特許異議申立
2021-700331
熱可塑性エラストマー組成物
- 審判番号
- 2021-700331
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-157201
- 登録番号
- 6768901
- 請求日
- 2021年04月08日
- 審決日
- 2022年02月28日
- 公報発行日
- 2022年06月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アロン化成株式会社
- 【権利者代理人】細田 芳徳
- 【異議申立人】三菱ケミカル 株式会社
- 【異議申立人代理人】重野 剛
- 【異議申立人】福井 隆一
- 審判長/審判官
- 審判長 杉江 渉
- 審判官 佐藤 健史
- 審判官 土橋 敬介
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.16 -YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6768901号発明「熱可塑性エラストマー組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6768901号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第6768901号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許異議申立の経緯
特許第6768901号(請求項の数4。以下、「本件特許」という。)は、平成27年11月16日の特許出願(特願2015-224223号)の一部を令和1年8月29日に新たな特許出願(特願2019-157201号)としたものであって、令和2年9月25日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年10月14日である。)。
その後、令和3年4月8日に、本件特許の請求項1~4に係る特許に対して、特許異議申立人である三菱ケミカル株式会社(以下、「申立人A」という。)により、特許異議申立書が提出され、また、令和3年4月8日に、本件特許の請求項1~4に係る特許に対して、特許異議申立人である福井隆一(以下、「申立人B」という。)により、特許異議申立書が提出された。
特許異議申立て以降の手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 4月 8日 特許異議申立書(申立人A)
同日 特許異議申立書(申立人B)
同年 8月19日付け 取消理由通知書
同年10月20日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 同月28日付け 通知書(申立人A及びB宛て)
同年11月29日 意見書(申立人A)
同年12月 3日 意見書(申立人B)
2 証拠方法
(1)申立人Aが提出した証拠方法は、以下のとおりである。
ア 特許異議申立書に添付した証拠
・甲第1号証 特開平10-130451号公報
・甲第2号証 特開2016-6159号公報(特願2015-59678号)
・甲第3号証 特開2006-36812号公報
・甲第4号証 特開2014-205781号公報
・甲第5号証 特開平1-193352号公報
・甲第6号証 特開2001-207037号公報
・参考文献1 西原康浩著、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの最近の技術動向、日本ゴム協会誌、2003年、第76巻、第8号、第299~303頁
・参考文献2 熱可塑性エラストマー、化学工業日報社、1991年2月15日 初版第1刷発行、第185~194頁
・参考文献3 Junji MAYUMI 外5名著、Material Design and Manufacture of a New Thermoplastic Polyester Elastomer、The Society of Polymer Science,Japan、Polymer Journal Vol.40 No.1(2008年) 第1~9頁
・参考資料4 真弓順次 外4名著、新規ポリエステル系熱可塑性エラストマーの材料設計とその工業化、Polymer Preprints,Japan(2007)Vol.56 No.1 第58~60頁
・参考資料5 高橋英樹著、ポリエステル系エラストマー「プリマロイ」の技術開発、JETI(2002)Vol.50 No.12 第106~107頁
・参考資料6 高橋英樹著、ポリエステル系エラストマー、工業調査会、平成13年3月1日発行、プラスチックス(2001年)Vol.52 No.3 第76~80頁
・実験成績証明書1 盛弘之著 令和3年4月1日
・実験成績証明書2 盛弘之著 令和3年4月1日
(以下、「甲第1号証」~「甲第6号証」を「甲1A」~「甲6A」といい、上記「参考文献1」~「参考文献6」を「参1-1A」~「参6-1A」という。)
なお、申立人Aは、下記「第4 2(1)ウ」で示したように、甲2Aを申立理由3A(拡大先願)の証拠として提出しているところ、甲2Aは特開2016-6159号公報であるので、申立人Aが提出した証拠方法は、上記のように記載した。
イ 令和3年11月29日に提出した意見書に添付した証拠
・参考文献1 Ryohei TAKAHASHI 外6名著、Rheology of Polystyrene-block-poly[ethylene-co-(ethylene-propylene)]-block-polystyrene Tri-block Copolymer/Paraffinic Oil Blends -Effect of Oil Molecular Weight on the Order-Disorder Transition-、Nihon Reoroji Gakkaishi 2012年 Vol.40 No.4、第171~177頁、
・参考文献2 西岡昭博著、高分子の伸張レオロジー、京都大学化学研究所 共同利用・共同研究拠点 化学関連分野の深化・連携を基軸とする先端・学際研究拠点 平成22年度成果報告書、第114~115頁
(以下、上記「参考文献1」~「参考文献2」を「参1-2A」~「参2-2A」という。)
(2)申立人Bが提出した証拠方法は、以下のとおりである。
ア 特許異議申立書に添付した証拠
・甲第1号証 特開平1-193352号公報
・甲第2号証 株式会社 日東分析センター 分析結果報告書 2021年3月25日
・参考資料1 特願2015-224223号に関する平成30年11月16日付の拒絶理由通知書
・参考資料2 特願2015-224223号に関する令和1年6月17日付の拒絶査定
・参考資料3 特開2001-279067号公報
・参考資料4 三橋健八著、加硫ゴムの物理試験法 新JISのポイントとISO規格との対比、日本ゴム協会誌(1995)第68巻 第1号 第47~60頁
・参考資料5 株式会社テクロック デュロメータ/IRHD硬さ計のパンフレット 第96~108頁
・参考資料6 山名吉浩著、新規ブロック化エラストマー「TU-ポリマー」、JETI(2002)Vol.50 No.12 第90~92頁、株式会社ジェティ、平成14年11月1日発行
・参考資料7 特開平11-323073号公報
・参考資料8 特開2004-155824号公報
・参考資料9 特開2004-346109号公報
(以下、「甲第1号証」~「甲第2号証」を「甲1B」~「甲2B」といい、「参考資料1」~「参考資料9」を「参1-1B」~「参9-1B」という。)
イ 令和3年12月3日に提出した意見書に添付した証拠
・参考資料1 井手文雄著 実用ポリマーアロイ設計、株式会社工業調査会 1996年9月1日初版第1刷発行、第16~21頁
・参考資料2 堀田巌著、新規ビニルエーテル系ポリオール、日本接着学会誌 2004年 Vol.40 No.6、第275~277頁
・参考資料3 中村賢一著 粘着剤ベースポリマーとタッキファイヤーの混和性評価、東亞合成グループ研究年報 第16号 2013年、第24~30頁
(以下、「参考資料1」~「参考資料3」を「参1-2B」~「参3-2B」という。)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に「前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを20~200質量部、」とあるのを、「前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50~150質量部、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200~300質量部含み、」に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項1に「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを60~200質量部含み」とあるのを、「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120~200質量部含み」に訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の明細書の段落【0007】に「本発明は、・・・(略)・・・に関する。」とあるのを、「本発明は、
〔1〕 熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、
前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10~50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000~500,000のスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体であり、
前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30~500mm2/sであり、
前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90~30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み、
