゴムシートがコシを持たない程度の厚みが好ましい。これは電池とした場合に自由な形状に変形できるためである。具体的な厚みとしては2mm以下、より好ましくは1mm以下である。2mm以上であるとシート自体がコシをもつようになり、変形させづらくなるとともに、電池の体積エネルギー密度を下げることになるので好ましくない。一般にゴム材料は金属に比較して、ガス透過性が大きいため、ゴムシートに防ガス層をもうけることが好ましい。防ガス層としては、例えば金属の薄膜層が用いられる。金属として、Al等の軽く安価で延展性を有する材料を使用することが好ましい。該材料の層は、蒸着、スパッタ等の手法でゴムシート上に形成することができる。この場合、好ましくは発電要素側に近い面に防ガス層を設けることが好ましい。これは電池が変形された時、より内部に近い側の方が変形に対するストレス(伸びちぢみ)を受けにくいためである。また防ガス性をシート状外装材に付与することは、防ガス性の高い材料例えば金属、結晶性カーボン、高分子等の粉末をゴム材料に混合し、シート状に加工することによっても行うことができる。これはガス成分のシート中での透過距離を長くすることによるものである。混合する粉体としては軽いものが好ましく、具体的にはAl、グラファイトを用いることができる。また、粒径としては少さいほど好ましく、一般に10μm以下のものを使用することが好ましい。また、ゴム材料への混合量は多ければ多い程好ましいが、シートに加工した時にゴムシートしての性状を失なわないことが必要とされる。本発明のゴム弾性を有するシートは導電性であることが好ましい。これは電池内部に存在する電極材料から何らかの形で電極端子を外部に導びく必要があるためで、外装材が絶縁体である場合には、例えば図3の如く外部電極端子を導いてくることが必要となる。これに対して外装材であるゴム弾性を有するシートが導電性であれば図2の外装材を直接電極端子として使用できる。また、ゴム弾性を有するシートへの導電性の付与は、必ずしもシート全体に付与する必要はなく、必要とされる個所のみであってもよい。導電性を有するゴム弾性シートとしては、ゴム弾性を有する材料に導電性粉体を混合して慣用の方法でシート状に加工することにより作製する。導電性粉体としては、導電性が0℃で10-3Ω・cm以下のものを使用することが好ましい。10-3Ω・cm以上であると電池の内部インピーダンスが上がることになるので好ましくない。このような条件を満たす材料としては金属材料としてはAl(2.5×10-5Ω・cm)、Au(2.05×10-5Ω・cm)、Ag(1.47×10-5Ω・cm)、Cu(1.55×10-5Ω・cm)、Ni(6.2×10-5Ω・cm)、Pt(9.81×10-5Ω・cm)等が使用できる。有機材料としては、結晶性カーボン(グラファイト10-3~-4Ω・cm)を使用できる。ゴム弾性シートとしての電気伝導度は、10-2Ω・cm以下とすることが好ましい。したがって前記導電性粉末は、ゴム弾性シートとしての電気伝導度が10-2Ω・cm以下になるような量をゴム材料に混合してシート状に加工することが好ましい。10-2Ω・cm以上であると電気のインピーダンスが上がり電流特性を悪化させることになる。導電性粉体としては、カーボン、金属あるいはポリマー等の粉末が使用できる。特に、防ガス性と導電性を兼ね備えた粉体を使用すると、防ガス性と導電性を同時に付与することができ、好ましい。本発明のゴム弾性を有するシート状外装体は図2の外装の両方に用いることもできるし、片側だけに用い他方を他の材質とすることも可能である。」
「【0009】
【実施例】
実施例1
負極:メゾフェーズピッチを2500℃で還元雰囲気下焼成した炭素繊維をLiBF4を溶解したポリフッ化ビニリデンのN-メチルピロリドン溶液に分散スラリー状とし、粗面化した銅シートに塗布乾燥した。プレス加圧をさらに加え、120μmの塗膜とした(75×40×0.12mm)。これをブチルゴムを主成分とするゴムに導電剤としてグラファイトを加え電導度10-2Ω・cmとしたシート(90×55×1mm)の中心部にNi系導電性接着剤を用いて固定した。これに86.9%3MLiBF4、PC/DME(7/3)、12.8%エトキシジエチレングリコールアクリレート、0.2%トリメチロールプロパントリアクリレート、0.1のベンゾインイソプロプルエーテルの組成の電解液を減圧下充分しみこませ、高圧水銀灯の光を照射し、電解液を固体化した。
正極:ポリアニリン/五酸化バナジウム複合正極は0.5モルアニリン、5.5規定テトラフルオロホウ酸よりなる溶液中に平均粒子径5μmの五酸化バナジウム粉末を加え低温で約6時間撹拌しポリアニリン/五酸化バナジウム複合体を作製した。得られた複合体粉末を洗浄後乾燥し、LiBF4とともにNメチルピロリドンに溶解分散後、粗面化したニッケルシートに塗布し120μmの塗膜とした。負極の場合と同様に導電性ゴムシートに固定し、セパレータを積層したのち固体電解質調製液を含浸光照射により、固体化した。
正、負極をはり合わせ、周辺をブチルゴム系接着剤で封止してシート状電池を作製した。本電池は2.0~3.7Vで30mAhの容量を有するとともに、フレキシブルで100回の90°折り曲げに対しても容量がさがることはなかった。」

