特許異議申立
2021-700086
医療処置具用の単線ワイヤおよび医療処置具
- 審判番号
- 2021-700086
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-070822
- 登録番号
- 6730482
- 請求日
- 2021年01月26日
- 審決日
- 2021年10月05日
- 公報発行日
- 2022年03月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】オリンパス株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】鈴木 史朗
- 【権利者代理人】大槻 真紀子
- 【権利者代理人】石田 良平
- 【異議申立人】古川 安航
- 【異議申立人代理人】特許業務法人 有古特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 内藤 真徳
- 審判官 村上 聡
- 審判官 井上 哲男
- 分類
- P1651.113-YAA(A61B) / P1651.121-YAA(A61B) / P1651.536-YAA(A61B) / P1651.537-YAA(A61B) / P1651.851-YAA(A61B) / P1651.853-YAA(A61B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第1号、特許法第29条第1項
- データ出所
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特許第6730482号発明「医療処置具用の単線ワイヤおよび医療処置具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6730482号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-7]
について訂正することを認める。
特許第6730482号の請求項1-7に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第6730482号(以下、「本件特許」という。)の請求項1-7に係る特許についての出願は、平成31年4月2日に出願され、令和2年7月6日にその特許権の設定登録がされ、令和2年7月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年1月26日に特許異議申立人古川安航(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は令和3年3月29日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和3年5月31日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人古川安航は、令和3年7月7日に意見書を提出した。
2 訂正の適否について
(1)本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容
本件訂正の内容は、以下のア-クのとおりである。
ア 特許請求の範囲の請求項1に係る訂正
請求項1に係る「医療処置具用の単線ワイヤであって、・・・、を有する、医療処置具用の単線ワイヤ。」という記載を「医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤであって、・・・、を有して、単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。」に訂正する。
イ 特許請求の範囲の請求項2に係る訂正
請求項2に係る「請求項1に記載の医療処置具用の単線ワイヤ。」という記載を「請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。」に訂正する。
ウ 特許請求の範囲の請求項3に係る訂正
請求項3に係る「請求項1に記載の医療処置具用の単線ワイヤ。」という記載を「請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。」に訂正する。
エ 特許請求の範囲の請求項4に係る訂正
請求項4に係る「前記単線ワイヤは、真直加工および熱処理の少なくとも一方によって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体を備える、請求項1に記載の医療処置具用の単線ワイヤ。」という記載を「前記単線ワイヤは、真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体を備える、請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。」に訂正する。
オ 特許請求の範囲の請求項5に係る訂正
請求項5に係る「請求項4に記載の医療処置具用の単線ワイヤ。」という記載を「請求項4に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。」に訂正する。
カ 特許請求の範囲の請求項6に係る訂正
請求項6に係る「請求項4に記載の医療処置具用の単線ワイヤ。」という記載を「請求項4に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。」に訂正する。
キ 特許請求の範囲の請求項7に係る訂正
請求項7に係る「請求項1に記載の医療処置具用の単線ワイヤを含む医療処置具。」という記載を「請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤを含む医療処置具。」に訂正する。
ク 明細書の段落【0024】の訂正
明細書の発明の詳細な説明の段落【0024】の「・・・例えば、改質手段としては、真直加工および熱処理の少なくとも一方が用いられてもよい。・・・」という記載を「・・・例えば、改質手段として、真直加工した後熱処理が用いられる。・・・」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 請求項1に係る訂正について
