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特許異議申立

2023-700852

シャープペンシル

審判番号
2023-700852
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-112112
登録番号
7265938
請求日
2023年08月18日
審決日
2025年08月29日
公報発行日
2025年12月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】三菱鉛筆株式会社
  • 【権利者代理人】青木 篤
  • 【権利者代理人】三橋 真二
  • 【権利者代理人】伊藤 公一
  • 【権利者代理人】伊藤 健太郎
  • 【異議申立人】矢部 まどか
審判長/審判官
  • 審判長 殿川 雅也
  • 審判官 山本 一
  • 審判官 道祖土 新吾
分類
P1651.113-YAA(B43K) / P1651.121-YAA(B43K) / P1651.537-YAA(B43K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7265938号発明「シャープペンシル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7265938号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。 特許第7265938号の請求項1~8に係る特許を維持する。

理由

理 由 手続の経緯 特許第7265938号の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和元年6月17日に出願され、令和5年4月19日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、同年8月18日に特許異議申立人矢部まどかにより特許異議の申立てがされた。 本件特許異議申立て以後の経緯は、次のとおりである。 令和6年 2月21日 取消理由通知書(起案日) 同年 4月23日 訂正請求書・意見書(特許権者)の提出 同年 7月10日 訂正拒絶理由通知書(起案日) 同年 8月 7日 意見書(以下「意見書1」という。)(特許権者)の提出 同年10月21日 意見書(特許異議申立人)の提出 同年11月29日 取消理由通知書(決定の予告)(起案日) 令和7年 1月31日 訂正請求書・意見書(特許権者)の提出 同年 3月26日 意見書(以下「意見書2」という。)(特許異議申立人)の提出 同年 5月 9日 取消理由通知書(決定の予告)(起案日)(以下「先の取消理由通知」という。) 同年 6月 6日 訂正請求書・意見書(特許権者)の提出 なお、令和6年4月23日にされた訂正の請求、及び、令和7年1月31日にされた訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げたものとみなす。 また、令和7年6月17日付けの通知書において、特許異議申立人に対して期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人は応答しなかった。 第2 本件訂正について 1 訂正請求の趣旨 令和7年6月6日にされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)は、同日に提出された訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)の記載からみて、その請求の趣旨を「特許第7265938号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」とするものである。 2 訂正の内容 本件訂正の内容は以下のとおりである(下線は当審合議体で付した。以下同様。)。 訂正前の請求項1に、 「ノック操作後の筆記による筆記圧によって、筆記芯と共に前記ボールチャックを前記保持チャックに対して後退させるボールチャック後退機構をさらに具備する」 と記載されているのを、 「ノック操作が完了した状態で、筆記芯及び前記ボールチャックを環状突起による静止摩擦力によって前記軸筒に対して静止させ、ノック操作後の筆記による筆記圧によって、筆記芯と共に前記ボールチャックを前記保持チャックに対して後退させるボールチャック後退機構をさらに具備し、 筆記が完了して筆記圧が解除された状態で、前記環状突起によって筆記芯及び前記ボールチャックを前記軸筒に対して静止させる静止摩擦力が、前記ボールチャックから筆記芯を引き出すのに必要な力よりも大きい」 に訂正する(以下「訂正事項」という。)。 請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~8も同様に訂正する。 3 本件訂正の適否に関する当審の判断 (1)一群の請求項についての説明 本件訂正前の請求項2~8は、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、本件訂正前の請求項1~8に対応する本件訂正後の請求項1~8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 よって、本件訂正は、一群の請求項である本件訂正前の請求項1~8についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 (2)訂正の目的について 請求項1の発明特定事項である「ボールチャック後退機構」の機能について、「ノック操作が完了した状態で、筆記芯及び前記ボールチャックを環状突起による静止摩擦力によって前記軸筒に対して静止させ」ること、及び「筆記が完了して筆記圧が解除された状態で、前記環状突起によって筆記芯及び前記ボールチャックを前記軸筒に対して静止させる静止摩擦力が、前記ボールチャックから筆記芯を引き出すのに必要な力よりも大きい」ことを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 