前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50~150質量部、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200~300質量部含み、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120~200質量部含み、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する、熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)、
〔2〕 前記〔1〕記載の熱可塑性エラストマー組成物が極性樹脂に融着してなる、複合成形体
に関する。」に訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の明細書の段落【0093】に記載の「実施例1~12及び比較例1~6(実施例9は参考例である)」を、「実施例1~12及び比較例1~6(実施例3~6、8、及び9は参考例である)」に訂正する。
(5)明細書の訂正に係る請求項について
訂正事項3~4は、訂正前の請求項1~4に関連して請求されたものである。
(6)一群の請求項
訂正事項1~4に係る訂正前の請求項1~4について、請求項2~4はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。
2 判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における熱可塑性スチレン系エラストマーA100質量部に対する軟化剤Bの配合量について、「20~200質量部」とあるのを「50~150質量部」と限定し、また、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量を「熱可塑性スチレン系エラストマーA100質量部に対して、」「200~300質量部含み」と限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について
訂正前の明細書の段落【0023】には、「軟化剤Bの含有量は、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、・・・より好ましくは50質量部以上であり、・・・より好ましくは150質量部以下である。」と記載され、また、同【0030】には、「熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの含有量は、・・・さらに好ましくは200質量部以上であり、・・・さらに好ましくは300質量部以下・・・である。」と記載されているから、訂正事項1による訂正は訂正前の明細書の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項1における熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量について、「60~200質量部」とあるのを「120~200質量部」と限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について
訂正前の明細書の【0030】には、「熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの含有量は、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対して、・・・より好ましくは120質量部以上であり、」と記載されているから、訂正事項2による訂正は訂正前の明細書の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3による訂正は、訂正事項1及び2により訂正された特許請求の範囲の記載内容を整合させるために、明細書の段落【0007】の記載を訂正後の請求項1と同様に訂正するものであるから明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について
上記(1)及び(2)で述べたように、訂正事項1及び2による訂正は訂正前の明細書の記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかであるから、訂正事項3による訂正も訂正前の明細書の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4による訂正は、訂正事項1及び2により特許請求の範囲の記載が減縮されたため、明細書の段落【0080】~【0115】に記載された実施例のうち、実施例3~6及び8が特許請求の範囲に記載された発明の具体例である実施例でなくなったことに整合させるために、明細書の段落【0093】の記載を訂正するものであるから明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について
訂正事項4による訂正は訂正前の明細書の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。
3 まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1~4による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。
第3 特許請求の範囲の記載
上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6768901号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~4に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1~4に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」~「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件訂正後の明細書及び特許請求の範囲を「本件訂正明細書等」という。)
「【請求項1】
熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、
前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10~50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000~500,000のスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体であり、
前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30~500mm2/sであり、
前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90~30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み、
前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50~150質量部、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200~300質量部含み、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120~200質量部含み、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する、熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)。
【請求項2】
A硬度が70以下である、請求項1記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
さらに、相溶化剤Dを、熱可塑性スチレン系エラストマーAの100質量部に対して、1~30質量部含む、請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1~3いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物が極性樹脂に融着してなる、複合成形体。」
第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)取消理由1
本件訂正前の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲3A~甲4Aに記載された発明であり、また、本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲5Aに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1、2及び4に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(2)取消理由2
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1A、甲3A~甲4Aに記載された発明に基いて、また、本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲5Aに記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1~4に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)取消理由3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、本件特許の出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特許出願(特願2015-59678号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2及び4に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
2 特許異議申立理由の概要
