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特許異議申立

2021-700703

筆記具用水性インク組成物

審判番号
2021-700703
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-112869
登録番号
6817151
請求日
2021年07月20日
審決日
2023年02月22日
公報発行日
2023年05月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】三菱鉛筆株式会社
  • 【権利者代理人】藤本 英介
  • 【権利者代理人】神田 正義
  • 【権利者代理人】宮尾 明茂
  • 【権利者代理人】馬場 信幸
  • 【異議申立人】森田 弘潤
審判長/審判官
  • 審判長 亀ヶ谷 明久
  • 審判官 蔵野 雅昭
  • 審判官 門前 浩一
分類
P1651.121-YAA(C09D) / P1651.113-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6817151号発明「筆記具用水性インク組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6817151号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認める。 特許第6817151号の請求項2に係る特許を維持する。 特許第6817151号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6817151号(以下「本件特許」という。)の請求項1~2に係る特許についての出願は、平成29年6月7日に特願2017-112869号として特許出願され、令和2年12月28日に特許権の設定登録がされ、令和3年1月20日に特許掲載公報が発行され、その請求項1~2に係る発明の特許に対し、同年7月20日に森田弘潤(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。 令和3年11月15日付け 取消理由通知 令和4年 1月17日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者) 同年 同月26日 手続補正書の提出(特許権者) 同年 2月 2日付け 訂正請求があった旨の通知 同年 3月 9日 意見書の提出(申立人) 同年 8月 2日付け 取消理由通知(決定の予告) 同年10月 3日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者) 同年10月12日付け 訂正請求があった旨の通知 同年11月16日 意見書の提出(申立人) なお、令和4年1月17日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否 1 本件訂正請求の内容 令和4年10月3日にされた訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は、「特許第6817151号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1、2からなるものである。 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「-30℃を境にしたインクのマンセル表色系における明度の差の絶対値、及び、-30℃を境にしたインクのJIS Z 8781に準拠するL*a*b*表色系に準拠した彩度(C*ab)の値、a*値及びb*値を用いて、式(a2+b2)1/2での彩度の差の絶対値の少なくとも1つが1以上であることを特徴とする請求項1記載の筆記具用水性インク組成物。」とあるのを、独立形式に改め、「低温側変色温度が-30℃以上の黒色の熱変色性マイクロカプセル顔料と、低温側変色温度が-30℃未満の黒色又は青色の熱変色性マイクロカプセル顔料を共に着色状態で併用すると共に、該二種の熱変色性マイクロカプセル顔料の高温側の変色温度となる消色温度が共に47℃以上であり、かつ、-30℃を境にしたインクのマンセル表色系における明度の差の絶対値が1以上であると共に、-30℃を境にしたインクのJIS Z 8781に準拠するL*a*b*表色系に準拠した彩度(C*ab)の値、a*値及びb*値を用いて、式(a2+b2)1/2での彩度の差の絶対値が1.5以下であることを特徴とする筆記具用水性インク組成物。」に訂正する。 2 検討 (1) 一群の請求項などについて 訂正事項1、2に係る本件訂正前の請求項1、2について、請求項2は請求項1を直接引用するものであるから、本件訂正前の請求項1、2に対応する本件訂正後の請求項1、2は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。 したがって、訂正事項1、2による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとになされたものである。 (2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1を削除するものである。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合する。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用する形式で記載されていたものを独立形式に改めるとともに(以下、「訂正事項2-1」ともいう。)、 「低温側変色温度が-30℃以上の熱変色性マイクロカプセル顔料」、および、「低温側変色温度が-30℃未満の熱変色性マイクロカプセル顔料」について、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0018】の「本発明に用いる上記低温側変色温度が-30℃以上と-30℃未満の各熱変色性マイクロカプセル顔料は・・(中略)・・例えば、各色の低温側変色温度で発色、高温側変色温度(例えば、50℃以上)で消色等となるように、好適な温度で発色、消色等(無色又は有色)となるように互変的に変位せしめることができる。」