同様に、訂正後の請求項2~8は、訂正後の請求項1を引用することにより、訂正後の請求項2~8の発明特定事項である「ボールチャック後退機構」の機能について、「ノック操作が完了した状態で、筆記芯及び前記ボールチャックを環状突起による静止摩擦力によって前記軸筒に対して静止させ」ること、及び「筆記が完了して筆記圧が解除された状態で、前記環状突起によって筆記芯及び前記ボールチャックを前記軸筒に対して静止させる静止摩擦力が、前記ボールチャックから筆記芯を引き出すのに必要な力よりも大きい」ことを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと 上記(2)のとおり、請求項1に係る訂正事項は、「ボールチャック後退機構」について減縮する訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。訂正後の請求項2~8についても、訂正後の請求項1の記載を引用することにより、実質的に訂正するものであるが、前述と同様の理由により、ボールチャック後退機構」について減縮する訂正であって、カテゴリーや対象、目的を 変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 (4)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること 明細書等の【0006】には、 「【0006】 本発明の一態様によれば、軸筒と、前記軸筒の前端部に配置され、前記軸筒に対して前後動可能に配置された先端パイプと、筆記芯を保持する保持チャックと、筆記芯の前進を許容し後退を阻止するボールチャックと、を具備し、前記先端パイプを筆記面に当接させながら筆記することによって筆記芯の摩耗に応じて前記先端パイプが後退するように構成されたシャープペンシルであって、ノック操作後の筆記による筆記圧によって、筆記芯と共に前記ボールチャックを後退させるボールチャック後退機構をさらに具備することを特徴とするシャープペンシルが提供される。」 との記載があり、すなわち、「ボールチャック」は「筆記芯」の「後退を阻止する」ものであるところ、ノック操作が完了した後の安定した状態においても同様に「ボールチャック」は、「筆記芯」の「後退を阻止する」ものと認められ、その際には、「ボールチャック」と「筆記芯」との間に静止摩擦力が働き、相互に静止していることは明らかである。 そして、明細書等の【0034】及び【0042】には、 「【0034】 ボールチャックホルダ20において、環状突起203がノック筒21の内面と当接することによって、ノック筒21の内面との間に静止摩擦力が生じる。環状突起203による静止摩擦力は、ボールチャック10から筆記芯7を引き出すのに必要な力よりも大きく、標準的な筆記圧又は比較的弱い筆記圧によってボールチャックホルダ20に作用する力よりも小さいことが好ましい。静止摩擦力がボールチャック10から筆記芯7を引き出すのに必要な力よりも小さいと、筆記圧が解除されたときに、筆記芯7のみならずボールチャック10も前進してしまう。また、静止摩擦力が大きすぎると、ボールチャック10又はボールチャックホルダ20を後退させることができない。なお、ボールチャックホルダ20の環状突起203に代えて、ノック筒21の内面側に環状突起を設けてもよい。」 「【0042】 ノック操作が完了した状態では、コイルスプリング22の付勢力によって、ボールチャックホルダ30は僅かばかり後退する。このとき、ボールチャックホルダ30の後退は、環状突起303と軸筒5の内面との間の摩擦力によって停止する。この状態で筆記を開始することによって、すなわち、ノック操作後の筆記によって、筆記芯7に筆記圧が加わると、ボールチャック10は、筆記芯7及びボールチャックホルダ30と共に後退する。ボールチャック10の後退は、ボールチャックホルダ30が前軸2の当接面2aと当接することによって規制される。」 との記載があり、すなわち環状突起に静止摩擦力が働くことが記載されている。 ノック操作が完了した状態で、「シャープペンシルには、シャープペンシルの姿勢に応じて、重力という軸線方向前方又は軸線方向後方の力が作用したときであっても」ボールチャックが「静止する程度の静止摩擦力が作用」することは、明細書等に記載されたシャープペンシルの機能からみて明らかである(意見書1にて、特許権者が説明するとおりである。)。そうすると、ノック操作が完了した状態で、「シャープペンシルには、シャープペンシルの姿勢に応じて、重力という軸線方向前方又は軸線方向後方の力が作用したときであっても」、ボールチャックが「静止する程度の静止摩擦力」が「ボールチャックホルダ」を通じて間接的に「作用」するものと認められる。 そして、「ノック操作が完了した状態」で、「ボールチャック」と「筆記芯」との間にも静止摩擦力が働き、相互に静止しているのであるから、「ボールチャック」が静止しているのであれば、「筆記芯」もまた静止していることは明らかである。 すなわち、「ノック操作が完了した状態」で、「筆記芯」及び「ボールチャック」の両者を、「環状突起による静止摩擦力によって」「軸筒に対して静止させ」ているものと認められる。 また、【0034】には、「環状突起203による静止摩擦力は、ボールチャック10から筆記芯7を引き出すのに必要な力よりも大きく…静止摩擦力がボールチャック10から筆記芯7を引き出すのに必要な力よりも小さいと、筆記圧が解除されたときに、筆記芯7のみならずボールチャック10も前進してしまう。」と記載されていることから、「筆記が完了して筆記圧が解除された状態で、前記環状突起によって筆記芯及び前記ボールチャックを前記軸筒に対して静止させる静止摩擦力が、前記ボールチャックから筆記芯を引き出すのに必要な力よりも大きい」ことが記載されているに等しいものといえる。 