上記摘記事項の記載より、甲第1号証には次の技術的事項が記載されているといえる。

・請求項1ないし3の記載によれば、甲第1号証は「炭素質よりなる負極、高分子固体電解質および導電性高分子と無機活物質の複合体よりなる正極を有する」、「外装材として」「防ガス性および/または導電性を有する」「ゴム弾性を有するシートを使用する」「シート状二次電池」に関するものである。

・段落【0009】の記載によれば、「負極」は「メゾフェーズピッチを2500℃で還元雰囲気下焼成した炭素繊維をLiBF4を溶解したポリフッ化ビニリデンのN-メチルピロリドン溶液に分散スラリー状とし、粗面化した銅シートに塗布乾燥し」「120μmの塗膜とし」、「これをブチルゴムを主成分とするゴムに導電剤としてグラファイトを加え」「たシート(90×55×1mm)の中心部にNi系導電性接着剤を用いて固定」したものである。

・段落【0009】の記載によれば、「正極」は「ポリアニリン/五酸化バナジウム複合体」「粉末を洗浄後乾燥し、LiBF4とともにNメチルピロリドンに溶解分散後、粗面化したニッケルシートに塗布し120μmの塗膜とし」、「負極の場合と同様に導電性ゴムシートに固定」したものである。

・段落【0009】の記載によれば、シート状電池は「正、負極をはり合わせ、周辺をブチルゴム系接着剤で封止」して作製される。

上記技術的事項より、甲第1号証には、「シート状二次電池」として以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「炭素質よりなる負極、高分子固体電解質および導電性高分子と無機活物質の複合体よりなる正極を有する、外装材として防ガス性および/または導電性を有するゴム弾性を有するシートを使用するシート状二次電池であって、
負極はメゾフェーズピッチを2500℃で還元雰囲気下焼成した炭素繊維をLiBF4を溶解したポリフッ化ビニリデンのN-メチルピロリドン溶液に分散スラリー状とし、粗面化した銅シートに塗布乾燥し120μmの塗膜とし、これをブチルゴムを主成分とするゴムに導電剤としてグラファイトを加えたシート(90×55×1mm)の中心部にNi系導電性接着剤を用いて固定したものであり、
正極はポリアニリン/五酸化バナジウム複合体粉末を洗浄後乾燥し、LiBF4とともにNメチルピロリドンに溶解分散後、粗面化したニッケルシートに塗布し120μmの塗膜とし、負極の場合と同様に導電性ゴムシートに固定したものであり、
正、負極をはり合わせ、周辺をブチルゴム系接着剤で封止した
シート状二次電池。」

イ 甲第2号証

甲第2号証には、次の事項が記載されている。

「2.2.7 ブチルゴム(IIR) IIRはイソブチレンと少量のイソブレンを,-100℃位の超低温で共重合させた,極めて不飽和度の低いゴムである.最大の特徴はガス透過性の小さいことで,NRの1/7~1/8位で,タイヤのインナーチューブ,インナーライナーに最も多く使用される理由である.第2の特徴は電気的性質,特に電気絶縁性,耐コロナ性,耐トラッキング性の優れていることである.また非ジエン系ゴム(飽和ゴム)共通の特徴として,耐候性,耐オゾン性,耐酸化性,そして更に耐熱性,耐化学薬品性にも優れているので,工業用品,引布にどの用途にも向いている.IIRの他の特徴として特筆すべき性質に,低反発弾性がある.ゴム弾性体としては全く不利な性質であるが,逆用することによって,衝撃吸収材や防音材として有用であろう.」(第636(64)頁左欄下から6行目ないし同頁右欄第8行)

「
[図:0001387508000001.jpg]
」(第638(66)頁)

第638(66)頁の表3からは、ブチルゴム(IIR)の引張強さ(kgf/cm2)が50~200、ガス透過性(cc・cm/cm2・sec・atm)が0.9~1.0であることが見てとれる。

上記摘記事項に記載より、甲第2号証には次の技術的事項が記載されているといえる。

「ブチルゴム(IIR)のガス透過性は小さく天然ゴムNRの1/7~1/8位の0.9~1.0cc・cm/cm2・sec・atm、引張強さは50~200kgf/cm2」であること。