(1)申立人A
申立人Aの申立理由の概要は以下のとおりである。
ア 申立理由1A(新規性)
本件訂正前の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲1A、甲3A~甲4Aに記載された発明であり、また、本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲5Aに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1、2及び4に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
イ 申立理由2A(進歩性)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1Aに記載された発明並びに甲4A及び甲6Aに記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1~4に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 申立理由3A(拡大先願)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2及び4に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、本件特許の出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2及び4に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
記
特願2015-59678号
なお、申立人Aが提出した甲2Aは、上記出願(以下「先願」という。)の公開公報である。
(2)申立人B
申立人Bの申立理由の概要は以下のとおりである。
ア 申立理由1B(新規性)
本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲1Bに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1及び2に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
イ 申立理由2B(進歩性)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1Bに記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1~4に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
当審は、当審が通知した取消理由1~3及び申立人がした申立理由1A~3A及び申立理由1B~2Bによっては、いずれも、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
なお、甲5Aと甲1Bは同じ特許文献(特開平1-193352号公報)であるので、以下では甲5Aと記載する。
また、取消理由1~2と申立理由1A~1B及び申立理由1B~2Bは、甲1A、甲3A~甲5Aを主引用例とする新規性及び進歩性の理由であるので併せて検討する。
さらに、取消理由3と申立理由3Aは、同じ特許出願(特願2015-59678号)を引用先願とする拡大先願の理由であるので併せて検討する。
1 取消理由1~2、申立理由1A~1B及び申立理由1B~2Bについて
(1)甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明
ア 甲1A
甲1Aの請求項1~5、8、15や段落【0005】、【0010】、【0012】~【0013】、【0016】~【0017】、【0021】~【0022】、【0025】~【0026】、【0030】、【0040】~【0043】、【0063】及び【0064】以降に記載された実施例の記載、特に実施例3に着目すると、甲1Aには以下の発明が記載されていると認められる。
「成分(a)として、ブロック共重合体の水素添加誘導体(a1-1)である、水添S-B-S(1,2-ミクロ構造が72重量%、重量平均分子量が231,000、スチレン含有量が30重量%)を100重量部、
炭化水素系ゴム用軟化剤(a2-1)である、パラフィン系オイル(40℃動粘度が381.6cst、流動度が-15℃、引火点が300℃、重量平均分子量が746、環分析が0%)を150重量部、及び、
オレフィン系樹脂(a4-1)である、ポリプロピレン単独重合体(MFRが11g/10分(230℃、2.16kg加重)、結晶化度が60%)を20重量部からなる組成物を50重量%、
成分(b)として、ジメチルテレフタレート32重量部、1,4-ブタンジオール20重量部、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均重量分子量2000)70重量部に対し、触媒としてテトラブチルチタネートを金属チタン換算で、生成するポリマーに対して200ppm添加し、150~230℃で3.5時間エステル交換反応を行い、ついで、次亜リン酸ナトリウム・一水塩を、生成するポリマーに対し、50ppm、ヒンダードフェノール系酸化安定剤〔チバ・ガイギー(株)製品、商品名:Irganox1010〕0.18重量部を加え、3torr以下の減圧下、230~245℃で溶融重縮合を行い製造したポリエステルポリエーテルブロック共重合体(ポリエステルポリエーテルブロック共重合体:密度1.05g/cm3 、ショアーD硬度29、MFR(245℃、2.16kg荷重)45g/10分、JIS-K7203による曲げ弾性率28MPa、DSCによる融解終了温度163℃)を50重量%からなる、JIS-A硬度が55である熱可塑性エラストマー組成物」(以下「甲1A発明」という。)
イ 甲3A
甲3Aの請求項1、2、5や段落【0001】、【0008】、【0020】、【0022】、【0035】、【0067】、【0082】及び【0083】以降に記載された実施例の記載、特に比較例1に着目すると、甲3Aには以下の発明が記載されていると認められる。
「成分(イ)として、ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体(ポリテトラメチレングリコール数平均分子量:2000、ポリテトラメチレングリコール含有量:72重量%)を59重量部、
成分(ハ)である軟化剤として、パラフィン系オイル(重量平均分子量:540、40℃の動粘度:95.54cst、流動点:-15℃、引火点:270℃)を12.3重量部、及び、
成分(ニ)として、スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水素添加物(スチレンブロック含有量:32重量%、水素添加率:98%以上、重量平均分子量:230,000、ブタジエンの1,2-ビニル結合量:70%)を28.7重量部からなる、
硬度が68である熱可塑性エラストマー組成物」(以下「甲3A発明」という。)
ウ 甲4A
甲4Aの請求項1、6や段落【0001】、【0010】、【0014】~【0015】、【0017】、【0020】、【0022】~【0027】、【0030】、【0042】~【0052】、【0058】、【0071】、【0083】及び【0084】以降に記載された実施例の記載、特に比較例6に着目すると、甲4Aには以下の発明が記載されていると認められる。
「熱可塑性スチレン系エラストマーとして、SEBS-A(G1651(クレイトンポリマー社製)、スチレン系単量体の含有量33質量%、Mw29万)を50質量部、
軟化剤として、パラフィンオイル(PW90(出光興産社製)、動粘度(40℃)95.54mm2/s)を50質量部、
熱可塑性ポリエステル系エラストマーとして、TPEE-A((ポリエステルポリエーテルブロックコポリマー):ペルプレンP-30B(東洋紡社製)、テトラメチレングリコール・ポリブチレングリコール・テレフタル酸重縮合物、D硬さ29、融点160℃)を160質量部、
エポキシ化合物として、エポキシ化合物E(ボンドファーストE(住友化学社製)、エポキシ価0.08meq/g、Et-GMA共重合体、GMA含有量12質量%、Mw26万、MFR(190℃×21.2N)3g/10min)を1.6質量部、
相溶化剤として、酸変性SEBS(FG1901X(クレイトンポリマー社製)、無水マレイン酸変性SEBS、スチレン系単量体含有量30質量%、A硬さ71、無水マレイン酸含有量1.7質量%)を20質量部、及び、
ポリプロピレン(PX600N(サンアロマー社製)、曲げ弾性率1650MPa)を10質量部からなる、
A硬さが62である熱可塑性エラストマー組成物」(以下「甲4A発明1」という。)
また、比較例7に着目すると、甲4Aには以下の発明が記載されていると認められる。
「熱可塑性スチレン系エラストマーとして、SEBS-A(G1651(クレイトンポリマー社製)、スチレン系単量体の含有量33質量%、Mw29万)を50質量部、
軟化剤として、パラフィンオイル(PW90(出光興産社製)、動粘度(40℃)95.54mm2/s)を50質量部、
熱可塑性ポリエステル系エラストマーとして、TPEE-A((ポリエステルポリエーテルブロックコポリマー):ペルプレンP-30B(東洋紡社製)、テトラメチレングリコール・ポリブチレングリコール・テレフタル酸重縮合物、D硬さ29、融点160℃)を160質量部、
相溶化剤として、酸変性SEBS(FG1901X(クレイトンポリマー社製)、無水マレイン酸変性SEBS、スチレン系単量体含有量30質量%、A硬さ71、無水マレイン酸含有量1.7質量%)を20質量部、及び、
ポリプロピレン(PX600N(サンアロマー社製)、曲げ弾性率1650MPa)を10質量部からなる、
A硬さが60である熱可塑性エラストマー組成物」(以下「甲4A発明2」という。)
エ 甲5A
甲5Aの特許請求の範囲、第2頁右上欄第18~20行、同頁左下欄第15行~右下欄第19行、第3頁右上欄第7~9行、第4頁左上欄第10行~右上欄第3行、同頁左下欄第4~6行、及び、同頁左下欄第7行以降に記載された実施例の記載、特に比較例4に着目すると、甲5Aには以下の発明が記載されていると認められる。
「成分Aとして、スチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加誘導体である、シェルケミカル社製「KRATON-G 1651」(Brookfield粘度;20重量%トルエン溶液で2000cps、77°F)を75重量%、及び、
