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特許異議申立

2021-700723

放射冷却装置

審判番号
2021-700723
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-502078
登録番号
6821084
請求日
2021年07月27日
審決日
2022年10月26日
公報発行日
2023年01月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】大阪瓦斯株式会社
  • 【権利者代理人】特許業務法人R&C
  • 【異議申立人】平山 一幸
審判長/審判官
  • 審判長 松波 由美子
  • 審判官 河原 正
  • 審判官 関根 洋之
分類
P1651.121-YAA(G02B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6821084号発明「放射冷却装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6821084号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 特許第6821084号の請求項1、4~9に係る特許を維持する。 特許第6821084号の請求項2、3、10、11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続等の経緯 特許第6821084号の請求項1~11に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2020-502078号)は、2019年(平成31年)1月17日(先の出願に基づく優先権主張 2018年(平成30年)2月22日)を国際出願日とする出願であって、令和3年1月7日にその特許権の設定の登録がされ、令和3年1月27日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議申立ての経緯は、以下のとおりである。 令和3年 7月27日 :特許異議申立人 平山 一幸(以下「特許異議申立人」という。)による請求項1~11に係る特許に対する特許異議の申立て 令和3年10月 4日付け:取消理由通知書 令和3年12月 3日付け:意見書(特許権者) 令和4年 2月28日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和4年 4月28日付け:訂正請求書(この訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。) 令和4年 4月28日付け:意見書(特許権者) 令和4年 7月13日付け:意見書(特許異議申立人) 第2 本件訂正請求について 1 訂正の趣旨 本件訂正請求の趣旨は、特許第6821084号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを求める、というものである。 2 本件訂正請求について 訂正前の請求項2~11は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に伴って訂正されるものである。したがって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~11〕に対して請求されたものである。 3 訂正の内容 本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが積層状態で設けられた放射冷却装置であって、前記光反射層が、銀あるいは銀合金からなる第1層と、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第2層と、銀とアルミニウムとの合金化を防止する合金化防止透明層とを、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層の順に前記赤外放射層に近い側に位置させる形態で積層した状態に構成され、前記赤外放射層を基板として、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層が積層されている放射冷却装置。」とあるのを、「放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが積層状態で設けられた放射冷却装置であって、前記光反射層が、銀あるいは銀合金からなる第1層と、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第2層と、銀とアルミニウムとの合金化を防止する合金化防止透明層とを、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層の順に前記赤外放射層に近い側に位置させる形態で積層した状態に構成され、前記赤外放射層を基板として、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層が積層され、前記第1層の厚さが、50nm以上で、かつ、100nm以下であり、前記合金化防止透明層が、300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さである放射冷却装置。」に訂正する。 請求項1の記載を引用して記載される請求項4~9についても同様に訂正する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか1項に記載の放射冷却装置。」とあるのを、「請求項1に記載の放射冷却装置。」に訂正する。 請求項4の記載を引用して記載される請求項5~9についても同様に訂正する。 (5) 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか1項に記載の放射冷却装置。」とあるのを、「請求項1又は4に記載の放射冷却装置。」に訂正する。 請求項5の記載を引用して記載される請求項6~9についても同様に訂正する。 (6) 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか1項に記載の放射冷却装置。」とあるのを、「請求項1、4、5のいずれか1項に記載の放射冷却装置。」 請求項6の記載を引用して記載される請求項7~9についても同様に訂正する。 (7) 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6のいずれか1項に記載の放射冷却装置。」とあるのを、「誇求項1、4~6のいずれか1項に記載の放射冷却装置。」に訂正する。 請求項7の記載を引用して記載される請求項8、9についても同様に訂正する。 (8) 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7のいずれか1項に記載の放射冷却装置。」とあるのを、「請求項1、4~7のいずれか1項に記載の放射冷却装置。」に訂正する。 (9) 訂正事項9 特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~7のいずれか1項に記載の放射冷却装置。」とあるのを、「請求項1、4~7のいずれか1項に記載の放射冷却装置。」に訂正する。 (10) 訂正事項10 特許請求の範囲の請求項10を削除する。 (11) 訂正事項11 特許請求の範囲の請求項11を削除する。 (12) 訂正事項12 願書に添付した明細書の段落【0012】に 「本発明の放射冷却装置は、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが積層状態で設けられたものであって、その特徴構成は、前記光反射層が、銀あるいは銀合金からなる第1層と、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第2層と、銀とアルミニウムとの合金化を防止する合金化防止透明層とを、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層の順に前記赤外放射層に近い側に位置させる形態で積層した状態に構成され、前記赤外放射層を基板として、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層が積層されている点にある。」とあるのを、 「本発明の放射冷却装僅は、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが積層状態で設けられたものであって、その特徴構成は、前記光反射層が、銀あるいは銀合金からなる第1層と、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第2層と、銀とアルミニウムとの合金化を防止する合金化防止透明層とを、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層の順に前記赤外放射層に近い側に位置させる形態で積層した状態に構成され、前記赤外放射層を基板として、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層が積層され、前記第1層の厚さが、50nm以上で、かつ、100nm以下であり、前記合金化防止透明層が、300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さである点にある。」に訂正する。 (13) 訂正事項13 願書に添付した明細書の段落【0019】に 「要するに、本発明の放射冷却装置によれば、光反射層の低廉化を図りながらも、冷却対象を適切に冷却でき、しかも、長期間に亘って冷却作用を良好に発揮できる。 また、赤外放射層を基板として、第1層、合金化防止透明層及び第2層が積層されているから、全体構成の簡素化を図り、しかも、全体構成の薄膜化を図ることができる。 ちなみに、赤外放射層を基板として、第1層、合金化防止透明層及び第2層を積層する際に、第1層、合金化防止透明層及び第2層が薄い場合には、例えば、スパッタリング等により、第1層、合金化防止透明層及び第2層を順次積層することになる。 つまり、積層用基板を設けて、その積層用基板に対して、スパッタリング等により、第2層、合金化防止透明層及び第1層を順次積層し、その後、第1層の第2層の存在側とは反対側箇所に、別途製作した赤外放射層を載置して積層する、又は、第1層の合金化防止透明層の存在側とは反対側箇所に、スパッタリング等により、赤外放射層を積層する場合に較べて、積層用基板を設ける必要が無いため、全体構成の簡素化を図り、しかも、全体構成の薄膜化を図ることができる。 要するに、本発明の放射冷却装置の特徴構成によれば、全体構成の簡素化を図り、しかも、全体構成の薄膜化を囮ることができる。」とあるのを、 「要するに、本発明の放射冷却装置によれば、光反射層の低廉化を図りながらも、冷却対象を適切に冷却でき、しかも、長期間に亘って冷却作用を良好に発揮できる。 また、赤外放射層を基板として、第1層、合金化防止透明層及び第2層が積層されているから、全体構成の簡素化を図り、しかも、全体構成の薄膜化を図ることができる。 ちなみに、赤外放射層を基板として、第1層、合金化防止透明層及び第2層を積層する際に、第1層、合金化防止透明層及び第2層が薄い場合には、例えば、スパッタリング等により、第1層、合金化防止透明層及び第2層を順次積層することになる。 つまり、積層用基板を設けて、その積層用基板に対して、スパッタリング等により、第2層、合金化防止透明層及び第1層を順次積層し、その後、第1層の第2層の存在側とは反対側箇所に、別途製作した赤外放射層を載置して積層する、又は、第1層の合金化防止透明層の存在側とは反対側箇所に、スパッタリング等により、赤外放射層を積層する場合に較べて、積層用基板を設ける必要が無いため、全体構成の簡素化を図り、しかも、全体構成の薄膜化を図ることができる。 要するに、本発明の放射冷却装置の特徴構成によれば、全体構成の簡素化を図り、しかも、全体構成の薄膜化を図ることができる。 また銀あるいは銀合金からなる第1層の厚さを、50nm以上100nm以下の範囲にすれば、第1層による光(主として、可視光、赤外光)の反射作用を適切に発揮させながら、第2層の存在により、赤外放射層を透過した光(可視光、紫外光、赤外光)を適切に反射することができる結果、光反射層を、厚さが300nm以上の銀からなる金属層として構成する場合と同等の能力にて、冷却対象を冷却できることを見出すに至った。 従って第1層の厚さを薄くして、光反射層の低廉化を図りながらも、厚さが300nm以上の銀からなる金属層として構成する場合と同等の大きな冷却能力を得ることができる。 要するに、本発明の放射冷却装置の特徴構成によれば、光反射層の低廉化を図りながらも、大きな冷却能力を得ることができる。 また、合金化防止透明層は光を吸収することになるが、合金化防止透明層の厚さを、300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さとすることによって、光反射層全体としての光吸収量を適切に抑制するのである。 