ウ 甲第3号証

甲第3号証には、次の事項が記載されている。

「【0022】
第2整合層である複合整合層16について説明すると、複合整合層16は、複数の整合素子17と素子間に設けられた複数の分離材18とで構成される。各整合素子17は本実施形態においてソリッド材料(固体材料)により構成され、換言すれば、硬いエポキシ樹脂等のソリッド性材料である非ゴム系高分子材料により構成されている。一方、各分離材18は、各溝内に充填された材料であって、本実施形態においてはゴム系材料によって構成されている。そのゴム系材料としては、ゴム系の素材を基材として金属化合物の粉体を混入することにより製造された材料をあげることができる。その場合、基材としては、シリコーン、ポリウレタン等をあげることができ、金属化合物としては、桂化タングステン、炭化タングステン、アルミナ等をあげることができる。基材に対する添加剤すなわち粉体の量を調整することにより、所望の音響インピーダンスを実現することができる。添加剤としては比較的比重の大きい材料を用いるのが望ましく、その添加量を調整することにより上記のように所望の音響インピーダンスを実現できる。なお、ゴム系材料(弾性ゴム)は、一般に、ヤング率(1.5~5.0)×106(E/Pa)、ずれ弾性率3.03×1010(G/Pa)、ポアソン比0.46~0.49、といったパラメータで特定されることが知られている。分離材18において用いるゴム系材料として、上記パラメータの範囲又は近傍の数値の材料を用いるのが望ましい。」

上記摘記事項の記載より、甲第3号証には次の技術的事項が記載されているといえる。

「ゴム系材料(弾性ゴム)のヤング率は(1.5~5.0)×106(E/Pa)」であること。

エ 甲第4号証

甲第4号証には、次の事項が記載されている。

「[0022] 図1に示すように、固体電池10は、正極集電体1と、該正極集電体1の表面に形成された正極層3と、該正極層3の外周に配設された第1絶縁層2と、固体電解質層4と、該固体電解質層4を中央にして正極層3の反対側に配置された負極層5と、該負極層5の外周に配設された第2絶縁層6と、負極層5及び第2絶縁層6と接触している負極集電体7と、これらを包む第1ラミネートフィルム8及び第2ラミネートフィルム9と、を有している。固体電池10において、正極層3、固体電解質層4、及び、負極層5等の積層方向を法線方向とする、正極集電体1及び負極集電体7の積層面は、大きさ及び形状が略同一である。」

「[0025] こうして負極層5及び第2絶縁層6を形成したら、例えば、第2絶縁層6の表面にマスキング材を配置したまま、少なくとも固体電解質を溶媒に分散して作製した電解質スラリーを、負極層5の表面へドクターブレード法等の公知の方法で塗布し、溶媒を揮発させる過程を経ることにより、積層面の大きさ及び形状が負極層5と同一である固体電解質層4を形成することができる。そして、マスキング材を除去した後、第1絶縁層2によって囲まれた正極集電体1の表面に形成した正極層3を、固体電解質層4の表面へと配置して、固体電解質層4が正極層3及び負極層5によって挟まれた積層体を作製し、この積層体の積層方向へ所定の圧縮力を付与して押圧する。その後、押圧された積層体を第1ラミネートフィルム8及び第2ラミネートフィルム9で包む。次いで、第1ラミネートフィルム8及び第2ラミネートフィルム9によって包まれた空間を減圧(真空ラミネート)し、第1ラミネートフィルム8の外縁8aと第2ラミネートフィルム9の外縁9aとを例えば熱溶着する過程を経て、固体電池10を製造することができる。」

「[0031] また、正極層3に含有させる正極活物質としては、リチウムイオン二次電池の正極層に含有させることが可能な公知の活物質を適宜用いることができる。そのような正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)等を例示することができる。また、正極層3に含有させる電解質としては、電池の正極層に含有させることが可能な公知の電解質を適宜用いることができる。そのような電解質としては、Li3PO4等の酸化物系固体電解質、Li3PS4や、Li2S:P2S5=50:50~100:0となるようにLi2S及びP2S5を混合して作製した硫化物系固体電解質(例えば、質量比で、Li2S:P2S5=75:25となるようにLi2S及びP2S5を混合して作製した硫化物固体電解質)等の無機固体電解質のほか、ポリエチレンオキサイド等の有機固体電解質を例示することができる。このほか、正極層3には、正極活物質や電解質を結着させるバインダーや導電性を向上させる導電材が含有されていてもよい。正極層3に含有させることが可能なバインダーとしては、ブチレンゴム等を例示することができ、正極層3に含有させることが可能な導電材としては、カーボンブラック等を例示することができる。また、正極層3を作製する際に用いる溶媒としては、リチウムイオン二次電池の正極層作製時に用いるスラリーを調整する際に使用可能な公知の溶媒を適宜用いることができる。そのような溶媒としては、ヘプタン等を例示することができる。
[0032] また、固体電解質層4に含有させる電解質としては、正極層3に含有させることが可能な上記無機固体電解質や有機固体電解質等を例示することができる。また、固体電解質層4を作製する際に用いる溶媒としては、正極層3を作製する際に使用可能な上記溶媒等を例示することができる。」

