特許異議申立
2021-701255
エアセル用フィルム、エアセルおよびエアマット
- 審判番号
- 2021-701255
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-043886
- 登録番号
- 6895773
- 請求日
- 2021年12月28日
- 審決日
- 2022年12月01日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】セーレン株式会社
- 【権利者代理人】沖中 仁
- 【異議申立人】森 秀晴
- 【異議申立人】森 あい子
- 【異議申立人】井上 勉
- 審判長/審判官
- 審判長 藤井 昇
- 審判官 八木 誠
- 審判官 出口 昌哉
- 分類
- P1651.121-YAA(A47C) / P1651.537-YAA(A47C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6895773号発明「エアセル用フィルム、エアセルおよびエアマット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6895773号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第6895773号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6895773号の請求項1~4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年3月8日に出願され、令和3年6月10日に特許が設定登録され、同年6月30日に特許掲載公報が発行された。
本件特許についての、特許異議申立人森秀晴、森あい子(以下、それぞれ、「申立人A」、「申立人B」という。)、及び、特許異議申立人井上勉(以下、「申立人C」という。)による特許異議の申立ての経緯は、以下のとおりである。
令和3年12月28日 申立人A、Bより特許異議の申立て
同年12月29日 申立人Cより特許異議の申立て
令和4年 3月30日付け 取消理由通知書
同年 4月27日 特許権者より意見書
同年 5月31日 取消理由通知書(決定の予告)
同年 7月27日 特許権者より意見書・訂正請求書
同年 9月 7日 申立人A、Bより意見書、申立人Cより意見書
第2 本件訂正
1 訂正の内容
特許権者が求める訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を、令和4年7月27日の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正事項は以下のとおりである(なお、下線部は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
請求項1について、「熱可塑性ポリウレタン樹脂からなるエアセル用フィルムであって、フィルム硬度がA87~A93の範囲であり、50%モジュラスが5.0~13.0MPaの範囲であるエアセル用フィルム。」を、「熱可塑性ポリウレタン樹脂からなるエアセル用フィルムであって、同一フィルムを30枚積層した試験片にタイプAデュロメータ(JIS K 7215)を9.8Nの荷重をかけて押し付けて測定したフィルム硬度がA87~A93の範囲であり、50%モジュラスが5.0~13.0MPaの範囲であるエアセル用フィルム。」に訂正する(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4についても同様に訂正する。)。
なお、訂正前の請求項1~4は、請求項2~4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1~4について請求されている。
2 本件訂正の適否
(1)訂正の目的の適否、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「フィルム硬度」について、「同一フィルムを30枚積層した試験片にタイプAデュロメータ(JIS K 7215)を9.8Nの荷重をかけて押しつけて測定した」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するっものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(2)新規事項の有無
明細書には、以下の記載があることから、訂正事項1は新規事項の追加ではないことは明らかである。
「【0034】
<フィルム物性測定方法>
(1)フィルム硬度
同一フィルムを30枚積層させ、硬い机の上に積層フィルムを置き、測定器をフィルムの上から垂直に接触させて試験片に9.8Nの荷重をかけて測定器を押し付けた直後の値を確認した。なお、測定器はタイプAデュロメータ(JIS K 7215)を用いた。」
(3)小括
