特許異議申立
2020-700722
混紡紡績糸及びこれを用いた織物と衣料用繊維製品
- 審判番号
- 2020-700722
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-013470
- 登録番号
- 特許第6670772号(P6670772)
- 請求日
- 2020年09月23日
- 審決日
- 2021年05月18日
- 公報発行日
- 2021年09月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本毛織株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人池内アンドパートナーズ
- 【異議申立人】特許業務法人 虎ノ門知的財産事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 井上 茂夫
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.537-YAA(D02G) / P1651.121-YAA(D02G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条、特許法第120条の8、特許法第135条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6670772号発明「混紡紡績糸及びこれを用いた織物と衣料用繊維製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6670772号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第6670772号の請求項1、3~8に係る特許を維持する。
特許第6670772号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6670772号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成29年1月27日に出願され、令和2年3月4日にその特許権の設定登録がされ、令和2年3月25日に特許掲載公報が発行されたものであり、その特許について、令和2年9月23日に特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、令和2年12月24日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和3年1月28日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正そのものを「本件訂正」という。)がされ、この本件訂正請求について、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、意見書は提出されなかったものである。
第2 本件訂正請求について
1.本件訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6670772号の特許請求の範囲及び明細書を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりのものである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、
前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2~4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、
前記通常繊度のポリエステル短繊維はレギュラータイプのポリエステル短繊維であり、
前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率は、P1>W≧P2であることを特徴とする混紡紡績糸。」と記載されているのを、
「獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、
前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2~4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、
前記通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり、
前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10~70:20~80:10~30、但しP1>W≧P2であることを特徴とする混紡紡績糸。」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「請求項1又は2に」と記載されているのを、「請求項1に」と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1~3のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1又は3に」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1~4のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1、3、4のいずれかに」と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、
「前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート短繊維である請求項1~5のいずれかに記載の混紡紡績糸。」と記載されているのを、
「前記細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート短繊維である請求項1、3~5のいずれかに記載の混紡紡績糸。」と訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に、「請求項1~6のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1、3~6のいずれかに」と訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の段落【0006】の
