特許異議申立
2019-700002
ビジネスシャツ用編地
- 審判番号
- 2019-700002
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-181926
- 登録番号
- 特許第6360532号(P6360532)
- 請求日
- 2019年01月07日
- 審決日
- 2019年07月23日
- 公報発行日
- 2019年10月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東洋紡STC株式会社
- 【権利者代理人】風早 信昭
- 【権利者代理人】浅野 典子
- 【異議申立人】櫻井 芳晴
- 【異議申立人代理人】奥村 茂樹
- 審判長/審判官
- 審判長 久保 克彦
- 審判官 横溝 顕範
- 審判官 高山 芳之
- 分類
- P1651.113-YAA(D04B) / P1651.121-YAA(D04B) / P1651.537-YAA(D04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第113条、特許法第113条第4号、特許法第126条第5項、特許法第29条、特許法第126条第4項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6360532号発明「ビジネスシャツ用編地」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6360532号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕についての訂正を認める。
特許第6360532号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
特許第6360532号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成28年9月16日を出願日とする特許出願であって、平成30年6月29日に特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:同年7月18日)がされたものであって、その後の主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年1月7日:特許異議申立人櫻井芳晴(以下「申立人」と
いう。)による本件特許の請求項1~5に係る特許
に対する特許異議の申立て
平成31年3月25日付け:取消理由通知
令和元年5月17日:特許権者による意見書の提出及び訂正請求
(当該訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)
令和元年6月21日:申立人による意見書(以下「申立人意見書」という)
の提出
第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「【請求項1】
編地基本組織がニットループ数に対するウエルト数の比率を0.80~1.10とした柄組織からなるシングル編地であり、コース密度が40~100個/2.54cm、ウェール密度が30~80個/2.54cmであり、且つタテ方向の伸長率(EMT)が3~25%、ヨコ方向の伸長率(EMT)が8~40%であることを特徴とするビジネスシャツ用編地。」
とあるのを、
「【請求項1】
柄組織からなるシングル編地であって、一つの柄組織を形成する編地基本組織における全てのニットループ数に対する全てのウエルト数の比率が0.80~1.10であり、コース密度が40~100個/2.54cm、ウェール密度が30~80個/2.54cmであり、且つタテ方向の伸長率(EMT)が3~25%、ヨコ方向の伸長率(EMT)が8~40%であることを特徴とするビジネスシャツ用編地。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0009】に、
「【0009】
即ち、本発明は以下の(1)~(5)の構成を有するものである。
(1)編地基本組織がニットループ数に対するウエルト数の比率を0.80~1.10とした柄組織からなるシングル編地であり、コース密度が40~100個/2.54cm、ウェール密度が30~80個/2.54cmであり、且つタテ方向の伸長率(EMT)が3~25%、ヨコ方向の伸長率(EMT)が8~40%であることを特徴とするビジネスシャツ用編地。
(2)単糸繊度が3~12dtex、総繊度が30~120dtexであるポリエステル長繊維を3~25重量%含むことを特徴とする(1)に記載のビジネスシャツ用編地。
(3)地部が白色金属酸化物を0.6~5.0重量%含むポリエステル繊維からなり、柄部が白色金属酸化物を0~0.5重量%含むポリエステル繊維からなることを特徴とする(1)又は(2)に記載のビジネスシャツ用編地。
(4)地部が白色金属酸化物を0.6~5.0重量%含むポリエステル繊維からなり、柄部がカチオン染料可染性ポリエステル繊維からなることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のビジネスシャツ用編地。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載のビジネスシャツ用編地を身頃に使用していることを特徴とするビジネスシャツ。」
とあるのを、
「【0009】
即ち、本発明は以下の(1)~(5)の構成を有するものである。
