特許異議申立
2021-700059
紫外線照射モジュール用セル及び紫外線照射モジュール
- 審判番号
- 2021-700059
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-565625
- 登録番号
- 6727348
- 請求日
- 2021年01月19日
- 審決日
- 2022年02月16日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】旭化成株式会社
- 【権利者代理人】田中 秀▲てつ▼
- 【権利者代理人】森 哲也
- 【異議申立人】三木 郁子
- 審判長/審判官
- 審判長 亀ヶ谷 明久
- 審判官 瀬下 浩一
- 審判官 川端 修
- 分類
- P1651.536-YAA(B01J) / P1651.537-YAA(B01J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6727348号発明「紫外線照射モジュール用セル及び紫外線照射モジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6727348号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第6727348号の請求項1、3-5、8、10に係る特許を維持する。
特許第6727348号の請求項2、6、7、9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6727348号の請求項1~10に係る特許についての出願は、2018年1月31日(優先権主張 平成29年1月31日 (JP)日本国)を国際出願日とするものであって、令和2年7月2日にその特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~10に係る特許に対し、令和3年1月19日に特許異議申立人三木郁子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年3月31日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である同年6月4日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、当審は、特許権者から訂正請求があったこと及び意見書が提出されたことを、同年同月16日付けで特許異議申立人に通知し、それに対して、特許異議申立人は、何ら応答せず、当審は、同年9月8日付けで訂正拒絶理由を通知し、それに対して、特許権者は、何ら応答せず、当審は、同年11月17日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、特許権者は、その指定期間内である令和4年1月20日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)を行った。なお、本件訂正は、令和3年6月4日付けの訂正請求と請求項1~8については同じ訂正を行い、請求項9を削除し、請求項10が引用する請求項からの請求項9の削除をするものであり、実質的に、令和3年6月4日付けの訂正請求において、請求項9を削除したものであるといえることから、特許法第120条の5第5項に定める「特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別な事項があるとき」に該当し、特許異議申立人に対し、当該訂正についての意見を求めなかった。また、令和3年6月4日付けの訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項1~10からなる。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下であるポリテトラフルオロエチレンで内表面の少なくとも一部が形成され、被照射体を導入可能な内部空間を有する筐体を備える紫外線照射モジュール用セル」と記載されているのを、「(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下であり、且つ平均結晶化度が0.51以上0.61以下であるポリテトラフルオロエチレンで内表面の少なくとも一部が形成され、被照射体を導入可能な内部空間を有する筐体を備える紫外線照射モジュール用セル」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、4、5、8、10も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2は、削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の「前記筐体の前記内表面の面積のうち、光源の中心位置から投影した場合の、相対立体角で30%以上、99%以下が、(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件又は平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条件のうちの少なくとも一方の条件を満たす前記ポリテトラフルオロエチレンで構成された請求項1又は請求項2に記載の紫外線照射モジュール用セル」と記載されているのを、「前記筐体の前記内表面の面積のうち、光源の中心位置から投影した場合の、相対立体角で30%以上、99%以下が、(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件及び平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条件を満たす前記ポリテトラフルオロエチレンで構成された請求項1に記載の紫外線照射モジュール用セル」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4、5、8、10も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の「前記筐体の前記内表面の面積のうち、前記内部空間の中心位置から投影した場合の、相対立体角で30%以上、99%以下が、(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件又は平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条件のうちの少なくとも一方の条件を満たす前記ポリテトラフルオロエチレンで構成された請求項1から請求項3の何れか一項に記載の紫外線照射モジュール用セル」と記載されているのを、「前記筐体の前記内表面の面積のうち、前記内部空間の中心位置から投影した場合の、相対立体角で30%以上、99%以下が、(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件及び平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条件を満たす前記ポリテトラフルオロエチレンで構成された請求項1又は請求項3に記載の紫外線照射モジュール用セル」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5、8、10も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の「前記筐体の前記内表面の面積のうち、前記筐体の導入口 