「本発明の混紡紡績糸は、獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2~4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、前記通常繊度のポリエステル短繊維はレギュラータイプのポリエステル短繊維であり、前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率は、P1>W≧P2であることを特徴とする。」と記載されているのを、
「本発明の混紡紡績糸は、獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2~4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、前記通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり、前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10~70:20~80:10~30、但しP1>W≧P2であることを特徴とする。」と訂正する。
(9)訂正事項9
明細書の段落【0025】の
「(比較例1)
細繊度のポリエステル短繊維(P2)を使用せず、その分通常繊維のポリエステル短繊維(P1)とした以外は実施例1と同様に実験した。得られた織物の物性は表1にまとめて示す。」と記載されているのを、
「(比較例1)
細繊度のポリエステル短繊維(P2)を使用せず、その分通常繊維のポリエステル短繊維(P1)とした以外は実施例1と同様に実験した。得られた織物の物性は表2にまとめて示す。」と訂正する。
2.訂正の適否
(1)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~8は、本件訂正前の請求項1を、直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項についてされたものである。
また、訂正事項8及び9による願書に添付した明細書の訂正に係る請求項は、請求項1及びこの請求項1を直接又は間接に引用する請求項2~8であり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項に規定する、一群の請求項の全てについて行われたものである。
(2)訂正事項1について
ア.訂正事項1のうち、「前記通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり、」とする訂正は、「通常繊度のポリエステル短繊維」について、繊維の断面が「丸断面」であり、ポリエステルのうちの「ポリエチレンテレフタレート」に限定するものであり、
また、「前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10~70:20~80:10~30、但しP1>W≧P2である」とする訂正は、獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率について限定するものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ.訂正事項1のうち、「前記通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり、」とする訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の請求項6に「前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート短繊維である」と、段落【0013】に「前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維が好ましい。PET短繊維は、強度と初期弾性率が高く、しわになりにくい性質を有する。PET短繊維の単繊維断面は汎用性のある丸断面が好ましい。」と記載されており、この訂正は本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、
また、「前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10~70:20~80:10~30、但しP1>W≧P2である」とする訂正は、本件特許明細書等の請求項2に「前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10~70:20~80:10~30である請求項1に記載の混紡紡績糸。」と記載されており、この訂正は本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであるから、いずれも、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項3~5、7について
訂正事項3~5、7は、訂正事項2により請求項2が削除されることに伴い、請求項3~5、7が引用する請求項を整合させる訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項3~5、7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正事項1で訂正前の請求項6に記載されていた「通常繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート短繊維である」との事項を請求項1に加えることに伴い、請求項6から当該事項を削除して記載を整合させる訂正であり、また、訂正事項2により請求項2が削除されることに伴い、請求項6が引用する請求項を整合させる訂正であるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(6)訂正事項8について
訂正事項8は、段落【0006】の記載を、訂正事項1により訂正される請求項1の記載に整合させる訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(7)訂正事項9について
ア.本件特許に係る願書に最初に添付した明細書(以下「本件当初明細書」という。)の段落【0025】には、