上記摘記事項の記載より、甲第4号証には次の2つの技術的事項が記載されているといえる。

「第1ラミネートフィルム及び第2ラミネートフィルムによって包まれた空間を減圧し、第1ラミネートフィルムの外縁と第2ラミネートフィルムの外縁とを熱溶着する過程を経て、固体電池を製造する」技術。

「固体電解質層に含有させる電解質をLi2S及びP2S5を混合して作製した硫化物系固体電解質とする」技術。

オ 甲第5号証

甲第5号証には、次の事項が記載されている。

「【請求項1】
正極層及び負極層の間に電解質層を有する電池素体と、電池素体の端部に電極とを有する全固体リチウムイオン二次電池であって、
前記全固体リチウムイオン二次電池は、前記電池素体は水の接触角が60°以上の防水層で被覆され、
さらに前記防水層は1×10-4Pa以上9×10-4Pa以下の弾性率を有する弾性層で被覆され、
前記電極は防水層と弾性層の端面を覆うように形成されていることを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池。」
「【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機電解液を用いたリチウムイオン二次電池の信頼性が問題視されている。この問題に対して、電解質をセラミックスから構成する全固体型リチウムイオン二次電池の研究が盛んに行われている。全固体リチウム二次電池は、正極、負極、および電解質よりなる電池構成群が全て堅い固体であるため、有機電解液を用いたリチウム二次電池と比較して、電気化学抵抗が大きくなり、出力電流が小さなものとなる傾向にある。
全固体リチウム二次電池の出力電流を大きなものとするために、電解質としてはイオン伝導性の高いものが望ましくケイリン酸リチウムや硫化物系の固体電解質が用いられている。
【0003】
しかしながら、上記のケイリン酸リチウムや硫化物系を主体とする固体電解質材料を用いた電池では、大気に含まれる水分の影響を受け易く、水素が発生するなどして劣化しやすい。このような水分との反応による固体電解質材料の劣化を抑制する方法として、例えば、特許文献1では、脱水および/または脱酸素した再生アルゴンガス雰囲気下で、固体電池を組み立てる製造方法を開示している。しかしながら、このような方法で得られた系固体電池であっても、大気中等の水分の存在する環境下で使用した場合、固体電解質材料と大気中等の外気中の水分との反応を抑制することができないという問題があった。
【0004】
さらにこのような全固体リチウム二次電池は、焼結したセラミックであり、衝撃を受けると破壊し易いという問題がある。上述した課題を解決するために、特許文献2では、正極、固体電解質、および負極を順次積層して設けた電池要素を集電体上に複数配設した全固体二次電池を複数個に切断し衝撃等の影響を分散しているが、完全に衝撃を抑制できないという問題があった。」
「【0006】
衝撃に強く耐水性が向上した信頼性の高い、表面実装可能な全固体電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、正極層及び負極層の間に電解質層を有する電池素体と、電池素体の端部に電極とを有する全固体リチウムイオン二次電池であって、全固体リチウムイオン二次電池は、電池素体は水の接触角が60°以上の防水層で被覆され、さらに防水層は1×10-4Pa以上9×10-4Pa以下の弾性率を有する弾性層で被覆され、電極は防水層と弾性層の端面を覆うように形成されていることを特徴とする。これにより衝撃に強く電池素体と端部の耐水性が向上した信頼性の高い、表面実装可能な全固体電池を提供できる。」
「【0014】
(リチウムイオン二次電池の構造)
図1は、本実施形態の一例に係るリチウムイオン二次電池10の概念的構造を示す断面図である。図1に示すリチウムイオン二次電池11は、正極層1と負極層2が固体電解質層3を介して積層されており、正極層1は正極活物質4と集電体層5を有し及、また負極層2は負極活物質6と集電体層5を有し、固体電解質層3を有す。さらに正極層、負極層と接続する電極7、防水層9、弾性層10から構成される。」
「【0023】
(防水層の作製)
本発明に係る防水層9は水の接触角が60°以上である。水の接触角が60°以上だと電解質と水との反応を抑制することができる。水の接触角が60°以上の無機材料としては、例えばシリコン、ハフニウム、アルミニウム、タンタル、ストロンチウム、チタン、ジルコニウムまたはバリウムの酸化膜あるいは窒化膜が好ましく用いられ、必要に応じてこれらの無機材料を2種以上併用して用いてもよい。防水層9の作成方法は、例えばCVD法、塗布法、スパッタリング法、あるいは各種印刷法等を用いて電池素体のみに成膜する。
【0024】
(弾性層の作製)
本発明に係る弾性層10は1×10-4Pa以上9×10-4Pa以下の弾性率である。弾性率が上記の範囲内であると外部からの衝撃を抑制することができる。上記の弾性率である樹脂材料は、例えば、熱可塑性エラトマーやゴム系樹脂を含むことにより、弾性層がゴム弾性を備えることが可能となる。ゴム系樹脂としては、ブチルゴム樹脂、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリスルフィドゴム、ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、エピクロロヒドリンゴム等を用いることができる。なお、ゴム弾性を示す樹脂成分の弾性率は、一般に1×10-4Pa以上9×10-4Pa以下である。上記弾性層10は、例えば、以下のようにして作製することができる。
弾性層の構成成分である上記のような樹脂を含む分散液を、電極面を除いた面の全固体リチウムイオン電池上に滴下し、例えばスピンコーターを用いて、所定の厚さになるようにし、それを乾燥する。このようにして、防水層12で被覆された全固体リチウムイオン電池上に、弾性層10を形成することができる。」
「
[図:0001387508000002.jpg]
」

