特許異議申立
2021-700105
建物
- 審判番号
- 2021-700105
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-066231外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年01月29日
- 審決日
- 2021年05月27日
- 公報発行日
- 2021年07月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社竹中工務店
- 【権利者代理人】特許業務法人太陽国際特許事務所
- 【異議申立人】中川 賢治
- 分類
- P1651.113-Y (E04B) / P1651.121-Y (E04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6731765号発明「建物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6731765号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第6731765号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成28年3月29日に出願され、令和2年7月9日にその特許権の設定登録がされ、令和2年7月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1ないし4に係る特許に対し、令和3年1月29日に特許異議申立人中川賢治(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
2 本件発明
特許第6731765号の請求項1ないし4の特許に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
木質の柱梁架構で構成された吹抜け部と、
前記吹抜け部の内部において下階から上階に亘って配置され耐震要素となる木質ブレースと、を有する建物。
【請求項2】
前記吹抜け部の内部には木質柱と木質梁で架構が構成されている、請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記木質ブレースは前記木質柱と前記木質梁との接合部から跳ね出す通し梁と接合されている、請求項2に記載の建物。
【請求項4】
前記通し梁又は前記木質ブレースに接合され、前記通し梁と直交する方向に架け渡された直交梁を備えた、請求項3に記載の建物。」
3 申立理由の概要
申立人は、主たる証拠として、下記の文献を提出し、
文献1:日経アーキテクチュア、株式会社日経BP、1997年9月8日 号、p10~17(甲第1号証)
文献2:日経アーキテクチュア、株式会社日経BP、1998年2月23 日号、p80~85(甲第2号証)
文献3:日経アーキテクチュア、 株式会社日経BP、1998年8月2 4日号、p10~17(甲第3号証)
文献4:日経クロステック「7mの吹き抜を筋交いで彩る、構造力で挑む (新しい建築の鼓動2010)」、[on line]、2009年11月1 9日、株式会社日経BP、[令和2年8月6日検索]、インターネ ット(甲第4号証)
<URL:https://xtech.nikkei.com/kn/article/building/column/20091119/537022/>
また、従たる証拠として、下記の文献を提出し、
文献5:日経アーキテクチュア、株式会社日経BP、2000年6月12 日号、p115~118(甲第5号証)
文献6:特開平11-256869号公報(甲第6号証)
文献7:特開平5-10051号公報(甲第7号証)
文献8:特開2010-13871号公報(甲第8号証)
文献9:「木質耐震ブレース(T-FoRest Light)による改修工 事の実施」プレスリリース2015、[on line]、2015年1 0月22日、株式会社竹中工務店、[令和3年1月28日検索] 、インターネット(甲第9号証)
<URL:https://www.takenaka.co.jp/news/2015/10/04/index.html>
請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきものである旨、主張する。
4 文献の記載
(1)文献1
文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は決定で付した。以下同様。)
