特許異議申立
2021-701009
放射冷却装置および放射冷却方法
- 審判番号
- 2021-701009
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-218235
- 登録番号
- 6861614
- 請求日
- 2021年10月21日
- 審決日
- 2022年01月17日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】大阪瓦斯株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人R&C
- 【異議申立人】平山 一幸
- 審判長/審判官
- 審判長 山崎 勝司
- 審判官 槙原 進
- 審判官 河内 誠
- 分類
- P1651.121-Y (F28F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6861614号発明「放射冷却装置および放射冷却方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6861614号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6861614号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、平成29年11月13日(優先権主張平成29年3月28日)に出願され、令和3年4月1日にその特許権の設定登録がされ、令和3年4月21日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年10月21日に特許異議申立人平山 一幸(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~10の特許に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
紫外光を反射する紫外反射層と、可視光及び赤外光を反射する光反射層と、赤外光を放射する赤外放射層とを備え、放射面から赤外光を放射する放射冷却装置において、
前記放射面の側から見て、前記紫外反射層、前記赤外放射層、および前記光反射層の順に積層して成り、
前記紫外反射層が、大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い放射冷却装置。
【請求項2】
前記紫外反射層は、二種以上の誘電体を積層して成り、
前記誘電体は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ハフニウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、五酸化ニオブのいずれかから選択される請求項1に記載の放射冷却装置。
【請求項3】
前記誘電体の層厚が、200nm未満である請求項2に記載の放射冷却装置。
【請求項4】
前記放射面となる前記紫外反射層の前記誘電体は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、五酸化ニオブのいずれかから選択される請求項2または3に記載の放射冷却装置。
【請求項5】
前記赤外放射層は、二酸化ケイ素で成る請求項1から4の何れか一項に記載の放射冷却装置。
【請求項6】
前記赤外放射層の厚みが1μmを超える厚みである請求項5に記載の放射冷却装置。
【請求項7】
前記光反射層が、銀またはアルミニウムで成る請求項1から6の何れか一項に記載の放射冷却装置。
【請求項8】
前記光反射層の厚みが80nmを超える厚みである請求項7に記載の放射冷却装置。
【請求項9】
紫外光を反射し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い紫外反射層と、可視光及び赤外光を反射する光反射層と、赤外光を放射する赤外放射層とを、前記紫外反射層、前記赤外放射層、および前記光反射層の順に積層して成る放射冷却装置を用いて、赤外光を前記紫外反射層の前記赤外放射層と接する面とは反対側の放射面から放射する放射冷却方法。
【請求項10】
前記放射面を空に向け、当該空に向けた放射面から放射する請求項9に記載の放射冷却方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として以下の主たる証拠である甲第1号証及び従たる証拠である甲第2号証~甲第5号証(これらを以下「甲1」~「甲5」ともいう。)を提出し、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概略、本件特許の請求項1~10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1~10に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
<証拠方法>
甲第1号証:特開昭63-6504号公報
甲第2号証:中国特許出願公開第105348892号明細書
甲第3号証:米国特許出願公開第2015/0338175号明細書
甲第4号証:神森 大彦,山口 直治,佐藤 公隆,「金属酸化物の赤外吸収スペクトル」,分析化学,1967年16巻10号,pp.1050-1055
甲第5号証:神森 大彦,佐藤 公隆,黒沢 文夫,「金属炭化物,窒化物および硫化物の赤外吸収スペクトル」,分析化学,1968年17巻10号,pp.1270-1273
第4 甲1~甲5の記載等
1 甲1について
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある(なお、「・・・」は記載の省略を示す。以下同様。)。
(a-1) 「〔産業上の利用分野〕
本発明は熱制御性能に優れた熱制御フィルムに関し、さらに詳しくは人工衛星用として耐宇宙環境性に優れた熱制御フィルムに関するものである。
〔従来技術〕
人工衛星において衛星内部の機器を正常に動作させるためには衛星内部温度を機器の動作温度範囲内に維持することが必要である。このためには熱入力となる太陽光エネルギーの吸収を低く抑えしかも衛星内部で発生する熱を宇宙空間に放射する必要がある。これらの機能を有するものとして熱制御素子が用いられている。
・・・
一方上記の欠点を改良したものとして アメリカン インスティトゥート オブ エアロノーティックス アンド アストロノーティックス(・・・)第20回熱物理報告-衛星通信関連-において報告された熱制御フィルムがある。これは熱放射層として耐放射線特性に優れたポリエーテルイミドを用い、さらに熱放射層に入射する紫外線をカットするために紫外線カット層として熱放射層の上層に酸化第二セリウム層を設けたものである。しかし紫外線を十分にカットするために酸化第二セリウム層は1000Å以上の膜厚が必要である。
一般に酸化第二セリウムは内部応力が生じやすく1ミクロン以下の薄膜領域でもフィルム上に成膜する場合にはカールが起こりやすい。又成膜スピードが遅く非能率的である。
〔発明の目的〕
本発明は熱制御特性および耐宇宙環境性に優れさらに加工性および生産性を得んとして研究を重ねた結果、紫外線カット層として第1層目に酸化亜鉛層、第2層目に酸化第二セリウム層を設けることにより酸化第二セリウム層厚が薄くても耐紫外線性に優れ、且つ加工性及び生産性がよく工業的メリットの大きい熱制御フィルムを提供することにある。」(1ページ右下欄3行~2ページ右上欄16行)
(a-2) 「第1図は本発明による熱制御フィルムの断面図であり、図中、(1)は太陽光反射層、(2)は熱放射層、(3)は酸化亜鉛層、(4)は酸化第二セリウム層である。