つまり、太陽光スペクトルは概ね波長300~4000nmの範囲に存在し、そして、400nmよりも長波長側の太陽光強度(光エネルギー)は強いが、300~400nmの紫外線領域の光は太陽光スペクトルのテールにあたるので、エネルギー的には大きくないものであり、さらには、短波長側ほどエネルギー的には小さくなるので、300nm以下になると、エネルギー的には十分に小さいものとなる。 したがって、合金化防止透明層が光を吸収するとしても、300nm以下の短波長側の光を吸収させるようにすることにより、光反射層全体としての光吸収量を適切に抑制できるのである。 要するに、本発明の放射冷却装置の特徴構成によれば、光反射層全体としての光吸収量を適切に抑制できる。」に訂正する。 (14) 訂正事項14 願書に添付した明細書の段落【0020】、段落【0021】、段落【0022】、段落【0023】、段落【0024】、段落【0025】、段落【0026】、段落【0027】、段落【0028】、段落【0053】、段落【0054】、段落【0055】、段落【0056】、段落【0057】、段落【0058】、段落【0059】及び段落【0060】を削除する。 4 訂正の適否 (1) 訂正事項1について ア 訂正事項1による訂正は、請求項1において、[A]「第1層」が、「厚さが、50nm以上で、かつ、100nm以下であ」るものに限定し、[B]「合金化防止透明層」が、「300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さである」ものに限定する訂正である。 そうすると、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。 イ 本件特許明細書の【0064】及び【0068】には、それぞれ「第1層B1の厚さ(膜厚)が、50nm以上で且つ100nm以下に構成されている。」及び「合金化防止透明層B3の厚さは、・・・略・・・好ましくは、300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さであり」と記載されている。 そうすると、訂正事項1による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 さらに、訂正事項1による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。 ウ 請求項4~9についてみても同様である。 (2) 訂正事項2について ア 訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正である。 そうすると、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。 イ 上記アのとおりであるから、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3) 訂正事項3について ア 訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正である。 そうすると、訂正事項3による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。 イ 上記アのとおりであるから、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、訂正事項3による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4) 訂正事項4について ア 訂正事項4による訂正は、請求項4が、訂正事項2及び訂正事項3による訂正により削除された請求項2及び請求項3を引用しているという不明瞭な状態を解消させる訂正である。 そうすると、訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。 イ 上記アのとおりであるから、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ウ 請求項5~9についてみても同様である。 (5) 訂正事項5について ア 訂正事項5による訂正は、請求項5が、訂正事項2及び訂正事項3による訂正により削除された請求項2及び請求項3を引用しているという不明瞭な状態を解消させる訂正である。 そうすると、訂正事項5による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。 イ 上記アのとおりであるから、訂正事項5による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ウ 請求項6~9についてみても同様である。 (6) 訂正事項6について ア 訂正事項6による訂正は、請求項6が、訂正事項2及び訂正事項3による訂正により削除された請求項2及び請求項3を引用しているという不明瞭な状態を解消させる訂正である。 そうすると、訂正事項6による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。 イ 上記アのとおりであるから、訂正事項6による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ウ 請求項7~9についてみても同様である。 (7) 訂正事項7について ア 訂正事項7による訂正は、請求項7が、訂正事項2及び訂正事項3による訂正により削除された請求項2及び請求項3を引用しているという不明瞭な状態を解消させる訂正である。 そうすると、訂正事項7による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。 イ 上記アのとおりであるから、訂正事項7による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ウ 請求項8、9についてみても同様である。 (8) 訂正事項8について ア 訂正事項8による訂正は、請求項8が、訂正事項2及び訂正事項3による訂正により削除された請求項2及び請求項3を引用しているという不明瞭な状態を解消させる訂正である。 そうすると、訂正事項8による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。 イ 上記アのとおりであるから、訂正事項8による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (9) 訂正事項9について ア 訂正事項9による訂正は、請求項9が、訂正事項2及び訂正事項3による訂正により削除された請求項2及び請求項3を引用しているという不明瞭な状態を解消させる訂正である。 そうすると、訂正事項9による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。 イ 上記アのとおりであるから、訂正事項9による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (10) 訂正事項10について ア 訂正事項10による訂正は、特許請求の範囲の請求項10を削除する訂正である。 そうすると、訂正事項10による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。 イ 上記アのとおりであるから、訂正事項10による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、訂正事項10による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (11) 訂正事項11について ア 訂正事項11による訂正は、特許請求の範囲の請求項11を削除する訂正である。 そうすると、訂正事項11による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。 イ 上記アのとおりであるから、訂正事項11による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、訂正事項11による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (12) 訂正事項12について ア 訂正事項12による訂正は、訂正事項1による訂正により請求項1の記載が訂正されたことに対応して、明細書の【0012】の記載を請求項1の記載に整合させる訂正である。 そうすると、訂正事項12による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。 イ 上記アのとおりであるから、訂正事項12による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (13) 訂正事項13について ア 訂正事項13による訂正は、訂正事項1による訂正により請求項1の記載が訂正されたことに対応して、明細書の【0019】の記載を請求項1の記載に整合させる訂正である。 そうすると、訂正事項13による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。 イ 訂正事項13による訂正は、本件訂正請求により訂正される前の明細書の【0026】~【0028】及び【0058】~【0060】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (14) 訂正事項14について ア 訂正事項14による訂正は、訂正事項1、訂正事項2、訂正事項3、訂正事項10、訂正事項11による訂正により請求項1、請求項2、請求項3、請求項10及び請求項11の記載が訂正されたことに対応して、明細書の段落【0020】、段落【0021】、段落【0022】、段落【0023】、段落【0024】、段落【0025】、段落【0026】、段落【0027】、段落【0028】、段落【0053】、段落【0054】、段落【0055】、段落【0056】、段落【0057】、段落【0058】、段落【0059】及び段落【0060】を削除する訂正である。 そうすると、訂正事項14による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。 イ 上記アのとおりであるから、訂正事項14による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (15) 明細書の訂正と一群の請求項との関係について 前記(12)~(14)のとおり、訂正事項12~14による明細書の訂正は、一群の請求項である請求項〔1~11〕の全てについて行うものである。 4 まとめ 本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、本件特許の特許請求の範囲及び明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 本件特許の請求項1、請求項4~請求項9に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明4」~「本件特許発明9」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、請求項4~請求項9に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。 「【請求項1】 放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが積層状態で設けられた放射冷却装置であって、 前記光反射層が、銀あるいは銀合金からなる第1層と、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第2層と、銀とアルミニウムとの合金化を防止する合金化防止透明層とを、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層の順に前記赤外放射層に近い側に位置させる形態で積層した状態に構成され、 前記赤外放射層を基板として、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層が積層され、 前記第1層の厚さが、50nm以上で、かつ、100nm以下であり、 前記合金化防止透明層が、300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さである放射冷却装置。」 「【請求項4】 前記第2層の厚さが、10nm以上である請求項1に記載の放射冷却装置。 【請求項5】 前記赤外放射層が、無アルカリガラス、クラウンガラス、ホウケイ酸ガラスのうちのいずれかのガラスにて構成されている請求項1又は4に記載の放射冷却装饂。 【請求項6】 前記赤外放射層と前記第1層との間に、密着層が積層されている請求項1、4、5のいずれか1項に記載の放射冷却装置。 【請求項7】 前記第2層における前記合金化防止透明層の存在側とは反対側に、酸化防止層が積層されている請求項1、4~6のいずれか1項に記載の放射冷却装置。 【請求項8】 前記合金化防止透明層が、透明窒化膜である請求項1、4~7のいずれか1項に記載の放射冷却装置。 【請求項9】 前記合金化防止透明層が、透明酸化膜である請求項1、4~7のいずれか1項に記載の放射冷却装置。」 