ア 11頁の右下写真
「
」
上記写真の説明
「東側の夕景。屋外テラスと屋内の研究学習室は,ガラスの壁面を挟んでいるが一体のピロティ空間となっている。手前の庭園は,千曲川の源流を模している。」
イ 13頁の写真
「
」
上記写真の説明
「展示棟のピロティ空間から屋外を見る。ブレースに鉄筋を用いることでガラス面の透明感を強調している。」
ウ 上記ア及びイからみて、文献1には次の発明(以下「文献1発明」という。)が記載されていると認められる。
(文献1発明)
「木質の柱等の架構で構成された吹抜け部と、
耐震要素となるブレースと、
を有する建物。」
(2)文献2
文献2には、以下の事項が記載されている。
ア 82頁の写真
「
」
上記写真の説明
「格子状に外周を囲んだFR鋼の斜め柱が14階建てのビルを支える。柱は350mm×650mmのボックス鋼。肉厚は最大で45mm。・・・」
イ 上記アからみて、文献2には次の発明(以下「文献2発明」という。)が記載されていると認められる。
(文献2発明)
「350mm×650mmのボックス鋼の斜め柱で構成された大空間、
を有する建物。」
(3)文献3
文献3には、以下の事項が記載されている。
ア 13頁上方の写真
「
」
上記写真の説明
「小レストランから見る。大レストラン、ホールが外部と一体となって連続する。それぞれの空間は8mm厚のポリカーボネート板で仕切られている。」
イ 上記アからみて、文献3には次の発明(以下「文献3発明」という。)が記載されていると認められる。
(文献3発明)
「柱等の架構で構成された吹抜け部と、
耐震要素となるブレースと、
を有する建物。」
(4)文献4
文献4には、以下の事項が記載されている。
ア 1/6頁の中段
「7mの吹き抜けを筋交いで彩る、構造力で挑む(1)(新しい建築の鼓動2010)」
イ 2/6頁上方の写真
「
」
上記写真の説明
「子世帯の吹き抜けを2階北側の通路から見下ろす。玄関からリビング、キッチンまで続く1階だけでなく、2階の部屋も、一つの大空間に収まっている。天井高は約7m。吹き抜けに筋交いが行き交う。柱や筋交いは全て120mmの断面」
ウ 2/6頁下方の写真
「
」
上記写真の説明
「リビングから天井を見上げる。『建物の基本性能を高めて、内部の大空間の居住性を確保した』と設計者の五十嵐淳氏。活動拠点とする北海道で一般的なレベルの断熱性能を確保するため、サッシの周囲に発泡ウレタンを充てんし、確実にすき間を埋めるなど、北海道仕様の納まりを取り入れた」
エ 上記アないしウからみて、文献4には次の発明(以下「文献4発明」という。)が記載されていると認められる。
(文献4発明)
「木質の柱梁架構で構成された吹抜け部と、
吹抜け部の2階部分に設けた耐震要素となる木質ブレースと、
を有する建物。」
(5)文献5
文献5には、以下の事項が記載されている。
ア 116頁第25行~117頁2行
「制震構造を成立させる重要な部材が,冒頭で触れた極低降伏点鋼を使った『鋼板耐震壁』。そしてもう一つが『アンボンドブレース』だ。地上躯体の1階コーナー部に長さ3~4mほどのブレース材としてボルト接合する。断面は300mm角,350mm角の2種類。合計8本だ。『構造設計では,地震エネルギーを1階のアンボンドブレースで効果的に吸収するという考えをとった。大地震を何回か受けてアンボンドブレースが壊れたとしても,1階部分のブレースタイプであれば取り換えやすい』と,構造設計を担当した今川憲英氏(TIS&PARTNERS代表)は説明する。」
(6)文献6
文献6には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0021】すなわち、多層建物において、下層階は各層にブレース13を介して、可変減衰装置1を設置し、上層階はこの例では2層通したブレース13を介して可変減衰装置1を設置している。」
イ 図1
「
」
(7)文献7
文献7には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0015】ここで、本実施例では前記第2架構Bにおいて、複数層(3階層)を1つの区画Cとして、この区画Cの最上層の梁14b及び最下層の梁14a間に跨って大型の第1偏心ブレース18を配置する。この第1偏心ブレース18は前記区画Cの最下梁14aにおいて、柱16b,16bの下端から最上梁14bに向けて一対のブレース部材20,20を山形となるように傾斜させ、それぞれの上端部を最上梁14bから下方に適宜離れた位置で接合するようになっている。また、前記ブレース部材20,20の上端接合部は、垂直に配置する束材22を介して前記最上梁14bと接合する。」