この第1図より明らかなように、本発明による熱制御フィルムは太陽光反射層(1)上に熱放射層(2)が形成されており、さらにその上に酸化亜鉛層(3)および酸化第二セリウム層(4)が積層されている。
このような構成において太陽光はまず酸化第二セリウム層(4)、酸化亜鉛層(3)に入り、400nm以下の紫外領域の光は酸化第二セリウム層(4)および酸化亜鉛層(3)で吸収され、残りの400nm以上の光は酸化第二セリウム層(4)および酸化亜鉛層(3)および熱放射層(2)を透過し、太陽光反射層(1)で反射される。熱放射層(2)に劣化を生じさせる光は400nm以下の紫外線であるがこの波長範囲の光は酸化第二セリウム層(4)および酸化亜鉛層(3)により吸収、カットされるため熱放射層(2)には400nm以下の紫外線は入射しない。したがって熱放射層(2)の紫外線劣化を防ぐことができる。衛星内部で発生する熱は太陽光反射層(1)から熱放射層(2)に伝わり赤外線として宇宙空間に放射される。
本発明において用いられる太陽光反射層(1)としては太陽光に対する反射率が大きい物質であれば基本的にいかなるものでもよい。このような太陽光に対する反射率の大きなものとして、たとえば銀、金、アルミニウムなどを挙げることができる。この太陽光反射層(1)の厚さは特に限定されるものではない。太陽光を反射することが可能な厚さであればよい。通常の厚さは1500Å~3000Åである。」(2ページ左下欄9行~同ページ右下欄18行)
(a-3) 「なお紫外線カット層として酸化第二セリウム層のみ用いた場合は紫外線カット性能より見て、その厚さを1000Å以上としなければならない。
酸化第二セリウム膜は一般に内部応力が大きいため熱制御フィルム全体としてカールを生じ易い。さらにスパッタレートが低いため、作業性の面より、酸化第二セリウム層(4)の膜厚をより薄くすることが好ましいが、薄くすれば当然紫外線カット性が悪くなってしまう。
本発明はこれらの欠点を補うべく紫外線カット層を酸化第二セリウム層(4)、酸化亜鉛層(3)の2層構造とすることにより酸化第二セリウム層(4)の膜厚を抑えかつ紫外線カット層としての機能を同等にすることができた。これは酸化第二セリウム層に加え酸化亜鉛層が自身の紫外線カット性を有するためである。
酸化亜鉛は比較的内部応力が小さく酸化第二セリウムと併せて用いることにより諸物性が一段と向上し実用に適したものとなる。」(3ページ左上欄19行~同ページ右上欄17行)
(a-4) 「参考例として以下の実験を行った。
200μmの石英ガラスにDCプレーナマグネトロンスパッタ機にてアルゴンと酸素ガスを封入し、亜鉛およびセリウムターゲットの反応性スパッタリングにより酸化亜鉛層を500Å、さらに上層に酸化第二セリウム層を500Å(参考例1)設けた。
一方200μmの石英ガラスに同様にして酸化第二セリウムのみを500Å(参考例2)および1500Å(参考例3)を設けた。参考例1、2、3について分光透過率を測定した。この結果を第2図に示す。
図中(5)(6)(7)はそれぞれ参考例1、2、3の分光透過率を示したグラフである。
酸化第二セリウム層500Åのみを設けた参考例2では400nm以下の光のカットは不十分であるが酸化亜鉛層500Åと酸化第二セリウム層500Åの二層とした参考例1は400nm以下の光を十分カットしている。さらには該二層からなる参考例1は、酸化第二セリウム層1500Åのみの比較例3よりも紫外線カット性が優れていることが判る。
すなわち酸化亜鉛層と酸化第二セリウム層の2層構造とすることにより、酸化第二セリウム層の膜厚を抑えながら十分紫外線をカットすることができる。また酸化第二セリウム層によるカールは参考例3において顕著であるが参考例1においてほとんど存在せず改良されている。
〔発明の効果〕
本発明による紫外線カット層が酸化亜鉛層及び酸化第二セリウム層の二層からなる熱制御フィルムは耐紫外線性に優れ、且つ物理特性に優れたものがより、安価に得られるフィルムであり、熱制御特性及び耐宇宙環境性に優れた長寿命の熱制御フィルムである。」(3ページ左下欄12行~4ページ左上欄6行)
(a-5) 「
[図:0001384232000001.jpg]
[図:0001384232000002.jpg]
」
(2)上記(1)から認められること
ア 上記(a-1)~(a-5)によれば、甲1には、熱制御フィルム及び熱制御フィルムを用いた熱制御方法が記載されていることが認められる。
イ 上記(a-2)、(a-4)及び(a-5)によれば、熱制御フィルムは、紫外線を吸収する酸化亜鉛層3及び酸化第二セリウム層4を積層した紫外線カット層と、太陽光の400nmより波長が長い光を反射する太陽光反射層1と、衛星内部で発生した熱が伝わり赤外線を放射する熱放射層2とを備えていることが認められる。
ウ 上記(a-2)及び(a-5)の第1図によれば、熱制御フィルムは、酸化第二セリウム層4の外表面から赤外線を放射することが認められる。
エ 上記(a-2)及び(a-5)の第1図によれば、熱制御フィルムは、酸化第二セリウム層4の外表面の側から見て、紫外線カット層、熱放射層2及び太陽光反射層1の順に積層して成ることが認められる。
オ 上記(a-2)によれば、熱制御フィルムは、紫外線カット層が400nm以下の紫外領域の光を吸収することが認められる。
(3)甲1発明1
上記(1)及び(2)を総合すると、甲1には、次の事項からなる発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されていると認める。
「紫外線を吸収する酸化亜鉛層3及び酸化第二セリウム層4を積層した紫外線カット層と、太陽光の400nmより波長が長い光を反射する太陽光反射層1と、衛星内部で発生した熱が伝わり赤外線を放射する熱放射層2とを備え、前記酸化第二セリウム層4の外表面から赤外線を放射する熱制御フィルムにおいて、
前記酸化第二セリウム層4の外表面の側から見て、前記紫外線カット層、前記熱放射層2、および前記太陽光反射層1の順に積層して成り、
前記紫外線カット層が400nm以下の紫外領域の光を吸収する熱制御フィルム。」
(4)甲1発明2
上記(1)及び(2)を総合すると、甲1には、次の事項からなる発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されていると認める。
「紫外線を吸収し且つ400nm以下の紫外領域の光を吸収する酸化亜鉛層3及び酸化第二セリウム層4を積層した紫外線カット層と、太陽光の400nmより波長が長い光を反射する太陽光反射層1と、衛星内部で発生した熱が伝わり赤外線を放射する熱放射層2とを、前記紫外線カット層、前記熱放射層2、および前記太陽光反射層1の順に積層して成る熱制御フィルムを用いて、赤外線を前記酸化第二セリウム層4の外表面から放射する熱制御方法。」
2 甲2について
(1)甲2の記載
甲2には、次の記載がある(なお、翻訳文は、申立人が提出した和訳文を採用し、一部修正したものである。)。
(b-1) 「
[図:0001384232000003.jpg]
」
<翻訳文>
「(57)要約
本発明はスペクトル選択のナノ粒子分野に属し、特に放射冷却2層ナノコーティングおよびその調製方法に関し、このコートの上層は粒子径範囲200-1000nmのナノ粒子形態の反射ナノ粒子層とし、このコートの下層は粒子径範囲40-100nmのナノ粒子形態の放射ナノ粒子層とする。前記反射ナノ粒子層にTiO2、ZnO、ZnS、ZrO2あるいはY2O3中のいずれか一つあるいは複数の物質を含み、前記放射ナノ粒子層にSiC、SiO2、BN中のいずれか一つあるいは複数の物質を含む。前記放射冷却2層ナノコーティングは建築物の省エネ、電子機器の放熱、食品保存などの分野で比較的に大きい用途を有する。前記放射冷却2層ナノコーティングの製造方法は簡単、低コストで、原料は調達しやすく、技術制御可能性がよい。」
