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特許異議申立

2021-700291

密封材組成物

審判番号
2021-700291
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-510356外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6758482
請求日
2021年03月19日
審決日
2023年09月28日
公報発行日
2023年12月28日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1652.121-YAA(C08G) / P1652.537-YAA(C08G)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項、特許法第113条第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6758482号発明「密封材組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6758482号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6,11,12,18〕、〔7-10〕、〔13-17〕、19について訂正することを認める。
特許第6758482号の請求項1~6、11、12、18に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 13項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本件特許第6758482号に係る出願(特願2019-510356号、以下「本願」ということがある。)は、平成29年12月11日(パリ条約に基づく優先権主張:2016年12月9日、大韓民国)の国際出願日に出願人エルジー・ケム・リミテッド(以下「特許権者」ということがある。)によりされたものとみなされる特許出願であり、令和2年9月3日に特許権の設定登録(請求項の数19)がされ、令和2年9月23日に特許掲載公報が発行されたものである。

その後、令和3年3月19日に、本件特許の請求項1~6、11、12、18に係る特許に対して、特許異議申立人である松岡規子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。

令和3年 7月29日付け 取消理由通知

同年11月 5日付け 応対記録(期間延長申出)

同日付け 通知書(延長許可)

同年12月10日 訂正請求書・意見書

同年12月16日付け 通知書(申立人宛)

令和4年 1月19日 意見書(申立人)

同年 3月31日付け 訂正拒絶理由通知

同年 5月26日付け 応対記録(期間延長申出)

同日付け 通知書(上申書提出による申出の追完を条件 に延長許可)

同年 5月30日 上申書(特許権者・期間延長申出)

同年 6月27日 手続補正書・意見書(特許権者)

同年10月31日付け 取消理由通知(決定の予告)

令和5年 2月 6日 訂正請求書・意見書

同年 2月16日付け 通知書(申立人宛)

同年 3月20日 意見書(申立人)

なお、令和3年12月10日提出の訂正請求書について、取消理由通知(決定の予告)において、訂正を認めないとの判断が示されている。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

令和5年2月6日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「エポキシ化合物と、前記エポキシ化合物100重量部に対して45重量部~145重量部の範囲内で、オキセタン基を有する化合物とを含む無溶剤形態の密封材組成物であり、前記組成物100mgに対するカール・フィッシャー電量滴定法による水分含量が1000ppm以下である密封材組成物。」と記載されているのを、「エポキシ化合物と、前記エポキシ化合物100重量部に対して45重量部~145重量部の範囲内で、オキセタン基を有する化合物とを含む無溶剤形態の密封材組成物であり、前記組成物100mgに対するカール・フィッシャー電量滴定法による水分含量が1000ppm以下である密封材組成物(前記密封材組成物がエポキシ変性ポリシロキサン化合物を含む場合を除く)。」に訂正する。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項4に「エポキシ化合物は、分子構造内に環形構造を有する化合物および/または直鎖または分岐鎖の脂肪族化合物を含む」と記載されているのを、「エポキシ化合物は、分子構造内にエポキシ基以外の環形構造を有する化合物および/または直鎖または分岐鎖の脂肪族炭化水素基を少なくとも部分構造として有し、エポキシ基以外の環形構造を含まない化合物を含む」に訂正する。

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項5に「分子構造内に環形構造を有する化合物」と記載されているのを、「前記分子構造内にエポキシ基以外の環形構造を有する化合物」に訂正する。

(4)訂正事項4

特許請求の範囲の請求項6に「直鎖または分岐鎖の脂肪族化合物は、環形構造を有する化合物100重量部に対して、20重量部以上、205重量部未満の範囲内で含まれる」と記載されているのを、「直鎖または分岐鎖の脂肪族炭化水素基を少なくとも部分構造として有し、エポキシ基以外の環形構造を含まない化合物は、分子構造内にエポキシ基以外の環形構造を有する化合物100重量部に対して、20重量部以上、205重量部未満の範囲内で含まれる」に訂正する。

(5)訂正事項5

特許請求の範囲の請求項7に「界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の密封材組成物。」と記載されているのを、「エポキシ化合物と、前記エポキシ化合物100重量部に対して45重量部~145重量部の範囲内で、オキセタン基をする化合物とを含む無溶剤形態の密封材組成物であり、前記組成物100mgに対するカール・フィッシャー電量滴定法による水分含量が1000ppm以下であり、前記組成物は、界面活性剤をさらに含む、密封材組成物。」に訂正する。

(6)訂正事項6

特許請求の範囲の請求項13に「光開始剤を含まない無溶剤の密封材組成物に対して水分を除去する段階と;前記水分を除去する段階において水分が除去された密封材組成物に対して光開始剤を混合する段階とを含む、請求項1に記載の密封材組成物の製造方法。」と記載されているのを、「密封材組成物の製造方法であり、前記密封材組成物は、エポキシ化合物と、前記エポキシ化合物100重量部に対して45重量部~145重量部の範囲内で、オキセタン基を有する化合物とを含む無溶剤形態の密封材組成物であり、前記組成物100mgに対するカール・フィッシャー電量滴定法による水分含量が1000ppm以下であり、前記密封材組成物の製造方法は、光開始剤を含まない無溶剤の密封材組成物に対して水分を除去する段階と;前記水分を除去する段階において水分が除去された密封材組成物に対して光開始剤を混合する段階とを含む、密封材組成物の製造方法。」に訂正する。

(7)訂正事項7

特許請求の範囲の請求項19に「上部に有機電子素子が形成された基板の上に、請求項1に記載の密封材組成物が前記有機電子素子の前面を密封するように有機層を形成する段階を含む有機電子装置の製造方法。」と記載されているのを「上部に有機電子素子が形成された基板の上に、密封材組成物が前記有機電子素子の前面を密封するように有機層を形成する段階を含み、前記密封材組成物は、エポキシ化合物と、前記エポキシ化合物100重量部に対して45重量部~145重量部の範囲内で、オキセタン基を有する化合物とを含む無溶剤形態の密封材組成物であり、前記組成物100mgに対するカール・フィッシャー電量滴定法による水分含量が1000ppm以下である、有機電子装置の製造方法。」に訂正する。