(ア)請求項1に係る訂正後の「医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ」は、訂正前の「医療処置具の単線ワイヤであって」をより具体的なものに限定することよって下位概念化するものであるから、「医療処置具用の単線ワイヤ」を、「医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ」とする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】には、「医療処置具」が、「クリップ装置」、「把持鉗子」、「生検鉗子」、「パピロトームナイフ」であってもよいことが記載されている。よって、「医療処置具」が、「クリップ装置」、「把持鉗子」、「生検鉗子」、「パピロトームナイフ」であることは、明細書に記載された事項である。したがって、上記訂正は特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、上記のとおり、この訂正は、「医療処置具用の単線ワイヤ」をより具体的なものに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(イ)次に、請求項1に係る訂正後の「・・・を有して、単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる医療処置具・・・用の単線ワイヤ」は、訂正前の「・・・を有する、医療処置具用の単線ワイヤ」の特性を具体的に限定することによって下位概念化するものであるから、「・・・を有する、医療処置具用の単線ワイヤ」を「・・・を有して、単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる医療処置具・・・用の単線ワイヤ」とする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明の段落【0036】に、「単線ワイヤ1の基端部から先端部への回転伝達特性が良好になる」ことが記載されている。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、上記のとおり、上記訂正は、「医療処置具用の単線ワイヤ」の特性をより具体的なものに限定するものであるから実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
イ 請求項2-3、5-7に係る訂正について
請求項2-3、5-7に係る訂正後の「医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ」は、上記アに示したとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】には、「医療処置具」が、「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ」であってもよいことが記載されている。
よって、「医療処置具」が、「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ」であることは、明細書に記載された事項である。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、上記のとおり、上記訂正は、「医療処置具用の単線ワイヤ」をより具体的なものに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 請求項4に係る訂正について
請求項4に係る「医療処置具用の単線ワイヤ」を訂正後の「医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ」とする訂正は、上記アに示したとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】には、「医療処置具」が、「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ」であってもよいことが記載されている。よって、「医療処置具」が、「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ」であることは、明細書に記載された事項である。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、上記のとおり、上記訂正は、「医療処置具用の単線ワイヤ」をより具体的なものに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
次に、請求項4に係る「真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体」は、訂正前に「真直加工および熱処理の少なくとも一方によって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体」と「真直加工」と「熱処理」の双方又は一方により改質されることが特定されていたのを、双方より改質されることを限定するとともにその順序を特定して下位概念化するものであるから、「真直加工および熱処理の少なくとも一方によって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体」を「真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体」に変更する訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、明細書の発明の詳細な説明の段落【0042】には、SUS631J1を「負荷が調整された真直加工の後に、線材は、470℃以上で時効硬化熱処理」すること、段落【0045】には「SUS301の線材は、負荷が調整された真直加工の後、300℃以上で熱処理」すること、段落【0047】には「SUS304の線材は、負荷が調整された真直加工の後、400℃以上で熱処理」すること、が記載されている。そして、SUS631J1、SUS301、SUS304はステンレス鋼であるから、「真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体」は、明細書に記載された事項である。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、上記訂正は、上記のとおり、「真直加工」と「熱処理」の双方又は一方により改質されることが特定されていたのを、双方により改質されることを限定するとともにその順序を特定するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
