特許異議申立
2021-700745
エアバッグ用織物およびエアバッグ
- 審判番号
- 2021-700745
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-543276
- 登録番号
- 6827420
- 請求日
- 2021年07月29日
- 審決日
- 2022年02月28日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】セーレン株式会社
- 【権利者代理人】立花 顕治
- 【権利者代理人】山下 未知子
- 【権利者代理人】桝田 剛
- 【異議申立人】特許業務法人 虎ノ門知的財産事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 石井 孝明
- 審判官 矢澤 周一郎
- 分類
- P1651.113-Y (D03D) / P1651.121-Y (D03D) / P1651.536-Y (D03D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6827420号発明「エアバッグ用織物およびエアバッグ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6827420号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6827420号の請求項1~6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2016年(平成28年)9月26日(優先権主張 2015年(平成27年)9月30日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和3年1月21日にその特許権の設定登録がされ、令和3年2月10日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対し、令和3年7月29日に特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所が特許異議の申立てを行った。
第2 本件特許に係る発明
本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
合成繊維からなる織物であって、
引張強度が経緯共に600N/cm以上であり、
20kPa差圧下における通気量が、1.0L/cm2・min以下であり、
織物を1.0%伸長状態から3.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上であり、
3.0%伸長状態から5.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上であり、
前記織物を構成する糸のフィラメント数が、96~144本であり、
前記織物を構成する糸の単繊維繊度が、2.9~5.8dtexであり、
カバーファクターが、2461~2623である、エアバッグ用織物。
【請求項2】
織物を構成する糸の総繊度が、280~940dtexである、請求項1に記載のエアバッグ用織物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエアバッグ用織物を備えている、エアバッグ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のエアバッグ用織物を所定の形状に裁断した第1エアバッグ用基布及び第2エアバッグ用基布を備え、
前記第1エアバッグ用基布に、インフレータ取付口が形成されており、
前記2枚のエアバッグ用基布の周囲が縫合されている、エアバッグ。
【請求項5】
前記第1エアバッグ用基布に取り付けられ、当該第1エアバッグ用基布のインフレータ用取付口の周囲を覆うように、環状に形成された少なくとも1枚の補強布をさらに備えている、請求項4に記載のエアバッグ。
【請求項6】
前記補強布の少なくとも1枚は、請求項1または2に記載のエアバッグ用織物により形成されている、請求項5に記載のエアバッグ。」
第3 特許異議申立理由の概要
本件特許の請求項1~6に係る特許に対して、特許異議申立理由(以下「申立理由」という。)の概要は、次のとおりである。
1 申立理由1(新規性)
本件発明1~3は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2 申立理由2(進歩性)
本件発明1~3は、引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明4~5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項又は甲第3号証に記載された事項に基いて、本件発明6は、引用文献1記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲第1号証:特開2015-110857号公報
甲第2号証:特開2010-203023号公報
甲第3号証:特開2005-138704号公報
