特許異議申立
2021-700583
木質耐火部材
- 審判番号
- 2021-700583
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-029075
- 登録番号
- 特許第6824063号(P6824063)
- 請求日
- 2021年06月16日
- 審決日
- 2021年10月21日
- 公報発行日
- 2021年12月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】大成建設株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
- 【異議申立人】岡林 茂
- 審判長/審判官
- 審判長 森次 顕
- 審判官 田中 洋行
- 審判官 土屋 真理子
- 分類
- P1652.121-Y (E04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6824063号発明「木質耐火部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6824063号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第6824063号の請求項1に係る特許についての出願は、平成29年2月20日に出願され、令和3年1月14日に特許権の設定登録がされ、令和3年2月3日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和3年6月16日に、特許異議申立人 岡林 茂(以下「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出され、請求項1に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
2 本件発明
特許第6824063号の請求項1の特許に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
荷重支持部と、前記荷重支持部の周囲に被覆された耐火被覆層と、前記耐火被覆層の外側に周設された仕上げ木材層と、を備える木質耐火部材であって、
前記耐火被覆層が湿式耐火被覆材からなり、
前記荷重支持部と前記耐火被覆層との間、および、前記耐火被覆層と前記仕上げ木材層との間に、水分遮断塗膜または水分遮断シートからなる水分遮断層が形成されていることを特徴とする、木質耐火部材。」
3 申立理由の概要
申立人は、主たる証拠として、以下の甲第1号証及び甲第2号証(以下それぞれ「甲1」「甲2」という。)を、周知慣用技術の例として以下の甲第3号証(以下「甲3」という。)を提出し、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
甲1:特開2015-25245号公報
甲2:特開2012-52325号公報
甲3:「木の柱の表面処理について」
URL:https://realestate.yahoo.co.jp/knowledge/chiebukuro/detail/1359825608
4 証拠の記載
(1)甲1
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付した。以下同様。)
(ア)「【0018】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態に係る木質構造部材(耐火集成材)の一例としての木質柱10について説明する。
【0019】
図1、図2、及び図5(B)には、木質柱10が示されている。なお、木質柱10の軸方向をZ方向とし、軸方向と直交する二方向をX方向及びY方向とする。また、後述する木製単材14、16、18は、図が煩雑になるのを避けるため図2では図示していない。また、後述するビス50、60及び木栓62は、図2にのみ図示している。
【0020】
図1、図2、及び図5(B)に示すように、木質柱10は、断面略矩形(本実施形態では断面略正方形)に形成されており、荷重を支持する心材部(荷重支持部)12と、心材部12の外側に設けられた外層部100と、を備えている。
【0021】
また、外層部100は、心材部12を被覆する燃止層110と、燃止層110を被覆する燃代層120と、を有する構成となっている。更に、外層部100は、燃代層120の外側部分122を構成する第一外層部102と、燃代層120の内側部分124と燃止層110とを構成する第二外層部104と、が接合されて構成されている(図5(A)も参照)。
【0022】