してみれば、当該請求項1に係る訂正事項は、明細書等の範囲内でするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。また、訂正後の請求項2~8についても、訂正後の請求項1の記載を引用することにより、実質的に訂正するものであるが、前述と同様の理由により、明細書等の範囲内でするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 (5)特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて 本件特許についての特許異議の申立て事件は、訂正前の全ての請求項1~8に対して特許異議申立てがなされているので、訂正後の請求項1~8に係る発明に、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (6)訂正の適否についてのまとめ 以上のとおり、令和7年6月6日に特許権者が行った本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1~8について訂正を認める。 第3 本件発明 上記第2から、本件訂正により訂正された請求項1~8に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」~「本正発明8」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。 「【請求項1】 軸筒と、 前記軸筒の前端部に配置され、前記軸筒に対して前後動可能に配置された先端パイプと、 筆記芯を保持する保持チャックと、 筆記芯の前進を許容し後退を阻止するボールチャックと、を具備し、 前記先端パイプを筆記面に当接させながら筆記することによって筆記芯の摩耗に応じて前記先端パイプが後退するように構成されたシャープペンシルであって、 ノック操作が完了した状態で、筆記芯及び前記ボールチャックを環状突起による静止摩擦力によって前記軸筒に対して静止させ、ノック操作後の筆記による筆記圧によって、筆記芯と共に前記ボールチャックを前記保持チャックに対して後退させるボールチャック後退機構をさらに具備し、 筆記が完了して筆記圧が解除された状態で、前記環状突起によって筆記芯及び前記ボールチャックを前記軸筒に対して静止させる静止摩擦力が、前記ボールチャックから筆記芯を引き出すのに必要な力よりも大きいことを特徴とするシャープペンシル。 【請求項2】 前記ボールチャック後退機構が、前記ボールチャックを保持するボールチャックホルダと、前記軸筒に対して前後動可能に配置され且つ前記ボールチャックホルダを前後動可能に包囲するノック筒を有し、 前記ボールチャックホルダによって、前記ボールチャックの前進及び後退が規制され、 前記ノック筒が前記ボールチャックの前進時に前記ボールチャックホルダと係合することによって、前記ボールチャックの前進が規制される請求項1に記載のシャープペンシル。 【請求項3】 前記ノック筒が後方に付勢されている請求項2に記載のシャープペンシル。 【請求項4】 前記ボールチャック後退機構が、前記ボールチャックを保持するボールチャックホルダを有し、前記ボールチャックホルダによって、前記ボールチャックの前進及び後退が規制される請求項1に記載のシャープペンシル。 【請求項5】 前記先端パイプを前方に付勢する弾性部材をさらに具備し、 筆記芯の摩耗に応じて前記先端パイプが後退した状態で筆記圧を解除すると、前記弾性部材の付勢力によって、前記先端パイプと前記保持チャックに保持された筆記芯とが前進する請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシャープペンシル。 【請求項6】 筆記芯をさらに具備し、 前記先端パイプが透明又は半透明に形成され、前記筆記芯が前記先端パイプの外部から視認可能であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のシャープペンシル。 【請求項7】 前記先端パイプの前端が円錐状に形成されている請求項6に記載のシャープペンシル。 【請求項8】 前記筆記芯が黒色以外のカラー芯である請求項6又は7に記載のシャープペンシル。」 第4 先の取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 本件訂正前(すなわち、先の訂正後)の請求項1~8に係る特許(以下、請求項の番号に従って「本件訂正前発明1」などという。)に対して、当審において令和7年5月9日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。 取消理由1(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるため、本件訂正前発明11~8は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 本件訂正前発明1の課題は、「先端パイプを筆記面に当接させながら筆記することによって、筆記芯の摩耗に応じて先端パイプが後退するシャープペンシルにおいて、適切な筆記芯の突出量に自動的に調整されるシャープペンシルを提供すること」であり、当該課題を解決するために、「筆記圧が解除されたときに」「静止摩擦力は、ボールチャック10から筆記芯7を引き出すのに必要な力より大きい」ことが課題解決手段として必要であると認められる。 しかし、本件訂正前発明1は、この課題解決手段が反映されていないから、発明の詳細な説明に記載したものと認めることができない。請求項1を直接的に又は間接的に引用する請求項2~8も同様である。 したがって、本件訂正前発明1~8についての特許は、特許法36条6項1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 取消理由1についての当審の判断 本件発明1~8は、先の取消理由通知に記載した取消理由によって取り消すことはできないところ、その理由は次のとおりである。 