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特許異議申立

2023-700504

プレートフィン熱交換器の熱交換部及び熱交換システムの製造方法

審判番号
2023-700504
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-106063
登録番号
7173929
請求日
2023年05月16日
審決日
2024年11月08日
公報発行日
2025年02月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社神戸製鋼所
  • 【権利者代理人】小谷 昌崇
  • 【権利者代理人】村松 敏郎
  • 【異議申立人】佐古 孝介
審判長/審判官
  • 審判長 鈴木 充
  • 審判官 竹下 和志
  • 審判官 槙原 進
分類
P1651.121-YAA(F28F) / P1651.536-YAA(F28F) / P1651.537-YAA(F28F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7173929号発明「プレートフィン熱交換器の熱交換部及び熱交換システムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7173929号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 特許第7173929号の請求項1-2に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の概要 特許第7173929号(以下、「本件特許」という。)の請求項1-2に係る特許についての出願は、令和元年6月6日に特許出願され、令和4年11月8日にその特許権の設定登録がされ、令和4年11月16日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、以下のとおりである。 令和5年 5月16日 : 特許異議申立人 佐古 孝介(以下、単に「申立人」という。)による請求項1-2に係る特許に対する特許異議の申立て 令和5年 7月13日付け: 取消理由通知 令和5年 9月13日 : 特許権者による意見書の提出 令和5年10月12日付け: 申立人に対する審尋 令和5年11月16日 : 申立人による回答書の提出 令和5年12月 7日 : 申立人による証拠説明書の提出 令和6年 2月22日付け: 取消理由通知(決定の予告) 令和6年 4月26日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。) 令和6年 5月22日 : 特許権者による手続補正書(方式)の提出 令和6年 7月 3日 : 申立人による意見書の提出(以下、「意見書」という。) 令和6年 7月29日付け: 特許権者に対する審尋 令和6年 8月15日 : 特許権者による上申書の提出 令和6年 9月11日 : 特許権者による回答書の提出(以下、「回答書」という。) 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。 訂正前の請求項1に、「プレートフィン熱交換器の熱交換部であって、積層方向に間隔をおいて平行に配置される複数の仕切りプレートと、前記複数の仕切りプレートのうち前記積層方向に互いに隣接する仕切りプレート同士の間に配置されて当該仕切りプレートにろう付けされることにより当該仕切りプレート同士の間に前記仕切りプレートと平行な幅方向に並ぶ複数の流体流路を形成する複数のフィンプレートと、前記複数の仕切りプレートのうち前記積層方向に互いに隣接する仕切りプレート同士の間に形成される空間を塞ぐように前記複数のフィンプレートの前記幅方向の両外側に配置される複数の閉塞部材と、を備える熱交換部を製造するための方法であって」とあるのを、「プレートフィン熱交換器の熱交換部であって、積層方向に間隔をおいて平行に配置されるアルミニウム合金からなる複数の仕切りプレートと、前記複数の仕切りプレートのうち前記積層方向に互いに隣接する仕切りプレート同士の間に配置されて当該仕切りプレートにろう付けされることにより当該仕切りプレート同士の間に前記仕切りプレートと平行な幅方向に並ぶ複数の流体流路を形成するアルミニウム合金からなる複数のフィンプレートと、前記複数の仕切りプレートのうち前記積層方向に互いに隣接する仕切りプレート同士の間に形成される空間を塞ぐように前記複数のフィンプレートの前記幅方向の両外側に配置されるアルミニウム合金からなる複数の閉塞部材と、を備える熱交換部を製造するための方法であって」に訂正する。 2 訂正の適否 (1)訂正の目的 本件訂正は、訂正前の請求項1における「複数の仕切りプレート」、「複数のフィンプレート」及び「複数の閉塞部材」がそれぞれ「アルミニウム合金からなる」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であること 「複数の仕切りプレート」、「複数のフィンプレート」及び「複数の閉塞部材」がそれぞれ「アルミニウム合金からなる」ことは、段落【0028】の「前記複数のフィンプレート32、前記複数の仕切りプレート33及び前記複数のサイドバー34のそれぞれは、熱伝導性の高い金属材料によって構成される。当該金属材料は、例えば、A3003等のアルミニウム合金、チタン、銅、ステンレス鋼である。」という記載及び【符号の説明】の「34 サイドバー(閉塞部材)」という記載に基づくものであるから、本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてする訂正である。 (3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 本件訂正は、「複数の仕切りプレート」、「複数のフィンプレート」及び「複数の閉塞部材」についてその材料が「アルミニウム合金からなる」ことを直列的に付加するものであって、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)一群の請求項について 訂正前の請求項1-2について、請求項2は、請求項1を直接引用しているものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1-2に対応する訂正後の請求項1-2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 小括 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するから、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1-2に係る発明(以下、「本件発明1」-「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1-2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 プレートフィン熱交換器の熱交換部であって、積層方向に間隔をおいて平行に配置されるアルミニウム合金からなる複数の仕切りプレートと、前記複数の仕切りプレートのうち前記積層方向に互いに隣接する仕切りプレート同士の間に配置されて当該仕切りプレートにろう付けされることにより当該仕切りプレート同士の間に前記仕切りプレートと平行な幅方向に並ぶ複数の流体流路を形成するアルミニウム合金からなる複数のフィンプレートと、前記複数の仕切りプレートのうち前記積層方向に互いに隣接する仕切りプレート同士の間に形成される空間を塞ぐように前記複数のフィンプレートの前記幅方向の両外側に配置されるアルミニウム合金からなる複数の閉塞部材と、を備える熱交換部を製造するための方法であって、 前記複数の仕切りプレート、前記複数のフィンプレート及び前記複数の閉塞部材を用意する用意工程と、 前記複数の仕切りプレートと前記複数のフィンプレートとを交互に前記積層方向に積層するとともに、前記複数のフィンプレートの前記幅方向の両外側にそれぞれ前記閉塞部材を配置することにより、熱交換部組立体を組立てる組立工程と、 前記積層方向が上下方向に合致する姿勢で前記熱交換部組立体を炉の中に入れて加熱することにより前記複数のフィンプレートのそれぞれを当該フィンプレートに隣接する前記仕切りプレートに真空ろう付けによって接合する接合工程と、を含み、 前記組立工程では、前記熱交換部組立体の積層高さが前記炉の許容高さの1/2以下に設定され、 前記用意工程で用意される前記複数の仕切りプレートの板厚は、前記流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定される、プレートフィン熱交換器の熱交換部の製造方法。 【請求項2】 複数の熱交換部を備えた熱交換システムを製造するための方法であって、請求項1記載のプレートフィン熱交換器の熱交換部の製造方法により前記熱交換システムを構成する複数の熱交換部を製造する工程と、前記熱交換システム全体の処理量が予め設定された必要処理量を満たすように当該熱交換システムを構成する前記熱交換部の個数を決定して当該個数の前記熱交換部を互いに並列に接続する工程と、を含む、熱交換システムの製造方法。」 第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由 当審が令和6年2月22日付けの取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、以下のとおりである。 理由1.(実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 理由2.(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 理由3.(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 ・理由1 本件特許の発明の詳細な説明の記載に基いて、当業者が請求項1に記載の理論必要板厚を算出することができない。その結果、仕切りプレートの板厚を、理論必要板厚の1.3倍以上に設定することを、当業者が実施することができない。 よって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2に係る発明について、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 ・理由2 本件特許の請求項1に係る発明では、例えば、流体の圧力が小さく、仕切りプレートの板厚の薄いものが、結果としてフィンプレートが占有する空間が大きくなる場合のように 、熱交換部に実際に発生する熱応力が大きな場合であっても、単に流体の圧力から仕切りプレートの板厚が設計されてしまうことから、課題を解決できないものを発明の範囲に含むものとなってしまう。 よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できることを認識し得る範囲を超えるものである。 また、請求項1を引用する請求項2に係る発明についても同様である。 ・理由3 「理論必要板厚」に、どのような仕切りプレートの厚さが含まれ、どのような仕切りプレートの厚さが含まれないのかを、当業者が把握することができない。 よって、本件特許の請求項1に係る発明は、明確でない。 また、請求項1を引用する請求項2に係る発明についても同様に明確でない。 第5 当審の判断 1 理由1(実施可能要件)について (1)特許法第36条第4項第1号の実施可能要件について 特許法第36条第4項第1号は、特許による技術の独占が発明の詳細な説明をもって当該技術を公開したことへの代償として付与されるという仕組みを踏まえ、発明の詳細な説明の記載につき、実施可能要件を定めるものである。このような同号の趣旨に鑑みると、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、特許を受けようとする発明の実施をすることができる程度の記載があることを要するものと解される。 以下、この規範に沿って検討する。 (2)「理論必要板厚」について特許明細書等の記載から認められる事項 本件特許の請求項1には、「前記用意工程で用意される前記複数の仕切りプレートの板厚は、前記流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定される」と記載されている。 そして、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0012】には、「ここにおいて前記理論必要板厚は、前記フィンプレートが形成する流路に流される流体の圧力により算定される板厚である。」と記載され、段落【0038】には、「前記理論必要板厚toは、前記サイドバー34のそれぞれに対して内側から与えられる流体の圧力に基づき強度的に求められる最低板厚であり、前記圧力は前記第1及び第2流体流路30a,30bに流される前記第1及び第2の流体F1,F2のそれぞれの圧力P1,P2に基づいて算定される。」