以上によれば、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の請求項の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正が認められることにより、本件訂正後の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、令和4年7月27日の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
熱可塑性ポリウレタン樹脂からなるエアセル用フィルムであって、同一フィルムを30枚積層した試験片にタイプAデュロメータ(JIS K 7215)を9.8Nの荷重をかけて押し付けて測定したフィルム硬度がA87~A93の範囲であり、50%モジュラスが5.0~13.0MPaの範囲であるエアセル用フィルム。
【請求項2】
TMA法における軟化点が130~180℃の範囲である請求項1に記載のエアセル用フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエアセル用フィルムが用いられ、内部に空気を封入可能に形成されたエアマット用エアセル。
【請求項4】
請求項3に記載されたエアマット用エアセルが複数併設されたエアマット。」
第4 取消理由の概要
本件発明1~4に対して、令和4年5月31日付けで当審が通知した取消理由通知書(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
[取消理由]
本件特許の下記請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、この出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。
記
[証拠一覧]
引用文献1:特開2006-21354号公報(申立人A、B提出の甲第2号証)
引用文献2:実願平4-88378号(実開平6-48640号)のCD-ROM(当審が追加)
引用文献3:特開平9-224983号公報(当審が追加)
引用文献4:エラストラン(登録商標)のカタログ、BASFジャパン株式会社、2015年12月(申立人A、B提出の甲第5号証)
引用文献5:金子剛、「TMAによる熱可塑性プラスチックの軟化温度試験方法(JIS規格化のための検討)」、熱測定、1989年、vol.16、No.1、33~35ページ(当審が追加)
[上記取消理由における請求項と証拠との関係]
・請求項 1
・引用文献 1~3
・請求項 2~4
・引用文献 1~5
第5 当審の判断
1 引用文献の記載事項等
(1)引用文献1について
ア 記載事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審が付与。以下同様。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロッキングトラブルなしに製造及び保存ができる、引張特性、耐衝撃性、繰返し疲労特性、耐寒性等に優れた熱可塑性ポリウレタンエラストマーの積層体に関する。」
「【0014】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造に際しては、上記成分に加え、触媒、分子量調節剤等が必要に応じ使用される。本発明においては、ポリイソシアネート、高分子ポリオール及び鎖伸長剤の共重合によって得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210-1999、以下同じ)が0.1~50g/10分、とくに0.5~40g/10分程度のものを使用するのが好ましく、またショアA硬度が75~90程度のものを使用するのが好ましい。具体的には、ミラクトラン(日本ポリウレタン工業(株)製)、パンデックス(ディーアイシーバイエルポリマー(株)製)、、レザミンP(大日精化(株)製)、クラミロン(クラレ(株)製)、東洋紡ウレタン(東洋紡(株)製)、モビロン(日清紡績(株)製)、ペレセン(ダウケミカル(株)製)などの商品名で市場に供されているものを使用することができる。」
「【0025】
本発明の積層体は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーが有する特性、例えば優れた透明性、引張特性、耐衝撃性、繰返し疲労特性、耐寒性等を有しており、また耐ブロッキング性が優れているので、フィルム、テープ、シート、チューブ、管状物などの成形品として利用することができる。とくに従来、加工性や耐ブロッキング性などの不具合が顕在化していたフィルムやシートの用途、例えば医療・食品用コンベアベルト、各種キーボードシート、エアマット、ダイアフラム、ガスケット、シール材、ラミネート品、耐磨耗性コーティング、静電防止ベルト、ホットメルトフィルム、オーバーフロータンク、ターポリン、合成皮革、各種包装材料、衣料などに好適に使用することができる。」