すなわち、本件訂正により、本件発明1は「筆記が完了して筆記圧が解除された状態で、前記環状突起によって筆記芯及び前記ボールチャックを前記軸筒に対して静止させる静止摩擦力が、前記ボールチャックから筆記芯を引き出すのに必要な力よりも大きい」であることが特定された。したがって、先の取消理由は解消している。 第5 先の取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由等 1 先の取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由等の概要 先の取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由、申立人が訂正により新たに生じたとする取消理由、及び、申立人が主張するそのほかの取消理由の概要は、それぞれ以下の(1)及び(2)に示すとおりである。 (1)先の取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要 ア 申立理由1(甲1を主引用例とした新規性の欠如) 本件特許の請求項1、5に係る発明は、甲1号証に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、本件特許の請求項1、5に係る特許は特許法29条1項の規定に違反してされたものである。 甲1号証:特開2017-1287号公報 イ 申立理由2(甲1を主引用例とした進歩性の欠如) 本件特許の請求項1、4、5に係る発明は、甲1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1、4、5に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 ウ 申立理由3(サポート要件違反) 本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 (2)申立人が訂正により新たに生じたとする取消理由の概要 令和7年1月31日の訂正請求書による訂正後の請求項1に係る発明は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 2 当審の判断 以下において検討するとおり、本件発明1~8は、前記1(1)及び(2)において示した特許異議申立理由等によっては取り消すことができない。 (1) 申立理由1及び2について ア 甲1発明の記載について 本件特許に係る出願の出願日である令和元年6月17日(以下、単に「出願日」という。)前の平成29年1月5日に出願公開された甲1号証(特開2017-1287号公報)には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【0016】 シャープペンシル1は、円筒状に形成され且つ前軸2及び後軸3を備えた軸筒4と、前軸2の前端部に螺合によって取り付けられた口先部材5と、後軸3の後端部に取り付けられ且つ円筒状に形成された操作部材6とを有している。口先部材5の前端部には、テーパ状に形成され、筆記芯7を突出させるための貫通孔が形成されている。前軸2の内部空間には、ノック機構ユニット10が配置され、後軸3の内部空間には、回転駆動ユニット100が配置されている。ノック機構ユニット10からは、円筒形の芯ケース8が後方へ向かって延び、芯ケース8の後端部は操作部材6と嵌合している。 【0017】 図3は、ノック機構ユニット10の拡大縦断面図である。ノック機構ユニット10は、円筒状に形成されたユニット本体20と円筒状に形成された接続部材30とキャップ部材40とを有し、ユニット本体20とキャップ部材40とはノック機構ユニット10の外郭であるユニットケースを構成する。接続部材30の後端部の外周面は、ユニット本体20の前端部と螺合し、その前方の接続部材30の外周面は、キャップ部材40の後端部と螺合している。ユニット本体20の内部空間には、チャックユニット50が、ユニット本体20に対して前後に移動可能に配置されている。接続部材30とキャップ部材40とは、ダンパーユニット60のハウジングを構成する。 【0018】 チャックユニット50は、円筒状に形成されたチャックケース51を有している。チャックケース51内には、中心軸線に沿って筆記芯7の通孔が形成されると共にその先端部が軸方向に沿って複数に分割されたチャック本体部52と、円筒状に形成されて内周面が前方に向かって広がるテーパ面を備えると共にチャック本体部52の先端部を包囲する締め具53と、チャック本体部52の先端部の外周面と締め具53内のテーパ面との間に配置された複数のボール54とが配置されている。 【0019】 チャックユニット50は、筆記芯7に筆記圧が加わった場合には、チャック本体部52がボール54と共に円筒状の締め具53内のテーパ面に当接するために筆記芯7はチャック本体部52によって把持される。これにより、筆記芯7の後退は阻止される。筆記芯7を前方に引き出す力が働く場合には、チャック本体部52は締め具53による作用を受けないために、筆記芯7を比較的抵抗なく前方に引き出すことができる。すなわち、チャックユニット50は、筆記芯7の前進を許容し後退を阻止するように作用する、いわゆるボールチャックを構成する。 【0020】 締め具53の前方のチャックケース51の内周面には、チャック本体部52が所定よりも前進するのを阻止すると共にボール54が脱落するのを阻止する管状のストッパ部材55が配置されている。チャック本体部52の後端部は、より大径のチャック保持部材56によって保持されている。チャック保持部材56は、チャック本体部52の後端部を保持しながら、チャックケース51の内周面に沿って軸方向にスライドできるように構成されている。」 (イ)「【0026】 図4は、ダンパーユニット60の分解斜視図であり、図5は、ダンパーユニット60の分解縦断面図である。