「(比較例1)
細繊度のポリエステル短繊維(P2)を使用せず、その分通常繊維のポリエステル短繊維(P1)とした以外は実施例1と同様に実験した。得られた織物の物性は表1にまとめて示す。」と記載されているところ、
段落【0024】の【表1】には、原料繊維について記載され、織物の物性は記載されていない。
一方、段落【0026】の【表2】には、比較例1と実施例1について、両者の試験項目毎に、対比して試験結果が示され、
段落【0023】~【0024】には、実施例1について
「<混紡紡績>
仏式梳毛紡績における、混毛インターセクティング ギル ボックス(intersecting gill box)を使用して、前記「スライバー混紡」により混紡した。混紡率はウール30質量%、通常繊度のポリエステル短繊維50質量%、細繊度のポリエステル短繊維20質量%とした。混紡した後のスライバーは粗糸とし、リング紡績法により紡績糸とした。・・・・この紡績糸(単糸)を2本撚り合わせて双糸とした。・・・・得られた双糸の物性は表2にまとめて示す。
・・・・
<織物染色>
織物の染色は常法を使用した。・・・・染色後の織物の物性は表2にまとめて示す。」と記載され、実施例1の織物の物性は、「表2」に示すとされている。
そうすると、比較例1と実施例1とも、織物の物性は「表2」に対比して示されていると理解されるから、段落【0025】の、比較例1の織物の物性が「表1」に示されるとする記載は、その理解と矛盾するものである。
よって、本件当初明細書の段落【0025】で「表1」と記載されていたものを、「表2」とする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものに該当する。
イ.また、本件当初明細書の段落【0026】の【表2】には、比較例1の織物の物性が記載されており、この訂正は、本件当初明細書に記載された事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.そして、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、
前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2~4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、
前記通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり、
前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10~70:20~80:10~30、但しP1>W≧P2であることを特徴とする混紡紡績糸。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記細繊度のポリエステル短繊維は、抗ピル性ポリエステル短繊維である請求項1に記載の混紡紡績糸。
【請求項4】
前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維の平均繊維長は、50mmを超え150mm以下である請求項1又は3に記載の混紡紡績糸。
【請求項5】
前記獣毛繊維は、ウール、カシミヤ、モヘヤ及びキャメルから選ばれる少なくとも一つである請求項1、3、4のいずれかに記載の混紡紡績糸。
【請求項6】
前記細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート短繊維である請求項1、3~5のいずれかに記載の混紡紡績糸。
【請求項7】
請求項1、3~6のいずれかに記載の混紡紡績糸を含む織物。
【請求項8】
請求項7に記載の織物を含む衣料用繊維製品。」
2.取消理由の概要
本件発明1~8に対して、特許権者に通知した令和2年12月24日付けの取消理由の概要は、次のとおりである。
理由1)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由2)本件特許の請求項1~8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記(2)の刊行物の、甲9又は甲10に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(1)ア 「通常繊度のポリエステル短繊維はレギュラータイプのポリエステル短繊維であり」との記載を含む請求項1に係る発明の記載は明確ではない。
イ 特許請求の範囲の請求項2で特定される混紡紡績糸は、請求項1の特定を全て備えるものであるところ、請求項2で特定される「獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10~70:20~80:10~30である」には、請求項1の式「P1>W≧P2」を満たさない混率のものを含んでおり、請求項2で特定される混紡紡績糸が、どのようなものであるのか明確ではない。
(2)提出された刊行物
甲1:特開2008-38332号公報
甲2:特開昭63-159587号公報
甲3:特開昭62-273229号公報
甲4:特開2002-129451号公報
甲5:国際公開第2017/010024号
甲6:特開2008-133584号公報
甲7:特開2004-68211号公報
甲8:特開2012-41664号公報
甲9:特表平11-508969号公報
甲10:特開2004-197244号公報
甲11:日本繊維機械学会繊維データ集編集委員会編、「繊維新素材・新製品データ集」、初版、社団法人日本繊維機械学会、昭和63年3月31日、22頁
3.取消理由についての判断
(1)理由1について
ア 本件訂正により、本件発明1の「通常繊度のポリエステル短繊維はレギュラータイプのポリエステル短繊維であり」との記載は、「通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり」と訂正され、「レギュラー」タイプの「ポリエステル繊維」が、「ポリエチレンテレフタレート繊維」であることが特定された、