と記載されている。 そうすると、発明の詳細な説明の記載から、「理論必要板厚」が「フィンプレートが形成する流路に流される流体の圧力により算定される板厚」であることは理解できる。その一方で、発明の詳細な説明には、仕切りプレートの理論必要板厚をどのように求めるかの具体的な記載がない。また、理論必要板厚という用語が、定義の定まった技術用語であるという技術常識も認められない。 そこで、申立人及び特許権者が提出した以下の(3)の証拠並びに以下の(4)の特許権者が提出した回答書の記載事項に基づき、仕切りプレートの板厚の算出方法に関する技術常識を参酌して、当業者が、仕切りプレートの理論必要板厚を求めることができたか否かについて検討する。 (3)申立人及び特許権者が提出した証拠 ア 特許権者が提出した乙第1号証 乙第1号証には、以下の記載事項がある。 (ア)「 [図:0001419308000001.jpg] 」 (イ)「 [図:0001419308000002.jpg] 」 (ウ)「 [図:0001419308000003.jpg] 」 (エ)「 [図:0001419308000004.jpg] 」 (オ)「 [図:0001419308000005.jpg] 」 (カ)「 [図:0001419308000006.jpg] 」 イ 申立人が提出した甲第3号証 甲第3号証には、以下の記載事項がある。 (ア)「 [図:0001419308000007.jpg] 」 (イ)「 [図:0001419308000008.jpg] [図:0001419308000009.jpg] [図:0001419308000010.jpg] 」 ウ 特許権者が提出した乙第5号証 乙第5号証には、以下の記載事項がある。 (ア)「 [図:0001419308000011.jpg] 」 (イ)「 [図:0001419308000012.jpg] 」 (4)特許権者が提出した回答書 特許権者が提出した回答書には、以下の記載事項がある。 ア 「(エ) 他の法規で規定される板厚算出方法について 特許権者は、乙第1号証および甲第3号証に加えいわゆる当業者が参照する規定として、本件特許の出願前に制定された乙第5号証を提出する。この乙第5号証は、原子力安全・保安院によって刊行された「ガス工作物技術基準の解釈例」の抜粋であり、ガス事業法によって規定されるものである。当該ガス事業法では第2条第13項において、「この法律において「ガス工作物」とは、ガスの供給のために施設するガス発生設備、ガスホルダー、ガス精製設備、排送機、圧送機、整圧器、導管、受電設備その他の工作物及びこれらの附属設備であって、ガス事業の用に供するものをいう。」と定義されており、ガス事業法は、乙第1号証に関連する高圧ガス保安法とは異なる法規である。 そして、乙第5号証第23頁の第40条第1項では、「特定設備検査規則の機能性基準の運用について」の別添4「特定設備の部品等の技術基準の解釈」の第3条、すなわち、乙第1号証そのものが参照されており、高圧ガス保安法と同様の算出方法が適用されている。」 イ 「(カ) まとめ 以上のように、本件特許の請求項1における「理論必要板厚」は、高圧ガス保安法および電気事業法の管轄外の用途に用いられる熱交換器についても、高圧ガス保安法により規定された特定設備検査規則に係る特定設備の技術上の基準、又は電気事業法により規定された発電用火力設備の技術標準に基づいて算出できるものである。」 (5)実施可能要件についての当審の判断 上記(3)及び上記(4)ア、イによれば、「高圧ガス保安法」の管轄、「電気事業法」の管轄及び「ガス事業法」の管轄において、プレートフィン熱交換器の仕切りプレートの板厚を、材料力学の観点から設計圧力に基づく算出方法によって求めることが行われていることが認められる。 そうすると、日本国内におけるプレートフィン熱交換器を製造する当業者が、プレートフィン熱交換器に要求される安全上の品質を材料力学的に維持するために、特定の分野に限定されない様々な分野で、上記(3)で用いられている算出方法からプレートフィン熱交換器の仕切りプレートの板厚を算出していたことが、一般的に行われていると考えられる。 そして、上記(3)ア及び上記(3)ウによれば、板厚の算出方法に仕切りプレートの材料を考慮に入れておらず、上記(3)イによれば、板厚の算出方法に仕切りプレートの材料を考慮に入れるという違いが認められるものの、アルミニウム合金からなることを前提とする場合には、いずれの算出方法からも同じ板厚が導かれるということができる。 ここで、材料力学の観点から設計圧力に基づく算出方法によって板厚を求めることは、所定の算出式を用いて板厚を求めることであるから、理論上の算出方法により板厚を求めるものということができ、上記の算出方法により算出される板厚が、「理論必要板厚」ということができる。 そうすると、本件特許の「理論必要板厚」とは、アルミニウム合金からなることを前提として、高圧ガス保安法により規定された特定設備検査規則に係る特定設備の技術上の基準、又は電気事業法により規定された発電用火力設備の技術標準に基づいて求められたプレートフィン熱交換器の仕切りプレートの板厚が、本件特許でいう「フィンプレートが形成する流路に流される流体の圧力により算定される板厚」である「理論必要板厚」であると解するのが適当である。 したがって、アルミニウム合金からなることを前提とする場合には、プレートフィン熱交換器に要求される安全上の品質を材料力学的に維持するために、流体流路に流される流体の圧力を含む所定の算出式から、プレートフィン熱交換器の仕切りプレートの板厚を求めることが技術常識であり、この算出方法により算出される板厚が、本件発明1の「理論必要板厚」であると解することが合理的であり、この所定の算出式が技術常識であることから、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、プレートフィン熱交換器の仕切りプレートの板厚を、理論必要板厚の1.3倍以上に設定することができるといえる。 よって、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施することができるものというべきである。 (6)申立人の主張について ア 申立人は、令和6年7月3日に提出した意見書において、実施可能要件に関して、以下の主張をしている。 ・「乙第1号証および甲第3号証をはじめとするすべての文献が、請求項1に規定した「理論必要板厚」なる用語について説明したものではないことは客観的に明らかである。