成分Bとして、ゴム用軟化剤である、出光興産社製「PW380」(40℃動粘度381.6cSt)を25重量%の合計100重量部に対し、
成分Cとして、ポリエステル系エラストマーである、東洋紡績社製「ペルプレン」(ポリエステルエーテルエラストマー)P-30B(JIS-A硬度 70(-)、結晶融点160(℃))を100重量部配合した、
JIS-A硬度が65である熱可塑性エラストマー組成物」(以下「甲5A発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)甲1A発明との対比・判断
a 対比
(a)まず、組成物中の成分について検討する。
甲1A発明の「水添S-B-S」は、水素添加されたスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の略称であることは明らかであり、1,2-ミクロ構造が72重量%であるから、1,4-ミクロ構造は28重量%であり、これらの構造を水素添加するとエチレン・ブチレン構造となるといえるから、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体といえ、そして、重量平均分子量が231,000、スチレン含有量が30重量%である。そうすると、甲1A発明の「水添S-B-S」は、本件発明1の「熱可塑性スチレン系エラストマーA」であって「スチレン系単量体単位の含有量が10~50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000~500,000のスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体」に相当する。
甲1A発明の「炭化水素系ゴム用軟化剤(a2-1)」である「パラフィン系オイル」は、40℃動粘度が381.6cstであり、この「cst(センチストークス)」を単位として示される数値は、「mm2/s」を単位として示される数値と同じであることは技術常識であるといえ、381.6mm2/sといえるから、これは、本件発明1の「軟化剤B」であって「軟化剤Bの40℃における動粘度が30~500mm2/s」に相当する。
甲1A発明の「ポリエステルポリエーテルブロック共重合体」は、原料として、ジメチルテレフタレート32重量部、1,4-ブタンジオール20重量部及びポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均重量分子量2000)70重量部から製造され、ジメチルテレフタレート及び1,4-ブタンジオールから生成されるポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均重量分子量2000)からなるソフトセグメントを有することは明らかであるから、これは、本件発明1の「熱可塑性ポリエステル系エラストマーC」であって、「ハードセグメントとソフトセグメントとを含む」に相当する。
甲1A発明の「ポリエステルポリエーテルブロック共重合体」におけるハードセグメントとソフトセグメントの重量比を計算すると、ハードセグメントは52重量部(=32+20)と算出されるが、メタノールが留去されることを考慮すると、40重量部(=52×(284-64)/284)と算出される。ソフトセグメントが70重量部であるから、ハードセグメント/ソフトセグメントの重量比は、40/70=36/64と算出される。
(b)次に、組成物中の成分の配合割合について検討する。
甲1A発明は、「水添S-B-S」100重量部に対し、「パラフィン系オイル」を150重量部含むから、これは、本件発明1の「前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50~150質量部」に相当する。
甲1A発明は、「水添S-B-S」を100重量部、「パラフィン系オイル」を150重量部及び「ポリプロピレン単独重合体」を20重量部有する成分(a)を50重量%、並びに、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体である成分(b)を50重量%からなる熱可塑性エラストマー組成物であり、これは、「水添S-B-S」と「パラフィン系オイル」の合計量100質量部に対して、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体である成分(b)を108質量部(=50×100×(270/(50×250)))と算出される。
甲1A発明は、「水添S-B-S」を100重量部、「パラフィン系オイル」を150重量部及び「ポリプロピレン単独重合体」を20重量部有する成分(a)を50重量%、並びに、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体である成分(b)を50重量%からなる熱可塑性エラストマー組成物であり、「水添S-B-S」を100重量部に対して、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体である成分(b)を270質量部(=50×100×(270/(50×100)))と算出されるから、これは、本件発明1の「前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、」「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200~300質量部含み」に相当する。
そして、甲1A発明が、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まないことは明らかである。
そうすると、甲1A発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10~50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000~500,000のスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体であり、前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30~500mm2/sであり、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを含み、前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50~150質量部、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200~300質量部含む熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)。」
<相違点1>
熱可塑性ポリエステル系エラストマーCのハードセグメントとソフトセグメントとが、本件発明1では「10/90~30/70の質量比」であるのに対し、甲1A発明では36/64の重量比である点
<相違点2>
熱可塑性エラストマー組成物が、本件発明1では「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する」のに対して、甲1A発明では明らかでない点
<相違点3>
前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では「120~200質量部含む」のに対して、甲1A発明では、108重量部である点
b 判断
事案に鑑み相違点3から検討する。
まず、相違点3が実質的な相違点であるか否かについて検討するが、相違点3が実質的な相違点であることは明らかである。
次に、相違点3の容易想到性について検討するが、本件発明1は、本件訂正明細書等の段落【0006】によれば、柔軟性、極性樹脂への融着性に優れ、表面のベタツキが抑制され、耐摩耗性にも優れる熱可塑性エラストマー樹脂組成物を提供することを課題とし、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明である。そして、本件訂正明細書等の段落【0080】~【0115】に記載された実施例をみてみると、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対して、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1の特定である「120~200質量部」よりも少ない、本件訂正により参考例となった実施例3(熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が101質量部)、実施例5(同102質量部)及び実施例6(同72質量部)では、表面のベタツキ性については、「○」という「目視ではぬれ光沢はなく、指で触ると貼りつきはしないがすべりが良くない」という効果にとどまるものであるところ、本件発明1の具体例である実施例1は、上記表面のベタツキ性は「◎」であって「目視ではぬれ光沢はなく、表面がさらっとしてよく指が滑る」という具体的に優れた効果を示すことに加えて、上記した他の課題に関しても優れた効果を奏することが具体的なデータと共に記載されている。
一方、甲1Aには、段落【0005】に、発明の課題として、「本発明の目的は、柔軟性、ゴム弾性、耐熱性、耐候性、耐摩耗性及び成形加工性に優れ、かつポリカーボネート、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂などの硬質樹脂に対する熱融着性に優れた熱可塑性エラストマー組成物及びその複合成形体を提供すること」が記載され、その特許請求の範囲の請求項1に「【請求項1】(a)一般式 A(B-A)nおよび/または(A-B)n〔ただし、式中のAはモノビニル置換芳香族炭化水素の重合体ブロック、Bは1,2-ビニル結合の割合が50超過~90重量%の共役ジエン重合体ブロック、nは1~5の整数である〕で表されるブロック共重合体の水素添加誘導体であって、重合体ブロックB中のオレフィン型二重結合の80%以上が水素添加された水添ブロック共重合体5~95重量%