第4 取消しの理由の概要 令和4年2月28日付け取消理由通知書(決定の予告)により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、次のとおりのものである。 ●理由1(進歩性) 本件特許の請求項1~11に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~11に係る特許は、特許法第29条の規定に逮反してされたものである。 引用例1:国際公開第2016/205717号(甲第1号証) 引用例2:特開2015-18770号公報(甲第2号証) 引用例3:特開2014-120487号公報(甲第3号証) 引用例4:特開2005-276402号公報(甲第4号証) 引用例5:米国特許出願公開第2015/0338175号明細書(甲第5号証) 引用例6:坂田浩伸、「ガラス表面処理における最近の進歩-機械的及び光学的性質の改良一」、窯業協会誌、公益社団法人日本セラミック協会、1978年12月1日、第86巻[12]1000号、p.581-589(インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcersj1950/86/1000/86_1000_581/_pdf/-char/ja>)(甲第6号証) 引用例7:米国特許第9134467号明細書(甲第7号証) (当合議体注:引用例1は主引用例であり、引用例2~7は副引用例又は周知技術を例示する文献である。) 第5 当合議体の判断 1 進歩性について (1) 引用例1の記載 令和4年2月28日付けで特許権者に通知した取消しの理由で引用された引用例1(国際公開第2016/205717号)は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 1頁15行~2頁14行 「 BACKGROUND The disclosed subject matter relates to systems and methods for radiative cooling and heating. Surfaces can absorb and emit heat energy via electromagnetic radiation. The optical properties of a surface can depend in part on the geometry and materials of the surface. During radiative heat transfer, the temperature of a body can increase or decrease depending on the net electromagnetic radiation absorbed by the surface. For example, if the surface absorbs more radiation than is emitted, the temperature of the body can increase. On the other hand, if the surface emits more radiation, the temperature of the body can decrease. Thermal radiation can be used in passive radiative cooling and heating, i.e., radiative cooling and heating that does not require energy input. Accordingly, passive radiative cooling and heating can be used to reduce the amount of energy required to cool or heat a body. Radiative cooling and heating can be used to reduce the energy cost associated with, for example, commercial and residential buildings, as well as vehicles. Certain methods of passive radiative cooling use a surface coating that can be applied to buildings with increased reflectivity of incident solar radiation and increased emissivity in a limited spectral range corresponding to the infrared transmission window of the atmosphere. Other techniques can utilize complex multilayer structures that reflect solar radiation and emit thermal radiation for daytime radiative cooling. However, there remains a need for improved techniques for radiative cooling and heating. 」 (日本語訳) 「 背景技術 本発明は、放射冷却及び加熱用のシステム並びに方法が関連する。 表面は、電磁放射線を介して熱エネルギーを吸収し、放射することができる。表面の光学特性は、ある程度、表面の形状及び材料に依存し得る。放射熱伝達の間、本体の温度は、表面に吸収された正味の電磁放射線に応じて上昇し、又は下降する。例えば、表面が放射する以上の放射線を吸収すると、本体の温度は上昇する。一方、表面がより多くの放射線を放射すると、本体の温度は低下する。 熱放射線は、受動放射及び加熱、すなわちエネルギーの入力を必要としない放射冷却及び加熱に使用することができる。従って、受動放射冷却及び加熱を使用して、本体の冷却又は加熱に必要なエネルギー量を抑制することができる。放射冷却及び加熱を用いて、例えば、商業ビル、居住ビル及び車両に関するエネルギーコストを抑制することができる。 受動放射冷却のある方法は、表面コーティングを使用する。この表面コーティングをビルに適用して、入射太陽放射線の反射率を高めたり、環境の赤外透過窓に対応する限られた空間範囲において、輻射率を高めたりすることができる。他の技術では、複雑な多層化構造が利用され、これにより、昼間放射冷却のため、太陽放射線が反射され、熱放射線が放射される。 しかしながら、放射冷却及び加熱の技術向上がいまだ要望されている。」 イ 2頁16~24行 「 SUMMARY OF THE DISCLOSED SUBJECT MATTER The disclosed subject matter provides systems and methods for radiative cooling and heating. As embodied herein, an example system for radiative cooling can include a top layer including one or more polymers, where the top layer has high emissivity in at least a portion of the thermal spectrum and an electromagnetic extinction coefficient of approximately zero, absorptivity of approximately zero, and high transmittance in at least a portion of the solar spectrum, and a reflective layer, disposed below the top layer, including one or more metals, where the reflective layer has high reflectivity in at least a portion of the solar spectrum, and.(当合議体注:直前の「~a portion of the solar spectrum, and.」は、「~a portion of the solar spectrum.」の誤記と認められる。)」 (日本語訳) 「 発明の概要 本発明では、放射冷却及び加熱用のシステム並びに方法が提供される。一実施形態では、放射冷却用のシステムは、1又は2以上のポリマーからなるトップ層であって、該トップ層は、熱スペクトルの少なくとも一部において、高い輻射率を有し、電磁減衰係数が近似的にゼロであり、吸収率が近似的にゼロであり、太陽スペクトルの少なくとも一部において高い透過率を有する、トップ層と、前記トップ層の下側に配置された反射層であって、1又は2以上の金属を有し、前記太陽スペクトルの少なくとも一部において、高い反射率を有する、反射層と、を含む。」 ウ 12頁下から8行~17頁12行 「 DETAILED DESCRIPTION The presently disclosed subject matter provides systems and methods for radiative cooling and heating. In certain embodiments, the system has low absorptivity in the solar spectrum and high emissivity in the thermal spectrum. Alternatively, the system can have high absorptivity in the solar spectrum, with lower absorptivity in longer wavelengths (e.g., the thermal spectrum). In other embodiments, the system can have high reflectivity over a broad range of wavelengths, including the solar and thermal spectra. Accordingly, the presently disclosed systems can be used in a variety of applications, for both radiative cooling and heating. The radiation properties (e.g., absorptivity, emissivity, reflectivity, and transmittance) of the systems will depend, in part, on the materials and geometry of the system. Accordingly, the materials and geometries can be selected based on a desired radiation profile for an intended application. As used herein, the “solar spectrum” refers to the range of electromagnetic radiation wavelengths spanning the ultraviolet, visible, and near-infrared spectra, in which the sun’s electromagnetic radiation reaches the Earth’s surface after passing through the atmosphere. The solar spectrum thus includes electromagnetic radiation having wavelengths of from about 350 nm to about 2.5 μm. The phrases “solar radiation,” “solar wavelengths” and “sunlight” can be used interchangeably with “solar spectrum.” The “thermal spectrum” refers to the range of electromagnetic radiation wavelengths spanning the mid-infrared spectrum. Objects at or within a few hundred degrees Celsius above the Earth's surface temperature emit radiation in the thermal spectrum. The thermal spectrum thus includes electromagnetic