これは、甲1(【0007】)で「本発明においてレギュラーポリエステル繊維とはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの未変性ポリエステルである。」と、甲2(2頁左上欄末行~同右上欄6行)で「本発明において、レギュラーポリエステル繊維とは、一般の衣料用ポリエステル繊維でありテレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2~6のアルキレングリコール、特に好ましくはエチレングリコール又はテトラメチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルからなる繊維である。」と、甲3(3頁右上欄10~14行)で「レギュラーポリエステル繊維とは、実質的にポリアルキレンテレフタレートから成り、ごく微量の第三成分や、少量の触媒・熱安定剤・顔料・艶出し剤・艶消し材などを含有しているものを含めたものである。」と、甲5([0070])で「例えば未変性ポリエステル繊維(未改質のポリエチレンテレフタレートからなり、レギュラーポリエステル繊維ともいわれる。)」と記載されることと整合し、本件発明1の「通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり」との記載は明確である。
イ 本件訂正により、「前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10~70:20~80:10~30、但しP1>W≧P2である」と訂正された。
この訂正により、本件発明1は、「W:P1:P2=10~70:20~80:10~30」の条件と、「P1>W≧P2」の条件を、ともに満たす、獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)であることが明確である。
ウ よって、本件発明1、3~8は明確であり、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条6項2号に規定する要件を満たしていないものではない。
(2)甲9を主引用例とする理由2について
ア 甲9に記載された事項を示す。下線は、当審で付したものである。
(ア)「【特許請求の範囲】
・・・・
2. 梳毛または紡毛システムでの加工に好適なスライバであって、不連続のポリエステル繊維、またはウール繊維および不連続ポリエステル繊維の連続スライバからなり、前記ポリエステルは分岐ポリマであり、前記ポリエステル繊維は、繊維当たり高タイタ-の繊維および繊維当たり低タイタ-の繊維の混合物であり、前記低タイタ-は繊維当たり0.5~3dtexであり、前記高タイタ-は、繊維当たり2~6dtexで且つ前記低タイタ-の少なくとも1.5倍であり、前記ポリエステル繊維の断面は一般のくびれを有する楕円形であり、前記くびれがポリエステル繊維の長さに沿って続いていることを特徴とするスライバ。」(特許請求の範囲請求項2)
(イ)「梳毛システムでの加工は、現在、綿システムで実行されている多くの実践と全く異なる。綿システムでは、一般的に、梱(こり)で売られる綿繊維を用い、それは場合によっては、主としてステープルあるいはカット繊維であるポリエステルと混合され、また、ぎっしり詰まった梱で売られる。これらシステムとは異なり、梳毛システムでの加工のためには、梳毛操作者は、粉砕、切断あるいはけん切(stretch-breaking)によって、(連続した)トウを、連続したスライバ(不連続繊維の連続したエンド(繊維束)、以下、単に「カット繊維(cutfiber)」と呼ぶ)に変換することができるので、(カット繊維のぎっしり詰まった梱の代わりに)ポリエステル繊維のトウを買うことを望んでいる。このスライバは、いくつかの工程、すなわち、ドラフティング(drafting)、染色(dyeing)、バック・ウォッシング(back-washing)、ギリング(gilling)、ピン・ドラフティング(pin-drafting)、および一般的には最終的にウールとの混合工程で、(連続したエンドとして)加工される。」(4頁23行~5頁7行)
(ウ)「それゆえ、本発明にかかる下流製品、特に、連続梳毛システムポリエステル(カット)繊維スライバ、ヤーン、織物(fabric)、並びに、ポリエステル繊維の混合物、およびウール繊維の混合物、および/または、所望により、他の繊維の混合物を含むスライバからの衣服、さらにはそれらの製造方法、および/またはそれらの使用が提供される。」(6頁6~10行)
(エ)「本発明に係るポリエステルフィラメントの断面は、円形であってはならず、フィラメントの長さ方向に沿って延びるくびれ付きの一般的な楕円形である。」(8頁14~15行)
(オ)「実施例V
3.2dpf(3.6dtex)のポリ(エチレンテレフタレート)のフィラメントを本質的に実施例2に詳述したように溶融紡糸したが、1054の細孔を含む紡糸口金の一位置から約73ポンド(33Kg)/時間の速度で押し出し、ボビンに巻き取り、総フィラメント束デニールが3445(約3830dtex)を得た。
7.8dpfのフィラメント(8.7dtex)を同様に溶融紡糸にし、単一の位置の450の細孔を含む紡糸口金から、約75ポンド(34Kg)/時間の速度で押し出して、ボビンに巻き取った総フィラメント束デニールが3492(3880dtex)を得た。
紡糸特性を表5Aに示す。
これらの低dpfフィラメントの3つのボビンと、高dpfフィラメントの29のボビンとを混合し、同時延伸のための、公称ブレンド比10/90のの低dpf/高dpfを有するトウを形成した。このトウを95℃のスプレー延伸水において、2.6Xの延伸比で延伸した。その後、トウをスタッファボックス捲縮機に通し、続いて145℃で弛緩し、約3.0(3.3dtex)の公称(平均)dpfを有する、低および高デニールのフィラメントを含む緊密混合物からなる、ほぼ47,000デニール(52,000dtex)の最終のトウを得た。これらのフィラメントの特性を表5Bに示す。
従来の仕上剤を実施例1のように添加した。トウを従来のトウボックスに集め、後加工処理、ヤーン次いで織物へ変換するためのウールと混合のために、ミルへ搬送した。