という記載、段落【0033】の「(製造例1:熱変色性マイクロカプセル顔料1:黒色)・・・処理してコアシェル型のマイクロカプセルを得た。(低温側変色温度(黒色):?20℃、高温側変色温度(消色):59℃) 」という記載、段落【0034】の「(製造例2:熱変色性マイクロカプセル顔料2:黒色)・・・処理してコアシェル型のマイクロカプセルを得た。(低温側変色温度(黒色):-45℃、高温側変色温度(消色):47℃)」という記載、段落【0035】の「(製造例3:熱変色性マイクロカプセル顔料3:黒色)・・・処理してコアシェル型のマイクロカプセルを得た。(低温側変色温度(黒色):-37℃、高温側変色温度(消色):52℃)」という記載、段落【0036】の「(製造例4:熱変色性マイクロカプセル顔料4:黒色)・・・処理してコアシェル型のマイクロカプセルを得た。(低温側変色温度(黒色):-32℃、高温側変色温度(消色):49℃)」という記載、段落【0037】の「(製造例5:熱変色性マイクロカプセル顔料5:青色)・・・処理してコアシェル型のマイクロカプセルを得た。(低温側変色温度(青色):-45℃、高温側変色温度(消色):52℃)」という記載、および、熱変色性マイクロカプセル顔料1と、熱変色性マイクロカプセル顔料2~5のいずれかとを含む実施例1~6が記載されていること(段落【0043】の【表1】)に基づいて、 「低温側変色温度が-30℃以上の熱変色性マイクロカプセル顔料」を「黒色の」と限定し(以下、「訂正事項2-2」ともいう。)、 「低温側変色温度が-30℃未満の熱変色性マイクロカプセル顔料」を「黒色又は青色の」と限定し(以下、「訂正事項2-3」ともいう。)、 「併用する」を、「共に着色状態で併用する」に限定し(以下、「訂正事項2-4」ともいう。)、 「該二種の熱変色性マイクロカプセル顔料高温側変色温度となる消色温度が共に47℃以上であり」と限定し(以下、「訂正事項2-5」ともいう。)、 「-30℃を境にしたインクのマンセル表色系における明度の差の絶対値、及び、-30℃を境にしたインクのJIS Z 8781に準拠するL*a*b*表色系に準拠した彩度(C*ab)の値、a*値及びb*値を用いて、式(a2+b2)1/2での彩度の差の絶対値の少なくとも1つが1以上であること」を「-30℃を境にしたインクのマンセル表色系における明度の差の絶対値が1以上であると共に、-30℃を境にしたインクのJIS Z 8781に準拠するL*a*b*表色系に準拠した彩度(C*ab)の値、a*値及びb*値を用いて、式(a2+b2)1/2での彩度の差の絶対値が1.5以下であること」に限定する(以下、「訂正事項2-6」ともいう。)ものである。 したがって、訂正事項2-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、訂正事項2-2~訂正事項2-6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、本件特許の願書に添付した明細書には上記のとおりの記載があるから、訂正事項2-1~訂正事項2-6は、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことも明らかである。 したがって、訂正事項2-1~訂正事項2-6は、いずれも、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合する。 (3) 特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであること 本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~2に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。 3 まとめ 以上総括するに、訂正事項1~2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1、4号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合するものである。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正は上記のとおり認められたところ、特許第6817151号の請求項1~2に係る発明(以下、請求項2に係る発明を「本件発明2」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 低温側変色温度が-30℃以上の黒色の熱変色性マイクロカプセル顔料と、低温側変色温度が-30℃未満の黒色又は青色の熱変色性マイクロカプセル顔料を共に着色状態で併用すると共に、該二種の熱変色性マイクロカプセル顔料の高温側の変色温度となる消色温度が共に47℃以上であり、かつ、-30℃を境にしたインクのマンセル表色系における明度の差の絶対値が1以上であると共に、-30℃を境にしたインクのJIS Z 8781に準拠するL*a*b*表色系に準拠した彩度(C*ab)の値、a*値及びb*値を用いて、式(a2+b2)1/2での彩度の差の絶対値が1.5以下であることを特徴とする筆記具用水性インク組成物。」 第4 取消理由の概要 当審が令和3年11月15日付けで特許権者に通知した取消理由は、以下の取消理由1~3を含むものである。 また、当審が令和4年8月2日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は、以下の取消理由1~3のうち、取消理由3が依然として解消していないというものである。 