ダンパーユニット60は、上述した接続部材30及びキャップ部材40(図3)と、スライダ70と、筆記芯パイプ61と、2つのOリング62と、保持チャック63と、ダンパースプリング64と、を有している。接続部材30とキャップ部材40とは、ダンパーユニット60のハウジングを構成する。なお、図4及び図5において、ダンパーユニット60のハウジングの一部を構成するキャップ部材40は省略されている。 【0027】 円筒状に形成された接続部材30の外周面には、環状突起31が形成されている。環状突起31の後方には、ユニット本体20の前端部と螺合する第1ねじ部32が形成され、環状突起31の前方には、キャップ部材40の後端部と螺合する第2ねじ部33が形成されている。さらに、第2ねじ部33の前方である接続部材30の前端部には、段部34が形成されるようにより小径の円筒部35が形成されている。接続部材30の内部には、筆記芯7が挿通される開口が形成された隔壁36が形成されている。隔壁36の前方の接続部材30の内部空間37には、同一径の内周面38が形成されている。 … 【0029】 スライダ70は、筆記芯7が貫通する全体として円柱状の中空の部材である。スライダ70の外周面には、平板状のフランジ部71が形成されている。フランジ部71の前方の部分には、その後方の部分より小径で且つ内部で筆記芯7が折れないように案内する芯ガイド部72が形成されている。芯ガイド部72の先端部には、筆記芯7を案内する筆記芯パイプ61が取り付けられている。 … 【0031】 リング保持部73の内部空間には、中央に通孔を形成したゴム製の保持チャック63が配置されており、保持チャック63の通孔が筆記芯7の外周面に摺接して筆記芯を一時的に保持するように作用する。 … 【0033】 この状態で、接続部材30の円筒部35の周囲には、軸方向に沿ってコイル状のダンパースプリング64が配置される。ダンパースプリング64の前端は、スライダ70のフランジ部71の後端面に当接し、ダンパースプリング64の後端は、接続部材30の段部34の前端面に当接している。したがって、ダンパースプリング64は、接続部材30に対してスライダ70を前方へ付勢している。 … 【0035】 ダンパーユニット60のダンパー効果について簡単に説明する。スライダ70を押圧して後方へ移動させると、それによってダンパースプリング64が圧縮される。次いで、押圧を解除すると、ダンパースプリング64の付勢力によって、スライダ70は、元の位置に復帰しようとするが、高粘度流体65の移動による流体抵抗を受ける。この流体抵抗によって、スライダ70は、付勢力とは逆方向の減衰力を受けながら、スライダ70は、元の位置に緩やかに復帰する。」 (ウ)「【0056】 図9は、本発明の実施形態による筆記芯7の繰り出し方法を説明する図である。図9は、説明の都合上、シャープペンシル1の拡大縦断面図の半体として、各状態を(A)から(D)に時系列順に示している。また、各部材の相対的な変位を理解しやすいように、スライダ70のフランジ部71の前端面と、チャックユニット50のチャックケース51の前端面と、筆記芯パイプ61の先端とのそれぞれの元の位置(初期位置)を、(A)から(D)に亘って仮想線X、Y及びZでそれぞれ示している。また、スライダ70の元の位置からの変位をxとし、チャックユニット50の元の位置からの変位をyとする。さらに、筆記芯パイプ61の先端からの筆記芯7の突出量をzとする。 【0057】 当該繰り出し方法では、まず、通常の筆記動作と同じようにシャープペンシル1を把持した状態から、シャープペンシル1を持ち替えることなく、筆記芯7又は筆記芯パイプ61を紙面等に押圧することによってスライダ70及びチャックユニット50を後退させる。次いで、その押圧を解除すると、チャックユニット50が筆記芯7を把持しながら元の位置に復帰し、ダンパーユニット60の減衰力によってスライダ70が遅れて筆記芯7を保持しながら元の位置に復帰することによって、筆記芯7の繰り出しが行われる。 【0058】 なお、シャープペンシル1は、通常のノック式のシャープペンシルとしても使用可能である。すなわち、ノック操作によって操作部材6を介して芯ケース8が前進すると、円筒体9は、チャック保持部材56、ひいてはチャック本体部52を前方へ押し出し、筆記芯7の繰り出しが行われる。後軸3の後端部と操作部材6との間には、操作部材6を元の位置に復帰させる第2ノックスプリング12が配置されている(図2)。 【0059】 図9(A)は、押圧動作を行う前の状態を示す。この状態では、スライダ70のリング保持部73の後端面と、接続部材30の隔壁36の前端面との距離はd1である。すなわち、スライダ70は、距離d1だけ後退可能である。なお、チャックユニット50は、距離d1以上に後退可能となるように設定されている。 【0060】 この状態から、ダンパースプリング64及び第1ノックスプリング11の付勢力に抗して、筆記芯7又は筆記芯パイプ61を紙面等に押圧することによってスライダ70及びチャックユニット50を後退させる(図9(B))。スライダ70及びチャックユニット50の変位は、図9(B)に示されるように、それぞれx=x1及びy=y1である。図9(A)に示されるように、ここでは、筆記芯パイプ61の先端から筆記芯7が突出していない(z=0)ことから、x1及びy1は等しい。なお、最初から筆記芯パイプ61の先端から筆記芯7が突出している場合(例えばz=z0)には、その突出量にx1を加えた値が変位y(y=x1+z0)となる。 【0061】 次いで、上述した押圧を解除すると、第1ノックスプリング11の付勢力によって、チャックユニット50は、元の位置(y=0)に復帰する(図9(C))。このときのスライダ70の変位はx=x2であり、筆記芯7の突出量はz=z1である。チャックユニット50の元の位置への復帰が瞬時に行われ、その時点で、スライダの70が移動していない場合には、x2はx1に等しい。このとき、筆記芯7の突出量はz=y1となる。 