(b-2) 「
[図:0001384232000004.jpg]
[図:0001384232000005.jpg]
」
<翻訳文>
「特許請求の範囲
1.放射冷却2層ナノコーティングは、以下を特徴とする:このコートの上層は200-1000nmの粒径範囲のナノ粒子で形成された反射ナノ粒子層であり、このコートの下層は40-100nmの粒径範囲のナノ粒子で形成された放射ナノ粒子層である。
2.請求項1に記載の放射冷却2層ナノコーティングは以下を特徴とする:前記反射ナノ粒子層にTiO2、ZnO、ZnS、ZrO2 あるいはY2O3中のいずれか一つあるいは複数の物質を含み、前記放射ナノ粒子層にSiC、SiO2、BN中のいずれか一つあるいは複数の物質を含む。」
(b-3) 「
[図:0001384232000006.jpg]
」
<翻訳文>
「[0003] 放射冷却は典型的受動的冷却モードであり、その原理は以下の通りである:調節室から外の物体表面の放射率によって、それと温度がきわめて低いアウタースペースヘの熱交換を増加し、物体の冷却をする。放射冷却は建築物の省エネ、電子機器の放熱、太陽電池の冷却などの分野に応用することができる。大気層は、8-13μmの波長範囲の熱輻射に対して比較的高いトランスミッタンス(トランスミッタンスは平均して85%であり、この帯域は大気の窓と言われる)を有している、もしも、表面からこの帯域の熱輻射をできるだけ強化することができれば、環境中その他の帯域に対して熱輻射の吸収を減少する可能性があり、冷却の目的を達する。日中、環境の熱幅射は主に太陽照射であり、太陽放射スペクトルの主要波は0.3-3μmとし、そのために出来るだけ放射冷却効果を補強するためには、この帯域の反射率に物体を出来るだけ高めるべく、これによってそれを低下させて太陽エネルギの吸収に対する。」
(b-4) 「
[図:0001384232000007.jpg]
」
<翻訳文>
「[0016] 前記反射ナノ粒子はTiO2 が好ましい、さらに好ましいのは、粒径が200nm、500nmと1000nm、体積比が1:0.5-10:0.5-10で形成したナノ粒子の混合である。異なった粒径TiO2 の体積比を調節することによって、必要な反射率特性を得ることができる。上層コートは8-13μmの帯域透過率が高く、この帯域の放射で下層の放射粒子に明らかに影響を生じる可能性がない。」
(b-5) 「
[図:0001384232000008.jpg]
」
<翻訳文>
「[0019] 1、前記放射冷却2層ナノコーティングの光学特性は安定していて、必要とするスペクトル選択性を有し、太陽放射帯域の0.3-3μmの範囲内の平均反射率は少なくとも0.75に到達し、大気の窓の帯域である8-13μmの範囲内の平均放射率は0.88に到達し、そのため、冷却効果は非常によい。」
(b-6) 「
[図:0001384232000009.jpg]
」
<翻訳文>
「[0023] 図2は実施例2中でそれぞれZnSとTiO2 のナノ粒子反射コートを含む反射分光の対比図である。」
(b-7) 「
[図:0001384232000010.jpg]
[図:0001384232000011.jpg]
」
<翻訳文>
「[0042] ZnSナノ粒子で実施例1中のTiO2 ナノ粒子を代替した反射コートの試験結果:ZnSナノ粒子の冷却効果も非常によい、その反射分光特性を図2に示す。」
(b-8) 「
[図:0001384232000012.jpg]
」
<翻訳文>
「[0049] 本実施例の中で得たナノコーティングスペクトル特性は、図3に示すように、粒径を500nmとするTiO2の粒子形態のナノコーティングは短波長(0.3-2μm)において高い反射率を有している。同時に、SiCおよびSiO2の粒子が1:1で混合した混合放射層からなる二層構造は、8-13μmの範囲内に均一な高放射率を有している。しかし、TiO2のナノ粒子は13μm以後の帯域の基礎吸収ピークが冷却効果を弱める。」
(b-9) 「
[図:0001384232000013.jpg]
[図:0001384232000014.jpg]
」
「
[図:0001384232000015.jpg]
」
3 甲3について
(1)甲3の記載
甲3には、次の記載がある(なお、翻訳文は、申立人が提出した抄訳文を採用し、一部修正したものである。)。
(C-1) 「[0039] In various embodiments, the plurality of different material can include a solar spectrum reflecting portion 104 (e.g., structure) and a thermally-emissive portion 106 (e.g., structure). The solar spectrum reflecting portion 104 can suppress light modes. For example, the solar spectrum reflecting portion 104 can inhibit coupling of incoming electromagnetic radiation, of at least some wavelengths in the solar spectrum to the object at a range of angles of incident relative to the depth dimension. The wavelengths in the solar spectrum can include visible spectrum, near IR, and/or ultraviolet spectrum. The thermally-emissive portion 106 (that includes a portion of the different materials arranged in the depth dimension) can facilitate, simultaneously with the inhibiting coupling of the incoming electromagnetic radiation, thermally-generated electromagnetic emissions from the object at the range of angles of incident and in the mid-IR wavelengths.」
<翻訳文>
「[0039] 種々の実施形態において、複数の異なる材料は、太陽スペクトル反射部104(例えば、構造)および熱放射部106 (例えば、構造)を含むことができる。太陽スペクトル反射部104は、光モードを抑制することができる。例えば、太陽スペクトル反射部104は、深度寸法に対して入射の角度の範囲で、太陽スペクトルの少なくとも一部の波長の電磁放射の入射を阻害することができる。太陽スペクトルの波長には、可視スペクトル、近傍IR、および/または紫外線スペクトルを含めることができます。熱放射部106(深さ寸法に配置された異なる材料の一部を含む)は、入射電磁放射の結合を阻害すると同時に、入射角の範囲および中IR波長における物体からの熱発生電磁放射を容易にすることができる。」