から導出口を結ぶ直線の中点から投影した場合の、相対立体角で30%以上、99%以下が、(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件又は平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条件のうちの少なくとも一方の条件を満たす前記ポリテトラフルオロエチレンで構成された請求項1から請求項4の何れか一項に記載の紫外線照射モジュール用セル」と記載されているのを、「前記筐体の前記内表面の面積のうち、前記筐体の導入口から導出口を結ぶ直線の中点から投影した場合の、相対立体角で30%以上、99%以下が、(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件及び平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条住を満たす前記ポリテトラフルオロエチレンで構成された請求項1、請求項3、請求項4の何れか一項に記載の紫外線照射モジュール用セル」に訂正する(請求項5の記載を直接的に引用する請求項8、10も同様に 訂正する)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6は削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7は削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8の「請求項1から請求項7の何れか一項に記載の紫外線照射モジュール用セルと、」と記載されているのを、「請求項1、請求項3から請求項5の何れか一項に記載の紫外線照射モジュール用セルと、」に訂正する(請求項8の記載を直接的に引用する請求項10も同様に訂正する)。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9は削除する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10の「前記被照射体は、流動性を有しており、液体状または粉体である請求項8又は請求項9に記載の紫外線照射モジュール」と記載されているのを、「前記被照射体は、流動性を有しており、液体状または粉体である請求項8に記載の紫外線照射モジュール」に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~10について、請求項2は請求項1を引用し、請求項3は請求項1又は2を引用し、請求項4は請求項1~3を引用し、請求項5は請求項1~4を引用し、請求項6は請求項1~5を引用し、請求項7は請求項1~6を引用し、請求項8は請求項1~7を引用し、請求項9は請求項8を引用し、請求項10は請求項8又は9を引用しているものである。
よって、請求項1~10は、本訂正事項によって記載が訂正される請求項1~10に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~10に対応する訂正後の請求項1~10は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る特許発明では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の平均結晶化度について特定されていなかった。
これに対して、訂正後の請求項1は、「(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下であり、且つ平均結晶化度が0.51以上0.61以下であるポリテトラフルオロエチレン」との記載により、訂正後の請求項1に係る発明におけるポリテトラフルオロエチレンの平均結晶化度を具体的に特定し、限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記「ア 訂正の目的について」の記載から明らかなように、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
[0018]には、「筐体は、内部空間に被照射体を導入可能である。また、筐体の少なくとも一部は、平均結晶化度が0.51以上0.61以下であり、(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下であるPTFEで形成されている。」と記載されている。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。
また、訂正事項1は、訂正前の誚求項1の記載を引用する訂正前の請求項3~5、8、10の記載についても実質的に訂正するものであるが、当該請求項についても、同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるといえる。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項2を削除するというものであるから、当該訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、請求項2を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、請求項2を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特 許法第126条第5項に適合するものであるといえる。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項3に係る特許発明では、筐体を形成するポリテトラフルオロエチレンについて「結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件又は平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条件のうちの少なくとも一方の条件を満たす」ことを特定していたが、結晶子サイズに係る条件及び平均結晶化度に係る条件を同時に充足する構成について特定されていなかった。これに対して、訂正後の請求項3に係る発明では、「(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件及び平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条件を満たす」ことを特定した。すなわち、結晶子サイズに係る条件及び平均結晶化度に係る条件を同時に充足することを特定した。よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、訂正事項3では、請求項2の削除に伴い引用対象が変わることに伴って「請求項1又は請求項2に記載の」を「請求項1に記載の」としている。当該訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記「ア 訂正の目的について」の記載から明らかなように、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、明細書の段落[0039]及び明細書の段落[0041][0046]~[0049]に基づくものである。