取消理由1 本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2 本件特許の特許請求の範囲の請求項1~2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由3 本件特許の特許請求の範囲の請求項1~2に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 第5 取消理由(決定の予告)で通知した取消理由3について 1 取消理由3で引用する刊行物 特開2009-126999号公報(申立人が提出した甲第1号証) 2 刊行物に記載されている事項 特開2009-126999号公報(以下、「甲1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審による。 「【請求項1】 (イ)電子供与性呈色性有機化合物と、(ロ)電子受容性化合物と、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする反応媒体とから少なくともなる可逆熱変色性組成物を内包する変色特性が異なる二種類のマイクロカプセル顔料A,Bと、樹脂と、溶剤とを含むインキ組成物であって、前記マイクロカプセル顔料Aを着色状態で含有すると共にマイクロカプセル顔料Bを消色状態で含有し、色濃度-温度曲線に関して前記マイクロカプセル顔料Aの完全消色温度T4が30℃以上、発色開始温度T2が-50~-20℃、ヒステリシス幅(ΔH)が40~70℃の範囲を示すと共に、マイクロカプセル顔料Bの完全消色温度T4が45~95℃、発色開始温度T2が-25~0℃の範囲を示す可逆熱変色性筆記具用インキ組成物。 【請求項2】 前記二種類のマイクロカプセル顔料A,Bが、色濃度-温度曲線に関して大きなヒステリシス特性を示して有色状態と無色状態の互変性を呈し、両状態が共存できる保持温度域が常温域にある顔料であり、該顔料は有色状態から温度が上昇する過程では、温度T3に達すると消色し始め、温度T3より高い温度T4以上の温度域で完全に無色状態となり、無色状態から温度が下降する過程では、前記温度T3より低い温度T2に達すると着色し始め、温度T2より低い温度T1以下の温度域で完全に有色状態となり、前記温度T2と温度T3の間の温度域で有色状態或いは無色状態が保持できるヒステリシス特性を示す請求項1記載の可逆熱変色性筆記具用インキ組成物。」 「【発明の効果】 【0006】 本発明により、ユーザーが最初の筆跡を任意のタイミングで消色できるため、筆記後の内容や誤記の確認が可能となる。また、冷却により消色した筆跡を容易に復元させることができるため、機密性やマジック性に優れたものとなる。その際、着色状態の色調が異なる二種のマイクロカプセル顔料を用いることで、筆記時と復色時の色調が異なる意外性に富んだものとなる。」 「【0010】 前記した組成物のうち、異なった温度域で着消色する色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を二種類用いることにより、マイクロカプセル顔料Aによる筆記時の色調を消色させた後、冷却することでマイクロカプセル顔料Bによる第1の状態(無色)から第2の状態(有色)に色彩を簡易に変色させて筆跡を視覚することができる、機密性やマジック性に優れたものとなる。 具体的には、着色状態で含有するマイクロカプセル顔料Aの完全消色温度T4が30℃以上、発色開始温度T2が-50~-20℃、ヒステリシス幅(ΔH)が40~70℃の範囲を示すように設定することで、筆記時に視認される筆跡が一度消色した後には常態(日常の生活温度域)で呈色しないように設定される。尚、前記完全消色温度T4はマイクロカプセル顔料Bの完全消色温度T4よりも低い値に設定される。 また、消色状態で含有するマイクロカプセル顔料Bの完全消色温度T4が45~95℃、発色開始温度T2が-25~0℃の範囲を示すように設定することで、筆記時には常態で呈色することなく、冷凍庫等で冷却することで初めて筆跡(変化後の色調)が視認できるものとなる。 尚、前記二種類のマイクロカプセル顔料A,Bの着色状態の色調を異なるものとすることで、筆跡を消去した後に復色する色調を変化させることができるため、よりマジック性に優れたものとなる。」 「【0042】 実施例2(図1、2参照) 可逆熱変色性筆記具用インキの調製 予め-40℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料をピンク色に発色させた後、室温で放置したマイクロカプセル顔料A5.0部と、消色状態のマイクロカプセル顔料B20.0部の二種類のマイクロカプセル顔料A、Bを着色剤として用いて、更に、増粘剤0.2部、湿潤剤13.0部、浸透性付与剤0.03部、消泡剤0.15部、防黴剤0.1部、潤滑剤1.0部、水60.52部と共に混合、攪拌することで、二種類の色彩記憶性可逆熱変色性を有するインキを調製した。 尚、前記マイクロカプセル顔料Aは、(イ)成分として2-(ジブチルアミノ)-8-(ジペンチルアミノ)-4-メチル-スピロ[5H-[1]ベンゾピラノ[2,3-g]ピリミジン-5,1’(3’H)-イソベンゾフラン]-3-オン2.0部、(ロ)成分として2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.0部、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-メチルプロパン3.0部、(ハ)成分としてカプリン酸-1,1-ジフェニルメチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(T1:-40℃、T2:-31℃、T3:23℃、T4:33℃、ΔH:63.5℃、平均粒子径:2.5μm、ピンク色から無色に変化する)である。 