(C-2) 「[0042] As illustrated by the close up view 102, the multi-layer stack can include seven alternating layers of material. For example, the solar spectrum reflecting portion 104 can include four layers of HfO2 and SiO2 (or TiO2 and SiO2) that are sub-100 nm at the bottom of the seven alternating layers, along with the Ag layer. The solar spectrum reflecting portion 104 can be responsible for thermal radiation from the arrangement of the plurality of material (e.g., the nanophotonic radiative cooler), through a combination of material properties and interference effects. SiO2 has a strong peak in its absorptivity near 9 micrometers due to its phonon-polariton resonance. HfO2 can present a non-zero absorption and hence emissions in the 8-13 micrometers wavelengths.」
<翻訳文>
「[0042] クローズアップビュー102によって示されるように、多層スタックは、材料の7つの交互層を含むことができる。例えば、太陽スペクトル反射部104は、7つの交番層の底部にサブ100nmであるHfO2およびSiO2(またはTiO2およびSiO2)の4層をAg層と共に含むことができる。太陽スペクトル反射部104は、複数の材料(例えば、ナノフォトニック放射冷却器)の配置からの熱放射を、材料特性と干渉効果の組み合わせを介して責任を負うことができる。SiO2はフォノンポラリトン共鳴のために9マイクロメートル付近の吸収率に強いピークを有する。HfO2は、8~13マイクロメートルの波長で非ゼロ吸収と発光を示すことができます。」
(C-3) 「[0068] FIG. 4A-4B shows an alternative configuration of a radiative cooling apparatus, consistent with embodiments of the present disclosure. For example, FIGS. 4A-4B illustrates an embodiment in which the thermally-emissive portion of the radiative cooling apparatus is formed of a layer of optical glass. The optical glass layer can be transparent (substantially) in the visible wavelength range. Example optical glass material can include borosilicates (BK7, B270, and Crown glass) and fused silica. Further, the solar spectrum reflecting portion of the radiative cooling apparatus is formed of polytetrafluoroethylene (PTFE) (and/or Teflon). The solar spectrum reflecting portion, in such embodiments, can include a diffuse white reflector.」
<翻訳文>
「[0068] 図4A-4Bは、放射冷却装置の代替構成を示し、本開示の実施形態と一致する。例えば、図4A-4Bは、放射冷却装置の熱放射部が光学ガラスの層で形成される実施形態を示す。光学ガラス層は、可視波長範囲で(実質的に)透明であることができる。光学ガラス材料としては、ホウケイ酸塩(BK7、B270、クラウンガラス)とシリカの融合を挙げられる。また、放射冷却装置の太陽スペクトル反射部は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(および/またはテフロン)で形成される。太陽スペクトル反射部には、このような実施形態において、拡散白色反射器を含むことができる。」
(C-4) 「[0104]FIGS. 10A-10B show examples of a radiative cooling apparatus comprised of multiple layers of dielectric and metallic materials, in accordance with various embodiments of the present disclosure. For example, FIG. 10A illustrates a multi-layer stack, in accordance with some embodiments, comprised of alternating layers of SiO2, MgO, Si3N4, TiO2. The multi-layer stack of the alternating layers of different material can include the solar spectrum reflecting portion and the thermally-emissive portion of the plurality of different material, as previously discussed herein. Below the multi-layer stack can include a layer of Al2O3, Ag, another layer of Al2O3, and the substrate (e.g., a metal layer (e.g., the metallic (Ag) portion) to be placed in thermal contact with the object being cooled, one or more adhesion layers and the substrate). Further, FIG. 10B illustrates a multi-layer stack, in accordance with a number of embodiments, that comprises layers of Si3N4 and material lossless at 8-13 micron. Below the multi-layer stack can include a layer of Ag, Al2O3, and the substrate. The various depth dimensions (e.g., depth/thickness of the layer relative to an object) are for illustrative purposes and various depths dimensions of each layer can be used in accordance with various embodiments of the present disclosure.