以下、甲第1号証~甲第3号証は、それぞれ「甲1」~「甲3」という。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明1の「引張強度が経緯共に600N/cm以上」、「20kPa差圧下における通気量が、1.0L/cm2・min以下」、「織物を1.0%伸長状態から3.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上であり、3.0%伸長状態から5.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上」を得るための具体的な手段について記載されておらず、また、「織物を1.0%伸長状態から3.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上」及び「3.0%伸長状態から5.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上」は、当業者が通常に用いる物性値ではなく、製織時の経緯の張力や織密度等の加工条件、原糸モジュラス、繊度等の様々な因子が影響する値と考えられるところ、これらの因子について記載されていない。
第4 当審の判断
以下、下線は、当審が強調又は理解の便宜の為に付した。
1 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
(1)甲1~3に記載された事項、発明
ア 甲1について
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
刃梳き抵抗値が経糸に対し45°のバイアス方向において200N以上1000N未満であり、かつ、下式(1)及び(2)で表される刃梳き経指数ECP(W)及び刃梳き緯指数ECP(F)が30未満であるノンコートエアバッグ基布。
ECP(W)=ABS(EC45-ECW)/EC45*100 (1)
ECP(F)=ABS(EC45-ECF)/EC45*100 (2)
(上記(1)および(2)式中、EC45は経糸に対し45°方向の刃梳き抵抗値であり、ECWは経糸方向の刃梳き抵抗値であり、ECFは緯糸方向の刃梳き抵抗値であり、ABSは絶対値記号である。)
【請求項2】
刃梳き抵抗値が経糸方向、緯糸方向のいずれも380N以上1000N未満である請求項1に記載のノンコートエアバッグ基布。
【請求項3】
分解糸繊度が350dtex以上750dtex以下である請求項1または2に記載のエアバッグ基布。
【請求項4】
カバーファクターが2000以上2600以下である請求項1~3のいずれか一項に記載のエアバッグ基布。
【請求項5】
残油率が0.05重量%以上0.2重量%以下である請求項1~4のいずれか一項に記載のエアバッグ基布。
【請求項6】
ASTM D4032剛軟度が10N以上30N以下である請求項1~5のいずれか一項に記載のエアバッグ基布。
【請求項7】
引裂き強力が160N以上300N以下である請求項1~6のいずれか一項に記載のエアバッグ基布。
【請求項8】
構成する繊維の単糸繊度が2~7dtexである請求項1~7のいずれか一項に記載のエアバッグ基布。
【請求項9】
構成する繊維の単糸断面形状が丸断面である請求項1~8のいずれか一項に記載のエアバッグ基布。
【請求項10】
構成する繊維の原糸強度が8.2~11.0cN/dtexである請求項1~9のいずれか一項に記載のエアバッグ基布。
【請求項11】
構成する繊維がポリアミドである請求項1~10のいずれか一項に記載のエアバッグ基布。
【請求項12】
少なくとも下記(a)~(c)の条件を含む製織工程で製造されることを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載のエアバッグ基布。
(a)製織時の経糸張力が0.30cN/dtex~0.45cN/dtexである。
(b)精練時の経張力が1.2N/cm~3.0N/cmである。
(c)熱セット時の経オーバーフィードが6%未満である。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のエアバッグ基布を用いたエアバッグ。
【請求項14】
請求項13に記載のエアバッグを用いたエアバッグ装置。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、袋体としたときの膨張部と非膨張部の境界部分の展開初期のバイアス方向における目開きを抑制し、エアバッグとしたときの耐バースト性に優れた基布を提供することである。」
「【0023】
[実施例1]
ポリアミド66樹脂を300℃において溶融紡糸し、冷却しながらエステル系平滑剤60重量%及び非イオン型界面活性剤40重量%の紡糸油剤を油分25重量%の水分散液として繊維に付与した。ついで200℃の熱延伸ロールにて4.9倍に延伸したのち、圧縮空気にて交絡を付与し、繊度が470dtexおよび単糸数が136本の原糸を得た。この原糸の強度は8.6cN/dtex、破断伸び率は20.0%、油剤付着率は0.8重量%であった。この原糸を用い、糊付けすることなく豊田自動織機社製LWT710にて、経糸設定密度51本/inch、緯糸設定密度52本/inch、反幅230cm、経糸張力0.35cN/dtex、織機回転数600rpmで平織製織を行った。両耳部分はそれぞれ絡み糸として33dtexのナイロン66モノフィラメント2本を使用した。また、増し糸として絡み糸の内側に33dtexのナイロン66モノフィラメント8本を平織で織り込み、原料反を得た。その後、80℃の湯浴に400Nの張力下で60秒間滞留処理し、加熱ドラムにて110℃で40秒間乾燥を行い、目的の織密度が経緯共に55本/inchの織物を得た。この織物の残油率を計測した結果、織物重量に対し0.1重量%であった。得られた織物について、評価を行ない、それらの結果を表1に記載した。また、上記製織時の製織性評価も表1に記載した。