トウ(およびそれから得られるスライバ)を如何に加工するかは、商業的生存力に対して重要である。ミルで製品性能を評価するため、スライバ粘着(cohesion)試験、すなわち、繊維同士の摩擦の測定を、染色前および染色後の両方において実行した。スライバ粘着試験は、12インチ(約30cm)の長さのスライバを製造するためのカーディング工程からなり、スライバを垂直に吊って、耐荷限界に達するまで底部に加重する(すなわち、スライバ内の繊維が引き剥がれ、おもりが落下する)。染色したアイテムについては、スライバをナイロンバックへきつく詰め、青G/F染料を分散液を用いて、華氏250度(121℃)で30分間、加圧染色した。サンプルを強制エアーオーブンで華氏270度(132℃)で30分間、乾燥させ、スライバ粘着をmg/デニール(括弧内にmg/dtexを示す)で測定した。このような試験は、染色前および染色後のアイテム間で変化する摩擦特性の大きさを反映する。比較のため、スライバ粘着試験を、現在市販されている3.0dpf(3.3dtex)の円形繊維(同一ポリマで(8.2)CPI(3.2CPcm)および捲縮指数を一致させたもの)のスライバについて実行した。スライバ粘着試験の結果を表5Cに示す。
得られたスライバ粘着値の比較は、本発明のトウ(扇状楕円形断面の混合dpf)からのスライバは、染色前には従来の単一dpf(混合していない)の円形繊維型スライバ(また3dpf)の30%だけとで、染色後には従来の型の36%だけという、非常に低いスライバ粘着値を有していることを示す。これらは、本発明のトウ(およびそれから得られたスライバ)が、何故、良好に加工されるかを、遡及的に説明している。」(17頁4行~19頁6行)
イ 上記記載事項から、甲9には、次の甲9発明が記載されている。
「3.7dtexのポリ(エチレンテレフタレート)を92%、1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)を8%の割合で含む、扇状楕円形断面のトウから得られるスライバに、ウールを混合した糸。」
ウ 本件発明1と甲9発明を対比する。
甲9発明の「ウール」は本件発明1の「獣毛繊維」に相当し、甲9発明の「3.7dtexのポリ(エチレンテレフタレート)」と「1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)」の「扇状楕円形断面のトウから得られるスライバ」は、本件発明1の「ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であ」ることに相当し、甲9発明の「1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)」のスライバは、本件発明1の「単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維」に相当する。
甲9発明の「3.7dtexのポリ(エチレンテレフタレート)」の「扇状楕円形断面のトウから得られるスライバ」と、本件発明1の「単繊維繊度が2~4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維」は「丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維」とは、「単繊維繊度が2~4decitexのポリエステル短繊維」という限りで一致する。
また、甲9発明のポリ(エチレンテレフタレート)のスライバにウールを混合した糸は、本件発明1の「混紡紡績糸」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲9発明は、
「獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、
前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2~4decitexのポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満のポリエステル短繊維からなる、混紡紡績糸。」で一致し、
以下の相違点1、2で相違する。
《相違点1》
単繊維繊度が2~4decitexのポリエステル短繊維について、本件発明1が、「丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維」であるのに対し、甲9発明は、「3.7dtexのポリ(エチレンテレフタレート)」の「扇状楕円形断面のトウから得られるスライバ」である点。
《相違点2》
本件発明1が、「通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10~70:20~80:10~30、但しP1>W≧P2である」のに対し、甲9発明は、ポリエステル繊維のうち、3.7dtexのポリ(エチレンテレフタレート)を92%、1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)を8%の割合で含むものの、ウールを含めた割合は特定されていない点。
エ 相違点1について検討する。
甲9発明のスライバは、扇状楕円形断面のトウから得られるものであり、これにより、染色後には従来の円形断面のものと比べて、非常に低いスライバ粘着値を有するとされており、甲9の上記記載ア(エ)には、「本発明に係るポリエステルフィラメントの断面は、円形であってはならず、フィラメントの長さ方向に沿って延びるくびれ付きの一般的な楕円形である。」と記載されているから、甲9発明の「扇状楕円形断面」のものを、本件発明1のように「丸断面」に換える動機付けがない。
よって、甲9発明において、本件発明1の相違点1に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
オ 次に、相違点2について検討する。
本件発明1の細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、10~30%であり、獣毛繊維(W)は、細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率と、同じかそれ以上の混率であり、通常繊度のポリエステル短繊維(P1)は、獣毛繊維(W)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)のいずれの混率よりも大きい混率である。3つの繊維の混率をこのように調整することで、「風合いはウールと細繊度のポリエステル短繊維で良好に保ち、抗ピル性はウールと通常繊度のポリエステル短繊維で良好に保ち、染色性が良好であるのはウールと通常繊度のポリエステル短繊維で発揮する」(本件特許明細書等の段落【0020】)ことができるとされる。