また、前記マイクロカプセル顔料Bは、(イ)成分として2-(ジブチルアミノ)-8-(ジペンチルアミノ)-4-メチル-スピロ[5H-[1]ベンゾピラノ[2,3-g]ピリミジン-5,1’(3’H)-イソベンゾフラン]-3-オン2.0部、(ロ)成分として2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.0部、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-メチルプロパン3.0部、(ハ)成分としてカプリン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(T1:-18℃、T2:-9℃、T3:47℃、T4:57℃、ΔH:65.5℃、平均粒子径:2.5μm、ピンク色から無色に変化する)である。 【0043】 ボールペンの作製 前記色彩記憶性可逆熱変色性インキを内径4.4mmのポリプロピレン製パイプ(インキ収容筒21)に充填し、樹脂製ホルダー22を介してボールペンチップ3と連結させた。 次いで、前記ポリプロピレン製パイプの後部より、ポリブテンを主成分とする粘弾性を有するインキ逆流防止体5(液栓)を充填し、尾栓23をパイプの後部に嵌合させてレフィル2とした。更に、前記レフィル2を軸筒6(先軸筒と後軸筒とからなる)内に組み込み、キャップ7を嵌めた後、遠心処理による脱気処理を行なって可逆熱変色性ボールペン(筆記具1)を得た。 尚、前記ボールペンチップ3は、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたチップの先端部に直径0.7mmのステンレス鋼ボールを抱持させてなり、且つ、前記ボールはバネ体により前方に付勢させたものである。 また、後軸筒6の後部には、擦過部材8として凸曲面状頂部を有するSEBS樹脂部材が装着されている。 【0044】 前記可逆熱変色性ボールペン1を用いて茶色の幹が印刷された紙面に、該幹の上方外周を塗りつぶした。その際、マイクロカプセル顔料Aによる淡いピンク色の筆跡が視認される。その後、軸筒後端の擦過部材8による擦過と、デスク用照明の照射により、塗りつぶした部分は容易に消去(消色)され、消色状態を室温で維持することができた。 更に、前記印刷紙を、冷凍庫等で-20℃以下に冷却することで、マイクロカプセル顔料Bによる濃いピンク色の筆跡が現出して視認される。その際、マイクロカプセル顔料Aによる淡いピンク色は現出することなく消色状態を維持しているため、冷却によって幹に桜花が咲くように視覚されるマジック性に富んだ筆跡が所望の色調で得られるものとなる。また、最初に筆記した際の色調と冷却後の色調の濃淡を楽しむことができるものであった。尚、この状態は室温で維持することができた。」 「【0048】 実施例4(図1、2参照) 可逆熱変色性筆記具用インキの調製 予め-40℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料を黒色に発色させた後、室温で放置したマイクロカプセル顔料A5.0部と、消色状態のマイクロカプセル顔料B20.0部の二種類のマイクロカプセル顔料A、Bを着色剤として用いて、更に、増粘剤0.2部、湿潤剤13.0部、浸透性付与剤0.03部、消泡剤0.15部、防黴剤0.1部、潤滑剤1.0部、水60.52部と共に混合、攪拌することで、二種類の色彩記憶性可逆熱変色性を有するインキを調製した。 尚、前記マイクロカプセル顔料Aは、(イ)成分として2-(2-クロロアミノ)-6-ジブチルアミノフルオラン3.0部、(ロ)成分として2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン10.0部、(ハ)成分 としてカプリン酸-1,1-ジフェニルメチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(T1:-40℃、T2:-30℃、T3:22℃、T4:32℃、ΔH:62.0℃、平均粒子径:2.5μm、黒色から無色に変化する)である。 また、前記マイクロカプセル顔料Bは、(イ)成分として4-[2,6-ビス(2-エトキシフェニル)-4-ピリジニル]-N,N-ジメチルベンゼンアミン3.0部、(ロ)成分として2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン6.0部、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-メチルプロパン4.0部、(ハ)成分としてカプリン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(T1:-22℃、T2:-12℃、T3:46℃、T4:56℃、ΔH:68.0℃、平均粒子径:2.9μm、可逆熱変色性組成物、黄色から無色に変化する)である。 【0049】 ボールペンの作製 前記色彩記憶性可逆熱変色性インキを内径4.4mmのポリプロピレン製パイプ(インキ収容筒21)に充填し、樹脂製ホルダー22を介してボールペンチップ3と連結させた。 次いで、前記ポリプロピレン製パイプの後部より、ポリブテンを主成分とする粘弾性を有するインキ逆流防止体5(液栓)を充填し、尾栓23をパイプの後部に嵌合させてレフィル2とした。更に、前記レフィル2を軸筒6(先軸筒と後軸筒とからなる)内に組み込み、キャップ7を嵌めた後、遠心処理による脱気処理を行なって可逆熱変色性ボールペン(筆記具1)を得た。 尚、前記ボールペンチップ3は、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたチップの先端部に直径0.7mmのステンレス鋼ボールを抱持させてなり、且つ、前記ボールはバネ体により前方に付勢させたものである。 また、後軸筒6の後部には、擦過部材8として凸曲面状頂部を有するSEBS樹脂部材が装着されている。 【0050】 前記可逆熱変色性ボールペン1を用いて薄緑色のドットで塗りつぶされたバナナの像が印刷された紙面に、該ドットで塗りつぶされた部分を塗りつぶした。その際、マイクロカプセル顔料Aによる淡黒色の筆跡が視認される。その後、軸筒後端の擦過部材8による擦過と、デスク用照明の照射により、塗りつぶした部分は容易に消去(消色)され、消色状態を室温で維持することができた。 