[0105]FIGS. 11A-11B show examples of a radiative cooling apparatus comprised of glass material and multiple layers of dielectric and metallic materials, in accordance with various embodiments of the present disclosure. The multiple layers of alternating different material can include the solar spectrum reflecting portion of the plurality of different material, and the glass material (e.g., optical glass) can include the thermally-emissive portion of the plurality of different material. The multiple layers of alternating material, in various embodiments, can be deposited on the glass material or can be deposited separately, and the glass material can be placed physically on top the multiple layers. As illustrated by FIGS. 11A-11B, the alternating layers of different material can include TiO2 and SiO2 or Ta2O5 and SiO2, in various embodiments. Below the multiple layers of alternating different material can be one or more layers of Al2O3, Ag, and Cu (e.g., substrate material). The solar spectrum reflecting portion, in some embodiments, can include a base layer (e.g., substrate) of Ag and alternating layers of dielectric materials such as TiO2 and SiO2, or Ta2O5 and SiO2. The solar spectrum reflection portion may be directly deposited via physical vapor deposition onto the glass or separately, with the glass physically placed on top of it, to allow for the combined suppression of the absorption of solar light, embodied in the emissivity/absorptivity spectrum, with the enhanced thermal emissivity by the glass. The various depth dimensions (e.g., depth/thickness of the layer relative to an object) are for illustrative purposes and various depths dimensions of each layer can be used in accordance with various embodiments of the present disclosure.」
<翻訳文>
「[0104] 図10A-10Bは、誘電体および金属材料の複数層から構成される放射冷却装置の例を示し、本開示の種々の実施形態に従う。例えば、図10Aは、多層スタックを図示し、いくつかの実施形態に従って、SiO2、MgO、Si3N4、TiO2の交互層から構成される。異なる材料の交番層の多層スタックには、太陽スペクトル反射部と複数の異なる材料の熱放射部を含むことができるが、本明細書で先に論じるように、下の多層スタックは、Al2O3の層、Ag、Al2O3の別の層、および基板(例えば、金属層(例えば、金属(Ag)部分))を冷却される対象物と熱接触に配置する、1つ以上の接着層と基板を含むことができる。また、図10Bは、多層スタックを図示し、多数の実施形態に従って、Si3N4及び8~13ミクロンでの無損失の材料の層を含むものである。その後の多層スタックは、Ag、Al2O3、および基板の層を含むことができる。種々の深さ寸法(例えば、物体に対する層の深さ/厚さ)は、例示の目的のために、各層の様々な深さ寸法は、本開示の種々の実施形態に従って使用することができる。
[0105] 図11A-11Bは、本開示の種々の実施形態に従った、ガラス材料と誘電体および金属材料の複数層で構成された放射冷却装置の例を示す。交互に異なる材料の複数の層は、複数の異なる材料の太陽スペクトル反射部を含むことができ、また、ガラス材料(例えば、光学ガラス)は、複数の異なる材料の熱放射部を含むことができる。様々な実施形態において、交互に配置された複数の材料の層はガラス材料の上に堆積させることができ、または別に堆積させるこることができ、そしてガラス材料は、複数の層の上に物理的に配置されることができる。図11A-11Bによって示されるように、異なる材料の交互層は、種々の実施形態において、TiO2とSiO2または、Ta2O5とSiO2を含むことができる。交互に配置された複数の異なる材料の層の下には、Al2O3、Ag、及びCuの一つ又は複数の層(例えば、基板材料)を配置することができる。太陽スペクトル反射部は、いくつかの実施形態において、Agのベース層(例えば、基板)と、TiO2とSiO2、又はTa2O5とSiO2などの誘電体材料の交互の層を含むことができる。太陽スペクトル反射部は、ガラス上に物理的に蒸着して直接成膜してもよいし、ガラスをその上に物理的に配置して、放射率/吸収率スペクトルで具現化される太陽光の吸収の抑制と、ガラスによる熱放射率の向上とを組み合わせることができるようにしてもよい。様々な深さ寸法(例えば、物体に対する層の深さ/厚さ)は、例示のためのものであり、各層の様々な深さ寸法は、本開示の様々な実施形態に従って使用することができる。」
(C-5) 「
[図:0001384232000016.jpg]
」
「
[図:0001384232000017.jpg]