つまり、「理論必要板厚」なる用語は、本件明細書および本件意見書を除き、どこにも記載されていない。また、本件明細書において、乙第1号証をはじめとするその他の文献を参照したり示唆したりするような記載は一切ない。さらに加えて、「理論必要板厚」なる用語が熱交換器の分野において一定の意味で用いられているという技術常識もない。」 ・「仮に、「肉厚計算式の求め方を定めた強制力のある法規」に基づいて「理論必要板厚」を算出することが必須であったとしても、高圧ガス保安協会および電気事業法の管轄外の用途に用いられる熱交換器については、この法規に従う必要はない。本件特許の請求項1および2では、熱交換器の用途が規定されていないため、乙第1号証または甲第3号証に基づいて熱交換器の最小の板厚を算出することに限られない。」 イ 申立人の主張に対する検討 上記(4)で説示したとおり、アルミニウム合金からなることを前提として、高圧ガス保安法により規定された特定設備検査規則に係る特定設備の技術上の基準、又は電気事業法により規定された発電用火力設備の技術標準に基づいて求められたプレートフィン熱交換器の仕切りプレートの板厚が、本件特許でいう「フィンプレートが形成する流路に流される流体の圧力により算定される板厚」である「理論必要板厚」であると解するのが適当であるといえる。 また、上記(4)で説示したとおり、プレートフィン熱交換器を製造する当業者にとっては、特定の分野に限定されない様々な分野で、上記(3)で用いられている算出方法からプレートフィン熱交換器の仕切りプレートの板厚を算出することが一般的に行われていたと考えられる。 よって、申立人の主張を採用できないものといわざるを得ない。 (7)小括 以上のとおりであるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1-2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 2 理由2.(サポート要件)について (1)判断 ア 特許法第36条第6項第1号のサポート要件について 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。 以下、この規範に沿って検討する。 イ 本件発明1の発明特定事項 本件発明1は、「プレートフィン熱交換器の熱交換部の製造方法」について、「組立工程では、前記熱交換部組立体の積層高さが前記炉の許容高さの1/2以下に設定され」ること、及び、「用意工程で用意される前記複数の仕切りプレートの板厚は、前記流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定される」ことを発明特定事項に含むものである。 ウ 特許明細書等に記載された事項 特許明細書等には、以下の記載がある(下線は、理解の一助のために、当審が付した。)。 「【0006】 前記熱交換部100と同様の熱交換部を有するプレートフィン熱交換器において、当該熱交換部に流される流体(例えば前記第1の流体または前記第2の流体)の温度又は流量が急激に変動した場合、これに起因する大きな熱変位の差によって前記熱交換部に大きな熱応力が発生し、これにより破損が生じるおそれがあるという課題が存在する。 【0007】 本発明は、このような熱応力を軽減することが可能なプレートフィン熱交換器の熱交換部の製造方法及び当該熱交換部を備えた熱交換システムの製造方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、前記課題を解決すべく前記熱応力が発生する原因について精査を行い、その結果、当該課題を解決するために次の手段が有効であることを見出すに至った。 【0009】 (A)積層高さの寸法の制限 前記のような熱交換部では、当該熱交換部の部位によって、導入される流体の温度に追従する速度に差があるため、一時的に熱変形量に大きな差が生じ、これにより過大な熱応力が発生する。例えば図5及び図6に示される熱交換部100では、通常、薄肉のフィンプレート104に比べてその幅方向の両側に配置される閉塞部材106の質量が大きいため、当該フィンプレート104が当該閉塞部材106よりも高い速度で熱変形する。従って、熱交換部100を流れる流体の温度によって当該熱交換部100が急激に冷却または加熱されると、一時的にフィンプレート104の熱変形量と閉塞部材106の熱変形量との間に著しい差が生じる。しかも、この熱変形量の差は段数に比例して積算されるため、前記積層方向の中央位置(例えば図6に示される構造では上下方向の中央位置)から離れるに従って前記熱変形量の差は大きくなる。従って、この距離を抑えること、つまり、熱交換部全体の積層方向の寸法である積層高さを抑えること、が熱応力の軽減を可能にする。 【0010】 通常、プレートフィン熱交換器の熱交換部は、例えば図6に示されるように仕切りプレートとフィンプレート及び閉塞部材が交互に積層された状態で専用の炉の中に入れられて加熱されることにより前記フィンプレートと前記仕切りプレートとがろう付けされる。このときの前記熱交換部の積層高さ(積層方向の寸法)は、通常、前記炉の許容高さ(当該炉内に挿入することが可能な前記熱交換部の積層高さの最大寸法)とほぼ同等に設定され、このことが、前記熱交換部をそれぞれ含むプレートフィン熱交換器の必要台数を削減し、経済的な設計を可能にする。しかしながら、前記熱交換部の積層高さを敢えて前記炉の許容高さよりも著しく小さく抑える(具体的には当該許容高さの半分以下にする)ことが、前記の熱応力の軽減を可能にする。 【0011】 (B)熱交換部における密度の均一化 前記のように、複数のフィンプレートと複数の仕切りプレートとが積層方向に交互に配置され、かつ、それぞれのフィンプレートの幅方向の両側に大きな厚さ寸法を有する閉塞部材が配置された熱交換部では、当該熱交換部の幅方向の両外側部分すなわち複数の閉塞部材が積層方向に並ぶ部分と、当該両外側部分に挟まれた内側部分すなわち前記複数のフィンプレートが積層方向に並ぶ部分と、の間で、導入される流体の温度に追従する速度に差が生じる。この温度追従速度の差は、前記両外側部分における密度と前記内側部分における密度との差を小さくすることによって、縮めることが可能である。 【0012】 前記密度差を縮めるには、前記複数の仕切りプレートの板厚を大きくすること、換言すれば、流体を流すための流路である隙間を形成するフィンプレートが占有する空間を相対的に小さくすること、が有効である。すなわち、前記仕切りプレートの実際の板厚を敢えて理論必要板厚よりも著しく大きくする(具体的には当該理論必要板厚の1.3倍以上にする)ことも、熱応力の軽減を可能にする。