イ 図1
「
」
(8)文献8
文献8には、以下の事項が記載されている。
ア「【0016】
〔第1実施形態〕
図1に示すように、本実施形態の建築物は、併設する複数の柱1を設けると共に、その複数の柱1間に亘る梁2を上下複数階夫々に設け、柱1と梁2とで囲まれた空間内にブレースを設けて耐震補強するものである。具体的には、複数階に亘るブレースの下端部を梁2の両端部に夫々連結すると共に、上端部を梁2の長さ方向の中間部に連結し、複数階に亘り架け渡した逆Vの字型の複層ブレース3に形成してある。その複層ブレース3を複数設けて全体を耐震補強の建築物としてある。
それらの複層ブレース3は、その長さ方向の中間部で中間階の梁2と交差する箇所を、夫々梁2と一体に連結してある。これにより、外力の作用に基づく複層ブレース3の軸力方向に働く力の一部を、中間階の梁2を介して柱1に伝達できるようにしてある。」
イ 図1
「
」
(9)文献9
文献9には、以下の事項が記載されている。
ア 1枚目1行~下から5行
「木質耐震ブレース(T-FoRest Light)による改修工事の実施
~木材を耐震ブレース(筋交い)としてRC造建物の耐震補強に国内初適用~
・・・
竹中工務店(社長:宮下正裕)は、京都競馬場グランドスワン(京都府京都市:1980年竣工)の改修工事の実施にあたり、木質耐震ブレース(T-FoRest Light・・・)による耐震補強を国内で始めて鉄筋コンクリート(RC)造建物の耐震補強工事に適用しました。
T-FoRest Lightは、木材の特性を活かした環境にやさしい耐震補強です。さらに、人の手で簡単に設置することができる、ローコストで居ながらできる改修を行うことが可能な補強工法です。・・・
・・・200mm角~300mm角の木材ブレースを手作業で簡易に施工できる点が特徴です。 」
5 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と文献1発明ないし文献4発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
相違点
ブレースについて、本件発明1では、「前記吹抜け部の内部において下階から上階に亘って配置され耐震要素となる木質ブレース」であるのに対して、文献1発明ないし文献4発明では、そのような木質ブレースを有していない点。
よって、本件発明1と文献1発明ないし文献4発明に記載された発明とは、実質的な相違点が存在するから、本件発明1は、文献1ないし文献4に記載された発明ではない。
イ 相違点の判断
上記相違点について検討する。
文献1発明ないし文献4発明は、いずれも、吹抜け部ないし大空間、及びブレースないし斜め柱を有する建物であるが、文献1ないし文献4には、相違点に係る本件発明1の構成のような「前記吹抜け部の内部において下階から上階に亘って配置され耐震要素となる木質ブレース」は記載も示唆もされていない。
また、提出された文献5ないし文献9をみても、吹抜け部及びブレースを有する建物において、上記相違点に係る本件発明1の構成が、記載されておらず、本件特許出願前に周知及び公知の技術であるとはいえない。
よって、上記相違点に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易想到できたものではないから、本件発明1は、文献1発明ないし文献4発明及び文献5ないし文献9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることはができたものでもない。
ウ 申立人の主張
(ア)文献1について
文献1の写真(P11)には、木質の柱梁架構で構成された吹抜け空間において、上下に亘るブレースが設置されていることが認められる旨主張する。(申立書第9頁第5ないし6行)
しかしながら、ブレースは上記4(1)イの写真に見られるとおり、柱ないし柱直近に設けられており、実質的に壁と一体的になっているから、木質の柱梁架構で構成された吹抜け空間において設置されていえるとはいえない。
また、文献1において、鋼材のブレースを木質のブレース(文献9)とすることは、設計事項として当業者が容易に想到できる旨主張する。(申立書第9頁第13行ないし第10頁第4行)
しかしながら、文献1発明は、ブレースとして鉄筋を用いることにより「ガラス面の透明感を強調している。」(上記4(1)イ)。これに対して、文献9に記載の木質ブレースは、ガラス面に設けることで透明感を強調できるものではない。よって、文献1発明の鉄筋を用いたブレースに、文献9に記載の木質のブレースを適用する動機付けはない。