(1)柄組織からなるシングル編地であって、一つの柄組織を形成する編地基本組織における全てのニットループ数に対する全てのウエルト数の比率が0.80~1.10であり、コース密度が40~100個/2.54cm、ウェール密度が30~80個/2.54cmであり、且つタテ方向の伸長率(EMT)が3~25%、ヨコ方向の伸長率(EMT)が8~40%であることを特徴とするビジネスシャツ用編地。
(2)単糸繊度が3~12dtex、総繊度が30~120dtexであるポリエステル長繊維を3~25重量%含むことを特徴とする(1)に記載のビジネスシャツ用編地。
(3)地部が白色金属酸化物を0.6~5.0重量%含むポリエステル繊維からなり、柄部が白色金属酸化物を0~0.5重量%含むポリエステル繊維からなることを特徴とする(1)又は(2)に記載のビジネスシャツ用編地。
(4)地部が白色金属酸化物を0.6~5.0重量%含むポリエステル繊維からなり、柄部がカチオン染料可染性ポリエステル繊維からなることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のビジネスシャツ用編地。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載のビジネスシャツ用編地を身頃に使用していることを特徴とするビジネスシャツ。」
に訂正する。
2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係るシングル編地が、「柄組織からなるシングル編地であって、一つの柄組織を形成する編地基本組織における全てのニットループ数に対する全てのウエルト数の比率が0.80~1.10」であることを明確にするためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)には、段落【0018】に「目的の柄を形成する例として、組織図でニット-ウエルトの編構造とウエルト比率を示す。図1にビザルカノコ(ウエルト/ニットループ比率=0.8)、図2に千鳥柄(ウエルト/ニットループ比率=0.9)、図3にチェック柄(ウエルト/ニットループ比率=0.26)、図4にドット柄(ウエルト/ニットループ比率=0.89)及び図5にタテストライプ柄(ウエルト/ニットループ比率=1.00)を示す。」と記載され、【図1】~【図5】に、一つの柄組織を形成する編地基本組織における全てのニットループ数に対する全てのウエルト数の比率が記載されていることから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
よって、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の明細書の記載において、各請求項の発明特定事項を記載した箇所である段落【0009】の記載を、本件訂正後の請求項のものに整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。さらに、訂正事項1に係る請求項1~5の全てについて訂正が請求されるものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第4項の規定に適合する。
(3)一群の請求項について
本件訂正は、訂正前の請求項1と、請求項1を直接あるいは間接に引用する請求項2~5について、訂正することを求めるものであるから、特許法第120条の5第4項に規定された一群の請求項毎に請求されるものである。
3.小括
上記2.(1)~(3)に示したとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、本件訂正後の請求項[1~5]についての訂正を認める。
第3.本件特許発明
上記のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1~5は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された、次のとおりのものである。(訂正特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明を、以下「本件訂正発明1」等という。また、本件訂正発明1~5をまとめて「本件訂正発明」ということもある。)
「【請求項1】
柄組織からなるシングル編地であって、一つの柄組織を形成する編地基本組織における全てのニットループ数に対する全てのウエルト数の比率が0.80~1.10であり、コース密度が40~100個/2.54cm、ウェール密度が30~80個/2.54cmであり、且つタテ方向の伸長率(EMT)が3~25%、ヨコ方向の伸長率(EMT)が8~40%であることを特徴とするビジネスシャツ用編地。
【請求項2】
単糸繊度が3~12dtex、総繊度が30~120dtexであるポリエステル長繊維を3~25重量%含むことを特徴とする請求項1に記載のビジネスシャツ用編地。
【請求項3】
地部が白色金属酸化物を0.6~5.0重量%含むポリエステル繊維からなり、柄部が白色金属酸化物を0~0.5重量%含むポリエステル繊維からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のビジネスシャツ用編地。
【請求項4】