[図:0001384232000018.jpg]
[図:0001384232000019.jpg]
」
「
[図:0001384232000020.jpg]
[図:0001384232000021.jpg]
[図:0001384232000022.jpg]
」
4 甲4について
(1)甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
(d-1) 「2 実験
2・1 測定
臭化カリウム錠剤法の場合は試料約1mg を臭化カリウム粉末300 mg と混合し成型して錠剤として測定した。・・・
装置はPerkin-Elmer 521 型回折格子分光光度計および日立遠赤外分光光度計FIS-1形, FIS-21形を併用し,測定領域は1400~60 cm -1 (約7~167μ) とした。
2・2 試料
TableIに示した金属酸化物25種を対象とした。すべて市販合成試料を用い,物質の確認はX線回折によって行なった。
3 実験結果
得られた酸化物25種の赤外吸収スペクトルをFjg.1~5に示す。ほとんどすべての試料が測定領域(1400~400cm-1)に特性吸収を持っていることがわかった。さらに四三酸化コバルト,酸化クロム,酸化第二銅,一酸化鉛,酸化第一スズ,酸化第二スズ,酸化チタン,五酸化バナジウム,酸化イットリウムおよび酸化ジルコニウムの10種の酸化物については400~60cm-1(25~167μ)の遠赤外領域のスペクトルを検討したところ,それぞれ特性吸収を持つことが認められた。」(1050ページ右下欄5行~1051ページ右欄10行)
(d-2) 「
[図:0001384232000023.jpg]
[図:0001384232000024.jpg]
[図:0001384232000025.jpg]
[図:0001384232000026.jpg]
[図:0001384232000027.jpg]
」
5 甲5について
(1)甲5の記載
甲5には、次の記載がある。
(e-1) 「2 実験
2・1 測定
Perkin-Elmer 521型回折格子分光光度計を使用した。実験は臭化カリウム錠剤法によった。すなわち試料約1mg(BNの場合は20μg)を微量天びんではかりとり,臭化カリウム粉末300mgと合わせ,めのう乳ばちで均一に混合したのち,錠剤成形器で直径13mm,厚さ約1mmのdiskを調製した。測定範囲は1400~400cm-1(約7~25μ)とした。
2・2 試料
TableIの炭化物12種,TableIIの窒化物11種およびTableIIIの硫化物7種の合わせて30種を対象とした。すべて市販合成試料を用い,物質の確認はX線回折によった。
3 実験結果および考察
炭化物12種類,窒化物11種類および硫化物7種類のうち,炭化物はAl4C3およびB4Cの2種類,窒化物はAIN,BN,α-& β-Si3N4及びβ-WNの4種類,また硫化物はAl2S3,FeS2,β-MnS,NiSおよびPbSの5種類がそれぞれ測定波数領城内に特性吸収を有することが認められた。 Fig.1~3にそれらの吸収スペクトルを吸収位置とともに示す。」(1270ページ右下欄13行~1271ページ右欄8行)
(e-2) 「
[図:0001384232000028.jpg]
[図:0001384232000029.jpg]
[図:0001384232000030.jpg]
」
第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明1とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者の「紫外線」は、前者の「紫外光」に相当し、以下同様に、「太陽光の400nmより波長が長い光」は波長が400nm以下の紫外光(紫外線)より長い「可視光及び赤外光」に、「太陽光反射層1」は「光反射層」に、「赤外線」は「赤外光」に、「衛星内部で発生した熱が伝わり赤外線を放射する」は「赤外光を放射する」に、「熱放射層2」は「赤外放射層」に、「前記酸化第二セリウム層4の外表面」は「放射面」に、「熱制御フィルム」は「放射冷却装置」に、それぞれ相当する。
・後者の「紫外線を吸収する酸化亜鉛層3及び酸化第二セリウム層4を積層した紫外線カット層」は、前者の「紫外光を反射する紫外反射層」に、「所定の紫外光を制御する層」という点で一致する。
したがって、両者は、
「所定の紫外光を制御する層と、可視光及び赤外光を反射する光反射層と、赤外光を放射する赤外放射層とを備え、放射面から赤外光を放射する放射冷却装置において、
前記放射面の側から見て、前記所定の紫外光を制御する層、前記赤外放射層、および前記光反射層の順に積層して成る、放射冷却装置。」の点で一致し、次の点で相違している。
[相違点1-1]
「所定の紫外光を制御する層」に関し、本件発明1では、「紫外光を反射する紫外反射層」であり、「前記紫外反射層が、大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い」ものであるのに対して、甲1発明1では、「紫外線を吸収する酸化亜鉛層3及び酸化第二セリウム層4を積層した紫外線カット層」であり、「前記紫外線カット層が400nm以下の紫外領域の光を吸収する」ものである点。
(2)判断
ア 相違点1-1の検討
上記相違点1-1に係る本件発明1の構成は、「紫外光を反射」し且つ「大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い」「紫外反射層」を備えるものである。
これに対し、甲2には、上記第4の2(1)によれば、放射冷却2層ナノコーティングにおいて、上層の200~1000nmの粒径範囲のナノ粒子で形成された反射ナノ粒子層を、大気の窓と言われる8~13μmの帯域透過率が高くなるようにし、太陽放射帯域の0.3~3μmの反射率を高くすることが記載されている。
しかし、甲2には、波長が0.3μm(300nm)以上の一部の紫外光については反射率が高いことが示されているものの、0.3μm(300nm)より波長が短い紫外光の反射率が高いことは示されておらず、しかも、上層の反射ナノ粒子層は、大気の窓と言われる8~13μm(8000~13000nm)の帯域透過率が高いことは示されているものの、吸収率が高いことは示されていない。
また、甲3には、上記第4の3(1)(特に段落[0104]及びFig.10B)によれば、放射冷却装置において、多層スタックが放射面から見て厚さ30~100nmのSi3N4の層、及び厚さ200nmのAgの層の順に積層していることが記載されている。