心材部12は、断面矩形とされ、木質柱10が負担する荷重を支持可能な構成されている。また、心材部(荷重支持部)12は、板状の複数の木製単材14(図1及び図3(B)参照)でて構成されている。
【0023】
心材部12の外側(外周)には、心材部12を囲む燃止層110が配置されている。燃止層110は、火災時における燃代層120の燃焼を停止(自然鎮火)させ、心材部12の燃焼を抑制する層である。この燃止層110は、心材部12の外周面に沿って配置される木質部114と、燃止部材(高熱容量部)の一例としての複数のモルタル板112とを有している。モルタル板112は、断面略矩形の板状に形成されており、長手方向を木質柱10の軸方向(Z方向)として配置されている(図1参照)。
【0024】
モルタル板112は、モルタルを硬化させたものであり、心材部12、木質部114及び燃代層120よりも熱容量が大きい。
【0025】
そして、モルタル板112と木質部114とを心材部12の外周面12Aに沿って交互に配置することにより、燃止層110の熱容量が心材部12及び燃代層120の熱容量よりも大きくなるように構成されている。
【0026】
燃止層110の外側(外周)には、燃止層110を囲む燃代層120が配置されている。燃代層120は、火災時に燃焼して炭化層(断熱層)を形成することにより、心材部12への火災熱の浸入を抑制する層であり、この燃代層120の厚み(層厚)は、木質柱10に求められる要求耐火性能(耐火時間)や燃代層120の燃焼速度及び遮熱性能に応じて適宜設定されている。
【0027】
前述したように、これら燃代層120の外側部分122を構成する第一外層部102と、燃代層120の内側部分124と燃止層110とを構成する第二外層部104と、が接合されることで、外層部100が構成されている(図5(A)も参照)。
【0028】
図1及び図5(B)に示すように、燃代層120の外側部分122を構成する第一外層部102は、板状の複数の木製単材16で構成されている(図4も参照)。また、燃代層120の内側部分124と燃止層110とを構成する第二外層部104は、板状の複数の木製単材18で構成された木製部20(図2等も参照)と、木製部20に形成された凹部22(図2及び図4(F)等も参照)に嵌め込まれビス50によって締結されたモルタル板112(図2等も参照)と、で構成されている。」
(イ)「【0031】
本実施形態では、第二外層部104の木製部20を構成する木製単材18は、心材部12を構成する木製単材14及び第一外層部102(122)を構成する木製単材16よりも、熱慣性が高い木材で形成されている。
・・・(中略)・・・
【0034】
本実施形態では、心材部12を構成する木製単材14及び第一外層部102(燃代層120の外側部分122)を構成する木製単材16がスギ(杉)で構成されており、第二外層部104の木製部20を構成する木製単材18がスギよりも高密度で熱慣性が高いカラマツ(唐松)で構成されている。これにより、第二外層部104(燃止層110の木質部114)がスギで構成されている場合と比較して、火災時に隣接するモルタル板112との間から心材部12へ浸入する火災熱が低減されるようになっている。」
(ウ)「【0037】
(製造方法)
つぎに、木質柱10の製造方法の一例について説明する。
【0038】
図3(A)に示すように、複数の木製単材14(本実施形態ではスギ)を、図3(B)に示すように、積層して圧締し一体化させて心材部(荷重支持部)12を作製する。なお、圧締とは、接着剤を塗布した被着材に圧力を加えて密着させ、接着剤が充分硬化するのをまって接着を完了する操作である。
【0039】
図4(A)及び図4(B)に示すように、複数の木製単材16(本実施形態ではスギ)を積層して圧締し第一外層部102を作製する。また、複数の木製単材16を両端部に配置し、間に複数の木製単材18(本実施形態ではカラマツ)を積層して圧締し、第二外層部104を作製する。
【0040】
図4(C)に示すように第一外層部102と第二外層部104とを重ねて圧締し、図4(D)に示すように厚みを調整し、図4(E)に示すように、第二外層部104の木製部20に凹部22を形成する。
【0041】
そして、図4(F)に示すように、別途作製したモルタル板112を凹部22に嵌め込みビス50(図2参照)で締結する。
【0042】
つぎに、図5(A)及び図5(B)に示すように、心材部12の外周面12Aにそれぞれ、外層部100をビス60(図2参照)で締結する。このとき、図2に示すように、ビス60の頭部60Aは、第二外層部104の燃止層110よりも外側に位置しないようにする。また、ビス60で締結する際に形成され表面10Aに開口するビス穴64に木栓62を埋めて仕上げる。」
(エ)「【0077】