地部が白色金属酸化物を0.6~5.0重量%含むポリエステル繊維からなり、柄部がカチオン染料可染性ポリエステル繊維からなることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のビジネスシャツ用編地。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のビジネスシャツ用編地を身頃に使用していることを特徴とするビジネスシャツ。」
第4.取消理由の概要
本件特許の請求項1~5に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した平成31年3月25日付けの取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件発明1は、引用発明1、並びに引用文献2及び3に記載された事項に基いて、本件発明2は、引用発明1、及び引用文献2~4に記載された事項に基いて、本件発明3~5は、引用発明1、並びに引用文献2~4に記載された事項、及び引用文献5に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
< 刊 行 物 一 覧 >
1.特開2013-104158号公報(甲第1号証)
2.特開2001-303403号公報(甲第2号証)
3.特願2016-99791号に係る特許第5994036号が平成28年8月26日に特許権の設定登録されたことにより閲覧可能となった出願書類(記載内容を特許第5994036号公報で参照する)(当審で提示する証拠)
4.特開2015-193940号公報(甲第3号証)
5.特開2006-328590号公報(甲第5号証)
第5.刊行物の記載
1.特開2013-104158号公報(甲第1号証)(以下「引用例1」という)
引用例1には、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】
1インチ当たりのコースの数が50以上150以下であり、編成時にウエルトが含まれるシングル丸編地であって、
シンカーループ面において、ウエルトにより編目間で橋渡し状となる部分の間隔が1編目以上8編目以下である橋渡し部を有し、
目付が100g/m2以上200g/m2以下であり、肌面の吸水速度が3秒以下であり、表面と肌面の吸水拡散面積比が3倍以上であり、かつ拡散性残留水分率が10%以下になるまでの時間が45分以内であること
を特徴とするシングル丸編地。」
(2)「【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のシングル丸編地を用いて縫製したことを特徴とするワイシャツ。」
(3)「【0006】
その一方で、上述したシングル丸編地は、形態安定性に乏しく、ボリューム感が無く、透けやすかった。また、上述したシングル丸編地は、生地の表裏が同一糸種で構成されるため、吸水した水分が生地の表裏で拡散されてしまい、発汗時のべとつき感が高かった。さらに、上述したシングル丸編地は、ハリコシが不足しているため仕立て映えが悪かった。このため、上述したシングル丸編地を、ビジネスシャツやドレスシャツ、カジュアルシャツなどのワイシャツ用の素材として適用することができなかった。」
(4)「【0031】
シングル丸編地1は、1インチ(2.54cm)当たりのコースの数が50以上150以下であることが好ましく、55以上145以下であればより好ましい。1インチ当たりのコースの数が50未満であると、生地が薄くなり、透け感が強くなる他、伸びがなくなる。また、1インチ当たりのコースが150より大きいと、目が詰まりすぎてふかつき感が強くなったり、通気性が低下したりする。
【0032】
シングル丸編地1は、1インチ当たりのウエルが40以上80以下であることが好ましく、45以上75以下であればより好ましい。1インチ当たりのウエルが40以下であると、コースの場合と同様、生地が薄くなり、透け感が強くなる。また、1インチ当たりのウエルが80より大きいと、目が詰まりすぎ、シャツ地に適さないふかつき感が強くなる。」
(5)「【0051】
図3は、以上の構成を有するシングル丸編地1を用いて縫製したワイシャツの構成を示す図である。同図に示すワイシャツ100は、二重編目構造を有するとともに裏糸12の橋渡し形状による空間Aが形成されたシングル丸編地1を用いて縫製されているため、通気性や吸汗速乾性に優れており、薄地で軽量であるとともに、防透け性やハリコシ感がアップしており仕立て映え性にも優れている。したがって、ワイシャツ100は、クールビズ用として好適である。
【0052】
なお、本実施の形態1に係るワイシャツには、図3に示すような形状を有するもの以外にも、例えばドレスシャツやカジュアルシャツなども含まれる。この点は、本発明の全ての実施の形態に共通する事項である。」
(6)「【0061】
(実施の形態3)
図6は、本発明の実施の形態3に係るシングル丸編地の要部の構成を示す編地断面モデル図である。図7は、図6の編地に対応する編方図である。図6および図7に示すシングル丸編地3は、編成時にウェルトが含まれるシングル丸編地であり、表糸31および裏糸32の2種類の構成糸からなる。
【0062】
表糸31は、ニットにより表編目b、c、d、f、g、hを形成し、ウエルトにより表編目a、eでは編目を形成しない。
裏糸32は、ニットにより表編目a、eを形成し、ウエルトにより表編目b、c、d、f、g、hでは編目を形成しない。
【0063】
このような構成を有するシングル丸編地3は、シンカーループ面において、ウェルトにより表編目b、c、d、f、g、hの裏側の編目間を橋渡し状に3編目ずつ飛ばした橋渡し部321を有する。これにより、表編目b、c、d、f、g、hの内側と橋渡し部321との間には、空間Cが形成される。