明細書の段落[0039]には、「筐体20の少なくとも一部は、平均結晶化度が0.51以上0.61以下であり、(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下であるPTFEで形成されている。」と記載されている。また、明細書の段落[0041][0046]~[0049]には、実施例1~5におけるポリテトラフルオロエチレンの結晶子サイズ及び平均結晶化度の値が記載されている。具体的には、明細書の段落[0041]には実施例1について「平均結晶化度:0.54、(110)方向の結晶子サイズ:110nm」が記載され、明細書段落[0046]には実施例2について「平均結晶化度:0.61、(110)方向の結晶子サイズ:110nm」が記載され、明細書段落[0047]には実施例3について「平均結晶化度:0.61、(110)方向の結晶子サイズ:250nm」が記載され、明細書段落[0048]には実施例4について「平均結晶化度:0.54、(110)方向の結晶子サイズ:60nm」が記載され、明細書段落[0049]には実施例5について「平均結晶化度:0.51、(110)方向の結晶子サイズ:250nm」が記載されている。
すなわち、実施例1~5による紫外線照射モジュール1の筐体20を形成するPTFEは、「(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件」及び「平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条件」を満たしている。
よって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。
また、訂正事項3は、訂正前の誚求項3の記載を引用する訂正前の請求項4、5、8、10の記載についても実質的に訂正するものであるが、当該請求項についても、同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるといえる。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項4に係る特許発明では、結晶子サイズに係る条件及び平均結晶化度に係る条件を同時に充足する構成について特定されていなかった。これに対して、訂正後の請求項4に係る発明では、「(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件及び平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条件を満たす」ことを特定した。すなわち、結晶子サイズに係る条件及び平均結晶化度に係る条件を同時に充足することを特定した。よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、訂正事項4では、請求項2の削除に伴い引用対象が変わることに伴って「請求項1から請求項3の何れか一項に記載の」を「請求項1又は請求項3に記載の」としている。当該訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記「ア 訂正の目的について」の記載から明らかなように、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、上記訂正事項3と同様に、明細書の段落[0039]及び明細書段落[0041][0046]~[0049]に基づくものである。
よって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。
また、訂正事項4は、訂正前の誚求項4の記載を引用する訂正前の請求項5、8、10の記載についても実質的に訂正するものであるが、当該請求項についても、同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるといえる。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項5に係る特許発明では、結晶子サイズに係る条件及び平均結晶化度に係る条件を同時に充足する構成について特定されていなかった。これに対して、訂正後の請求項5に係る発明では、「(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件及び平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条件を満たす」ことを特定した。すなわち、結晶子サイズに係る条件及び平均結晶化度に係る条件を同時に充足することを特定した。よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、訂正事項5では、請求項2削除に伴い引用対象が変わることに伴って「請求項1から請求項4の何れか一項に記載の」を「請求項1、請求項3、請求項4の何れか一項に記載の」としている。当該訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記「ア 訂正の目的について」の記載から明らかなように、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、上記訂正事項3と同様に、明細書の段落[0039]及び明細書の段落[0041][0046]~[0049]に基づくものである。
よって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。
また、訂正事項5は、訂正前の誚求項5の記載を引用する訂正前の請求項8、10の記載についても実質的に訂正するものであるが、当該請求項についても、同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるといえる。
(6)訂正事項6