「【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。尚、実施例及び比較例において使用した原料及び物性評価方法は次の通りである。
【0027】
1.原料
(1)熱可塑性ポリウレタンエラストマー
TPU:日本ポリウレタン工業(株)製ミラクトランE380(エーテルタイプ、比重1.11、ショアA硬度80、ガラス転移点-61℃)
(2)エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマー
EMAA:エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸含量9重量%、メルトフローレート(190℃、2160g荷重)2.7g/10分)
IO:エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸含量15重量%)のナトリウムアイオノマー(中和度30%、メルトフローレート(190℃、2160g荷重)2.8g/10分)
【0028】
3.物性評価方法
(1)耐ブロッキング性
フィルムをロール巻きしたときの剥離性を観察した。
○:べたつきなし
×:べたつきが激しい
【0029】
(2)引張試験
JIS K6781に準拠し、引張速度500mm/分にて、縦方向(MD)及び横方向(TD)における50%モジュラス、100%モジュラス及び200%モジュラスを測定した。
【0030】
(3)耐衝撃性(インパクト)
東洋精機(株)製フィルムインパクトテスターを用いて測定した。
(4)光学性
村上色彩(株)製光学性測定器を用いて、全光線透過率を測定した。
【0031】
[実施例1]
3層インフレダイスを装備した多層インフレーションフィルム成形装置を使用し、ダイスの外層には外層用押出機を通じて上記EMAAを温度180℃で、中間層には中間層用押出機を通じて上記TPUを温度200℃で、ダイスの内層には内層用押出機を通じて上記EMAAを温度180℃でそれぞれ供給し、180℃に予熱された上記ダイスの内部で貼り合せ、厚み比率が1/2/1(外/中/内)で総厚みが150μmの3層インフレーションフィルムを作製した。その評価結果を表1に示す。
【0032】
[実施例2]
実施例1において、EMAAの代わりにIOを用いた以外は実施例1と同様にして総厚みが150μmの3層インフレーションフィルムを作製した。その評価結果を表1に示す。
【0033】
[比較例1]
40mmφスクリューの小型ラミネーターを使用し、離型処理を施した2枚のPETフィルムの間に上記TPUを温度200℃で溶融押し出しして3層フィルムを得た後、PETフィルムを剥離して、厚み150μmの単層フィルムを作製した。その評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
[図:0001395195000001.jpg]
」
イ 引用文献1の記載から認められること
(ア)【0027】の記載によれば、【0027】に記載のTPUは、熱可塑性ポリウレタンエラストマーであり、ショア硬度Aが80である日本ポリウレタン工業(株)製ミラクトランE380を原料としたTPUであると認められる。
(イ)【0029】、【0033】及び表1の記載によれば、表1の比較例1の単層フィルムは、上記(ア)のTPUが単層となっている単層フィルムであって、縦方向(MD)及び横方向(TD)における50%モジュラスがいずれも5.0MPaである単層フィルムであると認められる。
ウ 引用発明1
上記イ(ア)及び(イ)を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「熱可塑性ポリウレタンエラストマーであり、ショア硬度Aが80である日本ポリウレタン工業(株)製ミラクトランE380を原料としたTPUが単層となっている単層フィルムであって、縦方向(MD)及び横方向(TD)における50%モジュラスがいずれも5.0MPaである単層フィルム。」
(2)引用文献2について
引用文献2には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
「【0010】
【実施例】
図1は、本考案が適用される床ずれ防止マットの概略構成を示す。床ずれ防止マット1は、複数(例えば14~22本)の長枕形状のエアマットユニット2を並列配置して構成され、各エアマットユニット2に対する空気供給は、2本の相互に固定されたエアパイプ3を介して行われる。各エアパイプ3は、それぞれ1つおきのエアマットユニット2に対し後述の空気供給用差込みプラグ4を介して連結される。各エアパイプ3は電磁3方弁5を介してエアポンプ6に接続される。電磁3方弁5およびエアポンプ6は、所定プログラムに従って電磁3方弁の切換え制御やその他の駆動制御を行うためのマイコン7に接続される。」
図1
[図:0001395195000002.jpg]
(3)引用文献3について