(8)一群の請求項、及び、別の訂正単位とする求めについて

訂正前の請求項1~19について、請求項2~19は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~19は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。

そして、訂正後の請求項7、13及び19、訂正後の請求項7の記載を引用する訂正後の請求項8~10、並びに訂正後の請求項13の記載を引用する訂正後の請求項14~17については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することが求められている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明から「エポキシ変性ポリシロキサン化合物を含む場合を除く」ものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2~4について

訂正事項2~4は、訂正前の請求項4~6に記載の「環形構造を有する化合物」の「環形構造」を「エポキシ基以外の環形構造」に限定し、また、訂正事項2及び4は、「直鎖または分岐鎖の脂肪族化合物」の「脂肪族化合物」を「脂肪族炭化水素基を少なくとも部分構造として有し、エポキシ基以外の環形構造を含まない化合物」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項2~4は、後記の令和4年10月31日付け取消理由通知(決定の予告)の取消理由2(明確性)に対応して、「分子構造内に環形構造を有する化合物」と「直鎖または分岐鎖の脂肪族化合物」を特定して両者を明確に区別するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

そして、訂正前の請求項4~6に記載の「環形構造を有する化合物」が「エポキシ基以外の環形構造を有する化合物」であり、同じく「脂肪族化合物」が「エポキシ基以外の環形構造を含まない」ことは、本件明細書の【0017】及び【0018】の記載から明らかであるし、訂正前の「脂肪族化合物」が「脂肪族炭化水素基を部分構造として有」することは当業者に明らかであるから、訂正事項2~4は新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項5~7について

訂正事項5は、訂正前の請求項1の記載を引用する請求項7を独立形式の記載に改めるものであり、訂正事項6は、訂正前の請求項1の記載を引用する請求項13を独立形式の記載に改めるものであり、訂正事項7は、訂正前の請求項1の記載を引用する請求項19を独立形式の記載に改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。そして、訂正事項5~7は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

なお、訂正事項5及び6は、訂正前の請求項7及び13を直接又は間接的に引用する請求項8~10、請求項14~17についても同様に訂正するものであり、請求項7~10、13~17及び19は申立てがされていないものであるが、訂正の目的が特許法第120条の5第2項ただし書第4号であるから、訂正事項5~7に関して、同法同条第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

3 本件訂正請求の適否に関する判断のまとめ

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~19について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明

本件訂正請求により訂正された請求項1~19に係る発明は、訂正された特許請求の範囲の請求項1~19に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
エポキシ化合物と、前記エポキシ化合物100重量部に対して45重量部~145重量部の範囲内で、オキセタン基を有する化合物とを含む無溶剤形態の密封材組成物であり、前記組成物100mgに対するカール・フィッシャー電量滴定法による水分含量が1000ppm以下である密封材組成物(前記密封材組成物がエポキシ変性ポリシロキサン化合物を含む場合を除く)。
【請求項2】
硬化後における50mgの硬化物をパージトラップ(Purge & Trap)-気体クロマトグラフィー/質量分析法を利用して110℃で30分間維持した後、測定される揮発性有機化合物の量が100ppm未満である、請求項1に記載の密封材組成物。
続きを表示(全44行)
【請求項3】
エポキシ化合物は、少なくとも二官能以上である、請求項1に記載の密封材組成物。
【請求項4】
エポキシ化合物は、分子構造内にエポキシ基以外の環形構造を有する化合物および/または直鎖または分岐鎖の脂肪族炭化水素基を少なくとも部分構造として有し、エポキシ基以外の環形構造を含まない化合物を含む、請求項1に記載の密封材組成物。
【請求項5】
前記分子構造内にエポキシ基以外の環形構造を有する化合物は、分子構造内に環構成原子が3~10の範囲内である、請求項4に記載の密封材組成物。
【請求項6】
直鎖または分岐鎖の脂肪族炭化水素基を少なくとも部分構造として有し、エポキシ基以外の環形構造を含まない化合物は、分子構造内にエポキシ基以外の環形構造を有する化合物100重量部に対して、20重量部以上、205重量部未満の範囲内で含まれる、請求項4に記載の密封材組成物。
【請求項7】
エポキシ化合物と、前記エポキシ化合物100重量部に対して45重量部~145重量部の範囲内で、オキセタン基を有する化合物とを含む無溶剤形態の密封材組成物であり、前記組成物100mgに対するカール・フィッシャー電量滴定法による水分含量が1000ppm以下であり、
前記組成物は、界面活性剤をさらに含む、密封材組成物。
【請求項8】
界面活性剤は、極性官能基を含む、請求項7に記載の密封材組成物。
【請求項9】
界面活性剤は、フッ素系化合物を含む、請求項7に記載の密封材組成物。
【請求項10】
界面活性剤は、エポキシ化合物100重量部に対して0.01重量部~10重量部で含まれる、請求項7に記載の密封材組成物。
【請求項11】
光開始剤をさらに含む、請求項1に記載の密封材組成物。
【請求項12】
光開始剤は、エポキシ化合物100重量部に対して1~15重量部で含まれる、請求項11に記載の密封材組成物。
【請求項13】
密封材組成物の製造方法であり、
前記密封材組成物は、エポキシ化合物と、前記エポキシ化合物100重量部に対して45重量部~145重量部の範囲内で、オキセタン基を有する化合物とを含む無溶剤形態の密封材組成物であり、前記組成物100mgに対するカール・フィッシャー電量滴定法による水分含量が1000ppm以下であり、
前記密封材組成物の製造方法は、
光開始剤を含まない無溶剤の密封材組成物に対して水分を除去する段階と;
前記水分を除去する段階において水分が除去された密封材組成物に対して光開始剤を混合する段階とを含む、密封材組成物の製造方法。
【請求項14】
水分除去段階は、密封材組成物に対して昇温および冷却すること、または不活性気体を混合することを含む、請求項13に記載の密封材組成物の製造方法。
【請求項15】
水分除去段階は、一定圧力で進行される、請求項13に記載の密封材組成物の製造方法。
【請求項16】
水分除去段階は、圧力を0.5~2気圧のうちいずれか一つの気圧で一定に維持された状態で進行される、請求項15に記載の密封材組成物の製造方法。
【請求項17】
一定圧力は、-0.5~0.5気圧の誤差範囲を有する、請求項15に記載の密封材組成物の製造方法。
【請求項18】
基板と;基板上に形成された有機電子素子と;前記有機電子素子の前面を密封し、請求項1に記載の密封材組成物を含む有機層とを含む有機電子装置。
【請求項19】
上部に有機電子素子が形成された基板の上に、密封材組成物が前記有機電子素子の前面を密封するように有機層を形成する段階を含み、
前記密封材組成物は、エポキシ化合物と、前記エポキシ化合物100重量部に対して45重量部~145重量部の範囲内で、オキセタン基を有する化合物とを含む無溶剤形態の密封材組成物であり、前記組成物100mgに対するカール・フィッシャー電量滴定法による水分含量が1000ppm以下である、有機電子装置の製造方法。」