しかし、甲3には、Si3N4層が紫外線を反射することが明記されておらず、申立人は「ここで、上層の『30-100nmの厚さのSi3N4層』は、厚さと屈折率から計算される反射光の波長が、240nmから800nmであり、紫外線から可視光の反射層であることが明らかである。」(申立書10ページ30~32行)とするが、具体的にどのような計算をしたのか示されておらず、Si3N4層が240nm~800nmの波長の光を反射するものと直ちには認められず、また、Si3N4層が、紫外光を反射し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高いものであることは示されていない。
加えて、甲3には、段落[0042]及びFig.1において、太陽スペクトル反射部104が、HfO2の層とSiO2 の層(またはTiO2の層とSiO2の層)を交互に積層した層からなることが記載され、また、段落[0105]において、異なる材料の交互層が、TiO2の層とSiO2 の層、またはTa2O5の層とSiO2の層を含むことが記載されているところ、上記太陽スペクトル反射部104及び上記異なる材料の交互層が、仮に紫外光を反射し、赤外光を吸収するものであるとしても、大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高いことまではいえない。
そうすると、甲2及び甲3のいずれにも、紫外光を反射し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い紫外反射層は記載も示唆もされていないから、甲1発明1において、甲2及び甲3に記載された事項を適用しても、上記相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
また、仮に甲2及び甲3のいずれかに、紫外光を反射し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い紫外反射層が記載されているとしても、甲1発明1は、上記第4の1(1)における(a-1)、(a-3)及び(a-4)に記載があるように、酸化第二セリウムを、紫外線を吸収する紫外線カット層として用いることを前提とし、その課題を解決しようとするものであるから、酸化第二セリウムの紫外線カット層に代えて、上述の紫外線反射層を用いる動機付けはないというべきである。
したがって、甲1発明1において、相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって困難であるといわざるを得ない。
イ 効果について
そして、本件発明1は、相違点1-1に係る本件発明1の構成を備えることにより、紫外反射層は、大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高く、10000nm付近の波長域の赤外光を放射することになり(本件特許の明細書の段落0042及び0060)、放射冷却装置の熱を効率よく赤外線として放射して、冷却性能を向上させることができる(本件特許の明細書の段落0020)という所期の効果を奏するものである。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲1発明1並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明2について
甲3の段落[0042]及びFig.1には、太陽スペクトル反射部104は、HfO2の層とSiO2 の層(またはTiO2の層とSiO2の層)を交互に積層した層からなることが記載されている。
しかし、この甲3に記載された事項は、本件特許の請求項2で新たに特定された事項に対応するものであり、仮に紫外光を反射し、赤外光を吸収する層が示されているとしても、紫外光を反射し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い紫外反射層を示すものではない。
また、甲4の上記第4の4(1)の記載(特にFig.1~5)において、分光光度計により測定した金属酸化物25種の赤外線吸収スペクトルが示されているが、放射冷却装置に用いる紫外光を反射する紫外反射層についての特性を示すものではない。
さらに、甲5の上記第4の5(1)の記載(特にFig.1~3)において、分光光度計により測定した、炭化物はAl4C3およびB4Cの2種類,窒化物はAIN,BN,α-& β-Si3N4及びβ-WNの4種類,また硫化物はAl2S3,FeS2,β-MnS,NiSおよびPbSの5種類についての吸収スペクトルが示されているが、放射冷却装置に用いる紫外光を反射する紫外反射層についての特性を示すものではない。
そうすると、これら甲3~甲5に記載された事項は、紫外光を反射し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い紫外反射層を示すものではない。
そして、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含んでおり、上記1の本件発明1についての検討を踏まえると、甲1発明1及び甲2~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件発明3について
甲3のFiG.3には、下側から54nmSiO2 と、34nmのHfO2 と、73nmのSiO2 と、13nmのHfO2 からなる層が順に積層された、合計の厚さが174nmの積層体が記載されている。
しかし、この甲3に記載された事項は、本件特許の請求項3で新たに特定された事項に対応するものであり、仮に紫外光を反射し、赤外光を吸収する層が示されているとしても、紫外光を反射し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い紫外反射層を示すものではない。
そして、本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含んでおり、上記1の本件発明1についての検討及び上記2の本件発明2についての検討を踏まえると、甲1発明1及び甲2~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 本件発明4について
甲2の請求項1及び2(上記第4の2(1)(b-2)を参照。)には、放射冷却2層ナノコーティングにおいて、上層の反射ナノ粒子層にTiO2、ZnO、ZnS、ZrO2 あるいはY2O3中のいずれか一つあるいは複数の物質を含むことが記載されている。
しかし、この甲2に記載された事項は、本件特許の請求項4で新たに特定された事項に対応するものであり、仮に紫外光を反射し、赤外光を吸収する層が示されているとしても、紫外光を反射し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い紫外反射層を示すものではない。
そして、本件発明4は、本件発明1の発明特定事項を全て含んでおり、上記1~3の本件発明1~3についての検討を踏まえると、甲1発明1及び甲2~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5 本件発明5について