一方、甲9発明は、ポリエステル繊維のうち、3.7dtexのポリ(エチレンテレフタレート)を92%、1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)を8%の割合で含むものではあるが、ウールを含めた割合では、1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)の割合は、8%よりも更に少なくなり、本件発明1の細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率の最小値である10%から離れることになる上、甲9には、ウールと1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)を、3.7dtexのポリ(エチレンテレフタレート)と混合させて、風合いや抗ピル性、染色性を調整することについては記載されていない。
また、甲11には、カチオン可染タイプ(50%)と分散可染タイプ(20%)の2者混のポリエステルサイドと羊毛を混合して、風合いは、硬さがなく、かさ高性があり、染色性も良い、紡績糸(商品名「エスバルク」)が記載されているものの、羊毛と通常繊度のポリエステル繊維に細繊度のポリエステル繊維を加え、それらの混率を調整して、風合いと抗ピル性、染色性を良好にするものではないから、甲11の記載を参酌しても、甲9発明の3.7dtexと1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)及びウールの混合割合を、本件発明1の相違点2の混率に設定することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
カ よって、本件発明1は、甲9発明及び甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
キ 本件発明3~8は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記ア~カで述べたように、本件発明1は、甲9発明及び甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明3~8も、甲9発明及び甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)甲10を主引用例とする理由2について
ア 甲10に記載された事項を示す。下線は当審で付したものである。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性化合物グラフト重合加工ポリエステル繊維とグラフト重合未加工ポリエステル繊維とを含有する繊維構造体であり、前記グラフト重合加工ポリエステル繊維の含有率が65質量%未満で、かつ吸湿性が2.0%以上、耐光堅牢度が4級以上であることを特徴とする吸湿性ポリエステル繊維構造体。【請求項2】
繊維構造体が織物、編物及び不織布のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の吸湿性ポリエステル繊維構造体。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はグラフト重合加工繊維を用いた糸、織物、、編物及び不織布などの繊維構造体に関するものであり、さらに詳しくは、インナー及びアウター用織編物やタオル、芯地、マット、シーツ等のインテリア、副資材、寝装用品などに関する。」
(ウ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、インナー及びアウター用織編物やタオル、芯地、マット、シーツ等のインテリア、副資材、寝装用等に好適なを吸湿性ポリエステル繊維構造体を提供しようとするものであり、吸湿性を有する2成分複合紡糸繊維を用いることなく、グラフト重合ポリエステル繊維の欠点である耐光堅牢性の悪さ、物性低下、湿潤時の寸法不安定性、ヌメリ風合などが改善されたポリエステル長・短繊維織編物、不織布などを提供しようとするものである。
【0005】
【発明を解決するための手段】
・・・・
【0006】
本発明は、上記構成により、グラフト重合加工ポリエステル織編物、不織布などの欠点であった発色性、耐光堅牢度、強力低下、特に湿潤時の強力低下や寸法安定、しわ、ヌメリ風合等を改善することができる。特に、(1)グラフト重合加工繊維とグラフト重合加工されていない繊維をある比率で混繊・混紡、または交編織すること、(2)グラフト重合加工繊維を含む原綿、混紡・混繊糸、または織編物、不織布を紫外線吸収剤を併用しアルカリ分散染料で染色すること、(3)染色品を軽還元洗浄または還元洗浄をすることなくナトリウム置換処理などの金属塩化処理を行うことの3つの条件が主要点である。以下、詳細を説明する。」
(エ)「【0007】
【発明の実施の形態】
本発明でグラフト重合加工に用いられるポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートなどのホモポリマーポリエステルが主体的に用いられるが、異色性や低温染色性を得るために有機スルホン酸塩基含有成分を共重合した共重合ポリエステルや高収縮性を得るためにイソフタル酸、ネオペンチルグリコールなどの第3成分を共重合した共重合変性ポリエステルなども用いることができる。・・・・」
(オ)「【0014】
グラフト重合加工したポリエステル繊維は、グラフト重合加工しないポリエステル繊維と混紡、混繊などで混用される。・・・
【0015】
本発明においては、グラフト重合加工繊維のみでの織物、編物、不織布などは避け、グラフト重合加工されていないポリエステル繊維との混紡、混繊、交編、交織などによる混用が第一条件である。グラフト重合加工繊維のみでは、生成りで用いない限り耐光堅牢度が改善困難なためである。グラフト重合加工繊維の混用率は、芯部にグラフト重合繊維を多く配した粗糸やカバリング糸や合撚糸では5質量%以上、65質量%未満が好ましく、カード混紡糸やエア混繊糸であれば50質量%未満とすることが好ましい。・・・・」
(カ)「【0020】
混用する繊維はポリエステル以外の繊維でもよいが、本発明では物性、W&W性、染色性の面からポリエステル繊維が主体的に用いられる。混用繊維の形態や種類は、丸断面、中空や高異型度繊維、極細繊維、2成分複合紡糸潜在捲縮繊維、カチオン可染や常圧可染繊維、先染め繊維、原着繊維等であってもよく、また、ポリエステル以外の繊維としては、木綿、麻、レーヨン、シルク、ウール、アクリル、プロミックス、ナイロンなど、目的によって種々組合せることが可能である。」