したがって、文献1発明の鋼材(鉄筋)のブレースに代えて木質のブレースとすることが容易想到であるとはいえない。
以上のとおりであるから申立人の主張を採用することはできない。
(イ)文献2について
文献2(写真(P82))には、吹抜け空間において、上下に亘る鉄骨のブレースが設置されていることが認められる旨、また、文献2に記載された建物において、鉄骨のブレースを木質のブレースとすることは、設計事項として当業者が容易に想到できる旨主張する。(申立書第11頁第5ないし6行、第12頁第4ないし7行)
しかしながら、文献2発明の建物は、大空間を350mm×650mmのボックス鋼の斜め柱により構成するものであって、ブレースが設置されているものではない。また、前記斜め柱は、大空間を構成するために必須のものであるから、耐震補強に係る木質のブレースに代えられるものではない。
以上のとおりであるから申立人の主張を採用することはできない。
(ウ)文献3について
文献3の写真(P13)には、吹抜け空間において、上下に亘る鉄ブレースが設置されていることが認められる旨主張する。(申立書第13頁第5ないし6行)
しかしながら、文献3発明の鉄ブレースは、上記4(3)アの写真に見られるとおり、柱ないし柱直近に設けられており、実質的に壁と一体的になっているから、吹抜け空間において設置されていえるとはいえない。
また、文献3において、鋼材のブレースを木質のブレースとすることは、設計事項として当業者が容易に想到できる旨主張する。(申立書第14頁第4ないし7行)
しかしながら、文献9に記載の木質のブレースは、文献3に記載されている鋼材のブレースとは機能が異なるものである(文献1のようにガラス面に用いるとガラス面の透明感を強調するという機能があるが、木質のブレースにはこのような機能はない)。よって、文献3発明の鋼材のブレースに、文献9に記載の木質のブレースを適用する動機付けはない。
したがって、文献3発明の鋼材のブレースに代えて木質のブレースとすることが容易想到であるとはいえない。
以上のとおりであるから申立人の主張を採用することはできない。
(エ)文献4について
文献4の写真(上記4(4)ウ)及びその説明、並びに記事の表題から、木造の建物において、吹抜け空間において上下に亘る筋交い(ブレース)が設けられていることが認められる(ブレースは、2階天井から、2階から1階に降りる階段よりも下側の位置まで伸びている)旨主張する。(申立書第15頁第5ないし8行)
しかしながら、上記写真から、筋交いが2階天井から下方に向かって伸びていることは認められるものの、1階に降りる階段よりも下側の位置まで伸びていることまでは認められない。
また、ブレースを下階から上階に亘って配置することは周知慣用技術(文献6ないし文献8)にすぎないので、当該相違部分は実質的な相違部分にはならず、また実質的な相違部分となったとしても、当業者が適宜設計できる事項にすぎない旨主張する。(申立書第16頁第1ないし5行、第17頁6ないし8行)
しかしながら、文献4発明のブレースは、吹抜け部の2階部分のみに設けるものであるから、文献6ないし文献8に記載されたブレースを適用すると、吹抜け部の1階の居住性に悪影響を与えることになる。よって、文献4発明のブレースに、前記文献6ないし8に記載されたブレースに適用する動機付けはない。
したがって、文献4発明のブレースを下階から上階に亘って配置することが容易想到、ないしは適宜設計できる事項にすぎないということはできない。
以上のとおりであるから申立人の主張を採用することはできない。
エ 小括
したがって、本件発明1は、文献1ないし文献4に記載された発明ではなく、また、その他の相違点を検討するまでもなく、文献1発明ないし文献4発明及び文献5ないし文献9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2ないし本件発明4について
本件発明2ないし本件発明4は、本件発明1の構成を全て含み更に限定したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、文献1ないし文献4に記載された発明ではなく、また、本件発明2ないし本件発明4は、文献1発明ないし文献4発明及び文献5ないし文献9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~4係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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