(以下、請求項1~19に係る発明を、順に「本件発明1」等という。)

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び当審が通知した取消理由

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1 特許異議申立書に記載した申立ての理由

(1)本件特許異議の申立ての趣旨及び審理すべき範囲

本件特許につき、申立人により、「特許第6758482号の特許請求の範囲の請求項1ないし6、11、12及び18に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。

上記申立ての趣旨からみて、特許第6758482号の特許請求の範囲の請求項1ないし6、11、12及び18に記載された発明についての特許を審理の対象とすべきものであって、本件の請求項7ないし10、13ないし17及び19に係る特許は、本件特許異議の申立てに係る審理の対象外である。

(2)申立ての理由

申立人は、特許異議申立書において、下記甲第1号証ないし甲第3号証を提示し、具体的な取消理由として、概略、以下の理由が存するとしている。

申立理由1(進歩性)

本件特許第6758482号の特許請求の範囲の請求項1ないし6、11、12及び18に記載された発明についての特許は、いずれも、甲第1号証に記載の発明に基づいて、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1ないし6、11、12及び18に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・証拠方法

申立人が特許異議申立書に添付した証拠方法・申立人提示の甲号証

甲第1号証:国際公開第2016/167347号
甲第2号証:国際公開第2014/017524号
甲第3号証:日本接着学会誌、Vol.44 (2008年) No.12、p.474-478及び奥付

(以下、上記「甲第1号証」~「甲第3号証」を、それぞれ「甲1」等という。)

2 当審が取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由

令和4年10月31日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由は、以下のとおりである。

(1)取消理由1(進歩性)

本件特許の請求項1ないし6、11、12及び18に係る発明は、いずれも、甲1に記載された発明に基づいて、甲2及び甲3に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1ないし6、11、12及び18に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)取消理由2(明確性)

本件の請求項4~6は、その記載が不備であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていないから、本件の請求項4~6に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

具体的理由は、以下のとおりである。

「本件請求項4に記載された上記「分子構造内に環形構造を有する化合物」と「直鎖または分岐鎖の脂肪族化合物」とは、当業者であっても区別することはできない。」

第5 当審の判断

以下に述べるように、当審が通知した取消理由(決定の予告)、及び、特許異議申立書の申立理由によっては、本件発明1~6、11、12及び18に係る特許は取り消すことはできない。

1 取消理由1(進歩性)及び申立理由1(進歩性)

取消理由1と申立理由1は、いずれも甲1を主引用文献とする進歩性に関する理由であるから、併せて検討する。

(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明

ア 甲1に記載された事項

甲1には、以下の事項が記載されている。

(a)

「[請求項1] 硬化性樹脂と、重合開始剤及び/又は熱硬化剤とを含有し、インクジェット法による塗布に用いられる電子デバイス用封止剤であって、
前記硬化性樹脂は、下記式(1)で表されるシリコーン化合物を含有する
ことを特徴とする電子デバイス用封止剤。
[化1]
続きを表示(全17行)
[図:0001404723000001.jpg]
式(1)中、R1は、炭素数1~10のアルキル基を表し、X1、X2は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、又は、下記式(2-1)、(2-2)、(2-3)、若しくは、(2-4)で表される基を表し、X3は、下記式(2-1)、(2-2)、(2-3)、又は、(2-4)で表される基を表す。mは、0~100の整数であり、nは、0~100の整数である。ただし、nが0の場合、X1及びX2のうち少なくとも一方は、下記式(2-1)、(2-2)、(2-3)、又は、(2-4)で表される基を表す。
[化2]
[図:0001404723000002.jpg]
式(2-1)~(2-4)中、R2は、結合手又は炭素数1~6のアルキレン基を表し、式(2-3)中、R3は、水素又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R4は、結合手又はメチレン基を表し、式(2-4)中、R5は、水素又はメチル基を表す。
[請求項2] 式(1)で表されるシリコーン化合物は、式(1)中のX1、X2、及び、X3のうち少なくともいずれかが式(2-1)、(2-2)、又は、(2-3)で表される基である化合物であることを特徴とする請求項1記載の電子デバイス用封止剤。
[請求項3] 式(1)で表されるシリコーン化合物は、下記式(3-1)で表される化合物、下記式(3-2)で表される化合物、及び、下記式(3-3)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2記載の電子デバイス用封止剤。
[化3]
[図:0001404723000003.jpg]
式(3-1)中、oは、1~10の整数であり、式(3-2)中、pは、1~10の整数であり、式(3-3)中、qは、1~10の整数である。
[請求項4] 硬化性樹脂は、式(1)で表されるシリコーン化合物に加えて、その他の硬化性樹脂として、式(1)で表される構造を有さないエポキシ化合物、式(1)で表される構造を有さないオキセタン化合物、式(1)で表される構造を有さない(メタ)アクリル化合物、及び、ビニルエーテル化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の電子デバイス用封止剤。
[請求項5] 硬化性樹脂は、その他の硬化性樹脂として、脂環式エポキシ樹脂、3-(アリルオキシ)オキセタン、3-エチル-3-((2-エチルヘキシルオキシ)メチル)オキセタン、及び、3-エチル-3(((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)メチル)オキセタンからなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項4記載の電子デバイス用封止剤。
[請求項6] E型粘度計を用いて、25℃、100rpmの条件で測定した粘度が5~200mPa・sであることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の電子デバイス用封止剤。」