【0064】
シングル丸編地3が満たすべき各種条件は、実施の形態1に係るシングル丸編地1が満たすべき各種条件(実施の形態1を参照)と同様である。」
(7)「【0069】
(1)ウエル、コース
ウエル、コースは、JISL1096の編物の密度の測定方法に準じて行う。すなわち、試料を平らな台の上に置き、不自然なしわや張力を除いた後、異なる5ヶ所について、1インチ(2.54cm)当たりのウエルとコースの数を数え、それぞれ平均値を算出する。」
(8)【図7】
「
」
(9)上記(1)及び(2)によると、引用例1に記載されたシングル丸編地は、ワイシャツ用である。さらに上記(3)によると、従来のシングル丸編み地は、ハリコシが不足しているため仕立て映えが悪くビジネスシャツやドレスシャツ、カジュアルシャツなどのワイシャツ用の素材として適用することができなかったのに対して、上記(5)によると、引用例1に記載されたシングル丸編地は、ハリコシ感がアップしており仕立て映え性にも優れているためクールビズ用として好適なためワイシャツ用の素材として適用することができるものであるのだから、ワイシャツ用には、ビジネスシャツが含まれる。
(10)上記(6)に記載された実施の形態3の編方図である上記(8)の【図7】によると、シングル丸編地編地3は、ニットループ数が8、ウエルト数が8であるから、ニットループ数に対するウエルト数の比率は1.0である。
(11)上記(6)に記載された実施の形態3の各種条件は、上記(6)の段落【0064】によると実施の形態1と同様であるから、実施の形態1の条件について上記(4)をみると、1インチ当たりのコースの数が50以上150以下であり、1インチ当たりのウエルが40以上80以下である。ここで、ウエルについて「数」と記載されていないが、上記(7)によると「1インチ(2.54cm)当たりのウエルとコースの数を数え」と記載されているから、ウエルの数字は、コースと同様に「数」である。
上記(1)~(11)を総合すると、引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「ニットループ数に対するウエルト数の比率が1.0であり、1インチ当たりのコースの数が50以上150以下、1インチ当たりのウエルの数が40以上80以下である、ビジネスシャツ用のシングル丸編地3。」
2.特開2001-303403号公報(甲第2号証)(以下「引用例2」という)
引用例2には、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】 タテ及びヨコ方向の目付当りの曲げ剛性(B/M)が1.7×10-4以上、伸長率(EMT)が10%以上、曲げ戻り性(2HB)が0.060gfcm/cm以下であることを特徴とするビジネスシャツ用編地。
【請求項2】 目付量が150g/m2以下で、ウェール密度が30ウェール/インチ以上であることを特徴とする請求項1記載のビジネスシャツ用編地。
【請求項3】タテ及びヨコ方向の目付当りの曲げ剛性(B/M)が2.0×10-4以上、伸長率(EMT)が12~50%、曲げ戻り性(2HB)が0.050gfcm/cm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のビジネスシャツ用編地。」
(2)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、吸水速乾性、肌離れ性、ストレッチ性および通気性に優れるという編地の特徴を生かしつつ、織製品に匹敵する張りや腰を有し、快適で優れた着用感と、外観とを有するとともに動き易いビジネスシャツ用編地を提供することにある。」
(3)「【0021】編機の針床における編針の密度(ゲージ)が、1インチ(2.54cm)当り30以上でかつ針床が1列の、いわゆるハイゲージシングルニット編機が採用される。かかる編機を採用することにより、上記目付量およびウェール密度の布帛を適正に編製し得るようになる。」
(4)「【0023】編組織は、特に限定されるものではないが、編地の張り腰を向上させるにはタックを用いてシャンブレ-柄、ドビ-柄(ドビスタ-柄)組織、異色染め効果を出すには交編によるジャガ-ド柄、更にはウエルト・タック編を混在させたコ-ド調柄組織が推奨される。」
(5)上記(3)によると、ハイゲージシングルニット編機によって編製されているから、ビジネスシャツ用編地は、シングル編地である。
(6)上記(4)によると、ビジネスシャツ用編地は、柄組織である。
上記(1)~(6)から、引用例2には次の事項(以下「引用事項2」という。)が記載されている。
「柄組織からなるシングル編地であって、ウェール密度が30ウェール/インチ以上、且つタテ及びヨコの伸長率(EMT)が12~50%である、ビジネスシャツ用編地。」
3.特願2016-99791号に係る特許第5994036号が平成28年8月26日に特許権の設定登録されたことにより閲覧可能となった出願書類(記載内容を特許第5994036号公報で参照する)(以下「引用例3」という)
引用例3には、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】
目付が80~180g/m2であり、コース密度が40~100個/2.54cmであるシングル丸編地からなり、丸編地がヨコボーダー柄を有し、繊度50~180dtexの糸条を用いたウエルト天竺組織が全体面積の50%以上を構成し、タテ方向の伸長率(EMT)が15~40%、ヨコ方向の伸長率(EMT)が10~25%であることを特徴とするビジネスシャツ用編地。