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、請求項6を削除するというものであるから、当該訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項6は、請求項6を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6は、請求項6を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。
(7)訂正事項7
ア 訂正の目的について
訂正事項7は、請求項7を削除するというものであるから、当該訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項7は、請求項7を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項7は、請求項7を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。
(8)訂正事項8
ア 訂正の目的について
訂正事項8は、請求項2、6及び7の削除に伴い引用対象が請求項1、3~5に変わることに伴って行ったものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項8は、上記アの記載から明らかなように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項8は、上記アの記載から明らかなように、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。
また、訂正事項8は、訂正前の誚求項8の記載を引用する訂正前の請求項10の記載についても実質的に訂正するものであるが、当該請求項についても、同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるといえる。
(9)訂正事項9
ア 訂正の目的について
訂正事項9は、請求項9を削除するというものであるから、当該訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項9は、請求項9を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項9は、請求項9を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。
(10)訂正事項10
ア 訂正の目的について
訂正事項10は、請求項9の削除に伴い引用対象が請求項8に変わることに伴って行ったものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項10は、上記アの記載から明らかなように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項10は、上記アの記載から明らかなように、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。
(11)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許第6727348号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1~10に係る発明は、令和3年6月4日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3~5、8及び10に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件特許発明1」~「本件特許発明10」、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。
「【請求項1】
(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下であり、且つ平均結晶化度が0.51以上0.61以下であるポリテトラフルオロエチレンで内表面の少なくとも一部が形成され、被照射体を導入可能な内部空間を有する筐体を備える
紫外線照射モジュール用セル。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記筐体の前記内表面の面積のうち、光源の中心位置から投影した場合の、相対立体角で30%以上、99%以下が、(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件及び平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条件を満たす前記ポリテトラフルオロエチレンで構成された
請求項1に記載の紫外線照射モジュール用セル。
【請求項4】
前記筐体の前記内表面の面積のうち、前記内部空間の中心位置から投影した場合の、相対立体角で30%以上、99%以下が、(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件及び平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条件を満たす前記ポリテトラフルオロエチレンで構成された
請求項1又は請求項3に記載の紫外線照射モジュール用セル。
【請求項5】
前記筐体の前記内表面の面積のうち、前記筐体の導入口から導出口を結ぶ直線の中点から投影した場合の、相対立体角で30%以上、99%以下が、(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件及び平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条件を満たす前記ポリテトラフルオロエチレンで構成された
請求項1、請求項3、請求項4の何れか一項に記載の紫外線照射モジュール用セル。
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
請求項1、請求項3から請求項5の何れか一項に記載の紫外線照射モジュール用セルと、
前記筐体の前記内部空間に紫外線を照射可能な紫外線照射装置と、
を備える紫外線照射モジュール。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
前記被照射体は、流動性を有しており、液体状または粉体である
請求項8に記載の紫外線照射モジュール。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 本件訂正前の請求項1~10に係る特許に対して、当審が令和3年3月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)理由1(実施可能要件)本件特許の請求項1~10に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
記
ア 特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
イ 判断