(b)

「技術分野
[0001] 本発明は、インクジェット法により容易に塗布することができ、かつ、インクジェット装置のダメージを低減できる電子デバイス用封止剤に関する。また、本発明は、該電子デバイス用封止剤を用いた電子デバイスの製造方法に関する。」

(c)

「[0005] これらの有機薄膜素子は、有機層や電極が外気に曝されると、 その性能が急激に劣化してしまうという問題がある。従って、安定性及び耐久性を高めるために、有機薄膜素子を封止して大気中の水分や酸素から遮断することが不可欠となる。
有機薄膜素子を封止する方法としては、従来、内部に吸水剤を設けた封止缶によって封止する方法が一般的であった。しかしながら、封止缶により封止する方法では、電子デバイスを薄型化することが困難となる。そこで、封止缶を使用しない有機薄膜素子の封止方法の開発が進められている。
…
[0008] 樹脂膜を形成する方法として、インクジェット法を用いて基材上に液状の硬化性樹脂組成物を塗布した後、該硬化性樹脂組成物を硬化させる方法がある。このようなインクジェット法による塗布方法を用いれば、高速かつ均一に樹脂膜を形成することができる。硬化性樹脂組成物からなる電子デバイス用封止剤をインクジェット法により基材に塗布する場合、ノズルから安定して吐出するために封止剤の粘度を低粘度とする必要がある。電子デバイス用封止剤をインクジェット法に適した粘度にする方法としては、電子デバイス用封止剤に有機溶剤を配合する方法や、配合する硬化性樹脂として分子量の低いものを用いることが考えられるが、有機溶剤を用いて製造された樹脂膜では、残存した有機溶剤により有機発光材料層が劣化したり、プラズマによってアウトガスを発生したりする等の問題があり、分子量の小さい硬化性樹脂を用いた場合は、インクジェット装置のヘッド部分等に用いられている接着剤やゴム材料を膨潤させる等、装置にダメージを与えるという問題があった。」

(d)

「発明が解決しようとする課題
[0011] 本発明は、インクジェット法により容易に塗布することができ、かつ、インクジェット装置のダメージを低減できる電子デバイス用封止剤を提供することを目的とする。また、本発明は、該電子デバイス用封止剤を用いた電子デバイスの製造方法を提供することを目的とする。」

(e)

「[0023] 上記硬化性樹脂は、上記式(1)で表されるシリコーン化合物に加えて、接着性を向上させる等の目的で、その他の硬化性樹脂を含有してもよい。
上記その他の硬化性樹脂としては、上記式(1)で表される構造を有さないエポキシ化合物(以下、「その他のエポキシ化合物」ともいう)、上記式(1)で表される構造を有さないオキセタン化合物(以下、「その他のオキセタン化合物」ともいう)、上記式(1)で表される構造を有さない(メタ)アクリル化合物(以下、「その他の(メタ)アクリル化合物」ともいう)、及び、ビニルエーテル化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
…
[0024] 上記その他のエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールO型エポキシ樹脂、2,2’-ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スルフィド型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンフェノールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、アルキルポリオール型エポキシ樹脂、ゴム変性型エポキシ樹脂、グリシジルエステル化合物等が挙げられる。なかでも、脂環式エポキシ樹脂が好ましい。
続きを表示(全15行)
上記脂環式エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、セロキサイド2000、セロキサイド2021P、セロキサイド2081、セロキサイド3000、セロキサイド8000、サイクロマーM-100(いずれもダイセル社製)、サンソサイザーEPS(新日本理化工業社製)等が挙げられる。
上記脂環式エポキシ樹脂のなかでも、エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、及び、エステル結合を有さないものはアウトガスの発生を抑制する観点から好適である。エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、及び、エステル結合を有さない脂環式エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、セロキサイド2000、セロキサイド3000、セロキサイド8000等が挙げられる。
これらのその他のエポキシ化合物は、単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
…
[0030] 本発明の電子デバイス用封止剤は、重合開始剤及び/又は熱硬化剤を含有する。
上記重合開始剤としては、光カチオン重合開始剤、熱カチオン重合開始剤、光ラジカル重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤が好適に用いられる。
[0031] 上記光カチオン重合開始剤は、光照射によりプロトン酸又はルイス酸を発生するものであれば特に限定されず、イオン性光酸発生型であってもよいし、非イオン性光酸発生型であってもよい。
[0032] 上記イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤としては、例えば、アニオン部分がBF4-、PF6-、SbF6-、又は、(BX4)-(但し、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)で構成される、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族アンモニウム塩、(2,4-シクロペンタジエン-1-イル)((1-メチルエチル)ベンゼン)-Fe塩等が挙げられる。
…
[0038] 上記非イオン性光酸発生型の光カチオン重合開始剤としては、例えば、ニトロベンジルエステル、スルホン酸誘導体、リン酸エステル、フェノールスルホン酸エステル、ジアゾナフトキノン、N-ヒドロキシイミドスルホネート等が挙げられる。
[0039] 上記光カチオン重合開始剤のうち市販されているものとしては、例えば、DTS-200(みどり化学社製)、UVI6990、UVI6974(いずれもユニオンカーバイド社製)、SP-150、SP-170(いずれもADEKA社製)、FC-508、FC-512(いずれも3M社製)、IRGACURE261、IRGACURE290(BASF社製)、PI2074(ローディア社製)等が挙げられる。」