radiation having wavelengths of from about 2.5 μm to about 30 μm. The phrase “thermal radiation” can be used interchangeably with “thermal spectrum.” As used herein, the term “about” or “approximately” means within an acceptable error range for the particular value as determined by one of ordinary skill in the art, which will depend in part on how the value is measured or determined, i.e., the limitations of the measurement system. For example, “about” can mean a range of up to 20%, up to 10%, up to 5%, and or up to 1% of a given value. ・・・略・・・ According to Kirchhoff’s law of thermal radiation, absorptivity equals emissivity. Moreover, for any given material or structure, the emissivity (ε), transmittance (τ), and reflectivity (R) are related by the equation: ε+τ+R=1. Thus, when the material is sufficiently opaque, a negligible amount of light is transmitted through it (i.e., τ is approximately zero), and the equation simplifies to ε+R=1. The infrared transmission window of the atmosphere, which is alternatively termed herein as the “atmospheric transmission window,” is the range of wavelengths within the electromagnetic spectrum over which the atmosphere transmits more than 80% of the radiation travelling through its thickness from the surface of the Earth to outer space. The atmospheric transmission window thus includes electromagnetic radiation having wavelengths of from about 8 μm to about 13.5 μm. As used herein, the phrase "passive radiative cooling,” when used in connection with an object or structure refers to its loss of heat by an intrinsic emission of electromagnetic radiation, a process which itself requires no additional energy. For example, the heat loss can take place in the form of thermal radiation. “Daytime passive radiative cooling” refers to a net passive cooling of an object under the sun by a net loss of radiation. Daytime passive radiative cooling can result when the object has a high solar radiation reflectivity and a high thermal radiation emissivity. ・・・略・・・ “Electromagnetic penetration depth,” or “penetration depth,” of a material is the distance electromagnetic radiation can travel within the material before its intensity is reduced by a factor of e. The penetration depth is a function of the wavelength and the properties of the material. As embodied herein, a system for passive radiative cooling can have low absorptivity in the solar spectrum and high emissivity in the thermal spectrum. For example, the system can have high emissivity in at least a portion of the infrared transmission window of the atmosphere, allowing outer space to act as a heat sink for emitted radiation, which can bypass the relatively warm atmosphere of the Earth. For the purpose of illustration, FIG.1 provides an example absorption spectrum for such a system. As shown in FIG.1, the system has low absorptivity in the solar spectrum, i.e., from about 350 nm to about 2.5 μm. In addition to the low absorptivity in the solar spectrum and high emissivity in the thermal spectrum, the system can have a high reflectivity in the solar spectrum. For example, such high reflectivity can result from the top layer and/or an underlying reflective layer of the system. Therefore, the system can efficiently dissipate heat as thermal radiation as well as reflect back any incident sunlight. Such systems can be used, e.g., for passive radiative cooling. For the purpose of illustration, FIG. 2 provides example reflectivity and emissivity spectra for three such systems. As shown in FIG. 2, the systems have relatively high reflectivity in the solar spectrum and lower reflectivity (i.e., relatively high emissivity) in the thermal spectrum, and particularly in the atmospheric transmission window. 」 (日本語訳) 「 詳細な説明 本発明では、放射冷却及び加熱用のシステムならびに方法が提供される。 ある実施形態では、システムは、太陽スペクトルにおいて低い吸収率を有し、熱スペクトルにおいて高い輻射率を有する。あるいは、システムは、太陽スペクトルにおいて高い吸収率を示し、より長い波長(例えば熱スペクトル)において、低い吸収率を示しても良い。別の実施形態では、システムは、太陽スペクトル及び熱スペクトルを含む広い波長範囲にわたって、高い反射率を示しても良い。 従って、本発明によるシステムは、放射冷却及び放射加熱の双方における、広い用途に使用することができる。システムの放射特性(例えば吸収率、輻射率、反射率、及び透過率)は、ある程度、システムの材料及び形状に依存する。従って、材料及び形状は、意図した用途における所望の放射プロファイルに基づいて選択され得る。 本願において使用される、「太陽スペクトル」という用語は、紫外、可視及び近赤外のスペクトルを網羅する電磁放射線波長を表し、太陽の電磁放射線は、大気を通過して、地上表面に到達する。従って、太陽スペクトルは、約350nmから約2.5μmまでの波長を有する電磁放射線を含む。「太陽放射線」、「太陽波長」及び「太陽光」という用語は、「太陽スペクトル」と相互互換可能に使用され得る。 「熱スペクトル」という用語は、中間赤外スペクトルを網羅する電磁放射線波長の範囲を表す。地上表面温度に対して数百℃又はそれ以下の対象物は、熱スペクトルにおける放射線を放射する。従って、熱スペクトルは、約2.5μmから約30μmまでの波長を有する電磁放射線を含む。「熱放射線」という用語は、「熱スペクトル」と相互互換可能に使用され得る。 本願に使用される「約」又は「近似的に」という用語は、当業者によって定められる特定の値が、許容可能な誤差範囲内にあることを意味する。これは、部分的に、値の測定方法又は算定方法に依存し、すなわち測定系の限界に依存する。例えば、「約」は、所与の値の最大20%、最大10%、最大5%、又は最大1%の範囲を意味し得る。 ・・・略・・・ 熱放射線のキルヒホッフの法則により、吸収率は、輻射率と等しい。また、任意の材料又は構造において、輻射率(ε)、透過率(τ)、及び反射率(R)は、ε+τ+R=1の式で相関する。従って、材料が十分に不透明な場合、光は、無視できる量しかそこを透過せず(すなわちτは近似的にゼロ)、式は、ε+R=1と簡略化できる。 本願において「大気透過窓」とも称される、大気の赤外透過性窓は、電磁スペクトル内の波長範囲であり、この範囲を超えて、大気は、地表からその厚さを介して外側空間まで移動する、80%以上の放射線を透過する。従って、大気透過窓は、約8μmから約13.5μmの波長を有する電磁放射線を含む。 本願において、対象物又は構造に関して使用される「受動放射冷却」という用語は、電磁放射線の固有輻射による熱の損失を表す。この過程自身には、追加のエネルギーが必要となる。例えば、熱損失は、熱放射線の形態で生じ得る。「昼間受動放射冷却」という用語は、放射線の正味の損失による、太陽の下での対象物の正味の受動冷却を表す。昼間受動放射線冷却は、対象物が、高い太陽放射線反射及び高い熱放射線輻射を示す際に生じ得る。 ・・・略・・・ 材料の「電磁浸透深さ」又は「浸透深さ」は、電磁放射線の強度がeだけ低下する前に、電磁放射線が材料内を移動した距離である。浸透深さは、波長及び材料特性の関数である。 本願の一実施形態では、受動放射冷却用のシステムは、太陽スペクトルにおいて低い吸収率を有し、熱スペクトルにおいて高い輻射率を有する。例えば、システムは、大気の赤外透過窓の少なくとも一部において高い輻射率を有し、外側空間は、放射される放射線の熱シンクとして機能できる。これにより、地球の比較的温かい大気がバイパスできる。一例として、図1には、そのようなシステムの吸収スペクトルの例を示す。図1に示すように、システムは、太陽スペクトル、すなわち約350nmから約2.5μmにおいて、低い吸収を示す。 システムは、太陽スペクトルにおける低い吸収と、熱スペクトルにおける高い輻射に加えて、太陽スペクトルにおいて、高い反射を示しても良い。例えば、そのような高反射率は、システムのトップ層、及び/又は下地の反射層から得られる。従って、システムは、熱放射線として、熱を効率的に逸散することができるとともに、任意の入射太陽光を反射することができる。そのようなシステムは、例えば、受動放射冷却に使用することができる。一例として、図2には、3つのそのようなシステムの反射スペクトル及び輻射スペクトルを示す。図2に示すように、システムは、太陽スペクトルにおいて比較的大きな反射率を有し、熱スペクトルにおいて、特に大気透過窓において、低い反射率(すなわち比較的高い輻射率)を有する。」 