本件特許の発明の詳細な説明によれば、結晶子サイズのわずかな数値の差に基づいて、実施例と比較例が区別されている。例えば、平均結晶化度が0.54である実施例4と比較例1を参照すると、実施例4の結晶子サイズは60nmであり、比較例1の結晶子サイズは55nmであり、実施例4と比較例1の結晶子サイズの差は5nmであり、その差は10%以下である。また、平均結晶化度が0.51である実施例5と比較例2を参照すると、実施例5の結晶子サイズは250nmであり、比較例2の結晶子サイズは260nmであり、実施例5と比較例2の結晶子サイズの差は10nmであり、その差は4%以下である。
したがって、本件特許発明を実施するためには、PTFEの結晶子サイズを少なくとも10%以下または4%以下の精度で特定する必要があると解される。
この点について、本件特許明細書の段落0027によれば、結晶子サイズ(D)は、X線小角・広角散乱(SAXS&WAXS(XRD))の測定結果から下記式(2)に基づいて算出されると記載されており、
[図:0001384050000001.jpg]
K:シェラー定数(結晶子の形状等に依存する定数)
β:ピークの半価幅(半価全幅:FWHM)(rad)
b:入射ビームの広がりの半価幅(半価全幅:FWHM)(rad)
λ:X線波長0.154nm
上記式(2)には「K:シェラー定数」が示されているが、シェラー定数の具体的な数値は発明の詳細な説明に記載されておらず、シェラー定数の具体的な数値が分からなければ、結晶子サイズを特定することは不可能であることは明らかである。
ここで、甲第1号証(井田隆、「シェラーの式 Scherrer's equation の使われ方にみられる混乱について」、2007年11月20日公開、2007年11月21日改訂、「http://www.crl.nitech.ac.jp/~ida/research/memo/ConfusedScherrer.pdf」)によると、ピークを「半値全幅」で評価する場合、結晶子の形状等に応じて、シェラー定数が以下の数値になりうることが記載されている。
(i) 球形結晶粒の体積加重平均直径とする場合 K=0.84882
(ii) 球形結晶粒の面積加重平均直径とする場合 K=0.47746
(iii) 体積加重平均厚さとする場合 K=0.63661
(iv) 面積加重平均厚さとする場合 K=0.31830
(v) Scherrerの定数を用いる場合 K=0.94
(vi) Braggの定数を用いる場合 K=0.89
(vii) 球形結晶粒の回折線幅の厳密解 K=1.10665
すなわち、甲第1号証によると、Kの最小値は0.31830であり、Kの最大値は1.10665であり、最小値と最大値の差は約3.5倍であるから、シェラー定数の具体的な数値を開示しない発明の詳細な説明の記載に基づいた場合、本件特許発明に係る「結晶子サイズ」の数値を相対的に評価できたとしても、採用する定数Kの値によって計算値には大きな差異が生じ、その絶対値を10%以下または4%以下の精度で特定することは不可能であるといえる。
また、PTFEは、直鎖状のポリマーであり、長い紐が折りたたまれることで微結晶(結晶子)を形成するが、このときに結晶子がどのような形状となるかは分からず、球状、楕円球状、シート状などになることが考えられる。発明の詳細な説明には、結晶子がどのような形状であるか記載されていないため、結晶子の形状に基づいてシェラー定数を推定することもできない。
以上より、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明に係る「結晶子サイズ」の数値を具体的に特定するための方法が記載されていない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
(2)理由2(サポート要件)本件特許の請求項1~10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
記
ア 検討手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、上記観点に沿って検討する。
イ 本件発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0007】及び【0021】の記載からみて、「拡散反射性物質であるPTFEで実質的な多重反射を利用し、被照射体の殺菌効率を向上させることができる紫外線照射モジュール用セル及び紫外線照射モジュールを提供すること」であると認められる。
ウ 検討・判断
(ア)結晶子サイズおよび平均結晶化度の数値範囲
本件特許の発明の詳細な説明によれば、筐体の内表面に設けられた拡散反射性物質であるPTFEで、光源からの紫外光放射の実質的な多重反射を利用することで、殺菌効率を向上させるには、以下の二つの条件a,bの両者を同時に充足する必要があるといえる(発明の詳細な説明には、条件a又は条件bのいずれか一方のみで、殺菌効率が向上するメカニズムについては記載されていないし、そのようなことは実施例においても確認されているとはいえない。)
a)(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下である
b)平均結晶化度が0.51以上0.61以下である
これに対し、本件特許発明1は「(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下である」と特定しており、条件aのみを特定し、条件bを特定していない。
ここで、本件特許発明1は、殺菌効率に劣る比較例3,4を含むため、拡散反射性物質であるPTFEで実質的な多重反射を利用しておらず、殺菌効率を向上できないもの、つまり、本件特許発明に係る課題を解決できないものを含む。
そして、発明の詳細な説明に、条件aのみを満たすことで、拡散反射性物質であるPTFEで実質的な多重反射を利用して、殺菌効率を向上させることを示す作用機序は記載されておらず、また、そのことが出願時の技術常識でもない。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細に記載したものではない。
また、本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2~10も発明の詳細な説明に記載したものではない
本件特許発明3~5は「(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下という条件又は平均結晶化度が0.51以上0.61以下という条件のうちの少なくとも一方の条件を満たす」と特定しており、条件aまたはbとしている。
ここで、本件特許発明3~5は、全ての比較例1~4を含むことから、拡散反射性物質であるPTFEで実質的な多重反射を利用しておらず、殺菌効率を向上できないものを含む。つまり、本件特許発明に係る課題を解決できないものを含む。