上記摘記事項の記載より、甲第5号証には次の技術的事項が記載されているといえる。

・段落【0001】の記載によれば、甲第5号証は「全固体リチウムイオン二次電池」に関するものである。

・【請求項1】の記載によれば、「正極層及び負極層の間に電解質層を有する電池素体と、電池素体の端部に電極とを有する全固体リチウムイオン二次電池であって、前記全固体リチウムイオン二次電池は、前記電池素体は水の接触角が60°以上の防水層で被覆され、さらに前記防水層は1×10-4Pa以上9×10-4Pa以下の弾性率を有する弾性層で被覆され、前記電極は防水層と弾性層の端面を覆うように形成」されている。

・段落【0014】の記載によれば、「正極層1は正極活物質4と集電体層5を有し」「また負極層2は負極活物質6と集電体層5を有」する。

・【請求項1】、段落【0014】の記載によれば、電解質層は「固体電解質層3」である。

・段落【0024】の記載によれば、「弾性層10は」「ゴム系樹脂」を含む。

上記技術的事項より、甲第5号証には、「全固体リチウムイオン二次電池」として以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。

「正極層及び負極層の間に電解質層を有する電池素体と、電池素体の端部に電極とを有する全固体リチウムイオン二次電池であって、
前記全固体リチウムイオン二次電池は、前記電池素体は水の接触角が60°以上の防水層で被覆され、
さらに前記防水層は1×10-4Pa以上9×10-4Pa以下の弾性率を有する弾性層で被覆され、
前記電極は防水層と弾性層の端面を覆うように形成され、
正極層は正極活物質と集電体層を有し、また負極層は負極活物質と集電体層を有し、電解質層は固体電解質層であり、
弾性層はゴム系樹脂を含む
全固体リチウムイオン二次電池。」

カ 甲第6号証

甲第6号証には、次の事項が記載されている。

「
[図:0001387508000003.jpg]
」(物29(385)頁)

物29(385)頁の「弾性に関する定数」に「E:ヤング率」とし、「ゴム(弾性ゴム)」の「E/Pa」が「×1010」で「(1.5-5.0)」×10-4」であることが見てとれる。

上記摘記事項の記載より、甲第6号証には次の技術的事項が記載されているといえる。

「ゴム(弾性ゴム)のヤング率は、(1.5-5.0)×10-4×1010E/Pa」であること。

(2)甲第1号証を主引例とした進歩性について(理由B)

ア 請求項1について

(ア)対比

本件発明1と甲1発明を対比すると、次のことがいえる。

a 甲1発明の「ポリアニリン/五酸化バナジウム複合体粉末を洗浄後乾燥し、LiBF4とともにNメチルピロリドンに溶解分散後」「塗布し」た「塗膜」は正極を構成するものであるから、本件発明1の「正極活物質層」に相当する。

b 甲1発明の「メゾフェーズピッチを2500℃で還元雰囲気下焼成した炭素繊維をLiBF4を溶解したポリフッ化ビニリデンのN-メチルピロリドン溶液に分散スラリー状とし」「塗布乾燥し」た「塗膜」は負極を構成するものであるから、本件発明1の「負極活物質層」に相当する。

c 甲1発明の「高分子固体電解質」、「外装材」はそれぞれ、本件発明1の「固体電解質層」、「外装材層」に相当する。

d 上記aないしcによれば、甲1発明の「シート状二次電池」は、本件発明1の「正極活物質層と負極活物質層と固体電解質層とを具備し、外装材層で被覆された全固体二次電池」に相当する。

e 甲1発明は「外装材として防ガス性および/または導電性を有するゴム弾性を有するシートを使用」し「ブチルゴムを主成分とするゴムに導電剤としてグラファイトを加えたシート」であることは、本件発明1の「前記外装材層の少なくとも一部が、」「ゴム被覆層」であることに相当する。