【0024】
[実施例2]
実施例1に記載のナイロン66繊維を用い、経糸設定密度53本/inch、緯糸設定密度53本/inch、反幅230cm、経糸張力0.35cN/dtex、織機回転数500rpmで平織製織を行った。両耳部分は実施例1と同様にして原料反を得た。その後80℃の湯浴に400Nの張力下で60秒間処理し、加熱ドラムにて110℃で40秒間乾燥を行い、目的の織密度が経緯共に57本/inchの織物を得た。この織物の残油率を計測した結果、織物重量に対し0.12重量%であった。得られた織物について、各種特性測定および評価を行ない、それらの結果を表1に記載した。また、上記製織時の製織性評価も表1に記載した。」
「【0031】
【表1】
[図:0001384157000001.jpg]
」
(イ)甲1に記載された発明
上記(ア)で摘記した事項、特に実施例2に関する記載事項に着目すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「ポリアミド66樹脂を300℃において溶融紡糸し、冷却しながらエステル系平滑剤60重量%及び非イオン型界面活性剤40重量%の紡糸油剤を油分25重量%の水分散液として繊維に付与し、ついで200℃の熱延伸ロールにて4.9倍に延伸したのち、圧縮空気にて交絡を付与し、繊度が470dtexおよび単糸数が136本の原糸を得て、
この原糸を用い、経糸設定密度53本/inch、緯糸設定密度53本/inch、反幅230cm、経糸張力0.35cN/dtex、織機回転数500rpmで平織製織を行い、両耳部分はそれぞれ絡み糸として33dtexのナイロン66モノフィラメント2本を使用し、原料反を得て、
その後80℃の湯浴に400Nの張力下で60秒間処理し、加熱ドラムにて110℃で40秒間乾燥を行い、得た、目的の織密度が経緯共に57本/inchの織物であり、
カバーファクターが2471である、
エアバッグ基布。」
イ 甲2について
甲2には、次の事項が記載されている。
「【0061】
(6)運転席用エアバッグの作成法
評価に使用した運転席用エアバッグの作成法を以下に示す。
エアバッグ用基布として準備した織物から、外径がφ640mmである円形の本体パネルを2枚裁断した。一方の本体パネル中央部にφ67mmのインフレーター取付け口、および、該取付け口の中心から斜め上45度の線上120mmの位置に排気孔φ30mmを2箇所(左右一対)設けた。
【0062】
また、補強布として、ナイロン66繊維の470dtexを用いて作成した織密度21本/cmであるノンコート基布と、織密度18本/cmの基布にシリコーン樹脂を35g/m2を塗布して得られたコート基布とを準備した。インフレーター取付け口の補強布として、外径210mm、内径67mmの環状布Aをノンコート基布から3枚、コート基布から1枚裁断した。さらに、排気孔補強布として、前記コート基布から外径90mm、内径30mmの環状布Bを2枚裁断した。3枚のノンコート環状布Aをインフレーター取付け口に重ね合わせ、内側からφ126mm、φ188mmの位置で円形に縫合し、その上から同一形状のコート環状布A1枚を重ね合わせ、φ75mmの位置で4枚の環状補強布を本体基布(コート基布の場合はコート面側)に円形に縫い合わせた。また、それぞれの排気孔には環状布Bを1枚重ね合わせ、本体パネルに縫い付けた。環状布A、環状布Bの各補強布は、それぞれを縫い合わせる本体パネルの糸軸と45度ずれるように重ね合わせた。
【0063】
インフレーター取付け口の周囲には、本体パネルの糸軸と平行となる位置に、穴間距離68mmにてφ5.5mmのボルト穴を4ヶ所に設けた。環状補強布A、Bの本体パネルへの縫い付けには、上糸として5番手糸(1400dtex相当)、下糸として8番手糸(940dtex相当)を用いて、3.5針/cmの運針数で本縫いにより行った。また、2枚の本体パネルは、環状補強布を縫い付けた面同士をパネルの糸軸を45度ずらして重ね合わせ、その外周部を、縫い目間距離2.4mm、縫い代を20mmとして二重環縫い2列にて縫合し、内径φ600mmの円形エアバッグを作成した。外周部縫製の縫い糸および運針数は、前記本縫いと同じ仕様を用いた。」
ウ 甲3について
甲3には、次の事項が記載されている。
「【0031】
また、評価に使用した運転席用バッグの作成法を、以下に示す。