(f)

「[0072] 本発明の電子デバイス用封止剤は、JIS Z 0208に準拠して、硬化物を85℃、85%RHの環境下に24時間暴露して測定した100μm厚での透湿度が100g/m2以下であることが好ましい。上記透湿度が100g/m2以下であることにより、例えば、電子デバイスとして有機EL表示素子の製造に用いた場合、有機発光材料層に水分が到達することによるダークスポットの発生を抑制する効果により優れるものとなる。
[0073] 更に、本発明の電子デバイス用封止剤は、硬化物を85℃、85%RHの環境下に24時間暴露したときに、硬化物の含水率が0.5%未満であることが好ましい。上記硬化物の含水率が0.5%未満であることにより、例えば、電子デバイスとして有機EL表示素子の製造に用いた場合、硬化物中の水分による有機発光材料層の劣化を抑制する効果により優れるものとなる。上記硬化物の含水率のより好ましい上限は0.3%である。
上記含水率の測定方法としては、例えば、JIS K 7251に準拠してカールフィッシャー法により求める方法や、JIS K 7209-2に準拠して吸水後の重量増分を求める等の方法が挙げられる。
[0074] 本発明の電子デバイス用封止剤は、インクジェット法による塗布に用いられる。
インクジェット法により、本発明の電子デバイス用封止剤を2枚の基材のうち少なくとも一方に塗布する工程と、塗布した電子デバイス用封止剤を光照射及び/又は加熱により硬化させる工程と、上記2枚の基材を貼り合わせる工程とを有する電子デバイスの製造方法もまた、本発明の1つである。
[0075] 本発明の電子デバイス用封止剤を2枚の基材のうち少なくとも一方に塗布する工程において、本発明の電子デバイス用封止剤は、基材の全面に塗布してもよく、基材の一部に塗布してもよい。例えば、電子デバイスとして有機EL表示素子を製造する場合、塗布により形成される本発明の電子デバイス用封止剤の封止部の形状としては、有機発光材料層を有する積層体を外気から保護しうる形状であれば特に限定されず、該積層体を完全に被覆する形状であってもよいし、該積層体の周辺部に閉じたパターンを形成してもよいし、該積層体の周辺部に一部開口部を設けた形状のパターンを形成してもよい。
[0076] 上記電子デバイスとして有機EL表示素子を製造する場合、本発明の電子デバイス用封止剤を塗布する基材(以下、一方の基材ともいう)は、有機発光材料層を有する積層体の形成されている基材であってもよく、該積層体の形成されていない基材であってもよい。
上記一方の基材が上記積層体の形成されていない基材である場合、他方の基材を貼り合わせた際に、上記積層体を外気から保護できるように上記一方の基材に本発明の電子デバイス用封止剤を塗布すればよい。即ち、他方の基材を貼り合わせた際に上記積層体の位置となる場所に全面的に塗布するか、又は、他方の基材を貼り合わせた際に上記積層体の位置となる場所が完全に収まる形状に、閉じたパターンの封止剤部を形成してもよい。」

(g)