更に、前記印刷紙を、冷凍庫等で-20℃以下に冷却することで、マイクロカプセル顔料Bによる濃黄色の筆跡が現出して視認される。その際、マイクロカプセル顔料Aによる淡黒色は現出することなく消色状態を維持しているため、冷却によって薄緑色のバナナが黄色く熟したように視覚されるマジック性に富んだ筆跡が所望の色調で得られるものとなる。尚、この状態は室温で維持することができた。」 「【図1】 [図:0001397152000001.jpg] 」 3 甲1に記載された発明 甲1には、その実施例2、4に可逆熱変色性筆記具用インキの調製をしたことが記載されているから、以下の発明(以下、それぞれ、「甲1発明1」、及び、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。 <甲1発明1> 「予め-40℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料をピンク色に発色させた後、室温で放置したマイクロカプセル顔料A5.0部と、消色状態のマイクロカプセル顔料B20.0部の二種類のマイクロカプセル顔料A、Bを着色剤として用いて、更に、増粘剤0.2部、湿潤剤13.0部、浸透性付与剤0.03部、消泡剤0.15部、防黴剤0.1部、潤滑剤1.0部、水60.52部と共に混合、攪拌することで調製した、二種類の色彩記憶性可逆熱変色性を有するインキであって、 前記マイクロカプセル顔料Aは、T1:-40℃、T2:-31℃、T3:23℃、T4:33℃、ΔH:63.5℃、平均粒子径:2.5μm、ピンク色から無色に変化するものであり、 また、前記マイクロカプセル顔料Bは、T1:-18℃、T2:-9℃、T3:47℃、T4:57℃、ΔH:65.5℃、平均粒子径:2.5μm、ピンク色から無色に変化するものである可逆熱変色性筆記具用インキ」 <甲1発明2> 「予め-40℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料を黒色に発色させた後、室温で放置したマイクロカプセル顔料A5.0部と、消色状態のマイクロカプセル顔料B20.0部の二種類のマイクロカプセル顔料A、Bを着色剤として用いて、更に、増粘剤0.2部、湿潤剤13.0部、浸透性付与剤0.03部、消泡剤0.15部、防黴剤0.1部、潤滑剤1.0部、水60.52部と共に混合、攪拌することで調製した、二種類の色彩記憶性可逆熱変色性を有するインキであって、 前記マイクロカプセル顔料Aは、T1:-40℃、T2:-30℃、T3:22℃、T4:32℃、ΔH:62.0℃、平均粒子径:2.5μm、黒色から無色に変化するものであり、 また、前記マイクロカプセル顔料Bは、T1:-22℃、T2:-12℃、T3:46℃、T4:56℃、ΔH:68.0℃、平均粒子径:2.9μm、可逆熱変色性組成物、黄色から無色に変化するものである可逆熱変色性筆記具用インキ」 4 検討 (1) 甲1発明1を引用発明とする場合について ア 本件発明2と甲1発明1との対比 本件発明2の「低温側変色温度」の技術的な意味について、発明の詳細な説明には説明(定義)が記載されていない。したがって、その記載のとおり、本件発明2の「低温側変色温度」は、低温側にある顔料の変色が起こる温度、を意味する技術用語であると認める。 甲1発明1の「T1」について、甲1には「無色状態から温度が下降する過程では、前記温度T3より低い温度T2に達すると着色し始め、温度T2より低い温度T1以下の温度域で完全に有色状態」となる(【請求項2】)と記載されているから、甲1発明1の「T1」は、変色が起こる温度である点で、本件発明1の「低温側変色温度」に該当する。 また、甲1発明1の「マイクロカプセル顔料A」の「T1」は、「-40℃」であり、「マイクロカプセル顔料B」の「T1」は、「-22℃」である。 そうすると、甲1発明1の「マイクロカプセル顔料A」、及び、「マイクロカプセル顔料B」は、それぞれ、本件発明2の「低温側変色温度が-30℃未満の熱変色性マイクロカプセル顔料」、及び、「低温側変色温度が-30℃以上の熱変色性マイクロカプセル顔料」に相当する。 本件発明2の「高温側変色温度」の技術的な意味について、発明の詳細な説明には説明(定義)が記載されていない。したがって、その記載のとおり、本件発明2の「高温側変色温度」は、高温側にある顔料の変色が起こる温度、を意味する技術用語であると認める。 甲1発明1の「T4」について、甲1には「有色状態から温度が上昇する過程では、温度T3に達すると消色し始め、温度T3より高い温度T4以上の温度域で完全に無色状態となり」(【請求項2】)と記載されているから、甲1発明1の「T4」は、変色が起こる温度である点で、本件発明1の「高温側変色温度」に対応する。 なお、甲1発明1の「マイクロカプセル顔料A」の「T4」は、「33℃」であり、「マイクロカプセル顔料B」の「T4」は、「57℃」である。 本件発明2の「-30℃を境にしたインクのマンセル表色系における明度の差の絶対値が1以上である」(以下、「明度に関する特定事項」ともいう。)の技術的な意味について、特に、「差」とは、どの温度においてどの顔料が発色(変色・消色)している状態とどの温度においてどの顔料が発色(変色・消色)している状態との明度(彩度)の差を意味しているのかがが必ずしも明確ではないが、要するに、本件発明のインク組成物を用いて(室温で)筆記した際には、発色しており、かつ、これを-30℃に冷却しても発色した状態が保たれるのに対し、一旦消し具を用いて摩擦熱等により高温にして筆記描線等を消色した後に-30℃に冷却した際には、「低温側変色温度が-30℃以上の熱変色性マイクロカプセル顔料」のみが発色して「低温側変色温度が-30℃未満の熱変色性マイクロカプセル顔料」は消色したままとなるので、筆記後そのまま-30℃とした場合と筆記後高温にして筆記描線等を消色した場合を比べると明度に差があることを特定する事項であると認める。 