本体用基布として準備した織物から外径がφ670mmである円形の本体パネルを2枚裁断し、一方のパネルの中央部にφ67mmのインフレーター取付け口、並びに取付け口の中心から斜め上45度の線上120mmの位置に排気穴φ30mmを2箇所(左右一対)開口した。また、補強布として本体基布と同じ織物(ノンコート基布)と、同じ織物にシリコーン樹脂を35g/m2を塗布して得られたコート基布を準備した。取付け口の補強布として外径210mm、内径67mmの環状布Aをノンコート基布から3枚、コート基布から1枚裁断した。さらに、排気穴補強布として、前記コート基布から、外径90mm、内径30mmの環状布Bを2枚裁断した。3枚のノンコート環状布Aを取付け口に重ね合わせ、内側からφ126mm、φ188mmの位置を縫製し、その上から同一形状のコート環状布A1枚を重ね合わせ、φ75mmの位置で4枚の環状補強布を本体基布に縫い合わせた。
【0032】
また、それぞれの排気穴には、環状布Bを1枚重ね合わせて本体基布に縫い付けた。環状布Aは、インフレーター取付け口側のパネル糸軸と45度ずれるように重ね合わせ、同様に環状布Bも排気穴部のパネルの糸軸とが45度ずれる位置に重ね合わせた。インフレーター取付口の周囲には、パネルの糸軸に平行となる位置に、孔間距離68mmにてφ5.5mmのボルト孔を4カ所に設けた。環状補強布A、Bの本体パネルへの縫い付けには、ナイロン66繊維からなる縫い糸を用い、上糸が5番糸(1400デシテックス相当)、下糸が8番(940デシテックス相当)にて3.5針/cmの運針数で本縫いにより行った。また、本体パネルの外周縫製は、一方のパネルの環状布A、Bを縫い付けた側に他方のパネルを、それぞれのパネルの糸糸軸を45度ずらして重ね合わせ、縫い糸の太さ、運針数および縫い目間距離はそれぞれ表1に示した条件により、二重環縫い2列で縫い代を20mmとして縫合し、内径φ630mmのエアバッグを作成した。次いで、取付け口からバッグ全体を反転して、エアバッグを試験に供した。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ポリアミド66樹脂を300℃において溶融紡糸し、冷却しながらエステル系平滑剤60重量%及び非イオン型界面活性剤40重量%の紡糸油剤を油分25重量%の水分散液として繊維に付与し、ついで200℃の熱延伸ロールにて4.9倍に延伸したのち、圧縮空気にて交絡を付与し、」「得」た「繊度が470dtexおよび単糸数が136本の原糸」は、本件発明1の「合成繊維」に相当するから、甲1発明の「ポリアミド66樹脂を300℃において溶融紡糸し、冷却しながらエステル系平滑剤60重量%及び非イオン型界面活性剤40重量%の紡糸油剤を油分25重量%の水分散液として繊維に付与し、ついで200℃の熱延伸ロールにて4.9倍に延伸したのち、圧縮空気にて交絡を付与し、繊度が470dtexおよび単糸数が136本の原糸を得て、この原糸を用い、経糸設定密度53本/inch、緯糸設定密度53本/inch、反幅230cm、経糸張力0.35cN/dtex、織機回転数500rpmで平織製織を行い、両耳部分はそれぞれ絡み糸として33dtexのナイロン66モノフィラメント2本を使用し、原料反を得て、その後80℃の湯浴に400Nの張力下で60秒間処理し、加熱ドラムにて110℃で40秒間乾燥を行い、得た、目的の織密度が経緯共に57本/inchの織物」は、本件発明1の「合成繊維からなる織物」に相当する。
甲1発明の「原糸」が「単糸数が136本」であることは、本件発明1の「前記織物を構成する糸のフィラメント数が、96~144本」の範囲内にある。
甲1発明の「原糸」が「繊度が470dtexおよび単糸数が136本」であることは、単糸1本あたりの繊度が470dtex/136本=約3.5であるから、本件発明1の「前記織物を構成する糸の単繊維繊度が、2.9~5.8dtex」の範囲内にある。
甲1発明の「カバーファクターが2471」は、本件発明1の「カバーファクターが、2461~2623」の範囲内にある。
甲1発明の「ポリアミド66樹脂を300℃において溶融紡糸し、冷却しながらエステル系平滑剤60重量%及び非イオン型界面活性剤40重量%の紡糸油剤を油分25重量%の水分散液として繊維に付与し、ついで200℃の熱延伸ロールにて4.9倍に延伸したのち、圧縮空気にて交絡を付与し、繊度が470dtexおよび単糸数が136本の原糸を得て、この原糸を用い、経糸設定密度53本/inch、緯糸設定密度53本/inch、反幅230cm、経糸張力0.35cN/dtex、織機回転数500rpmで平織製織を行い、両耳部分はそれぞれ絡み糸として33dtexのナイロン66モノフィラメント2本を使用し、原料反を得て、その後80℃の湯浴に400Nの張力下で60秒間処理し、加熱ドラムにて110℃で40秒間乾燥を行い、得た、目的の織密度が経緯共に57本/inchの織物であ」る「エアバッグ基布」は、本件発明1の「エアバッグ用織物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
[一致点]
「合成繊維からなる織物であって、
前記織物を構成する糸のフィラメント数が、96~144本であり、
前記織物を構成する糸の単繊維繊度が、2.9~5.8dtexであり、
カバーファクターが、2461~2623である、エアバッグ用織物。」
[相違点1]
本件発明1は「引張強度が経緯共に600N/cm以上であ」るのに対し、甲1発明はその点不明である点。
[相違点2]
本件発明1は「20kPa差圧下における通気量が、1.0L/cm2・min以下であ」るのに対し、甲1発明はその点不明である点。
[相違点3]