・・・(中略)・・・
【請求項3】
ヨコボーダー柄を形成する組織が天竺組織又はカノコ組織であることを特徴とする請求項1又は2に記載のビジネスシャツ用編地。」
(2)「【0001】
本発明は、ハリ、コシがありながらストレッチ(伸縮)性、通気性、および透け防止に優れたビジネスシャツ用編地に関するものである。」
(3)「【0015】
また、本発明の編地では、タテ方向の伸長率(EMT)が15~40%であることが必要であり、好ましくは16~28%、さらに好ましくは17~25%である。タテ方向(シャツのヨコ方向)の伸長率(EMT)がこの範囲内であると、編地の柔軟性がシャツに活かされて着用快適性が得られる。タテ方向の伸長率(EMT)が上記範囲未満の場合は、着用時の快適性が無くなる。また、タテ方向の伸長率(EMT)が上記範囲を超えると、伸長した後の回復が悪くなりやすくなる。」
上記(1)~(3)から、引用例3には次の事項(以下「引用事項3」という。)が記載されている。
「ヨコボーダー柄を形成する天竺組織又はカノコ組織からなるシングル丸編地であって、コース密度が40~100個/2.54cmであり、タテ方向の伸長率(EMT)が17~25%、ヨコ方向の伸長率(EMT)が10~25%である、ビジネスシャツ用編地。」
第6.当審の判断
1.本件訂正発明1について
(1)対比
本件訂正発明1と引用発明1を対比すると、引用発明1の「シングル丸編地3」は、本件訂正発明1の「シングル編地」に相当し、以下同様に「1インチ当たりのコースの数」は「コース密度」に、「1インチ当たりのウエルの数」は「ウェール密度」に、「ビジネスシャツ用のシングル丸編地」は「ビジネスシャツ用編地」にそれぞれ相当する。
ここで、本件訂正発明1の各数値範囲は「~」で表記されており、上限値、下限値を含む範囲であるのか否かについて訂正特許請求の範囲には記載されていないが、訂正特許明細書の段落【0014】には「タテ方向の伸長率(EMT)が上記範囲を超えると、生地のハリ、コシ感の低下につながるとともに製品の保形性が低下する。タテ方向の伸長率(EMT)が上記範囲未満の場合は、ビジネスシャツの着用に必要な適度な伸度を得ることができず、本発明の目的を達成することが困難となる。」、段落【0019】には「上記範囲未満又は上記範囲を超えると、経緯の伸長率が適正範囲から外れやすく、特にタテ方向の伸長率が高くなり易くなる。」等の記載がある。
そうすると、訂正特許明細書の記載を参酌すれば、本件訂正発明1における各数値範囲の「~」は、上限値、下限値を含む「○○以上、○○以下」を意味することが明らかである。
よって、引用発明1における数値範囲の「以上」、「以下」は、本件発明1の「~」に相当する。
そして、ニットループ数に対するウエルト数の比率について、引用発明1の「1.0」は、本件訂正発明1の「0.80~1.10」の範囲内であり、コース密度について、引用発明1の下限値の「50以上」は、本件訂正発明1の「40~100」の範囲内であり、ウェール密度について、引用発明1の「40以上80以下」は、上限値、下限値共に、本件訂正発明1の「30~80」の範囲内である。
よって、本件訂正発明1と引用発明1は以下の点で一致する。
「ニットループ数に対するウエルト数の比率を1.0としたシングル編地であり、ウェール密度が40~80個/2.54cmであるビジネスシャツ用編地」
そして、本件訂正発明1と引用発明1は、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件訂正発明1は、「柄組織からなるシングル編地」であって、「一つの柄組織を形成する編地基本組織における全ての」ニットループ数に対する「全ての」ウエルト数の比率が「0.80~1.10」であるのに対して、引用発明1は、ニットループ数に対するウエルト数の比率が1.0である構成を備えているものの、一つの柄組織を形成する編地基本組織における全てのニットループ数に対する全てのウエルト数であるのか否か不明である点。
<相違点2>
本件訂正発明1は、コース密度が40~「100」であるのに対して、引用発明1は、コース密度が50以上「150」以下である点。
<相違点3>
本件訂正発明1は、「タテ方向の伸長率(EMT)が3~25%、ヨコ方向の伸長率(EMT)が8~40%」としているのに対して、引用発明1は、伸長率についてタテ、ヨコ共に明記されていない点。
(2)判断
ア.<相違点1>に関して、引用例1の記載をみると、ニットループ数に対するウエルト数の比率が本件訂正発明1の「0.80~1.10」という数値範囲内であるものは、段落【0061】~【0066】、【図6】~【図7】に記載された実施の形態3の1.0のみであって、ニットループ数に対するウエルト数の比率を特定の数値範囲とする旨の記載も示唆もない。
また、引用例1は、<相違点3>に関して、タテ方向の伸長率(EMT)、及びヨコ方向の伸長率(EMT)に関する記載も示唆もない。
イ.一方、本件訂正発明1は、タテ方向及びヨコ方向の伸長率を実現するために、ニットループ数に対するウエルト数の比率を特定している(段落【0017】)ものであるから、「一つの柄組織を形成する編地基本組織における全てのニットループ数に対する全てのウエルト数の比率が0.80~1.10」(以下「発明特定事項A」という)であることと、「タテ方向の伸長率(EMT)が3~25%、ヨコ方向の伸長率(EMT)が8~40%」(以下「発明特定事項C」という)であることは、相互に関連するものである。