エ 段落【0024】の訂正について
明細書の発明の詳細な説明の段落【0024】の「例えば、改質手段としては、真直加工および熱処理の少なくとも一方が用いられてもよい。」を「例えば、改質手段としては、真直加工した後熱処理が用いられる。」とする訂正は、請求項4に係る訂正に伴って、明細書の記載を請求項4に整合させるための訂正である。
したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
また、上記ウと同様に、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。したがって、上記訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1-7は、請求項2-7が、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、訂正後の請求項[1-7]は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(4)明細書の訂正に係る請求項について
明細書の訂正に係る請求項について、本件訂正は、請求項4を含む一群の請求項である請求項1-7の全てを対象とするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合し、また、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求したものである。
したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-7]について訂正をすることを認める。
3 訂正後の本件特許発明
上記2のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1-7に係る発明(以下「本件特許発明1-7」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤであって、
1400MPa以上の弾性限界応力と、
2000MPa以上の0.2%耐力と、
2100MPa以上の破断応力と、
を有して、単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項2】
前記単線ワイヤは、
1.0%以上の弾性限界伸びと、
3.0%以下の破断伸びと、
をさらに有する、
請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項3】
前記単線ワイヤは、0.5mm以下の直径を有する、
請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項4】
前記単線ワイヤは、
真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体を備える、
請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項5】
前記ステンレス鋼は、
クロムを16%以上かつニッケルを6%以上含有する、
請求項4に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項6】
前記ステンレス鋼は、
SUS301、SUS304、およびSUS631からなる群から選ばれた少なくとも1つのステンレス鋼からなる、
請求項4に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ。
【請求項7】
請求項1に記載の医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤを含む医療処置具。」
4 取消理由通知に記載した取消理由について
本件特許発明1-7に係る特許に対して、当審が令和3年3月29日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)新規性について
請求項1、3、7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、3、7に係る発明は、特許法第29条第1項第1号の規定に違反して特許されたものであり、請求項1、3、7に係る特許は取り消されるべきものである。
(2)進歩性について
請求項2、4-6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1(甲第1号証)、引用文献2(甲第2号証)、引用文献3(甲第3号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2、4-6に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、請求項2、4-6に係る特許は取り消されるべきものである。
(3)実施可能要件について
請求項1に係る発明に係る単線ワイヤ特性が真直加工及び熱処理をすることで得られることは、発明の詳細な説明に当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないものであるから、請求項1に係る特許は取り消されるべきものである。
また、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2-7に係る発明についての発明の詳細な説明についても、同様の理由により、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないものが特許されたものであり、請求項2-7に係る特許は取り消されるべきものである。
(4)サポート要件について
ア 請求項1に係る発明は「医療処置具用の単線ワイヤ」と特定されているが、医療処置具とした場合にはガイドワイヤも包含することになる。しかし、発明の詳細な説明には、医療処置具(クリップ装置)に係止して術者の操作(引っ張りや回転)を伝達する単線ワイヤしか記載されていない。また、ガイドワイヤにまで拡張ないし一般化できる技術常識も存在しない。したがって、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものが特許されものであり、請求項1に係る特許は取り消されるべきものである。