また、例えば、上記実施形態では、モルタル板112は、第二外層部104にビス50で締結したが、これに限定されない。モルタル板112を心材部12に締結してもよい。或いは、第二外層部104の凹部22に防水加工を施したうえで、モルタル材を流し込んで固化させてもよい。
【0078】
また、例えば、本実施形態では、木製部20には板状のモルタル板112が嵌る溝状の凹部22を形成したが、これに限定されない。例えば、モルタル板112が挿入される孔部であってもよい。つまり、凹部や孔部等のモルタル板112が嵌る嵌部が木製部20に形成されていればよい。また、嵌部に燃止材(例えば、固化する前のモルタル、繊維補強セメント、石膏等)を注入して固化させることで、嵌部に燃止部が嵌った構成としてもよい。」
(オ)図2は以下のとおり。
【図2】
(カ)上記(ア)の記載を踏まえると、上記(オ)の図2から、心材部12の外周に第二外層部104が被覆され、第二外層部104の外周に第一外層部102が被覆され、第一外層部102は外側に表出することが看取される。
(キ)上記(エ)の段落【0077】の記載に照らして、モルタル板112は、上記(ウ)の段落【0041】に記載された第二外層部104の凹部22にビス50で締結することに代えて、凹部22に防水加工を施したうえでモルタル材を流し込んで固化させることにより形成されると認められる。
また、モルタル材の流し込みによりモルタル板112を形成する場合であっても、上記(ウ)の段落【0037】~【0040】及び【0042】の製造工程は同じであると認められる。
以上のことから、木質柱10の製造方法は、心材部12、第一外層部102及び第二外層部104を作製し、第一外層部102と第二外層部104とを重ねて圧締し、第二外層部104の木製部20に凹部22を形成し、凹部22に防水加工を施したうえでモルタル材を流し込んで固化させてモルタル板112を形成し、心材部12の外周面12Aにそれぞれ、外層部100をビス60で締結するものであるといえる。
イ 上記アからみて、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
「荷重を支持する心材部12と、心材部12の外側に設けられた外層部100と、を備え、
外層部100は、燃代層120の外側部分122を構成する第一外層部102と、燃代層120の内側部分124と燃止層110とを構成する第二外層部104と、が接合されて構成され、
第一外層部102は、板状の複数の木製単材16で構成され、
第二外層部104は、板状の複数の木製単材18で構成された木製部20と、木製部20に形成された凹部22に設けられたモルタル板112と、で構成され、
木製単材18は、第一外層部102を構成する木製単材16よりも、熱慣性が高い木材で形成され、
モルタル板112は、燃止部材(高熱容量部)であり、
心材部12の外周に第二外層部104が被覆され、第二外層部104の外周に第一外層部102が被覆され、第一外層部102は外側に表出し、
製造方法として、
心材部12、第一外層部102及び第二外層部104を作製し、
第一外層部102と第二外層部104とを重ねて圧締し、第二外層部104の木製部20に凹部22を形成し、
凹部22に防水加工を施したうえでモルタル材を流し込んで固化させてモルタル板112を形成し、
心材部12の外周面12Aにそれぞれ、外層部100をビス60で締結するものである、
木質柱10。」
(2)甲2
ア 甲2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0017】
本発明の好ましい一実施形態に係る木製独立柱10は、図1(a)、(b)に示すように、例えば木造の住宅建築物の玄関ポーチ部11の張出し屋根11を支持する柱として、住宅建築物の外部に設けられ、玄関ポーチ部11に木製柱の木質感による意匠上のアクセントを与えるものである。また、本実施形態の木製独立柱10は、建物の外部に設けられて紫外線や風雨にされることによる劣化を効果的に抑制する機能を備えると共に、木製柱としての美観を長期間保持できる機能を備えており、且つ例えば省令準耐火構造の建築物としての十分な耐火性能を有する構造を備えている。
【0018】