(b)ポリエステル系共重合体エラストマー95~5重量%からなることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。」が記載され、請求項4に、「【請求項4】成分(a)が、水添ブロック共重合体及びその100重量部に対して炭化水素系ゴム用軟化剤0~200重量部、無機フィラー0~200重量部、オレフィン系樹脂0~100重量部、オレフィン系エラストマー0~200重量部を含有するものである、請求項1に記載の組成物。」が記載され、炭化水素系ゴム用軟化剤の配合割合については、段落【0017】に「炭化水素系ゴム用軟化剤は、成分(a)の必須成分である水添ブロック共重合体100重量部に対して、好ましくは0~200重量部、より好ましくは10~180重量部、特に好ましくは50~160重量部配合することができる。炭化水素系ゴム用軟化剤は、硬度調整及び成形時の溶融流動性を調節するために重要である」と記載され、成分(a)と成分(b)との配合割合については、段落【0040】及び【0041】に、
「【0040】(d)配合比
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を構成する各成分の配合割合は、成分(a)が成分(a)と成分(b)の合計量のうち5~95重量%、・・・特に好ましくは5~50重量%である。上記成分(a)の配合割合が上記範囲を越えるものは得られる熱可塑性エラストマーの組成物の非オレフィン系樹脂に対する熱融着性が劣り、一方、上記範囲未満のものは柔軟性が悪化する。
【0041】また、成分(b)が成分(a)と成分(b)の合計量のうち95~5重量%、・・・特に好ましくは95~50重量%である。上記成分(b)の配合割合が上記範囲未満のものは得られる熱可塑性エラストマー組成物の非オレフィン系樹脂に対する熱融着性が劣り、上記範囲を越えるものは柔軟性が悪化する。」と記載されている。
そして、具体例である実施例3では、上記「(1)ア」で示した内容が記載され、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量は、上記aで示した<相違点3>のように、108重量部である。
また、実施例2では、「水添S-B-S」を100重量部、「パラフィン系オイル」を150重量部及び「ポリプロピレン単独重合体」を20重量部有する成分(a)を30重量%、並びに、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体である成分(b)を70重量%からなる熱可塑性エラストマー組成物であり、これは、「水添S-B-S」と「パラフィン系オイル」の合計量100質量部に対して、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体である成分(b)を252質量部(=70×100×(270/(30×250))と算出される。
以上のように、甲1Aには、一般的な記載として、(a)水添ブロック共重合体の配合割合は、5~95重量%、特に好ましくは5~50重量%であること、(b)ポリエステル系共重合体エラストマーの配合割合は、95~5重量%、特に好ましくは95~50重量%であることが記載されているところ、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量の具体例としては、108重量部(実施例3)と252重量部(実施例2)の例が記載されているだけであり、これらの実施例は、本件発明1における熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量の下限及び上限を満足しない例であるといえる。
そして、本件発明1は、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量を「120~200質量部」とすることにより表面のベタツキ性が優れることが具体的に示されているところ、甲1Aには、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量を本件発明1で特定する「120~200質量部」とすることにより、表面のベタツキ性に優れることについては何も記載がなく、また、これが技術常識であるともいえない。
そうすると、いくら甲1Aに、(a)水添ブロック共重合体の配合割合は、5~50重量%が特に好ましく、(b)ポリエステル系共重合体エラストマーの配合割合は、95~50重量%が特に好ましいと記載があるとしても、これらの記載は、あくまで甲1Aに記載された課題(柔軟性、ゴム弾性、耐熱性、耐候性、耐摩耗性及び成形加工性に優れ、かつポリカーボネート、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂などの硬質樹脂に対する熱融着性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を提供すること)を解決するために好ましい範囲が記載されているにすぎず、これらの記載から、優れた表面のベタツキ性のために、熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量を「120~200質量部」とすることが当業者にとり容易になし得たとすることはできない。
さらに、効果について検討すると、本件訂正明細書等の記載、特に実施例の記載をみると、本件発明1とすることにより、柔軟性、極性樹脂への融着性に優れ、表面のベタツキが抑制され、耐摩耗性にも優れることが具体的に示されているところ、甲1Aには、柔軟性、ゴム弾性、耐熱性、耐候性、耐摩耗性及び成形加工性に優れ、ポリカーボネートなどの硬質樹脂に対する熱融着性に優れることが記載されているにとどまり、表面のベタツキ性については記載も示唆もされていないから、本件発明1は当業者が予測できない顕著な効果を奏するといえる。
c 申立人A及びBの主張の検討
申立人Aは、令和3年11月29日に提出した意見書にて、申立人Bは、令和3年12月3日に提出した意見書において、甲1Aの実施例を含めた全体の記載をみれば、相違点3を本件発明1のように「120~200質量部」とすることは容易に想到し得るし、また、顕著な効果を奏さない旨を主張する。
しかしながら、甲1Aの実施例を含めた全体の記載をみても、相違点3は当業者が容易になし得たとすることができないことは、上記bで述べたとおりであるから、申立人A及びBの主張は採用できない。
d 小括
以上のとおりであるから、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1Aに記載された発明ではなく、また、甲1Aに記載された発明及び甲1Aに記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たとはいえない。
(イ)甲3A発明との対比・判断
a 対比
(a)まず、組成物中の成分について検討する。
甲3A発明の「スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水素添加物」は、ブタジエンの1,2-ビニル結合量が70%ということから、1,4-ビニル結合量は30%であり、これらの構造を水素添加するとエチレン・ブチレン構造となるといえるから、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体であるといえ、そして、重量平均分子量が230,000、スチレンブロック含有量が32重量%である。そうすると、甲3A発明の「スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水素添加物」は、本件発明1の「熱可塑性スチレン系エラストマーA」であって「スチレン系単量体単位の含有量が10~50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000~500,000のスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体」に相当する。
甲3A発明の「軟化剤」である「パラフィン系オイル」は、40℃動粘度が95.54cstであり、上記(ア)a(a)で述べたとおり、95.54mm2/sといえるから、これは、本件発明1の「軟化剤B」であって「軟化剤Bの40℃における動粘度が30~500mm2/s」に相当する。
甲3A発明の「ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」は、ポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコールからなるソフトセグメントを有することは明らかであり、ソフトセグメントであるポリテトラメチレングリコールを72重量%含むから、これは、本件発明1の「熱可塑性ポリエステル系エラストマーC」であって、「ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90~30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み」に相当する。
(b)次に、組成物中の成分の配合割合について検討する。
甲3A発明は、「スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水素添加物」を28.7重量部に対し、「パラフィン系オイル」を12.3重量部含み、これは、「スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水素添加物」100質量部に対し、「パラフィン系オイル」を42.9重量部(=12.3×100/28.7)と算出される。
甲3A発明は、「スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水素添加物」を28.7重量部に対して、「ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」を59重量部含む熱可塑性エラストマー組成物であり、「スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水素添加物」100質量部に対して、「ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」を206重量部(=59×100/28.7)と算出されるから、これは、本件発明1の「前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、」「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200~300質量部含み」に相当する。