イ 請求項1に係る発明は、「1400MPa以上の弾性限界応力」、「2000MPa以上の0.2%耐力」、「2100MPa以上の破断応力」と下限値のみを特定し、上限値を特定していない。しかし、発明の詳細な説明には、例えば表1に示された特定の範囲のものしか記載されておらず、上限値を特定しない範囲にまで拡張ないし一般化することを裏付ける記載はない。したがって、請求項1に係る発明は、詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものが特許されたものであり、請求項1に係る特許は取り消されるべきものである。
ウ 請求項4に係る発明は、「真直加工および熱処理の少なくとも一方によって改質されたステンレス鋼製のワイヤ本体」を有するものである。しかし、発明の詳細な説明の段落【0024】-【0025】、【0042】、【0045】、【0047】に、ステンレス鋼製のワイヤ改質方法として、真直加工した後に熱処理をするものしか記載されていない。また、真直加工または熱処理の一方を施すだけで請求項4に係る発明が引用する請求項1に係る発明のような特性に改質できるという技術常識を示す証拠もない。したがって、請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものが特許されたものであり、請求項4に係る特許は取り消されるべきものである。
上記ア-ウで指摘した請求項を直接的又は間接的に引用する請求項2-7に係る発明も、同様に、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものが特許されたものであり、請求項2-7に係る特許は取り消されるべきものである。
(5)明確性について
請求項1に係る発明の「医療処置具用の単線ナイフ」について「医療処置具用の」が意図する対象が明確でない。したがって、請求項1に係る発明は、明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないものが特許されたものであり、請求項1に係る特許は取り消されるべきである。
また、請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用する請求項2-7に係る発明も同様に明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないものが特許されたものであり、請求項2-7に係る特許は取り消されるべきである。
5 取消理由通知書で通知した理由についての当審の判断
(1)甲各号証の記載について
[甲第1号証について]
甲第1号証(特開2016-189998号公報)(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。また、段落【0036】の「先端部12a」、「手元部12b」はそれぞれ「先端部10a」、「手元部10b」の誤記、段落【0041】の「SUS線12a」、「Ni-Ti線12b」は、それぞれ「SUS線12b」、「Ni-Ti線12a」の誤記である。修正は<>内に当審で加筆した。)。
「【背景技術】
【0002】
ガイドワイヤは、カテーテルとともに血管内に挿入した後、目的の血管部位にカテーテルを到達させるため、カテーテルの先端より所定長さだけ突出させガイドワイヤの先端部をカテーテルより先行させて押し進める。そこで、ガイドワイヤの先端部には、血管壁に損傷を与えることなく、蛇行した血管内や複雑な血管分岐にも挿入ができるために柔軟性が要求される。
【0003】
従来、カテーテル用ガイドワイヤとして、ステンレス線(SUS線(以下、「コア芯」、「芯金」とも称する))の周囲にコイルスプリングを外装するものがあったが、十分な柔軟性、さらに復元性を有していなかった。とりわけ、このガイドワイヤでは操作過程において血管等内で一旦折れ曲がるとキンクが生じ、曲がったまま元の形状に復元せず不具合があった。
【0004】
この問題を解決するためにキンクが生じず柔軟性が確保される形状記憶合金であるNi-Ti合金をコア芯に使用し、これに摩擦抵抗が少ないポリウレタン等の樹脂被膜を施し、これを親水性のマレイン酸等で被覆するガイドワイヤが提供され、販路を拡大させてきた。しかしながら、このガイドワイヤの場合、コア芯が柔らかいため分岐血管の場合等に、目的の血管に案内させることが難しく、操作に経験を要していた。また、血管内でコア芯が金属疲労をおこした破断した場合、樹脂被膜のような弱い材質の外装内に破断したコア芯が残存した状態で、血管内から抜去する必要があり安全性に問題があった。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み創作されたものであり、柔軟性および復元性を確保しつつ、分岐血管等における案内性や破断時の安全性も良好なカテーテル用ガイドワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、本体部と先端部を有する芯金と、該芯金の外周を被包するコイル部分と、を有する線状のカテーテル用ガイドワイヤを提供する。
このカテーテル用ガイドワイヤは、前記芯金の近位側の本体部は、形状記憶合金で形成され、該本体部に結合されて遠位側に延びる先端部は、ステンレス鋼又はステンレス鋼と形状記憶合金との結合又は合金で形成され、該先端部より遠位側の先端部は、ステンレス鋼を前記芯金の軸方向全体にわたってその外周にコイル状に巻きつけられている。
【0008】
本カテーテル用ガイドワイヤによれば、コア芯としての芯金が、手元側の本体部と先端側の先端部とで構成されており、本体部(本実施形態では、手元部10b)は形状記憶合金、先端部(本実施形態では、先端部10a)がSUS又はSUSと形状記憶合金との結合又は合金、で形成されている。本体部が超弾性を有する形状記憶合金で形成されているため上述のキンクが発生せず、復元性が良く血管等の体内部位の形状の癖が残りにくい点で有利である。
【0009】
また、形状記憶合金の加熱処理時の入熱温度で全体又は部分的な弾性調整をすることができ、目的部位に応じた調整をすることができる。また、先端部がSUS等の硬い材質で形成されているため分岐血管等でも案内しやすい所望の形状にして挿入することができ、またSUSとの形状記憶合金の場合はその分量調整で形状保持力を調整容易である。」
「【発明を実施するための形態】
・・・・
【0025】
図1は右側が手元側、左側が先端側を示しており、左側は紙面都合上、短く示しているが実際には手元側に長く延びている。ガイドワイヤ10は軸線O-Oから径方向に順に、コア芯12、コア芯の周りに外装14、外装14の周りに表層16が設けられている。また、ガイドワイヤ10は先端側と手元側とは、構成が異なり、ここでは、それぞれ先端部10a、手元部10bとして示されている。