エ 17頁13~20行 「 For the purpose of illustration and not limitation, FIG. 3 is a schematic representation of a system according to a non-limiting embodiment of the disclosed subject matter. As shown in FIG. 3, the system 300 can include multiple layers in a stacked configuration. As embodied herein, the system 300 can include a substrate 10. When present, the substrate 10 forms the base of the system, and can provide a platform for the other layers. The other layers of the system, not including the substrate, can collectively be called a “coating.” The substrate can be an inert material.」 (日本語訳) 「 限定の目的ではなく図示の目的で、図3は、本発明の非限定的な実施形態によるシステムの概略図である。図3に示すように、システム300は、積層構造の複数の層を含むことができる。 一実施形態では、システム300は、基板10を有しても良い。基板10が存在する場合、該基板10は、システムの基部を形成し、他の層のプラットフォームを提供する。システムの基板を除く他の層は、合わせて「コーティング」と称される。基板は、不活性材料であっても良い。」 オ 18頁11行~21頁15行 「 As embodied herein, and with continued reference to FIG. 3, the system 300 can include a reflective layer 20 adjacent to the substrate 10, if present. The reflective layer can reflect incident electromagnetic radiation. For example, a reflective layer can make the system more suitable for daytime passive radiative cooling. The reflective layer can also facilitate heat transfer from substrate. In certain embodiments, the reflective layer reflects radiation in at least a portion of the solar spectrum. Thus, as embodied herein, the reflective layer can have high reflectivity in at least a portion of the solar spectrum. For example, and not limitation, the reflective layer can include a single layer of a metal, such as silver or aluminum. As embodied herein, the reflective layer can also include two or more layers, each including one or more metals. For example, a smooth metal layer having low reflectivity at certain wavelengths can have its reflectivity enhanced by layering a thin film of a different metal, having a higher reflectivity and small electromagnetic penetration depth in those wavelengths, on top. As embodied herein, the thickness of the thin film can be comparable to, or greater than, its electromagnetic penetration depth at those wavelengths, such that minimal incident radiation in those wavelengths reaches the underlying metal layer. Therefore, for example, the reflective layer can include an upper layer and a lower layer. The upper layer can have a reflectivity of greater than about 0.8 and a first electromagnetic penetration depth within a first wavelength range in at least a portion of the solar spectrum. For example, the first electromagnetic penetration depth of the upper layer can be approximately 10 nm. In a second wavelength range in at least a portion of the solar spectrum, the upper layer can have a second electromagnetic penetration depth that is greater than the first electromagnetic penetration depth. For example, the second electromagnetic penetration depth of the upper layer can be approximately 20 nm. A lower layer can have a lower reflectivity than the upper layer in the first wavelength range and a higher reflectivity than the upper layer in the second wavelength range. The thickness of the upper layer can be approximately greater than or equal to the first electromagnetic penetration depth within the first wavelength range and approximately less than the second electromagnetic penetration depth within the second wavelength range. As such, radiation in the first wavelength range will generally interact only with the upper layer. Additionally, the reflectivity of the reflective layer as a whole can be greater than the reflectivity of the lower layer in the first wavelength range but greater than the reflectivity of the upper layer in the second wavelength range. In this manner, the overall reflectivity of the reflective layer in the first wavelength range will be approximately the same as the reflectivity of the upper layer in that range. Moreover, radiation in the second wavelength range will generally be reflected by both the upper layer and the lower layer and thus the overall reflectivity of the reflective layer in the second wavelength range will approach the reflectivity of the lower layer in that range. In this manner, a two-layer reflective layer can have increased reflectivity across the combined first and second wavelength ranges as compared to either of the constituents of the upper layer or the lower layer independently. A person of ordinary skill in the art will appreciate that this concept can be extended to a reflective layer having three or more layers, and to wavelength ranges that he outside the solar spectrum. In particular embodiments, a two-layer reflective layer can have an upper layer including silver and a lower layer including aluminum. The upper layer, i.e., the silver, can have a thickness of from about 5 nm to about 50 nm. The lower layer can have a greater thickness than the upper layer, e.g., greater than about 200 nm. As illustrated in FIG. 4, this configuration was observed to have a reflectivity in the solar spectrum that is 2-3% greater (depending on the thickness of the upper layer) than the reflectivity of silver and aluminum taken independently. In certain embodiments, the reflective layer can have an overall thickness of from about 50 nm to about 800 nm. ・・・略・・・ As embodied herein, a top layer 40 can be disposed adjacent to the protective layer, or as shown in FIG. 3, adjacent to the reflective layer 20. The top layer 40 can have high emissivity in the thermal spectrum. Additionally or alternatively, the top layer 40 can have high transmittance and negligible absorptivity in the solar spectrum. The top layer 40 can have a thickness of from about 5 μm to about 500 μm. The material of the top layer 40 can be chosen based on the desired radiation properties of the system 300, as well as the operating temperature and radiation source. Thus, the materials of the top layer 40 can depend on the intended use of the system 300.」 (日本語訳) 「 一実施形態として、さらに図3を参照すると、システム300は、基板10が存在する場合、該基板10に隣接する反射層20を有する。反射層は、入射電磁放射線を反射することができる。例えば、反射層は、システムを昼間受動放射冷却により適したものにできる。また、反射層は、基板からの熱伝達を容易にできる。ある実施形態では、反射層は、太陽スペクトルの少なくとも一部において、放射線を反射する。従って、一実施形態では、反射層は、太陽スペクトルの少なくとも一部において、高い輻射率を有する。 例えば、これに限られるものではないが、反射層は、銀又はアルミニウムのような金属の、単一層を含んでも良い。ある実施形態では、反射層は、2又は3以上の層を含み、各層は、1又は2以上の金属を含んでも良い。例えば、ある波長で低い反射率を有する平滑な金属層は、異なる金属の薄膜を上部に層化することにより反射率が強化され、これらの波長において大きな反射率及び小さな電磁浸透深さを有するようにできる。一実施形態では、薄膜の厚さは、その波長での電磁浸透深さと同等、又はより大きくなるようにでき、その波長において最小の入射放射線が、下地の金属層に到達する。 従って、例えば、反射層は、上部層及び下部層を含んでも良い。上部層は、太陽スペクトルの少なくとも一部における第1の波長範囲内で、約0.8よりも大きな反射率を有し、第1の電磁浸透深さを有する。例えば、上部層の第1の電磁浸透深さは、約10nmであっても良い。太陽スペクトルの少なくとも一部の第2の波長範囲では、上部層は、第2の電磁浸透深さを有し、これは、第1の電磁浸透深さよりも大きい。例えば、上部層の第2の電磁浸透深さは、約20nmであっても良い。下部層は、第1の波長範囲において、上部層よりも低い反射率を有し、第2の波長範囲において、上部層よりも高い反射率を有する。 上部層の厚さは、近似的に、第1の波長範囲内での第1の電磁浸透深さよりも大きく、又はほぼ同等であり、近似的に、第2の波長範囲の第2の電磁浸透深さよりも小さい。従って、通常、第1の波長範囲における放射は、上部層とのみ相互作用する。また、概して、第1の波長範囲における反射層の反射率は、下部層の反射率よりも大きいが、第2の波長範囲における上部層の反射率よりも大きい。このように、第1の波長範囲における反射層の全体の反射率は、近似的に、その波長範囲における上部層の反射率と同じである。また、通常、第2の波長範囲における放射線は、上部層及び下部層の両方により反射され、従って、第2の波長範囲における反射層の全体の反射率は、その範囲における下部層の反射率に近づく。 このように、2層の反射層は、第1及び第2の組み合わされた波長範囲にわたって、上部層又は下部層のいずれか一方を独立で構成した場合に比べて、反射率を高めることができる。当業者には、この概念を、3層以上の反射層、及び太陽スペクトルの外側に位置する波長範囲に拡張できることは明らかである。 特定の実施形態では、2層の反射層は、銀を含む上部層とアルミニウムを含む下部層とを持つことができる。上部層、即ち銀は、約5nmから約50nmの厚さを持つことができる。下部層は、上部層よりも大きな厚さ、例えば約200nmよりも大きな厚さを持つことができる。図4に示すように、この構成では、太陽スペクトルにおいて、銀及びアルミニウムを独立に使用した反射率よりも、2~3%(上部層の厚さに依存する)大きな反射率が観測されている。 ある実施形態においては、反射層は、約50nmから約800nmの全体厚さを持つことができる。 ・・・略・・・ ある実施形態では、トップ層40は、保護層と隣接して設置され、あるいは図3に示すように、反射層20に隣接して設置される。トップ層40は、熱スペクトルにおいて、高い輻射率を有することができる。これに加えて又はこれとは別に、トップ層40は、太陽スペクトルにおいて、高い透過率を有し、吸収が無視できる。トップ層40は、約5μmから約500μmの厚さを持つことができる。 トップ層40の材料は、作動温度及び放射線源と同様、システム300の望まれる放射特性に基づき選定される。従って、トップ層40の材料は、システム300の使用目的に依存する。」 カ 45頁1行~46頁22行 「WHAT IS CLAIMED IS: 1. A system for radiative cooling, comprising: a top layer comprising one or more polymers, wherein the top layer has high emissivity in at least a portion of the thermal spectrum, and an electromagnetic extinction coefficient of approximately zero, absorptivity of approximately zero, and high transmittance in at least a portion of the solar spectrum; and a reflective layer, disposed below the top layer, comprising one or more metals, wherein the reflective layer has high reflectivity in at least a portion of the solar spectrum. ・・・略・・・ 6. The system of any of claims 1-5, wherein the top layer can be used for passive radiative cooling in the absence of the reflective layer. 7. The system of any of claims 1-6, wherein the system can be used for daytime passive radiative cooling. 8. The system of any of claims 1-7, wherein the reflective layer comprises: an upper layer including a metal and having reflectivity of greater than about 0.8 and a first electromagnetic penetration depth in a first wavelength range within the solar spectrum; and a second electromagnetic penetration depth in a second wavelength range within the solar spectrum, wherein the second electromagnetic penetration depth is greater than the first electromagnetic penetration depth, and the first and second wavelength ranges are different; a lower layer including a metal and having a lower reflectivity than the upper layer in the first wavelength range and a higher reflectivity than the upper layer in the second wavelength range; wherein the upper layer has a thickness that is approximately greater than or equal to the first penetration depth and less than the second penetration depth. ・・・略・・・ 10. The system of claim 8, wherein the upper layer comprises silver and/or the lower layer comprises aluminum. 11. The system of claim 8, wherein the thickness of the upper layer is from about 5 nm to about 50 nm.」 (日本語訳) 「請求の範囲: 1. 放射冷却用のシステムであって、 1又は2以上のポリマーからなるトップ層であって、熱スペクトルの少なくとも一部において、高い輻射率を有し、太陽スペクトルの少なくとも一部において、電磁減衰係数が近似的にゼロであり、吸収率が近似的にゼロであり、高い透過率を有する、トップ層と、 前記トップ層の下側に配置された反射層であって、1又は2以上の金属からなり、前記太陽スペクトルの少なくとも一部において、高い反射率を有する、反射層と、からなる、システム。 ・・・略・・・ 6. 前記上部層は、前記反射層が存在しない場合、受動放射冷却に使用できる、請求項1乃至5のいずれか一つに記載のシステム。 7. 当該システムは、昼間受動放射冷却に使用できる、請求項1乃至6のいずれか一つに記載のシステム。 8. 前記反射層は、 金属を含み、約0.8よりも大きな反射率を有し、前記太陽スペクトルの第1の波長範囲において第1の電磁浸透深さを有し、前記太陽スペクトルの第2の波長範囲において第2の電磁浸透深さを有する上部層であって、前記第2の電磁浸透深さは、前記第1の電磁浸透深さよりも大きく、前記第1及び第2の波長範囲は異なる、上部層と、 金属を含み、前記第1の波長範囲において前記上部層よりも低い反射率を有し、前記第2の波長範囲において前記上部層よりも高い反射率を有する下部層と、からなり、 前記上部層は、前記第1の浸透深さよりも近似的に大きく、または同等の厚さを有し、前記第2の浸透深さよりも小さな厚さを有する、請求項1乃至7のいずれか一つに記載のシステム。 ・・・略・・・ 10. 前記上部層は、銀からなり、及び/または前記下部層は、アルミニウムからなる、請求項8に記載のシステム。 11. 前記上部層の厚さは、約5nmから約50nmである、請求項8に記載のシステム。」 キ 図1(図面1/29頁) 「 [図:0001393063000001.jpg] 」 (日本語訳) 「 [図:0001393063000002.jpg] 」 ク 図2(図面2/29頁) 「 [図:0001393063000003.jpg] 」 (日本語訳) 「 [図:0001393063000004.jpg] 」 ケ 図3(図面3/29頁) 「 [図:0001393063000005.jpg] 」 (日本語訳) 「 [図:0001393063000006.jpg] 」 コ 図4(図面4/29頁) 「 [図:0001393063000007.jpg] 」 (日本語訳) 「 [図:0001393063000008.jpg] 」 (当合議体注:上記キ~コにおいては、便宜上、図面をいずれも90度回転している。) (2) 引用発明 ア 引用例1の請求の範囲(上記(1)カ参照)には、請求項1及び請求項8を引用する請求項10に係る「放射冷却用のシステム」が記載されているところ、請求項10の記載によれば、請求項10には、放射冷却用のシステムとして、「前記上部層は、銀からなり、及び」「前記下部層は、アルミニウムからなる」態様が記載されていることが把握できる。 イ 上記アより、引用例1には、請求項1及び請求項8を引用する請求項10に係る「放射冷却用のシステム」において「前記上部層は、銀からなり、及び」「前記下部層は、アルミニウムからなる」態様とした、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「放射冷却用のシステムであって、 1又は2以上のポリマーからなるトップ層であって、熱スペクトルの少なくとも一部において、高い輻射率を有し、太陽スペクトルの少なくとも一部において、電磁減衰係数が近似的にゼロであり、吸収率が近似的にゼロであり、高い透過率を有する、トップ層と、 前記トップ層の下側に配置された反射層であって、1又は2以上の金属からなり、前記太陽スペクトルの少なくとも一部において、高い反射率を有する、反射層と、を有し、 前記反射層は、 金属を含み、約0.8よりも大きな反射率を有し、前記太陽スペクトルの第1の波長範囲において第1の電磁浸透深さを有し、前記太陽スペクトルの第2の波長範囲において第2の電磁浸透深さを有する上部層であって、前記第2の電磁浸透深さは、前記第1の電磁浸透深さよりも大きく、前記第1及び第2の波長範囲は異なる、上部層と、 金属を含み、前記第1の波長範囲において前記上部層よりも低い反射率を有し、前記第2の波長範囲において前記上部層よりも高い反射率を有する下部層と、からなり、 前記上部層は、前記第1の浸透深さよりも近似的に大きく、または同等の厚さを有し、前記第2の浸透深さよりも小さな厚さを有し、 前記上部層は、銀からなり、及び前記下部層は、アルミニウムからなる、放射冷却用のシステム。」 (3) 本件特許発明1について ア 対比 (ア) 赤外放射層 a 引用発明においては、「トップ層の下側に」「反射層」が「配置され」ている。 そうすると、引用発明においては、下側の「反射層」及び上側の「トップ層」が積層状態で設けられているということができる。 b 引用発明の「トップ層」は、「熱スペクトルの少なくとも一部において、高い輻射率を有」するものである。 引用発明でいう「熱スペクトル」は、引用例1の13頁14~19行(上記(1)ウ参照)に定義されるとおり、「中間赤外スペクトルを網羅する電磁放射線波長の範囲を表」し、「約2.5μmから約30μmまでの波長を有する電磁放射線を含む。 そうすると、「トップ層」の前記輻射特性からみて、引用発明の「トップ層」は、「赤外」光を放射するということができる。 また、上記aより、引用発明の「トップ層」は、「トップ層」の「反射層」が設けられた下側の面とは反対側の上側の面を放射面として、放射面から「赤外」光を放射しているということができる。 してみると、引用発明の「トップ層」は、本件特許発明1の、「放射面から赤外光を放射する」とされる、「赤外放射層」に相当する。 (イ) 光反射層、第1層及び第2層 a 引用発明の「反射層」は、「1又は2以上の金属からなり、前記太陽スペクトルの少なくとも一部において、高い反射率を有する」ものであり、「金属を含」む「上部層」と、「金属を含」む「下部層」とからなる。 また、引用発明でいう「太陽スペクトル」は、引用例1の13頁7~13行(上記(1)ウ参照)に定義されるとおり、「紫外、可視及び近赤外のスペクトルを網羅する電磁放射線波長を表し」、「約350nmから約2.5μmまでの波長を有する電磁放射線を含む」ものである。 そうすると、引用発明の「反射層」は、光反射層ということができる。 b 上記(ア)aより、引用発明の「反射層」は、「トップ層」における放射面の存在側とは反対側に位置することが理解できる。 また、引用発明の「トップ層」及び「トップ層の下側に配置された反射層」との記載から理解される上下関係に基づけば、引用発明の「反射層」は、「上部層」と「下部層」とを、「上部層」を「トップ層」に近い側に位置させる形態で積層した状態に構成されているということができる。 そうすると、上記aより、引用発明の「反射層」は、本件特許発明1の、「当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる」とされる、「光反射層」に相当する。 c 引用発明は、「反射層」の「前記上部層は、銀からなり」、「前記下部層は、アルミニウムからなる」。 そうすると、引用発明における上下関係に基づけば、引用発明の「反射層」は、銀からなる「上部層」と、アルミニウムからなる「下部層」とを有し、「上部層」と、「下部層」とを、「上部層」及び「下部層」の順に「トップ層」に近い側に位置させる形態で積層した状態で構成されているということができる。 してみると、引用発明の「上部層」及び「下部層」は、それぞれ本件特許発明1の、「銀あるいは銀合金からなる」とされる、「第1層」、及び、「アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる」とされる、「第2層」に相当する。 (ウ) 放射冷却装置 上記(ア)及び(イ)より、引用発明の「放射冷却用のシステム」は、本件特許発明1の「放射冷却装置」に相当する。 また、上記(ア)aより、引用発明は、本件特許発明1の、「赤外放射層と」、当該赤外放射層における前記放射面の存在する側とは反対側に位置させる光反射層とが積層状態でもうけられた」との要件を具備する。 さらに、上記(イ)bとcより、引用発明と、本件特許発明1は、「前記光反射層が」、「第1層」と、「第2層」とを有し、「前記第1層」、「前記第2層」の順に「前記赤外放射層」に近い側に位置させる形態で構成されている点で共通する。 イ 一致点及び相違点 (ア) 一致点 本件特許発明1と引用発明は、次の構成で一致する。 「放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが積層状態で設けられた放射冷却装置であって、 前記光反射層が、第1層と、第2層とを有し、前記第1層、前記第2層の順に前記赤外放射層に近い側に位置させる形態で構成されている放射冷却装置。」 (イ) 相違点 本件特許発明1と引用発明は、以下の点で相違する。 (相違点1-1) 「光反射層」について、本件特許発明1においては、「前記光反射層が、銀あるいは銀合金からなる第1層と、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第2層と、銀とアルミニウムとの合金化を防止する合金化防止透明層とを、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層の順に前記赤外放射層に近い側に位置させる形態で積層した状態に構成され」、「前記赤外放射層を基板として、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層が積層され」、「前記合金化防止透明層が、300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さである」のに対して、引用発明においては、このような構成を備えるものではない点。 (相違点1-2) 「第1層の厚さ」について、本件特許発明1においては、「50nm以上で、かつ、100nm以下であ」るのに対して、引用発明においては、「上部層」の厚さが特定されていない点。 ウ 判断 (ア) 相違点1-1について a 引用例2の【0001】、【0019】~【0020】、【0037】、【0041】、【0059】~【0061】、【0067】及び図1には、有機EL素子において、対電極4に補助反射層6を直接重ねると、拡散やマイグレーションにより補助反射層6中の金属が移動し、対電極4を構成する銀が合金化し、反射性が低下することから、対電極4と補助反射層6との間に、金属が拡散して移動することを阻害する(青色、緑色及び赤色の波長の消衰係数が小さい)拡散阻害層5を設けること、【0062】には、拡散阻害層5の厚みを、対電極4の厚みよりも小さくすると、光の反射性を効率よく高め、光の取り出し効率を向上することができること、拡散阻害層5の厚みが対電極4の厚みよりも大きくなると、拡散阻害層5による光吸収作用が大きくなること、拡散阻害層5の厚みが厚いと対電極4を透過した光による光干渉作用の影響が大きくなり、光反射層構造全体として反射性が低下するおそれがあること、【0063】には、拡散阻害層5の厚みは5nm以上であることが好ましく、それにより、成分の拡散を阻害する作用をより高めることができること、拡散阻害層5の厚みは20nm以下が好ましく、それにより拡散阻害層5による光吸収を抑制するとともに、光干渉の影響を小さくすることができること、拡散阻害層5の厚みは10nm以下がより好ましいことが記載されている。 また、引用例2の【0086】~【0087】には、実施例として、有機EL素子において、対電極4を厚み30nmのAg層、拡散阻害層5を厚み5nmのLiF層、補助反射層6を厚み60nmのAl層とし、拡散阻害層5により、補助反射層6の金属(Al)が対電極4に移動して、対電極4のAgが合金化し、対電極4の反射率の低下を抑制することが記載されている。 また、引用例3の【0001】、【0030】及び図1には、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置やタッチパネルなどの入力装置に用いられる電極において、第1層(Al合金膜)と第3層(Ag合金膜)との間に中間層として、Al拡散防止層としての機能を発揮する第2膜(拡散防止膜)を設けて、Alが拡散するのを防止し、第3層(Ag合金膜)の反射率の低下を抑制すること、【0038】には、良好な反射率、配線抵抗を確保するためには第2層(拡散防止膜)の成分組成、膜厚を適切に制御することが有効であること、【0062】には、十分な拡散バリア性を確保する観点からは、膜厚は3nm以上とする必要があり、一方、第2層(拡散防止膜)の膜厚が厚くなりすぎると、電気抵抗率の高い第2層が配線全体に占める比率が上昇することで配線抵抗が上昇することから50nm以下とする必要があることが記載されている。 さらに、引用例4の【0001】、【0011】、【0015】及び図1には、レーザ光線照射等の光学的手法によって、高密度、高速度での情報の記録、再生、消去、書き換えが可能な光学的情報記録媒体において、Agを主成分とする材料からなる第1の金属層、バリア層、Alを主成分とする材料からなる第2の金属層をこの順に有する構成とし、室温で保持していても徐々に第1の金属層のAg元素が第2の金属層のAl中に拡散し、第2の金属層の反射率が低下することが考えられるが、両者の間にバリア層を設けることにより、反射率低下を防止すること、バリア層の膜厚は1nm以上20nm未満であることが好ましく、この範囲以外の膜厚では冷却能が低下するためC/N比が低下し、ディスク特性に影響を及ぼすこと、が記載されている。 また、引用例4の【0075】には、実施例として、Agを主成分とする第1の金属層2、Ni層(厚さ:5nm)からなるバリア層3、Alを主成分とする第2の金属層4を積層することが記載されている。 b 上記aに示されるとおり、(相互)拡散及び(相互)拡散による金属の移動により合金化現象が生じ、反射率が低下すること、該反射率の低下を、金属の拡散を防ぐバリア層により抑制すること自体は、本件特許の先の出願日前に当業者に周知の技術的事項であったといえる。 しかしながら、引用例2ないし4にそれぞれ記載の技術的事項は、あくまで、有機EL素子や表示装置等の技術分野において知られたものである。 そうすると、たとえ引用発明において、2層の反射層として、銀を含む上部層とアルミニウムを含む下部層とを有することにより、拡散による金属の移動による合金化現象及び反射率の変化が想定し得るとしても、技術分野を異にし、合金化防止透明層の厚み等の構造を異にする引用例2ないし4に示される技術的事項を、ただちに適用しようとする動機付けはないといえる。 すなわち、上記(ア)aのとおり、引用例2の拡散阻害層は、有機EL素子の反射電極に設けられるものであるから、成分の拡散の阻害だけでなく、光の取り出し効率や、光吸収作用、光干渉作用の影響をも考慮して設計されるものであるところ、その厚みは、20nm以下のごく薄いものである上、引用例2の記載からは「300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さ」とする技術思想を読み取ることはできない。 したがって、引用発明の放射冷却用のシステムと引用例2に記載の技術的事項は、技術分野を異にするものであって、引用発明に、引用例2の拡散阻害層の構造をただちに当てはめられるものではないし、当てはめたところで、反射層に要求される反射特性や対象とする電磁波の波長範囲も異なるのであるから、相違点1-1に係る「300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さ」に至ることはない。 引用例3あるいは引用例4に基づき検討しても同様である。 すなわち、上記aのとおり、引用例3のAl拡散防止層は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置やタッチパネルなどの入力装置に用いられる電極として、良好な配線抵抗も考慮して設定されたものであって、引用発明の放射冷却用のシステムと引用例3の表示装置、入力装置とは技術分野を異にするものであり、反射層に要求される反射特性や対象とする電磁波の波長範囲も異なる結果、相違点1-1に係る「300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さ」を有する構造を有しないものである。 また、引用例4のバリア層は、レーザ光線照射等の光学的手法を用いた光学的情報記録媒体として、冷却能の低下、C/N比の低下、ディスク特性への影響も考慮して設定されたものであって、引用発明の放射冷却用のシステムと引用例4のレーザ光線照射等の光学的手法を用いた光学的情報記録媒体への記録技術とは技術分野を異にするものであり、反射層に要求される反射特性や対象とする電磁波の波長範囲も異なる結果、相違点1-1に係る「300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さ」を有する構造を有しないものである。 さらに、令和4年2月28日付けで特許権者に通知した取消しの理由で引用された引用例5~7にも、300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さの合金化防止透明層は記載も示唆もされていない。 c 令和4年7月13日付け意見書における特許異議申立人の主張について 相違点1-1に関し、特許権者は、令和4年7月13日付け意見書(以下単に「意見書」という。)の「(3)特許性が否定されるべき理由」「(3-3)合金化防止層の厚さについて」において、 「引用例5(甲第5号証)の放射冷却装置には、TiO2、SiO2等からなる10nmオーダーの透明層を含む反射層が開示されており、紫外線を含む太陽スペクトルを反射させることが記載されている(引用例5、段落[0039]、[0105]、FIG.1、FIG.11A及びFIG.11B)。」