甲3A発明は、「スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水素添加物」を28.7重量部、及び、「パラフィン系オイル」を12.3重量部に対して、「ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」を59重量部からなる熱可塑性エラストマー組成物であるから、これは、本件発明1の「前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120~200質量部含」むことに相当する。
そして、甲3A発明が、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まないことは明らかである。
そうすると、甲3A発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10~50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000~500,000のスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体であり、前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30~500mm2/sであり、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90~30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み、前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを200~300質量部、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120~200質量部含む熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)。」
<相違点4>
熱可塑性エラストマー組成物が、本件発明1では「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する」のに対して、甲3A発明では明らかでない点
<相違点5>
熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する軟化剤Bの配合量が、本件発明1では、「50~150質量部」であるのに対して、甲3A発明では、42.9重量部である点
b 判断
事案に鑑み相違点5から検討する。
相違点5は、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する軟化剤Bの配合量が、本件発明1では、「50~150質量部」であるのに対して、甲3A発明では、42.9重量部であり、この相違点は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲3A発明ではない。
そうすると、本件発明1は、甲3Aに記載された発明ではない。
そして、甲3A発明は、甲3Aの特許請求の範囲に記載された発明が顕著な効果を奏することを示すための対比例である比較例1であるから、軟化剤Bの配合割合を本件発明1のように代える動機付けはない。
よって、本件発明1は甲3A発明に基づいて当業者が容易になし得たともいえない。
(ウ)甲4A発明1及び甲4A発明2との対比・判断
a 対比
(a)まず、組成物中の成分について検討する。
甲4A発明1及び2の「熱可塑性スチレン系エラストマー」である「SEBS-Aの(G1651(クレイトンポリマー社製)・・・)」は、本件明細書の段落【0096】に実施例で用いる「SEBS」として記載される本件発明の「熱可塑性スチレン系エラストマーA」の具体例の1つであることからすれば、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体といえ、そして、重量平均分子量が25万、スチレンブロック含有量が33質量%であるから、これは、本件発明1の「熱可塑性スチレン系エラストマーA」であって「スチレン系単量体単位の含有量が10~50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000~500,000のスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体」に相当する。
甲4A発明1及び2の「軟化剤」である「パラフィン系オイル」は、40℃動粘度が95.54mm2/sであるから、これは、本件発明1の「軟化剤B」であって「軟化剤Bの40℃における動粘度が30~500mm2/s」に相当する。
甲4A発明1及び2の「ペルプレンP-30B(東洋紡社製)、テトラメチレングリコール・ポリブチレングリコール・テレフタル酸重縮合物」は、ポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコールからなるソフトセグメントを有することは明らかであり、また、甲2B(分析結果報告書)には、ペルプレンP-30Bのハードセグメントは16質量%、ソフトセグメントは84質量%であると記載されているから、これは、本件発明1の「熱可塑性ポリエステル系エラストマーC」であって、「ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90~30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み」に相当する。
(b)次に、組成物中の成分の配合割合について検討する。
甲4A発明1及び2は、「SEBS-A」50質量部に対し、「パラフィン系オイル」を50質量部含むから、これは、本件発明1の「前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50~150質量部」に相当する。
甲4A発明1及び2は、「SEBS-A」を50質量部に対して、熱可塑性ポリエステル系エラストマーとしての「TPEE-A」を160質量部含む熱可塑性エラストマー組成物であり、「SEBS-A」を100質量部に対して、熱可塑性ポリエステル系エラストマーとしての「TPEE-A」を320質量部(=160×100/50)と算出される。
甲4A発明1及び2は、「SEBS-A」を50質量部、及び、「パラフィン系オイル」を50質量部に対して、熱可塑性ポリエステル系エラストマーとしての「TPEE-A」を160質量部含む熱可塑性エラストマー組成物であるから、これは、本件発明1の「前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120~200質量部含」むことに相当する。
ここで、甲4A発明1は、「エポキシ化合物E(ボンドファーストE(住友化学社製)、エポキシ価0.08meq/g、Et-GMA共重合体、GMA含有量12質量%、Mw26万、MFR(190℃×21.2N)3g/10min)」を1.6質量部含むが、これは、グリシジルメチルアクリレートを12質量%含むエチレンとグリシジルメタアクリレートとの共重合体であるといえ、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まないことは明らかである。また、甲4A発明2は、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まないことは明らかである。
そうすると、甲4A発明1及び2と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10~50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000~500,000のスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体であり、前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30~500mm2/sであり、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90~30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み、前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50~150質量部、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを120~200質量部含む熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)。」
<相違点6>
熱可塑性エラストマー組成物が、本件発明1では「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する」のに対して、甲4A発明1及び2では明らかでない点
<相違点7>
熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では、「200~300質量部」であるのに対して、甲4A発明1及び2では、320質量部である点
b 判断
事案に鑑み相違点7から検討する。
相違点7は、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では、「200~300質量部」であるのに対して、甲4A発明1及び2では、320重量部であり、この相違点は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲4A発明1及び2ではない。
そうすると、本件発明1は、甲4Aに記載された発明ではない。
そして、甲4A発明1及び2は、甲4Aの特許請求の範囲に記載された発明が顕著な効果を奏することを示すための対比例である比較例6及び7であるから、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合割合を本件発明1のように代える動機付けはない。
よって、本件発明1は甲4A発明1及び2に基づいて当業者が容易になし得たともいえない。