引用文献3には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
「【0017】図1は、本発明のエアマット装置1の斜視図を示したものである。図において、2はエアセルで、その構造については後述するが、布地などのような可撓性の生地に高重合ポリマーフィルムをラミネート加工したもの、あるいはプラスチックフィルムそのまま、若しくはプラスチックフィルムの表面を梨地加工したものを略円筒型の袋状にしたもので、内部に空気を給排することにより膨張・収縮させることができるようにしたものである。
【0018】エアセル2は、複数本並設された状態でエアマットを構成しており、・・・」
図1
[図:0001395195000003.jpg]
(4)引用文献4について
引用文献4には、以下の事項が記載されている。
・9ページ左欄1~6行
[図:0001395195000004.jpg]
(5)引用文献5について
引用文献5には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
「TMAについてのJIS試案に基づく共同試験の結果は、この手法がプラスチックフィルムの軟化温度試験方法として適しており、また、純金属融点による温度補正が効果的であることを立証した。また、第1回の共同試験においては、Fig.3に示すように、同一材料のTMAとビカット試験の軟化温度の間に良好な対応関係が得られており、TMAが従来の試験結果の集積を、より広い分野に拡大できるものと期待している。」(35ぺーじ左欄下から3行~右欄最終行)
[図:0001395195000005.jpg]
2 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。その際、上記1を参照する。
後者の「熱可塑性ポリウレタンエラストマーであり」「日本ポリウレタン工業(株)製ミラクトランE380を原料としたTPU」は、前者の「熱可塑性ポリウレタン樹脂からなる」ことに相当し、後者の「縦方向(MD)と横方向(TD)における50%モジュラスがいずれも5.0MPaである」ことは、前者の「50%モジュラスは5.0~13.0MPaの範囲である」ことに相当する。
また、後者の「単層フィルム」は、前者の「エアセル用フィルム」と、「フィルム」という点で共通する。
そうすると、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点1>
「熱可塑性ポリウレタン樹脂からなるフィルムであって、50%モジュラスが5.0~13.0MPaの範囲であるフィルム。」
<相違点1>
本件発明1では、フィルムが「エアセル用」であり、「同一フィルムを30枚積層した試験片にタイプAデュロメータ(JIS K 7215)を9.8Nの荷重をかけて押し付けて測定したフィルム硬度がA87~A93の範囲であ」るのに対し、引用発明1では、フィルムが「単層フィルム」であるが用途が特定されておらず、原料の日本ポリウレタン工業(株)製ミラクトランE380のショア硬度Aが80である点。
イ 相違点についての判断
引用文献1の【0014】には、「得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、・・・ショアA硬度が75~90程度のものを使用するのが好ましい。具体的には、ミラクトラン(日本ポリウレタン工業(株)製)、・・・などの商品名で市場に供されているものを使用することができる。」と記載され、【0033】には、「40mmφスクリューの小型ラミネーターを使用し、離型処理を施した2枚のPETフィルムの間に上記TPUを温度200℃で溶融押し出しして3層フィルムを得た後、PETフィルムを剥離して、厚み150μmの単層フィルムを作製した。」と記載されており、原料であるミラクトラン(日本ポリウレタン工業(株)製)の物性値を用いてフィルムが製造されることが示唆されており、フィルム硬度のショアA硬度が75~90程度のものを使用するのが好ましいことが示唆されている。
しかしながら、引用文献1の【0014】の記載は、実施例についてのものであり、引用発明1において認定した比較例についてのものではないから、引用発明1の「単層フィルム」の硬度について示唆するものではない。
仮に、上記【0014】の記載を参照して、引用発明1においてショアA硬度を75~90程度としても、これは原料の硬度をショアA硬度75~90程度とすることにすぎず、引用発明1の「単層フィルム」が上記【0033】のように作製されることを踏まえると、そのフィルム硬度は、作製過程で変化すると推認され、「同一フィルムを30枚積層した試験片にタイプAデュロメータ(JIS K 7215)を9.8Nの荷重をかけて押し付けて測定したフィルム硬度がA87~A93」の範囲になるとは限らない。