さらに、ニットループ数に対するウエルト数の比率を特定の範囲としたときの、コース密度とウェール密度の比率を特定の範囲とすることで、経緯の伸長率を適正範囲とする(段落【0019】)ものであるから、発明特定事項Aと、「コース密度が40~100個/2.54cm、ウェール密度が30~80個/2.54cm」(以下「発明特定事項B」という)であることと、発明特定事項Cは、相互に関連するものである。
ウ.そして、本件訂正発明1は、発明特定事項A~Cが相まって「伸縮性を抑えてビジネスシャツに適度なハリ、コシを発現する」(段落【0017】)、「適度なタテヨコのループ密度に調整することで、上記の編組織とあいまって編地でありながら、適度なハリ・コシを与えることが可能となる。」(段落【0019】)という顕著な効果を発揮するものである。
エ.すなわち、発明特定事項A~Cは、それぞれ別個独立にその数値範囲が設定、調整されるものではなく、相互に関連する一体不可分なものとして、それぞれの数値範囲が設定、調整されるものである。
オ.一方、引用例1~3には、ニットループ数に対するウエルト数の比率と、コース密度及びウェール密度と、タテ方向の伸長率(EMT)及びヨコ方向の伸長率(EMT)それぞれの数値範囲を一体不可分なものとして設定、調整するという技術思想はないし、また、引用例1~3には、そのような技術思想についての記載も示唆もないから、引用発明1において、<相違点1>~<相違点3>に係る構成とするための動機付けがない。
カ.よって、本件訂正発明1は、引用発明1、及び引用事項2、3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
キ.申立人は、「実施の形態3の編方図で編成されるシングル編地もまた、これ単独で衣料品となるもの」(申立人意見書3ページ下から1行~4ページ1行)、「引用文献1の図6及び図7記載のシングル丸編地が、本件発明1の実施例である本件図面の図5の編方図で編成される編地と同様にタテストライプ柄を形成する」(申立人意見書6ページ7~9行)、「特許権者の主張、すなわち、引用文献1記載の実施の形態3で開示されているシングル丸編地は、分厚いものであるとか、伸度の大きいものであるといった主張は、引用文献1記載の実施の形態3の解釈を誤ってなされたもの」(申立人意見書4ページ下から8~5行)と主張する。
しかしながら、上記申立人の主張によっても、ニットループ数に対するウエルト数の比率と、コース密度及びウェール密度と、タテ方向の伸長率(EMT)及びヨコ方向の伸長率(EMT)それぞれの数値範囲を一体不可分なものとして設定、調整するという技術思想が、引用例1~3に記載、ないし示唆されているとは認められない。
2.本件訂正発明2~5について
本件訂正発明2~5は、本件訂正発明1の構成要件を全て含むものであるから、本件訂正発明1と同様に、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。
3.小括
以上のとおり、本件訂正発明1~5は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すことはできない。
第7.取消理由としなかった異議申立理由について
1.上記取消理由として採用しなかった異議申立理由について、念のために検討すると、以下のとおりである。
(1)異議申立理由1(特許法第29条第1項第3号)
本件発明1及び5は、引用例1に記載された発明、すなわち引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1及び5に係る特許は特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)異議申立理由3(特許法第36条第6項第2号)
本件発明1~5は、特許請求の範囲の記載が、以下のア.及びイ.の点で不明確であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。よって、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
ア.本件特許請求の範囲に記載されている「ビジネスシャツ」という用語が、本件発明の詳細な説明中で定義されておらず、不明確である。
イ.本件請求項3及び4に記載されている「地部」及び「柄部」という用語が、本件発明の詳細な説明中で定義されておらず、不明確である。
(3)異議申立理由4(特許法第36条第6項第1号)
本件発明2は、以下の点で特許請求の範囲の記載について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。よって、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
本件発明2の「単糸繊度が3~12dtex、総繊度が30~120dtexであるポリエステル長繊維を3~25重量%含むこと」にかかるポリエステル長繊維を用いた例は、本件発明の詳細な説明の実施例では、単糸繊度が10デシテックスのものが一例しか記載されておらず、総繊度についても110デシテックスのものと56デシテックスのものが二例しか記載されておらず、重量割合についても約8.3重量%のものと約18.2重量%のものが二例しか記載されていない。