【0062】 実際には、チャックユニット50の変位がy=0になった時点で、ダンパーユニット60のダンパー効果によってスライダ70も緩やかに前進していることから、実際の筆記芯7の突出量はx1より小さくなる(z1<y1)。なお、スライダ70の前進の際には、保持チャック63によって筆記芯7が保持され、前進に応じてチャックユニット50から筆記芯7が引き出される。 【0063】 次いで、スライダ70が、チャックユニット50から筆記芯7を引き出しながら元の位置に緩やかに復帰し(図9(D))、最終的には筆記芯7が突出量z1だけ繰り出される。すなわち、図9に示された実施形態では、筆記芯7の繰り出し量はz1である。」 (エ)「【図3】 [図:0001429962000001.jpg] 」 (オ)「【図9】 [図:0001429962000002.jpg] 」 (カ)【図3】から、スライダ70が軸筒4(前軸2)の前端側に設けられることが看取できる。 (キ)上記(イ)【0029】より、スライダ70の芯ガイド部72の先端部には筆記芯パイプ61が取り付けられると認める。 (ク)上記(ウ)【0057】、【0059】、【0060】、(オ)及び(カ)より、筆記芯パイプ61は、軸筒4に対してスライダ70とともに前後動可能であると認める。 (ケ)上記(イ)【0031】より、スライダ70のリング保持部73の内部空間には保持チャック63が配置され、保持チャック63によって筆記芯7を一時的に保持可能であると認める。 (コ)上記(ア)【0017】より、チャックユニット50が、ユニット本体20に対して前後に移動可能にユニット本体20の内部空間に配置されると認める。 (サ)上記(ア)【0019】より、チャックユニット50は、筆記芯7の前進を許容し後退を阻止するボールチャックを構成し、チャックユニット50のうちボールチャックの機能を果たすのは、チャック本体部52、締め具53及びボール54であると認める。 (シ)上記(ウ)【0059】より、スライダ70は、リング保持部73が接続部材30の隔壁36によって係止されるまで距離d1だけ後退可能であるのに対し、チャックユニット50はd1以上に後退可能に設定されていると認める。 (ス)上記(ウ)【0060】より、筆記芯パイプ61の先端から筆記芯7が突出していない状態(z=0)で筆記芯7又は筆記芯パイプ61を紙面等に押圧すると、スライダ70及びチャックユニット50がそれぞれ後退し、このとき、スライダ70の変位x(=x1)とチャックユニット50の変位y(=y1)は等しく、筆記芯パイプ61の先端から筆記芯7が最初から突出している状態(z=z0>0)で筆記芯7又は筆記芯パイプ61を紙面等に押圧した場合、チャックユニット50の変位yは、スライダ70の変位X(=x1)よりも大きくなり(y=x1+z0)、筆記芯パイプ61の先端から筆記芯7が最初から突出している場合、チャックユニット50及び筆記芯7は、スライダ70及び保持チャック63よりも大きく後退し(y=x1+z0>x1)、チャックユニット50により構成されるボールチャックは、保持チャック63に対して相対的に後退するものと認める。 (セ)上記(ア)【0020】より、締め具53の前方には、ボールチャックの一部としてのボール54が脱落するのを阻止するストッパ部材55が配置され、ボールチャックの一部としてのチャック本体部52の後端部はチャック保持部材56によって保持され、ストッパ部材55は、チャック本体部52が所定よりも前進するのを阻止する機能を有するものと認める。 (ソ)上記(ウ)【0059】より、チャックユニット50の後退可能量は、上述のとおり、接続部材30の隔壁36の前端面からの距離としてd1以上に設定されるものと認める。 (タ)上記(イ)【0033】より、ダンパーユニット30のダンパースプリング64は、筆記芯パイプ61が取り付けられたスライダ70を前方に付勢していると認める。 (チ)上記(イ)【0035】より、スライダ70に対する押圧(筆記圧)が解除されると、ダンパースプリング64の付勢力によってスライダ70は後退位置から元の位置に戻ろうとするものと認める。 (ツ)上記(ウ)【0061】~【0063】及び【図9】より、筆記圧により筆記芯パイプ61が後退した状態から筆記圧が解除されると、チャックユニット50は接続部材30と接する位置に瞬時に復帰し、次いで、筆記芯パイプ61と保持チャック63に保持された筆記芯7はダンパースプリング64の付勢力によって前進し、筆記芯7が繰り出されるものと認める。 (テ)上記(ア)【0018】及び【図3】から、ボールチャック50はチャックケース51を有し、チャックケース51の外周面には、ユニット本体20の内周面と当接する突起が設けられているものと認める。 <参考:図3の拡大図。丸印、矢印及びテキストは当審合議体が付した。> [図:0001429962000003.jpg] イ 甲1発明 上記ア記載事項(ア)~(オ)、及び認定事項(カ)~(テ)より、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。 「軸筒(4)と、 軸筒(4)の前端側において軸筒(4)に対して前後動可能に配置されたスライダ(70)の芯ガイド部(72)の先端部に取り付けられた筆記芯パイプ(61)と、 スライダ(70)のリング保持部(73)の内部空間に配置され、筆記芯(7)を保持する保持チャック(63)と、 チャックユニット(50)により構成され、筆記芯(7)の前進を許容し後退を阻止するボールチャック(52、53、54)と、 を具備し、 筆記芯パイプ(61)の先端から筆記芯(7)が突出していない状態(z=0)で筆記圧が筆記芯(7)又は筆記芯パイプ(61)に作用したとき、筆記芯パイプ(61)が取り付けられたスライダ(70)がx=x1の位置まで後退するように構成されたシャープペンシル(1)であって、 