ただし、ゴム被覆層が、本件発明1は「ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

f 本件発明1は「ゴム被覆層を構成するゴムの25℃における弾性率が、0.01~100MPa」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

g したがって、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉

「正極活物質層と負極活物質層と固体電解質層とを具備し、外装材層で被覆された全固体二次電池であって、前記外装材層の少なくとも一部が、ゴム被覆層である、全固体二次電池。」

〈相違点1〉

ゴム被覆層が、本件発明1は「ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点

〈相違点2〉

本件発明1は「ゴム被覆層を構成するゴムの25℃における弾性率が、0.01~100MPa」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点

(イ)判断

相違点1について検討する。

甲第2号証には「ブチルゴム(IIR)のガス透過性は小さく天然ゴムNRの1/7~1/8位の0.9~1.0cc・cm/cm2・sec・atm」(換算すると3.89×1011~4.32×1011cc・20μm/m2・24h・atm)であることが記載されている。

しかしながら、甲1発明の「外装材」は「防ガス性および/または導電性を有するゴム弾性を有するシート」として「ブチルゴムを主成分とするゴムに導電剤としてグラファイトを加えたシート」を使用したものであるから、甲1発明の「外装材」のガス透過係数は、ブチルゴムのみのシートを使用した外装材とは異なる値であると認められる。

そして、甲第1号証の段落【0004】の「また防ガス性をシート状外装材に付与することは、防ガス性の高い材料例えば金属、結晶性カーボン、高分子等の粉末をゴム材料に混合し、シート状に加工することによっても行うことができる。・・・粉体としては軽いものが好ましく、具体的にはAl、グラファイトを用いることができる。・・・本発明のゴム弾性を有するシートは導電性であることが好ましい。・・・導電性を有するゴム弾性シートとしては、ゴム弾性を有する材料に導電性粉体を混合して慣用の方法でシート状に加工することにより作製する。導電性粉体としては、・・・結晶性カーボン(グラファイト10-3~-4Ω・cm)を使用できる。・・・特に、防ガス性と導電性を兼ね備えた粉体を使用すると、防ガス性と導電性を同時に付与することができ、好ましい。」との記載を考慮すれば、甲1発明における外装材には、防ガス性及び導電性のためにグラファイトが混合されている。

ここで、甲1発明における外装材の防ガス性(ガス透過係数)は、導電性も考慮して混合されるグラファイトの量により変化するものと認められるから、その防ガス性(ガス透過係数)の値は、甲第2号証に記載された値と異なるものである。

よって、甲第2号証をみても、甲1発明において、外装材のガス透過係数を高い放電容量密度が得られる範囲の構成とすることは、当業者であっても容易に想到し得ることではない。

また、甲第3ないし4号証にも、電池のゴム被覆層をガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下とすることは、記載も示唆もされていない。

したがって、本件発明1の上記相違点1に係る構成は、甲1発明及び甲第2ないし4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2ないし4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。

この点について、特許異議申立人は特許異議申立書において、甲1発明ではゴム弾性を有するシートとしてブチルゴムを用いることが開示されているから、ブチルゴムのガス透過係数及び弾性率を本件発明1の範囲とすることは当業者の通常の創作能力の発揮であり、仮にそうでないとしても、ブチルゴムのガス透過率が小さくその範囲が0.9~1.0(cc・cm/cm2・sec・atm)であることが甲第2号証に、ブチルゴムのヤング率が(1.5~5.0)×106(E/Pa)であることが甲第3号証に記載されており、甲第2号証に記載の構成及び甲第3号証に記載の構成を甲第1号証に適用することは当業者であれば容易である旨主張している(第17頁第26行ないし第18頁第16行)。

しかしながら、上述したように甲1発明の「外装材」は「ブチルゴムを主成分とするゴムに導電剤としてグラファイトを加えたシート」を使用したものであるから、甲1発明の「外装材」のガス透過係数は、ブチルゴムのみのシートを使用した外装材とは異なる値であると認められ、また、甲1発明における外装材の防ガス性(ガス透過係数)は、導電性も考慮して混合されるグラファイトの量により変化するものと認められるから、その防ガス性(ガス透過係数)の値は、甲第2号証に記載された値と異なるものであり、甲第2号証をみても、甲1発明において、外装材のガス透過係数を高い放電容量密度が得られる範囲の構成とすることは、当業者であっても容易に想到し得ることではない。