したがって、一例又は二例の極めて少ない例に基づいて、単糸繊度を3~12dtexに拡張し、総繊度を30~120dtexに拡張し、その重量割合を3~25重量%に拡張することは、本件発明の詳細な説明に開示された発明の範囲を逸脱している。
2.異議申立理由1(特許法第29条第1項第3号)についての判断
(1)本件訂正発明1について
本件訂正発明1と引用発明1を対比すると、その一致点、相違点は、上記第6.1.(1)で述べたとおりである。
そして、<相違点1>~<相違点3>は、上記第6.1.(2)で述べたとおり、一体不可分なものであるから、<相違点1>~<相違点3>からなる相違点は、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。
よって、本件訂正発明1は、引用発明1であるとはいえないから、本件訂正発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
(2)本件訂正発明5について
本件訂正発明5は、本件訂正発明1の構成要件を全て含むものであるから、本件訂正発明1と同様に、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
(3)小括
以上のとおり、本件訂正発明1及び5は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件訂正特許請求の範囲の請求項1及び5に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すことはできない。
3.異議申立理由3(特許法第36条第6項第2号)についての判断
(1)「ビジネスシャツ」について
ア.訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された用語「ビジネスシャツ」について、服飾に関する一般常識も勘案すれば、「ビジネス」の場で着用されるシャツであり、礼を失することのない程度にフォーマルなシャツであることは、当業者ならずとも容易に理解できるものであるから、不明確であるとはいえない。
イ.さらに、訂正特許明細書を参酌すると、「ビジネスシャツ」について段落【0002】には、「従来のワイシャツ、ドレスシャツ、カジュアルシャツ、ブラウス等のように、主にビジネスシーンで着用されるシャツ」と記載されており、ビジネスシーンで着用されるシャツであることが明らかであるとともに、ワイシャツ、ドレスシャツ、カジュアルシャツ、ブラウス等が例示されている。
ウ.段落【0012】には、「ここでいうビジネスシャツとは、一般のビジネスシーンでも違和感のないシャツであり、例えば会社間の面談においても失礼のないレベルに許容される装いのシャツをいう。シャツの形態としては、例えば衿や前立てがある仕様のものが含まれる。」と記載されており、「ビジネスシャツ」に求められる外観の要件と例が記載されている。
エ.段落【0033】には、「本発明の編地に使用されるビジネスシャツは、ビジネスシーンで使用できる衿付のシャツである。例えば、カッターシャツ、ドレスシャツ、ドレスブラウス、ボタンダウンシャツ、ダンガリーシャツ等が挙げられる。前立ては必ずしもある必要はないが、前立てがある仕様である方がよりフォーマルとなりビジネスシーンに使用しやすい。また、ビジネスシーン用途のみに限定するものではない。」と記載されており、「ビジネスシャツ」に求められる形状の要件と例が記載されている。
オ.してみると、訂正特許明細書には、「ビジネスシャツ」についての定義、外観・形状の要件が記載されているし、例示もされているから、「ビジネスシャツ」がどのようなものであるのかは、当業者が十分に理解できる程度に記載されているといえる。
カ.申立人は、広辞苑(第六版)による「ビジネススーツ」、「ビジネス」に関する解説を根拠として、「ビジネス」は実質的に意味のない用語であるから「ビジネスシャツ」という用語が不明確であると主張している。(特許異議申立書22ページ下から6行~23ページ7行)
しかしながら、上記したように服飾に関する一般常識を勘案すれば、訂正特許請求の範囲の請求項1~5の用語「ビジネスシャツ」がどのようなものか不明確であるとはいえないし、特許明細書にも、上記したように「ビジネスシャツ」についての定義、外観・形状の要件や例が記載されているから、「ビジネスシャツ」、「ビジネス」なる用語が意味するところは、当業者が十分に理解できるものである。
よって、申立人の主張は採用できない。
(2)「地部」、「柄部」について
ア.訂正特許請求の範囲の請求項3の記載によると、「白色金属酸化物を0.6~5.0重量%含むポリエステル繊維」からなる部分が「地部」であり、「白色金属酸化物を0~0.5重量%含むポリエステル繊維」からなる部分が「柄部」とされ、それぞれの組成により区別できるから、いずれが「地部」でいずれが「柄部」であるのか明確でないとまではいえない。
イ.訂正特許請求の範囲の請求項4の記載も同様に、「白色金属酸化物を0.6~5.0重量%含むポリエステル繊維」からなる部分が「地部」であり、「カチオン染料可染性ポリエステル繊維」からなる部分が「柄部」とされ、それぞれ組成と性質により区別されているから、いずれが「地部」でいずれが「柄部」であるのか明確でないとまではいえない。
ウ.してみると、訂正特許請求の範囲の請求項3、4には、「柄部」と「地部」がどのようなものであるのかについて、当業者が十分に理解できる程度に記載されているといえる。
エ.申立人は、広辞苑(第六版)による「チェック」、「ドット」、「ストライプ」に関する解説を根拠としつつ、様々な模様において、いずれが「地部」であり、いずれが「柄部」であるのか不明確であると主張している。(特許異議申立書23ページ下から11行~24ページ14行)