ノック操作により筆記芯(7)の繰り出しが可能であり、かつ、ボールチャック(52、53、54)を構成するチャックユニット(50)及び筆記芯(7)は、筆記芯パイプ(61)の先端から筆記芯(7)が最初から突出している状態(z=z0>0)で筆記圧が筆記芯(7)又は筆記芯パイプ(61)に作用したとき、スライダ(70)及び保持チャック(63)よりも大きく後退する(y=x1+z0>x1)ようにユニット本体(20)の内部空間に配置され、 ボールチャック(52、53、54)を構成するチャックユニット(50)は、ボールチャック(52、53、54)を保持するストッパ部材(55)及びチャック保持部材(56)を含み、 ストッパ部材(55)はチャック本体部(52)が所定位置よりも前進するのを阻止し、かつ、チャックユニット(50)の後退可能量は距離d1以上に設定され、 スライダ(70)及び筆記芯パイプ(61)を前方に付勢するダンパースプリング(64)をさらに具備し、 チャックユニット(50)はチャックケース(51)を有し、チャックケース(51)の外周面にはユニット本体(20)の内周面と当接する突起が設けられ、 筆記芯パイプ(61)が後退した状態で筆記圧が解除されると、チャックユニット(50)は接続部材(30)と接する位置に瞬時に復帰し、次いで、ダンパースプリング(64)の付勢力によって、筆記芯パイプ(61)と保持チャック(63)に保持された筆記芯(7)とが前進し、筆記芯(7)が繰り出されることを特徴とするシャープペンシル(1)。」 ウ 本件発明1について(対比・判断) (ア)事案に鑑み、本件発明1における「筆記が完了して筆記圧が解除された状態で、前記環状突起によって筆記芯及び前記ボールチャックを前記軸筒に対して静止させる静止摩擦力が、前記ボールチャックから筆記芯を引き出すのに必要な力よりも大きい」との特定事項について検討する。 (イ)甲1発明の「軸筒(4)」、「筆記芯パイプ(61)」、「筆記芯(7)」、「保持チャック(63)」、「ボールチャック(52、53、54)」、「シャープペンシル(1)」は、それぞれ、本件発明1の「軸筒」、「先端パイプ」、「筆記芯」、「保持チャック」、「ボールチャック」、「シャープペンシル」に相当する。 (ウ)甲1発明における「筆記圧が解除され」た後の状態は、本件発明1における「筆記が完了して筆記圧が解除された状態」に対応するものである。そして、甲1発明において「筆記圧が解除され」た後の状態で「筆記芯(7)が繰り出される」ことは、本件発明1において「筆記が完了して筆記圧が解除された状態」で「ボールチャックから筆記芯」が引き出されることに対応するものと認められる。 (エ)甲1発明は、「筆記圧が解除されると、チャックユニット(50)は接続部材(30)と接する位置に瞬時に復帰し、次いで、ダンパースプリング(64)の付勢力によって、筆記芯パイプ(61)と保持チャック(63)に保持された筆記芯(7)とが前進し、筆記芯(7)が繰り出される」のであるから、筆記芯(7)が繰り出されている間は、ボールチャック(52、53、54)を含むチャックユニット(50)は接続部材(30)と接して静止し、このことで筆記芯(7)をボールチャック(52、53、54)から引き出すことができるものと認められる。その一方で、筆記芯(7)が繰り出される間に、チャックケース(51)の外周面に設けられた突起に働く静止摩擦力については特定されていない。 (オ)そうすると、本件発明1と甲1発明は、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点> 「筆記が完了して筆記圧が解除された状態」において、「ボールチャックから筆記芯」が引き出される際に、 本件発明では「前記環状突起によって筆記芯及び前記ボールチャックを前記軸筒に対して静止させる静止摩擦力が、前記ボールチャックから筆記芯を引き出すのに必要な力よりも大きい」ものとなっており、このことによって筆記芯が引き出されるのに対し、 甲1発明ではボールチャック(52、53、54)を含むチャックユニット(50)は接続部材(30)と接して静止し、このことで筆記芯(7)をボールチャック(52、53、54)から引き出されるものであり、この際に、チャックケース(51)の外周面に設けられた突起に働く静止摩擦力の大きさは特定されていない点。 (カ)上記相違点について検討するに、甲1発明では、筆記圧が解除されてボールチャックから筆記芯が引き出される際、ボールチャック(52、53、54)を含むボールチャック(50)は接続部材(30)と当接して静止するのであるから、チャックケース(51)の外周面に設けられた突起を介してボールチャック(52、53、54)を静止させる必要がなく、「前記ボールチャックから筆記芯を引き出すのに必要な力よりも大きい」ものとする動機がない。 (キ)さらにいえば、甲1発明は、チャックユニット(50)は接続部材(30)と接する位置に瞬時に復帰するのであるから、その復帰を妨げるような力は極力弱くすることが自然であると認められる。そうすると、チャックケース(51)の外周面に設けられた突起を介してボールチャック(52、53、54)を静止させる力を「前記ボールチャックから筆記芯を引き出すのに必要な力よりも大きい」ものとすることには、むしろ阻害要因があるとさえいえる。 (ク)したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではなく、また甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 本件発明4、5について(対比・判断) 上記第3のとおり、本件発明4、5は本件発明1のすべての発明特定事項を備えるから、本件発明4、5は甲1発明ではなく、また甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)申立理由3について 申立人は、申立理由3及び意見書2において、本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない旨主張する。 しかし、本件訂正により、本件発明1に課題解決手段が反映されることとなったことは、既に上記第4の2で検討したとおりである。 