【0026】
血管等内の先頭(遠位側)でガイドワイヤ10を案内する役割を有する先端側10aは、図1に示す、図2(a)に示すようにコア芯12がSUS等(概ねSUS304)の平板状の鋼線の部材12bと、Ni-Ti合金等の形状記憶合金12aとが接着されて形成されている。図1では、線13、15に示すようにコア芯12におけるの径は先端側に向かって小さくなっていく。また、SUS部材12bは、その近位側が先端部10aのNi-Ti部材12aの所定位置から接着され先端側まで延び、Ni-Ti部材12aの近位側の接着開始位置は、外装14とNi-Ti部材12aとの間(隙間19)にSUS部材12bの厚み分を有する位置である。したがって、コア芯12は、先端側に向かってNi-Tiに対するSUS量が増加し、最先端では概ねSUSで構成されている。」
「【0030】 手元部10bは、先端部10a同様に軸線O-Oから径方向にコア芯12a、コア芯12aの周りに外装14b、外装14bの周りに表装16が設けられている。コア芯12aは、先端部10aのコア芯12aと一体に連続して形成されているNi-Ti合金線である。図1、図2(b)に示すようにコア芯12aは、略全域に亘って外装14の内径に充填されるNi-Ti線12aで形成されることなる。」
「【0036】
なお、図1では、先端部12a<10a>をSUS線12bとNi-Ti合金線12aとが接着結合され、手元部12b<10b>はNi-Ti合金線12aで構成されているが、他に先端部12a<10a>がSUS線12bのみ又はSUS線12bとNi-Ti合金線12aとの合金で構成されてもよい。また、Ni-Ti合金線12aは他の形状記憶合金であってもよい。」
「【0041】
次に、コア芯12の先端側に用いるSUS線12a<12b>と、概ね手元側に用いるNi-Ti線12b<12a>との材料特性について説明する。図4には、SUS線12a<12b>とNi-Ti線12b<12a>との強度面での熱処理特性を示しており、図5には、SUS線12a<12b>とNi-Ti線12bとのばね定数における熱処理特性を示している。なお、ここではSUS線としてSUS304で径φ=0.46mm、Ni-Ti線として径φ=0.60mmを使用している。また、加熱温度とは30min入熱することとしている。
【0042】
図4のグラフ図に示すように、SUS304では、降伏強度=2100N/mm2であり、引張強さ=2366N/mm2である。また、Ni-Ttでは、入熱が400℃ありまでは、降伏強度=599N/mm2、引張強さ=1509N/mm2程度であり、ともに温度にほとんど依存されないが、入熱が400℃を超えたあたりから降伏強度=1000N/mm2以下、引張強さ=100N/mm2以下まで減少していることがわかる。」
「【0044】 これらの図4、図5から理解されるようにNi?Tiは加熱処理に応じてその強度(引張強さ、降伏強度)、ばね定数を変化させることが容易である。したがって、Ni-Tiのワイヤをコア芯12の手元部12aに用いると体内部位や用途に合わせた所望の弾性・強度を容易に提供することができる。また、コア芯12の手元部12a全体に入熱する場合のみならず、一部にのみ入熱しその部分と他の部分との弾性・強度を変化させることも容易である。すなわち、部分的な弾性・強度調整も容易である。
【0045】 たとえば、300~400℃あたりであれば、ばね定数が小さく柔軟性が高い反面、引張強さ・降伏強度は常温時と同程度であり強度を確保することができることが理解されよう。」
以上によれば、引用文献1は、以下の発明(以下「引用発明1」という。)を開示していると認められる。
[引用発明1]
「カテーテル用ガイドワイヤの先端部を形成する単線のワイヤであって、SUS304で形成されており、前記SUS304の降伏強度が2100N/mm2であり、引張強さが2366N/mm2である単線のワイヤ。」
(2)当審の判断
ア 新規性について(本件特許発明1、3、7)
(ア)本件特許発明1について
i 本件特許発明1と引用発明1との対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1のガイドワイヤは、引用文献1の段落【0002】に記載されているようにカテーテルを案内するためのものであるから「医療処置具用」のものである。また、本件特許発明1のガイドワイヤは、段落【0025】に手元側に長く延びるものであること、また、段落【0036】にSUS線12bのみで構成されることが記載されていることから「単線ワイヤ」に相当する。
そうしてみると、本件特許発明1と引用発明1とは、以下の点で一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「医療処置具用の単線ワイヤ」
<相違点1>
単線ワイヤが、本件特許発明1では、「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用」であるのに対し、引用発明1では、カテーテル用ガイドワイヤの先端部を形成するものである点で相違する。
<相違点2>
単線ワイヤが、本件特許発明1では、「1400MPa以上の弾性限界応力と、2000MPa以上の0.2%耐力と、2100MPa以上の破断応力」を有するものであるのに対し、引用発明1では、先端部10aが、降伏強度=2100N/mm2、引張強さ=2366N/mm2である点で相違する。
<相違点3>
単線ワイヤが、本件特許発明1では、「単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる」ことが特定されているのに対し、引用発明1では、「基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる」ものといえるか否か不明な点で相違する。
ii 判断
(i)相違点1について
引用発明1の単線ワイヤに関し、引用文献1には、カテーテル用ガイドワイヤの先端部を形成するものとして用いることが記載されているだけであり、クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤとして用いることは記載されていない。また、引用発明1のワイヤの先端部は、引用文献1の段落【0009】に記載されているように、分岐血管等でも案内しやすい所望の形状にするために採用されている構成であり、クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ等の操作を向上させるためのものではない。したがって、引用発明1の単線ワイヤは、クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用のものではなく、本件特許発明1の単線ワイヤではない。