甲2の請求項1及び2(上記第4の2(1)(b-2)を参照。)には、放射冷却2層ナノコーティングにおいて、下層の放射ナノ粒子層にSiC、SiO2、BN中のいずれか一つあるいは複数の物質を含むことが記載されている。
また、甲3の段落[0105]及びFig.11Bには、放射冷却装置において、複数の層の上にガラス材料の層を配置することが記載されている。
しかし、これら甲2及び甲3に記載された事項は、本件特許の請求項5で新たに特定された事項に対応するものであり、紫外光を反射し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い紫外反射層を示すものではない。
そして、本件発明5は、本件発明1の発明特定事項を全て含んでおり、上記1~4の本件発明1~4についての検討を踏まえると、甲1発明1及び甲2~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 本件発明6について
甲3の段落[0105]及びFig.11Bには、放射冷却装置において、複数の層の上に配置されたガラス材料の層の厚みを0.1~10mmとすることが記載されている。
しかし、この甲3に記載された事項は、本件特許の請求項6で新たに特定された事項に対応するものであり、紫外光を反射し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い紫外反射層を示すものではない。
そして、本件発明6は、本件発明1の発明特定事項を全て含んでおり、上記1~5の本件発明1~5についての検討を踏まえると、甲1発明1及び甲2~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
7 本件発明7について
甲1の2ページ右下欄10~14行(上記第4の1(1)(a-2)を参照。)には、熱制御フィルムにおいて、太陽光反射層1がたとえば銀、金、アルミニウムなどで成ることが記載されている。
しかし、この甲1に記載された事項は、本件特許の請求項7で新たに特定された事項に対応するものであり、紫外光を反射し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い紫外反射層を示すものではない。
そして、本件発明7は、本件発明1の発明特定事項を全て含んでおり、上記1~6の本件発明1~6についての検討を踏まえると、甲1発明1及び甲1~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
8 本件発明8について
甲1の2ページ右下欄15~18行(上記第4の1(1)(a-2)を参照。)には、熱制御フィルムにおいて、太陽光反射層1の通常の厚さは1500Å~3000Å(150nm~300nm)であることが記載されている。
しかし、この甲1に記載された事項は、本件特許の請求項8で新たに特定された事項に対応するものであり、紫外光を反射し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い紫外反射層を示すものではない。
そして、本件発明8は、本件発明1の発明特定事項を全て含んでおり、上記1~7の本件発明1~7についての検討を踏まえると、甲1発明1及び甲1~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
9 本件発明9について
(1)対比
本件発明9と甲1発明2とを、上記1(1)の対比の検討を踏まえて対比する。
・後者の「熱制御方法」は前者の「放射冷却方法」に相当する。
・後者の「紫外線を吸収し且つ400nm以下の紫外領域の光を吸収する酸化亜鉛層3及び酸化第二セリウム層4を積層した紫外線カット層」は、前者の「紫外光を反射し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い紫外反射層」に、「所定の紫外光を制御する層」という点で一致する。
・後者の「前記酸化第二セリウム層4の外表面」は、紫外線カット層における酸化亜鉛層3の熱放射層2と接する面とは反対側の外表面であるから、前者の「前記紫外反射層の前記赤外放射層と接する面とは反対側の放射面」に、「前記所定の紫外光を制御する層の前記赤外放射層と接する面とは反対側の放射面」という点で一致する。
したがって、両者は、
「所定の紫外光を制御する層と、可視光及び赤外光を反射する光反射層と、赤外光を放射する赤外放射層とを、前記所定の紫外光を制御する層、前記赤外放射層、および前記光反射層の順に積層して成る放射冷却装置を用いて、赤外光を前記所定の紫外光を制御する層の前記赤外放射層と接する面とは反対側の放射面から放射する放射冷却方法。」の点で一致し、次の点で相違している。
[相違点9-1]
「所定の紫外光を制御する層」に関し、本件発明9では、「紫外光を反射し且つ大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高い紫外反射層」であるのに対して、甲1発明2では、「紫外線を吸収し且つ400nm以下の紫外領域の光を吸収する酸化亜鉛層3及び酸化第二セリウム層4を積層した紫外線カット層」である点。
(2)判断
相違点9-1は、上記1(1)の相違点1-1と実質的に同じである。
そうすると、上記1(2)の相違点1-1についての検討を踏まえると、甲1発明2において、相違点9-1に係る本件発明9の構成とすることは、甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たことではない。
そして、本件発明9は、相違点9-1に係る本件発明9の構成を備えることにより、紫外反射層は、大気の窓に相当する10000nm付近の波長域において吸収率が高く、10000nm付近の波長域の赤外光を放射することになり(本件特許の明細書の段落0042及び0060)、放射冷却装置の熱を効率よく赤外線として放射して、冷却性能を向上させることができる(本件特許の明細書の段落0020)という所期の効果を奏するものである。
したがって、本件発明9は、甲1発明2並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
10 本件発明10について
本件発明10は、本件発明9の発明特定事項を全て含んでおり、上記9の本件発明9についての検討を踏まえると、甲1発明2並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
11 まとめ
上記1~10のとおりであるから、本件特許の請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、特許法第113条第2号に該当しない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701009