「発明を実施するための形態
[0085] 以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
…
[0087](実施例1)
続きを表示(全61行)
上記式(1)で表されるシリコーン化合物として、上記式(3-1)中のoが1である化合物(信越化学工業社製、「X-22-163」)100重量部と、光カチオン重合開始剤として、トリス(4-(4-アセチルフェニル)チオフェニル)スルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(BASF社製、「IRGACURE290」)1重量部とを、ホモディスパー型撹拌混合機(プライミクス社製、「ホモディスパーL型」)を用い、撹拌速度3000rpmで均一に撹拌混合して、電子デバイス用封止剤を作製した。
[0088](実施例2)
上記式(3-1)中のoが1である化合物(信越化学工業社製、「X-22-163」)の配合量を50重量部に変更し、その他の硬化性樹脂として、3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキサン(ダイセル社製、「セロキサイド8000」)50重量部を配合したこと以外は、実施例1と同様にして電子デバイス用封止剤を作製した。
…
[0090](実施例4)
その他の硬化性樹脂として、3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキサン(ダイセル社製、「セロキサイド8000」)50重量部に代えて、3-エチル-3(((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)メチル)オキセタン(東亞合成社製、「アロンオキセタンOXT-221」)50重量部を配合したこと以外は、実施例2と同様にして電子デバイス用封止剤を作製した。
[0091](実施例5)
その他の硬化性樹脂として、3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキサン(ダイセル社製、「セロキサイド8000」)50重量部に代えて、3-アリルオキシオキセタン(四日市合成社製、「AL-OX」)50重量部を配合したこと以外は、実施例2と同様にして電子デバイス用封止剤を作製した。
…
[0095](実施例9)
上記式(1)で表されるシリコーン化合物として、上記式(3-1)中のoが1である化合物(信越化学工業社製、「X-22-163」)100重量部に代えて、上記式(3-2)中のpが9である化合物(Gelest社製、「DMS-EC13」)100重量部を配合したこと以外は、実施例1と同様にして電子デバイス用封止剤を作製した。
[0096](実施例10)
上記式(3-2)中のpが9である化合物(Gelest社製、「DMS-EC13」)の配合量を50重量部に変更し、その他の硬化性樹脂として、3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキサン(ダイセル社製、「セロキサイド8000」)50重量部を配合したこと以外は、実施例9と同様にして電子デバイス用封止剤を作製した。
[0097](実施例11)
その他の硬化性樹脂として、3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキサン(ダイセル社製、「セロキサイド8000」)50重量部に代えて、3-エチル-3(((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)メチル)オキセタン(東亞合成社製、「アロンオキセタンOXT-221」)50重量部を配合したこと以外は、実施例10と同様にして電子デバイス用封止剤を作製した。
[0098](実施例12)
光カチオン重合開始剤に代えて、熱カチオン重合開始剤として、ジメチルフェニル(4-メトキシベンジル)アンモニウムヘキサフルオロアンチモネート(King Industries社製、「CXC-1612」)、1重量部を配合したこと以外は、実施例11と同様にして電子デバイス用封止剤を作製した。
…
[0108](比較例1)
上記式(1)で表されるシリコーン化合物を配合せず、その他の硬化性樹脂として、3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキサン(ダイセル社製、「セロキサイド8000」)100重量部を配合したこと以外は、実施例1と同様にして電子デバイス用封止剤を作製した。
[0109](比較例2)
上記式(1)で表されるシリコーン化合物を配合せず、その他の硬化性樹脂として、3-エチル-3(((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)メチル)オキセタン(東亞合成社製、「アロンオキセタンOXT-221」)100重量部を配合したこと以外は、実施例1と同様にして電子デバイス用封止剤を作製した。
[0110](比較例3)
上記式(1)で表されるシリコーン化合物を配合せず、その他の硬化性樹脂である3-エチル-3(((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)メチル)オキセタン(東亞合成社製、「アロンオキセタンOXT-221」)の配合量を100重量部に変更したこと以外は、実施例12と同様にして電子デバイス用封止剤を作製した。
…
[0112]<評価>
実施例及び比較例で得られた各電子デバイス用封止剤について以下の評価を行った。結果を表1、2に示した。
[0113](粘度)
実施例及び比較例で得られた各電子デバイス用封止剤について、E型粘度計(東機産業社製、「VISCOMETER TV-22」)を用いて、25℃、100rpmの条件における粘度を測定した。
[0114](濡れ広がり性)
実施例及び比較例で得られた各電子デバイス用封止剤を、インクジェット吐出装置(マイクロジェット社製、「NanoPrinter300」)を用いて、80ピコリットルの液滴量にてアルカリ洗浄した無アルカリガラス(旭硝子社製、「AN100」)上に印刷し、10分後に無アルカリガラス上の液滴の直径を測定した。
[0115](接着性)
実施例及び比較例で得られた各電子デバイス用封止剤を、スピンコーターを用いて、無アルカリガラス(旭硝子社製、「AN100」)上に10μmの厚みに塗布し、その後、実施例1~11、13~21、及び、比較例1、2、4で得られた各電子デバイス用封止剤については、LEDランプを用いて波長365nmの紫外線を3000mJ/cm2照射して、実施例12、比較例3で得られた電子デバイス用封止剤については、100℃で30分間加熱して、電子デバイス用封止剤を硬化させ、樹脂膜を得た。
形成した樹脂膜に対しJIS K 5600-5-6に従い、切込み間隔1mmのクロスカット試験を行った。
クロスカット試験を行った際の、剥がれが5%以下であった場合を「◎」、剥がれが5%を超え35%以下であった場合を「○」、剥がれが35%を超え65%以下であった場合を「△」、剥がれが65%を超えた場合を「×」として接着性を評価した。
[0116](接着剤片の膨潤性(装置ダメージ))
エポキシ系接着剤(ニチバン社製、「アラルダイトAR-S30」)約0.15gを硬化させて接着剤片を作製し重量(W1)を測定した。その後、実施例及び比較例で得られた各電子デバイス用封止剤を褐色スクリュー管に入れ、作製した接着剤片を浸漬して蓋をし、60℃で7日間静置した後、接着剤片を取り出し、表面をウエスで拭き取った後、重量(W2)を測定し、下記式により接着剤片の重量変化率を算出した。
重量変化率(%)=((W2-W1)/W1)×100
重量変化率が1%未満であった場合を「◎」、1%以上10%未満であった場合を「○」、10%以上20%未満であった場合を「△」、20%以上であった場合を「×」として接着剤片の膨潤性(装置ダメージ)を評価した。
[0117](有機EL表示素子の表示性能)
(有機発光材料層を有する積層体が配置された基板の作製)
ガラス基板(長さ25mm、幅25mm、厚さ0.7mm)にITO電極を1000Åの厚さで成膜したものを基板とした。上記基板をアセトン、アルカリ水溶液、イオン交換水、イソプロピルアルコールにてそれぞれ15分間超音波洗浄した後、煮沸させたイソプロピルアルコールにて10分間洗浄し、更に、UV-オゾンクリーナ(日本レーザー電子社製、「NL-UV253」)にて直前処理を行った。
次に、この基板を真空蒸着装置の基板フォルダに固定し、素焼きの坩堝にN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン(α-NPD)を200mg、他の異なる素焼き坩堝にトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)を200mg入れ、真空チャンバー内を、1×10-4Paまで減圧した。その後、α-NPDの入った坩堝を加熱し、α-NPDを蒸着速度15Å/sで基板に堆積させ、膜厚600Åの正孔輸送層を成膜した。次いで、Alq3の入った坩堝を加熱し、15Å/sの蒸着速度で膜厚600Åの有機発光材料層を成膜した。その後、正孔輸送層及び有機発光材料層が形成された基板を別の真空蒸着装置に移し、この真空蒸着装置内のタングステン製抵抗加熱ボートにフッ化リチウム200mgを、別のタングステン製ボートにアルミニウム線1.0gを入れた。その後、真空蒸着装置の蒸着器内を2×10-4Paまで減圧してフッ化リチウムを0.2Å/sの蒸着速度で5Å成膜した後、アルミニウムを20Å/sの速度で1000Å成膜した。窒素により蒸着器内を常圧に戻し、10mm×10mmの有機発光材料層を有する積層体が配置された基板を取り出した。
…
[0119](樹脂保護膜の形成)
得られた基板に対し、実施例及び比較例で得られた各電子デバイス用封止剤を、インクジェット吐出装置(マイクロジェット社製、「NanoPrinter300」)を使用して基板にパターン塗布した。
その後、実施例1~11、13~21、及び、比較例1、2、4で得られた各電子デバイス用封止剤については、LEDランプを用いて波長365nmの紫外線を3000mJ/cm2照射して、実施例12、比較例3で得られた電子デバイス用封止剤については、100℃で30分間加熱して、電子デバイス用封止剤を硬化させて樹脂保護膜を形成した。
…
[0121](有機EL表示素子の発光状態)
得られた有機EL表示素子を、温度85℃、湿度85%の環境下で100時間暴露した後、3Vの電圧を印加し、有機EL表示素子の発光状態(ダークスポット及び画素周辺消光の有無)を目視で観察した。ダークスポットや周辺消光が無く均一に発光した場合を「○」、ダークスポットや周辺消光が認められた場合を「△」、非発光部が著しく拡大した場合を「×」として有機EL表示素子の表示性能を評価した。
[0122]
[表1]
[図:0001404723000004.jpg]
[0123]
[表2]
[図:0001404723000005.jpg]
」