そして、本実施形態の木製独立柱10は、建物(住宅建築物)の外部の玄関ポーチ部11に取り付けて用いる木製ポーチ柱10であって、図2及び図3にも示すように、上方からの荷重を支持する角形断面を有する構造柱12と、構造柱12の4側面12aを外側から覆って各々取り付けられる木製の板材である4枚の木製化粧板13とからなる。木製化粧板13は、構造柱12の各側面12aに上下方向に所定の間隔をおいて取り付けられた複数の被係止金物14に、当該木製化粧板13の背面13aに上下方向に被係止金物14と同様の間隔をおいて取り付けられた複数の係止金物15を、当該木製化粧板13を前記構造柱12に沿ってスライド移動させることで上方から各々係止することによって構造柱12の各側面12aに各々取り付けられるようになっている(図3参照)。木製化粧板13は、各々背面13aの両側縁部に沿ってL字形に切り欠いた噛み合せ切欠き13bを備えており(図2参照)、木製ポーチ柱10の各角部10bにおいて、隣接する一対の木製化粧板13の噛み合せ切欠き13b同士を隙間16を保持して噛み合わせることで、4枚の木製化粧板13が、順序を問わずに着脱可能な状態で、且つ拘束を緩めた状態で、構造柱12との間に通気空間17を保持してこれの全周を覆って一体として取り付けられている。
【0019】
また、本実施形態では、構造柱12の各側面12aを覆って耐火被覆材18が取り付けられており、被係止金物14は、この耐火被覆材18の外側に取り付けられている。」
(イ)「【0022】
そして、本実施形態では、構造柱12の外周面における、下端の柱受け金物19の鋼製箱体部19cと上端の張出し屋根11aの梁部材11cとの間に挟まれる部分には、図2に示すように、4方の側面12aを連続して覆うようにして、耐火被覆材18が取り付けられている。耐火被覆材18としては、ケイ酸カルシウム板、木片セメント板、ALC板、窒業系サイディング、モルタル、合板等を用いることができる。また、耐火被覆材18の厚さを薄くしたい場合には、好ましくは1.0~10mm程度の厚さの、公知の各種の熱膨張性耐火シートや発泡系耐火シートを用いることができる。より好ましくは、例えばWO2006/82645号公報に記載の発泡系耐火シートや、特許第3707530号公報に記載の発泡系耐火塗料を用いることができる。
【0023】
これらの耐火被覆材18は、例えば構造柱12に向けて200mm程度のピッチで釘やビスを打込む等、公知の各種の方法を用いて、構造柱12の外周面を連続して覆った状態で取り付けることができる。構造柱12の各側面12aを覆って耐火被覆材18が取り付けられていることにより、木製ポーチ柱10を、例えば175mm角以上の大断面材とすることなく、相当の耐火性能を備える木製柱とすることが可能になる。
【0024】
また、本実施形態では、構造柱12の各側面12aを覆って透湿防水シート20が取り付けられており、被係止金物14は、この透湿防水シート20の外側に取り付けられている。すなわち、透湿防水シート20は、構造柱12の各側面12aを覆って取り付けられた耐火被覆材18を、外側からさらに被覆して取り付けられることにより、構造柱12の各側面12aを覆って配設されることになる。
【0025】
ここで、透湿防水シート20としては、例えばポリエチレンやポリプロピレン等からなる、公知の各種の透湿防水シートを用いることができる。透湿防水シート20は、タッカーや粘着テープ等によって、耐火被覆材18の外側に連続した状態で容易に取り付けることができる。構造柱12の各側面12aを覆って透湿防水シート20が取り付けられていることにより、耐火被覆材18や構造柱12への雨水等による水の浸入を効果的に防いで、木製ポーチ柱10の耐久性をさらに向上させることが可能になる。」
(ウ)図2は以下のとおり。
【図2】
イ 上記アからみて、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認める。
「上方からの荷重を支持する角形断面を有する構造柱12と、構造柱12の4側面12aを外側から覆って各々取り付けられる木製の板材である4枚の木製化粧板13とからなり、
構造柱12の各側面12aを覆って耐火被覆材18が取り付けられており、
耐火被覆材18としては、ケイ酸カルシウム板、木片セメント板、ALC板、窒業系サイディング、モルタル、合板等を用いることができ、
耐火被覆材18は、例えば構造柱12に向けて200mm程度のピッチで釘やビスを打込む等、公知の各種の方法を用いて、構造柱12の外周面を連続して覆った状態で取り付けることができ、
構造柱12の各側面12aを覆って透湿防水シート20が取り付けられており、
透湿防水シート20は、構造柱12の各側面12aを覆って取り付けられた耐火被覆材18を、外側からさらに被覆して取り付けられることにより、構造柱12の各側面12aを覆って配設される、
省令準耐火構造の建築物としての十分な耐火性能を有する構造を備えている、木製独立柱10。」
(3)甲3
ア 甲3には、以下の事項が記載されている。
(ア)「Q木の柱の表面処理について
玄関の外の柱が長年雨や外気により結構黒くなっていたので、サンダーで表面を削り、新品のようになりました。
で、ここから表面に何かぬらないと駄目でしょうか?塗ってしまうと、木の耐久性は悪くなるのかよくなるのかどちらでしょうか?