したがって、本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。 (3)申立人が訂正により新たに生じたとする取消理由について ア 申立人の主張の内容 申立人は、令和7年3月26日に提出した意見書において、以下の2点が不明確である旨を主張している。 (ア)「環状突起」について 「環状突起」と他の要素との関係が明瞭に定義されているとはいえず、特に「環状突起」が「シャープペンシル」のどこに設けられるのか、どの方向からみて「環状」であるのか、どの方向に突出する「突起」であるのか明瞭でない。 (イ)「環状突起による静止摩擦力によって」「前記軸筒に対して」「静止」について 請求項1の「筆記芯及び前記ボールチャックを環状突起による静止摩擦力によって前記軸筒に対して静止させ」るとの事項において「前記軸筒に対して」は、「筆記芯及び前記ボールチャック」と「前記軸筒」との接触部に生じる「静止摩擦力」であることを特定したものと解すべきであるが、【0034】ではノック筒21の内面とボールチャックホルダ20の外面の環状突起203との接触部に静止摩擦力が働くことが記載され、【0042】には前軸2の内面とボールチャック30の外面の環状突起303との接触部に静止摩擦力が働くことが記載されており、特許請求の範囲の記載と明細書の記載が整合していない。 したがって、「筆記芯及び前記ボールチャックを環状突起による静止摩擦力によって前記軸筒に対して静止させ」るとの事項がどのような構成を特定するものであるのかが明瞭でない。 イ 申立人の主張についての検討 上記申立人の主張ア(ア)及びア(イ)について、まとめて検討する。 (ア)明確性要件の判断の前提 特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにあると解される。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (イ)判断 a 明細書等の【0034】には、「ボールチャックホルダ20において、環状突起203がノック筒21の内面と当接することによって、ノック筒21の内面との間に静止摩擦力が生じる。環状突起203による静止摩擦力は、ボールチャック10から筆記芯7を引き出すのに必要な力よりも大きく、標準的な筆記圧又は比較的弱い筆記圧によってボールチャックホルダ20に作用する力よりも小さいことが好ましい。静止摩擦力がボールチャック10から筆記芯7を引き出すのに必要な力よりも小さいと、筆記圧が解除されたときに、筆記芯7のみならずボールチャック10も前進してしまう。また、静止摩擦力が大きすぎると、ボールチャック10又はボールチャックホルダ20を後退させることができない。なお、ボールチャックホルダ20の環状突起203に代えて、ノック筒21の内面側に環状突起を設けてもよい。」と記載され、明細書等の【0042】には、「ノック操作が完了した状態では、コイルスプリング22の付勢力によって、ボールチャックホルダ30は僅かばかり後退する。このとき、ボールチャックホルダ30の後退は、環状突起303と軸筒5の内面との間の摩擦力によって停止する。この状態で筆記を開始することによって、すなわち、ノック操作後の筆記によって、筆記芯7に筆記圧が加わると、ボールチャック10は、筆記芯7及びボールチャックホルダ30と共に後退する。ボールチャック10の後退は、ボールチャックホルダ30が前軸2の当接面2aと当接することによって規制される。」と記載される。 このような記載からみて、本件発明1においては「筆記芯及び前記ボールチャック」と「前記軸筒」との接触部において静止摩擦力が働く必要はなく、環状突起による静止摩擦力によって間接的に筆記芯やボールチャックを静止させれば十分であることが理解できる。 b そして、請求項1には「ノック操作が完了した状態で、筆記芯及び前記ボールチャックを環状突起による静止摩擦力によって前記前軸に対して静止させ」ることや「筆記が完了して筆記圧が解除された状態で、前記環状突起によって筆記芯及び前記ボールチャックを前記軸筒に対して静止させる静止摩擦力が、前記ボールチャックから筆記芯を引き出すのに必要な力よりも大きい」ことが特定されている。すなわち、環状突起による静止摩擦力によって筆記芯やボールチャックを静止させることが特定されているのであるから、請求項1における「環状突起」や「静止摩擦力」との語句は、本件発明1を明確に定義づけるのに十分な程度に明確にされているものといえる。 そうすると、上記ア(イ)における「「筆記芯及び前記ボールチャック」と「前記軸筒」との接触部に生じる「静止摩擦力」であることを特定したものと解すべき」との主張は、本件発明1を正解しないものといわざるを得ず、採用することができない。 c また、上記ア(ア)で申立人が主張するように、「環状突起」が「シャープペンシル」のどこに設けられるのか、どの方向からみて「環状」であるのか、どの方向に突出する「突起」であるのかについては特定されていないものの、上記bで検討したように環状突起の機能が特定されている以上、環状突起の位置及び形状を特定することは本件発明1を明確に定義づけるために必要なものとは解されず、環状突起の位置及び形状の特定がないことによって、本件発明1が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。すなわち、上記ア(ア)における申立人の主張もまた、採用することができない。 第6 むすび 以上検討のとおり、本件発明1~8に係る特許は、先の取消理由通知で指摘した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由のいずれによっても取り消すことができない。 また、他に本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700852

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