イ 甲1に記載された発明

甲1には、その請求項1を引用する請求項4に「硬化性樹脂と、重合開始剤及び/又は熱硬化剤とを含有し、インクジェット法による塗布に用いられる電子デバイス用封止剤であって、前記硬化性樹脂は、下記式(1)で表されるシリコーン化合物を含有し、当該シリコーン化合物に加えて、その他の硬化性樹脂として、式(1)で表される構造を有さないエポキシ化合物、式(1)で表される構造を有さないオキセタン化合物、式(1)で表される構造を有さない(メタ)アクリル化合物、及び、ビニルエーテル化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする電子デバイス用封止剤。」が記載されている。

そして、甲1には、上記その他の硬化性樹脂として、式(1)で表される構造を有さないオキセタン化合物である3-エチル-3(((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)メチル)オキセタン(東亞合成社製、「アロンオキセタンOXT-221」)を選択した電子デバイス用封止剤の具体例である実施例4及び実施例11が記載されている。

そうすると、甲1には、実施例4及び実施例11に着目して、次の発明が記載されているといえる。

「式(3-1)中のoが1である化合物(信越化学工業社製、「X-22-163」)50重量部、3-エチル-3(((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)メチル)オキセタン(東亞合成社製、「アロンオキセタンOXT-221」)50重量部と、光カチオン重合開始剤として、トリス(4-(4-アセチルフェニル)チオフェニル)スルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(BASF社製、「IRGACURE290」)1重量部とを配合してなる電子デバイス用封止剤。」(以下「甲1発明1」という。)

「式(3-2)中のpが9である化合物(Gelest社製、「DMS-EC13」)50重量部、3-エチル-3(((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)メチル)オキセタン(東亞合成社製、「アロンオキセタンOXT-221」)50重量部と、光カチオン重合開始剤として、トリス(4-(4-アセチルフェニル)チオフェニル)スルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(BASF社製、「IRGACURE290」)1重量部とを配合してなる電子デバイス用封止剤。」(以下「甲1発明2」という。)

(2)他の甲号証に記載された事項

ア 甲2

甲2には、次の事項が記載されている。

「[請求項1]
(A)エポキシ化合物と、
(B)エポキシ樹脂と、
(C)光カチオン重合開始剤と、
続きを表示(全11行)
を含有し、かつ、
水分量が1000ppm以下であり、
塩素量が1000ppm以下である、
樹脂組成物。
…
[請求項13]
請求項1~10のうちの1項に記載の樹脂組成物または接着剤からなる有機EL素子用封止剤。」

「[0002] 有機EL素子は高い輝度発光が可能な素子体として注目を集めている。しかしながら、水分により劣化し発光特性が低下してしまう課題があった。」

「[0017] 本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、有機EL素子封止用に用いた場合に有機EL素子を劣化させにくい樹脂組成物を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0018] 本発明は、(A)エポキシ化合物と、(B)エポキシ樹脂と、(C)光カチオン重合開始剤と、を含有し、かつ、水分量が1000ppm以下であり、塩素量が1000ppm以下である、樹脂組成物である。この樹脂組成物は、有機EL素子封止用に用いた場合に有機EL素子を劣化させにくい。
[0019] なお、上記の樹脂組成物は本発明の一態様であり、本発明の接着剤、有機EL素子用封止剤、硬化体、有機EL装置、ディスプレイ、それらの製造方法なども、同様の構成および効果を有する。」
「[0095]
(水分量)
本実施形態の樹脂組成物の水分量は、有機EL素子の劣化を抑制する点で、1000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましく、100ppm以下が最も好ましい。この水分量が1000ppmを超える場合には、樹脂組成物中に含まれる水分が有機EL素子に接触することを防げず、有機EL素子の劣化につながる。なお、この水分量は、100ppm、200ppm、300ppm、400ppm、500ppm、600ppm、700ppm、800ppm、900ppm、1000ppm、1100ppm、1200ppm、1300ppm、1400ppm、1500ppmのいずれかの値以下であってもよい。」
「[0126] 〔水分量〕
樹脂組成物の水分量はカールフィッシャー水分計を用いて測定した。
…」

イ 甲3

甲3には、有機ELディスプレイにおけるシール剤において、パネル外部からの水分及びガスの浸入を遮断する特性を有すべきであり、さらに、パネル内のシール剤に含まれる水分を含めた水分が封止内部に揮発することによりダークスポットの発生等のEL素子の劣化が生じるため、パネル内部の水分量は1ppm以下に保つ必要があって、シール剤における要求特性として、パネル外部からの水分及びガスの浸入を遮断する特性に加えて、発生するアウトガスが少ないことが設けられることが記載されている(第475頁「2.有機ELディスプレイの構造」及び「3.シール剤の要求特性」の各欄)。