そして、発明の詳細な説明に、条件aまたはbを満たすことで、拡散反射性物質であるPTFEで実質的な多重反射を利用して、殺菌効率を向上させることを示す作用機序は記載されておらず、また、そのことが出願時の技術常識でもない。
したがって、本件特許発明3~5は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
また、本件特許発明3~5を直接又は間接的に引用する本件特許発明6~10も発明の詳細な説明に記載したものではない
(イ)PTFEの紫外線反射率
本件特許発明2は「前記筐体の前記内表面の前記少なくとも一部は、波長が265nmの紫外線に対して94%以上の反射率を有する」と特定している。請求項2が引用する請求項1には「(110) 方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下であるポリテトラフルオロエチレンで内表面の少なくとも一部が形成され」と特定していることから、本件特許発明2は「PTFEの紫外線反射率が94%以上である」ことを特定している。
本件明細書の段落0015によれば、PTFEの紫外線反射率が高いことで、殺菌効率を向上させることが可能とされており、紫外線反射率について以下の記載がある。
「【0032】
また、筐体の内表面の少なくとも一部は、波長265nmの紫外線に対して94%以上の反射率を有していてもよい。これにより、筐体の内部空間の紫外線量(密度)を高めることができ、被照射体の殺菌効率を向上させることが可能となる。
【0033】
(反射率の測定方法)
筐体の内部空間における紫外線の反射率は、可視・紫外分光法(UV-Vis)により測定することができる。本実施形態では、例えば島津製作所社製のUV-2450を用いて可視・紫外分光法により反射率を測定した。試験片はφ50×2mm厚みとした。」
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明には、実施例1~5および比較例1~4に示される PTFEについて、紫外線反射率の具体的な数値について何ら示されていない。段落0032では、筐体の内表面の少なくとも一部の紫外線反射率が94%以上であってもよい旨を記載するのみであり、本件特許発明にて特定されるPTFEがそのような紫外線反射率を実際に有するかは不明である。また、本件特許発明では、結晶子サイズおよび平均結晶化度が所定の数値範囲となるPTFEを特定しており、そのようなPTFEがどのような紫外線反射率を有するかは周知とも言えない。
したがって、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
また、本件特許発明2を直接又は間接的に引用する本件特許発明3~10も発明の詳細な説明に記載したものではない。
(ウ)PTFEの密度
本件特許発明7は「前記ポリテトラフルオロエチレンの密度は、2160kg/m3以上2180kg/m3以下である」と特定し、本件明細書には、PTFEの密度について以下の記載がある。
「【0030】
また、PTFEの密度は、2160kg/m3以上2180kg/m3以下であってもよい。
【0031】
(密度の測定方法)
筐体に用いられるPTFEの密度は、JIS K 7112準拠 A法(水中置換)により測定することができ、試験片は18×18×2mm厚みとした。」
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明には、実施例1~5および比較例1~4に示されるPTFEの密度の具体的な数値について何ら示されていない。段落0030では、本件特許発明7にて特定される密度の数値をそのまま記載するのみであり、本件特許発明にて特定されるPTFEがそのような密度を実際に有するかは不明である。また、本件特許発明では、結晶子サイズおよび平均結晶化度が所定の数値範囲となるPTFEを特定しており、そのようなPTFEがどのような密度を有するかは周知とも言えない。
したがって、本件特許発明7は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
また、本件特許発明7を直接又は間接的に引用する本件特許発明8~10も発明の詳細な説明に記載したものではない
(エ)LED光源
本件特許発明9は「前記紫外線照射装置の光源はLEDであり、前記LEDの発光波長が10nm以上400nm以下である」ことを特定し、明細書の段落0034にはLEDについて以下の記載がある。
「【0034】
<紫外線照射装置>
本発明の一実施形態における紫外線照射モジュールの紫外線照射装置は、筐体の内部空間に紫外線を照射可能であれば特に限定されない。紫外線照射装置としては、紫外線ランプや紫外線LEDなど、紫外線を照射可能な装置又は素子を用いることが可能である。紫外線の波長は10nm以上400nm以下であれば特に制限されないが、バクテリア等の殺菌効率の観点から、ピーク波長が200nm以上300nm以下であってもよい。ピーク波長が200nm以上300nm以下の紫外線照射装置としては、発光層に窒化物半導体層(例えば、AlN、AlGaN、AlGaInN等)を用いたものが好ましい。また、紫外線照射装置は発熱するため、必要に応じて放熱機構を設ける必要がある。放熱機構には、空冷式又は水冷式を用いたもの等が挙げられるがこれに制限されない。放熱機構として、例えば熱伝導の高いアルミニウム板を用いた放熱フィンや空冷ファンを用いることが可能である。」
上記より、発明の詳細な説明には、紫外線光源となるLEDとして「AlN、AlGaN、AlGaInN等の窒化物半導体層」を用いるものが記載され、発光層にAlNを用いた場合、AlNのバンドギャップが6.2eVであることから、205nmの発光波長を得ることができると認められる。
しかしながら、発明の詳細な説明には、発光波長が10nm以上200nm未満となるLEDの具体例について何ら記載されておらず、例示される窒化物半導体を用いたLEDでは、200nm未満の発光波長を得ることができるか不明であって、本件特許の出願時において、発光波長が200nm末満のLEDが周知であるとも言えない。
したがって、本件特許発明9は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
また、本件特許発明9を引用する本件特許発明10も発明の詳細な説明に記載したものではない。
2 本件訂正前の請求項1~10に係る特許に対して、当審が令和3年11月17日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、上記1(2)と同じである。
第5 前記第4における実施可能要件についての判断
本件明細書の段落[0027]に記載のように、本件特許発明のPTFEの結晶子サイズ(D)はX線小角・広角散乱(SAXS&WAXS(XRD))の測定結果を基に、以下の式(2)に基づいて算出している。
【式(2)】
[図:0001384050000002.jpg]
K:シェラー定数(結晶子の形状等に依存する定数)
β:ピークの半価幅(半価全幅:FWHM)(rad)