(キ)「【0022】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を説明する。実施例、比較例ともグラフト重合加工繊維として繊度2.2dtex、カット長38mmの中実ポリエステル繊維を、グラフト重合加工されないポリエステル繊維として繊度1.6dtex、カット長38mmの異型度2.4のY型断面形状繊維を用い、グラフト重合加工後の原綿粗糸を140ゲレンとし、36倍でドラフトしながら、リング紡績糸は精紡機回転数12、000rpm、撚り係数3.4で撚りあげ、英式綿番手30番手の紡績糸を得た。エア交絡紡績糸は村田機械(株)製ムラタボルテックススピナーMVSを用い、300ゲレンのスライバーを180倍にドラフトしながら、エア圧0.45MPa、糸速400m/分で紡出し、各英式綿番手30番手の紡績糸を得た。」
(ク)「【0026】
【表1】
」
イ 上記記載事項から、甲10(特に実施例1)には、次の甲10発明が記載されている。
「グラフト重合加工繊維として繊度2.2dtex、カット長38mmの中実ポリエステル繊維を63%、グラフト重合加工されないポリエステル繊維として繊度1.6dtex、カット長38mmの異型度2.4のY型断面形状繊維を37%含有する糸であって、
グラフト重合加工に用いられるポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートが用いられ、ポリエステル以外の繊維として、木綿、麻、レーヨン、シルク、ウール、アクリル、プロミックス、ナイロンなどを、目的によって種々組合せる、糸。」
ウ 本件発明1と甲10発明を対比すると、両者は、単繊維繊度が2~4decitexのポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満のポリエステル短繊維に、ポリエステル以外の繊維を組み合わせ得ることで一致する。
一方、本件発明1と甲10発明とは、本件発明1が、獣毛繊維(W)と単繊維繊度が2~4decitexのポリエステル短繊維(P1)と単繊維繊度が2decitex未満のポリエステル短繊維(P2)の混率を、「W:P1:P2=10~70:20~80:10~30、但しP1>W≧P2」の範囲で調整するのに対し、甲10発明は、ポリエステル以外の繊維としてウールが例示されるものの、木綿、麻、レーヨン、シルク、アクリル、プロミックス、ナイロンなどの繊維の中から選択するものである上、獣毛繊維(W)と単繊維繊度が2~4decitexのポリエステル短繊維(P1)と単繊維繊度が2decitex未満のポリエステル短繊維(P2)について、混合割合を、「W:P1:P2=10~70:20~80:10~30、但しP1>W≧P2」の範囲に調整するものではない点で、少なくとも相違する。
ここで、甲10発明は、グラフト重合加工繊維とグラフト重合加工されていない繊維をある比率で混繊・混紡、または交編織することにより、グラフト重合加工ポリエステル織編物、不織布などの欠点であった発色性、耐光堅牢度、強力低下、特に湿潤時の強力低下や寸法安定、しわ、ヌメリ風合等を改善することができる(甲10の上記記載ア(ウ))とされるものであり、ポリエステル以外の繊維として組み合わせ得る多数の繊維の中からウールを選択し、さらに、そのウールを含め、通常繊度のポリエステル短繊維と細繊度のポリエステル短繊維との間で、風合いや抗ピル性、染色性のために、混合割合を本件発明1の範囲に調整する動機付けがない。
そして、甲11の記載を参酌しても、甲10発明の糸の各繊維の混合割合を、本件発明1のように設定することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
エ よって、本件発明1は、甲10発明及び甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明3~8は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記ア~エで述べたように、本件発明1は、甲10発明及び甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明3~8も、甲10発明及び甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4.取消理由に採用しなかった申立理由
申立人は、本件特許に係る令和1年12月16日の手続補正により、特許請求の範囲請求項1の「前記通常繊度のポリエステル短繊維はレギュラータイプのポリエステル短繊維であり」との事項を追加する補正は、本件当初明細書に記載された事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項に違反するものである旨主張する。
しかし、本件訂正により、特許請求の範囲請求項1の当該箇所は、「前記通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり、」と訂正され、本件当初明細書の「前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維が好ましい。PET短繊維は、強度と初期弾性率が高く、しわになりにくい性質を有する。PET短繊維の単繊維断面は汎用性のある丸断面が好ましい。」(段落【0013】)、「・通常繊度のポリエステル短繊維は市販のレギュラータイプのPET短繊維(平均直径:17.5μm、平均繊度:3.3decitex、繊維長:76~102mmのバイアスカット)を使用し、分散染料を用いて常法により黒色に染色した。」(段落【0023】)との記載事項の範囲内であるといえる。
よって、申立人の特許法第17条の2第3項に係る申立理由は、採用できない。
5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、3~8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、3~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により、請求項2に係る特許は削除されたため、請求項2に対して申立人がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700722