ここにおいて前記理論必要板厚は、前記フィンプレートが形成する流路に流される流体の圧力により算定される板厚である。」 エ 発明の詳細な説明における課題及び課題の解決手段 以上によれば、発明の詳細な説明から把握される本件発明が解決しようとする課題は、段落【0006】に記載される破損をもたらす熱交換器の熱応力を低減させることであると認められる。 この課題を解決するための課題解決手段については、上記段落【0009】-【0010】の記載から、熱交換器の熱交換部の製造方法によって得られた熱交換部が、物として、フィンプレートの熱変形量と、閉塞部材の熱変形量との差が軽減されているということと、上記段落【0011】-【0012】の記載から、熱交換器の流体を流すための流路である隙間を形成するフィンプレートが占有する空間が小さくなっているということが必要であると認められる。 オ 特許請求の範囲との比較 そこで、上記課題を解決するために、本件発明1の発明特定事項が、それぞれの課題解決手段を備えるものであるかについて検討する。 まず、フィンプレートの熱変形量と、閉塞部材との熱変形量の差を軽減することに関して、本件発明1は、「プレートフィン熱交換器の熱交換部の製造方法」について、「組立工程では、前記熱交換部組立体の積層高さが前記炉の許容高さの1/2以下に設定され」ることを発明特定事項に含んでいる。 そして、「組立工程では、前記熱交換部組立体の積層高さが前記炉の許容高さの1/2以下に設定され」た熱交換器が、組立工程において、熱交換部組立体の積層高さが炉の許容高さの1/2よりも大きく設定されたものと比較して、熱交換部組立体の積層高さは低いといえる。 そうすると、他の条件が同じ場合には、本件発明1の熱交換器の熱交換部の製造方法によって得られた熱交換部が、他の製造方法で製造された熱交換部と比較して、熱交換部組立体の積層高さが低くなり、物として、フィンプレートの熱変形量と、閉塞部材の熱変形量との差が軽減されているということができる。 また、例えば、平面視において大きな面積を有する熱交換部(フィンプレートが占有する空間が大きい熱交換部)のように、フィンプレートの熱変形量と、閉塞部材の熱変形量との差が大きい熱交換部であっても、他の条件が同じ場合には、「組立工程では、前記熱交換部組立体の積層高さが前記炉の許容高さの1/2以下に設定され」た熱交換器が、組立工程において、熱交換部組立体の積層高さが炉の許容高さの1/2よりも大きく設定されたものと比較して、熱交換部組立体の積層高さが低くなり、結果として、両者の比較においては、よりフィンプレートの熱変形量と、閉塞部材の熱変形量との差が軽減されたものが得られるといえる。 次に、熱交換器の流体を流すための流路である隙間を形成するフィンプレートが占有する空間が小さくなることに関して、本件発明1は、「用意工程で用意される前記複数の仕切りプレートの板厚は、前記流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定される」ことを発明特定事項に含んでいる。 そして、「用意工程で用意される前記複数の仕切りプレートの板厚は、前記流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定される」ものは、用意工程で用意される前記複数の仕切りプレートの板厚が、流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍未満に設定されるものよりも、熱交換器の全体が占める空間に対する仕切りプレートの板厚により占有される空間の割合が大きくなる。その結果、熱交換器の全体が占める空間に対する熱交換器の流体を流すための流路である隙間を形成するフィンプレートが占有する空間の割合が小さくなるといえる。 そうすると、他の条件が同じ場合には、本件発明1の熱交換器の熱交換部の製造方法によって得られた熱交換部が、物として、熱交換器の全体が占める空間に対する熱交換器の流体を流すための流路である隙間を形成するフィンプレートが占有する空間の割合が小さくされているということができる。 また、例えば、流体の圧力が小さく、仕切りプレートの板厚が薄く、相対的にフィンプレートが占有する空間が大きいために 、破損をもたらす熱交換器の熱応力が低減できないものであっても、他の条件が同じ場合には、「用意工程で用意される前記複数の仕切りプレートの板厚は、前記流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定され」た熱交換器が、用意工程で用意される前記複数の仕切りプレートの板厚は、前記流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍未満に設定されるものと比較して、より熱交換器の全体が占める空間に対する熱交換器の流体を流すための流路である隙間を形成するフィンプレートが占有する空間の割合が小さいものが得られるといえる。 そうすると、破損をもたらす熱交換器の熱応力を低減させるという課題を解決するための手段である熱交換器の熱交換部の製造方法によって得られた熱交換部が、物として、フィンプレートの熱変形量と、閉塞部材の熱変形量との差が軽減されているということについて、本件発明1は、「プレートフィン熱交換器の熱交換部の製造方法」について、「組立工程では、前記熱交換部組立体の積層高さが前記炉の許容高さの1/2以下に設定され」ることを発明特定事項に含み、同様に、課題を解決するための手段である熱交換器の流体を流すための流路である隙間を形成するフィンプレートが占有する空間が小さくなっているということについて、「用意工程で用意される前記複数の仕切りプレートの板厚は、前記流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定される」ことを発明特定事項に含んでいるから、課題解決手段が反映されているといえる。 よって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できることを認識し得るものである。 同様の理由により、本件発明2も、課題解決手段が反映されているといえるから、本件発明2は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できることを認識し得るものである。 (2)申立人の主張について ア 申立人は、令和6年7月3日に提出した意見書において、サポート要件に関して、以下の主張をしている。 ・「特許権者は、令和6年4月26日付意見書において、○1(当審注:「○」の中に数字の「1」を意味する。