本件発明1は「織物を1.0%伸長状態から3.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上であり、3.0%伸長状態から5.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上であ」るのに対し、甲1発明はその点不明である点。
イ 判断
まず、相違点3について検討する。
織物の物性は、織物を構成する繊維の物性及び織物の構造によって変化し、繊維の物性は、繊維の材料及び加工方法によって変化するから、「織物を構成する糸のフィラメント数」、「織物を構成する糸の単繊維繊度」及び「カバーファクター」が同一であることが、ただちに織物の物性が同一であることを意味しない。
したがって、相違点3は実質的な相違点である。
そこで、当該相違点3について、さらに検討する。
「合成繊維からなる織物であって、前記織物を構成する糸のフィラメント数が、96~144本であり、前記織物を構成する糸の単繊維繊度が、2.9~5.8dtexであり、カバーファクターが、2461~2623である、エアバッグ用織物」であれば、必ず「織物を1.0%伸長状態から3.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上であり、3.0%伸長状態から5.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上であ」ることは、甲2及び甲3には記載されておらず、このようなことは周知技術でもない。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の記載によれば、「エアバッグの展開に際しては、2段階で圧力が変動するため、伸長のために必要な応力も2段階で検討する必要があ」り、「本発明においては、織物を1.0%伸長状態から3.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力と、3.0%伸長状態から5.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力とを分けて検討している」(本件特許の明細書【0023】)から、本件発明1は、「織物を1.0%伸長状態から3.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上であり、3.0%伸長状態から5.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上であ」ることで、「エアバッグの展開に際しては、2段階で圧力が変動する」ことに対応できるという、甲1~3には記載されていない格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものであるから、上記(2)で検討したことと同じ理由により、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
2 取消理由3(実施可能要件)について
本件発明1の「引張強度が経緯共に600N/cm以上」、「20kPa差圧下における通気量が、1.0L/cm2・min以下」、「織物を1.0%伸長状態から3.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上であり、3.0%伸長状態から5.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上」については、本件特許の発明の詳細な説明には、その測定方法が記載され(本件特許の明細書【0046】~【0052】)、これらの条件を満たす具体的な例が、合成繊維の材料や織物の諸元と共に「実施例1」~「実施例4」として記載されている(本件特許の明細書【0059】~【0062】、【0066】)。
そうすると、当業者は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された合成繊維の材料や織物の諸元に基づいてエアバッグ用織物を製造し、本件特許の発明の詳細な説明に記載された「引張強度が経緯共に600N/cm以上」、「20kPa差圧下における通気量が、1.0L/cm2・min以下」、「織物を1.0%伸長状態から3.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上であり、3.0%伸長状態から5.0%伸長状態まで追加で伸長させる際に必要な応力が、経緯平均で15N/cm以上」という条件を満たすようにすればよいのであるから、当業者が、本件発明1~6を実施するにあたり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があるとまではいえない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
3 小括
上記1のとおりであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
また、上記2のとおりであるから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでもない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700745