(ii)相違点3について
本件特許発明1の単線ワイヤは、「単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる」ものであり、このような特性をもたらすためには、単線ワイヤの操作部である基端部からクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフなどが備えられる先端部に至る構成を前提とするべきである。一方、引用発明1の単線ワイヤは、先端部10aと手元部10bからなるガイドワイヤのうち先端部を形成するものであり、「基端部から先端部」の一部に関するものである。したがって、「基端部から先端部への回転伝達特性が良好」とするような特性をもたらすものであるとはいえない。
また、仮に、引用発明1の単線ワイヤを先端部10aと手元部10bとから構成されるものとしてみても、手元部10bは、引用文献1の段落【0045】に、本体部を構成する材料であるNi-Ti合金を300~400℃で入熱することで柔軟性が高くする一方で引張強さ・降伏強度を確保できることが記載されているものの、引用発明の先端部10aと手元部10bからなる構成が「単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる」ものとはいえない。
したがって、引用発明1の単線ワイヤは、「単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる」ものではない。
上記のように、本願特許発明1と引用発明1とは、上記のように相違点1及び3において相違している。したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願特許発明1は引用発明1でない。
したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3項に該当せず、特許法第29条第1項第1号の規定に違反して特許されたものでないから、本件特許発明1は取り消されるべきものではない。
(イ)本件特許発明3、7について
本件特許発明3、7は、本件特許発明1の構成を全て含むものである。そうすると、本件特許発明3、7は、上記と同様の理由により引用発明1ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。よって、本件特許発明3、7に係る特許は取り消されるべきものではない。
イ 進歩性について(本件特許発明2、4-6)
(ア)本件特許発明2について
本件特許発明2と引用発明1とを対比すると、本件特許発明2は本件特許発明1を引用するものであるから、上記ア(ア)iで示した相違点1、3の点で少なくとも相違する。
そこで、この相違点1、3に係る構成について当業者が容易に想到することができたかを以下で検討する。
i 相違点1について
引用発明1の単線ワイヤは、カテーテル用ガイドワイヤの先端部を形成するものに関するものであり単にカテーテルを案内するだけのものである。これに対し、本件特許発明2の「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用」のワイヤはクリップ等を操作するものであるから、ガイドワイヤの先端部とは求められる強度等が異なることは明らかであり、ガイドワイヤと「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用」のワイヤに要求される特性が同じであるとはいえない。そうしてみると、引用発明1のカテーテル用ガイドワイヤの先端部である単線ワイヤを本願特許発明2のように「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用」とする動機付けはないというべきであり、引用発明1の単線ワイヤを「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用」のワイヤとすることは当業者が容易に想到できたものとはいえない。
ii 相違点3について
上記アii(ii)で検討したとおり、引用発明1の単線ワイヤは、先端部10aと手元部10bからなるガイドワイヤのうち先端部10aを形成するものである。そして、引用発明1の単線ワイヤである先端部10aは、引用文献1の段落【0009】に記載されているように、分岐血管等でも案内しやすい所望の形状にすることを目的としたものであり、回転伝達特性を良好にすることを意図したものではない。そうしてみると、本件特許発明2の単線ワイヤである先端部10aを、先端部10aのみならず基端部にまで拡張して「基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる」構成とすることは動機付けがなく、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
したがって、上記相違点1、3に係る構成は、引用発明1に基いて当業者が容易に想到することができたといえない。よって、本件特許発明2は、引用発明1に基いて、当業者が容易に想到することができたものでなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件特許発明2に係る特許は取り消されるべきものでない。
(イ)本件特許発明4-6について
本件特許発明4-6は、上記本件特許発明2で検討した構成を全て含むものである。そうすると、上記(ア)で検討したように、本件特許発明2は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、これを直接的又は間接的に引用する本件特許発明4-6も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、本件特許発明4-6は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件特許発明4-6は取り消されるべきものでない。
ウ 実施可能要件について