そして、シール剤のアウトガス成分として、樹脂に吸着している水分、光重合開始剤の残渣、樹脂成分中の不純物、反応に寄与しない副生成物などが挙げられ、これらの成分を極力含まない素材を選定し、十分に硬化させることが重要であり、シール剤の製造プロセスにおいて、アウトガス化しやすい成分を限りなく除去すべきことも記載されている(第477頁「5.4 シール剤の低アウトガス性の改善」の欄)。

(3)本件発明1について

ア 甲1発明1に基づく検討

(ア)対比

本件発明1と甲1発明1とを対比する。

甲1発明1の「式(3-1)中のoが1である化合物(信越化学工業社製、「X-22-163」)」は、2個のエポキシ基を有する化合物であるから、本件発明1の「エポキシ化合物」に相当し、甲1発明1の「3-エチル-3(((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)メチル)オキセタン(東亞合成社製、「アロンオキセタンOXT-221」)」は、2個のオキセタン基を有する化合物であるから、本件発明1の「オキセタン化合物」に相当する。

甲1発明1は、エポキシ化合物である「式(3-1)中のoが1である化合物(信越化学工業社製、「X-22-163」)の50重量部に対して、オキセタン化合物である「3-エチル-3(((3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ)メチル)オキセタン(東亞合成社製、「アロンオキセタンOXT-221」)」を50重量部配合しているから、本件発明1の「エポキシ化合物100重量部に対して45重量部~145重量部の範囲内で、オキセタン基を有する化合物とを含む」を満たす。

さらに、甲1発明1の「電子デバイス用封止剤」は、溶剤を使用するものではなく、電子デバイス用封止剤につき電子デバイスを密封するものであることが明らかであるから、本件発明1の「無溶剤形態の密封材組成物」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、

「エポキシ化合物と、前記エポキシ化合物100重量部に対して45重量部~145重量部の範囲内で、オキセタン基を有する化合物とを含む無溶剤形態の密封材組成物。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1では「組成物100mgに対するカール・フィッシャー電量滴定法による水分含量が1000ppm以下である」のに対して、甲1発明1では水分含量につき特定されていない点
相違点2:本件発明1では「(前記密封材組成物がエポキシ変性ポリシロキサン化合物を含む場合を除く)」のに対して、甲1発明1ではそのような特定がない点

(イ)検討

事案に鑑みて、相違点2から検討する。

甲1発明1の「式(3-1)中のoが1である化合物(信越化学工業社製、「X-22-163」)」は、甲1の請求項1に記載された必須成分である「式(1)で表されるシリコーン化合物」の具体例であり、この「式(1)で表されるシリコーン化合物」は、本件発明1の「エポキシ変性ポリシロキサン」に相当するものである。

そして、甲1発明1において、「式(3-1)中のoが1である化合物(信越化学工業社製、「X-22-163」)」は、必須成分である「式(1)で表されるシリコーン化合物」の具体例であり、「式(1)で表されるシリコーン化合物」は必然的に使用される成分であるし、甲1には、本件発明1の「エポキシ変性ポリシロキサン化合物」を含まないものとすることを動機付ける記載は見当たらない。

また、甲2及び甲3には、有機EL素子封止用樹脂材料中の水分含量を低減することが記載されるにとどまり、これらの記載をみても、甲1発明1において「エポキシ変性ポリシロキサン化合物」を含まないものとすることが動機付けられるとはいえない。

そうすると、相違点2に係る構成は、甲1~甲3の記載から当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

したがって、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、甲1に記載された発明及び甲1~3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

イ 甲1発明2に基づく検討

甲1発明2は、甲1発明1の「式(3-1)中のoが1である化合物(信越化学工業社製、「X-22-163」)に代えて「式(3-2)中のpが9である化合物(Gelest社製、「DMS-EC13」)を使用したものであり、上記「式(3-2)中のpが9である化合物(Gelest社製、「DMS-EC13」)は、甲1発明1の「式(3-1)中のoが1である化合物(信越化学工業社製、「X-22-163」)と同じく、「式(1)で表されるシリコーン化合物」の具体例である。

そうすると、本件発明1と甲1発明2とは、少なくとも相違点2と同内容の相違点があり、上記アで甲1発明1について述べたのと同じ理由により、甲1に記載された発明及び甲1~甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明2~6、11、12及び18について

本件発明2~6、11、12及び18は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(3)で本件発明1について述べたのと同じ理由により、甲1に記載された発明及び甲1~甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(5)まとめ

以上のとおり、本件発明1~6、11、12及び18は、いずれも、甲1に記載された発明及び甲1~甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明でなく、本件発明1~6、11、12及び18に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により、取り消すことはできない。

2 取消理由2(明確性)について

(1)検討

取消理由2は、訂正前の本件発明4~6は、請求項4に記載された上記「分子構造内に環形構造を有する化合物」と「直鎖または分岐鎖の脂肪族化合物」とは、当業者であっても区別することはできないというものである。

本件訂正により、第2の2(2)で述べたとおり、訂正前の請求項4に記載された「分子構造内に環形構造を有する化合物」及び「直鎖または分岐鎖の脂肪族化合物」は、「分子構造内にエポキシ基以外の環形構造を有する化合物」及び「直鎖または分岐鎖の脂肪族炭化水素基を少なくとも部分構造として有し、エポキシ基以外の環形構造を含まない化合物」に訂正された。

これにより、両者はそれぞれ明確であり、両者の区別も明らかであるといえる。

したがって、本件の請求項4及び同項を引用する請求項5及び6の記載では、同各項に係る発明が明確でないとはいえない。

(2)まとめ

本件発明4~6に係る発明は明確であって、本件の請求項4~6の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するから、本件発明4~6についての特許は、取消理由2(明確性)により取り消すべきものではない。

第6 むすび

以上のとおり、特許第6758482号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6,11,12,18〕、〔7-10〕、〔13-17〕、19について訂正することを認める。

本件の請求項1~6、11、12及び18に係る発明についての特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、取り消すことができない。

また、他に請求項1~6、11、12及び18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2021-700291

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