また、相違点1に係る本件発明1の構成のうち「同一フィルムを30枚積層した試験片にタイプAデュロメータ(JIS K 7215)を9.8Nの荷重をかけて押し付けて測定したフィルム硬度がA87~A93の範囲であ」ること(以下、「構成1」という。)と、「50%モジュラスが5.0~13.0MPaの範囲である」こと(以下、「構成2」という。)は、一方を変化させれば、他方も変化し得るものであり、互いに独立した特性であるとは認められない。
そうすると、引用発明1において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることが当業者にとって容易であるかを判断するのには、構成1だけでなく、構成2についても考慮すべきであると認められるところ、エアマットに用いられる熱可塑性ポリウレタン樹脂において、構成1と構成2の両方を満たすものについては、引用文献2~5には、何ら記載されておらず、示唆もない。
また、エアマットに用いられる熱可塑性ポリウレタン樹脂において、構成1と構成2の両方を満たすことが、本件特許の出願前に、技術常識又は周知技術であると認めるに足る証拠もないから、引用発明1において、相違点1に係る本件発明の構成とすることが設計的事項であるともいえない。
よって、引用発明1において、引用文献2~5に記載された事項を適用して、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人A、Bは、令和4年9月7日の意見書において、本件発明1は、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
しかしながら、申立人A、Bが示した周知技術は、上記イで示した構成1と構成2の両方を含むものではないから、申立人A、Bの上記主張は、当を得たものではなく、採用することはできない。
エ 小括
以上によれば、本件発明1は、引用発明1及び引用文献2~5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の全ての構成を含み、かつ、更に限定を加えたものであるから、上記(1)イで説示したのと同様の理由により、引用発明1及び引用文献2~5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の内容
申立人A、Bは、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ、「本件訂正前発明1」~「本件訂正前発明4」という。)について、以下の(1)、(2)を主張し、申立人Cは、特許異議申立書において、本件訂正前発明1~4について、以下の(3)を主張する。
(1)特許異議申立理由1-1
本件訂正前発明1~4は、引用文献6に記載された発明及び引用文献1、7、8、5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(2)特許異議申立理由1-2
本件訂正前発明1、3、4は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、請求項1、3、4に係る特許は、同法第36条第6項第1項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(3)特許異議申立理由2
本件訂正前発明1~4は、引用文献9に記載された発明及び引用文献7、10、11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~4に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。
[証拠一覧]
引用文献6:特開平2-1270号公報(申立人A、B提出の甲第1号証)
引用文献7:特開平11-332698号公報(申立人A、B提出の甲第3号証、申立人C提出の甲第2号証)
引用文献8:特開平11-276327号公報(申立人A、B提出の甲第4号証)
引用文献9:特開2005-6956号公報(申立人C提出の甲第1号証)
引用文献10:特開2007-21017号公報(申立人C提出の甲第3号証)
引用文献11:特開2005-168613号公報(申立人C提出の甲第4号証)
2 引用文献の記載事項等
(1)引用文献6について
ア 記載事項
引用文献6には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(ア)「そのため樹脂基材シートとして硬度が高いウレタン、高重合塩化ビニル等を用いた場合においても布地の硬さとの組み合わせで柔軟性が失われ、比較的細い筒状のエアー室を有するようなエアーマットにおいては、ごわごわした感触が有り、エアーマットとして使用し難いものとなって使用に耐えなかった。」(1ページ右下欄15行~2ページ左上欄1行)
(イ)「[発明の目的]
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、樹脂基材シートの耐久性を確保し、溶着工程にて生産できながら、耐熱性、耐屈曲性、耐久性を有し、かつ吸汗性及び寝心地性を向上させることができ、快適に使用することができて表面に布地を組み合わせたエアーマットを提供することにある。」(2ページ左上欄2~9行)