なお、塗るものは透明のものを考えています。また、直接雨にさらされることはありませんが、はねた雨が柱につくことはあります。
補足
参考になりました、有難うございます。
質問日時:2011/4/10 00:56:37 解決済み 解決日時:2011/4/24 12:42:50」
(イ)「ベストアンサーに選ばれた回答
A 回答日時:2011/4/10 10:19:55
先の回答者さんの言う通り、雨に濡れても大丈夫で透明な塗料は有りません。
定番のニスですが厳密に言うと透明ではありません
しかも風雨に掛かる所は長持ちしません
直接雨に掛からないと有りますが台風とか横殴りの雨も有りますから
ニス等はお勧め出来ません
外部の木部と成りますとガードラックとかキシラデコール等をお勧めします
外部の場合、日に焼けますので透明にこだわらなくても良い様に思います
勿論、塗装する事を勧めます。
白木のままですと水分が浸透しますので腐りが早く成ります。」
(ウ)上記(ア)のとおり、解決日時として「2011/4/24 12:42:50」と記載されていることからみて、甲3は少なくとも本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものと認められる。
イ 上記アからみて、甲3には、次の技術事項(以下「甲3技術事項」という。)が記載されているものと認める。
「木の柱の表面処理において、
白木のままだと水分が浸透して腐りが早くなるため、ガードラックやキシラデコール等を塗装する点。」
5 当審の判断
(1)甲1発明を主とした検討
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「荷重を支持する心材部12」は、本件発明1の「荷重支持部」に相当する。
(イ)甲1発明の「第二外層部104」は、「板状の複数の木製単材18で構成された木製部20と、木製部20に形成された凹部22に嵌め込まれビス50によって締結されたモルタル板112と、で構成され」るものであって、「木製単材18」は「第一外層部102を構成する木製単材16よりも、熱慣性が高い木材で形成され」ており、「モルタル板112」は「燃止部材(高熱容量部)であ」ることから、当該「第二外層部104」は、甲1発明の「木質柱10」における耐火機能を担う材料で形成された耐火層であるといえる。また、当該「第二外層部104」は、「心材部12の外周に」「被覆され」るものである。
したがって、甲1発明の「第二外層部104」は、本件発明1の「前記荷重支持部の周囲に被覆された耐火被覆層」に相当する。
(ウ)甲1発明の「第一外層部102」は、「第二外層部104の外周に」「被覆され」て「外側に表出し」ており、「板状の複数の木製単材16で構成され」るものであるから、本件発明1の「前記耐火被覆層の外側に周設された仕上げ木材層」に相当する。
(エ)甲1発明の「第二外層部104」を構成している「モルタル板112」が「モルタル材を流し込んで固化させ」るものであることと、本件発明1の「前記耐火被覆層が湿式耐火被覆材からな」ることとは、「耐火被覆層が湿式耐火被覆材を含む」点で共通する。
(オ)甲1発明の「モルタル材を流し込んで固化させ」る際に「凹部22に防水加工を施し」ていることは、技術常識に照らして、モルタル材に由来する水分の浸透を防ぐ層を凹部22に設けることを意味するのは明らかであるから、本件発明1の「水分遮断層が形成されている」ことに相当する。
(カ)甲1発明の「木質柱10」は、木質部材であるととともに上記(イ)のとおり耐火機能を担う材料で形成された耐火層を有しているから、本件発明1の「木質耐火部材」に相当する。
(キ)以上のことから、本件発明1と甲1発明は、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
(一致点)
「荷重支持部と、前記荷重支持部の周囲に被覆された耐火被覆層と、前記耐火被覆層の外側に周設された仕上げ木材層と、を備える木質耐火部材であって、
前記耐火被覆層が湿式耐火被覆材を含み、
水分遮断層が形成されている、木質耐火部材。」
(相違点1-1)
水分遮断層について、本件発明1では、荷重支持部と耐火被覆層との間、及び、耐火被覆層と仕上げ木材層との間に形成されるとともに、水分遮断塗膜又は水分遮断シートからなることが特定されているのに対し、甲1発明では、第二外層部104(耐火被覆層)の木製部20に形成した凹部22に形成されているものの、心材部12(荷重支持部)と第二外層部104(耐火被覆層)との間に形成されることや、水分遮断塗膜又は水分遮断シートからなることは特定されていない点。