(エ)甲5A発明との対比・判断
a 対比
(a)まず、組成物中の成分について検討する。
甲5A発明の「スチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加誘導体」である「KRATON-G 1651(シェルケミカル社製)」は、本件明細書の段落【0096】に実施例で用いる「SEBS」として記載される本件発明の「熱可塑性スチレン系エラストマーA」の具体例の1つであることからすれば、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体といえ、そして、重量平均分子量が25万、スチレンブロック含有量が33質量%であるから、これは、本件発明1の「熱可塑性スチレン系エラストマーA」であって「スチレン系単量体単位の含有量が10~50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000~500,000のスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体」に相当する。
甲5A発明の「ゴム用軟化剤」である出光興産社製「PW380」は、40℃動粘度が381.6cStであり、上記「(ア)a(a)」で述べたとおり、381.6mm2/sといえるから、これは、本件発明1の「軟化剤B」であって「軟化剤Bの40℃における動粘度が30~500mm2/s」に相当する。
甲5A発明の「東洋紡績社製「ペルプレン」(ポリエステルエーテルエラストマー)P-30B」は、上記(ウ)a(a)で述べたとおり、本件発明1の「熱可塑性ポリエステル系エラストマーC」であって、「ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90~30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み」に相当する。
(b)次に、組成物中の成分の配合割合について検討する。
甲5A発明は、「KRATON-G 1651」75重量%に対し、「ゴム用軟化剤」である出光興産社製「PW380」を25重量%含むから、「KRATON-G 1651」100重量部に対し、「ゴム用軟化剤」である出光興産社製「PW380」を33重量部(=25×100/75)と算出される。
甲5A発明は、「KRATON-G 1651」75重量%、「ゴム用軟化剤」である出光興産社製「PW380」を25重量%の合計100重量部に対して、「東洋紡績社製「ペルプレン」(ポリエステルエーテルエラストマー)P-30B」を100質量部含む熱可塑性エラストマー組成物であり、「KRATON-G 1651」100重量部に対し、「東洋紡績社製「ペルプレン」(ポリエステルエーテルエラストマー)P-30B」を133重量部(=100×100/75)と算出される。
甲5A発明は、「KRATON-G 1651」75重量%、「ゴム用軟化剤」である出光興産社製「PW380」を25重量%の合計100重量部に対して、「東洋紡績社製「ペルプレン」(ポリエステルエーテルエラストマー)P-30B」を100重量部含む熱可塑性エラストマー組成物である。
そして、甲5A発明が、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まないことは明らかである。
そうすると、甲5A発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10~50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000~500,000のスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体であり、前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30~500mm2/sであり、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90~30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含む熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)。」
<相違点8>
熱可塑性エラストマー組成物が、本件発明1では「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する」のに対して、甲5A発明では明らかでない点
<相違点9>
熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する軟化剤Bの配合量が、本件発明1では、「50~150質量部」であるのに対して、甲5A発明では、33重量部である点
<相違点10>
熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では、「200~300質量部」であるのに対して、甲4A発明1及び2では、133質量部である点
<相違点11>
熱可塑性スチレン系エラストマーAと軟化剤Bの合計量100質量部に対する、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では、「120~200質量部」であるのに対して、甲5A発明では「100重量部」である点
b 判断
事案に鑑み相違点10から検討する。
相違点10は、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では、「200~300質量部」であるのに対して、甲5A発明では、133質量部であり、この相違点は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲5A発明ではない。
そうすると、本件発明1は、甲5Aに記載された発明ではない。
そして、甲5A発明は、甲5Aの特許請求の範囲に記載された発明が顕著な効果を奏することを示すための対比例である比較例4であるから、熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合割合を本件発明1のように代える動機付けはない。
よって、本件発明1は甲5A発明に基づいて当業者が容易になし得たともいえない。
イ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2~4は、上記「ア」で示した理由と同じ理由により、甲1A、甲3A~甲5Aに記載された発明であるといえず、また、甲1A、甲3A~甲5Aに記載された発明及び甲1A、甲3A~甲5Aに記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、取消理由1~2、申立理由1A~1B及び申立理由1B~2Bによっては、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由3及び申立理由3Aについて
上記「第1 2(1)」で示したとおり、甲2Aは特願2015-59678号の公開公報(特開2016-6159号公報)であり、当該公報には、先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面の内容(以下「先願明細書等」という。)が記載されている。
ここでは、甲2Aの記載事項から、特許出願(特願2015-59678号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲または図面に記載された発明を認定する。
(1)甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明
ア 甲2A
甲2Aの請求項1や段落【0006】、【0024】、【0075】及び【0076】以降に記載された実施例の記載、特に比較例2に着目すると、甲2Aには以下の発明が記載されていると認められる。
「成分(A)として、ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体(ポリテトラメチレングリコールユニットの数平均分子量:2,000、ポリテトラメチレングリコールユニットの含有量:77重量%、デュロ硬度A:80、MFR(230℃,21N):25g/10分)を35重量部(53.8重量%)、
成分(C)として、スチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体の水添物(旭化成ケミカルズ社製「タフテック(登録商標)N504」、前記式(1)におけるm:1、スチレン重合体ブロックの含有量:30重量%、重量平均分子量:250,000、1,2-付加構造割合:30重量%)を30重量部(46.2重量%)、
成分(D)として、炭化水素系ゴム用軟化剤(出光興産社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」、動粘度(40℃):90センチストークス、引火点(COC法):266℃)を15重量部(23.1重量%)、及び、
成分(E)として、炭酸カルシウム(備北粉化工業社製「ソフトン1200」、平均粒子径:1.80μm(カタログ値(空気透過法)))を20重量部(30.8重量%)からなる、
デュロ硬度Aが67である熱可塑性エラストマー組成物」(以下「甲2A発明1」という。)
また、比較例5に着目すると、甲2Aには以下の発明が記載されていると認められる。
「成分(A)として、ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体(ポリテトラメチレングリコールユニットの数平均分子量:2,000、ポリテトラメチレングリコールユニットの含有量:72重量%、デュロ硬度A:84、MFR(230℃,21N):25g/10分)を35重量部(53.8重量%)、
成分(C)として、スチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体の水添物(旭化成ケミカルズ社製「タフテック(登録商標)N504」、前記式(1)におけるm:1、スチレン重合体ブロックの含有量:30重量%、重量平均分子量:250,000、1,2-付加構造割合:30重量%)を30重量部(46.2重量%)、