(ウ)「[発明の開示]
本発明のエアーマットは、硬度が60度以上で87度以下の樹脂基材シート8の表面に少なくとも一方向の伸縮性を有した表面布地2を積層接着し、対向する樹脂基材シート8側において熱溶着されて袋状のエアー室5が形成されて成ることを特徴とするものであり、このように構成することによって、上記目的を達成したものである。」(2ページ左上欄10~17行)
(エ)「そして樹脂基材シート8の下限の硬度(デュアロメータ硬度;ゴム硬度とも言う)は60度以上にしてあり、このことで、硬度が60度以下になって樹脂基材シート8自体の耐熱性、耐屈曲性、耐久性のような特性が低下することがないようにしである。」(2ページ左下欄14~19行)
(オ)第2図
[図:0001395195000006.jpg]
イ 引用発明2
上記ア(特に(ウ))によれば、引用文献6には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「硬度が60度以上で87度以下の袋状のエアー室5用の樹脂基材シート8。」
(2)引用文献7について
引用文献7には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はエアーマット、その製造方法及びエアーマット入り敷布団に関する。」
「【0012】基布にコーティングされるゴム組成物には、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、エピクロルヒドリンゴム(ECO)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、ウレタンゴム(ポリウレタン)、アクリルゴム(ACM)等を主成分とするゴム組成物が使用される。
【0013】基布にコーティングされるゴム組成物単独の強度は、通常、50~250kg/cm2 とされる。ゴム組成物の強度が50kg/cm2 以下になると、エアーマットMに人体が乗った際の圧力に対する上・下シート1,2の強度が十分でなくなると共に、エアーマットMの耐久性の面でも問題がある。逆に、ゴム組成物の強度が250kg/cm2 以上になると、上・下シート1,2の剛性が高くなり過ぎて、ごわごわした感じがしたり、或いは、エアーマットM上で寝た場合において、動いた際に、音がして、寝心地が悪いとの問題があり、好ましくない。」
「【0015】ゴム組成物の硬度(JIS-A)は、通常、25~70とされる。ゴム組成物の硬度が25以下であると、上・下シート1,2の表面の粘着性が大となり過ぎて、上・下各シート1,2の表面同士が密着し易くなり、加工及び使用上で問題がある。逆に、ゴム組成物の硬度が70以上であると、エアーマットMの風合が損なわれ、好ましくない。」
(3)引用文献8について
引用文献8には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、空気を吹き込んで膨張させてクッション作用をさせる、所謂エアークッション材に関する。」
「【0006】・・・この気密性シートは一方向伸縮性編織物と合成樹脂層とを積層してあるので一方向に伸び易い、すなわち一方向に伸長性が大きい。この伸長性の大きい方向の伸びは、気密性シートを伸長性の大きい方向に20%伸ばしたときの応力(JIS K-6772の測定法により、インストロン型引っ張り試験機で測定)が3Kgf/3cm以下であるようにすることが好ましく、容易に三次元形状にするには2Kgf/3cm以下であるようにするのが好ましい。また、伸長性の小さい方向の伸びについては、伸長性の大きい方向に伸ばすときの応力の2倍以上の応力を持つことが好ましい。」
「【実施例及び比較例】実施例1
・・・この気密性シートをJIS K-6772の方法でインストロン型引っ張り試験機で200mm/分の引っ張り速度で測定したところ、破断時の伸びが縦方向60%、横方向164%であり、また20%伸長時の応力は縦方向4.8Kgf/3cm、横方向1.8Kgf/3cmであった。」
(4)引用文献9について
ア 記載事項
引用文献9には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
「【0010】
この第1の実施の形態に係るマットレスは、ベースシート11上に、細長い袋状のエアセル12をベッド長手方向と直交する向きに寝かせた状態で、ベッド長手方向に沿って複数本(例えば20~24本程度)並設し、その上からカバーシート13が被せられている。このベースシート11とカバーシート13は、クッション部を構成するエアセル12群の外周囲を気密に被う被覆布を構成しており、マットレス内の空気が外部へ通り抜けることができないように密閉している。
【0011】