また、甲第3ないし4号証にも、電池のゴム被覆層をガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下とすることは、記載も示唆もされていない。

したがって、本件発明1の上記相違点1に係る構成は、甲1発明及び甲第2ないし4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではなく、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

(ウ)まとめ

したがって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

イ 請求項2ないし5及び7について

本件発明2ないし5及び7は、請求項1を引用しているから、本件発明1の発明特定事項を備えるものである。

よって、本件発明2ないし5及び7は、上記「ア(イ)」で述べたのと同じ理由により、甲1発明及び甲第2ないし4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。

したがって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

ウ 請求項6について

本件発明6は、本件発明1の外装材層に係る構成を全固体二次電池用外装材の発明としたものであり、本件発明6と甲1発明とは、本件発明1の相違点1と同一の相違点を有するものである。

よって、本件発明6は、上記「ア(イ)」で述べたのと同じ理由により、甲1発明及び甲第2ないし4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。

したがって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

(3)甲第5号証を主引例とした進歩性について(理由C)

ア 請求項1について

(ア)対比

本件発明1と甲5発明を対比すると、次のことがいえる。

a 甲5発明の「正極層は正極活物質と集電体層を有」するから、本件発明1の「正極活物質層」に相当する。

b 甲5発明の「負極層は負極活物質と集電体層を有」するから、本件発明1の「負極活物質層」に相当する。

c 甲5発明の「固体電解質層」は、本件発明1の「固体電解質層」に相当する。また、甲5発明は「電池素体」が「防水層で被覆され、さらに前記防水層は」「弾性層で被覆され、」「弾性層はゴム系樹脂を含む」から、甲5発明の「防水層」と「弾性層」は本件発明1の「外装材層」に相当する。

d 上記aないしcによれば、甲5発明の「全固体リチウムイオン二次電池」は、本件発明1の「正極活物質層と負極活物質層と固体電解質層とを具備し、外装材層で被覆された全固体二次電池」に相当する。

e 甲5発明の「弾性層はゴム系樹脂を含む」ことは、本件発明1の「前記外装材層の少なくとも一部が、」「ゴム被覆層」であることに相当する。

ただし、ゴム被覆層が、本件発明1は「ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下」であるのに対して、甲5発明はその旨特定されていない点で相違する。

f 本件発明1は「ゴム被覆層を構成するゴムの25℃における弾性率が、0.01~100MPa」であるのに対して、甲5発明は「1×10-4Pa以上9×10-4Pa以下の弾性率を有する弾性層」である点で相違する。

g したがって、本件発明1と甲5発明とは、次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉

「正極活物質層と負極活物質層と固体電解質層とを具備し、外装材層で被覆された全固体二次電池であって、前記外装材層の少なくとも一部が、ゴム被覆層である、全固体二次電池。」

〈相違点3〉

ゴム被覆層が、本件発明1は「ガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下」であるのに対して、甲5発明はその旨特定されていない点

〈相違点4〉

本件発明1は「ゴム被覆層を構成するゴムの25℃における弾性率が、0.01~100MPa」であるのに対して、甲5発明は「1×10-4Pa以上9×10-4Pa以下の弾性率を有する弾性層」である点

(イ)判断

相違点3について検討する。

甲5発明は電池素体が防水層で被覆され、さらに前記防水層は弾性層で被覆されたものであるから、防水層より外側に配置される弾性層は水(水分)の侵入を防止できない層と認められる。そして、水(水分)の侵入を防止できない弾性層は、ガスの侵入を防止することが想定された層ではない。

してみると、甲5発明において弾性層のガス透過度を、ガスの侵入を防止して高い放電容量密度が得られる範囲とする動機は認められず、甲第2号証には「ブチルゴム(IIR)のガス透過性は小さく天然ゴムNRの1/7~1/8位の0.9~1.0cc・cm/cm2・sec・atm」(換算すると3.89×1011~4.32×1011cc・20μm/m2・24h・atm)であることが記載され、甲第5号証の段落【0024】に弾性層に含まれるゴム系樹脂としてブチルゴム樹脂等が例示されているとしても、甲5発明の弾性層(ゴム被覆層)をガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下とすることが当業者が容易になし得たとはいえない。

また、甲第1号証、甲第3ないし4号証、甲第6号証にも、電池のゴム被覆層をガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下とすることは、記載も示唆もされていない。

したがって、本件発明1の上記相違点3に係る構成は、甲5発明及び甲第1号証、甲第2ないし4号証、甲第6号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明及び甲第1号証、甲第2ないし4号証、甲第6号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。