以下同様。) 「「組立工程では、前記熱交換部組立体の積層高さが前記炉の許容高さの1/2以下に設定され」ることによって、」○2 「フィンプレートの熱変形量と、閉塞部材の熱変形董の差が軽減されるものである。」と主張している。しかしながら、○1と○2とがどのようにして論理的に結びつくのか、本件明細書のどこにも説明されていない。」 ・「また、令和6年4月26日付意見書の(5)取消理由2(サポート要件)についてのウの(ア)・(イ)・(ウ)・(エ)は、「流体温度」について言及されていることからも明らかなように、製造された後の熱交換器についての記載であって、熱交換部を製造するための方法については何ら示唆していない。 また、令和6年2月22日付取消理由通知書にて「フィンプレートが占有する空間が小さくできるとは、必ずしも言えない」と指摘されているにもかかわらず、フィンプレートが占有する空間が小さくなる根拠が示されていない。 そればかりか、令和6年4月26日付意見書の(5)取消理由2(サポート要件)についてのエの(ウ)には、熱応力の低減を実現するものであるから、フィンプレートが占有する空間が小さくなるという、因果関係が逆転した主張がなされている。この主張についても根拠は示されておらず、またそのような技術常識もない。」 イ 申立人の主張に対する検討 本件発明1は、「プレートフィン熱交換器の熱交換部の製造方法」についての発明であり、プレートフィン熱交換器という物の発明ではない。 そして、上記(1)で説示したとおり、本件発明1の熱交換器の熱交換部の製造方法によって得られた熱交換部が、組立工程において、熱交換部組立体の積層高さが炉の許容高さの1/2よりも大きく設定されたものと比較して、熱交換部組立体の積層高さが低くなり、また、用意工程で用意される前記複数の仕切りプレートの板厚が、流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍未満に設定されるものと比較して、より熱交換器の全体が占める空間に対する熱交換器の流体を流すための流路である隙間を形成するフィンプレートが占有する空間の割合が小さいものが得られる。 そして、本件特許の発明の詳細な説明には、熱応力の具体的な数値と比較して熱応力が低減しているか否かを課題として捉えた記載はないから、あくまで、製造方法として熱応力の低減に寄与するものということができるか否かを検討しなければならない。このような観点からみると、本件特許の請求項1の熱交換器の熱交換部の製造方法は、他の製造方法よりも、熱応力の低減に寄与するものということができる。 すなわち、「組立工程では、前記熱交換部組立体の積層高さが前記炉の許容高さの1/2以下に設定され」ることによって、フィンプレートの熱変形量と、閉塞部材の熱変形董の差が軽減されるものといえ、また、「用意工程で用意される前記複数の仕切りプレートの板厚は、前記流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定される」ことによって、熱交換器の全体が占める空間に対する熱交換器の流体を流すための流路である隙間を形成するフィンプレートが占有する空間の割合が小さいものが得られるといえる。 してみると、申立人の主張は、採用できない。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件発明1-2は、発明の詳細な説明に記載したものである。 3 理由3.(明確性)について (1)判断 本件発明1は、「仕切りプレートの板厚は、前記流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定される」ことを発明特定事項に含むものである。 そして、理由1においても指摘したとおり、アルミニウム合金からなることを前提として、高圧ガス保安法により規定された特定設備検査規則に係る特定設備の技術上の基準、又は電気事業法により規定された発電用火力設備の技術標準に基づいて求められたプレートフィン熱交換器の仕切りプレートの板厚が、本件特許でいう「フィンプレートが形成する流路に流される流体の圧力により算定される板厚」である「理論必要板厚」であると解するのが適当であるといえる。 してみると、この「理論必要板厚」は、明確である。 よって、本件発明1は、明確である。 また、本件発明2についても同様に明確である。 (2)申立人の主張について ア 申立人は、令和6年7月3日に提出した意見書において、明確性に関して、以下の主張をしている。 ・「上記(1) 取消理由1(実施可能要件)について、で説明したとおり、「理論必要板厚」は、一義的に算出できるものではない。したがって、「理論必要板厚」という記載は明確ではなく、本件特許の請求項1に係る発明は明確ではない。」 イ 申立人の主張に対する検討 上記アのとおり、「理論必要板厚」は、アルミニウム合金からなることを前提として、高圧ガス保安法により規定された特定設備検査規則に係る特定設備の技術上の基準、又は電気事業法により規定された発電用火力設備の技術標準に基づいて求められたプレートフィン熱交換器の仕切りプレートの板厚の意味で解釈されることが適当である。 よって、本件発明1-2は、明確である。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件発明1-2は、明確である。 第6 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許異議申立理由(進歩性)の概要 申立人は、甲第1-2号証を提出し、概ね以下の主張をする。 本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2証に記載された周知技術とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 [証拠方法] 甲第1号証:特開2005-246472号公報 甲第2号証:国際公開第2008/023732号 (以下、甲第1-2号証を、それぞれ「甲1」、「甲2」という。) なお、異議申立書の第12ページの「5.証拠方法」において、甲2について、「国際公開第2008/023732号」と記載しているが、添付された書類又は添付物件である甲第2号証の写しは、「国際公開第2008/023732号」の対応国内公報である再公表第2008/023732号公報であるので、上記「国際公開第2008/023732号」を再公表第2008/023732号公報と読み替えるものとする。 2 当審の判断 (1)甲1-2の記載事項 ア 甲1の記載事項 甲1には、次の記載事項及び図示事項がある。 (ア)「【0004】 図6は、従来のプレートフィン型の熱交換器のろう付け方法を示す。 図7に示すように、プレートフィン型熱交換器4(ワーク)4は、プレート4bの上に台形形状の凹凸を交互に水平方向に形成したフィン4aを載置し、上下方向にプレート4bとフィン4aを交互に重ね合わせている。プレート4bとフィン4aとの接合部にはろう材を設け、図6に示すように、重合物56を天板53と基盤54との間に配設し、その両側部には側板55を配設している。そして、熱交換器を天板53と基盤54で挟み、さらに天板53と基盤54を押さえ治具で挟んで固定し、真空炉において、熱交換器を加熱してろう付けを行っている。」 (イ)「【図6】 [図:0001419308000013.jpg] 」 (ウ)「【図7】 [図:0001419308000014.jpg] 」 イ 上記アから認められる事項 記載事項(ア)並びに図6及び図7の図示事項から、甲1には、プレートフィン型の熱交換器であって、積層方向に間隔をおいて平行に配置される複数のプレート4bと、前記複数のプレート4bのうち前記積層方向に互いに隣接するプレート4b同士の間に配置されて当該プレート4bにろう付けされることにより当該複数のプレート4b同士の間に前記複数のプレート4bと平行な幅方向に並ぶ複数の流体流路を形成する複数のフィン4aと、前記複数のプレート4bのうち前記積層方向に互いに隣接するプレート4b同士の間に形成される空間を塞ぐように前記複数のフィン4aの前記幅方向の両外側に配置される複数の側板55と、を備える熱交換器を製造するための方法が記載されているといえる。 ウ 甲1に記載された発明 上記ア及びイから、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 〔甲1発明〕 「プレートフィン型の熱交換器であって、積層方向に間隔をおいて平行に配置される複数のプレート4bと、前記複数のプレート4bのうち前記積層方向に互いに隣接するプレート4b同士の間に配置されて当該プレート4bにろう付けされることにより当該複数のプレート4b同士の間に前記複数のプレート4bと平行な幅方向に並ぶ複数の流体流路を形成する複数のフィン4aと、前記複数のプレート4bのうち前記積層方向に互いに隣接するプレート4b同士の間に形成される空間を塞ぐように前記複数のフィン4aの前記幅方向の両外側に配置される複数の側板55と、を備える熱交換器を製造するための方法であって、 熱交換器を天板53と基盤54で挟み、さらに天板53と基盤54を押さえ治具で挟んで固定し、真空炉において、熱交換器を加熱してろう付けを行う、プレートフィン型の熱交換器の製造方法。」 イ 甲2の記載事項 甲2には、以下の記載事項及び図示事項がある。なお、摘記事項は、読み替えた再公表第2008/023732号公報の記載に基づく。 (ア)「【0001】 本発明は、各種熱交換器、特に自然冷媒、例えばCO2などを用いたヒートポンプ等に有効な小型の高耐圧コンパクト熱交換器およびその製造方法、並びに熱交換器システム、更に、金属薄板を成形したプレートを複数重ね合せ状態で一体化して得られ、水素吸蔵合金を収容して水素の吸蔵・放出を可能とする水素吸蔵用容器およびその製造方法に関する。」 (イ)「【0028】 (14)前記(1)乃至(12)いずれか記載の複数の高耐圧コンパクト熱交換器を直列又は並列に接続したことを特徴とする熱交換器システム。」 (2)対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「プレートフィン型の熱交換器」は、本件発明1の「プレートフィン熱交換器」に相当するとともに、この「熱交換器」自体が熱交換部として機能することから、本件発明1の「プレートフィン熱交換器の熱交換部」にも相当する。 以下同様に、「プレート4b」は「仕切りプレート」に、「フィン4a」は「フィンプレート」に、「側板55」は「閉塞部材」に相当する。 また、甲1発明の「熱交換器を天板53と基盤54で挟み、さらに天板53と基盤54を押さえ治具で挟んで固定し、真空炉において、熱交換器を加熱してろう付けを行う」ことは、熱交換器の組立体を炉の中に入れて加熱することにより、複数のフィン4aのそれぞれを当該フィン4aに隣接するプレート4bに真空ろう付けによって接合する接合工程であるといえるから、本件発明1の「前記積層方向が上下方向に合致する姿勢で前記熱交換部組立体を炉の中に入れて加熱することにより前記複数のフィンプレートのそれぞれを当該フィンプレートに隣接する前記仕切りプレートに真空ろう付けによって接合する接合工程と、を含」むことと、「熱交換部組立体を炉の中に入れて加熱することにより前記複数のフィンプレートのそれぞれを当該フィンプレートに隣接する前記仕切りプレートに真空ろう付けによって接合する接合工程と、を含」むことの限りにおいて一致する。 してみると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。 <一致点> プレートフィン熱交換器の熱交換部であって、積層方向に間隔をおいて平行に配置される複数の仕切りプレートと、前記複数の仕切りプレートのうち前記積層方向に互いに隣接する仕切りプレート同士の間に配置されて当該仕切りプレートにろう付けされることにより当該仕切りプレート同士の間に前記仕切りプレートと平行な幅方向に並ぶ複数の流体流路を形成する複数のフィンプレートと、前記複数の仕切りプレートのうち前記積層方向に互いに隣接する仕切りプレート同士の間に形成される空間を塞ぐように前記複数のフィンプレートの前記幅方向の両外側に配置される複数の閉塞部材と、を備える熱交換部を製造するための方法であって、 熱交換部組立体を炉の中に入れて加熱することにより前記複数のフィンプレートのそれぞれを当該フィンプレートに隣接する前記仕切りプレートに真空ろう付けによって接合する接合工程と、を含む プレートフィン熱交換器の熱交換部の製造方法。 <相違点1> 本件発明1は、「仕切りプレート」、「フィンプレート」及び「閉塞部材」がそれぞれ「アルミニウム合金からなる」ものであるのに対して、甲1発明では、「プレート4b」、「フィン4a」及び「側板55」が「アルミニウム合金からなる」ものに限定されていない点。 <相違点2> 本件発明1は、「前記複数の仕切りプレート、前記複数のフィンプレート及び前記複数の閉塞部材を用意する用意工程」を備え、「前記用意工程で用意される前記複数の仕切りプレートの板厚は、前記流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定され」ているのに対して、甲1発明にはこのような限定がない点。 <相違点3> 本件発明1は、「前記複数の仕切りプレートと前記複数のフィンプレートとを交互に前記積層方向に積層するとともに、前記複数のフィンプレートの前記幅方向の両外側にそれぞれ前記閉塞部材を配置することにより、熱交換部組立体を組立てる組立工程」を備え、「前記組立工程では、前記熱交換部組立体の積層高さが前記炉の許容高さの1/2以下に設定され」ているのに対して、甲1発明にはこのような限定がない点。 <相違点4> 「接合工程」について、本件発明1は、「前記積層方向が上下方向に合致する姿勢で前記熱交換部組立体を炉の中に入れて加熱することにより前記複数のフィンプレートのそれぞれを当該フィンプレートに隣接する前記仕切りプレートに真空ろう付けによって接合する接合工程」を備えているのに対して、甲1発明は、「熱交換器を天板53と基盤54で挟み、さらに天板53と基盤54を押さえ治具で挟んで固定し、真空炉において、熱交換器を加熱してろう付けを行う」点。 事案に鑑み、相違点2及び3について検討する。 まず、相違点2について検討するに、上記第5、1「理由1(実施可能要件)について」において検討したとおり、仕切りプレートの板厚を、流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚に基づいて設計することは、技術常識である。 しかしながら、仕切りプレートの板厚を、当該理論必要板厚の1.3倍以上に設定することまでは、技術常識であるとはいえない。 また、甲2(再公表第2008/023732号公報)にも、仕切りプレートの板厚を、流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定することは、記載も示唆もされていない。 したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたとはいえない。 次に、相違点3について検討するに、組立工程で、熱交換部組立体の積層高さを炉の許容高さの1/2以下に設定することは、技術常識とはいえず、甲2にも記載も示唆もされていない。 また、本件発明1は、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を備えることにより、熱交換器の全体が占める空間に対する熱交換器の流体を流すための流路である隙間を形成するフィンプレートが占有する空間の割合を小さくすることができる。これにより、他の製造方法で製造するよりも、破損をもたらす熱交換器の熱応力を低減させるという顕著な効果を奏するものである。 また、本件発明1は、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を備えることにより、熱交換器の熱応力の低減を可能とするという顕著な効果を奏するものでもある。 してみると、相違点1、4について論じるまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 イ 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1を引用するものであって、「前記複数の仕切りプレート、前記複数のフィンプレート及び前記複数の閉塞部材を用意する用意工程」を備え、「前記用意工程で用意される前記複数の仕切りプレートの板厚は、前記流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定され」ていることを発明特定事項に含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明、甲2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (3)申立人の主張について ア 申立人は、異議申立書において、進歩性に関して、以下のとおり主張する。 ・「複数の仕切りプレートの板厚を、流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。具体的には、流体流路に流される流体の圧力は変動するものであることと、仕切りプレートの機械的強度を均―に製造することが困難であることなどから、一般的には、仕切りプレートの板厚は、必要な板厚に対して安全率を乗じて設定される。そして、安全率を1.3倍以上とすることは、通常の設計の範囲内のことであり、何ら新しい技術ではない。また、流体の圧力が小さいため、他の要因(たとえば、構造物を維持するための機板的強度など)の必要板厚の方が大きい場合には、他の要因に基づいて仕切りプレートの板厚が決定されることになる。この場合には、仕切りプレートの板厚が、流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定されることは、当然にあり得ることである。したがって、複数の仕切りプレートの板厚を、流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚の1.3倍以上に設定することは、何ら新しい技術でもなければ、想到するのに困難性もない。また、仕切りプレートの板厚を理論必要板厚の1.3倍以上に設定するという規定の「1.3倍」の臨界的意義についての根拠も何ら記載されていない。したがって、相違点4については、当業者が適宜なし得る設計事項である。」 イ 申立人の主張に対する検討 上記(2)で説示したとおり、仕切りプレートの板厚を、流体流路に流される流体の圧力に基づいて算定される理論必要板厚に基づいて設計することが、技術常識であるといえても、当該理論必要板厚の1.3倍以上に設定することまでは、当業者が容易になし得たということはできない。 (4)小括 以上のとおりであるから、本件発明1-2は、甲1発明、甲2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 第7 まとめ したがって、請求項1-2に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。また、他に請求項1-2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700504

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    共通の審決分類: 121・F28F、536・F28F、537・F28F

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