前記エアセル12は、例えばポリウレタンシートや綿布に樹脂をコーティングした気密性シートを溶着あるいは接着することにより、断面略長円形になる細長い袋状としたもので、図示は略したが、一方の端面には空気注入ノズルが形成されており、この空気注入ノズルに空気注入用のチューブあるいはパイプなどをつなぎ、これらチューブやパイプを介して、ベッド近傍に用意したエアポンプから所定圧力の空気を注入することにより、断面略長円形になる細長い袋状に膨らませることができるようになっている。・・・」
図1
[図:0001395195000007.jpg]
イ 引用発明3
【0011】の記載によれば、引用文献9には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「エアセル12用のポリウレタンシート。」
(5)引用文献10について
引用文献10には、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
この発明は利用者の身体を大きな反発力を生じることなく弾性的に支持することのできるマットレス装置に関する。」
「【0026】
この観点からして、隔壁12a,12bにショアーA25~35の硬度のエラストマーを用い、隔壁12a,12bの厚さを1.5~3.0mmにするのがよい。なお、この実施の形態では、外側隔壁12aが内側隔壁12bよりも厚く形成されていて、荷重が加わらない状態で、各ブロック13が形状を維持しやすくしている。」
(6)引用文献11について
引用文献11には、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
自分で寝返りが出来ない病人は同一部分の圧迫で皮膚組織の血行が悪くなるため局所が壊死する褥瘡(床ずれ)が生ずる。これを予防するためには受圧部の拡散と、受圧部の位置の移動、除湿が有効である。健常者であっても疲労回復のため指圧やマッサージが効果的である。本発明は複数の群に分けた膨出室を通気によって膨張、排気によって収縮させて前記の目的を果すエアーマット装置のマット構造に属する。」
「【0018】
図中15はA系統空気室の通気時の膨らみの頂点を示し11はB系統の膨らみの頂点である。なお、マットは下記の条件で作成した。
マット寸法 横 60cm 従 90cm
マット材質 軟質塩化ビニール
〃 抗張力 2600N/cm2
〃 伸び 370%
〃 脆性温度 -30℃
シート厚み 0.4mm と0.5mmの2種類」
3 特許異議申立理由についての判断
(1)特許異議申立理由1-1
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明2とを対比すると、後者の「袋状のエアー室5用の樹脂基材シート8」は、前者の「熱可塑性ポリウレタン樹脂からなるエアセル用フィルム」と、「樹脂からなるエアセル用フィルム」という点で共通する。
そうすると、本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点2>
「樹脂からなるエアセル用フィルム。」
<相違点2>
本件発明1では、フィルムが「熱可塑性ポリウレタン樹脂からなる」ものであり、「同一フィルムを30枚積層した試験片にタイプAデュロメータ(JIS K 7215)を9.8Nの荷重をかけて押しつけて測定したフィルム硬度がA87~A93の範囲であり、50%モジュラスが5.0~13.0MPaの範囲である」のに対し、引用発明2では、樹脂基材シート8が、硬度が60度以上で87度以下である点。
(イ)相違点についての判断
相違点2に係る本件発明1の構成について、引用文献1、7、8、5だけでなく、引用文献2~4、9~11にも記載されておらず、相違点2に係る本件発明1の構成が、本件特許の出願前に、技術常識や周知技術であることを認めるに足る証拠もない。
よって、本件発明1は、引用発明2及び引用文献1、7、8、5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の全ての構成を含み、かつ、更に限定を加えたものであるから、上記ア(イ)で説示したのと同様の理由により、引用発明2及び引用文献1、7、8、5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)特許異議申立理由1-2
ア 申立人の主張
申立人A、Bは、特許異議申立書において、下記(ア)に示すように、本件訂正前発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえず、下記(イ)に示すように、本件訂正前発明3及び4は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない旨主張する(下記(ア)は、11ページ19行~12ページ16行、下記(イ)は、12ページ18行~13ページ3行参照。)。