、 「当業者は引用例5のFIG.1、FIG.11A等により、放射冷却装置の太陽スペクトルの紫外線,可視光及び赤外線の反射層として透明絶縁層を使用できる、つまり合金化防止透明層を、太陽スペクトルの紫外線,可視光及び赤外線の反射層としても用いることが容易に分かる。」、 「参考資料2(特開2017-122779号公報)を用いて、訂正請求に係る数値限定が周知事項に過ぎないことを補足する。」、 「参考資料2には「第1赤外反射層41と第2赤外反射層42との間に透明スペーサ層50を挿入したファブリペロー共振器を備えた赤外線反射フィルムが開示されており、可視光を共振させるために透明スペーサ層の光学膜厚を、100nm~200nm程度にする。」ことが記載され、2つの反射層の間に挿入される透明スペーサ層を、所望の特定の波長に共振させることは周知の技術である(参考資料2、段落[0003]、及び図1ご参照)。」、 「よって、甲第1号証に、甲第2号証(あるいは甲第3号証、甲第4号証)を適用し、合金化防止透明層に、反射層となる透明絶縁層を用いる甲第5号証を適用し、「前記合金化防止層が、300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴周波数とする厚さである」とすることは、当該周知の技術の適用の動機付けがある。」と主張する。 しかしながら、引用例5(甲第5号証)に記載のTiO2、SiO2等からなる透明層は、太陽スペクトルを反射するために、Agベース層上に誘電体多層膜として形成されたものであって、そもそも合金化防止層ではない。また、透明層を設ける目的が異なる以上、引用発明における反射層を構成するAgからなる上部層とアルミニウムからなる下部層との間に、引用例5に記載のTiO2、SiO2等からなる透明層を採用する動機付けはない。 さらに、参考資料2の【0003】に記載のファブリペロー共振器は、遮熱性および可視光透過率に優れ、かつ耐久性の高い赤外線反射フィルム(【0001】)において、可視光を選択的に透過し、近赤外線を選択的に反射可能とするために、そのスペーサ層の光学膜厚を100~200nmとして、可視光の波長領域に透過波長のピークを有するようにしたものであり、引用発明とは、技術分野を異にする結果、求められる反射透過特性も異なるのであるから、参考資料2に記載のファブリペロー共振器のスペーサ層及びスペーサ層の光学膜厚を、引用発明に採用することは、当業者が容易に想到し得たことでない。 引用例2~4については、上記bにおいて述べたとおりである。 以上のとおりであるから、意見書における異議申立人の主張を採用することはできない。 d 以上のとおりであるから、引用発明において、相違点1-1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものではない。 (イ) 相違点1-2について a 引用発明は、「反射層」を、「約0.8よりも大きな反射率を有し、前記太陽スペクトルの第1の波長範囲において第1の電磁浸透深さを有し、前記太陽スペクトルの第2の波長範囲において第2の電磁浸透深さを有する上部層であって、前記第2の電磁浸透深さは、前記第1の電磁浸透深さよりも大きく、前記第1及び第2の波長範囲は異なる、上部層と」、「前記第1の波長範囲において前記上部層よりも低い反射率を有し、前記第2の波長範囲において前記上部層よりも高い反射率を有する下部層と、からなり」、「前記上部層は、前記第1の浸透深さよりも近似的に大きく、または同等の厚さを有し、前記第2の浸透深さよりも小さな厚さを有し」、「前記上部層は、銀からなり」、「前記下部層は、アルミニウムからなる」構成としたものである。 b ここで、引用例1には、反射層を上部層及び下部層からなる2層とすることや、反射層の厚みについて、 (A)「反射層は、2又は3以上の層を含み、各層は、1又は2以上の金属を含んでも良い。例えば、ある波長で低い反射率を有する平滑な金属層は、異なる金属の薄膜を上部に層化することにより反射率が強化され、これらの波長において大きな反射率及び小さな電磁浸透深さを有するようにできる。」、 (B)「例えば、上部層の第1の電磁浸透深さは、約10nmであっても良い。太陽スペクトルの少なくとも一部の第2の波長範囲では、上部層は、第2の電磁浸透深さを有し、これは、第1の電磁浸透深さよりも大きい。例えば、上部層の第2の電磁浸透深さは、約20nmであっても良い。下部層は、第1の波長範囲において、上部層よりも低い反射率を有し、第2の波長範囲において、上部層よりも高い反射率を有する。」、 (C)「上部層の厚さは、近似的に、第1の波長範囲内での第1の電磁浸透深さよりも大きく、又はほぼ同等であり、近似的に、第2の波長範囲の第2の電磁浸透深さよりも小さい。」、 (D)「このように、2層の反射層は、第1及び第2の組み合わされた波長範囲にわたって、上部層又は下部層のいずれか一方を独立で構成した場合に比べて、反射率を高めることができる。」、 (E)「2層の反射層は、銀を含む上部層とアルミニウムを含む下部層とを持つことができる。上部層、即ち銀は、約5nmから約50nmの厚さを持つことができる。下部層は、上部層よりも大きな厚さ、例えば約200nmよりも大きな厚さを持つことができる。」、 (F)「図4に示すように、この構成では、太陽スペクトルにおいて、銀及びアルミニウムを独立に使用した反射率よりも、2~3%(上部層の厚さに依存する)大きな反射率が観測されている。」、 (G)「反射層は、約50nmから約800nmの全体厚さを持つことができる。」、と記載されている(上記(2)オ参照。)。 また、引用例1の請求項11には、(H)「前記上部層の厚さは、約5nmから約50nmである」と記載されている(上記(2)カ参照。)。 c 引用例1の上記bに示されるとおり、引用発明は、反射層を、銀からなる上部層と、アルミニウムからなる下部層とを積層した構成とすることにより、上部層又は下部層のいずれか一方で独立で構成した場合に比べて、反射率を高めることができるようにしたものであるところ、引用例1には、銀を含む上部層とアルミニウムを含む下部層の厚みについて、上部層の厚みを、約5nmから約50nmの厚みとし、下部層の厚みを、上部層よりも厚く、例えば約200nmよりも大きな厚みとすることが記載されている。 そうすると、引用例1から、銀からなる上部層(第1層)の厚みを、最適な厚みとして示された、約5nmから約50nmの範囲から、あえて、50nm以上100nm以下の範囲に変更する動機付けとなるような記載を読み取ることはできない。 してみると、引用発明において、引用例1の記載に基づいて、相違点1-2に係る構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。 d 取り消しの理由で引用された引用例7に基づいて検討しても同様である。 すなわち、引用例7には、(I)アルミニウムを含む層102と銀を含む層110とを積層したミラーにおいて、銀を含む層110を薄く形成することにより、高価な銀材料によるコスト増を小さくできること(4欄38~43行)、(J)銀を含む層110を、4~50nm、4~25nm、7~25nm、8~24nm、9~20nm、10~14nm、10nmとすること、アルミニウムを含む層102を、15~200nm、18~100nm、18~70nm、18~40nm、20~37.5nm、25~37.5nm、30nmとすること、銀を含む層110を、アルミニウムを含む層102よりも薄くすること、銀を含む層110を、アルミニウムを含む層102よりも少なくとも5nm(より好ましくは少なくとも10nm)薄くすること(5欄19~42行)、(K)反射層の2層の合計厚みが、30~200nm、40~100nm、40~60nmであり、アルミニウムを含む層102が銀を含む層110よりも通常厚いことがよいこと(6欄15~21行)、が記載されている。 しかしながら、引用例7には、2層構造の反射層において、銀からなる層を、高価な銀材料によるコスト増を小さくするために薄くすることが記載されているのであって、銀からなる層の厚みを、50nm以上100nm以下の範囲とすることなど開示も示唆もされていない。 取り消しの理由で引用された引用例2~6を参照しても上記判断を左右するものではない。 e 令和4年7月13日付け意見書における特許異議申立人の主張について 相違点1-2に関し、特許権者は、意見書の「(3)特許性が否定されるべき理由」「(3-1)第1層の厚さについて」において、 引用例1の図4を参照し、太陽スペクトルにおいて可視光及び赤外線の反射率を向上させるには可視光の反射率が上がるようにすればよいことは技術常識であり、参考資料1(再公表特許WO2007/013269号公報)の【0020】に、可視光領域で使用される反射膜用積層体の「銀膜の膜厚は、60~200nm、特に80~120nmが好ましい。」と記載されているように、「前記第1層の厚さが、50nm以上100nm以下」の範囲は周知の技術事項にすぎないことから、引用例1及び参考資料1の記載により、甲第1号証(引用例1)に、可視光の反射率を高める銀の膜厚を記載した甲第7号証(引用例7)を適用し、「前記第1層の厚さが、50nm以上100nm以下であり」とすることは、当該周知の技術の適用という動機付けがあると主張する。 しかしながら、上記cで述べたとおり、引用例1には、反射層を上部層及び下部層の2層とした反射層において、銀からなる上部層(第1層)の厚みについて、約5nmから約50nmの厚みとすることが記載されていることから、参考資料1に銀膜の厚み範囲自体として、60~200nm、特に80~120nmとすることが記載されていたとしても、引用発明において、これらの厚みを採用することが、当業者にとり動機付けられたものとはいえない。また、上記dで述べたとおり、引用例7には、2層構造の反射層において、銀からなる層の厚みを、50nm以上100nm以下の範囲とすることなど開示も示唆もされていない。 以上のとおりであるから、意見書における異議申立人の主張を採用することはできない。 f 以上のとおりであるから、引用発明において、相違点1-2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。 (ウ) 本件特許発明1の効果 本件特許発明1は、相違点1-1及び相違点1-2に係る構成を具備することにより、 「第1層の厚さを薄くして、光反射層の低廉化を図りながらも、厚さが300nm以上の銀からなる金属層として構成する場合と同等の大きな冷却能力を得ることができる。」、 「銀とアルミニウムとが合金化することを抑制できるため、光反射層の光の吸収を回避しながら、光反射層により光を適切に反射する状態を長期間に亘って維持させて、長期間に亘って冷却作用を良好に発揮させることができる。」、 「太陽光スペクトルは概ね波長300~4000nmの範囲に存在し、そして、400nmよりも長波長側の太陽光強度(光エネルギー)は強いが、300~4000nmの紫外線領域の光は太陽光スペクトルのテールにあたるので、エネルギー的には大きくないものであり、さらには、短波長側ほどエネルギー的には小さくなるので、300nm以下になるとエネルギー的には十分に小さいものとなる」ことから、「合金化防止透明層が光を吸収するとしても、300nm以下の短波長側の光を吸収させるようにすることにより、光反射層全体としての光吸収量を適切に抑制できる。」、という本件特許明細書【0017】及び【0019】に示される格別な効果を奏するものである。 エ 小括 以上のとおりであるから、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明及び引用例2~7に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (4) 本件特許発明4~9について 特許請求の範囲の請求項4~9は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明4~9は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。 そうすると、前記(3)のとおり、本件特許発明1が、引用例1に記載された発明及び引用例2~7に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない以上、本件特許発明4~9は、引用例1に記載された発明及び引用例2~7に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 第6 むすび 1 請求項1、4~9に係る特許は、いずれも、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。 また、他に請求項1、4~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 2 本件特許の請求項2、3、10、11は、本件訂正請求による訂正で削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、本件特許の請求項2、3、10、11に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700723

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