(相違点1-2)
耐火被覆層について、本件発明1では、湿式耐火被覆材からなることが特定されているのに対し、甲1発明では、湿式耐火被覆材であるモルタル材を流し込んで固化させるモルタル板112のみならず、木質部20を有している点。
イ 判断
(ア)上記相違点について検討する。
a 事案に鑑み、まず、甲1発明において、相違点1-1のうち、水分遮断層を心材部12(荷重支持部)と第二外層部104(耐火被覆層)との間に形成する構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるといえるか否かについて検討する。
(a)心材部12と第二外層部104のうちのモルタル板112との間に防水加工を形成することについて
甲1発明は、「製造方法として、」「第二外層部104の木製部20に凹部22を形成し、凹部22に防水加工を施したうえでモルタル材を流し込んで固化させてモルタル板112を形成し、心材部12の外周面12Aにそれぞれ、外層部100をビス60で締結する」ものである。
そうすると、甲1発明は、「モルタル材を流し込」む時点では、心材部12と、外層部100を構成する第二外層部104との締結はなされていないのであって、心材部12とモルタル板112との間にあたる部位に防水加工が施されるものではない。また、当該防水加工は、モルタル材を流し込む際の前処理であることは明らかであるから、甲1発明において、流し込んだモルタル材が固化して「モルタル板112」の状態となった後の時点(例えば、心材部12と締結する時点)に、心材部12とモルタル板112との間にあたる部位にも当該防水加工を施すことに、動機付けがあるとはいえない。
なお、甲1には、木製部20において、凹部22に換えて孔部を設け、当該孔部に燃止材を注入して固化させることも記載されている(上記4(1)ア(エ)の段落【0078】参照。)。しかしながら、上記孔部による実施態様において孔部に防水加工を施すことは明示されていないし、仮に孔部の内面に防水加工を施すとしても、凹部22に換えて孔部を設けた場合に孔部は木製部20に包囲される態様になることは明らかであるから、防水加工は全て木製部20と燃止材との間に位置しており、心材部12と燃止材との間に位置するものとはいえない。
(b)心材部12と第二外層部104のうちの木製部20との間に防水加工を形成することについて
心材部12と木製部20との間にあたる部位は、モルタル材を流し込む凹部22と関係しない部位であるから、当該部位に対して防水加工を施すことに、動機付けがあるとはいえない。
(c)上記(a)及び(b)のとおりであるから、甲1発明において、心材部12とモルタル板112又は木製部20との間に水分遮断層を設けて、上記ア(キ)の相違点1-1のうち、水分遮断層を荷重支持部と耐火被覆層との間に形成する構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
b 仮に、甲1発明において、外層部100を締結する前の心材部12の周面に水分遮断層を設けることを当業者が容易になし得たとすると、当該締結後の木質柱10は、心材部12(荷重支持部)と第二外層部104(耐火被覆層)との間に水分遮断層が位置することとなるため、この場合についても検討しておく。
甲3技術事項に照らして、木の柱の表面処理において、水分の浸透を防ぐ防水剤を塗装することは、周知の技術であると認められる(以下「周知技術1」という。)。
しかしながら、甲1発明の木質柱10において、心材部12の周面は、第二外層部104及び第一外層部102で被覆されており、外部に露出する面となるものではないから、上記周知技術1が存在するとしても、甲1発明において、他の部材で被覆される心材部12の周面にまでも水分遮断層を設けることに、動機付けがあるとはいえない。
よって、上記周知技術1が存在するとしても、甲1発明において、心材部12の周面に水分遮断層を設けて、上記ア(キ)の相違点1-1のうち、水分遮断層を荷重支持部と耐火被覆層との間に形成する構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 上記a及びbの検討について、甲2発明を併せみても同様である。