b:入射ビームの広がりの半価幅(半価全幅:FWHM)(rad)
λ:X線波長0.154nm
上述の定義のとおり、シェラー定数(K)は、結晶子の形状等に依存する定数である。
PTFEの結晶子の形状は、球形状ではなく板状(ラメラ)であることが知られている(乙第1号証の1:「Friction and wear of PTFE - a review」,『Wear, 158 (1992)』,S. K. Biswas, Kalyani Vijayan, p.193,p.196、乙第1号証の2:「高分子単結晶の歴史-分子鎖折りたたみ構造発見の旅-」,奥居徳昌,『SEN‘I GAKKAISHI(繊維と工業)』,Vol.63,No.12(2007),p.390, p.393)。つまり、本件特許発明における結晶子サイズの測定対象は、結晶粒子ではなく、積層薄膜のような2次元構造である。このため、上記式(2)の算出時において、上記「(i)球形結晶粒の体積加重平均直径とする場合」、「(ii)球形結晶 粒の面積加重平均直径とする場合」、「(iii)体積加重平均厚さとする場合」、及び「(vii)球形結晶粒の回折線幅の厳密解の場合」のシェラー定数を用いないことは、当業者であれば容易に想到できる。
また、乙第2号証(「結晶構造解析特論」,「第6章 微小な結晶からの回折」,井田隆,名古屋工業大学大学院,2020年5月28日更新,(http://takashiida.floppy.jp/public/education/CrystalStructureAnalysis/6/6.pdf),p.15,2021年5月26日印刷)の記載によれば、「体積あたりの表面積」で性能を決めるような場合において、シェラー定数として「面積加重平均」に関する値が用いられる。本件特許発明では、結晶子サイズの測定に用いるX線の回折に基づいて、殺菌に用いる紫外線の反射率(殺荷効果)を見積もっていることから、本件特許発明における結晶子サイズの算出において、上記「(ii)球形結晶粒の面積荷重平均直径とする場合」、上記「(iv)面積加重平均厚さとする場合」のシェラー定数を用いないことは、当業者であれば容易に想到できる。
このように、本件特許発明において、上記(i)~(iv)、および上記(vii)のシェラー定数を用いないことは当業者であれば容易に想到できる。
すなわち、上記(i)~(vii)において本件特許発明に適用可能なシェラー定数は、(v)Scherrerの定数を用いる場合のシェラー定数(K=0.94)と、(vi)Braggの定数を用いる場合のシェラー定数(K=0.89)とに限定される。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、結晶子がどのような形状であるかが明示されていないものの、結晶子の形状に基づいてシェラー定数を推定することは、当業者であれば容易に行うことができる。
また、本件特許発明に適用し得るシェラー定数(K)の最小値(0.89)と最大値(0.94)との差は 0.05にすぎない。さらに上記(vi)のシェラー定数(K=0.89)における上記差の値「0.05」の割合は約6%にすぎず、上記(v)のシェラー定数(K=0.94)における上記差の値「0.05」の割合は約5%にすぎない。
したがって、採用する定数Kの値(K=0.89又はK=0.94)によって計算値に大きな差異が生じることはなく、本件特許発明に係る「結晶子サイズ」の数値を相対的に評価することができる。
ここで、令和3年6月4日提出の特許権者の意見書の「(4-2-2)本件特許発明で用いたシェラー定数について」において、「本件特許発明では、シェラー定数(K)として「0.9」を用いた。つまり、本件の特許請求の範囲および本件明細書における「(110)方向の結晶子サイズ」は、シェラー定数(K=0.9を用いて、上記式(2)により算出した値である。」と記載されている。
この「K=0.9」という値は、上記(vi)のシェラー定数(K=0.89)と、上記(v)のシェラー定数(K=0.94)との間に位置する値であって、上記(v),(vi)のシェラー定数における小数点第二位を四捨五入して得られる値である。
ここで、本件特許発明で用いたシェラー定数(K=0.9)について、例えば乙第3号証(「粉末X線解析の実際(第2版)」,中井泉・泉富士夫 編著,2009年07月10日,表紙,奥付,p.82には、「Kの値はK=0.89,0.9,0.94という値が、いずれも同じくらいの頻度で用いられている」という記載がある。
また、乙第4号証(「ポリパラフェニレンテレフタルアミドの結晶化度,微結晶サイズが水分収着特性に及ぼす影響」,福田光完,鳥居隆司,『繊維機械学会誌』,(論文集)Vol.51,No.1(1998),p.89(T1),p.91(T3),p.92(T4))、乙第5号証(「黒鉛-銅-樹脂複合材の熱処理に伴う銅結晶子サイズと機械的特性の相関」,平田宙史,山田能生,大上三千男,河村洋明,『福井大学工学部研究報告』,第54巻第1号,2006年3月31日,表紙,p.27,p.28)及び乙第6号証等(「回折X線幅を用いた結晶子サイズの異なる二酸化チタン粉体混合物の評価」,宮内宏哉,北垣寛,中村知彦,中西貞博,河合潤,『X線分析の進歩』,第41集,2010,(Advances in X-Ray Chemical Analysis, Japan, 41 (2010)),表紙,p.75,p.77)においても、シェラー定数として「K=0.9」を用いることが記載されている。
以上のことから、当業者の経験的な値として、シェラー定数として「K=0.9」を用いることは、上記(v)のシェラー定数(K=0.94)、上記(vi)のシェラー定数(K=0.89)を用いる場合と同様に、一般的なものであるといえる。
また、本件特許発明をより厳格に考えるなら、当業者が容易に理解できるシェラー定数の全ての値、すなわち上記3種類のシェラー定数のいずれを用いても、上記式(2)によって算出される結晶子サイズが、請求項1に係る特許発明において規定した「60nm以上250nm以下」の範囲内となると解すればよい。
確かに、上記3種類のシェラー定数のうち「K=0.9」を用いることは本件特許の発明の詳細な説明において明示されてはいなかったが、それは特許発明を取り消す理由となる程に重要ではないといえる。
ここで、本件特許発明に用いたシェラー定数(K=0.9)と同様の頻度で用いられる上記(v),(vi)のシェラー定数を適用して算出した結晶子サイズについて検証する。
まず、上記(v)のシェラー定数(K=0.94)を適用した場合における、結晶子サイズの下限値を以下のとおり算出する。
本件の特許請求の範囲に記載のように、本件特許発明における結晶子サイズは「60nm以上250nm以下」である。つまり、本件特許発明における「(110)方向の結晶子サイズ」の下限値は「60nm」である。
まず、以下の式(2-1)を用いて、上記式(2)で算出した結晶子サイズから形状因子(結晶子サイズの形状に依存するシェラー定数(K))を除去する。
【式(2-1)】
[図:0001384050000003.jpg]