(ア)発明の詳細な説明には、本訂正前発明1に使用可能な熱可塑性ポリウレタン樹脂として、複数のポリウレタン樹脂が記載されているが(例えば、【0014】)、実施例として、その効果等とともに開示されているのは、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂のみであるところ、請求項1には、単に「熱可塑性ポリウレタン樹脂」と記載しているが、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂について開示されたことを、熱可塑性ポリウレタン樹脂全てに一般化はできないから、本件訂正前発明1は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものである。
(イ)本件訂正前発明3はエアマット用エアセルであり、本件訂正前発明4はエアマットであり、それぞれ、本件訂正前発明1又は2のエアセル用フィルムが用いられ、発明の詳細な説明には、エアセル用フィルムについては、実施例において、効果等も開示されているが、エアマット用エアセルやエアマットについては、一般的な構造が開示されているだけで(【0028】~【0032】、図1及び図2参照。)、実施例において、その効果等は開示されておらず、本件訂正前発明3及び4は、所望の効果を奏するものか不明であるから、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
イ 判断
(ア)上記ア(ア)について
本件発明1には、「熱可塑性ポリウレタン樹脂」について、「同一フィルムを30枚積層した試験片にタイプAデュロメータ(JIS K 7215)を9.8Nの荷重をかけて押しつけて測定したフィルム硬度がA87~A93の範囲であり、50%モジュラスが5.0~13.0MPaの範囲である」との限定が付されている。
発明の詳細な説明は、課題として、「本発明は上記課題を解決し、耐久性、体圧分散性および底付き防止に優れるエアマットに適度な強度および適度な柔軟性を兼ね備えたエアセル用フィルムを提供するものである。」(【0006】)と記載されているところ、発明の詳細な説明の【0043】~【0049】、【0053】(特に、表1)等には、例えば、実施例1、2、4~7として、上記限定を満たす熱可塑性ポリウレタン樹脂からなるフィルムが開示され、それらは上記課題を解決できるものである。
そうすると、申立人A、Bの上記主張は、当を得たものではなく、採用することができない。
(イ)上記ア(イ)について
エアセル用フィルムは、エアマット用エアセルである本件訂正前発明3、及び、エアマットである本件訂正前発明4の主要な構成であり、当業者であれば、エアセル用フィルムの効果等がわかれば、エアマット用エアセルである本件訂正前発明3、及び、エアマットである本件訂正前発明4の効果等も推測できることは明らかである。そうすると、エアマット用エアセルやエアマットの効果等についての直接的な記載がなければ、エアマット用エアセルやエアマットが所望の効果を奏するか不明であるとの前提に基づく申立人A、Bの上記主張は、前提において根拠を欠くものであり、採用することはできない。
ウ 小括
したがって、本件訂正前発明1、3、4は、発明の詳細な説明に記載されたものであると認められるから、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものである。
(3)特許異議申立理由2
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明3とを対比すると、後者の「エアセル12用のポリウレタンシート」は、前者の「熱可塑性ポリウレタン樹脂からなるエアセル用フィルム」と、「ポリウレタン樹脂からなるエアセル用フィルム」という点で共通する。
そうすると、本件発明1と引用発明3との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点3>
「ポリウレタン樹脂からなるエアセル用フィルム。」
<相違点3>
本件発明1では、「熱可塑性」ポリウレタン樹脂からなり、「同一フィルムを30枚積層した試験片にタイプAデュロメータ(JIS K 7215)を9.8Nの荷重をかけて押しつけて測定したフィルム硬度がA87~A93の範囲であり、50%モジュラスが5.0~13.0MPaの範囲である」のに対し、引用発明3では、そのような特定はない点。
(イ)相違点についての判断
相違点3に係る本件発明1の構成について、引用文献7、10、11だけでなく、引用文献1~5,8にも記載されておらず、相違点3に係る本件発明1の構成が、本件特許の出願前に、技術常識や周知技術であることを認めるに足る証拠もない。
よって、本件発明1は、引用発明3及び引用文献7、10、11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の全ての構成を含み、かつ、更に限定を加えたものであるから、上記ア(イ)で説示したのと同様の理由により、引用発明3及び引用文献7、10、11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、本件請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701255