d したがって、甲1発明、又は、甲1発明及び周知技術1に基づき、上記ア(キ)の相違点1-1のうち、水分遮断層を荷重支持部と耐火被覆層との間に形成する構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(イ)上記(ア)のとおりであるから、相違点1-1のその余の点及び相違点1-2について検討するまでもなく、甲1発明において、相違点1-1及び1-2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。また、甲1発明において、周知技術1を適用して、相違点1-1及び1-2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、「甲1発明における「心材部12」は、本件特許発明1(当審注:本決定における「本件発明1」を指す。以下同様。)における「荷重支持部」に相当し、同様に「モルタル板112」は「耐火被覆層」に、「木製部20(第二外層部104の一部)と第一外層部102」は「仕上げ木材層」に、「固化する前のモルタル、繊維補強セメント、石膏等」は「湿式耐火被覆材」に、「防水加工」は「水分遮断層」に、相当する。」(申立書第7頁下から11行~下から7行)としたうえで、甲1発明の凹部22の防水加工について「本件特許発明1のEの「前記耐火被覆層と前記仕上げ木材層との間に、水分遮断塗膜または水分遮断シートからなる水分遮断層が形成されていること」に相当する。」(申立書第7頁下から2行~第8頁第1行)旨を主張している。
申立人の上記主張は、甲1発明の「木製部20」は本件発明1の「仕上げ木材層」に相当するから、木製部20の凹部22における防水加工は、モルタル板112(耐火被覆層)と木製部20(仕上げ木材層)との間に位置し、本件発明1と甲1発明は「前記耐火被覆層と前記仕上げ木材層との間に、水分遮断塗膜または水分遮断シートからなる水分遮断層が形成されていること」で一致していると解したものであって、本件発明1と甲1発明とは上記ア(キ)での認定とは異なる一致点及び相違点を有することを前提とした主張であると認められる。
しかしながら、上記ア(イ)のとおり、甲1発明の「木製部20」は、熱慣性が高い木材で形成されており、その材料特性に鑑みて、仕上げ木材ではなく、耐火機能を担う耐火被覆層に属すると解すべきであるから、本件発明1の「仕上げ木材層」に相当するとはいえず、当該相当関係を前提とする上記主張は採用できない。
また、申立人の上記主張は、水分遮断層を荷重支持部と耐火被覆層との間に設けることに関する上記(ア)の検討を左右するものではないから、上記主張を採用したとしても、甲1発明において、相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(2)甲2発明を主とした検討
ア 対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
(ア)甲2発明の「上方からの荷重を支持する角形断面を有する構造柱12」、「構造柱12の各側面12aを覆って」「取り付けられ」る「耐火被覆材18」、「構造柱12の4側面12aを外側から覆って各々取り付けられる木製の板材である4枚の木製化粧板13」は、それぞれ本件発明1の「荷重支持部」、「前記荷重支持部の周囲に被覆された耐火被覆層」、「前記耐火被覆層の外側に周設された仕上げ木材層」に相当する。
(イ)本件発明1の「前記耐火被覆層が湿式耐火被覆材からな」ることと、甲2発明の「耐火被覆材18としては、ケイ酸カルシウム板、木片セメント板、ALC板、窒業系サイディング、モルタル、合板等を用いることができ」ることとを対比する。
まず、本件発明1の「湿式耐火被覆材」について、本件特許明細書には、「木造柱を吹き付け方式による湿式耐火材で覆う場合、板材同士の目地部分については隙間なく覆うことは可能である反面、木材側に湿式耐火材に含まれる水分が浸透していくと、木材腐朽の原因になるとともに、構造性能が低下する」(段落【0002】)という課題のもと、「本明細書でいう湿式耐火被覆材とは、ロックウールとセメント、水を主成分とする吹付けロックウール、または白セメント、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムを主成分とする吹付けセラミック系耐火被覆材である」(段落【0011】)こと、「湿式耐火被覆材は、水分量が40%程と一般的な木質部材よりも大きい。木質部材の含水率は、例えば、桧の柱の含水率は18%前後、桧フローリング材で15%前後、杉の柱で20~30%、杉フローリング材で15~22%程度である」(段落【0014】)ことが記載されている。