本件特許発明1-7の単線ワイヤの特性が、真直加工及び熱処理により耐力や強度が強くなることにより得られることは、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0024】-【0025】、【0042】(SUS631J1を470℃以上で熱処理)、【0045】(SUS301を300℃以上で熱処理)、【0047】(SUS304を400℃以上で熱処理)に記載されている。
そして、SUS304について、乙第1号証に180℃の熱影響で破断強度が向上すること(段落【0042】)、乙第2号証に400℃程度で低温焼きなまし処理をすることにより若干の強度向上と降伏比(弾性限)が向上すること(第5ページ右欄17~22行)が記載されている。また、SUS301について、乙第4号証に、質量%で、C:0.05~0.15、Si:≦2.0、Mn:≦2.0、Ni:6.0~8.0、Cr:16~18.0、N:0.005~0.25%を含むオーステナイト系ステンレス(SUS301は、通常、C:≦0.15%、Si:≦1.0、Mn:≦3.0、Ni:5.5~10.0、Cr:15~19.0で上記範囲に入る)が380℃~500℃の温度条件で低温焼き鈍し(テンパー処理)することで引張強さ耐力を高まること(段落【0017】、【0045】)が記載されている。また、SUS631について、乙第2号証にSUS631J1を475℃で析出硬化させることが記載されている(第5ページ右欄第17-25行)。以上の記載によると、オーステナイト系ステンレス鋼は、いわゆる低温やきなましの熱処理により耐力や強度が強くなることは技術常識といえる。
そうしてみると、当業者であれば、本件特許発明1-7の単線ワイヤの特性が、発明の詳細な説明に記載された事項により実現されることは理解できるといえる。そうしてみると、発明の詳細な説明には、その発明を実施できる程度に記載されているものというべきである。
したがって、発明の詳細な説明は、本件特許発明1-7について当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定の要件に適合する。
エ サポート要件について
本件特許発明1は、本件訂正により、「クリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用」と用途が限定され、さらに「単線ワイヤの基端部から先端部への回転伝達特性が良好となる」と特性が限定された。また、本件特許発明4も、「真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製」と真直加工と熱処理の双方を順に行うものに限定された。
そして、これらの記載事項は、上記2(2)で検討したように、明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。
オ 明確性について
本件特許発明1は、「医療処置具であるクリップ装置、把持鉗子、生検鉗子、パピロトームナイフ用の単線ワイヤ」に関するものである。したがって、本件特許発明1の意図する対象は明確であるため、本件特許発明1は明確であるから、本件特許発明1は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。
また、本件特許発明1を引用する本件特許発明2-7についても同様に明確であり、本件特許発明2-7は、特許法第36条第6第2号の要件を満たすものである。
6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)新規性について
異議申立人は、本件特許発明5-6について、新規性がない旨主張している。
しかしながら、上記5(2)ア(ア)で検討したとおり、本件特許発明1は、新規性を有するものである。そして、本件特許発明5-6は、本件特許発明1を間接的に引用するものである。そうすると、同様の理由により、本件特許発明5-6は引用発明1ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
(2)進歩性について
異議申立人は、本件特許発明3について、進歩性がない旨主張している。
しかしながら、上記5(2)ア(ア)で検討したとおり、本件特許発明1は、引用発明1から当業者が容易に想到し得たものではない。そして、本件特許発明3は、本件特許発明1を引用するものである。そうすると、同様の理由により、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、本件特許発明3は、特許法第29条第2号の規定に違反するものでない。
(3)実施可能要件について
異議申立人は、発明の詳細な説明の段落【0024】に真直加工における負荷を調整することにより金属線材の改質が可能であることが記載されているが、真直加工によって本件特許発明1-7の特性は得られないため、本件特許発明1-7は、発明の詳細な説明に実施できる程度に記載されていないと主張している。
しかし、発明の詳細な説明の段落【0042】-【0049】に開示されている実施例1-3では、真直加工の後に熱処理をすることにより金属線材の改質を行うことが記載されており、本件特許発明1-7の特性は、真直加工の後に熱処理をすることにより得られるものであるというべきであり、また、少なくとも熱処理により金属線材の改質が可能なことは、5(2)ウで述べたとおりである。また、本件特許発明4は「真直加工した後熱処理を行うことによって改質されたステンレス鋼製」であり真直加工の負荷の調整のみで金属線材を改質するものではない。
そうしてみると、本件特許発明1-7は、発明の詳細な説明に実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしている。
7 意見書の主張について
特許異議申立人は、令和3年7月7日付け意見書において、上記5(2)イ(ア)で示した相違点1、3の存在を前提として進歩性がないことを主張している。しかし、請求項1に係る特許に対する進歩性欠如の理由は特許異議申立書に記載した特許異議申立理由でないから採用できない。
8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1-7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1-7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、上記結論のとおり、決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700086