この点について、特許異議申立人は特許異議申立書において、甲5発明では弾性層としてブチルゴム樹脂を用いることが開示されているから、ブチルゴム樹脂のガス透過係数を本件発明1の範囲とすることは当業者の通常の創作能力の発揮であり、仮にそうでないとしても、ブチルゴムのガス透過率が小さくその範囲が0.9~1.0(cc・cm/cm2・sec・atm)であることが甲第2号証に記載されており、甲第2号証に記載の構成を甲第5号証に適用することは当業者であれば容易である旨主張している(第21頁第12ないし27行)。

しかしながら、上述したように甲5発明の弾性層は、ガスの侵入を防止することが想定された層ではなく、甲5発明において弾性層のガス透過度を、ガスの侵入を防止して高い放電容量密度が得られる範囲とする動機は認められない。

よって、甲第2号証には「ブチルゴム(IIR)のガス透過性は小さく天然ゴムNRの1/7~1/8位の0.9~1.0cc・cm/cm2・sec・atm」(換算すると3.89×1011~4.32×1011cc・20μm/m2・24h・atm)であることが記載され、甲第5号証の段落【0024】に弾性層に含まれるゴム系樹脂としてブチルゴム樹脂等が例示されているとしても、甲5発明の弾性層(ゴム被覆層)をガス透過係数35cc・20μm/m2・24h・atm以下とすることが当業者が容易になし得たとはいえず、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

(ウ)まとめ

したがって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

なお、仮に、甲第5号証の段落【0024】の「弾性層10は1×10-4Pa以上9×10-4Pa以下の弾性率である」なる記載が、特許異議申立人の主張するとおり、「弾性層10は1×106Pa以上9×106Pa以下の弾性率である」との誤記であり、上記相違点4は相違でないとしても、上記検討したように本件発明1の相違点3に係る構成は、甲5発明及び甲第1号証、甲第2ないし4号証、甲第6号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではないから、特許異議申立人の主張は、採用することができない。。

イ 請求項2ないし5及び7について

本件発明2ないし5及び7は、請求項1を引用しているから、本件発明1の発明特定事項を備えるものである。

よって、本件発明2ないし5及び7は、上記「ア(イ)」で述べたのと同じ理由により、甲5発明及び甲第1号証、甲第2ないし4号証、甲第6号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。

したがって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

ウ 請求項6について

本件発明6は、本件発明1の外装材層に係る構成を全固体二次電池用外装材の発明としたものであり、本件発明6と甲5発明とは、本件発明1の相違点3と同一の相違点を有するものである。

よって、本件発明6は、上記「ア(イ)」で述べたのと同じ理由により、甲5発明及び甲第1号証、甲第2ないし4号証、甲第6号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。

したがって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

第6 むすび

以上のとおり、請求項1ないし7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論とのとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2021-701011

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決417件(富士フイルム株式会社、松山 徳子)
  • 2026-700397異議申立 / 2026-07-16 / 維持非水電解質電池用リード線、絶縁膜及び非水電解質電池
    同じ当事者: 松山 徳子
  • 2026-700436異議申立 / 2026-07-08 / 維持ラミネート型電池、電池モジュール、およびラミネート型電池の製造方法
    同じ当事者: 松山 徳子
  • 2026-700412異議申立 / 2026-06-29 / 維持非水電解質電池用リード線、絶縁膜及び非水電解質電池
    同じ当事者: 松山 徳子
  • 2026-900041異議申立 / 2026-06-09 / 維持チェキロク、チェキ、ロク
    同じ当事者: 富士フイルム株式会社
  • 2026-700004異議申立 / 2026-06-08 / 維持二次電池パウチケースの製造方法、二次電池パウチフィルム及び二次電池パウチケース
    同じ当事者: 松山 徳子
同じ論点・分野の審決(審決分類)1,873件(121・H01M、537・H01M)
  • 2026-700447異議申立 / 2026-08-26 / 維持窒素含有多孔質炭素及びその製造方法、並びに燃料電池用電極触媒
    共通の審決分類: 121・H01M、537・H01M
  • 2025-701066異議申立 / 2026-07-16 / 維持二次電池バインダー、スラリー、電極、二次電池の製造方法、及び二次電池
    共通の審決分類: 121・H01M、537・H01M
  • 2026-700397異議申立 / 2026-07-16 / 維持非水電解質電池用リード線、絶縁膜及び非水電解質電池
    共通の審決分類: 121・H01M、537・H01M
  • 2026-700195異議申立 / 2026-06-29 / 維持電気化学セル、電気化学セル装置、モジュールおよびモジュール収容装置
    共通の審決分類: 121・H01M、537・H01M
  • 2026-700412異議申立 / 2026-06-29 / 維持非水電解質電池用リード線、絶縁膜及び非水電解質電池
    共通の審決分類: 121・H01M、537・H01M

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存