しかしながら、上記したように訂正特許請求の範囲の請求項3、4の記載自体から「地部」、「柄部」は明確である。
よって、申立人の主張は採用できない。
(3)小括
よって、本件訂正発明は、訂正特許請求の範囲の記載が不明確であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえないから、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当せず、取り消すことはできない。
4.異議申立理由4(特許法第36条第6項第1号)についての判断
(1)本件訂正発明が解決すべき課題
訂正特許明細書の記載によれば、本件訂正発明の課題について、次の記載がある。
ビジネスシャツ用の布帛が従来は織物であったところ、通気性、柔軟性、伸縮性に劣ることから、編地で作ることを試みた(訂正特許明細書段落【0002】~【0003】)が、編地をビジネスシャツ用とするには、毛羽の全くないフィラメントと、表面毛羽が多い紡績糸を交編する必要や、短繊維とフィラメントからなる長短複合紡績糸を用いなければならず、表糸と裏糸からなる組織の場合、編地が分厚くなってしまう問題や、天竺編目が多いため、編地の伸度が大きくなって保形性が低下しやすい問題(訂正特許明細書段落【0003】~【0005】)などがあった。
そのため、本件訂正発明は、編物でありながらタテ方向の伸度が制限されており、ビジネスシャツとして適度な伸度と柔らかさ、通気性、保形性を兼ね備えた編地を提供するとともに、薄地編物でありながら透け感が少ないビジネスシャツ用編地を提供すること(訂正特許明細書段落【0007】)を課題とするものである。
そして、訂正特許明細書には、「単糸繊度が3~12dtex、総繊度が30~120dtexであるポリエステル長繊維を3~25重量%含むこと」(段落【0009】)という記載があり、さらに、「本発明では、保形性やハリ、コシをより高めるために、前述の方策に加えて、単糸繊度が3~12dtexの太い繊維を混用することが有効である。より好ましくは5~10dtexである。」、「太い繊維は3~25重量%の割合で編地に混用することが好ましい。」、「この長繊維の総繊度は30~120dtexであることが好ましい。より好ましくは30~115dtexである。」と単糸繊度、総繊度、長繊維含有割合が記載されるとともに、「この太い繊維は非常に曲げ硬いので25重量%を超えると、風合いが硬くなりすぎてゴアゴア感が出て不快になりやすくなる。3重量%未満では、ハリコシを高める効果が少なくなる。」、「上記範囲未満では、ハリ、コシを高める効果が少なく、上記範囲を超えると、風合いが硬くなりすぎるおそれがある。」(段落【0024】)という記載がある。
そうすると、以上の記載から、「単糸繊度が3~12dtex、総繊度が30~120dtexであるポリエステル長繊維を3~25重量%含むこと」は、保形性やハリ、コシをより高めるという上記本件訂正発明の課題を解決することが理解できる。
すなわち、「単糸繊度が3~12dtex、総繊度が30~120dtexであるポリエステル長繊維を3~25重量%含む」訂正特許発明は、ビジネスシャツとしての適度な伸度と柔らかさという本件訂正発明の課題を解決することが理解できる。
したがって、訂正特許請求の範囲の請求項2に係る発明は、訂正特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
(3)申立人の主張
申立人は、実施例として単糸繊度が10デシテックスのものが一例、総繊度についても110デシテックスのものと56デシテックスのものが二例、重量割合について約8.3重量%のものと約18.2重量%のものが二例しか記載されていないから、一例又は二例の極めて少ない例に基づいて、単糸繊度を3~12dtexに、総繊度を30~120dtexに、重量割合を3~25重量%に拡張することは、本件発明の詳細な説明に開示された発明の範囲を逸脱していると主張している。(特許異議申立書24ページ下から5行~26ページ2行)
しかしながら、上記に示したように、訂正特許請求の範囲の請求項2に係る発明は、本件訂正発明の課題を解決するものであるから、訂正特許明細書の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)をみたすものである。
そして、訂正特許明細書は、上記したように訂正特許請求の範囲の請求項2の「単糸繊度が3~12dtex、総繊度が30~120dtexであるポリエステル長繊維を3~25重量%含むこと」という構成によって、本件訂正発明の課題を解決することが理解できるように記載されている。
よって、申立人の主張は採用できない。
(4)小括
したがって、訂正特許請求の範囲の請求項2は、訂正特許明細書の記載から本件訂正発明の課題を解決することが理解できるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。
第8.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件訂正発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件訂正発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700002