また、本件発明は、当該差を検出することに基づいて真贋を判断するものであり、当該差の絶対値が大きければ、機械等を用いることなく目視でも当該差を検出することができる(真贋を判断しやすい)ことは明らかであることから、当該差の絶対値の下限値を1と特定する事項であると解される。 これに対し、上記2のとおり、甲1には、発明の効果について、機密性やマジック性に優れたものとなることや筆記時と復色時の色調が異なる意外性に富んだものとなることが記載され(段落【0006】)、甲1発明1についても、「軸筒後端の擦過部材8による擦過と、デスク用照明の照射により、塗りつぶした部分は容易に消去(消色)され、「消色状態を室温で維持することができた」、「前記印刷紙を、冷凍庫等で-20℃以下に冷却することで、マイクロカプセル顔料Bによる濃いピンク色の筆跡が現出して視認される。その際、マイクロカプセル顔料Aによる淡いピンク色は現出することなく消色状態を維持している」、「最初に筆記した際の色調と冷却後の色調の濃淡を楽しむことができるものであった」と記載されている(段落【0044】)。 以上によれば、甲1発明1における「最初に筆記した際の色調」(以下、「筆記時の色調」という。)は、その後「消去(消色)」されて失われるので、冷凍庫等で冷却することで現出する色調(以下、「復色時の色調」という。)と直接対比することができないものである。また、当該色調の差を評価する人や条件が特定されていないのであるから、当該評価をする人には、色の識別について特段の知識や経験や技術のない人が含まれることや、評価する条件(昼夜屋内外の別等)も様々であることが想定されているといえる。 したがって、甲1発明1において、筆記時の色調と復色時の色調は、これらを隣接して対比比較するまでもなく、かつ、誰がどのような条件で評価しても差があると認識できる程度に大きく異なるものであると解することが合理的であり、甲1発明1は、明度に関する特定事項を充足している蓋然性が高いと認められる。 以上によれば、本件発明2と甲1発明1との一致点、相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 低温側変色温度が-30℃以上の熱変色性マイクロカプセル顔料と、低温側変色温度が-30℃未満の熱変色性マイクロカプセル顔料を併用すると共に、-30℃を境にしたインクのマンセル表色系における明度の差の絶対値が1以上であることを特徴とする筆記具用水性インク組成物。」 <相違点1> 「熱変色性マイクロカプセル顔料」について、本件発明2は、「該二種の熱変色性マイクロカプセル顔料の高温側変色温度が共に47℃以上であり」と特定されているのに対し、甲1発明1の「マイクロカプセル顔料A」の「T4」は、「33℃」であり、「マイクロカプセル顔料B」の「T4」は、「57℃」であると特定されている点 <相違点2> 「低温側変色温度が-30℃以上の熱変色性マイクロカプセル顔料」と「低温側変色温度が-30℃未満の熱変色性マイクロカプセル顔料」の着色状態における色について、本件発明2は、それぞれ、「黒色」と「黒色又は青色」であるのに対し、甲1発明1の「マイクロカプセル顔料A」と「マイクロカプセル顔料B」は、いずれも、「ピンク色」である点 <相違点3> 「インク組成物」を製造した際の「低温側変色温度が-30℃以上の熱変色性マイクロカプセル顔料」と「低温側変色温度が-30℃未満の熱変色性マイクロカプセル顔料」の着色状態について、本件発明2は、「共に着色状態で併用する」と特定されているのに対し、甲1発明1の「マイクロカプセル顔料A」は、「予め-40℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料をピンク色に発色させた後、室温で放置した」と特定されていることから着色状態で使用されているが、「マイクロカプセル顔料B」は、「消色状態の」と特定されているから、「共に着色状態で併用する」ものではない点 <相違点4> 本件発明2は、「-30℃を境にしたインクのJIS Z 8781に準拠するL*a*b*表色系に準拠した彩度(C*ab)の値、a*値及びb*値を用いて、式(a2+b2)1/2での彩度の差の絶対値が1.5以下である」と特定されているのに対し、甲1発明1は、そのような特定を備えていない点 イ 相違点2、3の検討 事案に鑑み、まず相違点2、3について検討する。 甲1発明1は、甲1の実施例2の記載に基づいて認定した発明であるところ、甲1には以下の記載がある。 「本発明は、ユーザーが最初の筆跡を任意のタイミングで消色できると共に、消色した筆跡を容易に復元させることができる、筆記後の内容や誤記の確認が可能な機密性やマジック性に優れた可逆熱変色性筆記具用インキ組成物とそれを収容した可逆熱変色性筆記具を提供するものである。」(段落【0004】) 「前記した組成物のうち、異なった温度域で着消色する色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を二種類用いることにより、マイクロカプセル顔料Aによる筆記時の色調を消色させた後、冷却することでマイクロカプセル顔料Bによる第1の状態(無色)から第2の状態(有色)に色彩を簡易に変色させて筆跡を視覚することができる、機密性やマジック性に優れたものとなる。」(段落【0010】) これらの記載に接した当業者は、甲1発明1について、機密性やマジック性に優れた可逆熱変色性筆記具用インキ組成物等を提供することを目的として、異なった温度域で着消色する色彩記憶性を有する可逆熱変色性顔料を用いることを特徴としており、この目的のためには、用途に応じて適切な色の組合せが選択されることが理解できる。また、甲1発明1を認定する基礎とした実施例2以外にも、実施例2とは異なる色の組合せが選択されている複数の実施例が記載されていることも認められる。 そうすると、当業者であれば、甲1発明1において、「マイクロカプセル顔料A」と「マイクロカプセル顔料B」の着色状態における色の選択、及び、それぞれを着色状態で用いるのかそれとも消色状態で用いるのかに関する選択は、甲1発明1の目的に応じて定められたものであって、これらの点を変更した場合には、甲1発明1(実施例2)が想定していた目的を達成することができなくなる恐れがあると理解する。 