本件特許発明では上記のとおりシェラー定数(K)として「0.9」を用いていることから、「D=60」、「K=0.9」として上記式(2-1)で求められる算出値(D1)は「66.67」となる。
上記式(2-1)で求められる算出値(D1=66.67)に対し、上記(v)のシェラー定数(K=0.94)を係数として結晶子サイズの算出を行うと、(110)方向の結晶子サイズ(D)は「62.7」となる(D=0.94×66.67=62.7)。
つまり、上記(v)のシェラー定数(K=0.94)を用いて結晶子サイズ(D)を算出した場合、下限値は「62.7」となる。
次に、上記 (vi)のシェラー定数(K=0.89)を適用した場合における、結晶子サイズの上限値を以下のとお り導出する。
上述のように、本件特許発明における「(110)方向の結晶子サイズ」の上限値は「250nm」である。
「D=250」、「K=0.9」とした場合、上記式(2-1)で求められる算出値(D1)は「277.78」となる。
上記式(2-1)で求められる算出値(D1=277.78)に対し、上記(vi)のシェラー定数(K=0.89)を係数として結晶子サイズの算出を行うと、結晶子サイズ(D)は「247.2」となる(D=0.89×277.78)。
つまり、上記(vi)のシェラー定数(K=0.89)を用いて結晶子サイズ(D)を算出した場合、上限値は「247.2」となる。
このように、上記 (v),(vi)のシェラー定数を適用して算出した結晶子サイズは、「62.7nm以上247.2nm以下」となる。すなわち、上記(v),(vi)のシェラー定数を適用して結晶子サイズ(D)を算出した場合であっても、本件特許発明における「(110)方向の結晶子サイズ」である「60nm以上250nm以下」の範囲内となる。
また、上記(v),(vi)のシェラー定数を適用して算出した結晶子サイズの下限値である「62.7nm」と、本件特許発明における結晶子サイズの下限値「60nm」との差は約4%である。また、上記(v),(vi)のシェラー定数を適用して算出した結晶子サイズの上限値である「247.2nm」と、本件特許発明における結晶子サイズの上限値「250nm」との差は約1%である。
したがって、採用するシェラー定数Kの値(K=0.89、K=0.9、K=0.94)によって計算値に大きな差異が生じることはない。
このように、当業者であれば、本件特許の発明の詳細な説明に基づいて、本件特許発明に係る「結晶子サイズ」の数値を大きな差異なく特定することは可能である。
上述のように、上記(v),(vi)のシェラー定数を適用して算出した結晶子サイズ範囲(62.7nm以上247.2nm以下」)と、本件特許発明における結晶子サイズの範囲(「60nm以上250nm以下」)とは上述のようにわずかな差があるものの、ほぼ同等である。
また、上記(v),(vi)のシェラー定数(0.94,0.89)によって算出した結晶子サイズの範囲(「62.7nm以上247.2nm以下」)に含まれる値は、シェラー定数「K=0.9」によって算出した本件特許発明における結晶子サイズの範囲(「60nm以上250nm以下」)に含まれる。
つまり、本件特許発明は、上記の3種類のシェラー定数(0.89,0.9,0.94)のいずれによって結晶子サイズを算出した場合も、算出された値が「60nm以上250nm以下」の範囲内であるということを限定している発明と解すればよいのであって、これによって当業者が予期せぬ不利益を受けることはない。つまり、上記の3種類のシェラー定数のいずれによって結晶子サイズを算出した場合も、算出された値が「60nm以上250nm以下」の範囲内であれば、本件特許発明に係る課題を解決できないもの、つまり比較例に相当するものを含まない結晶子サイズを特定することができる。
したがって、本願請求項1、3~5、8~10に係る発明は、当業者が、本件明細書及び図面に記載された説明と、出願時の技術常識とに基づいて実施することができる程度に発明の詳細な説明に記載されており、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているものと考える。
第6 前記第4におけるサポート要件についての判断
(1)結晶子サイズおよび平均結晶化度の数値範囲
本件特許発明1は「(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下であり、且つ平均結晶化度が0.51以上0.61以下であるポリテトラフルオロエチレンで内表面の少なくとも一部が形成され」という構成を有している。
また、本件特許発明3~5に係る発明は、本件特許発明1を引用している。
つまり、本件特許発明1および本件特許発明3~5に係る発明は、ポリテトラフルオロエチレンが、以下の二つの条件a,bの両者を同時に充足する構成となっている。
a)(110)方向の結晶子サイズが60nm以上250nm以下である
b)平均結晶化度が0.51以上0.61以下である
これにより、本件特許発明1及び本件特許発明3~5は、本件明細書に記載された比較例1~4は含まないものであり、「拡散反射性物質であるPTFEで実質的な多重反射を利用しておらず、殺菌効率を向上できないもの、つまり、本件特許発明に係る課題を解決できないもの」を含まないものとなった。
したがって、本件特許発明1及び本件特許発明3~5は、発明の詳細に記載したものではないとはいえない。
また、本件特許発明1及び本件特許発明3~5を直接的又は間接的に引用する本件特許発明8、10も発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。
(2)PTFEの紫外線反射率
本件訂正により請求項2は削除されたので、上記第4 1(2)ウ(イ)及び第4 2の取消理由は解消した。
(3)PTFEの密度
本件訂正により請求項7は削除されたので、上記第4 1(2)ウ(ウ)及び第4 2の取消理由は解消した。
(4)LED光源
本件訂正により請求項9は削除されたので、上記第4 1(2)ウ(エ)及び第4 2の取消理由は解消した。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、令和3年3月31日付けの取消理由通知に記載した取消理由、令和3年11月17日付けの取消理由通知に記載した取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3~5、8、10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3~5、8、10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
訂正前の請求項2、6、7、9は本件訂正により削除されたため、請求項2、6、7、9についての特許異議の申立ては、不適法なものであり、その補正をすることができないから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700059