よって、上記事項に照らして、本件発明1の「湿式耐火被覆材」とは、吹き付け方式により施工された、水分量が40%程と一般的な木質部材よりも大きい耐火被覆材を指すといえる。
これに対して、甲2発明の「耐火被覆材18」は、「ケイ酸カルシウム板、木片セメント板、ALC板、窒業系サイディング、モルタル、合板等を用いることができ」るものであり、「モルタル」を用いることも示唆されているものの、構造柱12への取り付けに「釘やビスを打込む等、公知の各種の方法」を用いるものであって、吹き付け方式による施工によるものとは認められないし、本件発明1の上記課題や記載事項に示唆されるような水分量を有する耐火被覆材であるものといえる事情も認められない。
したがって、甲2発明の「ケイ酸カルシウム板、木片セメント板、ALC板、窒業系サイディング、モルタル、合板等を用いることができ」る「耐火被覆材18」は、「モルタル」である場合も含め、本件発明1の「湿式耐火被覆材からな」るものに相当するとまではいえない。
(ウ)甲2発明の「透湿防水シート20」が「耐火被覆材18を、外側からさらに被覆して取り付けられる」ものであることは、一応、本件発明1の「水分遮断層」が「前記耐火被覆層と前記仕上げ木材層との間に」「形成されている」ことに相当し得るものの、当該「透湿防水シート20」は湿気を積極的に透過させるものであると認められるから、その特性からみて本件発明1の「水分遮断層」に相当するとまではいえない。
(エ)甲2発明の「省令準耐火構造の建築物としての十分な耐火性能を有する構造を備えている、木製独立柱10」であることは、本件発明1の「木質耐火部材」であることに相当する。
(オ)以上のことから、本件発明1と甲2発明は、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
(一致点)
「荷重支持部と、前記荷重支持部の周囲に被覆された耐火被覆層と、前記耐火被覆層の外側に周設された仕上げ木材層と、を備える木質耐火部材。」
(相違点2)
耐火被覆層について、本件発明1では、湿式耐火被覆材からなることが特定されており、また、荷重支持部と耐火被覆層との間、及び、耐火被覆層と仕上げ木材層との間に、水分遮断塗膜又は水分遮断シートからなる水分遮断層が形成されているのに対し、甲2発明では、そのように特定されていない点。
イ 判断
(ア)上記相違点2について検討する。
a 甲2発明において、構造柱12の周面に水分遮断層を設けることを当業者が容易になし得たとすると、木製独立柱10は、構造柱12(荷重支持部)と耐火被覆材18(耐火被覆層)との間に水分遮断層が位置することとなるため、この場合について検討する。
上記(1)イ(ア)bのとおり、甲3技術事項に照らして、木の柱の表面処理において、水分の浸透を防ぐ防水剤を塗装することは、周知の技術(周知技術1)であると認められる。
しかしながら、甲2発明の木製独立柱10において、構造柱12の周面は、耐火被覆材18及び木製化粧板13で被覆されており、外部に露出する面となるものではないから、上記周知技術1が存在するとしても、甲2発明において、他の部材で被覆される構造柱12の周面にまでも水分遮断層を設けることに、動機付けがあるとはいえない。
よって、上記周知技術1が存在するとしても、甲2発明において、構造柱12の周面に水分遮断層を設けて、上記ア(オ)の相違点2のうち、水分遮断層を荷重支持部と耐火被覆層との間に形成する構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
b 上記aの検討について、甲1発明を併せみても同様である。
c 上記ア(イ)及び(ウ)について、仮に、甲2発明の「耐火被覆材18」としての「モルタル」は湿式の耐火被覆材であるとともに、甲2発明の「透湿防水シート20」は本件発明1の「前記耐火被覆層と前記仕上げ木材層との間に」「形成されている」「水分遮断層」に相当するとしても、上記ア(オ)の相違点2のうち、荷重支持部と耐火被覆層との間に水分遮断層を形成する点は依然として相違点として存在し、当該点に係る上記a及びbの検討を左右するものではない。
d 上記a~cのとおりであるから、相違点2のその余の点について検討するまでもなく、甲2発明において、周知技術1を適用して、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700583