そして、甲1の段落【0044】には、甲1発明1のインキについて、「前記可逆熱変色性ボールペン1を用いて茶色の幹が印刷された紙面に、該幹の上方外周を塗りつぶした。その際、マイクロカプセル顔料Aによる淡いピンク色の筆跡が視認される。その後、軸筒後端の擦過部材8による擦過と、デスク用照明の照射により、塗りつぶした部分は容易に消去(消色)され、消色状態を室温で維持することができた。更に、前記印刷紙を、冷凍庫等で-20℃以下に冷却することで、マイクロカプセル顔料Bによる濃いピンク色の筆跡が現出して視認される。その際、マイクロカプセル顔料Aによる淡いピンク色は現出することなく消色状態を維持しているため、冷却によって幹に桜花が咲くように視覚されるマジック性に富んだ筆跡が所望の色調で得られるものとなる。また、最初に筆記した際の色調と冷却後の色調の濃淡を楽しむことができるものであった。尚、この状態は室温で維持することができた。」と記載されているから、「マイクロカプセル顔料A」と「マイクロカプセル顔料B」の着色状態における色の選択、及び、それぞれを着色状態で用いるのかそれとも消色状態で用いるのかに関する選択は、冷却によって幹に桜花が咲くように視覚されるマジック性に富んだ筆跡が所望の色調で得られるものとし、また、最初に筆記した際の色調と冷却後の色調の濃淡を楽しむことができるものとし、さらに、この状態は室温で維持することができるものとするためにいずれも必須の条件であると認められる。 そうすると、甲1発明1において、「マイクロカプセル顔料A」と「マイクロカプセル顔料B」の着色状態における色、および、「インク組成物」を製造した際の着色状態を変更することには強い阻害要因があるといえる。また、甲1には、当該阻害要因があるにも関わらず、相違点2および相違点3に係る構成を備えるものすることを動機付けるような記載も示唆もない。 したがって、相違点2および相違点3に係る構成を備えるものすることを当業者が容易になし得たとは認められない。 ウ 相違点4の検討 上記イのとおり、甲1発明1において、「マイクロカプセル顔料A」と「マイクロカプセル顔料B」の着色状態における色の選択、及び、それぞれを着色状態で用いるのかそれとも消色状態で用いるのかに関する選択は、甲1発明1の目的に応じて定められたものであって、これらの点を変更した場合には、甲1発明1(実施例2)が想定していた目的を達成することができなくなる恐れがあるものである。 これに対し、相違点4に係る事項は、要するに、「彩度の差の絶対値が1.5以下である」と規定することによって、彩度の変化が少ない範囲に限定するものである。 そうすると、上記イと同様の理由により、甲1発明1において、相違点4に係る構成を備えるものすることを、当業者が容易になし得たとは認められない。 エ 効果について 本件発明2は、相違点1~4に係る構成を全て備えていることによって、「消し具等を用いて摩擦熱等により筆記描線を消色できる熱変色性のマイクロカプセル顔料を含有する筆記具用水性インク組成物において、インクの真贋を容易に判断することが可能となる筆記具用水性インク組成物が提供される」(段落【0008】)という効果を奏するものである。 オ 申立人の主張について 申立人は、令和4年11月16日提出の意見書において、相違点2について、甲1の段落【0004】や【0010】の記載によれば、用途に応じて適宜の色の組合せの選択が可能であると理解できるし、段落【0039】には、黒色及び青色を含むいろいろな色の組合せの実施例、比較例が記載されている。また、黒色及び青色は、筆記具や印刷の分野で極めて一般的に用いられる色彩である。したがって、相違点2は、当業者が通常の創作能力の発揮として行う典型的な設計事項に過ぎないと考える他なく、この点に進歩性が認められないことは明らかであり(同意見書3~6頁、「(2-2)上記1、2(1および2は、○の中に数字)の点について」の項)、 相違点3について、異なった熱変色特性を有する色彩記憶性のマイクロカプセルを2種併用する場合、その両方を有色状態とすることは例えば甲第2、4、6、7号証に記載されているとおり、周知慣用の技術に過ぎないから、当業者が通常の創作能力の発揮として行う典型的な設計事項に過ぎないと考える他なく、周知慣用技術との組み合わせにより容易に想到し得たものと考えられ(同意見書6~7頁、「(2-3)上記3(3は、○の中に数字)の点について」の項)、 相違点4について、本件特許明細書の段落【0008】の記載によれば、「彩度の差の絶対値が1.5以下」とすることの技術的意味を何ら見出すことは出来ず、また、「彩度の差の絶対値が1.5以下」であるか否かは、その作用効果に影響を及ぼさないから、本件発明の課題解決と何ら関連しない単なる設計事項の差異と考える他なく、仮にこの点が相違点に該当するとしても、甲1発明を基に当業者が極めて容易に想到し得たものと考える他ありません(同意見書7~10頁、「(2-4)上記4(4は、○の中に数字)の点について」の項)、と主張する。 しかしながら、上記イ、ウのとおりであるから、申立人の主張は、いずれも採用できない。 カ 小括 以上のとおりであるから、相違点1についてさらに検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明1に基いて当業者が容易発明することができたものであるとは認められない。 (2) 甲1発明2を引用発明とする場合について ア 本件発明2と甲1発明2との対比 甲1発明2は、要するに、甲1発明1においてマイクロカプセル顔料等を変更したものに該当すること、及び、上記(1)アを参考にして本件発明2と甲1発明2の対比をすると、その一致点、相違点は以下のとおりである。 <一致点> 低温側変色温度が-30℃以上の熱変色性マイクロカプセル顔料と、低温側変色温度が-30℃未満の熱変色性マイクロカプセル顔料を併用すると共に、-30℃を境にしたインクのマンセル表色系における明度の差の絶対値、及び、-30℃を境にしたインクのJIS Z 8781に準拠するL*a*b*表色系に準拠した彩度(C*ab)の値、a*値及びb*値を用いて、式(a2+b2)1/2での彩度の差の絶対値の少なくとも1つが1以上であることを特徴とする筆記具用水性インク組成物。」 <相違点5> 「熱変色性マイクロカプセル顔料」について、本件発明2は、「該二種の熱変色性マイクロカプセル顔料の高温側変色温度が共に47℃以上であり」と特定されているのに対し、甲1発明2の「マイクロカプセル顔料A」の「T4」は、「32℃」であり、「マイクロカプセル顔料B」の「T4」は、「56℃」であると特定されている点 <相違点6> 「低温側変色温度が-30℃以上の熱変色性マイクロカプセル顔料」と「低温側変色温度が-30℃未満の熱変色性マイクロカプセル顔料」の着色状態における色について、本件発明2は、それぞれ、「黒色」と「黒色又は青色」であるのに対し、甲1発明2の「マイクロカプセル顔料A」と「マイクロカプセル顔料B」は、それぞれ、「黒色」と「黄色」である点 <相違点7> 「インク組成物」を製造した際の「低温側変色温度が-30℃以上の熱変色性マイクロカプセル顔料」と「低温側変色温度が-30℃未満の熱変色性マイクロカプセル顔料」の着色状態について、本件発明2は、「共に着色状態で併用する」と特定されているのに対し、甲1発明1の「マイクロカプセル顔料A」は、「予め-40℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料を黒色に発色させた後、室温で放置した」と特定されていることから着色状態で使用されているが、「マイクロカプセル顔料B」は、「消色状態の」と特定されているから、「共に着色状態で併用する」ものではない点 <相違点8> 本件発明2は、「-30℃を境にしたインクのJIS Z 8781に準拠するL*a*b*表色系に準拠した彩度(C*ab)の値、a*値及びb*値を用いて、式(a2+b2)1/2での彩度の差の絶対値が1.5以下である」と特定されているのに対し、甲1発明1は、そのような特定を備えていない点 イ 検討 相違点5~8は、それぞれ、実質的に相違点1~4と同じものである。したがって、上記(1)イ~カと同様の検討により、本件発明2は、甲1発明2に基いて当業者が容易発明することができたものであるとは認められない。 (3) 小括 したがって、本件発明2は、甲1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから、取消理由3によって、取り消すべきものであるとすることはできない。 第6 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議の申し立て理由について 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議の申し立て理由は、要するに、上記第4に記載した、取消理由1および取消理由2である。 1 取消理由1について 取消理由1は、要するに、本件特許に係る発明が、その課題を解決することができるものであるといえるためには、「簡単な摩擦で簡単にかつ確実に所定の高温側変色温度域で消色又は変色等することができ」ることを要すると認められるところ、本件特許に係る発明は、「所定の高温側変色温度域で消色又は変色等することができること」に関する事項を備えていないし、当該事項を備えていなくても、上記課題を解決することができるといえる技術常識もないから、本件特許に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえないから、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないというものである。 これに対し、本件発明2は、上記第3に記載したとおりのものであって、「該二種の熱変色性マイクロカプセル顔料の高温側の変色温度となる消色温度が共に47℃以上であり」という事項を備えるものであるから、上記課題を解決することができない態様を包含するものであるとはいえない。 したがって、本件発明2は、取消理由1によって、取り消すべきものであるとすることはできない。 2 取消理由2について 取消理由2は、要するに、本件特許に係る発明は、甲1に記載された発明であるというものであるが、上記第5に記載したとおり、本件発明2と甲1に記載された発明(甲1発明1、および、甲1発明2)を対比すると相違点(相違点1~8)があるから、本件特許に係る発明は、甲1に記載された発明であるとはいえない。 したがって、本件発明2は、取消理由2によって、取り消すべきものであるとすることはできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件請求項1に係る特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700703

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  • 2024-700901異議申立 / 2026-01-21 / 訂正認容導電性顔料ペースト、合材ペースト、及びリチウムイオン電池用電極
    共通の審決分類: 113・C09D、121・C09D、537・C09D
  • 2025-700554異議申立 / 2025-12-04 / 訂正認容導電性インキおよびその製造方法、導電性印刷物、導電体およびその製造方法、ならびに…
    共通の審決分類: 113・C09D、121・C09D、537・C09D
  • 2025-700801異議申立 / 2025-12-02 / 維持水性塗料組成物および塗装物の製造方法
    共通の審決分類: 113・C09D、121・C09D、537・C09D

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