成分(D)として、炭化水素系ゴム用軟化剤(出光興産社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」、動粘度(40℃):90センチストークス、引火点(COC法):266℃)を15重量部(23.1重量%)、及び、
成分(E)として、炭酸カルシウム(備北粉化工業社製「ソフトン1200」、平均粒子径:1.80μm(カタログ値(空気透過法)))を20重量部(30.8重量%)からなる、
デュロ硬度Aが72である熱可塑性エラストマー組成物」(以下「甲2A発明2」という。)
(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)甲2A発明1及び甲2A発明2との対比・判断
a 対比
(a)まず、組成物中の成分について検討する。
甲2A発明1及び2の「スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水添物」は、1,2-付加構造割合が30重量%ということから、1,4-付加構造割合は70重量%であり、これらの構造を水素添加するとエチレン・ブチレン構造となるといえるから、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体といえ、そして、重量平均分子量が250,000、スチレンブロック含有量が30重量%である。そうすると、甲2A発明1及び2の「スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水添物」は、本件発明1の「熱可塑性スチレン系エラストマーA」であって「スチレン系単量体単位の含有量が10~50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000~500,000のスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体」に相当する。
甲2A発明1及び2の「炭化水素系ゴム用軟化剤」である「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」は、40℃動粘度が90センチストークスであり、上記「1(2)ア(ア)a(a)」で述べたとおり、90mm2/sといえるから、これは、本件発明1の「軟化剤B」であって「軟化剤Bの40℃における動粘度が30~500mm2/s」に相当する。
甲2A発明1の「ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」は、ポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコールからなるソフトセグメントを有することは明らかであり、ソフトセグメントであるポリテトラメチレングリコールを77重量%含むから、これは、本件発明1の「熱可塑性ポリエステル系エラストマーC」であって、「ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90~30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み」に相当する。また、甲2A発明2の「ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」は、ポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリテトラメチレンエーテルグリコールからなるソフトセグメントを有することは明らかであり、ソフトセグメントであるポリテトラメチレングリコールを72重量%含むから、これも、本件発明1の「熱可塑性ポリエステル系エラストマーC」であって、「ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90~30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み」に相当する。
(b)次に、組成物中の成分の配合割合について検討する。
甲2A発明1及び2は、「スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水添物」を30重量部に対し、「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」を15重量部含むから、これは、本件発明1の「前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50~150質量部」に相当する。
甲2A発明1及び2は、「スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水添物」を30重量部に対して、「ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」を35重量部含み、「スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水添物」を100重量部に対して、「ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」を117重量部(=35×100/30)含むと算出される。
甲2A発明1及び2は、「スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水添物」を30重量部、及び、「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」を15重量部に対して、「ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」を35重量部含み、「スチレン-ブタジエン-スチレンのブロック共重合体の水添物」と「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」100重量部に対して、「ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールマルチブロック共重合体」を78重量部(=35×100/45)含むと算出される。
そして、甲2A発明1及び2が、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まないことは明らかである。
そうすると、甲2A発明1及び2と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で一応相違する。
<一致点>
「熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーCを含有してなり、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAは、スチレン系単量体単位の含有量が10~50質量%であり、かつ重量平均分子量が200,000~500,000のスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体であり、前記軟化剤Bの40℃における動粘度が30~500mm2/sであり、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCが、ハードセグメントとソフトセグメントとを10/90~30/70の質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)で含み、前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを50~150質量部含む熱可塑性エラストマー組成物(ただし、骨格にスチレン構造を有する重合体であるエポキシ化合物を含まない)。」
<相違点12>
熱可塑性エラストマー組成物が、本件発明1では「前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCからなる連続相中に前記熱可塑性スチレン系エラストマーA及び前記軟化剤Bからなる分散相が存在する相分離構造を有する」のに対して、甲2A発明1及び2では明らかでない点
<相違点13>
熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では、「200~300質量部」であるのに対して、甲2A発明1及び2では、117質量部である点
<相違点14>
前記熱可塑性スチレン系エラストマーAと前記軟化剤Bの合計量100質量部に対して、前記熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では「120~200質量部含む」のに対して、甲2A発明1及び2では、78重量部である点
b 判断
事案に鑑み相違点13から検討する。
相違点13は、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対する熱可塑性ポリエステル系エラストマーCの配合量が、本件発明1では、「200~300質量部」であるのに対して、甲2A発明1及び2では、117重量部であり、この相違点は実質的な相違点である。そして、甲2A発明1及び2が、甲2Aの特許請求の範囲に記載された発明が顕著な効果を奏することを示すための対比例である比較例2及び5であることからすれば、上記相違点が課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
そうすると、本件発明1は甲2A発明1及び2と同一ではない。
イ 本件発明2及び4について
本件発明2及び4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2及び4は、上記「ア」で示した理由と同じ理由により、甲2Aに記載された発明と同一ではない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、取消理由3、申立理由1Cによっては、本件発明1、2及び4に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
特許第6768901号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1~4]について訂正することを認める。
当審が通知した取消理由及び特許異議申立人がした申立理由によっては、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700331